(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176513
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ウイルス感染阻止成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C08J5/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095078
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 活志
(72)【発明者】
【氏名】川村 大地
(72)【発明者】
【氏名】西川 郁哉
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AC09
4F071AC14
4F071AE08
4F071AF52Y
4F071BA01
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】 本発明は、優れたウイルス感染阻止効果を有する合成樹脂製のウイルス感染阻止成形体を提供する。
【解決手段】 本発明のウイルス感染阻止成形体は、合成樹脂と、上記合成樹脂中に分散状態で含まれる粒子状のウイルス感染阻止剤とを含み、X線CTで測定した幅方向の上記ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σが0.1~5であるので、粒子状のウイルス感染阻止剤の凝集度合いを制御し、粒子状のウイルス感染阻止剤の表面積が多くなるようにしながら、ウイルス感染阻止成形体の表面にウイルス感染阻止剤が存在しやすいように構成しており、優れたウイルス感染阻止効果を有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂と、上記合成樹脂中に分散状態で含まれる粒子状のウイルス感染阻止剤とを含み、
X線CTで測定した幅方向の上記ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σが0.1~5であることを特徴とするウイルス感染阻止成形体。
【請求項2】
ウイルス感染阻止剤の有効成分として、有機酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアミン化合物のうちの少なくとも何れかの化合物を含有していることを特徴とする請求項1に記載のウイルス感染阻止成形体。
【請求項3】
ウイルス感染阻止剤の有効成分が有機酸を含有していることを特徴とする請求項2に記載のウイルス感染阻止成形体。
【請求項4】
分散剤を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止成形体。
【請求項5】
分散剤は、分子中にスルホ基の塩を含有する化合物及び/又は分子中にポリオキシアルキレン構造を含有する化合物を含むことを特徴とする請求項4に記載のウイルス感染阻止成形体。
【請求項6】
ウイルス感染阻止剤の含有量と分散剤の含有量の比(ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤の質量)が0.5~20であることを特徴とする請求項4に記載のウイルス感染阻止成形体。
【請求項7】
X線CTで測定した上記ウイルス感染阻止剤の球相当径が5~30μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止成形体。
【請求項8】
粒子状のウイルス感染阻止剤と合成樹脂とを溶融混練する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のウイルス感染阻止成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染阻止成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、季節性インフルエンザウイルスの流行に加え、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に大流行している。
【0003】
又、高病原性のトリインフルエンザウイルスが変異してヒト間で感染が確認されており、更に、致死率のきわめて高いサーズウイルスも懸念されており、ウイルスへの不安感は高まる一方である。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1には、合成樹脂100質量部に対しスルホン酸系界面活性剤を0.5質量部以上含む抗ウイルス性合成樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記抗ウイルス性合成樹脂組成物は、スルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中に含有させているにすぎず、スルホン酸系界面活性剤を含有する合成樹脂は、十分な抗ウイルス性(ウイルス感染阻止効果)を有しておらず、優れたウイルス感染阻止効果を有する合成樹脂製の成形体が所望されている。
【0007】
本発明は、優れたウイルス感染阻止効果を有する合成樹脂製のウイルス感染阻止成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のウイルス感染阻止成形体は、合成樹脂と、上記合成樹脂中に分散状態で含まれる粒子状のウイルス感染阻止剤とを含み、X線CTで測定した幅方向の上記ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σが0.1~5であることを特徴とする。
【0009】
本発明のウイルス感染阻止成形体の製造方法は、粒子状の上記ウイルス感染阻止剤と合成樹脂とを溶融混練する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウイルス感染阻止成形体は、X線CTで測定した幅方向の上記ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σが0.1~5であるので、粒子状のウイルス感染阻止剤の凝集度合いを制御し、粒子状のウイルス感染阻止剤の表面積が大きくなるようにしながら、ウイルス感染阻止成形体の表面にウイルス感染阻止剤が存在しやすいように構成している。したがって、ウイルス感染阻止成形体は、ウイルス感染阻止剤による優れたウイルス感染阻止効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ウイルス感染阻止成形体は、合成樹脂と、上記合成樹脂中に分散状態で含まれる粒子状のウイルス感染阻止剤とを含み、X線CTで測定した幅方向の上記ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σが0.1~5である。
【0012】
ウイルス感染阻止成形体は、合成樹脂中に粒子状のウイルス感染阻止剤を分散させている。ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果は、合成樹脂中にウイルス感染阻止剤を単に含有させただけでは、ウイルス感染阻止剤の有するウイルス感染阻止効果を効果的に発現させることができないことが発明者らの検討の結果、判明した。
【0013】
発明者らは、合成樹脂中における粒子状のウイルス感染阻止剤の分散状態に注目し、ウイルス感染阻止剤の分散状態を制御することによって、ウイルス感染阻止剤の有するウイルス感染阻止効果を効果的に発現させることができ、その結果、ウイルス感染阻止成形体に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができることを見出した。
【0014】
[合成樹脂]
ウイルス感染阻止成形体は、合成樹脂を含有している。合成樹脂は、成形体を製造することができればよく、公知の合成樹脂を用いることができる。合成樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリウレタン、テフロン(登録商標)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミドなど)、熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなど)などが挙げられる。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0015】
