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特開2024-176525口腔機能改善用スポンジ、口腔機能改善具及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176525
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】口腔機能改善用スポンジ、口腔機能改善具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/02 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
A61H1/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095108
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】523211589
【氏名又は名称】有限会社フラット
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 厚司
(72)【発明者】
【氏名】中村 和丸
(72)【発明者】
【氏名】横井 真二
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA07
4C046AA45
4C046AA47
4C046BB13
4C046DD28
4C046DD31
(57)【要約】
【課題】口腔内で使用するのに十分な機械的強度を有し、口腔内の清掃や保湿、マッサージ効果に優れるとともに、摂食時の咀嚼、嚥下等の口腔機能の回復、改善に適した口腔機能改善用こんにゃくスポンジ、口腔機能改善具及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の口腔機能改善用こんにゃくスポンジ1は、こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材とする加圧成型品からなる。こんにゃくスポンジ1は、表面の最大気泡径が1mm以下であることが好ましい。口腔機能改善具1は、こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材とする加圧成型品からなるスポンジ状物質に含水率90~95%の溶液を湿潤させた。溶液は、洗口液、口腔保湿剤、経口補水液のうち少なくとも1種を含む。200N以上の圧壊破断強度を有し、50N以上の引張破断強度を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材とする加圧成型品からなる口腔機能改善用スポンジ。
【請求項2】
こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材とする加圧成型品からなるスポンジ状物質に含水率90~95%の溶液を湿潤させてなる口腔機能改善具。
【請求項3】
前記溶液は、洗口液、口腔保湿剤、経口補水液のうち少なくとも1種を含む請求項2に記載の口腔機構改善具。
【請求項4】
前記溶液は、キシリトール溶液又は洗口剤成溶液を含む請求項2に記載の口腔機構改善具。
【請求項5】
幅20mm、奥行き20mm、高さ5mmの直方体形状の前記スポンジ状物質からなる保水性試験片を用いて、乾燥状態の前記保水性試験片の重量をW、含水飽和状態の前記保水性試験片の重量をW、含水飽和状態の前記保水性試験片に26.3gの重りを加重したときの漏水量をWとしたとき、(W-W―W)/(W-W)×100で表される加重保水率が99%以上である請求項2に記載の口腔機能改善具。
【請求項6】
直径20mmの球形の前記スポンジ状物質からなる弾性試験片を用いて、含水飽和状態の前記弾性試験片を300mmの高さから自由落下させたときの跳ね返り高さHが80mm以上である請求項2に記載の口腔機能改善具。
【請求項7】
直径20mmの球形の前記スポンジ状物質からなる強度試験片を含水飽和状態で圧縮破壊させたとき、200N以上の圧壊破断強度を有する請求項2に記載の口腔機能改善具。
【請求項8】
直径20mmの球形の前記スポンジ状物質からなる強度試験片を含水飽和状態で引張破断させたとき、50N以上の引張破断強度を有する請求項2に記載の口腔機能改善具。
