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特開2024-17648核酸増幅用組成物の保存安定性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017648
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】核酸増幅用組成物の保存安定性向上方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20240201BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240201BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120441
(22)【出願日】2022-07-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.BRIJ
3.Triton
4.ノニデット
5.Emulgen
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永友 寛一郎
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】 保存安定性の向上した核酸増幅用組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、(I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及び/又はモノヌクレオチドであるヌクレオチド類、及び(III)緩衝剤と、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤とを共存させることで、保存安定性が向上したプレミックスタイプの核酸増幅用組成物を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及びモノヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも一種のヌクレオチド類、及び(III)緩衝剤を含む核酸増幅用組成物に、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を共存させることを特徴とする、核酸増幅用組成物の保存安定性を向上させる方法。
【請求項2】
25℃で1日間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下を抑制する、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項3】
4℃で1ヵ月間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下を抑制する、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項4】
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項5】
界面活性剤として、Tween20、TritonX-100、TritonX-114、ノニデットP40、Brij35、Brij58、SDS、CHAPS、CHAPSO、及びEmulgen420からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項6】
2価以上の金属イオンとして、マグネシウムイオン及びマンガンイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項7】
(IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種とを含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項8】
(IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオン、界面活性剤及び硫酸アンモニウムを含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項9】
(II)ヌクレオチド類として蛍光標識されたプローブを含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項10】
更に、(V)抗DNAポリメラーゼ抗体を含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項11】
(I)DNAポリメラーゼが逆転写活性を有するDNAポリメラーゼである、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項12】
(I)DNAポリメラーゼがFamily Aに属するDNAポリメラーゼである、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項13】
更に、(VII)逆転写酵素を含む、請求項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項14】
(VII)逆転写酵素が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)由来の逆転写酵素、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)由来の逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項13に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項15】
蛍光標識されたプローブがTaqManプローブである、請求項9に記載の保存安定性を向上させる方法。
【請求項16】
(I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及びモノヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも一種のヌクレオチド類、(III)緩衝剤、並びに(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含む、プレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項17】
25℃で1日間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下が抑制されている、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項18】
4℃で1ヵ月間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下が抑制されている、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項19】
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項20】
界面活性剤として、Tween20、TritonX-100、TritonX-114、ノニデットP40、Brij35、Brij58、SDS、CHAPS、CHAPSO、及びEmulgen420からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項21】
2価以上の金属イオンとして、マグネシウムイオン及びマンガンイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項22】
(IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種とを含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項23】
(IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオン、界面活性剤及び硫酸アンモニウムを含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項24】
(II)ヌクレオチド類として蛍光標識されたプローブを含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項25】
更に、(V)抗DNAポリメラーゼ抗体を含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項26】
(I)DNAポリメラーゼが逆転写活性を有するDNAポリメラーゼである、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項27】
(I)DNAポリメラーゼがFamily Aに属するDNAポリメラーゼである、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項28】
更に、(VII)逆転写酵素を含む、請求項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項29】
(VII)逆転写酵素が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)由来の逆転写酵素、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)由来の逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項28に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【請求項30】
蛍光標識されたプローブがTaqManプローブである、請求項24に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅用組成物の保存安定性向上方法に関する。より具体的には、所定の添加剤を共存させることにより核酸増幅用組成物の保存安定性を向上させる方法、及びこれにより保存安定性が向上した核酸増幅用組成物、並びにこのように保存安定性が向上した核酸増幅用組成物を用いてリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応またはリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により核酸を検出する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅法は数コピーの標的核酸を可視化可能な数億コピー以上に増幅する技術であり、遺伝子診断、臨床検査といった医療分野、あるいは、食品や環境中の微生物検査等において広く用いられている。代表的な核酸増幅法に、PCR(Polymerase Chain Reaction)がある。PCRは、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、サイクルを繰り返すことによって、試料中の標的核酸を増幅する方法である。アニーリングと伸長を同温度で、2ステップで行う場合もある。
【0003】
RNAを分析する手法として、PCRの前段で、鋳型RNAをcDNAに変換する逆転写(Reverse Transcription;RT)を実施するRT-PCRがある。RT-PCRは、(1)RT、PCRを非連続に実施する2ステップRT-PCR、(2)RT、PCRを連続して実施する1ステップRT-PCRの2つに大別される。
【0004】
PCRおよびRT-PCRは、遺伝子検査や病原性微生物検査に広く用いられている。ウイルス検査の例として、病原性RNAウイルスの一つであるノロウイルスが挙げられる。ノロウイルスは、急性胃腸炎の原因となる1本鎖RNAウイルスである。感染力が強く、集団食中毒や集団感染を引き起こすことから、公衆衛生上関心の高いウイルスである。ノロウイルスの病原体検査では、組織培養法が確立できておらず、電子顕微鏡法、ELISAによる免疫学的抗原検出法、または核酸増幅技術を利用したウイルス遺伝子の検出法が開発されてきた。このうち、日本においては、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に基づくRT-PCR法が公定法として普及しており、ノロウイルスの数多くの試験が実施されている。
【0005】
病原性微生物検査では、感染拡大を早期に抑止するためにも、多検体を短時間で効率的に検査することが求められている。例えば、ノロウイルスや変異型コロナウイルスSARS-CoV-2をはじめとするRNAウイルスを検出する検査であれば、作業が煩雑で時間を要する検体からのRNA精製作業を省略し、作業を簡略化する手法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0006】
市販のPCR反応試薬は、往々にして複数のパーツに分かれており、試験に使用する際は各パーツを混合し、PCR反応液を用事調製する必要がある。高頻度に試験を実施する場合、PCR反応液の調製作業の回数を減らすため、複数回の試験分を一括して調製することで、作業負担の軽減が試みられてきた。しかし、調製したPCR反応液は長期間保存すると感度が低下する問題があった。例えば、蛍光化合物を利用した増幅産物の検出方法では、得られる蛍光強度の低下や消失として確認される。試薬の感度低下は、検査を正しく実施できなくなり偽陰性を生じさせる恐れがある。
【0007】
そこで、作業性に優れながら、PCR反応液などの核酸増幅用組成物の保存安定性を高める方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2019/017452号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】食品微生物学会誌、第35巻、2018年、第193-198頁
