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特開2024-176385複列アンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受
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  • 特開-複列アンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176385
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】複列アンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/18 20060101AFI20241212BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20241212BHJP
   F16C 33/38 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/58
F16C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094880
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩隆
(72)【発明者】
【氏名】百谷 泰正
(72)【発明者】
【氏名】山本 健
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA82
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA55
3J701BA69
3J701FA46
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB19
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】 組み立て作業を容易にすることができる技術を提供する。
【解決手段】アンギュラ玉軸受1は、内輪背面2cを鉛直方向下側にして内輪2を配置し、第1保持器6と第1保持器6によって保持された複数の第1玉8とによって構成される第1保持器付き玉50を第1内輪軌道溝14に載置したとき、第1保持器6の中心軸C3と内輪2の中心軸C1との成す第1劣角θ1が、0°以上、第1角度未満である場合、複数の第1玉8のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第1玉8の一部が、第1縁部14aよりも径方向の内側にあるとともに、第1保持器6は内輪8に接触せず、第1劣角θ1が、第1角度以上である場合、最も鉛直方向の下側に位置する第1玉8の一部が、第1縁部14aよりも径方向の内側にあるとともに、第1保持器6は内輪2に接触する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列アンギュラ玉軸受であって、
内輪と、外輪と、第1保持器付き玉と、第2保持器と、複数の第2玉と、を備え、
前記第1保持器付き玉は、第1保持器と、複数の第1玉と、を備え、
前記内輪は、
軸方向第1側に内輪正面を有し、軸方向第2側に内輪背面を有し、
前記内輪正面と前記内輪背面との間の外周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1内輪軌道溝と、第1内輪肩部と、第2内輪軌道溝と、を備え、
前記第1内輪軌道溝と前記第1内輪肩部とが繋がり、
前記外輪は、
内周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1外輪軌道溝と、第2外輪軌道溝と、を備え、
前記第1保持器は、複数の第1柱と、第1環状体と、複数の第1ポケットと、を備え、
複数の第1柱は、第1環状体に、第1環状体の軸方向の第1側、又は、第1環状体の軸方向の第2側の一方で繋がり、
隣接する2つの第1柱と第1環状体とに囲まれる空間が第1ポケットであり、
複数の第1ポケットは、それぞれ前記第1玉が前記第1ポケットから脱落しないように保持する内側面を有し、
前記第1保持器付き玉は、複数の第1ポケットのそれぞれに前記第1玉を1個ずつ保持し、
前記第2保持器は、複数の第2柱と、第2環状体と、複数の第2ポケットと、を備え、
複数の第2柱は、第2環状体に、第2環状体の軸方向の第1側、又は、第2環状体の軸方向の第2側の一方で繋がり、
隣接する2つの第2柱と第2環状体とに囲まれる空間が第2ポケットであり、
複数の第2ポケットは、それぞれ前記第2玉を保持し、
前記第1内輪軌道溝の第1内輪軌道接触直径は前記第2内輪軌道溝の第2内輪軌道接触直径より小さく、
前記第1外輪軌道溝の第1外輪軌道接触直径は前記第2外輪軌道溝の第2外輪軌道接触直径より小さく、
前記内輪背面を鉛直方向下側にして前記内輪を配置し、前記第1保持器付き玉を軸方向第1側から前記第1内輪軌道溝に載置したとき、
前記第1保持器の中心軸と前記内輪の中心軸との成す第1劣角が、0°以上、第1角度未満である場合、前記複数の第1玉のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第1玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第1保持器は前記内輪に接触せず、
前記第1劣角が、前記第1角度以上である場合、前記最も鉛直方向の下側に位置する第1玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第1保持器は前記内輪に接触する
複列アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記第1内輪軌道溝の軸方向第1側の第2縁部は、前記内輪正面に繋がり、
前記第1保持器は、前記内輪正面に対向する第1面を有し、
前記第1劣角が、0°以上、前記第1角度未満である場合、前記第1面と前記内輪正面との間に、軸方向の隙間が設けられ、
前記第1劣角が、前記第1角度以上である場合、前記第1面と前記内輪正面とは、互いに接触する
請求項1に記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記第1環状体は、前記複数の柱の軸方向第1側に繋がる第1小径環状体であり、
前記第1小径環状体は、
環状本体部と、
前記環状本体部から前記内輪正面に向かって突出する第1係合部と、を有し、
前記第1面は、前記第1係合部の先端に設けられる
請求項2に記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項4】
