(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176573
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】繊維束の開繊方法及び装置
(51)【国際特許分類】
D02J 1/18 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
D02J1/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095243
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】592029256
【氏名又は名称】福井県
(74)【代理人】
【識別番号】110003203
【氏名又は名称】弁理士法人大手門国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川邊 和正
(72)【発明者】
【氏名】替地 慎
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA33
4L036PA09
4L036PA10
(57)【要約】
【課題】繊維束に流体を通過させたわませながら開繊する方法において、開繊処理部内にたわみを形成する部材を配置し繊維束に緊張と弛緩を短時間で交互に与えて開繊を実施するが、前記部材により繊維束に作用する流体の流れが短時間で大きく変動するため、開繊効率および装置振動が大きい等の課題があった。
【解決手段】流体が通過する開口部が形成されたたわみ形成部材により繊維束に緊張と弛緩を与えて、開口部を通過した流体が繊維束の最大押し込み位置の近傍領域を通過して、繊維を流体の通過方向にたわませながら繊維を幅方向に移動させて開繊する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
給糸体から多数の繊維を引き揃え集束して成る繊維束を引き出して搬送し、前記繊維束の一部にたわみ形成部材を接触させながら搬送方向と交差する方向に押し込んで緊張状態とした後、緊張状態の前記繊維束から前記たわみ形成部材を離間させて前記繊維束を弛緩状態とする変動動作を繰り返し行う領域にて、前記繊維束に流体を通過させ、前記繊維を流体の通過方向にたわませながら幅方向に移動させて開繊する開繊方法において、前記たわみ形成部材に前記流体が通過する開口部が形成されており、前記開口部を通過した流体が前記たわみ形成部材の動作による前記繊維束の最大押し込み位置の近傍領域を通過して、前記繊維を前記流体の通過方向にたわませながら前記繊維を幅方向に移動させて開繊する繊維束の開繊方法。
【請求項2】
前記たわみ形成部材が回動して、前記繊維束に緊張と弛緩の変動動作を繰り返し与える請求項1に記載の繊維束の開繊方法。
【請求項3】
前記たわみ形成部材が前記繊維束の搬送方向と交差する方向に振動して、前記繊維束に緊張と弛緩の変動動作を繰り返し与える請求項1に記載の繊維束の開繊方法。
【請求項4】
前記繊維束がたわむ領域の搬送方向における長さであるたわみ区間長さと、たわんだ前記繊維束に流体が作用し通過する領域の搬送方向における長さである流体作用区間長さとの関係において、たわみ区間長さ>流体作用区間長さの関係となる請求項1に記載の繊維束の開繊方法。
【請求項5】
搬送される前記繊維束中に流体を作用させることで繊維をたわませながら幅方向に移動させて開繊する領域が、前記繊維束の搬送経路において複数個所に設定されている請求項1に記載の繊維束の開繊方法。
【請求項6】
前記たわみ形成部材には搬送される前記繊維束の開繊幅を規制する幅規制ガイドを備えて、前記繊維束の開繊幅を徐々に拡幅させながら開繊する請求項5に記載の繊維束の開繊方法。
【請求項7】
幅方向に複数本の前記繊維束を並べて搬送させ、各前記繊維束を開繊する請求項1に記載の繊維束の開繊方法。
【請求項8】
搬送される繊維束中に流体を作用させることで繊維をたわませながら幅方向に移動させて開繊する開繊処理部と、前記流体が通過する開口部が形成されたたわみ形成部材を前記開繊処理部内に配置して前記たわみ形成部材により前記繊維束を搬送方向と交差する方向に押し込んで緊張状態とするとともに緊張状態の前記繊維束からたわみ形成部材を離間させて前記繊維束を弛緩状態とする変動動作を繰り返し行うたわみ形成部とを備えている繊維束の開繊装置。
【請求項9】
前記たわみ形成部材は、搬送される前記繊維束を搬送方向と交差する方向に押し込む複数の押込部材と、前記押込部材を前記流体が通過する間隔を空けて前記開口部を形成するように取り付けた取付部材とを備えている請求項8に記載の繊維束の開繊装置。
【請求項10】
前記押込部材が、ロール形状に形成されている請求項9に記載の繊維束の開繊装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給糸体から多数の繊維を引き揃え集束して成る繊維束を引き出して搬送し、搬送される繊維束中に流体を通過させることで繊維をたわませながら幅方向に移動させて開繊する繊維束の開繊方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂またはPA6、PPS、PEEKなどの熱可塑性樹脂を母材(マトリックス)とする繊維強化複合材料は、軽量、かつ機械的特性・耐食性などに優れているため、航空機、自動車などの輸送用分野、工作機械部品、ロボットアームなどの産業用途分野、さらには釣り竿、ゴルフシャフトなどのスポーツ分野などいろいろな分野の製品に幅広く用いられるようになってきた。
【0003】
