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特開2024-176542光音響波発生シート、光音響計測方法、光学的硬さ計測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176542
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】光音響波発生シート、光音響計測方法、光学的硬さ計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/40 20060101AFI20241212BHJP
   G01N 29/24 20060101ALI20241212BHJP
   G01N 29/04 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01N3/40 C
G01N29/24
G01N29/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095127
(22)【出願日】2023-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114605
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 久彦
(72)【発明者】
【氏名】田村 和輝
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA12
2G047BA04
2G047BC20
2G047CA04
2G047DB12
2G047EA05
2G047EA16
2G047GD01
2G047GF06
(57)【要約】
【課題】高強度のパルス光や特殊なシャーレを用いなくても、試料加振のための光音響波を効率よく発生できる光音響波発生シートを提供する。
【解決手段】本発明の光音響波発生シート71は、試料接触体3の第1面3aに接触配置された試料2の光音響計測に使用される。このシート71は第1面3aの反対側にある第2面3bに接触配置される。このシート71は、光反射体73、光吸収体74、光音響波発生体72を備える。光反射体73は、計測光L2を反射する。光吸収体74は、光反射体73からシート71の面方向にずれた位置に存在し、励起用のパルス光L1を吸収して熱エネルギーに変換する。光透過性の光音響波発生体72は、光吸収体74に接触して配置され、光吸収体74よりも熱膨張係数が大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料接触体の第1面に接触して配置された試料を光音響計測するために、前記第1面の反対側にある第2面に接触して配置される光音響波発生シートであって、
計測光を反射する光反射体と、
前記光反射体から前記シートの面方向にずれた位置に少なくとも存在し、励起用のパルス光を吸収して熱エネルギーに変換する光吸収体と、
前記光吸収体に接触して配置され、前記光吸収体よりも熱膨張係数が大きい光透過性の光音響波発生体と
を備えた光音響波発生シート。
【請求項2】
前記光音響波発生体は、前記光反射体及び前記光吸収体を覆うとともに、それらよりも広面積にかつ均一な厚さで形成された透明樹脂層であることを特徴とする請求項1に記載の光音響波発生シート。
【請求項3】
前記光反射体は、金属層であり、
前記光吸収体は、光を吸収する無機微粒子が分散された微粒子分散層である
ことを特徴とする請求項2に記載の光音響波発生シート。
【請求項4】
前記光音響波発生シートは、全体として可撓性を有するとともに、前記試料接触体の前記第1面に対して貼付及び剥離可能な光音響波発生テープであることを特徴とする請求項3に記載の光音響波発生シート。
【請求項5】
前記シートの片側面に形成された光透過性の粘着層と、
前記粘着層を覆うように剥離可能に形成された保護層と
をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
【請求項6】
前記光反射体は、前記光音響波発生シートの面積の50%未満の面積を占めるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
【請求項7】
前記光反射体及び前記光吸収体はそれぞれ複数形成され、
複数の前記光反射体同士の隙間、及び複数の前記光吸収体同士の隙間は、いずれも前記試料の大きさよりも小さい
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
【請求項8】
前記光吸収体の大きさは、発生する光音響波の波長よりも大きく、
前記光吸収体及び前記光音響波発生体の厚さは、いずれも発生する光音響波の波長以上である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
【請求項9】
前記試料接触体はプラスチックシャーレの底部であり、前記試料は細胞であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
【請求項10】
前記試料接触体は内視鏡の先端に設けられる先端配置部材であり、前記試料は生体内組織であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
【請求項11】
第1面及びその反対側にある第2面を有する試料接触体の前記第2面に接触して配置され、
計測光を反射する光反射体と、
