IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立産機システムの特許一覧

特開2024-176486受配電機器及び受配電機器の製造方法
<>
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図1
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図2
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図3
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図4
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図5
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図6
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図7
  • 特開-受配電機器及び受配電機器の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176486
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】受配電機器及び受配電機器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/662 20060101AFI20241212BHJP
   C08L 71/08 20060101ALI20241212BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20241212BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20241212BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01H33/662 R
H01H33/662 F
C08L71/08
C08K3/013
C08K3/36
C08L63/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095043
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大嶽 敦
(72)【発明者】
【氏名】田村 幸三
【テーマコード(参考)】
4J002
5G026
【Fターム(参考)】
4J002BN123
4J002BN143
4J002CD052
4J002CH081
4J002DJ017
4J002DJ056
4J002FB087
4J002FB097
4J002FD016
4J002FD017
4J002GQ00
4J002GQ01
5G026RA03
5G026RB02
5G026RB05
(57)【要約】
【課題】受配電機器1の真空バルブとモールド樹脂との接着性を向上させ、樹脂に加わる応力を緩和して強度を確保し、耐電圧性を向上させる。
【解決手段】固定電極11と、可動電極21と、これらの接触子12、22の接触部を収容する収容容器を有する真空バルブ30を備え、セラミックと金属にて形成されたバルブ部材30の収容容器の外面(部分)と樹脂2との間(点線48に示す部分)に、フッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層を接着材媒体として介在させて、樹脂2によるモールド体を形成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の固定電極と、金属製の可動電極と、前記固定電極と前記可動電極の接触部位を収容する収容容器を有して内部が真空にされたバルブ部材を備え、セラミック及び/又は金属にて形成された前記バルブ部材の外部を樹脂にてモールドするように製造される受配電機器であって、
前記収容容器の外面と前記樹脂との間に、フッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層を接着材媒体として介在させたことを特徴とする受配電機器。
【請求項2】
前記接着材媒体に、エポキシ系樹脂が含まれることを特徴とする請求項1に記載の受配電機器。
【請求項3】
前記接着材媒体に、ゴム系の微粒子が混在されることを特徴とする請求項1に記載の受配電機器。
【請求項4】
前記ゴム系の微粒子は、コアシェル型のゴム微粒子であることを特徴とする請求項3に記載の受配電機器。
【請求項5】
前記接着材媒体に含まれるフュームドシリカの表面が、アルキル基によって修飾されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の受配電機器。
