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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176432
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】光コネクタ用固定部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/36 20060101AFI20241212BHJP
   G02B 6/42 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
G02B6/36
G02B6/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094957
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】宮成 素範
(72)【発明者】
【氏名】原田 剛
【テーマコード(参考)】
2H036
2H137
【Fターム(参考)】
2H036JA02
2H036QA02
2H036QA03
2H036QA23
2H036QA33
2H036QA43
2H036QA59
2H137AB04
2H137BB33
2H137CD01
2H137CD13
2H137CD47
(57)【要約】
【課題】光ケーブルを適切に固定することのできる、作業性のよい光コネクタ用固定部材を提供すること。
【解決手段】光コネクタ用固定部材11は、クリンプスリーブ11A、インナーリング11B及びアウターリング11Cを備える。クリンプスリーブ11Aは、その基端挿入部11eがシース9の先端縁から内部に圧入される。インナーリング11Bは、シース9から延出された抗張力繊維10を、クリンプスリーブ11Aの延出部11gとの間に挟持する。アウターリング11Cは、その先端部によってシース9から延出された抗張力繊維10とインナーリング11Bとをクリンプスリーブ11Aの延出部11gとの間に挟持し、かつ、その基端部によってシース9の内部の抗張力繊維10とシース9とインナーリング11Bとをクリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eとの間で挟持する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバとシースとの間に抗張力繊維が介在されている光ケーブルに光コネクタを取り付ける際に用いる光コネクタ用固定部材において、
前記光ケーブルの前記シースの先端縁から延出された前記光ファイバが内部に挿通される筒形状を有し、その基端挿入部が前記シースの前記先端縁から前記シースの内部に圧入されるクリンプスリーブと、
前記光ケーブルに沿ってスライドされることで、前記シースの前記先端縁から延出された前記抗張力繊維を、前記クリンプスリーブの前記シースの前記先端縁から延出された延出部との間に挟持する、筒形状を有するインナーリングと、
前記光ケーブルに沿ってスライドされることで、その先端部によって前記シースの前記先端縁から延出された前記抗張力繊維と前記インナーリングとを前記クリンプスリーブの前記延出部との間に挟持し、かつ、その基端部によって前記シースの前記先端縁よりも内部に位置する前記抗張力繊維と前記シースと前記インナーリングとを前記クリンプスリーブの前記基端挿入部との間で挟持する、筒形状を有するアウターリングと、を備えた光コネクタ用固定部材。
【請求項2】
前記クリンプスリーブが、スライドされた前記インナーリングの先端縁、及び、スライドされた前記アウターリングの先端縁と当接する、前記延出部に設けられたフランジを有している、請求項1に記載の光コネクタ用固定部材。
【請求項3】
前記インナーリングの前記シースとの重複部分の内周面から前記シースに向けて突出する突起が形成されている、請求項1に記載の光コネクタ用固定部材。
【請求項4】
前記クリンプスリーブの基端挿入部の外周面上に、前記シースの基準内径よりも大きな外径を有する少なくとも一つの環状突起が形成されている、請求項2又は3に記載の光コネクタ用固定部材。
【請求項5】
前記クリンプスリーブの延出部の外周面上に、前記シースの基準内径よりも十分に大きな外径を有する少なくとも一つの環状突起が形成されている、請求項2に記載の光コネクタ用固定部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光コネクタ用固定部材に関する。
【背景技術】
【0002】
