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特開2024-176523木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造
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  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図1
  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図2
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  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図9
  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図10
  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図11
  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図12
  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図13
  • 特開-木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造 図14
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176523
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
E04B1/58 602
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095103
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】麻生 直木
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA14
2E125AA53
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC01
2E125AC15
2E125AE16
2E125AG04
2E125AG08
2E125AG12
2E125AG23
2E125BB12
2E125BB16
2E125BB22
2E125BC09
2E125BD01
2E125BE07
2E125BE08
2E125BF06
2E125CA05
2E125CA14
2E125CA19
(57)【要約】
【課題】 梁部材に支持された木質パネルを用いた壁構造体において、木質パネルに作用する水平せん断力および軸力を梁部材に確実に伝達させる。
【解決手段】 接合部材として、木質パネル2の下面の一部を正面視して矩形をなすように形成された切欠部2cの内側面に面接触する側板22と、側板22に接合された接合用面板25Aとを少なくとも有し、切欠部2c内に収容保持されるパネル側接合金物21Bと、木質パネル2が鉄骨梁3上に起立支持される際に、切欠部2c内に収容されたパネル側接合金物25Aに対応する鉄骨梁3上の位置に固定保持される底板26と、底板26に接合され、接合用面板25Aと面接触可能な接合用面板25Bを有する梁側接合金物21Bとを備える。接合用面板25A,25Bを面接合して、パネル側接合金物21Aと梁側接合金物21Bとを接合させた接合部構造となる。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質パネルの下面の一部を正面視して矩形をなすように形成された切欠部の内側面に面接触する側板と、該側板に接合された第1の接合用面板とを少なくとも有し、前記切欠部内に収容保持されるパネル側接合金物と、
前記木質パネルが梁部材上に起立支持される際に、前記切欠部内に収容された前記パネル側接合金物に対応する前記梁部材上の位置に固定保持される底板と、該底板に接合され、前記第1の接合用面板と面接触可能な第2の接合用面板とを少なくとも有する梁側接合金物とを備え、
前記第1の接合用面板と第2の接合用面板とを面接合して、前記パネル側接合金物と前記梁側接合金物とを接合させることを特徴とする木質パネルの接合部材。
【請求項2】
前記第1の接合用面板と第2の接合用面板とは、ともに接合用貫通孔が形成され、前記接合用貫通孔に挿通された締結部材で接合される請求項1に記載の木質パネルの接合部材。
【請求項3】
前記パネル側接合金物は、前記木質パネルに形成された切欠部の対向する二側面に面接触するように前記側板が設けられた請求項1に記載の木質パネルの接合部材。