[ウイルス感染阻止剤]
ウイルス感染阻止成形体は、ウイルス感染阻止剤を含有している。ウイルス感染阻止成形体は、ウイルス感染阻止剤の作用によってウイルス感染阻止効果を奏する。ウイルス感染阻止剤としては、ウイルス感染阻止効果を奏し且つ粒子状であれば、特に限定されない。ウイルス感染阻止剤は有効成分として有機酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアミン化合物のうちの少なくとも何れか一の化合物を含有していることが好ましく、有機酸及びアルキルベンゼンスルホン酸塩のうちの少なくとも何れか一の化合物を含有していることがより好ましく、有機酸を含有していることがより好ましい。ウイルス感染阻止剤の有効成分は有機酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアミン化合物のうちの少なくとも何れか一の化合物であることが好ましく、有機酸及びアルキルベンゼンスルホン酸塩のうちの少なくとも何れか一の化合物であることがより好ましく、有機酸であることがより好ましい。有機酸、アルキルベンゼンスルホン酸塩及びアミン化合物のうちの何れか一の化合物をウイルス感染阻止剤として用いることが好ましく、有機酸及びアルキルベンゼンスルホン酸塩のうちの何れか一の化合物をウイルス感染阻止剤として用いることがより好ましく、有機酸をウイルス感染阻止剤として用いることがより好ましい。
【0016】
本発明において、有機化合物とは、分子中に少なくとも1個(好ましくは2個以上)の炭素を含み且つ炭素-水素結合(C-H結合)を含む化合物をいう。
【0017】
ここで、ウイルス感染阻止効果とは、ウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702が挙げられる。他にも「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0018】
ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果は、例えば、下記の要領で測定することができる。ウイルス感染阻止剤5質量部と合成樹脂95質量部とを溶融混練して混合して樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物をプレス成形して平均厚みが1mmのシート状の合成樹脂成形体を作製する。得られた合成樹脂成形体の表面を一辺が10cmの平面正方形状の不織布を用いて不織布を10往復させて拭き取り、この合成樹脂成形体を試験体とする。
【0019】
得られた試験体について、抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行なう。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出する。
【0020】
ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク基準体を作製し、このブランク基準体に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出する。
【0021】
ブランク基準体のウイルス感染価から試験体のウイルス感染価を引くことによって抗ウイルス活性値を算出する。
【0022】
ウイルス感染阻止剤について、ISO21702に準拠した抗ウイルス試験の反応開始から10分経過後の抗ウイルス活性値は、2.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、2.8以上がより好ましい。評価するウイルスの種類を問わず、少なくとも1種のウイルスにおいて、抗ウイルス活性値が2.0以上となることが好ましい。
【0023】
ウイルス感染阻止剤は、有効成分として有機酸を含有していることが好ましい。有機酸は、有機化合物であることが好ましく、重合体でもよい。有機酸は、分子中に、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有しており、これらの官能基の一種のみを有していてもよいし、複数種の官能基を有していてもよい。有機酸は、ウイルス感染阻止剤が優れたウイルス感染阻止効果を奏するので、カルボキシ基を有していることが好ましい。
【0024】
ウイルス感染阻止剤中における有機酸の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0025】
有機酸は、分子内にカルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]及びリン酸基[-OPO(OH)2]からなる群から選ばれた官能基を複数個有していることが好ましく、複数個の官能基中にカルボキシ基を含むことがより好ましく、カルボキシ基を複数個有していることがより好ましい。有機酸が上記官能基を複数個有していると、ウイルス感染阻止成形体は、優れたウイルス感染阻止効果を奏する。なお、有機酸は、分子中にスルホ基の塩、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]の塩及びリン酸基[-OPO(OH)2]の塩を含有していないことが好ましい。
【0026】
有機酸としては、分子中に、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有しておれば、特に限定されない。
【0027】
有機酸としては、例えば、アジピン酸(溶解度:14g/L)、安息香酸(溶解度:3.4g/L)、ラウリン酸(溶解度:0g/L)、アゼライン酸(溶解度:2.4g/L)、セバシン酸(溶解度:0.25g/L)、ドデカン二酸(溶解度:0g/L)、フマル酸(溶解度:6.3g/L)、フタル酸(溶解度:7.2g/L)、イソフタル酸(溶解度:0.13g/L)、テレフタル酸(溶解度:0.017g/L)、メチレンジサリチル酸(溶解度:0g/L)、cis-Δ4-テトラヒドロフタル酸(溶解度:0g/L)、カプロン酸(溶解度:11g/L)、エナント酸(溶解度:2.4g/L)、カプリル酸(溶解度:0.68g/L)、ペラルゴン酸(溶解度:0.28g/L)、カプリン酸(溶解度:0.15g/L)、ラウリン酸(溶解度:0.0048g/L)、ミリスチン酸(溶解度:0g/L)、パルミチン酸(溶解度:0g/L)、ステアリン酸(溶解度:0g/L)、ミリストレイン酸(溶解度:0g/L)、オレイン酸(溶解度:0g/L)、リシノール酸(溶解度:0g/L)、サリチル酸(溶解度:2.0g/L)、没食子酸水和物(溶解度:11g/L)、ベンジル酸(溶解度:1.4g/L)、4-アミノ安息香酸(溶解度:6g/L)、トリグリコラミン酸(溶解度:1.3g/L)、ポリアクリル酸(溶解度:250g/L以上)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(溶解度:9g/L)、ジエチレントリアミン五酢酸(溶解度:4g/L)、アルギン酸(溶解度:0g/L)などが挙げられ、イソフタル酸、テレフタル酸、アルギン酸が好ましい。括弧内に記載した溶解度は、有機酸における25℃での水への溶解度である。なお、有機酸は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0028】
有機酸が重合体である場合、有機酸としては、例えば、線状重合体の側鎖に、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有している重合体が挙げられる。
【0029】
線状重合体の側鎖に、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有している重合体において、線状重合体としては、特に限定されず、例えば、ビニル重合体、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニル重合体が好ましい。
【0030】