光コネクタは、光ケーブルの末端に取り付けられるものである。光ケーブルのシース内には、光ファイバの他、布設時などに光ケーブルに作用する張力が光ファイバに作用しないように張力に対して対抗する抗張力体も収納される。抗張力体としては、抗張力繊維が用いられることが多く、例えば、アラミド繊維が用いられる。光ファイバに張力を作用させないためには、抗張力繊維を光コネクタに固定する必要がある。光ケーブルの端部に光コネクタを取り付ける作業は光ケーブルの布設現場において行われることも多く、良好な作業性が求められる。
【0003】
下記特許文献1は光コネクタ用固定部材を開示している。まずこの固定部材に光ケーブルが固定され、この固定部材が光コネクタのハウジングに固定されることで光ケーブルの端部に光コネクタが取り付けられる。特許文献1に開示された固定部材は、現場での光ケーブルへの光コネクタの取付時の作業性、特に、抗張力繊維を光コネクタに固定する作業性の向上を実現することを目的としている。
【0004】
特許文献1に開示された固定部材は、第一及び第二部材を備えている。第一部材は光ファイバが挿通される円筒部を有しており、この円筒部の外周には雄ねじ部が形成されている。第二部材は、上述した雄ねじ部と螺合する雌ねじ部が内周に形成された円筒状の部材である。第一部材の雄ねじ部に第二部材の雌ねじ部を螺合させる際に、両者の間に光ケーブルのシースの端縁から延出された抗張力繊維を挟み込むことで、抗張力繊維が固定部材に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-104069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された固定部材では、第一部材に第二部材を回転させて螺合させるので、周囲にある程度の指先のための作業スペースが必要になる。また、光ケーブルの固定部材への固定強度は第一部材に対して第二部材をどのぐらい螺合させたかで決まるが、最適な固定強度を得るためにどこまで螺合させるか、即ちどの程度回転させればよいのかが分かりにくい。第一部材に対して第二部材を回転させ過ぎれば、第一部材や第二部材が破損するし、回転が足りなければ固定が不十分となる。固定部材への光ケーブルの固定が不十分であると、光ケーブル内の光ファイバに張力が作用してしまう。
【0007】
本発明の目的は、光ケーブルを適切に固定することのできる、作業性のよい光コネクタ用固定部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光コネクタ用固定部材は、光ファイバとシースとの間に抗張力繊維が介在されている光ケーブルに光コネクタを取り付ける際に用いるものであり、前記光ケーブルの前記シースの先端縁から延出された前記光ファイバが内部に挿通される筒形状を有し、その基端挿入部が前記シースの前記先端縁から前記シースの内部に圧入されるクリンプスリーブと、前記光ケーブルに沿ってスライドされることで、前記シースの前記先端縁から延出された前記抗張力繊維を、前記クリンプスリーブの前記シースの前記先端縁から延出された延出部との間に挟持する、筒形状を有するインナーリングと、前記光ケーブルに沿ってスライドされることで、その先端部によって前記シースの前記先端縁から延出された前記抗張力繊維と前記インナーリングとを前記クリンプスリーブの前記延出部との間に挟持し、かつ、その基端部によって前記シースの前記先端縁よりも内部に位置する前記抗張力繊維と前記シースと前記インナーリングとを前記クリンプスリーブの前記基端部との間で挟持する、筒形状を有するアウターリングと、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る光コネクタ用固定部材によれば、作業性がよく、光ケーブルを適切に光コネクタに固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る光コネクタ用固定部材が取り付けられた光コネクタとこの光コネクタと接続される相手コネクタとを示す斜視図である。
図2】上記光コネクタ及び上記相手コネクタの分解斜視図である。
図3】上記光コネクタ及び上記相手コネクタの断面図である。
図4】(a)は光ケーブルへの光コネクタの取付工程(第1工程)を示す側面図であり、(b)上記取付工程(第2工程)を示す側面図である。
図5】(a)は光ケーブルへの光コネクタの取付工程(第3工程)を示す側面図であり、(b)上記取付工程(第4工程)を示す側面図である。
図6】(a)は光ケーブルへの光コネクタの取付工程(第5工程)を示す側面図であり、(b)上記取付工程(第6工程)を示す側面図である。
図7】(a)は光ケーブルへの光コネクタの取付工程(第7工程)を示す側面図であり、(b)上記取付工程(第8工程)を示す側面図である。
図8】上記光コネクタの要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る光コネクタ用固定部材(以下、単に、固定部材11と呼ぶ)について図面を参照しつつ説明する。なお、下記の説明における「上下左右」については説明のための図中の上下左右であり、固定部材11が設置される向きを限定するものではない。
