(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176462
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20241212BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241212BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20241212BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20241212BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241212BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B60C11/00 D
B60C1/00 A
B60C11/00 B
B60C11/03 Z
B60C11/13 B
C08K3/36
C08L21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095007
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 敬祐
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA18
3D131BA20
3D131BB01
3D131BC12
3D131BC13
3D131BC19
3D131EA03U
3D131EA10V
3D131EB07U
3D131EB18V
3D131EB18Z
3D131EB23V
3D131EB23Z
3D131EB24V
3D131EB24Z
3D131LA28
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002DJ016
4J002FD010
4J002FD016
4J002FD026
4J002FD030
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ウェットグリップ性能およびトラクション性能の総合性能の向上を図ることができるタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部を備えたタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝を有し、前記トレッド部は、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層とを少なくとも備え、前記第一層および前記第二層が、それぞれゴム成分およびシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記第一層の厚みをt1(mm)、前記周方向溝の最深部の溝深さをH(mm)、前記第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS1(質量部)、前記第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS2(質量部)、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE1(質量%)、前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE2(質量%)、前記第二層の30℃における複素弾性率を30℃E*2(MPa)、前記トレッド部の接地面におけるランド比をRとしたとき、t1/Hが0.90以下であり、Rと30℃E*2との積(R×30℃E*2)が12.0以下であり、かつAE2/S2がAE1/S1よりも大きいタイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を備えたタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝を有し、
前記トレッド部は、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層とを少なくとも備え、
前記第一層および前記第二層が、それぞれゴム成分およびシリカを含有するゴム組成物により構成され、
前記第一層の厚みをt1(mm)、前記周方向溝の最深部の溝深さをH(mm)、前記第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS1(質量部)、前記第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS2(質量部)、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE1(質量%)、前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE2(質量%)、前記第二層の30℃における複素弾性率を30℃E*2(MPa)、前記トレッド部の接地面におけるランド比をRとしたとき、
t1/Hが0.90以下であり、Rと30℃E*2との積(R×30℃E*2)が12.0以下であり、かつAE2/S2がAE1/S1よりも大きいタイヤ。
【請求項2】
R×30℃E*2が8.0以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第一層を構成するゴム組成物のガラス転移温度Tg1および前記第二層を構成するゴム組成物のガラス転移温度Tg2がいずれも-10℃以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項4】
Tg1およびTg2がいずれも-20℃以下である、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記第一層の30℃におけるtanδ(30℃tanδ1)および前記第二層の30℃におけるtanδ(30℃tanδ2)がいずれも0.50以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項6】
30℃tanδ1および30℃tanδ2がいずれも0.30以下である、請求項5記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第一層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty1および前記第二層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty2がいずれも45質量%以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項8】
Sty1およびSty2がいずれも35質量%以下である、請求項7記載のタイヤ。
【請求項9】
前記シリカの平均一次粒子径が23nm以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記シリカの平均一次粒子径が18nm以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記第一層を構成するゴム成分および前記第二層を構成するゴム成分がいずれもスチレンブタジエンゴムを60質量%以上含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項12】
RとSty1との積(R×Sty1)が20以下である、請求項7または8記載のタイヤ。
【請求項13】
RとSty2との積(R×Sty2)が20以下である、請求項7または8記載のタイヤ。
【請求項14】
前記周方向溝は、タイヤ表面側の端部からタイヤ半径方向内側に向けて溝幅が漸増している、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
以前からタイヤのトラクション性能を改善する手法について種々検討されており、例えば、特許文献1には、特定のスチレンブタジエンゴム、加硫ゴム粒子、およびカーボンブラックを含むゴム組成物をトレッドに用いることにより、高温時の耐摩耗性およびトラクション性能の総合性能を改善できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年では、タイヤのウェットグリップ性能およびトラクション性能の総合性能について、更なる改善が求められている。
【0005】
本発明は、ウェットグリップ性能およびトラクション性能の総合性能の向上を図ることができるタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を備えたタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝を有し、前記トレッド部は、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層とを少なくとも備え、前記第一層および前記第二層が、それぞれゴム成分およびシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記第一層の厚みをt1(mm)、前記周方向溝の最深部の溝深さをH(mm)、前記第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS1(質量部)、前記第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS2(質量部)、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE1(質量%)、前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE2(質量%)、前記第二層の30℃における複素弾性率を30℃E*2(MPa)、前記トレッド部の接地面におけるランド比をRとしたとき、t1/Hが0.90以下であり、Rと30℃E*2との積(R×30℃E*2)が12.0以下であり、かつAE2/S2がAE1/S1よりも大きいタイヤに関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、タイヤのウェットグリップ性能およびトラクション性能の総合性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係るタイヤのトレッド部の一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態であるタイヤは、トレッド部を備えたタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝を有し、前記トレッド部は、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層とを少なくとも備え、前記第一層および前記第二層が、それぞれゴム成分およびシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記第一層の厚みをt1(mm)、前記周方向溝の最深部の溝深さをH(mm)、前記第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS1(質量部)、前記第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS2(質量部)、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE1(質量%)、前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE2(質量%)、前記第二層の30℃における複素弾性率を30℃E*2(MPa)、前記トレッド部の接地面におけるランド比をRとしたとき、t1/Hが0.90以下であり、Rと30℃E*2との積(R×30℃E*2)が12.0以下(好ましくは8.0以下)であり、かつAE2/S2がAE1/S1よりも大きいタイヤである。
【0010】
本発明のタイヤにおいて、ウェットグリップ性能およびトラクション性能の総合性能が向上する理由については、理論に拘束されることは意図しないが、以下のように考えられる。
【0011】
AE2/S2をAE1/S1よりも大きくすることで、第一層はシリカに起因する剛性の高いゴム、第二層は低分子成分に起因する柔らかいゴムとなり、第二層は第一層に対して相対的に柔らかくなると考えられる。このため、旋回時にトレッド部に歪がかかった際には、柔らかく運動性の高い第二層が発熱しやすくなる。そして、その熱が第一層に伝わり路面への追従性が瞬時に向上することで、ウェットグリップ性能が向上すると考えられる。また、旋回後にトレッド部の温度が下がる際は、路面に近い第一層が先に空冷されるため第一層の剛性が高くなり、路面を引っかく力を生みやすくなるため、効率よくトラクション性能を発揮できると考えられる。
【0012】
また、t1/Hを0.90以下とすることで、第二層の外面が周方向溝の溝底の最深部よりもタイヤ半径方向外側に位置するようになり、陸部やブロック内部が2以上のゴム層で形成されるようになる。これにより、トレッド部の歪が発熱性の高い第二層に伝わりやすく、第二層の熱が第一層に伝わりやすくなるため、より効率的にウェットグリップ性能が向上すると考えられる。
【0013】
さらにランド比が大きくなるにしたがって第二層の30℃における複素弾性率(30℃E*2)を小さくすることにより、旋回中の第二層の運動性および発熱性の高さに起因して、旋回中および直進中において第一層が良好な剛性を得られるため、ウェットグリップ性能とトラクション性能が相乗的に向上するという特筆すべき効果が得られるものと考えられる。
【0014】
前記第一層を構成するゴム組成物のガラス転移温度Tg1および前記第二層を構成するゴム組成物のガラス転移温度Tg2は、いずれも-10℃以下であることが好ましく、いずれも-20℃以下であることがより好ましい。
【0015】
Tg1およびTg2を前記の範囲とすることで、トレッドゴムの変形速度が速くなり、高周波での変形になる高速走行時においても十分に路面に対して追従することができると考えられる。
【0016】
前記第一層の30℃におけるtanδ(30℃tanδ1)および前記第二層の30℃におけるtanδ(30℃tanδ2)は、いずれも0.50以下であることが好ましく、いずれも0.30以下であることがより好ましい。
【0017】
走行中の実温に近い温度域でのtanδを小さくすることで、入力と応答との位相差を小さくすることが可能となり、トレッド部で生じた力を瞬時に路面に伝えやすくなり、旋回性が向上すると考えられる。
【0018】
前記第一層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty1および前記第二層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty2は、いずれも45質量%以下であることが好ましく、いずれも35質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
ゴム成分中の総スチレン量を少なくすることで、過剰なスチレン部による硬いドメインの影響により、路面に対する追従性が損なわれるおそれが低下すると考えられる。
【0020】
前記シリカの平均一次粒子径は、23nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましい。
【0021】
シリカの平均一次粒子径を前記の範囲とすることにより、微細なシリカのネットワークを形成し、このネットワークを通じて、路面からの力を伝達させやすくすることができると考えられる。
【0022】
前記第一層を構成するゴム成分および前記第二層を構成するゴム成分は、グリップ性能の観点から、いずれもスチレンブタジエンゴムを60質量%以上含有することが好ましい。
【0023】
RとSty1との積(R×Sty1)は、20以下であることが好ましい。
【0024】
ランド比Rが大きくなるに従ってSty1を小さくすることで、路面との接地面積を増やしつつ、トレッド表面での追従性を得やすくすることができると考えられる。一方で、Rが小さい際にはSty1大きくすることで、トレッド表面でもエネルギーロスを生じ、旋回性を向上させやすくすることができると考えられる。
【0025】
RとSty2との積(R×Sty2)は、20以下であることが好ましい。
【0026】
ランド比Rが大きくなるに従ってSty2を小さくすることで、旋回時に第二層が変形しやすくなり、この熱により第一層も軟化され、路面に対する追従性を得やすくすることができると考えられる。また、Rが小さい際にはSty2大きくすることで、第二層内での発熱を高めることが可能となり、トレッド部全体の追従性を高めることが可能になると考えられる。
【0027】
前記周方向溝は、タイヤ表面側の端部からタイヤ半径方向内側に向けて溝幅が漸増していることが好ましい。
【0028】
周方向溝の溝幅がタイヤ半径方向内側に向けて漸増することにより、第二層が変形しやすくなり、旋回時に第二層で発熱を生じさせやすくすることができると考えられる。
【0029】
<定義>
「トレッド部」は、タイヤの接地面を形成する部分であり、タイヤ半径方向断面において、ベルト層やベルト補強層、カーカス層などのスチールやテキスタイル材料によりタイヤ骨格を形成する部材を備える場合には、それらよりもタイヤ半径方向外側の部材である。
【0030】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、JATMAであれば「JATMA YEAR BOOK」に記載されている“標準リム”、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば「STANDARDS MANUAL」に記載されている“Measuring Rim”、TRA(The Tire and Rim Association,Inc.)であれば「YEAR BOOK」に記載されている“Design Rim”を指し、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。なお、前記の規格に定められていないタイヤの場合は、そのタイヤにリム組可能であって、かつ内圧が保持できる(即ちリム/タイヤの間からエア漏れを発生させない)最小径のリムのうち、最もリム幅の狭いものを指すものとする。
【0031】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば“最高空気圧”、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値を指し、正規リムの場合と同様に、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。なお、前記の規格に定められていないタイヤの場合は、前記正規リムが標準リムとして記載されている別のタイヤサイズ(ただし、規格に定められているもの)の正規内圧(ただし、250kPa以上)を指し、250kPa以上の正規内圧が複数記載されている場合には、その中の最小値を指すものとする。
【0032】
「正規状態」は、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。なお、本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法は、前記正規状態で測定される。
【0033】
周方向溝、横溝を含め「溝」は、少なくとも2.0mmよりも大きい幅の凹みをいう。一方、「サイプ」は、幅が2.0mm以下、好ましくは0.5~2.0mmの細い切り込みをいう。
【0034】
「ランド比R」は、正規状態のタイヤに正規荷重が負荷され、キャンバー角0度で平面に接地したとき、全ての溝を埋めたと仮定した状態でのトレッド面の全表面積(すなわち、トレッド部の接地形状において、外輪郭により得られる面積)に対する、接地する接地面の全面積の比である。ここで、全ての溝とは、前記の周方向溝および横溝に該当しない溝を含むものとする。