【請求項9】
幅20mm、奥行き10mm、高さ10mmの直方体形状の前記スポンジ状物質からなる表面破壊試験片に径1.5mmのロッドを押し付けて表面破壊させたとき、20cN以上の表面破壊強度を有する請求項2に記載の口腔機能改善具。
【請求項10】
幅20mm、奥行き10mm、高さ10mmの直方体形状の前記スポンジ状物質からなる摩擦破壊試験片に耐水ペーパーで摩擦破壊させたとき、#60でも破壊しない摩擦破壊強度を有する請求項2に記載の口腔機能改善具。
【請求項11】
こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材としてスポンジ状物質を得る工程と、
前記スポンジ状物質に含水率90~95%の溶液を湿潤させる工程と、
を備える口腔機能改善具の製造方法。
【請求項12】
前記スポンジ状物質を得る工程は、
前記基材を水に溶解して溶液とする工程と、
前記溶液を凝固剤により凝固させる工程と、
前記凝固物を所定形状の金型中で加圧する工程と、
前記加圧した凝固物を熱水中で加熱してゲル化する工程と、
前記ゲル化した凝固物を凍結した後、解凍して脱水する工程と、
を備える請求項11に記載の口腔機能改善具の製造方法。
【請求項13】
前記凝固物を金型中で加圧する工程は、前記凝固物を200~300Nの圧力を均一に負荷することを特徴とする請求項12に記載の口腔機能改善具の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内の清掃や保湿、マッサージ効果に優れるとともに、摂食時の咀嚼、嚥下等の口腔機能の回復、改善に適した口腔機能改善用スポンジ、口腔機能改善具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジ状物質は口腔内の清掃や歯茎のマッサージ効果があることが知られている。例えば、特許文献1,2,3,4,5,6には、口腔用清掃材としてスポンジ状物質を用いたものが記載され、特許文献7には、歯茎用マッサージ材としてスポンジ状物質を用いたものが記載されている。しかし、これらのスポンジ状物質は、口腔清掃力や口腔粘膜への当たりの優しさが不十分であり、未だ使用者の要望に応える性能までに至っていないのが現状である。
【0003】
また、特許文献8には、スポンジの主基材としてこんにゃく精粉及び/又はグルコマンナンを用いたスポンジ状口腔用清掃材が記載されているが、口腔内で使用するのに十分な機械的強度を有していない。特許文献9には、スポンジ材を非水溶性又は難水溶性高分子コーティング剤で被覆した口腔用清掃材が記載され、この口腔用清掃材は機械的強度が高いとされているが、非水溶性又は難水溶性高分子コーティング剤のような化学物質を含むため、このような器具を口腔内で使用することへの心理的不安は払拭できない。
【0004】
一方、高齢者の舌圧の低下が摂食時の咀嚼、嚥下、会話等の口腔機能の衰え(オーラルフレイル)に大きく影響を与えることが指摘されている。また、口腔機能が低下することで、唾液分泌が減少し、口腔内乾燥症を発症することが多くみられ、乾燥に伴う口腔衛生状態の悪化も全身フレイルの要因として上げられる。フレイルは、早期に気付き、対策を行えば元の健常な状態に戻る段階であるため、口腔機能の改善は健康寿命の延伸に大きく寄与すると考えられる。
【0005】
口腔内が乾燥する原因は、加齢や服薬などによる唾液の減少である。乾燥は、粘膜がひび割れたり、う蝕・歯周病が進行したりするほか、口臭がきつくなる、食べる・話すといった口腔機能の低下など、多くの悪影響をもたらす。
ジェルタイプの口腔保湿剤は数多く販売されており、利点として塗布したい場所に留まる適度な粘度があることがあげられるが、時間経過とともに塗布したジェルが乾くと劣化し汚れの原因になる。
一方、洗口液に代表される液体タイプの保湿剤は即効性があり、流動性も高いため、口腔内に満遍なくいきわたせることができ、残留することもないことから、汚れのリスクは低いが、その流動性が故、効果の持続性が低く、また使用者はうがいが出来る者に限定される。
【0006】
近年、舌圧の向上を目的とした様々な舌運動訓練法が提唱されている。しかし、このような訓練は高齢者の任意の舌運動に委ねられるため、舌への負荷のかかり方で効果に差異が生じる。
【0007】