【0012】
本実施形態の固定部材11が取り付けられる図1中の光コネクタ1は、メスコネクタである。図1には、光コネクタ1が接続される相手コネクタ2との接続状態が示されている。相手コネクタ2は、オスコネクタである。図1に示された光コネクタ1には、二本の光ケーブル3が取り付けられている。言い換えれば、二本の光ケーブル3の端部に光コネクタ1が取り付けられており、光ケーブル3の端部は光コネクタ1の樹脂製のハウジング4の内部に位置している。相手コネクタ2は、プリント基板(PCB)上に実装される。相手コネクタ2は、樹脂製のハウジング5と金属製のシールドケース6とを備えている。シールドケース6の下縁からは、相手コネクタ2のPCBへの固定に用いられる複数の突起が下方に向けて突出されている。
【0013】
図2に、光コネクタ1及び相手コネクタ2の分解斜視図を示す。相手コネクタ2の内部には、一対の光電変換部品7が収納されている。光電変換部品7の一方は送信用であり、他方は受信用である。光電変換部品7は、PCB上の回路に電気的に接続される。図3に示されるように、光コネクタ1が取り付けられる各光ケーブル3は、その中心に光ファイバ8を備え、その外周がシース9で覆われている。光ファイバ8とシース9との間に、多数本の抗張力繊維10、具体的にはアラミド繊維が介在されている。
【0014】
追って詳しく説明するが、光ケーブル3の端部では、シース9が所定長さ除去されて光ファイバ8が露出される。そして、切断されたシース9の端部から延出された抗張力繊維10が、固定部材11によって光コネクタ1に固定される。固定部材11は、クリンプスリーブ11A、インナーリング11B及びアウターリング11Cを備えている。クリンプスリーブ11A、インナーリング11B及びアウターリング11Cは樹脂成形品である。光ファイバ8の先端にはフェルール12が取り付けられる。フェルール12は、光ファイバ8の先端に接着により固定されている。
【0015】
そして、クリンプスリーブ11Aが光コネクタ1のハウジング4に固定されることで、光ケーブル3の抗張力繊維10が光コネクタ1に固定される。クリンプスリーブ11Aのハウジング4への固定は、ハウジング4の下面にストッパ13を嵌合させることで行われる。ストッパ13をハウジング4に嵌合させると、クリンプスリーブ11Aの先端に形成された先端フランジ11dが、ストッパ13と、ハウジング4の内部に突出された突起14と、ストッパ13に取り付けられたスプリング15とによってハウジング4に固定される。即ち、ハウジング4の下面にストッパ13を嵌合させるだけでクリンプスリーブ11Aをハウジング4に固定することができる。
【0016】
ストッパ13のハウジング4への嵌合時には、上述したスプリング15もハウジング4の内部に一緒に取り付けられる。スプリング15は、フェルール12の軸方向中央に形成されたフランジと係合し、フェルール12を光ファイバ8の先端方向に付勢している。スプリング15によって付勢されたフェルール12はハウジング4の内面に当接され、光ファイバ8の先端が所定の位置に位置決めされる。また、光コネクタ1が相手コネクタ2に接続された際には、スプリング15は、フェルール12の端面、即ち、光ファイバ8の端面が光電変換部品7の所定部に押圧されるように付勢する機能も有している。
【0017】
このようにハウジング4に固定されるクリンプスリーブ11Aに対して、光ケーブル3が固定されることで、光ケーブル3がハウジング4、即ち光コネクタ1に固定される。光ケーブル3へのクリンプスリーブ11Aの固定には、インナーリング11B及びアウターリング11Cが用いられる。即ち、光ケーブル3の端部に、クリンプスリーブ11A、インナーリング11B及びアウターリング11Cを備えた固定部材11が固定される。光ケーブル3の端部への固定部材11の固定形態を、図4図7に示される固定工程を参照しつつ説明する。
【0018】
また、この説明において、図8の断面図も参照する。図8は、光ケーブル3に固定部材11が固定された状態を示している。図8では、各部材間での変形が一部省略して示されており、部材同士が重畳して示されている。例えば、抗張力繊維10は、クリンプスリーブ11Aとシース9との間で挟持されるが、当該部分の変形は正確には示されておらず、直線的に示されている。また、図8中の上半分の断面は、後述するインナーリング11Bの案内溝11mでの断面であり、図8中の下半分の断面は、後述するインナーリング11Bの案内溝11mでの断面であり、先端側スリット11kでの断面である。
【0019】