線状重合体の側鎖に、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有する重合体としては、特に限定されず、例えば、カルボキシ基を有する単量体成分を含有する重合体、スルホ基を有する単量体成分を含有する重合体、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]を有する単量体成分を含有する重合体、リン酸基[-OPO(OH)2]を有する単量体成分を含有する重合体などが挙げられる。
【0031】
カルボキシ基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、5-カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、カルボキシベタイン型モノマーなどが挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。なお、カルボキシ基を有する単量体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0032】
スルホ基を有する単量体としては、例えば、p-スチレンスルホン酸、m-スチレンスルホン酸、o-スチレンスルホン酸、アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、ビニルスルホン酸、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、3-(メタクリロイルオキシ)プロパンスルホン酸、4-[(3-メタクリルアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]ブタン-1-スルホン酸などが挙げられる。なお、スルホ基を有する単量体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0033】
ホスホン酸基を有する単量体としては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスホン酸アルキルなどが挙げられる。なお、ホスホン酸基を有する単量体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0034】
リン酸基を有する単量体としては、例えば、リン酸モノアクリレート、リン酸ジアクリレート、リン酸モノメタクリレート、リン酸ジメタクリレート、リン酸メタクリル酸2-ヒドロキシエチルエステルなどが挙げられる。なお、リン酸基を有する単量体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0035】
有機酸が重合体である場合、重合体中において、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有する単量体成分の総含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0036】
線状重合体の側鎖に、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有する重合体は、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有する単量体と共重合可能な単量体成分を含有していてもよい。
【0037】
上記共重合可能な単量体としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸ナトリウム、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエン、ビニルピリジン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
【0038】
線状重合体の側鎖に、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、ホスホン酸基[-P(=O)(OH)2]又はリン酸基[-OPO(OH)2]を有する重合体は、汎用のラジカル重合方法によって製造することができる。
【0039】
有機酸における25℃での水への溶解度(25℃の水に対する溶解度)は、20g/L以下が好ましく、18g/L以下がより好ましい。有機酸における25℃での水への溶解度が20g/L以下であると、有機酸とウイルスとの相互作用が向上し、ウイルス感染阻止成形体に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。なお、有機酸における25℃での水への溶解度は、水1Lに溶解する有機酸の質量をいう。
【0040】
有機酸における25℃での水への溶解度は、0.001g/L以上が好ましく、0.01g/L以上がより好ましく、0.015g/L以上がより好ましい。有機酸における25℃での水への溶解度が0.001g/L以上であると、唾や痰などウイルスが存在するタンパク質水溶液が接触した時に、有機酸とウイルスとの相互作用を向上させて、ウイルス感染阻止成形体に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0041】
有機酸における25℃での水への溶解度は、OECD 化学品テストガイドライン No.105(水溶解度)に準拠して25℃において測定された値をいう。
【0042】
ウイルス感染阻止剤は、有効成分としてアルキルベンゼンスルホン酸塩を含むことが好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアンモニウム塩などが挙げられる。
【0043】
ウイルス感染阻止剤中におけるアルキルベンゼンスルホン酸塩の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0044】
アルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がより好ましい。アルキル基の炭素数が8以上であると、アルキルベンゼンスルホン酸塩の樹脂中への分散性が高くなり、アルキルベンゼンスルホン酸塩とウイルスとの相互作用が向上することで、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上する。アルキル基の炭素数が25以下であると、アルキルベンゼンスルホン酸塩とウイルスとの相互作用が向上し、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0045】
ウイルス感染阻止剤は、有効成分としてアミン化合物を含むことが好ましい。アミン化合物としては、分子内に第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選ばれた少なくとも一種のアミノ官能基又はその塩を有する化合物が挙げられる。
【0046】
ウイルス感染阻止剤中におけるアミン化合物の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0047】
アミノ官能基は、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上するので、第2級アミノ基を含むことが好ましい。又、アミノ官能基は、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの両方に対してウイルス感染阻止効果を有するから、第2級アミノ基を含むことが好ましい。
【0048】
アミノ官能基は、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上すると共に、ウイルス感染阻止効果を基材に含有させて用いた場合にあっても基材表面の白化を概ね防止することができるので、環状骨格を形成していることが好ましく、脂環式環状骨格を形成していることが好ましい。
【0049】
なお、第1級アミノ基は、-NH2で表される一価の置換基を意味する。第2級アミノ基は、-NH2から1個の水素原子を除いて(引き抜いて)生じる二価の置換基(-NH-)を意味する。第3級アミノ基は、-NH2から2個の水素原子を除いて(引き抜いて)生じる三価の置換基[≡N、式(a)]を意味する。但し、アミノ官能基は、アミノ官能基を構成している窒素原子にケト基(>CO)が直接結合している場合を除く。
