(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176568
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】横軸水中ポンプ及び低水位起動型吸込カバー
(51)【国際特許分類】
F04D 13/08 20060101AFI20241212BHJP
F04D 29/54 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F04D13/08 Y
F04D29/54 A
F04D13/08 R
F04D13/08 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095195
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000197746
【氏名又は名称】株式会社石垣
(72)【発明者】
【氏名】渡部 誠司
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA03
3H130AB12
3H130AB23
3H130AB52
3H130AC07
3H130AC09
3H130AC10
3H130BA03A
3H130BA03J
3H130BA77A
3H130BA77J
3H130CA03
3H130CA14
3H130CA21
3H130CA29
3H130DD01Z
3H130DG02X
3H130DG07X
3H130EA03A
3H130EA03J
3H130EA07A
3H130EA07J
3H130EB02A
3H130EB02J
(57)【要約】
【課題】 ポンプ停止中から起動する際に低水位から排水運転を開始できる横軸水中ポンプを提供する。
【解決手段】 吸込口と排出口を有するケーシング2と、ケーシング2内で支持された羽根車3と、吸込口に接続された吸込カバー7と、吸込カバー7に設けられ、羽根車3の中心より下方に開口する第1吸込開口8と、吸込カバー7及びケーシング2のうち少なくとも一方において羽根車3よりも上流側に設けられ、第1吸込開口8の上端よりも高い位置に開口し、吸気部の上端が気水混合排水運転M2と排水待機運転M3の閾値である第2吸込開口14と、第2吸込開口14の上端よりも高い位置に開口し、吸気部の上端が全量排水運転M1と気水混合排水運転M2の閾値である第3吸込開口16と、第3吸込開口16内面に設けられ、水位変動に伴う吸込カバー7内外の差圧に応じて第3吸込開口16を開閉自在な弁体23と、を有することで低水位から排水を開始できる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸込口と排出口を有するケーシング(2)と、
ケーシング(2)内で支持された羽根車(3)と、
吸込口に接続された吸込カバー(7)と、
吸込カバー(7)に設けられ、羽根車(3)の中心より下方に開口する第1吸込開口(8)と、
吸込カバー(7)及びケーシング(2)のうち少なくとも一方において羽根車(3)よりも上流側に設けられ、
第1吸込開口(8)の上端よりも高い位置に開口し、吸気部の上端(14a)が気水混合排水運転(M2)と排水待機運転(M3)の閾値である第2吸込開口(14)と、
第2吸込開口(14)の上端(14a)よりも高い位置に開口し、吸気部の上端(16a)が全量排水運転(M1)と気水混合排水運転(M2)の閾値である第3吸込開口(16)と、
第3吸込開口(16)内面に設けられ、水位変動に伴う吸込カバー(7)内外の差圧に応じて第3吸込開口(16)を開閉自在な弁体(23)と、を有する
ことを特徴とする横軸水中ポンプ。
【請求項2】
前記弁体(23)は、第3吸込開口(16)の上部近傍に揺動自在に設けられ、
水位変動に伴ってポンプ停止又は排水待機運転(M3)の水位となった場合、自動的に第3吸込開口(16)を閉止し、
全量排水運転(M1)又は気水混合排水運転(M2)の水位となった場合、自動的に第3吸込開口(16)を開放する
ことを特徴とする請求項1に記載の横軸水中ポンプ。
【請求項3】
排出開口と、
上壁(10)と、
上壁(10)の両側端および前後端から下方に延設される側壁(11)と、
側壁(11)の下端で囲まれる第1吸込開口(8)と、
吸込カバー(7)内部に連通し、上壁(10)又は側壁(11)に形成された少なくとも1以上の開口を備え、吸気部の上端(14a)が気水混合排水運転(M2)と排水待機運転(M3)の閾値である第2吸込開口(14)と、