この繊維強化複合材料の成形体を成形する方法として、プリプレグシートと呼ばれる、強化繊維束の単繊維間にマトリックスとなる樹脂を含浸させてなるシート状の中間材料を用いて成形する方法が多く採用される。例えば、プリプレグシートを種々の方向に積層後、加熱加圧して成形する方法があるが、この方法で得た成形体は長繊維の特性が活かされた高弾性かつ高強度な成形体となる。また、プリプレグシートを短冊形のチョップドテープに加工した後、チョップドテープを型内にばらまき加熱加圧する成形方法では、軽量かつ力学的特性に優れた複雑な形状をした成形体を得ることができる。
【0004】
近年、繊維の分散性が良い、薄いプリプレグシートの必要性が増してきている。薄いプリプレグシートは、薄肉な成形体を得るためだけでなく、長繊維方向の物性が優れる異方性の特徴を生かした多彩な設計を可能とし、また、プリプレグシートやチョップドテープを積層した成形体の力学的特性を向上させることがわかってきており、繊維強化複合材料の使用用途をさらに拡大するものと期待されている。そして、このような均一で薄いプリプレグシートの要求を満たすために、強化繊維束を開繊する技術も必要となっている。
【0005】
また、プリプレグシートの製造において、強化繊維束を開繊することは材料コストを下げることにおいても必要とされている。均一で薄いプリプレグシートを作るためには、通常、繊維(フィラメント)数の少ない強化繊維束を一方向に引揃えて作るのが一般的である。しかし、フィラメント数の少ない強化繊維束は高価であるため、できる限りフィラメント数の多い強化繊維束を使用したい。このため、フィラメント数の多い強化繊維束を開繊して薄い強化繊維束の開繊糸シートを作製したのちプリプレグシートとする方法は、材料コストの下がった均一で薄いプリプレグシートを可能とするものである。
【0006】
複数本の繊維束を開繊する方法として、本発明者等は、特許文献1、特許文献2などの方法を提案している。これらの方法は、搬送される繊維束に搬送方向と交差する方向から流体を作用させ、前記繊維束をたわませながら各繊維を幅方向に移動させて開繊する方法であり、複数本の搬送される繊維束にたわみを与えるため、前記繊維束に接触する部材(接触部材と呼ぶ)により搬送方向と交差する方向に繊維束を押し込む動作と、押し込まれた繊維束から前記接触部材を離間させる動作を繰り返し与える方法が示されている。
【0007】
これらの方法により、複数本の繊維束を、繊維分散性良く、かつ各繊維束が幅広く開繊することが実施できるようになった。そして、特許文献2の方法では、前記接触部材が回動して繊維束の押し込みと繊維束からの離間を高速で繰り返し行うため、品質の良い、幅広な開繊が高速にて実施できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4740131号公報
【特許文献2】特許第5553074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの方法は、繊維束を前記接触部材により押し込む動作と押し込まれた状態の前記繊維束から前記接触部材を離間させる動作を繰り返し与える変動付与部と、前記繊維束に流体を作用させ曲線状にたわませながら幅方向に各繊維を移動させる開繊処理部を備えた装置によって行うことができる。そして、開繊処理部を構成する風洞管(上方部は開口され、下方部は流体を吸引する吸引ポンプと接続された構成)の上方部に、変動付与部の接触部材を配置した装置により、繊維束を前記接触部材の流体が吸引される下流側に搬送させて開繊を実施することで、幅広くかつ品質の良い開繊を実現できるようになった。
【0010】
しかし、前記繊維束が前記風洞管内でたわむ際、前記繊維束に作用する流体は前記接触部材をまわり込むようにして風洞管内に吸引されて前記繊維束に作用するため、吸引された流体が繊維束に効率的に作用していないと考えられる。
【0011】
また、これらの方法では、開繊処理部全体に大きな振動を生じ、装置の揺れ、ネジの緩み、部材の破損、そして騒音が大きい等の課題を生じている。これは、開繊処理部内で前記接触部材が回動もしくは縦振動させたとき、前記接触部材が前記繊維束を押し込む場合と前記繊維束から離間する場合において、開繊処理部内に流体が流れ込む領域の面積が大きく変動することが原因と考えている。特に、高速な開繊加工になるほどその振動は大きくなり、高速開繊加工を連続で行う際の装置耐久性、騒音などが課題となっている。
【0012】
そこで、本願発明は、繊維束に効率的に流体が作用する開繊を実施できる繊維束の開繊方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る繊維束の開繊方法は、給糸体から多数の繊維を引き揃え集束して成る繊維束を引き出して搬送し、前記繊維束の一部にたわみ形成部材を接触させながら搬送方向と交差する方向に押し込んで緊張状態とした後、緊張状態の前記繊維束から前記たわみ形成部材を離間させて前記繊維束を弛緩状態とする変動動作を繰り返し行う領域にて、前記繊維束に流体を通過させ、前記繊維を流体の通過方向にたわませながら幅方向に移動させて開繊する開繊方法において、前記たわみ形成部材に前記流体が通過する開口部が形成されており、前記開口部を通過した流体が前記たわみ形成部材の動作による前記繊維束の最大押し込み位置の近傍領域を通過して、前記繊維を前記流体の通過方向にたわませながら前記繊維を幅方向に移動させて開繊する。さらに、前記たわみ形成部材が回動して、前記繊維束に緊張と弛緩の変動動作を繰り返し与える。さらに、前記たわみ形成部材が前記繊維束の搬送方向と交差する方向に振動して、前記繊維束に緊張と弛緩の変動動作を繰り返し与える。さらに、前記繊維束がたわむ領域の搬送方向における長さであるたわみ区間長さと、たわんだ前記繊維束に流体が作用し通過する領域の搬送方向における長さである流体作用区間長さとの関係において、たわみ区間長さ>流体作用区間長さの関係となる。さらに、搬送される前記繊維束中に流体を作用させることで繊維をたわませながら幅方向に移動させて開繊する領域が、前記繊維束の搬送経路において複数個所に設定されている。さらに、前記たわみ形成部材には搬送される前記繊維束の開繊幅を規制する幅規制ガイドを備えて、前記繊維束の開繊幅を徐々に拡幅させながら開繊する。さらに、幅方向に複数本の前記繊維束を並べて搬送させ、各前記繊維束を開繊する。
