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特開2024-176579デジタルPCRデバイス、デジタルPCR装置およびデジタルPCR実施方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176579
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】デジタルPCRデバイス、デジタルPCR装置およびデジタルPCR実施方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241212BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095253
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 慶己
(72)【発明者】
【氏名】香村 惟夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 樹生
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA09
4B029GA03
4B029GB03
(57)【要約】
【課題】デジタルPCRデバイスの構成材料の通気性を利用してサンプル溶液を画分へ導入することで、画分中に気泡を残すことなく溶液導入でき、かつ、デジタルPCRが実施可能な高い熱効率を持ったデジタルPCRデバイス技術を提供する。
【解決手段】デジタルPCRを実施するための、デジタルPCRデバイスは、表面に複数の画分を有し通気性を有するチップと、前記チップの画分に溶液を導入するためのインレットと、前記溶液を排出するためのアウトレットとを備え、溶液チャンバを介して前記チップを覆う蓋と、前記チップに対し、前記蓋と反対側の面に固定され、通気可能な構造を有する支持体と、を有し、前記支持体は熱伝導度が高い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルPCRを実施するための、デジタルPCRデバイスであって、
表面に複数の画分を有し通気性を有するチップと、
前記チップの画分に溶液を導入するためのインレットと、前記溶液を排出するためのアウトレットとを備え、溶液チャンバを介して前記チップを覆う蓋と、
前記チップに対し、前記蓋と反対側の面に固定され、通気可能な構造を有する支持体と、
を有し、
前記支持体は熱伝導度が高い、デジタルPCRデバイス。
【請求項2】
前記チップの材料がPDMSである、請求項1に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項3】
前記チップにおける前記画分の深さを除いた厚みが50μm~2000μmである、請求項1に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項4】
前記蓋が可視光領域において透明な材料からなる、請求項1に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項5】
前記蓋の前記材料は樹脂またはガラスからなる、請求項4に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項6】
前記支持体が無機物からなる、請求項1に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項7】
前記通気可能な構造が、貫通孔を少なくとも一つ有する、請求項1に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項8】
前記支持体の可視光領域における反射率が低い、請求項1に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項9】
前記反射率が20%以下である、請求項8に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項10】
前記支持体の熱伝導度が0.2W/(m・K)以上である、請求項1に記載のデジタルPCRデバイス。
【請求項11】
請求項1に記載のデジタルPCRデバイスを用いて、デジタルPCRを実施するためのデジタルPCR装置であって、
前記支持体を支えることにより前記デジタルPCRデバイスを固定するとともに、前記デジタルPCRデバイスの前記支持体側に面する空間を陰圧にする真空チャンバと、
前記デジタルPCRデバイスを前記支持体側から加熱する温調器と、
を備えたデジタルPCR装置。
【請求項12】
デジタルPCRデバイスを用いて、デジタルPCRを実施するためのデジタルPCR装置であって、
前記デジタルPCRデバイスは、
表面に複数の画分を有し通気性を有するチップと、
前記チップの画分に溶液を導入するためのインレットと、前記溶液を排出するためのアウトレットとを備え、溶液チャンバを介して前記チップを覆う蓋と、
を有し、
前記デジタルPCR装置は真空チャンバを備え、
前記真空チャンバは、通気可能な構造を有する支持体が1つの面に固定されており、前記1つの面を陰圧にし、
前記デジタルPCR装置は、前記真空チャンバに関して配置される前記デジタルPCRデバイスを前記支持体側から加熱する温調器を備えた、
デジタルPCR装置。
【請求項13】
請求項1に記載のデジタルPCRデバイスを用いて、デジタルPCRを実施するためのデジタルPCR実施方法であって、