【請求項4】
前記梁側接合金物は、前記底板に固定用貫通孔が形成され、前記固定用貫通孔に挿通された締結部材を介して前記梁部材上の所定位置に固定保持される請求項1に記載の木質パネルの接合部材。
【請求項5】
前記梁側接合金物は、前記第2の接合用面板の前記底板が接合された端部と反対の端部に前記木質パネルに形成された前記切欠部に面接触する天板が接合された請求項1に記載の木質パネルの接合部材。
【請求項6】
木質パネルの下面の一部を正面視して矩形をなすように形成された切欠部の内側面に面接触する側板と、該側板に接合された第1の接合用面板とを少なくとも有し、前記切欠部内に収容保持されるパネル側接合金物と、
前記木質パネルが梁部材上に起立支持される際に、前記切欠部内に収容された前記パネル側接合金物に対応する前記梁部材上の位置に固定保持される底板と、該底板に接合され、前記第1の接合用面板と面接触可能な第2の接合用面板とを少なくとも有する梁側接合金物とを備え、
前記パネル側接合金物と前記梁側接合金物とを接合させて前記木質パネルを前記梁部材上に起立支持させ、前記木質パネルに作用する水平せん断力を、前記パネル側接合金物と前記梁側接合金物とを通じて前記梁部材に伝達させて前記木質パネルに作用する水平せん断力に抵抗することを特徴とする木質パネルの接合部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型の木質パネルと梁との接合のために用いられ、接合部において木質パネルに作用するせん断力と軸力とを確実に負担できる木質パネルの接合部部材及び同部材を用いた接合部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した厚みのある大型の木質系板材であるCLT(Cross Laminated Timber)や、単板積層材LVL(Laminated Venner Lumber)などの各種の大型の積層板材(以後、総称して木質パネルと記す。)を壁部材として用いた中層、高層建築物の建設が行われている。
【0003】
従来、これらの木質パネルと梁部材との接合部では、地震力等による作用曲げモーメントに対しては、木質パネルと梁とをつなぐ鋼棒の引張抵抗と木質パネルの圧縮抵抗で、作用せん断力に対しては、別途設置する鋼板とドリフトピンにより抵抗させる構造が多く採用されている。
【0004】
また、鉄骨造の架構内に木質パネルが設置された鉄骨造建物架構の設計の容易化を図るために、木質パネルがわずかに上方向にスライドできるように、長孔(ルーズ孔)を用いて鋼板を木質パネルに上下移動可能に保持させるようにした提案もされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-50783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された鉄骨造建物架構では、木質パネル20(本段落では特許文献1における符号を付す。)の上面中央部に取り付けられたせん断受け金物30と、下面の両側端に取り付けられた固定治具60に支持された接合金具50の点支持された構造からなるため、木質パネル20の面としての保有性能を十分発揮できる構造とは言えない。
【0007】
また、上述したせん断抵抗パネルとしての鋼板をドリフトピンで木質パネル内に固定する接合構造では、木質パネルに鋼板を固定するために、多数本のドリフトピンを施工しなければならず、挿入する貫通する取付孔に高い施工精度も求められ、施工効率が悪い。さらに、木質パネルの上下方向の変形に対して長孔を設けない場合、ドリフトピンで木質パネルに生じる軸力を負担する必要があり、ドリフトピンをサイズアップさせて対応しなければならない。
【0008】
一方、出願人は図13に示したような接合部材110(詳細構成については後述する。)を用いた木質パネルの接合部構造100を提案している(特願2022-200604)。図14は、この接合部材110を用いた木質パネルの接合部構造100における水平せん断力Q0とせん断抵抗要素として機能させる際の接合金物110との力学的関係を示している。同図に示したように、木質パネル120を梁130上に固定した接合部構造100が抵抗する。すなわち、同図で拡大して示したように、木質パネル120の下端隅角部の切欠部121の鉛直側面に密着して取り付けられた接合部材110では、木質パネル120と接合部材110との接触面積A(接触面の高さh×木質パネル120の板厚)と木質パネル120の支圧強度σとの積(A×σ)で水平せん断力Q0に抵抗する。よって、接合部構造100としての接合部材110の設計は、Q0<A×σとなるように行う。この場合、施工性の観点から接合部材110の寸法が制限されることも多く、梁130のフランジ面に木質パネル120と一体化させた、水平せん断抵抗力Qeを確保可能な付加せん断抵抗要素(接合金物20)を設置することが好ましいことを把握している。