第2吸込開口(14)の上端(14a)よりも高い位置で吸込カバー(7)内部に連通し、上壁(10)又は側壁(11)に形成された少なくとも1以上の開口を備え、吸気部の上端(16a)が全量排水運転(M1)と気水混合排水運転(M2)の閾値である第3吸込開口(16)と、
第3吸込開口(16)内面に設けられ、水位変動に伴う吸込カバー(7)内外の差圧に応じて第3吸込開口(16)を開閉自在な弁体(23)と、を有する
ことを特徴とする低水位起動型吸込カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨水や下水等の圧送に用いられる横軸水中ポンプにおいて、低水位で起動して最適な運転状態に自動的に移行できる横軸水中ポンプ及び低水位起動型吸込カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雨水等の排水ポンプとして、ポンプ設備を着脱構造に改良して低水位型の横軸水中ポンプ(横軸軸流型の水中ポンプ)を採用する排水機場の建設が増加している。
【0003】
また、例えば本川と支川とが合流するような場所には、支川側に開閉ゲートを設置し、大雨などの増水時に開閉ゲートを閉じることで、本川側の水が支川に逆流するのを抑止している。その際、支川の上流から流れてくる水を強制排水するために、横軸水中ポンプを開閉ゲートに取り付けたポンプゲートが多く用いられている。
【0004】
特許文献1には、横軸水中ポンプあるいは吸込カバーに第1吸込開口と第2吸込開口を形成し、上流からの流入やポンプの排出に伴う水位変動に応じて、第2吸込開口からの空気を吸入することにより全量排水運転・気水混合排水運転・排水待機運転に自動制御する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、横軸水中ポンプあるいは吸込カバーに第1吸込開口及び第2吸込開口に加えて第3吸込開口を形成し、気水混合排水運転の許容水位及び時間を長くするとともに、予め設定した水位にて排水待機運転に移行させる技術が開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6504247号公報
【特許文献2】特許第7217410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の切り欠きで形成した第2吸込開口は、吸気部の上端から下方に向かって開口が徐々に拡開しており、下方に向かうほど開口率が増大している。したがって、水位低下時には上端に近い位置で吸気量が増大し、気水混合排水運転から排水待機運転に早期に移行する。逆に、上流からの流入量の増加により水位が上がると開口部における気水混合排水運転の範囲が狭いため、運転状態の移行が不安定であった。結果的に気水混合排水運転の運転時間が短く、気水混合排水運転から全量排水運転および排水待機運転への切り替えが早かった。
【0008】
また、スリットで形成した第2吸込開口は、吸気部の上端から下端まで同幅で開口するとともに、上端近傍の開口総面積と下端近傍の開口総面積が同等である。したがって、水位低下時には上端からある程度の高さにて気水混合排水運転を行うものの、排水待機運転に移行する高さを特定して予め設定することが困難であった。
【0009】
特許文献2では、第1吸込開口及び第2吸込開口に加えて第3吸込開口を形成したことで、排水待機運転と全量排水運転との間にある気水混合排水運転の時間を延長するともに、排水待機運転へ移行する水位高さを特定できる。しかし、第3吸込開口は上下方向に延設されたスリットであり、スリットの上端が上方まで延びている。そのため、停止中のポンプが起動する際に、スリットから大量の空気を吸い込み、低水位から排水運転(気水混合排水運転、全量排水運転)を開始することができなかった。
【0010】
