(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176416
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】バッテリ浸漬方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094928
(22)【出願日】2023-06-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-12-11
(71)【出願人】
【識別番号】523083182
【氏名又は名称】萩原 幸弘
(71)【出願人】
【識別番号】522260676
【氏名又は名称】富岳高度産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181733
【弁理士】
【氏名又は名称】淺田 信二
(72)【発明者】
【氏名】萩原 幸弘
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE03
5H031RR04
(57)【要約】
【課題】バッテリの熱暴走を抑制することができるバッテリ浸漬用溶液を提供する。
【解決手段】バッテリ浸漬用溶液は、水にキトサンが含まれてなり、バッテリが浸漬される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水にキトサンが含まれてなり、バッテリが浸漬されるバッテリ浸漬用溶液。
【請求項2】
塩化ナトリウムがさらに含まれる請求項1に記載のバッテリ浸漬用溶液。
【請求項3】
酢酸がさらに含まれる請求項1に記載のバッテリ浸漬用溶液。
【請求項4】
クエン酸がさらに含まれる請求項1に記載のバッテリ浸漬用溶液。
【請求項5】
第四類アンモニウム塩がさらに含まれる請求項1に記載のバッテリ浸漬用溶液。
【請求項6】
ポリペプチドがさらに含まれる請求項1に記載のバッテリ浸漬用溶液。
【請求項7】
バッテリを浸漬する方法であって、
水にキトサンが含まれてなる溶液に前記バッテリを浸漬する、バッテリ浸漬方法。
【請求項8】
前記バッテリを浸漬した後、前記キトサンを希釈する、請求項7に記載のバッテリ浸漬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ浸漬用溶液およびバッテリ浸漬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド電気自動車を含む電気自動車の車両には、車輪の駆動用の電力を供給するために、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、全個体電池などのバッテリが搭載される。かかるバッテリは、寿命などにより本来の充放電機能が低下すると、交換が必要となる。電気自動車が普及するに連れて、使用済みのバッテリが多く生じる。
【0003】
特許文献1には、使用済みのバッテリを早期に放電させる方法が開示されている。この方法では、ポリペプチドを含む水にバッテリが浸漬される浸漬工程を含む。バッテリが水に浸漬されると、バッテリの端子間が水によって短絡され、バッテリは、水を通じて放電される。また、水に含まれるポリペプチドにより、バッテリに含まれる有価物が水中に析出され捕集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池には、「熱暴走」と呼ばれる、異常発熱や発火を起こす現象が生じることが知られている。熱暴走は,なんらかのきっかけにより電池内部の特定部材が発熱、その発熱がさらに他の部材の発熱を引き起こし,電池温度の上昇が続くことで起きる。熱暴走の主なきっかけには,内部短絡がある。内部短絡は、例えば蓄電されているバッテリの保管および運搬において外力又は衝撃がバッテリに加えられバッテリが変形したり破損したりして引き起こされる。内部短絡が起きた場合、負極に一気に電気が流れることで、負極が発熱する。発熱した負極は、正極を加熱しさらに正極の発熱反応を引き起こす。
【0006】
