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特開2024-176576シリコーン樹脂組成物およびそれを用いた水なし平版印刷版の版面修正液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176576
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】シリコーン樹脂組成物およびそれを用いた水なし平版印刷版の版面修正液
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20241212BHJP
   B41N 1/14 20060101ALI20241212BHJP
   G03F 7/00 20060101ALI20241212BHJP
   G03F 7/40 20060101ALI20241212BHJP
   C08K 5/057 20060101ALI20241212BHJP
   C08K 5/5465 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08L83/06
B41N1/14
G03F7/00 504
G03F7/40 511
C08K5/057
C08K5/5465
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095248
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鴨川 政雄
(72)【発明者】
【氏名】久世 康典
(72)【発明者】
【氏名】飯原 明宏
【テーマコード(参考)】
2H114
2H196
4J002
【Fターム(参考)】
2H114AA05
2H114BA10
2H114DA04
2H114DA56
2H114DA62
2H196AA11
2H196EA04
2H196GA45
2H196HA40
4J002CP032
4J002CP061
4J002CP082
4J002CP182
4J002EC077
4J002EX076
4J002FD146
4J002FD147
4J002FD201
4J002FD202
4J002FD347
4J002GH02
4J002GP03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機スズ化合物を必要とすることなく、硬化性に優れたシリコーン樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂、(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物および(c)下記一般式(1)で表される構造を有するチタン化合物を含有するシリコーン樹脂組成物。

(上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基または炭素数6~12のアリールオキシ基を示す。Rは、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。mは、1~3の整数を示す。rは、0~2の整数を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂、(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物および(c)下記一般式(1)で表される構造を有するチタン化合物を含有するシリコーン樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基または炭素数6~12のアリールオキシ基を示す。Rは、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。mは、1~3の整数を示す。rは、0~2の整数を示す。)
【請求項2】
さらに(d)シリコーンオイルを含有する、請求項1記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)中、rが0である、請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)中、[ ]内に表される構造が(4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ基、基全体の炭素数が5~12の(4-アルコキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基または基全体の炭素数が10~16の(4-アリールオキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基である、請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
前記(c)一般式(1)で表される構造を有するチタン化合物の含有量が、前記(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂100質量部に対して1.5質量部~35質量部である、請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項6】
前記(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物が、下記一般式(2)で表される構造を有する、請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物。
【化2】
(上記一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。Rは、炭素数1~8のアルキル基または炭素数1~8のアルケニル基を示す。nは、1~4の整数を示す。)
【請求項7】
前記(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物の含有量が、前記(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂100質量部に対して2.5質量部~35質量部である、請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物からなる水なし平版印刷版の版面修正液。
【請求項9】
請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物の硬化物。
【請求項10】
基板上に、インキ受容層および請求項9に記載の硬化物を含むインキ反発層を有する水なし平版印刷版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂組成物、それからなる水なし平版印刷版の版面修正液、シリコーン樹脂組成物の硬化物およびそれを有する水なし平版印刷版に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
水なし平版印刷は、インキ受容性の画線部と、シリコーンゴムなどを用いたインキ反発性の非画線部を、印刷版のほぼ同一平面に存在させた水なし平版印刷版を用いて、インキ付着性の差異を利用して画線部のみにインキを着肉させた後、被印刷体にインキを転写する印刷方法であり、インキ反発性発現のための湿し水を必要としないことから、環境負荷を低減する印刷方法として注目を集めている。
【0003】