光ケーブル3への固定部材11の固定に際して、図4(a)に示されるように、まず、所定の長さに切断された光ケーブル3が用意される。このとき、光ケーブル3の端部(図中右側)では、光ファイバ8、シース9及び抗張力繊維10の全てがまとめて切断される。次に、図4(b)に示されるように、アウターリング11C及びインナーリング11Bが、この順番で光ケーブル3に予め通される。インナーリング11Bの方が光ケーブル3の先端に近い位置になる。
【0020】
次に、図5(a)に示されるように、シース9の先端部を一部切除し、光ファイバ8及び抗張力繊維10をシース9の先端縁から延出させる。次に、図5(b)に示されるように、シース9の先端縁から延出された抗張力繊維10を適切な長さに切断すると共に抗張力繊維10を軸方向に対して側方(又は、光ファイバ8の先端とは逆方向)に退避させ、光ファイバ8を露出させる。これにより、シース9の先端縁において、シース9の内部の抗張力繊維10はシース9の中心から内周面に寄せられる。
【0021】
次に、図6(a)に示されるように、クリンプスリーブ11Aの基端挿入部11e(図8参照)がシース9の先端縁から内部に挿入される。図6(a)に示される状態では、クリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eは既にシース9の内部に挿入されている。クリンプスリーブ11Aは筒形状を有しており、光ファイバ8はその内部に挿通されてクリンプスリーブ11Aの先端側から延出される。図8に示されるように、基端挿入部11eの基準外径はシース9の基準内径とほぼ同じである。基端挿入部11eの外周面上には複数の環状突起11fが形成されており、環状突起11fの外径はシース9の基準内径よりも大きくされている。ただし、環状突起11fの外径は基端挿入部11eをシース9の内部に圧入できる大きさである。このため、シース9の先端縁から基端挿入部11eを内部に挿入すると、環状突起11fがシース9に食い込む。この結果、基端挿入部11eがシース9の端部に固定される。このとき、基端挿入部11eとシース9の内周面との間に、抗張力繊維10が挟持される。基端挿入部11eは環状突起11fを有しているので、環状突起11fの部分で抗張力繊維10はよりしっかりと挟持される。なお、環状突起11fは、シース9に圧入しやすく、かつ、シース9から抜けにくいように、逆爪状の三角形断面を有している。
【0022】
次に、図6(b)に示されるように、インナーリング11Bが光ケーブル3に沿ってスライドされ、シース9の先端縁から延出されたクリンプスリーブ11Aの延出部11g(図8参照)に被せられる。図8に示されるように、延出部11gにはフランジ11hが形成されており、インナーリング11Bの先端縁がフランジ11hと当接することでインナーリング11Bは適切なスライド位置で止まる。
【0023】
なお、延出部11gの基端側(図8中の左側)にも複数の環状突起11iが形成されている。最も基端側の環状突起11iの外径はシース9の基準内径よりも十分に大きくされている。ここに言う「十分に大きい」とは、環状突起11iをシース9の内部に圧入できないことを意味する。クリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eをシース9に挿入する際には、この環状突起11iが抗張力繊維10を介してシース9の先端縁と当接することで、クリンプスリーブ11Aのシース9への挿入位置が適切となるようにされている。即ち、シース9の先端縁とフランジ11hとの距離は一定となるような構造をクリンプスリーブ11Aは有している。
【0024】
インナーリング11Bは、シース9の先端縁とフランジ11hとの間に収まる四つの先端側断続筒部11jを有している(図5(a)及び図8上側参照)。先端側断続筒部11jは、周方向に均等に、全体で筒状に配置されている。隣接する先端側断続筒部11jの間には、先端側スリット11kが形成されている(図6(b)及び図8下側参照)。先端側スリット11kは、インナーリング11Bの先端縁まで達している。先端側断続筒部11jの内面には、逆爪状の突起11lが形成されている(図8上側参照)。上述した延出部11g上の複数の環状突起11iの高さは、突起11lの形状に合わせて先端側(図8中の右側)に近いほど低くされている。先端側断続筒部11jの外面には、軸方向に案内溝11mが形成されている(図6(b)及び図8上側参照)。
【0025】
また、インナーリング11Bは、シース9と重複する部分に基端側断続筒部11nを有している(図5(a)及び図8下側参照)。基端側断続筒部11nは、周方向に均等に四つ形成されており、全体で筒状に配置されている。隣接する基端側断続筒部11nの間には、基端側スリット11pが形成されている(図6(b)及び図8上側参照)。基端側スリット11pは、インナーリング11Bの基端縁まで達している。基端側断続筒部11nの周方向の位置と、上述した先端側スリット11kの周方向の位置とは一致している(図8の下側の断面)。また、基端側スリット11pの周方向の位置と、先端側断続筒部11jの周方向の位置とは一致している(図8の上側の断面)。ここで、各基端側断続筒部11nの両側縁部は、隣接する一対の先端側断続筒部11jの側縁部とそれぞれ連続している。従って、先端側断続筒部11jと基端側断続筒部11nとは周方向に互い違いに配されて連続しており、全体として筒状のインナーリング11Bを形成している。
