(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176575
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】基材の検査装置、基材の検査方法および被膜除去装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/08 20060101AFI20241212BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01B11/08 H
G01B11/24 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095247
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 維允
(72)【発明者】
【氏名】谷野 聖
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA26
2F065AA48
2F065DD03
2F065DD06
2F065FF04
2F065GG21
2F065JJ19
2F065JJ26
2F065LL67
2F065QQ25
2F065QQ26
2F065QQ42
(57)【要約】
【課題】
非水溶性の樹脂からなる基材の表面に水溶性の樹脂が存在するか否かを効率よく、正確に検査することができる基材の検査装置を提供する。
【解決手段】
本発明の基材の検査装置は、非水溶性の樹脂からなる基材の被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを検査する装置であって、上記被検査対象の表面に対して水滴を付与する水滴付与部と、上記水滴が付与された上記被検査対象の表面を計測する計測部と、上記計測部の計測結果に基づいて、上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在すかどうかを判定する判定部と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性の樹脂からなる基材の被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを検査する装置であって、
前記被検査対象の表面に対して水滴を付与する水滴付与部と、
前記水滴が付与された前記被検査対象の表面を計測する計測部と、
前記計測部の計測結果に基づいて、前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する判定部と、
を備えた、基材の検査装置。
【請求項2】
前記計測部が、前記被検査対象の表面を面直上から観察した画像を取得する処理と、当該画像から前記被検査対象の表面に付着している水滴の平均径を算出する処理を行い、
前記判定部が、前記水滴の平均径に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、
請求項1の基材の検査装置。
【請求項3】
前記計測部が、前記被検査対象の表面を面直上から観察した画像を取得する処理と、当該画像から前記被検査対象の表面に付着している水滴の真円度を算出する処理を行い、
前記判定部が、前記水滴の真円度に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、
請求項1の基材の検査装置。
【請求項4】
前記計測部が、前記被検査対象の表面のヘイズ値を測定し、
前記判定部が、前記ヘイズ値に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、
請求項1の基材の検査装置。
【請求項5】
前記計測部が、
前記水滴が付与される前の前記被検査対象の表面も計測するものであり、
前記水滴が付与される前の前記被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、
前記水滴が付与された前記被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、
前記判定部が、前記第一のヘイズ値と前記第二のヘイズ値に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、
請求項1の基材の検査装置。
【請求項6】
前記水滴が付与される前の前記被検査対象の表面を計測する初期状態計測部を備え、
前記初期状態計測部が、前記水滴が付与される前の前記被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、
前記計測部が、前記水滴が付与された前記被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、
前記判定部が、前記第一のヘイズ値と前記第二のヘイズ値に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、
請求項1の基材の検査装置。
【請求項7】
前記判定部が、前記第一のヘイズ値と前記第二のヘイズ値の差分値または比を算出する処理と、当該差分値または当該比に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、
請求項5または6の基材の検査装置。
【請求項8】
前記水滴付与部が、平均粒径が1~500μmの範囲内の水滴を付与する、請求項1の基材の検査装置。
【請求項9】
前記水滴付与部が、粒径の変動係数が0.005~0.050の範囲内で水滴を付与する、請求項8の基材の検査装置。
【請求項10】
非水溶性の樹脂からなる基材の少なくとも片面に水溶性の樹脂を含む被膜を有する被膜付きフィルムから当該被膜を取り除く装置であって、
前記被膜付きフィルムを搬送する搬送機構と、
前記被膜付きフィルムから前記被膜を取り除く被膜除去機構と、
前記被膜除去機構よりも搬送方向の下流側に、前記基材に前記水溶性の樹脂を含む被膜が残っているかどうかを検査する検査機構と、を備え、
前記検査機構に請求項1の基材の検査装置を用いる、
被膜除去装置。
【請求項11】
非水溶性の樹脂からなる基材の被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを検査する方法であって、
前記被検査対象の表面に対して水滴を付与する水滴付与工程と、
前記水滴が付与された前記被検査対象の表面を計測する計測工程と、
前記計測工程での計測結果に基づいて、前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する判定工程と、
を有する、基材の検査方法。
【請求項12】
前記計測工程で、前記被検査対象の表面に付着している水滴の平均径を算出し、、
