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特開2024-176491太陽電池の電子輸送層及び太陽電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176491
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】太陽電池の電子輸送層及び太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20241212BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20241212BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20241212BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20241212BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/85
H10K85/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095051
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】安達 充浩
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107DD74
3K107DD84
5F251AA11
5F251CB12
5F251CB13
5F251CB15
5F251CB24
5F251CB30
5F251FA02
5F251FA03
5F251FA04
5F251GA03
5F251XA01
5F251XA54
5F251XA61
(57)【要約】
【課題】ペロブスカイト層の表面欠陥を改善し、デバイスの変換効率を向上させ、耐久性を高めたペロブスカイト太陽電池の電子輸送層を提供する。
【解決手段】太陽電池10のペロブスカイト層4との間で電子が輸送される電子輸送層3であって、ペロブスカイト層4と接触する電子輸送層3の表面には、カルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩を含む表面処理膜34が形成されている電子輸送層。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池のペロブスカイト層との間で電子が輸送される電子輸送層であって、
前記ペロブスカイト層と接触する前記電子輸送層の表面には、カルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩を含む表面処理膜が形成されている電子輸送層。
【請求項2】
前記表面処理膜は、カルボキシル基を有する第4級アンモニウム塩を含む請求項1に記載の電子輸送層。
【請求項3】
前記表面処理膜は、ベタインハロゲン化水素塩を含む請求項2に記載の電子輸送層。
【請求項4】
基板上に透明導電膜を形成するステップと、
電子輸送層を形成するステップと、
前記電子輸送層に対して、カルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩を含む表面処理膜を形成するステップと、
前記表面処理膜上にペロブスカイト層を形成するステップと、
ホール輸送層を形成するステップと、
電極を形成するステップと、を順次行う太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の電子輸送層及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、シリコン系、化合物半導体、有機半導体などの素子を用いたものが一般的であるが、高い光捕集能に加え、薄膜化や低コスト化の可能なハイブリッド型太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)が注目されている。
【0003】
非特許文献1には、透明導電膜付きガラス基板と、ホール輸送層と、メチルアミンヨウ化鉛(CHNHPbI:以下、「MAPbI」と略する場合がある)からなるペロブスカイト層と、電子輸送層と、バッファー層と、電子輸送層と、電極とを備えたp-i-n構造のペロブスカイト太陽電池が示されている。
【0004】
このような太陽電池において、ペロブスカイト層は多結晶薄膜として作成される。一般的に、多結晶薄膜は表面の欠陥や結晶粒界を有するため、これらに起因して、ペロブスカイト層中においてホールと電子の再結合が生じ、太陽電池デバイスの変換効率が低下することや、結晶の劣化が生じるといった課題がある。そこで、非特許文献1では、ペロブスカイト層を形成した後、n-ブチルアミン又はn-ブチルアンモニウムヨージドを用いてペロブスカイト層の上面の表面処理を行い、結晶表面及び結晶粒界にペロブスカイト化合物を2次元的に配列させ、デバイスの変換効率及び耐久性の向上を図っている。これにより、変換効率は17.3%から19.3%まで向上したことが報告されている。