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、作業性に優れながら、核酸増幅用組成物としての保存安定性の低下が抑制され、長期保存後に使用しても十分な感度でターゲット核酸の有無を検出できる手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意研究を行った結果、PCR反応液等の核酸増幅用組成物に所定の添加剤を共存させることで、当該組成物の保存安定性低下を抑制するとともに、長期保存後に当該組成物をPCR反応またはRT-PCR反応等の核酸増幅反応に供する場合にも、ターゲット核酸(例えば、ウイルスや細菌等の病原性微生物由来のターゲット核酸)を十分な感度で検出することが可能であることを見出した。
【0012】
一般に、PCR反応液中には、反応に必要となる酵素、オリゴヌクレオチド等のヌクレオチド類、金属イオン、検出用途の蛍光化合物、緩衝液、添加剤等の様々な成分が含まれており、従来PCR反応液は用事調製される。これは、PCR反応液を保管すると、反応液中の構成物の劣化や分解、酵素による予期せぬ反応による構成物の消化等の要因により、検出感度の著しい低下を引き起こすと考えられるためである。しかし、全く予想外のことに、核酸増幅用組成物に、界面活性剤、硫酸アンモニウム及び/又は0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンを共存させるというシンプルな手法で、核酸増幅用組成物の保存安定性の低下を抑制し、一定期間保存しても検出感度の低下を高度に抑制でき、蛍光化合物等によるターゲット核酸の検出が可能になることを見出した。その結果、例えば、PCR反応液を事前に調製して保存することが可能となり、多量の検体を高頻度に試験する際に負担となる反応液の調製作業を大幅に省略することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
代表的な本願発明は、以下の通りである。
[項1] (I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及びモノヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも一種のヌクレオチド類、及び(III)緩衝剤を含む核酸増幅用組成物に、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を共存させることを特徴とする、核酸増幅用組成物の保存安定性を向上させる方法。
[項2] 25℃で1日間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下を抑制する、項1に記載の保存安定性を向上させる方法。
[項3] 4℃で1ヵ月間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下を抑制する、項1又は2に記載の保存安定性を向上させる方法。
[項4] 界面活性剤として、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1~3のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項5] 界面活性剤として、Tween20、TritonX-100、TritonX-114、ノニデットP40、Brij35、Brij58、SDS、CHAPS、CHAPSO、及びEmulgen420からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1~4のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項6] 2価以上の金属イオンとして、マグネシウムイオン及びマンガンイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、項1~5のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項7] (IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種とを含む、項1~6のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項8] (IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオン、界面活性剤及び硫酸アンモニウムを含む、項1~7のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項9] (II)ヌクレオチド類として蛍光標識されたプローブを含む、項1~8のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項10] 更に、(V)抗DNAポリメラーゼ抗体を含む、項1~9のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項11] (I)DNAポリメラーゼが逆転写活性を有するDNAポリメラーゼである、項1~10のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項12] (I)DNAポリメラーゼがFamily Aに属するDNAポリメラーゼである、項1~11のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項13] 更に、(VII)逆転写酵素を含む、項1~12のいずれかに記載の保存安定性を向上させる方法。
[項14] (VII)逆転写酵素が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)由来の逆転写酵素、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)由来の逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも一種である、項13に記載の保存安定性を向上させる方法。
[項15] 蛍光標識されたプローブがTaqManプローブである、項9に記載の保存安定性を向上させる方法。
[項16] (I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及びモノヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも一種のヌクレオチド類、(III)緩衝剤、並びに(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含む、プレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項17] 25℃で1日間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下が抑制されている、項16に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項18] 4℃で1ヵ月間保存した場合の核酸増幅反応性能の低下が抑制されている、項16又は17に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項19] 界面活性剤として、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、及び両性イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項16~18のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項20] 界面活性剤として、Tween20、TritonX-100、TritonX-114、ノニデットP40、Brij35、Brij58、SDS、CHAPS、CHAPSO、及びEmulgen420からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項16~19のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項21] 2価以上の金属イオンとして、マグネシウムイオン及びマンガンイオンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、項16~20のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項22] (IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1種とを含む、項16~21のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項23] (IV)添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオン、界面活性剤及び硫酸アンモニウムを含む、項16~22のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項24] (II)ヌクレオチド類として蛍光標識されたプローブを含む、項16~23のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項25] 更に、(V)抗DNAポリメラーゼ抗体を含む、項16~24のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項26] (I)DNAポリメラーゼが逆転写活性を有するDNAポリメラーゼである、項16~25のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項27] (I)DNAポリメラーゼがFamily Aに属するDNAポリメラーゼである、項16~26のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項28] 更に、(VII)逆転写酵素を含む、項16~27のいずれかに記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項29] (VII)逆転写酵素が、モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)由来の逆転写酵素、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)由来の逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選択される少なくとも一種である、項28に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
[項30] 蛍光標識されたプローブがTaqManプローブである、項24に記載のプレミックスタイプの核酸増幅用組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、PCR反応液(RT-PCR反応液を含む)等の核酸増幅用組成物の保存安定性の低下が抑制され、検出感度が維持されるため、反応液の長期保存が可能となり、反応液の用事調製が不要となる。PCR反応液の保存安定性の向上は、検出感度低下に伴う偽陰性の発生や試験の不成立を防ぎ、正確な試験が実施可能となるとともに、再試験等の作業を削減することができる。また、多検体を取り扱う場合に高頻度で発生する核酸増幅用組成物の調製作業が省略されることで、遺伝子検査および病原性微生物検査業務がさらに効率化する。病原性微生物検査業務の効率化は、感染していても症状が顕れない被験者の検査量を増やすことができ、感染症の拡大予防にも寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】1ステップRT-PCR反応液で2価以上の金属イオンを種々の濃度で共存させた場合の25℃での保存安定性を評価した増幅曲線を示す図である。
図2】1ステップRT-PCR反応液で2価以上の金属イオンを種々の濃度で共存させた場合の25℃での保存安定性を評価した残存相対蛍光強度を示す図である。
図3】1ステップRT-PCR反応液で界面活性剤又は硫酸アンモニウムを添加した場合の25℃での保存安定性を評価した増幅曲線を示す図である。
図4】1ステップRT-PCR反応液で界面活性剤又は硫酸アンモニウムを添加した場合の25℃での保存安定性を評価した残存相対蛍光強度を示す図である。
図5】1ステップRT-PCR反応液で2.2mMのマンガンイオンと共に界面活性剤を添加した場合の25℃での保存安定性を評価した増幅曲線を示す図である。
図6】1ステップRT-PCR反応液で2.2mMのマンガンイオンと共に界面活性剤を添加した場合の25℃での保存安定性を評価した残存相対蛍光強度を示す図である。
図7】1ステップRT-PCR反応液で2価以上の金属イオン濃度を変更した場合の凍結及び4℃での保存安定性を評価した増幅曲線を示す図である。
図8】1ステップRT-PCR反応液で2価以上の金属イオン濃度を変更した場合の凍結及び4℃での保存安定性を評価した残存相対蛍光強度を示す図である。
図9】1ステップRT-PCR反応液で2.2mMのマンガンイオンと共に界面活性剤及び硫酸アンモニウムを添加した場合の凍結及び4℃での保存安定性を評価した増幅曲線を示す図である。
図10】1ステップRT-PCR反応液で2.2mMのマンガンイオンと共に界面活性剤及び硫酸アンモニウムを添加した場合の凍結及び4℃での保存安定性を評価した残存相対蛍光強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。また本明細書中の「及び/又は」は、いずれか一方または両方を意味する。また本明細書において、単数形の表現は、他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
【0017】
