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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176449
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電力変換装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/20 20160101AFI20241212BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H02P21/20
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094987
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】隅田 悟士
(72)【発明者】
【氏名】関口 学
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳央
(72)【発明者】
【氏名】仲田 義則
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505EE07
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HA06
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ23
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL39
(57)【要約】
【課題】温度変動の影響によるトルク誤差比率を許容値以下に抑えることが可能な電力変換装置の制御装置を提供する。
【解決手段】電動機を駆動する電力変換装置の制御装置は、演算装置を備え、前記演算装置は、前記電動機の出力を演算し、前記電動機の温度変化による損失変化量を演算し、前記電動機の出力に対する前記損失変化量の比率が前記電動機の許容トルク誤差比率よりも小さい場合には、前記電動機の出力と前記電動機の回転速度とに基づく第1トルク推定値を前記電動機のトルク推定値とし、それ以外の場合には、前記電動機の電流と前記電動機の回転子位相とに基づく第2トルク推定値を前記電動機のトルク推定値とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機を駆動する電力変換装置の制御装置であって、
演算装置を備え、
前記演算装置は、
前記電動機の出力を演算し、
前記電動機の温度変化による損失変化量を演算し、
前記電動機の出力に対する前記損失変化量の比率が前記電動機の許容トルク誤差比率よりも小さい場合には、前記電動機の出力と前記電動機の回転速度とに基づく第1トルク推定値を前記電動機のトルク推定値とし、それ以外の場合には、前記電動機の電流と前記電動機の回転子位相とに基づく第2トルク推定値を前記電動機のトルク推定値とする、
電力変換装置の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記演算装置は、前記電力変換装置の入力と変換効率との積、または前記電力変換装置の出力を前記電動機の入力とし、前記電動機の入力から前記電動機の損失を差し引いた値を前記電動機の出力とする、
電力変換装置の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記演算装置は、前記電動機の電流の乗数と周波数の乗数との積にオフセット値を加算した値に基づいて前記損失変化量を演算する、
電力変換装置の制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記演算装置は、前記電動機の温度変化による巻線抵抗値の変化量と前記電動機の電流の2乗との積を前記損失変化量とする、
電力変換装置の制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記演算装置は、前記電動機の出力を前記電動機の回転速度で除算した値を前記第1トルク推定値とする、
電力変換装置の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記演算装置は、前記電動機の回転子位相を用いて前記電動機の三相交流電流をd軸・q軸電流に三相二相変換し、当該d軸・q軸電流と前記電動機のインダクタンスと前記電動機の誘起電圧係数とに基づいて前記第2トルク推定値を演算する、
電力変換装置の制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記演算装置は、前記制御装置に入力されたトルク指令を前記電動機のトルク推定値に基づいて補正し、補正した前記トルク指令に基づいて前記電力変換装置にPWM制御信号を出力する、
電力変換装置の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記演算装置は、前記トルク推定値をフィードバック、前記トルク指令をフィードフォワードとする二自由度制御系である、
電力変換装置の制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力変換装置の制御装置において、
前記電動機を駆動源とする電動車の制御装置からトルク指令が入力される、
電力変換装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
何らかの方法で電動機のトルクを推定し、推定したトルクに基づいて電動機を制御する制御装置が知られている。例えば特許文献1には、低速用トルク推定部と高速用トルク推定部とを電動機の角速度に応じて切り替える電動機の角速度回転数低速・高速域でそれぞれ良好にトルク推定を行い得るトルク推定部を切り換える永久磁石同期電動機の制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-233199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の制御装置は、温度変動の影響によるトルク誤差比率(トルク指令とトルク真値との差分をトルク真値で除算した値)を許容値以下に抑える仕組みはなく、トルク推定部の選定および切り替え条件を試行錯誤的に決定する必要がある。
【0005】
本発明は、温度変動の影響によるトルク誤差比率を許容値以下に抑えることが可能な電力変換装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による電力変換装置の制御装置は、電動機を駆動する電力変換装置の制御装置であって、演算装置を備え、前記演算装置は、前記電動機の出力を演算し、前記電動機の温度変化による損失変化量を演算し、前記電動機の出力に対する前記損失変化量の比率が前記電動機の許容トルク誤差比率よりも小さい場合には、前記電動機の出力と前記電動機の回転速度とに基づく第1トルク推定値を前記電動機のトルク推定値とし、それ以外の場合には、前記電動機の電流と前記電動機の回転子位相とに基づく第2トルク推定値を前記電動機のトルク推定値とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、温度変動の影響によるトルク誤差比率を許容値以下に抑えることが可能な電力変換装置の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る制御装置のハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係る制御装置の動作を説明するためのブロック線図である。
図3図3は、トルク指令補正部の構成を示すブロック線図である。
図4図4は、トルク指令補正部によるトルク指令の補正内容を説明するための説明図である。
図5図5は、ベクトル制御部の構成を示すブロック線図である。
図6図6は、第1実施形態に係る制御装置が実行する制御処理のフローチャートである。
図7図7は、第2実施形態に係る制御装置を搭載する電動車を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1図6を参照して、本発明の実施形態に係る電力変換装置3の制御装置1について説明する。
【0010】
図1は、本発明の第1実施形態に係る制御装置1のハードウェア構成を模式的に示すブロック図である。制御装置1は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等の演算装置11、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の不揮発性メモリ12、所謂RAM(Random Access Memory)と呼ばれる揮発性メモリ13、入出力インタフェース14、および、その他の周辺回路を備えたコンピュータで構成される。これらのハードウェアは、協働してソフトウェアを動作させ、複数の機能を実現する。なお、コントローラは、1つのコンピュータで構成してもよいし、複数のコンピュータで構成してもよい。また、演算装置11としては、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
【0011】
不揮発性メモリ12には、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、不揮発性メモリ12は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体(記憶装置)である。揮発性メモリ13は、演算装置11による演算結果および入出力インタフェース14から入力された信号を一時的に記憶する記憶媒体(記憶装置)である。演算装置11は、不揮発性メモリ12に記憶されたプログラムを揮発性メモリ13に展開して演算実行する装置であって、プログラムに従って入出力インタフェース14、不揮発性メモリ12および揮発性メモリ13から取り入れたデータに対して所定の演算処理を行う。
【0012】
制御装置1は、トルク指令入力装置2および電力変換装置3に接続される。トルク指令入力装置2は、制御装置1を用いて電動機4を所望のトルクで駆動させる装置である。電力変換装置3は、電動機4を駆動する装置である。トルク指令入力装置2は、後述するトルク指令を制御装置1に向けて出力する。制御装置1は、トルク指令入力装置2から入力されたトルク指令に基づき、後述する複数のゲート信号gを電力変換装置3に出力する。電力変換装置3は、制御装置1から入力された複数のゲート信号gに基づき電動機4を駆動する。
【0013】