【0035】
「接地面の全面積」は、タイヤの接地形状から計算される。接地形状は、正規リムに組み付け、正規内圧を加え、25℃で24時間静置した後、トレッド表面に墨を塗り、最大負荷能力の荷重を負荷して厚紙に押しつけ(キャンバー角は0°)、紙に転写させることで得られる。そして、タイヤを周方向に72°ずつ回転させて、5か所で転写させる。すなわち、5回、接地形状を得る。実接地面積は、墨部分の面積の5か所平均値により求められる。
【0036】
「トレッド部を構成する各ゴム層の厚み」は、タイヤを、タイヤ回転軸を含む面で切断した断面において、タイヤ赤道面上における各ゴム層の厚みであり、タイヤを周方向に72°ずつ回転させ、5か所の位置で求めたトレッドの厚みの平均値である。例えば、第一層の厚みは、タイヤ赤道面上における、トレッド最表面から第一層のタイヤ半径方向内側界面までのタイヤ半径方向の直線距離を指す。なお、タイヤ赤道面上に周方向溝を有する場合には、トレッド部を構成する各ゴム層の厚みは、タイヤ赤道面に最も近い陸部のタイヤ幅方向中央部における各ゴム層の厚みとする。「タイヤ赤道面に最も近い陸部」とは、タイヤ赤道面に存在する周方向溝の、タイヤ赤道面に最も近い溝縁を有する陸部を指すものとし、そのような陸部がタイヤ幅方向両横に存在する場合は、トレッド部を構成する各ゴム層の厚みは、当該2つの陸部のタイヤ幅方向中央部における各ゴム層の厚みの平均値とする。また、タイヤ赤道面上の陸部に通電部材などが存在し、界面が不明瞭である場合には、通電部材などにより遮られた界面を仮想的につなぎ合わせて測定するものとする。
【0037】
「周方向溝の最深部の溝深さ」は、トレッド面と周方向溝の溝底の最深部とのタイヤ半径方向の距離によって求められる。なお、周方向溝の溝底の最深部とは、陸部またはブロック部に隣接した周方向溝のうち、最も深い溝深さを有する周方向溝の溝底の最深部である。
【0038】
「軟化剤」とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料であり、ゴム組成物からアセトンを用いて抽出される成分である。軟化剤は、25℃で液体(液状)の軟化剤および25℃で固体の軟化剤を含む。ただし、通常タイヤ工業で使用されるワックスおよびステアリン酸は含まないものとする。
【0039】
「軟化剤の含有量」は、予めオイル、樹脂成分、液状ゴム成分等の軟化剤により伸展された伸展ゴム成分中に含まれる軟化剤の量も含む。また、オイルの含有量、樹脂成分の含有量、液状ゴムの含有量についても同様であり、例えば、伸展成分がオイルである場合には伸展オイルはオイルの含有量に含まれる。
【0040】
<測定方法>
「トレッド部を構成する各ゴム層の厚み」は、タイヤを、タイヤ回転軸を含む面で切断し、ビード部の幅を正規リムの幅に合わせた状態で測定される。
【0041】
「アセトン抽出量」は、JIS K 6229:2015に準拠して各加硫ゴム試験片を常温(25℃前後)で72時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求めることができる。
(アセトン抽出量(質量%))={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0042】
「30℃tanδ」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される損失正接である。損失正接測定用サンプルは、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物である。タイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように切り出す。
【0043】
「30℃E*」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される複素弾性率である。本測定用サンプルは、30℃tanδの場合と同様にして作製される。
【0044】
「ゴム組成物のガラス転移温度(Tg)」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%および昇温速度2℃/minの条件下でtanδの温度分布曲線を測定し、得られた温度分布曲線の-60℃~40℃の範囲における極大値に対応する温度(tanδピーク温度)をガラス転移温度とする。なお、-60℃~40℃の範囲において、tanδが温度上昇に伴い、漸増もしくは漸減し続ける場合は、ガラス転移温度は、それぞれ40℃もしくは-60℃とする。また、-60℃~40℃の範囲において、極大値を示す点が2点存在する場合は、それらのうち最も温度が低い点をガラス転移温度とする。本測定用サンプルは、30℃tanδの場合と同様にして作製される。
【0045】
「スチレン含量」は、1H-NMR測定により算出される値であり、例えば、SBR等のスチレンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。
【0046】
「ビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、例えば、SBR、BR等のブタジエンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。
【0047】
「シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、例えば、BR等のブタジエンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。
【0048】
「ゴム成分中の総スチレン量」とは、ゴム成分100質量%中に含まれるスチレン単位の合計含有量(質量%)であって、各ゴム成分について、それぞれ、スチレン含量(質量%)にゴム成分中の質量分率を乗じて得られる値を算出し、それら値を総和した値である。具体的にはΣ(各スチレン単位含有ゴムのスチレン含量(質量%)×各スチレン単位含有ゴムのゴム成分中の含有量(質量%)/100)により算出される。
【0049】
「ゴム成分のガラス転移温度(Tg)」は、JIS K 7121に従い、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の示差走査熱量計(Q200)を用いて昇温速度10℃/分で昇温しながら測定することにより、測定される。
【0050】
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。例えば、SBR、BR等に適用される。
【0051】
「カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)」は、JIS K 6217-2:2017に準じて測定される。「シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)」は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される。
【0052】
「平均一次粒子径」は、粒子を透過型または走査型電子顕微鏡で写真撮影し、400個の粒子径の算術平均により求められる。粒子径は、粒子の形状がほぼ円形の場合には円の直径を粒子径とし、針状または棒状の場合には短径を粒子径とし、それ以外の場合には電子顕微鏡画像から円相当径を算出して粒子径とする。円相当径は、(4×(粒子の面積)/π)^0.5として求められる。平均一次粒子径は、シリカやカーボンブラック等に適用される。
【0053】
「樹脂成分の軟化点」は、JIS K 6220-1:2015 7.7に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0054】
本発明の一実施形態であるタイヤについて、適宜図面を用いて説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。
【0055】
<タイヤ>
図1に、本実施形態に係るタイヤのトレッド部の一部が示された断面図の一例を示す。
図1において、上下方向がタイヤの半径方向であり、左右方向がタイヤの軸方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤの周方向である。
【0056】
図示される通り、本実施形態に係るタイヤのトレッド部は、第一層11および第二層12を備え、第一層11の外面がトレッド面を構成し、第二層12が第一層11のタイヤ半径方向内側に隣接している。また、本発明の目的が達成される限り、第二層13とベルト層(非図示)との間に、さらに1または2以上のゴム層(
図1では第三層13)を有していてもよい。
【0057】
第一層11の厚みt1は、本発明の効果の観点から、3mm以上が好ましく、4mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。一方、t1は、14mm以下が好ましく、12mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。
【0058】
第二層12の厚みt2は、本発明の効果の観点から、0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましい。一方、t2は、10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましく、6mm以下がさらに好ましい。
【0059】
周方向溝の溝深さHは、本発明の効果の観点から、5mm以上が好ましく、6mm以上がより好ましく、7mm以上がさらに好ましい。一方、Hは、16mm以下が好ましく、14mm以下がより好ましく、12mm以下がさらに好ましい。
【0060】
本実施形態に係るタイヤは、周方向溝の溝底の最深部が、第二層12の外面よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成され、陸部が2以上のゴム層で形成される。t1/Hは、本発明の効果の観点から、0.90以下であり、0.88以下が好ましく、0.85以下がより好ましい。一方、t1/Hの下限値は特に制限されないが、0.30以上が好ましく、0.40以上がより好ましく、0.50以上がさらに好ましい。