前記判定工程で、前記平均径に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、
請求項11の基材の検査方法。
【請求項13】
前記計測工程で前記被検査対象の表面に付着している水滴の真円度を算出し、、
前記判定工程で、前記真円度に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、
請求項11の基材の検査方法。
【請求項14】
前記計測工程で、前記被検査対象の表面のヘイズ値を測定し、
前記判定工程で、前記ヘイズ値に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、
請求項11の基材の検査方法。
【請求項15】
前記水滴付与工程の前に、前記水滴が付与される前の前記被検査対象の表面を計測する初期状態計測工程を有し、
前記初期状態計測工程で、前記水滴が付与される前の前記被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、
前記計測工程で、前記水滴が付与された前記被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、
前記判定工程で、前記第一のヘイズ値と前記第二のヘイズ値に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、
請求項11の基材の検査方法。
【請求項16】
前記判定工程で、前記第一のヘイズ値と前記第二のヘイズ値の差分値または比を算出し、当該差分値または当該比に基づいて前記被検査対象の表面に前記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、請求項15の基材の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査対象である非水溶性の樹脂からなる基材の表面に水溶性の樹脂が存在するか否かを効率よく、正確に検査することが可能な検査装置および検査方法、ならびに上記検査装置を有する被膜除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックの廃棄物増大が環境問題になっており、プラスチックの再利用に向けた取り組みが活発化している。プラスチックは様々な形態にて使用されているが、これらプラスチックを再利用する方法の一つに、マテリアルリサイクルがある。マテリアルリサイクルでは、プラスチック廃棄物を樹脂種別に分別し、それぞれの樹脂を再溶融させて新たな形態へ成型して用いられるのが一般的である。
【0003】
樹脂別に分別する工程を容易にする目的で、製品として使用する間は複数の種類の樹脂の複合体として機能し、使用後には複合化された各樹脂成分を分離できる樹脂複合体が知られている。
【0004】
上記樹脂複合体では、例えば構成する樹脂の一部を水溶性樹脂とし、基材、水溶性樹脂、その他の機能樹脂をこの順番で積層し、使用後に水に浸漬して水溶性樹脂を溶解除去することにより基材と機能樹脂を分離し、別々に回収するといった分別方法がある。
【0005】
上記分別方法において、基材と機能樹脂を確実に分離できたかどうかを検査する手法としては、たとえば基材と機能樹脂の分離処理を施した後の基材側の表面について化学構造解析を実施し、機能樹脂由来の成分が検出されるか否かといった観点で判別する方法があり、例えば特許文献1では、赤外分光法を用いた方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている検査方法は、検査精度を高めるために検査対象を集めた後に高濃度な状態で測定する必要があり、表面の水溶性樹脂の厚みが薄い場合には検出ができなかったり、検出できたとしても正確性が損なわれたりするという問題がある。
【0008】
また、測定視野が小さいため、被検査対象の表面全体の検査を迅速に実施することが容易ではなく、非効率的であるという問題もある。
【0009】
そこで本発明では、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するか否かを効率よく、正確に検査することが可能な検査装置および検査方法、ならびに上記検査装置を有する被膜除去装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]上記課題を解決する本発明の基材の検査装置は、非水溶性の樹脂からなる基材の被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを検査する装置であって、
上記被検査対象の表面に対して水滴を付与する水滴付与部と、
上記水滴が付与された上記被検査対象の表面を計測する計測部と、
上記計測部の計測結果に基づいて、上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する判定部と、を備えている。
【0011】
[2]上記[1]の基材の検査装置は、上記計測部が、上記被検査対象の表面を面直上から観察した画像を取得する処理と、当該画像から上記被検査対象の表面に付着している水滴の平均径を算出する処理を行い、
上記判定部が、上記水滴の平均径に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、ことが好ましい。
[3]上記[1]の基材の検査装置は、上記計測部が、上記被検査対象の表面を面直上から観察した画像を取得する処理と、当該画像から上記被検査対象の表面に付着している水滴の真円度を算出する処理を行い、
上記判定部が、上記水滴の真円度に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、ことが好ましい。
[4]上記[1]の基材の検査装置は、上記計測部が、上記被検査対象の表面のヘイズ値を測定し、
上記判定部が、上記ヘイズ値に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、ものであることが好ましい。
【0012】
[5]上記[1]の基材の検査装置は、上記計測部が、上記水滴が付与される前の上記被検査対象の表面も計測するものであり、上記水滴が付与される前の上記被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、上記水滴が付与された上記被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、
上記判定部が、上記第一のヘイズ値と上記第二のヘイズ値に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、ことが好ましい。
