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特開2024-176387繊維強化樹脂シート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176387
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C08J5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094883
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬洋
(72)【発明者】
【氏名】畠山 広大
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD44
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH21
(57)【要約】
【課題】薄肉でありながら強化繊維の剥離が起き難い繊維強化樹脂シートを提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂シート1は、厚み方向に積層されて互いに溶着された熱可塑性の第1樹脂層11、第2樹脂層12、及び第3樹脂層13と、当該第1~第3樹脂層11~13のそれぞれに分散して含有されかつ同一方向に配向された強化繊維10とを備える。繊維強化樹脂シートの厚みdは、20μm以上200μm以下であり、強化繊維10の体積含有率は、30%以上70%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20μm以上200μm以下の厚みを有する繊維強化樹脂シートであって、
厚み方向に積層されて互いに溶着された熱可塑性の第1樹脂層、第2樹脂層、及び第3樹脂層と、
前記第1~第3樹脂層のそれぞれに分散して含有されかつ同一方向に配向された強化繊維とを備え、
前記強化繊維の体積含有率が30%以上70%以下である、繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化樹脂シートにおいて、
当該繊維強化樹脂シートの断面積に占める空隙の割合であるボイド率が10%以下である、繊維強化樹脂シート。
【請求項3】
熱可塑性の第1樹脂フィルムと熱可塑性の第2樹脂フィルムとの間に、繊維束から開繊された連続した第1強化繊維を配置する第1配置工程と、
前記第1樹脂フィルムの反対側から前記第2樹脂フィルムと対向するように熱可塑性の第3樹脂フィルムを配置するとともに、当該第3樹脂フィルムと前記2樹脂フィルムとの間に、繊維束から開繊された連続した第2強化繊維を配置する第2配置工程と、
前記第1~第3樹脂フィルムが前記第1強化繊維及び前記第2強化繊維に含浸するように、当該第1~第3樹脂フィルムを加熱により軟化させる含浸工程とを含む、繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法において、
前記含浸工程は、前記第1及び第2配置工程を経て形成された前記各樹脂フィルムと前記各炭素繊維との積層体をまとめて加熱する工程である、繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法において、
前記第1~第3樹脂フィルムとして、厚みが3μm以上35μm以下のものを用いる、繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法において、
前記第1強化繊維及び前記第2強化繊維として、前記繊維束の1.5倍以上6倍以下の幅を有するように開繊したものを用いる、ことを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層内に強化繊維が含有された繊維強化樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂シートの一例として、下記特許文献1のものが知られている。この特許文献1の繊維強化樹脂シートは、30~65μmの厚みを有する比較的薄肉の繊維強化樹脂シートであって、熱可塑性の樹脂フィルムと、当該樹脂フィルムの両面に積層された強化繊維とを備える。