(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176500
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】金属亜鉛回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 19/20 20060101AFI20241212BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241212BHJP
C22B 3/14 20060101ALI20241212BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20241212BHJP
C25C 1/16 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C22B19/20
C22B7/00 A
C22B3/14
C22B3/26
C25C1/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095063
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 信行
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA30
4K001BA14
4K001BA15
4K001BA22
4K001DB08
4K001DB09
4K001DB21
4K001DB22
4K001DB26
4K001DB34
4K058AA23
4K058BA25
4K058BB04
4K058CA07
4K058CA12
4K058CA20
4K058FA02
4K058FC15
(57)【要約】
【課題】鉄、亜鉛及び銅を少なくとも含有する浸出処理対象物から、高純度の金属亜鉛を回収するこができる金属亜鉛回収方法の提供。
【解決手段】鉄成分を含有し、かつ、少なくとも亜鉛及び銅を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物から金属亜鉛を回収する、金属亜鉛回収方法であって、浸出処理対象物と、アンモニウムイオンを含むpH7.5~pH14.0のアルカリ浸出液とを接触させて、亜鉛及び銅を亜鉛イオン及び銅イオンとしてアルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得る浸出工程と、浸出後液に対し、銅イオンを分離する銅分離操作を施し、亜鉛イオンを含有する亜鉛イオン含有液を得る不純物分離工程と、亜鉛イオン含有液から、亜鉛イオンを還元し電解析出させて純度90.00質量%以上の金属亜鉛として回収する亜鉛電解析出工程と、を有する金属亜鉛回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄成分を含有し、かつ、少なくとも亜鉛及び銅を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物から金属亜鉛を回収する、金属亜鉛回収方法であって、
前記浸出処理対象物と、アンモニウムイオンを含むpH7.5~pH14.0のアルカリ浸出液とを接触させて、前記亜鉛及び銅を亜鉛イオン及び銅イオンとして前記アルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得る浸出工程と、
前記浸出後液に対し、前記銅イオンを分離する銅分離操作を施し、前記亜鉛イオンを含有する亜鉛イオン含有液を得る不純物分離工程と、
前記亜鉛イオン含有液から、前記亜鉛イオンを還元し電解析出させて純度90.00質量%以上の金属亜鉛として回収する亜鉛電解析出工程と、
を有する金属亜鉛回収方法。
【請求項2】
前記浸出処理対象物が、更に錫を金属の形態で含有する、請求項1に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項3】
前記浸出工程は、前記アルカリ浸出液がpH12.5~pH14.0であり、前記亜鉛、銅及び錫を亜鉛イオン、銅イオン及び錫イオンとして前記アルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得る工程であり、
前記不純物分離工程は、前記銅分離操作の前に、前記浸出後液に対し、カルシウム又はマグネシウムの炭酸化物、水酸化物、酸化物、塩化物、ギ酸化物、及び酢酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を投入して、前記錫イオンを錫酸カルシウム、及び錫酸マグネシウムの少なくとも一方として分離する錫分離操作を施し、前記錫分離操作を経た前記浸出後液に対し前記銅分離操作を施す工程である、
請求項2に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項4】
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、前記浸出後液を、銅イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し、前記銅イオンを前記抽出剤に抽出させて比重差により分離することで、前記銅イオンを分離する操作である、請求項1に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項5】
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、前記浸出後液から電解析出により前記銅イオンを析出させることで、前記銅イオンを分離する操作である、請求項1に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項6】
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、前記浸出後液に硫化水素及び硫化物イオンの一方又は両方を投入して酸化還元電位を調整し、前記銅イオンを硫化銅として析出させることで、前記銅イオンを分離する操作である、請求項1に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項7】
前記亜鉛電解析出工程は、前記亜鉛イオン含有液がpH7.5~pH14.0である、請求項1に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項8】
前記不純物分離工程後かつ前記亜鉛電解析出工程前に、
前記不純物分離工程で得た前記亜鉛イオン含有液を、亜鉛イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し静置することで、前記亜鉛イオンを前記有機溶媒に抽出して亜鉛イオン含有有機溶媒を得る抽出工程と、
前記亜鉛イオン含有有機溶媒を酸性水溶液と混合し静置することで、前記亜鉛イオンを前記酸性水溶液に逆抽出して亜鉛イオン含有酸性水溶液を得る逆抽出工程と、を有し、
前記亜鉛電解析出工程は、前記亜鉛イオン含有液として前記亜鉛イオン含有酸性水溶液を用いる、請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項9】
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、
前記浸出後液を、亜鉛イオン及び銅イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し静置することで、前記亜鉛イオン及び前記銅イオンを前記有機溶媒に抽出して亜鉛イオン銅イオン含有有機溶媒を得る抽出操作と、
前記亜鉛イオン銅イオン含有有機溶媒を酸性水溶液と混合し静置することで、前記亜鉛イオン及び前記銅イオンを前記酸性水溶液に逆抽出して亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液を得る逆抽出操作と、を経た後に、
前記亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液から電解析出により前記銅イオンを析出させることで、前記銅イオンを分離して、前記亜鉛イオンを含有する亜鉛イオン含有酸性水溶液を得る操作であり、
前記亜鉛電解析出工程は、前記亜鉛イオン含有液として前記亜鉛イオン含有酸性水溶液を用いる、請求項1に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項10】
前記亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液はpH-1.0~pH4.0である、請求項9に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項11】
前記浸出工程後に、前記浸出工程において前記亜鉛及び銅を前記アルカリ浸出液に浸出させた後の前記浸出処理対象物の残留物に対し、疎水性液体を接触させ、前記残留物の表面に付着している前記アルカリ浸出液を前記疎水性液体に置換する疎水性液体置換工程を有する、請求項1のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
【請求項12】
前記疎水性液体の常圧での沸点が、40℃~95℃である、請求項11に記載の金属亜鉛回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄成分を含有し、かつ、少なくとも亜鉛及び銅を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物から金属亜鉛を回収する、金属亜鉛回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製造の原料となるスクラップは、電線や導線として使用される銅線や、他の銅又は銅合金製部品の混入が主な原因で、銅含有量が高くなっていることが多い。また、スクラップは、亜鉛めっき鋼板等の表面処理鋼板を含み、スクラップ中には、鋼板の表面処理成分である亜鉛を少量ながら含んでいる。フェロスクラップとしては、例えば、廃自動車、廃電気製品、機械屑等や、加工時に発生する切断屑等がある。
【0003】