水なし平版印刷版において、インキ反発性の非画線部に、スクラッチ傷やピンホール等の欠点が生じる場合がある。かかる欠点は、インキ反発性が低下してインキが付着し、印刷不良となるため、欠点を修正することが求められる。また、場合によっては、インキ受容性の画線部をインキ反発性の非画線部に修正することが求められる。このような非画線部を修正する方法として、シリコーンゴム層の欠点部分および/またはシリコーンゴム層が除去された画線部に、シリコーンゴム溶液を塗布、硬化してシリコーンゴム薄膜を形成せしめることを特徴とする直描型水なし平版印刷版の修正方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。そして、かかる修正方法に用いられる水なし平版印刷版用版面修正液として、例えば、(a)両末端に各1個以上の水酸基を有する線状ジメチルポリシロキサン、(b)アセトキシ基を2個以上有するアセトキシシラン、(c)触媒、(d)接着付与剤を含有することを特徴とする湿し水不要CTP平版印刷版用版面修正液(例えば、特許文献2参照)や、(a)両末端に各1個以上の水酸基を有するオルガノポリシロキサン、(b)架橋剤、(c)触媒、(d)有色顔料および(e)顔料分散剤を含有することを特徴とする水なし平版印刷版用版面修正液(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-324820号公報
【特許文献2】特開2005-257846号公報
【特許文献3】特開2008-158264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2~3に記載の版面修正液は、硬化触媒として有機スズ化合物を用いている。有機スズ化合物は、環境および健康への負荷が大きいとされ、有機スズ化合物を用いない版面修正液が求められている。しかしながら、従来の版面修正液において、有機スズ化合物を他の金属触媒に置き換えると、硬化性が不十分となる課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、有機スズ化合物を必要とすることなく、硬化性に優れたシリコーン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は主として以下の構成を有する。
<1>(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂、(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物および(c)下記一般式(1)で表される構造を有するチタン化合物を含有するシリコーン樹脂組成物。
【0008】
【化1】
【0009】
上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基または炭素数6~12のアリールオキシ基を示す。Rは、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。mは、1~3の整数を示す。rは、0~2の整数を示す。
<2>さらに(d)シリコーンオイルを含有する、<1>記載のシリコーン樹脂組成物。
<3>前記一般式(1)中、rが0である、<1>または<2>記載のシリコーン樹脂組成物。
<4>前記一般式(1)中、[ ]内に表される構造が(4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ基、基全体の炭素数が5~12の(4-アルコキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基または基全体の炭素数が10~16の(4-アリールオキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基である、<1>~<3>のいずれか記載のシリコーン樹脂組成物。
<5>前記(c)一般式(1)で表される構造を有するチタン化合物の含有量が、前記(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂100質量部に対して1.5質量部~35質量部である、<1>~<4>のいずれか記載のシリコーン樹脂組成物。
<6>前記(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物が、下記一般式(2)で表される構造を有する、<1>~<5>のいずれか記載のシリコーン樹脂組成物。
【0010】
【化2】
【0011】
上記一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。Rは、炭素数1~8のアルキル基または炭素数1~8のアルケニル基を示す。nは、1~4の整数を示す。
<7>前記(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物の含有量が、前記(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂100質量部に対して2.5質量部~35質量部である、<1>~<6>のいずれか記載のシリコーン樹脂組成物。
<8><1>~<7>のいずれか記載のシリコーン樹脂組成物からなる水なし平版印刷版の版面修正液。
<9><1>~<7>のいずれか記載のシリコーン樹脂組成物の硬化物。
<10>基板上に、インキ受容層および<9>に記載の硬化物を含むインキ反発層を有する水なし平版印刷版。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機スズ化合物を必要とすることなく、硬化性に優れたシリコーン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、(a)シラノール基を2個以上有するシリコーン樹脂(以下、「(a)シリコーン樹脂」と略記する場合がある)、(b)Siに直接結合したオキシム基を有するシラン化合物(以下、「(b)シラン化合物」と略記する場合がある)および(c)下記一般式(1)で表される構造を有するチタン化合物(以下、「(c)チタン化合物」と略記する場合がある)を含有する。
【0014】
【化3】
【0015】
上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基または炭素数6~12のアリールオキシ基を示す。Rは、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。mは、1~3の整数を示す。rは、0~2の整数を示す。
【0016】
前述のとおり、従来のシリコーン樹脂組成物において、有機スズ化合物を他の金属触媒に置き換えると、硬化性が不十分となる課題があった。本発明においては、(a)シリコーン樹脂とともに、(b)シラン化合物および(c)チタン化合物を含有することにより、(c)チタン化合物が、(b)シラン化合物のSiに直接結合したオキシム基と空気中の水分との反応、すなわち加水分解を誘起または促進する。加水分解により生じたシラノール基は、(a)シリコーン樹脂が有するシラノール基や(b)シラン化合物中に残存するオキシム基と縮合したり、生成したシラノール基同士で縮合するため、架橋構造を形成する。そのため、本発明のシリコーン樹脂組成物は、硬化性に優れ、室温でも短時間で硬化する。さらに、(c)チタン化合物は、一般式(2)中の[ ]内に表される構造がチタン原子に強く結合または配位することから、シリコーン樹脂組成物中において安定に存在することができ、保存安定性に優れる。それに加え、金属-酸素-金属結合、すなわちメタロキサン結合可能なTi-OR基を有するため、硬化物においては(a)シリコーン樹脂が有するシラノール基と縮合して架橋構造を形成し、(a)シリコーン樹脂中に組み込まれ固定化する。そのため、(c)チタン化合物自身も架橋剤として機能し、シリコーン樹脂組成物の硬化性を向上させることができる。
