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特開2024-17653オレフィン類重合用固体触媒成分混合物、オレフィン類重合用触媒及びオレフィン類重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017653
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】オレフィン類重合用固体触媒成分混合物、オレフィン類重合用触媒及びオレフィン類重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/654 20060101AFI20240201BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08F4/654
C08F10/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120447
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 速
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 圭一
(72)【発明者】
【氏名】船橋 英雄
【テーマコード(参考)】
4J128
【Fターム(参考)】
4J128AA05
4J128AB05
4J128AC05
4J128BA02A
4J128BA02B
4J128BB01A
4J128BB01B
4J128BC15A
4J128BC15B
4J128BC36A
4J128BC36B
4J128CB35A
4J128CB43A
4J128CB44A
4J128DA02
4J128EA01
4J128EB04
4J128EC01
4J128FA04
4J128GA05
4J128GA26
4J128GB02
(57)【要約】
【課題】高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造し得るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を提供する。
【解決手段】マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物を含む第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びフタル酸ジエステル化合物を含む第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、質量比で、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分:第二のオレフィン類重合用固体触媒成分=37:63~87:13となるように含むことを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分混合物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物を含む第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、
マグネシウム、チタン、ハロゲン及びフタル酸ジエステル化合物を含む第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、
質量比で、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分:第二のオレフィン類重合用固体触媒成分=37:63~87:13となるように含む
ことを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分混合物。
【請求項2】
コハク酸ジエステル化合物の含有割合が、固形分換算で、4.7~14.9質量%である請求項1に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物。
【請求項3】
フタル酸ジエステル化合物の含有割合が、固形分換算で、2.2~7.9質量%である請求項1に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物。
【請求項4】
(I)請求項1に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物及び
(II)下記一般式(1)
AlQ3-p (1)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子又はハロゲン原子であり、pは、0<p≦3であり、Rが複数存在する場合、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上の有機アルミニウム化合物
を含むことを特徴とするオレフィン類重合用触媒。
【請求項5】
(I)請求項1に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物、
(II)下記一般式(1)
AlQ3-p (1)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子又はハロゲン原子であり、pは、0<p≦3であり、Rが複数存在する場合、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上の有機アルミニウム化合物及び
(III)外部電子供与性化合物
を含む請求項4に記載のオレフィン類重合用触媒。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のオレフィン重合用触媒を用いてオレフィン類の重合を行うことを特徴とするオレフィン類重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン類重合用固体触媒成分混合物、オレフィン類重合用触媒及びオレフィン類重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン類重合体は、自動車部品あるいは家電製品などの成型品の他、容器やフィルム等種々の用途に利用されている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂組成物は、軽量で成形性に優れるとともに、成形体の耐熱性や耐薬品性等の化学的安定性に優れ、コストパフォーマンス上も非常に優秀であることから、最も重要なプラスチック材料の一つとして多くの分野で使用されている。
【0004】
さらなる用途拡大を図るため、ポリスチレンやABS樹脂の代替として使用可能な、溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))が高く成形性に優れるとともに曲げ弾性率(FM)に優れたポリプロピレンが望まれるようになっている。
【0005】
プロピレンなどのオレフィン類の重合においては、マグネシウム原子、チタン原子、ハロゲン原子及び内部電子供与性化合物を必須成分として含む固体触媒成分を用いた重合方法が知られており、上記固体触媒成分、有機アルミニウム化合物及び有機ケイ素化合物から成るオレフィン類重合用触媒の存在下に、オレフィン類を重合もしくは共重合させる方法が数多く提案されている(特許文献1等参照)。
【0006】
例えば、特許文献1には、フタル酸エステル等の内部電子供与性化合物が担持された固体状チタン触媒成分と、助触媒成分として有機アルミニウム化合物と、少なくとも一つのSi-O-C結合を有する有機ケイ素化合物とを含むオレフィン類重合用触媒を用いてプロピレンを重合させる方法が提案されており、特許文献1を含め多くの文献において内部電子供与性化合物としてフタル酸エステルを使用し、高い重合活性の下、高立体規則性ポリマーを得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57-63310号公報
【特許文献2】特開2000-017019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年においては、フタル酸エステルを内部電子供与性化合物とする固体触媒成分を用いた場合よりもより一層曲げ弾性率(FM)に優れたポリプロピレン、具体的には曲げ弾性率(FM)が1900MPa以上と高いポリプロピレンを製造し得るオレフィン類重合用固体触媒成分が求められるようになっている。
【0009】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、内部電子供与性化合物としてコハク酸ジエステル化合物を含むオレフィン類重合用固体触媒成分を採用することにより、曲げ弾性率(FM)が1900MPa以上と高く剛性に優れたポリプロピレンを製造し得ることを見出した。
【0010】
一方、上述したようにオレフィン類重合用固体触媒成分としては、曲げ弾性率(FM)が高く剛性に優れるとともに溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))が高く成形性に優れるオレフィン類重合体を製造し得るものが求められる。
しかしながら、(オレフィン類重合用固体触媒成分を含む)オレフィン類重合用触媒を用いて得られるオレフィン類重合体において、一般に溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))と曲げ弾性率(FM)とはバーターの関係にある。
上記コハク酸ジエステル化合物を内部電子供与性化合物として含むオレフィン類重合用固体触媒成分を用いて曲げ弾性率(FM)が1900MPa以上のポリプロピレンを製造した場合においても、得られるポリプロピレンは、溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))が極度に低下する傾向にある。
【0011】
曲げ弾性率(FM)及び溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))がともに高いオレフィン類重合体を得るために、複数種のオレフィン類重合体を混合する方法、すなわち、高い溶融流れ性を有するオレフィン類重合体と高い曲げ弾性率を有するオレフィン類重合体とを各々製造した後、これ等を混合する方法も考えられる。
しかしながら、複数種のオレフィン類重合体を混合する場合、通常、物性が大きく異なる重合体同士は混ざりにくい傾向にあり、また、混合対象となるオレフィン類重合体によっては、混合時に撹拌力に優れた特別な混合装置を必要としたり、多大なエネルギーコストが必要となる他、工程数も増加するために所望特性を有するオレフィン類重合体を簡便に製造し難いという技術課題を有している。
【0012】
このように、オレフィン類重合用固体触媒成分として、溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))が80~120g/10分間と高く成形性に優れるとともに、曲げ弾性率(FM)が1900MPa以上と高く剛性に優れたオレフィン類重合体を製造し得るものはこれまで知られていなかった。
【0013】
このような状況下、本発明は、高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造し得る技術手段を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記技術課題を解決すべく、本発明者等が鋭意検討を重ねた結果、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物を含む第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びフタル酸ジエステル化合物を含む第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、所定の割合で混合したオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を採用することにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(i)マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物を含む第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、
マグネシウム、チタン、ハロゲン及びフタル酸ジエステル化合物を含む第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、
質量比で、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分:第二のオレフィン類重合用固体触媒成分=37:63~87:13となるように含む
ことを特徴とするオレフィン類重合用固体触媒成分混合物、
(ii)コハク酸ジエステル化合物の含有割合が、固形分換算で、4.7~14.9質量%である上記(i)に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物、
(iii)フタル酸ジエステル化合物の含有割合が、固形分換算で、2.2~7.9質量%である上記(i)又は(ii)に記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物、
(iv)(I)上記(i)~(iii)のいずれかに記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物及び
(II)下記一般式(1)
AlQ3-p (1)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子又はハロゲン原子であり、pは、0<p≦3であり、Rが複数存在する場合、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上の有機アルミニウム化合物
を含むことを特徴とするオレフィン類重合用触媒、