【0026】
このような構造を有するインナーリング11Bには、その先端縁から形成される先端側スリット11kとその基端縁から形成される基端側スリット11pとが周方向に互い違いに形成される。この構造によって、インナーリング11Bは、それ自身の弾性復元性によって弾性的に拡径が可能である。このため、インナーリング11Bは、図4(a)~図6(b)に示されるように拡径状態でシース9の部分に留め置くことができる。シース9の部分に留め置かれているインナーリング11Bはそれ自身の弾性復元力で縮径しようとするため、勝手に光ケーブル3に沿ってスライドしてしまうことはなく、現場での作業性がよい。また、基端側断続筒部11nの内面には、突起11oが形成されている(図8下側参照)。突起11oについては後述する。
【0027】
次に、図7(a)に示されるように、アウターリング11Cが光ケーブル3に沿ってスライドされ、シース9の先端部及びインナーリング11Bに被せられる。図8に示されるように、アウターリング11Cの先端縁もフランジ11hと当接することでアウターリング11Cは適切なスライド位置で止まる。アウターリング11Cの内面には、四つの案内リブ11qが周方向に均等に四つ形成されている(図6(b)及び図8上側参照)。アウターリング11Cのスライドに際して、その案内リブ11qの先端がまず基端側スリット11pに挿入されることでスライドが案内される。基端側スリット11pの基端の幅はテーパー状に広げられており、案内リブ11qを受け入れやすくなっている。案内リブ11qの位置と基端側スリット11pの位置とが一致しないと、アウターリング11Cをインナーリング11B上にスライドさせることができない。言い換えれば、案内リブ11q及び基端側スリット11pは、インナーリング11Bに対するアウターリング11Cの回転位置を合わせる機構でもある。
【0028】
アウターリング11Cをさらにスライドさせると、案内リブ11qの先端側はインナーリング11Bの先端側断続筒部11jの外周面上に形成された案内溝11m内に収納される。基端側スリット11pと案内溝11mとは軸方向に連続しており、それらの内幅は案内リブ11qとほぼ等しい。案内リブ11qの先端縁はテーパー状に形成されており、案内溝11mに挿入させやすくなっている。案内溝11mに収納された案内リブ11qは、インナーリング11Bの先端側断続筒部11jを内方に若干押圧する。これにより、クリンプスリーブ11Aの延出部11gの外周面上に形成された環状突起11iと先端側断続筒部11jの内周面上に形成された突起11lとの間に挟持された抗張力繊維10がよりしっかりと挟持される。
【0029】
隣接する案内リブ11qの間には、アウターリング11Cをクリンプスリーブ11Aに係止させるための係止片11rが形成されている(図6(b)及び図8下側参照)。係止片11rの先端には内方に突出された逆爪状の係止爪が形成されている。係止片11rの周囲にはU字状のスリットが形成されており、係止片11rは先端側に向けて軸方向に延出されている。このため、係止片11rは弾性変形可能である。クリンプスリーブ11Aの延出部11gにおける環状突起11iとフランジ11hとの間には、この係止片11rと係止する係止フランジ11sが形成されている(図6(a)及び図8下側参照)。
【0030】
アウターリング11Cがシース9部分に留め置かれている際には、係止片11rの係止爪の先端がシース9の表面と接触して係止片11rは外方にたわんだ状態となる。係止片11rはそれ自身の弾性復元力で元の形状に戻ろうとするため、アウターリング11Cは勝手に光ケーブル3に沿ってスライドしてしまうことはなく、現場での作業性がよい。アウターリング11Cをスライドさせると、係止片11rの係止爪の先端は基端側断続筒部11nの基端縁と当接してさらに外方に撓まされ、最終的に係止爪は基端側断続筒部11nを乗り越える。このとき、係止片11rが容易に外方に変形されるように、係止片11rの先端はテーパー状に形成され、かつ、インナーリング11Bの基端縁もテーパー状に形成されている。基端側断続筒部11nを乗り越えた係止片11rの係止爪はインナーリング11Bの先端側スリット11kに収納され、係止片11rは元の形状に復帰する。
【0031】