強化繊維は、当該繊維強化樹脂シートに対する体積含有率(Vf)が60~75%以上になるように、樹脂フィルムの両面に積層される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-103810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、60~75%の体積含有率に相当する比較的多量の強化繊維を樹脂フィルムの両面に積層した場合には、樹脂フィルムが強化繊維に十分に含浸しない可能性がある。強化繊維への樹脂フィルムの含浸が不十分であると、樹脂フィルムから強化繊維が剥離する等の不具合が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、薄肉でありながら強化繊維の剥離が起き難い繊維強化樹脂シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのものとして、本発明の一局面に係る繊維強化樹脂シートは、20μm以上200μm以下の厚みを有する繊維強化樹脂シートであって、厚み方向に積層されて互いに溶着された熱可塑性の第1樹脂層、第2樹脂層、及び第3樹脂層と、前記第1~第3樹脂層のそれぞれに分散して含有されかつ同一方向に配向された強化繊維とを備え、前記強化繊維の体積含有率が30%以上70%以下である、ことを特徴とするものである。
【0007】
本発明によれば、互いに溶着された3つの樹脂層にそれぞれ強化繊維が含有されるので、各樹脂層と強化繊維との一体性を高めることができ、強化繊維が樹脂層から剥離する等の不具合を防止することができる。これにより、20~200μmという比較的薄い厚みでありながら、30~70%の体積含有率に相当する比較的多量の強化繊維を内部にしっかり保持した、高強度かつ高品質の繊維強化樹脂シートを得ることができる。
【0008】
好ましくは、前記繊維強化樹脂シートの断面積に占める空隙の割合であるボイド率が10%以下である。
【0009】
このように、ボイド率を10%以下まで小さくした場合には、繊維強化樹脂シートの強度及び品質をより高めることができる。
【0010】
本発明の他の局面に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、熱可塑性の第1樹脂フィルムと熱可塑性の第2樹脂フィルムとの間に、繊維束から開繊された連続した第1強化繊維を配置する第1配置工程と、前記第1樹脂フィルムの反対側から前記第2樹脂フィルムと対向するように第3樹脂フィルムを配置するとともに、当該第3樹脂フィルムと前記2樹脂フィルムとの間に、繊維束から開繊された連続した第2強化繊維を配置する第2配置工程と、前記第1~第3樹脂フィルムが前記第1強化繊維及び前記第2強化繊維に含浸するように、当該第1~第3樹脂フィルムを加熱により軟化させる含浸工程とを含む、ことを特徴とするものである。
【0011】
この製造方法によれば、上述した繊維強化樹脂シートの発明と同様のシートを適切に製造することができる。すなわち、第1強化繊維を挟んで対向配置された第1樹脂フィルム及び第2樹脂フィルムを加熱して軟化させることにより、第1樹脂フィルム及び第2樹脂フィルムを第1強化繊維に含浸させることができる。同様に、第2強化繊維を挟んで対向配置された第2樹脂フィルム及び第3樹脂フィルムを加熱して軟化させることにより、第2樹脂フィルム及び第3樹脂フィルムを第2強化繊維に含浸させることができる。その結果、第1~第3樹脂フィルムに対応した3つの樹脂層と、当該3つの樹脂層に含有された強化繊維と、を備えた高強度かつ高品質の繊維強化樹脂シートを製造することができる。
【0012】
好ましくは、前記含浸工程は、前記第1及び第2配置工程を経て形成された前記各樹脂フィルムと前記各炭素繊維との積層体をまとめて加熱する工程である。
【0013】
この態様では、第1樹脂フィルム、第1強化繊維、第2樹脂フィルム、第2強化繊維、及び第3樹脂フィルムがこの順に積層された後、形成された積層体にまとめて加熱が行われるので、各樹脂フィルムを軟化させて各強化繊維に含浸させる処理を同時に行うことができ、繊維強化樹脂シートの製造効率を向上させることができる。
【0014】
好ましくは、前記第1~第3樹脂フィルムとして、厚みが3μm以上35μm以下のものを用いる。
【0015】
このように、各樹脂フィルムの厚みをいずれも3~35μmに設定した場合には、当該樹脂フィルムを含む繊維強化樹脂シートを薄めに成形することができ、その厚みを所望の値(20~200μm)に収めることができる。
【0016】