【0017】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、硬化性に優れ、室温でも短時間で硬化することから、例えば、後述する水なし平版印刷版の版面修正液や、水なし平版印刷版に画線部/非画線部を形成する前の前駆体である水なし平版印刷版原版のインキ反発層に、好適に用いることができる。特に、水なし平版印刷版の版面修正液として用いる場合には、シリコーンゴムを用いたインキ反発層との接着性にも優れる。
【0018】
(a)シリコーン樹脂は、下記一般式(3)で表される構造を有することが好ましく、シリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性を向上させることができる。このため、水なし平版印刷版の版面修正液や、水なし平版印刷版原版のインキ反発層に用いた場合に、非画線部にインキが着肉する「地汚れ」と呼ばれる現象を抑制することができる。
【0019】
【化4】
【0020】
上記一般式(2)中、Tは下記一般式(4)で示される基である。なお、下記一般式(4)において、*はSiとの結合位置を示す。
【0021】
【化5】
【0022】
上記一般式(3)および一般式(4)中、Rは、それぞれ独立に、水酸基、または脂肪族不飽和結合を含まない一価の炭化水素基を示し、Rは、それぞれ独立に、脂肪族不飽和結合を含まない一価の炭化水素基を示す。不飽和結合を含まない一価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基などのアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基などが挙げられる。eは0~4,000、fは0~5、gは0~2,000、hは0~4,000の範囲の整数を示す。ただし、e、f、gのいずれか1つは1以上の整数である。e、f、gのいずれかが2以上の場合、e個、f個、g個の繰り返し単位におけるRは同じでも異なってもよい。Rが不飽和結合を含まない一価の炭化水素基である場合、fは2以上の整数である。
【0023】
前記一般式(3)および(4)中、RおよびRは、それぞれ全体の50モル%以上がメチル基であることが好ましい。50モル%がメチル基であることにより、シリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性を向上させることができる。このため、水なし平版印刷版の版面修正液や、水なし平版印刷版原版のインキ反発層に用いた場合に、地汚れを抑制することができる。
【0024】
(a)シリコーン樹脂は、主鎖の両末端にシラノール基を有することが好ましい。すなわち一般式(1)中のRが水酸基であることが好ましい。主鎖の両末端にシラノール基を有することにより、シリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させることができる。
【0025】
(a)シリコーン樹脂を2種以上含有してもよい。
【0026】
(a)シリコーン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、シリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性をより向上させる観点から、10,000以上が好ましく、20,000以上がさらに好ましい。一方、(a)シリコーン樹脂のMwは、シリコーン樹脂組成物の硬化性およびシリコーン樹脂組成物の硬化物の下地との密着性をより向上させる観点から、300,000以下が好ましく、120,000以下がさらに好ましい。ここで、(a)シリコーン樹脂のMwは、標品にポリスチレンを用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0027】
(b)シラン化合物は、下記一般式(2)で表される構造を有することが好ましい。一般式(2)で表される構造を有することにより、加水分解と縮合反応の反応性に優れるため、シリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させることができる。
【0028】
【化6】
【0029】
上記一般式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基を示す。Rは、炭素数1~8のアルキル基または炭素数1~8のアルケニル基を示す。nは、1~4の整数を示す。nが2以上の場合、n個のRおよびRはそれぞれ同じでも異なってもよく、nが2以下の場合、4-n個のRはそれぞれ同じでも異なってもよい。
【0030】
炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0031】
炭素数1~8のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基などが挙げられる。
【0032】
上記一般式(2)におけるnは、シリコーン樹脂組成物の硬化物の下地との密着性を向上させる観点から、3が好ましい。また、nは、加水分解速度と架橋密度を大きくしてシリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させる観点から、4が好ましい。
【0033】
上記一般式(2)におけるnが3であるシラン化合物としては、例えば、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シランなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性をより向上させる観点から、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シランが好ましい。一般式(2)におけるnが4であるシラン化合物としては、例えば、テトラキス(メチルエチルケトオキシム)シラン、テトラキス(メチルイソブチルケトオキシム)シランなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0034】
本発明のシリコーン樹脂組成物は上記一般式(2)におけるnが3であるシラン化合物と、nが4であるシラン化合物を含有することが好ましく、シリコーン樹脂組成物の硬化性と、シリコーン樹脂組成物の硬化物の下地との密着性をより向上させることができる。(b)シラン化合物の合計含有量100質量部中、一般式(2)におけるnが4であるシラン化合物を10質量部以上、nが3であるシラン化合物を90質量部以下含有することが好ましく、シリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させることができる。一方、nが4であるシラン化合物を50質量部以下、nが3であるシラン化合物を50質量部以上含有することが好ましく、シリコーン樹脂組成物の硬化物の下地との密着性をより向上させることができる。
【0035】
本発明のシリコーン樹脂組成物における(b)シラン化合物の含有量は、シリコーン樹脂組成物の硬化性およびシリコーン樹脂組成物の硬化物の下地との密着性をより向上させる観点から、(a)シリコーン樹脂100質量部に対して、2.5質量部以上が好ましく、4.0質量部以上がより好ましい。一方、(b)シラン化合物の含有量は、シリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性をより向上させる観点から、(a)シリコーン樹脂100質量部に対して、35質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0036】
(c)チタン化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0037】
【化7】
【0038】
上記一般式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素数1~8のアルキル基、炭素数1~8のアルコキシ基または炭素数6~12のアリールオキシ基を示す。Rは、水素原子または炭素数1~8のアルキル基を示す。mは、1~3の整数を示す。rは、0~2の整数を示す。