鉄鋼製造プロセスの副生成物であるダストは、一貫製鉄所における焼結、高炉、転炉等や、電炉で発生し、主成分は鉄であるが、鉄成分以外に、亜鉛を含んでいる。スケールは、連鋳や熱延で、鋼材表面が熱間で酸化した際に発生する酸化鉄で、主成分は酸化鉄であるが、少量ながら、銅を含んでいる場合がある。
【0004】
鉄鋼製造プロセスの副生成物であるスラッジは、めっき鋼板製造時に発生する酸性廃液やめっき廃液を中和処理する際に発生するスラッジで、母材中の鉄以外に、めっき成分である、亜鉛やニッケルを含んでおり、これらの金属は、水酸化物として存在している。
【0005】
銅は、鉄鋼製品の機械的性質、加工性等の性能に悪影響を及ぼす元素であり、銅が混入したスクラップを鋼溶製の原料として用いると、低級な品質の鋼しか製造できない。そのため、銅をスクラップから除去することが好ましく、従来から様々な脱銅方法について研究されている。
【0006】
例えば特許文献1には、第1の密閉容器内で、鉄成分を含有し、かつ、銅および亜鉛の一方又は両方を、金属、酸化物、水酸化物、および塩化物のうちのいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物を、pH7.5~11.5の範囲のイオン化したアンモニウム塩を含有する浸出液に接触させて、前記固体の浸出処理対象物中の前記銅および亜鉛の一方又は両方を、アンミン錯体イオンとして前記浸出液に溶出させて、前記アンミン錯体イオンと前記固体の浸出処理対象物の残部とを含む浸出後液を生成する浸出工程と、前記浸出後液を固液分離して、前記アンミン錯体イオンを含む液相である固液分離後の浸出後液と、前記固体の浸出処理対象物の残部とに分ける第1の固液分離工程と、第2の密閉容器内で、前記固液分離後の浸出後液に、硫化水素を含有するガス、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化マグネシウム、および硫化カルシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の硫化剤を添加して、前記固液分離後の浸出後液中のアンミン錯体イオンを分解し、銅および亜鉛の一方又は両方を固体硫化物として析出させると共に、イオン化したアンモニウム塩を再生させて、前記固体硫化物と前記アンモニウム塩とを含有する再生後液とする浸出液再生工程と、前記再生後液を固液分離して、前記銅および亜鉛の一方又は両方を含む固体硫化物と、前記イオン化したアンモニウム塩を含む液相である固液分離後の再生後液とに分離する第2の固液分離工程と、を有し、前記第2の固液分離工程で分離した液相の再生後液を、前記浸出工程で使用する浸出液として使用する、浸出処理対象物からの銅又は亜鉛の分離方法、が開示されている。
【0007】
また特許文献2には、製鋼用電気炉からの煙塵から亜鉛や鉛、銅、カドミウムのような金属を抽出するための方法であって、(a)塩化アンモニウムおよび塩化ナトリウムの水溶液を使用して前記煙塵を処理し、前記亜鉛、前記カドミウムおよび前記銅をアンミン錯塩として溶解すると共に前記鉛をクロロ錯塩として溶解するステップと;(b)生成された溶液と固体残渣とを分離するステップと;(c)亜鉛粉末を使用して(b)で得られた溶液を処理し、電気化学列において前記亜鉛より貴な金属を置換によって沈降させるステップと;(d)該溶液と(c)において得られた沈降物とを分離するステップと;(e)電解セル中で、前記亜鉛をカソードに付着させると共にアノードでは酸素を発生させ、(d)において得られた溶液から前記亜鉛を電解採集するステップと;(f)前記電気炉からの煙塵を(e)によって得られた亜鉛減損溶液でさらに処理するステップと;(g)前記電気炉に(b)からの前記残渣を再循環させ、酸化鉄を減少させると共に該残渣に含まれる前記亜鉛をフェライト亜鉛としてくん蒸するステップと;を含む金属回収方法、が開示されている。
【0008】
また特許文献3には、亜鉛メッキ鋼材を含むフェロスクラップを、酸素の存在下でアンモニアとアンモニウム塩を含有する水溶液で処理して、スクラップ中の亜鉛をアンミン亜鉛錯体として溶解した後、スクラップを水溶液から分離する工程1、および工程1で得られた水溶液を加熱してアンモニア分を蒸発させた後、沈殿した亜鉛塩を回収する工程2、からなることを特徴とする、フェロスクラップから亜鉛を分離・回収する方法、が開示されている。
【0009】
また特許文献4には、小型モーター屑または銅あるいは銅合金を含む鉄クラッド材を加熱またはショットブラスト処理することによって銅線上のエナメル被覆を破壊して銅線に浸出容易性を与えた後、浸出槽に投入し、2価の銅アンミンを浸出剤とする浸出液によって銅のみを選択的に溶出させ、銅の溶出した浸出液から、銅を回収することを特徴とするモーター屑などから銅・鉄等を分離回収する方法、が開示されている。
【0010】
また特許文献5には、銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法において、(a)銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を金属銅と接触させて、貴金属を析出させて分離除去した後、(b)有機相と接触させて銅(I)イオン以外の金属イオンを選択的に有機相に移動させ、銅(I)イオンを含有する水溶液を水相の状態として、(c)水相を有機相から分離した後、銅(I)イオンを含有する水溶液として取り出し、(d)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機相を水により洗浄し、(e)銅(I)イオン以外の金属イオンを含有する有機相について、銅(I)イオン以外の金属イオンを逆抽出するとともに有機相を再生し、(f)再生された有機相を前記(b)工程に循環使用することを特徴する銅(I)イオン及び貴金属イオン及び銅(I)イオン以外の金属イオンを含む水溶液を処理して銅(I)イオンを含有する水溶液を取り出す方法、が開示されている。
【0011】
また特許文献6には、陽イオン交換膜により、陰極を備えた陰極室と、ダイヤモンド電極を備えた陽極室と、に仕切られた電解槽の、
前記陰極室に金属イオンを含む溶液を供給し、
前記陽極室に還元された状態の酸化剤を含む溶液を供給し、
前記陰極と前記ダイヤモンド電極との間に電圧を印加して、前記陰極室では陰極表面に金属を析出させ、前記陽極室では溶液中の酸化剤を再生させる
ことを特徴とする金属の製造方法、が開示されている。
【0012】
また特許文献7には、錫を含む溶液に、炭酸カルシウムを添加して、前記溶液に含まれる錫を、錫酸カルシウムを含む化合物にして沈殿回収する錫回収工程を有し、
前記錫回収工程では、pHを11.0以上、13.5以下の範囲にすることを特徴とする錫の回収方法、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2018-178201号公報
【特許文献2】特開平5-255772号公報
【特許文献3】特開平5-271820号公報
【特許文献4】特開平6-240373号公報
【特許文献5】特開2006-57137号公報
【特許文献6】特開2014-40639号公報
【特許文献7】特開2020-196913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年では、回収した金属亜鉛を再利用する観点から、鉄スクラップ等の鉄成分、亜鉛及び銅を少なくとも含む浸出処理対象物から、高純度の金属亜鉛を回収することが求められている。
【0015】
そこで、本開示の課題は、鉄、亜鉛及び銅を少なくとも含有する浸出処理対象物から、高純度の金属亜鉛を回収するこができる金属亜鉛回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鉄成分を含有し、かつ、少なくとも亜鉛及び銅を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物から、高純度の金属亜鉛を回収する方法について鋭意検討した結果、本開示を為すに至った。
【0017】
その要旨は以下の通りである。
<1>
鉄成分を含有し、かつ、少なくとも亜鉛及び銅を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物から金属亜鉛を回収する、金属亜鉛回収方法であって、
前記浸出処理対象物と、アンモニウムイオンを含むpH7.5~pH14.0のアルカリ浸出液とを接触させて、前記亜鉛及び銅を亜鉛イオン及び銅イオンとして前記アルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得る浸出工程と、
前記浸出後液に対し、前記銅イオンを分離する銅分離操作を施し、前記亜鉛イオンを含有する亜鉛イオン含有液を得る不純物分離工程と、
前記亜鉛イオン含有液から、前記亜鉛イオンを還元し電解析出させて純度90.00質量%以上の金属亜鉛として回収する亜鉛電解析出工程と、
を有する金属亜鉛回収方法。
<2>
前記浸出処理対象物が、更に錫を金属の形態で含有する、<1>に記載の金属亜鉛回収方法。
<3>
前記浸出工程は、前記アルカリ浸出液がpH12.5~pH14.0であり、前記亜鉛、銅及び錫を亜鉛イオン、銅イオン及び錫イオンとして前記アルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得る工程であり、
前記不純物分離工程は、前記銅分離操作の前に、前記浸出後液に対し、カルシウム又はマグネシウムの炭酸化物、水酸化物、酸化物、塩化物、ギ酸化物、及び酢酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を投入して、前記錫イオンを錫酸カルシウム、及び錫酸マグネシウムの少なくとも一方として分離する錫分離操作を施し、前記錫分離操作を経た前記浸出後液に対し前記銅分離操作を施す工程である、
<2>に記載の金属亜鉛回収方法。
<4>
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、前記浸出後液を、銅イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し、前記銅イオンを前記抽出剤に抽出させて比重差により分離することで、前記銅イオンを分離する操作である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
<5>