【0014】
本発明に係る繊維束の開繊装置は、搬送される前記繊維束中に流体を作用させることで繊維をたわませながら幅方向に移動させて開繊する開繊処理部と、前記流体が通過する開口部が形成されたたわみ形成部材を前記開繊処理部内に配置して前記たわみ形成部材により前記繊維束を搬送方向と交差する方向に押し込んで緊張状態とするとともに緊張状態の前記繊維束からたわみ形成部材を離間させて前記繊維束を弛緩状態とする変動動作を繰り返し行うたわみ形成部とを備えている。さらに、前記たわみ形成部材は、搬送される前記繊維束を搬送方向と交差する方向に押し込む複数の押込部材と、前記押込部材を前記流体が通過する間隔を空けて前記開口部を形成するように取り付けた取付部材とを備えている。さらに、前記押込部材が、ロール形状に形成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、上記のような構成を有することで、繊維束を通過する流体の変動を小さくして効率よく開繊作用を行うことができる。また、繊維束を通過する流体の変動が小さくなることで、開繊処理部全体に生じる振動を小さくすることができ、装置が揺れる、ネジが緩む、部材の軸破損、騒音が大きいなどの課題を軽減した。
【0016】
ここで、繊維束の搬送方向とは、搬送される繊維束の搬送経路の方向を意味し、ガイドロール等の案内部材により搬送経路が規定されている場合には、搬送経路に繊維束を張設した方向を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る開繊装置に関する概略側面図である。
【
図2】本発明に係る回動するたわみ形成部材に関する概略図である。
【
図3】本発明に係る回動するたわみ形成部材による複数の繊維束の開繊状態に関する概略図である。
【
図4】本発明に係る回動するたわみ形成部材による空気流れに関する説明図である。
【
図5】本発明に係る回動するたわみ形成部材の別の実施形態に関する概略図である。
【
図6】本発明に係る繊維束の搬送方向と交差する方向に縦振動するたわみ形成部材の概略図である。
【
図7】本発明に係る繊維束がたわむ区間の長さと繊維束に流体が作用し通過する区間の長さに関係する説明図である。
【
図8】本発明に係る別の実施形態に関する開繊装置の概略平面図である。
【
図9】本発明に係る別の実施形態に関する開繊装置の概略側面図である。
【
図10】従来例に係る回動する接触部材を用いた場合の開繊に関する説明図である。
【
図11A】実施例の開繊処理部およびたわみ形成部の寸法設定に関する説明図である。
【
図11B】実施例の開繊処理部およびたわみ形成部の寸法設定に関する説明図である。
【
図12A】本発明に係る開繊装置の風洞管部分における加工速度15m/分での開繊中における振動状況を示す結果である。
【
図12B】本発明に係る開繊装置の風洞管部分における加工速度40m/分での開繊中における振動状況を示す結果である。
【
図13A】先行技術に係る開繊装置の風洞管部分における加工速度15m/分での開繊中における振動状況を示す結果である。
【
図13B】先行技術に係る開繊装置の風洞管部分における加工速度40m/分での開繊中における振動状況を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨が明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明に係る開繊装置に関する概略側面図である。この装置例では、複数の繊維束Tmを給糸する給糸部1、給糸された各繊維束Tmを案内する案内部2、搬送される各繊維束Tmをたわませて一時的に弛緩させる変動動作を行うたわみ形成部3、搬送される各繊維束Tmを開繊する開繊処理部4、各繊維束Tmに熱風を吹きかけ加熱する加熱部5、そして各繊維束が開繊された開繊糸Tsを挟持して搬送する引取部6を備えている。
【0020】
長繊維を複数本集束した繊維束Tmは、ボビン形式の給糸体11に巻き付けられており、引取部6により開繊糸Tsが引き込まれていくに伴い、給糸体11が回転して繊維束Tmが繰り出されていくようになっている。なお、
図1では、5本の給糸体がセットされているが、供給される繊維束Tmは1本であってもよいし、幅広な開繊糸シートを製造するために5本以上がセットされてもよい。
【0021】
繊維束Tmに用いられる繊維材料としては、炭素繊維束、ガラス繊維束、アラミド繊維束、セラミックス繊維束などの高強度繊維からなる強化繊維束、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性の合成繊維繊維を引き揃えた熱可塑性樹脂繊維束等が挙げられる。例えば、炭素繊維束の集束本数は、12000本から24000本が一般的であるが、本発明では24000本を超える集束本数(例えば、50000本)の繊維束を用いることもできる。
【0022】
図1の例では、給糸体11に給糸モータ(
図1では図示されていない)が取り付けられており、給糸モータを回転駆動させることで給糸体11からの繰り出し量を調整することができる。給糸体11から繰り出された繊維束Tmは案内部2に送給され、一定の張力を付与され搬送される。案内部2では、まず、繊維束Tmは回転する案内ロール21により所定方向の引き出し方向に向かって引き出されていく。
【0023】