【0039】
一般式(1)中、Rは、炭素数2~5のアルキル基が好ましい。アルキル基の炭素数を2以上とすることにより、シリコーン樹脂組成物の安定性を向上させることができる。一方、アルキル基の炭素数を5以下とすることにより、シリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させることができる。炭素数2~5のアルキル基としては、例えば、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが挙げられる。
【0040】
一般式(1)中、rは0であることが好ましい。すなわち、前記一般式(1)中の[ ]内に表される構造は、β-ジケトンまたはβ-ケトエステル由来の基であることが好ましい。これにより、[ ]内に表される構造がチタン原子に強く結合または配位することから、シリコーン樹脂組成物中において安定に存在することができる。そのため、(b)シラン化合物の加水分解をより促進し、シリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させることができる。
【0041】
前記一般式(1)中、[ ]内に表される構造は、(4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ基、基全体の炭素数が5~12の(4-アルコキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基または基全体の炭素数が10~16の(4-アリールオキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基がより好ましい。これらの基を有することにより、(b)シラン化合物の加水分解をより促進し、シリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させることができる。
【0042】
基全体の炭素数が5~12の(4-アルコキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基としては、例えば、(4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基、(4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基、(4-プロポキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基、(4-ブトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基、(4-ペントキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基、(4-ヘキソキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基、などが挙げられる。基全体の炭素数が10~16の(4-アリールオキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基としては、例えば、(4-フェノキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基、(4-ナフトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ基などが挙げられる。
【0043】
(c)チタン化合物としては、一般式(1)におけるm=1の場合、例えば、トリエトキシ((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリエトキシ((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリエトキシ((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリイソプロポキシ((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリイソプロポキシ((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリイソプロポキシ((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリ-n-プロポキシ((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリ-n-プロポキシ((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリn-プロポキシ((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリ-n-ブトキシ((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリ-n-ブトキシ((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、トリ-n-ブトキシ((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタンなどが挙げられる。
【0044】
m=2の場合、例えば、ジエトキシビス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジエトキシビス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジエトキシビス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジイソプロポキシビス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジイソプロポキシビス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジイソプロポキシビス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジ-n-プロポキシビス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジ-n-プロポキシビス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジ-n-プロポキシビス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジ-n-ブトキシビス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジ-n-ブトキシビス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、ジ-n-ブトキシビス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタンなどが挙げられる。
【0045】