【0061】
第二層12は、前記第二層の最外部に対してタイヤ半径方向内側に凹んだ凹部を有し、かつ、第一層11の一部が第二層12の前記凹部内に形成されていることが好ましく、凹部表面を第一層11が形成していることがより好ましい。このような構成とすることにより、トレッド部が摩耗し、第二層が露出すると、第二層が陸部の中央部分に、第一層が陸部のエッジ部分にそれぞれ存在することとなり、本発明の効果が発揮しやすくなると考えられる。
【0062】
図1では、周方向溝3は、周方向溝3の溝底の最深部が、周方向溝3に隣接する陸部における第二層12のタイヤ半径方向最外部よりもタイヤ半径方向内側に位置するように形成されている。具体的には、周方向溝3のタイヤ半径方向内側では、第二層12は、その最外部に対してタイヤ半径方向内側に凹んだ凹部を有し、第一層11の一部が第二層12の当該凹部内に所定の厚さで形成されている。周方向溝3は、第二層12のタイヤ半径方向最外部を越えて第二層12の凹部の内側へ入り込むように形成されている。
【0063】
周方向溝の少なくとも一つの溝壁には、トレッド部の踏面に表れる溝縁2よりも溝幅方向の外側に凹む凹部が設けることが好ましい。周方向溝の溝壁にかかる凹部を設けることで、第二層が変形しやすくなり、旋回時に第二層で発熱を生じさせやすくすることができると考えられる。
【0064】
図1では、周方向溝3は、両側の溝壁10に、凹み量がタイヤ周方向に一定の凹部9が設けられている。周方向溝3は、タイヤ表面側の端部からタイヤ半径方向内側に向けて溝幅が漸増している。周方向溝3の溝壁5は、タイヤ半径方向外側から内側に向かって直線状に延びているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、曲線状や階段状に延びていてもよい。
【0065】
周方向溝3の合計凹み量(
図1ではc1+c2)は、周方向溝3の溝幅W1の0.10~2.00倍が好ましく、0.20~1.50倍がより好ましく、0.30~0.90倍がさらに好ましい。なお、当該凹部を有する周方向溝が複数存在する場合には、何れかの周方向溝の合計凹み量が上記の関係を満たしていればよく、全ての凹部を有する溝が上記関係を満たしていてもよい。
【0066】
トレッド部の接地面におけるランド比Rは、0.50以上が好ましく、0.55以上がより好ましく、0.60以上がさらに好ましく、0.65以上が特に好ましい。また、ランド比Rは、0.90以下が好ましく、0.88以下がより好ましく、0.85以下がさらに好ましく、0.82以下が特に好ましい。
【0067】
第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量(AE1)は、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましく、14質量%以上が特に好ましい。また、AE1は、30質量%以下が好ましく、27質量%以下がより好ましく、24質量%以下がさらに好ましい。
【0068】
第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量(AE2)は、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましく、14質量%以上がさらに好ましく、16質量%以上がさらに好ましく、18質量%以上が特に好ましい。また、AE2は、32質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、28質量%以下がさらに好ましく、26質量%以下が特に好ましい。
【0069】
第一層を構成するゴム組成物の30℃E*(30℃E*1)は、5MPa以上が好ましく、6MPa以上がより好ましく、7MPa以上がさらに好ましく、8MPa以上が特に好ましい。一方、30℃E*1は、40MPa以下が好ましく、35MPa以下がより好ましく、30MPa以下がさらに好ましい。
【0070】
第二層を構成するゴム組成物の30℃E*(30℃E*2)は、2MPa以上が好ましく、3MPa以上がより好ましく、4MPa以上がさらに好ましい。一方、30℃E*2は、18MPa以下が好ましく、16MPa以下がより好ましく、14MPa以下がさらに好ましい。
【0071】
30℃E*1と30℃E*2との差(30℃E*1-30℃E*2)は、1MPa以上が好ましく、2MPa以上がより好ましく、3MPa以上がさらに好ましく、4MPa以上が特に好ましい。一方、30℃E*1-30℃E*2の上限値は特に制限されないが、20MPa以下が好ましく、18MPa以下がより好ましく、16MPa以下がさらに好ましく、14MPa以下が特に好ましい。
【0072】
なお、ゴム組成物の30℃E*は、後記のゴム成分、フィラー、軟化剤の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0073】
第一層を構成するゴム組成物の30℃tanδ(30℃tanδ1)は、本発明の効果の観点から、0.55以下が好ましく、0.50以下がより好ましく、0.45以下がさらに好ましく、0.40以下がさらに好ましく、0.35以下がさらに好ましく、0.30以下が特に好ましい。また、第二層を構成するゴム組成物の30℃tanδ(30℃tanδ2)は、0.55以下が好ましく、0.50以下がより好ましく、0.45以下がさらに好ましく、0.40以下がさらに好ましく、0.35以下がさらに好ましく、0.30以下が特に好ましい。一方、30℃tanδ1および30℃tanδ2は、本発明の効果の観点から、0.06以上が好ましく、0.08以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましく、0.12以上が特に好ましい。なお、ゴム組成物の30℃tanδは、後記のゴム成分、フィラー、軟化剤の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0074】
第一層を構成するゴム組成物のTg(Tg1)は、-5℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-15℃以下がさらに好ましく、-20℃以下がさらに好ましく、-24℃以下が特に好ましい。また、第二層を構成するゴム組成物のTg(Tg2)は、-5℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-15℃以下がさらに好ましく、-20℃以下がさらに好ましく、-24℃以下が特に好ましい。一方、Tg1およびTg2の下限値は特に制限されないが、-65℃以上が好ましく、-60℃以上がより好ましく、-55℃以上がさらに好ましく、-50℃以上が特に好ましい。なお、ゴム組成物のTgは、後記のゴム成分、フィラー、軟化剤の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0075】
本実施形態に係るタイヤは、第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS1(質量部)、前記第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS2(質量部)としたとき、AE2/S2がAE1/S1よりも大きいことを特徴とする。AE2/S2とAE1/S1との差(AE2/S2-AE1/S1)は、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましく、0.04以上が特に好ましい。一方、AE2/S2とAE1/S1との差(AE2/S2-AE1/S1)の上限値は特に制限されないが、0.30以下が好ましく、0.25以下がより好ましく、0.20以下がさらに好ましい。
【0076】
AE1/S1は、0.10以上が好ましく、0.12以上がより好ましく、0.14以上がさらに好ましく、0.16以上が特に好ましい。また、AE1/S1は、0.30以下が好ましく、0.27以下がより好ましく、0.24以下がさらに好ましい。
【0077】
AE2/S2は、0.17以上が好ましく、0.19以上がより好ましく、0.21以上がさらに好ましく、0.23以上が特に好ましい。また、AE2/S2は、0.47以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.43以下がさらに好ましい。
【0078】
Rと30℃E*2との積(R×30℃E*2)は、本発明の効果の観点から12.0以下であり、11.5以下が好ましく、11.0以下がより好ましく、10.5以下がさらに好ましく、10.0以下が特に好ましい。一方、R×30℃E*2は、第二層を構成するゴム組成物の運動性および発熱性の観点から、2.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましい。
【0079】
第一層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty1(質量%)としたとき、RとSty1との積(R×Sty1)は、35以下が好ましく、30以下がより好ましく、25以下がさらに好ましく、20以下がさらに好ましく、18以下が特に好ましい。また、R×Sty1の下限値は特に制限されないが、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、8以上が特に好ましい。
【0080】
第二層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty2(質量%)としたとき、RとSty2との積(R×Sty2)は、35以下が好ましく、30以下がより好ましく、25以下がさらに好ましく、20以下がさらに好ましく、18以下が特に好ましい。また、R×Sty2の下限値は特に制限されないが、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、8以上が特に好ましい。