[6]上記[1]の基材の検査装置は、上記水滴が付与される前の上記被検査対象の表面を計測する初期状態計測部を備え、
上記初期状態計測部が、上記水滴が付与される前の上記被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、
上記計測部が、上記水滴が付与された上記被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、
上記判定部が、上記第一のヘイズ値と上記第二のヘイズ値に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行う、ことが好ましい。
[7]上記[5]または[6]の基材の検査装置は、上記判定部が、上記第一のヘイズ値と上記第二のヘイズ値の差分値または比を算出する処理と、当該差分値または当該比に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行うことが好ましい。
【0013】
[8]上記[1]~[7]のいずれかの基材の検査装置は、上記水滴付与部が、平均粒径が1~500μmの範囲内の水滴を付与することが好ましい。
[9]上記[8]の基材の検査装置は、上記水滴付与部が、粒径の変動係数が0.005~0.050の範囲内で水滴を付与することが好ましい。
【0014】
[10]本発明の被膜除去装置は、非水溶性の樹脂からなる基材の少なくとも片面に水溶性の樹脂を含む被膜を有する被膜付きフィルムから当該被膜を取り除く装置であって、
上記被膜付きフィルムを搬送する搬送機構と、
上記被膜付きフィルムから上記被膜を取り除く被膜除去機構と、
上記被膜除去機構よりも搬送方向の下流側に、上記基材に上記水溶性の樹脂を含む被膜が残っているかどうかを検査する検査機構と、を備え、
上記検査機構に上記[1]~[9]のいずれかの基材の検査装置を用いる。
【0015】
[11]上記課題を解決する本発明の基材の検査方法は、非水溶性の樹脂からなる基材の被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを検査する方法であって、
上記被検査対象の表面に対して水滴を付与する水滴付与工程と、
上記水滴が付与された上記被検査対象の表面を計測する計測工程と、
上記計測工程での計測結果に基づいて、上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する判定工程と、を有する。
【0016】
[12]上記[11]の基材の検査方法は、上記計測工程で、上記被検査対象の表面に付着している水滴の平均径を算出し、
上記判定工程で、上記平均径に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、ことが好ましい。
[13]上記[11]の基材の検査方法は、上記計測工程で上記被検査対象の表面に付着している水滴の真円度を算出し、
上記判定工程で、上記真円度に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在るかどうかを判定する、ことが好ましい。
[14]上記[11]の基材の検査方法は、上記計測工程で、上記被検査対象の表面のヘイズ値を測定し、
上記判定工程で、上記ヘイズ値に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、ことが好ましい。
【0017】
[15]上記[11]の基材の検査方法は、上記水滴付与工程の前に、上記水滴が付与される前の上記被検査対象の表面を計測する初期状態計測工程を有し、
上記初期状態計測工程で、上記水滴が付与される前の上記被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、
上記計測工程で、上記水滴が付与された上記被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、
上記判定工程で、上記第一のヘイズ値と上記第二のヘイズ値に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する、ことが好ましい。
[16]上記[15]の基材の検査方法は、上記判定工程で、上記第一のヘイズ値と上記第二のヘイズ値の差分値または比を算出し、当該差分値または当該比に基づいて上記被検査対象の表面に上記水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の基材の検査装置および基材の検査方法によれば、被検査対象である非水溶性の樹脂からなる基材の表面に水溶性の樹脂が存在するか否かを効率よく、正確に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態の検査装置の概略図である。
【
図2】本発明の別の実施形態の検査装置の概略図である。
【
図3】本発明の別の実施形態の検査装置の概略図である。
【
図4】本発明の別の実施形態の被膜除去装置の概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態の判定工程における真円度の求め方を示した概略図である。
【
図6】比較例として使用した検査装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するか否かを効率よく、正確に検査する方法を鋭意検討した結果、次のような検査装置および検査方法を見出すに至った。
【0021】
[被検査対象]
本発明では、非水溶性の樹脂からなる基材を被検査対象とする。非水溶性の樹脂は水に溶解しない樹脂であれば特に限定されないが、様々な形態へと成形して幅広い用途で使用されることから熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリーレンオキシド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂などが挙げられ、さらにこれらの共重合体や変性体であってもよい。
【0022】
基材は、検査される検査対象部位が平滑であることが好ましい。平滑であるとはISO215178に準拠して測定される算術平均粗さRaが5μm以下となる面をさすものとする。
【0023】
[基材の検査装置]
本発明の基材の検査装置は、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを検査する装置である。水溶性の樹脂とは、水に溶解する樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、エチレンアイオノマー系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、エチレン-ビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、でんぷんなどが挙げられる。