m=3の場合、例えば、エトキシトリス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、エトキシトリス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、エトキシトリス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、イソプロポキシトリス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、イソプロポキシトリス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、イソプロポキシトリス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、n-プロポキシトリス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、n-プロポキシトリス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、n-プロポキシトリス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、n-ブトキシトリス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、n-ブトキシトリス((4-メトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン、n-ブトキシトリス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタンなどが挙げられる。
【0046】
これらを2種以上含有してもよい。
【0047】
本発明のシリコーン樹脂組成物中における(c)チタン化合物の含有量は、シリコーン樹脂組成物の硬化性およびシリコーン樹脂組成物の硬化物の下地との密着性をより向上させる観点から、(a)シリコーン樹脂100質量部に対して1.5質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましい。一方、(c)チタン化合物の含有量は、シリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性をより向上させる観点から、(a)シリコーン樹脂100質量部に対して、35質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。
【0048】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、さらに(d)シリコーンオイルを含有することが好ましい。(d)シリコーンオイルを含有することにより、シリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性をより向上させることができる。これは、例えば、水なし平版印刷版の版面修正液やインキ反発層において、印刷時にシリコーン樹脂組成物の硬化物が加圧されたとき、硬化物表面において(d)シリコーンオイルが薄膜を形成し、インキの剥離を促進するためと考えられ、地汚れを抑制することができる。
【0049】
本発明における(d)シリコーンオイルとは、シリコーン樹脂組成物の架橋に携わらないフリーのポリシロキサン成分のことを指す。例えば、末端ジメチルポリジメチルシロキサン、環状ポリジメチルシロキサン、末端ジメチル-ポリジメチル-ポリメチルフェニルシロキサンコポリマー、末端ジメチル-ポリジメチル-ポリジフェニルシロキサンコポリマーなどのジメチルシリコーンオイル類、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイルなどの分子中のメチル基の一部に各種有機基を導入した変性シリコーンオイル類などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。
【0050】
(d)シリコーンオイルの重量平均分子量(Mw)は、シリコーンオイルの揮発を抑制してシリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性をより向上させる観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましい。一方、(d)シリコーンオイルのMwは、シリコーン樹脂組成物中における分散性を向上させ、シリコーン樹脂組成物の硬化性をより向上させる観点から、50,000以下が好ましく、10,000以下がより好ましい。ここで、(d)シリコーン樹脂のMwは、標品にポリスチレンを用いたGPCにより測定することができる。
【0051】
本発明のシリコーン樹脂組成物中における(d)シリコーンオイルの含有量は、硬化物のインキ反発性をより向上させる観点から、(a)シリコーン樹脂100質量部に対して3.0質量部以上が好ましく、7.0質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。一方、シリコーン樹脂組成物の硬化性シリコーン樹脂組成物の硬化物の下地との密着性をより向上させる観点から、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。
【0052】
(d)シリコーンオイルの25℃における表面張力は、前述の(a)~(c)成分との親和性を高める観点から、15mN/m以上が好ましい。一方、(d)シリコーンオイルの25℃における表面張力は、シリコーン樹脂組成物の硬化物のインキ反発性をより向上させる観点から、30mN/m以下が好ましい。
【0053】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、溶剤を含有してもよく、塗工性や吐出性を向上させることができる。溶剤としては、例えば、脂肪族または芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、鎖状または環状のエーテル化合物などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これらの中でも、(a)シリコーン樹脂の溶解性の観点から、脂肪族炭化水素が好ましい。また、沸点は80℃以上、150℃以下が好ましい。このような溶剤としては、例えば、炭素数が6~9の直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素や、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素などが挙げられる。これら溶剤の2種以上を含有してもよく、これら溶剤があらかじめ混合された以下に代表されるような市販の溶剤を用いてもよい。
【0054】
分岐状脂肪族炭化水素の混合物としては、例えば、マルカゾール8(丸善石油化学(株)製)、“アイソパー(登録商標)”C、“アイソパー(登録商標)”E(いずれもエクソンモービルケミカル社製)、IPソルベント1016(出光興産(株)製)、“アイソゾール(登録商標)”200(JX日鉱日石エネルギー(株)製)などが挙げられる。
【0055】
脂環式炭化水素の混合物としては、例えば、“エクソール(登録商標)”DSP80/100、“エクソール”DSP100/140、“エクソール”D30、(いずれもエクソンモービルケミカル社製)、CS揮発油(JX日鉱日石エネルギー(株)製)などが挙げられる。
【0056】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、各種の充填材を含有してもよく、硬化物の強度を向上させることができる。また、特開2002-244279号公報に記載の有色染料や国際公開第2008/056588号に記載の有色顔料を含有してもよく、版面修正液に用いる場合には、修正箇所を着色して視認しやすくすることができる。
【0057】
本発明のシリコーン樹脂組成物の製造方法としては、例えば、(a)シリコーン樹脂、(b)シラン化合物、(c)チタン化合物、必要に応じて(d)シリコーンオイルおよびその他成分を溶剤中において混合する方法が挙げられる。(a)シリコーン樹脂および(d)シリコーンオイルを含有する溶液と、(b)シラン化合物を含有する溶液をそれぞれ作製し、それらを混合した後、(c)チタン化合物を添加して混合することがより好ましい。