前記第1保持器は、さらに、第1大径環状体を備え、
前記第1大径環状体の軸方向第2側の端面は、前記第2保持器との間で隙間を構成する面取部を有する
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項5】
複列アンギュラ玉軸受であって、
内輪と、外輪と、前記内輪および前記外輪の間に配置される第1保持器と、前記第1保持器に保持される複数の第1玉と、第1保持器と、複数の第1玉と、第2保持器付き2玉と、を備え、
前記第2保持器付き玉は、第2保持器と、複数の第2玉と、を備え、
前記内輪は、
軸方向第1側に内輪正面を有し、軸方向第2側に内輪背面を有し、
前記内輪正面と前記内輪背面との間の外周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1内輪軌道溝と、第2内輪軌道溝と、第2内輪肩部と、を備え、
前記第2内輪軌道溝と前記第2内輪肩部とが繋がり、
前記外輪は、
内周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1外輪軌道溝と、第2外輪軌道溝と、を備え、
前記第1保持器は、複数の第1柱と、第1環状体と、複数の第1ポケットと、を備え、
複数の第1柱は、第1環状体に、第1環状体の軸方向の第1側、又は、第1環状体の軸方向の第2側の一方で繋がり、
隣接する2つの第1柱と第1環状体とに囲まれる空間が第1ポケットであり、
複数の第1ポケットは、それぞれ前記第1玉を保持し、
前記第2保持器は、複数の第2柱と、第2環状体と、複数の第2ポケットと、を備え、
複数の第2柱は、第2環状体に、第2環状体の軸方向の第1側、又は、第2環状体の軸方向の第2側の一方で繋がり、
隣接する2つの第2柱と第2環状体とに囲まれる空間が第2ポケットであり、
複数の第2ポケットは、それぞれ前記第2玉が前記第1ポケットから脱落しないように保持する内側面を有し、
前記第2保持器付き玉は、複数の第2ポケットのそれぞれに前記第2玉を1個ずつ保持し、
前記第1内輪軌道溝の第1内輪軌道接触直径は前記第2内輪軌道溝の第2内輪軌道接触直径より小さく、
前記第1外輪軌道溝の第1外輪軌道接触直径は前記第2外輪軌道溝の第2外輪軌道接触直径より小さく、
前記内輪背面を鉛直方向下側にして前記内輪を配置し、前記第2保持器付き玉を軸方向第1側から前記第2内輪軌道溝に載置したとき、
前記第2保持器の中心軸と前記内輪の中心軸との成す第2劣角が、0°以上、第2角度未満である場合、前記複数の第2玉のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第2玉の一部が、前記第3縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第2保持器は前記内輪に接触せず、
前記第2劣角が、前記第2角度以上である場合、前記最も鉛直方向の下側に位置する第2玉の一部が、前記第3縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第2保持器は前記内輪に接触する
複列アンギュラ玉軸受。
【請求項6】
前記内輪は、前記第1内輪軌道溝と、前記第2内輪軌道溝との間に軸方向第1側に向く環状面をさらに有し、
前記第2内輪軌道溝の軸方向第1側の第4縁部は、前記環状面に繋がり、
前記第2保持器は、前記環状面に対向する第2面を有し、
前記第2劣角が、0°以上、前記第2角度未満である場合、前記第2面と前記環状面との間に、軸方向の隙間が設けられ、
前記第2劣角が、第2の角度以上である場合、前記第2面と前記環状面とは、互いに接触する
請求項5に記載の複列アンギュラ玉軸受。
【請求項7】
アンギュラ玉軸受であって、
内輪と、外輪と、
保持器付き玉と、を備え、
前記保持器付き玉は、保持器と、複数の玉と、を備え、
前記内輪は、
軸方向第1側に内輪正面を有し、軸方向第2側に内輪背面を有し、
前記内輪正面と前記内輪背面との間の外周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって内輪軌道溝と、内輪肩部と、を備え、
前記内輪軌道溝と前記内輪肩部とが繋がり、
前記外輪は、
内周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって外輪軌道溝を備え、
前記保持器は、複数の柱と、環状体と、複数のポケットと、を備え、
複数の柱は、環状体に、環状体の軸方向の第1側、又は、環状体の軸方向の第2側の一方で繋がり、
隣接する2つの柱と環状体とに囲まれる空間がポケットであり、
複数のポケットは、それぞれ前記玉が前記ポケットから脱落しないように保持する内側面を有し、
前記保持器付き玉は、複数のポケットのそれぞれに前記玉を1個ずつ保持し、
前記内輪背面を鉛直方向下側にして前記内輪を配置し、前記保持器付き玉を軸方向第1側から前記内輪軌道溝に載置したとき、
前記保持器の中心軸と前記内輪の中心軸との成す劣角が、0°以上、第1角度未満である場合、前記複数の玉のうちの最も鉛直方向の下側に位置する玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記保持器は前記内輪に接触せず、
前記劣角が、前記第1角度以上である場合、前記最も鉛直方向の下側に位置する玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記保持器は前記内輪に接触する
アンギュラ玉軸受。
【請求項8】
前記内輪軌道溝の軸方向第1側の第2縁部は、前記内輪正面に繋がり、
前記保持器は、前記内輪正面に対向する第1面を有し、
前記劣角が、0°以上、前記第1角度未満である場合、前記第1面と前記内輪正面との間に、軸方向の隙間が設けられ、
前記劣角が、前記第1角度以上である場合、前記第1面と前記内輪正面とは、互いに接触する
請求項7に記載のアンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複列アンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、複列アンギュラ玉軸受を開示する。この複列アンギュラ玉軸受は、タンデム複列アンギュラ玉軸受である。この複列アンギュラ玉軸受は、内輪と、外輪と、複列に配列される複数の玉と、複数の玉を保持する2つの保持器と、を備える。2つの保持器は、第1保持器と、前記第1保持器の直径よりも大きい直径を有する第2保持器と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-106633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8(a)は、上記複列アンギュラ玉軸受を組み立てる方法を示す。