【0009】
以上の状況を鑑みて本発明は、上述した従来の技術が有する問題点を解消し、木質パネルを高い施工精度で接合、設置でき、完成した接合部構造において、水平せん断力、軸力に確実に抵抗できるようにした抵抗要素としての木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の木質パネルの接合部材は、木質パネルの下面の一部を正面視して矩形をなすように形成された切欠部の内側面に面接触する側板と、該側板に接合された第1の接合用面板とを少なくとも有し、前記切欠部内に収容保持されるパネル側接合金物と、前記木質パネルが梁部材上に起立支持される際に、前記切欠部内に収容された前記パネル側接合金物に対応する前記梁部材上の位置に固定保持される底板と、該底板に接合され、前記第1の接合用面板と面接触可能な第2の接合用面板とを少なくとも有する梁側接合金物とを備え、前記第1の接合用面板と第2の接合用面板とを面接合して、前記パネル側接合金物と前記梁側接合金物とを接合させることを特徴とする。
【0011】
前記第1の接合用面板と第2の接合用面板とは、ともに接合用貫通孔が形成され、前記接合用貫通孔に挿通された締結部材で接合されることが好ましい。
【0012】
前記パネル側接合金物は、前記木質パネルに形成された切欠部の対向する二側面に面接触するように前記側板が設けられることが好ましい。
【0013】
前記梁側接合金物は、前記底板に固定用貫通孔が形成され、前記固定用貫通孔に挿通された締結部材を介して前記梁部材上の所定位置に固定保持されることが好ましい。
【0014】
前記梁側接合金物は、前記第2の接合用面板の前記底板が接合された端部と反対の端部に前記木質パネルに形成された前記切欠部に面接触する天板が接合されることが好ましい。
【0015】
本発明の木質パネルの接合部構造は、木質パネルの下面の一部を正面視して矩形をなすように形成された切欠部の内側面に面接触する側板と、該側板に接合された第1の接合用面板とを少なくとも有し、前記切欠部内に収容保持されるパネル側接合金物と、前記木質パネルが梁部材上に起立支持される際に、前記切欠部内に収容された前記パネル側接合金物に対応する前記梁部材上の位置に固定保持される底板と、該底板に接合され、前記第1の接合用面板と面接触可能な第2の接合用面板とを少なくとも有する梁側接合金物とを備え、前記パネル側接合金物と前記梁側接合金物とを接合させて前記木質パネルを前記梁部材上に起立支持させ、前記木質パネルに作用する水平せん断力を、前記パネル側接合金物と前記梁側接合金物とを通じて前記梁部材に伝達させて前記木質パネルに作用する水平せん断力に抵抗することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、木質パネルを用いた壁構造体において、木質パネルを鉄骨梁等に接合して壁構造体を構築する際に、高い施工精度で木質パネルを含む壁構造体を構築でき、完成した壁構造体において、木質パネルに作用する水平せん断力および軸力を梁部材に確実に伝達させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】木質パネルの接合部材(第1接合部材及び第2接合部材)を用いて木質パネルと梁とを接合して構築された壁構造体の一部を示した正面図、側断面図。
図2図1に示した木質パネルの接合部材の第1接合部材及び第2接合部材について一部を断面で示した部分拡大正面図、側断面図。
図3】第2接合部材の一実施形態を示した正面図、側断面図。
図4】第2接合部材を構成するパネル側接合金物と、梁側接合金物の形状例を示した説明図。
図5図3に示した第2接合部材の第1変形例を示した正面図、側断面図。
図6図3に示した第2接合部材の第2変形例を示した正面図、側断面図。
図7図3に示した第2接合部材の第3変形例を示した正面図、側断面図。
図8図3に示した第2接合部材の第4変形例を示した正面図、側断面図。
図9図3に示した第2接合部材の第5変形例を示した正面図、側断面図。
図10】第2接合部材に作用する水平せん断力の増加に伴う接合金物間の固定度の変化を示した説明図。
図11】第2接合部材において、軸力を負担する場合の壁構造体の一構成例を示した正面図。
図12】鉄筋コンクリート梁に対して木質パネルを接合させた壁構造体の一構成例を示した正面図。
図13】出願人がすでに提案した木質パネルの接合部構造の構成例を示した正面図。