好ましくは、前記第1強化繊維及び前記第2強化繊維として、前記繊維束の1.5倍以上6倍以下の幅を有するように開繊したものを用いる。
【0017】
この態様では、十分に開繊された帯状の第1強化繊維及び第2強化繊維を各樹脂フィルムに含有させることができ、繊維強化樹脂シートの薄肉化を促進することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、薄肉でありながら強化繊維の剥離が起き難い繊維強化樹脂シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る繊維強化樹脂シートの構造を示す概略断面図である。
図2】上記繊維強化樹脂シートを製造する製造装置を概略的に示す側面図である。
図3】繊維束を開繊する様子を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の実施例及び比較例の特性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[繊維強化樹脂シートの構造]
図1は、本発明の一実施形態に係る繊維強化樹脂シート1の構造を示す概略断面図である。本図に示すように、繊維強化樹脂シート1は、厚み方向に積層された第1樹脂層11、第2樹脂層12、及び第3樹脂層13と、これら第1~第3樹脂層11~13に含有された強化繊維10とを備える。第1~第3樹脂層11~13は、いずれも熱可塑性樹脂からなる。言い換えると、繊維強化樹脂シート1は、熱可塑性樹脂と強化繊維とを組み合わせた熱可塑性の複合材料である。このため、以下では適宜、繊維強化樹脂シート1のことをFRTPシート1と略称する。
【0021】
第1樹脂層11、第2樹脂層12、及び第3樹脂層13は、FRTPシート1の厚み方向にこの順に積層されている。以下では、図1を基準に、FRTPシート1の厚み方向の一方側であって第2樹脂層12から第1樹脂層11に向かう側が「上」、同厚み方向の他方側であって第2樹脂層12から第3樹脂層13に向かう側が「下」であるものとする。ただしこれは、FRTPシート1の使用時の姿勢を限定する趣旨ではない。
【0022】
第1~第3樹脂層11~13は互いに溶着されている。すなわち、第1樹脂層11の下面11bが第2樹脂層12の上面12aに溶着されるとともに、第2樹脂層12の下面12bが第3樹脂層13の上面13aに溶着されることにより、第1~第3樹脂層11~13が互いに結合されて一体化されている。
【0023】
第1~第3樹脂層11~13の材質である熱可塑性樹脂、つまりFRTPシート1のマトリックス樹脂としては、例えば、ポリアミド(特にPA6、PA9T、PA12)、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン、ポリイミド、ポリアリレート、フッ素樹脂、液晶ポリマー、熱可塑性エポキシ樹脂等を用いることができる。あるいは、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合したポリマーアロイを第1~第3樹脂層11~13の材質として用いてもよい。また、第1~第3樹脂層11~13の材質は、それぞれが上記の材質例を含む熱可塑性樹脂であればよく、互いに同一の材質であっても異なる材質であってもよい。
【0024】
FRTPシート1の厚みd、つまり第1樹脂層11の上面11aから第3樹脂層13の下面13bまでの距離は、20μm以上200μm以下に設定される。好ましい態様において、厚みdは、30μm以上150μm以下であることが好ましく、40μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0025】
強化繊維10は、第1~第3樹脂層11のそれぞれに分散して含有されている。すなわち、強化繊維10は、第1樹脂層11に含有された繊維群と、第2樹脂層12に含有された繊維群と、第3樹脂層13に含有された繊維群とを有する。さらに、強化繊維10は、第1樹脂層11と第2樹脂層12との境界に配置されかつ両樹脂層11,12の双方に含有された繊維群と、第2樹脂層12と第3樹脂層13との境界に配置されかつ両樹脂層12,13の双方に含有された繊維群とを有していてもよい。
【0026】
強化繊維10は、いずれも図1の紙面に直交する方向に延びるように配置されている。すなわち、強化繊維10は、各樹脂層11~13の内部において同一方向に配向された連続繊維である。この強化繊維10の配向方向(紙面直交方向)は、FRTPシート1の長手方向に一致する。言い換えると、強化繊維10は、FRTPシート1の長手方向に引き揃えられた状態で各樹脂層11~13に含有されている。