【0024】
本発明の検査装置は、被検査対象の表面に対して水滴を付与する水滴付与部と、水滴が付与された被検査対象の表面を計測する計測部と、計測部の計測結果に基づいて、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する判定部と、を備えている。本発明は、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するか否かを判定するにあたって、検査対象の表面に水滴を付与した後に、水滴を付与した箇所の計測を行うことで、従来の計測方法では困難であった効率的かつ正確な検査が可能なことを見出したものである。
【0025】
水滴付与部の水滴を付与する機構は、いかなる機構でもよく、例えば、スプレーノズルを用いて液滴の状態で付与してもよいし、高圧洗浄機やスチーム発生装置を用いて、高圧あるいは高温の水滴を付与してもよい。ここで、水滴とは、水溶性樹脂を溶解しうる溶媒からなる液滴であれば、いかなる液滴でもその効果を発現するが、環境負荷を低減するためには、水を主成分とすることが好ましい。また本発明の効果を阻害しない範囲において、適宜界面活性剤などの添加物を含んでいてもよい。
【0026】
水滴付与部で付与される水滴の平均粒径は、1~500μmの範囲内であることが好ましい。水滴の平均粒径が500μm以下であると、付与の過程で水滴が変形しにくくなり、水滴同士が結着しにくくなる。その結果、基材が高速で搬送された場合であっても判定の正確性が保たれやすい。水滴の平均粒径が1μm以上であると、基材上に付与された水滴が大気中へ蒸発して揮散しにくくなるため、判定の正確性が保たれやすい。
【0027】
また、水滴の粒径の変動係数が0.005~0.050の範囲内であることがより好ましい。変動係数とは、ノズルから吐出された水滴群についてレーザー方式で粒度分布を測定した場合に、粒径の標準偏差を平均粒径にて除することで得られる値である。ここで平均粒径とはザウター平均径をさす。変動係数が0.050以下であると、基材上に付与されて付着する水滴の形状が均一になりやすく、判定の正確性が保たれやすい。変動係数の下限は特に限定されないが、スプレーノズル方式で付与される水滴については実質的に0.005程度が下限である。
【0028】
本発明の検査装置は、計測部が、水滴が付与された被検査対象の表面を面直上から観察した画像を取得する処理と、その画像から被検査対象の表面に付着している水滴の平均径を算出する処理を行い、そして判定部が、算出された水滴の平均径に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行うことが好ましい。被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在する場合、付与された水滴に水溶性樹脂が溶解する過程で水滴が表面になじんで拡がりやすくなり、面直上から観察した水滴の平均径が水溶性の樹脂が存在しない場合と比べて大きくなる。そのため、ノズルから吐出された水滴の径に対して付着している水滴の平均径が特定の値以上となる場合に水溶性樹脂が存在するものと判定することができる。ここで平均径とは、ある水滴について
図5に示す円相当径17のこと意味し、水滴の面積に等しい面積を有する円の直径として演算により算出されるものである。
【0029】
また、本発明の検査装置は、計測部が、水滴が付与された被検査対象の表面を面直上から観察した画像を取得する処理と、その画像から被検査対象の表面に付着している水滴の真円度を算出する処理を行い、そして判定部が、算出された水滴の真円度に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行うことも好ましい。ここで真円度とは、ある水滴について
図5に示す最大半径15と最小半径16の差分を算出し、算出された差分を当該水滴の円相当径17にて除して算出される値である。真円度の値が小さいほど水滴が真円に近い形状であることを意味する。被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在する場合、付与された水滴に水溶性樹脂が溶解する過程で水滴が表面になじんで拡がるが、その拡がり方は面内で均一ではなく異方性を有するため、水滴の外形が乱れ、円の真円度の値が大きくなる傾向がある。そのため、付着している水滴の真円度が特定の値以上となる場合に水溶性樹脂が存在するものと判定することができる。
【0030】
なお、上記の画像を取得する処理と水滴の平均径または真円度を算出する処理は、1つの機器で行われても、別々の機器で行われてもよい。別々の機器で行われていたとしても、2つの機器をまとめて計測部とみなす。
【0031】
また、本発明の検査装置は、計測部が、水滴が付与された被検査対象の表面のヘイズ値を測定し、そして判定部が、測定されたヘイズ値に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行うことも好ましい。被検査対象の表面に水滴が付着すると、付着した水滴が入射光を散乱させるために付着させない場合と比べてヘイズ値が大きくなる。さらに被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在する場合、付与された水滴に水溶性樹脂が溶解する過程で水滴が表面になじんで拡がりやすくなり、その結果として水滴の三次元形態は、もともとの球体に近い形から、平たく潰れた形へと変化する。平たく潰れた形に変化して表面に付着した水滴は、球体に近い形で表面に付着した水滴よりも入射光を散乱させる能力が小さくなるため、水滴の付着によるヘイズ値の上昇が抑制される傾向となる。そのため、水滴が付与された被検査対象の表面のヘイズ値が特定の値以下となる場合に水溶性樹脂が存在するものと判定することができる。
【0032】