【0005】
非特許文献2には、多孔質な二酸化チタン(TiO)からなる電子輸送層の表面に、グリシンヨウ化水素塩、β-アラニンヨウ化水素塩又はγ-アミノブチル酸ヨウ化水素塩からなる単分子膜を形成し、その上にMAPbIからなるペロブスカイト層を形成したn-i―p構造のペロブスカイト太陽電池が示されている。
【0006】
この太陽電池においては、電子輸送層上に存在するグリシンヨウ化水素塩等の一部が、ペロブスカイト層の界面においてペロブスカイト化合物のAサイトに入り込むことにより、ペロブスカイト化合物の結晶成長が促進されることが報告されている。これにより、ペロブスカイト層の下面の表面欠陥が改善され、変換効率が8%から10%まで向上している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yun Lin他著、“Enhanced Thermal Stability in Perovskite SolarCells by Assembling 2D/3D Stacking Structures”, J. Phys. Chem. Lett. 2018, 9, 654-658(DOI: 10.1021/acs.jpclett.7b02679)
【非特許文献2】Yuhei Ogami他著、“All-Solid Perovskite Solar Cells with HOCO-R-NH3+I- Anchor-Group Inserted between Porous Titania and Perovskite”, J. Phys. Chem. C 2014, 118, 30, 16651-16659(DOI: 10.1021/jp412627n)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1における表面処理は、ペロブスカイト層を形成した後に行われるため、ホール輸送層とペロブスカイト層の界面に位置するペロブスカイト層の下面は表面処理がなされない。したがって、ペロブスカイト化合物の下面には、表面欠陥が依然として存在している。
【0009】
また、非特許文献2においては、電子輸送層とペロブスカイト層との間において単分子膜を介した結晶成長が行われているだけであり、ペロブスカイト化合物の結晶分解に起因する表面欠陥等が生じる可能性がある。したがって、結晶表面の欠陥に対して改善の余地がある。
【0010】
そこで、多結晶薄膜であるペロブスカイト層の表面欠陥を改善し、デバイスの変換効率を向上させ、耐久性を高めたペロブスカイト太陽電池の電子輸送層が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電子輸送層の特徴構成は、太陽電池のペロブスカイト層との間で電子が輸送される電子輸送層であって、前記ペロブスカイト層と接触する前記電子輸送層の表面には、カルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩を含む表面処理膜が形成されている点にある。
【0012】
ペロブスカイト層と接触する電子輸送層の表面には、表面処理膜として、カルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩の単分子膜が形成される。この表面処理膜において、カルボキシル基は電子輸送層の表面に吸着している。カルボキシル基と反対側のアンモニウム塩の側鎖は正に帯電しているため、表面処理膜上に形成されるペロブスカイト化合物のアニオンを引寄せやすい。しかしながら、本発明に係るアンモニウム基は第3級又は第4級であり嵩高いので、ペロブスカイト化合物はアンモニウム基を三次元構造におけるAサイトに取り込むことができない。したがって、ペロブスカイト化合物は、表面処理膜上においては三次元構造を形成できず、アンモニウム塩と反応し二次元構造をとると考えられる。この二次元構造上には、ペロブスカイト化合物の三次元結晶が形成されるので、ペロブスカイト層はその表面に二次元構造を有することになる。二次元構造を有するペロブスカイト化合物の三次元結晶は、結晶表面が安定化するので、太陽電池の耐久性が向上すると共に、ペロブスカイト層中の欠陥に起因するホールと電子の再結合が抑制され、変換効率が向上する。
【0013】
また、アンモニウム基が帯電しやすくなるため、ペロブスカイト層の結晶格子内での電荷バランスを安定化させることができる。さらに、核生成が起こりやすくなるため、ペロブスカイト層の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ペロブスカイト太陽電池の模式断面図である。