【0081】
[ゴム組成物]
以下、本発明のタイヤのトレッド部を構成するゴム組成物(本実施形態に係るゴム組成物)について説明するが、特に断りのない限り、トレッド部のいずれのゴム層にも適用可能なものとする。本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分とシリカとを含み、さらにその他の配合剤を含み得るものである。
【0082】
<ゴム成分>
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分としてジエン系ゴムが好適に用いられる。ジエン系ゴムとしては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。これらのジエン系ゴムは、カーボンブラックやシリカ等のフィラーと相互作用可能な変性基で処理された変性ゴムであってもよく、不飽和結合の一部を水素添加処理した水添ゴムであってもよい。ジエン系ゴムは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、後述の軟化剤を用いてあらかじめ伸展された伸展ゴムを用いてもよい。
【0083】
ゴム成分中のジエン系ゴムの含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。また、ジエン系ゴムのみからなるゴム成分としてもよい。
【0084】
ジエン系ゴム成分としては、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。第一層を構成するゴム成分は、SBRを含むことが好ましく、SBRおよびBRを含むことがより好ましい。第二層を構成するゴム成分は、SBRを含むことが好ましく、SBRおよびBRを含むことがより好ましい。
【0085】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、未変性の溶液重合SBR(S-SBR)や乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加されたSBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0086】
本実施形態に係るSBRとして伸展SBRを用いることもでき、非伸展SBRを用いることもできる。伸展SBRを用いる場合、SBRの伸展量、すなわち、SBRに含まれる伸展軟化剤の含有量は、SBRのゴム固形分100質量部に対して、10~50質量部であることが好ましい。
【0087】
前記で列挙されたSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記で列挙されたSBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)、ZSエラストマー(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0088】
SBRのスチレン含量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、28質量%以下が特に好ましい。また、SBRのスチレン含量は、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。なお、SBRのスチレン含量は、前記測定方法により測定される。
【0089】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度、および耐摩耗性能の観点から、10モル%以上が好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、SBRのビニル含量は、前記測定方法により測定される。
【0090】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、本発明の効果の観点から、10万以上が好ましく、14万以上がより好ましく、18万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点から、重量平均分子量は200万以下が好ましく、180万以下がより好ましく、150万以下がさらに好ましい。なお、SBRのMwは、前記測定方法により測定される。
【0091】
SBRのガラス転移温度(Tg)は、耐摩耗性能の観点から、-90℃以上が好ましく、-80℃以上がより好ましく、-70℃以上がさらに好ましい。また、SBRのTgは、-10℃以下が好ましく、-15℃以下がより好ましく、-20℃以下がさらに好ましい。なお、SBRのTgは、前記測定方法により測定される。
【0092】
第一層を構成するゴム成分中のSBRの含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましい。また、該含有量の上限値は特に制限されないが、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。
【0093】
第一層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty1は、45質量%以下が好ましく、42質量%以下が好ましく、37質量%以下がさらに好ましく、33質量%以下が特に好ましい。また、Sty1は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量以上がさらに好ましい。
【0094】
第二層を構成するゴム成分中のSBRの含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましい。また、該含有量の上限値は特に制限されないが、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。
【0095】
第二層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty2は、45質量%以下が好ましく、42質量%以下が好ましく、37質量%以下がさらに好ましく、33質量%以下が特に好ましい。また、Sty2は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、7質量以上がさらに好ましい。
【0096】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50質量%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90質量%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで耐摩耗性能を向上させることができる。ハイシスBRのシス含量は、95質量%以上が好ましく、96質量%以上より好ましく、97質量%以上さらに好ましい。なお、BRのシス含量は、前記測定方法により測定される。
【0098】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0099】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0100】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、BRのMwは、前記測定方法により測定される。
【0101】
第一層を構成するゴム成分中のBRの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。また、該含有量の下限値は特に制限されないが、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。
【0102】
第二層を構成するゴム成分中のBRの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。また、該含有量の下限値は特に制限されないが、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。
【0103】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0104】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0105】
イソプレン系ゴムの含有量は、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。また、該含有量の下限値は特に制限されないが、例えば、1質量%以上が好ましく、3質量%以上、5質量%以上とすることができる。
【0106】
(その他のゴム成分)
ゴム成分は、本発明の効果に影響を与えない範囲で、ジエン系ゴム以外の他のゴム成分を含有してもよい。ジエン系ゴム以外の他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等の非ジエン系ゴムが挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、上記のゴム成分の他に、公知の熱可塑性エラストマーを含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0107】
<フィラー>
本実施形態に係るゴム組成物はフィラーとしてシリカを含み、カーボンブラックおよびシリカを含むことが好ましい。
【0108】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なお、一般的な鉱油を燃焼させて生成されるカーボンブラック以外に、リグニン等のバイオマス材料を用いたカーボンブラックを用いてもよい。また、タイヤやプラスチック製品等のカーボンブラックを含む製品を熱分解して得られたリサイクルカーボンブラックを用いてもよい。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0109】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から、30m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、70m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、200m2/g以下が好ましく、180m2/g以下がより好ましく、160m2/g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0110】