第2保持器付き玉104および第1保持器付き玉102が、中心軸が鉛直方向に沿うように配置された内輪100の上に配置され、その後、外輪が第2保持器付き玉104および第1保持器付き玉102の上に取り付けられる。
第1保持器付き玉102は、複数の玉102aと、複数の玉102aを保持する第1保持器102bと、を含む。第2保持器付き玉104は、複数の玉104aと、複数の玉104aを保持する第2保持器104bと、を含む。第2保持器104bの直径は、第1保持器102bの直径よりも大きい。
【0005】
図8(b)は、内輪100に第1保持器付き玉102を配置したときの他の例を示す断面図である。
図8(a)のように、複数の玉102aが内輪100の内輪軌道溝100aにおける呼び接触点近傍に接触するように、第2保持器付き玉104が内輪100に配置された場合、内輪100の中心軸と、第2保持器104bの中心軸とは、ほとんど傾かない状態となる。
しかし、図8(b)のように、複数の玉102aのうちの一部の玉102aが呼び接触点から離れた状態になることがある。
この場合、内輪100の中心軸と、第2保持器104bの中心軸とが傾いてしまい、結果的に第1保持器付き玉102全体が内輪100に対して傾いた状態となる。
このような事象は、第2保持器付き玉104にも生じる。
【0006】
保持器付き玉102、104が内輪100に対して傾いた状態になると、外輪を保持器付き玉102、104に取り付けるときに、外輪と、内輪軌道溝100aと肩部との縁部と、が玉102aを挟んでしまい、組み立て作業を困難にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態である複列アンギュラ玉軸受は、内輪と、外輪と、第1保持器付き玉と、第2保持器と、複数の第2玉と、を備える。前記第1保持器付き玉は、第1保持器と、複数の第1玉と、を備える。前記内輪は、軸方向第1側に内輪正面を有し、軸方向第2側に内輪背面を有し、前記内輪正面と前記内輪背面との間の外周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1内輪軌道溝と、第1内輪肩部と、第2内輪軌道溝と、を備える。前記第1内輪軌道溝と前記第1内輪肩部とが繋がる。前記外輪は、内周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1外輪軌道溝と、第2外輪軌道溝と、を備える。前記第1保持器は、複数の第1柱と、第1環状体と、複数の第1ポケットと、を備える。複数の第1柱は、第1環状体に、第1環状体の軸方向の第1側、又は、第1環状体の軸方向の第2側の一方で繋がる。隣接する2つの第1柱と第1環状体とに囲まれる空間が第1ポケットである。複数の第1ポケットは、それぞれ前記第1玉が前記第1ポケットから脱落しないように保持する内側面を有す。前記第1保持器付き玉は、複数の第1ポケットのそれぞれに前記第1玉を1個ずつ保持する。前記第2保持器は、複数の第2柱と、第2環状体と、複数の第2ポケットと、を備える。複数の第2柱は、第2環状体に、第2環状体の軸方向の第1側、又は、第2環状体の軸方向の第2側の一方で繋がる。隣接する2つの第2柱と第2環状体とに囲まれる空間が第2ポケットである。複数の第2ポケットは、それぞれ前記第2玉を保持する。前記第1内輪軌道溝の第1内輪軌道接触直径は前記第2内輪軌道溝の第2内輪軌道接触直径より小さい。前記第1外輪軌道溝の第1外輪軌道接触直径は前記第2外輪軌道溝の第2外輪軌道接触直径より小さい。前記内輪背面を鉛直方向下側にして前記内輪を配置し、前記第1保持器付き玉を軸方向第1側から前記第1内輪軌道溝に載置したとき、前記第1保持器の中心軸と前記内輪の中心軸との成す第1劣角が、0°以上、第1角度未満である場合、前記複数の第1玉のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第1玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第1保持器は前記内輪に接触せず、前記第1劣角が、前記第1角度以上である場合、前記最も鉛直方向の下側に位置する第1玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第1保持器は前記内輪に接触する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、組み立て作業を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係るアンギュラ玉軸受の一例を示す断面図である。
図2図2は、第2保持器を示す斜視図である。
図3図3は、図2とは異なる角度で示した第2保持器の斜視図であり、第2保持器の一部分を拡大している。
図4図4は、アンギュラ玉軸受を組み立てる際の中間組立体の一例を示す断面図である。
図5図5は、中間組立体の他の例を示す断面図である。
図6図6は、従来のアンギュラ玉軸受の組み立て作業を説明するための図である。
図7図7は、変形例に係る第2保持器を示す斜視図である。
図8図8(a)は、従来の複列アンギュラ玉軸受の内輪に第1保持器付き玉を配置したときの例を示す断面図であり、図8(b)は、内輪に第1保持器付き玉を配置したときの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
[実施形態の概要]
(1)実施形態である複列アンギュラ玉軸受は、内輪と、外輪と、第1保持器付き玉と、第2保持器と、複数の第2玉と、を備える。前記第1保持器付き玉は、第1保持器と、複数の第1玉と、を備える。前記内輪は、軸方向第1側に内輪正面を有し、軸方向第2側に内輪背面を有し、前記内輪正面と前記内輪背面との間の外周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1内輪軌道溝と、第1内輪肩部と、第2内輪軌道溝と、を備える。前記第1内輪軌道溝と前記第1内輪肩部とが繋がる。前記外輪は、内周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1外輪軌道溝と、第2外輪軌道溝と、を備える。前記第1保持器は、複数の第1柱と、第1環状体と、複数の第1ポケットと、を備える。複数の第1柱は、第1環状体に、第1環状体の軸方向の第1側、又は、第1環状体の軸方向の第2側の一方で繋がる。隣接する2つの第1柱と第1環状体とに囲まれる空間が第1ポケットである。複数の第1ポケットは、それぞれ前記第1玉が前記第1ポケットから脱落しないように保持する内側面を有す。