本発明は、吸込側の水位に応じて自動的に空気を吸気しながら定格運転を行う運転状態に移行する横軸水中ポンプであって、ポンプ停止中から起動する際に、より低水位から排水運転を開始できる横軸水中ポンプ及び低水位起動型吸込カバーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の横軸水中ポンプは、吸込口と排出口を有するケーシングと、ケーシング内で支持された羽根車と、吸込口に接続された吸込カバーと、吸込カバーに設けられ、羽根車の中心より下方に開口する第1吸込開口と、吸込カバー及びケーシングのうち少なくとも一方において羽根車よりも上流側に設けられ、第1吸込開口の上端よりも高い位置に開口し、吸気部の上端が気水混合排水運転と排水待機運転の閾値である第2吸込開口と、第2吸込開口の上端よりも高い位置に開口し、吸気部の上端が全量排水運転と気水混合排水運転の閾値である第3吸込開口と、第3吸込開口内面に設けられ、水位変動に伴う吸込カバー内外の差圧に応じて第3吸込開口を開閉自在な弁体と、を有することで、低水位で起動し、最適な運転状態に移行できる。
【0012】
前記弁体は、第3吸込開口の上部近傍に揺動自在に設けられ、水位変動に伴ってポンプ停止又は排水待機運転の水位となった場合、自動的に第3吸込開口を閉止し、全量排水運転又は気水混合排水運転の水位となった場合、自動的に第3吸込開口を開放することで、ポンプ停止時に第3吸込開口を閉止状態としておくことができる。
【0013】
本発明の低水位起動型吸込カバーは、排出開口と、上壁と、上壁の両側端および前後端から下方に延設される側壁と、側壁の下端で囲まれる第1吸込開口と、吸込カバー内部に連通し、上壁又は側壁に形成された少なくとも1以上の開口を備え、吸気部の上端が気水混合排水運転と排水待機運転の閾値である第2吸込開口と、第2吸込開口の上端よりも高い位置で吸込カバー内部に連通し、上壁又は側壁に形成された少なくとも1以上の開口を備え、吸気部の上端が全量排水運転と気水混合排水運転の閾値である第3吸込開口と、第3吸込開口内面に設けられ、水位変動に伴う吸込カバー内外の差圧に応じて第3吸込開口を開閉自在な弁体と、を有することで、低水位で起動し、最適な運転状態に移行できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、第3吸込開口の上部近傍に弁体を設けたことで水位変動に伴う吸込カバー内外の差圧に応じて第3吸込開口を自動的に開閉できるものであり、ポンプ停止時において第3吸込開口を閉止状態にできるため、ポンプを起動する際に吸込カバー内部に大量の空気が流入することを防ぐ。これによって、より低水位から排水運転(気水混合排水運転、全量排水運転)を開始できるため、内水側の水位を低水位で保持でき、内水氾濫を防ぐことが可能となる。また、排水運転時において吸込カバー内部は負圧状態であり、弁体が自動的に開放状態となるため、排水運転に支障をきたさない。さらに、弁体は吸込カバー内外の差圧により自動的に開閉するため別途動力は不要であるとともに、構成がシンプルであるため吸込カバー内部に容易に設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る横軸水中ポンプの構成を示す側断面図である。
【
図2】同じく、横軸水中ポンプの吸込カバーの形状を示す三面図である。
【
図3】同じく、本実施形態の吸込カバーに設けた弁体を示す正面図及び側面図である。
【
図4】同じく、他の実施形態の吸込カバーに設けた弁体を示す正面図である。
【
図5】同じく、横軸水中ポンプを用いたポンプゲートシステムの構成を示す概略図である。
【
図6】同じく、横軸水中ポンプの運転状態を説明する図である。
【
図7】同じく、運転状態が全量排水運転(吸込側水位>水位H)であるときの横軸水中ポンプの動作を説明する図である。
【
図8】同じく、運転状態が気水混合排水運転(水位H≧吸込側水位>水位M)であるときの横軸水中ポンプ1の動作を説明する図である。
【
図9】同じく、運転状態が排水待機運転(水位M≧吸込側水位>水位L)であるときの横軸水中ポンプ1の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に係る横軸水中ポンプ1の構成を示す側断面図である。
横軸水中ポンプ1は、大容量の排水を行うことが可能な横軸軸流型の水中ポンプであり、ケーシング2と、羽根車3と、主軸4と、案内羽根5と、水中電動機6とを備える。
【0017】
ケーシング2は、吸込口と排出口とを有する筒体であり、その内部を流体(水及び空気)が通過する。ケーシング2の内部には、吸込側から、羽根車3、案内羽根5及び水中電動機6が配置される。羽根車3は、排水機場の仕様に応じて選択されるものであり、例えば、軸流羽根又は斜流羽根である。主軸4は、水中電動機6で発生された回転力を羽根車3に伝達するものであり、一端が水中電動機6に接続され、他端が羽根車3に接続される。すなわち、羽根車3は、ケーシング2に保持されている水中電動機6により、主軸4を介して支持されている。案内羽根5は、ケーシング2内を流通する流体の流れ方向を整流する。