このため、蓄電されているバッテリの保管および運搬では、例えば、耐火性の格納容器を用いるなどの対策が用いられるが、この方法では、バッテリの保管および運搬に多大な費用がかかる。特許文献1に開示された方法では、バッテリは、水を通じて放電されるため、負極に一気に電気が流れ、負極が発熱して熱暴走を起こすおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、バッテリの熱暴走を抑制することができるバッテリ浸漬用溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るバッテリ浸漬用溶液は、水にキトサンが含まれてなり、バッテリが浸漬される。
【0009】
また、本発明に係るバッテリ浸漬方法は、水にキトサンが含まれてなる溶液にバッテリを浸漬する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バッテリの熱暴走を抑制することができるバッテリ浸漬用溶液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るバッテリ浸漬方法を含む分離抽出方法の流れを説明するフローチャートである。
【
図2】分離抽出方法における塩水工程から分離抽出物取得工程までを概念的に説明する図であり、
図2(A)は、塩水工程を示し、
図2(B)は、安定放電溶剤投入工程を示し、
図2(C)は、バッテリ投入工程を示し、
図2(D)は、分離抽出物取得工程を示す。
【
図3】塩化ナトリウム、キトサンおよびクエン酸を含む水に浸潤されたバッテリの電圧の推移の一例を示す図である。
【
図4】キトサンおよびクエン酸を含み塩化ナトリウムを含まない水に浸潤されたバッテリの電圧の推移の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るバッテリ浸漬方法を含むバッテリ保管運搬方法の流れを説明するフローチャートである。
【
図6】バッテリ保管運搬方法における放電防止溶剤投入工程からバッテリ取出工程までを概念的に説明する図であり、
図6(A)は、放電防止溶剤投入工程を示し、
図6(B)は、バッテリ投入工程およびバッテリ保管運搬工程を示し、
図6(C)は、バッテリ取出工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るバッテリ浸漬用溶液について、図面を参照して説明する。
【0013】
<第1実施形態>
まず、
図1~
図4を参照して、第1実施形態に係るバッテリ浸漬方法を説明する。
図1は、本実施形態に係るバッテリ浸漬方法を含む分離抽出方法の流れを説明するフローチャートである。
【0014】
図1に示すように、分離抽出方法では、塩水工程(S110)、安定放電溶剤投入工程(S120)、バッテリ投入工程(S130)、分離抽出物取得工程(S140)の順に行われる。その後、実施形態の規模等に応じて、粉砕工程(S150)または分解工程(S160)、金属選別工程(S170)、再浸潤工程(S180)、分離抽出物再取得工程(S190)の順に行われ(S180、S190は、S150のみ)一連の処理が終了される。分離抽出方法において、安定放電溶剤投入工程(S120)およびバッテリ投入工程(S130)を総称して、浸潤工程と呼ぶ場合がある。
【0015】
図2は、分離抽出方法における塩水工程から分離抽出物取得工程までを概念的に説明する。
図2(A)は、塩水工程を示し、
図2(B)は、安定放電溶剤投入工程を示し、
図2(C)は、バッテリ投入工程を示し、
図2(D)は、分離抽出物取得工程を示す。なお、
図2(A)~
図2(D)では、塩化ナトリウムを「NaCl」と表記し、安定放電溶剤を「溶剤」と表記している。
【0016】
図2(A)に示すように、塩水工程前、分離抽出槽10には、水が貯留されている。塩水工程では、分離抽出槽10内の水に塩化ナトリウムが投入される。塩水工程が行われると、分離抽出槽10内の水には、塩化ナトリウムが含まれることとなる。
【0017】
図2(B)に示すように、安定放電溶剤投入工程では、分離抽出槽10内の本に、安定放電溶剤として機能するキトサンが投入される。安定放電溶剤投入工程が行われると、分離抽出槽10内の水には、キトサンが含まれることとなる。つまり、塩水工程および安定放電溶剤投入工程の両方が行われることで、水に塩化ナトリウムおよびキトサンの両方が含まれる溶液が生成されることとなる。