【0027】
強化繊維10としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミックス繊維、アラミド繊維、PBO繊維(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維)等を用いることができる。中でも炭素繊維は、成形品の強度および耐食性等を向上させる上で有利である。炭素繊維としては、強度が特に高いPAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維10として炭素繊維を用いる場合、その繊維径は、5μm以上12μm以下に設定することが好ましい。
【0028】
強化繊維10の体積含有率、つまり強化繊維10が占める体積をFRTPシート1の全体の体積で割った値(Vf)は、30%以上70%以下に設定される。好ましい態様において、強化繊維10の体積含有率は、35%以上65%以下であることが好ましく、50%以上60%以下であることがより好ましい。
【0029】
FRTPシート1は、その断面に占める空隙の面積の比率であるボイド率が比較的小さい。具体的に、FRTPシート1のボイド率は、10%以下に設定される。好ましい態様において、ボイド率は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。
【0030】
[製造方法]
以上のような構造のFRTPシート1は、次のような製造方法によって製造することができる。図2は、FRTPシート1を製造する製造装置20を概略的に示す側面図である。本図に示される製造装置20は、フィルムローラ21と、繊維ローラ22と、一対の加熱ローラ25と、一対の冷却ローラ26とを備える。
【0031】
フィルムローラ21は、第1樹脂フィルム31を送り出す第1フィルム送出ローラ21Aと、第2樹脂フィルム32を送り出す第2フィルム送出ローラ21Bと、第3樹脂フィルム33を送り出す第3フィルム送出ローラ21Cとを含む。第1樹脂フィルム31は、上述した第1樹脂層11(図1)の原形となるテープ状の樹脂フィルムである。第2樹脂フィルム32は、上述した第2樹脂層12の原形となるテープ状の樹脂フィルムである。第3樹脂フィルム33は、上述した第3樹脂層13の原形となるテープ状の樹脂フィルムである。第1~第3樹脂フィルム31~33は、第1~第3樹脂層11~13の材質に対応する適宜の熱可塑性樹脂から構成されている。第1~第3樹脂フィルム31~33の材質は、同一の熱可塑性樹脂であってもよいし、互いに異なる熱可塑性樹脂であってもよい。
【0032】
第1~第3樹脂フィルム31~33の厚みは、3μm以上35μm以下に設定される。好ましい態様において、各樹脂フィルム31~33の厚みは、5μm以上20μm以下であることが好ましく、7μm以上15μm以下であることがより好ましい。各樹脂フィルム31~33の厚みは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0033】
繊維ローラ22は、第1強化繊維41を送り出す第1繊維送出ローラ22Aと、第2強化繊維42を送り出す第2繊維送出ローラ22Bとを含む。第1強化繊維41及び第2強化繊維42は、その送出方向(換言すれば各樹脂フィルム31~33の長手方向)に沿って延びる連続した繊維であり、製造過程で上記各樹脂フィルム31~33に含有されて上述した強化繊維10(図1)を構成する。
【0034】
第1繊維送出ローラ22A及び第2繊維送出ローラ22Bの各下流側には、それぞれ開繊機23,24が配置されている。開繊機23(24)は、対応する繊維送出ローラ22A(22B)から受け入れた開繊前の繊維束FBを開繊することにより、薄い帯状に広がった第1強化繊維41(第2強化繊維42)を形成する。開繊機23(24)としては、このような開繊処理が可能な機構であればよく、繊維束を叩いて広げる機構、繊維束に風を当てて広げる機構、繊維束に超音波を当てて広げる機構など、種々の機構を用いることができる。言い換えると、第1繊維送出ローラ22A(第2繊維送出ローラ22B)は、繊維束FBを開繊機23(24)に通すことにより、開繊された帯状の第1強化繊維41(第2強化繊維42)を下流側に送出する。
【0035】