前記光反射体から面方向にずれた位置に少なくとも存在し、励起用のパルス光を吸収して熱エネルギーに変換する光吸収体と、
前記光吸収体に接触して配置され、前記光吸収体よりも熱膨張係数が大きい光透過性の光音響波発生体と
を備える光音響波発生用構造物を用いて、光音響波を発生させる方法であって、
前記第2面側から前記光吸収体にパルス光を照射して、前記光吸収体を発熱させるステップと、
前記光吸収体の発熱により前記光音響波発生体を熱膨張させることで光音響波を発生させるステップと
を含む光音響波発生方法。
【請求項12】
第1面及びその反対側にある第2面を有する試料接触体の前記第2面に接触して配置され、
計測光を反射する光反射体と、
前記光反射体から面方向にずれた位置に少なくとも存在し、励起用のパルス光を吸収して熱エネルギーに変換する光吸収体と、
前記光吸収体に接触して配置され、前記光吸収体よりも熱膨張係数が大きい光透過性の光音響波発生体と
を備える光音響波発生用構造物を用いて光音響波を発生させることで、前記第1面に接触して配置された試料の硬さを光学的に計測する方法であって、
前記光音響波発生用構造物を前記試料接触体の前記第2面に接触させて配置するステップと、
前記第2面側から前記光吸収体にパルス光を照射して、前記光吸収体を発熱させるステップと、
前記光吸収体の発熱により前記光音響波発生体を熱膨張させることで、光音響波を発生させるステップと、
前記光音響波で前記試料の計測点を振動させたときに前記計測点で反射して前記光反射体上の特定点に戻ってくる反射波と、前記試料接触体の前記第2面に照射された参照光との干渉から微小振動を検出するステップと、
前記微小振動の検出結果に基づいて前記特定点の変位を光学的に計測し、前記試料の前記計測点の硬さを計測するステップと
を含む光学的硬さ計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響波発生シート、光音響計測方法、光学的硬さ計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に機械物性は、試料に外力を与えてその変位を計測することにより求めることができる。ただし、試料が小さな単一の細胞である場合、外力に対する耐久性が極めて弱く破壊しやすいため、変位を計測することは難しい。細胞の機械物性を計測するための従来の手法としては、例えば原子間力顕微鏡を使用して機械物性を計測する手法がある。しかし、探針を細胞に接近させる必要があることから、細胞の汚染や損傷が懸念され、機械物性を計測するための有効な手法とは言えない。また、原子間力顕微鏡を用いた手法は、通常の光学顕微鏡を用いた細胞観察とは全く異なるものであるため、生物分野の研究者が使用するにあたって障壁が大きい。
【0003】
このような欠点を解消するためには、細胞培養用のシャーレを密閉して培養環境を保持した状態にして非接触で細胞の機械物性を計測できる手法の確立が不可欠とされている。このような事情のもと、本願発明者らは、細胞培養用のプラスチックシャーレを加振しその変位を光学的に計測することで、細胞の硬さを計測する方法を従来提案している(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-163812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本願発明者らが行った実験によると、光学式硬さ計測の実現にあたり、加振のために30μJ/pulse程度の強いパルス光が必要なことが明らかとなっている。パルス光による加振では、パルス幅10ナノ秒程度のパルス光を用いる必要がある。このようなパルス光をポリスチレン等からなるプラスチックシャーレに照射すると、光吸収によってプラスチックシャーレの温度が瞬時に上昇し体積膨張することで、光音響波が得られる。ところが、細胞の培養時によく使用される一般的なプラスチックシャーレは、パルス光のうち5%程度しか吸収しない。そのため、パルス光を光音響波に変換する効率が5%以下となる。
【0006】
本願発明者らは、光学式硬さ計測の実現にあたり、光の分布を調整することで、細胞にダメージを与えずに強いパルス光を照射する手法を検討していた。しかしながら、強いパルス光を得るためには大きなパルス光発生ユニットが必要となり、装置全体の大規模化が避けられない。それに加えて、シャーレについても計測に適した特殊なものを選定する必要がある。
【0007】
その一方で、計測に使用するシャーレの選定にあたっては、研究者の好みや実験との相性がある。このため、シャーレの種類を限定することなく多種類のシャーレで硬さ計測が実現できたほうが好ましいという事情もある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高強度のパルス光や特殊なシャーレを用いなくても、試料加振のための光音響波を効率よく発生させることができる光音響波発生シートを提供することにある。また、本発明の別の目的は、上記の好適な光音響波発生シートを用いることで、比較的低コストかつ容易に所望とする計測を非接触で行うことができる光音響計測方法、光学的硬さ計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段を下記[1]~[12]に列挙する。