第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、補強性の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、35質量部以下が特に好ましい。
【0111】
第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、補強性の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、35質量部以下が特に好ましい。
【0112】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。なお、上記のシリカの他に、もみ殻などのバイオマス材料を原料としたシリカを適宜用いてもよい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、120m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、170m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、シリカのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0114】
シリカの平均一次粒子径は、本発明の効果の観点から、25nm以下が好ましく、23nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましく、18nm以下が特に好ましい。該平均一次粒子径の下限値は特に限定されないが、シリカの分散性の観点から、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。なお、シリカの平均一次粒子径は、前記測定方法により測定される。
【0115】
第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量S1は、本発明の効果の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましく、65質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、130質量部以下がさらに好ましく、120質量部以下が特に好ましい。
【0116】
第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量S2は、本発明の効果の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましく、65質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、130質量部以下がさらに好ましく、120質量部以下が特に好ましい。
【0117】
(その他のフィラー)
シリカおよびカーボンブラック以外のフィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、タルク、クレー、バイオ炭(BIOCHAR)等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。これらその他のフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0118】
ゴム成分100質量部に対するフィラーの合計含有量は、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましく、65質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、160質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、140質量部以下がさらに好ましく、130質量部以下が特に好ましい。
【0119】
第一層を構成するゴム組成物に含まれるフィラー中のシリカの含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましい。また、該含有率の上限は特に限定されないが、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0120】
第二層を構成するゴム組成物に含まれるフィラー中のシリカの含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、75質量%以上が特に好ましい。また、該含有率の上限は特に限定されないが、98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、92質量%以下がさらに好ましい。
【0121】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤および/またはメルカプト系シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、エボニックデグサ社、モメンティブ社等より市販されているものを使用することができる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、コストおよび加工性の観点からは、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、12質量部以下がさらに好ましい。
【0123】
<その他の配合剤>
本実施形態に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、軟化剤、ワックス、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0124】
軟化剤としては、例えば、樹脂成分、オイル、液状ポリマー等が挙げられる。
【0125】
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等の炭化水素樹脂が挙げられる。
【0126】
石油樹脂としては、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、C5C9系石油樹脂等が挙げられる。
【0127】
本明細書において「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0128】
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0129】
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0130】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とをモノマー成分として含む芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とをモノマー成分として含むテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂のモノマー成分となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂のモノマー成分となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。
【0131】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0132】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0133】
樹脂成分の軟化点は、グリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、樹脂成分の軟化点は、前記測定方法により測定される。
【0134】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、7質量部以上が特に好ましい。また、発熱性抑制の観点からは、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましく、25質量部以下が特に好ましい。
【0135】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油等が挙げられる。プロセスオイルとしては、パラフィン系プロセスオイル(ミネラルオイル)、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。プロセスオイルの具体例としては、例えば、MES(Mild Extract Solvated)、DAE(Distillate Aromatic Extract)、TDAE(Treated Distillate Aromatic Extract)、TRAE(Treated Residual Aromatic Extract)、RAE(Residual Aromatic Extract)等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、MES、TDAE、重ナフテン系オイル等が挙げられる。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンに用いられた後の廃油や、調理店で使用された廃食用油を精製したものを用いてもよい。
【0136】