【請求項6】
前記可動電極の可動部の作用点側は、前記樹脂にて覆われる空間内に配置され、
前記空間は、前記可動電極の可動方向とは直交する方向に前記可動電極と所定の距離を隔てるように形成された内周面を有する前記樹脂の筒状の覆い部により形成され、
前記覆い部のうち前記可動電極の移動範囲と重なる前記内周面には、前記接着材媒体が塗布されることを特徴とする請求項1に記載の受配電機器。
【請求項7】
金属製の固定電極と、金属製の可動電極と、
前記固定電極と前記可動電極の接触部位を覆うセラミック及び/又は金属性の収容容器を有し、内部が真空にされたバルブ部材を樹脂によってモールドされる受配電機器の製造方法であって、
前記バルブ部材の外面と前記樹脂との間に、フッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層を接着材媒体として塗布し、
樹脂が塗布されたバルブ部材と、前記固定電極への接続端子と、前記可動電極への接続端子の全体を前記樹脂によってモールドすることを特徴とする受配電機器の製造方法。
【請求項8】
前記接着材媒体は、フェノキシ樹脂を主成分とし、フッ化マイカ及びフュームドシリカが含まれることを特徴とする請求項7に記載の受配電機器の製造方法。
【請求項9】
前記接着材媒体には更に、エポキシ系樹脂が含まれることを特徴とする請求項8に記載の受配電機器の製造方法。
【請求項10】
前記接着材媒体に、ゴム系の微粒子を混在させることを特徴とする請求項8に記載の受配電機器の製造方法。
【請求項11】
前記ゴム系の微粒子は、コアシェル型のゴム微粒子であることを特徴とする請求項10に記載の受配電機器の製造方法。
【請求項12】
前記接着材媒体に含まれるフュームドシリカの表面が、アルキル基によって修飾されていることを特徴とする請求項7から11のいずれか一項に記載の受配電機器の製造方法。
【請求項13】
前記モールドする工程において、前記可動電極の可動部の周囲であって、前記可動電極とは離間するようにモールドされた前記樹脂による筒状の覆い部を形成し、
形成された前記覆い部のうち前記可動電極の移動範囲の内周面に、前記接着材媒体を塗布することを特徴とする請求項7に記載の受配電機器の製造方法。
【請求項14】
金属製の固定電極と、金属製の可動電極と、前記固定電極と前記可動電極の接触部位を収容する収容容器を有して内部が真空にされたバルブ部材を備え、セラミック及び/又は金属にて形成された前記バルブ部材の外部を樹脂にてモールドするように製造される受配電機器であって、
前記可動電極の可動部近傍の樹脂部分は、前記可動電極とは離間する内周面を有する筒状の覆い部を有し、
前記覆い部のうち前記可動電極の移動範囲の前記内周面に、フッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層が形成されていることを特徴とする受配電機器。
【請求項15】
前記フェノキシ樹脂層には、さらにエポキシ系樹脂が含まれることを特徴とする請求項14に記載の受配電機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受配電機器、特に好ましくは樹脂モールドされた真空遮断部を有する機器と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受配電機器、特にモールドされたタイプの真空遮断器においては多数の金属部品に加え、セラミック等からできたバルブ部の全体を樹脂にてモールドする必要がある。多くの場合、樹脂とモールドされる部材との間に線膨張係数の差がある場合が多く、真空遮断器では遮断器バルブの外縁を形成するセラミック及び金属と樹脂との間に線膨張係数の差がある。一般的に、セラミック、金属はモールド用の樹脂よりも線膨張率が低いことが多く、線膨張率の違いから樹脂割れの原因となっていた。近年では、樹脂の線膨張係数を増加させたり、樹脂の強度・破壊靭性を向上させたりして、樹脂の割れ防止の措置が取られてきた。また、モールド用の樹脂と遮断器バルブの間にシリコーンゴムを挟み込むなどして応力緩和させる場合もある。樹脂特性を変えるのは容易ではなく、それら樹脂は高価であるのが通例だからである。尚、シリコーンゴムを挟み込む場合には高価なシリコンを手間をかけてバルブの周囲に塗る、巻き付けるといった措置が必要であり、このような処理は材料のコストに加えて、人手、機械による処理といった製造コストが高くつく。
【0003】
特許文献1には、金属電極、アルミナ製の真空バルブ等の部品を備えたモールド機器が開示されており、内蔵部品の表面に、マイカ層とモールド層を設けている。ここではマイカ層は結着剤とマイカを含むことが示されており、結着剤としてフェノキシ樹脂が好ましいことが示されている。特許文献2には、フッ素化マイカとフェノキシ樹脂とを含む繊維強化複合材料用の樹脂組成物が開示されており、更にフィラとして微粉末シリカを含有できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-145328号公報