特許文献10には、グルコマンナンまたはグルコマンナンに栄養物質を添加したものをアルカリ性物質で処理し、これに調味料を加えた後乾燥することにより得られた咀嚼機能強化用の口中で弾力性を有する健康食品が提案されている。しかし、これは、栄養物質や調味料を有する食品であり、食されている間の咀嚼初期だけその弾力性が生かされるが、咀嚼後期になると弾力性がなくなるため、咀嚼機能が強化されるとは言えない。
【0008】
特許文献11には、唾液分泌促進剤、唾液緩衝能向上剤を含む歯科用訓練用ガムが記載されている。これは、口腔挿入前はチューインガムの板状、タブレット状、球状等の形状を有するが、咀嚼運動時には形状が変化して初期形状への再現性がないため、舌運動への効果は期待できなないし、食物由来ではないので、誤飲に対するリスクが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53-120956号公報
【特許文献2】特開昭56-13908号公報
【特許文献3】特開昭61-44807号公報
【特許文献4】特表平6-500933号公報
【特許文献5】特開平5-56115号公報
【特許文献6】実用新案登録第3040591号明細書
【特許文献7】特開昭54-2850号公報
【特許文献8】特開2001-54527号公報
【特許文献9】特開2001-78916号公報
【特許文献10】特許第2538263号明細書
【特許文献11】特開2002-220332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記従来の問題点に鑑みてなされたもので、舌運動訓練を効果的にするために補助器具を用いることに着目し、化学物質を添加することなく、口腔内で使用するのに十分な機械的強度を有し、口腔内の清掃や保湿、マッサージ効果に優れるとともに、摂食時の咀嚼、嚥下等の口腔機能の回復、改善に適した口腔機能改善用スポンジ、口腔機能改善具及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
(1)口腔機能改善用スポンジは、こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材とする加圧成型品からなる。口腔機能改善用スポンジは、表面の最大気泡径が1mm以下であることが好ましい。
(2)口腔機能改善具は、こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材とする加圧成型品からなるスポンジ状物質に含水率90~95%の溶液を湿潤させてなるものである。
(3)前記手段2の口腔機能改善具において、前記溶液は、洗口液、口腔保湿剤、経口補水液のうち少なくとも1種を含む。
(4)前記手段2又は3の口腔機能改善具において、前記溶液は、キシリトール溶液又は洗口剤成溶液を含む。
(5)前記手段2から4のいずれかの口腔機能改善具は、幅20mm、奥行き20mm、高さ5mmの直方体形状の前記スポンジ状物質からなる保水性試験片を用いて、乾燥状態の前記保水性試験片の重量をW、含水飽和状態の前記保水性試験片の重量をW、含水飽和状態の前記保水性試験片に26.3gの重りを加重したときの漏水量をWとしたとき、(W-W―W)/(W-W)×100で表される加重保水率が99%以上であることが好ましい。
(6)前記手段2から5のいずれかの口腔機能改善具は、直径20mmの球形の前記スポンジ状物質からなる弾性試験片を用いて、含水飽和状態の前記弾性試験片を300mmの高さから自由落下させたときの跳ね返り高さHが80mm以上であることが好ましい。
(7)前記手段2~6のいずれかの口腔機能改善具は、直径20mmの球形の前記スポンジ状物質からなる強度試験片を含水飽和状態で圧縮破壊させたとき、200N以上の圧壊破断強度を有する。
(8)前記手段2~7のいずれかの口腔機能改善具は、直径20mmの球形の前記スポンジ状物質からなる強度試験片を含水飽和状態で引張破断させたとき、50N以上の引張破断強度を有する。
(9)前記手段2~8のいずれかの口腔機能改善具は、幅20mm、奥行き10mm、高さ10mmの直方体形状の前記スポンジ状物質からなる表面破壊試験片に径1.5mmのロッドを押し付けて表面破壊させたとき、20cN以上の表面破壊強度を有する。