【0018】
なお、ここでは、塩水工程後に安定放電溶剤投入工程を行う例を挙げている。しかし、塩水工程は、少なくともバッテリ投入工程より前に行われればよく、安定放電溶剤投入工程後に行われてもよいし、安定放電溶剤投入工程と並行して行われてもよい。また、塩水工程は省略されてもよい。
【0019】
また、安定放電溶剤投入工程において、酢酸、クエン酸、第四類アンモニウム塩およびポリペプチドが投入されてもよい。この場合には、安定放電溶剤投入工程が行われると、分離抽出槽10内の水には、キトサン、酢酸、クエン酸、第四類アンモニウム塩およびポリペプチドが含まれることとなる。つまり、塩水工程および安定放電溶剤投入工程の両方が行われることで、水に塩化ナトリウム、キトサン、酢酸、クエン酸、第四類アンモニウム塩およびポリペプチドが含まれることとなる。ポリペプチドとしては、例えばポリグルタミン酸を用いることができる。ポリグルタミン酸に限らず、凝集作用を有する他のポリペプチドを用いてもよい。
【0020】
図2(C)に示すように、バッテリ投入工程では、安定放電溶剤投入工程後の水にバッテリ40が投入される。つまり、安定放電溶剤投入工程およびバッテリ投入工程を含む浸潤工程では、少なくともキトサンを含む水にバッテリ40が浸潤される。バッテリ40は、例えば電気自動車等の車両に搭載される車両用バッテリである。しかし、バッテリ40は、車両用バッテリに限らず、例えば、電子機器を動作させる電子機器用バッテリであってもよい。また、バッテリ40は、リチウムイオン電池やニッケル水素電池であってもよいし、他の種類の電池であってもよい。
【0021】
バッテリ40は、バッテリ40の不図示の端子が水に浸かるように、安定放電溶剤投入工程後の水に浸潤される。ここでは、バッテリ投入工程前に塩水工程を行っているため、バッテリ投入工程が行われると、キトサンと塩化ナトリウムとの両方を含む水にバッテリ40が浸潤される。
【0022】
キトサンは、電荷を保持するキレート作用を引き起こす。そのため、安定放電溶剤投入工程後の水にバッテリ40が投入されても、キトサンのキレート作用によって、水を通じたバッテリ40の放電が制限される。したがって、バッテリ40を安定放電溶剤投入工程後の水に浸潤しても、バッテリ40の負極に一気に電気が流れることを防ぐことができ、熱暴走を抑制することができる。
【0023】
なお、キレート作用の強さは、キトサンの濃度によって変化するため、キトサンの濃度を調整することによって、水を通じたバッテリ40の放電を制御することができる。
【0024】
クエン酸が溶解している水は、クエン酸が溶解していない水に比べ、導電率が高い。そのため、安定放電溶剤投入工程においてクエン酸が投入される場合には、キトサンとクエン酸の濃度を調整することにより、バッテリ投入工程においてバッテリ40の負極に流れる電気量を調整することができ、熱暴走を抑制しつつ早期に放電をすることができる。
【0025】
クエン酸の濃度は、例えば飽和濃度とすることができる。しかし、クエン酸の濃度は、飽和濃度に限らず、例えば、海水の塩分濃度程度であってもよい。ただし、クエン酸の濃度が高いほど、バッテリ40の放電の完了を早めることができる。
【0026】
ポリペプチドは、水中の不純物を凝集する作用がある。そのため、安定放電溶剤投入工程においてポリペプチドが水に投入される場合には、バッテリ投入工程では、ポリペプチドを含む水にバッテリ40が浸漬される。そして、バッテリ40から水中に析出された析出物は、ポリペプチドによって捕集され、沈殿する。
【0027】
バッテリ投入工程の開始から所定時間の経過後、分離抽出物取得工程が行われる。所定時間は、バッテリ40の放電の完了時間に基づいて設定される。つまり、バッテリ40が十分に放電され、かつ、析出物が十分に沈殿されたとみなされた後に、分離抽出物取得工程が行われる。
【0028】