案内ロール21により所定方向に向かって引き出された繊維束Tmは張力付与部22に搬送される。張力付与部22は、繊維束Tmの搬送方向Dに所定間隔を空けて配列された一対の支持ロール221と、前記一対の支持ロール221の間に、繊維束Tmに張力を付与する張力付与ロール222が設けられている。繊維束Tmは、支持ロール221の上側から張力付与ロール222の下側に回り込むようにセットされ搬送される。そして、支持ロール221の間を通過する繊維束Tmの長さが変化するとそれに対応して張力付与ロール222が昇降するようになる。張力付与ロール222の昇降動作は、上限位置検知センサ223及び下限位置検知センサ224により検知される。
【0024】
張力付与ロール222が上昇して上限位置検知センサ223が検知すると、給糸体11に接続する給糸モータの繰り出し量が増加して繊維束Tmの送り量が増加する。また、張力付与ロール222が下降して下限位置検知センサ224が検知すると、給糸体11に接続する給糸モータの繰り出し量が減少して繊維束Tmの送り量を減少させる。
【0025】
こうして、上限位置検知センサ223及び下限位置検知センサ224からの検知信号に基づいて張力付与ロール222が所定範囲に位置するように繊維束Tmの送り量を調整して、繊維束Tmの張力を張力付与ロール222の自重で安定させるようにしている。なお、繊維束Tmに付与される張力は、張力付与ロール222の重さを加減することで適切に決定することができる。
【0026】
張力付与部22の搬送方向下流側において、繊維束Tmに生ずる振動を減少させる機構として、振動除去部23を設けている。振動除去部23は、一対の支持ロール231及び揺動ロール232が設けられている。揺動ロール232は、前記一対の支持ロール231の間に配列されて、前記支持ロール231の下側を通る繊維束Tmが揺動ロール232の上側を通るように設定されている。そして、揺動ロール232を上方に移動するように付勢するばね部材233が設けられており、揺動ロール232が上方に付勢されている。こうした構成で繊維束Tmに生じる振動を減少するようにしている。
【0027】
振動除去部23の搬送方向下流側には、繊維束Tmの搬送が逆戻りしないための逆戻り防止部24が設けられている。逆戻り防止部24は、一方向回転ロール241と支持ロール242により構成されている。一方向回転ロール241は、図示せぬ一方向クラッチが取り付けられており、繊維束Tmが搬送される方向のみ回転し引き戻す方向には回転しないようになっている。繊維束Tmを一方向回転ロール241と支持ロール242によりニップして搬送することで、繊維束Tmが逆戻りして走行することを防止している。
【0028】
各給糸体11から繰り出された繊維束Tmは所定の張力が付与され、振動除去部23、そして逆戻り防止部24を通って送り出されて案内ロール25により整列ロール26に向かって搬送される。整列ロール26は、搬送された複数の繊維束Tmを同一平面に等間隔に配列されるように整列して複数の繊維束Tmを搬出する。
【0029】
所定範囲の張力に設定された繊維束Tmは、搬送方向Dに設置された開繊処理部3を通過する。開繊処理部は、搬送方向Dに配列された一対のガイドロール31により繊維束Tmを支持する。ガイドロール31の間には、風洞管32が設けられており、風洞管32の上方開口部がガイドロール31の間に所定長さで形成されている。風洞管32の下側には流量調整バルブ33及び吸気ポンプ34が取り付けられており、吸気ポンプ34を作動させて風洞管32内の空気を吸引することで、ガイドロール31の間の上方開口部において吸引による下降気流が発生する。本発明では吸引による下降気流を吸引気流とよぶ。なお、流量調整バルブ33を調整することで前記吸引気流の流量を調整することができる。
【0030】
ガイドロール31の間を搬送中の繊維束Tmに対して前記吸引気流が通過し、繊維束Tmが気流の通過方向にたわんだ状態になると、たわんだ状態の繊維束Tmの繊維の間を空気が通り抜けることで繊維を繊維束Tmの幅方向に移動させる力が働き、繊維束Tmが開繊されるようになる。こうした開繊作用は公知である。この例では、空気の流れを用いて開繊処理を行っているが、水等の液体を流体として用いて開繊処理を行うこともできる。
【0031】
開繊処理部3の一対のガイドロール31間にたわみ形成部4が配置されている。この例では、たわみ形成部4は
図2の説明図のような構成となっている。回動して繊維束Tmに緊張状態と弛緩状態を与えるたわみ形成部材41と、たわみ形成部材の長手方向に設定される中心軸Oに沿って配置される支持棒43と、たわみ形成部材41を前記中心軸Oを中心に回転させる回転モータ44から構成される。
【0032】
図2における回動するたわみ形成部材41は、所定の厚みを有する板状体に形成され、長手方向の長さは複数の開繊された繊維束Tmの幅方向全幅にわたって接触可能な長さ以上に設定されている。そして、長手方向に設定される中心軸Oと所定間隔を置いて平行に設定された両側端の辺部に一対の接触面41aが形成されている。接触面41aは繊維束Tmと接触する面のため、中心軸Oと直交する方向の切断面では曲面形状に形成されている。曲面形状とすることで接触する繊維束を傷つけないようにできる。具体的には断面形状が円弧状などにすることが望ましい。
【0033】
そして、たわみ形成部材41には、前記吸引気流が通過する開口部Mが設けられている。
図2における回動するたわみ形成部材41では、開口部Mは前記板状体の厚さ方向に開口しており、開口幅は中心軸Oを対称に繊維束Tmが開繊できる範囲の流体が通過できる所定幅で設定され、また開口長さは複数の開繊された繊維束Tmの幅方向全幅にわたって前記吸引気流が作用する長さ以上に設定されている。
【0034】