(v)(I)上記(i)~(iii)のいずれかに記載のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物、
(II)下記一般式(1)
AlQ3-p (1)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子又はハロゲン原子であり、pは、0<p≦3であり、Rが複数存在する場合、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上の有機アルミニウム化合物及び
(III)外部電子供与性化合物
を含む上記(iv)に記載のオレフィン類重合用触媒、
(vi)上記(iv)又は(v)に記載のオレフィン重合用触媒を用いてオレフィン類の重合を行うことを特徴とするオレフィン類重合体の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造し得るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を提供するとともに、オレフィン類重合用触媒及びオレフィン類重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するための測定試料の作製方法を説明するための図である。
図2】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するための測定試料の作製方法を説明するための図である。
図3】配向層の割合の特定方法を説明するための図である。
図4】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するために作製した測定試料の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図5】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するために作製した測定試料の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図6】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するために作製した測定試料の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図7】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するために作製した測定試料の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図8】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するために作製した測定試料の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図9】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するために作製した測定試料の偏光顕微鏡画像を示す図である。
図10】オレフィン類重合体の射出成形板断面における配向層の割合を測定するために作製した測定試料の偏光顕微鏡画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
先ず、本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物について説明する。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物を含む第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、
マグネシウム、チタン、ハロゲン及びフタル酸ジエステル化合物を含む第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、
質量比で、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分:第二のオレフィン類重合用固体触媒成分=37:63~87:13となるように含む
ことを特徴とするものである。
【0019】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分を含む。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分としては、マグネシウム、チタン及びハロゲンの供給源となる原料成分と内部電子供与性化合物であるコハク酸ジエステル化合物とを有機溶媒中で相互に接触させ、反応させてなる接触反応物を挙げることができ、具体的には、マグネシウム、チタン及びハロゲンの供給源となる原料成分として、マグネシウム化合物及び四価のチタンハロゲン化合物を用い、これ等の原料とコハク酸ジエステル化合物を含む内部電子供与性化合物とを相互に接触させてなる接触反応物を挙げることができる。
【0020】
上記マグネシウム化合物としては、ジアルコキシマグネシウム、ジハロゲン化マグネシウム及びアルコキシマグネシウムハライド等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
上記マグネシウム化合物の内、ジアルコキシマグネシウム又はマグネシウムジハライドが好ましく、具体的には、ジメトキシマグネシウム、ジエトキシマグネシウム、ジプロポキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム、エトキシメトキシマグネシウム、エトキシプロポキシマグネシウム、ブトキシエトキシマグネシウム、マグネシウムジクロライド、マグネシウムジブロマイド、マグネシウムジイオダイド等が挙げられ、ジエトキシマグネシウム及びマグネシウムジクロライドが特に好ましい。
【0021】
上記マグネシウム化合物のうち、ジアルコキシマグネシウムは、金属マグネシウムを、ハロゲンあるいはハロゲン含有金属化合物等の存在下に、アルコールと反応させて得たものでもよい。
【0022】
上記ジアルコキシマグネシウムは、顆粒状又は粉末状であるものが好ましく、その形状は不定形状あるいは球状のものを使用し得る。
【0023】
ジアルコキシマグネシウムとして球状のものを使用した場合、より良好な粒子形状を有し(より球状で)狭い粒度分布を有する重合体粉末が得られ、重合操作時に生成した重合体粉末の取扱い操作性が向上し、生成した重合体粉末に含まれる微粉に起因する閉塞等の発生を抑制することができる。
【0024】
上記球状のジアルコキシマグネシウムは、必ずしも真球状である必要はなく、楕円形状あるいは馬鈴薯形状のものを用いることもできる。
【0025】
また、上記ジアルコキシマグネシウムの平均粒子径(平均粒子径D50)は、1.0~200.0μmであることが好ましく、5.0~150.0μmであることがより好ましい。ここで、平均粒子径D50は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、体積積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径を意味するものである。
ジアルコキシマグネシウムが球状である場合、上記平均粒子径D50は1.0~100.0μmであることが好ましく、5.0~80.0μmであることがより好ましく、10.0~70.0μmであることがさらに好ましい。
【0026】
また、ジアルコキシマグネシウムの粒度分布については、微粉及び粗粉の少ない、粒度分布の狭いものであることが好ましい。
具体的には、ジアルコキシマグネシウムは、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときに、粒子径5.0μm以下の粒子が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。一方、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときに、粒子径100.0μm以上の粒子が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
更に、その粒度分布をln(D90/D10)で表すと3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。ここで、D90は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、体積積算粒度分布における積算粒度で90%の粒径を意味するものである。また、D10は、レーザー光散乱回折法粒度測定機を用いて測定したときの、体積積算粒度分布における積算粒度で10%の粒径を意味するものである。
【0027】
上記球状のジアルコキシマグネシウムの製造方法は、例えば特開昭62-51633号公報、特開平3-74341号公報、特開平4-368391号公報、特開平8-73388号公報等に例示されている。
【0028】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分において、マグネシウム化合物としては、比表面積が、5m/g以上であるものが好ましく、5~50m/gであるものがより好ましく、10~40m/gであるものがさらに好ましい。
マグネシム化合物として比表面積が上記範囲内にあるものを使用することにより、所望の比表面積を有するオレフィン類重合用固体触媒成分を容易に調製することができる。
【0029】
なお、本出願書類において、マグネシウム化合物の比表面積は、BET法により測定した値を意味し、具体的には、マグネシウム化合物の比表面積は、予め測定試料を50℃で2時間真空乾燥した上で、Mountech社製Automatic Surface Area Analyzer HM model-1230を用い、窒素とヘリウムとの混合ガスの存在下において、BET法(自動測定)により測定した値を意味する。
【0030】
上記マグネシウム化合物は、反応時に溶液状又は懸濁液状であることが好ましく、溶液状又は懸濁液状であることにより、反応を好適に進行させることができる。
【0031】
上記マグネシウム化合物が固体である場合には、マグネシウム化合物の可溶化能を有する溶媒に溶解することにより溶液状のマグネシウム化合物とすることができ、又はマグネシウム化合物の可溶化能を有さない溶媒に懸濁することによりマグネシウム化合物懸濁液とすることができる。
なお、マグネシウム化合物が液体である場合には、そのまま溶液状のマグネシウム化合物として用いてもよいし、マグネシウム化合物の可溶化能を有する溶媒にさらに溶解して溶液状のマグネシウム化合物として用いてもよい。
【0032】
固体のマグネシウム化合物を可溶化しうる化合物としては、アルコール、エーテル及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられ、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-エチルヘキサノールなどのアルコールが好ましく、2-エチルヘキサノールが特に好ましい。
一方、固体状のマグネシウム化合物に対して可溶化能を有さない媒体としては、マグネシウム化合物を溶解することがない、飽和炭化水素溶媒又は不飽和炭化水素溶媒から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0033】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒を構成するオレフィン類重合用固体触媒成分において、チタン及びハロゲンの供給源となる原料成分である四価のチタンハロゲン化合物としては、特に制限されないが、下記一般式(2)
Ti(OR4-r (2)
(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基を示し、Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を示し、rは、0≦r≦3である。)で表されるチタンハライド又はアルコキシチタンハライド群から選択される化合物の一種以上であることが好適である。
【0034】
上記一般式(2)において、rは0≦r≦3であり、具体的には、rとして、0、1、2又は3が挙げられる。
【0035】
上記一般式(2)で表されるチタンハライドとしては、チタンテトラクロライド、チタンテトラブロマイド、チタンテトラアイオダイド等から選ばれる一種以上のチタンテトラハライドが挙げられる。
また、上記一般式(2)で表されるアルコキシチタンハライドとしては、メトキシチタントリクロライド、エトキシチタントリクロライド、プロポキシチタントリクロライド、n-ブトキシチタントリクロライド、ジメトキシチタンジクロライド、ジエトキシチタンジクロライド、ジプロポキシチタンジクロライド、ジ-n-ブトキシチタンジクロライド、トリメトキシチタンクロライド、トリエトキシチタンクロライド、トリプロポキシチタンクロライド、トリ-n-ブトキシチタンクロライド等から選ばれる一種以上が挙げられる。
四価のチタンハロゲン化合物としては、チタンテトラハライドが好ましく、チタンテトラクロライドがより好ましい。
これらのチタン化合物は単独で用いられてもよいし、2種以上併用することもできる。
【0036】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分において、コハク酸ジエステル化合物としては、下記一般式(3);
【化1】
(式中、R及びRは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよく、R及びRは炭素数2~4の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。)
で表される化合物から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0037】
上記一般式(3)で表される化合物において、R及びRは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