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、前記浸出後液から電解析出により前記銅イオンを析出させることで、前記銅イオンを分離する操作である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
<6>
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、前記浸出後液に硫化水素及び硫化物イオンの一方又は両方を投入して酸化還元電位を調整し、前記銅イオンを硫化銅として析出させることで、前記銅イオンを分離する操作である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
<7>
前記亜鉛電解析出工程は、前記亜鉛イオン含有液がpH7.5~pH14.0である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
<8>
前記不純物分離工程後かつ前記亜鉛電解析出工程前に、
前記不純物分離工程で得た前記亜鉛イオン含有液を、亜鉛イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し静置することで、前記亜鉛イオンを前記有機溶媒に抽出して亜鉛イオン含有有機溶媒を得る抽出工程と、
前記亜鉛イオン含有有機溶媒を酸性水溶液と混合し静置することで、前記亜鉛イオンを前記酸性水溶液に逆抽出して亜鉛イオン含有酸性水溶液を得る逆抽出工程と、を有し、
前記亜鉛電解析出工程は、前記亜鉛イオン含有液として前記亜鉛イオン含有酸性水溶液を用いる、<4>~<6>のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
<9>
前記不純物分離工程における前記銅分離操作は、
前記浸出後液を、亜鉛イオン及び銅イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し静置することで、前記亜鉛イオン及び前記銅イオンを前記有機溶媒に抽出して亜鉛イオン銅イオン含有有機溶媒を得る抽出操作と、
前記亜鉛イオン銅イオン含有有機溶媒を酸性水溶液と混合し静置することで、前記亜鉛イオン及び前記銅イオンを前記酸性水溶液に逆抽出して亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液を得る逆抽出操作と、を経た後に、
前記亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液から電解析出により前記銅イオンを析出させることで、前記銅イオンを分離して、前記亜鉛イオンを含有する亜鉛イオン含有酸性水溶液を得る操作であり、
前記亜鉛電解析出工程は、前記亜鉛イオン含有液として前記亜鉛イオン含有酸性水溶液を用いる、<1>~<3>のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
<10>
前記亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液はpH-1.0~pH4.0である、<9>に記載の金属亜鉛回収方法。
<11>
前記浸出工程後に、前記浸出工程において前記亜鉛及び銅を前記アルカリ浸出液に浸出させた後の前記浸出処理対象物の残留物に対し、疎水性液体を接触させ、前記残留物の表面に付着している前記アルカリ浸出液を前記疎水性液体に置換する疎水性液体置換工程を有する、<1>~<10>のいずれか1項に記載の金属亜鉛回収方法。
<12>
前記疎水性液体の常圧での沸点が、40℃~95℃である、<11>に記載の金属亜鉛回収方法。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、鉄、亜鉛及び銅を少なくとも含有する浸出処理対象物から、高純度の金属亜鉛を回収するこができる金属亜鉛回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本開示の実施形態に係る金属亜鉛回収方法の各工程を説明するフロー図である。
【
図2】Snの浸出領域を説明するためのグラフである。
【
図3】炭酸カルシウムの投入によるアルカリ浸出液中の金属イオン濃度の変化を示すグラフである。
【
図4】酸化カルシウムの投入によるアルカリ浸出液中の金属イオン濃度の変化を示すグラフである。
【
図5】銅の分離条件に関する抽出時のpHと抽出率との関係を示すグラフである。
【
図6】銅の分離条件に関する逆抽出時のpHと抽出率との関係を示すグラフである。
【
図7】銅の分離条件に関する各金属の析出時における作用極(又はカソード極)の電位を示すグラフである。
【
図8】銅の分離条件に関するpHと酸化還元電位による金属濃度変化の測定結果を示す表である。
【
図9】銅の分離条件に関するpHと酸化還元電位による金属濃度変化の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本開示の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。ただし、「超」及び「未満」等の断りがある場合は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の少なくとも一方として含まないことを意味する。
段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0022】
<金属亜鉛回収方法>
本開示の実施形態に係る金属亜鉛回収方法は、鉄成分を含有し、かつ、少なくとも亜鉛及び銅を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物から金属亜鉛を回収する方法である。
【0023】
ここで、
図1に示すフロー図を用いて、本開示の実施形態に係る金属亜鉛回収方法の各工程について説明する。
【0024】
金属亜鉛回収方法は、[1]浸出工程と、[2]不純物分離工程と、[3]亜鉛電解析出工程と、を有する。
[1]浸出工程では、[0]浸出処理対象物と、アンモニウムイオンを含むpH7.5~pH14.0のアルカリ浸出液とを接触させて、亜鉛及び銅を亜鉛イオン及び銅イオンとしてアルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得る。
[2]不純物分離工程では、浸出後液に対し、銅イオンを分離する銅分離操作を施し、亜鉛イオンを含有する亜鉛イオン含有液を得る。
[3]亜鉛電解析出工程では、亜鉛イオン含有液から、亜鉛イオンを還元し電解析出させて金属亜鉛として回収する。
【0025】
本開示の実施形態に係る金属亜鉛回収方法は、上記の各工程を経ることで、鉄、亜鉛及び銅を少なくとも含有する浸出処理対象物から、高純度の金属亜鉛を回収することができる。
【0026】
<[0]浸出処理対象物>
浸出処理対象物は、鉄成分を含有し、かつ、
図1の[0]-(1)及び[0]-(2)に示すように、少なくとも亜鉛及び銅を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する。なお、浸出処理対象物は、
図1の[0]-(2)に示すように、更に錫を金属の形態で含有していてもよい。
【0027】
本開示における浸出処理対象物としては、例えば、鉄鋼製造の原料となるスクラップ、鉄鋼製造プロセスの副生成物であるスケール、ダスト、及びスラッジ等が挙げられる。
【0028】
<[1]浸出工程>
浸出工程では、浸出処理対象物と、アンモニウムイオンを含むpH7.5~pH14.0のアルカリ浸出液とを接触させて、亜鉛及び銅を亜鉛イオン及び銅イオンとしてアルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得る。
【0029】
・浸出工程におけるニッケル、鉄の分離
アンモニウムイオンを含むアルカリ浸出液中において、銅及び亜鉛は、アンミン錯体イオンを生成し、容易に溶解する。これに対し、鉄は銅よりイオン化傾向が大きいにもかかわらず、表層が不動態化するため、殆ど溶解しない。このような銅と亜鉛と鉄との性質を利用することで、浸出処理対象物中から銅及び亜鉛を選択的に浸出することができる。鉄スクラップ等の浸出処理対象物中には、鉄が酸化している部分もあり、酸化部分からはスケール又は酸化鉄粒子が剥がれ落ちるが、これらも浸出液には殆ど溶解しない。
【0030】
また、浸出処理対象物が鉛、金、銀等を含む場合も、鉛、金、及び銀はアンミン錯体を形成しないため、浸出液には殆ど溶解しない。
さらに、浸出処理対象物が金属ニッケル又はニッケル化合物を含む場合、金属ニッケル、並びにニッケル化合物である酸化ニッケル、水酸化ニッケル、及び塩化ニッケルのうち、金属ニッケル及び酸化ニッケルは、アルカリ浸出液に混ぜてもアンミン錯体を形成しないため溶解しない。ただし、水酸化ニッケル及び塩化ニッケルは、アンミン錯体を形成するため、アルカリ浸出液に溶解する。
【0031】
また、浸出処理対象物が金属亜鉛又は亜鉛化合物を含む場合、金属亜鉛、並びに亜鉛化合物である酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛、及び亜鉛フェライト(ZnFe2O4)のうち、亜鉛フェライトは、アルカリ浸出液に混ぜてもアンミン錯体を形成しないため溶解しない。ただし、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、及び塩化亜鉛は、アンミン錯体を形成するため、アルカリ浸出液に溶解する。
【0032】
また、浸出処理対象物が金属銅又は銅化合物を含む場合、金属銅、並びに銅化合物である酸化銅、水酸化銅、塩化銅、及び銅フェライト(CuFe2O4)のうち、銅フェライトは、アルカリ浸出液に混ぜてもアンミン錯体を形成しないため溶解しない。ただし、金属銅、酸化銅、水酸化銅、及び塩化銅は、アンミン錯体を形成するため、アルカリ浸出液に溶解する。
【0033】
浸出処理対象物の代表例である鉄スクラップには、ニッケルを含むものとして、主に、ニッケル含有ステンレス、及び亜鉛-ニッケル合金めっきが施された表面処理鋼板が挙げられる。ニッケル含有ステンレス中に含まれるニッケルは、鉄及びクロムとの合金がほとんどであり、且つ鋼材の母材中に含まれるため、アルカリ浸出液には浸出しない。また、亜鉛-ニッケル合金めっき中のニッケル含有率は10~16質量%程度であり、つまりほとんどが金属亜鉛である。めっきにおけるこの金属亜鉛はアルカリ浸出液に浸出されるが、めっきにおける金属ニッケルはアンミン錯体イオンを形成できないため、微粒子からなる固形分としてアルカリ浸出液中で沈殿する。