(10)前記手段2~9のいずれかの口腔機能改善具は、幅20mm、奥行き10mm、高さ10mmの直方体形状の前記スポンジ状物質からなる摩擦破壊試験片に耐水ペーパーで摩擦破壊させたとき、#60でも破壊しない摩擦破壊強度を有する。
(11)口腔機能改善具の製造方法は、こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材としてスポンジ状物質を得る工程と、
前記スポンジ状物質に含水率90~95%の溶液を湿潤させる工程と、
を備える。
(12)前記手段11の前記スポンジ状物質を得る工程は、
前記基材を水に溶解して溶液とする工程と、
前記溶液を凝固剤により凝固させる工程と、
前記凝固物を所定形状の金型中で加圧する工程と、
前記加圧した凝固物を熱水中で加熱してゲル化する工程と、
前記ゲル化した凝固物を凍結した後、解凍して脱水する工程と、
を備える。
(13)前記手段12の前記凝固物を金型中で加圧する工程は、前記凝固物を200~300Nの圧力を均一に負荷する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、化学物質を添加することなく、口腔内で使用するのに十分な機械的強度を有し、口腔内の清掃や保湿、マッサージ効果に優れるとともに、摂食時の咀嚼、嚥下等の口腔機能を回復し、改善することができるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る口腔機能改善用こんにゃくボールの概略図。
図2図1のこんにゃくボールを加圧成型する状況を示す断面図。
図3】本発明の実施形態に係る加圧成型こんにゃくスポンジ(a)と、加圧成型しない以外は同様に製造した無圧成型こんにゃくスポンジ(b)と、食用こんにゃくスポンジ(c)と、洗顔用の市販こんにゃくスポンジ(c)の各試験片の表面の拡大写真。
図4図1のこんにゃくボールを口腔内に挿入した状態を示す斜視図。
図5図1のこんにゃくボールを口腔内で咀嚼する状態を示す断面図。
図6】本発明の実施形態に係る加圧成型こんにゃくスポンジ(a)と、加圧成型しない以外は同様に製造した無圧成型こんにゃくスポンジ(b)と、食用こんにゃくスポンジ(c)と、洗顔用の市販こんにゃくスポンジ(c)の各試験片を300mmの高さから自由落下させたときの跳ね返り高さHを示す写真。
図7】引張破断強度試験(a)及び圧壊破断強度試験(b)の状況を示す正面図。
図8】舌運動訓練1の状況を示す正面図。
図9】舌運動訓練2の状況を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る口腔機能改善用具としてのこんにゃくボール1を示す。こんにゃくボール1には誤嚥防止用紐2が取り付けられている。
【0016】
こんにゃくボール1は、スポンジ状物質に洗口液、口腔保湿液、経口補水液等の溶液を湿潤させたものである。
【0017】
スポンジ状物質は、こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材として加圧成型した加圧成型品である。こんにゃく精粉は、こんにゃく芋を乾燥し精製したもので、その種類は特に限定されない。グルコマンナンは、こんにゃく粉をアルコール精製することによって抽出したもので、その種類は限定されない。
【0018】
スポンジ状物質の形状は、特に限定されるものではなく、口腔内での咀嚼に適した形状であればよく、球形、円形、楕円形、カプセル形、立方体、シート状、波型等の任意の形状にすることができる。スポンジ状物質の大きさは、口腔内に収容可能な大きさであればよく、通常、0.05~50cm、好ましくは1.0~8.0cmである。スポンジ状物質の密度は、0.001~10g/cm、好ましくは0.03~0.5g/cmである。
【0019】
こんにゃく精粉又はグルコマンナンを基材とするスポンジ状物質は、一例として、こんにゃく精粉又はグルコマンナン3gを水1000ccに溶解し、凝固剤3gを添加して、膨潤させた後、図2に示すように、所定形状の上下金型3a、3bに流し込んで、300ニュートンの圧力を均一に加えて加圧成型し、この加工物を熱水中で加熱(煮沸)してゲル化し、―20℃で24時間凍結し、解凍して脱水することで得られる。こんにゃく加工物の煮沸・脱水を繰り返すことで、こんにゃく加工物内の植物繊維(グルコマンナン)以外のたんぱく質、灰分、こんにゃく特有のにおいの元であるトリメチルアミン等が溶出され、無味無臭で保水性及び弾力性の高いスポンジ状物質となる。凝固剤は特に限定されるものではないが、自然由来の水酸化ナトリウム、例えば貝殻を粉砕し精粉したものを用いることができる。