図3には、回動するたわみ形成部材による複数の繊維束の開繊状態に関する概略図を示す。たわみ形成部材41は、搬送される繊維束Tmに対してガイドロール31とは反対側に配置されており、開繊される複数の繊維束Tmの全幅にわたって接触可能な長さに設定されている。たわみ形成部材41は回転モータ44の回転駆動により回動し、たわみ形成部材41の接触面41aが交互に繊維束Tmに対して接触しながら搬送方向Dと傾斜する方向に移動し、繊維束Tmの表面をなでるように回動して繊維束Tmをガイドロール31の間に押し込んで緊張状態にする。接触面41aがさらに上方に向かって回動して緊張状態の繊維束Tmから接触面41aが離間した瞬間に繊維束Tmが一時的に弛緩した状態となる。
【0035】
図3では、たわみ形成部材41は風洞管32の繊維束Tmの幅方向側に配置される一対の壁面に取り付けられる。この場合では、たわみ形成部材41の長手方向両端部に円盤状の壁部材42を取り付け、壁部材42が風洞管32の前記壁面内に収まるように前記壁面に円状の開口部を設けて取り付けられている。そして、前記壁面の開口部と壁部材42の外周部の間にボールベアリングなどを配置し、たわみ形成部材41が回転できるように構成されている。
【0036】
たわみ形成部材41の接触面41aが繊維束Tmを一対のガイドロール31の間に押し込んだ後、回動して繊維束Tmから離間した直後、たわみ形成部材41の開口部Mから風洞管32に吸引される空気流れ(吸引気流)がダイレクトに繊維束に作用して繊維束Tmは吸引気流の方向に曲線状にたわむと同時に、各繊維間に空気が通過して幅方向に分散性良く開繊する。
【0037】
繊維束が各繊維間に流体が通過して曲線状にたわみながら開繊する方法においては、繊維束が流体の流れ方向にたわんだ時、流れ方向下流側に最もたわんだ位置の近傍領域(以下「最大たわみ領域」という)に流体を通過させることで最も効率的に各繊維を幅方向に移動させることができ、かつ繊維分散性の良い開繊が実施できる。
【0038】
図4は、開口部Mを設けた回動するたわみ形成部材41をガイドロール31間のほぼ中央位置に配置した場合の空気流れに関する説明図である。たわみ形成部材41に開口部Mを設けたことにより、たわみ形成部材41の接触面41aが繊維束Tmから離間した直後から、前記開口部を通過した空気が繊維束Tmの最大たわみ領域Nにそのまま流れて通過するようになり効率的な開繊を実施できる方法となっている。この場合では、たわみ形成部材41が繊維束Tmを最大に押し込む位置(最大押込み位置P)の近傍領域が、繊維束Tmが流体の流れ方向に曲線状にたわんだ時の最大たわみ領域Nになる。
【0039】
図10は、従来例に係る回動する接触部材を用いた場合の開繊に関する説明図である。従来例では開繊処理部3の風洞管32の上方開口部に配置したガイドロール31の間に変動付与部8を設けている。変動付与部8は本発明のたわみ形成部4に相当する。そして、本発明のたわみ形成部材41に相当する接触部材81によって、繊維束Tmを風洞管32内に押し込み緊張状態にする作用と、繊維束Tmから離間し弛緩した状態にする作用を交互に行っている。従来例の接触部材81は中実の板状体構造になっているため、接触部材81の接触面81aが繊維束Tmから離間した後は、接触部材81を回り込むように吸引気流が流れて流入することになり、吸引気流が繊維束Tmの最大たわみ領域に効率良く通過する開繊にはなっていないと考えられる。
【0040】
また、従来例では、接触部材81の接触面81aが繊維束Tmを最も下流側に押し込む時の風洞管32の上方開口部における吸引気流が通過する領域と、接触面81aが繊維束Tmから離間し搬送方向Dとほぼ平行になった時の前記上方開口部における吸引気流が通過する領域とではその領域広さが大きく変動する。この領域広さが大きく変動することで流体の流れも大きく変動すると考えられ、このことも開繊処理部全体に振動を生じる原因になっていると考えられる。特に、高速な開繊加工になるほど、短時間でその領域広さが変動するためその振動は大きくなると考えられる。
【0041】
本発明では、
図4の説明図からわかるように、たわみ形成部材41に開口部Mを設けていることにより、たわみ形成部材41の接触面41aが繊維束Tmを最も下流側に押し込む時の風洞管32の上方開口部における吸引気流が通過する領域と、接触面41aが繊維束Tmから離間し搬送方向Dとほぼ平行になった時の前記上方開口部における吸引気流が通過する領域とでは、その領域広さの差が従来例の場合に比べ小さくなる。よって、従来例に比べ、開繊処理部全体に生じる振動、騒音などが軽減され、高速加工においても安定した開繊を実施できるようになる。
【0042】
図2の回動するたわみ形成部材41は、所定厚みを有する板状体の厚さ方向に所定幅で所定長さの開口部Mを設けているが、前記開口部はドリルなどを用いた穴空け加工などにより形成される。たわみ形成部材41は、回動中に最大たわみ領域に気流が通過可能な開口部が形成されていればよく、開口部の形状は特に限定されない。例えば、たわみ形成部材を複数の部材を組み合せて開口部を構成することもできる。
図5では、2本の押込部材411と2枚の取付部材412から構成されている。
【0043】
押込部材411は、繊維束Tmを搬送方向と直交する方向に押し込む部材である。中心軸Oと直交する方向の断面形状はほぼ四角形状で繊維束Tmと接触する接触面41aは繊維束にダメージを与えないように曲面形状になっている。取付部材411は所定の厚さがある円盤状になっており、押込部材411を固定できる穴加工が施されている。
【0044】
2本の押込部材411を中心軸Oを中心に対称となる位置に配置し、押込部材411の両端部をそれぞれの取付部材412にはめ込み固定する。そして、押込部材411を中心軸Oから一定の長さ離して取付部材412にはめ込むことで、二つの押込部材の間に所定の間隔ができ、前記間隔が開口部Mとして形成される。なお、押込部材の中心軸Oに沿った長さは、複数の開繊された繊維束Tmの幅方向全幅にわたって接触可能な長さ以上に設定される。
【0045】