以上により、浸出後の浸出液中から鉄スクラップ等の浸出処理対象物を磁着などの操作で取り除いた後、浸出槽内に残留した浸出液に対しろ過などの固液分離操作を行うことで、浸出液中のSS分(浮遊物質:例えば、酸化鉄、ニッケル粉など)を分離することができる。このように、浸出処理対象物の代表例である鉄スクラップからは、アルカリ浸出液中にニッケルイオンや鉄イオンはほとんど溶解しない。
【0034】
・浸出工程での操作
浸出工程では、銅及び亜鉛を金属及び酸化物のいずれか1種以上の形態で含有する浸出処理対象物を、例えば気相部が密閉された容器である密閉容器に入れ、アンモニウム塩を含有する密閉容器内の浸出液に浸漬する。これにより、下記(1式)に示すように、銅及び亜鉛は、密閉容器内の浸出液中のアンモニウムイオンとNaOHと反応し、2価イオンに酸化されて、アンミン錯体イオンを生成し溶解する。この際、酸化剤として酸素が使用され、消費される。この反応はpH7.5~pH14.0のアルカリ領域で進み易い。より好ましくは、pH9.5~pH10.5のアルカリ領域で進み易い。
【0035】
Me+2(NH4)2SO4+2NaOH+1/2O2
→Me(NH3)4SO4+Na2SO4+3H2O -(1式)
(ここで、Meは、Cu又はZn)
【0036】
また、アンモニア(アンモニウムイオン)を含有する密閉容器内の浸出液中において、銅及び亜鉛は、アンミン錯体イオンを生成し、容易に溶解するのに対し、鉄は、銅よりイオン化傾向が大きいにもかかわらず、表層が不動態化するため、殆ど溶解しない。このような銅と亜鉛と鉄との性質を利用することで、浸出処理対象物中から銅及び亜鉛を選択的に浸出することができる。
【0037】
また、ダスト、スケール中の銅及び亜鉛は金属、酸化物、塩化物として存在することが多く、スラッジ中の銅及び亜鉛は水酸化物として存在していることが多い。銅及び亜鉛が水酸化物として存在する場合、(1式)は、(1-1式)のようになり、酸素の消費は生じない。酸化物、塩化物の場合も同様に酸素の消費は生じない。
【0038】
Me(OH)2↓+2(NH4)2SO4+2NaOH
→Me(NH3)4SO4+Na2SO4+4H2O -(1-1式)
(ここで、Meは、Cu又はZn)
【0039】
密閉容器内に銅及び亜鉛が金属である浸出処理対象物を投入する場合、密閉容器内の酸素が消費されるまで(1)式の反応は進み、酸素がほとんど消費されると(1)式の反応は停止する。よって、密閉容器内に初期に存在する酸素を消費して、銅及び亜鉛が金属である浸出処理対象物中の銅及び亜鉛は、アンミン錯体イオンとなり、ある程度は溶出する。
【0040】
・浸出工程の完了(酸素濃度)
浸出工程の密閉容器内では、浸出液中の溶存酸素、又はCu2+イオンにより、銅及び亜鉛の金属が酸化し、その後、浸出液中のアンモニウムイオンと反応しアンミン錯体イオンを形成する。アンミン錯体化反応は起こりやすくほとんど時間がかからないが、それに比べて銅及び亜鉛の金属の酸化反応は遅く、時間がかかる。一方、浸出液中の溶存酸素は気相中の酸素濃度と平衡状態にあり、浸出液中の溶存酸素濃度と気相中の酸素濃度はほぼ比例関係にあるといえる。
【0041】
浸出処理対象物から銅及び亜鉛の浸出が終了しているかどうかを判断するには、アンミン錯体化反応が終了しているかどうかが判断できればよい。アンミン錯体化反応は、酸化反応が律速であることから、気相中の酸素濃度、もしくは、浸出液中の溶存酸素濃度を連続もしくは間欠測定することで、酸化反応が終了したかどうかを判断することができる。
【0042】
密閉容器内に酸素含有ガス(酸素もしくは酸素を含んだ気体)を金属の酸化のため投入することが好ましい。このとき、密閉容器内の浸出液中の溶存酸素濃度であれば、1~40mg/Lの範囲内の所定値以上になるよう、密閉容器内の気相中の酸素濃度であれば、2~98体積%の範囲内の所定値以上になるよう、酸素もしくは酸素を含んだ気体の投入の有無、及びその量を制御することが好ましい。つまり、浸出液中の溶存酸素濃度が1~40mg/Lの範囲内の所定値Aを下回ったとき、及び前記密閉容器内の気相中の酸素濃度が2~98体積%の範囲内の所定値Bを下回ったとき、の少なくとも一方を満たす場合に、浸出液中に酸素含有ガスが吹き込まれるよう吹き込みの有無を制御することが好ましく、またその量を制御することが好ましい。
なお、酸素含有ガスの吹き込みが行なわれない状態で、密閉容器内の浸出液中の溶存酸素濃度が所定値A以上である状態、及び密閉容器内の気相中の酸素濃度が所定値B以上である状態が所定時間以上継続した際に、浸出工程が完了したと判断することができる。
所定時間は、例えば3~60分の範囲内とすることが好ましい。
【0043】
・アンモニア濃度
浸出工程でアンミン錯体化反応が進むと、密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度(NH3として存在するアンモニアの濃度、fr-NH3濃度とも記載する。)が低下し、それに伴い、密閉容器内の気相中のアンモニア濃度も低下する。また、密閉容器内の浸出液中のアンモニウムイオン濃度は、一定のpHにおいて密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度と平衡状態にあり、密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度と密閉容器内の気相中のアンモニア濃度と平衡状態にあることから、密閉容器内の浸出液中のアンモニウムイオン濃度は密閉容器内の気相中のアンモニア濃度と比例関係にあるといえる。密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度が低くなりすぎると、アンミン錯体化反応は進みにくくなる。また、密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度が高くなりすぎると、後述する硫化銅、硫化亜鉛や、銅や亜鉛を除去した後の浸出処理対象物を排出する際に水分も同時に排出されるが、その水分中にもアンモニア成分を含み、系外へ持ち出すことになり経済性が低下する。そのため、密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度を適正に制御することが好ましい。
具体的には、密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度を3~50g/Lの範囲にすることが好ましい。密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度は、さらに5~20g/Lの範囲にすることが好ましい。
【0044】
また、密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度は、密閉容器内の気相中のアンモニア濃度とほぼ平衡関係にあるため、密閉容器内の気相中のアンモニア濃度を0.6~12体積%の範囲にすることが好ましい。密閉容器内の気相中のアンモニア濃度は、さらに1.2~4.8体積%の範囲にすることが好ましい。
【0045】
・錫を含む場合
浸出処理対象物は、鉄成分、亜鉛及び銅に加えて、更に錫を金属の形態(つまり金属錫)で含有していてもよい。
浸出処理対象物が更に錫を含有する場合、浸出工程では、浸出処理対象物と、アンモニウムイオンを含むアルカリ浸出液とを接触させる際に、pH12.5~pH14.0の浸出液を用いることが好ましい。これにより、亜鉛、銅及び錫を亜鉛イオン、銅イオン及び錫イオンとしてアルカリ浸出液に浸出させた浸出後液を得ることができる。
【0046】
浸出処理対象物の一例である錫を含む鉄スクラップとしては、錫めっき鋼板、及び錫-亜鉛合金めっき鋼板が挙げられる。錫めっき鋼板における錫めっき層はほとんど金属錫からなり、錫-亜鉛合金めっき鋼板における錫-亜鉛合金めっき層には例えば錫が約90%含まれている。
【0047】
ここで、Snの浸出領域について説明する。
浸出処理対象物から、亜鉛、銅及び錫を亜鉛イオン、銅イオン及び錫イオンとしてアルカリ浸出液に浸出させることができるpHを確認するため、以下の実験を行った。具体的には、銅粉、亜鉛粉、及び錫粉を、pHを調整したアンモニウムイオン含有アルカリ浸出液に入れ、溶存酸素の存在下で各金属の浸出量を測定し、
図2を得た。
図2から分かる通り、pH12.5以上pH14.0以下の領域に調整したアルカリ浸出液を用いることで、銅、亜鉛、及び錫を同時に浸出液中に浸出させることができる。一方、pH12.5未満では、錫の浸出は少なくなる。なお、浸出液のpHをpH12.5以上にする方法としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強アルカリを多く投入する方法が挙げられる。
【0048】
ただし、浸出処理対象物が更に錫を含有する場合であっても、浸出液に浸出させるのではなく、他の公知の方法で除去してもよく、錫を浸出させずに浸出後液を得てもよい。この場合には、アルカリ浸出液としてpH7.5~pH14.0の浸出液を用いることができる。
【0049】
<[2]不純物分離工程>
不純物分離工程では、亜鉛イオン及び銅イオンを少なくとも含む浸出後液に対し、銅イオンを分離する銅分離操作を施し、亜鉛イオンを含有する亜鉛イオン含有液を得る。
なお、浸出工程で更に錫を錫イオンとしてアルカリ浸出液に浸出させている場合は、不純物分離工程において銅分離操作の前に、浸出後液に対し錫分離操作を施す。
【0050】
・[2]-(0)錫分離操作
不純物分離工程における錫分離操作では、亜鉛イオン、銅イオン、及び錫イオンを少なくとも含む浸出後液に対し、カルシウム又はマグネシウムの炭酸化物、水酸化物、酸化物、塩化物、ギ酸化物、及び酢酸化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩(以下単に「錫イオン析出剤」とも称す)を投入して錫イオンを錫酸カルシウム、及び錫酸マグネシウムの少なくとも一方として分離する。
【0051】
ここで、酸化カルシウム又は炭酸カルシウムの投入による錫の分離条件を確認するため、以下の実験を行った。
錫酸イオンと他の金属イオンとを含有するアンモニア含有アルカリ浸出模擬液を作製した。より具体的には、塩化銅、塩化亜鉛、錫酸ナトリウム、塩化ニッケルを溶解し、NaOHでpH13.2に調整したアンモニア含有アルカリ浸出模擬液(1.52mol-NH