入出力インタフェース14の入力部は、各種装置(トルク指令入力装置2等)から入力された信号を演算装置11で演算可能なデータに変換する。また、入出力インタフェース14の出力部は、演算装置11での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号を各種装置(電力変換装置3等)に出力する。
【0014】
図2は、本発明の第1実施形態に係る制御装置1の動作を説明するためのブロック線図である。制御装置1は、電動機出力演算部21、第1トルク推定部22、第2トルク推定部23、切替部24、損失変化量演算部25、トルク指令補正部26、ベクトル制御部27、およびPWM制御部28を備える。
【0015】
これらの各部には、電力変換装置3のU相・V相・W相電圧v、v、v、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、i、電動機4の周波数ω、および電動機4の回転子位相θが供給される。これらの値は、不図示のセンサ等により電力変換装置3および電動機4から現在の値が随時取得され、制御装置1の各部に供給される。
【0016】
電動機出力演算部21は内積演算部21a、加減算部21b、損失演算部21c、内積演算部21d、および銅損演算部21eを備える。電動機出力演算部21は、電力変換装置3のU相・V相・W相電圧v、v、v、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、i、および電動機4の周波数ωに基づいて、電動機4の出力Poutを演算する。
【0017】
内積演算部21aは電力変換装置3のU相・V相・W相電圧v、v、vと電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、iの内積である電動機4の入力Pinを演算する。損失演算部21cは係数a、bを用いて、「aω+b」で表される損失PLIを演算する。つまり損失PLIは、電動機4の電流の乗数iと周波数の乗数ωとの積にオフセット値bを加算した値である。ここで損失PLIとは、例えば渦電流損あるいはヒステリシス損である。スタインメッツの実験式により、渦電流損であれば「m=2、n=2」、ヒステリシス損であれば「m=1、n=1.6」となる。このときの係数a、bは、例えばキャリブレーションにより同定する。損失PLIとしては、他にAC銅損あるいは機械損なども考えられ、いずれも「aω+b」と実測値の誤差が最小となるようにa、b、m、nをキャリブレーションしておく。キャリブレーションは、例えば損失を実測可能なセンサを電力変換装置3や電動機4等に取り付けた状態で、電動機4の周波数ωおよび電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、iをそれぞれ変化させて損失を実測し、実測値との差が小さくなるa、b、m、nを探索することにより行う。
【0018】
なお、図2では一つの損失「aω+b」しか提示していないが、複数の損失を同様に演算してもよい。あるいは損失の合計値と「aω+b」の誤差が最小となるようにa、b、m、nをキャリブレーションしてもよい。電動機出力演算部21はこれによって、渦電流損・ヒステリシス損・AC銅損・機械損の一部または全てをPLIとして演算する。内積演算部21dはU相・V相・W相電流i、i、iの2乗iを演算し、銅損演算部21eは銅損「PLR = Ri」を演算する。ここでRは電動機4の巻線抵抗値である。加減算部21bは、次式(1)により電動機4の出力Poutを演算する。
out = Pin-PLI-PLR …(1)
式(1)は、電動機4への入出力のギャップが電動機4の損失であることから成り立つ。
【0019】
第1トルク推定部22は、次式(2)により第1トルク推定値τを演算する。つまり第1トルク推定値τは、電動機4の出力Poutを電動機4の周波数ω(回転速度)で除算した値である。
τ = Pout / ω …(2)
式(2)は電動機4の出力Poutがトルクと周波数の積であることから成り立つ。
【0020】
第2トルク推定部23は三相二相変換部23aおよびトルクモデル3bを備える。第2トルク推定部23は、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、iと電動機4の回転子位相θとから第2トルク推定値τを演算する。三相二相変換部23aは、電動機4の回転子位相θを用いて、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、iをd軸・q軸電流i、iに変換する。第2トルク推定部23は、次式(3)で表されるトルクモデル3bにより第2トルク推定値τを演算する。
τ = P (K+(L ‐ L)i )i …(3)
ここで、Pは極対数、Kは誘起電圧係数、Lはd軸インダクタンス、Lはq軸インダクタンスである。つまり第2トルク推定値τは、電動機4の回転子位相θを用いて電動機4のU相・V相・W相電流i、i、i(三相交流電流)をd軸・q軸電流i、iに三相二相変換し、その後、d軸・q軸電流i、iと電動機4のインダクタンスL、Lと電動機4の誘起電圧係数Kとに基づいて演算される値である。
【0021】
切替部24は、損失変化量比率演算部24a、比較部24b、および切替器24cを備える。切替部24は、第1トルク推定値τと第2トルク推定値τのいずれかをトルク推定値τestとして出力する。損失変化量比率演算部24aは、電動機4の出力Poutに対する「温度変動時の電動機4の損失変化量ΔP」の比率Δτを演算する。以下の説明では、この比率Δτを損失変化量の比率Δτと称する。