又はRが炭素数1~4のアルキル基である場合、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基又はイソブチル基を挙げることができる。
上記一般式(3)で表される化合物において、R及びRは炭素数2~4の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基であって互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
及びRが炭素数2~4の直鎖アルキル基又は分岐アルキル基である場合、具体的には、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基又はイソブチル基を挙げることができる。
【0038】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分において、コハク酸ジエステル化合物としては、上記一般式(3)で示されるコハク酸ジアルキルエステルとして、例えば、
コハク酸ジエチル、2,3-ジメチルコハク酸ジエチル、2,3-ジエチルコハク酸ジエチル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジエチル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジエチル、2,3-ジ-n-ブチルコハク酸ジエチル、2,3-ジイソブチルコハク酸ジエチル;
コハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジメチルコハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジエチルコハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジ-n-ブチルコハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジイソブチルコハク酸ジ-n-プロピル;
コハク酸ジイソプロピル、2,3-ジメチルコハク酸ジイソプロピル、2,3-ジエチルコハク酸ジイソプロピル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジイソプロピル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジイソプロピル、2,3-ジ-n-ブチルコハク酸ジイソプロピル、2,3-ジイソブチルコハク酸ジイソプロピル;
コハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジメチルコハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジエチルコハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジ-n-ブチルコハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジイソブチルコハク酸ジ-n-ブチル;
コハク酸ジイソブチル、2,3-ジメチルコハク酸ジイソブチル、2,3-ジエチルコハク酸ジイソブチル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジイソブチル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジイソブチル、2,3-ジ-n-ブチルコハク酸ジイソブチル、2,3-ジイソブチルコハク酸ジイソブチル;
から選ばれる一種以上を挙げることができる。
これらのコハク酸ジアルキルエステルの中でも、コハク酸ジエチル、コハク酸ジ-n-プロピル、コハク酸ジ-n-ブチル、コハク酸ジイソブチル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジエチル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジエチル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジ-n-プロピル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジイソプロピル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジイソプロピル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジ-n-ブチル、2,3-ジ-n-プロピルコハク酸ジイソブチル、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジイソブチルが好ましく用いられる。
【0039】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、固形分換算したときに、コハク酸ジエステル化合物の含有割合が、質量%表示で、5~28質量%であることが好ましく、10~24質量%であることがより好ましく、15~20質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、固形分換算したときに、コハク酸ジエステル化合物の含有割合が、モル%表示で、0.019~0.108モル%であることが好ましく、0.039~0.093モル%であることがより好ましく、0.058~0.077モル%であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、チタンの含有割合(T)に対するコハク酸ジエステル化合物の含有割合(D1)で表される比(D1/T)が、質量比で、3.5~6.6であることが好ましく、4.1~6.0であることがより好ましく、4.8~5.4であることがさらに好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、チタンの含有割合(T)に対するコハク酸ジエステル化合物の含有割合(D1)で表される比(D1/T)が、モル比で、0.3~1.3であることが好ましく、0.5~1.2であることがより好ましく、0.7~1.1であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分における、固形分換算したときのコハク酸ジエステル化合物の含有割合ないしチタンの含有割合(T)に対するコハク酸ジエステル化合物の含有割合(D1)で表される比(D1/T)が上記範囲内にあることにより、オレフィン類の重合に供したときに、溶融流れ性に優れるとともにより一層曲げ弾性率に優れたオレフィン類重合体を容易に製造することができる。
【0042】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、内部電子供与性化合物としてコハク酸ジエステル化合物を必須成分として含むが、これ等の内部電子供与性化合物以外に、さらにその他の内部電子供与性化合物(以下、適宜、「その他の内部電子供与性化合物」と称する。)を含んでいてもよい。
【0043】
このようなその他の内部電子供与性化合物としては、カーボネート類、酸ハライド類、酸アミド類、ニトリル類、酸無水物、ジエーテル化合物類及びカルボン酸エステル類等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0044】
このようなその他の内部電子供与性化合物として、具体的には、エーテルカーボネート化合物や、シクロアルカンジカルボン酸ジエステル、シクロアルケンジカルボン酸ジエステル、マロン酸ジエステル、アルキル置換マロン酸ジエステル、マレイン酸ジエステル等のカルボン酸ジエステルや、ジエーテル化合物等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
より具体的には、(2-エトキシエチル)メチルカーボネート、(2-エトキシエチル)エチルカーボネート、(2-エトキシエチル)フェニルカーボネート等のエーテルカーボネート化合物、ジイソブチルマロン酸ジメチル、ジイソブチルマロン酸ジエチル等のジアルキルマロン酸ジエステル、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ジメチル等のシクロアルカンジカルボン酸ジエステル及び、(イソプロピル)(イソペンチル)-1,3-ジメトキシプロパン、9,9-ビス(メトキシメチル)フルオレン等の1,3-ジエーテルから選ばれる一種以上がより好ましい。
【0045】
一方、本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、フタル酸ジエステル化合物の含有割合が、0.2質量%以下(0.0~0.2質量%)であることが適当であり、0.1質量%以下(0.0~0.1質量%)であることがより適当であり、0.0質量%である(実質的にフタル酸ジエステル化合物を含まない(検出限界以下である))ことがさらに適当である。
【0046】
本出願書類において、オレフィン類重合用固体触媒成分中に含まれるコハク酸ジエステル化合物の含有割合や、必要に応じて添加されるその他の内部電子供与性化合物の含有割合や、(後述する)フタル酸ジエステル化合物の含有割合は、固形分換算するために予めオレフィン類重合用固体触媒成分を加熱減圧乾燥して溶媒成分を完全に除去した後、加水分解し、次いで芳香族溶剤を用いてコハク酸ジエステル化合物や、必要に応じて添加されるその他の内部電子供与性化合物や、フタル酸ジエステル化合物を抽出し、この溶液をガスクロマトグラフィーFID(Flame Ionization Detector、水素炎イオン化型検出器)法によって測定した値を意味する。
なお、上述したように、本出願書類において「固形分換算」とは、溶媒などの液体成分を完全に除去した固形分に基づき各成分の含有割合を算出することを意味する。
【0047】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、チタンを、原子量換算で、2.0~5.0質量%含むものが好ましく、2.5~4.5質量%含むものがより好ましく、3.5~4.5質量%含むものがさらに好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、マグネシウムを、原子量換算で、15.0~25.0質量%含むものが好ましく、16.0~23.0質量%含むものがより好ましく、17.0~22.0質量%含むものがさらに好ましく、17.0~21.0質量%含むものが一層好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、ハロゲンを、原子量換算で、50.0~70.0質量%含むものが好ましく、55.0~68.0質量%含むものがより好ましく、58.0~67.0質量%含むものがさらに好ましく、60.0~66.0質量%含むものが一層好ましい。
【0048】
本出願書類において、オレフィン類重合用固体触媒成分中に含まれるチタン原子の含有割合は、予め加熱減圧乾燥して溶媒成分を完全に除去したオレフィン類重合用固体触媒成分を用い、JIS 8311-1997「チタン鉱石中のチタン定量方法」に記載の方法(酸化還元滴定)に準じて測定した値を意味する。
【0049】
また、本出願書類において、オレフィン類重合用固体触媒成分中のマグネシウム原子の含有割合は、予め加熱減圧乾燥して溶媒成分を完全に除去したオレフィン類重合用固体触媒成分を塩酸溶液で溶解し、EDTA溶液で滴定するEDTA滴定方法により測定した値を意味する。
【0050】
また、本出願書類において、オレフィン類重合用固体触媒成分中に含まれるハロゲン原子の含有割合は、予め加熱減圧乾燥して溶媒成分を完全に除去したオレフィン類重合用固体触媒成分を硫酸と純水の混合溶液で処理して水溶液とした後、所定量を分取し、硝酸銀標準溶液でハロゲンを滴定する硝酸銀滴定法によって測定した値を意味する。
【0051】
本発明におけるオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分は、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物と、必要に応じてその他の内部電子供与性化合物とを含むとともに、さらにポリシロキサンを含むものであってもよい。
【0052】
本発明におけるオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分が、ポリシロキサンを含むものであることにより、オレフィン類を重合したときに、得られる重合体の立体規則性あるいは結晶性を容易に向上させることができ、さらには生成ポリマーの微粉を容易に低減することができる。
ポリシロキサンは、主鎖にシロキサン結合(-Si-O-結合)を有する重合体であるが、シリコーンオイルとも称され、25℃における粘度が0.02~100.00cm/s(2~10000センチストークス)、より好ましくは0.03~5.00cm/s(3~500センチストークス)を有する、常温で液状あるいは粘稠状の鎖状、部分水素化、環状あるいは変性ポリシロキサンである。
【0053】
鎖状ポリシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンが挙げられ、部分水素化ポリシロキサンとしては、水素化率10~80%のメチルハイドロジェンポリシロキサンが挙げられ、環状ポリシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、2,4,6-トリメチルシクロトリシロキサン及び2,4,6,8-テトラメチルシクロテトラシロキサンから選ばれる一種以上が挙げられる。
【0054】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、上記第一のオレフィン類重合用固体触媒成分とともに第二のオレフィン類重合用固体触媒成分を含む。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分としては、マグネシウム、チタン及びハロゲンの供給源となる原料成分と内部電子供与性化合物であるフタル酸ジエステル化合物とを有機溶媒中で相互に接触させ、反応させてなる接触反応物を挙げることができ、具体的には、マグネシウム、チタン及びハロゲンの供給源となる原料成分として、マグネシウム化合物及び四価のチタンハロゲン化合物を用い、これ等の原料とフタル酸ジエステル化合物を含む内部電子供与性化合物とを相互に接触させてなる接触反応物を挙げることができる。