【特許文献2】特開2001-106800号公報
【0005】
特許文献1は遮断器向けであって、結着剤としてマイカを用いているが、マイカをフッ化することの記載や示唆は見あたらない。また、本明細書で言及するようなフュームドシリカを使用することには全く記載されていない。特許文献2には、フッ化マイカを含むフェノキシ樹脂組成物の特定の用途、即ちモールドされた受配電機器に用いる旨の記載が見あたらない。さらに、微粉末シリカの一次粒子径の記載もなく、これがフュームドシリカであるか否かの記載もない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
受配電機器、特に真空遮断器における遮断器バルブにおいては、金属部品とモールド用の樹脂とのあいだに接着層を設けて接着性を向上させ、接着層の両面に作用する応力を緩和し、なおかつ、耐電圧性を向上することが重要である。また、生産性を向上させるためにスプレー塗装の際の粘度調整を容易にすることも重要である。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の目的は、セラミックあるいは金属の表面を持つ被モールド部材とモールド用の樹脂との間に、線膨張率の差を吸収し、クラックの抑制を可能とする接着材媒体を介在させた受配電機器を提供することにある。
本発明の他の目的は、フッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層を接着材媒体として用いると共に、可動電極近傍の樹脂の空気に接する表面部分に接着材媒体を塗布した受配電機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、セラミックあるいは金属の表面を持つ被モールド部材をモールド用の樹脂にて覆うようにした受配電機器であって、被モールド部材の外面と樹脂との間に、フッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層を接着材媒体として介在させるようにした。この接着材媒体には、更にエポキシ系樹脂を含めたり、ゴム系の微粒子を混在させたりしても良い。ゴム系の微粒子は、コアシェル型のゴム微粒子とすると良い。接着材媒体に含まれるフュームドシリカの表面を、アルキル基によって修飾するようにしても良い。
【0009】
本発明の他の特徴によれば、可動電極の可動部の作用点側は、モールド用の樹脂にて覆われる空間内に配置され、この空間は大気に曝される環境下にあり、可動電極の可動方向とは直交する方向に可動電極と所定の距離を隔てるように形成された内周面を有する。本発明では、この内周面のうち、バルブ部材に近い側にフッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層を塗装部材として塗布する。
【0010】
本発明のさらに他の特徴によれば、内部が真空にされた受配電部の収容容器を樹脂によってモールドされる受配電機器において、バルブ部材の外面と樹脂との間に、フッ化マイカ及びフュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層を接着材媒体として塗布し、樹脂が塗布されたバルブ部材と、前記固定電極への接続端子と、前記可動電極への接続端子の全体を前記樹脂によってモールドすることで受配電機器を製造するようにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば受配電機器の耐電圧性を高め、バルブ部の収容容器の外面付近の樹脂の剥離によるモールド割れを防ぐことが可能となる。また、モールド割れの恐れが減少するため、モールド薄肉化による受配電機器の小形化や、耐圧性の向上が見込める。さらに、接着材媒体の塗膜の厚さに応じて粘度を自由に制御することができるため、信頼性及び耐久性の高いモールド型の受配電機器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(A)は本発明の実施例に係る真空遮断器1の縦断面図であり、(B)はモールドされる前の真空バルブ30の縦断面図である。
図2図1(A)と同じ縦断面図であり、本実施例の接着材媒体40を塗布する領域を示す図である。
図3】真空遮断器1に用いられる接着材媒体40の成分表である。
図4】真空遮断器1に使用可能な接着材媒体の成分とそれらの特徴及び含有量を示す表である。
図5】本発明の第2の実施例に係る接着材媒体60の成分表である。
図6】本発明の第3の実施例に係る接着材媒体の内部構造を示す図である。
図7】通常のフュームドシリカ表面の化学式である。
