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特開2024-176567ホウ素含有多環芳香族化合物及び該化合物の製造方法
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  • 特開-ホウ素含有多環芳香族化合物及び該化合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176567
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ホウ素含有多環芳香族化合物及び該化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20241212BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095163
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前田 優奈
(72)【発明者】
【氏名】仲辻 秀文
【テーマコード(参考)】
4H039
4H048
【Fターム(参考)】
4H039CA41
4H039CD10
4H039CH40
4H048AA01
4H048AA02
4H048AB84
4H048AB91
4H048AB92
4H048BA05
4H048BA25
4H048BB12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ホウ素含有多環芳香族化合物及びその製造方法の提供。
【解決手段】パラジウム化合物、o-クロラニル及び銀化合物存在下、式(2)で表されるシロール化合物と、式(3)で表されるピレン化合物とを反応させる工程を含む製造方法とする。

(R1a~R1dは同一又は異なって、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、フェニル基または炭素数7~11のアラルキル基;R1aとR1bが一体となって環を形成してもよく、R1cとR1dが一体となって環を形成してもよい;R3a及びR3bは同一又は異なって、H又はアルキル基)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下一般式(1):
【化1】
(式中、R1a~R1dは同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよい炭素数7~11のアラルキル基を表す。また、R1aとR1bが一体となって環を形成してもよく、R1cとR1dが一体となって環を形成してもよい。)
で表される化合物。
【請求項2】
以下一般式(1-1):
【化2】
(式中、R2a~R2hは同一又は異なって、炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
パラジウム化合物、o-クロラニル及び銀化合物存在下、以下一般式(2):
【化3】
(式中、R3a及びR3bは同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。)
で表されるシロール化合物と、一般式(3):
【化4】
(式中、R1a~R1dは上記の通りである)
で表されるピレン化合物とを反応させる工程を含む、請求項1又は2に記載の化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有多環芳香族化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下式(4):
【0003】
【化1】
で表される多環芳香族化合物(以下、式(4)化合物と称することがある)は、π共役系が高度に拡張された構造を有するものの、グラフェンには無いバンドギャップを有しているため、有機半導体デバイスへの応用が期待される他、有機電界発光素子としても有用であることが知られている。このような式(4)化合物の製造方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-184393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法は、塩化鉄を多量に用いる分子内環化反応により式(4)化合物を製造する方法であり、該方法により式(4)化合物に置換基を導入した構造を有する多環芳香族化合物を製造しようとすると導入可能な置換基が制限される場合があり、例えば、ホウ素含有官能基を有する多環芳香族化合物の製造方法として適用することが困難な場合があった。
【0006】
本発明は、多環芳香族化合物の更なる展開を行うべく、式(4)化合物にホウ素含有官能基を導入した構造を有する多環芳香族化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記する工程を含む製造方法によれば、前記課題が解決可能であることを見出した。具体的には、本発明は以下の発明を含む。
【0008】
〔1〕
以下一般式(1):
【0009】
【化2】
(式中、R1a~R1dは同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基、置換を有していてもよい炭素数3~8のシクロアルキル基、置換を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよい炭素数7~11のアラルキル基を表す。また、R1aとR1bが一体となって環を形成してもよく、R1cとR1dが一体となって環を形成してもよい。)
で表される化合物。
【0010】
〔2〕
以下一般式(1-1):
【0011】
【化3】
(式中、R2a~R2hは同一又は異なって、炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表される、〔1〕に記載の化合物。
【0012】
〔3〕
パラジウム化合物、o-クロラニル及び銀化合物存在下、以下一般式(2):
【0013】
【化4】
(式中、R3a及びR3bは同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。)
で表されるシロール化合物と、一般式(3):
【0014】
【化5】
(式中、R1a~R1dは上記の通りである)