図14図13に示した構成例における水平せん断力と抵抗要素との力学的関係を示したモデル図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の木質パネルの接合部材及び同部材を用いた接合部構造の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の木質パネルの接合部材を用いて木質パネル2を鉄骨梁3に支持させるように接合して構築された建築物の壁構造体1の一部を示している。同図に示したように、各木質パネル2の上下端2a、2bは、鉄骨梁3のフランジ面に固定支持され、複数枚の木質パネル2を縦横に接合することにより、上下階の鉄骨梁3U、3Lの間を塞ぐような高さの壁構造体1が構築されている。本実施形態における木質パネル2としては、高さ約2,100mm、幅1,200mm、厚さ210mmの一般的な仕様寸法のCLTパネルが使用されている。他の木質パネルとしては、規格が適合するLVLパネル等の面材も採用することができる。
【0020】
図1の中央に描かれた木質パネル2は、上下端2a、2bが上下位置に架設された鉄骨梁3U、3L間に挟まれ、下端2bが下側の鉄骨梁3L上に起立して支持されている。木質パネル2の上下端2a、2bを、上下位置の鉄骨梁3U、3Lに固定保持するために、木質パネル2の隅角部の4箇所に第1接合部材としての接合金物10と、木質パネル2の上下面の幅方向の中央位置に第2接合部材としての接合金物20とが使用されている。接合金物10の構成は、上述した特願2022-200604において詳述されている。接合金物20の構成は後述する。
【0021】
このように、1枚の木質パネル2は、パネルの上下位置に架設された鉄骨梁3U、3Lのフランジ面に対してそれぞれ3箇所の接合金物10,20で構成された接合部構造によって力学的な安定が確保されて固定されている。また、壁構造体1を構成するために、パネル全体が描かれた中央位置の木質パネル2の両側には、同形の木質パネル2が側面を密接させて同様の固定形式によって鉄骨梁3と木質パネル2とに接合されている(図1)。
【0022】
以下、接合金物10,20の構成について、図2(a)~(d)を参照して説明する。
[接合金物10の構成]
図2(a),(b)は、図1に示した木質パネル2の上下端2a、2bの四隅に設けられた接合金物10の1箇所(一点鎖線で示した範囲)を拡大して示している。この接合金物10において、木質パネル2は、下端の隅角部を鉛直側面と水平面の二面を切り取るように形成された切欠部2c内に、鉄骨梁3のフランジの所定位置に固定された接合金物10が納まるように、H形鋼からなる鉄骨梁3(図2(b))のフランジ面上に載置保持されている。接合金物10は、木質パネル2の板厚(210mm)によりわずかに短い長さ(200mm)で切断加工し一辺200mmの等辺の熱間成形継目無角形鋼管(規格品)からなる。接合金物10の木質パネル2への取り付け手段として、羽子板状の固定ボルト15が用いられている。固定ボルト15は、ボルト軸16とボルト軸16の他端に取り付けれた定着部としてのガセット板17とを一体化させた固定部材で、ガセット板17は、厚さ方向を貫通する複数本のドリフトピン18によって木質パネル2に設けられたスリット内に固定保持される。接合金物10は所定サイズの鋼板をロ字形に組み立てて溶接した加工部材でもよい。
【0023】
接合金物10は、図1図2各図に示したように、木質パネル2の隅角部に形成された切欠部2cと相対する鉄骨梁3(3U、3L)のフランジ面に、1個あたり4本のボルト12で固定される。このとき固定ボルト15のボルト軸16の先端を接合金物10の上面にナット締めすることで、接合金物10を介して木質パネル2を堅固に鉄骨梁3に固定保持させることができる。木質パネル2の切欠部2cは、接合金物10の外形に沿って高精度に形成されているが、接合金物10との間に隙間が生じた場合には、隙間に充填固化材19を充填することが好ましい。これにより、接合金物10と木質パネル2との密着性を高め、接合金物10と木質パネル2との間の軸力、せん断力の伝達を確実にする。充填固化材19としては、たとえば無収縮モルタル、エポキシ樹脂等が好適である。
【0024】
[接合金物20の構成]
図2(c)、(d)は、図1に示した木質パネル2の上下面2a、2bの幅方向のほぼ中央位置に設けられた接合金物20(一点鎖線で示した範囲)を拡大して示している。この接合金物20は、木質パネル2の四隅に設けられた接合金物10とともに、木質パネル2と鉄骨梁3との堅固な接合を実現するための接合部材であるが、特に地震時に木質パネル2に作用する水平せん断力(白抜き矢印S)に抵抗するせん断抵抗要素として機能する。
【0025】