また、本発明の検査装置は、計測部が、水滴が付与される前の被検査対象の表面も計測するものであり、水滴が付与される前の被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、水滴が付与された被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、そして判定部が、第一のヘイズ値と第二のヘイズ値に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行うことも好ましい。より具体的には、判定部が、第一のヘイズ値と第二のヘイズ値の差分値または比を算出する処理と、その差分値または比に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定することがより好ましい。被検査対象の表面に水滴が付着すると、付着した水滴が入射光を散乱させるために付着させない場合と比べてヘイズ値が大きくなる。また、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在する場合、前記の通り水滴の付着によるヘイズ値の上昇が抑制される傾向となる。ヘイズ値は基材を透過した光を検出する方式にて測定されることから、基材自体のヘイズ値と付着した水滴によるヘイズ値の上昇分が合算されて検出される。そのため、水滴が付与される前の被検査対象の表面の第一のヘイズ値と、水滴が付与された被検査対象の表面の第二のヘイズ値とを比較し、その差分値または比、すなわち水滴の付与によるヘイズ値の変化分に着目して判定することで、水滴付与後のヘイズ値のみで判定する場合よりも正確な判定をすることができる。その場合、第二のヘイズ値から第一のヘイズ値を引いた値、あるいは第二のヘイズ値を第一のヘイズ値によって除した値が特定の値以下となる場合に水溶性樹脂が存在するものと判定することができる。
【0033】
また、本発明の検査装置は、水滴が付与される前の被検査対象の表面を計測する初期状態計測部をさらに備え、この初期状態計測部が、水滴が付与される前の被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、計測部が、水滴が付与された被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、そして判定部が、第一のヘイズ値と第二のヘイズ値に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する処理を行うことも好ましい。水滴が付与される前と後とで別々の機器でヘイズ値を測定することで、連続的に搬送されている被検査対象に対してもオンラインで水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定できる。
【0034】
なお、計測部、初期計測部および判定部は、1つの機器であっても、複数の機器で別々に存在していてもよい。
【0035】
[基材の検査方法]
本発明の基材の検査方法は、被検査対象の表面に対して水滴を付与する水滴付与工程と、水滴が付与された被検査対象の表面を計測する計測工程と、計測工程での計測結果に基づいて、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する判定工程と、を有する。
【0036】
水滴付与工程において水滴を付与する方法は、いかなる方法でもよく、例えば、スプレーノズルを用いて液滴の状態で付与してもよいし、高圧洗浄機やスチーム発生装置を用いて、高圧あるいは高温の水滴を付与してもよい。
【0037】
本発明の検査方法は、計測工程で、被検査対象の表面に付着している水滴の平均径を算出し、そして判定工程で、その水滴の平均径に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定することが好ましい。
【0038】
また、本発明の検査方法は、計測工程で、被検査対象の表面に付着している水滴の真円度を算出し、そして判定工程で、その真円度に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定することも好ましい。
【0039】
本発明の検査方法は、計測工程で、水滴が付与された被検査対象の表面のヘイズ値を測定し、そして判定工程で、そのヘイズ値に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定することも好ましい。
【0040】
また、本発明の検査方法は、水滴が付与される前の被検査対象の表面を計測する初期状態計測工程をさらに有し、初期状態計測工程で、水滴が付与される前の被検査対象の表面の第一のヘイズ値を測定し、計測工程で、水滴が付与された上記被検査対象の表面の第二のヘイズ値を測定し、そして判定工程で、第一のヘイズ値と第二のヘイズ値に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定することも好ましい。より具体的には、判定工程で、第一のヘイズ値と第二のヘイズ値の差分値または比を算出し、その差分値または比に基づいて被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定することがより好ましい。
【0041】
本発明の検査方法を実施するに際し、本発明の検査装置を好適に用いることができるが、必ずしも本発明の検査装置を用いなくともよい。例えば、計測工程において被検査対象の表面を計測するに際し、被検査対象の表面の画像を取得せずに、被検査対象を目視しながら水滴の直径などを測定してもよい。
【0042】
[被膜除去装置]
本発明の被膜除去装置は、非水溶性の樹脂からなる基材の少なくとも片面に水溶性の樹脂を含む被膜を有する被膜付きフィルムから当該被膜を取り除く装置である。本発明の被膜除去装置は、被膜付きフィルムを搬送する搬送機構、被膜付きフィルムから被膜を取り除く被膜除去機構、および被膜除去機構よりも搬送方向の下流側に、基材に水溶性の樹脂を含む被膜が残っているかどうかを検査する検査機構を備えている。そして、本発明の被膜除去装置では、この検査機構に上記した検査装置を用いている。
【0043】
[本発明の実施形態]
本発明の検査装置の望ましい実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は本発明に係る実施形態の1つを例示するものであり、これに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0044】
図1は本発明の一実施形態の検査装置101の概略図である。検査装置101は、被検査対象である基材1の表面へ水滴を付与する水滴付与部2、水滴が付与された基材の表面を計測する計測部3、計測部3の計測結果に基づいて基材の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定する判定部4を備えている。
【0045】
検査装置101の水滴付与部2は、基材1の水溶性の樹脂が存在しているかを検査したい面に対して水滴を付与するものである。水滴付与部2は、水滴5を吐出して基材の表面に付与できればよく、例えばスリットノズルやスプレーノズルなどが例示されるがその限りではない。水滴5は、主成分が水である液体の液滴であり、主成分であるとは該成分の比率が50%を超えることをさす。水滴付与部から吐出される水滴5は、平均粒径(D50、メディアン径)が1~500μmの範囲となるように吐出部の絞りを調整して吐出されることが好ましい。また、水滴5は、粒径の変動係数が0.005~0.050となるように調整して吐出されることがより好ましい。なお、水滴付与部2は水滴を吐出する吐出部に加えて吐出部に吐出液を送液するための送液ポンプ(図示しない)や、吐出液を貯留しておくタンク(図示しない)も備えている。