【0058】
より具体的には、容器中に溶剤、(a)シリコーン樹脂および(d)シリコーンオイルを投入し、ミキサーなどの混合装置を用いて、成分が均一になるまで撹拌混合する。得られた混合液を、乾燥空気や乾燥窒素などの乾燥ガスを用いて10分間以上バブリングし、水分を除去することが、シリコーン組成物の反応活性の維持やポットライフ向上の観点から好ましい。次いで、別の容器に、溶剤、(b)シラン化合物を投入し、成分が均一になるまで撹拌混合する。得られた混合液に、前述の混合液を投入し、最後に、(c)チタン化合物を投入して撹拌混合することが好ましい。
【0059】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、硬化性に優れ、室温でも短時間で硬化することから、例えば、水なし平版印刷版の版面修正液や、水なし平版印刷版原版のインキ反発層に、好適に用いることができる。
【0060】
水なし平版印刷版原版は、基板上に、インキ受容層およびインキ反発層を有する水なし平版印刷版に画線部/非画線部を形成する前の版であり、基板上に、インキ受容層およびインキ反発層を有する。
【0061】
基板としては、従来平版印刷版の基板として用いられてきた、寸法的に安定な紙、金属板、ガラス板、フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、アルミニウム板は寸法的に極めて安定であるため好ましい。また、軽印刷用の柔軟な基板としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0062】
インキ受容層としては、感熱層が好ましく、描き込みに使用されるレーザー光を熱に変換(光熱変換)する機能を有し、さらに、発生した熱によって、感熱層の少なくとも表面が分解し、もしくは現像液への溶解性が高まる、またはインキ反発層との接着力が低下するものがより好ましい。このような感熱層としては、例えば、国際公開第2016/076286号に記載の感熱層などが挙げられる。
【0063】
インキ反発層としては、前述のシリコーン樹脂組成物から形成される層が好ましい。インキ反発層は、例えば、前述のシリコーン樹脂組成物を塗布し、必要に応じて乾燥することにより、形成することができる。かかるインキ反発層は、インキ反発性に優れることから、地汚れを抑制することができる。また、(b)シラン化合物を含有することにより、下地との密着性に優れることから、インキ受容層との密着性を向上させることができる。
【0064】
本発明の水なし平版印刷版の版面修正液(以下、「版面修正液」と略記する場合がある)は、前述の本発明のシリコーン樹脂組成物からなる。必要に応じて、さらに溶剤を含有してもよいし、溶剤を乾燥除去したものであってもよい。本発明の版面修正液は、インキ反発性に優れることから、地汚れを抑制することができる。また、(b)シラン化合物を含有することにより、下地との密着性に優れることから、インキ反発層との密着性を向上させることができる。特に、シリコーンオイルを含有する高インキ反発性のインキ反発層との密着性にも優れることから、高インキ反発性のインキ反発層を有する水なし平版印刷版の版面修正液として好適に用いることができる。
【0065】
次に、本発明の版面修正液を用いた水なし平版印刷版の版面修正方法について説明する。インキ反発層の傷に起因してインキ受容層が露出した部分や、非画線部に変更すべき画線部のインキ受容層が露出した部分に、本発明の版面修正液を塗布する。版面修正液の塗布には、例えば、筆、綿棒、スポンジ、スポイト、注射器等の塗布用具を用いることが好ましい。なお、版面修正液の塗布に先立ち、炭化水素系溶剤などを用いて、修正部分を洗浄することも好ましく、密着性をより向上させることができる。炭化水素系溶剤としては、例えば、パラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素、シクロパラフィン系炭化水素、芳香族炭化水素溶媒などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0066】
塗布後、必要により加熱、光照射などにより版面修正液を硬化させ、シリコーンゴム薄膜を形成し、所望の部位にインキ反発性を付与する。
【0067】
本発明のシリコーン樹脂組成物は、例えば、基板上に塗布し、温度0℃以上および湿度20%~100%の空気に晒し、必要に応じて溶剤を乾燥することにより、硬化物とすることができる。かかる硬化物は、インキ反発性に優れることから、水なし平版印刷版のインキ反発層として好適に用いることができる。かかる水なし平版印刷版は、基板上に、インキ受容層および前述の硬化物を含むインキ反発層を有する。ここで、シリコーン樹脂の硬化物を、インキ反発層全体として有してもよいし、インキ反発層の一部に有してもよい。前者の場合は、例えば、インキ反発層として前述のシリコーン樹脂組成物を用いた水なし平版印刷版原版から得られる水なし平版印刷版が挙げられる。後者の場合は、例えば、所望のインキ反発層を有する水なし平版印刷版に、前述の版面修正液を用いて非画線部を形成した水なし平版印刷版が挙げられる。
【0068】
次に、インキ反発層として前述のシリコーン樹脂組成物を用いた水なし平版印刷版原版から水なし平版印刷版を製造する方法について説明する。水なし平版印刷版の製造方法は、水なし平版印刷版原版を像に従って露光する工程(露光工程)、露光した水なし平版印刷版原版に物理刺激を与え、露光部のインキ反発層を除去する工程(現像工程)を有することが好ましい。
【0069】
まず、露光工程について説明する。露光工程で用いられる光源としては、発光波長領域が300nm~1,500nmの範囲にあるものが挙げられる。これらの中でも、780nm、830nm、1,064nmの波長のレーザー光が露光に好ましく用いられる。
【0070】
次に、現像工程について説明する。露光後の水なし平版印刷版原版に物理刺激を与えることにより、露光部のインキ反発層を除去する。物理刺激を与える方法としては、例えば、(i)現像液を含浸した不織布、脱脂綿、布、スポンジなどで版面を拭き取る方法、(ii)現像液で版面を前処理した後、水道水などをシャワーしながら回転ブラシで擦る方法、(iii)高圧の水や温水または水蒸気を版面に噴射する方法などが挙げられる。
【0071】
現像液としては、例えば、国際公開第2016/076286号において現像液として例示したものが挙げられる。
【0072】
現像に先立ち、前処理液中に露光後の水なし平版印刷版原版を一定時間浸漬する前処理を行ってもよい。前処理液としては、例えば、国際公開第2016/076286号において前処理液として例示したものが挙げられる。
【0073】
また、前処理液および/または現像液に染料を添加して現像と同時に画線部のインキ受容層の染色を行ってもよいし、現像後に染料を含有する処理液により画線部のインキ受容層の染色を行ってもよい。画線部のインキ受容層を染色することにより、画線部の視認性や網点の計測精度を高めることできる。染料としては、例えば、クリスタルバイオレット、ビクトリアピュアブルー、アストラゾンレッド等が挙げられる。
【0074】
本発明の水なし平版印刷版は、湿し水を用いずに印刷が可能な平版印刷版であり、薄紙、厚紙、フィルム、ラベルなどの被印刷体に、インキ受容層から直接またはブランケットを介して、インキを転写することにより、印刷物を得ることができる。本発明の水なし平版印刷版は、インキ反発層のインキ反発性に優れることから、地汚れを抑制することができる。
【実施例0075】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの範囲に限定されない。なお、用いた化合物のうち略語を使用しているものについて、名称を以下に示す。
((a)シリコーン樹脂)