3/L)を作製し、この模擬液に硫化物イオンを含む硫化ナトリウム、或いは又はCaイオンを含む酸化カルシウム又は炭酸カルシウムを添加し、各金属イオンの析出を測定し、
図3及び
図4を得た。
図3は炭酸カルシウムの投入によるアルカリ浸出液中の金属イオン濃度の変化を示すグラフであり、
図4は酸化カルシウムの投入によるアルカリ浸出液中の金属イオン濃度の変化を示すグラフである。
【0052】
図3及び
図4から分かる通り、酸化カルシウム又は炭酸カルシウムの投入量が多くなるにつれて、錫イオンを錫酸カルシウムとして析出させることでき、模擬液中の錫濃度は低下し、これに伴って模擬液中のカルシウム濃度が上昇することがわかった。一方、模擬液中の亜鉛、銅、及びニッケルの濃度は変化しなかった。これより、炭酸カルシウム又は酸化カルシウムでは、錫以外の金属イオンの析出を抑制しつつ、錫イオンを析出できることがわかった。なお、pHの変化はほとんどなくpH13.1~pH13.2であった。
【0053】
なお、炭酸カルシウムを投入した場合は、
図3に示すように、錫の量に対して約14倍の量の炭酸カルシウムを投入しても、錫を全量析出させることはできなかった。これに対して、酸化カルシウムを投入した場合は、
図4に示すように、錫の量に対して約5倍の量の酸化カルシウムを投入することで、錫をほぼ全量析出させることができた。即ち、より高純度の金属亜鉛を回収する観点から、錫分離操作では錫イオン析出剤として、酸化カルシウムを用いることが好ましい。さらに、炭酸カルシウムをまず投入しその後酸化カルシウムを投入する方法がより効果的である。
【0054】
また、模擬液のpH、炭酸カルシウムスラリーのpH、及び酸化カルシウムスラリーのpHは、それぞれpH13.2、pH9.5、及びpH11.8であり、模擬液のpHが最も高い。そのため、模擬液において、炭酸カルシウムより酸化カルシウムの方が溶解性が高く、つまりカルシウムイオンの供給能力が高く、これにより酸化カルシウムを使用した方が錫イオンをより析出させることができたとの結果になったと推察される。したがって、浸出液のpHを低くするほど、錫イオンの析出量を増やすことができると考えられる。
【0055】
炭酸カルシウム、及び酸化カルシウムの他にも、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、ギ酸マグネシウム、及び酢酸マグネシウムでも、同じように、錫酸イオンを析出させることができる。
【0056】
・銅分離操作
不純物分離工程における銅分離操作では、浸出後液から銅イオンを分離する。以下、浸出後液から銅イオンを分離する方法について、具体的に説明する。
【0057】
-[2]-(1)溶媒抽出によるCu分離-
銅析出操作として、浸出後液を、銅イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し、銅イオンを抽出剤に抽出させて比重差により分離することで、銅イオンを分離する方法が挙げられる。なお、溶媒のpHを調整することで、銅イオンのほとんどを抽出させ且つ亜鉛イオンの少なくとも一部が亜鉛イオン含有液中に残るよう調整することができる。
【0058】
ここで、銅の分離条件を確認するため、以下の実験を行った。
塩化銅及び塩化亜鉛を溶解し、NaOHでpHをpH7.5~13.3に調整したアンモニア含有アルカリ浸出模擬液(1.52mol-NH3/L)を作製した。抽出剤としてN-サリチリデンアニリンを用い、ケロシン(希釈剤)に5体積%溶解して、抽出相(すなわち、抽出剤を含んだ有機溶媒)として使用した。模擬液(水相ともいう)と抽出相とを1:2の体積比(O/A比=2)で、分液ロートに入れ3分間混合し、金属成分を抽出相に抽出した。その後、静置し、分液ロート下部より、水相をすべて除いた。水相中の金属濃度及びpHを測定し、抽出相の金属濃度を、水相中の金属濃度と水相及び抽出相の容量より、算出した。次に、O/A比が2となるように、分液ロート内に硫酸酸性水を入れ、3分間混合し、金属成分を水相に逆抽出した。その後、静置し、分液ロート下部より水相をすべて除き、水相中の金属濃度及びpHを測定した。抽出相中の金属濃度を、水相中の金属濃度と水相及び抽出相の容量より、算出した。
【0059】
図5に抽出時のpHと抽出率との関係を示す。なお、抽出率とは、水相中および抽出相中の金属量に対する、抽出相中の金属量の比率である。抽出時は、pH10.8以上の領域で銅イオンがほとんど抽出相に移動する。一方、亜鉛イオンはpH13.0以下で、一部抽出相に抽出されるものの、水相中に残存するといえる。これより、銅イオンがほとんど抽出相に抽出され、且つ水相に亜鉛イオンが残留するpH領域はpH10.8~pH13.0となる。また、銅イオン及び亜鉛イオンとも抽出相に抽出するにはpH12.0~pH13.3が最適となる。
【0060】
図6に逆抽出時のpHと抽出率との関係を示す。逆抽出時は、亜鉛イオンはpH5.0以下でほとんど水相に逆抽出され、銅イオンはpH2.5以下で逆抽出されるといえる。抽出操作でpH12.0以上にし、亜鉛イオンと銅イオンを抽出相に抽出させ、次の逆抽出操作で亜鉛のみを水相に逆抽出する際には、pH5.0~6.0にすればよい。
また、抽出操作でpH10.8~pH13.0に調整し、銅イオンのみを抽出相に抽出させ、次の逆抽出操作で亜鉛イオンを水相に逆抽出するには、銅イオンは水相に含まれないことから、pH5.5以下で逆抽出することで、亜鉛イオンを水相に逆抽出することができる。
【0061】
ここで、抽出剤として用いたN-サリチリデンアニリンは、下記の化学構造式で示され、イミン配位子を有する化合物である。酸素元素と窒素元素の2座位を有した化合物であり、Znイオンは窒素元素と酸素元素と配位結合し、水相中の亜鉛イオンを抽出相に抽出する。イミン配位子を有し、且つケロシンなどの希釈剤に溶解する抽出剤には、金属イオンを抽出する作用があり、サリチルアルデヒドフェニルヒドラゾン、4-フルオロ-N-サリチリデンアニリン、2-サリチリデンアミノフェノール、LIX65N(BASF社製)などが挙げられる。また、酸素元素と窒素元素とをそれぞれ2箇所ある4座位を有した化合物として、サレン配位子をもつ化合物があり、ケロシンなどの希釈剤に溶解する抽出剤には、金属イオンを抽出する作用がある化合物として、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)エチレンジアミン、N,N’-ビス(2-ヒドロキシベンジリデン)-1,3-プロパンジアミンなどが挙げられる。
【0062】
【0063】
希釈剤には、ケロシンの他に、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカンなどの疎水性の有機溶剤を用いることができる。
【0064】
-[2]-(2)電解析出によるCu分離-
銅析出操作として、浸出後液から電解析出により銅イオンを析出させることで、銅イオンを分離する方法が挙げられる。なお、電解析出時の電位を調整することで、銅イオンのほとんどを析出させ且つ亜鉛イオンの少なくとも一部が亜鉛イオン含有液中に残るよう調整することができる。
【0065】
ここで、銅の分離条件を確認する。
電解析出において、通常、作用極(又はカソード極ともいう。)の電位は、酸化物と金属の平衡電位より、200~400mV負側にし、目的金属の電解析出を行う。そこで、銅、鉛、ニッケル、鉄、錫、亜鉛の酸化還元電位-pH図より、酸化物と金属の平衡電位より200mV負側にした電位とpHの関係(各金属析出時における作用極の電位)を、
図7に示す。例えば、銅イオン含有液(pH10.0)から金属銅を析出させる場合には、作用極の電位(標準電極電位)を約-320mVとし、亜鉛イオン含有液(pH10.0)から金属亜鉛を析出させる場合には、作用極の電位(標準電極電位)を約-1,230mVとするとよい。
【0066】
銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、錫イオンを含有しているアンモニア含有アルカリ浸出液より、電解析出により、亜鉛イオン以外の金属を電解析出するには、アンモニア含有アリカリ浸出液のpHが10.0の時、作用極の電位(標準電極電位)を約-860mVとし、亜鉛金属以外の金属をあらかじめ析出させた後、作用極を新しい電極に変更し、作用極の電位(標準電極電位)を約-1,230mVとすることで、亜鉛イオンのみを金属イオンとして作用極に析出させることができる。
【0067】
又は、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、錫イオンを含有しているアンモニア含有アルカリ浸出液より、電解析出により、亜鉛が析出する電極電位で、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、錫イオンを析出させ、その後、電極電位を亜鉛のみが溶出する電位に上昇させ、亜鉛イオンのみを再溶解させ、他の金属イオンと分離する。再溶解した亜鉛イオンを含む浸出後液を別の電解析出装置に移し、亜鉛が析出する電極電位で亜鉛を再析出させ、高純度金属亜鉛を回収することもできる。
【0068】
上記の通り、電解析出時の電位を調整することで、銅イオンのほとんどを析出させ且つ亜鉛イオンの少なくとも一部が亜鉛イオン含有液中に残るよう調整することができる。
【0069】
-[2]-(3)硫化物化によるCu分離-
銅析出操作として、浸出後液に硫化水素及び硫化物イオンの一方又は両方を投入して酸化還元電位を調整し、前記銅イオンを硫化銅として析出させることで、前記銅イオンを分離する方法が挙げられる。酸化還元電位を調整することで、銅イオンのほとんどを析出させ且つ亜鉛イオンの少なくとも一部が亜鉛イオン含有液中に残るよう調整することができる。
【0070】
ここで、銅の分離条件を確認するため、以下の実験を行った。
模擬液として、硫化ナトリウム水溶液を添加した系で、pHと酸化還元電位(標準電極電位)による模擬液中での金属濃度変化を測定した。各金属イオンが硫化物として析出する酸化還元電位(標準電極電位)はそれぞれ異なり、
図8及び
図9に示す通りとなった。
図8及び
図9より、酸化還元電位(標準電極電位)で硫化ナトリウムの投入量を制御することにより、金属元素の選択的析出が可能であることが分かる。なお、pHは13.2~13.3であり、ほとんど変化しなかった。
【0071】