図2】ペロブスカイト太陽電池の発電説明図である。
図3】ペロブスカイト太陽電池の作製手順を示す説明図である。
図4】実施例1及び実施例2、比較例の性能曲線を示す比較図である。
図5】実施例1及び実施例2、比較例の性能曲線を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る電子輸送層の実施形態について、図面に基づいて説明する。本実施形態では、電子輸送層の一例として、ペロブスカイト太陽電池の電子輸送層として説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0016】
〔本実施形態に係る太陽電池の基本構成〕
図1に示すように、本実施形態に係る太陽電池10は、透明基板21及び透明導電膜22を有する基板2と、電子輸送層3と、ペロブスカイト層4と、ホール輸送層5と、電極6を順次形成した積層体11を備えている。電子輸送層3は、緻密層32と多孔質層33から構成され、電子を透明導電膜22に受け渡し、かつ、ホール輸送層5と透明導電膜22とを分離して電子とホールとの再結合(逆電子移動)を防止する。透明導電膜22に受け渡された電子は、透明導電膜22の表面に設けられた光電極61へと移動する。多孔質層33の表面には表面処理膜34が設けられている。ペロブスカイト層4は、表面処理膜34上に設けられ、光によって励起して電子を発生する。ホール輸送層5は、ペロブスカイト層4で発生したホールを、ホール輸送層5の表面に設けられた対向電極62へと輸送する。光電極61から放出された電子は、対向電極62で受け取られる。なお、電極6の配置は、例えば電子輸送層3に導線接続して光電極61を形成するなど、電子の受け渡しが可能なものであれば特に限定されない。また、太陽電池10の耐久性を高めるため、対向電極62を透明基板21などで保護してもよい。
【0017】
透明基板21は、光透過性を有するもので構成される。例えば、透明ガラス基板、すりガラス状の半透明ガラス基板、透明樹脂基板等を適用することができる。また、透明導電膜22は、例えば、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化スズ(TO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)やアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)などを用いることができる。
【0018】
緻密層32及び多孔質層33からなる電子輸送層3は、金属酸化物が適している。例えば、二酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)、二酸化スズ(SnO)や酸化アルミニウム(Al)などが用いられる。特に、ペロブスカイト層4を積層するための表面積を多く確保できる二酸化チタン(TiO)の焼結体として構成することが好ましい。また、緻密層32は、一部が透明導電膜22に延出して形成され、透明導電膜22を区画し、絶縁層31を形成している。緻密層32においては、電子は積層方向に通過することができるが、絶縁層31は、電子の横方向への移動を抑制する。つまり、電子輸送層3から侵入した電子は、透明導電膜22の積層方向に円滑に移動して光電極61に供給されると共に、絶縁層31によって対向電極62への移動が防止されるので短絡しない。
【0019】
表面処理膜34を構成するアンモニウム塩には、化学式1で示されるカルボキシル基を有する第3級アンモニウム、又は化学式2で示されるカルボキシル基を有する第4級アンモニウムを用いることができる。第3級アンモニウムは、R、Rを-C2n+1(nは1~4の整数)から、Rを-C2m-(mは1~5の整数)から選択することができる。RとRは同一であっても、異なっていてもよい。また、第4級アンモニウムは、R、R、Rを-C2n+1(nは1~4の整数)から、Rを-C2m-(mは1~5の整数)から選択することができる。R、R、Rは同一であっても、異なっていてもよい。アンモニウム塩として、例えばハロゲン化水素塩を用いることができる。ハロゲン元素としては、例えば、塩素や臭素、ヨウ素等を用いることができる。アンモニウム塩は、ハロゲン化水素塩に限らず、炭酸塩や硝酸塩であってもよい。
【0020】
【化1】
【化2】
【0021】
第4級アンモニウムのR及び、第3級又は第4級アンモニウムのR、Rにおける-C2n+1は、アルキル基であり、直鎖及び分枝の別を問わない。また、その鎖長はアルキル基を構成する炭素原子数が1~4である限りは特に制限はない。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。
【0022】