第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するオイルの含有量は、本発明の効果の観点から、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、80質量部以下が好ましく、75質量部以下がより好ましく、70質量部以下がさらに好ましい。
【0137】
第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するオイルの含有量は、本発明の効果の観点から、25質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、35質量部以上がさらに好ましく、40質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、75質量部以下が特に好ましい。
【0138】
液状ポリマーは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレンゴム重合体(液状IR)、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状スチレンイソプレンゴム共重合体(液状SIR)、ミルセンやファルネセンを含む重合体等が挙げられる。これらの液状ポリマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0139】
液状ポリマーを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、液状ポリマーの含有量は、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0140】
第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量(複数の軟化剤を併用する場合は全ての合計量)は、本発明の効果の観点から、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい、25質量部以上がさらに好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、35質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、90質量部以下が好ましく、85質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、75質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下が特に好ましい。
【0141】
第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量(複数の軟化剤を併用する場合は全ての合計量)は、本発明の効果の観点から、30質量部以上が好ましく、35質量部以上がより好ましく、40質量部以上がさらに好ましく、45質量部以上がさらに好ましく、50質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、100質量部以下が好ましく、95質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましく、85質量部以下が特に好ましい。
【0142】
ワックスとしては、特に限定されず、タイヤ工業において通常使用されるものをいずれも好適に用いることができ、例えば、石油系ワックス、鉱物系ワックス、合成ワックス等が挙げられ、石油系ワックスが好ましい。石油系ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、これらの精選特殊ワックス等が挙げられ、パラフィンワックスが好ましい。なお、本実施形態に係るワックスは、ステアリン酸を含まないものとする。ワックスは、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、パラメルト社等より市販されているものを使用することができる。これらのワックスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0143】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0144】
老化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0145】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0146】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0147】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0148】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0149】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.5質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0150】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0151】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、カプロラクタムジスルフィド等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤を併用することがより好ましい。
【0152】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、TBBSおよびCBSが好ましい。
【0153】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)またはその塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド(MBTS)、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられる。なかでも、MBTSおよびMBTが好ましく、MBTSがより好ましい。
【0154】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、DPGが好ましい。
【0155】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部以下が好ましく、6.0質量部以下がより好ましく、4.0質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0156】
[ゴム組成物およびタイヤの製造]
本実施形態に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0157】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0158】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0159】
前記ゴム組成物から構成されるトレッドを備えた本開示のタイヤは、通常の方法により製造することができる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、トレッドの第一層および第二層の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0160】
[タイヤの用途]
本実施形態に係るタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤに好適に用いることができ、中でも乗用車用タイヤに用いることが好ましい。なお、乗用車用タイヤとは、四輪で走行する自動車に装着されることを前提としたタイヤであり、その最大負荷能力が1000kg以下のものを指す。
【実施例0161】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。以下に示す各種薬品を用いて、表1の配合に従って得られるトレッド部の第一層、第二層、および第三層を有するタイヤを検討して下記評価方法に基づいて算出した結果を表2および表3に示す。
【0162】
以下、実施例および比較例において用いる各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
SBR1:下記製造例1により製造されたSBR(S-SBR、スチレン含量:46質量%、ビニル含量:40モル%、非伸展品)
SBR2:ZSエラストマー(株)製のNipol NS522(S-SBR、スチレン含量:39質量%、ビニル含量:40モル%、Tg:-25℃、Mw:120万、ゴム固形分100質量部に対して油展オイル分37.5質量部含有)
SBR3:下記製造例2により製造されたSBR(S-SBR、スチレン含量:25質量%、ビニル含量:25モル%、非伸展品)
SBR4:JSR(株)製のHPR850(S-SBR、スチレン含量:27.5質量%、ビニル含量:59モル%、Tg:-24℃、Mw:20万、非伸展品)
SBR5:JSR(株)製のHPR840(S-SBR、スチレン含量:10質量%、ビニル含量:42モル%、Tg:-60℃、Mw:19万、非伸展品)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(未変性BR、シス含量:97質量%、Mw:44万)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330(N2SA:75m2/g)
シリカ1:ソルベイ社製のZeosil 1115MP(N2SA:115m2/g、平均一次粒子径:24nm)
シリカ2:ソルベイ社製のZEOSIL 115GR(N2SA:115m2/g、平均一次粒子径:20nm)