これより、銅析出領域である酸化還元電位(標準電極電位)は20~45mVより低く、亜鉛・ニッケル同時析出領域である酸化還元電位(標準電極電位)は-250~-270mVより高い電位(例えば、-100mV(標準電極電位))で、制御することによって、銅イオンをほぼ完全に除去することができる。また、少量のニッケルを含む場合であっても、ニッケルイオンは亜鉛イオンと同時に析出し、その析出する酸化還元電位領域は、亜鉛析出領域と近い。亜鉛の析出が始まると同時に、ニッケルが析出することから、酸化還元電位(標準電極電位)が-250mVに到達してから、一定量の硫化物イオンを投入することで、ニッケルを析出させることができ、亜鉛と分離することができる。
【0072】
酸化還元電位はpHによって変化する。そのため、予め模擬液を用いて、各金属が粒子物として析出する酸化還元電位領域を調査した上で、酸化還元電位を調整して、銅イオンのほとんどを析出させ且つ亜鉛イオンの少なくとも一部が亜鉛イオン含有液中に残るよう調整することが好ましい。
【0073】
<[3]亜鉛電解析出工程>
亜鉛電解析出工程では、亜鉛イオン含有液から、亜鉛イオンを還元し電解析出させて金属亜鉛として回収する。なお、電解析出時の電位を調整することで、亜鉛イオン含有液から亜鉛イオンを還元させることができる。
【0074】
・[3]-(1)アルカリ性液での亜鉛電解析出
前述の「[2]-(1)溶媒抽出によるCu分離」、「[2]-(2)電解析出によるCu分離」、「[2]-(3)硫化物化によるCu分離」によって得られる亜鉛イオン含有液は、アルカリ性の液体であり、例えば亜鉛イオン含有液はpH7.5~pH14.0である。
【0075】
・[3]-(2)酸性液での亜鉛電解析出
一方で、回収する金属亜鉛の純度をより高める観点から、前述の「[2]-(1)溶媒抽出によるCu分離」、「[2]-(2)電解析出によるCu分離」、「[2]-(3)硫化物化によるCu分離」によって得られるアルカリ性の亜鉛イオン含有液に対し、さらに抽出工程及び逆抽出工程を経て、酸性の亜鉛イオン含有液を得た上で、金属亜鉛を電解析出により得ることもできる。
【0076】
抽出工程及び逆抽出工程を経ることで、亜鉛イオン以外の他の金属イオンをさらに低減することが可能であり、その結果より高い純度の金属亜鉛を回収することが可能である。
【0077】
亜鉛電解析出工程で得られる金属亜鉛の純度(質量基準)は、[2]不純物分離工程における亜鉛以外の金属イオンの分離状況によって変化するが、90.00%以上とすることができる。回収した金属亜鉛の用途によって、必要な純度は変化するが98.50%以上とすることもできる。さらに、99.50%以上とすることもできる。
【0078】
・[2]-(5)抽出工程及び逆抽出工程
不純物分離工程後かつ亜鉛電解析出工程前に、不純物分離工程で得た亜鉛イオン含有液(例えば前述の「[2]-(1)溶媒抽出によるCu分離」、「[2]-(2)電解析出によるCu分離」、「[2]-(3)硫化物化によるCu分離」によって得られるアルカリ性の亜鉛イオン含有液)に対し、まず亜鉛イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し静置することで、亜鉛イオンを有機溶媒に抽出して亜鉛イオン含有有機溶媒を得る抽出工程を行う。
次いで、亜鉛イオン含有有機溶媒を酸性水溶液と混合し静置することで、亜鉛イオンを酸性水溶液に逆抽出して亜鉛イオン含有酸性水溶液を得る逆抽出工程を行う。
これにより、酸性の亜鉛イオン含有液を得た上で、金属亜鉛を電解析出により得ることができる。酸性の亜鉛イオン含有液は、例えばpH-1.0~pH4.0である。
【0079】
抽出工程に用いる抽出剤及び溶媒としては、前述の「[2]-(1)溶媒抽出によるCu分離」の欄で説明した抽出剤及び溶媒(希釈剤)と、同じ抽出剤及び溶媒(希釈剤)を用いることができる。
【0080】
・[2]-(4)銅分離工程前に行う抽出工程及び逆抽出工程
なお、酸性の亜鉛イオン含有液を得るための抽出工程及び逆抽出工程は、銅分離工程前に行うこともできる。具体的には、浸出後液(例えば前述の「<[1]浸出工程>」を経た後の浸出後液、又は浸出後液が錫イオンを含む場合は前述の「[2]-(0)錫分離操作」を経た後の浸出後液)に対し、まず、亜鉛イオン及び銅イオンを抽出する抽出剤を含んだ有機溶媒と混合し静置することで、亜鉛イオン及び銅イオンを有機溶媒に抽出して亜鉛イオン銅イオン含有有機溶媒を得る抽出操作を行う。
次いで、亜鉛イオン銅イオン含有有機溶媒を酸性水溶液と混合し静置することで、亜鉛イオン及び銅イオンを酸性水溶液に逆抽出して亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液を得る逆抽出操作を行う。
その後、亜鉛イオン銅イオン含有酸性水溶液から電解析出により銅イオンを析出させることで、銅イオンを分離する。これにより、酸性の亜鉛イオン含有液を得た上で、金属亜鉛を電解析出により得ることができる。酸性の亜鉛イオン含有液は、例えばpH-1.0~pH4.0である。
【0081】
抽出工程に用いる抽出剤及び溶媒としては、前述の「[2]-(1)溶媒抽出によるCu分離」の欄で説明した抽出剤及び溶媒(希釈剤)と、同じ抽出剤及び溶媒(希釈剤)を用いることができる。
【0082】
<疎水性液体によるアルカリ浸出液の置換>
本開示の実施形態に係る金属亜鉛回収方法では、浸出工程で浸出後液を得た後に、浸出処理対象物の残留物に対し、疎水性液体を接触させ、残留物の表面に付着しているアルカリ浸出液を疎水性液体に置換する疎水性液体置換工程を施してもよい。
【0083】
疎水性液体置換工程では、浸出工程で浸出処理対象物を浸出させた後の残留物を、疎水性液体と接触させ、残留物表面に残留している浸出液を疎水性液体に置換する。
【0084】
疎水性液体置換工程では、残留物表面に残留している浸出液を疎水性液体に置換後、疎水性液体中を浮上又は沈降した浸出液を分離した後、残留物を疎水性液体中より取り出すことが好ましい。
疎水性液体と、水溶液である浸出液とは、相溶し難いため、静置又は遠心分離などによる相分離により、浸出液と疎水性液体を分離できる。そして、分離した浸出液を取り出し、再使用することがよい。
【0085】
疎水性液体は、疎水性を有する液体、即ち、水に対する親和性が低い(水に溶解し難い、又は水と混ざり難い)性質を有する液体である。疎水性液体は、例えば、常温(25℃)での水に対する溶解度が0g/L以上10.0g/L以下(好ましくは0g/L以上5.0g/L以下)の液体であることがよい。疎水性液体の水への溶解度が低いと、効率よく浸出液を疎水性液体で置換できる。また、疎水性液体と浸出液を分離し、浸出液を取り出しやすくなる。
【0086】
なお、「疎水性」とは、親油性を含む性質である。疎水性液体は、例えば、疎水性を有する有機溶剤又は各種の油等であってよい。
【0087】
水に対する疎水性液体の溶解度は、疎水性液体のメーカーが公表している溶解度を採用する。しかし、公表されていない場合、水に対する疎水性液体の溶解度は、次の通り測定する。
水と疎水性液体を50mL共栓付き遠沈管に15mLずつ投入し、25℃の恒温槽内で150回/分で1時間振り混ぜる。ついで、混合液を遠心分離(1,750G、5分間)
し、遠心分離後の混合液を25℃の恒温槽内で約1時間静置する。ついで、水相を任意量
分取し、ガスクロマトグラフィー・質量分析法(GC/MS)により、水分中の溶剤量を測定する。これにより、水への疎水性液体の溶解度を求める。
【0088】
疎水性液体の沸点は、同圧条件下での浸出液の沸点よりも低く、かつ、疎水性液体置換工程での圧力における疎水性液体の操作温度より高いことが好ましい。
【0089】
例えば、浸出液の温度が常温(25℃)である場合、同圧条件下で、疎水性液体の沸点は、好ましくは40℃以上200℃未満である。沸点の上限値は、より好ましくは100℃未満、さらに好ましくは95℃以下である。浸出液の温度が100℃超150℃未満の場合、疎水性液体の沸点は、浸出液より30~100℃高いことが好ましい。具体的には、常温(25℃)常圧で行う場合、疎水性液体の沸点は、常圧で40℃~95℃であることが好ましい。
疎水性液体の沸点を上記範囲とすることで、疎水性液体は、揮発除去しやすくなり、残留物と分離しやすくなる。その結果、残留疎水性液体除去工程において、残留物からの疎水性液体の除去エネルギーコストが削減できる。
【0090】
疎水性液体は、上記の条件を満たすものであれば、特に制限はない。疎水性液体の例としては、塩素系疎水性液体(トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン等)、フッ素系疎水性液体(ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、1-エトキシ-1
,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブタン等)、臭素系疎水性液体(1-
ブロモプロパン等)、クレオソート油、ニトロベンゼン、二硫化炭素、クロロベンゼン、ノルマルヘキサン、ノルマルペンタン、ケロシン等が挙げられる。
【0091】
疎水性液体置換工程では、残留物と疎水性液体とを接触させる方法は、特に制限されない。疎水性液体に残留物を浸漬する方法、残留物に疎水性液体を散布する方法、残留物に疎水性液体を繰り返し接触させる方法等が挙げられる。
疎水性液体に残留物を浸漬する方法は、例えば、疎水性液体置換用容器に収容した疎水性液体に、残留物を浸漬する方法が例示できる。
残留物に疎水性液体を散布する方法は、例えば、ヤードに残留物を積み上げた山に、疎水性液体を散布する方法が例示できる。
残留物に疎水性液体を繰り返し接触させる方法は、例えば、疎水性液体置換用容器に収容した疎水性液体を循環させながら、残留物を浸漬する方法、ヤードに残留物を積み上げた山に、疎水性液体を散布し、散布した疎水性液体を回収循環する方法が例示できる。
これらの中でも、効率のよい疎水性液体の置換の観点から、残留物と疎水性液体とを接触させる方法は、疎水性液体に残留物を浸漬する方法を採用することが好ましい。
【0092】
疎水性液体置換工程の後に、残留物を昇温し、残留物表面に残留する疎水性液体を揮発除去する操作を施してもよい。
【0093】
スケール、ダスト、スラッジは鉄スクラップと比較すると、比表面積が大きいものの、[1]浸出工程における反応は同じであり、鉄スクラップと同様に、スケール、ダスト、スラッジから金属亜鉛を回収することができる。
【実施例0094】