前記デジタルPCRデバイスの前記インレットからサンプル溶液を導入する工程と、
前記デジタルPCRデバイスの前記支持体側に面する空間を陰圧にする工程と、
前記インレットから分離溶液を導入することで前記サンプル溶液を分離する工程と、
前記支持体を介して前記デジタルPCRデバイスを温調する工程と、
を備える、デジタルPCR実施方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルPCRデバイス、デジタルPCR装置およびデジタルPCR実施方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)は、核酸を高感度に検出する技術であり、従来のリアルタイム定量PCRと比較して、低頻度な遺伝子変異を検出することができる。デジタルPCRにおける測定フローには、限界希釈した核酸溶液をナノスケールからマイクロスケールの微小領域に導入する工程と、各領域に分離された溶液を温調するPCRの工程とがある。
【0003】
特許文献1では、一細胞ごとの遺伝子発現解析を行うための核酸捕捉デバイスについて開示されており、サンプル捕捉部へのサンプル懸濁液の導入方法に関して、「細胞懸濁液滴下後に、吸引口よりシリンジを引くことにより吸引動作を行い、細胞懸濁液を一細胞内核酸捕捉チップ内に吸引する」と記載されている。
【0004】
特許文献2では、生物の全遺伝子発現プロファイルを同時に解析するための方法と装置について開示されており、温調する際の画分への熱効率に関して「マイクロプレートアセンブリの基板は、貫通孔プレートおよびバッキングシートを含む。そこにおいて、プレートの穴はウェルの側面を形成し、バッキングシートはウェルの底面を形成する。バッキングシートは、熱サイクル装置に接触して、熱を反応室の内容物に伝えることができる熱伝導材料を含む。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許11299727号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/028629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、一細胞ごとの遺伝子発現解析を行うための核酸捕捉デバイスにおいて、サンプル懸濁液が導入されたデバイス中の微小画分の下部から陰圧を印加することによる、微小画分へのサンプル懸濁液の導入方法が記載されている。しかし、特許文献1に記載されたデバイスにおいて、PCRなどの反応に必要な温調を行うときには、デバイスの下面の材料、陰圧印加用の空間、フィルタを介して温調されるため、熱効率の低下を招くという課題があった。例えば、特許文献1に記載されたデバイスをデジタルPCRに利用すると、前記の熱効率の理由から十分な核酸増幅が起こらず、核酸の定量が行えない可能性がある。
【0007】
特許文献2には、遺伝子発現プロファイル解析を行うための装置において、サンプル溶液を保持するためのウェルの底面を構成するシートに熱伝導度の高い材料を用いる構成が記載されている。しかし、特許文献2に記載された装置において、ウェル内に気泡を残さずにサンプル溶液を導入することは難しく、デジタルPCRを実施する上で溶液分割を損ね、定量精度を低下させる要因となりえる。
【0008】
本発明の目的の一つは、デバイスの構成材料の通気性を利用してサンプル溶液を画分へ導入することで、画分中に気泡を残すことなく溶液導入でき、かつ、デジタルPCRが実施可能な高い熱効率を持ったデジタルPCR技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るデジタルPCRデバイスの一例は、
デジタルPCRを実施するための、デジタルPCRデバイスであって、
表面に複数の画分を有し通気性を有するチップと、
前記チップの画分に溶液を導入するためのインレットと、前記溶液を排出するためのアウトレットとを備え、溶液チャンバを介して前記チップを覆う蓋と、
前記チップに対し、前記蓋と反対側の面に固定され、通気可能な構造を有する支持体と、
を有し、
前記支持体は熱伝導度が高い。
【0010】
本発明に係るデジタルPCR装置の一例は、
上述のデジタルPCRデバイスを用いて、デジタルPCRを実施するためのデジタルPCR装置であって、
前記支持体を支えることにより前記デジタルPCRデバイスを固定するとともに、前記デジタルPCRデバイスの前記支持体側に面する空間を陰圧にする真空チャンバと、
前記デジタルPCRデバイスを前記支持体側から加熱する温調器と、
を備える。
【0011】
本発明に係るデジタルPCR装置の一例は、
デジタルPCRデバイスを用いて、デジタルPCRを実施するためのデジタルPCR装置であって、
前記デジタルPCRデバイスは、
表面に複数の画分を有し通気性を有するチップと、
前記チップの画分に溶液を導入するためのインレットと、前記溶液を排出するためのアウトレットとを備え、溶液チャンバを介して前記チップを覆う蓋と、
を有し、
前記デジタルPCR装置は真空チャンバを備え、
前記真空チャンバは、通気可能な構造を有する支持体が1つの面に固定されており、前記1つの面を陰圧にし、
前記デジタルPCR装置は、前記真空チャンバに関して配置される前記デジタルPCRデバイスを前記支持体側から加熱する温調器を備える。
【0012】
本発明に係るデジタルPCR実施方法の一例は、
上述のデジタルPCRデバイスを用いて、デジタルPCRを実施するためのデジタルPCR実施方法であって、