シリカ3:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:17nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:H&R(株)製のVivaTec500(TDAEオイル)
樹脂成分:クレイトン社製のSylvares SA85(α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、軟化点:85℃)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN(パラフィンワックス)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華2種
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0163】
(製造例1:SBR1の製造)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、ヘキサン、1,3-ブタジエン、スチレン、テトラヒドロフランを投入し、40℃で撹拌する。スチレンおよび1,3-ブタジエンの比率は、スチレン含量が46質量%となるように調整する。0.1mоl/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液を添加しスカベンジ処理をした後、0.1mоl/Lのn-ブチルリチウム/ヘキサン溶液4mLを添加し、撹拌速度を130rpm、ジャケット温度を80℃にして撹拌する。GPCでMwが100万の重合物の生成を確認した後、重合溶液を4Lのエタノールに注ぎ、沈殿を回収する。得られた沈殿を送風乾燥した後、80℃/10Pa以下で乾燥減量が0.1%になるまで減圧乾燥を行い、SBR1を得る。
【0164】
(製造例2:SBR2の製造)
スチレンおよび1,3-ブタジエンの比率を、スチレン含量が25質量%となるように調整する以外は製造例1と同様の方法で、SBR2を得る。
【0165】
(実施例および比較例)
表1および表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、該混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。該未加硫ゴム組成物を用いて、所定の形状の口金を備えた押し出し機でトレッド部の第一層(厚さ:8.5mm)および第二層(厚さ:1.5mm)の形状に合わせて押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、表3および表4に記載の各試験用タイヤ(サイズ:205/55R16、リム:16×6.5J、内圧:250kPa)を得る。なお、周方向溝の最深部の溝深さHは9.5mm、周方向溝の溝幅は9.0mm、周方向溝の合計凹み量は5.4mmとする。
【0166】
<アセトン抽出量(AE量)の測定>
各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層内部から切り出した加硫ゴム試験片について、それぞれAE量を測定する。AE量は、JIS K 6229:2015に準拠して各加硫ゴム試験片を常温(25℃前後)で72時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求める。
(アセトン抽出量(質量%))={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0167】
<30℃tanδおよび30℃E*の測定>
各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層内部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製される各加硫ゴム試験片について、動的粘弾性測定装置(GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で損失正接tanδおよび複素弾性率E*を測定する。
【0168】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
各試験用タイヤのトレッド部の各ゴム層内部から、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製される各加硫ゴム試験片について、動的粘弾性測定装置(GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、周波数10Hz、初期歪10%、振幅±0.5%および昇温速度2℃/minの条件下でtanδの温度分布曲線を測定し、得られた温度分布曲線の-60℃~40℃の範囲における極大値に対応する温度(tanδピーク温度)をガラス転移温度とする。
【0169】
<ウェットグリップ性能>
上記の各試験用タイヤを国産FF車(排気量2000cc)の全輪に装着した車両で、湿潤アスファルト路面にて、初速度100km/hで走行中にブレーキを踏み、制動距離を測定する。制動距離の逆数の値について、比較例1の制動距離を100として指数表示する。指数が大きいほど、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0170】
<トラクション性能>
上記の各試験用タイヤを国産FF車(排気量2000cc)の全輪に装着した車両で、ドライアスファルト路面にて80km/hで走行し、コーナー出口でアクセルを踏んだ際のフィーリングに基づいて、トランクション性能を官能評価する。評価は1点~5点の整数値で行い、評点が高いほどトラクション性能に優れる評価基準のもと、テストドライバー20名の合計点を算出する。そして、対照タイヤ(比較例1)の合計点を基準値(100)に換算し、各試験用タイヤの評価結果を合計点に比例するように指数化して表示する。
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
<実施形態>
本発明の実施形態の例を以下に示す。
【0176】
〔1〕トレッド部を備えたタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝を有し、前記トレッド部は、トレッド面を構成する第一層と、前記第一層の半径方向内側に隣接する第二層とを少なくとも備え、前記第一層および前記第二層が、それぞれゴム成分およびシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記第一層の厚みをt1(mm)、前記周方向溝の最深部の溝深さをH(mm)、前記第一層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS1(質量部)、前記第二層を構成するゴム組成物中のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量をS2(質量部)、前記第一層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE1(質量%)、前記第二層を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAE2(質量%)、前記第二層の30℃における複素弾性率を30℃E*2(MPa)、前記トレッド部の接地面におけるランド比をRとしたとき、t1/Hが0.90以下であり、Rと30℃E*2との積(R×30℃E*2)が12.0以下であり、かつAE2/S2がAE1/S1よりも大きいタイヤ。
〔2〕R×30℃E*2が8.0以下である、上記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕前記第一層を構成するゴム組成物のガラス転移温度Tg1および前記第二層を構成するゴム組成物のガラス転移温度Tg2がいずれも-10℃以下である、上記〔1〕または〔2〕記載のタイヤ。
〔4〕Tg1およびTg2がいずれも-20℃以下である、上記〔3〕記載のタイヤ。
〔5〕前記第一層の30℃におけるtanδ(30℃tanδ1)および前記第二層の30℃におけるtanδ(30℃tanδ2)がいずれも0.50以下である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔6〕30℃tanδ1および30℃tanδ2がいずれも0.30以下である、上記〔5〕記載のタイヤ。
〔7〕前記第一層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty1および前記第二層を構成するゴム成分中の総スチレン量Sty2がいずれも45質量%以下である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔8〕Sty1およびSty2がいずれも35質量%以下である、上記〔7〕記載のタイヤ。
〔9〕前記シリカの平均一次粒子径が23nm以下である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔10〕前記シリカの平均一次粒子径が18nm以下である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔11〕前記第一層を構成するゴム成分および前記第二層を構成するゴム成分がいずれもスチレンブタジエンゴムを60質量%以上含有する、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔12〕RとSty1との積(R×Sty1)が20以下である、上記〔7〕~〔11〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔13〕RとSty2との積(R×Sty2)が20以下である、上記〔7〕~〔12〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔14〕前記周方向溝は、タイヤ表面側の端部からタイヤ半径方向内側に向けて溝幅が漸増している、上記〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のタイヤ。