(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176582
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】制御装置、脱硝装置、および、ボイラ設備
(51)【国際特許分類】
B01D 53/90 20060101AFI20241212BHJP
B01D 53/56 20060101ALI20241212BHJP
B01D 53/76 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B01D53/90 ZAB
B01D53/56 310
B01D53/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095260
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 龍
(72)【発明者】
【氏名】青田 浩美
(72)【発明者】
【氏名】平井 剛
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛
【テーマコード(参考)】
4D002
4D148
【Fターム(参考)】
4D002AA12
4D002AC10
4D002BA06
4D002CA11
4D002DA07
4D002DA57
4D002GA02
4D002GA03
4D002GB02
4D002GB06
4D148AA06
4D148AB02
4D148AC03
4D148AC04
4D148BA23Y
4D148BA27Y
4D148CC61
4D148DA01
4D148DA02
4D148DA08
4D148DA10
(57)【要約】
【課題】ボイラ負荷が変動する場合であっても、脱硝容器に流入する排ガス中で窒素酸化物量と還元剤量の比率を均一にできる制御装置、脱硝装置、および、ボイラ設備を提供する。
【解決手段】制御装置のバルブ制御部は、開度調節応答データの中から、負荷変動NOx分布データが示す複数の領域の各々で生じる窒素酸化物量の変化度合いを平準化させるためのNOx分布応答データを特定し、特定されたNOx分布応答データに対応付けられる開度調節パターンにしたがって少なくとも1つのバルブの開度を制御するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラから排出される排ガスに対する還元剤の供給量を調節するための複数のバルブの各々の開度を制御するように構成される制御装置であって、
前記排ガスが流れる煙道の横断面を構成する複数の領域の各々に対して、ボイラ負荷の変動に伴って生じる窒素酸化物量の変化度合いが割り当てられたv負荷変動NOx分布データを取得するための第1取得部と、
前記複数のバルブの少なくとも1つの開度を調節するパターンである複数の開度調節パターンと、前記少なくとも1つのバルブの開度調節に応答して前記複数の領域の各々で生じる前記窒素酸化物量の変化の傾向を示す複数のNOx分布応答データとを予め対応付けた開度調節応答データを取得するための第2取得部と、
前記開度調節応答データの中から、前記負荷変動NOx分布データが示す前記複数の領域の各々で生じる前記窒素酸化物量の変化度合いを平準化させるための前記NOx分布応答データを特定し、特定された前記NOx分布応答データに対応付けられる前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を制御するためのバルブ制御部と
を備える制御装置。
【請求項2】
前記バルブ制御部の制御時、前記煙道から排出される前記窒素酸化物量である排出窒素酸化物量が許容値を下回るかを判定するための第1判定部をさらに備え、
前記バルブ制御部は、前記排出窒素酸化物量が前記許容値を下回ると判定されるまで、前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を徐々に調節する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記ボイラ負荷の変動量を取得するように構成される負荷変動量取得部をさらに備え、
前記バルブ制御部は、前記ボイラ負荷の前記変動量が小さいほど前記少なくとも1つのバルブの開度の調節量を小さくし、前記ボイラ負荷の前記変動量が大きいほど前記少なくとも1つのバルブの開度の調節量を大きくするように構成される
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記煙道から排出される前記窒素酸化物量である排出窒素酸化物量が、前記バルブ制御部の制御によって減少するかを判定するための第2判定部をさらに備え、
前記バルブ制御部は、
前記窒素酸化物量の変化度合いを平準化させるための前記NOx分布応答データが複数特定された場合、特定された第1の前記NOx分布応答データに対応付けられる第1の前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を制御するための第1バルブ制御部と、