本発明の一態様は、例えば、(I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及び/又はモノヌクレオチドなどのヌクレオチド類、(III)緩衝剤を含む核酸増幅用組成物に、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を共存させることを特徴とした、核酸増幅用組成物の保存安定性を改善させる方法である。
本発明は、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び/又は0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンを添加することで、前記(I)~(III)の成分を含む核酸増幅用組成物の保存安定性の低下を抑えることができ、一定期間保管であっても十分な感度で、試料中の病原性微生物(ウイルス、細菌、真菌等を含む)の核酸(DNA、RNA)を蛍光化合物により検出できることを見出したことに基づく。
【0018】
本発明の核酸増幅用組成物は、(I)DNAポリメラーゼを含有するものであり得る。DNAポリメラーゼは、DNA依存性DNAポリメラーゼであっても、RNA依存性DNAポリメラーゼであっても、DNA及びRNAのどちらも鋳型にできるDNAポリメラーゼ(即ち、逆転写酵素活性を有するDNAポリメラーゼ)であってもよい。また、DNAポリメラーゼは、任意のファミリーに属するDNAポリメラーゼであり得るが、本発明の効果がより確実に得られ易いという観点から、FamilyAに属するDNAポリメラーゼであることが好ましい。本発明には、当該分野で公知の任意のDNAポリメラーゼを、核酸増幅の目的などに応じて適宜選択して使用できる。
【0019】
好ましい実施形態において、本発明に用いるDNAポリメラーゼは、例えば、夾雑物耐性を有するDNAポリメラーゼである。夾雑物耐性とは、例えば、PCR阻害物質の存在下においても、核酸増幅反応に十分なDNAポリメラーゼの高い酵素活性を有する性質である。夾雑物耐性を持つDNAポリメラーゼとして、特に限定されるものではないが、例えば、Tth,Bst,KOD,Pfu,Pwo、Tbr,Tfi,Tfl,Tma,Tne、Vent,DEEP VENT、HawkZ05やこれらの変異体が挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、Tth(配列番号24)およびHawkZ05(配列番号25)又はこれらの変異体の使用である。特に好ましくはTth又はその変異体の使用である。通常夾雑耐性を有しないTaqなどのDNAポリメラーゼにおいても、アミノ酸変異により夾雑耐性を有する変異体である場合は使用することが可能である。本発明の核酸増幅用組成物における前記夾雑物耐性を有するDNAポリメラーゼの総量は、一例として、少なくとも4.2ng/μL以上あればよく、5.0ng/μL以上であることが好ましく、5.8ng/μL以上であることがより好ましい。なかでも好ましくは、8.3ng/μL以上である。前記夾雑物耐性を有するDNAポリメラーゼの総量の上限は特に限定されないが、一例として、20ng/μL以下とすることができ、16.7ng/μL以下であっても十分に本発明の効果を得ることができる。ポリメラーゼの量は、Bradford法もしくはNanodrop(サーモフィッシャー社)により定量した値であり、安全データシート(SDS)から概算してもよい。BSAなどのタンパク質を含む場合は、後者の方法で算出することが望ましい。非特異的反応抑制の効果を高めるため、抗DNAポリメラーゼ抗体との併用、あるいは化学修飾により熱不安定ブロック基のDNAポリメラーゼへ導入することで、PCR反応開始までのDNAポリメラーゼの酵素活性を抑制し、ホットスタートPCRへの適用ができることが好ましい。
【0020】
本発明の核酸増幅用組成物により、逆転写反応のステップを含む核酸増幅を行うことを目的とする場合、本発明の核酸増幅用組成物は、DNAポリメラーゼおよび必要に応じて逆転写酵素を含むことが好ましい。本発明に用いられ得る逆転写酵素(RT)の由来は、RNAをDNAに変換できる活性を有する酵素であれば特に限定されないが、例えば、MMLV(Moloney Murine Leukemia Virus)-RT、AMV-RT(Avian Myeloblastosis Virus)、HIV-RT、RAV2-RT、EIAV-RT、カルボキシドサーマス・ハイドロゲノフォルマン(Carboxydothermus hydrogenoformam)DNAポリメラーゼ)やその変異体が例示される。特に好ましい例としては、モロニーマウス白血病ウイルス由来の逆転写酵素(MMLV-RT)、トリ骨髄芽球症ウイルス由来の逆転写酵素(AMV-RT)またはそれらの変異体が挙げられる。
【0021】
逆転写酵素は、逆転写酵素活性を併せ持つDNAポリメラーゼであってもよい。逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとは、RNAをcDNAに変換する能力とDNAを増幅する能力を兼ね備えたDNAポリメラーゼである。逆転写活性を有するDNAポリメラーゼは、夾雑物耐性及び/又は耐熱性を有することが好ましい。耐熱性とは、70℃で1分以上の熱処理を実施しても、酵素活性が半分以上低下しないことをいう。由来は特に限定されるものではないが、Taq、Tth,Bst,Bca,KOD,Pfu,Pwo、Tbr,Tfi,Tfl,Tma,Tne、Vent,DEEPVENTやこれらの変異体が挙げられる。これまでに逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとして、Thermus aquaticus由来のDNAポリメラーゼ(Taq)、Thermus thermophilus HB8由来のDNAポリメラーゼ(Tth)やThermus sp Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05)、Thermotoga maritima由来のDNAポリメラーゼ(Tma)、Bacillus caldotenax由来のDNAポリメラーゼ(Bca)、Bacillus stearothermophilus由来のDNAポリメラーゼ(Bst)などが挙げられ、これらの逆転写活性と耐熱性DNAポリメラーゼ活性が失われていない変異体であってもよい。また、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ(KOD)の変異体であって、逆転写活性を有するものが知られており(例えば、RTX:reverse transcription xenopolymerase)、本発明にはこのような逆転写酵素活性を併せ持つ耐熱性DNAポリメラーゼなども使用できる。特に好ましくは、Tth(配列番号24)、Z05(配列番号25)及びこれらの変異体からなる群より選択される逆転写活性を有するDNAポリメラーゼが挙げられる。
【0022】
本明細書において、DNAポリメラーゼ又は逆転写酵素の変異体とは、その由来である野生型のDNAポリメラーゼ又は逆転写酵素のアミノ酸配列に対して、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、なかでも好ましくは99%以上の配列同一性を有し、且つ、それらの対応する野生型酵素の活性(DNAポリメラーゼ活性又は逆転写酵素活性)が実質的に損なわれていないものをいう。逆転写活性も兼ね備えたDNAポリメラーゼである場合、RNAをcDNAに変換する活性及びDNAを増幅する活性が実質的に損なわれていないものをいう。ここで、アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、当該分野で公知の任意の手段で行うことができる。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、一例として、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出することが可能である。また、本発明に用いられ得る変異体は、その由来である野生型DNAポリメラーゼ又は逆転写酵素のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加(以下、これらを纏めて「変異」ともいう)したアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、且つ、それらの対応する野生型酵素の活性(DNAポリメラーゼ活性又は逆転写酵素活性)が実質的に損なわれていないものであってもよい。ここで1又は数個とは、例えば、1~80個、好ましくは1~40個、よりこのましくは1~10個、更に好ましくは1~5個であり得るが、特に限定されない。
【0023】
本発明の核酸増幅用組成物は、(II)ヌクレオチド類を含有するものであり得る。ヌクレオチド類は、モノヌクレオチドであってもよいし、オリゴヌクレオチドであってもよい。モノヌクレオチドとしては、ヌクレオチド(ヌクレオチド一リン酸、ヌクレオチド二リン酸、ヌクレオチド三リン酸等を含む)、デオキシヌクレオチド(デオキシヌクレオチド一リン酸、デオキシヌクレオチド二リン酸、デオキシヌクレオチド三リン酸等を含む)、ヌクレオシド、デオキシヌクレオシド等のモノヌクレオチドを挙げることができる。オリゴヌクレオチドは、任意の長さのポリヌクレオチドであってよく、一般的には、2~40塩基長程度、好ましくは2~25塩基長程度のオリゴヌクレオチドであり得る。本発明の核酸増幅用組成物に含まれ得るヌクレオチド類は、例えば、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTPs)、プライマー、ハイブリダイゼーションプローブ(蛍光標識されたプローブを含む)等であり得るが、これらに限定されない。
【0024】
一つの実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物は、ヌクレオチド類として、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTPs)を含むものであり得る。本発明で使用されるdNTPsとしては、dATP,dCTP,dGTP,dTTPをそれぞれ0.1~0.5mM程度、一般的には0.2mM程度含む混合物であり得る。dTTPの代わり及び/又は一部としてdUTPを使用することによって、Uracil-N-glycosylase(UNG)を利用したクロスコンタミネーションに対する予防処置をとることも可能である。
【0025】
本発明の核酸増幅用組成物は、ヌクレオチド類として、ターゲット核酸の所定領域を増幅するように設計された核酸プライマーを含むものであり得る。本発明の核酸増幅用組成物が、PCR反応に用いられるものである場合、プライマーはプライマー対として使用され得る。本発明に用いられるプライマー対としては、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種一対のプライマーが挙げられる。特に限定されないが、本発明では上記プライマーが2対以上含まれるものであってもよい。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重プライマーを含んでもよい。
【0026】
一つの実施形態において、例えば、本発明の核酸増幅用組成物でノロウイルスを検出する場合、ノロウイルス検出用のプライマー対の例として、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に記載のプライマー記載のプライマー(配列番号1~5)が挙げられるが、これに限るものではない。前記プライマーでは、配列番号1、2によりノロウイルスG1型、配列番号3~5によりノロウイルスG2型を検出する。検出対象のプライマー濃度としては、特に限定はされないが、RT-PCR反応液全体に対して、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であることが好ましい。より好ましくは、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上2μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.5μM以上2μM以下である。
【0027】
別の実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を検出する場合、プライマー対の例としては、国立感染症研究所が発表している「病原体検出マニュアル2019-nCoV」に記載の配列(配列番号9、10、12、13)、アメリカ疾病予防管理センターが発表する「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV)Real-time rRT-PCR Panel Primers and Probes」(配列番号15、16、18、19、21、22)が挙げられ、本発明においても好適に使用することができるが、これに限るものではない。前記プライマー配列では、配列番号9および10、12および13、15および16、18および19、21および22によりSARS-CoV-2のヌクレオキャプシドタンパク質(N)領域を検出する。SARS-CoV-2をはじめとするコロナウイルスの検出においては、ヌクレオキャプシド(N)領域、エンベロープタンパク質(E)領域、スパイクタンパク質(S)領域、RNA-dependent RNA polymerase(RdRp)領域、Open Reading Frame(ORF)領域等の遺伝子を検出の対象とすることができるが、特にこれに限るものではない。使用するプライマーの濃度としては、RT-PCR反応液全体に対して、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であることが好ましい。より好ましくは、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上2μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.5μM以上2μM以下である。