図3に示すように、開繊前の繊維束FBの幅をW1とし、帯状に広がった開繊後の第1強化繊維41(第2強化繊維42)の幅をW2とする。繊維束FBが図3のような断面円形の束である場合、繊維束FBの幅W1は直径と同義である。本実施形態において、開繊機23(24)は、第1強化繊維41(第2強化繊維42)の幅W2が繊維束FBの幅W1の1.5倍以上6倍以下になるように開繊を行う。すなわち、幅W2を幅W1で除した値を開繊倍率とした場合、本実施形態では、当該開繊倍率が1.5倍以上6倍以下に設定される。好ましい態様において、開繊倍率は、1.7倍以上5.5倍以下が好ましく、2倍以上5倍以上であることがより好ましい。
【0036】
上述したフィルムローラ21(21A~21C)及び繊維ローラ22(22A,22B)から送出された各要素31,41,32,42,33は、下流側ほど互いの距離が近づくように集約されながら加熱ローラ25に向かっていく。各要素をどの方向に並べるかは特に限定されないが、図2では、各要素を上下方向に並べたパターンであって、第1樹脂フィルム31を最も上側に配置(第3樹脂フィルム33を最も下側に配置)したパターンを例示している。すなわち、第1樹脂フィルム31、第1強化繊維41、第2樹脂フィルム32、第2強化繊維42、及び第3樹脂フィルム33は、上からこの順に並んだ状態で加熱ローラ25に向かって送出されるとともに、加熱ローラ25に近づくほど互いの上下間隔が短くなるようにガイドされる。これにより、加熱ローラ25の直上流において、各要素31,41,32,42,33が上下に積層された積層体100が形成される。なお、このような手順で積層体100を形成する処理は、本発明における「第1配置工程」及び「第2配置工程」に相当する。
【0037】
このように、本実施形態では、上述した各ローラ21,22の送出動作によって、第1樹脂フィルム31と第2樹脂フィルム32とが上下方向に対向配置されるとともに、これら第1、第2樹脂フィルム31,32の間に第1強化繊維41が挟み込まれる。また、第1樹脂フィルム31の反対側(下方)から第2樹脂フィルム32と対向するように第3樹脂フィルム33が配置されるとともに、これら第2、第3樹脂フィルム32,33の間に第2強化繊維42が挟み込まれる。これにより、第1樹脂フィルム31、第1強化繊維41、第2樹脂フィルム32、第2強化繊維42、及び第3樹脂フィルム33が上からこの順に積層された積層体100が形成される。積層体100は、加熱ローラ25の通過前である本時点では、各層が重なり合っただけの積層体であり、層どうしの結合はまだ行われていない。
【0038】
積層体100は、下流側に送出されて一対の加熱ローラ25の間に導入される。加熱ローラ25は、図外のヒータにより加熱された高温のローラである。積層体100は、このような高温の加熱ローラ25の間に挟み込まれることにより、加熱及び加圧される。加熱ローラ25による積層体100の加熱は、第1~第3樹脂フィルム31~33を軟化させる。すなわち、加熱ローラ5は、積層体100を厚み方向に加圧しつつ、各樹脂フィルム31~33が軟化する温度まで積層体100を加熱する。
【0039】
上記のような加熱及び加圧は、第1~第3樹脂フィルム31~33を軟化させながら第1、第2強化繊維41,42に押し付ける。これにより、第1~第3樹脂フィルム31~33が第1、第2強化繊維41,42に含浸する。すなわち、軟化した第1樹脂フィルム31及び第2樹脂フィルム32が第1強化繊維41に上下から含浸するとともに、軟化した第2樹脂フィルム32及び第3樹脂フィルム33が第2強化繊維42に上下から含浸する。なお、このような手順で各樹脂フィルム31~33を強化繊維41,42に含浸させる処理は、本発明における「含浸工程」に相当する。
【0040】
加熱ローラ25から導出された積層体100は、次に一対の冷却ローラ26の間に導入される。冷却ローラ26は、図外のクーラにより冷却された低温のローラである。積層体100は、このような低温の冷却ローラ26の間に挟み込まれることにより、冷却及び加圧される。これにより、軟化していた第1~第3樹脂フィルム31~33が再び硬化し、樹脂フィルム31~33どうしが結合(溶着)される。
【0041】
なお、上述した加熱ローラ25又は冷却ローラ26に積層体100が貼り付くのを防止するために、積層体100の表面(樹脂フィルム)と各ローラ25,26との間に離型フィルム又は離型シートを配置してもよい。
【0042】