前記第1保持器付き玉は、複数の第1ポケットのそれぞれに前記第1玉を1個ずつ保持する。前記第2保持器は、複数の第2柱と、第2環状体と、複数の第2ポケットと、を備える。複数の第2柱は、第2環状体に、第2環状体の軸方向の第1側、又は、第2環状体の軸方向の第2側の一方で繋がる。隣接する2つの第2柱と第2環状体とに囲まれる空間が第2ポケットである。複数の第2ポケットは、それぞれ前記第2玉を保持する。前記第1内輪軌道溝の第1内輪軌道接触直径は前記第2内輪軌道溝の第2内輪軌道接触直径より小さい。前記第1外輪軌道溝の第1外輪軌道接触直径は前記第2外輪軌道溝の第2外輪軌道接触直径より小さい。前記内輪背面を鉛直方向下側にして前記内輪を配置し、前記第1保持器付き玉を軸方向第1側から前記第1内輪軌道溝に載置したとき、前記第1保持器の中心軸と前記内輪の中心軸との成す第1劣角が、0°以上、第1角度未満である場合、前記複数の第1玉のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第1玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第1保持器は前記内輪に接触せず、前記第1劣角が、前記第1角度以上である場合、前記最も鉛直方向の下側に位置する第1玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第1保持器は前記内輪に接触する。
【0011】
上記構成の複列アンギュラ玉軸受は、第1保持器が内輪に対して傾き、第1劣角が第1角度になると、第1保持器が内輪に接触するように構成されているので、第1劣角が第1角度より大きくなることを抑制できる。
上記構成により、複列アンギュラ玉軸受の組み立て作業において、内輪に第1保持器付き玉を載置したときに、第1保持器付き玉が内輪に対して不必要に大きく傾くことが抑制され、第1保持器付き玉への外輪の取り付けを容易にすることができる。
この結果、組み立て作業を容易にすることができる。
【0012】
(2)上記複列アンギュラ玉軸受において、好ましい上記複列アンギュラ玉軸受は、前記第1内輪軌道溝の軸方向第1側の第2縁部が、前記内輪正面に繋がり、前記第1保持器が、前記内輪正面に対向する第1面を有し、前記第1劣角が、0°以上、前記第1角度未満である場合、前記第1面と前記内輪正面との間に、軸方向の隙間が設けられ、前記第1劣角が、前記第1角度以上である場合、前記第1面と前記内輪正面とは、互いに接触する構成を備える。
この場合、第1面と内輪正面とが接触することで、第1劣角が第1角度より大きくなることが抑制される。
【0013】
(3)上記複列アンギュラ玉軸受において、前記第1環状体は、前記複数の柱の軸方向第1側に繋がる第1小径環状体であり、前記第1小径環状体が、環状本体部と、前記環状本体部から前記内輪正面に向かって突出する第1係合部と、を有し、前記第1面は、前記第1係合部の先端に設けられる構成を備える。
この場合、第1係合部が内輪に接触することで、第1劣角が第1角度より大きくなることが抑制される。
【0014】
(4)上記複列アンギュラ玉軸受において、前記第1大径環状体の軸方向第2側の端面は、前記第2保持器との間で隙間を構成する面取部を有していてもよい。
この場合、第1保持器と、第2保持器とが接触することが抑制される。
【0015】
(5)他の観点から見た複列アンギュラ玉軸受は、内輪と、外輪と、第1保持器と、複数の第1玉と、第2保持器付き玉と、を備える。前記第2保持器付き玉は、第2保持器と、複数の第2玉と、を備える。前記内輪は、軸方向第1側に内輪正面を有し、軸方向第2側に内輪背面を有し、前記内輪正面と前記内輪背面との間の外周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1内輪軌道溝と、第2内輪軌道溝と、第2内輪肩部と、を備える。前記第2内輪軌道溝と前記第2内輪肩部とが繋がる。前記外輪は、内周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって第1外輪軌道溝と、第2外輪軌道溝と、を備える。前記第1保持器は、複数の第1柱と、第1環状体と、複数の第1ポケットと、を備える。複数の第1柱は、第1環状体に、第1環状体の軸方向の第1側、又は、第1環状体の軸方向の第2側の一方で繋がる。隣接する2つの第1柱と第1環状体とに囲まれる空間が第1ポケットである。複数の第1ポケットは、それぞれ前記第1玉を保持する。前記第2保持器は、複数の第2柱と、第2環状体と、複数の第2ポケットと、を備える。複数の第2柱は、第2環状体に、第2環状体の軸方向の第1側、又は、第2環状体の軸方向の第2側の一方で繋がる。隣接する2つの第2柱と第2環状体とに囲まれる空間が第2ポケットである。複数の第2ポケットは、それぞれ前記第2玉が前記第1ポケットから脱落しないように保持する内側面を有する。前記第2保持器付き玉は、複数の第2ポケットのそれぞれに前記第2玉を1個ずつ保持する。前記第1内輪軌道溝の第1内輪軌道接触直径は前記第2内輪軌道溝の第2内輪軌道接触直径より小さい。前記第1外輪軌道溝の第1外輪軌道接触直径は前記第2外輪軌道溝の第2外輪軌道接触直径より小さい。前記内輪背面を鉛直方向下側にして前記内輪を配置し、前記第2保持器付き玉を軸方向第1側から前記第2内輪軌道溝に載置したとき、前記第2保持器の中心軸と前記内輪の中心軸との成す第2劣角が、0°以上、第2角度未満である場合、前記複数の第2玉のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第2玉の一部が、前記第3縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第2保持器は前記内輪に接触せず、前記第2劣角が、前記第2角度以上である場合、前記最も鉛直方向の下側に位置する第2玉の一部が、前記第3縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記第2保持器は前記内輪に接触する。
【0016】
上記構成によれば、第2保持器が内輪に対して傾き、第2劣角が第2角度になると、第2保持器が内輪に接触するように構成されているので、第2劣角が第2角度より大きくなるのを抑制することができる。
これにより、複列アンギュラ玉軸受の組み立て作業において、内輪に第2保持器付き玉を載置したときに、第2保持器付き玉が内輪に対して不必要に大きく傾くのを抑制することができ、その後の外輪の取り付けを容易にすることができる。
この結果、組み立て作業を容易にすることができる。
【0017】