DMS-S35:一般式(3)で表される構造(R:水酸基、R:メチル基、e:660、f:0、g:0)を有するシラノール両末端ポリジメチルシロキサン(Gelest,INC.製、重量平均分子量:49,000、分子中のシラノール基数:2個、動粘度:50cm/s)
DMS-S21:一般式(3)で表される構造(R:水酸基、R:メチル基、e:54、f:0、g:0)を有するシラノール両末端ポリジメチルシロキサン(Gelest,INC.製、重量平均分子量:4,200、分子中のシラノール基数:2個、動粘度:0.9~1.2cm/s)
DMS-S27:一般式(3)で表される構造(R:水酸基、R:メチル基、e:240、f:0、g:0)を有するシラノール両末端ポリジメチルシロキサン(Gelest,INC.製、重量平均分子量:18,000、分子中のシラノール基数:2個、動粘度:7~8cm/s)
DMS-S51:一般式(3)で表される構造(R:水酸基、R:メチル基、e:1,900、f:0、g:0)を有するシラノール両末端ポリジメチルシロキサン(Gelest,INC.製、重量平均分子量:139,000、分子中のシラノール基数:2個、動粘度:900~1,500cm/s)
TF13:一般式(3)で表される構造(R:水酸基、R:メチル基、e:5,400、f:0、g:0)を有するシラノール両末端ポリジメチルシロキサン(ダウ・東レ(株)製、重量平均分子量:400,000、分子中のシラノール基数:2個)
((b)シラン化合物)
QOS:一般式(2)で表される構造(R:メチル基、R:エチル基、n:4)を有するテトラキス(メチルエチルケトオキシム)シラン溶液、濃度50質量%、含有溶剤トルエン(SIT7289.0、Gelest,INC.製)
VTO:一般式(2)で表される構造(R:メチル基、R:エチル基、n:3)を有するビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、tech-95(SIV9280.0、Gelest,INC.製)
(その他のシラン化合物)
4AS:テトラアセトキシシラン
MTA:メチルトリアセトキシシラン
((c)チタン化合物)
TC-750:一般式(1)で表される構造(R:メチル基、R:エトキシ基、r:0、m:2)を有するジイソプロポキシビス((4-エトキシ-4-オキソブタ-2-エン-2-イル)オキシ)チタン溶液、濃度97.5重量%、含有溶剤2-プロパノール(“オルガチックス(登録商標)”TC-100、マツモトファインケミカル(株)製)
TC-100:一般式(1)で表される構造(R:メチル基、R:メチル基、r:0、m:2)を有するジイソプロポキシビス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン溶液、濃度75重量%、含有溶剤2-プロパノール(“オルガチックス(登録商標)”TC-100、マツモトファインケミカル(株)製)
ナーセムチタン:一般式(1)で表される構造(R:メチル基、R:メチル基、r:0、m:2)を有するジ-n-ブトキシビス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン溶液、濃度:73重量%、含有溶剤:n-ブタノール(“ナーセム(登録商標)”チタン、日本化学産業(株)製)
(その他のチタン化合物)
TA-10:テトライソプロポキシチタン(“オルガチックス(登録商標)”TA-10、マツモトファインケミカル(株)製)
TC-401:テトラキス((4-オキソペント-2-エン-2-イル)オキシ)チタン溶液、濃度65重量%、含有溶剤2-プロパノール(“オルガチックス(登録商標)”TC-401、マツモトファインケミカル(株)製、濃度65重量%、含有溶剤2-プロパノール)
(スズ化合物)
DBTDA:ジブチルスズジアセテート
((d)シリコーンオイル)
KF-96-50cs:(信越化学工業(株)製)
(その他)
APTMS:3-アミノプロピルトリメトキシシラン。
【0076】
(製造例1:高インキ反発性水なし平版印刷版の製造)
以下の方法により、高インキ反発性水なし平版印刷版を製造した。
【0077】
厚み0.24mmの脱脂したアルミ基板(三菱アルミ(株)製)上に下記の断熱層組成物溶液を塗布し、200℃で90秒間乾燥し、厚み6.0μmの断熱層を設けた。なお、断熱層組成物溶液は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
<断熱層組成物溶液>
活性水素を有するポリマー:エポキシ樹脂:“エピコート(登録商標)”1010(ジャパンエポキシレジン(株)製):35質量部
活性水素を有するポリマー:ポリウレタン:“サンプレン(登録商標)”LQ-T1331D(三洋化成工業(株)製、固形分濃度:20質量%):375質量部
アルミキレート:アルミキレートALCH-TR(川研ファインケミカル(株)製):10質量部
レベリング剤:“ディスパロン(登録商標)”LC951(楠本化成(株)製、固形分:10質量%):1質量部
酸化チタン:“タイペーク(登録商標)”CR-50(石原産業(株)製)のN,N-ジメチルホルムアミド分散液(酸化チタン50質量%):60質量部
N,N-ジメチルホルムアミド:730質量部
メチルエチルケトン:250質量部。
【0078】
次いで、下記の感熱層組成物溶液を前記断熱層上に塗布し、140℃で90秒間加熱乾燥し、厚み1.5μmの感熱層を設けた。なお、感熱層組成物溶液は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
<感熱層組成物溶液-1>
赤外線吸収染料:PROJET 825LDI(Avecia社製):16.0質量部
有機錯化合物:チタニウム-n-ブトキシドビス(アセチルアセトネート):“ナーセム(登録商標)”チタン(日本化学産業(株)製、濃度:73質量%、溶剤としてn-ブタノール:27質量%を含む):15.0質量部
フェノールホルムアルデヒドノボラック樹脂:“スミライトレジン(登録商標)”PR53195(住友ベークライト(株)製):60質量部
ポリウレタン:“ニッポラン(登録商標)”5196(日本ポリウレタン(株)製、濃度:30質量%、溶剤としてメチルエチルケトン:35質量%、シクロヘキサノン:35質量%を含む):25質量部
テトラヒドロフラン:1044質量部。
【0079】
次いで、塗布直前に調製した下記のインキ反発層組成物溶液-1を前記感熱層上に塗布し、140℃で80秒間加熱し、平均膜厚2.5μmのインキ反発層を設けることで高インキ反発性水なし平版印刷版原版を得た。なお、インキ反発層組成物溶液-1は、下記成分を室温にて撹拌混合することにより得た。
<インキ反発層組成物溶液-1>
α,ω-ジビニルポリジメチルシロキサン:TF22(重量平均分子量100,000、ダウ・東レ(株)製):80.0質量部
シリコーンオイル:KF-96-50cs(両末端メチル基封鎖のポリジメチルシロキサン。重量平均分子量:3780、表面張力:20.8mN/m、沸点:>150℃、信越化学工業(株)製):10.0質量部
メチルハイドロジェンシロキサンHMS305(GELEST Inc.製):2.95質量部
ビニルトリス(メチルエチルケトオキシイミノ)シラン:0.88質量部
白金触媒SRX212(ダウ・東レ(株)製):6.17質量部
イソパラフィン系炭化水素溶剤“アイソパー(登録商標)”E(エクソンモービルケミカル社製):900質量部。
【0080】
得られた高インキ反発性水なし平版印刷版原版に対し、CTP用露光機PlateRite 8800E(大日本スクリーン製造(株)製)を用いて、照射エネルギー:130mJ/cm(ドラム回転数:232rpm)の条件で露光を行った。露光画像は縦550mm×横650mmの水なし平版印刷版原版の中央に、縦20mm×横650mmの網点面積率50%の網点画像(AM175線(2,400dpi))を設けた。CP-Y(東レ(株)製)を前処理液として、水道水を現像液として、露光した原版を自動現像機TWL-1160F(東レ(株)製)に速度80cm/分で通し、高インキ反発性水なし平版印刷版を製造した。
