IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田岡化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176566
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】多環芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 2/86 20060101AFI20241212BHJP
   C07C 15/20 20060101ALI20241212BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C07C2/86
C07C15/20
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095162
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 優奈
(72)【発明者】
【氏名】仲辻 秀文
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC29
4H006AD15
4H006BA05
4H006BA13
4H006BA25
4H006BA32
4H006BA37
4H006BB12
4H006BB16
4H006BC10
4H039CA41
(57)【要約】
【課題】
一般的に入手可能な化合物から、直接的に下記一般式(3)で表される多環芳香族化合物が提供可能となる製造方法を提供すること。
【解決手段】
パラジウム化合物、o-クロラニル及び銀化合物存在下、下記一般式(1)で表されるシロール化合物と、下記一般式(2)で表されるピレン化合物とを反応させる工程を含む製造方法によれば、前記課題が解決可能であることを見出した。
(式中、R1a及びR1bは同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表し、R2a及びR2bは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム化合物、o-クロラニル及び銀化合物存在下、一般式(1):
【化1】
(式中、R1a及びR1bは同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。)
で表されるシロール化合物と、一般式(2):
【化2】
(式中、R2a及びR2bは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
で表されるピレン化合物とを反応させる工程を含む、一般式(3):
【化3】
(式中、R2a及びR2bは上記と同じ意味である)
で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
銀化合物がテトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)及びヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
パラジウム化合物がPd(OCOCH、Pd(OCOCF2、及びPd(acac)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下一般式(3):
【0003】
【化1】
(式中、R2a及びR2bは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
で表される多環芳香族化合物(以下、式(3)化合物と称することがある)は、π共役系が高度に拡張された構造を有するものの、グラフェンには無いバンドギャップを有しているため、有機半導体デバイスとしての応用が期待される他、有機電界発光素子としても有用であることが知られている(例えば特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
また、前記式(3)化合物の製造方法としては、非特許文献1記載の製造方法の他、該文献記載の方法で生成する多種類かつ多量の不純物を抑制し得る製造方法として、塩化鉄を用いて分子内環化により多環芳香族炭化水素(例えば、式(3)においてR2a及びR2bが水素原子である化合物)を製造する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Synlett,2016年,27号,2081頁
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-4058号公報
【特許文献2】特開2018-184393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した特許文献2の製造方法において、分子内環化反応は比較的よい収率で進行するものの、該環化反応に供する原料化合物が一般的に入手容易ではなく、また該文献記載の方法に従って原料化合物を合成しても該化合物が収率よく得られず、かつ、塩化鉄を多量に用いる分子内環化反応であることから、導入可能な置換基(式(3)におけるR2a及びR2b)が制限されるといった問題があった。
【0008】
本発明は、一般的に入手容易な化合物から直接的に式(3)化合物が製造可能な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記する工程を含む式(3)化合物の製造方法によれば、前記課題が解決可能であることを見出した。具体的には、本発明は以下の発明を含む。
【0010】
〔1〕
パラジウム化合物、o-クロラニル及び銀化合物存在下、一般式(1):
【0011】
【化2】
(式中、R1a及びR1bは同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。)
で表されるシロール化合物と、一般式(2):
【0012】
【化3】
(式中、R2a及びR2bは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
で表されるピレン化合物とを反応させる工程を含む、一般式(3):
【0013】
【化4】
(式中、R2a及びR2bは上記と同じ意味である)