における-C2m-は、アルキレン基であり、直鎖及び分枝の別を問わない。また、その鎖長はアルキレン基を構成する炭素原子数が1~5である限りは特に制限はない。具体的には、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、1-メチルエチレン基、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、3-メチルトリメチレン基、1-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチルテトラメチレン基、2-メチルテトラメチレン基、3-メチルテトラメチレン基、4-メチルテトラメチレン基、1,1-ジメチルトリメチレン基、2,2-ジメチルトリメチレン基、及び3,3-ジメチルトリメチレン基等が挙げられる。
【0023】
ペロブスカイト層4は、鉛及びハロゲン元素Xで構成される化合物(PbX、X=ハロゲン元素)と、メチルアンモニウムアイオダイド(CHNHI:以下、「MAI」と略する場合がある)とを反応させて生成される。具体的には、表面処理膜34が形成された多孔質層33の孔内部に鉛及びハロゲン元素Xを含む溶液を浸透,乾燥させた後、MAIの混合溶液に浸漬して、ペロブスカイト層4を形成するペロブスカイト化合物(X=Iの場合、CHNHPbI)の結晶が速やかに生成される。なお、ハロゲン元素Xは、ヨウ素、臭素や塩素などを用いることができるが、形態安定性の高いヨウ素を用いることが好ましい。また、MABrと0.2Mの臭化鉛(PbBr)、ホルムアミジンヨウ化水素酸塩(CH・HI:以下、「FAI」と略する場合がある)とヨウ化鉛(PbI)を利用した混合カチオン-混合ハライド((FAPbI1-x(MAPbBr)としてもよい。例えば、(FAPbI0.85(MAPbBr0.15等を好適に用いることができる。
【0024】
ホール輸送層5は、スピロビフルオレン系化合物(spiro-OMeTAD)やポリ(ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン)(PTAA)などを用いることができる。電極6は、例えば、金、白金、銀、銅等の金属の単体や合金、あるいはフッ素ドープ酸化スズ(FTO)やスズドープ酸化インジウム(ITO)といった酸化物導電体などを用いることができる。
【0025】
続いて、図2を用いて太陽電池10が発電する原理について説明する。透明基板21に太陽光や室内光等の光が入射すると、この入射光はほとんど吸収されることなく基板2や電子輸送層3を透過して、大部分がペロブスカイト層4に到達する。そして、この入射光がペロブスカイト層4に照射されると、このペロブスカイト層4は光エネルギーを吸収して励起する。この励起により、ペロブスカイト層4のエネルギー準位が電子輸送層3の多孔質層33である金属酸化物の伝導帯電位よりも所定レベル以上高くなると、ペロブスカイト層4から多孔質層33へと電子が注入される。注入された電子は、緻密層32を経て光電極61で集電される。
【0026】
一方、ペロブスカイト層4で発生したホールは、ホール輸送層5を経由して対向電極62へ到達し、ここで外部負荷7を経由してきた電子と再結合する。つまり、光電極61と対向電極62との間に電位勾配が生じるので、両極間に外部負荷7を接続することによって、電力を発生させることができる。
【0027】
〔本実施形態に係る太陽電池の作製手順〕
次に、本実施形態に係る太陽電池10の作製手順を、図3に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。また、Michael Saliba他著、“Correction to “How to Make over 20% Efficient Perovskite Solar Cells in Regular (n-i-p) and Inverted (p-i-n) Architectures””、Chem. Mater., 2018, 30, 4193-4218等の公知技術を参照して作製することができる。
【0028】
まず、透明基板21の上に透明導電膜22を形成して基板2を作製する。透明導電膜22は、例えば、CVD(化学的気相成長法)やスパッタリングなどにより透明基板21上に積層される。次いで、レーザースクライブを施して透明導電膜22を部分的に除去し絶縁層31が入る凹部221を形成した後、洗浄する。次いで、基板2上の全面に、ALD法(原子層堆積法)やSPD法(スプレー熱分解法)などにより緻密層32を形成する。緻密層32は、好ましくは、TiO緻密層として形成される。次いで、マスキングを施した基板2及び緻密層32上の中央付近に、ナノ粒子焼結層である多孔質層33を形成する。好ましくはTiOの多孔質層33(p-TiO)として形成される。この多孔質層33は、ナノ粒子ペーストを溶媒によって希釈し、例えば、4000rpm~6000rpmの回転速度のスピンコート法で塗布,乾燥した後、マスキングを取り除いて450℃~550℃で加熱し、焼結形成される。
【0029】