接合金物20は、パネル側接合金物21Aと梁側接合金物21Bの2種類の部材から構成されている。下面が開放した枠体形状のパネル側接合金物21Aは、木質パネル2の上下面の幅方向の中央位置に、接合金物20の外形寸法にほぼ等しい寸法で三面が正面視して矩形状に切欠かれた切欠部2cに嵌め込まれ、図示しないビスで切欠部2cの内面に密着するように固定保持されている。一方、梁側接合金物21Bは、図2(c)に示したように、鉄骨梁3(3L)のフランジ上面に締結部材としての高力ボルト31で固定されている。木質パネル2側に取り付けれたパネル側接合金物21Aと、鉄骨梁3(3L)のフランジ上面に取り付けられた梁側接合金物21Bとが4本の高力ボルト32でボルト接合され、木質パネル2の上下面は、その上下に位置する鉄骨梁3U、3L(図1)に固定されている。
【0026】
以下、接合金物20の全体構成と、接合前のパネル側接合金物21Aと梁側接合金物21Bの個々の構成について、図3各図、図4各図を参照して説明する。図4各図に示されたパネル側接合金物21Aと梁側接合金物21Bとは、図3(a),(b)に示したように、面接触した接合用面板25A,25Bが4本の高力ボルト32でボルト接合されている。
【0027】
パネル側接合金物21Aは、下面が開放した枠体形状からなり、その外面が木質パネル2の下面に形成された切欠部2cの三方の内面全体に密着可能な鋼板組立部材である。本実施形態のパネル側接合金物21Aは、図4(a-1)、(a-2)に示したように、2枚の側板22(高さ225mm、幅200mm、板厚25mm)と天板23(縦175mm、横(幅)200mm、板厚16mm)とを下面が開放した逆U字形の枠体形状とし、内部の幅方向のほぼ中央(図4(a-3))に接合用面板25A(高さ160mm、幅175mm、板厚16mm)を位置させて各接合部が溶接され、組み立てられた鋼板組立部材である。接合用面板25Aには4個の接合用ボルト孔27が形成されている(図4(a-1)、(a-3))。本実施形態で使用された鋼材種類は建築構造用圧延鋼材(SN490B)であるが、作用水平せん断力に対するせん断抵抗要素として機能するのに十分な鋼材強度、鋼材種類を選定することが好ましい。
【0028】
梁側接合金物21Bは、図4(b-1)~(b-3)に示したように、底板26(縦171mm、横(幅)200mm、板厚22mm)の幅方向のほぼ中央位置に接合用面板25B(高さ165mm、幅130mm、板厚16mm)が側面視して逆T字形状をなすように各接合部が溶接され、組み立てられた鋼板組立部材である。底板26には梁側接合金物21Bを、鉄骨梁3のフランジ面に固定する4個のボルト孔28が形成されている(図4(b-3))。また接合用面板25Bにはパネル側接合金物21Aの接合用面板25Aの接合用ボルト孔27と対応する4個の接合用ボルト孔29が形成されている(図4(b-1)。木質パネル2に配設されたパネル側接合金物21Aの接合用ボルト孔27と梁側接合金物21Bの接合用ボルト孔29との位置合わせ調整を行うことで、木質パネル2の鉄骨梁3に対する設置位置を微調整することができる。なお、上述したパネル側接合金物21A、梁側接合金物21Bの各部の寸法は一例であり、木質パネルの寸法や作用する水平せん断力に応じて求められるせん断抵抗要素として十分な寸法に適宜設定されることはいうまでもない。
【0029】
[第2接合部材の変形例の構成]
図5(a),(b)~図9(a),(b)に示した各接合金物210~250は、第2接合部材としての接合金物20の変形例を示している。各接合金物210~250は、それぞれパネル側接合金物210A~250Aと梁側接合金物210B~250Bとから構成され、各部材の一部である接合用面板215A~255A,215B~255B同士をボルト接合により面接合させる点では共通しており、接合金物の加工性、木質パネル、梁フランジへの組み付け性についての改良、工夫がなされている。以下、接合金物210~250の各構成、特徴について簡単に説明する。
【0030】
図5(a),(b)は、発生水平せん断力が比較的小さい壁構造体を想定し、図3(a),(b)に示した基本形状としての接合金物20の形状に対して、パネル側接合金物210Aの天板213の平面寸法及び梁側接合金物21Bの底板216の平面寸法を小さくして、部材剛性を比較的抑えた形状からなる接合金物210を示している。接合用面板215A,215Bの接合形式は基本形状の接合金物20(図3(a))の場合と同等である。
【0031】
図6(a),(b)に示した接合金物220では、梁側接合金物220BとしてH形断面の鋼板組立部材が使用されている。梁側接合金物220Bの下側フランジが底板226として鉄骨梁3のフランジ面にボルト接合されるとともに、梁側接合金物220Bの上側フランジが天板223として木質パネル2の切欠部2cの上面に密着固定されている。梁側接合金物220Bとしては既製品のH形鋼を用いることもできる。その場合、H形鋼のウエブが接合用面板225Bとして機能し、接合用面板225Bの厚さ方向の中心線と木質パネル2の厚さ方向の中心線とを一致させることができる。パネル側接合金物220Aとして、平面視して接合用面板225Aと側板222とがT字形をなす2個で一対の鋼板組立部材が使用されている。各パネル側接合金物220Aの側板222をそれぞれ木質パネル2の切欠部2cの内側面に密着させた状態で、図6(b)に示したように、梁側接合金物220Bの接合用面板225B(ウエブ)をパネル側接合金物220Aの接合用面板225Aで両側から挟むように宛がい、高力ボルト32で3枚の接合用面板225A,225B,225A(図6(b))を面接合して一体化させている。