で表される化合物の製造方法。
【0014】
〔2〕
銀化合物がテトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)及びヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、〔1〕に記載の製造方法。
【0015】
〔3〕
パラジウム化合物がPd(OCOCH、Pd(OCOCF2、及びPd(acac)からなる群から選ばれる少なくとも一種である、〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一般的に入手可能な化合物から直接的に式(3)化合物が製造可能となる。特に、前記特許文献2の方法が適用できない置換基を有する、式(3)化合物の製造方法として有用である。
【0017】
更に本発明によれば、酢酸パラジウムに代表される比較的安価なパラジウムの有機酸塩等を用いても式(3)化合物が製造可能となることから、より安価に式(3)化合物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。
【0019】
本発明にて用いられる、式(1)で表されるシロール化合物(以下、式(1)化合物と称することがある)における置換基R1a及びR1bは、同一又は異なって水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。炭素数1~4のアルキル基は分岐を有してもよく、具体的に例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。これら置換基の中でも、式(1)化合物の製造容易性の観点から、メチル基、エチル基又はフェニル基が好ましく、また、R1a及びR1bが同一の置換基であることが好ましい。これらのシロール化合物は、1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0020】
本発明にて用いられる、式(2)で表されるピレン化合物(以下、式(2)化合物と称することがある)における置換基R2a及びR2bは、同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基又はアルコキシ基を表す。ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。
【0021】
アルキル基としては分岐を有してもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル等の炭素数1~10(特に1~6)の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10(特に3~6)の分岐鎖状アルキル基が挙げられる。また、アルキル基は置換基を有していてもよく、該置換基として例えば、前述したハロゲン原子、後述するアルコキシ基、後述するアリール基等が挙げられる。これら置換基を有する場合、その個数は例えば1~5個とすることができる。
【0022】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アントラセニル基、テトラセニル基等が挙げられる。また、アリール基は置換基を有していてもよく、該置換基として例えば、前述したハロゲン原子、前項に記載したアルキル基、後述するアルコキシ基等が挙げられる。これら置換基を有する場合、その個数は例えば1~5個とすることができる。
【0023】
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基,n-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基,n-ペンチルオキシ基等の炭素数1~10(特に1~6)の直鎖状アルコキシ基、イソプロピルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等の炭素数3~10(特に3~6)の分岐鎖状アルコキシ基等が挙げられる。また、アルコキシ基は置換基を有していてもよく、該置換基として例えば、前述したハロゲン原子、前述したアリール基等が挙げられる。これら置換基を有する場合、その個数は例えば1~5個とすることができる。
【0024】
これら式(2)化合物における置換基R2a及びR2bの中でも、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基が好ましく、特に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基が好ましい。式(2)化合物は通常、式(1)化合物1モルに対し0.1~0.6モル、好ましくは0.3~0.5モル使用する。
【0025】
本発明にて用いられるパラジウム化合物としては、有機合成用触媒として公知である各種パラジウム化合物等が使用可能である。使用できるパラジウム化合物としては、例えば、Pd(OH)、Pd(OCOCH、Pd(dba)、Pd(OCOCF、Pd(acac)、PdCl、PdBr、PdI、Pd(NO、Pd(CHCN)(SbF等が挙げられる。なお、acacはアセチルアセトネートを意味し、dbaはジベンジリデンアセトンを意味する。これらパラジウム化合物の中でも、Pd(OCOCH、Pd(OCOCF及びPd(acac)が好ましい。これらパラジウムは1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0026】
パラジウム化合物の使用量は通常、式(1)化合物1モルに対し0.01~0.5モルであり、好ましくは0.01~0.2モルである。
【0027】
本発明においてo-クロラニルの使用量は通常、式(1)化合物1モルに対し1~5モル、好ましくは1.5~3モルである。
【0028】