前記デジタルPCRデバイスの前記インレットからサンプル溶液を導入する工程と、
前記デジタルPCRデバイスの前記支持体側に面する空間を陰圧にする工程と、
前記インレットから分離溶液を導入することで前記サンプル溶液を分離する工程と、
前記支持体を介して前記デジタルPCRデバイスを温調する工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、デバイスの通気性を利用してサンプル溶液を画分へ導入するデバイスにおいて、高い熱効率を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】通気性を有した支持体が固定されたデジタルPCRデバイスの構成を示す側面図。
図2図1に示すデジタルPCRデバイスの構成を示す上面図。
図3図1に示すデジタルPCRデバイスを真空チャンバ上に設置した装置構成を説明する図。
図4図1に示すデジタルPCRデバイスを温調器上に設置した装置構成を説明する図。
図5図1に示すデジタルPCRデバイスの溶液チャンバへサンプル溶液を導入している様子を示した図。
図6図1に示すデジタルPCRデバイスの溶液チャンバへサンプル溶液が導入された後、真空チャンバの減圧操作によって画分へ溶液導入している様子を示した図。
図7図5に示す方法によって、図1に示すデジタルPCRデバイスの溶液チャンバへ蛍光溶液を導入した後の三次元蛍光観察結果を示す図。
図8図6に示す方法によって、図1に示すデジタルPCRデバイスの画分へ蛍光溶液を導入した後の三次元蛍光観察結果を示す図。
図9図5及び図6に示す方法によって、図1に示すデジタルPCRデバイスの溶液チャンバおよび画分へサンプル溶液を導入した後、溶液チャンバへ分離液を導入し、サンプル溶液を画分に分割している様子を示した図。
図10図5図6及び図9に示す方法によって、図1に示すデジタルPCRデバイスの溶液チャンバおよび画分へサンプル溶液が導入された後、さらにサンプル溶液を画分に分割後、デジタルPCRデバイスを温調器に設置して温調している様子を説明する図。
図11】本発明の実施例1におけるデジタルPCRの結果を示す蛍光画像。
図12】本発明の実施例2に係るデジタルPCRデバイス及び装置の構成を示す側面図。
図13】本発明の実施例3に係るデジタルPCRデバイスの構成を示す側面図。
図14図13に示す構成のデジタルPCRデバイスの画分に蛍光溶液を導入及び分割した後の、蛍光測定の結果を示す図。
図15図13に示す構成のデジタルPCRデバイスの画分に蛍光溶液を導入及び分割した後の、蛍光測定の結果を示す図。
図16】本発明の実施例4に係るデジタルPCRデバイス及び装置の構成の概略を示す側面図。
図17】本発明の実施例4によって実施可能な測定の結果を模式的に説明する概念図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【0016】
[実施例1]
以下、図1から図11を用いて、実施例1について説明する。本実施例は、デジタルPCRデバイスによる溶液導入および溶液分割の工程においてデジタルPCRデバイスの変形を抑止し、PCRの工程において十分な熱効率で温調することができるデジタルPCR実施方法である。
【0017】
図1は、本実施例におけるデジタルPCRデバイス100の構成の概要を示す側面図である。デジタルPCRデバイス100は、本明細書に記載されるデジタルPCR実施方法に従い、デジタルPCRを実施するために用いられる。このデジタルPCRデバイス100には、表面に複数の画分102を有し、通気性を有するチップ101が含まれる。
【0018】
チップ101の材料は例えば、PDMS(Polydimethylsiloxane、ポリジメチルシロキサン)とすると通気性がよく好適である。チップの厚みに関しては後述する。
【0019】
画分102の個数は、1,000~100,000,000個とすることができる。画分102の水平面内形状(以下、画分形状)は、円形、多角形(四角形、五角形、六角形、等)、およびそれらの組み合わせなど、様々な形状とすることができ、画分の平面配置密度を確保するために円形または六角形とすることが好ましい。
【0020】
画分102の水平面内形状の幅または径(以下、画分幅)は、1μm~1000μmとすることができ、顕微鏡観察における分解能と画分の平面配列密度の観点から、10μm~100μmとすることが好ましい。画分102の深さは、デジタルPCRデバイス100の用途に応じた1画分あたりの体積を想定するために画分幅に対して相対的に決定され、例えば1μm~1000μmとすることができる。
【0021】
画分102の平面配置周期(以下、画分周期)は、画分の平面配置密度を決定づける値であり、画分幅に対して相対的に決定され、例えば画分幅の1.01倍~100倍とすることができる。
【0022】
デジタルPCRデバイス100は、チップ101のうち画分102が形成されている面に溶液チャンバ103を有する。この溶液チャンバ103はサンプル溶液および分離液の搬送に用いられる。溶液チャンバの深さは、シリンジや空気圧ポンプ、ピペット操作によって液体を導入できる長さであればよく、100nm~10mmとすることができる。
【0023】
溶液チャンバ103、画分102およびチップ101の表面からなるデジタルPCRデバイス100の内部表面の少なくとも一部に対して、親水化、疎水化、化学修飾、等の表面処理を施しても良いし、全く施さなくとも良い。
【0024】