図8図7で示すOHをアルコキシ類によって修飾されたフュームドシリカ表面の化学式である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【実施例0014】
図1は、本発明が適用される真空遮断器1の構造を示す縦断面図である。図1(A)が全体の断面図であり、(B)は真空バルブ30部分の構造を示す断面図である。真空遮断器1は、高圧や特別高圧の配電設備等で広く使用される遮断器の一種であり、モールド真空遮断器とも呼ばれている。真空遮断器1は、固定電極11と可動電極21を含んで構成され、可動電極21は収容容器31内で固定電極11と対向するようして中心軸線A1に同軸に配置される。可動電極21の先端の接触子22が、固定電極11の先端の接触子12と離れることにより固定側導体10から可動側導体20に至る電路が遮断される。図1では、電路が遮断された状態を示している。また、接触子12と接触子22が当接されることにより、固定側導体10から可動側導体20に至る電路が確立される。固定電極11は、その一部が収容容器31内に挿入され、固定電極11の一端が図示しない外部の主回路に接続され、他端が樹脂2の内部で固定側導体10に接続される。
【0015】
固定電極11は、一端が金属製の固定側導体10に固定され、多端に接触子12が形成される。接触子12の形成される他端側は、収容容器31の内部の空間39内に位置する。固定側導体10と固定電極11は、電気的に接続された状態にある。可動電極21は、貫通孔が形成されたカップ状の摺動部材24と、摺動状態にて接続される。摺動部材24は可動側導体20と固定されることにより、可動電極21と可動側導体20は電気的に接続される。尚、図1(A)の矢印28付近で、可動電極21と摺動部材24が離間しているように図示されているが、これは説明の便宜上、摺動する状態を示すために隙間を図示した為であり、実際にはこれらは接触しながら可動側導体20が移動可能な構造として、電気的な導通状態が維持される。また、摺動部材24と可動側導体20は別体式でなく、金属の一体品として製造しても良い。
【0016】
可動電極21は、一部が空間39内にあり、反対側部分が空間39の外部(大気圧部分)に位置し、反対側の端部が可動側絶縁棒27に接続される。可動側絶縁棒27は、図示しない駆動手段又は操作手段に接続されて、矢印29の方向に移動可能なように構成される。このように真空遮断器1によって、固定側導体10から可動側導体20への電力伝達回路が接続又は遮断される。
【0017】
図1(B)は、固定電極11の可動電極21の接触部位(接触子12、22)を収容する収容容器31を含む真空バルブ30部分の縦断面図である。接触子12と13は、接触抵抗を減らすために、当接する部位の面積が広くなるように、上下方向や左右方向の幅が広くなるような形状にて形成される。また、図1(B)において、接触子12と接触子22が含まれる空間39、つまり収容容器31の内部空間は真空状態とされる。収容容器31は、真空容器とも呼ばれるものであり、高度の気密性が保たれる。
【0018】
収容容器31は、アルミナセラミックによる円筒部材32と、円筒部材32の前後に接続され、アルミニウム合金にて製造される封着金具33、34より形成される。本発明での「バルブ部材」は、収容容器に収容される部品を指すものである。固定電極11に対し可動電極21を開極する際、接触子12、22間でアークが発生してアークが持続しやすくなるが、収容容器31の内部の空間39を真空とすることで、アークを消滅させる効果がある。真空容器31には、貫通孔33aと34aが形成される。貫通孔33aには固定電極11が摺動不能状態で接触し、貫通孔34aには可動電極21が摺動可能状態にて接触する。可動電極21側の封着金具34の内側空間内には、ベローズ36が設けられる。
【0019】
ベローズ36は、収容容器31内に設置され、可動電極21が動いても収容容器31内の真空を維持するために、可動電極21と封着金具34との摺動面となる貫通孔34aから空気が空間39内に入り込まないようにする。ベローズ36の先端であって、接触子22に近い部分には、ベローズ用アークシールド37が設けられる。また、円筒部材32の内側には、略円筒状のセラミック用アークシールド35(図1(A)参照)が設けられる。可動電極21に接続される可動側絶縁棒27(図1(A)参照)を矢印29aの方向に軸線A1に沿って移動させることで遮断操作が行われ、矢印29aと反対方向に可動側絶縁棒27を移動させることで、可動電極21の接触子22が固定電極11の接触子12との接触状態から解除される。
【0020】
図1(B)にて示した真空容器31の外側表面は、図1(A)にて示されるようにエポキシ系の樹脂2により全体がモールド化された状態とされる。樹脂2は真空容器31部分の外側だけでなく、固定側導体10、固定電極11、円筒状の摺動部材24、可動側導体20も含むようにモールドされ、樹脂による成形部分が受配電機器の外形を決定する。本実施例では、この樹脂によるモールドを形成する製造段階において、特徴のある接着材媒体40(符号は後述の図3を参照)を使用するものである。