【0046】
検査装置101の計測部3は、基材1の表面の状態を計測できればよく、表面の状態とは、表面に付着している水滴の付着形状やサイズ、水滴の付着に伴って変化する基材のヘイズなどが挙げられる。計測部3にて水滴の付着形状やサイズを計測する場合、計測部3は基材1の表面を面直上から観察した画像を高速で取得できる光学カメラが好適に用いられる。計測部3で取得された画像は、画像解析によって水滴の平均粒径や、粒径の変動係数、真円度などが算出される。計測部3にて基材のヘイズを計測する場合、計測部3は基材1のヘイズ値を面直方向の透過光を用いて取得できる光学系を有することが好ましい。また、水滴付与部2にて水滴が付与される前の基材についてもヘイズを計測して第一のヘイズ値とし、水滴付与後のヘイズ値である第二のヘイズ値とあわせて後述する判定部の判定に用いることも好ましい。この場合、第一のヘイズ値を測定する際の測定範囲と第二のヘイズ値を測定する際の測定範囲は同一であることが好ましい。
【0047】
検査装置101の判定部4は、計測部3の計測結果に基づいて、基材1の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定できればよく、判定作業は予め閾値を設定して定められた判定基準に基づいて実施される。判定作業はコンピュータ処理によって自動的に行われることが好ましい。
【0048】
検査装置101の水滴付与部2、計測部3および判定部4は、互いの処理を妨げない限りにいかなる配置をとってもよいが、実施される処理の手順は水滴付与部2、計測部3、判定部4の順番である。ただし、水滴付与の前後のヘイズ値を測定する場合に限っては、計測部3、水滴付与部2、計測部3、判定部4の順番で処理が行われる。
【0049】
図2は本発明の別の実施形態の検査装置201の概略図である。検査装置201は、基材1が駆動装置(図示しない)によって一定の方向aへ搬送されている点において
図1の検査装置101と異なっており、各処理の手順に鑑みて検査装置201の計測部3ならびに判定部4は、水滴付与部2よりも搬送方向の下流側に位置する。
【0050】
図3は本発明のさらに別の実施形態の検査装置301の概略図である。基材1が搬送されており、さらに水滴付与部2にて水滴が付与される前の基材についてもヘイズを計測して第一のヘイズ値とし、水滴付与後のヘイズ値である第二のヘイズ値とあわせて判定部4での判定に用いる場合には、検査装置301の構成とすることがより好ましい。
図3の検査装置301において、計測部6が第一のヘイズ値を測定する部分、計測部7が第二のヘイズ値を測定する部分であり計測部が別々になっていので、基材1が搬送されていても、水滴付与前の第一のヘイズ値と水滴付与後の第二のヘイズ値の両方を測定できる。。この場合、計測部6と計測部7が測定する基材の測定範囲は、基材の搬送方向に対して同一線上に重なるよう揃えることが好ましい。なお、基材1が搬送されていないのであれば、
図1の実施形態の検査装置101でも、水滴付与部2にて水滴が付与される前の基材の第一のヘイズ値と水滴付与後の第二のヘイズ値とを1つの計測部3で測定できる。
【0051】
図4は本発明の一実施形態の被膜除去装置401の概略図である。被膜除去装置401は、非水溶性の樹脂からなる基材1の表面に形成された水溶性の樹脂を含む被膜8を基材1から除去する装置である。被膜除去装置401は、基材1を一定の搬送方向aに搬送する搬送機構9と、被膜を取り除く被膜除去機構10を備える。被膜除去装置401は、上記被膜除去機構よりも搬送方向の下流側に検査機構11を備える。検査機構11は、
図1~
図3で実施形態を例示したいずれかの検査装置が好適に用いられる。
【0052】
なお、被膜除去装置401は、検査機構11の検査結果に基づいて被膜除去機構10の被膜除去条件を制御する機構を備えることが好ましい。
【0053】
被膜除去装置401における基材1はフィルムの形態である。フィルムは裁断された枚葉状でもよいが、
図4に図示したようなロール状に巻かれたものであることが好ましい。ロール状であることで連続して効率的に被膜除去を行うことができる。
【0054】
被膜除去装置401における搬送機構9は、基材1を被膜除去機構10や検査機構11に対して相対的に移動するものであればいかなる手段でもよく、被膜除去機構10や検査機構11を固定しておいて基材1を搬送させてもよいし、静止している基材1に対して被膜除去機構10や検査機構11が移動していてもよく、双方が同方向、あるいは異なる方向に移動していてもよい。
【0055】
以上より、本発明の検査装置および検査方法、ならびに上記検査装置を有する被膜除去装置を用いれば、被検査対象の表面に水溶性の樹脂が存在するか否かを効率よく、正確に検査することが可能となる。
【実施例0056】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。
【0057】
<基材-1>
厚み30μm、幅250mmのロール状のポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、水溶性樹脂としてポリビニルアルコール樹脂(三菱ケミカル株式会社製、「KL-05」、けん化度80、平均重合度500)の被膜を膜厚0.05μmで形成し、基材-1を得た。
【0058】
<基材-2>
厚み30μm、幅250mmのロール状のポリエチレンテレフタレートフィルムの片面に、水溶性樹脂としてポリビニルアルコール樹脂(三菱ケミカル株式会社製、「KL-05」、けん化度80、平均重合度500)の被膜を膜厚0.01μmで形成し、基材-2を得た。
【0059】
<基材-3>
基材-1のポリビニルアルコール樹脂の被膜の上に、硬化型シリコーン樹脂の被膜を特開2015-189226号公報に記載の塗材を参考にして、以下のように膜厚0.05μmとなるよう形成した。
・熱硬化型シリコーン、信越化学工業社製、商品名「KS-847T」:100質量部、
・白金触媒、信越化学工業社製、商品名「CAT-PL-50T」:3質量部、
を溶剤としてのトルエンとMEKの混合液(トルエン:MEKの質量比は1:1)中に固形分が1.8質量%となるように溶解させることで調製した。次に上記ポリビニルアルコール樹脂の被膜上にバーコーターを用いて塗布し、90℃のオーブンで20秒乾燥させて離型成分の被膜を形成し、基材-3を得た。基材-3に用いられる熱硬化型シリコーン樹脂は非水溶性の樹脂であるが、水蒸気透過性の高い樹脂である。そのため、膜厚0.05μm前後の薄膜として水溶性樹脂層の上から積層すると、この硬化型シリコーン樹脂の上から水滴を付与したとしても、この水滴が下層に存在する水溶性樹脂層の影響を受けて、わずかに硬化型シリコーン樹脂の表面になじむ。