[1]試料接触体の第1面に接触して配置された試料を光音響計測するために、前記第1面の反対側にある第2面に接触して配置される光音響波発生シートであって、計測光を反射する光反射体と、前記光反射体から前記シートの面方向にずれた位置に少なくとも存在し、励起用のパルス光を吸収して熱エネルギーに変換する光吸収体と、前記光吸収体に接触して配置され、前記光吸収体よりも熱膨張係数が大きい光透過性の光音響波発生体とを備えた光音響波発生シート。
[2]前記光音響波発生体は、前記光反射体及び前記光吸収体を覆うとともに、それらよりも広面積にかつ均一な厚さで形成された透明樹脂層であることを特徴とする上記1に記載の光音響波発生シート。
[3]前記光反射体は、金属層であり、前記光吸収体は、光を吸収する無機微粒子が分散された微粒子分散層であることを特徴とする上記2に記載の光音響波発生シート。
[4]前記光音響波発生シートは、全体として可撓性を有するとともに、前記試料接触体の前記第1面に対して貼付及び剥離可能な光音響波発生テープであることを特徴とする上記3に記載の光音響波発生シート。
[5]前記シートの片側面に形成された光透過性の粘着層と、前記粘着層を覆うように剥離可能に形成された保護層とをさらに備えたことを特徴とする上記1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
[6]前記光反射体は、前記光音響波発生シートの面積の50%未満の面積を占めるように形成されていることを特徴とする上記1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
[7]前記光反射体及び前記光吸収体はそれぞれ複数形成され、複数の前記光反射体同士の隙間、及び複数の前記光吸収体同士の隙間は、いずれも前記試料の大きさよりも小さいことを特徴とする上記1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
[8]前記光吸収体の大きさは、発生する光音響波の波長よりも大きく、前記光吸収体及び前記光音響波発生体の厚さは、いずれも発生する光音響波の波長以上であることを特徴とする上記1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
[9]前記試料接触体はプラスチックシャーレの底部であり、前記試料は細胞であることを特徴とする上記1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
[10]前記試料接触体は内視鏡の先端に設けられる先端配置部材であり、前記試料は生体内組織であることを特徴とする上記1乃至4のいずれか1項に記載の光音響波発生シート。
[11]第1面及びその反対側にある第2面を有する試料接触体の前記第2面に接触して配置され、計測光を反射する光不透過性の光反射体と、前記光反射体から面方向にずれた位置に少なくとも存在し、励起用のパルス光を吸収して熱エネルギーに変換する光吸収体と、前記光吸収体に接触して配置され、前記光吸収体よりも熱膨張係数が大きい光透過性の光音響波発生体とを備える光音響波発生用構造物を用いて、光音響波を発生させる方法であって、前記第2面側から前記光吸収体にパルス光を照射して、前記光吸収体を発熱させるステップと、前記光吸収体の発熱により前記光音響波発生体を熱膨張させることで光音響波を発生させるステップとを含む光音響波発生方法。
[12]第1面及びその反対側にある第2面を有する試料接触体の前記第2面に接触して配置され、計測光を反射する光不透過性の光反射体と、前記光反射体から面方向にずれた位置に少なくとも存在し、励起用のパルス光を吸収して熱エネルギーに変換する光吸収体と、前記光吸収体に接触して配置され、前記光吸収体よりも熱膨張係数が大きい光透過性の光音響波発生体とを備える光音響波発生用構造物を用いて光音響波を発生させることで、前記第1面に接触して配置された試料の硬さを光学的に計測する方法であって、前記光音響波発生用構造物を前記試料接触体の前記第2面に接触させて配置するステップと、前記第2面側から前記光吸収体にパルス光を照射して、前記光吸収体を発熱させるステップと、前記光吸収体の発熱により前記光音響波発生体を熱膨張させることで、光音響波を発生させるステップと、前記光音響波で前記試料の計測点を振動させたときに前記計測点で反射して前記光反射体上の特定点に戻ってくる反射波と、前記試料接触体の前記第2面に照射された参照光との干渉から微小振動を検出するステップと、
前記微小振動の検出結果に基づいて前記特定点の変位を光学的に計測し、前記試料の前記計測点の硬さを計測するステップとを含む光学的硬さ計測方法。
【発明の効果】
【0010】
以上詳述したように、請求項1~8に記載の発明によると、高強度のパルス光や特殊なシャーレを用いなくても、試料加振のための光音響波を効率よく発生させることができる光音響波発生シートを提供することができる。請求項9~11に記載の発明によると、上記の好適な光音響波発生シートを用いることで、比較的低コストかつ容易に所望とする計測を非接触で行うことができる光音響計測方法、光学的硬さ計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の光音響計測方法に用いる計測システムの構成を示す概略図。
図2】実施形態の光音響計測方法に用いる光音響波発生シールの平面図。
図3図2の光音響波発生シールのA-A線断面図。
図4】実施形態の光音響計測方法の原理を説明するための概略図。
図5】実施形態の光音響計測方法の原理を説明するための概略図。
図6】実施形態の光音響計測方法の原理を説明するための概略図。
図7】実施形態の光音響計測方法の原理を説明するための概略図。