【0021】
接着材媒体40は真空容器31の外側表面、即ち、円筒部材32の外側表面と、封着金具33、34の外側表面に漏れなく塗布され、接着材媒体40が塗布された状態の真空バルブ30が樹脂2にモールドされることになる。つまり、この接着材媒体40(図1には符号は図示していない)は、円筒部材32及び封着金具33、34の外側表面と、樹脂2との間の接着材としての機能を果たすものである。
【0022】
樹脂2の内部には、複数の補強用の金属部材5a、5b、6a、6b、7が鋳込まれる。金属部材5aは円筒状であって、封着金具33の角部33bに接触させた状態にて樹脂2に鋳込まれる。金属部材5bは円筒状であって、封着金具34の角部34bに接触した状態にて樹脂2に鋳込まれる。金属部材6aはリング状の部材であり、固定側導体10に接触した状態にて樹脂2に鋳込まれる。金属部材6bはリング状の部材であり、摺動部材に接触した状態にて樹脂2に鋳込まれる。
【0023】
図2は、図1と同じ真空遮断器1の断面図であり、接着材媒体40(符号は後述の図3を参照)を塗る対象となる範囲を点線48にて示したものである。点線48の範囲は、断面図における部位を2次元にて示したものである。収容容器31(図1(B)参照)の外側表面全体に接着材媒体40を塗布した後に、それらの収容容器31を樹脂に鋳込むようにして外側に樹脂2によるモールド体を形成する。接着材媒体40による接着層による応力緩和によって、本来接触する2つの部材、即ち、円筒部材32と樹脂2、封着金具33、34と樹脂2との間の線膨張率の差を吸収することができるので、樹脂2にクラックが発生する恐れを解消できる。
【0024】
本実施例では、セラミックあるいは金属の表面を持つ部材(図1(B)に示した真空容器31)とモールド用の樹脂2との間にフッ化マイカおよび、フュームドシリカを含むフェノキシ樹脂層が接着材媒体40(図3参照)として存在させる。これにより、接着層による応力緩和によって線膨張率の差を吸収し、クラックの抑制が可能となった。従来、接着材媒体として知られていたマイカのような扁平粒子は、耐電圧性能を向上させることが知られている。しかし、マイカはフェノキシ樹脂への分散性が悪く、懸濁や沈降、凝集を起こす問題がある。そのような不均一分散は、塗膜を形成する際に塗膜中に含まれるマイカの偏りが生じ、塗った場所によってマイカ濃度にばらつきが生じ、耐電圧性能を下げる原因となっていた。本実施例では、接着材媒体40として、フッ化マイカを含むフェノキシ樹脂を用いるようにしたので、フェノキシ樹脂への粒子の分散性の悪化を解消できた。
【0025】
接着材媒体40の成分表を図3に示す。図3からわかるように、本塗料はフェノキシ樹脂を主たる剤とする塗料である。これにフッ化マイカを15wt%添加し、さらに石油系シンナーによって薄めている。液粘度の調整のため、フュームドシリカが3.0wt%添加されている。フュームドシリカの一次粒子径は20nmの品を使用した。また、フュームドシリカに生じた表面OH基は何の修飾もしていない。
【0026】
マイカと異なり、フッ化マイカはフェノキシ樹脂やそれを溶解するシンナー類に可溶または良分散するためスプレー塗装する際に均一な塗装が可能となる。不均一な塗装は塗面に凹凸を発生させ、弱点となって耐電圧性を低下させるが、本実施例の接着材媒体40は分散が良いためにそのようなことを防止できる。さらに、本実施例の接着材媒体では、フュームドシリカが微量添加される。フュームドシリカを添加することにより、接着材媒体40の粘度の調整が有効に効くため、塗布作業におけるスプレー吐出圧の高低に合わせての粘度調整が容易となる。フュームドシリカの添加量は通常では0.1wt%~5wt%の間とすると良く、スプレーにて収容容器31の外面等への塗装を行う際に、多くのスプレー塗膜厚さの変化への対応が容易となる。
【0027】
図4の表は、従来の接着材媒体(塗液)を用いたエポキシ板52と、本実施例に係る接着材媒体40を用いて製造したエポキシ板53、54の成分及び特徴をまとめたものである。この表において、最初の例51は、接着材媒体たるエポキシ板を用いない例、即ち、図2(B)で示した真空空間を形成する構造体の外側に、直接、樹脂2をモールドするような場合である。
【0028】
接着材媒体としてエポキシ系樹脂が混在する塗料が知られている。この接着材媒体(塗液)が52である。エポキシ樹脂とフェノキシ樹脂は反応の形態が似ているが、エポキシ樹脂は架橋反応を起こすために熱硬化性樹脂となる。フェノキシ樹脂が硬化後、フェノキシ由来の柔軟な層の硬さを調整するために使用することができる。塗膜の堅牢性が必要な場合に適する。
【0029】