本発明にて用いられる銀化合物としては、例えば、酢酸銀、ピバル酸銀(AgOPiv)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(AgOTf)、安息香酸銀(AgOCOPh)等の有機銀化合物;硝酸銀、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、硫酸銀、酸化銀、硫化銀、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)等の無機銀化合物等が挙げられる。これら銀化合物の中でも、無機銀化合物が好ましく、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)及びヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)等がより好ましい。これらの銀化合物は、1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。なお、銀化合物を使用しない場合、反応が進行しないか、あるいは進行したとしても反応速度が非常に遅くなる。
【0029】
銀化合物の使用量は例えば、パラジウム化合物1モルに対し0.1~3.0モルであり、好ましくは0.2~1.5モル、より好ましくは0.5~1.2モルである。
【0030】
本発明は必要に応じ溶媒中で実施することができる。使用可能な溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類及びハロゲン化芳香族炭化水素類が挙げられる。脂肪族炭化水類としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等が挙げられる。ハロゲン化脂肪族炭化水素類としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン等が挙げられる。ハロゲン化芳香族炭化水素類としては、例えば、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1,3,5-トリブロモベンゼン等が挙げられる。これら溶媒は、1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。これら溶媒の中でも、ハロゲン化脂肪族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素が好ましい。溶媒を使用する場合の使用量は、例えば、式(1)化合物1質量部に対し1.0~20質量部、好ましくは5.0~15質量部である。
【0031】
本発明を実施する温度は、例えば、10~150℃、好ましくは20~100℃である。また、本発明は無水条件下および不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)雰囲気下の少なくともいずれかの条件下で行ってもよい。
【0032】
反応終了後、濃縮、晶析、濾過、乾燥等の常法により、式(3)化合物を取り出すことが可能である。また、必要に応じ、得られた式(3)化合物を吸着、水蒸気蒸留、再結晶などの通常の精製操作により精製してもよい。
【実施例0033】
以下、実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下実施例等における純度は下記条件で測定したHPLCにおける面積百分率値である。また、各実施例で使用した化合物は試薬として市販されているものをそのまま使用した。
【0034】
〔1〕UPLC測定
・装置:Waters製 Acquity UPLC H-Class
・カラム:ACQUITY UPLC(R) BEH C18 1.7μm(2.1×100mm Column)
・カラム温度:45 ℃
・検出波長:UV 254nm
・移動相:A液=超純水、B液=アセトニトリル(なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。)
B液濃度:90%→3min→100%(15min hold)
・移動相流量:0.4ml/min
・サンプル注入量:1.0μL
【0035】
<実施例1>
窒素置換した撹拌装置及び冷却管を備えた4つ口フラスコに、以下式(1-1):
【0036】
【化5】
で表されるシロール化合物を27g(135mmol)、以下式(2-1):
【0037】
【化6】
で表されるピレン化合物10g(50mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OCOCH))2.5g(11mmol)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)3.8g(11mmol)、o-クロラニル64g(260mol)及び1,2-ジクロロエタン(267g)を添加し、窒素気流下、撹拌しながら30℃まで昇温し、30℃で5時間撹拌を行った。
撹拌終了後、反応液を濾過して不溶解分を除去した後、減圧濃縮して1,2-ジクロロエタンを除去し、ヘプタン100gをフラスコに入れ、80℃まで昇温し同温度で0.5時間撹拌した後、同温度で結晶を濾別した。その後、結晶を減圧乾燥して取り出すことで、以下式(3-1):
【0038】
【化7】
で表される化合物12.5g(有姿収率50%、純度99%)を得た。
【0039】
<実施例2>
窒素置換した撹拌装置及び冷却管を備えた4つ口フラスコに、以下式(1-1):
【0040】
【化8】
で表されるシロール化合物Aを14g(70mmol)、以下式(2-2):
【0041】
【化9】
で表されるピレン化合物10g(32mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OCOCH))1.2g(5.4mmol)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)1.9g(5.4mmol)、o-クロラニル34g(140mmol)及び1,2-ジクロロエタン(150g)を添加し、窒素気流下、撹拌しながら30℃まで昇温し、30℃で24時間撹拌を行った。その後、実施例1と同様の方法により後処理を行うことで以下式(3-2):
【0042】
【化10】
で表される化合物9.8g(有姿収率51%、純度98%)を得た。
【0043】
<比較例1>
ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)を使用しない以外は実施例1と同様に反応を行い、反応5時間後反応液をLCにて分析したところ、上記式(3-1)化合物は殆ど生成していなかった。さらに24時間、30℃で撹拌を行い反応液を分析したが同様に、上記式(3-1)化合物は殆ど生成していなかった。