図8】別の実施形態の光音響波発生シールの平面図。
図9図8の光音響波発生シールのB-B線断面図。
図10】別の実施形態の光音響波発生シールの平面図。
図11図10の光音響波発生シールのC-C線断面図。
図12】別の実施形態の光音響波発生シールにおいて、底部の厚さt、角度θ、光吸収体の直径または対角距離Dとの間に成り立つ関係を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した本実施形態の計測システムを図1図7に基づき詳細に説明する。図1は、本実施形態の光音響計測方法に用いる計測システムの構成を示す概略図である。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態の計測システムは、光学顕微鏡11と光音響計測ユニット31とからなる。この計測システムは、細胞培養用のプラスチックシャーレ1を密閉して培養環境を保持した状態にして、非接触で細胞2の機械物性を計測するための装置である。光音響計測ユニット31は、既存の光学顕微鏡11に後付けすることで、その光学顕微鏡11に光音響計測機能を付加するためのユニットである。この後付け光音響計測ユニット31の取付対象となる光学顕微鏡11は、顕微鏡本体12、試料ステージ13、対物レンズ(集光加振部)36、反射ミラー15などといった基本構成を備えている。試料ステージ13上には、細胞2を収容したプラスチックシャーレ1が載置されている。本実施形態においては、プラスチックシャーレ1の底部3が試料支持体としての役割を果たしている。底部3の上面は、試料である細胞2を接触させて支持するその支持面3a側となっている。その反対にある下面は、非支持面3b側となっている。
【0014】
顕微鏡側主光路R1上に設けられた対物レンズ36は、プラスチックシャーレ1内の細胞2を光学的に観察すべく、そこに光を集束できるように構成されている。集光加振部としての対物レンズ36は、試料支持体である底部3の非支持面3b側、つまり図1において底部3の下方に配置されている。この対物レンズ36は、励起光L1を底部3の非支持面3b上における加振領域P1に集光させて、加振領域P1に振動を加えるための手段として機能する。反射ミラー15は、顕微鏡側主光路R1上に設けられている。この反射ミラー15があることにより、対物レンズ36側から入射した光線が反射されて、カメラポート14に到るようになっている。
【0015】
光音響計測ユニット31は、パルス光源21、光スキャナ(走査部)41、光干渉計51、制御装置61、入出力インターフェース63等を装置本体32の内部に備えている。パルス光源21から非支持面3bに到る光線の通り道である主光路R1上には、パルス光源21側から順に、一対のレンズ間にピンホールを配置したレンズユニット22、ダイクロイックミラー26、光スキャナ41が配置されている。
【0016】
パルス光源21は、光音響波W1を発生させる励起光L1を発生するための光源である。このパルス光源21が発生するパルス光の波長は特に限定されないが、例えば340nm~1200nm程度の波長(即ち紫外線領域から近赤外線領域にわたる波長)であればよく、本実施形態では532nmまたは1064nmに設定している。このパルス光源21としては、非常に短時間のパルス光を発生するものが使用され、例えばパルス幅が100ナノ秒以下のパルス光を発生するものが使用される。具体的には、パルス幅が10ナノ秒程度のパルスレーザ光を発生するパルスレーザ光源が使用される。本実施形態では、10ナノ秒程度のパルスレーザ光を発生可能なパルスレーザ光源を用いている。なお、このようなパルス光源21としてはパルスレーザ光源が好ましいが、パルスレーザ光源の代わりに、例えば発光ダイオードなどを使用してもよい。
【0017】
走査部としての光スキャナ41は、底部3の非支持面3b上における加振領域P1を非支持面3bの面方向(XY方向)に沿って高速で移動させるための手段である。本実施形態においては、一対のガルバノミラー42、43を用いて光を走査するガルバノスキャナが用いられている。なお、ガルバノミラー42、43を用いたガルバノスキャナの代わりに、例えばMEMSミラーを用いて光を走査するMEMSスキャナを用いてもよい。
【0018】
光干渉計51は、光音響波W1に起因して発生する振動を光学的に検知するための装置であって、主光路R1から分岐した別の光路(副光路R2)上に配置されている。好適な光干渉計51としては例えばマイケルソン干渉計が挙げることができ、本実施形態ではこれを用いている。副光路R2と主光路R1とは、上記のダイクロイックミラー26にて交わっている。ダイクロイックミラー26と光干渉計51との間には、一対のレンズ間にピンホールを配置したレンズユニット54が配置されている。この光干渉計51は、光電変換部52とレーザ光源53とを有している。レーザ光源53は、光干渉法による計測に用いる計測光L2を発生する。計測光L2は、光音響波W1を発生させるためのものではないため、上記の励起光L1(532nmまたは1064nmの励起光L1)とは異なる波長の光が使用される。本実施形態では、例えば可視光領域全般のレーザ光(400nm~700nm程度のレーザ光(ただし532nmを除く))を計測光L2として使用している。この計測光L2は、集光加振部である対物レンズ36を介して底部3の非支持面3b側まで達した後、反射光L3となって戻ってくる。なお、レーザ光源53から照射された計測光L2のうちの一部は、途中で分岐されて参照光(図示略)となり、図示しない参照体にて反射された後に反射光L3と合成される。光電変換部52は、非支持面3b側にて反射されて戻ってくる計測光L2の反射光L3と参照光との合成光を受信し、両者の干渉から底部3の微小振動(即ち微小変位)を検出して電気信号に変換する。光電変換部52としては、例えばフォトダイオードや光電子増倍管などが用いられる。