一方の円盤状の取付部材412の中心位置に支持棒43を取り付けて回転モータ44と連結させ、もう一方の円盤状の取付部材412は風洞管の壁面内に円状の開口部を設けその内側に収まるように取り付ける。なお、前記壁面の開口部と取付部材412の外周部の間にはボールベアリングなどを配置する。このような構成にすることで、たわみ形成部材41が風洞管の上方開口部にて回転できる。
【0046】
押込部材411の形状として、中心軸Oと直交する方向の断面形状がロール形状や、楕円形状のものであってもよい。繊維束Tmと接触する面が曲面形状であれば良い。また、押込部材411の配置される本数は2本より多く配置してもよい。押込部材411の接触面41aの先端部が一つの円周上に等間隔になるようにして複数本の押込部材を配置することで、たわみ形成部材41の回転が安定し、かつ繊維束Tmのたわみも安定して形成され望ましい。なお、本発明者等の検討の結果、押込部材411は4本までが望ましい。それ以上の本数になると、押込部材411が繊維束Tmから離間しない、もしくは離間しても瞬間的となってしまい繊維束のたわみが形成されなくなり、幅広な開繊ができなくなるためである。
【0047】
図6は、本発明に係る繊維束の搬送方向と交差する方向に縦振動するたわみ形成部材の概略図である。本発明では、風洞管の上方開口部に繊維束を効率よく開繊させるための開口部Mを形成したたわみ形成部材を配置するが、前記たわみ形成部材は回動して繊維束に緊張と弛緩を与える方式と、たわみ形成部材を上下に振動させ繊維束に緊張と弛緩を与える方式がある。
【0048】
図6のたわみ形成部材41は繊維束の搬送方向に対し上下に振動させることで複数本の繊維束にたわみを生じさせる。そして、たわみ形成部材41は、中心軸Oと直交する方向の断面形状が例えば
図6のように半円となっており、曲面形状部分が繊維束と接触する部分になっている。開口部Mは吸引気流が通過できる方向に、中心軸Oを対称に繊維束が開繊できる範囲の吸引気流が通過できる所定幅で、かつ複数の開繊された繊維束の幅方向全幅にわたって前記吸引気流が作用する所定長さで設定されている。
【0049】
そして、
図6のたわみ形成部材41は、中心軸Oに沿って、支持棒43が突出しており、一方の支持棒43は昇降ロッド453、コネクティングロッド452、そして回転板451に連結している。回転板451が回転モータ44から回転駆動を伝達され回転すると、コネクティングロッド452、昇降ロッド453とのクランク機構により、前記支持棒を上下に移動させる。なお、もう一方の支持棒43は、風洞管の壁面に前記支持棒の上下移動をスムースにするリニアスライドなどの機構を設けて取り付けられる。このような構成にすることで、たわみ形成部材41は高速かつスムースに上下移動できる。
【0050】
図6のたわみ形成部材41を風洞管の上方開口部に設置し、繊維束の搬送速度を考慮してたわみ形成部材41を上下に振動させることで、たわみ形成部材41が繊維束から離間した直後に繊維束がたわむ状態になる。このとき、たわみ形成部材41に設けられた開口部Mを通過した流体がたわんだ繊維束の最大たわみ領域に作用し繊維束を開繊させることができる。
【0051】
図7は、本発明に係る繊維束がたわむ区間長さと繊維束に流体が作用し通過する区間の長さに関する説明図である。本発明では、一対のガイドロール31間にたわみ形成部材41を配置して繊維束Tmを搬送方向Dと直交する方向に押し込むため、一対のガイドロール31間を搬送される繊維束Tmの長さはガイドロール31間の直線距離以上の長さとなる。よって、繊維束Tmがたわみ形成部材41から離間すると、ガイドロール31間で流体の通過方向にたわむことができる。
【0052】
繊維束に流体を通過させ曲線状にたわませながら開繊する方法では、たわんだ繊維束の最大たわみ領域に流体を作用させ通過させることで効率的な開繊を実施できる。よって、前記近傍領域を中心にした範囲に流体を作用させ各繊維間を通過させることが望ましい。本発明では、たわみ形成部材41に開口部が設けられていることから、前記開口部を通過した流体が前記近傍領域にそのまま流れ繊維間を通過することができ、効率的な開繊を可能とする。
【0053】
一対のガイドロール31間でたわむ繊維束において、前記繊維束がガイドロール31の接触から離れた点からもう一方のガイドロール31に接触するまでの直線的な区間長さをたわみ区間長さLとし、繊維束Tmに流体が作用して各繊維間に流体が通過する領域の搬送方向Dの長さを流体作用区間長さWとしたとき、本発明では、たわみ形成部材41に開口部Mが設けられていることから、L>Wに設定することができ、かつ、流体通過方向にたわむ繊維束の最大たわみ領域に前記流体を通過させることができ、効率的な開繊を実施できる。流体作用区間長さWを狭くすることが可能となることから消費する流体量を減らすこともでき、よって、消費するエネルギーを少なくする効果も得られる。さらには、風洞管に吸引される流体量を減らすことにより、開繊処理部部全体の振動を軽減する効果もある。
【0054】
図1では、繊維束Tmは、たわみ形成部材41による変動動作を繰り返し受けながらたわみ形成部材41に形成された開口部Mを通過した流体の作用を受けて、たわみながら効率よく開繊される。このとき、繊維束Tmはサイズ剤などで複数本の繊維が集束されているが、前記サイズ剤として集束性の高いサイズ剤が使用されている場合、またサイズ剤付着量が多い場合のときは各繊維の集束性が強くなり、各繊維がばらけ難い状態になる。このようなときは、繊維束Tmに、加熱部5を使用して熱風を吹きあてるなどして繊維束Tmを加熱すると良い。加熱されることで前記サイズ剤が軟化し、各繊維がばらけ易くなる。加熱温度としては、前記サイズ剤の種類、付着量、そして繊維束Tmの搬送速度などによるが、使用するサイズ剤が軟化し繊維束が開繊し易い状態になる温度を見出し設定するとよい。本発明者等は不雰囲気温度として60度~120度の範囲で設定している。