デジタルPCRデバイス100は、溶液チャンバ103を介して(たとえば溶液チャンバ103を挟んで)チップ101を覆う蓋104を有する。この蓋104の材料は、蓋を介して蛍光検出するために、可視光領域において透明な材料からなるか、または、可視光に対する透過率が高い材料からなることが好ましい。また、低自家蛍光の材料からなることが好ましい。蓋の厚みは、チップの変形を抑制するために、100μm~10mmを用いることができる。
【0025】
蓋104の材料には例えば、樹脂(アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、等)、可視光透明性無機物(石英、サファイア、各種ガラス、ITO、等)などを利用できる。とくに、蓋104の材料が樹脂またはガラスからなる場合には、蓋104を透明に構成することが容易である。
【0026】
蓋104は、チップ101の画分102に溶液を導入するためのインレット105と、溶液を排出するためのアウトレット106とを有する。インレット105及びアウトレット106の形成方法は、蓋成型時の射出成型、板材の穴あけ加工、などを利用できる。
【0027】
ここでチップの厚みは、画分の深さと、画分底面からチップの表面のうち蓋と反対側の面までの距離(チップ底面厚み)と、の和によって定義される。チップ底面厚み(すなわち、チップにおける画分102の深さを除いた厚み)は、50μmより薄くすると製造が困難となり、2000μmより厚くすると熱伝導性および通気性が低下するため、50μm~2000μmとすると好適である。なお、チップの熱伝導性を考慮すると、チップ底面厚みは1000μm以下であることがより好適である。
【0028】
デジタルPCRデバイス100は、チップ101に対し、蓋104と反対側の面に固定された支持体107を有する。支持体107は通気可能な構造を有する。
【0029】
支持体107は熱伝導度が高い。支持体107の熱伝導度は、チップ材料よりも高い値であることがよく望ましく、0.2W/m・K以上とすることができる。このような値とすれば、デジタルPCRデバイス100の熱効率を良好にすることができる。さらに、支持体107の熱伝導度は、1W/m・K以上であることが好ましく、100W/m・K以上であることがより好ましい。
【0030】
また、支持体の熱抵抗は厚みに正比例して大きくなるため、熱伝導性の観点では支持体の厚みは薄いほど好ましいものの、チップの変形を抑制する観点では一定の厚みを要する。支持体の厚みは、例えば10μm~5000μmであり、50μm~500μmであることが好ましい。
【0031】
通気可能な構造は、物理的に連続した貫通孔を少なくとも一つ有する。支持体107の材料は、前記の熱伝導度を提供するために、支持体107は無機物からなることが好ましい。例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、及びこれらを組成に含む合金、シリコン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、等を利用できる。支持体107を無機物から構成することにより、強度も容易に確保可能である。
【0032】
貫通孔が支持体表面に空ける空孔(開口部)は任意の形状とすることができる。例えば、円形、多角形(四角形、五角形、六角形、等)、およびそれらの組み合わせなど、様々な形状とすることができる。
【0033】
空孔の水平面内形状の幅または径(以下、空孔幅)は、0.1μm~1000μmとすることができ、チップを支持し変形を抑制するための観点から、0.1μm~100μmとすることが好ましい。また、支持体として多孔質体を利用する場合、それらの平均気孔率が90%以下であることが好ましい。
【0034】
各々の画分が支持体表面と厚み方向に重なる面積の、画分ごとのばらつきを低減するために、空孔の平面配置周期(以下、空孔周期)は、画分周期以下であることが好ましく、画分周期と等しいことが最も好ましい。そのほかに、空孔周期が画分周期を超える場合は、温調時に、支持体の空孔に対する画分の相対位置に依存した熱効率のばらつきが発生する可能性が高いため、別途対策を用いると好適である。具体的には、支持体表面と厚み方向に重なる画分においては十分な熱効率で温調されるものの、空孔と厚み方向に重なる画分においては熱効率が不足し、十分な温調効果を得られない可能性があるので、これらについての対策が好適である。
【0035】
図2は、デジタルPCRデバイス100の構成の概要の上面図である。デジタルPCRデバイス100の構成部材が垂直方向に積層されている制約上、蓋104と支持体107の表示は省略した。蓋104に形成されたインレット105およびアウトレット106はそれぞれ、図2(a)のように溶液チャンバ103に直接的に接続されても良いし、図2(b)のように流路200を介して溶液チャンバ103に間接的に接続されてもよい。
【0036】
溶液チャンバ103の水平面内の形状は、円形、多角形(四角形、五角形、六角形、等)、およびそれらの組み合わせなど、様々な形状とすることができる。
【0037】
以上が、本実施例におけるデジタルPCRデバイス100の構成である。以下、本実施例におけるデジタルPCR装置の構成を説明する。
【0038】
図3は、デジタルPCRデバイス100を用いた溶液導入および溶液分割の工程におけるデジタルPCR装置の構成概要を示す模式図である。このデジタルPCR装置は、デジタルPCRデバイス100を用いて、デジタルPCRを実施する。
【0039】