【0050】
【0051】
アミノ官能基の塩としては、特に限定されないが、酸付加塩が好ましい。酸付加塩の酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、臭化水素酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリル硫酸、リノレン酸、フマル酸が挙げられ、塩酸塩が好ましい。
【0052】
アミン化合物としては、アミノ官能基又はその塩を有する高分子化合物が好ましい。高分子化合物としては、例えば、線状高分子の側鎖にアミノ官能基又はその塩を含むポリマーなどが挙げられる。
【0053】
線状高分子の側鎖にアミノ官能基又はその塩を含むポリマーにおいて、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニルポリマー、ポリエステルが好ましく、ビニルポリマーがより好ましい。
【0054】
線状高分子の側鎖にアミノ官能基又はその塩を含むポリマーとしては、例えば、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。
【0055】
アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル、N-(アミノアルキル)アクリルアミド、N-(アミノアルキル)メタクリルアミド、(メタ)アクリル酸グリシジルにアンモニアやジメチルアミンなどを反応させて得られるモノマー、アリルアミン、ジアリルアミン、メチルジアリルアミン、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルメタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルメタクリレート又はこれらのアミノ官能基の塩などが挙げられる。なお、アミノ官能基又はその塩を含有するアミノ官能基含有モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0056】
アミノ官能基含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーは、アミノ官能基含有モノマーのホモポリマーであってもよいし、アミノ官能基含有モノマーとこれと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0057】
アミノ官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されず、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエンなどが挙げられる。なお、アミノ官能基含有モノマーと共重合可能なモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0058】
ウイルス感染阻止剤中における有効成分の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0059】
ウイルス感染阻止剤は、フィラーに担持されている構成であってもよく、フィラーに担持されていない構成であってもよい。ウイルス感染阻止剤は、フィラーの表面に有効成分(及び任意の添加成分)を担持することにより粒子状に構成されていてもよい。ウイルス感染阻止剤は、フィラーに担持されておらず、有効成分(及び任意の添加成分)が粉砕加工、造粒加工などにより粒子状に加工されている構成であってもよい。
【0060】
フィラーとしては、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を阻害しなければ、特に限定されない。フィラーとしては、例えば、樹脂粒子及び無機粒子などが挙げられる。フィラーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0061】
樹脂粒子を構成している合成樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムなどが挙げられる。
【0062】
無機粒子を構成している無機材料としては、特に限定されず、例えば、ゼオライト、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0063】
ウイルス感染阻止成形体中におけるウイルス感染阻止剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止成形体中におけるウイルス感染阻止剤の含有量の上限は、特に限定されないが、合成樹脂100質量部に対して80質量部以下が好ましく、75質量部以下がより好ましく、70質量部以下がより好ましい。ウイルス感染阻止剤の含有量が1質量部以上であると、ウイルス感染阻止成形体に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。ウイルス感染阻止剤の含有量が80質量部以下であると、ウイルス感染阻止成形体の強度などの性能を確保しやすくなる。
【0064】
ウイルス感染阻止成形体中において、有効成分の含有量は、合成樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止成形体中において、有効成分の含有量の上限は、特に限定されないが、合成樹脂100質量部に対して80質量部以下が好ましく、75質量部以下がより好ましく、70質量部以下がより好ましい。有効成分の含有量が1質量部以上であると、ウイルス感染阻止成形体に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。有効成分の含有量が80質量部以下であると、ウイルス感染阻止成形体の強度などの性能を確保しやすくなる。
【0065】
発明者らは、ウイルス感染阻止成形体を構成している合成樹脂中にウイルス感染阻止剤を同量含有させた場合においても、ウイルス感染阻止剤の作用によるウイルス感染阻止効果に差異が生じることに注目し、鋭意検討した結果、本発明は、合成樹脂中に分散しているウイルス感染阻止剤の凝集度合いの差異が、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果に影響を及ぼしていることを見出したことにある。
【0066】
詳細には、ウイルス感染阻止成形体中の粒子状のウイルス感染阻止剤は、粒子同士の凝集度合いによって、ウイルス感染阻止成形体の表面での存在のしやすさに差異を生じ、粒子状のウイルス感染阻止剤は、その凝集度合いが大きくなればなるほど、ウイルス感染阻止成形体の表面に存在しやすくなり、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上する一方、粒子状のウイルス感染阻止剤は、その凝集度合いが大きくなればなるほど、ウイルス感染阻止剤の表面積が小さくなり、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの相互作用が小さくなることを見出したものであり、本発明は、合成樹脂中におけるウイルス感染阻止剤の凝集度合いを調整して分散状態を制御することによって、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果を向上させている。
【0067】
ウイルス感染阻止剤について、X線CTで測定した幅方向のウイルス感染阻止剤の体積率(以下、単に「体積率」ということがある)の標準偏差σは、0.1以上であり、0.11以上が好ましく、0.12以上がより好ましい。ウイルス感染阻止剤について、X線CTで測定した幅方向のウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σは、5以下であり、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σを上記範囲内に調整することによって、ウイルス感染阻止剤を適度に凝集させて、ウイルス感染阻止剤の過度な凝集による表面積の低下を防止しながら、ウイルス感染阻止剤をウイルス感染阻止成形体の表面により多く露出させるようにして、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果の向上を図っている。