【0022】
比較部24bは、損失変化量の比率Δτの絶対値|Δτ|と、所定の許容トルク誤差比率ΔτMAXとを比較し、絶対値|Δτ|の方が小さい場合にはフラグFをYesとして出力し、それ以外の場合ではNoとして出力する。切替器24cは、フラグFがYesの場合には第1トルク推定値τ、Noの場合には第2トルク推定値τをトルク推定値τestとして出力する。
【0023】
損失変化量演算部25は、内積演算部25aおよび銅損変化量演算部25bを備える。損失変化量演算部25は、温度変動時(例えば、電動機4の仕様上の最低温度から最高温度まで温度が変化したとき)の巻線抵抗値Rの変動量を巻線抵抗変動ΔRとするとき、「温度変動時の電動機4の損失変化量ΔP = ΔRi」を出力する。つまり損失変化量ΔPは、電動機4の温度変化による巻線抵抗値Rの変化量ΔRと電動機4の電流の2乗iとの積である。なお、巻線抵抗変動ΔRは、予め計測もしくは推定した値を不揮発性メモリ12などに記憶させておき、必要に応じて不揮発性メモリ12などから読み出す。
【0024】
図3は、トルク指令補正部26の構成を示すブロック線図である。トルク指令補正部26は、トルク推定値τestに基づいてトルク指令τを補正し、補正後の値を補正トルク指令τ**として出力する。トルク指令補正部26は、ローパスフィルタ26aおよびPI制御部26bを備える。時定数Tのローパスフィルタ26aは、トルク制御の応答を模擬している。ゆえに、ローパスフィルタ26aの出力τLPF は理想的なトルク応答を表す。トルク指令補正部26は、ローパスフィルタ26aの出力τLPF とトルク推定値τestとの差分をPI制御部26bに入力し、その出力をトルク指令τに加算して補正トルク指令τ**として出力する。すなわち、補正トルク指令τ**はトルク推定値τestをフィードバック、トルク指令τをフィードフォワードとする二自由度制御によって定められる。
【0025】
図4は、トルク指令補正部26によるトルク指令τの補正内容を説明するための説明図である。図4の横軸は時間を示し、縦軸はトルク値を示す。説明のため、図4に示す時刻tまではトルク指令補正部26が無効化されており、時刻t以降はトルク指令補正部26が有効化されるものとする。また、図4に示す時間軸の全体に渡って、トルク指令τは一定であるものとする。
【0026】
図4では、トルク推定値τest(および電動機4の実トルクτ)を実線で、補正トルク指令τ**を破線で示している。前述の通り、時刻tまではトルク指令補正部26が無効化されているので、時刻tまではトルク指令τと補正トルク指令τ**は一致している。時刻tでトルク指令補正部26が有効化されると、ローパスフィルタ26aの出力τLPF がトルク推定値τestよりも大きいのでPI制御部26bの出力は正となり、補正トルク指令τ**は増加する。この結果、実トルクτおよびトルク推定値τestも増加し、これは次式(4)のトルク誤差比率Δτがゼロになるまで続く。
Δτ = (τ ‐ τ)/τ …(4)
このため、トルク推定に誤差がない限り、トルク誤差比率Δτはトルク指令補正部26の補正によりいずれゼロで安定する。
【0027】
図5は、ベクトル制御部27の構成を示すブロック線図である。ベクトル制御部27は、補正トルク指令τ**、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、i、および電動機4の回転子位相θに基づいてU相・V相・W相電圧指令v 、v 、v を演算する。ベクトル制御部27は、トルク・電流指令変換部27a、電流制御部27b、三相二相変換部27c、および二相三相変換部27dを備える。
【0028】
トルク・電流指令変換部27aは、補正トルク指令τ**をd軸・q軸電流指令i 、i に変換する。三相二相変換部27cは、電動機4の回転子位相θを用いて電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、iをd軸・q軸電流i、iに変換する。電流制御部27bは、d軸・q軸電流指令i 、i およびd軸・q軸電流i、iに基づいて、d軸・q軸電圧指令v 、v を演算する。二相三相変換部27dは、電動機4の回転子位相θを用いてd軸・q軸電圧指令v 、v をU相・V相・W相電圧指令v 、v 、v に変換する。
【0029】
PWM制御部28は、U相・V相・W相電圧指令v 、v 、v に基づいて電力変換装置3に複数のゲート信号g(すなわちPWM制御信号)を出力し、電力変換装置3を制御する。この結果、電動機4にはU相・V相・W相電圧v、v、vが印加され、U相・V相・W相電流i、i、iが流れ、実トルクτが発生する。
【0030】
図6は、第1実施形態に係る制御装置1が実行する制御処理のフローチャートである。ステップS80において電動機出力演算部21が、電力変換装置3のU相・V相・W相電圧v、v、v、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、i、および電動機4の周波数ωに基づいて、電動機4の出力Poutを演算する。ステップS90において損失変化量演算部25が、温度変動時の電動機4の損失変化量ΔPを演算する。ステップS100において切替部24が、ステップS80で演算された電動機4の出力PoutおよびステップS90で演算された温度変動時の電動機4の損失変化量ΔPを用いて、損失変化量の比率Δτを演算する。ステップS110において切替部24が、ステップS100で演算した損失変化量の比率Δτの絶対値|Δτ|と、所定の許容トルク誤差比率ΔτMAXとを比較し、前者が後者よりも小さいか否かを判定する。絶対値|Δτ|が許容トルク誤差比率ΔτMAXよりも小さい場合、処理はステップS120に進む。