【0018】
また、横軸水中ポンプ1は、ケーシング2の吸込側に、第1吸込開口8を下方に向けた吸込カバー7を備える。吸込カバー7は、例えば製缶製であり、第1吸込開口8から吸い込んだ流体をケーシング2の吸込口に導く。
【0019】
更に、横軸水中ポンプ1は、ケーシング2の吐出側に開閉可能に支持されたフラップゲート9を備え得る。なお、フラップゲート9は、ケーシング2の排出口に直接的又は間接的に設けられ得る。例えば、ケーシング2とフラップゲート9とは、横軸水中ポンプ1の被取り付け対象である水門壁を介して互いに接続されてもよい。ここで、水門壁の一例としては、後述するようなポンプゲートシステムのゲート扉体が挙げられる。フラップゲート9は、横軸水中ポンプ1の吐出圧力が低いときには自重により閉じ、吐出圧力が高いときには上部の支点を軸として開くことで排水を可能とする。なお、用途に応じては、ケーシング2の吐出側に吐出配管を接続して排水することも可能である。
【0020】
図2は、吸込カバー7の形状を示す三面図である。
吸込カバー7は、上壁10と、上壁10の両側端および前後端からそれぞれ下方に延設される側壁11a,11b,11cとを有する。後端の側壁11cには取付部12を形成してもよい。また、前後端の側壁11b,11cは、必要に応じて除いてもよい。上壁10は、吸込側(側面図の左方向)に向かって下方に傾斜している。側壁11の下端は、羽根車3の中心より下方まで延設する。また、側壁11は、上壁10の両端部および前後端から垂設されるものとしたが、下方に延設されるものであれば、吸込カバー7の外側又は内側に向かって傾斜するものであってもよいし、例えば、丸みを帯びた形状であってもよい。また、ここでの上壁10の両端部は、厳密な端のみを表すのではなく、両端から内側にずれた位置も許容される。
【0021】
吸込カバー7の第1吸込開口8は、各側壁の下端を結んだ略矩形状を有している。本実施形態では、吸込カバー7の第1吸込開口8は略水平に形成しているが、吸込側が吐出側よりも高くなるように傾いた状態で形成してもよい。上壁10の後縁は、中央部分が両端部より高い凸部を形成している。
【0022】
吸込カバー7の側壁11の下端近傍には、少なくとも1以上の第2吸込開口14を有している。第2吸込開口14は、側壁11の表面と裏面とを貫通する開口で、水及び空気が自在に流入する。外部から吸込カバー7内に空気を取り込むことが可能な開口であればよい。例えば、上壁10や側壁11に形成した孔や切り欠き、あるいは部材間の間隙であってもよい。第2吸込開口14は、第1吸込開口8の上端よりも高い位置に開口し、第2吸込開口14の最も低い位置にある下端14bは、第1吸込開口8に連通していてもよい。また、第2吸込開口14の最も高い位置にある上端14aは、排水機場や横軸水中ポンプ1の仕様に応じて、後述する排水待機運転M3で運転可能な位置に設定される。
【0023】
第2吸込開口14の上方には、少なくとも1以上の第3吸込開口16を有している。第3吸込開口16は、側壁11の表面と裏面とを貫通する開口で、水及び空気が自在に流入する。外部から吸込カバー7内に空気を取り込むことが可能な開口であればよく、例えば、上壁10や側壁11に形成した孔や切り欠き、あるいは部材間の間隙であってもよい。第3吸込開口16の最も高い位置にある上端16aは、第2吸込開口14の最も高い位置にある上端14aより上方に位置している。第3吸込開口16の最も低い位置にある下端16bは、第2吸込開口14より上方でも下方でもよく、第2吸込開口14あるいは第1吸込開口8に連通していてもよい。また、第3吸込開口16の最も高い位置にある上端16aは、排水機場や横軸水中ポンプ1の仕様に応じて、後述する気水混合排水運転M2で運転可能な位置に設定される。
【0024】
図3は、本実施形態の吸込カバーに設けた弁体を示す正面図及び側面図である。
弁体23は、吸込カバー7に形成された第3吸込開口16の内面に設けられ、第3吸込開口16の上部近傍に設置した支持部24を支点に揺動自在に開閉する。弁体23は、支点を軸に揺動するフラップ弁等の公知の機構にて構成してあり、自重及び水位変動に伴う吸込カバー7内外の差圧に応じて自動的に第3吸込開口16を開閉する。具体的には、後述する排水運転(全量排水運転M1及び気水混合排水運転M2)時において、吸込カバー7内部が負圧状態となった際に、弁体23はポンプの羽根車3方向(図示する矢印の向き)に引き寄せられ、吸込カバー7内外の差圧によって第3吸込開口16を開放する。一方、後述する排水待機運転M3及びポンプ停止時において、吸込カバー7内部が大気圧状態となった際に、吸込カバー7内外の差圧によって弁体23は第3吸込開口16を閉止する。
