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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176397
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】誘導結合型プラズマ装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/30 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H05H1/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094899
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000217653
【氏名又は名称】電気興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(72)【発明者】
【氏名】新井 亮
(72)【発明者】
【氏名】濱地 敏之
【テーマコード(参考)】
2G084
【Fターム(参考)】
2G084BB06
2G084CC13
2G084CC34
2G084DD03
2G084DD13
2G084DD55
2G084EE01
2G084EE25
2G084FF32
2G084GG03
2G084GG07
2G084HH32
(57)【要約】
【課題】大気圧下において誘導結合型プラズマを着火、維持できる可能性を高める。
【解決手段】誘導結合型プラズマ装置は、プラズマトーチ7と、トランジスタ式高周波電源に接続し、前記プラズマトーチに巻装されたコイル6と、大気圧下にある前記プラズマトーチ内のガスの滞留を促進する滞留促進部74とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマトーチと、
トランジスタ式高周波電源に接続し、前記プラズマトーチに巻装されたコイルと、
大気圧下にある前記プラズマトーチ内のガスの滞留を促進する滞留促進部と
を備えた誘導結合型プラズマ装置。
【請求項2】
前記滞留促進部が、前記プラズマトーチの開口部を塞ぐように設けられた蓋である、請求項1に記載の誘導結合型プラズマ装置。
【請求項3】
前記滞留促進部が、前記プラズマトーチの軸方向端部に接続されたプラズマトーチ延長部である、請求項1に記載の誘導結合型プラズマ装置。
【請求項4】
前記誘導コイルの一端部と前記トランジスタ式高周波電源との間に接続されたコンデンサと、
前記誘導コイルの他端部と前記トランジスタ式高周波電源との間に接続されたコンデンサと
をさらに備える請求項1~3のいずれか一項に記載の誘導結合型プラズマ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘導結合型プラズマ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、一方端を閉端面とし他方端をチャンバー内に開口する開端面とした管体の所定領域外周に巻回した高周波誘導コイルから発生する高周波エネルギーを管体内へ注入されるコアガスに付与して高温プラズマファイヤを得るプラズマトーチの着火方法が記載されている。上記管体内に管路を接続する真空排気装置が設けられるとともに、管体の開端面に当接してこれを閉成可能な蓋部材が常時常圧を維持するチャンバー内に設けられ、当該蓋部材がチャンバー内と管体内との圧力差によって開端面に吸着またはこれから解離可能に構成されている。着火時にはコアガスの注入が停止されている管体の開端面に蓋部材を当接のうえ真空排気装置を駆動させて所定減圧状態となった管体内に高周波エネルギーによってグロー放電を発生せしめ、ついで管体内へコアガスを序々に注入して上記グロー放電を高温プラズマファイヤに変換し、同時に常圧に近づいた管体の開端面から蓋部材が自重により解離するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61-68900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、プラズマ発生に際し、真空排気装置を駆動させて所定の減圧状態とすることが記載されている。
【0005】
本発明は、大気圧下において誘導結合型プラズマを着火、維持できる可能性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘導結合型プラズマ装置は、プラズマトーチと、トランジスタ式高周波電源に接続し、前記プラズマトーチに巻装されたコイルと、大気圧下にある前記プラズマトーチ内のガスの滞留を促進する滞留促進部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大気圧下において誘導結合型プラズマを着火、維持できる可能性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】誘導結合型プラズマ装置の説明図である。
図2】プラズマトーチの断面図である。
図3】回路の別の例を示す説明図である。
図4】別の実施形態に係るプラズマトーチの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0010】
<発明者が行った検討>
発明者はまず、以下のような検討を行った。
【0011】
従来の誘導結合型プラズマ(Inductively Coupled Plasma)装置において、真空管式電源による数MHz程度の高周波電流を用いれば、大気圧にて熱プラズマの着火が可能である。