【0068】
ウイルス感染阻止成形体について、X線CTで測定した球相当径(以下、単に「球相当径」ということがある)は、5μm以上が好ましく、5.5μm以上がより好ましく、6μm以上がより好ましい。ウイルス感染阻止剤について、X線CTで測定した球相当径は、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましく、20μm以下がより好ましい。ウイルス感染阻止剤の球相当径が上記範囲内であると、ウイルス感染阻止剤の過度な凝集による表面積の低下を防止しながら、ウイルス感染阻止剤を適度に凝集させてウイルス感染阻止成形体の表面により多く露出させるようにして、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果の向上を図ることができる。
【0069】
ウイルス感染阻止剤について、X線CTで測定した幅方向のウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σと、X線CTで測定した球相当径は、下記の要領で測定された値をいう。
【0070】
例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
(X線CT使用装置)
3DX線顕微鏡(「高分解能3DX線顕微鏡 nano3DX」リガク社製)
(X線CT測定条件)
X線ターゲット:Cu
レンズ:L01080(1.08μm/pixel)
ビニング:2
露光時間:6秒
撮像枚数:1000枚
サンプルセット:厚さ方向がZ軸になるようにセット
(画像解析)
(i)画像連結:複数視野に渡るサンプルの場合は画像を連結する。
(ii)水平修正:Transform Editorを使用し、ウイルス感染阻止成形体の表面が画像中で水平になるように調整し、Resample Transformed Imageを適用する。なお、Resample Transformed Imageでは、Modeをextendedに変更し、その他の条件は初期値とする。
(iii)ウイルス感染阻止成形体領域抽出:(ii)の画像に対し、Interactive Thresholdingを適用し、ウイルス感染阻止成形体領域のみが抽出されるよう閾値を調整する。
(iv)ウイルス感染阻止剤抽出:(iii)の画像に対し、Interactive Thresholdingを適用し、ウイルス感染阻止剤領域のみが抽出されるよう閾値を調整する。
(v)領域分割処理:(iv)の画像に対し、Separate Objectsを適用し、隣り合うウイルス感染阻止剤領域を各領域に分割する。Separate Objectsの条件は、以下の通りとする。なお、Separate Objectsの条件は、撮影条件や成形体の種類によって、適宜変更可能である。
・Marker Extent:3
・その他条件は、初期値とする。
(vi)画像端部処理:(iv)の画像に対し、Border Killを適用し、画像端部に接しているウイルス感染阻止剤抽出領域を除去する。なお、Border Killの条件は、初期値とする。
(vii)幅方向の体積率算出:(iii)及び(iv)の画像に対し、Material Statisticsを適用し、幅方向各断面における各領域の体積を計測する。Material Statisticsの条件は、以下の通りとする。
・Select:Volume per slice
計測された体積から幅方向各断面におけるウイルス感染阻止剤の体積率を下記式により算出する。
ウイルス感染阻止剤の体積率(%)
=ウイルス感染阻止剤の体積/ウイルス感染阻止成形体の体積×100
更に、得られた幅方向各断面のウイルス感染阻止剤の体積率から標準偏差を算出する。
(viii)球相当径算出:(v)の画像に対し、Label Analysisを適用し、各ウイルス感染阻止剤抽出領域の体積(voxel)を解析する。得られた体積から実寸体積を下記式により算出する。
実寸体積(μm3)=体積(voxel)×(解像度)3(μm/pixel)
更に、実寸体積から球相当径を下記式により算出する。
球相当径(μm)=2×[(3×実寸体積)/(4π)]^(1/3)
【0071】
ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σは、例えば、下記の要領で制御することができる。例えば、(1)合成樹脂と、ウイルス感染阻止剤との混練度合いを高めることによって、ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σを小さくすることができる。(2)合成樹脂とウイルス感染阻止剤とを混合する際に後述する分散剤をより多く用いることによって、ウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σを小さくすることができる。
【0072】
ウイルス感染阻止剤の球相当径は、例えば、下記の要領で制御することができる。例えば、(1)合成樹脂とウイルス感染阻止剤との混練度合いを高めることによって、ウイルス感染阻止剤の球相当径を小さくすることができる。(2)合成樹脂とウイルス感染阻止剤とを混合する際に分散剤をより多く用いることによって、ウイルス感染阻止剤の球相当径を小さくすることができる。(3)合成樹脂と混合する前の粒子状のウイルス感染阻止剤の粒子径を小さくすることによって、ウイルス感染阻止剤の球相当径を小さくすることができる。
【0073】
[分散剤]
ウイルス感染阻止成形体は、分散剤を含有していることが好ましい。ウイルス感染阻止成形体が分散剤を含有していることによって、粒子状のウイルス感染阻止剤を適度に凝集させてより最適な大きさの凝集粒子とし、ウイルス感染阻止成形体の表面に存在しやすくしていると共に、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることによって、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果をより優れたものとすることができる。
【0074】
分散剤としては、特に限定されず、例えば、アニオン系界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩を除く)(以下、単に「アニオン系界面活性剤」ということがある)、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体などが挙げられ、アニオン系界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩を除く)、ノニオン系界面活性剤、ポリアルキレングリコール、線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体が好ましい。
【0075】
分散剤は、アニオン系界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩を除く)とノニオン系界面活性剤を含有していることが好ましく、分子中にスルホ基の塩を含有する化合物(アルキルベンゼンスルホン酸塩を除く)と、ノニオン系界面活性剤とを含有していることがより好ましい。分散剤は、アニオン系界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩を除く)と、分子中にポリオキシアルキレン構造を含有する化合物とを含有していることが好ましい。分散剤は、分子中にスルホ基の塩を含有する化合物(アルキルベンゼンスルホン酸塩を除く)と、分子中にポリオキシアルキレン構造を含有する化合物とを含有していることがより好ましい。上記二種類の分散剤を併用することによって、ウイルス感染阻止剤をより適切な大きさの凝集粒子とし、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果をより優れたものとすることができる。
【0076】