【0055】
上記マグネシウム化合物及び四価のチタンハロゲン化合物の具体例としては、各々、上記第一のオレフィン類重合用固体触媒成分の説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0056】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分において、フタル酸ジエステル化合物としては、フタル酸ジエステルが好ましい。
上記フタル酸ジエステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ-n-プロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸メチルエチル、フタル酸(エチル)n-プロピル、フタル酸エチルイソプロピル、フタル酸(エチル)n-ブチル、フタル酸エチルイソブチル等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0057】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、固形分換算したときに、フタル酸ジエステル化合物の含有割合が、質量%表示で、8.0~20.0質量%であることが好ましく、9.0~17.5質量%であることがより好ましく、10.0~15.0質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、固形分換算したときに、フタル酸ジエステル化合物の含有割合が、モル%表示で、2.7~5.6モル%であることが好ましく、3.6~5.3モル%であることがより好ましく、4.5~5.0モル%であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、チタンの含有割合(T)に対するフタル酸ジエステル化合物の含有割合(D2)で表される比(D2/T)が、質量比で、0.025~0.072であることが好ましく、0.030~0.063であることがより好ましく、0.035~0.054であることがさらに好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、チタンの含有割合(T)に対するフタル酸ジエステル化合物の含有割合(D2)で表される比(D2/T)が、モル比で、0.3~1.3であることが好ましく、0.5~1.2であることがより好ましく、0.7~1.1であることがさらに好ましい。
【0059】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分における、固形分換算したときのフタル酸ジエステル化合物の含有割合ないしチタンの含有割合(T)に対するフタル酸ジエステル化合物の含有割合(D2)で表される比(D2/T)が上記範囲内にあることにより、オレフィン類の重合に供したときに、溶融流れ性に優れるとともにより一層曲げ弾性率に優れたオレフィン類重合体を容易に製造することができる。
【0060】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、内部電子供与性化合物としてフタル酸ジエステル化合物を必須成分として含むが、これ等の内部電子供与性化合物以外に、さらにその他の内部電子供与性化合物を含んでいてもよく、このようなその他の内部電子供与性化合物としては、上記第一のオレフィン類重合用固体触媒成分の説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。
【0061】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、コハク酸ジエステル化合物の含有割合が、0.2質量%以下(0.0~0.2質量%)であることが適当であり、0.1質量%以下(0.0~0.1質量%)であることがより適当であり、0.0質量%である(実質的にコハク酸ジエステルを含まない(検出限界以下である))ことがさらに適当である。
【0062】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、チタンを、原子量換算で、2.0~5.0質量%含むものが好ましく、2.5~4.5質量%含むものがより好ましく、3.5~4.5質量%含むものがさらに好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、マグネシウムを、原子量換算で、15.0~25.0質量%含むものが好ましく、16.0~23.0質量%含むものがより好ましく、17.0~22.0質量%含むものがさらに好ましく、17.0~21.0質量%含むものが一層好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、ハロゲンを、原子量換算で、50.0~70.0質量%含むものが好ましく、55.0~68.0質量%含むものがより好ましく、58.0~67.0質量%含むものがさらに好ましく、60.0~66.0質量%含むものが一層好ましい。
【0063】
上記第二のオレフィン類重合用固体触媒成分の各構成成分の含有割合の測定方法は、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分の説明で述べたとおりである。
【0064】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、ポリシロキサンを含むものであってもよく、ポリシロキサンの具体例としては、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分の説明で述べたものと同様のものを挙げることができる。
【0065】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、質量比で、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分:第二のオレフィン類重合用固体触媒成分=37:63~87:13となるように含むものであり、37:63~86:14となるように含むことが好ましく、37:63~85:15となるように含むことがより好ましい。
なお、本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分及び第二のオレフィン類重合用固体触媒成分のみを含むものを意味する。
【0066】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物が、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、上記割合で含むことにより、オレフィン類の重合に供したときに、溶融流れ性に優れるとともに曲げ弾性率に優れたオレフィン類重合体をより効果的に製造することができる。
【0067】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物においては、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分を構成する内部電子供与性化合物としてコハク酸ジエステル化合物を採用しつつ、第二のオレフィン類重合用固体触媒成分を構成する内部電子供与性化合物としてフタル酸ジエステル化合物を採用する。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物において、コハク酸ジエステル化合物の含有割合は、固形分換算で、4.7~14.9質量%であることが好ましく、4.7~14.6質量%であることがより好ましく、4.7~14.3質量%であることがさらに好ましい。
また、本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物において、フタル酸ジエステル化合物の含有割合は、固形分換算で、2.2~7.9質量%であることが好ましく、2.3~7.9質量%であることがより好ましく、2.5~7.9質量%であることがさらに好ましい。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物において、コハク酸ジエステル化合物やフタル酸ジエステル化合物の含有割合が、各々上記範囲内にあることにより、オレフィン類の重合に供したときに、高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造することができる。
【0068】
従来、コハク酸ジエステル化合物は、オレフィン類重合用固体触媒成分の内部電子供与性化合物として使用する上では、それ自体が高価であるとともに、オレフィン類の重合に供したときに、得られるオレフィン類重合体の立体規則性を向上させ難い化合物であると考えられていたことから、オレフィン類重合用固体触媒成分の内部電子供与性化合物として敢えてコハク酸ジエステル化合物を採用しようとすることは行われていなかった。
【0069】
しかしながら、本発明者等が鋭意検討したところ、コハク酸ジエステル化合物を内部電子供与性化合物として含むオレフィン類重合用固体触媒成分は、オレフィン類の重合に供したときに曲げ弾性率(FM)に優れたオレフィン類重合体を製造し得ることを見出すに至った。
一方、本発明者等の検討によれば、コハク酸ジエステル化合物を内部電子供与性化合物として含むオレフィン類重合用固体触媒成分を用いて得られたオレフィン類重合体は、曲げ弾性率(FM)が1900MPa以上のポリプロピレンを製造した場合において、得られるポリプロピレンの溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))が極度に低下し易くなることが判明した。
このような状況下、本発明者等は、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分としてコハク酸ジエステル化合物を内部電子供与性化合物として含むものを採用しつつ、第二のオレフィン類重合用固体触媒成分としてフタル酸ジエステル化合物を内部電子供与性化合物とするものを採用し、従来のオレフィン類重合用触媒の固体触媒成分に代えて、上記第一のオレフィン類重合用固体触媒成分及び第二のオレフィン類重合用固体触媒成分を所定割合で含む混合物を採用することにより、オレフィン類の重合に供したときに優れた溶融流れ性を確保しつつ従来以上に曲げ弾性率の高いオレフィン類重合体を製造し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0070】
複数の内部電子供与性化合物を含むオレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、オレフィン類の重合に供したときに、各オレフィン類重合用固体触媒成分により複数のオレフィン類重合体を生成すると考えられるが、通常、物性が大きく異なるオレフィン類重合体同士は混ざりにくい傾向にあることから、一般に実用に供し難い。
一方、本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物においては、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分及び第二のオレフィン類重合用固体触媒成分を各々所定割合で含む混合物をオレフィン類の重合に供することにより、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分が、曲げ弾性率に優れるとともに分子量分布の広い第一のオレフィン類重合体を生成し、この分子量分布の広い第一のオレフィン類重合体が、第二のオレフィン類重合用固体触媒成分により生成する第二のオレフィン類重合体と高い相溶性を示すと考えられる。そして、得られたオレフィン類重合体(第一のオレフィン類重合体および第二のオレフィン類重合体の混合物)は、専ら第一のオレフィン類重合体により発揮される高い曲げ弾性率を大きく低下させることなく、優れた溶融流れ性を発揮し得ると考えられる。
【0071】
このように、本発明においては、従来使用されてきたオレフィン類重合用固体触媒成分に代えて特定のオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を採用することにより、多大なエネルギーコストを必要とすることなく、また工程数を増加させることなく、高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造することができる。
【0072】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを予め混合して混合物の状態でオレフィン類の重合に供してもよいし、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とをオレフィン類の重合系内に別々に装入して重合系内において混合物としてもよい。
【0073】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分及び第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、各々、従来公知の方法で製造することができる。
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分及び第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、各々、内部電子供与性化合物としてコハク酸ジエステル化合物を必須構成成分として含むか又は内部電子供与性化合物としてフタル酸ジエステル化合物を必須構成成分として含むかという点において相違するが、その他の点において共通するものである。このため、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分及び第二のオレフィン類重合用固体触媒成分の製造方法としても、各々、内部電子供与性化合物としてコハク酸ジエステル化合物を必須構成成分として使用するか又は内部電子供与性化合物としてフタル酸ジエステル化合物を必須構成成分として使用するかという点において相違するものの、その他の点において共通する方法を採用することができる。