(6)上記複列アンギュラ玉軸受において、好ましい上記複列アンギュラ玉軸受は、前記外周面が、前記第1内輪軌道溝と、前記第2内輪軌道溝との間に軸方向第1側に向く環状面をさらに有し、前記第2内輪軌道溝の軸方向第1側の第4縁部が、前記環状面に繋がり、前記第2保持器が、前記環状面に対向する第2面を有する場合、前記第2劣角が、0°以上、前記第2角度未満である場合、前記第2面と前記環状面との間に、軸方向の隙間が設けられ、前記第2劣角が、第2の角度以上である場合、前記第2面と前記環状面とは、互いに接触する構成を備える。
この場合、第2面と内輪背面とが接触することで、第2劣角が第2角度より大きくなることが抑制される。
【0018】
(7)他の観点から見たアンギュラ玉軸受は、内輪と、外輪と、保持器付き玉と、を備える。前記保持器付き玉は、保持器と、複数の玉と、を備える。前記内輪は、軸方向第1側に内輪正面を有し、軸方向第2側に内輪背面を有し、前記内輪正面と前記内輪背面との間の外周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって内輪軌道溝と、内輪肩部と、を備える。前記内輪軌道溝と前記内輪肩部とが繋がる。前記外輪は、内周に、軸方向第1側から軸方向第2側に向かって外輪軌道溝を備える。前記保持器は、複数の柱と、環状体と、複数のポケットと、を備える。複数の柱は、環状体に、環状体の軸方向の第1側、又は、環状体の軸方向の第2側の一方で繋がる。隣接する2つの柱と環状体とに囲まれる空間がポケットである。複数のポケットは、それぞれ前記玉が前記ポケットから脱落しないように保持する内側面を有す。前記保持器付き玉は、複数のポケットのそれぞれに前記玉を1個ずつ保持する。前記内輪背面を鉛直方向下側にして前記内輪を配置し、前記保持器付き玉を軸方向第1側から前記内輪軌道溝に載置したとき、前記保持器の中心軸と前記内輪の中心軸との成す劣角が、0°以上、第1角度未満である場合、前記複数の玉のうちの最も鉛直方向の下側に位置する玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記保持器は前記内輪に接触せず、前記劣角が、前記第1角度以上である場合、前記最も鉛直方向の下側に位置する玉の一部が、前記第1縁部よりも径方向の内側にあるとともに、前記保持器は前記内輪に接触する。
上記構成においても、組み立て作業を容易にすることができる。
【0019】
(8)上記(7)のアンギュラ玉軸受において、好ましい上記複列アンギュラ玉軸受は、前記内輪軌道溝の軸方向第1側の第2縁部が、前記内輪正面に繋がり、前記保持器が、前記内輪正面に対向する第1面を有する場合、前記劣角が、0°以上、前記第1角度未満である場合、前記第1面と前記内輪正面との間に、軸方向の隙間が設けられ、前記劣角が、前記第1角度以上である場合、前記第1面と前記内輪正面とは、互いに接触する構成を備える。
この場合、第1面と内輪正面とが接触することで、劣角が第1角度より大きくなることが抑制される。
【0020】
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔全体構成について〕
図1は、実施形態に係るアンギュラ玉軸受の一例を示す断面図である。このアンギュラ玉軸受は、複列アンギュラ玉軸受である。詳細にいうと、このアンギュラ玉軸受は、タンデム複列アンギュラ玉軸受である。
アンギュラ玉軸受1は、内輪2と、外輪4と、第1保持器6と、複数の第1玉8と、第2保持器10と、複数の第2玉12と、を備える。
第1保持器6および第2保持器10は、内輪2および外輪4の間に配置される。第2保持器10の直径は、第1保持器6の直径よりも大きい。第2保持器10は、第1保持器6に対して軸方向に並べて配置される。
なお、以下の説明において、アンギュラ玉軸受1の中心軸C1に沿う方向は、軸方向である。軸方向第1側は、図1の右側であり、内輪2の正面2b側である。軸方向第2側は、図1の左側であり、内輪2の背面2c側である。また、中心軸C1に直交する方向は、径方向である。また、中心軸C1を中心とする円に沿う方向は、周方向である。
【0021】
内輪2は、軸受鋼等によって形成された環状の部材である。内輪2は、外周面2aと、内輪正面2bと、内輪背面2cと、軸受内径面2dと、を有する。
外周面2aは、第1内輪軌道溝14と、第1内輪肩部16と、環状面18と、第2内輪軌道溝20と、第2内輪肩部22と、を有する。
外周面2aに、第1内輪軌道溝14、第1内輪肩部16、環状面18、第2内輪軌道溝20、および第2内輪肩部22が、軸方向第1側から軸方向第2側に沿って順番に設けられている。
内輪正面2bは、内輪2において軸方向第1内輪軌道溝14側の側面である。
また、内輪背面2cは、内輪2において軸方向第2内輪軌道溝20側の側面である。
【0022】
第1内輪軌道溝14は、複数の第1玉8が転動する軌道である。
第1内輪軌道溝14は、第1縁部14aと、第2縁部14bと、を有する。
第1内輪軌道溝14の溝半径は、第1玉8の直径の、50.5%から60%である。
第1縁部14aは、第1内輪軌道溝14における内輪背面2c側の縁部である。第1縁部14aは、第1内輪肩部16に繋がっている。
第1内輪肩部16は、径方向外側に向く円筒状の面である。
また、第2縁部14bは、第1内輪軌道溝14における内輪正面2b側の縁部である。第2縁部14bは、内輪正面2bの外周縁に繋がっている。
【0023】
第2内輪軌道溝20は、複数の第2玉12が転動する軌道である。第2内輪軌道溝20の直径は、第1内輪軌道溝14の直径よりも大きい。
第2内輪軌道溝20は、第3縁部20aと、第4縁部20bと、を有する。
第2内輪軌道溝20の溝半径は、第2玉12の直径の、50.5%から60%である。
第3縁部20aは、第2内輪軌道溝20における内輪背面2c側の縁部である。第3縁部20aは、第2内輪肩部22に繋がっている。
第2内輪肩部22は、径方向外側に向く円筒状の面である。第2内輪肩部22は、内輪背面2cの外周縁と、第3縁部20aとの間に設けられている。
また、第4縁部20bは、第2内輪軌道溝20における内輪正面2b側の縁部である。第4縁部20bは、環状面18の外周縁に繋がっている。
環状面18は、軸方向内輪正面2b側に向く面である。環状面18は、第4縁部20bと、第1内輪肩部16との間に設けられている。
【0024】
外輪4は、軸受鋼等によって形成された環状の部材である。外輪4は、内輪2の外周側に同心に配置されている。外輪4は、内周面4aを有する。内周面4aは、第1外輪軌道溝24と、第2外輪軌道溝26と、を有する。
第1外輪軌道溝24は、複数の第1玉8が転動する軌道である。第1外輪軌道溝24は、第1内輪軌道溝14に対向している。
第1外輪軌道溝24の溝半径は、第1玉8の直径の、50.5%から60%である。
第2外輪軌道溝26は、複数の第2玉12が転動する軌道である。第2外輪軌道溝26は第2内輪軌道溝20に対向している。