【0028】
本発明の核酸増幅用組成物は、ヌクレオチド類として、ターゲット核酸の増幅を検出するように設計された核酸プローブ(例えば、蛍光標識されたオリゴヌクレオチドからなるプローブ)を含むものであり得る。本発明の核酸増幅用組成物が、リアルタイムPCR反応又はリアルタイムRT-PCR反応に用いられる場合、例えば、蛍光化合物で標識されたハイブリダイゼーションプローブを使用することにより、電気泳度等によらず、蛍光シグナルのモニタリングでターゲット核酸の増幅について監視でき、また、核酸増幅の検出のために反応容器を開放する必要がないため、コンタミネーションのリスクも低減できる。また、例えば、検出するウイルスおよび微生物の種類や、サブタイプに対応する、それぞれのハイブリダイゼーションプローブを異なる蛍光色素で標識することによって、各標的の核酸を別々に識別することも可能である。
【0029】
上記のような蛍光標識されたプローブを含む核酸増幅用組成物を、核酸増幅反応に必要な他の成分(例えば、酵素、金属イオン、緩衝液、添加剤等の様々な成分)と共存させた状態で長期保存すると、核酸プローブ又は蛍光化合物などの劣化や分解等に恐らく起因して、経時的に蛍光強度が低下し、検出感度が落ちやすい傾向があることが分かっている。本発明では全く予想外のことに、2価以上の金属イオンを共存させる場合であっても共存させる量を所定範囲に調整することにより、そして更に必要に応じて界面活性剤及び/又は硫酸アンモニウムも共存させることにより、経時的な蛍光強度の低下を十分抑えることができることを見出している。従って、本発明によれば、このような蛍光標識したプローブを含む核酸増幅用組成物を一定期間保管した後であっても、保存安定性が改善されるので、蛍光強度の低下を抑制することができるので好ましい。
【0030】
一つの実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物をノロウイルス検出のために使用する場合、ノロウイルス検出用のハイブリダイゼーションプローブの塩基配列としては、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に記載の配列(配列番号6~8)が挙げられるが、これに限るものではない。前記プローブ配列では、配列番号6または7によりノロウイルスG1型、配列番号8によりノロウイルスG2型を検出する。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重配列を含んでもよい。蛍光標識プローブの濃度としては、0.01μM以上1.0μM以下であることが好ましい。より好ましくは、0.013μM以上0.75μM以下であり、更に好ましくは、0.02μM以上0.5μM以下である。
【0031】
別の実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を検出する場合、その検出用のハイブリダイゼーションプローブの塩基配列としては、国立感染症研究所が発表している「病原体検出マニュアル2019-nCoV 」に記載の配列(配列番号11および14)および、アメリカ疾病予防管理センターが発表する「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-time rRT-PCR Panel Primers and Probes」(配列番号17および20および23)が挙げられ、本発明においても好適に使用することができるが、これに限るものではない。前記プローブ配列ではSARS-CoV-2のN領域を検出する。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重配列を含んでもよい。SARS-CoV-2をはじめとするコロナウイルスの検出においては、N領域、E領域、S領域、RdRp領域、ORF領域等の遺伝子を検出の対象とすることができるが、特にこれに限るものではない。蛍光標識プローブの濃度としては、0.01μM以上1.0μM以下であることが好ましい。より好ましくは、0.013μM以上0.75μM以下であり、更に好ましくは、0.02μM以上0.5μM以下である。
【0032】
本発明において用いられるハイブリダイゼーションプローブは蛍光標識されたプローブであることが好ましい。このような蛍光標識プローブとしては、例えば、TaqMan加水分解プローブ(米国特許第5,210,015号公報、米国特許第5,538,848号公報、米国特許第5,487,972号公報、米国特許第5,804,375号公報)、モレキュラービーコン(米国特許第5,118,801号公報)、FRETハイブリダイゼーションプローブ(国際公開第97/46707号パンフレット,国際公開第97/46712号パンフレット,国際公開第97/46714号パンフレット)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
ハイブリダイゼーションプローブに用いられ得る蛍光化合物は、当該分野で公知の任意のものを使用することができ、例えば、使用したいqPCR機器に合わせて選択することができる。蛍光化合物の具体例としては、例えば、ローダミン(ROX)若しくはその誘導体(例えば、5-カルボキシ-X-ローダミン、6-カルボキシ-X-ローダミン、5-カルボキシローダミン6G(CR6G)、テトラメチルローダミン(TAMRA))、又はそれらの塩などのローダミン系化合物;フルオロセイン又はその誘導体(例えば、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ2’,7’-ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5’-ヘキサクロロ-フルオレセイン-CEホスホロアミダイト))、VIC(登録商標)、BODIPY(登録商標)シリーズ、ローダミン又はその誘導体(例えば、5-カルボキシローダミン6G(CR6G)やテトラメチルローダミン(TAMRA))、Cy(登録商標)色素(例えば、Cy3、Cy5)、若しくはそれらの誘導体、又はそれらの塩等の非ローダミン系化合物等があげられるが、これらに限定されない。蛍光化合物は、必要に応じて、使用する蛍光物質にあった消光物質を使用することができる。上記のような蛍光物質に対応した消光物質としては、例えば、TAMRA(テトラメチル-ローダミン)、DABCYL(4-(4-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸)、BHQ1(BHQ:Black Hole Quencher(登録商標))、BHQ2、BHQ3等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
なお、本発明の核酸増幅用組成物は、上記のようなハイブリダイゼーションプローブに代えて又はハイブリダイゼーションプローブと共に、2本鎖DNA結合蛍光化合物を使用してターゲット核酸の有無を検出するものであってもよい。2本鎖DNA結合蛍光化合物としては、例えば、SYBR(登録商標)Green I,SYBR(登録商標)Gold、SYTO-9、SYTP-13、SYTO-82(Life Technologies),EvaGreen(登録商標;Biotium)、LCGreen(Idaho),LightCycler(登録商標)480 ResoLight(Roche Applied Science)などが挙げられる。このような蛍光化合物を使用する場合であっても、蛍光シグナルのモニタリングでターゲット核酸の有無を検出することができ、解析労力を低減することができる。
【0035】
本発明の核酸増幅用組成物は、(III)緩衝剤を含むものであり得る。本発明で使用され得る緩衝剤としては、当該分野で公知の任意の緩衝剤を使用することができ、特に限定されないが、トリス(Tris)緩衝剤、グリシン緩衝剤、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、ハンクス緩衝剤、グッド緩衝剤(例えば、トリシン(Tricine)緩衝剤、ビスートリシン(Bis-Tricine)緩衝剤、ビシン(Bicine)緩衝剤、HEPES緩衝剤、TAPSO緩衝剤、POPSO緩衝剤、HEPSO緩衝剤、EPPS緩衝剤)などが挙げられ、好ましくは、トリス(Tris),トリシン(Tricine),ビスートリシン(Bis-Tricine),ビシン(Bicine)などが挙げられる。緩衝剤は、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸などでpHを6~9、より好ましくはpH7~9に調整されたものであり得る。また、本発明の核酸増幅用組成物における緩衝剤の濃度としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、10~200mM程度、より好ましくは20~150mM程度であり得る。この際、反応に適当なイオン条件とするために、塩溶液が加えられることが好ましい。塩溶液としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウムなどが挙げられるが、限定されない。
【0036】
本発明では、前記(I)~(III)の成分を少なくとも含む核酸増幅用組成物に、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を共存させることを一つの特徴とする。この(IV)成分を共存させることにより、核酸増幅用組成物を一定期間保存した場合であっても、核酸増幅反応性能の大幅な低下を抑制でき、十分な感度で核酸増幅反応を行うことができる。
【0037】
前記(IV)成分の添加剤としては、界面活性剤、硫酸アンモニウム、又は0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンのなかから1つを選択して使用してもよいし、2つ以上を任意に組み合わせて使用してもよい。より高度に保存安定性の低下を抑制できるという観点から、(IV)成分として、少なくとも0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンを含むことが好ましい。特定の実施形態では、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1つとを組み合わせて使用することが好ましく、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤と、硫酸アンモニウムとの3つを全て組み合わせて使用することが特に好ましい。このように(IV)成分を複数組み合わせて使用することにより、より一層高度に長期保存後の残存相対蛍光強度低下を抑えることが可能となり得る。
【0038】
本発明に用いられ得る界面活性剤としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、当該分野で公知の任意の界面活性剤を使用することができる。より確実に本発明の効果が得られ易いという観点から、界面活性剤は、好ましくは非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤又は両性イオン性界面活性剤であり、より好ましくは非イオン性界面活性剤又はアニオン性界面活性剤であり、特に好ましくは非イオン性界面活性剤である。非イオン性界面活性剤としては、好ましくは、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル)等のポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。本発明において界面活性剤は、1種だけ使用してもよいし、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0039】
具体的には、本発明に用いられ得る界面活性剤として、例えば、ツイーン20(Tween20)、トリトンX-100(TritonX-100)、トリトンX-114(TritonX-114)、ノニデットP40、Brij35、Brij58、エマルゲン420(Emulgen420)等のポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等のアニオン性界面活性剤;CHAPS、CHAPSO等の両性イオン性界面活性剤などが挙げられるが、特に限定されない。また界面活性剤は、任意のHLB値を有する界面活性剤であり得るが、好ましくは、HLB値が10~19程度の界面活性剤であることが好ましく、HLB値が12~17程度の界面活性剤であることがより好ましく、例えばHLB値が12~15程度の界面活性剤であってもよい。
【0040】
本発明において(IV)成分の添加剤として界面活性剤を使用する場合、前記核酸増幅用組成物において共存させる界面活性剤の濃度は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上、更に好ましくは0.03%以上、更により好ましくは0.04%以上であり得、例えば、0.05%以上であってもよい。上限は特に限定されないが、一例として、1%以下とすることができる。このような濃度で界面活性剤を共存させることにより、より一層高度に保存安定性の低下を抑制することが可能となり得る。
【0041】
本発明では(IV)成分の添加剤として、前記界面活性剤に替えて又は前記界面活性剤と共に、硫酸アンモニウムを使用することもできる。より高い保存安定性が得られ易いという観点から、硫酸アンモニウムは、比較的低濃度の2価以上の金属イオン(例えば、2.2mM以下の2価以上の金属イオン、なかでも2.2mM以下のマンガンイオン)と組み合わせて用いられることが好ましく、前記のような比較的低濃度の2価以上の金属イオン及び界面活性剤と組み合わせて用いられることが特に好ましい。
【0042】