アニオン系界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ドデシルリン酸ナトリウム、ドデシルリン酸カリウム、ステアリルリン酸ナトリウム、ステアリルリン酸カリウム、などのアルキルリン酸塩、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ラウリルエーテルリン酸カリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレン(3)ラウリルフェニルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン(3)ラウリルフェニルエーテルリン酸カリウムなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などが挙げられ、ポリスチレンスルホン酸塩などの分子中にスルホ基(-SO3H)の塩を含有する化合物が好ましい。
【0077】
分散剤が、分子中にスルホ基(-SO3H)の塩を含有する化合物であると、ウイルス感染阻止剤と分散剤との相互作用によって、ウイルス感染阻止剤のウイルスに対する相互作用が向上し、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上するので好ましい。
【0078】
ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシプロピレンイソセチルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシプロピレンオレイルエーテルなどのポリオキシプロピレンアルキルエーテルなど)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル(例えば、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコールなどのポリオキシエチレン脂肪酸エステル、モノステアリン酸ポリプロピレングリコール、ジステアリン酸ポリプロピレングリコールなどのポリオキシプロピレン脂肪酸エステル)、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルカノールアミド(例えば、ラウリン酸ジエタノールアミド、ヤシ脂肪酸ジメタノールアミド、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド、ヤシ脂肪酸ジプロパノールアミドなどのヤシ脂肪酸アルカノールアミドなど)、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーなどが挙げられ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミドが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸エタノールアミド(飽和脂肪酸エタノールアミドが好ましい)がより好ましい。
【0079】
両性界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、スルホベタイン、アルキルアミノ(モノ又はジ)プロピオン酸塩、イミダゾリニウムベタイン、アルキルアミンオキシド、アルキルアミノエチルグリシン、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、グリシンn-(3-アミノプロピル)C10~16誘導体、アルキルポリアミノエチルグリシン、アルキルβアラニン、アルキルジエタノールアミン、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ジアミンのオキシエチレン付加型界面活性剤などが挙げられる。
【0080】
線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体において、線状重合体としては、特に限定されず、例えば、ビニル重合体、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニル重合体が好ましい。
【0081】
線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体としては、特に限定されず、例えば、スチレンスルホン酸塩成分を含有する重合体、スチレンスルホン酸塩単独重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、ポリスチレンのベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩、スチレン成分を含む重合体のベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩などが挙げられる。
【0082】
又、線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体は、スルホ基の塩を有する単量体の単独重合体又は共重合体が好ましい。スルホ基の塩を有する単量体としては、例えば、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、m-スチレンスルホン酸ナトリウム、o-スチレンスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸カルシウム、m-スチレンスルホン酸カルシウム、o-スチレンスルホン酸カルシウム、p-スチレンスルホン酸アンモニウム、m-スチレンスルホン酸アンモニウム、o-スチレンスルホン酸アンモニウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸カルシウムなどが挙げられ、スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましく、ウイルスとの反応性において立体障害が少ないことから、p-スチレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0083】
なお、スルホ基の塩を有する単量体は、他の単量体と共重合体を構成していてもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエン、キシレンスルホン酸、ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられるが、スチレンが好ましい。
【0084】
線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体は、汎用の方法で製造することができ、例えば、スルホ基の塩を有する単量体をラジカル重合する方法、スルホ基の塩を有する単量体とこの単量体と共重合可能な単量体とをラジカル重合する方法、スルホ基を有する単量体成分を含む重合体のスルホ基をアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなど)を用いて中和する方法などが挙げられる。
【0085】
線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体の重量平均分子量は、3000以上が好ましく、5000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、100000以上がより好ましい。線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体の重量平均分子量が3000以上であると、線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体と合成樹脂との相溶性が向上し、ウイルス感染阻止剤の合成樹脂への分散性を向上させることができる。
【0086】
線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体の重量平均分子量は、1000000以下が好ましく、900000以下がより好ましく、800000以下がより好ましく、500000以下がより好ましい。線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体の重量平均分子量が1000000以下であると、線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体をウイルス感染阻止剤に接近させやすくなり、ウイルス感染阻止剤の合成樹脂中への分散性を向上させることができる。
【0087】