以下、実施例によって本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
<実施例1:No.1-1~1-9(模擬実験)>
[0]-(1)Cu,Znを含む浸出処理対象物
[1]-(1)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH7.5~14.0
[2]-(1)<不純物分離工程>溶媒抽出 アルカリでCu分離
[3]-(1)<亜鉛電解析出工程>アルカリ性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
10L密閉容器に、銅粉3gと、亜鉛粉3gと、硫酸アンモニウムを含みpHを表1に記載の値(pH7.5~13.7の範囲)に調整したアンモニウム水溶液(アルカリ浸出液)0.3L(30g-NH3/L)と、を入れ、気相部を酸素で置換した後、2日間振とうし、銅及び亜鉛を浸出して、銅イオンと亜鉛イオンを含む浸出後液を回収した。
-不純物分離工程-
次いで、回収した浸出後液0.2Lを分液ロートに入れ、更に抽出剤(N-サリチリデンアニリン)をケロシン(希釈剤)に溶解させた抽出液(50g/L)3Lを加えて、2分間撹拌し、銅イオンと、亜鉛イオンの一部と、を抽出相に移行させた後、静置した。分液ロート下部より亜鉛イオンを含む水相(亜鉛イオン含有液)を分離し、亜鉛イオン含有液を回収した。
-亜鉛電解析出工程-
次いで、ポテンショスタット装置を用いて、作用電極-参照電極間の電位を設定したい値にコントロールし、電解析出を行った。亜鉛イオン含有液をポテンショスタット機能にて、作用電極の電位(標準電極電位)を表1に記載の電圧に調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属亜鉛を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
【0096】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
【0098】
浸出工程において、亜鉛と銅の浸出はpH7.5~13.7で生じた。しかし、不純物分離工程では、銅イオンをほとんど抽出相(N-サリチリデンアニリン)に移行でき、かつ、亜鉛を浸出後液中に一部残存できるpH領域は、pH10.1~12.8の領域であった。また、亜鉛電解析出工程では、金属亜鉛の純度が90.00%以上となるpH領域は、pH10.1~12.8の領域であった。
以上より、浸出工程から亜鉛電解析出工程まで、pHがほとんど一定の場合で、かつ、抽出剤にN-サリチリデンアニリンを用いる場合、pH10.1~12.8が適しているといえる。一方で、不純物分離工程で処理する浸出液に酸又はアルカリを添加して、pH10.1~12.8に調整する場合、浸出工程のpHは、pH7.5~13.7まで適用することができる。
【0099】
<実施例2:No.2-1~2-2(模擬実験)>
[0]-(1)Cu,Znを含む浸出処理対象物
[1]-(1)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH7.5~14.0
[2]-(2)<不純物分離工程>電解析出 アルカリでCu分離
[3]-(1)<亜鉛電解析出工程>アルカリ性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
浸出工程までNo.1-2(比較例)、及びNo.1-4(実施例)と同様に行って浸出後液を回収した。
-不純物分離工程-
次いで、浸出後液をポテンショスタット装置にて、作用電極の電位(標準電極電位)をそれぞれ-400mV、-550mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属銅を析出させた。
-亜鉛電解析出工程-
次いで、作用電極側のチタン板を取り出し、新しいチタン板を作用電極に設置し、それぞれ電位(標準電極電位)を-1,140mV、-1,290mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属亜鉛を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
【0100】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。その結果、No.2-1(実施例)、及びNo.2-2(実施例)では、それぞれ99.7%、99.8%の高純度金属亜鉛を得ることができた。
【0101】
【0102】
<実施例3:No.3-1~3-2(模擬実験)>
[0]-(1)Cu,Znを含む浸出処理対象物
[1]-(1)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH7.5~14.0
[2]-(3)<不純物分離工程>硫化物化 アルカリでCu分離
[3]-(1)<亜鉛電解析出工程>アルカリ性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
浸出工程までNo.1-2(比較例)、及びNo.1-8(比較例)と同様に行って浸出後液を回収した。
-不純物分離工程-
次いで、浸出後液に硫化ナトリウム水溶液を添加し、酸化還元電位(標準電極電位)が、それぞれ190mV、-100mVになるまで硫化水素ナトリウム水溶液を添加して、銅イオンを硫化物として析出させた。pHは、それぞれpH8.3、pH13.2になるよう希硫酸又は水酸化ナトリウム水溶液を添加して、調整した。析出した硫化物をろ過し、ろ液(亜鉛イオン含有液)を得た。
-亜鉛電解析出工程-
次いで、ろ液(亜鉛イオン含有液)をポテンショスタット装置にて、それぞれ作用電極の電位(標準電極電位)を-1,140mV、-1,430mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板表面に、金属亜鉛を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
【0103】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。その結果、No.3-1(実施例)、及びNo.3-2(実施例)では、それぞれ99.6%、99.7%の高純度金属亜鉛を得ることができた。
【0104】
【0105】
<実施例4:No.4-1(模擬実験)>
[0]-(1)Cu,Znを含む浸出処理対象物
[1]-(1)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH7.5~14.0
[2]-(4)<不純物分離工程>抽出(アルカリ)→逆抽出(酸性)→電解Cu析出分離(酸性)
[3]-(2)<亜鉛電解析出工程>酸性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
浸出工程までNo.1-7(実施例)と同様に行って浸出後液を回収した。
-不純物分離工程-
次いで、浸出後液(pH12.8)0.2Lを分液ロートに入れ、更に抽出剤(N-サリチリデンアニリン)をケロシン(希釈剤)に溶解させた抽出液(50g/L)3Lを加えて、2分間撹拌し、銅イオンと亜鉛イオンを抽出相に抽出させた後、静置した。分液ロート下部より水相を分離した後、分液ロート上部より、硫酸酸性水0.2Lを加えて、2分間撹拌し、銅イオンと亜鉛イオンのほとんどを水相に逆抽出させて、静置した。その後、分液ロート下部より水相(逆抽出相)を分離し回収した。回収した逆抽出液のpHは、pH1.6であった。次いで、逆抽出液をポテンショスタット装置にて、作用電極側のチタン板の電位(標準電極電位)を0mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属銅を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
-亜鉛電解析出工程-
その後、作用電極側のチタン板を取り出し、新しいチタン板をポテンショスタット装置の作用電極側に設置し、作用極の電位(標準電極電位)を-1,000mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属亜鉛を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
【0106】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。その結果、No.4-1(実施例)では、99.8%の高純度金属亜鉛を得ることができた。
【0107】
【0108】
<実施例5:No.5-1(模擬実験)>
[0]-(1)Cu,Znを含む浸出処理対象物
[1]-(1)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH7.5~14.0
[2]-(3)<不純物分離工程>硫化物化 アルカリでCu分離
[2]-(5)<不純物分離工程>抽出(アルカリ)→逆抽出(酸性)
[3]-(2)<亜鉛電解析出工程>酸性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
浸出工程までNo.1-8(比較例)と同様に行って浸出後液を回収した。
-不純物分離工程-
次いで、浸出後液に硫化ナトリウム水溶液を添加し、酸化還元電位(標準電極電位)が-100mVになるまで硫化水素ナトリウム水溶液を添加して、銅イオンを硫化物として析出させた。pHは、pH13.2になるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加して、調整した。析出した硫化物をろ過し、ろ液を得た。ろ液0.3Lを分液ロートに入れ、更に抽出剤(N-サリチリデンアニリン)をケロシン(希釈剤)に溶解させた抽出液(50g/L)3Lを加えて、2分間撹拌し、亜鉛イオンのほとんどを抽出相に抽出させた後、静置した。分液ロート下部より水相を分離した後、分液ロート上部より、硫酸酸性水0.3Lを加えて、2分間撹拌し、亜鉛イオンのほとんどを水相に逆抽出させて、静置した。その後、分液ロート下部より水相(逆抽出相)を分離し回収した。回収した逆抽出液のpHは、pH1.6であった。
-亜鉛電解析出工程-
その後、逆抽出液をポテンショスタット装置にて、作用電極側のチタン板の電位(標準電極電位)を-1,000mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属亜鉛を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