アウターリング11Cをさらにスライドさせると、その先端縁がフランジ11hに当接すると共に、係止片11rの係止爪が係止フランジ11sを乗り越えて係止フランジ11sと係止する。この係止により、アウターリング11Cとクリンプスリーブ11Aとが互いに固定される。また、アウターリング11Cの基端部がインナーリング11Bの基端側断続筒部11nを内方に押圧することになり、基端側断続筒部11nの内面に形成された突起11oがシース9に食い込む。これにより、インナーリング11Bとシース9とがしっかりと固定される。同時に、突起11oの食い込みによってシース9も内方に押圧される。この結果、クリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eの外周面上に形成された環状突起11fとシース9の内周面との間に挟持された抗張力繊維10がよりしっかりと挟持される。
【0032】
次に、光ファイバ8の先端にフェルール12が接着剤によって取り付けられ、その先端面が研磨される。最後に、図7(b)に示されるように、固定部材11がハウジング4に固定される。固定部材11のハウジング4への固定は、上述したようにハウジング4にストッパ13を嵌合させることで行われる。図8に示される構造が構築されることで、光ケーブル3の端部に取り付けられた固定部材11のクリンプスリーブ11A、インナーリング11B及びアウターリング11Cによって光ケーブル3の抗張力繊維10を固定部材11にしっかりと固定することができる。
【0033】
さらに、その固定作業は、クリンプスリーブ11Aの圧入やインナーリング11B及びアウターリング11Cのスライドという非常に簡便な作業であり、現場でも行いやすく作業性が非常によい。また、上述した特許文献1のようにつまんで回転させるというような指先のスペースも必要なく、インナーリング11B及びアウターリング11Cをスライドさせるだけでよい。また、光ケーブル3の端部に光コネクタ1を固定するのに融着などの現場で行いにくい作業も必要ない。
【0034】
光ケーブル3の抗張力繊維10が固定部材11に固定され、固定部材11が光コネクタ1に固定されるので、光ケーブル3に引張力が作用しても、当該引張力は固定部材11を介して光コネクタ1によって受け止められて光ファイバ8には作用しない。また、より詳しくは、図8に示されるように、このような引張力が光ケーブル3に作用すると当該引張力は抗張力繊維10に作用する。このとき、固定部材11のクリンプスリーブ11Aは光コネクタ1のハウジング4に固定されており、インナーリング11Bは、抗張力繊維10を介して図中左方に引っ張られる。この結果、インナーリング11Bの先端側断続筒部11jの内面に形成された逆爪状の突起11lがクリンプスリーブ11Aの環状突起11iに押し付けられる。
【0035】
この際、インナーリング11Bを拡径しようとする力が作用する。上述したようにインナーリング11Bは弾性的に拡径が可能な構造を有しているが、図8の状態ではアウターリング11Cによってそのような拡径が抑止されている。このため、突起11lが環状突起11iに確実に押し付けられ、その間に挟まれている抗張力繊維10がより一層しっかりと保持される。即ち、光ケーブル3に引張力が作用すると、抗張力繊維10を介した光ケーブル3と固定部材11との結合がより強化される。
【0036】
以下に、上記実施形態に係る固定部材11による作用効果について説明する。
【0037】
上記実施形態に係る固定部材11は、光ファイバ8とシース9との間に抗張力繊維10が介在されている光ケーブル3に光コネクタ1を取り付ける際に用いられる。固定部材11は、クリンプスリーブ11A、インナーリング11B及びアウターリング11Cを備えている。クリンプスリーブ11Aは、光ケーブル3のシース9の先端縁から延出された光ファイバ8が内部に挿通される筒形状を有しており、その基端挿入部11eがシース9の先端縁からシース9の内部に圧入される。インナーリング11Bは、筒形状を有しており、光ケーブル3に沿ってスライドされることで、シース9の先端縁から延出された抗張力繊維10を、クリンプスリーブ11Aのシース9の先端縁から延出された延出部11gとの間に挟持する。アウターリング11Cは、筒形状を有しており、光ケーブル3に沿ってスライドされることで、その先端部によってシース9の先端縁から延出された抗張力繊維10とインナーリング11Bとをクリンプスリーブ11Aの延出部11gとの間に挟持する。また、アウターリング11Cは、その基端部によってシース9の先端縁よりも内部に位置する抗張力繊維10とシース9とインナーリング11Bとをクリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eとの間で挟持する。
【0038】