【0020】
<スポンジ状物質の特性>
スポンジ状物質は、表面の最大気泡径が1mm以下である。図3は、前述の製造方法によって製造した本発明の実施形態に係る加圧成型こんにゃくスポンジ(a)と、加圧成型しない以外は前述の製造方法と同様に製造した無圧成型こんにゃくスポンジ(b)と、食用こんにゃくスポンジ(c)と、洗顔用の市販こんにゃくスポンジ(c)の表面の拡大写真である。図3から明らかなように、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジは、植物繊維がきめ細かく結合され、気泡数が少なく、表面性状は滑沢であり、最大気泡径は0.5mmであった。これに対し、無圧成型こんにゃくスポンジは、植物繊維の結合は確認できるが、気泡が散見され、その径も大きく、最大気泡径は2.00mmであった。食用こんにゃくスポンジは、食物繊維はミルフィーユ状に結合し、気泡が多く、最大気泡径は3.5mmであった。市販こんにゃくスポンジは、発泡剤等の化学物質が配合されているため、気泡が多く、均一に配列され、最大気泡径は1.0mmであった。
【0021】
スポンジ状物質は、加重保水率が99%以上である。加重保水率は、幅20mm、奥行き20mm、高さ5mmの直方体形状の前記スポンジ状物質からなる保水性試験片を用いて、乾燥状態の保水性試験片の重量をW、含水飽和状態の保水性試験片の重量をW、含水飽和状態の保水性試験片に26.3gの重りを加重したときの漏水量をWとしたとき、(W-W―W)/(W-W)×100で表される。表1は各保水性試験片3個の測定結果の平均値を示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1によれば、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジは、グルコマンナン繊維が加圧成型により高密度で含有されているため、保水性に優れ、スポンジ質の孔が細かいため、加重持の漏水量も他の比較例と比べて圧倒的に少ないことが分かる。
【0024】
スポンジ状物質に湿潤させる溶液は特に限定されないが、一例として、洗口液ではサンスター(株)のG・U・m(登録商標)やウェルテック(株)のコンクール(登録商標)、口腔保湿液ではアサヒグループ食品(株)のオーラルプラス(登録商標)などが挙げられる。また、経口補水液は、特に限定されるものではないが、(株)大塚製薬工場のОS-1(登録商標)が好ましい。また、溶液は含水率90~95%であるのが好ましい。含水率が9%以下であると、硬度が高くて弾性率が低く、また、含水率が95%以上であると、水分過多となり口腔内での操作性が低下するからである。スポンジ状物質に溶液を湿潤させるには、均一に浸潤させるようにする。
【0025】
経口補水液に加えて、スポンジ状物質は、う蝕予防をするためにキシリトール溶液や、殺菌消毒するために洗口剤成分溶液を適量含むことが好ましい。キシリトール液としては、特に限定されない。また、洗口剤成分容器液は、特に限定されないが、ノンアルコールタイプのものが好ましい。
【0026】
誤嚥防止用紐2は、こんにゃくボール1を口腔内で噛んでいる間に誤飲してしまうのを防止するもので、一端がスポンジ状物質に外れないように取り付けられ、他端は自由端となり、指を掛けやすいように輪環が形成されている。誤嚥防止用紐2の材質は、木綿糸が好ましく、またその長さは、10cmから15cmが好ましい。
【0027】
誤嚥防止用紐2に代えて、木製やプラスチック製の丸棒、フラットバー、ストロー等をスポンジ状物質に取り付けてもよい。
【0028】
こんにゃくボール1の機械的強度は、舌運動や歯の咀嚼運動で破断することなく十分に口腔機能の改善に寄与できるように、スポンジ状物質に経口補水液を湿潤させた状態で、200N以上の圧壊破断強度、50N以上の引張破断強度を有することが好ましい。平成30年3月に日本歯科医学会が発表した口腔機能低下症に関する基本的な考え方において咬合力200N(ニュートン)未満の場合を咬合力低下と定義していることから、200ニュートンの荷重試験を行ったが、こんにゃくボールの破断等は認められず、高い保形力を有している。