第2外輪軌道溝26の溝半径は、第2玉12の直径の、50.5%から60%である。
【0025】
複数の第1玉8は、軸受鋼等によって形成された部材である。
複数の第1玉8は、第1内輪軌道溝14と、第1外輪軌道溝24との間に転動自在に周方向に沿って配列される。複数の第1玉8と第1内輪軌道溝14との呼び接触点を通る円の直径は、第1内輪軌道接触直径である。複数の第1玉8と第1外輪軌道溝24との呼び接触点を通る円の直径は、第1外輪軌道接触直径である。
複数の第2玉12は、軸受鋼等によって形成された部材である。複数の第2玉12は、第2内輪軌道溝20と、第2外輪軌道溝26との間に転動自在に周方向に沿って配列される。複数の第2玉12と第2内輪軌道溝20との呼び接触点を通る円の直径は、第2内輪軌道接触直径である。複数の第2玉12と第2外輪軌道溝26との呼び接触点を通る円の直径は、第2外輪軌道接触直径である。
第1内輪軌道接触直径は、第2内輪軌道接触直径より小さい。
第1外輪軌道接触直径は、第2外輪軌道接触直径より小さい。
【0026】
第1保持器6は、複数の第1玉8を保持する環状の部材である。第1保持器6は、ポリアミドや、フェノール樹脂等を用いて射出成形することによって形成される。
第1保持器6は、第1環状体である第1小径環状体30と、第1環状体である第1大径環状体32と、複数の柱33と、複数の第1ポケット34と、を備える。
複数の第1ポケット34は、第1小径環状体30と、第1大径環状体32と、隣り合う一対の柱33と、の間に設けられる。複数の第1ポケット34は、それぞれ、第1ポケット34の内側面34aを有する。第1ポケット34の内側面34aは、第1玉8が第1ポケット34から脱落しないように第1玉8を保持する凹曲面形状を有する。第1保持器6は、かご形保持器である。
【0027】
第2保持器10は、複数の第2玉12を保持する環状の部材である。第2保持器10は、第1保持器6と同様、ポリアミドや、フェノール樹脂等を用いて射出成形することによって形成される。
第2保持器10は、第2環状体である第2小径環状体40と、第2環状体である第2大径環状体42と、複数の柱43と、複数の第2ポケット44と、を備える。
複数の第2ポケット44は、第2小径環状体40と、第2大径環状体42と、隣り合う一対の柱43と、の間に設けられる。複数の第2ポケット44は、それぞれ、第2ポケット44の内側面44aを有する。第2ポケット44の内側面44aは、第2玉12が第2ポケット44から脱落しないように第2玉12を保持する凹曲面形状を有する。第2保持器10は、かご形保持器である。
【0028】
〔保持器について〕
図2は、第2保持器10を示す斜視図である。ここで説明される保持器は、第2保持器10である一方、第1保持器6の構成も説明される保持器の構成と同様である。
上述のように、第2保持器10は、第2小径環状体40と、第2大径環状体42と、複数の柱43と、複数の第2ポケット44と、を備える。
【0029】
第2小径環状体40は、第2保持器10の中心軸C2を中心とする環状体である。
第2大径環状体42は、中心軸C2を中心とする環状体であり、第2小径環状体40と同心に配置される。第2大径環状体42の外径寸法は、第2小径環状体40の外径寸法よりも大きい。
複数の柱43は、周方向に等間隔に配置され、第2小径環状体40と、第2大径環状体42と、を連結している。
【0030】
複数の第2ポケット44は、複数の柱43のうちの互いに隣り合う一対の柱43、第2小径環状体40、および第2大径環状体42によって構成されている。
複数の第2ポケット44は、周方向に沿って等間隔に設けられている。複数の第2ポケット44は、複数の第2ポケット44の内部空間内に複数の第2玉12を1個ずつ収容することで、複数の第2玉12を周方向に等間隔に保持する。
【0031】
図3は、図2とは異なる角度で示した第2保持器10の斜視図であり、第2保持器10の一部分を拡大している図である。
図3および図1に示すように、第2小径環状体40は、環状本体部40aと、第2係合部40bと、を有する。
図1に示すように、第2係合部40bは、環状本体部40aから環状面18に向かって突出している。第2係合部40bは、環状本体部40aの全周に亘って環状に設けられている。
第2係合部40bの先端面40b1(第2面)と、環状面18と、は互いに対向している。
【0032】
図1に示すように、第1保持器6の第1小径環状体30も、第2保持器10の第2小径環状体40と同様、環状本体部30aと、第1係合部30bと、を有する。
第1係合部30bは、環状本体部30aから内輪正面2bへ向かって突出している。第1係合部30bは、環状本体部30aの全周に亘って環状に設けられている。
第1係合部30bの先端面30b1(第1面)と、内輪正面2bと、は互いに対向している。
【0033】
また、第1保持器6の第1大径環状体32の軸方向内輪背面2c側の端面は、径方向に沿った端面部32bと、端面部32bの外側に設けられた面取部32aと、を有する。
面取部32aは、第2保持器10の第2小径環状体40との間で環状の隙間を構成する。
この面取部32aによって、第1保持器6と、第2保持器10とが接触するのを抑制することができる。
【0034】
〔アンギュラ玉軸受1の組み立てについて〕
図4は、アンギュラ玉軸受1を組み立てる際の中間組立体の一例を示す断面図である。
本実施形態のアンギュラ玉軸受1は、次のように組み立てられる。まず、図4に示すように、内輪背面2cを鉛直方向下側にして内輪2が配置され、配置された内輪2に対して、第2保持器付き玉60と、第1保持器付き玉50と、が載置される。
第1保持器付き玉50は、第1保持器6と、第1保持器6によって保持された複数の第1玉8と、によって構成される。つまり、第1保持器付き玉50は、第1保持器6に複数の第1玉8を保持させた保持器付き玉(組立体)である。
第2保持器付き玉60は、第2保持器10と、第2保持器10によって保持された複数の第2玉12と、によって構成される。つまり、第2保持器付き玉60は、第2保持器10に複数の第2玉12を保持させた保持器付き玉(組立体)である。
第2保持器付き玉60と、第1保持器付き玉50と、が、内輪2に載置されたものが中間組立体である。
【0035】
第2保持器付き玉60(第2保持器10)は、第2内輪軌道溝20に載置される。第2内輪軌道溝20の直径は、第1内輪軌道溝14の直径よりも大きい。
よって、まず、第2保持器付き玉60が、第2内輪軌道溝20に載置され、その後、第1保持器付き玉50が、第1内輪軌道溝14に載置される。
保持器付き玉50、60が内輪軌道溝14、20に載置された後、中間組立体に外輪4が取り付けられることによって、アンギュラ玉軸受1が得られる。
【0036】