以上のような処理を経て、FRTPシート1が製造される。すなわち、互いに溶着された第1~第3樹脂層11~13と、各樹脂層11~13に分散して含有された強化繊維10と、を備えたFRTPシート1(図1)が製造される。第1~第3樹脂層11~13は、第1~第3樹脂フィルム31~33に由来する層であり、強化繊維10は、第1、第2強化繊維41,42の集まりである。言い換えると、軟化後に硬化した第1樹脂フィルム31により第1樹脂層11が形成され、軟化後に硬化した第2樹脂フィルム32により第2樹脂層12が形成され、軟化後に硬化した第3樹脂フィルム33により第3樹脂層13が形成される。また、第1、第2樹脂フィルム31,32に挟まれて樹脂内に含有された第1強化繊維41により強化繊維10の上半部が形成され、第2、第3樹脂フィルム32,33に挟まれて樹脂内に含有された第2強化繊維42により強化繊維10の下半部が形成される。
【0043】
冷却ローラ26の下流側には、FRTPシート1を巻き取る巻取ローラ28が配置されている。すなわち、FRTPシート1は、冷却ローラ26から導出された後、巻取ローラ28により巻き取られてロール状に纏められる。
【0044】
[作用効果]
以上説明したとおり、本実施形態では、第1樹脂フィルム31、第1強化繊維41、第2樹脂フィルム32、第2強化繊維42、及び第3樹脂フィルム33がこの順に積層されるとともに、形成された積層体100に対し加熱ローラ25による加熱等の処理が施されることにより、FRTPシート1が製造される。このような方法で製造されたFRTPシート1は、薄肉でありながら強化繊維の剥離が起き難いという特性を有する。
【0045】
すなわち、第1強化繊維41を挟んで対向配置された第1樹脂フィルム31及び第2樹脂フィルム32が加熱、軟化されることにより、第1樹脂フィルム31及び第2樹脂フィルム32が第1強化繊維41に含浸する。同様に、第2強化繊維42を挟んで対向配置された第2樹脂フィルム32及び第3樹脂フィルム33が加熱、軟化されることにより、第2樹脂フィルム32及び第3樹脂フィルム33が第2強化繊維42に含浸する。これにより、第1~第3樹脂フィルム31~33に対応した第1~第3樹脂層11~13と、当該各樹脂層11~13に含有された強化繊維10と、を備えた高強度かつ高品質のFRTPシート1を製造することができる。
【0046】
具体的には、互いに溶着された第1~第3樹脂層11~13にそれぞれ強化繊維10が含有されるので、各樹脂層11~13と強化繊維10との一体性を高めることができ、強化繊維10が樹脂層11~13から剥離する等の不具合を防止することができる。したがって、本実施形態のように20~200μmの厚みdを有する比較的薄いFRTPシート1を製造する場合であっても、その内部に30~70%の体積含有率(Vf)に相当する比較的多量の強化繊維10をしっかり保持させることができる。また、強化繊維10に樹脂が十分に含浸するので、FRTPシート1の内部に空隙が生じるのを抑止でき、FRTPシート1のボイド率を10%以下にまで低下させることができる。そして、このように多くの強化繊維10を含有した薄肉かつ低ボイド率のFRTPシート1を用いて複合成形品を成形した場合には、当該複合成形品の強度を高めることができるとともに、比較的複雑な形状の複合成形品であってもこれを良好に成形することができる。すなわち、本実施形態によれば、複合成形品の強度及び成形性の向上に資する高品質なFRTPシート1を製造することができる。
【0047】
また、本実施形態では、第1樹脂フィルム31、第1強化繊維41、第2樹脂フィルム32、第2強化繊維42、及び第3樹脂フィルム33がこの順に積層された後、形成された積層体100に対しまとめて加熱ローラ25による加熱が行われるので、各樹脂フィルム31~33を軟化させて各強化繊維41,42に含浸させる処理を同時に行うことができ、FRTPシート1の製造効率を向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態では、第1~第3樹脂フィルム31~33として、厚みが3~35μmのものが用いられるので、当該樹脂フィルム31~33を含むFRTPシート1を薄めに成形することができ、その厚みdを所望の値(20~200μm)に収めることができる。
【0049】
また、本実施形態では、第1強化繊維41及び第2強化繊維42として、繊維束FBを1.5~6倍の開繊倍率で開繊したものが用いられるので、十分に開繊された帯状の第1強化繊維41及び第2強化繊維42を各樹脂フィルム31~33に含有させることができ、FRTPシート1の薄肉化を促進することができる。