エポキシ樹脂52は、混在させるエポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、アミン系硬化剤をほぼ同量、またごくわずかなイミダゾールを更に添加する。接着材媒体(塗液)52~54の塗装をする場合は、乾燥後45μmとなるようにした。接着材媒体40へのフュームドシリカの添加量は、1wt%~3wt%の間で粘度とすることが好ましく、フュームドシリカの添加することで多くのスプレー塗膜厚さの変化への対応が容易となる。この接着材媒体40を用いたエポキシ板が54である。本実施例に係る接着材媒体40では、フッ化マイカ+フェノキシ樹脂+フュームドシリカの塗液となり、この接着材媒体40を塗装したエポキシ樹脂板54の耐圧性能を調べたところ、39.5kV/mmとなりフェノキシ樹脂層のないエポキシ樹脂51の値28kV/mmより大幅に高くなることが分かった。
【0030】
また、-50℃から+110℃までヒートショック試験をして、耐クラック性を検査したところ、エポキシ板52~54に示すように、少なくともフェノキシ樹脂を塗布することで、クラックは発生せずこの性質はフッ化マイカやフュームドシリカを添加しても変化しなかった。以上の通り、本実施例では均一でスプレーに適した粘度に、塗装としての接着材媒体40の液特性を調整することができ、耐圧の向上、耐クラック性の向上が可能となった。
【実施例0031】
図5は、第2の実施例に係る接着材媒体60の成分とそれらの特徴及び含有量を示す表である。ここでは、真空空間を形成する接着材媒体60は、主成分たるフェノキシ樹脂61(40wt%)にエポキシ系樹脂65が5wt%混在する例である。また、フッ化マイカ62が15wt%、フュームドシリカが3wt%含まれる。フュームドシリカは一次粒子径が数十ナノメートルと非常に微細であり、表面にSi-O-Si、Si-OHなどの極性を持つ分子鎖が露出している。このため、フェノキシ樹脂との相溶性が良く、粘度を上げる効果が穏やかである。一方で、Si-OH基の一部をアルキル化処理するなどして疎水性をもたせることで、相溶性が下がり、しかしながら微細で添加量がわずかであるために凝集や沈殿を起こさず、添加濃度に対し粘度を急激に上げる特性を発揮する。特に厚塗りをしたい場合などは液の粘度が高い方が液だれを起こしにくいため、またスプレー塗布の際の吐出圧が高い場合には、粘度が高いほど均一に塗膜形成が可能となる。好ましくは、上記までに述べた接着材媒体60に含まれるフュームドシリカ64の表面がアルキル基によって修飾される。
【0032】
石油系シンナー63は薄め液であり、さらに、アミン硬化剤が3wt%含まれる。このような接着材媒体60を用いることで、図6のように乾燥後のフェノキシ樹脂61中に島状のエポキシ樹脂硬化物65が散在した内部構造を持たせることができる。このような樹脂の内部構造とすることで、乾燥後のフェノキシ樹脂61中に島状のエポキシ樹脂65の硬化物が散在した、いわゆる海島構造と呼ばれるものであり、接着材媒体60による塗膜の強靭性を向上させる効果が得られる。
【0033】
以上のように、真空バルブ30の金属部材と外側の樹脂の間に接着材媒体60が塗布される。真空遮断器1における高電界部位は主として真空バルブ30の周辺部、特にバルブの両端付近およびその周辺の金属類表面である。この部分を塗装処理することで、高耐圧化の効果がよりよく発揮される。また、線膨張係数の異なる二種の素材間でのテンションを緩和するためにクラックの発生を抑止することができる。
【実施例0034】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。第3の実施例では、上述した接着材媒体(接着材媒体60)にゴム系の微粒子(図示せず)が含まれる例について説明する。本実施例の接着材媒体60にゴム系の微粒子が含まれても良い。ゴム系粒子はフェノキシ樹脂による接着層に柔軟性を与える効果があり、より応力緩和が必要となる場合、たとえば樹脂とセラミック、金属部品との線膨張係数の差が大きい場合に適用すると剥離を起こしにくく、接着性が向上し、かつクラックが発生しない。
【0035】
上記のゴム系微粒子は、コアシェル型のゴム微粒子であっても良い。ゴム粒子は本実施例では二層または複数層からなるコアシェルタイプである。ゴムの粒子径は1μm以下、100nm以上が好ましい。例えば、ゴム粒子を二層として、外層はフェノキシ樹脂との相溶性が高いカルボキシル基や水酸基などが含まれたゴム粒子、例えばニトリルブタジエンゴムのような極性の高いゴム層とし、その表面にアクリル基を持たせる。内部はゴム的な弾力に富むスチレンブタジエンゴムなどが用いられる。このゴム粒子はフェノキシ樹脂に良く分散するため、均一な塗布ができ、液中で凝集や沈殿を起こすことがない。
【0036】
ゴム粒子の平均粒子径として700nmのものを用いた例において、図3に示した成分のうち、フェノキシ樹脂41を5wt%だけ減じ、この5wt%分ゴム粒子に代えた。この接着材媒体40Aを用いてヒートショック試験をした結果、-70℃~110℃の試験でもクラックを発生せず、また破壊靭性試験をした結果、図3に示した接着材媒体40に比較し、破壊靭性が1.7倍になることが確認された。以上のように、実施例3により樹脂2の一層の強靭化を図ることができた。