【0019】
制御装置61は、例えばCPU、ROM、RAMなどによって構成されパーソナルコンピュータであり、パルス光源21、対物レンズ36、走査部41及び光干渉計51と電気的に接続されている。この制御装置61は、所定のプログラムを格納しており、そのプログラムに従ってパルス光源21、対物レンズ36、走査部41及び光干渉計51の動作を適宜制御している。この制御装置61は、機械物性値算出部としての役割を果たしている。機械物性値算出部は、光干渉計51からのデータに基づいて、計測点P2における機械物性値を算出する演算を行う。本実施形態の制御装置61では、例えば硬さ、弾性、粘性を計測するためのプログラムに基づいて、硬さ、弾性、粘性が算出される。入出力インターフェース63は、制御装置61に電気的に接続されるとともに、装置外部の図示しないディスプレイ装置や入力装置などに電気的に接続されている。
【0020】
次に、光音響計測方法に用いる光音響波発生シート(光音響波発生テープ)71について説明する。図2は光音響波発生テープ71の平面図であり、図3はそのA-A線断面図である。この光音響波発生テープ71は、底部3の支持面3a(即ち内面)に接触して配置された細胞2を光音響計測する際に使用する部材であって、底部3の非支持面3b(即ち外面)に接触して配置される。なお、この光音響波発生テープ71は、全体として可撓性を有するシート状の積層体であり、底部3の非支持面3bに対して貼付及び剥離可能となっている。
【0021】
本実施形態の光音響波発生テープ71は、光反射体73、光吸収体74、光音響波発生体72、粘着層76、保護層77を備えている。光音響波発生テープ71の平面視形状は特に限定されず任意であるが、例えば本実施形態では矩形状とされている。光音響波発生テープ71は、光反射体73、光吸収体74、光音響波発生体72及び粘着層76により構成されるテープ本体と、その片側面を全体的に覆うようにして保護する保護層77とからなる。保護層77はテープ本体を支持する可撓性の基材でもあり、例えば紙製または樹脂製のシート材で形成されている。なお、この保護層77は、粘着層76から剥離可能であり、光音響波発生テープ71の使用時にはテープ本体から剥離されることで除去される。保護層77の片側面の全域には、粘着層76が設けられている。粘着層76は、例えば光透過性を有する透明な粘着剤により形成された層であり、具体的には、例えばゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤などにより形成された層である。
【0022】
この光音響波発生テープ71における光反射体73は、計測光(即ち光干渉計が発する光であって、連続波またはパルス波の光)を反射するための部位であって、光を反射しうる材料を用いて粘着層76上に形成されている。本実施形態において光反射体73は、平面視で矩形帯状に形成された複数の金属層であって、互いに並行かつ等間隔となるように配置されている。光音響波発生テープ71における光反射体73の面積率は、特に限定されず任意に設定される。例えば、光反射体73は、光音響波発生テープ71の面積の50%未満の面積を占めるように形成され、好ましくは40%未満の面積を占めるように形成される。光反射体73の面積率をこのように設定した場合、透過光を用いて試料2を光学顕微鏡で観察しやすくなる結果、例えば光音響計測の前に試料2の存在する位置等の把握が容易になる。なお、光反射体73の面積率が高くなりすぎると、光反射体73により光が遮られやすくなるため、透過光の量が少なくなるおそれがある。
【0023】
光反射体73を形成する金属層としては、入射した光の少なくとも一部を反射しうるものであれば特に限定されず、任意のものが使用可能である。このような金属層として、例えば、銅層、アルミニウム層、ニッケル層、スズ層、鉄層などを挙げることができる。金属層からなる光反射体73は、任意の薄膜形成法により形成されてもよく、その手法としては、例えばエッチング法、めっき法、印刷法などを挙げることができる。ここでは、例えばアルミニウム箔を貼り付けた後にエッチングするという手順を採用している。あるいは、あらかじめ所定の大きさ及び形状にカットしたアルミニウム箔を所定の位置に貼り付けるという手順を採用しても勿論よい。
【0024】
光吸収体74は、励起用のパルス光を吸収して熱エネルギーに変換する部位として設けられていている。光吸収体74の形状や大きさは特に限定されないが、本実施形態における光吸収体74は矩形状であって、矩形帯状をなす光反射体73上における複数箇所にて等間隔に形成されている。即ち光吸収体74は、光反射体73上にて積層されている(換言すると、光反射体73からシート面方向にずれていない位置に存在する)ものの、平面視において光反射体73からシート面方向にずれた位置にも存在すると把握することができる。また、本実施形態の光吸収体74は、光を吸収する無機微粒子が分散された微粒子分散層であって、具体的にはカーボン微粒子や金ナノ粒子等が分散されたものとなっている。ここでは、カーボンブラックが分散された黒インクを印刷するという手法を用いて、光吸収体74である微粒子分散層を形成している。
【0025】