なお、本発明において、線状重合体の側鎖にスルホ基の塩を有する重合体の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。
【0088】
例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
ゲルパミエーションクロマトグラフ:Waters社製 商品名「2690 Separations Model」
カラム:昭和電工社製 商品名「GPC KF-806L」
検出器:示差屈折計
サンプル流量:1mL/min
カラム温度:40℃
溶出液:THF
【0089】
分散剤は、分子中にポリオキシアルキレン構造を含有していることが好ましく、ポリオキシエチレン構造を含有していることがより好ましい。分子中にポリオキシアルキレン構造を含有している分散剤は、ウイルス感染阻止剤、特に、有機酸をウイルス感染阻止成形体の表面に偏析(ブリードアウト)させる作用を奏し、その結果、ウイルス感染阻止成形体は、優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0090】
ポリオキシアルキレン構造とは、下記一般式で表される繰り返し単位を意味する。
-(R1-O)n-
(式中、R1は炭素数が1~3のアルキレン基を表し、nは、繰り返し単位の数であって2以上の自然数である。)
【0091】
アルキレン基とは、脂肪族飽和炭化水素中の異なる2個の炭素原子に結合する2個の水素原子を除いて生じる2価の原子団であり、直鎖状及び分岐状の双方の原子団を含む。なお、分岐状とは、1個の炭素(メチル基)が側鎖として結合している場合が含まれる。
【0092】
アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基[-CH(CH3)-CH2-]、トリメチレン基[-CH2-CH2-CH2-]、ブチレン基、アミレン基[-(CH2)5-]、ヘキシレン基などが挙げられ、エチレン基、プロピレン基が好ましく、エチレン基がより好ましい。
【0093】
ウイルス感染阻止成形体中における分散剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.15質量部以上がより好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止成形体中における分散剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がより好ましい。分散剤の含有量が0.1質量部以上であると、ウイルス感染阻止成形体に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。分散剤の含有量が30質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤が分散剤に被覆されず、ウイルスとの相互作用が向上し、ウイルス感染阻止効果が向上する。
【0094】
ウイルス感染阻止成形体において、ウイルス感染阻止剤の含有量と分散剤の含有量の比(ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤の質量)は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がより好ましい。ウイルス感染阻止成形体において、ウイルス感染阻止剤の含有量と分散剤の含有量の比(ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤の質量)は、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、16以下がより好ましい。ウイルス感染阻止剤の含有量と分散剤の含有量の比(ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤の質量)が0.5以上であると、ウイルス感染阻止成形体の強度などの性能を確保しつつ、ウイルス感染阻止効果を得られやすくなる。ウイルス感染阻止剤の含有量と分散剤の含有量の比(ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤の質量)が20以下であると、ウイルス感染阻止剤の合成樹脂中への分散性が高くなり、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの相互作用が向上し、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0095】
ウイルス感染阻止成形体において、アルキルベンゼンスルホン酸塩の含有量と分散剤の含有量の比(アルキルベンゼンスルホン酸塩の質量/分散剤の質量)は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がより好ましい。ウイルス感染阻止成形体において、アルキルベンゼンスルホン酸塩の含有量と分散剤の含有量の比(アルキルベンゼンスルホン酸塩の質量/分散剤の質量)は、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、16以下がより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩の含有量と分散剤の含有量の比(アルキルベンゼンスルホン酸塩の質量/分散剤の質量)が0.5以上であると、ウイルス感染阻止成形体の強度などの性能を確保しつつ、ウイルス感染阻止効果を得られやすくなる。アルキルベンゼンスルホン酸塩の含有量と分散剤の含有量の比(アルキルベンゼンスルホン酸塩の質量/分散剤の質量)が20以下であると、ウイルス感染阻止剤の合成樹脂への分散性が高くなり、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの相互作用が向上し、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0096】
ウイルス感染阻止成形体において、アミン化合物の含有量と分散剤の含有量の比(アミン化合物の質量/分散剤の質量)は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がより好ましい。ウイルス感染阻止成形体において、アミン化合物の含有量と分散剤の含有量の比(アミン化合物の質量/分散剤の質量)は、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、16以下がより好ましい。アミン化合物の含有量と分散剤の含有量の比(アミン化合物の質量/分散剤の質量)が0.5以上であると、ウイルス感染阻止成形体の強度などの性能を確保しつつ、ウイルス感染阻止効果を得られやすくなる。アミン化合物の含有量と分散剤の含有量の比(アミン化合物の質量/分散剤の質量)が20以下であると、ウイルス感染阻止剤の合成樹脂への分散性が高くなり、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの相互作用が向上し、ウイルス感染阻止成形体のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0097】
[ウイルス感染阻止成形体]
ウイルス感染阻止成形体は、粒子状のウイルス感染阻止剤と合成樹脂とに、必要に応じて分散剤を加えた上で、必要に応じて溶融させた上で汎用の要領で混合することによって製造することができる。例えば、粒子状のウイルス感染阻止剤と合成樹脂とに必要に応じて分散剤を加えた樹脂組成物を汎用の合成樹脂の成形方法により成形して、所望形状を有するウイルス感染阻止成形体を製造することができる。汎用の合成樹脂の成形方法としては、例えば、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法などが挙げられる。
【0098】
ウイルス感染阻止成形体において、粒子状のウイルス感染阻止剤は合成樹脂中において適度な大きさに凝集して凝集粒子を形成しながら分散しており、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくしながら、ウイルス感染阻止成形体の表面にウイルス感染阻止剤が偏析するように構成されている。よって、ウイルス感染阻止成形体中のウイルス感染阻止剤はウイルスと相互作用を効果的に奏し、ウイルス感染阻止成形体は優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0099】