次に、例えば、(カルボキシルメチル)トリメチルアンモニウム塩酸塩(以下、ベタイン塩酸塩と称する場合がある)のエタノール溶液を調製し、この溶液中に多孔質層33を浸漬,乾燥させることにより、多孔質層33の表面に表面処理膜34を形成する。
【0030】
続いて、例えばPbIのN,N-ジメチルホルムアミド溶液を調製し、多孔質層33上に滴下後、例えば、5000rpm~8000rpmの回転速度のスピンコートにより孔(p-TiO)内部への浸透と余分な溶液の除去を行う。60℃~120℃(好ましくは70℃~90℃)で乾燥させてPbI層を形成する。
【0031】
MAI(CHNHI)のイソプロピルアルコール溶液(2~20mg/ml)に、基板2,緻密層32,ヨウ化鉛が浸透した多孔質層33を0℃~80℃(好ましくは常温)で浸漬する(MAI浸漬法)。PbIとMAIが反応によりペロブスカイト化合物[(CHNH)PbI(MAPbI)]をペロブスカイト層4として多孔質層33の孔内部及び上部に形成した後、純イソプロピルアルコール溶液で灌ぎ、60℃~120℃(好ましくは70℃~100℃)で乾燥させる。混合カチオン-混合ハライド((FAPbI1-x(MAPbBr)系のペロブスカイト化合物についても同様にして調製することができる。
【0032】
本実施形態に係るホール輸送材料を、例えば、クロロベンゼン溶液60~90mg/mlとして調製する。溶液をペロブスカイト層4上に滴下し、スピンコート法により余分な溶液の除去を行い、乾燥させることでホール輸送層5を形成する。ホール輸送材料には、4-イソプロピル-4´-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB)等の添加物を添加してもよい。TPFBを添加する場合には、TPFBは、ホール輸送材料の0.01重量%~100重量%であることが好ましく、0.1重量%~50重量%であることが特に好ましい。例えば、本実施形態に係るホール輸送材料を30mMとなるように秤量し、その10重量%に相当するTPFBを加え、これらをクロロベンゼンに溶解させたものを用いてホール輸送層5を形成することができる。
【0033】
PbI層形成からホール輸送層5形成までの工程は、グローブボックスなど乾燥窒素雰囲気下で行うことが好ましい。最後に、真空蒸着法などによって、金などの薄膜を電子輸送層3及びホール輸送層5の表面に付着させ、電極6を形成する。
【0034】
上記の作製手順では、ペロブスカイト層4を形成するペロブスカイト化合物を2ステップによって結晶成長制御したものであるが、これを1ステップで行ってもよい。例えば、ペロブスカイト((CHNH)PbI)溶液をスピンコート法により、多孔質層33の孔内部に浸透させる。スピン中にトルエンを滴下し、微小結晶を析出させて表面を鏡面化する(貧溶媒析出法)。続いて、本実施形態に係るホール輸送材料によりホール輸送層5を形成してもよい。
【0035】
〔本実施形態に係る表面処理膜材料の好適例〕
本実施形態に係るカルボキシル基を有する第3級アンモニウム塩の好適例は、3-(ジエチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩である。カルボキシル基を有する第4級アンモニウム塩の好適例は、ベタイン塩酸塩である。
【0036】
〔本実施形態に係る表面処理膜の特性〕
本実施形態に係る表面処理膜34においては、カルボキシル基が電子輸送層3を形成する金属酸化物表面に吸着する。表面処理膜34を構成する分子は直線構造を有するので、アンモニウム塩は電子輸送層3に対して垂直に配置される。そうすると、正に帯電したアンモニウム基が表面処理膜34の上面に存在することになるので、ペロブスカイト層4を形成する過程において、ペロブスカイト化合物とアンモニウム塩が反応する。ペロブスカイト化合物は、鉛及びハロゲン元素XからなるアニオンとMA等のカチオンを有するので、表面処理膜34上において、アニオンはアンモニウム塩に引き寄せられる。ここで、アンモニウム塩は3級又は4級であるために嵩高く、三次元構造をとるペロブスカイト化合物の結晶格子内のAサイトに入ることはできない。したがって、表面処理膜34上において、ペロブスカイト化合物は三次元構造をとらず、二次元構造をとる。このような二次元構造をとるペロブスカイト化合物上に三次元の結晶が形成されると、結晶表面の欠陥を減らすことができるので、太陽電池性能が向上する。
【0037】
本発明を、以下の実施例をもって詳細に説明する。
【0038】
〔実施例〕
一例をあげると、透明基板21にはフッ素ドープ酸化スズ(FTO)ガラス(23mm×14mm×1.6mm)を使用した。このFTOガラスにレーザースクライブを施してFTOを除去した凹部221を形成し、十分に洗浄した。次に、緻密層32としてTiO緻密膜をスプレー熱分解法(SPD法)により形成した。さらに、市販のTiOナノ粒子ペーストをエタノールで希釈した溶液を滴下し、スピンコートにより塗布し、100℃で乾燥させた。乾燥後、450℃で焼成することで、多孔質層33となるTiOナノ粒子層を形成した。焼成後、室温まで冷却した。