【0060】
<基材-4>
厚み30μm、幅250mmのロール状のポリエチレンテレフタレートフィルム。
【0061】
<基材上の水溶性樹脂の有無評価>
基材は1cm角サイズに細断したものを合計0.25m2分用意し、三角フラスコに入れて水(100mL)を加えて超音波抽出(室温、30分)を行った。抽出後の抽出液は全量を凍結乾燥し、得られた乾燥残存物は水2mLを加えて再溶解させ、一部をPTFEフィルタ(0.2μm)で濾過した後に、濾過液の一部について以下の条件にてLC/ELSD測定を行った。
・HPLC: LC-20A(島津製作所)
・カラム: ODS系カラム
・注入量: 20μL
・検出: 蒸発光散乱検出器(ELCD)
予め濃度を変えて調整したポリビニルアルコール(三菱ケミカル株式会社製、「KL-05」、けん化度80、平均重合度500)の標準溶液を同条件でLC/ELSD測定して作成した検量線をもとに、上記基材の測定結果から基材上に存在するポリビニルアルコールの存在量を定量し、存在量が0.5mg/m2以上である場合には基材上に水溶性樹脂が存在するものとした。存在量が0.5mg/m2未満である場合には基材上に水溶性樹脂が存在しないものとした。LC/ELSD測定は試料を替えてポリビニルアルコールの存在量を合計5回測定し、その平均値でもって存在の有無を判断した。
なお、検出する水溶性樹脂の種類がポリビニルアルコール以外の場合や複数の水溶性樹脂を含む場合には、検出する水溶性樹脂の組成に応じて検量線を作成し同様に存在の有無を評価した。
【0062】
<検査の正確性の評価>
各実施例や比較例に記載の検査方法で、基材-1~4のそれぞれについて測定したポリビニルアルコールの存在有無の結果を、上記EL/ELSD測定で測定したポリビニルアルコールの存在有無の結果と照合し、判定結果が一致したか否かに基づいて以下の基準で評価した。なお、評価は各実施例や比較例においてそれぞれ基材の搬送速度を0m/min(搬送なし)、25m/min、50m/min、100m/minと変えて各速度について評価した。
A:すべての基材について判定結果が一致した。
B:1つの基材において判定結果が一致しなかった。
C:2つ以上の基材において判定結果が一致しなかった。
D:各実施例や比較例に記載の検査方法では検査が出来なかった。
【0063】
<実施例1>
図2に示す検査装置201を用意し、固定された水滴付与部2や計測部3、判定部4に対して基材が長手方向に搬送されるよう調整した。基材には長手方向に20N/mの張力を付与しながら搬送することで搬送中の基材に弛みが発生しないようにした。
【0064】
水滴付与部2では、スプレーノズルから25℃のイオン交換水からなる微細径の水滴を連続吐出し、基材表面上へ水滴を連続的に付与した。微細径の水滴は圧縮空気の高速気流によって水滴を微細化する二流体微粒化方式により生成されるものであり、予めレーザー法により水滴径の分布を測定し、ザウター平均径が25μm、粒径の変動係数が0.040となるように調整したものを付与した。水滴付与の際、水滴付与部2のノズル先端と基材との距離は5cmとし、付与する水滴量は基材の単位面積1.0m2あたり100cm3となるよう調整した。基材の搬送速度を変える場合には、付与する単位面積当たりの水滴量が搬送速度によらず同一になるよう適宜調整した。
【0065】
計測部3には、東芝デジタルソリューションズ株式会社製のウェブ外観検査装置 (製品型式:M9300)を使用し、データレート320Hz、画素数4096、基材幅方向視野300mmにて基材表面を面直上から高速カメラ観察し、観察画像を取得した。なお、水滴付与部2のスプレーノズルと計測部3の検出器の基材搬送方向の離間距離は15cmとした。
【0066】
また、計測部3では、外観検査装置に付帯の欠陥分類機能を活用し、収集した観察画像に含まれる全ての水滴について個々の円相当径を取得した。
【0067】
判定部4では、上記計測部にて連続する面積0.25m2分の基材表面に観察された全ての水滴について上記円相当径の平均値を算出し、以下の基準にて基材の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定した。
[判定基準]
存在する: 円相当径の平均値が30μm以上
存在しない: 円相当径の平均値が30μm未満。
【0068】
基材の搬送速度を変えた場合にいずれの速度であっても判定可能であり、表1に示すように検査の正確性の評価においても高い正確性を示すことが確認された。
【0069】
<実施例2>
計測部で取得するデータと判定部の判定基準を以下の通り変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0070】
計測部3では、収集した観察画像に含まれる全ての水滴について個々の真円度を取得した。
【0071】
判定部4では、上記計測部にて連続する面積0.25m2分の基材表面に観察された全ての水滴について上記真円度の平均値を算出し、以下の基準にて基材の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定した。
[判定基準]
存在する: 真円度の平均値が0.1以上
存在しない: 真円度の平均値が0.1未満。
【0072】
基材の搬送速度を変えた場合にいずれの速度であっても判定可能であり、表1に示すように検査の正確性の評価においても高い正確性を示すことが確認された。
【0073】
<実施例3>
実施例1と同様に
図2に示す検査装置201を用意した。
【0074】
水滴付与部2では、実施例1と同様にして基材表面上へ水滴を連続的に付与した。
【0075】
計測部3には、株式会社村上色彩技術研究所製のオンラインヘーズモニターシステム(製品型式:HMS-3、3ヘッドタイプ)を使用し、3つの測定ヘッドを基材の幅方向に平行となるよう5cm間隔にて設置し、それぞれデータ取得間隔0.33秒にて透過方式でのヘイズ測定を行い、ヘイズ値を取得した。なお、水滴付与部2のスプレーノズルと計測部3の検出器の基材搬送方向の離間距離は15cmとし、付与する水滴量は基材の単位面積1.0m2あたり100cm3となるよう調整した。基材の搬送速度を変える場合には、付与する単位面積当たりの水滴量が搬送速度によらず同一になるよう適宜調整した。
【0076】
判定部4では、上記計測部にて5秒間の間に測定された全てのヘイズ値の平均値を算出し、以下の基準にて基材の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定した。
[判定基準]
存在する: ヘイズ値の平均値が15%以下
存在しない: ヘイズ値の平均値が15%を超える。
【0077】