デジタルPCR装置は、真空チャンバ300を備える。真空チャンバ300は、支持体107を支えることによりデジタルPCRデバイス100を固定するとともに、デジタルPCRデバイス100の支持体107側に面する空間を陰圧にする。
【0040】
デジタルPCRデバイス100中の支持体107は、減圧器303に接続された真空チャンバ300の開口空間301を覆うように設置される。これによりチップ101の表面の少なくとも一部は、支持体107中の貫通孔を挟んで開口空間301に面する。したがって、開口空間301の圧力変化がチップ101の表面に直接伝わる。
【0041】
例えば、接続穴302を介して接続された減圧器303を用いて開口空間301を減圧した場合、チップ101の表面の空気圧も低下し、チップ101および支持体107を挟んで開口空間301側と溶液チャンバ103および画分102側に圧力差が生じる。ここで、上述のように支持体107が貫通孔を有する構造とすれば、適切に圧力差を利用することができる。
【0042】
チップ101は通気性材料からなるため、チップ101を挟んで、相対的に高圧な溶液チャンバ103および画分102側から、相対的に低圧な開口空間301側へ空気が移動する。つまり、画分102内の空気をデジタルPCRデバイス100外部へ放出させ、代わりに画分102の内部へサンプル溶液を導入することが可能となる。
【0043】
図4は、デジタルPCRデバイス100を用いたPCRの工程における装置構成の概要を示す模式図である。デジタルPCR装置は温調器400を備える。温調器400は、デジタルPCRデバイス100を支持体107側から加熱する。PCRの工程においてデジタルPCRデバイス100は、溶液分割の工程が完了した後、真空チャンバ300の開口空間301から外され、温調器400上へ移動される。
【0044】
以上が、本実施例におけるデジタルPCR装置の構成である。以下、本装置の動作の流れに沿って本実施例を説明する。
【0045】
図5は、溶液チャンバ103へのサンプル溶液導入工程を説明する図である。図5(a)のように、サンプル溶液500をインレット105へ接続し、サンプル溶液500または空気に圧力を印加することで、サンプル溶液500を溶液チャンバ103内へ導入する。圧力の印加方法は、ピペット操作、シリンジポンプやペリスタポンプをはじめとする各種ポンプなどを利用でき、それぞれインレット105から加圧を行っても良いし、アウトレット106から減圧を行っても良い。
【0046】
また、サンプル溶液500の導入方法に、溶液チャンバ103および溶液チャンバ103とインレット105、アウトレット106を接続する流路200(図2参照)の内壁の表面特性による毛管力を利用しても良い。上述の方法によってサンプル溶液500は溶液チャンバ103内を満たし、アウトレット106へ到達する。ここでチップ101、画分102および蓋104の溶液チャンバ103側の面の表面特性制御を実施しない場合、一般に図5(b)のように画分内部の空気がサンプル溶液に置き換わらずに残留する。
【0047】
図6は、画分102へのサンプル溶液導入工程を説明する図である。図6(a)に示した方法で、デジタルPCRデバイス100のインレット105から溶液チャンバ103へサンプル溶液を導入する。サンプル溶液を導入した後、真空チャンバ300の接続穴302を介して減圧器303を接続し、図6(b)のように開口空間301を減圧する。すなわち、デジタルPCRデバイス100の支持体107側に面する空間を陰圧にする。
【0048】
なお、真空チャンバ300へ減圧器303を接続する時点は、溶液チャンバ103への溶液導入工程の前後どちらでも良い。この操作により、溶液チャンバ103および画分102へのサンプル溶液導入工程が完了する。
【0049】
図7は、内部表面に対して表面処理が施されておらず、円形の画分を有したデジタルPCRデバイス100の溶液チャンバへ、図5で説明した方法で蛍光溶液を導入した後に行った三次元蛍光撮影の結果である。図7(a)は画分中央深さを通るX-Y断面704(図7(b)に記載)における蛍光像であり、図7(b)は画分中心を通るX-Z断面701(図7(a)に記載)における蛍光像である。また、画分壁面700が破線により示されている。
【0050】
図7(a)において、蛍光強度の高い領域は確認されない。これは、画分内まで蛍光溶液が導入されていないことを示す。図7(b)において、溶液チャンバ702の領域には蛍光強度が確認でき、画分内部703の領域には蛍光強度が確認できない。これは、蛍光溶液が溶液チャンバへは導入されているが、画分内までは導入されていないことを示す。
【0051】
図8は、内部表面に対して表面処理が施されておらず、円形の画分を有したデジタルPCRデバイス100に対し、図5に示した方法で溶液チャンバへ蛍光溶液を導入後、図6に示した方法で画分内へ蛍光溶液を導入した後に行った三次元蛍光撮影の結果である。図8(a)は画分中央深さを通るX-Y断面704(図8(b)に記載)における蛍光像であり、図8(b)は画分中心を通るX-Z断面701(図8(a)に記載)における蛍光像である。また、画分壁面700が破線により示されている。
【0052】
図8(a)において、画分壁面700の内側において高い蛍光強度が確認される。これは、画分内の少なくとも中央高さまでは蛍光溶液が導入されていることを示す。図8(b)において、溶液チャンバ702に加えて画分内部703の領域にも高い蛍光強度が確認できる。さらに、画分の底部まで蛍光強度が確認できる。これは、蛍光溶液が溶液チャンバおよび画分内まで導入されていることを示す。