あるいは、トランジスタ式電源(性能上、400kHz程度)を使用する場合は、トーチを真空に引いて(100Pa程度の真空状態として)熱プラズマを着火させることが知られている。つまり、真空管式電源をトランジスタ式電源に置き換えたことにより出力周波数が低下してしまうというデメリットを、トーチ内を真空にすることで補って、熱プラズマの着火を可能にしている。
【0012】
大気圧下での熱プラズマ点火にて用いられる真空管式電源に関し、現在では真空管の部品の生産中止が多く、また、電力効率が比較的悪い。そのため、トランジスタ式電源による熱プラズマ点火が望ましい。その一方で、トーチ内を真空にするための真空設備は或る程度のコストがかかるため、真空設備が不要であることが理想である。
【0013】
以上の検討結果を踏まえ、本発明の発明者は、400kHz程度のトランジスタ式電源を使用して熱プラズマを大気圧にて(つまり真空設備を使わずに)着火させるための発明をするに到った。その発明の実施形態を以下に説明する。
【0014】
<第1実施形態>
図1及び図2に示すように、誘導結合型プラズマ装置1は、400kHz程度のトランジスタを備えた高周波電源2と、整合トランス3と、第1コンデンサ群4及び第2コンデンサ群5と、コイル6が周囲に巻装されたプラズマトーチ7とを備えている。なお、図1においてはプラズマトーチ7の図示を省略している。
【0015】
図1に示すように、高周波電源2とコイル6は、整合トランス3を介して接続されている。整合トランス3の一次側と二次側の巻線比は、一例として4:1である。また、整合トランス3とコイル6の上端部61とは第1コンデンサ群4を介して接続され、整合トランス3とコイル6の下端部62とは第2コンデンサ群5を介して接続されている。
【0016】
第1コンデンサ群4は、直列に接続された13個のコンデンサ部分群を備え、各部分群は、並列に接続された3個のコンデンサを備えている。13個の部分群をそれぞれ、電源側から負荷側に向かって第1部分群、第2部分群、・・・、第13部分群と呼ぶ。第10部分群410の電源側端部と第11部分群411の負荷側端部とは短絡している。また、第12部分群412の電源側端部と第13部分群413の負荷側端部とは短絡している。各コンデンサの静電容量は一例として0.2μFである。
【0017】
第2コンデンサ群5は、直列に接続された13個のコンデンサ部分群を備え、各部分群は、並列に接続された3個のコンデンサを備えている。各コンデンサの静電容量は一例として0.2μFである。
【0018】
図2に示すように、プラズマトーチ7は、石英ガラス製で管状の本体部71を有する。本体部71の軸方向は上下方向である。本体部71の周囲に、金属製パイプでできたコイル6が巻装されている。金属製パイプの中空部は、コイルを冷却するための冷却水が流れるようになっている。
【0019】
本体部71の内部には、本体部よりも軸方向寸法が小さい石英ガラス製の内管71aが本体部と同軸に設けられている。本体部(すなわち外管)71の下端と内管71aの下端とは、上下方向位置が概ね一致している。このようにプラズマトーチ7は部分的に二重管構造となっている。
【0020】
本体部71及び内管71aの下端開口部を塞ぐように、ガス供給部72が設けられている。このガス供給部72は、図示しないガスタンクに接続され、本体部71内にアルゴンガスを供給する。ガス供給部72の中央部には、上下方向に延びる穴72aが形成されている。この穴72aには、プラズマ点火のトリガーとなる細長の電極73が挿入されている。電極73の具体例としてタングステン棒、炭素棒が挙げられるが、電極73はこれらに限定されない。電極73は、本体部71に対して進退可能なように構成されている。
【0021】
ガス供給部72において穴72aの周囲には本体部71内にアルゴンガスを供給するためのガス流路72b及び72cが設けられている。ガス流路72bは内管71aの内部に通じており、ガス流路72cは本体部(すなわち外管)71の内部であって内管71aの外部に通じている。
【0022】
本体部71の上端には、上端開口部を塞ぐように、フェノール樹脂製の蓋74が配置されている。この蓋74には、本体部71の内部と通じる上下方向の穴74aが設けられている。
蓋74の目的は、非平衡プラズマにより加熱されたアルゴンガスをトーチ内に滞留させることにある。また、蓋74を設けることで、アルゴンガス供給時にトーチ内圧力が少し高くなり、外気がトーチ内に入らないようにすることもできる。
仮に、穴74aの無い蓋でトーチを閉じてしまうと、トーチと蓋との誤差程度の隙間からアルゴンガスが噴き出すことになる。すると、蓋がトーチの上端部に単に載置されているだけの場合、アルゴンガスの供給時に蓋が安定せず浮いてしまう可能性がある。また、トーチと蓋との隙間から流出したアルゴンガスがコイルに直接かかり、トーチ外でアーク放電が発生して点火失敗となる可能性もある。このようなことを避けるべく、余分なアルゴンガスをトーチ上方に逃がすために穴74aが設けられている。
【0023】
以上のような誘導結合型プラズマ装置1において、プラズマ着火の手順は以下のとおりである。
まず第1ステップにて、本体部71にアルゴンガスを供給し、トーチ内部をアルゴンガスで満たす。図2に示した矢印は、アルゴンガスの流れを示している。
次に、第2ステップにて、コイル6に高周波電流を流し、コイル下端部62が高電圧になる。続いて電極73を本体部71の内部に挿入する。アルゴンガスは電離しやすいガスであるため、高電圧となっているコイルの最も下にあるコイルターン(コイル一巻き分)とアース電位にある電極73との間でアーク放電が発生する。