光音響波発生テープ71を構成する音響波発生体72は、光吸収体74に対するパルス光照射に基づいて光音響波を発生する部位として設けられている。音響波発生体72は、光反射体73及び光吸収体74に接触して配置されるとともに、光吸収体74よりも熱膨張係数が大きい光透過性の材料からなる層である。この光音響波発生体72は、光反射体73及び光吸収体74を覆うべく、シートの全域に設けられている。本実施形態において具体的には、光音響波発生体72は、光反射体73及び光吸収体74よりも広面積にかつ均一な厚さで形成された透明樹脂層となっている。このような透明樹脂層は、例えば2液硬化性の樹脂の硬化物を用いて形成されることができる。
【0026】
光音響波発生体72で覆われた光吸収体74にパルス光を照射した場合、光吸収体74は、光エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換することで、自身の温度を上昇させる。すると、光音響波発生体72において光吸収体74のすぐ近くに隣り合う隣接領域P4(図5図6参照)が瞬時に加熱され、熱膨張によって体積が瞬時に大きくなる。このような光音響効果により、隣接領域P4を発振源とする縦波または横波の光音響波が発生する。ちなみに、光音響波発生体72を形成しておくと、光音響波発生体72を形成しない場合に比べて、光音響波を発生させる効率を10倍以上高めることが可能となる。
【0027】
本実施形態における光反射体73及び光吸収体74は、上述したようにそれぞれ複数形成されている。複数の光反射体73同士の隙間C1、及び複数の光吸収体74同士の隙間C2は、いずれも試料である細胞2の大きさよりも小さくなるように設定されることがよい。本実施形態において、例えば直径10μm~30μm程度のヒトの細胞2を試料として用いた場合、隙間C1、C2はともにそれよりも小さい値、具体的には1μm~10μm程度の大きさに設定されることが好ましい。なお、光吸収体74の平面視での大きさは、発生する光音響波の波長よりも大きいことがよい。また、光吸収体74及び光音響波発生体72の厚さは、いずれも発生する光音響波の波長以上となるように設定されることがよい。例えばパルス幅10ナノ秒程度のパルスレーザ光を使用する場合、発生する光音響波の中心周波数は20MHz程度であることが知られている。この場合、光音響波の波長は100μm程度となる。よって、光吸収体74の平面視での大きさは100μmよりも大きく設定されることが好ましく、光吸収体74及び光音響波発生体72の厚さは100μm以上に設定されることが好ましいことになる。
【0028】
次に、この計測システムを用いた光音響計測の手順について説明する。図4図7は、光音響計測方法の原理を説明するための概略図である。まず、試料である細胞2を収容したプラスチックシャーレ1を用意するとともに、その底部3の非支持面3bに光音響波発生テープ71を貼り付ける(図4参照)。具体的には、光音響波発生テープ71から保護層77を除去してテープ本体のみとした後、露出した粘着層76の側を非支持面3bに面接触させるようにして、テープ本体を底部3に貼り付ける。このとき、光音響波発生テープ71は、必ずしも底部3の全域に配置されなくてもよく、例えば中央部のみに配置されるようにしてもよい。
【0029】
次に、ユーザは、光音響波発生テープ71の貼着済のプラスチックシャーレ1を試料ステージ13上に載置する。このとき、対物レンズ36を駆動して、焦点が底部3の非支持面3bの付近にくるように調整する。そして、光音響計測を行う場合には、通常、従来公知の手法により光学顕微鏡観察をあらかじめ行い、計測対象となる細胞2を特定しておく。
【0030】
次に、ユーザは、光音響計測を開始する旨を、図示しない入力装置を用いて入力する。すると、制御装置61は光学顕微鏡モードから光音響計測モードに切り換える制御を行う。さらに、入力装置から計測開始を指示する情報が入力されると、制御装置61は、パルス光源21を駆動してパルスレーザ光(励起光L1)を繰り返し発光させるように制御する(図5参照)。また制御装置61は、パルス光源21が励起光L1を繰り返し発光している間、光干渉計51のレーザ光源53を駆動し、計測光L2であるレーザ光を連続的に発光させる。本実施形態では、励起光L1の照射領域に比べて計測光L2の照射領域のほうが小さくなるように設定される。
【0031】
パルス光源21が発生した励起光L1は、レンズユニット22、ダイクロイックミラー26、光スキャナ41及び対物レンズ36を通過して、底部3の非支持面3b付近の加振領域P1に集められる。その際、制御装置61は、所定の走査位置に励起光L1が集光するように、光スキャナ41を駆動制御する。すると、加振領域P1に集光された励起光L1は、光音響作用により加振領域P1に振動を励起させる(図6参照)。本実施形態において具体的には、加振領域P1内に複数(図5では2つ)の光吸収体74が含まれるように、励起光L1のスポットサイズを調整している。励起光L1が照射されると、各々の光吸収体74は、励起光L1の光エネルギーを熱エネルギーに変換し、温度上昇する。すると、光音響波発生体72において隣接領域P4が瞬時に加熱され、熱膨張によって体積が瞬時に大きくなる結果、2つの隣接領域P4をそれぞれ発振源とする光音響波W1が発生する。
【0032】
このように2箇所で発生した光音響波W1は、隣接領域P4を中心として次第に放射状に拡がって行き、底部3の支持面3aに到達する。そして、光音響波W1は、平面視で2つの隣接領域P4の中間位置(即ち試料2の計測点P2)にて集束することで、強め合った状態となる。その結果、試料2の計測点P2にて光音響波W1が反射して光反射体73上の特定点P5に戻ってくる(図7参照)。その結果、底部3が微小振動し、光反射体73の表面が僅かに変位する。