【0053】
図7図8の実験結果により、本実施例における溶液導入方法によって、デジタルPCRデバイス100内部表面に表面処理を施さずとも、画分内へ溶液導入が可能であることが示された。
【0054】
図9は、画分102へのサンプル溶液分割工程を説明する図である。図5および図6に示した方法で溶液チャンバ103および画分102へのサンプル溶液導入工程が完了した後、図9(a)のように分離液900をインレット105へ接続し、分離液または空気に圧力を印加することで、図9(b)のように分離液を溶液チャンバ103内へ導入する。
【0055】
ここで、分離液は水と相溶しない性質を持つ液体であり、例えばミネラルオイル、シリコーンオイル、フッ素系オイルなどを用いることができる。分離液への圧力印加方法は、ピペット操作、シリンジポンプやペリスタポンプをはじめとする各種ポンプなどを利用でき、それぞれインレット105から加圧を行っても良いし、アウトレット106から減圧を行っても良い。
【0056】
この操作によって分離液900は溶液チャンバ103内を満たし、アウトレット106へ到達する。この時、溶液チャンバ103への分離液の導入によって、チップ101の表面からサンプル溶液が排除されることが期待される。これにより、サンプル溶液が各々の画分内へ分割され、流体としての連続性を失う。すなわち、インレット105から分離溶液を導入することでサンプル溶液を分離することができる。
【0057】
図10は、PCR工程を説明する図である。溶液分割の工程が完了した後、図4に示す構成の通り、デジタルPCRデバイス100は真空チャンバ300の開口空間301から外され、温調器400上へ移動される。この構成において、温調器を用いて、支持体107を介してデジタルPCRデバイス100を温調し、サンプル溶液に対してPCRを実施する。この時、デジタルPCRデバイス100の画分102へ分割されたサンプル溶液は、チップ101および支持体を介して温調器によって加熱および冷却される。デジタルPCR陰性画分1000においては核酸増幅反応が生じないものの、デジタルPCR陽性画分1001においては核酸が増幅される。
【0058】
以上が本実施例におけるデジタルPCR装置の動作である。PCR工程後のデジタルPCRデバイス100は蓋104を介して蛍光検出される。蛍光検出の方法については、当業者が適宜公知技術等に基づいて設計可能であるため省略する。
【0059】
図11は、本実施例によるデジタルPCR後の蛍光観察の結果を示す。デジタルPCR陰性画分1100とデジタルPCR陽性画分1101の蛍光強度に明確な差異が確認できる。さらに、非画分部1102において蛍光強度が明確に高い領域がみられない。これはPCRの工程において溶液が画分内に分割された状態を安定に保持したことを示す。これらの結果は、本実施例によってデジタルPCRが正常に実施可能であることを示す。
【0060】
本実施例のデジタルPCRデバイス100は、表面に複数の画分102を有し、通気性を有した材料からなるチップ101と、溶液チャンバ103と、インレット105、アウトレット106を有し溶液チャンバ103を覆う蓋と、高い熱伝導度と通気可能な構造を有する支持体107と、を備えた。
【0061】
チップの変形は、分割された溶液が溶液チャンバへ飛び出たり、隣接する画分内の溶液と結合したりすることで、デジタルPCRの判別精度の低下を引き起こす。本実施例では、支持体がチップに対して十分硬いため、厚みの薄いチップを用いた場合でも、溶液導入、溶液分割、PCRの工程を通してチップの変形を抑止できる。
【0062】
チップと温調器の間に支持体を挿入することで、画分内の溶液の温調効率の低下が懸念されるが、支持体に熱伝導度の高い材料を用いることで、高度な熱効率が要求されるデジタルPCRを実施可能である。
【0063】
画分内への溶液導入のためにチップ材料の通気性を利用することで、デジタルPCRデバイス100の内部表面に対して親水化、疎水化、化学修飾等の表面処理を施す必要がなくなるため、コストの低減が可能となる。また溶液導入における流入速度、溶液粘度、デジタルPCRデバイス100の内部表面に対する溶液の濡れ性のそれぞれがいかなる条件であっても、画分内へ溶液導入が可能であるため、溶液導入を正常に完了できる画分の割合が高くなる。
【0064】
[実施例2]
次に、図12を用いて、実施例2について説明する。実施例2は、実施例1における支持体107をデジタルPCRデバイスに固定するのではなく、真空チャンバの開口空間301に固定することにより、実施工程の簡便化とデバイスコストの低減を実現するものである。なお、図12において、図1図11と同一符号は同一部品を示すため、再度の説明は省略する。
【0065】
図12(a)は、実施例2のデジタルPCR装置の構成の模式図である。実施例2のデジタルPCRデバイスの構成は、支持体を有していない点のみが実施例1と異なる。実施例2において、通気可能な構造を有する支持体1200は、真空チャンバ1201の開口部に直接埋め込まれている。真空チャンバ1201は、支持体1200が1つの面に固定されており、真空チャンバ1201はこの1つの面を陰圧にすることができる。また実施例2において、デジタルPCRデバイスは真空チャンバ1201の支持体1200を有する面に固定される。
【0066】
デジタルPCR装置は、温調器1203を備える。温調器1203は、真空チャンバ1201に関して配置されるデジタルPCRデバイスを、支持体1200側から加熱する。また、真空チャンバ1201は温調器1203に固定されている。