【実施例0037】
次に、本発明の第4の実施例について説明する。第4の実施例では、接着材媒体に含まれるフュームドシリカの表面がアルキル基によって修飾されている例である。図7に示すのは通常のフュームドシリカ表面の化学式であり、表面にはシリコン原子と酸素原子、また一部のシリコン原子には水酸基が結合している。このような状態では確かに媒体のチクソトロピー(粘性液体が止まった状態から、動き始めるまでの初期粘度)を上昇させる効果があるが、さらにわずかな量の添加でチクソトロピーを向上させるには、OHをエトキシ、ブトキシ等のアルコキシ類によって修飾することが効果的である。
【0038】
図8は、図7で示したOH基がアルコキシ化されている接着材媒体の化学式である。このようなフュームドシリカもごく一般に上市されており、安価に利用することが可能である。本実施例では0.1~1wt%の塗料への添加により、同等の粘度制御効果を得た。以上のように本実施例により、ごくわずかなフュームドシリカの添加により、塗料の粘度制御が可能となる。
【実施例0039】
次に、本発明の第5の実施例について説明する。第5の実施例では、接着材媒体40又は60を用いて、接着材としての使用ではなく、表面保護剤(塗料)として使用する。対象とするモールド真空遮断器1等の受配電機器は、第1~第4の実施例と同じである。
【0040】
可動電極21の可動部の作用点側(可動側絶縁棒27との接続点側)は、モールド用の樹脂2にて覆われる空間内に配置され、その筒状の空間は、可動電極21の可動方向とは直交する方向に、可動電極21と所定の距離を隔てるように形成された壁面(内周面)4a~4cが形成される。このように樹脂2による筒状の覆い部分が形成され、覆い部分のうち可動電極21の移動範囲と重なる内周面の一部であって固定電極11に近い側に、即ち図2の破線90で示す部分に接着材媒体40又は60のいずれかが塗布される。この塗布領域91は、円柱状の可動電極21の軸方向A1方向に見て、樹脂2の非真空空間4を形成する筒状部分のうち、太径部4cの内側の一部と、細径部4aから太径部4bまでのテーパー部4bであって、特に高電界となる部位の壁面である。この塗布領域91はエポキシの樹脂2と空気との界面にあたる上に、真空バルブ30が位置する真空空間3よりも軸線A1方向の外側(可動側絶縁棒27側)にあって、可動側絶縁棒27が位置する部分に相当する。
【0041】
このように、第5の実施例では接着材媒体40又は60を接着材に用いるだけではなく、特に電界強度が高くなる部位の表面塗装をするための塗料として用いる。第5の実施例は、第1~第4の実施例と併用して用いても良いし、単独で用いても良い。電界強度が高くなる部位に積極的に本発明における接着材媒体40又は60を塗布することで、放電あるいは放電による破壊現象を防止することが可能となる。また、同じ電圧であればより薄い樹脂厚によって破壊現象を抑制できるため、本体の小形化及び軽量化が可能となる。尚、樹脂2の非真空空間4を形成する筒状部分のうち、細径部4aの内側には接着材媒体40又は60を塗布していないが、塗布するように形成することも可能である。さらに、非真空空間4を形成する筒状部分のうち、図2の塗布領域91からみて真空バルブ30と離れた側の内周面にも接着材媒体40又は60を塗布するようにしても良い。
【0042】
以上、本発明の実施例を第1~第5の実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例だけに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。フェノキシ樹脂層に含まれるフッ化マイカや、フュームドシリカの含有量は、上述した例に対して適宜増減させても良い。
【符号の説明】
【0043】
1 真空遮断器
2 樹脂
3 真空空間
4 非真空空間
5a、5b、6a、6b 金属部材
7 金属部材
10 固定側導体
11 固定電極
12 接触子
20 可動側導体
21 可動電極
22 接触子
24 摺動部材
27 可動側絶縁棒
30 真空バルブ
31 収容容器(真空容器)
32 円筒部材
33 封着金具
33a 貫通孔
33b 角部
34 封着金具
34a 貫通孔
34b 角部
35 (円筒部材用)アークシールド
36 ベローズ
37 (ベローズ用)アークシールド
39 空間
40、40A 接着材媒体
50 接着材媒体(塗液)
51 フェノキシ樹脂
52 エポキシ樹脂板
53 エポキシ樹脂
60 接着材媒体
61 フェノキシ樹脂
62 エポキシ樹脂硬化物
90 塗料塗布部(破線)
91 塗布範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8