このとき、非平衡プラズマにより加熱されたアルゴンガスが本体部71の外へ拡散してしまうことが蓋74により抑えられる。
第3ステップでは、アルゴンガスが加熱され、熱プラズマが着火する。蓋74がトーチの上端部に単に載置されているだけの場合、着火の衝撃により蓋が吹き飛ばされる。着火後、電極73を本体部71の外部に収納する。
【0024】
上記第2ステップ及び第3ステップについてさらに詳しく述べる。
アーク放電が発生している状態で、コイル6に流れる高周波電流によりトーチ内の磁場が変動し、コイル6の両端部の磁極(N極、S極)が切り替わる(アンペールの法則)。
発生する磁場を打ち消すように、トーチ内部にコイル電流の方向とは反対方向の電場が作られる(ファラデーの法則)。
アーク放電で発生している電子が、電場の影響を受けて運動する(加熱される)。
運動している電子がアルゴン原子に衝突することで電離し、そのアルゴン原子がアルゴンイオンと電子に分離する。その分離した電子が電場の影響を受けて加速され、また別のアルゴン原子に衝突し、電離が生じる。このようにして次々と電離が生じる。
アーク放電がトーチ全体に広がり、アルゴンイオンも熱運動をし始めると、熱プラズマ点火となる。
【0025】
電子のエネルギーがアルゴンイオンのエネルギーに比べて高く、熱平衡に達していないプラズマが非平衡プラズマである。また、電子のエネルギーとアルゴンイオンのエネルギーが略等しいプラズマが熱プラズマ(あるいは熱平衡プラズマ)である。
【0026】
誘導結合型プラズマ装置1によれば、400kHz程度のトランジスタ式電源2を用いて、かつ大気圧下にて、アルゴンガスの誘導熱プラズマを着火及び維持の可能性を高めることができる。大気圧下であることから、真空設備が不要となる。また、トランジスタ式電源を用いることから、部品が生産中止となっていることも多い真空管式電源の使用を回避することができる。さらに、蓋74が設けられていることにより、非平衡プラズマで熱されてさらに軽くなったアルゴンガスをトーチ内に滞留させ、後続の熱プラズマ発生が容易となる。
【0027】
また、誘導結合型プラズマ装置1においては、図1に示したように、複数の共振コンデンサが第1コンデンサ群4と第2コンデンサ群5とに分散されて配置されている。これによる効果を、図3と比較しながら以下に説明する。
【0028】
図3には、比較例としてのコイル9を示している。コイル9の上端部91は、整合トランス(一例として出力が100ボルト)に接続されており、上端部91と整合トランスとの間にコンデンサは接続されていない。コイル9の下端部92は、コンデンサ群93を介して整合トランスに接続されている。一例として、上端部91側の電位を基準電位(0ボルト)とすると、コイル9の両端部の電圧が12000ボルトの場合、コイル9の下端部92の電位は12000ボルトである。
【0029】
誘導結合型プラズマ装置1においては、コイル6の上端部61が接続された第1コンデンサ群4と整合トランス3(一例として出力が100ボルト)との接続点の電位が基準電位であるとすると、一例として、コイル6の上端部61の電位は-5000ボルトであり、コイル6の下端部の電位は7000ボルトである。コイル6の両端部の電圧は、12000ボルトであり、コイル9の場合と同じである。
【0030】
このように、コイル6とコイル9とでは、電圧が12000ボルトであることに変わりはないものの、コイル6においてはコイル9に比べてコイル下端部の電位を低くすることができる。このように、誘導結合型プラズマ装置1によれば、複数の共振コンデンサが第1コンデンサ群4と第2コンデンサ群5とに分散されて配置されていることで、コイル電圧は変えずにコイルの上端部及び下端部の電位を低くすることができる。このことは、アース電位との放電防止が図られ、さらには冷却水からの漏電も抑えられる。さらに、コイルの上端部側と下端部側のコンデンサバランスを変えることで、コイルの上端部及び下端部の電位を変更することができる。
なお、コイル電流は交流のため、時間とともに電圧の正負が変化し、また、電圧には実部と虚部が存在するが、そのような点は上述の電位、電圧の説明においてはわかりやすさのために省いている。
【0031】
<第2実施形態>
前述の第1実施形態においては、本体部71内のガス滞留を促進する滞留促進部材として、蓋74を使用しているが、これに限定されるわけではない。図4にプラズマトーチ7aを示す。図2に示したプラズマトーチ7と共通する部品には同じ符号を付している。コイル6が巻装された本体部71の上端部には、蓋74ではなく、筒状で径方向寸法が本体部71と同じである延長筒部75が設けられている。延長筒部75にはコイル6は巻装されていない。延長筒部75によっても、蓋74と同様に、本体部71内のガス滞留を促進することができる。
【0032】
なお、コイル電流を大きくすれば、蓋74及び延長筒部75の有無に関係なく、熱プラズマが着火する可能性がある。しかし、コイル電流の増加により、コイル自体の発熱やコイル電圧の上昇が問題となり、安定した着火が難しくなる。
これに対し、上述の第1実施形態及び第2実施形態によれば、本体部71のガス滞留が促進されるため、コイル電流の増加を抑えつつも熱プラズマの安定着火及び維持の可能性を高めることができる。
【0033】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 誘導結合型プラズマ装置
2 トランジスタ式の高周波電源
3 整合トランス
4,5 コンデンサ群
410~413 コンデンサ部分群
6 コイル
61 上端部
62 下端部
7、7a プラズマトーチ
71 本体部
71a 内管
72 ガス供給部
73 電極
74 蓋
75 延長筒部
図1
図2
図3
図4