【0031】
ステップS120において第1トルク推定部22が、前述の式(2)により第1トルク推定値τを演算する。ステップS130において切替部24が、ステップS120において演算された第1トルク推定値τをトルク推定値τestとして出力する。その後、処理はステップS160に進む。
【0032】
他方、ステップS110において絶対値|Δτ|が許容トルク誤差比率ΔτMAX以上であった場合、処理はステップS140に進む。ステップS140において第2トルク推定部23が、前述の式(3)により第2トルク推定値τを演算する。ステップS150において切替部24が、ステップS140において演算された第2トルク推定値τをトルク推定値τestとして出力する。その後、処理はステップS160に進む。
【0033】
ステップS160においてトルク指令補正部26が、ステップS120またはステップS140において出力されたトルク推定値τestに基づいてトルク指令τを補正し、補正後の値を補正トルク指令τ**として出力する。ステップS170においてベクトル制御部27が、ステップS160で出力された補正トルク指令τ**、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、i、および電動機4の回転子位相θに基づいてU相・V相・W相電圧指令v 、v 、v を演算する。ステップS180においてPWM制御部28が、ステップS170で演算されたU相・V相・W相電圧指令v 、v 、v に基づいて電力変換装置3に複数のゲート信号gを出力し、電力変換装置3を制御する。
【0034】
前述の通り、トルク推定に誤差がなければ、トルク指令補正部26によってトルク誤差比率Δτはいずれゼロになる。第2トルク推定部23による第2トルク推定値τの演算は電動機4の回転子位相θの検出誤差の影響を受けるため、可能な限り第1トルク推定部22により演算された第1トルク推定値τを用いるのが望ましい。しかし、第1トルク推定部22による第1トルク推定値τの演算は、銅損PLRの演算の際に用いる巻線抵抗値Rが温度変動の影響を受けるため、トルク誤差比率Δτがゼロにならない。つまり、第1トルク推定値τには温度変動による誤差が生じる。換言すると、第1トルク推定値τには温度変動によるゼロでないトルク誤差比率Δτが生じる。
【0035】
第1実施形態に係る制御装置1は、切替部24および損失変化量演算部25によって、温度変動によるトルク誤差比率Δτを最大でも許容トルク誤差比率ΔτMAXに抑制する。この動作原理は以下の通りである。
(動作原理1)比較部24bおよび切替器24cによって、「|Δτ| < ΔτMAX」の場合に限り第1トルク推定部22が適用される。
(動作原理2)トルク誤差比率Δτは、トルク指令補正部26の効果によって、次式(5)で表される。
Δτ = (τ-τ)/τ = (τ-τest)/τest …(5)
ここで、第1トルク推定部22の適用範囲では「τest = τ」である。また、上式(1)、(2)より次式(6)が成り立つ。
τest = τ = (Pin-PLI-PLR)/ω …(6)
同様に、実トルクτについては次式(7)が成り立つ。
τ = (Pin-PLI-PLR-ΔP)/ω …(7)
式(5)に式(6)および式(7)を代入すると、次式(8)が得られる。
Δτ = (-ΔP)/(Pin-PLI-PLR) = -ΔP/POUT …(8)
以上より、「Δτ=-Δτ」であることが分かる。
(動作原理3)上記の(1)および(2)より、「|Δτ| < ΔτMAX」すなわち「|Δτ| < ΔτMAX」の場合に限り、第1トルク推定部22が適用される。ゆえに第1トルク推定部22の適用時、温度変動によるトルク誤差比率Δτが許容トルク誤差比率ΔτMAXを超えることはなく、もし超える場合には第2トルク推定部23に自動的に切り替わる。第2トルク推定部23は電動機4の回転子位相θの検出誤差の影響は受けるが、温度変動による巻線抵抗変動ΔRの影響を受けることはなく、温度変動に対してロバストとなる。
【0036】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0037】
(1)演算装置11は、電動機4の出力Poutを演算し、電動機4の温度変化による損失変化量ΔPを演算し、電動機4の出力Poutに対する損失変化量の比率Δτの絶対値|Δτ|が電動機4の許容トルク誤差比率ΔτMAXよりも小さい場合には、電動機4の出力Poutと電動機4の周波数ω(回転速度)とに基づく第1トルク推定値τを電動機4のトルク推定値τestとし、それ以外の場合には、電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、i(電動機4の電流)と電動機4の回転子位相θとに基づく第2トルク推定値τを電動機4のトルク推定値τestとする。このようにすることで、温度変動の影響によるトルク誤差比率を許容値以下に抑えることができる。
【0038】