合成樹脂にウイルス感染阻止剤及び必要に応じて分散剤を含有して混合することによって合成樹脂成形用マスターバッチを製造し、この合成樹脂成形用マスターバッチを用いて上述した汎用の合成樹脂の成形方法を用いて所望形状を有するウイルス感染阻止成形体を製造してもよい。なお、合成樹脂成形用マスターバッチに用いられる合成樹脂は、上記にて例示された合成樹脂を用いることができる。なお、合成樹脂は、一種のみが用いられてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0100】
合成樹脂成形用マスターバッチは、成形性に優れているので、樹脂ペレットであることが好ましい。樹脂ペレットを溶融し、成形することで、ウイルス感染阻止効果に優れた合成樹脂成形体を得ることができる。
【0101】
樹脂ペレットの形状としては、特に限定されず、球形、円柱形及び角柱形等が挙げられる。ペレット形状の安定性の観点から、円柱形が好ましい。上記樹脂ペレットの最大長さ方向の寸法は、好ましくは1mm以上、より好ましくは3mm以上である。上記樹脂ペレットの最大長さ方向の寸法は、好ましくは10mm以下、より好ましくは7mm以下である。
【0102】
合成樹脂成形用マスターバッチは、他の樹脂材料と混合して用いることができる。他の樹脂材料は、樹脂ペレットであってもよい。上記合成樹脂成形用マスターバッチと上記他の樹脂材料とを混合して、混合樹脂材料を得た後、該混合樹脂材料を成形することで、ウイルス感染阻止効果に優れたウイルス感染阻止成形体を得ることができる。
【0103】
合成樹脂成形用マスターバッチ中におけるウイルス感染阻止剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がより好ましい。合成樹脂成形用マスターバッチ中におけるウイルス感染阻止剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、60質量部以下がより好ましい。
【0104】
合成樹脂成形用マスターバッチ中における分散剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましい。合成樹脂成形用マスターバッチ中における分散剤の含有量は、合成樹脂100質量部に対して40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【実施例0105】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0106】
下記に示した化合物を合成樹脂として用いた。
[合成樹脂]
・ポリプロピレン
【0107】
下記に示した化合物をウイルス感染阻止剤として用いた。
[ウイルス感染阻止剤]
(有機酸)
・テレフタル酸(平均粒子径:50μm)
・アルギン酸(平均粒子径:50μm)
・イソフタル酸(平均粒子径:50μm)
(アルキルベンゼンスルホン酸塩)
・ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(平均粒子径:50μm)
【0108】
下記に示した化合物を分散剤として用いた。
[分散剤1(スルホ基の塩を含有)]
(アニオン系界面活性剤)
・ラウリルスルホン酸ナトリウム(平均粒子径:50μm)
・ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(平均粒子径:50μm、重量平均分子量:200000)
【0109】
[分散剤2(スルホ基の塩を非含有)]
(ノニオン系界面活性剤)
・ジステアリン酸ポリエチレングリコール
・モノステアリン酸ポリエチレングリコール
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル
・ラウリン酸ジエタノールアミド
(その他の分散剤)
・ポリエチレングリコール
【0110】
(実施例1~19、比較例1~7)
表1に示した種類のウイルス感染阻止剤を用意した。表1に示した種類のアニオン系界面活性剤を分散剤1として用意した。表1に示した種類のノニオン系界面活性剤及びポリエチレングリコールを分散剤2として用意した。
【0111】
ポリプロピレンと、表1に示した種類のウイルス感染阻止剤と、表1に示した種類の分散剤1及び2とを表1に示したマスターバッチの質量比(質量部)で溶融混練して混合し、合成樹脂成形用マスターバッチを作製した。なお、表1の「マスターバッチの質量比」の欄に「ポリプロピレンの質量/ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤1の質量/分散剤2の質量」の表記にて各成分の量を示した。「ウイルス感染阻止剤/分散剤」の欄に、ウイルス感染阻止剤の含有量と分散剤の含有量(分散剤1及び分散剤2の合計の含有量)の質量比(ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤の総質量)を示した。
【0112】
得られた合成樹脂成形用マスターバッチと、別途用意したポリプロピレン(日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックPP BC6C」)とを、ポリプロピレンと、表1に示した種類のウイルス感染阻止剤と、表1に示した分散剤1及び2とが表1に示した樹脂組成物(成形体)の質量比(質量部)となるように、混練装置(東洋精機製作所社製 商品名「ラボプラストミル3S150」)に供給し、ローラーミキサー R60(東洋精機製作所社製)を用いて、表2に示した混練条件にて溶融混練して樹脂組成物を作製した。なお、表1の「樹脂組成物(成形体)の質量比」の欄に「ポリプロピレンの質量/ウイルス感染阻止剤の質量/分散剤1の質量/分散剤2の質量」の表記にて各成分の量を示した。なお、混練条件1~3において、混練温度(℃)、混練時の回転数(rpm)及び混練時間(分)を表2に示した。
【0113】
得られた樹脂組成物をプレス成形して、平均厚みが1mmのシート状のウイルス感染阻止成形体を得た。ウイルス感染阻止成形体において、粒子状のウイルス感染阻止剤がポリプロピレン中に分散状態にて含有されていた。
【0114】
得られたウイルス感染阻止成形体について、X線CTで測定した幅方向の粒子状のウイルス感染阻止剤の体積率の標準偏差σを上述の要領で測定し、その結果を表1の「標準偏差σ」の欄に示した。
【0115】
得られたウイルス感染阻止成形体について、X線CTで測定した粒子状のウイルス感染阻止剤の球相当径を上述の要領で測定し、その結果を表1の「球相当径」の欄に示した。
【0116】
得られたウイルス感染阻止成形体について、下記の要領で抗ウイルス活性値を測定し、その結果を表1に示した。
【0117】
[ウイルス感染阻止効果]
得られたウイルス感染阻止成形体について、インフルエンザウイルス(エンベロープウイルス)を用いて下記の要領で抗ウイルス試験を行った。
【0118】
(抗ウイルス試験)
ウイルス感染阻止成形体について、一辺が5.0cmの平面正方形状を切り出すことによって試験片を作製した。
【0119】
得られた試験片の表面を一辺が10cmの平面正方形状の不織布(日本製紙クレシア社製 商品名「キムワイプ S-200」)で10往復させて拭き取り、試験体とした。
【0120】
得られた試験体について、インフルエンザウイルスの抗ウイルス試験(試験時間:24時間)をISO21702に準拠して行った。反応(試験開始)後10分経過したウイルス懸濁液について、プラック法により試験体のウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。
【0121】
ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク基準体を作製し、このブランク基準体に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。
【0122】
ブランク基準体のウイルス感染価から試験体のウイルス感染価を引くことによって、初期の抗ウイルス活性値を算出した。
【0123】
【0124】