【0055】
開繊処理部3を通過した繊維束Tmは繊維分散性よく開繊された開繊糸Tsに加工される。
図1では、複数本の開繊糸Tsは引取部6にて一対の引取りロール61により挟持されて搬送される。引取りロール61は、引取りモータ(
図1では図示されない)により回転駆動が伝達されて開繊糸Tsを搬送する。引取りロール61により搬出された複数本の開繊糸Tsは、図示せぬ巻取り装置により巻き取られるか、そのまま樹脂含浸装置等に搬入されてプリプレグシートに加工される。なお、通常、プリプレグシートを製造するプリプレグシート製造装置にはシートを搬送する機構が構成される場合が多く、この場合、
図1の引取部6は配置されない。
【0056】
図8および
図9は、本発明に係る別の実施形態に関する開繊装置の概略平面図および概略側面図である。この開繊装置では、繊維束Tmの搬送経路に沿って3箇所に開繊処理部3が配置されている。各開繊処理部3に対応して加熱部5が設けられており、各開繊処理部3の開繊幅は、搬送方向の上流側から下流側にいくにしたがって順次幅広となるように設定されている。そして、各開繊処理部3の上方開口部には、開口部Mが形成された回動するたわみ形成部材41が配置されている。たわみ形成部材41の片方には支持棒43が取り付けられており、支持棒43にはそれぞれ駆動プーリ46が固定され、そして各駆動プーリ46は駆動伝達ベルト47を介して回転モータ44と連結している。回転モータ44を回転駆動することで、各駆動プーリ46が回転してたわみ形成部材41が同期して回動する動作を行うようになる。なお、本実施形態では開繊処理部は3箇所を配置しているが、開繊処理部は2箇所でも、4箇所以上でもよく、使用する繊維束、開繊したい幅、搬送速度などによって、使用個数を決定すればよい。
【0057】
上述した開繊装置の例では、駆動伝達ベルトを用いているが、駆動伝達チェーンを用いてもよい。また、複数のたわみ形成部材41を同期して回動させているが、前記たわみ形成部材41の回動タイミングを異ならせることも容易に行うことができ、繊維束の種類、繊度、本数等の特性や開繊幅に応じて回動タイミングを調整して最適なタイミングで変動動作を行うことが望ましい。
【0058】
複数のたわみ形成部材41が同期して繊維束Tmを搬送方向と交差する方向に押し込み緊張状態とした後、緊張状態の繊維束Tmからたわみ形成部材41が離間して弛緩状態となる変動動作を繰り返し行うことにより、各開繊処理部3の風洞管内において繊維束Tmが流体の流れ方向にたわむことができる。たわみ形成部材41には開口部Mが形成されているため、前記開口部を通過した吸引気流がたわむ繊維束の最も下流側近傍領域に作用して、流体が各繊維間を通過して繊維分散性の良い、幅広な開繊が実施できる。
【0059】
たわみ形成部材41に幅規制ガイド48を設けて、各繊維束Tmが拡がる幅を規制することができる。
図8および
図9の実施形態では、3箇所の開繊処理部を配置しているが、最も上流側にあるたわみ形成部材41には幅広な幅規制ガイド48を、次のたわみ形成部材41には狭い幅規制ガイド48を、最後のたわみ形成部材48には幅規制ガイドを設けない構成にしている。このように構成することで、搬送方向の上流側に配置される開繊処理部3から順次幅広な開繊が実施できるようになる。
【0060】
幅規制ガイドは、
図8のようにたわみ形成ガイド41に直接入れ込む形態で、円盤状の板材のような形状のものであってもよいし、風洞管の上方開口部を矩形状に形成して側壁をそのまま利用するものであってもよい。また、風洞管の内部に針金等を複数本立設して幅規制ガイドとして用いてもよい。
【0061】
開繊処理部3の搬送方向下流側には、各繊維束が開繊した開繊糸Tsに対して幅方向に摺接する幅方向変動付与部7が設けられている。幅方向変動付与部7は、複数本の開繊糸Tsの上側に全幅にわたって配列された横振動ロール71を有し、複数本の開繊糸Tsの下側に支持ロール72が配列されている。横振動ロール71はクランク機構74に連結されており、クランク機構74をクランクモータ73により駆動することで、横振動ロール71を複数本の開繊糸Tsの幅方向に進退移動させる。横振動ロール71が進退移動して複数本の開繊糸Tsの繊維に摺接することで、繊維同士が付着した部分を柔かく解きほぐしたり、繊維間隙間を繊維の横移動にて埋めるなどして、複数本の開繊糸Ts全体を繊維が均一に分散した一枚のシート状態のように仕上げて開繊糸シートSにする。
【0062】
開繊糸シートSは、引取ロール61により挟持されて搬送される。引取ロール61は回転モータ62により回転駆動されて、開繊糸シートSを搬送する。引取りロール61により搬出された開繊糸シートSは、図示せぬ巻取り装置により巻き取られるか、そのまま樹脂含浸装置等に搬入されてプリプレグシートに加工される。
【実施例0063】
<実施例1>
図1に示す開繊装置のような開繊処理部および回動するたわみ形成部材を用いたたわみ形成部を1セット設けた装置構成にて実施した。繊維束として炭素繊維束(東レ株式会社製、品番T700SC―60E―12K、繊維直径約7μm、集束本数12000本)を使用した。繊維束の元幅は約6mmであった。
【0064】
開繊処理部およびたわみ形成部における装置において各部材は、
図11Aおよび
図11Bに示す寸法を以下の通り設定した。
・たわみ形成部材41;幅X1=48mm、厚さX2=20mm
・接触面41a;断面形状の曲率半径X3=10mm
・開口部Mにおける開口幅;X4=20mm
・ガイドロール31;外径X5=20mm
・風洞管32;搬送方向の長さ、つまり流体作用区間長さX6=52mm
・たわみ形成部材41の中心軸Oとガイドロール31の最上点との間の高低差X7=2mm
・たわみ形成部材41の中心軸Oとガイドロール31の中心軸との間の間隔X8=36mm