【0025】
本実施形態では、図示するように吸込カバー7に一対の第3吸込開口16を形成しており、各第3吸込開口16を閉止するように一対の弁体23を吸込カバー7内面に設置している。各弁体23の開閉によって第3吸込開口16はそれぞれ開放状態または閉止状態となる。一対の弁体23は、第3吸込開口16の上端16aの上部近傍に設けた支持部24にて揺動可能に構成してあり、吸込カバー7内外の差圧に応じて同時に揺動する。
【0026】
弁体23を保持する支持部24は、吸込カバー7内面にボルトや溶接等、公知の手段にて配設する。なお、弁体23は公知のフラップ弁等の機構にて構成したが、第3吸込開口16を開閉できる機構であればこれに限定されない。本実施形態では弁体23が閉止する際に弁体23の下端部25が第3吸込開口の下端部16bまで位置するように設置し、弁体23が第3吸込み開口16を閉止しても第2吸込開口14が開放状態となるように構成したが、弁体23の設置位置や材質、厚み、形状、支持部24の吸込カバー7内面への取り付け方法等は設計事項に応じて適宜決定する。また、第3吸込開口16の一部のみ閉止する形態や、一対の第3吸込開口16のうち一方のみに弁体23を設置する形態であってもよい。さらに、
図4に示すように、1つの支持部24を支点に開閉自在に設置された1つの弁体23にて一対の第3吸込開口16を開閉する形態としてもよい。そして図示するように、弁体23の下端の形状を第2吸込開口14の形状に合わせて波状としてもよく、適宜変形実施可能である。
【0027】
図5は、横軸水中ポンプを用いたポンプゲートシステムの構成を示す概略図である。
ポンプゲートシステム17は、ポンプゲート19と、天壁20から垂下し、ゲート扉体18を吊り上げるラック棒21と、ラック棒21を上下動させることでポンプゲート19を昇降させる開閉機22とを備える。
【0028】
ポンプゲート19は、ゲート扉体18に横軸水中ポンプ1を着脱自在に組み込み、河川等の水路を開閉するものであり、上流側(図左方)から下流側(図右方)へ水を排水する。具体的には、平時は、ゲート扉体18を上昇させた状態で、ポンプ吸込側(上流側)の水路の水をポンプ吐出側(下流側)の水路に自然排水する。一方、大雨等で下流側の外水位が上昇した際には、開閉機22の駆動によりゲート扉体18を下降させて水路を閉じ、横軸水中ポンプ1は、上流側の水を下流側に強制的に排水する。なお、本実施形態におけるポンプゲートシステム17は、ポンプゲート19を垂直に降下させて水路を閉止しているが、揺動又は回転等の公知技術により水路を閉止してもよい。
【0029】
次に、ポンプゲートシステム17に用いられる横軸水中ポンプ1の運転状態について説明する。
図6は、横軸水中ポンプ1の運転状態を説明する図である。
【0030】
横軸水中ポンプ1は、予め設定された吸込側の2つの水位H,M(H>M)を基準とした3つの運転状態を有する。具体的には、全量排水運転M1と、気水混合排水運転M2と、排水待機運転M3である。全量排水運転M1は、吸込側の水位が水位Hを超えているときに実施される。気水混合排水運転M2は、吸込側の水位が、水位H以下で、かつ、水位Mを超えているときに実施される。排水待機運転M3は、吸込側の水位が水位M以下であるときに実施される。なお、不図示であるが、吸込側の水位が特定の水位L(L<M)以下であるときは、横軸水中ポンプ1は、運転を停止する。
【0031】
吸込カバー7が
図2に示す形状である場合、水位Hは、吸込カバー7の第3吸込開口16の上端16aの位置に設定される。水位Mは、吸込カバー7の第2吸込開口14の上端14aの位置に設定される。また、水位Lは、羽根車3が回転していても、水中電動機6に十分な水が供給できない水位の上限に設定される。なお、吸込カバー7に形成した第1吸込開口8や第2吸込開口14、第3吸込開口16の形状を変形して実施してもよく、吸込カバー7は
図2以外の形態であってもよい。
【0032】
<全量排水運転>