【0074】
本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を構成する第一のオレフィン類重合用固体触媒成分又は第二のオレフィン類重合用固体触媒成分は、上記ジアルコキシマグネシウム、チタンハロゲン化合物及び(コハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物のいずれかを必須成分とする)内部電子供与性化合物を、必要に応じてさらにその他の成分とともに、不活性有機溶媒の存在下に相互に接触させることによって調製してなるものであることが好ましい。
【0075】
本発明において、上記不活性有機溶媒としては、チタンハロゲン化合物を溶解し、かつジアルコキシマグネシウムは溶解しないものが好ましく、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2-ジエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキセン、デカリン、ミネラルオイル等の飽和炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素化合物、オルトジクロルベンゼン、塩化メチレン、1,2-ジクロロベンゼン、四塩化炭素、ジクロルエタン等のハロゲン化炭化水素化合物等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
上記不活性有機溶媒としては、沸点が50~200℃程度の、常温で液状の飽和炭化水素化合物あるいは芳香族炭化水素化合物が好ましく用いられ、中でも、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、エチルシクロヘキサン、ミネラルオイル、トルエン、キシレン、エチルベンゼンから選ばれる一種以上が好ましく、特に好ましくは、ヘキサン、ヘプタン、エチルシクロヘキサン及びトルエンから選ばれるいずれか一種以上である。
【0076】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒を構成するオレフィン類重合用固体触媒成分を製造する方法としては、ジアルコキシマグネシウム、チタンハロゲン化合物及び(コハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物のいずれかを必須成分とする)内部電子供与性化合物を相互に接触させて第一のオレフィン類重合用固体触媒成分又は第二のオレフィン類重合用固体触媒成分を調製するに際し、
ジアルコキシマグネシウムに対して前記チタンハロゲン化合物を複数回接触させ、
ジアルコキシマグネシウムに対してチタンハロゲンハロゲン化合物を最初に接触させる際に、ジアルコキシマグネシウム1モルに対してチタンハロゲン化合物を1.5~10.0モル使用し、
チタン化合物の総使用量が前記ジアルコキシマグネシウム1モルあたり5.0~18.0モルであり、
さらに、前記ジアルコキシマグネシウム1モルあたりのコハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物の使用量が0.10~0.20モルとなるように使用して、目的とするオレフィン類重合用固体触媒成分を得る方法(以下、固体触媒成分の製法aと称する)が挙げられる。
【0077】
固体触媒成分の製法aにおいては、ジアルコキシマグネシウムに対してチタンハロゲン化合物を複数回接触させ、ジアルコキシマグネシウムに対してチタンハロゲンハロゲン化合物を最初に接触させる際に、ジアルコキシマグネシウム1モルに対してチタンハロゲン合物を1.5~10.0モル使用し、ジアルコキシマグネシウム1モルに対してチタンハロゲン合物を2.0~8.0モル使用することが好ましく、ジアルコキシマグネシウム1モルに対してチタンハロゲン合物を2.0~5.0モル使用することがより好ましい。
【0078】
固体触媒成分の製法aにおいて、ジアルコキシマグネシウムに対するチタンハロゲン化合物の使用量を上記範囲内に制御することにより、少量のチタンハロゲン化合物で高い活性を得るオレフィン類重合用固体触媒成分を調製することができる。
【0079】
固体触媒成分の製法aにおいて、チタン化合物の総使用量は、ジアルコキシマグネシウム1モルあたり5.0~18.0モルであり、ジアルコキシマグネシウム1モルあたり5.0~15.0モルであることが好ましく、ジアルコキシマグネシウム1モルあたり5.0~10.0モルであることがより好ましい。
【0080】
固体触媒成分の製法aにおいて、ジアルコキシマグネシウム1モルあたりのチタン化合物の総使用量を上記範囲内に制御することにより、十分に高い活性を確保しつつ、チタンハロゲン化合物及びコハク酸ジエステル化合物を最適に担持できる担体を調製することができる。
【0081】
固体触媒成分の製法aにおいては、ジアルコキシマグネシウム1モルあたりコハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物を0.10~0.20モル使用し、ジアルコキシマグネシウム1モルあたりコハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物を0.10~0.18モル使用することが好ましく、ジアルコキシマグネシウム1モルあたりコハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物を0.10~0.15モル使用することがより好ましい。
【0082】
固体触媒成分の製法aにおいて、ジアルコキシマグネシウム1モルに対するコハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物の使用量を上記範囲内に制御することにより、担体へのチタンハロゲン化合物の過剰な担持を抑制しつつ、コハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物を十分に担持させることができる。
【0083】
固体触媒成分の製法aとして、より具体的には、例えば、ジアルコキシマグネシウム及びチタンハロゲン化合物と、コハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物とを不活性炭化水素溶媒に懸濁し、加熱しながら所定時間接触させた後、得られた懸濁液にさらにチタンハロゲン化合物を加え、加熱しながら接触させて固体生成物を得、当該固体生成物を炭化水素溶媒で洗浄することにより目的とするオレフィン類重合用固体触媒成分を得る方法を挙げることができる。
【0084】
上記加熱温度は、70~150℃が好ましく、80~120℃がより好ましく、90~110℃がさらに好ましい。
上記加熱時間は、30~240分間が好ましく、60~180分間がより好ましく、60~120分間がさらに好ましい。
【0085】
上記懸濁液に対するチタンハロゲン化合物の添加回数は特に制限されない。
上記懸濁液に対しチタンハロゲン化合物を複数回添加した場合には、各加熱温度が上記範囲内になるように、また各添加時における加熱時間が上記範囲内となるようにすればよい。
【0086】
なお、上記調製方法において、内部電子供与性化合物としてコハク酸ジエステル化合物又はフタル酸ジエステル化合物を加えつつ、その他の内部電子供与性化合物をさらに添加してもよい。さらに、上記接触は、例えば、ケイ素、リン、アルミニウム等の他の反応試剤や界面活性剤の共存下に行ってもよい。
【0087】
本発明によれば、高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造し得るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を提供することができる。
【0088】
次に、本発明に係るオレフィン類重合用触媒について説明する。
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、
(I)本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物及び
(II)下記一般式(1)
AlQ3-p (1)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子又はハロゲン原子であり、pは、0<p≦3である。)で表される化合物から選ばれる一種以上の有機アルミニウム化合物
を含むことを特徴とするものである。
【0089】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒において、(I)本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物の詳細は、上述したとおりである。
【0090】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、有機アルミニウム化合物として、(II)下記一般式(1);
AlQ3-p (1)
(式中、Rは、炭素数1~6のアルキル基であり、Qは、水素原子あるいはハロゲンであり、pは、0<p≦3であり、Rが複数存在する場合、各Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、Qが複数存在する場合、各Qは互いに同一であっても異なっていてもよい。)
で表わされる化合物から選ばれる一種以上を含む。
【0091】
上記一般式(1)で表される化合物において、pは0<p≦3であり、具体的には、pとして、1、2又は3が挙げられる。
【0092】
上記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリ-n-ヘキシルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムブロマイド等のハロゲン化アルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムハイドライド等から選ばれる一種以上が挙げられ、ジエチルアルミニウムクロライド等のハロゲン化アルキルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム等から選ばれる一種以上が好ましく、トリエチルアルミニウム及びトリイソブチルアルミニウムから選ばれる一種以上がより好ましい。
【0093】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、(III)外部電子供与性化合物を含むものが好ましい。
【0094】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒において、(III)外部電子供与性化合物としては、例えば、下記一般式(4)
Si(NR(OR104-(r+s)(4)
(式中、rは0又は1~2、sは0又は1~2、r+sは0又は1~4、R、R又はRは水素原子又は炭素数1~12の直鎖状又は分岐状アルキル基、置換又は未置換のシクロアルキル基、フェニル基、アリル基及びアラルキル基から選ばれるいずれかの基であって、ヘテロ原子を含有していてもよく、互いに同一であっても異なっていてもよい。RとRは結合して環形状を形成していてもよく、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよい。また、R10は炭素数1~4のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビニル基、アリル基及びアラルキル基から選ばれるいずれかの基であって、ヘテロ原子を含有してもよい。)で表されるケイ素化合物が挙げられる。
【0095】
上記一般式(4)で表されるケイ素化合物において、Rは、水素原子又は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、置換又は未置換のシクロアルキル基、フェニル基、アリル基及びアラルキル基から選ばれるいずれかの基であって、ヘテロ原子を含有していてもよい。
としては、炭素数1~10の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましく、特に炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましい。
【0096】
上記一般式(4)で表されるケイ素化合物において、R又はRは、水素原子又は炭素数1~12の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基、置換又は未置換のシクロアルキル基、フェニル基、アリル基及びアラルキル基から選ばれるいずれかの基であって、ヘテロ原子を含有していてもよい。
又はRとしては、炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましく、特に炭素数1~8の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数5~8のシクロアルキル基が好ましい。
また、RとRが結合して環形状を形成していてもよく、この場合、環形状を形成する(NR)は、パーヒドロキノリノ基、パーヒドロイソキノリノ基が好ましい。
【0097】
上記一般式(4)で表されるケイ素化合物において、R、R及びRは、同一であっても異なっていてもよい。
【0098】
上記一般式(4)で表されるケイ素化合物において、R10は、炭素数1~4のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、アリル基及びアラルキル基から選ばれるいずれかの基であって、ヘテロ原子を含有してもよい。
10としては、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましい。
【0099】