【0081】
各実施例、比較例における評価は以下の方法で行った。
【0082】
(1)硬化性
製造例1により得られた高インキ反発性水なし平版印刷版の画像上に、実施例1~23および各比較例により得られたシリコーン樹脂組成物を筆で塗布し、温度23±2℃、湿度50±5%の条件で乾燥しながら、5分毎に塗膜の乾燥状態を調べ、硬化乾燥となる時間を求め、硬化性を評価した。なお、塗面の中央を親指と人差指とで強く挟んだときに、塗面に指紋によるへこみが付かず、塗膜の動きが感じられず、また、塗面の中央を指先で急速に繰り返しこすったときに、塗面にすり跡が付かない状態を硬化乾燥とした。硬化乾燥時間が30分以内であるものを合格とした。
【0083】
(2)密着性
製造例1により得られた高インキ反発性水なし平版印刷版の画像上に、各実施例および比較例により得られたシリコーン樹脂組成物を筆で塗布し、温度23±2℃、湿度50±5%の条件で乾燥し、硬化物とした。硬化時間は、(1)硬化性の評価において硬化乾燥となる時間とした。
【0084】
得られた硬化物を有する高インキ反発水なし平版印刷版(6cm×6cm)を連続荷重式摩擦堅牢度試験器に取り付け、2cm×3cmに断裁した面ファスナー:ニュー・エコマジック A8693Y-71(クラレファスニング(株)製)を用いて荷重100gにて150往復擦過した。擦過後の硬化物を目視で確認し、下記5段階で評価した。3点以上を合格とした。
5点:硬化物の剥離が全く認められない
4点:硬化物の剥離面積割合が5%未満
3点:硬化物の剥離面積割合が5%以上10%未満
2点:硬化物の剥離面積割合が10%以上50%未満
1点:硬化物の剥離面積が50%以上。
【0085】
(3)インキ反発性
製造例1により得られた高インキ反発性水なし平版印刷版の画像上に、各実施例および比較例により得られた組成のシリコーン樹脂組成物を筆で塗布し、温度23±2℃、湿度50±5%の条件で乾燥し、硬化物とした。硬化時間は、(1)硬化性の評価で硬化乾燥となる時間とした。
【0086】
得られた硬化物を有する高インキ反発性水なし平版印刷版を印刷機:OLIVER 466SDに装着し、UVインキUV171CT TW-M((株)T&K TOKA製)を用いて、インキローラーにより印刷版にインキを供給し、ブランケットを介して薄紙のコート紙にインキを転写するオフセット印刷を行った。得られた印刷物において、非画線部に相当する部分の反射濃度が0.20(墨)になるように、UVインキの供給量を調整し、インキが転写されたコート紙に、紫外線照射を行い、印刷物を得た。紫外線照射には、出力120W/cmのメタルハライドランプを使用し、焦点距離150mm、流れ方向のランプハウスの幅100mmを照射領域とし、コンベア速度を5m/分とした。得られた印刷物のシリコーン樹脂組成物の硬化物に相当する部分の反射濃度を測定し、インキ反発性を評価した。評点は以下の通りとし、3点以上を合格とした。
5点:反射濃度0.00~0.10
4点:反射濃度0.10~0.15
3点:反射濃度0.15~0.25
2点:反射濃度0.15~0.40
1点:反射濃度0.40以上。
【0087】
(4)地汚れ開始温度
枚葉印刷機オリバー266EPZ(桜井グラフィックシステムズ(株)製)の排紙部に速度可変式コンベアを内蔵した紫外線照射装置を連結した印刷試験機を準備した。この印刷試験機に、実施例24により得られた水なし平版印刷版を装着した。チラーを用いてインキローラーの温度を制御し、水なし平版印刷版の版面温度を変更しながら、UVインキ UV171CT TW-M((株)T&K TOKA製)を用いて、インキローラーにより印刷版にインキを供給し、ブランケットを介して薄紙のコート紙に転写するオフセット印刷を行った。得られた印刷物において、ベタ印刷部の反射濃度が1.8(墨)になるようにUVインキの供給量を調整し、UVインキを転写したコート紙に紫外線照射を行い、印刷物を得た。紫外線照射には出力120W/cmのメタルハライドランプを使用し、焦点距離150mm、流れ方向のランプハウスの幅100mmを照射領域とし、コンベア速度を5m/分とした。非接触温度計を用いて水なし平版印刷版の版面温度を測定し、温度ごとに非画線部の地汚れの有無を観察し、地汚れが認められる最低温度を地汚れ開始温度とした。
【0088】
(5)耐刷枚数
実施例24により得られた水なし平版印刷版について、上記(4)の地汚れ開始温度を維持しながら(4)と同様に連続印刷を続け、5,000枚毎に印刷物の地汚れ状態を観察し、目視で悪化が確認できるまでの枚数を耐刷枚数とした。
【0089】
実施例1
容器中に溶剤として“アイソパー(登録商標)”Eを45g、(a)シリコーン樹脂としてDMS-S35を10g投入し、成分が均一になるまで撹拌混合した。得られた混合液を乾燥窒素で10分間以上バブリングして液中の水分を除去した。次いで、別の容器に、溶剤として“アイソパー(登録商標)”Eを45g、(b)シラン化合物としてVTOを0.60g、QOSを0.30g投入し、撹拌しながら、得られた混合液を投入した。最後に、(c)チタン化合物としてTC-750を1.0g投入して撹拌混合し、シリコーン樹脂組成物を得た。得られたシリコーン樹脂組成物について、前述の評価を行い、表1に結果を記載した。
【0090】
実施例2
容器中に溶剤として“アイソパー(登録商標)”Eを45g、(a)シリコーン樹脂としてDMS-S35を10g、(d)シリコーンオイルとしてKF-96-50csを0.50g投入し、成分が均一になるまで撹拌混合した。得られた混合液を乾燥窒素で10分間以上バブリングして液中の水分を除去した。次いで、別の容器に、溶剤として“アイソパー(登録商標)”Eを45g、((b)シラン化合物としてVTOを0.60g、QOSを0.30g投入し、撹拌しながら、得られた混合液を投入した。最後に、(c)チタン化合物としてTC-750を1.0g投入して撹拌混合し、シリコーン樹脂組成物を得た。得られたシリコーン樹脂組成物について、前述の評価を行い、表1に結果を記載した。
【0091】
実施例3~実施例11
シリコーン樹脂組成物の各成分の配合を表1に記載のように変更した以外は、実施例2と同様にシリコーン樹脂組成物を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
比較例1~比較例7
シリコーン樹脂組成物の各成分の配合を表2に記載のように変更した以外は、実施例2と同様にシリコーン樹脂組成物を作製し、評価を行った。ただし、比較例4は撹拌混合中にゲル化したため、評価は行わなかった。評価結果を表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
実施例12~実施例23
シリコーン樹脂組成物の各成分の配合を表3~4に記載のように変更した以外は、実施例2と同様にシリコーン樹脂組成物を作製し、評価を行った。評価結果を表3~4に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
【表4】
【0098】
実施例24
<インキ反発層組成物溶液-1>にかえて、実施例4により得られたシリコーン樹脂組成物を用いて、140℃で80秒間の乾燥にかえて、温度23±2℃、湿度50±5%の条件で30分間乾燥して、平均膜厚2.5μmのシリコーン樹脂組成物の硬化物からなるインキ反発層を形成したこと以外は製造例1と同様にして、水なし平版印刷版原版を得た。インキ反発層の形成時、5分毎に塗膜の乾燥状態を調べたところ、硬化乾燥となる時間は10分であり、良好な硬化性を示した。また、得られた水なし平版印刷版原版を用いて、製造例1と同様にして水なし平版印刷版を製造し、前述の評価を行った。地汚れ開始温度は35℃、耐刷枚数は20,000枚と良好な印刷適性を示した。