図7は、運転状態が全量排水運転M1(吸込側水位>水位H)であるときの横軸水中ポンプ1の動作を説明する図である。全量排水運転M1は、上流側で吸い込んだ水を下流側に全量排出させる運転状態である。大雨等によりゲート下流側(吐出側)の水位が上昇すると、逆流を抑止するために、ゲート扉体18が降下され、水路が閉止される。そして、ゲート上流側(吸込側)の水位が水位Hを越えると、横軸水中ポンプ1が起動され、横軸水中ポンプ1は、全量排水運転M1で、定格回転数で運転して下流側に排水する。このとき、横軸水中ポンプ1の内部に連通する開口(第1吸込開口8及び第2吸込開口14,第3吸込開口16)は全て没水しており、横軸水中ポンプ1の吐出圧力により吐出側のフラップゲート9は開放した状態となっている。ここで、横軸水中ポンプ1の運転開始のタイミングは、不図示の制御装置が、公知の水位計等により水位Hを超えていることを検知した上で判断してもよいし、実際に水位Hを検知することなく、予め設定された開始時間等に基づいて自動で判断してもよい。
【0033】
このとき、羽根車3の回転によって吸込カバー7内部が負圧状態となっており、吸込カバー7内面に設置した弁体23は自動的にポンプの羽根車3方向に引き寄せられて開の状態となる。これにより、第1~第3の全ての吸込開口から吸い込まれた水は下流側に向かって遅滞なく吐き出される。
【0034】
<気水混合排水運転>
図8は、運転状態が気水混合排水運転M2(水位H≧吸込側水位>水位M)であるときの横軸水中ポンプ1の動作を説明する図である。横軸水中ポンプ1が全量排水運転M1でゲート上流側の貯留水を排水した結果、ゲート上流側の水位が徐々に低下して水位H以下になると、運転状態が気水混合排水運転M2に移行する。気水混合排水運転M2は、水とともに少量の空気を吸気しつつ、定格回転数での運転で排水を行う運転状態である。
【0035】
気水混合排水運転M2の具体的な水位としては、吸込カバー7の第3吸込開口16の一部又は全部が大気開放しているが、第1吸込開口8及び第2吸込開口14は没水している水位である。吸込カバー7の第3吸込開口16の上端16aを水位Hに設定することにより、第1吸込開口8及び第2吸込開口14から水を吸い込みながら、第3吸込開口16から空気を吸い込むことができる。排水量は、水位と吸気量との関係より決定される。この気水混合排水運転M2を設けることにより、低水位での不安定運転を緩和することができる。
【0036】
なお、気水混合排水運転M2では、横軸水中ポンプ1の吐出圧力は、全量排水運転M1のときよりも低下している。ただし、フラップゲート9は、開放されたままである。
【0037】
このとき、羽根車3の回転によって、吸込カバー7内部が負圧状態となっており、吸込カバー7内面に設置した弁体23は自動的にポンプの羽根車3方向に引き寄せられて開の状態となる。これにより、第1吸込開口8及び第2吸込開口14から吸い込まれた水は下流側に向かって遅滞なく吐き出される。ただし、気水混合排水運転M2では、大気開放された第3吸込開口16から空気を吸い込みながら羽根車3を回転させており、吸込カバー7内部に作用する負圧が全量排水運転M1時よりも小さいため、弁体23は全量排水運転M1よりも小さい開度で開放されている。
【0038】
<排水待機運転>
図9は、運転状態が排水待機運転M3(水位M≧吸込側水位>水位L)であるときの横軸水中ポンプ1の動作を説明する図である。横軸水中ポンプ1が排水を続けることで、更に水位が低下して水位M以下になると、運転状態は、気水混合排水運転M2から排水待機運転M3に移行する。排水待機運転M3は、いわゆる待機運転となる状態であり、水とともに大量の空気を吸気しつつ、定格回転数での運転を維持する運転状態である。
【0039】
排水待機運転M3の具体的な水位としては、吸込カバー7の第2吸込開口14の一部もしくは全部が大気開放しているものの、吸込カバー7の第1吸込開口8と羽根車3の一部が没水している水位である。吸込カバー7の第2吸込開口14の上端14aを水位Mに設定することにより、水位が水位M低下になったときに、吸込カバー7の第2吸込開口14から大量の空気を吸い込むことができる。
【0040】
弁体23を有さない従来の形態では、排水待機運転M3時において、第3吸込開口16の全部が大気開放状態にあるが、本実施形態では、第3吸込開口16を開閉する弁体23を吸込カバー7内面に設けてある。そして、排水待機運転M3時には、大気開放された第2吸込開口14から大量の空気を吸い込み、吸込カバー7内部が大気圧状態となっているため、この大気圧及び自重によって、弁体23は自動的にポンプの羽根車3から遠ざかるように閉の状態となる。これにより、第3吸込開口16が閉止状態となるため第3吸込開口16からの吸気は行われない。