図4に記載される複数の第1玉8は、第1内輪軌道溝14における内輪呼び接触点P1近傍に接触するように配置されている。このため、第1保持器6の中心軸C3は、内輪2の中心軸C1に対してほとんど傾いておらず、中心軸C1に対してほぼ一致する。
また、複数の第2玉12も、複数の第1玉8と同様、第2内輪軌道溝20における内輪呼び接触点P2近傍に接触するように配置されている。このため、第2保持器10の中心軸C2は、内輪2の中心軸C1に対してほとんど傾いておらず、中心軸C1に対してほぼ一致する。
【0037】
つまり、図4における第1保持器6(第1保持器付き玉50)および第2保持器10(第2保持器付き玉60)は、内輪2に対してほとんど傾いていない。
また、図4に記載される第1保持器6は、複数の第1玉8によって支持されている。このため、第1保持器6は内輪2に接触していない。より具体的に言うと、第1保持器6における第1小径環状体30の係合部30bの先端面30b1と、内輪2の内輪正面2bとの間に、軸方向の隙間が設けられている。
【0038】
また、第2保持器10も、複数の第2玉12によって支持されている。このため、第2保持器10は内輪2に接触していない。より具体的に言うと、第2保持器10における第2小径環状体40の係合部40bの先端面40b1と、内輪2の環状面18との間に、軸方向の隙間が設けられている。
【0039】
図5は、中間組立体の他の例を示す断面図である。
図5に記載される第1保持器6(第1保持器付き玉50)および第2保持器10(第2保持器付き玉60)が内輪2に対して傾いている状態を示している。
図5中に記載される第1玉8は、第1保持器付き玉50が傾くことで、複数の第1玉8のうちの最も鉛直方向の下側に位置している。同様に、図5中に記載される第2玉12は、第2保持器付き玉60が傾くことで、複数の第2玉12のうちの最も鉛直方向の下側に位置している。
図5は、複数の第1玉8のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第1玉8の部分の断面であって、内輪2の中心軸C1、および第1保持器6の中心軸C3を含む平面に沿った断面を示している。また、図5は、複数の第2玉12のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第2玉12の部分の断面であって、内輪2の中心軸C1、および第2保持器10の中心軸C2を含む平面に沿った断面を示している。図5において、最も鉛直方向の下側に位置する第1玉8の周方向の位置は、最も鉛直方向の下側に位置する第2玉12の周方向の位置と一致しているが、図示の都合でそのように記載しているだけであり、異なっていることもある。
【0040】
図5に記載される第1保持器6は、内輪2に対して傾くことで、内輪2に接触している。より具体的に言うと、第1保持器6における第1小径環状体30の係合部30bの先端面30b1が、内輪2の内輪正面2bに接触している。
係合部30bの先端面30b1が、内輪2の内輪正面2bに接触することで、第1保持器6は、内輪2に対して傾いた状態が維持されている。
言い換えると、係合部30bの先端面30b1が、内輪2の内輪正面2bに接触することで、第1保持器6(第1保持器付き玉50)が図5に示す以上に傾くことが抑制されている。
【0041】
また、図5に示すように、係合部30bの先端面30b1が、内輪2の内輪正面2bに接触するとき、第1保持器6の中心軸C3と、内輪2の中心軸C1との成す第1劣角θ1は、第1角度K1となる。
よって、図4に示すように、第1保持器6が、内輪2に接触しないとき、第1劣角θ1は、0°から第1角度K1未満の値の範囲で変化する。
【0042】
また、図5に示すように、直線L1は第1玉8に交差する。直線L1は、第1縁部14aを通過する鉛直方向に平行な直線である。つまり、図5中の第1玉8の一部は、第1縁部14aよりも径方向内側にある。
なお、図4においても、第1玉8の一部は、第1縁部14aよりも径方向内側にある。
【0043】
このように、本実施形態のアンギュラ玉軸受1は、第1保持器付き玉50を第1内輪軌道溝14に載置したときに、第1劣角θ1が、0°以上、第1角度K1未満である場合、複数の第1玉8のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第1玉8の一部が、第1縁部14aよりも径方向の内側にあるとともに、第1保持器6は内輪2に接触しない。
また、第1劣角θ1が、第1角度K1以上である場合、最も鉛直方向の下側に位置する第1玉8の一部が、第1縁部14aよりも径方向の内側にあるとともに、第1保持器6は内輪2に接触する。
【0044】
上記構成によれば、第1保持器6が内輪2に対して傾き、第1劣角θ1が第1角度K1になると、第1保持器6が内輪2に接触するように構成されているので、第1劣角θ1が第1角度K1より大きくなることを抑制することができる。
これにより、アンギュラ玉軸受1の組み立て作業において、内輪2に第1保持器付き玉50を載置したときに、第1保持器付き玉50が内輪2に対して不必要に大きく傾くことを抑制することができ、その後の外輪4の取り付けを容易にすることができる。この結果、組み立て作業を容易にすることができる。
【0045】
また、上記構成のアンギュラ玉軸受1は、第1劣角θ1が0°以上、第1角度K1未満のとき、係合部30bの先端面30b1(第1面)と、内輪2の内輪正面2bとの間に、軸方向の隙間が設けられ、第1劣角θ1が、第1角度K1以上のとき、先端面30b1と、内輪正面2bとは、互いに接触する。
よって、先端面30b1と内輪正面2bとが接触することで、第1劣角θ1が第1角度K1より大きくなることを抑制することができるとともに、組み立て作業後のアンギュラ玉軸受1において、第1保持器の中心軸C3が内輪2の中心軸C1と一致しているときに、係合部30bと内輪正面2bとが接触することを抑制することができる。
【0046】
図5に記載される第2保持器10も、第1保持器6と同様、内輪2に対して傾くことで、内輪2に接触している。より具体的に言うと、第2保持器10における第2小径環状体40の係合部40bの先端面40b1が、内輪2の環状面18に接触している。
係合部40bの先端面40b1が、環状面18に接触することで、第2保持器10は、内輪2に対して傾いた状態が維持されている。
言い換えると、係合部40bの先端面40b1が、内輪2の環状面18に接触することで、第2保持器10(第2保持器付き玉60)が図5に示す以上に傾くことが抑制されている。
【0047】
また、図5に示すように、係合部40bの先端面40b1が、内輪2の環状面18に接触するとき、第2保持器10の中心軸C2と、内輪2の中心軸C1との成す第2劣角θ2は、第2角度K2となる。