本発明において(IV)成分として硫酸アンモニウムを使用する場合、前記核酸増幅用組成物において共存させる硫酸アンモニウムの濃度は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、好ましくは1mM以上、より好ましくは3mM以上、更に好ましくは5mM以上、更により好ましくは7mM以上であり得る。上限は特に限定されないが、一例として、20mM以下とすることができ、15mM以下としてもよい。このような濃度で硫酸アンモニウムを共存させることにより、より一層高度に保存安定性の低下を抑制することが可能となり得る。
【0043】
本発明では、(IV)成分の添加剤として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンを使用することもできる。(IV)成分としてこのような比較的低濃度の2価以上の金属イオンを使用する場合、前記界面活性剤及び/又は硫酸アンモニウムを組み合わせることは必須ではなく、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンを単独で使用してもよい。しかし、一つの好ましい実施形態では、(IV)成分として、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと共に、前記界面活性剤及び/又は硫酸アンモニウムを使用するのがよく、このように添加剤を組み合わせて使用することでより一層高度に保存安定性の低下を抑制できることが確認されている。
【0044】
本発明に用いられ得る2価以上の金属イオンは、当該分野で公知の任意の金属イオンであり得、例えば、2価、3価、4価の金属イオンであり得る。好ましくは、本発明に用いられる2価以上の金属イオンは、2価以上の陽イオンであり、2価又は3価の陽イオンであることがより好ましく、2価の陽イオンであることが特に好ましい。このように2価陽イオンを含むことで、核酸増幅反応において、より安定して高い夾雑耐性が得られ高感度な検出も可能となり易いという利点がある。
【0045】
本発明に使用できる2価の陽イオンは、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、マグネシウムイオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン等を挙げることができる。好ましくは、2価陽イオンとして、マグネシウムイオン、マンガンイオンを含むことが好ましい。本発明において、核酸増幅用組成物にマグネシウムイオンやマンガンイオン等を添加する場合は、マグネシウムやマンガンを添加してもよいし、これらの塩を添加してもよい。マグネシウム又はその塩としては、マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等が例示され、マンガン又はその塩としては、マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンなどが例示される。
【0046】
本発明において(IV)成分として2価以上の金属イオンを使用する場合、前記核酸増幅用組成物において共存させる当該2価以上の金属イオンの濃度は0.1~2.2mMである限り特に限定されないが、好ましくは0.5~2.2mM、より好ましくは1~2.2mM、更に好ましくは1.5~2.2mMであり得る。例えば、2価以上の金属イオンの濃度は1.8~2.2mM程度であってもよい。このような濃度で2価以上の金属イオンを共存させることにより、より一層高度に保存安定性の低下を抑制することが可能となり得る。
【0047】
特定の実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物が、一酵素系RT-PCR反応用の核酸増幅用組成物である場合、安定的に高い感度が得られ易いという観点からは、マンガン又はその塩を含むことが好ましい。特定の実施態様では、RT-PCR反応液において1~2.2mMのマンガン又はその塩を共存させるように濃度調整されていることが好ましく、1.5~2.2mMのマンガン又はその塩を共存させるように濃度調整されていることが好ましい。また、逆転写酵素を含まない二酵素系RT-PCR反応用または逆転写反応を伴わないPCR反応用の核酸増幅用組成物である場合、安定的に高い感度が得られ易いという観点からは、マグネシウム又はその塩を含むことが好ましい。特定の実施態様では、PCR反応液において1~2.2mMのマグネシウム又はその塩を含むように濃度調整されていることが好ましく、1.5~2.2mMのマグネシウム又はその塩を含むように濃度調整されていることが好ましい。
【0048】
本発明の核酸増幅用組成物は、抗DNAポリメラーゼ抗体を含むものであってもよい。抗DNAポリメラーゼ抗体を含むことによって、例えば、PCR反応などの核酸増幅反応において高温下に曝すまでDNAポリメラーゼの酵素活性を抑制することができるので、意図しない非特異的な核酸増幅を抑制するホットスタートPCR法を行うことができる。抗DNAポリメラーゼ抗体は、当該分野で公知の任意のものを使用することができ、核酸増幅反応用組成物に含まれるDNAポリメラーゼの種類に応じて適宜選択して使用すればよい。本発明の核酸増幅用組成物における抗DNAポリメラーゼ抗体の濃度としては、特に限定されないが、例えば、0.001~0.1μg/μL程度、好ましくは0.005~0.05μg/μL程度であり得る。
【0049】
本発明の核酸増幅用組成物は、上記のような成分に加えて、さらに他の添加剤を含むものであってもよい。例えば、本発明の核酸増幅用組成物がPCR又はRT-PCR反応用試薬である場合、好ましい他の添加剤の例としては、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、ポリペプチド(ウシ血清アルブミン、セリシン、Blocking peptide fragment(以下BPFともいう)、ゼラチン)、グリセロール、グリコール及び界面活性剤よりなる群から選択された少なくとも1つ等であり得る。
【0050】
本発明に用いられ得るポリペプチドは、例えば、分子量が5~500kDa程度のポリペプチドが好ましく、6~400kDa程度のポリメラーゼがより好ましい。本明細書において、分子量を示すときは、他の意味であることが明らかでない限り、SDS-PAGEを用いて決定した値をいう。SDS-PAGEでの分子量の測定は、当該分野で一般的な手法及び装置を用い、市販される分子量マーカー等を用いて行うことができる。例えば、「分子量50kDa」とは、SDS-PAGEで分子量を測定した際に、当業者が、通常50kDaの位置にバンドがあると判断する範囲にあることをいう。また、本発明に用いられるポリペプチドは、上記分子量の範囲内のポリペプチドの混合物であってもよい。
【0051】
本発明に用いられ得る前記ポリペプチドは、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、複数のアミノ酸がペプチド結合で連なって形成されたタンパク質をいう。また、本発明に用いられるポリペプチドは、アミノ酸が連結されたポリペプチド構造を有する限り、例えば、熱変性等により三次元構造が解かれたような熱変性ポリペプチド(例えば、ゼラチン)等であってもよい。具体的には、本発明に使用され得るポリペプチドとして、例えば、アルブミン(例えば、ウシ血清アルブミン、ラクトアルブミン、ヒト血清アルブミン、卵由来アルブミン)、ゼラチン(例えば、魚ゼラチン、豚ゼラチン)、セリシン、カゼイン、フィブロイン等の天然由来タンパク質(天然由来ポリペプチド);Blocking peptide fragment(以下BPFともいう)、コラーゲン加水分解物、ポリペプトン、酵母エキス、ビーフエキストラクト等の合成・分解等により人為的に製造されたポリペプチド等を用いることができる。より好ましくは、本発明に用いられ得るポリペプチドは、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、Blocking peptide fragment(以下BPF)、及び/又はセリシンである。核酸増幅反応において少量でも有益であるという観点から、より好ましくは、ウシ血清アルブミン、ゼラチン(なかでも魚ゼラチン)を用いるのが好適である。これらのポリペプチドは、1種類だけ使用してもよいし、2種類以上を組合わせて使用してもよい。また、これらのポリペプチドは、天然からの抽出や合成等の手段により調製してもよく、また市販品も好適に使用することができる。
【0052】
本発明において、前記のようなポリペプチドを使用する場合、その使用量は特に限定されないが、例えば、本発明の核酸増幅用組成物が一酵素系1ステップRT-PCR反応液として用いられるときには、RT-PCR反応液中の終濃度が0.0001~200mg/mLとなるような量、好ましくは0.01~150mg/mL、より好ましくは0.1~130mg/mL、更に好ましくは0.5~100mg/mLとなるように調整された量であり得る。また、このようなポリペプチドの使用量は、使用するポリペプチドの種類、所望される効果の種類や程度等によって変動し得るが、例えば、PCR反応又はRT-PCR反応に用いる核酸増幅用組成物の場合、以下のような使用量を例示することができる。
・ウシ血清アルブミンを用いる場合:PCR反応液中終濃度として、例えば0.5mg/mL以上、好ましくは1mg/mL以上、より好ましくは2mg/mL以上、更に好ましくは3mg/mL以上。上限値は特に限定されないが、例えば、10mg/mL以下とすることができる。
・ゼラチンを用いる場合:PCR反応液中終濃度として、例えば0.1mg/mL以上、好ましくは1mg/mL以上、より好ましくは5mg/mL以上、更に好ましくは7.5mg/mL以上、さらにより好ましくは15mg/mL以上。上限値は特に限定されないが、例えば、50mg/mL以下とすることができる。
・セリシンを用いる場合:PCR反応液中終濃度として、例えば1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上、更に好ましくは20mg/mL以上、更により好ましくは50mg/mL以上。上限値は特に限定されないが、例えば、100mg/mL以下とすることができる。
・BPFを用いる場合:PCR反応液中終濃度として、例えば1mg/mL以上、好ましくは5mg/mL以上、より好ましくは10mg/mL以上、更に好ましくは20mg/mL以上、更により好ましくは30mg/mL以上。上限値は特に限定されないが、例えば、50mg/mL以下とすることができる。
【0053】
本発明に用いられ得るベタイン様4級アンモニウムとしては、ベタイン(トリメチルグリシン)、カルニチンなどが挙げられるが、特に限定されない。ベタイン構造は分子内に安定な正、負の両電荷を持つ化合物で、ウイルス構造の不安定化を引き起こすと考えられる。さらに、DNAポリメラーゼの核酸増幅を促進することが知られる。好ましい前記ベタイン様4級アンモニウム濃度は、0.1M~2M、より好ましくは0.2M~1.2Mである。
【0054】
さらには、当該技術分野でPCR反応又はRT-PCR反応を促進することが知られる物質と組み合わせることもできる。本発明において有用な促進物質とは、例えば、グリセロール、ポリオール、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄または酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに反応阻害を低減するように、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)のようなキレート剤を含んでいてもよい。
【0055】
本発明の核酸増幅用組成物は、任意の態様で提供され得る。一つの好ましい例として、本発明の核酸増幅用組成物は、プレミックスタイプの核酸増幅用試薬として提供することができる。プレミックスタイプの核酸増幅用試薬とは、核酸増幅反応に必要な成分が実質的にほぼ全て予め配合されており、通常は鋳型となる試料(例えば、検査試料又はインターナルコントロール等の合成核酸)と混合するだけで、核酸増幅反応を実施することが可能な状態にある核酸増幅用試薬のことをいう。プレミックスタイプの核酸増幅用試薬は、従来のように核酸増幅用組成物が各パーツに分かれて提供されていないので、使用時に用事調製するという手間が不要となるので好ましい。プレミックスタイプの核酸増幅用組成物は通常、所定温度で一定期間にわたり長期保管される。本発明によれば、核酸増幅用組成物の保存安定性が向上し、所定温度で一定期間にわたり長期保管された場合でも核酸増幅性能の低下が抑制されるので、このようなプレミックスタイプの核酸増幅用試薬として好適である。
【0056】
上記のような本発明の核酸増幅用組成物は、1以上のターゲット核酸を増幅できる任意の核酸増幅反応において使用することができる。本発明において「ターゲット核酸」とは、核酸増幅により検出することを目的とした核酸領域であり得る。例えば、病原性微生物に由来する核酸の有無を検査する場合は、その病原性微生物のゲノム核酸における増幅を意図する領域であり得る。また、PCR反応液がインターナルコントロール等を含む場合は、ターゲット核酸はインターナルコントロール核酸における増幅を意図する領域であってもよい。本発明の方法では、対象となるターゲットの数に特に制限はないが、2箇所以上とすることができ、例えば3個所、4個所、5個所以上とすることもできる。ターゲット数の上限は特に制限されないが、例えば、10箇所以下とすることができる。
【0057】
一つの好ましい実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物を用いてターゲット核酸の有無を検査する方法は、少なくとも以下の工程を含むPCR反応であり得る。
(1)核酸を含む試料と、本発明の核酸増幅用組成物とを混合する工程;
(2)反応容器を密閉後、PCR反応を実施する工程;及び
(3)蛍光化合物により、ターゲット核酸の検出を行う工程