(2)演算装置11は、電力変換装置3のU相・V相・W相電圧v、v、vと電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、iの内積(電力変換装置3の出力)を電動機4の入力Pinとし、電動機4の入力Pinから電動機4の損失PLIを差し引いた値を電動機4の出力Poutとする。このようにしたので、銅損など電動機4の損失を考慮して電動機4の出力Poutを演算することができる。
【0039】
(3)演算装置11は、電動機4の電流の乗数iと周波数の乗数ωとの積aωにオフセット値bを加算した値に基づいて損失変化量ΔPを演算する。このようにしたので、シンプルな計算で、温度変動の影響の大部分を占める銅損を演算することができる。シンプルな計算で済むので演算量が削減され、消費電力を削減することができる。
【0040】
(4)演算装置11は、電動機4の温度変化による巻線抵抗値Rの変化量である巻線抵抗変動ΔRと電動機4の電流の2乗iとの積を損失変化量ΔPとする。このようにしたので、損失変化量ΔPを低演算量で算出することができる。
【0041】
(5)演算装置11は、電動機4の出力Poutを電動機4の周波数ω(回転速度)で除算した値を第1トルク推定値τとする。このようにしたので、温度変動が激しくない場合には第1トルク推定部22によって高精度なトルク推定値を安定して得ることができる。
【0042】
(6)演算装置11は、電動機4の回転子位相θを用いて電動機4の電力変換装置3のU相・V相・W相電流i、i、i(三相交流電流)をd軸・q軸電流i、iに三相二相変換し、d軸・q軸電流i、iと電動機4のd軸インダクタンスLおよびq軸インダクタンスLと電動機4の誘起電圧係数Kとに基づいて第2トルク推定値τを演算する。このようにしたので、温度変動が激しい場合には第2トルク推定部23によって高精度なトルク推定値を安定して得ることができる。
【0043】
(7)演算装置11は、制御装置1に入力されたトルク指令τを電動機4のトルク推定値τestに基づいて補正し、補正した補正トルク指令τ**に基づいて電力変換装置3にゲート信号g(PWM制御信号)を出力する。このようにしたので、電力変換装置3を所望のトルクに安定的に制御することができる。
【0044】
(8)演算装置11は、トルク推定値τestをフィードバック、トルク指令τをフィードフォワードとする二自由度制御系である。このようにしたので、第1トルク推定部22と第2トルク推定部23とを切り替えても推定結果が不安定にならず、かつ定常的には高い推定精度を保つことができる。
【0045】
図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る制御装置について説明する。なお、第1実施形態で説明した構成と同一もしくは相当する構成には同一の参照記号を付し、相違点を主に説明する。
【0046】
図7は、第2実施形態に係る制御装置100を搭載する電動車200を示す模式図である。電動車200は、電動機4を駆動源とする電動車である。すなわち電動車200は、4つの電動機4を備え、各々の電動機4は電動車200が備える4つの車輪201の車軸に接続される。4つの電動機4の各々について、対応する制御装置100および電力変換装置3が用意される。
【0047】
電動車200は電動車200の各部を制御する制御装置(以下、電動車制御装置とも記す)202を備える。電動車制御装置202は、第1実施形態において説明したトルク指令入力装置2に対応する。すなわち電動車制御装置202は、電動車200を加減速させるためのトルク指令τ1 、τ2 、τ3 、およびτ4 を、4つの制御装置100の各々に対して出力する。電動車200は低速から高速まで幅広い条件で運転されるため、電動機4の温度は常に変動するが、第2実施形態に係る制御装置100によりトルク誤差比率Δτを許容トルク誤差比率ΔτMAX以下に抑制できる。このため、電動車200を安定して加減速させることができる。
【0048】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、上述の異なる実施形態で説明した構成同士を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせることも可能である。
【0049】
<変形例1>
トルク指令補正部26の動作は、図3で説明したものと異なっていてもよい。例えばトルク推定値τestをそのまま補正トルク指令τ**としてもよい。この場合でも、定常的には精度よくトルク推定を行うことができる。ただし、第1トルク推定部22と第2トルク推定部23との切替時に出力が振動し、過渡的には不安定になるおそれがある。
<変形例2>
電動機4の入力Pinを、電力変換装置3のU相・V相・W相電圧vu、vv、vwと電力変換装置3のU相・V相・W相電流iu、iv、iwとの内積ではなく、電力変換装置3の入力と電力変換装置3による電力の変換効率との積により求めてもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0051】
1,100…制御装置、2…トルク指令入力装置、3…電力変換装置、4…電動機、11…演算装置、12…不揮発性メモリ、13…揮発性メモリ、14…入出力インタフェース、21…電動機出力演算部、22…第1トルク推定部、23…第2トルク推定部、24…切替部、25…損失変化量演算部、26…トルク指令補正部、27…ベクトル制御部、28…PWM制御部、200…電動車、201…車輪、202…電動車制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7