【0032】
図7(a),(b)に示した接合金物230では、梁側接合金物230Bとして、側面視して逆T字形をなす底板236と接合用面板235Bからなる鋼板組立部材が使用されている。パネル側接合金物230Aとして、フランジが木質パネル2の切欠部2cの両側面に密着するように横使いしたH形断面をなす鋼板組立部材と、梁側接合金物220Bと同形で、天板233と接合用面板235Bとを接合してT字形状をなす鋼板組立部材の2部材が用いられている。梁側接合金物230Bの底板236が鉄骨梁3のフランジにボルト接合されるとともに、H形断面をなす鋼板組立部材の接合用面板235C(ウエブ)をパネル側接合金物230Aの接合用面板235Aと梁側接合金物230Bの接合用面板235Bとで両側から挟むように宛がい、高力ボルトで3枚の接合用面板235A,235C,235Bを面接合して一体化させている。
【0033】
図8(a),(b)に示した接合金物240では、梁側接合金物240Bとして、接合金物220Bと同形のH形断面の鋼板組立部材が使用され、同様の固定形式で鉄骨梁3のフランジ面と木質パネル2の切欠部2cの上面に密着固定されている。パネル側接合金物240Aとしても、接合金物220Aと同様に、平面視して接合用面板245Aと側板242とがT字形をなす2個で一対の鋼板組立部材が使用されているが、この接合用面板245Aの幅が、図8(a)に示したように、切欠部の幅の約1/2で、2個のパネル側接合金物240Aのそれぞれの側板242を木質パネル2の切欠部2cの内側面に密着させた状態で、図8(b)に示したように、梁側接合金物240Bの接合用面板245B(ウエブ)をパネル側接合金物240Aの接合用面板245Aで片側から宛がい、高力ボルトで2枚の接合用面板245A,245Bを面接合して一体化させている。
【0034】
図9(a),(b)に示した接合金物250でも、梁側接合金物250Bとして、接合金物220B,240Bと同様の鋼板組立部材が使用され、同様の固定形式で鉄骨梁3のフランジ面と木質パネル2の切欠部2cの上面とに密着固定されている。上述の各接合金物210~240と大きく異なるのは、接合用面板としてH字形状の鋼材255B(ウエブ)を使用するのではなく、ウエブにさらに接合用の水平ガセット板255Cが取り付けられている点である。一方、パネル側接合金物250Aとして、正面視して水平をなす接合用面板255Aと切欠部2cの内側面に密着可能な側板252とがT字形状をなす2個で一対の鋼板組立部材が使用されている。この接合用面板255Aには梁側接合金物250Bのウエブ全幅を挟み込み可能なスリット255sが形成されている。また、パネル側接合金物250Aの接合用面板255Aと、梁側接合金物250Bの水平ガセット板255Cには、図9各図に示した高力ボルト32を貫通可能なボルト孔(図示せず)が形成されている。したがって、梁側接合金物250Bとパネル側接合金物250Aとは、梁側接合金物250Bの水平ガセット板255Cと、パネル側接合金物250Aの2枚の接合用面板255Aとが3枚重ねられ、高力ボルト32で3枚が面接合して一体化させている。
【0035】
図10各図は、地震時に本発明の第2接合部材としての接合金物20(図3(a))に水平せん断力Sが作用した時の水平せん断力Sの増加に伴う接合金物20を構成する部材間の固定度の変化を示した説明図である。地震時にほぼ等分布をなす水平せん断力Sが、図10(a)に示したように、木質パネル2から接合金物20の側板22の全面に作用する。このとき側板22は、図10(b-1)に着色して示したように、側板22と溶接されているT字形状をなす天板23と接合用面板25Aの2辺で固定され、作用する水平せん断力Sを負担している。荷重作用が進行すると、片持ち状態の側板22の下端22a(図10(a))がわずかに梁側接合金物21Bの底板26に向けて弾性変形し、側板22の下端22aが底板26の端面26cに接する。以後図10(b-2)に着色して示したように、側板22は天板23,接合用面板25A,底板26の3辺で支持されるようになる。このため、接合金物20を構成する各鋼材の終局時における剛性、耐力が向上するという効果が得られる。
【0036】
[接合金物20の支持形態の変形例]