ここで、前記工程(1)では、PCR反応液は、PCR反応の前に逆転写反応も行うRT-PCR反応液であってもよい。また、前記工程(2)では、PCR反応の前に逆転写反応を伴うRT-PCR反応であってよい。前記工程(2)でRT-PCR反応を行う場合、逆転写酵素とDNAポリメラーゼの両者を含む2酵素反応系であっても、逆転写活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼを含む1酵素反応系であってもよい。前記工程(1)~(3)は、同一容器で行われることが好ましい。すなわち、工程(1)~(3)のいずれの工程の間においても、混合液の全部または一部を別容器へ移し替えないことが好ましい。更には、工程(2)において、好ましくは工程(2)及び(3)の両方の工程においては、反応容器を密閉後、反応容器の蓋の開閉を行わないことが好ましい。また、前記工程(1)で使用する核酸を含む試料は、夾雑物質および不溶性物質を含みうる試料であってもよく、事前に水または緩衝液等にて懸濁した懸濁液や、糞便試料等の固形試料をPCR反応液に直接添加してもよい。
【0058】
本発明の核酸増幅用組成物を用いる検査方法における検査対象は、例えば、病原性微生物由来の核酸であり得るが、特に限定されない。ここで、病原性微生物とは、ヒトを始めとする哺乳動物等の生体に感染して感染症を引き起こし得る任意の微生物をいい、細菌又は真菌等の原核生物や真核生物に限定されず、ウイルス等をも含む概念である。
【0059】
病原性微生物としては、大腸菌(例えば、腸管病原性大腸菌(EPEC)、腸管侵入性大腸菌(EIEC)、毒素原性大腸菌(ETEC)、腸管凝集性大腸菌(EAEC)、腸管出血性大腸菌(EHEC));カンピロバクター属菌、ウエルシュ属菌、サルモネラ属菌、リステリア属菌、ボツリヌス属菌、セレウス属菌、シュードモナス属菌(多剤耐性緑膿菌)、クロストリジウム属菌、レジオネラ属菌、ストレプトコッカス属菌、黄色ブドウ球菌(例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、アシネトバクター属菌(例えば、薬剤耐性アシネトバクター)、腸炎ビブリオ、赤痢菌、ジフテリア菌、コレラ菌、百日咳菌、結核菌、らい菌、炭疽菌、ペスト菌、リケッチア、クラミジア、コクシエラ、トキソプラズマなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。特に、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)、赤痢菌などの食中毒の原因となる病原菌の検出は、腸内細菌検査として多量のサンプル数を扱う検査として行われる場合があり、作業性に優れて簡便な本発明の検査方法が特に有用である。
【0060】
特定の実施形態では、病原性微生物はウイルスであってもよい。本発明の対象となるウイルスとしては、DNAウイルスであって良く、RNAウイルスであっても良い。DNAウイルスとしては、ヘルペスウイルス科ウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス);アデノウイルス科ウイルス(例えば、ヒトアデノウイルス);ヘパドナウイルス科ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス);パポバウイルス科ウイルス(例えば、乳頭種ウイルス、ポリオーマウイルス);パルボウイルス科ウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス、ヒトパルボウイルス);アスファウイルス科ウイルス(例えば、アフリカ豚熱ウイルス)などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0061】
RNAウイルスとしては、脂質二重膜に由来するエンベロープを持たないRNAウイルスであっても、エンベロープを持つRNAウイルスであっても良い。このような非エンベロープRNAウイルスとしては、アストロウイルス科ウイルス(例えば、アストロウイルス);カリシウイルス科ウイルス(例えば、サポウイルス、ノロウイルス);ピコルナウイルス科ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス);へぺウイルス科ウイルス(例えば、E型肝炎ウイルス);レオウイルス科ウイルス(例えば、ロタウイルス)などが挙げられ、限定されるものではないが、好ましくはカリシウイルス科ウイルス及びレオウイルス科ウイルスの検出に有用であり、より好ましくはノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルスの検出に有用であり、特にノロウイルスの検出に有用である。
【0062】
ノロウイルスは、ウイルスRNAゲノムが約30nmのキャプシドタンパク質からなる正二十面体の内部に封入された、キャプシド構造を有する。通常の界面活性剤や70%エタノールに代表されるウイルス不活化剤では、キャプシド構造を破壊できず、ウイルスの感染能が維持される。キャプシド構造を破壊するには、少なくとも85℃以上、1分以上の過酷な条件での熱処理が必要とされている。一方、市販のウイルスRNA抽出キットを用いてRNAの抽出・精製を行うと時間や労力を要する。
【0063】
ノロウイルスの感染の原因として主にノロウイルスに汚染された食品を飲食することによるが、ヒトの手を介した感染が多いため、調理施設、医療現場、老人介護施設及び保育園などでは定期的な検便検査が求められている。大量調理施設衛生管理マニュアルには、調理従事者等の検便検査に、月に1回以上又は必要に応じノロウイルスの流行期である10月から3月についてノロウイルスの検査を含めることが追加されている。これはウイルスに感染していても症状がでない人(健康保因者)が少なからず存在し、これらの人たちが知らず知らずのうちに感染を広げる可能性があるためである。さらに、下痢や嘔吐などの症状がある調理従事者は医療機関を受診し、ノロウイルスに感染していることが判明した場合はリアルタイムPCR等の高感度検査を実施し、ノロウイルスを保有していないことが確認されるまでは食品に直接触れる調理作業を控えるなどの適切な処置をとることが望まれている。それゆえに、健常人も含めた定期的な検査を行う意義は大きく、多検体の検査を実施することが求められている。このように多検体を扱う場合でも簡便に且つ作業性良く検査でき検査担当者の負担を低減できるという観点から、本発明はノロウイルスの検査に利用されることが特に好ましい。
【0064】
エンベロープRNAウイルスとしては、フラビウイルス科ウイルス(例えば、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ジカウイルス、豚熱ウイルス);トガウイルス科ウイルス(例えば、風疹ウイルス、チクングニアウイルス);コロナウイルス科ウイルス(例えば、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、SARS-CoV-2コロナウイルス);オルトミクソウイルス科ウイルス(例えば、インフルエンザウイルス);ラブドウイルス科ウイルス(例えば、狂犬病ウイルス);ブニヤウイルス科ウイルス(例えば、クリミヤ・コンゴ熱ウイルス、ハンタウイルス);パラミクソウイルス科ウイルス(例えば、麻疹ウイルス、ヒトRSウイルス);フィロウイルス科ウイルス(例えば、エボラウイルス)、などが挙げられるが、特に限定されるものではなく、特にコロナウイルスの検出に有用である。
【0065】
コロナウイルスは、風邪を含む呼吸器感染症引き起こす原因ウイルスであり、風邪の流行期において約10~35%程度はコロナウイルスが原因と言われている。変異型ウイルスが発生することも知られており、稀にSARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスやMERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルス、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)コロナウイルス(SARS-CoV-2)など致死性の重篤な呼吸器疾患を齎すものが発生することが知られている。コロナウイルスを簡便、迅速、高感度に検出することは、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等で重要である。
【0066】
2019年に中国湖北省武漢市にて発生が確認された変異型コロナウイルスSARS-CoV-2においては、ウイルスゲノムRNAの解析が完了次第、核酸増幅技術を用いた検査方法が樹立された。日本においても、国立感染症研究所の「病原体検出マニュアル2019-nCoV」にてSARS-CoV-2の検出するための方法が記載されている。現在、コロナウイルス、特にSARS-CoV-2を含む咽頭・鼻腔ぬぐい液や唾液、喀痰、糞便試料などの生体試料やふき取り環境試料から、RNAの抽出および精製工程なく、1ステップRT-PCRによって迅速に検出できる方法の開発されている。本発明は、PCR反応液の保存安定性を向上させることで、作業性・操作性においても改善された優れた方法であり、高感度にターゲット核酸を検出できるため、このようなコロナウイルス、特にSARS-CoV-2ウイルスの検査において特に有益である。
【0067】
本発明において用いられる試料として、例えば咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、喀痰、糞便(排泄便、直腸便)、嘔吐物、唾液、うがい液、涙液、などが挙げられるが、特に限定されるものではなく、生体に由来するもの全般に用いることが可能である。特には、糞便、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液、喀痰、肺吸引物、脳脊髄液、うがい液、唾液、涙液、培養細胞、培養上清からの検出に有用であり、なかでも糞便試料、唾液試料、喀痰試料、うがい液、涙液、咽頭ぬぐい液試料、鼻腔ぬぐい液試料の検出に有用である。本発明においては、これら試料を市販のRNA精製キット等を用いてRNAを単離したものを試料として供してもよいし、夾雑物の反応への影響を低減し、より安定した検査結果を得るために、水、生理食塩水または緩衝液に前記試料を懸濁した試料であってもよい。また、前記試料は直接検出に供してもよい。前記緩衝液としては、特に限定されるものではないが、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、HEPES緩衝液、トリシン緩衝液などが挙げられる。また、粘性の強い生体試料(例えば、粘性の強い喀痰を含む試料)の場合は、特に限定されないが、スプタザイム酵素液で処理した試料であってもよい。
【0068】
前記工程(1)において、夾雑物質および不溶性物質を含みうる試料、事前に水または緩衝液等にて懸濁した懸濁液や、糞便試料等の固形試料を使用する場合、病原性微生物の持つキャプシドや細胞壁などの堅牢な構造からRNAまたはDNAを抽出しやすくするために、前記試料を緩衝液や、酸またはアルカリ性溶液、有機溶媒などを含む溶液と混合した試料であって良い。前記溶液に含まれるものとして、酸性溶液としては、酸性の溶液であれば特に限定されない。酸性溶液としては、例えば、ギ酸水溶液、酢酸水溶液、酪酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液、クエン酸水溶液、乳酸水溶液、リン酸水溶液、安息香酸水溶液、シュウ酸水溶液、酒石酸水溶液、アスコルビン酸水溶液、スルホン酸水溶液などが挙げられ、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。アルカリ性溶液においても、アルカリ性の溶液であれば特に限定されない。アルカリ性溶液としては、例えば水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化バリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸マグネシウム水溶液、炭酸カルシウム水溶液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液(TAPSO,POPSO、HEPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPS)などが挙げられ、1種単独又は2種以上組み合わせて使用できる。有機溶媒として、具体的にはエタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、トリエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、ピリジン等が挙げられるがこれに限られるものではない。さらには、前記工程(1)において添加する試料は、前記溶液と混合後熱処理に供されたものであっても良い。熱処理の条件は、特に限定されないが、60℃以上、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更により好ましくは90℃以上で、1秒以上処理されたものであってよい。
【0069】
本発明における別の態様の試料としては、拭き取り検査試料である。汚染経路の解明や施設環境等の汚染状況の把握には、ふき取り検査が有用である。本発明において、拭き取り検査とは、特に限定されるものでないが、例えば綿棒等で該当区画や設備等を拭き取り、水や緩衝液に溶出し、ポリエチレングリコール(PEG)沈澱などで濃縮した試料である。具体的な拭き取り検査の要領としては、「ふきとり検体のノロウイルス検査法の改良」(http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/382/dj3824.html)などが例示されるが、特に限定はされるものではなく、これに準ずる方法が広く含まれる。拭き取り箇所の例としては、まな板や包丁、ふきん、食器などの調理器具類、冷蔵庫の取手やトイレ、浴室のドアノブ、洗面所、厨房、トイレ、浴室などの蛇口、調理者の手や指、浴室、トイレ、洗面、手すり、居室などの施設などが挙げられる。また、拭き取り検査ではないが、環境検査として、下水試料の濃縮試料にも適用できる。これらの検査試料は、検査場所の汚れやほこりを多量含むことから、夾雑物や不溶性物質を含みうる試料において夾雑耐性を強化した本手法は、これらの検査に対して有益である。