【0029】
本実施形態のこんにゃくボール1は、図4に示すように、ユーザの口腔内に挿入し、舌の上に設置し、誤嚥防止用紐2は外側に垂れた状態にする。図5に示すように、ユーザがこんにゃくボール1を咬むと、舌運動と歯の咀嚼運動により、こんにゃくボール1内の補水液が押し出され、嚥下運動も促される。
【0030】
本実施形態のこんにゃくボール1は、食用こんにゃくを原材料とすることから、口腔内での異物感が無く、加圧成型により通常の咀嚼運動において破断されない物性を有する。仮に、強い咬合力がかかって破断した砕片を食しても無害である。使用後に廃棄しても、こんにゃくルは生分解されるため、環境負荷は低い。
【0031】
また、こんにゃくボール1は、保水性に優れるため、口腔機能の低下に伴う口腔内乾燥症の緩和にも有効であり、また咀嚼運動による唾液分泌の促進も期待できる。本発明に係るスポンジ状物質に洗口液や液体タイプの保湿剤を浸潤させたこんにゃくボール1を口腔内に用いることにより、その特徴である高い保水性から、湿潤させる溶液は少量であっても口腔内にいきわたせることが可能になる。余剰溶液が少ないため、そもそもうがい行為の必要性がない。作用させたい部位にこんにゃくボール1を保持することで、効能がより効果的に高まることが期待できる。
【0032】
さらに、こんにゃくボール1は、表面形状が多孔質であるため、舌運動や咀嚼運動により口腔内に付着する痰や歯垢を拭い取る効果も期待できる。
【0033】
<こんにゃくボールの特性>
[反発弾性]
本実施形態のこんにゃくボール1の反発弾性を検査するため、前述の製造方法によって製造した本発明の実施形態に係る加圧成型こんにゃくスポンジ、無圧成型こんにゃくスポンジ、市販こんにゃくスポンジ、食用こんにゃくスポンジ、及びポリウレタンスポンジからそれぞれ直径20mmの球形の弾性試験片をそれぞれ3個準備し、これらの試験片を含水飽和状態とし、300mmの高さから自由落下させたときの跳ね返り高さHを測定し、その平均値を求めた。図6に示すように、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジの跳ね返り高さHは80mm以上の88mmで、他の試験片より高く、市販こんにゃくスポンジの2.6倍、無圧成型こんにゃくスポンジの1.5倍の反発弾性を有し、衝撃時の排水量と相関性が認められ、保水性を保ちながら大きな反発弾性を有することが分かった。
【0034】
[引張破断強度及び圧壊破断強度]
本実施形態のこんにゃくボール1の機械的強度を検査するため、前述の製造方法によって製造した本発明の実施形態に係る加圧成型こんにゃくスポンジ、無圧成型こんにゃくスポンジ、市販こんにゃくスポンジ、食用こんにゃくスポンジ、及びポリウレタンスポンジからそれぞれ直径20mmの球形の弾性試験片をそれぞれ3個準備し、これらの試験片を含水飽和状態とし、プッシュプルゲージ(Beslands製NK-500)を用いて、引張破断強度及び圧壊破断強度を測定し、その平均値を求めた。
引張破断強度試験では、図7(a)に示すように2つのL字形の径3mmのフック4を試験片に引っ掛けて一方のフック4を固定し、他方のフック4をプッシュプルゲージで引っ張って測定した。
圧縮破壊強度試験では、図7(b)に示すように試験片をテーブルに置き、上方からプッシュプルゲージの径15mmのロッド5を押し付けて測定した。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジの引張破断強度は、50N以上の72.5Nで、他の試験片より高く、市販こんにゃくスポンジの7倍、無圧成型こんにゃくスポンジの6倍の引張破断強度を有し、グルコマンナン繊維が複合的に結合されている結果であることが分かった。また、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジの圧壊破断強度は、他の試験片に比べて顕著な差はないが、確実に強化されていることが分かった。
【0037】
[表面破壊強度及び摩擦破壊強度]