【0033】
計測光L2は、光反射体73上の特定点P5に対して照射されており、その位置で反射される。反射された計測光L2(即ち反射光L3)は、主光路R11を戻るように進んでダイクロイックミラー26に到り、そこで副光路R12側に進路変更させられて参照光と合成される。この合成光は、光干渉計51の光電変換部52に受信され、電気信号に変換される。つまり、反射光L3と参照光との干渉から底部3の微小振動を検出して、それを電気信号に変換する。このとき、制御装置61は、励起光L1の発光タイミングに合わせて、光電変換部52からの電気信号を保存する。そして制御装置61は、先に保存した電気信号から得た微小振動の検出結果に基づいて、計測点P2における機械物性値(硬さ、弾性、粘性)を算出する演算を行う。このように算出された機械物性値は、入出力インターフェース63を介してディスプレイ装置に出力され、所定の態様で表示される。
【0034】
従って、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0035】
(1)本実施形態の光音響波発生テープ71は、プラスチックシャーレ1の底部3の非支持面3bに接触配置されるものであって、光反射体73、光吸収体74、光音響波発生体72を備える。光吸収体74は、光反射体73からシートの面方向にずれた位置に存在し、パルス光(励起光L1)を吸収して熱エネルギーに変換する。光透過性の光音響波発生体72は、光吸収体74に接触して配置され、光吸収体74よりも熱膨張係数が大きいものとされている。そのため、一般的なプラスチックシャーレ1に対して比較的弱いパルス光L1を照射した場合であっても、確実に光音響効果を得ることができる。従って、高強度のパルス光L1や特殊なシャーレを用いなくても、試料加振のための光音響波W1を効率よく発生させることができる。特に実施形態によれば、大きなパルス光発生ユニットが不要になるため、装置全体をコンパクトに形成することが可能となるばかりでなく、装置の低コスト化も達成しやすくなる。
【0036】
(2)本実施形態の光音響波発生テープ71は、全体として可撓性を有するとともに、底部3の非支持面3bに対して貼付及び剥離可能なものとなっている。そして、このように構成された光音響波発生テープ71は、必要なときに既存のプラスチックシャーレ1に対して容易に設置することができ、不要になったら容易に除去することができる。よって、光音響計測のために特殊なシャーレを使用する必要がなくなる。また、一般的なプラスチックシャーレ1の使用が可能になることで、光音響計測を行う際のコストを下げることができる。さらに、この光音響波発生テープ71は、シートの片側面に形成された光透過性の粘着層76と、粘着層76を覆うように剥離可能に形成された保護層77とを備えている。そのため、使用時まで粘着層76が保護層77により保護される結果、粘着力の低下が未然に防止される。また、粘着層76の表面に塵が付着するリスクが小さくなり、底部3の非支持面3bに対する塵の付着に起因する光音響計測精度の低下も防止される。
【0037】
(3)本実施形態の光音響波発生テープ71では、光反射体73がシートの面積の50%未満の面積を占めるように形成されている。また、比較的広面積に形成されている光音響波発生体72や粘着層76は、光透過性を有するものとされている。このため、細胞2に対してある程度光を透過させることができ、光学顕微鏡による透過光を用いた細胞2の観察と、光音響計測による細胞2の硬さ等の計測とを両立することが可能となる。
【0038】
(4)本実施形態の光音響波発生テープ71では、光反射体73及び光吸収体74はそれぞれ複数形成されるばかりでなく、シートの平面方向に沿って規則的に配置されている。また、図3図7に示されるように、複数の光反射体73同士の隙間C1、及び複数の光吸収体74同士の隙間C2は、いずれも細胞2の大きさよりも小さくなるように設定されている。このような構成であると、隣接する複数の隣接領域P4をそれぞれ発振源とする光音響波W1が発生し、それら光音響波W1が細胞2の計測点P2にて集束する。このため、強め合った光音響波W1を得ることができ、結果として計測感度を向上させることができる。また、細胞2に比べて光反射体73及び光吸収体74が小さいことから、レーザ光L1を平面方向に走査することにより、細胞2における複数の計測点で硬さを計測することが可能となる。
【0039】
(5)本実施形態では、上記構成の光音響波発生テープ71を用いて光音響波W1を発生させることで、細胞2の硬さを光学的に計測する方法を開示している。最初のステップでは、光音響波発生テープ71(光音響波発生用構造物)を底部3の非支持面3bに接触させて配置する。次のステップでは、非支持面3b側から光吸収体74にパルス光L1を照射して、光吸収体74を発熱させる。次のステップでは、光吸収体74の発熱により光音響波発生体72を熱膨張させることで、光音響波W1を発生させる。次のステップでは、光反射体73上の特定点P5に戻ってくる反射波L3と、底部3の非支持面3bに照射された参照光との干渉から、微小振動を検出する。次のステップでは、微小振動の検出結果に基づいて特定点P5の変位を光学的に計測し、細胞2の計測点P2の硬さを計測する。そしてこの光学的硬さ計測方法によると、細胞2に直接外力を与えて変位を計測するのではなく、光音響効果を利用して細胞2に間接的に振動を加えることで変位を計測することができる。つまり、細胞培養用のプラスチックシャーレ1を密閉して培養環境を保持し、その状態で加振と計測とを非接触で行うことにより、細胞2の硬さを計測することができる。そのため、培養中の細胞2の汚染や損壊といった心配がない。以上のように、本実施形態の光学的硬さ計測方法によると、所望とする細胞2の硬さ計測を比較的低コストかつ容易に非接触で行うことができる。