【0070】
特定の実施形態において、本発明の方法は、核酸の単離処理を行っていない試料を使用してもよい。例えば、本発明は、各種試料から市販の核酸精製キットで核酸を単離したり、あるいはゲノム核酸を病原性微生物の構造(例えば、細胞膜、キャプシド構造)から露出させるための事前の熱処理等をしたりしていない、未処理試料を用いることができる。手間のかかる前処理が不要となるため簡便であるという観点から、これらの未処理試料を用いることが好ましい。また、夾雑物質を除去するような分離精製を伴わない核酸抽出を行った試料であってもよい。ここで、分離精製を伴わない核酸抽出を行った試料とは、試料中で核酸を露出させた状態にすることを意味し、例えば、試料中で細胞膜やカプシド、エンベロープ等を破壊し、これらに内包されていた核酸を抽出して露出させること(但し、破壊後に残存する細胞膜やカプシド、エンベロープの断片等は除去しないこと)をいう。本発明では、このような単離精製の手間を省いて用意した試料であっても良好に核酸増幅でき、安定して検査結果を得ることが可能となる。このような分離精製を伴わない核酸抽出処理は、前記工程(1)に先立って行うことができる。
【0071】
前記工程(1)においてPCRまたはRT-PCRに供される試料に含みうる夾雑物質や不溶性物質は、糞便(排泄便、直腸便)、嘔吐物、唾液、喀痰、うがい液、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、涙液、血液、拭き取り検査試料に由来するものが挙げられるが、限定されるものではなく、生体に由来するものや、環境検査試料全般に用いることが可能であり、特に糞便(排泄便、直腸便)、唾液、喀痰、うがい液、涙液、咽頭ぬぐい液、鼻腔ぬぐい液からの検出に有用である。
【0072】
前記工程(2)におけるPCRサイクルは、1.熱処理や2.逆転写反応のステップを含んでよい。また、各ステップの前後に、ホットスタート酵素を活性化させるための熱処理工程を含んでもよい。1の熱処理工程では、ウイルスを破砕してウイルス内の核酸を露出させる、及び/もしくは核酸増幅反応においてホットスタート酵素を活性化させる工程を含み得る。前記熱処理工程の温度及び時間は、60℃以上であり、かつ1秒以上であればよく、好ましくは70℃、30秒以上、より好ましくは80℃、30秒以上、特に好ましくは85℃、30秒以上である。2の逆転写反応の温度は、使用する逆転写酵素の逆転写活性と、プライマー及びプローブのTm値によって決定され、少なくとも25℃以上であればよい。より好ましくは37℃以上である。3のPCRでは、[1]熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、[2]鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、[3]DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、の3ステップを含んでいればよく、[2]と[3]を同一の温度で実施して、2ステップとしてもよい。迅速なRT-PCRを実施するためには、前記RT-PCR反応に使用するサーマルサイクラーは、前記[2]と[3]のステップの伸長時間を合わせて15秒以下、より好ましくは10秒以下の測定プログラムを設定することが望ましい。なお、本明細書において「PCRの伸長時間」とは、サーマルサイクラーでの設定温度を指す。
【0073】
本発明において、核酸増幅用組成物の保存安定性を判定する方法としては、限定されるものではないが、所定条件下で所定期間保管後の核酸増幅量から判断することができる。一例としては、RT-PCR後の増幅産物を電気泳動に供し、鋳型RNAの塩基数から推定されるバンドと比較することで確認できる。電気泳動では泳動バンドの強弱により、核酸増幅量の多寡を定性的に判断できる。別の様態としては、2本鎖DNA結合蛍光化合物を含む検出方法である。本手法における融解曲線解析を行うことで、融解曲線におけるピークの高さから核酸増幅量の多寡の判断を行うことができる。また、更に別の形態としてはハイブリダイゼーションプローブ(例えば、TaqMan加水分解プローブ)による検出方法においても確認できる。TaqMan加水分解プローブ検出系では、核酸増幅量に応じて蛍光強度が向上し、閾値の蛍光強度に達したPCRの反応サイクル数をCt値と呼ぶ。よって、到達蛍光強度の比較およびCt値の増減により核酸増幅量の多寡を判断することができる。
【0074】
本発明における核酸増幅用組成物の保存条件については、特に限定されるものではない。保管温度としては、例えば、-90℃以上50℃以下、より好ましくは-30℃以上40℃以下である。保管期間としては、1分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは12時間以上、更に好ましくは1日以上である。一つの実施形態において、保管期間は例えば2日以上であってもよいし、1週間以上であってもよいし、2週間以上であってもよい。本発明では、凍結(-30~-15℃)あるいは冷蔵(2~8℃)で1ヵ月保管しても、核酸増幅反応の性能低下を抑制できる。上限は特に限定されないが例えば1年以内とすることができる。
【0075】
特定の好ましい実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物は、4℃で2週間~1ヵ月間保存した場合でも核酸増幅反応性能の低下が抑制されており、当該条件下で保存後に核酸増幅反応に用いた場合に、十分な感度でターゲット核酸を増幅し、検出することが可能な核酸増幅用組成物である。4℃での保管は冷凍保存条件の加速試験にも相当することから、より長期間にわたって冷凍保存した場合にも本発明の組成物は安定な組成物であり得る。好ましい実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物は、4℃で2週間~1ヶ月間保存する場合に、当該条件下で保存する前(用事調製の場合に相当)と比較して、例えば30%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上の保存安定性を示すものであり得、例えば80%以上の保存安定性を示すものであってもよい。ここで保存安定性は、前記の保存安定性を判定する任意の方法によって測定することができるが、好ましくは、実施例に記載のようにハイブリダイゼーションプローブ(例えば、TaqMan加水分解プローブ)による検出方法において残存相対蛍光強度を測定することによって測定することができる。
【0076】
また別の好ましい実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物は、25℃で1~2日間保存した場合でも核酸増幅反応性能の低下が抑制されており、前記条件下で保存後に核酸増幅反応に用いた場合でも、十分な感度でターゲット核酸を増幅し、検出することが可能な核酸増幅用組成物である。25℃での保管は冷蔵保存条件の加速試験にも相当することから、より長期間にわたって冷蔵保存した場合にも本発明の組成物は安定な組成物であり得る。好ましい実施形態において、本発明の核酸増幅用組成物は、25℃で1~2日間間保存する場合に、当該条件下で保存する前(用事調製の場合に相当)と比較して、例えば30%以上、好ましくは35%以上の保存安定性を示すものであり得、例えば40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、又は80%以上の保存安定性を示すものであってもよい。この保存安定性もまた、前記の保存安定性を判定する任意の方法によって測定することができるが、好ましくは、実施例に記載のようにハイブリダイゼーションプローブ(例えば、TaqMan加水分解プローブ)による検出方法において残存相対蛍光強度を測定することによって測定することができる。
【0077】
前述のように、本発明によれば、核酸増幅用組成物の保存安定性が向上し、所定温度で一定期間にわたり長期保管された場合でも核酸増幅性能の低下を抑制することができる。従って、更に別の観点から本発明は、このように長期保管することが通常想定されているプレミックスタイプの核酸増幅用組成物をも提供する。本発明のプレミックスタイプの核酸増幅用試薬は、少なくとも(I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及びモノヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも一種のヌクレオチド類、(III)緩衝剤と共に、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含む。好ましい実施形態では、(IV)成分として、少なくとも0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンを含むことが好ましく、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤及び硫酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも1つとを組み合わせて含むことがより好ましく、0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンと、界面活性剤と、硫酸アンモニウムとの3つを全て組み合わせて含むすることが特に好ましい。
【0078】
本発明の別の一態様は、試料中のウイルスまたは病原性微生物由来の核酸を検出する検査用キットまたは組成物であって、(I)DNAポリメラーゼ、(II)オリゴヌクレオチド及びモノヌクレオチドからなる群より選択される少なくとも一種のヌクレオチド類、(III)緩衝剤と共に、(IV)界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び0.1~2.2mMの2価以上の金属イオンからなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含有するPCR反応用試薬を含むことを特徴とする、蛍光化合物によりPCR法を行うためのプレミックスタイプの検査用キットまたは組成物である。
【0079】
これらの実施態様において使用されるDNAポリメラーゼの種類や量、プライマー又はプローブ等のヌクレオチド類の種類や量、緩衝剤の種類や量、界面活性剤、硫酸アンモニウム、及び2価以上の金属イオンの種類や量、検査に用いる試料の種類、検査対象となる病原性微生物等は、前記の検査方法において詳述したものと同様であり得る。
【実施例0080】
以下、実施例をもって、本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0081】
試験例1.RT-PCR反応液の保存安定性評価1
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、種々の濃度の2価金属イオンを添加して、下記温度条件において保管し、その後、1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスRNAを検出した。
(1)反応液の調製
反応液(10xBufferを1xとなるように希釈して使用)
(rTaq DNA Polymerase 10xBuffer(東洋紡)添付品)
プライマー液(10xプライマー液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
プローブ液(10xプローブ液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
0.2mM dNTPs Mixture (東洋紡)
1.8~2.5mM Mn(OAc) (東洋紡)
4.2ng/μL rTth DNA polymerase(東洋紡)
0.01μg/μL 抗Tth 抗体
前記各試薬を混合後、最終液量が50μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。
(2)PCR反応液の保管
調製したPCR反応液を25℃で2日間、遮光下にて保管した。
(3)PCRの実施
調製直後のPCR反応液および、(2)の条件にて保管していたそれぞれのPCR反応液を用いて、以下の方法にて同様にPCRを実施した。各反応液に50コピー/μLに調製したノロウイルスG2 RNAを1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRを実施した。BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。52℃、35サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。次いで、BioRad製CFX ManagerまたはCFX Maestroソフトウエアによって算出される到達相対蛍光強度を測定値とした。
90℃ 1分(熱変性条件)
56℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 10秒
95℃ 1秒-56℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-52℃ 10秒 35サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(4) 結果
用事調製の測定値として得られた到達相対蛍光強度を100%とし、各条件において得られた測定値との比較を実施した。この結果を図1、2に示す。結果、Mn(OAc)濃度2.5mMにおいては、25℃2日間保管で29%まで蛍光強度が低下してしまうが、Mn(OAc)濃度2.2mMにおいては36%、Mn(OAc)濃度1.8mMにおいては47%の蛍光強度を維持しており、2価イオン濃度を下げることで保存安定性が向上する傾向が確認された。
【0082】
試験例2.RT-PCR反応液の保存安定性評価2