従って、上記実施形態に係る固定部材11によれば、クリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eとアウターリング11Cとの間でシース9及びインナーリング11Bと共に光ケーブル3の抗張力繊維10を挟持する。同時に、クリンプスリーブ11Aの延出部11gとアウターリング11Cとの間でインナーリング11Bと共に抗張力繊維10を挟持する。固定部材11が光コネクタ1に固定されれば、光ケーブル3の抗張力繊維10が光コネクタ1に固定される。従って、光ケーブル3に引張力が作用しても、その引張力は固定部材11を介して光コネクタ1に固定された抗張力繊維10によって受けられ、光ケーブル3内の光ファイバ8に作用することがない。
【0039】
そして、上述した固定形態を構築する際には、クリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eのシース9への挿入の他には、インナーリング11B及びアウターリング11Cの光ケーブル3に沿ったスライドだけでよく、現場での作業性が良好である。また、上述した特許文献1のように螺合による固定ではなくスライドによる固定であるため、螺合のための回転量で固定強度が変わるようなこともない。また、部品を破損させるおそれもない。また、融着のような面倒な工程も必要ない。
【0040】
また、上記実施形態に係る固定部材11によれば、クリンプスリーブ11Aの延出部11gには、スライドされたインナーリング11Bの先端縁、及び、スライドされたアウターリング11Cの先端縁と当接するフランジ11hが設けられている。このため、クリンプスリーブ11A及びインナーリング11Bを所定のスライド位置に設定しやすく、この点からも現場での作業性が向上する。
【0041】
また、上記実施形態に係る固定部材11によれば、インナーリング11Bのシース9との重複部分の内周面からシース9に向けて突出する突起11oが形成されている。インナーリング11Bは外側からアウターリング11Cによって押さえられるので、突起11oはシース9に食い込む。これにより、インナーリング11Bの軸方向の位置ずれが抑止される。また、突起11oが食い込むことでシース9が内方に押し付けられるので、シース9とクリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eとの間の抗張力繊維10をより確実に挟持することができる。また、突起11oが形成されることで、シース9部分に待機状態にあるインナーリング11Bが勝手にスライドしてしまうことがなく、現場での作業性が向上する。
【0042】
また、上記実施形態に係る固定部材11によれば、クリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eの外周面上に、シースの基準内径よりも大きな外径を有する少なくとも一つの環状突起11fが形成されている。これにより、クリンプスリーブ11Aのシース9からの抜けが防止されると共に、シース9と基端挿入部11eとの間の抗張力繊維10をより確実に挟持することができる。特に、上述した突起11oが形成されていれば、シース9が環状突起11fによって凹凸が形成された基端挿入部11eの外周面に押し付けられるため、クリンプスリーブ11Aのシース9からの抜けがより確実に防止される。さらに、上述した突起11oが形成されていれば、シース9が環状突起11fによって凹凸が形成された基端挿入部11eの外周面に押し付けられるため、シース9と基端挿入部11eとの間の抗張力繊維10をより一層確実に挟持することができる。
【0043】
また、上記実施形態に係る固定部材11によれば、クリンプスリーブ11Aの延出部11gの外周面上に、シース9の基準内径よりも十分に大きな外径を有する少なくとも一つの環状突起11iが形成されている。ここに言う「十分に大きい」とは、環状突起11iをシース9の内部に圧入できないことを意味する。従って、環状突起11iによってクリンプスリーブ11Aの基端挿入部11eのシース9の内部への挿入量を規定でき、クリンプスリーブ11Aを光ケーブル3に対して適切な位置に設定することができる。また、インナーリング11Bと延出部11gとの間に挟止される抗張力繊維10が、インナーリング11Bによって環状突起11iによって凹凸が形成された延出部11gの外周面に押し付けられるため、抗張力繊維10をより確実に挟持することができる。
【0044】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、環状突起11f及び11iは全周にわたって連続して形成された。しかし、これらは、周方向に断続的に環状に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 光コネクタ
3 光ケーブル
8 光ファイバ
9 シース
10 抗張力繊維
11 固定部材
11A クリンプスリーブ
11B インナーリング
11C アウターリング
11e 基端挿入部
11f 環状突起
11g 延出部
11h フランジ
11i 環状突起
11o 突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8