ここで、使用済みのバッテリは、蓄電(充電)された状態で回収される場合がある。このため、使用済みのバッテリから有価物を回収する際には、バッテリによる感電を回避できる程度の所定電圧以下となるまで、バッテリを放電させる必要がある。この所定電圧は、放電完了の判断基準に相当する。所定電圧は、例えば、補機用バッテリの電圧程度(例
えば、13V)としてもよいし、乾電池の電圧程度(例えば、2V)としてもよい。
【0029】
図2(D)に示すように、分離抽出物取得工程では、分離抽出槽10内の水中からバッテリ40が取り出される。
【0030】
図3は、塩化ナトリウム、キトサンおよびクエン酸を含む水に浸潤されたバッテリ40の電圧の推移の一例を示す図である。バッテリ40は、浸潤状態から空気中に環境が変化することで電圧を自己回復する性質があるため、浸潤と引揚げを繰り返してバッテリ40の電圧の推移を測定している。
【0031】
図3に示す例では、塩化ナトリウム、キトサンおよびクエン酸を含む水に浸潤されたバッテリ40の電圧は、20分以内に所定電圧(放電完了とみなす電圧)以下となっている。バッテリ40の電圧が放電完了とみなす電圧以下になるまでの時間は、蓄電量にも依る。
【0032】
図4は、キトサンおよびクエン酸を含み塩化ナトリウムを含まない水に浸潤されたバッテリ40の電圧の推移の一例を示す図である。
図3に示される結果を得たときと同様に、浸潤と引揚げを繰り返してバッテリ40の電圧の推移を測定している。
【0033】
図4で示すように、浸潤初期では、キトサンは飽和濃度とされている。そのため、浸潤開始から電圧が降下せずに維持されている。この後、キトサンを希釈してキトサンの濃度を低下させることで、バッテリ40の電圧が降下している、つまり、バッテリ40が放電し始めている。なお、浸潤初期のキトサンの濃度は、飽和濃度に限られず、バッテリ40の電圧を維持できる濃度であればよい。
【0034】
キトサンの濃度を希釈すると、キトサンのキレート作用によって保持される電荷の量が減少する。これにより水溶液中のバッテリ40の端子間で電荷の移動、すなわちバッテリ40の強制短絡が発生し放電が開始される。この場合であっても、希釈されたキトサンがバッテリ40の熱暴走を抑止するためバッテリ40の発火および水蒸気爆発を防止することができる。
【0035】
図4に示す例では、キトサンを希釈した後の水に浸潤されたバッテリ40は、20分以内に電圧を所定電圧(放電完了とみなす電圧)以下となっている。バッテリ40の電圧が放電完了とみなす電圧以下になるまでの時間は、蓄電量にも依る。
【0036】
また、バッテリ40を水に浸潤させた場合および塩水に浸潤させた場合の両方において、バッテリ40の浸潤時における分離抽出槽10の電圧は、非常に低い。このため、バッテリ40の浸潤時に分離抽出槽10に人が触れたとしても、感電することはない。つまり、バッテリ40の放電を安全に行うことができる。
【0037】
分離抽出槽10内の水の温度は、例えば常温とすることができる。しかし、分離抽出槽10内の水の温度は、常温に限らない。分離抽出槽10内の水は、少なくとも液体が維持されていればよく、例えば、常温よりも高くしてもよい。分離抽出槽10内の水の温度を高くするほど、バッテリ40の放電の完了を早めることが可能となる。
【0038】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0039】
上記実施形態では、バッテリ40を使用済みであるとして、粉砕または分解工程、および金属回収工程を経て有価物を回収する対象としていた。しかし、キトサン濃度の高い水溶液に浸潤されたバッテリ40に電圧降下が発生しないことから、使用中であるバッテリ40を安全に輸送する対象としてもよい。
【0040】
バッテリ40が浸漬される溶液は、水に以下の組合せの溶剤が含まれてなっていてもよい。
(1)キトサン
(2)キトサン、塩化ナトリウム
(3)キトサン、酢酸
(4)キトサン、クエン酸
(5)キトサン、第四類アンモニウム塩
(6)キトサン、酢酸、第四類アンモニウム塩
(7)キトサン、クエン酸、第四類アンモニウム塩
(8)キトサン、塩化ナトリウム、酢酸
(9)キトサン、塩化ナトリウム、クエン酸
(10)キトサン、塩化ナトリウム、第四類アンモニウム塩
(11)キトサン、塩化ナトリウム、酢酸、第四類アンモニウム塩