【0041】
第2吸込開口14から空気を吸い込むことで、横軸水中ポンプ1の吐出圧力は低下するが、ケーシング2内で水と空気とが混合した状態で運転が継続される。ケーシング2内の水量は、吸込側水位に応じて変動する。この排水待機運転M3では、ケーシング2内で攪拌される水により、水中電動機6が冷却されるため、過度の発熱を抑えることができる。なお、排水待機運転M3では、水と空気とがケーシング2内で循環流動し、吐出圧力が低いため、フラップゲート9は、基本的には閉塞した状態にある。ただし、下流側の水位が低下すると、フラップゲート9が開放する場合もある。
【0042】
<ポンプ運転停止>
ここで、排水待機運転M3では、基本的には水を排出しないので、吸込側の水位の低下はない。しかし、下流側の水位の低下により横軸水中ポンプ1の吐出圧力がフラップゲート9を開放するだけの圧力になると、排水により吸込側の水位が低下してくる。吸込側の水位が低下して水位L以下になると、横軸水中ポンプ1は、吸込側の流入予測量にもよるが、再排水の可能性が低いと判断して運転を停止する。このとき、既に排水待機運転M3時から吸込カバー7内部は大気圧状態となっているため、弁体23は自重及び大気圧によって自動的に閉の状態となっている。なお、横軸水中ポンプ1の運転停止のタイミングは、不図示の制御装置が、公知の水位計等により、水位L以下の水位を一定時間継続した状態を検知した上で判断してもよいし、実際に水位Lを検知することなく、予め設定された開始時間等に基づいて自動で判断してもよい。
【0043】
一方、いずれかの運転状態中に上流側の流入量が増大して水位が上昇したときも、別の運転状態に移行する。例えば、水位L以下の状態で水位が上昇し、吸込側の水位が水位Lを超えたとする。この場合、運転状態は、第2吸込開口14から水と空気が流入し、フラップゲート9を閉じた状態でケーシング2内の水を攪拌する排水待機運転M3に移行する。このとき、第3吸込開口16は弁体23によって閉塞状態となっている。また、排水待機運転M3中に水位が上昇し、吸込側の水位が水位Mを超えると、吸込カバー7内部が負圧状態となり、弁体23が自動的に開放され、運転状態は、第2吸込開口14からは水を、第3吸込開口16からは空気を吸気しながら排水する気水混合排水運転M2に移行する。更に、気水混合排水運転M2中に水位が上昇し、吸込側の水位が水位Hを超えると、弁体23が開放状態のまま運転状態は、第1吸込開口8及び第2吸込開口14,第3吸込開口16から水を吸い込む全量排水運転M1に移行する。
【0044】
特に、水位上昇に伴い、ポンプが停止状態から起動する際において、本実施形態では弁体23を設けており、第3吸込開口16が閉止状態となっているため、大量の空気が第3吸込開口16から吸込カバー7内部に流入しない。これにより、低水位からすぐに排水運転(気水混合排水運転M2、全量排水運転M1)を開始でき、内水側の水位を低水位で保持できる。
【0045】
また、排水運転時には、吸込カバー7内部の圧力が負圧状態となっており、弁体23が開放された状態で運転を行うことができるため、気水混合排水運転M2及び全量排水運転M1に支障をきたさない。特に、第3吸込開口16を設けたことによる気水混合排水運転M2の許容水位及び時間を長くできる作用効果及び予め設定した水位にて排水待機運転M1に移行できる作用効果を奏することができる状態で、ポンプ起動時に低水位からの排水運転を可能としたため、ポンプの運転効率をさらに向上させることができる。
【0046】
なお、横軸水中ポンプ1は、運転停止後、吸込側の流入予測量や、排水機場又は横軸水中ポンプ1の仕様に応じて、運転再開を適宜判断する。運転再開のタイミングは、吸込側の水位がどの水位であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の横軸水中ポンプ及び低水位起動型吸込カバーは、吸込カバー内面に第3吸込開口を開閉する弁体を設けた技術であり、弁体を吸込カバー内面に設置するだけでよいため、既存の横軸水中ポンプに容易に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 横軸水中ポンプ
2 ケーシング
3 羽根車
7 吸込カバー
10 上壁
11 側壁
14 第2吸込開口
14a 上端
16 第3吸込開口
16a 上端
23 弁体
M1 全量排水運転
M2 気水混合排水運転
M3 排水待機運転