で表されるピレン化合物とを反応させる工程を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記一般式(1)で表されるホウ素含有多環芳香族化合物が提供可能となる。該化合物は例えばハイドロボレーション反応に供することによって水酸基を導入することも可能であると共に、鈴木・宮浦カップリング反応に供することによって様々なアリール基、アルキル基等を有する誘導体が製造可能であることから、多環芳香族化合物の更なる用途展開に用いる基幹原料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】上記一般式(1)で表される化合物の内、実施例1で得られた、下記式(1-A)で表される化合物の質量分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、範囲を「A~B」で表す場合、特に限定されない限り、A以上B以下を意味する。
【0018】
<本発明のホウ素含有多環芳香族化合物>
本発明のホウ素含有多環芳香族化合物は、上記一般式(1)で表される化合物(以下、式(1)化合物と称することがある)である。上記一般式(1)の置換基R1a~R1dにおける、置換基を有していてもよい炭素数1~8のアルキル基は分岐を有していてもよく、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、n-ヘプチル基、1-メチルヘキシル基、n-オクチル基等が挙げられる。これらのアルキル基は、一個以上のハロゲン原子、アルキルチオ基、アルコキシ基等で置換されていてもよい。炭素数3~8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。また、これらのシクロアルキル基は一個以上の炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよい。炭素数7~11のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、1-フェニルプロピル基等が挙げられる。これらのアラルキル基は、芳香環上が一個以上の炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基等で置換されていてもよい。また、R1aとR1bが一体となって環を形成してもよく、またR1cとR1dが一体となって環を形成してもよく、上記一般式(1-1)で表される化合物(以下、式(1-1)化合物と称することがある)を構成してもよい。
【0019】
上記一般式(1-1)中、R2a~R2hで表される炭素数1~6のアルキル基は分岐を有していてもよく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。これら炭素数1~6のアルキル基の中でも、分岐を有してもよい炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0020】
<本発明のホウ素含有多環芳香族化合物の製造方法>
本発明の式(1)化合物は、パラジウム化合物、o-クロラニル及び銀化合物存在下、上記一般式(2)で表されるシロール化合物(以下、式(2)化合物と称することがある)と、上記一般式(3)で表されるピレン化合物(以下、式(3)化合物と称することがある)とを反応させる工程を含む方法により製造することができる。
【0021】
上記一般式(2)における置換基R3a及びR3bは同一又は異なって、水素原子、炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基を表す。前記炭素数1~4のアルキル基は分岐を有していてもよく、具体的には、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。これら置換基の中でも、式(2)化合物の製造容易性の観点から、メチル基、エチル基又はフェニル基が好ましく、また、R3a及びR3bが同一の置換基であることが好ましい。これらのシロール化合物は、1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0022】
上記一般式(3)における置換基R1a~R1dの具体的態様は上記の通りである。また、R1aとR1b、R1cとR1dがそれぞれ一体となって環を形成し、以下一般式(3-1):
【0023】
【化6】
(式中、R2a~R2hは上述の通りである。)
で表される化合物を構成してもよい。
【0024】
式(3)化合物は通常、式(2)化合物1モルに対し0.1~0.6モル、好ましくは0.3~0.5モル使用する。
【0025】
本発明にて用いられるパラジウム化合物としては、有機合成用触媒として公知である各種パラジウム化合物等が使用可能である。使用できるパラジウム化合物としては、例えば、Pd(OH)、Pd(OCOCH、Pd(dba)、Pd(OCOCF、Pd(acac)、PdCl、PdBr、PdI、Pd(NO、Pd(CHCN)(SbF等が挙げられる。なお、acacはアセチルアセトネートを意味し、dbaはジベンジリデンアセトンを意味する。これらパラジウム化合物の中でも、Pd(OCOCH、Pd(OCOCF及びPd(acac)が好ましい。これらパラジウム化合物は1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。
【0026】
パラジウム化合物の使用量は通常、式(2)化合物1モルに対し0.01~0.5モル、好ましくは0.01~0.2モルである。
【0027】
本発明においてo-クロラニルの使用量は通常、式(2)化合物1モルに対し1~5モル、好ましくは1.5~3モルである。
【0028】
本発明にて用いられる銀化合物としては、例えば、酢酸銀、ピバル酸銀(AgOPiv)、トリフルオロメタンスルホン酸銀(AgOTf)、安息香酸銀(AgOCOPh)等の有機銀化合物;硝酸銀、フッ化銀、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、硫酸銀、酸化銀、硫化銀、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)等の無機銀化合物等が挙げられる。これら銀化合物の中でも、無機銀化合物が好ましく、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)及びヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)等がより好ましい。これらの銀化合物は1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。なお、銀化合物を使用しない場合、反応が進行しないか、あるいは進行したとしても反応速度が非常に遅くなる。