【0040】
(6)また、本実施形態の光学的硬さ計測方法では、励起光L1を細胞2(計測点P2)に集光させて加振するのではなく、計測点P2よりも手前側にある加振領域P1に集光させて加振している。このように励起光L1であるパルスレーザ光L1を細胞2そのものに照射する必要がなくなる結果、細胞2の温度上昇が回避され、細胞2の活性を維持することができる。
【0041】
なお、本発明の実施形態は一例であって、発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更してもよい。
【0042】
・上記実施形態の光音響波発生テープ71では、複数の矩形帯状の反射体73を並行かつ等間隔に配置し、それら反射体73上における複数箇所に矩形状の光吸収体74を等間隔に配置したが、これに限定されない。例えば、図8図9に示す別の実施形態の光音響波発生テープ71Aのように構成してもよい。この光音響波発生テープ71Aでは、平面視で円形状である複数の光反射体73が等間隔に形成されている。また、各々の光反射体73を包囲するように円環状の光吸収体74が形成されている。なお、隣接する円環状の光吸収体74同士は、一部において重なり合っている。光吸収体74は、光反射体73からシートの面方向にずれた位置に存在しており、光反射体73にオーバーラップして形成されてはいない。あるいは、図10図11に示す別の実施形態の光音響波発生テープ71Bのように構成してもよい。この光音響波発生テープ71Bでは、平面視で円形状である複数の光反射体73が等間隔に形成されている。また、各々の光反射体73を包囲するように六角形状の光吸収体74が形成されている。なお、隣接する六角形状の光吸収体74同士は、一部において重なり合っている。これら別の実施形態においては、光吸収体74の幅よりも光反射体73の直径のほうが大きく、光反射体73の直径よりも光吸収体74の直径または対角距離(D)のほうが大きくなっている。光反射体73の直径は、計測光L2のスポットサイズよりも大きくなるように設定される。ここで、試料接触体である底部3の厚さをtとし、図12で示す部分の角度をθとすると、「D=2×t×tanθ」の関係が成り立つ。光音響波W1の発生効率等の観点から、θは30°~60°の範囲内に設定することがよい。よって、Dは「2×t×tan30°~2×t×tan60°」の範囲となるように設定することが好ましい。
【0043】
・上記実施形態では、光音響波発生テープ71は、全体として可撓性を有するものであったがこれに限定されず、可撓性を有しない剛体からなるものであっても勿論よい。
【0044】
・上記実施形態では、プラスチックシャーレ1とは別体で形成された光音響波発生テープ71をプラスチックシャーレ1に貼着するようにしたが、これに限定されない。例えば、プラスチックシャーレ1に対して種々の材料を直接印刷や塗布することにより、光音響波発生用構造物を形成してもよい。即ち、光音響波発生用構造物は、必ずしもシート状でなくてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、試料を細胞2とし、試料支持体を細胞培養用のプラスチックシャーレ1の底部3としたが、これに限定されない。例えば、試料を生体内組織とし、試料接触体を内視鏡の先端に設けられるキャップやカバー(先端配置部材)としてもよい。つまり、本発明の光音響波発生テープ71は、手術中に臓器の硬さ等を調べる等といった医療用の目的で使用されてもよい。なお、生体における組織の代わりに、非生物を試料として計測を行っても勿論よい。また、試料支持体として、プラスチックシャーレ1や先端配置部材以外のものを用いても勿論よい。
【0046】
・上記実施形態では、走査部として光スキャナ41を用いたが、光スキャナ41のような光学式走査手段に代えて、例えばX-Yテーブルのような機械式走査手段を用いてもよい。
【0047】
・光吸収体74は、必ずしも光反射体73上に接するようにして形成されていなくてもよい。即ち、光吸収体74は、光反射体73とシートの厚さ方向に離間するとともに、それらの間に光音響波発生体72を挟むようにして配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0048】
2: 試料としての細胞
3: 試料接触体としてのプラスチックシャーレの底部
3a: 第1面としての支持面
3b: 第2面としての非支持面
71、71A、71B: 光音響波発生用構造物(光音響波発生シート)としての光音響波発生テープ
72: 光音響波発生体としての透明樹脂層
73: 光反射体としての金属層
74: 光吸収体としての微粒子分散層
76: 粘着層
77: 保護層
C1: (複数の光反射体同士の)隙間
C2: (複数の光吸収体同士の)隙間
L1: パルス光
L2: 参照光
L3: 反射波
P2: (試料の)計測点
P5: (光反射体上の)特定点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12