【0067】
実施例2のPCRの工程において、画分内のサンプル溶液はチップ101、支持体1200および真空チャンバ1201を介して温調器1203から加熱および冷却される。そのため、実施例2においては、支持体1200のみならず真空チャンバ1201も熱伝導性の高い材料からなることが好適である。真空チャンバの材料には、例えば金属(金、銀、銅、白金、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、及びこれらを組成に含む合金、等)や半導体(シリコン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、等)を用いることができる。
【0068】
また図12(b)に示すように、実施例2のPCRの工程において、真空チャンバ及び支持体の通気構造の内部は液体1204によって充填されても良い。これによって、装置全体における熱効率が向上するため、温調器からの熱がデジタルPCRデバイス内部の画分へ伝わりやすくなる。充填に用いる液体には、例えば水、シリコーンオイル、ミネラルオイル、流動パラフィン、アルコールを用いることができるが、これらに限定されない。さらに、充填に用いる液体の熱伝導性を向上させるために、フィラーを分散させても良い。
【0069】
以上が、本実施例におけるデジタルPCR装置の構成である。なお、本装置の動作の流れは基本的には実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0070】
実施例2における装置構成は、支持体1200がデジタルPCRデバイスではなく真空チャンバ1201へ固定されていること、真空チャンバ1201において高い熱伝導度が好適であること、がとくに実施例1と異なる。
【0071】
溶液導入、溶液分割、PCRというデジタルPCRのワークフロー全体を通してデジタルPCRデバイスを移動させる必要がなくなるため、安定な溶液分割、実施工程の簡便化、デバイスコストの低減が可能である。さらに、デジタルPCRの蛍光検出を行う光学系も本実施例の装置構成に組み込むことで、デジタルPCRデバイスの設置からデジタルPCR検出までの間でデジタルPCRデバイスを移動させる必要がなくなる。このことはデジタルPCRのワークフローの自動化に対して有利な特徴である。
【0072】
[実施例3]
次に、図13から図15を用いて、実施例3について説明する。実施例3は、実施例1における支持体に反射防止機構を備えた構成になっており、蛍光検出における背景光強度の低減および背景光強度のばらつきを低減することを可能とする。
【0073】
図13は、実施例3におけるデジタルPCRデバイスの構成を説明する模式図である。実施例3におけるデジタルPCRデバイスの構成は、支持体1300が反射防止機構を有する点のみが実施例1と異なる。
【0074】
支持体1300には、通気可能な構造を持ち、可視光の反射率が低い材料を利用できる。例えば、樹脂通気体(ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリウレタン、セルロース、シクロオレフィン、エポキシ、塩化ビニル、のうち1以上からなる)、金属通気体(金、銀、銅、白金、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、及びこれらを組成に含む合金、等からなる)、非金属通気体(シリコン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ガラス、炭素、のうち1以上からなる)、およびこれらの複合体などを利用することができる。また、これらの反射防止層には、反射光低減の目的で、表面処理やコーティングといった二次加工か、フィラーの充填が施されても良い。
【0075】
とくに、支持体1300の可視光領域における反射率が低いと、蛍光検出の際に、デジタルPCRデバイスの上方への光反射を防止することができ、蛍光検出における背景光強度の低減および背景光強度のばらつきを低減することを可能となる。たとえば、可視光領域における反射率が20%以下であると好適である。
【0076】
さらに、画分内のサンプル溶液の温調効率を考慮して、反射防止層の熱伝導度が1W/m・K以上であることが好ましい。
【0077】
以上が、本実施例におけるデジタルPCR装置の構成である。なお、本装置の動作の流れは基本的には実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0078】
図14は、直径0.1mm、深さ0.1mm、画分周期0.15mmの円形画分を有した厚さ0.3mmのPDMSチップを用いたデジタルPCRデバイスにおいて、支持体として直径0.5mm、空孔周期1mmの円形貫通孔を有した厚さ0.5mmのアルミ合金板を用いた場合の、蛍光溶液分割後に行った蛍光測定の結果である。
【0079】
図14(a)は、蛍光溶液を画分に分割したデジタルPCRデバイスの蛍光像であり、図14(b)は、画分ごとに平均された蛍光強度のヒストグラムである。
【0080】
図14(a)から、画分の内側では強度が高く外側では強度が低いことから、蛍光分子水溶液が分割されていることが確認できる。しかしながら、支持体表面の形状にあわせて蛍光強度が高い領域も確認される。これは、励起光が支持体によって反射され、蛍光計測用の蛍光フィルタでカットしきれずに蛍光像に乗ったものである。この反射光強度とウェル内の蛍光強度の大小関係が図14(a)から読み取れる。つまり、図14(b)における第1のピーク1400(強度:約7500)は支持体の貫通孔の内側に納まっている画分の蛍光強度を示し、第2のピーク1401(強度:約15000)は画分の蛍光強度と支持体による反射光強度が加算された値を示している。