図11は、せん断抵抗要素としての接合金物20に、さらに引張抵抗要素としての機能を付加して取り付けられた壁構造体1を示した正面図である。木質パネル2を鉄骨梁3で支持させるための接合部構造において、本発明の接合金物20は、木質パネル2に形成された切欠部の内周面に面接触(面タッチ)させるようにして取り付けられている。そのため、この接合部構造に生じる引張力を負担させるようになっていない。そこで、引張力を負担できるようにするために、図11に示したように、接合金物20に引張抵抗要素として、木質パネル2の四隅に位置する接合金物10の木質パネル2への取り付け手段として用いられている羽子板状の固定ボルト15を付加することが好ましい。そのために、接合金物20を設置する位置に固定ボルト15のボルト軸16先端が位置するように、羽子板状の固定ボルト15の羽子板部分をドリフトピン接合し、埋設する。そして接合金物20を固定後、接合金物20の上面から突出している固定ボルト15のボルト軸16先端をナット固定することで、接合金物20に引張抵抗要素を付加することができる。
【0037】
(木質パネルの縦横比と抵抗要素の設定について)
本発明の第2接合部材によれば、外形が矩形形状をなす接合金物20が木質パネルに設けられた同形の矩形形状をなす切欠部内に面接触して収容、固定されるため、せん断力抵抗要素として高い効果が得られ、また同時に作用する上下方向に対する軸力(引張力)は負担しないという特徴を有する。これに対して、木質パネルが縦長な場合には、接合金物20の取付位置(パネル幅に対する隅角部との距離の比で表すことができる。)と木質パネルの縦横比とを考慮して、第2接合部材としての接合金物20に、作用力に対してどのような抵抗機能を持たせるかを判定し、接合金物20の設計を行うことが好ましい。
【0038】
すなわち、木質パネルが幅に対して高さが大きい縦長の場合に、木質パネルの幅方向の中央付近にせん断抵抗要素(シアキー)が設けられていると、木質パネルの上端の水平変位が小さい段階から木質パネルが回転変位し、木質パネルの下面が持ち上がるように鉄骨梁から分離する現象が生じる。これを防止するために、木質パネル内に固定ボルト(引張鋼材)のような引張抵抗要素を設け、この引張抵抗要素とシアキーとを接合させることが好ましい。これにより木質パネルの持ち上がり現象を防止することができる。このように、本発明の第2接合部材は、設計により次の3種類の抵抗要素として機能させることができる。
(1)せん断抵抗要素(木質パネル側面の2面との間)
(2)せん断+圧縮抵抗要素(木質パネル側面の2面、上面との間)
(3)せん断+圧縮・引張抵抗要素(木質パネル側面の2面、上面との間、引張鋼材)
なお、木質パネルの幅が高さより大きい壁形状の場合には、木質パネルの上下面に対して幅方向に沿って複数個の接合金物20を配設することが好ましい。
【0039】
図12は、鉄筋コンクリート造建物において、鉄筋コンクリート梁6上のコンクリートスラブ7上に木質パネル2を設置するようにした壁構造体1における接合部構造の構成を示している。一例としてコンクリートスラブ厚tは、t=200mmに設定されている。接合金物10は、同図に示したように、コンクリートスラブ7と鉄筋コンクリート梁6とを貫通させた貫通ボルト8Aとコンクリート内に定着部を有するアンカーボルト8Bとを利用してスラブ面7a上と梁下位置6aに固定保持されている。接合金物20は、それぞれスラブ面7a上、梁下位置6aにおいて、それぞれの設置表面から施工された後施工アンカーボルト9によって所定位置に固定保持され、木質パネル2は接合金物10,20によりコンクリートスラブ面7aと鉄筋コンクリート梁6の梁下位置6aとの間を塞ぐように設置される。なお、接合金物10,20の設置箇所と木質パネル2との間に生じた隙間には充填固化材(図示せず)を充填することが好ましい。これにより接合金物10,20としての剛性、耐力を高めることができる。本発明では鉄筋コンクリート梁6と接合金物10,20との間に隙間を生じさせない施工が行われるが、隙間が生じた場合には隙間相当の厚さのフィラープレート(図示せず)を用いて隙間を塞ぐことが好ましい。充填固化材としては、モルタルやエポキシ樹脂等を用いることができる。また隙間の閉塞作業は、鉄筋コンクリート梁だけでなく鉄骨梁との間においても同様に考慮することが好ましい。
【0040】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1 壁構造体
2(2a,2b) 木質パネル(上面、下面)
2c 切欠部
3(3U,3L) 鉄骨梁(上側梁、下側梁)
6 鉄筋コンクリート梁
7 コンクリートスラブ
10,20,210~250 接合金物
21A,210A~250A パネル側接合金物
21B,210B~250B 梁側接合金物
25A,25B 接合用面板
215A~255A,215B~225B 接合用面板
235C,255C 接合用面板
31,32 高力ボルト
図1
図2
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