上記一般式(4)で表されるケイ素化合物において、rは0又は1~2であり、具体的には、rとして、0、1又は2が挙げられる。
上記一般式(4)で表されるケイ素化合物において、sは0又は1~2であり、具体的には、sとして、0、1又は2が挙げられる。
上記一般式(4)で表されるケイ素化合物において、r+sは0又は1~4であり、具体的には、r+sとして、0、1、2、3又は4が挙げられる。
【0100】
このような上記一般式(4)で表されるケイ素化合物として、具体的には、フェニルアルコキシシラン、アルキルアルコキシシラン、フェニルアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルコキシシラン、シクロアルキルアルキルアルコキシシラン、(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)アルコキシシラン、アルキル(アルキルアミノ)シラン、アルキルアミノシラン等から選ばれる一種以上の有機ケイ素化合物を挙げることができる。
【0101】
上記一般式(4)におけるsが0のケイ素化合物として、特に好ましくは、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジ-n-ブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジ-t-ブチルジメトキシシラン、t-ブチルメチルジメトキシシラン、t-ブチルエチルジメトキシシラン、ジ-n-ブチルジエトキシシラン、t-ブチルトリメトキシシラン、t-ブチルトリエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、シクロペンチルメチルジメトキシシラン、シクロペンチルメチルジエトキシシラン、シクロペンチルエチルジエトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルシクロペンチルジエトキシシラン、3-メチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、4-メチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシラン、3,5-ジメチルシクロヘキシルシクロペンチルジメトキシシランから選ばれる一種以上の有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0102】
上記一般式(4)におけるsが1又は2のケイ素化合物としては、ジ(アルキルアミノ)ジアルコキシシラン、(アルキルアミノ)(シクロアルキルアミノ)ジアルコキシシラン、(アルキルアミノ)(アルキル)ジアルコキシシラン、ジ(シクロアルキルアミノ)ジアルコキシシラン、ビニル(アルキルアミノ)ジアルコキシシラン、アリル(アルキルアミノ)ジアルコキシシラン、(アルコキシアミノ)トリアルコキシシラン、(アルキルアミノ)トリアルコキシシラン、(シクロアルキルアミノ)トリアルコキシシラン等から選ばれる一種以上の有機ケイ素化合物を挙げることができ、特に好ましくは、エチル(t-ブチルアミノ)ジメトキシシラン、シクロヘキシル(シクロヘキシルアミノ)ジメトキシシラン、エチル(t-ブチルアミノ)ジメトキシシラン、ビス(シクロヘキシルアミノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ビス(パーヒドロキノリノ)ジメトキシシラン、エチル(イソキノリノ)ジメトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン等が挙げられ、中でも、ビス(パーヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン、ジエチルアミノトリメトキシシラン、又はジエチルアミノトリエトキシシランから選ばれる一種以上の有機ケイ素化合物である。
【0103】
なお、上記一般式(4)で表されるケイ素化合物は、二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0104】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、(I)本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分、(II)一般式(2)で表わされる有機アルミニウム化合物及び必要に応じて(III)外部電子供与性化合物を含むもの、すなわちこれ等の接触物である。
本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、(I)本発明に係るオレフィン類重合用固体触媒成分、(II)一般式(2)で表わされる有機アルミニウム化合物及び必要に応じて(III)外部電子供与性化合物をオレフィン類不存在下で接触させることにより調製してなるものであってもよいし、以下に記述するように、オレフィン類存在下で(重合系内で)接触させてなるものであってもよい。
【0105】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒において、各成分の含有比は、本発明の効果に影響を及ぼすことのない限り任意であり、特に限定されるものではないが、通常、上記(I)オレフィン類重合用固体触媒成分混合物中のチタン原子1モル当たり、上記(II)有機アルミニウム化合物を、1~2000モル含むものであることが好ましく、50~1000モル含むものであることがより好ましい。また、本発明に係るオレフィン類重合用触媒は、上記(II)有機アルミニウム化合物1モル当たり、上記(III)外部電子供与性化合物を、0.002~10.000モル含むものであることが好ましく、0.010~2.000モル含むものであることがより好ましく、0.010~0.500モル含むものであることがさらに好ましい。
【0106】
本発明によれば、高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造し得るオレフィン類重合用触媒を提供することができる。
【0107】
次に、本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法について説明する。
本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法は、本発明に係るオレフィン重合用触媒を用いてオレフィン類の重合を行うことを特徴とするものである。
【0108】
本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法において、オレフィン類の重合は単独重合であってもよいし、共重合であってもよい。
本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法において、重合対象となるオレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン等から選ばれる一種以上を挙げることができ、中でもエチレン、プロピレン及び1-ブテンから選ばれる一種以上が好適であり、プロピレンがより好適である。
上記オレフィン類がプロピレンである場合、プロピレンの単独重合であってもよいが、他のα-オレフィン類との共重合であってもよい。
プロピレンと共重合されるオレフィン類としては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、ビニルシクロヘキサン等から選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0109】
本発明に係るオレフィン類重合用触媒がオレフィン類存在下に(重合系内で)調製してなるものである場合、各成分の使用量比は、本発明の効果に影響を及ぼすことのない限り任意であり、特に限定されるものではないが、通常、上述した有機アルミニウム化合物を、上述したオレフィン類重合用固体触媒成分混合物中のチタン原子1モル当たり、1~2000モル接触させることが好ましく、50~1000モル接触させることがより好ましい。また、上述した一般式(4)で表されるケイ素化合物から選ばれる外部電子供与性化合物を、上記有機アルミニウム化合物1モル当たり、0.002~10.000モル接触させることが好ましく、0.01~2モル接触させることがより好ましく、0.010~0.500モル接触させることがさらに好ましい。
【0110】
上記オレフィン類重合用触媒を構成する各成分の接触順序は任意であるが、好ましくは、重合系内にまず上記有機アルミニウム化合物を装入し、次いで必要に応じて外部電子供与性化合物を装入、接触させた後、上述したオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を装入、接触させる。
上記オレフィン類重合用固体触媒成分混合物は、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを混合して混合物の状態で重合系内に装入してもよいし、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを別々に装入して重合系内において混合物としてもよい。
【0111】
本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法は、有機溶媒の存在下行ってもよいし不存在下で行ってもよい。
またプロピレン等のオレフィンモノマーは、気体及び液体のいずれの状態でも用いることができる。重合温度は200℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、重合圧力は10MPa以下が好ましく、5MPa以下がより好ましい。また、オレフィン類の重合は、連続重合法、バッチ式重合法のいずれでも可能である。さらに、重合反応は一段で行なってもよいし、二段以上で行なってもよい。
【0112】
加えて、本発明に係るオレフィン類重合用触媒を用いてオレフィン類を重合するにあたり(本重合とも称する)、触媒活性、立体規則性及び生成する重合体の粒子性状等を一層改善させるために、本重合に先立ち予備重合を行うことが好ましく、予備重合の際には、本重合と同様のオレフィン類あるいはスチレン等のモノマーを用いることができる。
【0113】
予備重合を行うに際して、上記オレフィン類重合用触媒を構成する各成分及びモノマー(オレフィン類)の接触順序は任意であるが、好ましくは、不活性ガス雰囲気あるいはオレフィンガス雰囲気に設定した予備重合系内に、先ず有機アルミニウム化合物を装入し、次いで上述したオレフィン類重合用固体触媒成分を装入、接触させた後、プロピレン等のオレフィン類を単独で、又はプロピレン等のオレフィン類及びその他のオレフィン類を一種以上混合したものを接触させることが好ましい。
上記予備重合において、予備重合系内にさらに外部電子供与性化合物を装入する場合、不活性ガス雰囲気あるいはオレフィンガス雰囲気に設定した予備重合系内に、先ず有機アルミニウム化合物を装入し、次いで外部電子供与性化合物を装入、接触させ、更に上述したオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を接触させた後、プロピレン等のオレフィン類を単独で、又はプロピレン等のオレフィン類及びその他のオレフィン類を一種以上混合したものを接触させることが好ましい。
【0114】
本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法において、重合方法としては、シクロヘキサン、ヘプタン等の不活性炭化水素化合物の溶媒を使用するスラリー重合法、液化プロピレン等の溶媒を使用するバルク重合法、及び実質的に溶媒を使用しない気相重合法を挙げることができ、バルク重合法又は気相重合法が好ましい。
【0115】
プロピレンと他のα-オレフィン類の単量体との共重合を行う場合、プロピレンと少量のエチレンをコモノマーとして、1段で重合するランダム共重合と、第一段階(第一重合槽)でプロピレンの単独重合を行い、第二段階(第二重合槽)あるいはそれ以上の多段階(多段重合槽)でプロピレンとエチレン等の他のα-オレフィンとの共重合を行う、いわゆるプロピレン-エチレンブロック共重合が代表的であり、プロピレンと他のα-オレフィンとのブロック共重合が好ましい。
【0116】
ブロック共重合により得られるブロック共重合体とは、2種以上のモノマー組成が連続して変化するセグメントを含む重合体であり、モノマー種、コモノマー種、コモノマー組成、コモノマー含量、コモノマー配列、立体規則性などポリマーの一次構造の異なるポリマー鎖(セグメント)が1分子鎖中に2種類以上繋がっている形態のものをいう。
【0117】
本発明に係るオレフィン類重合体の製造方法において、プロピレンと他のα-オレフィン類とのブロック共重合反応は、通常、本発明に係るオレフィン類重合用触媒の存在下、前段でプロピレン単独あるいは、プロピレンと少量のα-オレフィン(エチレン等)とを接触させ、次いで後段でプロピレンとα-オレフィン(エチレン等)とを接触させることにより実施することができる。なお、上記前段の重合反応を複数回繰り返し実施してもよいし、上記後段の重合反応を複数回繰り返し多段反応により実施してもよい。
【0118】
プロピレンと他のα-オレフィン類とのブロック共重合反応は、具体的には、前段で(最終的に得られる共重合体に占める)ポリプロピレン部の割合が20~90質量%になるように重合温度及び時間を調整して重合を行ない、次いで後段において、プロピレン及びエチレンあるいは他のα-オレフィンを導入し、(最終的に得られる共重合体に占める)エチレン-プロピレンゴム(EPR)などのゴム部割合が10~80質量%になるように重合することが好ましい。
前段及び後段における重合温度は共に、200℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、65~80℃がさらに好ましく、重合圧力は、10MPa以下が好ましく、6MPa以下がより好ましく、5MPa以下がさらに好ましい。
上記共重合反応においても、連続重合法、バッチ式重合法のいずれの重合法も採用することができ、重合反応は1段で行なってもよいし、2段以上で行なってもよい。