(12)キトサン、塩化ナトリウム、クエン酸、第四類アンモニウム塩
(13)キトサン、ポリペプチド
(14)キトサン、塩化ナトリウム、ポリペプチド
(15)キトサン、酢酸、ポリペプチド
(16)キトサン、クエン酸、ポリペプチド
(17)キトサン、第四類アンモニウム塩、ポリペプチド
(18)キトサン、酢酸、第四類アンモニウム塩、ポリペプチド
(19)キトサン、クエン酸、第四類アンモニウム塩、ポリペプチド
(20)キトサン、塩化ナトリウム、酢酸、ポリペプチド
(21)キトサン、塩化ナトリウム、クエン酸、ポリペプチド
(22)キトサン、塩化ナトリウム、第四類アンモニウム塩、ポリペプチド
(23)キトサン、塩化ナトリウム、酢酸、第四類アンモニウム塩、ポリペプチド
(24)キトサン、塩化ナトリウム、クエン酸、第四類アンモニウム塩、ポリペプチド
【0041】
<第2実施形態>
次に、
図5および
図6を参照して、本発明の第2実施形態に係るバッテリ浸漬方法を説明する。
図5は、本実施形態に係るバッテリ浸漬方法を含むバッテリ保管運搬方法の流れを説明するフローチャートである。
【0042】
図5に示すように、バッテリ保管運搬方法では、放電防止溶剤投入工程(S210)、バッテリ投入工程(S220)、バッテリ保管運搬工程(S230)、バッテリ取出工程(S240)の順に行われ一連の処理が終了される。バッテリ保管運搬方法において、放電防止溶剤投入工程(S210)、バッテリ投入工程(S220)、およびバッテリ保管運搬工程(S230)を総称して、浸潤工程と呼ぶ場合がある。
【0043】
図6は、バッテリ保管運搬方法における放電防止溶剤投入工程からバッテリ取出工程までを概念的に説明する図である。
図6(A)は、放電防止溶剤投入工程を示し、
図6(B)は、バッテリ投入工程およびバッテリ保管運搬工程を示し、
図6(C)は、バッテリ取出工程を示す。なお、
図6(A)~
図6(C)では、放電防止溶剤を溶剤と表記している。
【0044】
図6(A)に示すように、放電防止溶剤投入工程前、保管・運搬槽210には、水が貯留されている。放電防止溶剤投入工程では、保管・運搬槽210内の水に放電防止溶剤が投入される。放電防止溶剤は、キトサンおよびクエン酸を含む。溶剤投入工程が行われると、保管・運搬槽210内の水には、放電防止溶剤、キトサンおよびクエン酸が含まれることとなる。
【0045】
放電防止溶剤は、塩化ナトリウムを含んでいてもよい。この場合には、保管・運搬槽210内の水にキトサン、クエン酸および塩化ナトリウムの両方が含まれることとなる。
【0046】
なお、ここでは、放電防止溶剤投入工程でキトサン、クエン酸および塩化ナトリウムをそれぞれの組み合わせにより混合した溶剤の投入を行う例を挙げている。しかし、放電防止溶剤投入工程では、保管・運搬槽210内の水が少なくともバッテリ投入工程より前にキトサン、クエン酸および塩化ナトリウムがそれぞれの組み合わせにより溶解した水溶液となっていればよく、キトサン、クエン酸および塩化ナトリウムのそれぞれが順に投入されてもよいし(順不同)、各溶剤それぞれの投入工程が並行して行われてもよい。また、塩化ナトリウムは投入されなくてもよい。また、放電防止溶剤投入工程で投入される溶剤は、保管・運搬槽210内の水に溶解して所定の濃度となるように調整された高濃度の水溶液でもよい。
【0047】
図6(B)に示すように、バッテリ投入工程では、放電防止溶剤投入工程後の水にバッテリ40が投入される。つまり、放電防止溶剤投入工程、バッテリ投入工程およびバッテリ保管運搬工程を含む浸潤工程では、少なくともキトサンおよびクエン酸を含む水にバッテリ40が浸潤される。ここでは、放電防止溶剤投入工程において塩化ナトリウムの投入を行っているため、バッテリ投入工程が行われると、キトサン、クエン酸および塩化ナトリウムを含む水にバッテリ40が浸潤される。
【0048】
図6(B)に示すように、バッテリ投入工程が行われてバッテリ40が浸潤されると、水に含まれるキトサンのキレート作用によってバッテリ40の放電が抑止される。したがって、バッテリ40を放電防止溶剤投入工程後の水に浸潤しても、バッテリ40の負極に一気に電気が流れることを防ぐことができ、熱暴走を抑制することができる。