【0039】
次に、多孔質層33の表面に表面処理膜34を形成するための、処理溶液の調製を行った。初めに、ベタイン塩酸塩を秤量し、この中に脱水エタノールを注入した。次にこの溶液を超音波処理して、ベタイン塩酸塩を完全に溶解させて、処理溶液を調製した。また、ベタイン塩酸塩に代えて3-(ジエチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩を用いて同様の処理を行い、処理溶液を調製した。
【0040】
上記した夫々の処理溶液中に多孔質層33を30分間浸漬した後、脱水エタノールでリンスしてから、窒素ブローで乾燥した。
【0041】
次に、ペロブスカイト層4を形成するための、ペロブスカイト前駆体溶液の調製を行った。初めに、FAI(CH(NHI)を秤量し、この中にあらかじめ調製しておいた1.7MのPbI/ジメチルホルムアミド(DMF)+ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を注入して、FAPbI溶液を調製した。次に、MAI(CHNHI)を秤量し、この中にあらかじめ調製しておいた1.7MのPbI/ジメチルホルムアミド(DMF)+ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を注入して、MAPbI溶液を調製した。
【0042】
最後に、FAPbI溶液とMAPbI溶液、及び、あらかじめ調製しておいた1.7MのCsI/ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液を混合してスピンコートに供する前駆体溶液を調製した。
【0043】
ペロブスカイト層4の製膜は、上記した前駆体溶液を表面処理膜34が形成された多孔質層33上に滴下し、スピンコートにより塗布した。塗布完了後、100℃で60分間加熱を行い、続いて室温まで冷却した。
【0044】
続いて、ホール輸送層5の調製を行った。ホール輸送材料としては、2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)を用いた。ホール輸送材料溶液を最終濃度60mMとなるように秤量し、クロロベンゼンに溶解させた。次に、ホール輸送材料の50mol%に相当するリチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)と350mol%に相当する4-tert-ブチルピリジン(TBP)を夫々上記した溶液に添加することでホール輸送材料溶液を調製した。なお、ドーパントして汎用されるコバルト錯体(FK209)は添加しなかった。ホール輸送層5の製膜は、ホール輸送材料溶液をペロブスカイト膜上に滴下し、スピンコート法により形成した。
【0045】
ホール輸送層5の製膜後、真空蒸着法で約100nmの金を製膜して、これを取り出して電極6とし、これを積層した。
【0046】
次に、太陽電池10の性能評価を行った。ここでは、多孔質層33の表面にベタイン塩酸塩を用いて表面処理膜34を形成したもの(実施例1)、3-(ジエチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩を用いて表面処理膜34を形成したもの(実施例2)、表面処理膜34が未形成であるもの(比較例)について、夫々太陽電池10を作製し、検討を行った。
【0047】
表1に太陽電池10の電池性能評価の結果を示す。表1は、太陽電池10の短絡電流密度(以下、「Jsc」と称する場合がある)、開放電圧(以下、「Voc」と称する場合がある)、フィルファクター(以下、「FF」と称する場合がある)、変換効率(以下、「PCE」と称する場合がある)の各パラメータを要約したものである。なお、FFとは、電流と電圧の積が最大となる点における最大出力Pmaxを(Voc×Jsc)で割って算出し、PCEは、(Voc×Jsc×FF÷入射光強度)で算出したものである。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の結果より、ベタイン塩酸塩を用いた実施例1、及び、3-(ジエチルアミノ)プロピオン酸塩酸塩を用いた実施例2のPCEは17.0%であり、表面処理膜34が未形成である比較例のPCE15.8%と比較すると、高い太陽電池特性を示した。表面処理膜34を構成する分子形状の相違により、電池性能が変化することが判明した。
【0050】
図4は太陽電池10の作成直後に測定した電流-電圧曲線であり、図5は太陽電池10を作成してから1か月後に測定した電流-電圧曲線である。実施例1及び実施例2は、時間が経過しても曲線に変化がない一方で、表面処理膜34を形成していない比較例は、作成してから1か月後の電流値が減少しており、デバイスが安定していないことが読み取れる。したがって、電子輸送層3の表面に表面処理膜34を設けることにより、太陽電池10の耐久性が向上することが分かった。