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、硫酸アンモニウム(終濃度10mM)もしくは界面活性剤としてTween20(終濃度0.09%)を添加して、下記温度条件において保管し、その後、1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスRNAを検出した。
(1)反応液の調製
反応液(10xBufferを1xとなるように希釈して使用)
(rTaq DNA Polymerase 10xBuffer(東洋紡)添付品)
プライマー液(10xプライマー液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
プローブ液(10xプローブ液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
0.2mM dNTPs Mixture (東洋紡)
2.5mM Mn(OAc) (東洋紡)
4.2ng/μL rTth DNA polymerase(東洋紡)
0.01μg/μL 抗Tth 抗体
前記各試薬を混合後、最終液量が50μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。
上記のRT-PCR反応液に、硫酸アンモニウムもしくはTween20を1.5μL添加した。陰性対照は、硫酸アンモニウムもしくはTween20の替わりに、1.5μLのRNase Free Waterを添加した。
(2)PCR反応液の保管
調製したPCR反応液を25℃で1日間、遮光下にて保管した。
(3)PCRの実施
調製直後のPCR反応液および、(2)の条件にて保管していたそれぞれのPCR反応液を用いて、以下の方法にて同様にPCRを実施した。各反応液に50コピー/μLに調製したノロウイルスG2 RNAを1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRを実施した。BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。52℃、35サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。次いで、BioRad製CFX ManagerまたはCFX Maestroソフトウエアによって算出される到達相対蛍光強度を測定値とした。
90℃ 1分(熱変性条件)
56℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 10秒
95℃ 1秒-56℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-52℃ 10秒 35サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(4) 結果
用事調製の測定値として得られた到達相対蛍光強度を100%とし、各条件において得られた測定値との比較を実施した。この結果を図3、4に示す。結果、陰性対照においては、25℃1日間保管で13%まで蛍光強度が低下してしまうが、Mn(OAc)濃度が2.5mMの場合であっても、硫酸アンモニウム(終濃度10mM)を添加した場合においては30%、Tween20(終濃度0.09%)を添加した場合においては71%の蛍光強度を維持しており、界面活性剤や硫酸アンモニウムを添加することでも保存安定性が向上する傾向が確認された。
【0083】
試験例3.RT-PCR反応液の保存安定性評価3
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、2.2mMの2価イオンと共に、界面活性剤としてTritonX-100を添加して、下記温度条件において保管し、その後、1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスRNAを検出した。
(1)反応液の調製
反応液(10xBufferを1xとなるように希釈して使用)
(rTaq DNA Polymerase 10xBuffer(東洋紡)添付品)
プライマー液(10xプライマー液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
プローブ液(10xプローブ液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
0.2mM dNTPs Mixture(東洋紡)
2.2mM Mn(OAc) (東洋紡)
4.2ng/μL rTth DNA polymerase(東洋紡)
0.01μg/μL 抗Tth 抗体
前記各試薬を混合後、最終液量が50μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。
上記のRT-PCR反応液にTritonX-100を1.5μL添加した。比較のための対照は、TritonX-100に替えて、1.5μLのRNase Free Waterを添加した。
(2)PCR反応液の保管
調製したPCR反応液を25℃で1日間、遮光下にて保管した。
(3)PCRの実施
調製直後のPCR反応液および、(2)の条件にて保管していたそれぞれのPCR反応液を用いて、以下の方法にて同様にPCRを実施した。各反応液に50コピー/μLに調製したノロウイルスG2 RNAを1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRを実施した。BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。52℃、35サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。次いで、BioRad製CFX ManagerまたはCFX Maestroソフトウエアによって算出される到達相対蛍光強度を測定値とした。
90℃ 1分(熱変性条件)
56℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 10秒
95℃ 1秒-56℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-52℃ 10秒 35サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(4) 結果
用事調製の測定値として得られた到達相対蛍光強度を100%とし、各条件において得られた測定値との比較を実施した。この結果を図5、6に示す。結果、2.2mMのマンガンイオンのみを含む対照においても、25℃1日間保管後の蛍光強度は44%を示したが、これに更にTritonX-100(終濃度0.01%)を添加した場合においては84%、TritonX-100(終濃度0.05%)を添加した場合においては91%の蛍光強度を維持しており、2価イオン濃度を2.2mMに下げて、かつ界面活性剤を添加することで保存安定性が著しく向上する傾向が確認された。
【0084】
試験例4.RT-PCR反応液の保存安定性評価4
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、異なる濃度の2価イオンを添加して、下記温度条件において保管し、その後、1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスRNAを検出した。
(1)反応液の調製
反応液(10xBufferを1xとなるように希釈して使用)
(rTaq DNA Polymerase 10xBuffer(東洋紡)添付品)
プライマー液(10xプライマー液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
プローブ液(10xプローブ液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
0.2mM dNTPs Mixture(東洋紡)
2.2~2.5mM Mn(OAc)(東洋紡)
4.2ng/μL rTth DNA polymerase(東洋紡)
0.01μg/μL 抗Tth 抗体
前記各試薬を混合後、最終液量が50μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。
(2)PCR反応液の保管
調製したPCR反応液を4℃で2週間、遮光下にて保管した。
(3)PCRの実施
調製直後のPCR反応液および、(2)の条件にて保管していたそれぞれのPCR反応液を用いて、以下の方法にて同様にPCRを実施した。各反応液に50コピー/μLに調製したノロウイルスG2 RNAを1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRを実施した。BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。52℃、35サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。次いで、BioRad製CFX ManagerまたはCFX Maestroソフトウエアによって算出される到達相対蛍光強度を測定値とした。
90℃ 1分(熱変性条件)
56℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 10秒
95℃ 1秒-56℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-52℃ 10秒 35サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(4) 結果
用事調製の測定値として得られた到達相対蛍光強度を100%とし、各条件において得られた測定値との比較を実施した。この結果を図7、8に示す。Mn(OAc)濃度が2.5mMの場合においては、4℃2週間保管で12%まで蛍光強度が低下してしまい、増幅曲線も殆ど立ち上がりが認められなかった。一方、Mn(OAc)濃度が2.2mMの場合においては4℃2週間保管後にも66%の蛍光強度を維持しており、増幅曲線の立ち上がりも認められ、2価イオン濃度を2.2mM以下に下げることで保存安定性が向上する傾向が確認された。
【0085】
試験例5.RT-PCR反応液の保存安定性確評価5
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、2.2mMの2価イオンと共に、硫酸アンモニウム(終濃度10mM)及び界面活性剤としてTween20(終濃度0.09%)を添加して、下記の各温度条件において保管し、その後、1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスRNAを検出した。
(1)反応液の調製
反応液(10xBufferを1xとなるように希釈して使用)
(rTaq DNA Polymerase 10xBuffer(東洋紡)添付品)
プライマー液(10xプライマー液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
プローブ液(10xプローブ液を1xとなるように希釈して使用)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
0.2mM dNTPs Mixture(東洋紡)
2.2mM Mn(OAc) (東洋紡)
4.2ng/μL rTth DNA polymerase(東洋紡)
0.01μg/μL 抗Tth 抗体
前記各試薬を混合後、最終液量が50μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。
(2)PCR反応液の保管
調製したPCR反応液を-20℃あるいは4℃で1ヵ月、遮光下にて保管した。
(3)PCRの実施
調製直後のPCR反応液および、(2)の条件にて保管していたそれぞれのPCR反応液を用いて、以下の方法にて同様にPCRを実施した。各反応液に50コピー/μLに調製したノロウイルスG2 RNAを1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRを実施した。BioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。52℃、35サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。次いで、BioRad製CFX ManagerまたはCFX Maestroソフトウエアによって算出される到達相対蛍光強度を測定値とした。
90℃ 1分(熱変性条件)
56℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 10秒
95℃ 1秒-56℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-54℃ 10秒 5サイクル(PCR)
95℃ 1秒-52℃ 10秒 35サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(4) 結果
用事調製の測定値として得られた到達相対蛍光強度を100%とし、各条件において得られた測定値との比較を実施した。この結果を図9、10に示す。結果、本発明に従って調製したRT-PCR反応液は、-20℃1ヵ月保管において95%の蛍光強度、4℃1ヵ月保管においては84%の蛍光強度を維持していた。長期保存期間であるにもかかわらず、試験例4よりも更に蛍光強度が高く維持されており、2価イオン濃度を2.2mM以下に下げて且つ界面活性剤および硫酸アンモニウムを添加することで、より一層効果的に保存安定性が向上する傾向が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、分子生物学研究、さらに臨床検査や食品衛生管理、感染症拡大防止などを目的とした検査において、好適に用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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