よって、図4に示すように、第2保持器10が、内輪2に接触しないとき、第2劣角θ2は、0°から第2角度K2未満の値の範囲で変化する。
【0048】
また、図5に示すように、直線L2は第2玉12に交差する。直線L2は、第3縁部20aを通過する鉛直方向に平行な直線である。つまり、図5中の第2玉12の一部は、第3縁部20aよりも径方向内側にある。
なお、図4においても、第2玉12の一部は、第3縁部20aよりも径方向内側にある。
【0049】
このように、本実施形態のアンギュラ玉軸受1は、第2保持器付き玉60を第2内輪軌道溝20に載置したときに、第2劣角θ2が、0°以上、第2角度K2未満である場合、複数の第2玉12のうちの最も鉛直方向の下側に位置する第2玉12の一部が、第3縁部20aよりも径方向の内側にあるとともに、第2保持器10は内輪2に接触しない。
また、第2劣角θ2が、第2角度K2以上である場合、最も鉛直方向の下側に位置する第2玉12の一部が、第3縁部20aよりも径方向の内側にあるとともに、第2保持器10は内輪2に接触する。
【0050】
上記構成によれば、第2保持器10が内輪2に対して傾き、第2劣角θ2が第2角度K2になると、第2保持器10が内輪2に接触するように構成されているので、第2劣角θ2が第2角度K2より大きくなることを抑制することができる。
これにより、アンギュラ玉軸受1の組み立て作業において、内輪2に第2保持器付き玉60を載置したときに、第2保持器付き玉60が内輪2に対して不必要に大きく傾くことを抑制することができ、その後の外輪4の取り付けを容易にすることができる。この結果、組み立て作業を容易にすることができる。
【0051】
また、上記構成のアンギュラ玉軸受1は、第2劣角θ2が0°以上、第2角度K2未満のとき、係合部40bの先端面40b1(第1面)と、内輪2の環状面18との間に、軸方向の隙間が設けられ、第2劣角θ2が、第2角度K2以上のとき、先端面40b1と、環状面18とは、互いに接触する。
よって、先端面40b1と環状面18とが接触することで、第2劣角θ2が第2角度K2より大きくなることを抑制することができるとともに、組み立て作業後のアンギュラ玉軸受1において、第2保持器の中心軸C2が内輪2の中心軸C1と一致しているときに、係合部40bと環状面18とが接触することを抑制することができる。
【0052】
例えば、図6(a)に示すように、第1保持器付き玉202の第1保持器204および第2保持器付き玉206の第2保持器208が係合部を有さない従来のアンギュラ玉軸受200を組み立てる場合、内輪210の外側であって第2保持器208の下側に第2保持器208が傾くことを防止するための治具220を配置する必要があった。
さらに、図6(b)に示すように、従来のアンギュラ玉軸受200を回転軸300と、軸箱302と、の間に装着する場合、図6(a)に示すような治具を用いることができないこともあった。
【0053】
しかし、本実施形態のアンギュラ玉軸受1は、上述のように、組み立て作業において、第1保持器付き玉50および第2保持器付き玉60が内輪2に対して不必要に大きく傾くのを抑制することができる。よって、図6(a)に示すような治具を用いる必要はなく、図6(b)に示すように、回転軸と軸箱との間に装着する場合においても、容易に組み立てることができる。
【0054】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものでない。
上記実施形態のアンギュラ玉軸受1は、第2小径環状体40の第2係合部40b(第1小径環状体30の第1係合部30b)を環状本体部40a(環状本体部30a)の全周に亘って環状に設けた場合のアンギュラ玉軸受である。
しかし、本発明のアンギュラ玉軸受は、第2係合部40b(第1係合部30b)を第2小径環状体40(第1小径環状体30)の全周に亘って環状に設けなくてもよい。本発明のアンギュラ玉軸受は、例えば、図7に示すように、第2小径環状体40に対して6個の第2係合部40bを周方向に沿って等間隔に設けてもよい。さらに、図7に記載したアンギュラ玉軸受は、第2係合部40bの個数を6個設けた場合のアンギュラ玉軸受であるが、本発明のアンギュラ玉軸受は、第2係合部40b(第1係合部30b)の個数を、例えば、4個、3個といったより個数を減らした個数としてもよいし、8個、9個といったより個数を増やした個数としてもよい。
上記実施形態のアンギュラ玉軸受1は、複数の玉列を有するタンデム複列アンギュラ玉軸受であった。一方、本発明のアンギュラ玉軸受は、一つの玉列を有するアンギュラ玉軸受でもよいし、複列内向きアンギュラ玉軸受でもよい。
上記実施形態のアンギュラ玉軸受1の第1保持器6と第2保持器10とが、かご形保持器であった。一方、本発明のアンギュラ玉軸受の第1保持器6と第2保持器10との一方または両方は、保持器付き玉の構成を成すことができるのであれば、波形保持器、冠形保持器、つの形保持器、合せ保持器、二つ割り保持器でもよい。
上記実施形態のアンギュラ玉軸受1は、第1小径環状体30の第1係合部30bに第1面を備えていた。一方、本発明のアンギュラ玉軸受は、第1大径環状体32に第1係合部を設けて第1面を設けてもよい。本発明のアンギュラ玉軸受は、第1係合部30bをつのや柱に備えてもよい。
【0055】
また、上記実施形態のアンギュラ玉軸受1は、第1大径環状体32に面取部32aを設けた場合を例示したが、第1保持器6と第2保持器10との間隔を十分に確保することができ第1保持器6と第2保持器10との接触が十分に回避可能である場合に、第1大径環状体32に面取部32aを設けなくてもよい。
【0056】
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0057】
1 アンギュラ玉軸受 2 内輪 2a 外周面
2b 内輪正面 2c 内輪背面
4 外輪 4a 内周面 6 第1保持器
8 第1玉 10 第2保持器 12 第2玉
14 第1内輪軌道溝 14a 第1縁部 14b 第2縁部
16 第1内輪肩部 18 環状面 20 第2内輪軌道溝
20a 第3縁部 20b 第4縁部 22 第2内輪肩部
24 第1外輪軌道溝 26 第2外輪軌道溝 30 第1小径環状体
30a 環状本体部 30b 第1係合部
30b1 先端面(第1面) 32 第1大径環状体 32a 面取部
34 第1ポケット 34a 第1ポケットの内側面
40 第2小径環状体 40a 環状本体部 40b 第2係合部
40b1 先端面(第2面) 42 第2大径環状体 44 第2ポケット
44a 第2ポケットの内側面 50 第1保持器付き玉
60 第2保持器付き玉
C1 中心軸 C2 中心軸 C3 中心軸
θ1 第1劣角 θ2 第2劣角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8