本実施形態のこんにゃくボール1の表面破壊強度を検査するため、前述の製造方法によって製造した本発明の実施形態に係る加圧成型こんにゃくスポンジ、無圧成型こんにゃくスポンジ、市販こんにゃくスポンジ、食用こんにゃくスポンジ、及びポリウレタンスポンジからそれぞれ幅20mm、奥行き10mm、高さ10mmの直方体形状の試験片をそれぞれ3個準備し、これらの試験片を含水飽和状態とし、棒状テンションゲージ((株)中村製作所製TK50CN、ロッド径1.5mm)を用いて、ロッドが試験片の表面を突き破るときの加重によって表面破壊強度を測定し、その平均値を求めた。また、同形の試験片を含水飽和状態とし、#60~#240の耐水ペーパーを用いて、試験片の表面を擦り、摩擦破壊強度を測定した。それらの結果を表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
表3に示すように、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジの表面破壊強度は、20cN以上の23cNであり、他の試験片より高く、吸水した水分が排出しにくく、保水性が高いことが分かった。また、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジの摩擦破壊強度は、#60の耐水ペーパーでも表面が破壊されず、保水性が高いことが分かった。
【0040】
[加重保形性]
口腔内での使用を想定し、咬合器に上下顎模型を装着して、奥歯(大臼歯)に50Nの模擬咬合圧を再現し、前述の製造方法によって製造した本発明の実施形態に係る加圧成型こんにゃくスポンジ、無圧成型こんにゃくスポンジ、市販こんにゃくスポンジ、食用こんにゃくスポンジ、及びポリウレタンスポンジからそれぞれ幅20mm、奥行き10mm、高さ5mmの直方体形状の試験片を用いて、30回の繰り返し加重を実施し、それぞれの保形性を観察した。
この結果、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジは、ほぼ原形を留めた。無圧成型こんにゃくスポンジでは、上顎咬頭が強く接触する部分の凹みが認められた。市販こんにゃくスポンジでは、崩壊はないが、裂罅が認められた。食用こんにゃくスポンジは崩壊した。ポリウレタンスポンジは原形を留めた。このように、本発明の加圧成型こんにゃくスポンジは、30回の咬合後も原形を留め、加重保形性が良いことが分かった。
【実施例0041】
こんにゃく精粉30gを水1000ccに溶解して前述の方法により製造した容積4.5m、乾燥重量0.8gの球形の複数の試験片を得た。この試験片に異なる含水率で経口補水液を湿潤させて、質感及び口腔内での操作性を官能評価した。その結果を表4に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
表4に示すように、本実施形態のこんにゃくボールは、含水率90~95%で、口腔内での口腔機能改善具としての質感及び操作性が高いことが確認された。
【実施例0044】
こんにゃく精粉30gを水1000ccに溶解して前述の方法により加圧成型により製造した容積4.5m、乾燥重量0.8g、含水率93%の球形の発明例を得た。また、発明例と同形状、同容積のポリウレタンスポンジ製の比較例1と、綿球性の比較例2を用意した。この発明例と、比較例1,2を補助器具として、舌運動訓練を10名の被検者に実施し、官能評価した。また、比較例3として、補助器具なしで、同様の舌運動訓練を実施した。
【0045】
舌運動訓練は、次の2種類行った。第1舌運動訓練は、図8に示すように、口唇を閉鎖し、舌を頬唇側の歯茎部をなぞるように3秒間で一周させ、これを左右回りに10回実施する。また、第2舌運動訓練は、図9に示すように、軽く閉口し、口蓋切歯乳頭に舌先端部を押し当て、舌全体を口蓋に10秒間押し上げ、これを3回繰り返す。これらの舌運動訓練の結果を表5に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
表5に示すように、本実施形態のこんにゃくボールは、他の基材に比べて、舌運動訓練での運動負荷及び口腔内の汚れ落とし効果が非常に高く、口腔内の清掃や保湿、マッサージ効果に優れるとともに、摂食時の咀嚼、嚥下等の口腔機能を回復し、改善することができることが確認された。
【符号の説明】
【0048】
1…こんにゃくボール(口腔機能改善具)
2…誤嚥防止用紐

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9