【0109】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。その結果、No.5-1(実施例)では、99.9%の高純度金属亜鉛を得ることができた。
【0110】
【0111】
<実施例6:No.6-1~6-5(模擬実験)>
[0]-(2)Cu,Zn,Snを含む浸出処理対象物
[1]-(2)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH12.5~14.0
[2]-(0)<不純物分離工程>Ca,Mg添加錫酸塩析出 アルカリでSn分離
[2]-(3)<不純物分離工程>硫化物化 アルカリでCu分離
[3]-(1)<亜鉛電解析出工程>アルカリ性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
10L密閉容器に、銅粉3gと、亜鉛粉3gと、錫粉3gと、硫酸アンモニウムを含むpH13.2に調整したアンモニウム水溶液(アルカリ浸出液)0.4L(30g-NH3/L)と、を入れ、気相部を酸素で置換した後、2日間振とうし、銅及び亜鉛及び錫を浸出して、銅イオン、亜鉛イオン及び錫イオンを含む浸出後液を回収した。
-不純物分離工程-
次に、回収した浸出後液0.3Lに、表6に記載の錫イオン析出剤(炭酸カルシウム粉、生石灰粉、酸化マグネシウム粉のうち1つ以上)を添加し、錫イオンを錫酸カルシウム又は錫酸マグネシウムとして析出した後、析出物をろ過し、錫イオンを分離した錫分離済み浸出後液を回収した。その後、錫分離済み浸出後液に、硫化ナトリウム水溶液を添加し、表6に記載の酸化還元電位(標準電極電位)になるまで硫化水素ナトリウム水溶液を添加して、銅イオンを硫化物として析出させた。pHは、pH13.2になるよう水酸化ナトリウム水溶液を添加して、調整した。析出した硫化物をろ過し、ろ液(亜鉛イオン含有液)を得た。
-亜鉛電解析出工程-
次いで、ろ液(亜鉛イオン含有液)をポテンショスタット装置にて、作用電極側のチタン板の電位(標準電極電位)を-1,430mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属亜鉛を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
【0112】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。その結果、99.1%~100.0%の高純度金属亜鉛を得ることができた。
【0113】
【0114】
<実施例7-1>
[0]-(2)Cu,Zn,Snを含む浸出処理対象物
[1]-(2)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH12.5~14.0
(疎水性液体によるアルカリ浸出液の置換:実施せず)
[2]-(0)<不純物分離工程>Ca,Mg添加錫酸塩析出 アルカリでSn分離
[2]-(3)<不純物分離工程>硫化物化 アルカリでCu分離
[3]-(1)<亜鉛電解析出工程>アルカリ性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
エナメル被覆銅線、塗装亜鉛ニッケルめっき鋼板、塗装亜鉛めっき鋼板、及び塗装錫めっき鋼板などが混在した薄板系鉄スクラップを、開放系の電気炉内に入れ、500℃の環境下で30分間加熱処理し、エナメル被覆と塗装部を除去した。加熱処理した鉄スクラップ800gを、アルカリ浸出液(38g-NH3/L、pH10.0、DO(溶存酸素濃度)10mg/Lに制御)2Lを入れた密閉容器中で、5時間浸出した。浸出後に鉄スクラップの残留物を電磁石で磁着し取り出した。また、密閉容器内に残存している浸出液をろ過し固形物を除いて、浸出後液を得た。
【0115】
(鉄スクラップ残留物、浸出後液についての確認)
取り出した鉄スクラップ残留物を水洗浄用容器中の純水(2L)に浸漬させ、鉄スクラップ残留物の表面に残留しているアルカリ浸出液を純水中で洗浄して、洗浄液を得た。この洗浄液中の硫酸イオン濃度を測定し、その濃度から、取り出した鉄スクラップ残留物の表面に付着していた残留浸出液の単位面積当たりの量を計算したところ、120mL/m2であった。
また、浸出後液中の金属濃度は、表7-2に記載の通りであった。ろ過で得た前記固形物を分析すると、鉄とニッケルを含んでいた。また、鉄スクラップ残留物中のニッケル含有量は、表7-1に記載の通り浸出処理前の0.20%から、浸出処理後に0.03%まで低下していた。ただし、浸出後液中にニッケルは25mg/Lしか含まれていなかった。このことから、亜鉛ニッケルめっき鋼板に起因するニッケルはほとんど浸出液中には溶解していないことを確認した。
【0116】
-不純物分離工程-
次に、回収した浸出後液に、炭酸カルシウム粉を0.4g投入し、浸出後液中の錫イオンを錫酸カルシウムとして析出させた。析出物と浸出工程で残留した固形物とをろ過により分離し、錫分離済み浸出後液を得た。錫分離済み浸出後液の金属濃度は表7-2の通りであった。
次に、pHをpH10.0に調整しながら、錫分離済み浸出後液に硫化ナトリウム水溶液を添加し、ニッケルイオンが硫化物として析出し始める酸化還元電位(標準電極電位)である-60mVに調整し、銅イオンを硫化物として析出させた。その後、硫化ナトリウム水溶液をさらに0.006g添加し、ニッケルと亜鉛の一部を硫化物として析出させた。析出した錫酸カルシウムと硫化物をろ過し、亜鉛イオン含有液を得た。亜鉛イオン含有液の金属イオン濃度は表7-2の通りであった。
-亜鉛電解析出工程-
次に、亜鉛イオン含有液をポテンショスタット装置にて、作用電極の電位(標準電極電位)を-1,230mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属亜鉛を析出させた。なお、対極には、白金めっきチタン電極を用いた。
【0117】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。その結果、99.8%の高純度金属亜鉛を得ることができた。こうして、不純物分離工程で亜鉛以外の金属元素を分離することで、高純度金属亜鉛を得ることができることを確認した。
【0118】
なお、回収した鉄スクラップ残留物中の各元素の除去率は、表7-1に記載の通りCu除去率:74%、Zn除去率:87%、Ni除去率:85%、Sn除去率:20%であった。
【0119】
【0120】
【0121】
<実施例7-2>
[0]-(2)Cu,Zn,Snを含む浸出処理対象物
[1]-(2)<浸出工程>アンモニア含有浸出液pH12.5~14.0
疎水性液体によりアルカリ浸出液を置換
[2]-(0)<不純物分離工程>Ca,Mg添加錫酸塩析出 アルカリでSn分離
[2]-(3)<不純物分離工程>硫化物化 アルカリでCu分離
[3]-(1)<亜鉛電解析出工程>アルカリ性液 亜鉛電解析出
-浸出工程-
実施例7-1と同様に浸出工程を実施して、浸出後に鉄スクラップ残留物を取り出し、且つ浸出後液を得た。
-疎水性液体によるアルカリ浸出液の置換-
鉄スクラップ残留物を、疎水性液体置換用容器(密閉容器)内の疎水性液体(界面活性剤(Na-スルホネート)を0.21g/L溶解した1-ブロモプロパン)2L中に投入し、1分間浸漬し、鉄スクラップ残留物の表面に付着したアルカリ浸出液を分離した。疎水性液体の表層に浮上したアルカリ浸出液をスポイトで除いた後、鉄スクラップ残留物を電磁石で磁着して疎水性液体から取り出した。取り出した鉄スクラップ残留物を、再度、疎水性液体中に投入し、1分間浸漬し、鉄スクラップ残留物の表面に付着した浸出液をさらに分離した。疎水性液体の表層に浮上したアルカリ浸出液をスポイトで除いた後、鉄スクラップ残留物を電磁石で磁着して疎水性液体から取り出した。このようにして、疎水性液体によるアルカリ浸出液の置換を2回行った。
次に、疎水性液体置換用容器から取り出した鉄スクラップ残留物を、水洗浄用容器中の純水(2L)に浸漬させ、鉄スクラップ残留物の表面に残留しているアルカリ浸出液を純水中で洗浄して、洗浄液を得た。この洗浄液中の硫酸イオン濃度を測定し、その濃度から、疎水性液体置換用容器から取り出した鉄スクラップ残留物の表面に付着していた残留浸出液の単位面積当たりの量を計算したところ、「8mL/m2」であった。
実施例7-1では残留浸出液の量が「120mL/m2」であり、つまり実施例7-1と比較すると、疎水性液体による置換を行うことで、残留浸出液の量を93%削減できた。
【0122】
-不純物分離工程-
次に、回収した浸出後液に、炭酸カルシウム粉を0.4g投入し、浸出後液中の錫イオンを錫酸カルシウムとして析出させた。析出物と浸出工程で残留した固形物とをろ過により分離し、錫分離済み浸出後液を得た。錫分離済み浸出後液の金属濃度は表7-2の通りであった。
次に、pHをpH10.0に調整しながら、錫分離済み浸出後液に硫化ナトリウム水溶液を添加し、ニッケルイオンが硫化物として析出し始める酸化還元電位(標準電極電位)である-60mVに調整し、銅イオンを硫化物として析出させた。その後、硫化ナトリウム水溶液をさらに0.006g添加し、ニッケルと亜鉛の一部を硫化物として析出させた。析出した錫酸カルシウムと硫化物をろ過し、亜鉛イオン含有液を得た。亜鉛イオン含有液の金属イオン濃度は表7-2の通りであった。
-亜鉛電解析出工程-
次に、亜鉛イオン含有液をポテンショスタット装置にて、作用電極側の電位(標準電極電位)を-1,230mVに調整し、6時間、電解析出し、作用電極側に設置したチタン板の表面に、金属亜鉛を析出させた。
【0123】
作用電極側のチタン板の表面を蛍光X線回折で解析し、チタン以外の金属含有率より、チタン板の表面に析出した金属中の亜鉛濃度を計算し、金属亜鉛の純度を評価した。その結果、99.6%の高純度金属亜鉛を得ることができた。こうして、不純物分離工程で亜鉛以外の金属元素を分離することで、高純度金属亜鉛を得ることができることを確認した。
【0124】
なお、回収した鉄スクラップ残留物中の各元素の除去率は、Cu除去率:80%、Zn除去率:91%、Ni除去率:75%、Sn除去率:20%であった。
また、鉄スクラップ残留物の表面に残留したアルカリ浸出液を93%(112ml/m2)削減できたことにより、浸出工程後の鉄スクラップ残留物の洗浄水量及び洗浄廃液の処理量も削減できた。