基材の搬送速度を変えた場合にいずれの速度であっても判定可能であったが、表1に示すように検査の正確性の評価においては搬送速度が0m/min、25m/min、50m/minの場合には高い正確性を示したが、搬送速度が100m/minでは正確性がやや劣ることが確認された。具体的には、基材-3で判定結果が一致しなかった。
【0078】
<実施例4>
図3に示す検査装置301を用意し、固定された水滴付与部2や計測部6、7、判定部4に対して基材が長手方向に搬送されるよう調整した。基材には長手方向に20N/mの張力を付与しながら搬送することで搬送中の基材に弛みが発生しないようにした。
【0079】
水滴付与部2では、スプレーノズルから25℃のイオン交換水からなる微細径の水滴を連続吐出し、基材表面上へ水滴を連続的に付与した。微細径の水滴は圧縮空気の高速気流によって水滴を微細化する二流体微粒化方式により生成されるものであり、予めレーザー法により水滴径の分布を測定し、ザウター平均径が25μm、粒径の変動係数が0.040となるように調整したものを付与した。水滴付与の際、水滴付与部2のノズル先端と基材との距離は5cmとし、付与する水滴量は基材の単位面積1.0m2あたり100cm3となるよう調整した。基材の搬送速度を変える場合には、付与する単位面積当たりの水滴量が搬送速度によらず同一になるよう適宜調整した。
【0080】
計測部6には、株式会社村上色彩技術研究所製のオンラインヘーズモニターシステム(製品型式:HMS-3、3ヘッドタイプ)を使用し、3つの測定ヘッドを基材の幅方向に平行となるよう5cm間隔にて設置し、それぞれデータ取得間隔0.33秒にてヘイズ値を取得した。なお、水滴付与部2のスプレーノズルと計測部3の検出器の基材搬送方向の離間距離は15cmとした。
【0081】
計測部7にも、計測部6と同じオンラインヘーズモニターシステムを使用し、設置条件や測定条件も計測部6と同じとした。
【0082】
判定部4では、上記計測部6および上記計測部7にて5秒間の間に測定された全てのヘイズ値の平均値をそれぞれの計測部について算出し、計測部6のヘイズ値の平均値をHp、計測部7のヘイズ値の平均値をHaとしたうえで、以下の基準にて基材の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定した。なお、計測部6と計測部7は、それぞれがヘイズ値を測定する基材の範囲が同じになるように設置位置や測定時間を調整した。
[判定基準]
存在する: Ha-Hpが10%以下
存在しない: Ha-Hpが10%を超える。
【0083】
基材の搬送速度を変えた場合にいずれの速度であっても判定可能であり、表1に示すように検査の正確性の評価においても高い正確性を示すことが確認された。
【0084】
<実施例5>
実施例4で、判定部4での判定基準を以下の通りHaとHpの比率に変更した以外は実施例4と同様にして実施した。
[判定基準]
存在する: Ha/Hpが3以下
存在しない: Ha/Hpが3を超える。
【0085】
基材の搬送速度を変えた場合にいずれの速度であっても判定可能であり、表1に示すように検査の正確性の評価においても高い正確性を示すことが確認された。
【0086】
<実施例6>
実施例4で、水滴付与部2に付与される水滴のザウター平均径が600μm、粒径の変動係数が0.040となるようにとなるよう調整した以外は実施例4と同様にして実施した。
【0087】
基材の搬送速度を変えた場合にいずれの速度であっても判定可能であったが、表1に示すように検査の正確性の評価においては搬送速度が0m/min、25m/minの場合には高い正確性を示したが、搬送速度が50m/min、100m/minでは正確性がやや劣ることが確認された。具体的には、搬送速度50m/minと100m/minのどちらの場合も基材-3で判定結果が一致しなかった。
【0088】
<実施例7>
実施例4で、水滴付与部2に付与される水滴のザウター平均径が25μm、粒径の変動係数が0.090となるようにとなるよう調整したは実施例4と同様にして実施した。
【0089】
基材の搬送速度を変えた場合にいずれの速度であっても判定可能であったが、表1に示すように検査の正確性の評価においては搬送速度が0m/min、25m/min、50m/minの場合には高い正確性を示したが、搬送速度が100m/minでは正確性がやや劣ることが確認された。具体的には、基材-3で判定結果が一致しなかった。
【0090】
<実施例8>
基材3を
図4に示す被膜除去装置401に搬送機構9の上流側から通してセットし、長手方向には、20N/mの張力を付与しながら、基材フィルムを搬送速度50m/min搬送させた。
【0091】
被膜除去機構10では、スプレーノズルから80℃に加熱されたスチームを被膜面に表面積1m2当たり100mlの量で吹き付け、1秒後にステンレス製の板状スクレーパーを当該皮膜面に押し当てることで被膜の掻き取りを実施した。
【0092】
被膜除去機構10からみて基材搬送方向の下流側に位置する検査機構11は、実施例1と同様に
図2に示す検査装置201の構成とし、水滴付与部で付与された水滴を計測部で計測し、判定部にて基材の表面に水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定した。検査機構11の条件や判定基準はいずれも実施例1と同じとした。
【0093】
被検査対象である被膜除去機構10を通過した後の基材は、別途上記<基材上の水溶性樹脂の有無評価>の方法を用いて水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定し、上記検査機構11の判定結果と照合した結果、判定結果は同一であることが確認され、該検査機構での判定が正確であることを確認した。
【0094】
<比較例1>
図6に示す検査装置601を用意し、固定された計測部3に対して基材が長手方向に搬送されるよう調整した。基材には長手方向に20N/mの張力を付与しながら搬送することで搬送中の基材に弛みが発生しないようにした。
【0095】
計測部3には、ARCoptix S.A.社製のポータブルサイズ小型FT-IR分光器(製品型式:FT-IR Rocket 2-12)を使用し、基材の透過光についてIR測定を行った。
【0096】
判定部4では、水溶性樹脂のみに由来するスペクトルピークの存在によって水溶性の樹脂が存在するかどうかを判定しようと試みたが、表1に示す通り、ピークとノイズの判別が困難であり判定の正確性が低かった。具体的には、基材-2、基材-3および基材-4で判定結果が一致しなかった。また、基材が移動する場合にはスペクトルの波形がより乱れたため、より判別が困難となり、判定の正確性を評価することができなかった。
【0097】
実施例1~7、比較例1の評価結果を表1にまとめる。
【0098】