【0051】
上述した実施形態では、下記の構成が想起される。
(1)太陽電池10のペロブスカイト層4との間で電子が輸送される電子輸送層3であって、ペロブスカイト層4と接触する電子輸送層3の表面には、カルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩を含む表面処理膜34が形成されている電子輸送層。
【0052】
ペロブスカイト層4と接触する電子輸送層3の表面に、カルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩を含む表面処理膜34を形成すると、カルボキシル基が多孔質層33の表面に吸着する。カルボキシル基と反対側のアンモニウム塩の側鎖は正に帯電しているため、表面処理膜34上に形成されるペロブスカイト化合物のアニオンを引寄せやすい。しかしながら、本発明に係るアンモニウム基は第3級又は第4級であり嵩高いので、ペロブスカイト化合物はアンモニウム基を三次元構造におけるAサイトに取り込むことができない。したがって、ペロブスカイト化合物は、表面処理膜34上においては三次元構造を形成できず、アンモニウム塩と反応し二次元構造をとると考えられる。この二次元構造上には、ペロブスカイト化合物の三次元結晶が形成されるので、ペロブスカイト層4はその表面に二次元構造を有することになる。二次元構造を有するペロブスカイト化合物の三次元結晶は、結晶表面が安定化するので、太陽電池10の耐久性が向上すると共に、ペロブスカイト層4中の欠陥に起因するホールと電子の再結合が抑制され、変換効率が向上する。
【0053】
(2)(1)の表面処理膜34は、カルボキシル基を有する第4級アンモニウム塩を含むと好適である。
【0054】
N原子に導入された置換基数が増加するほど、アンモニウム基が嵩高くなるので、ペロブスカイト化合物の三次元構造におけるAサイトに入りにくくなる。よって、ペロブスカイト層4と表面処理膜34との界面において、ペロブスカイト化合物は二次元構造をとりやすくなる。さらに、N原子に導入された置換基数が増加するほど、アンモニウム基が帯電しやすくなるので、ペロブスカイト層4の界面において、ペロブスカイト化合物の電化バランスが安定化する。
【0055】
(3)(1)の表面処理膜34は、ベタインハロゲン化水素塩を含むと好適である。
【0056】
ベタインハロゲン化水素塩は市場供給量が多く安価に手に入るため、製造コストをかけずに高性能な電子輸送層3を提供することができる。また、表面処理膜34を形成するアンモニウム基に結合するアルキル基が長いと、表面処理膜34上にペロブスカイト層4が形成されにくくなるので、短いアルキル基が結合したアンモニウム基を有するベタインハロゲン化水素塩が適している。
【0057】
(4)透明基板21上に透明導電膜22を形成するステップと、電子輸送層3を形成するステップと、電子輸送層3に対してカルボキシル基を有する第3級又は第4級アンモニウム塩を含む表面処理膜34を形成するステップと、表面処理膜34上にペロブスカイト層4を形成するステップと、ホール輸送層5を形成するステップと、電極6を形成するステップと、を順次行う太陽電池10の製造方法。
【0058】
上記工程を経ることにより、ペロブスカイト層4の下面に表面処理膜34が形成されるので、ペロブスカイト層4の表面欠陥が改善し、変換効率と耐久性の向上した太陽電池10を得ることができる。
【0059】
〔その他の実施形態〕
(1)上述した実施形態において、非特許文献1において報告されているように、ペロブスカイト層4の形成後に、ペロブスカイト層4の表面に単分子膜を生成してもよい。これにより、ペロブスカイト層4の三次元結晶の上面と下面にペロブスカイト化合物の二次元構造が生成するため、結晶表面の安定性が向上する。
【0060】
(2)上述した実施形態において、ペロブスカイト化合物として鉛を有する化合物を挙げたが、鉛に代えて、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)等からなるペロブスカイト化合物を用いてもよい。また、MA及びFAに代えて、1価のカチオンである有機分子カチオンや、アルカリ金属カチオンを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、有機及び無機のハイブリッド化合物で生成されるペロブスカイト化合物を備えたペロブスカイト太陽電池に用いられる電子輸送層に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
10:太陽電池、2:基板、22:透明導電膜、3:電子輸送層、34:表面処理膜、4:ペロブスカイト層、5:ホール輸送層、6:電極
図1
図2
図3
図4
図5