【0029】
銀化合物の使用量は通常、パラジウム化合物1モルに対し0.1~3.0モル、好ましくは0.2~1.5モル、より好ましくは0.5~1.2モルである。
【0030】
本発明は必要に応じ溶媒中で実施することができる。使用可能な溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化脂肪族炭化水素類及びハロゲン化芳香族炭化水素類が挙げられる。脂肪族炭化水類としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等が挙げられる。ハロゲン化脂肪族炭化水素類としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン等が挙げられる。ハロゲン化芳香族炭化水素類としては、例えば、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1,3,5-トリブロモベンゼン等が挙げられる。これら溶媒は1種、あるいは必要に応じ2種以上併用してもよい。これら溶媒の中でも、ハロゲン化脂肪族炭化水素又はハロゲン化芳香族炭化水素が好ましい。溶媒を使用する場合の使用量は、例えば、式(2)化合物1質量部に対し1.0~20質量部、好ましくは5.0~15質量部である。
【0031】
本発明を実施する温度は、例えば、10~150℃、好ましくは20~100℃である。また、本発明は無水条件下および不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス等)雰囲気下の少なくともいずれかの条件下で行ってもよい。
【0032】
反応終了後、濃縮、晶析、濾過、乾燥等の常法により、式(1)化合物を取り出すことが可能である。また、必要に応じ、得られた式(1)化合物を吸着、水蒸気蒸留、再結晶などの通常の精製操作により精製してもよい。
【実施例0033】
以下、実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、以下実施例等における純度は下記条件で測定したHPLCにおける面積百分率値である。
【0034】
〔1〕UPLC測定
・装置:Waters製 Acquity UPLC H-Class
・カラム:ACQUITY UPLC(R) BEH C18 1.7μm(2.1×100mm Column)
・カラム温度:45 ℃
・検出波長:UV 254nm
・移動相:A液=超純水、B液=アセトニトリル(なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。)
B液濃度:90%→3min→100%(15min hold)
・移動相流量:0.4ml/min
・サンプル注入量:1.0μL
【0035】
〔2〕NMR測定
H-NMR及び13C-NMRは、内部標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒として重クロロホルム(CDCl)を用いて、JEOL-ESC400(H 400MHz、13C 100MHz)分光計によって記録した。なお、各データは以下のように記載した。
【0036】
化学シフト、多重度(s=singlet、m=multiplet)及びintegration。
【0037】
〔3〕LC-MS測定
LC-MSは次の測定条件で分離、質量分析し、目的物を同定した。
【0038】
・装置:(株)Waters製 AcquityUPLC H-Class PLUS+PDA/SQD2システム
・カラム:ACQUITY UPLC(R) BEH C18 1.7μm(2.1×100mm Column)
・カラム温度:45℃
・検出波長:UV 254nm
・移動相:A液=10mM酢酸アンモニウム水溶液、B液=アセトニトリル(なお、B液濃度に付、下記の通り濃度を変化させ分析を行った。)
B液濃度:90%→3min→100%(15min hold)
・移動相流量:0.4ml/min
・検出法:Q-MS
・イオン化法:APCI(+)法
・Ion Source:電圧(+)30V、温度150℃
・APCI probe Temp:500℃
・Corona(μA):0.7μA
・Desolvation Gas:温度350℃、ガスフロー350L/h
【0039】
<実施例1>
一般式(1)で表される化合物の内、以下式(1-A):
【0040】
【化7】
で表される化合物の製造例。
【0041】
窒素置換した撹拌装置及び冷却管を備えた4つ口フラスコに、以下式(2-A):
【0042】
【化8】
で表されるシロール化合物12.5g(57.2mmol)、以下式(3-A):
【0043】
【化9】
で表されるピレン化合物10g(22.0mmol)、酢酸パラジウム(Pd(OCOCH))1.09g(4.84mmol)、ヘキサフルオロアンチモン酸銀(AgSbF)1.66g(4.84mmol)、o-クロラニル28.2g(114.5mmol)及び1,2-ジクロロエタン(234g)を添加し、窒素気流下、撹拌しながら30℃まで昇温し、30℃で1時間撹拌を行った。
撹拌終了後、反応液を濾過して不溶解分を除去した後、減圧濃縮して1,2-ジクロロエタンを除去し、ヘプタン100gをフラスコに入れ、80℃まで昇温し同温度で0.5時間撹拌した後、25℃まで冷却し結晶を濾別した。その後、結晶を減圧乾燥して取り出すことで、上記式(1-A)で表される化合物8.3g(有姿収率50%、純度87%)を得た。
得られた上記式(1-A)で表される化合物のLC-MSチャートを図1に示す。併せて各スペクトル値を下記する。
【0044】
H-NMR(CDCl,400MHz):
δ=1.41ppm(12H、s)、7.74―7.77ppm(4H,m)、8.77―8.80ppm(2H、m)、8.92―8.94ppm(2H、m)、9.41ppm(2H、s)
【0045】
13C-NMR(CDCl,100MHz):
δ=24.99ppm(C8)、84.13ppm(C4)、123.59ppm(C4)、126.28ppm(C2)、126.69ppm(C4)、126.77ppm(C4)、127.21ppm(C2)、128.03ppm(C4)、128.95ppm(C4)、129.00ppm(C4)、129.69ppm(C4)、131.16ppm(C4)、132.19ppm(C4)
【0046】
質量分析値([M+H]):755.34
(上記式(1-A)で表される化合物の計算上の分子量(QMS APCI;[C52H44B2O4+H]):755.41)
図1