また、重合時間(反応炉内の滞留時間)は、前段又は後段の各重合段階のそれぞれの重合段階で、あるいは連続重合の際においても、1分~5時間であることが好ましい。
重合方法としては、シクロヘキサン、ヘプタン等の不活性炭化水素化合物の溶媒を使用するスラリー重合法、液化プロピレン等の溶媒を使用するバルク重合法、実質的に溶媒を使用しない気相重合法が挙げられ、バルク重合法又は気相重合法が好適である。
【0119】
特にエチレン・プロピレンブロック共重合体はEPR成分(エチレン及びプロピレンの共重合成分)を含有しており、重合体の粒子表面上にEPR成分が滲み出すと粒子のべたつき(粘着性)が起こり、流動性が悪くなる。重合体の製造設備において粒子の流動性の悪化はプラントの運転性を下げる要因となることから、粒子表面へのEPR成分の滲み出しを抑制できる重合体の製造方法を選択することが望まれる。
【0120】
本発明に係る製造方法で得られるオレフィン類重合体において、オレフィン類重合体の溶融流れ性を示すメルトフローレート(MFR)は、オレフィン類重合体の優れた成形性を維持することが可能な程度に高値の範囲内であればよく、80~120g/10分間であればよく、100~120g/10分間であることが好ましい。
【0121】
なお、本出願書類において、メルトフローレート(MFR)は、ASTM D 1238、JIS K 7210に基づいて測定される値を意味する。
【0122】
本発明に係る製造方法で得られるオレフィン類重合体は、上記メルトフローレート(MFR)が特定の範囲内(80~120g/10分間)にあるときに、曲げ弾性率(FM)が、1900MPa以上であるものであり、1900~2500MPaであるものが好ましく、2000~2400MPaであるものがより好ましい。
【0123】
本発明に係る製造方法で得られるオレフィン類重合体において、曲げ弾性率(FM)が上記範囲内にあることにより、優れた剛性を容易に発揮することができる。
一般に、(オレフィン類重合用固体触媒成分を含む)オレフィン類重合用触媒を用いて得られるオレフィン類重合体において、溶融流れ性(メルトフローレート(MFR))と曲げ弾性率(FM)とはバーターの関係にあることが知られている。
通常、コハク酸ジエステル化合物を内部電子供与性化合物として含むオレフィン類重合用固体触媒成分を用いて曲げ弾性率(FM)が1900MPa以上のポリプロピレンを製造した場合においても、得られるポリプロピレンは、メルトフローレート(MFR)が極度に低下する傾向にある。
しかしながら、本発明に係る製造方法で得られるオレフィン類重合体においては、メルトフローレート(MFR)が80~120g/10分間と特定の高値の範囲内にあっても、曲げ弾性率(FM)が1900MPa以上のオレフィン類重合体を得ることができる。
【0124】
なお、本出願書類において、上記共重合体の曲げ弾性率(FM)は、日精樹脂工業(株)製NEX30III3EGを用い、成形温度200℃、金型温度40℃の条件でJIS K7139に規定される多目的試験片タイプA1を射出成形し、試験片の中央部から厚さ4.0mm、幅10.0mm、長さ80.0mmの試験片に切り出し、切り出した試験片について、23℃に調節された恒温室内で、状態調節を72時間行った後、JIS K7171に基づいて、測定雰囲気温度23℃で測定される値を意味する(単位はMPa)。
【0125】
本発明に係る製造方法で得られるオレフィン類重合体は、上記曲げ弾性率の規定を満たすものであることにより、優れた剛性を容易に発揮することができる。
【0126】
また、本発明に係る製造方法で得られるオレフィン類重合体は、オレフィン類重合体の優れた剛性を維持することができるように、該オレフィン類重合体からなる射出成形体断面における配向層の割合(F)が、16.0~28.0%であることが好ましく、18.0~28.0%であることがより好ましい。
ここで、本出願書類において、該オレフィン類重合体からなる射出成形体断面における配向層とは、複屈折度の高い表面の層(スキン層ともいう)を意味する。当該射出成形体断面は、上述した配向層と、内部の無配向層(コア層ともいう)とが形成され、それぞれが明確に分かれた層として視認される。配向層は高度に配向しているため弾性率や強度が大きいことが予想され、その結果、配向層が適度に厚い成形物ほど全体の弾性率や強度が大きくなると考えられる。一方、配向層が薄すぎる射出成形体は弾性率や強度が不足し、配向層が厚すぎる射出成形体は、配向層と無配向層のバランスが崩れてしまい、何れの場合も破断しやすくなる。本発明に係る製造方法で得られるオレフィン類重合体においては、上記配向層の割合(F)が上記範囲内にあることにより、高い曲げ弾性率を維持しつつ優れた剛性を容易に発揮することができる。
【0127】
なお、本出願書類において、上記オレフィン類重合体からなる射出成形体断面における配向層の割合(F)は、以下に示す方法により測定されたものを意味する。
1.成形品の形成
JIS K 7152-1及びJIS K 6921-2に準拠し、以下の条件でオレフィン類重合体の射出成型を行うことにより、図1に示すダンベル形の外観形状を有する射出成形体を得る。
[射出成型条件]
装置 :NEX-III-3EG 日精樹脂工業(株)製
試験片の種類 :JIS K 7139記載の多目的試験片タイプA1
樹脂の溶融温度:200℃
金型温度 :40℃
射出速度 :180mm/秒間
保圧 :50MPa-40秒間
2.測定試料(偏光顕微鏡観察用薄片)の作成
(1)図1に示すように、得られた成形品のゲートGから樹脂進行方向MDに長さ約7cmの位置c1において樹脂進行方向MDに対して垂直な方向に切断し、さらに、c1の位置より樹脂進行方向MDに長さ約2cmの位置c2において樹脂進行方向MDに対して垂直な方向に切断して、図2(a)に示す切断品S1を得る。
(2)図2(a)に示すように、(1)で得られた切断品S1の中央部(位置c3)において、樹脂進行方向MDと平行に切断して図2(b)に示す切断品S2を得る。
(3)図2(b)に示すように、回転式ミクロトーム装置(大和光機工業(株)製 RX-860)を用いて、切断品S2を位置c4において樹脂進行方向MDと平行に厚さ30μmとなるように切り出して、図2(c)に示す薄片状の測定試料S3を得る。
(4)図2(d)は、得られた薄片状の測定試料S3を示す概略図であって、図2(d)の左側の図が図2(c)に対応する薄片状の測定試料S3の側面図、図2(d)の右側の図が薄片状の測定試料S3の正面図を示すものである。
3.偏光顕微鏡観察
図3は、図2(d)の右図に示す薄片状の測定試料S3の正面図を拡大した図である。
上記測定試料S3を偏光顕微鏡装置((株)NIKON製 EPCLIPSE LV-100NDA)で観察して、コア層cと配向層h1、h2とを特定し、コア層の厚みをTc、配向層の厚みをTh1、Th2として、成型層の厚みに対する配向層の割合F(%)を下記式(β)により算出する。
F(%)={(Th1+Th2)/(Th1+Tc+Th2)}×100 (β)
なお、コア層の厚みTcと、配向層の厚みTh1、Th2とは、測定試料S3の任意の3箇所におけるコア層cの厚みと、配向層h1、h2の厚みを測定したときの各算術平均値を採用する。
【0128】
本発明によれば、溶融流れ性が高く成形性に優れるとともに、より一層曲げ弾性率が高く剛性に優れたオレフィン類重合体を製造する方法を提供することができる。
【実施例0129】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【0130】
(性能評価)
実施例及び比較例においては、以下に示す方法に従って各性能評価を行った。
【0131】
<チタン原子の含有割合>
チタン原子の含有割合は、予め加熱減圧乾燥により溶媒成分を完全に除去したオレフィン類重合用固体触媒成分を用い、JIS 8311-1997の方法に準じて測定した。
【0132】
<内部電子供与性化合物の含有割合>
内部電子供与性化合物(コハク酸ジエステル化合物およびフタル酸ジエステル化合物)の含有割合は、予め加熱減圧乾燥により溶媒成分を完全に除去したオレフィン類重合用固体触媒成分を加水分解した後、芳香族溶媒を用いて内部電子供与性化合物を抽出し、この溶液をガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、GC-14B)を用いて以下の条件にて測定することで求めた(ガスクロマトグラフィーFID法)。また、各成分のモル数については、ガスクロマトグラフィーの測定結果より、予め既知濃度において測定した検量線を用いて求めた。
[測定条件]
カラム:パックドカラム(φ2.6×2.1m,Silicone SE-30 10%,Chromosorb WAW DMCS 80/100、ジーエルサイエンス(株)社製)
検出器:FID(Flame Ionization Detector,水素炎イオン化型検出器)
キャリアガス:ヘリウム、流量40mL/分
測定温度:気化室280℃、カラム225℃、検出器280℃
【0133】
<重合活性>
混合固体触媒成分1g当たりの重合活性については、下記式(α)により求めた。
重合活性(g/g-cat)=重合体の質量(g)/混合固体触媒成分の質量(g) (α)
【0134】
<溶融流れ性(MFR)>
重合体の溶融流れ性を示すメルトフローレート(MFR)(g/10分間)を、ASTM D 1238、JIS K 7210に準じて測定した。
【0135】
<曲げ弾性率(FM)>
日精樹脂工業(株)製NEX30III3EGを用い、成形温度200℃、金型温度40℃の条件で作製した射出成形試験片(厚さ4.0mm、幅10.0mm、長さ80mm)を用い、JIS K7171に基づいて、重合体の曲げ弾性率(FM)を測定雰囲気温度23℃で測定した。
【0136】
<重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合(F)>
1.成形品の形成
JIS K 7152-1及びJIS K 6921-2に準拠し、以下の条件でオレフィン類重合体の射出成型を行うことにより、図1に示すダンベル形の外観形状を有する射出成形体を得た。
[射出成型条件]
装置 :NEX-III-3EG 日精樹脂工業(株)製
試験片の種類 :JIS K 7139記載の多目的試験片タイプA1
樹脂の溶融温度:200℃
金型温度 :40℃
射出速度 :180mm/秒間
保圧 :50MPa-40秒間
2.測定試料(偏光顕微鏡観察用薄片)の作成
(1)図1に示すように、得られた成形品のゲートGから樹脂進行方向MDに長さ約7cmの位置c1において樹脂進行方向MDに対して垂直な方向に切断し、さらに、c1の位置より樹脂進行方向MDに長さ約2cmの位置c2において樹脂進行方向MDに対して垂直な方向に切断して、図2(a)に示す切断品S1を得た。
(2)図2(a)に示すように、(1)で得られた切断品S1の中央部(位置c3)において、樹脂進行方向MDと平行に切断して図2(b)に示す切断品S2を得た。
(3)図2(b)に示すように、回転式ミクロトーム装置(大和光機工業(株)製 RX-860)を用いて、切断品S2を位置c4において樹脂進行方向MDと平行に厚さ30μmとなるように切り出して、図2(c)に示す薄片状の測定試料S3を得た。
(4)図2(d)は、得られた薄片状の測定試料S3を示す概略図であって、図2(d)の左側の図が図2(c)に対応する薄片状の測定試料S3の側面図、図2(d)の右側の図が薄片状の測定試料S3の正面図を示すものである。
3.偏光顕微鏡観察
図3は、図2(d)の右図に示す薄片状の測定試料S3の正面図を拡大した図である。
上記測定試料S3を偏光顕微鏡装置((株)NIKON製 EPCLIPSE LV-100NDA)で観察して、コア層cと配向層h1、h2とを特定し、コア層の厚みをTc、配向層の厚みをTh1、Th2として、成型層の厚みに対する配向層の割合F(%)は、下記式(β)により算出した。
F(%)={(Th1+Th2)/(Th1+Tc+Th2)}×100 (β)
なお、コア層の厚みTcと、配向層の厚みTh1、Th2とは、測定試料S3の任意の3箇所におけるコア層cの厚みと、配向層h1、h2の厚みを測定したときの各算術平均値を採用した。
【0137】
(製造例1)
<固体成分の合成>
撹拌機を具備し、窒素ガスで内部雰囲気が置換された容量500mLの丸底フラスコに、トルエン25mL、四塩化チタン20mLを加え、別に用意した容量300mLの丸底フラスコに、エトキシマグネシウム10gおよびトルエン30mLを装入して、懸濁状態とした。
次いで500mLの丸底フラスコへ、該懸濁溶液を複数回に分け添加し、熟成後に昇温し、60℃に達した時点で2,3-ジイソプロピルコハク酸ジエチル4.0mL(3.9g)を加え、さらに昇温して110℃とした。
その後110℃の温度を保持した状態で、3時間撹拌しながら反応させた。
反応終了後、100℃のトルエン80mLによる洗浄を4回繰り返した後、新たに四塩化チタン15mLおよびトルエン45mLを加え、100℃に昇温し、15分撹拌しながら反応させた。さらに、新たに四塩化チタン15mLおよびトルエン45mLを加え、100℃に昇温し、15分撹拌しながらの反応を2回実施した。反応終了後、60℃のn-ヘプタン75mLによる洗浄を6回繰り返した後、減圧乾燥して、粉末状の固体成分(a1)(第一のオレフィン類重合用固体触媒成分)を得た。
得られた固体成分(a1)において、チタン含有割合は3.4質量%(0.071mol%)、2,3-ジイソプロピルコハク酸ジエチル(コハク酸ジエステル化合物)含有割合は18.7質量%(0.072mol%)であった。
【0138】
(製造例2)
<固体成分の合成>
撹拌機を具備し、窒素ガスで内部雰囲気が置換された容量500mLの丸底フラスコに、トルエン40mL、四塩化チタン20mLを加え、別に用意した容量300mLの丸底フラスコに、エトキシマグネシウム10gおよびトルエン45mLを装入して、フタル酸ジ-n-ブチル(フタル酸ジエステル化合物)2.6mLを加え懸濁状態とした。
次いで500mLの丸底フラスコへ、該懸濁溶液を複数回に分け添加し、熟成後に昇温し、60℃に達した時点でフタル酸ジ-n-ブチル1.2mL(1.3g)を加え、さらに昇温して110℃とした。