・ガイドロール31の中心軸の間の間隔X9=72mm
接触面41aの回動時の最下点とガイドロール31の最上点との間の高低差X10=22mm
【0065】
加熱機構5による加熱温度は、吹き出した熱風が繊維束にあたる付近にて約80℃になるよう設定し、風洞管32の吸引気流の流速は、繊維束のない状態で20m/秒とした。開繊処理部3に搬送される繊維束本数は8本で、幅方向に25mm間隔で配置して搬送させた。繊維束の初期張力を150gに設定し、搬送速度を15m/分および40m/分に設定して搬送した。たわみ形成部材41の回転数は、搬送速度15m/分のときは250rpm、搬送速度40m/分のときは450rpmに設定し、それぞれ毎分500回および900回の変動動作を行うようにした。
【0066】
開繊中の開繊状態については、開繊処理部を通過後の開繊状態を目視で確認した。そして、開繊中の装置振動については以下のように確認した。
【0067】
風洞管32の下部に超小型加速度計(型番NP-3211、株式会社小野測器製造)を取り付け、前記超小型加速度計をセンサアンプ(型番PS-1300、株式会社小野測器製造)につなげ、そして前記センサアンプからの出力データをパソコンに取り入れて、時間―加速度の関係をグラフで表して開繊中の装置振動を確認した。
【0068】
以上のようにして開繊処理を行ったところ、加工速度15m/分、また40m/分とも各繊維束が幅25mmに均一に分散した開繊糸に加工でき、さらに幅200mmの開繊糸シートに仕上げることができた。開繊の連続性についても、10分間以上、開繊糸間の大きな隙間を生じることなく、安定して開繊が実施できた。
【0069】
開繊装置の振動状況について、
図12Aに加工速度15m/分の結果、
図12Bに加工速度40m/分の結果を示す。開繊加工は10分以上実施し、そのうちの30秒の結果について示した。加工速度15m/分では加速度50m/s
2以下、加工速度40m/分では加速度75m/s
2以下の振動結果となった。いずれも振動が安定しており不規則な振動を生じることはなかった。
開繊処理部および接触部材における装置構成は実施例1と同様にして、実施例1のたわみ形成部材の開口部がない中実状態の部材を接触部材として使用した。各寸法は、実施例1と同様とした。
繊維束を加熱する加熱機構についても実施例1と同様にした。搬送される繊維本数、風洞管に流入する吸引気流の流速、設定される開繊幅、繊維束の初期張力、そして加工速度に対応した接触部材の回転数についても実施例1と同様にした。搬送速度についても、実施例1と同様、15m/分および40m/分に設定した。
開繊中の開繊状態については、開繊処理部を通過後の開繊状態を目視で確認した。そして、開繊中の装置振動についても実施例1と同様、風洞管の下部に超小型加速度計を取り付けて計測した。そして、時間―加速度の関係をグラフで表し開繊中の装置振動として確認した。
以上のようにして先行技術による開繊処理を行ったところ、加工速度15m/分、また40m/分とも各繊維束が幅25mmに分散した開繊糸を得た。今回の加工条件では、搬送速度40m/分のとき、繊維束に隙間が見られた。搬送速度40m/分のときは接触部材の回転数を550rpmに設定し、毎分1100回の変動動作を行うようにしたところ、繊維分散性の良い、幅200mmの開繊糸シートに仕上げることができた。
実施例と比較例から、本発明は、たわみ形成部材に設けられた開口部を通過した吸引気流が繊維束の最大たわみ領域にそのまま流れて通過するようになるため効率的な開繊を実施できている。また、風洞管などの装置について、開繊加工中の振動数が減少することも確認でき、装置耐久性などが向上すると期待できる。
1・・・給糸部、11・・・給糸体、12・・・給糸モータ、2・・・案内部、21・・・案内ロール、22・・・張力付与部、221・・・支持ロール、222・・・張力付与ロール、223・・・上限位置検出センサ、224・・・下限位置検出センサ、23・・・振動除去部、231・・・支持ロール、232・・・揺動ロール、233・・・ばね部材、24・・・逆戻り防止部、241・・・一方向回転ロール、242・・・支持ロール、25・・・案内ロール、26・・・整列ロール、3・・・開繊処理部、31・・・ガイドロール、32・・・風洞管、33・・・流量調整バルブ、34・・・吸気ポンプ、4・・・たわみ形成部、41・・・たわみ形成部材、41a・・・接触面、411・・・押込部材、412・・・取付部材、42・・・壁部材、43・・・支持棒、44・・・回転モータ、45・・・クランク機構、451・・・回転板、452・・・コネクティングロッド、453・・・昇降ロッド、46・・・駆動プーリ、47・・・駆動伝達ベルト、48・・・幅規制ガイド、5・・・加熱部、6・・・引取部、61・・・引取ロール、62・・・回転モータ、7・・・幅方向変動付与部、71・・・横振動ロール、72・・・支持ロール、73・・・クランクモータ、74・・・クランク機構、8・・・変動付与部、81・・・接触部材、81a・・・接触面、Tm・・・繊維束、Ts・・・開繊糸、S・・・開繊糸シート、O・・・中心軸、M・・・開口部、P・・・最大押込み位置、N・・・最大たわみ領域、L・・・たわみ区間長さ、W・・・流体作用区間長さ、D・・・搬送方向、X1・・・たわみ形成部材41の幅、X2・・・たわみ形成部材41の厚さ、X3・・・接触面41aの断面形状の曲率半径、X4・・・たわみ形成部材41の開口部における開口幅、X5・・・ガイドロール31の直径、X6・・・風洞管32の搬送方向の長さ、つまり流体作用区間長さ、X7・・・たわみ形成部材41の中心軸Oとガイドロール31の最上点との間の高低差、X8・・・たわみ形成部材41の中心軸Oとガイドロール31の中心軸との間の間隔、X9・・・ガイドロール31の中心軸の間の間隔、X10・・接触面41aの回動時の最下点とガイドロール31の最上点との間の高低差