【0049】
なお、キレート作用の強さは、キトサンの濃度によって変化する。キトサンの濃度を飽和濃度とすることによって、バッテリ40の放電を防止することができ、バッテリ40の電圧を維持することができる。
【0050】
また、保管・運搬槽210内の水には、クエン酸が含まれている。つまり、水は、クエン酸が溶解した水溶液となっている。クエン酸水溶液の濃度は、例えば、飽和となる濃度とすることができる。
【0051】
バッテリ投入工程に続き、バッテリ保管運搬工程が行われる。バッテリ保管運搬工程の後、バッテリ取出工程が行われる。
【0052】
図6(C)に示すように、バッテリ取出工程では、保管・運搬槽210内の水中からバッテリ40が取り出される。
【0053】
このように保管・運搬されたバッテリ40では、キトサンによって放電が抑制されバッテリ40の電圧が維持される。そのため、保管・運搬槽210内の水中から取り出されたバッテリ40は蓄電(充電)された状態であり、バッテリ40をすぐに使用することが可能である。
【0054】
なお、ここでは、キトサン、クエン酸および塩化ナトリウムを含む水に浸潤されたバッテリ40の電圧の推移の図示を省略する。
【0055】
図示を省略するが、バッテリ取出工程前に、キトサンを希釈してキトサン濃度を下げてバッテリ40を放電させてもよい。
【0056】
キトサン濃度が低下すると、キトサンのキレート作用によって保持される電荷の量が減少する。これにより水溶液中のバッテリ40の端子間で電荷の移動、すなわちバッテリ40の強制短絡が発生し放電が開始される。この場合であっても、希釈されたキトサンがバッテリ40の熱暴走を抑止するためバッテリ40の発火及び水蒸気爆発を防止することができる。
【0057】
キトサンを希釈してバッテリ40を放電させる場合、浸潤されたバッテリ40は、キトサン濃度及び蓄電量にも依るが、例えば20分以内に電圧を所定電圧(放電完了とみなす電圧)以下とすることができる。
【0058】
この所定電圧は、蓄電(充電)された状態で回収されたバッテリ40による感電を回避できる程度の電圧であり放電完了の判断基準に相当する。所定電圧は、例えば、補機用バッテリ40の電圧程度(例えば、13V)としてもよいし、乾電池の電圧程度(例えば、2V)としてもよい。
【0059】
また、バッテリ40を放電防止溶剤水溶液に浸潤させた場合において、バッテリ40の浸潤時における保管・運搬槽210の電圧は、非常に低い。このため、バッテリ40の浸潤時に保管・運搬槽210に人が触れたとしても、感電することはない。つまり、バッテリ40の保管・運搬を安全に行うことができる。
【0060】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
例えば、上記各実施形態において、保管・運搬槽210内の水の温度は、常温としていた。しかし、保管・運搬槽210内の水の温度は、常温に限らない。保管・運搬槽210内の永は、少なくとも液体が維持されていればよく、例えば、常温よりも高くしてもよい。
【0062】
バッテリ40が浸漬される溶液は、水に以下の組合せの溶剤が含まれてなっていてもよい。
(25)キトサン
(26)キトサン、酢酸
(27)キトサン、クエン酸
(28)キトサン、第四類アンモニウム塩
(29)キトサン、酢酸、第四類アンモニウム塩
(30)キトサン、クエン酸、第四類アンモニウム塩
【符号の説明】
【0063】
40・・・バッテリ
【手続補正書】
【提出日】2024-10-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリを浸漬する方法であって、
水にキトサンが含まれてなる溶液に前記バッテリを浸漬し、
前記バッテリを浸漬した後、前記キトサンを希釈する、バッテリ浸漬方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、バッテリ浸漬方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
また、本発明に係るバッテリ浸漬方法は、水にキトサンが含まれてなる溶液にバッテリを浸漬し、前記バッテリを浸漬した後、前記キトサンを希釈する。