【0050】
[実施例]
以上説明した実施形態の方法により実際にFRTPシート1を製造して得られた結果物を、図4に実施例1,2として示す。すなわち、第1~第3樹脂フィルム31~33の厚み並びに第1、第2強化繊維41,42の開繊倍率を異ならせた2種の条件でFRTPシート1を製造し、得られた結果物をそれぞれ実施例1,2とした。実施例1では、第1~第3樹脂フィルム31~33の厚みをいずれも7μmとし、第1、第2強化繊維41,42の開繊倍率をいずれも2.8とした。実施例2では、第1~第3樹脂フィルム31~33の厚みをいずれも15μmとし、第1、第2強化繊維41,42の開繊倍率をいずれも2とした。実施例1,2ともに、第1~第3樹脂フィルム31~33の材質としてポリアミド6(PA6)を用い、かつ第1、第2強化繊維41,42の材質としてPAN系炭素繊維を用いた。用いたPAN系炭素繊維の繊維径は7μm、繊維本数は12000、繊度は800Texであった。
【0051】
図4には、比較例1,2が併せて示される。比較例1,2は、第1~第3樹脂フィルム31~33及び第1、第2強化繊維41,42の各材質は実施例1,2と同じであるが、フィルム厚及び開繊倍率が実施例1,2とは異なる。具体的に、比較例1では、第1~第3樹脂フィルム31~33の厚みをいずれも10μmとし、第1、第2強化繊維41,42の開繊倍率をいずれも1(無開繊)とした。比較例2では、第1~第3樹脂フィルム31~33の厚みをいずれも50μmとし、第1、第2強化繊維41,42の開繊倍率をいずれも1.5とした。
【0052】
図4に示すように、実施例1,2では、フィルム厚及び開繊倍率がいずれも上記実施形態の規定範囲(フィルム厚3~35μm、開繊倍率1.5~6倍)に収まっている。その結果、得られたFRTPシート1の厚み(シート厚)、強化繊維10の体積含有率(Vf)、及びボイド率も、いずれも上記実施形態の規定範囲(シート厚20~200μm、Vf30~70%、ボイド率10%以下)に収まっている。具体的に、シート厚は、実施例1では60μm、実施例2では89μmであった。Vfは、実施例1では60%、実施例2では50%であった。ボイド率は、実施例1,2ともに0%であった。また、実施例1,2ともに、強化繊維10が剥離する現象(毛羽立ち)は特に観察されなかった。
【0053】
これに対し、比較例1,2では、シート厚、Vf、ボイド率のいずれかが上記規定範囲から外れる結果となった。具体的に、比較例1では、ボイド率が上記規定範囲(10%以下)よりも大きい12%になっている。これは、開繊倍率が1の無開繊の強化繊維を用いたことが原因と考えられる。また、比較例2では、シート厚が上記規定範囲(20~200%)よりも大きい210μmになり、かつVfが上記規定範囲(30~70%)よりも小さい28%になっている。これは、50μmという肉厚の樹脂フィルムを用いたことが原因と考えられる。
【0054】
以上の結果から、上記実施形態の方法でFRTPシート1を製造することの優位性が確認された。
【0055】
[変形例]
上記実施形態では、第1樹脂フィルム31、第1強化繊維41、第2樹脂フィルム32、第2強化繊維42、及び第3樹脂フィルム33の5要素をこの順に積層した後、形成された積層体100に対しまとめて加熱ローラ25による加熱を行ったが、加熱の方法はこれに限られない。例えば、上記5要素の一部のみを積層した積層体をまず加熱し、その後に残りの要素を積層して再度加熱を行ってもよい。
【0056】
上記実施形態と同様の製造方法は、層数の異なるFRTPシートを製造する場合にも同様に適用可能である。例えば、上記実施形態よりも層数の少ないFRTPシート、つまり2つの樹脂層の内部に強化繊維が含有されたFRTPシートを、上記実施形態と同様の方法で製造することが可能である。この場合、2層の樹脂フィルムの間に1層の強化繊維を挟み込むとともに、それによって得られた積層体を加熱することにより、FRTPシートを製造する。これにより、第1樹脂層及び第2樹脂層と、両樹脂層に分散して含有された強化繊維と、を備えたFRTPシートを得ることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 繊維強化樹脂シート(FRTPシート)
10 強化繊維
11 第1樹脂層
12 第2樹脂層
13 第3樹脂層
31 第1樹脂フィルム
32 第2樹脂フィルム
33 第3樹脂フィルム
41 第1強化繊維
42 第2強化繊維
FB 繊維束
図1
図2
図3
図4