【0081】
この結果から、支持体にアルミ合金板を利用した場合に、支持体の面に重なっている領域の画分において、画分内の蛍光強度と同等レベルの反射光が蛍光画像に重畳されることで背景強度が増大し、計測精度が低下することを示唆する。また、支持体の空孔周期が画分周期よりも大きい場合に、空孔と厚み方向に重なる画分とそうでない画分の蛍光強度に明確な差異が生じるため、蛍光強度が画分間でばらつき、デジタルPCRの陽性および陰性の判別に支障をきたすことが考えられる。
【0082】
図15は、実施例3において支持体とチップの間に挿入する反射防止層として銅繊維・樹脂繊維複合体を用いた場合の、蛍光測定の結果である。デジタルPCRデバイスおよびサンプル溶液導入、溶液分離、蛍光測定の条件は、蛍光計測時に反射防止層を挿入してある点のみが図14と異なる。
【0083】
図15(a)において、支持体の面の形状にあわせた蛍光強度のばらつきは確認されない。同様に図15(b)においても画分間の蛍光強度のばらつきは確認されない。さらに、図15(b)におけるピーク1500のピーク強度は約7500であり、図14(b)の第1のピークと位置が概ね一致することから、反射防止層として金属繊維・樹脂繊維複合体を挿入することで、支持体による反射光の影響を除外できることが示唆される。
【0084】
実施例3における装置構成は、チップと支持体の間に反射防止層が挿入されていることが、とくに実施例1と異なる。
【0085】
蛍光検出の際に、反射防止層が励起光の支持体表面への到達を防ぎ、デジタルPCRデバイス上方への光反射を防止することで、蛍光検出における背景光強度の低減および背景光強度のばらつきを低減することを可能となる。
【0086】
[実施例4]
次に、図16および図17を用いて、実施例4について説明する。実施例4は、実施例1から実施例3の方法または構成において、温調器を用いてデジタルPCRデバイスを温調しながら蛍光測定を行う方法に関する。
【0087】
図16は、実施例4において、デジタルPCRデバイスを温調しながら蛍光測定するための装置構成の概要を説明する模式図である。デジタルPCRデバイス100において、画分は、溶液チャンバに対して支持体側に保持される。そこで、PCRの工程において蓋側から温調を行うと、熱は、蓋と、分離液が充填された溶液チャンバを介して溶液に伝わるため、熱効率が悪く、溶液の温度が温調器の温度に追従せず、核酸増幅が起こらない原因となる。
【0088】
したがって、実施形態1~3におけるデジタルPCRデバイスを用いて温調と蛍光計測を同時に実施するためには、図16が示すように、支持体側を温調器1601に設置して温調し、蓋側に蛍光検出ユニット1600を設置して蓋側から蛍光計測を実施すると好適である。蛍光検出ユニット1600は、光源、励起フィルタ、蛍光フィルタ、ミラー、ダイクロイックミラー、レンズ、検出器、分光器、等を含む。図16の装置構成を用いることで、温調器1601を用いて温調すると同時に、任意の蛍光測定を行うことができる。
【0089】
図17は、実施例4によって実施可能な融解曲線分析の例を示した模式図である。融解曲線分析は、試料中の対象遺伝子と対象遺伝子にハイブリダイゼーションする蛍光標識プローブを用い、その融解曲線を計測して解析することで、対象遺伝子の種類を判別する技術である。融解曲線を計測するには、蛍光標識プローブの蛍光強度の温度依存性の計測を行う。
【0090】
実施例4の装置構成において、融解曲線分析用の蛍光標識プローブを含んだサンプル溶液に対してPCRを実施した後、デジタルPCRデバイスを温調しながら蛍光計測を行うことで、対象遺伝子の融解曲線を計測する。融解曲線の変曲点を解析することで、対象遺伝子に依存した融解温度を取得することが可能となる。すなわち、本実施例において融解曲線分析が実施可能である。
【0091】
実施例4における装置構成は、温調器と、デジタルPCRデバイスと、蛍光検出ユニットからなり、ある方向にこの順番で配置される。本実施例ではこの装置構成において、温調と同時に蛍光検出を行う。
【0092】
温調しながら蛍光計測することで、融解曲線分析が実施可能となる。
【0093】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0094】
100:デジタルPCRデバイス
101:チップ
102:画分
103:溶液チャンバ
104:蓋
105:インレット
106:アウトレット
107:支持体
200:流路
300:真空チャンバ
301:開口空間
302:接続穴
303:減圧器
400:温調器
500:サンプル溶液
700:画分壁面
701:画分中心を通るX-Z断面
702:溶液チャンバ
703:画分内部
704:画分中央高さを通るX-Y断面
900:分離液
1000:デジタルPCR陰性画分
1001:デジタルPCR陽性画分
1100:デジタルPCR陰性画分
1101:デジタルPCR陽性画分
1102:非画分部
1200:支持体
1201:真空チャンバ
1203:温調器
1204:液体
1300:支持体
1400:第1のピーク
1401:第2のピーク
1500:ピーク
1600:蛍光検出ユニット
1601:温調器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17