その後液温110℃を保持した状態で、2時間撹拌しながら反応させた。
反応終了後、上澄液を除去し、トルエン100mLによる洗浄を4回繰り返した後、新たに四塩化チタンを20mL、トルエンを80mL装入して105℃の液温を保持して2時間反応させた。
反応終了後、n-ヘプタン100mLによる洗浄を8回繰り返した後、減圧乾燥して粉末状の固体成分(b1)(第二のオレフィン類重合用固体触媒成分)を得た。
得られた固体成分(b1)において、チタン含有割合は1.9質量%(0.040mol%)、フタル酸ジ-n-ブチル(フタル酸ジエステル化合物)含有割合は10.5質量%(0.040mol%)であった。
【0139】
(実施例1)
<混合固体触媒成分の調製>
窒素ガスで置換された仕込み容器を準備し、製造例1で得られた固体成分(a1)2.0mgと、製造例2で得られた固体成分(b1)5.9mgを装入し、混合固体触媒成分(A1)(オレフィン類重合用固体触媒成分混合物)を得た。
得られた混合固体触媒成分(A1)中における各成分の含有割合を表1および表2に示す。
【0140】
<重合触媒の形成及び重合反応>
窒素ガスで置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン(T01)0.26ミリモル及び前記混合固体触媒成分(A1)をチタン原子として0.0038ミリモル装入し、重合用触媒を形成した。
その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間の重合反応を行なった。
このときの固体触媒成分1g当たりのプロピレン重合活性(PP重合活性)、重合体の溶融流れ性(MFR)、重合体の曲げ弾性率(FM)、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した。結果を表3に示す。
また、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した際に使用した、薄片状の測定試料S3の偏光顕微鏡画像を図4に示す。
【0141】
(実施例2)
<混合固体触媒成分の調製>
窒素ガスで置換された仕込み容器を準備し、製造例1で得られた固体成分(a1)3.4mgと、製造例2で得られた固体成分(b1)3.4mgを装入し、混合固体触媒成分(A2)(オレフィン類重合用固体触媒成分混合物)を得た。
得られた混合固体触媒成分(A2)中における各成分の含有割合を表1および表2に示す。
【0142】
<重合触媒の形成及び重合反応>
窒素ガスで置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン(T01)0.26ミリモル及び前記混合固体触媒成分(A2)をチタン原子として0.0038ミリモル装入し、重合用触媒を形成した。
その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間の重合反応を行なった。
このときの固体触媒成分1g当たりのプロピレン重合活性(PP重合活性)、重合体の溶融流れ性(MFR)、重合体の曲げ弾性率(FM)、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した。結果を表3に示す。
また、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した際に使用した、薄片状の測定試料S3の偏光顕微鏡画像を図5に示す。
【0143】
(実施例3)
<混合固体触媒成分の調製>
窒素ガスで置換された仕込み容器を準備し、製造例1で得られた固体成分(a1)4.5mgと、製造例2で得られた固体成分(b1)1.5mgを装入し、混合固体触媒成分(A3)(オレフィン類重合用固体触媒成分混合物)を得た。
得られた混合固体触媒成分(A3)中における各成分の含有割合を表1および表2に示す。
【0144】
<重合触媒の形成及び重合反応>
窒素ガスで置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン(T01)0.26ミリモル及び前記混合固体触媒成分(A3)をチタン原子として0.0038ミリモル装入し、重合用触媒を形成した。
その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間の重合反応を行なった。
このときの固体触媒成分1g当たりのプロピレン重合活性(PP重合活性)、重合体の溶融流れ性(MFR)、重合体の曲げ弾性率(FM)、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した。結果を表3に示す。
また、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した際に使用した、薄片状の測定試料S3の偏光顕微鏡画像を図6に示す。
【0145】
(比較例1)
比較例1では、製造例1で得られた固体成分(a1)(第一のオレフィン類重合用固体触媒成分)を、固体触媒成分(B1)として後述の重合触媒の形成及び重合反応に適用した。
固体触媒成分(B1)中における各成分の含有割合を表1および表2に示す。
【0146】
<重合触媒の形成及び重合反応>
窒素ガスで置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン(T01)0.26ミリモル及び前記混合固体触媒成分(B1)をチタン原子として0.0038ミリモル装入し、重合用触媒を形成した。
その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間の重合反応を行なった。
このときの固体触媒成分1g当たりのプロピレン重合活性(PP重合活性)、重合体の溶融流れ性(MFR)、重合体の曲げ弾性率(FM)、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した。結果を表3に示す。
また、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した際に使用した、薄片状の測定試料S3の偏光顕微鏡画像を図7に示す。
【0147】
(比較例2)
比較例2では、製造例2で得られた固体成分(b1)(第二のオレフィン類重合用固体触媒成分)を、固体触媒成分(B2)として後述の重合触媒の形成及び重合反応に適用した。
固体触媒成分(B2)中における各成分の含有割合を表1および表2に示す。
【0148】
<重合触媒の形成及び重合反応>
窒素ガスで置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン(T01)0.26ミリモル及び前記混合固体触媒成分(B2)をチタン原子として0.0024ミリモル装入し、重合用触媒を形成した。
その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間の重合反応を行なった。
このときの固体触媒成分1g当たりのプロピレン重合活性(PP重合活性)、重合体の溶融流れ性(MFR)、重合体の曲げ弾性率(FM)、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した。結果を表3に示す。
また、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した際に使用した、薄片状の測定試料S3の偏光顕微鏡画像を図8に示す。
【0149】
(比較例3)
<混合固体触媒成分の調製>
窒素ガスで置換された仕込み容器を準備し、製造例1で得られた固体成分(a1)4.7mgと、製造例2で得られた固体成分(b1)1.2mgを装入し、混合固体触媒成分(A3)(オレフィン類重合用固体触媒成分混合物)を得た。
得られた混合固体触媒成分(B3)中における各成分の含有割合を表1および表2に示す。
【0150】
<重合触媒の形成及び重合反応>
窒素ガスで置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン(T01)0.26ミリモル及び前記混合固体触媒成分(B3)をチタン原子として0.0038ミリモル装入し、重合用触媒を形成した。
その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間の重合反応を行なった。
このときの固体触媒成分1g当たりのプロピレン重合活性(PP重合活性)、重合体の溶融流れ性(MFR)、重合体の曲げ弾性率(FM)、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した。結果を表3に示す。
また、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した際に使用した、薄片状の測定試料S3の偏光顕微鏡画像を図9に示す。
(比較例4)
【0151】
<混合固体触媒成分の調製>
窒素ガスで置換された仕込み容器を準備し、製造例1で得られた固体成分(a1)1.6mgと、製造例2で得られた固体成分(b1)6.5mgを装入し、混合固体触媒成分(B4)(オレフィン類重合用固体触媒成分混合物)を得た。
得られた混合固体触媒成分(B4)中における各成分の含有割合を表1および表2に示す。
【0152】
<重合触媒の形成及び重合反応>
窒素ガスで置換された内容積2.0リットルの攪拌機付オートクレーブに、トリエチルアルミニウム1.32ミリモル、ジシクロペンチルビス(エチルアミノ)シラン(T01)0.26ミリモル及び前記混合固体触媒成分(B4)をチタン原子として0.0038ミリモル装入し、重合用触媒を形成した。
その後、水素ガス1.5リットル、液化プロピレン1.4リットルを装入し、20℃で5分間予備重合を行なった後に昇温し、70℃で1時間の重合反応を行なった。
このときの固体触媒成分1g当たりのプロピレン重合活性(PP重合活性)、重合体の溶融流れ性(MFR)、重合体の曲げ弾性率(FM)、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合を測定した。結果を表3に示す。
また、得られた重合体からなる射出成形板断面における配向層の割合F(%)を測定した際に使用した、薄片状の測定試料S3の偏光顕微鏡画像を図10に示す。
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
表1および表3より、実施例1~実施例3においては、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物を含む第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びフタル酸ジエステル化合物を含む第二のオレフィン類重合用固体触媒成分とを、質量比で、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分:第二のオレフィン類重合用固体触媒成分=37:63~87:13となるように含むオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を調製し、これをオレフィン類の重合に用いることにより、溶融流れ性MFRが80~120g/10分間と高く成形性に優れるとともに曲げ弾性率FMが1900MPa以上と高く剛性に優れるオレフィン類重合体を簡便に製造し得ることが分かる。
これは、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分及び第二のオレフィン類重合用固体触媒成分を各々所定割合で含む混合物をオレフィン類の重合に供することにより、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分が、高い曲げ弾性率を有するとともに分子量分布の広い第一のオレフィン類重合体を生成し、この分子量分布の広い第一のオレフィン類重合体が、第二のオレフィン類重合用固体触媒成分により生成する第二のオレフィン類重合体と高い相溶性を示すためと考えられる。実際、図4図6および表3の配合層の割合Fに示すように、実施例1~実施例3で得られたオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を用いてオレフィン類を重合したときに、得られたオレフィン類重合体において曲げ弾性率に影響する配向層(Th1及びTh2)の割合を大きく変化させることなく高い溶融流れ性を発揮し得ることが分かる。
【0157】
一方、表1および表3より、比較例1および比較例2においては、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びコハク酸ジエステル化合物を含むオレフィン類重合用固体触媒成分か、マグネシウム、チタン、ハロゲン及びフタル酸ジエステル化合物を含むオレフィン類重合用固体触媒成分のいずれかしか使用していないことから、溶融流れ性MFRが56g/10分間と低く、成形性に劣るオレフィン類重合体しか得られなかったり(比較例1)、オレフィン類の重合に用いたときに、曲げ弾性率FMが1720MPaと低く剛性に劣るオレフィン類重合体しか得られないことが分かる(比較例2)。
【0158】
また、表1および表3より、比較例3および比較例4においては、第一のオレフィン類重合用固体触媒成分と、第二のオレフィン類重合用固体触媒成分との混合割合が所定範囲外にあるオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を調製し、これをオレフィン類の重合に用いていることから、溶融流れ性MFRが78g/10分間と低く、成形性に劣るオレフィン類重合体しか得られなかったり(比較例3)、オレフィン類の重合に用いたときに、曲げ弾性率FMが1780MPaと低く剛性に劣るオレフィン類重合体しか得られないことが分かる(比較例4)。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明によれば、高い溶融流れ性および剛性を両立させたオレフィン類重合体を簡便に製造し得るオレフィン類重合用固体触媒成分混合物を提供するとともに、オレフィン類重合用触媒及びオレフィン類重合体の製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10