前記第1バルブ制御部の制御開始後の前記排出窒素酸化物量が減少しないと前記第2判定部によって判定された場合、特定された第2の前記NOx分布応答データに対応付けられる第2の前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を制御するための第2バルブ制御部と
を含む
請求項1乃至3の何れか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の制御装置と、
前記煙道を流れる前記排ガスに前記還元剤を噴射するように構成される複数の還元剤ノズルと、
前記複数の還元剤ノズルにそれぞれ前記還元剤を供給するための複数の還元剤供給路と、
前記複数の還元剤供給路にそれぞれ配置される前記複数のバルブと、
前記煙道において前記複数の還元剤ノズルよりも下流に配置される脱硝触媒を含む脱硝反応器と
を備える脱硝装置。
【請求項6】
ボイラと、
前記ボイラで発生する排ガスが流れるための煙道と、
前記煙道を流れる前記排ガスを脱硝するための、請求項5に記載の脱硝装置と
を備えるボイラ設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボイラ設備の煙道を流れる排ガスを脱硝するための制御装置、当該制御装置を備える脱硝装置、および、当該脱硝装置を備えるボイラ設備に関する。
【背景技術】
【0002】
脱硝装置は、ボイラ設備の煙道に設けられた複数の還元剤ノズルと、煙道において複数の還元剤ノズルよりも下流に位置する脱硝反応器とを備える。複数の還元剤は、脱硝反応器に向かって煙道内を流れる排ガスに還元剤を噴射する。排ガス中の窒素酸化物が脱硝容器内で還元剤と還元反応を起こすことで、排ガスは脱硝される。
【0003】
脱硝装置の脱硝性能を向上させるためには、脱硝反応器の入口断面を構成する複数の区画の間で、窒素酸化物量と還元剤量との比率を均一にする必要がある。しかしながら、複数の還元剤ノズルから脱硝反応器までの排ガスの流れは複雑であるので、複数の還元剤ノズルの各々から還元剤が均等に噴射されても、脱硝反応器の入口において窒素酸化物と還元剤とが均一に混ざっているとは限らない。
【0004】
上記の課題を解決することを目的とした還元剤の供給量の調節方法には、幾つかの公知例がある。例えば、特許文献1で開示される脱硝装置は、複数の還元剤ノズルの各々における還元剤の噴射量を決定するに際して、還元剤流動モデルを利用する。還元剤流動モデルは、複数の還元剤ノズルの各々における還元剤の噴射量と、脱硝反応器の入口側における還元剤の濃度分布との相関を示すモデルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、折れ曲がった構造を有するのが一般的な煙道の内部を流れる排ガスの流動は非常に複雑である。そのため、還元剤の噴射量と脱硝反応器の入口側における還元剤の濃度分布との相関を精度よく示す還元剤流動モデルを構築するのは困難である。特にボイラ負荷が変動した場合においては、排ガスの流動状態は大きく変わるため、上記の還元剤流動モデルを利用しても、脱硝装置の脱硝性能が向上しない虞がある。
【0007】
本開示の目的は、ボイラ負荷が変動する場合であっても、脱硝容器に流入する排ガス中で窒素酸化物量と還元剤量の比率を均一にできる制御装置、脱硝装置、および、ボイラ設備を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の少なくとも一実施形態に係る制御装置は、
ボイラから排出される排ガスに対する還元剤の供給量を調節するための複数のバルブの各々の開度を制御するように構成される制御装置であって、
前記排ガスが流れる煙道の横断面を構成する複数の領域の各々に対して、ボイラ負荷の変動に伴って生じる窒素酸化物量の変化度合いが割り当てられた負荷変動NOx分布データを取得するための第1取得部と、
前記複数のバルブの少なくとも1つの開度を調節するパターンである複数の開度調節パターンと、前記少なくとも1つのバルブの開度調節に応答して前記複数の領域の各々で生じる前記窒素酸化物量の変化の傾向を示す複数のNOx分布応答データとを予め対応付けた開度調節応答データを取得するための第2取得部と、
前記開度調節応答データの中から、前記負荷変動NOx分布データが示す前記複数の領域の各々で生じる前記窒素酸化物量の変化度合いを平準化させるための前記NOx分布応答データを特定し、特定された前記NOx分布応答データに対応付けられる前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を制御するためのバルブ制御部と
を備える。
【0009】
本開示の一実施形態に係る脱硝装置は、
上記制御装置と、
前記煙道を流れる前記排ガスに前記還元剤を噴射するように構成される複数の還元剤ノズルと、
前記複数の還元剤ノズルにそれぞれ前記還元剤を供給するための複数の還元剤供給路と、
前記複数の還元剤供給路にそれぞれ配置される前記複数のバルブと、
前記煙道において前記複数の還元剤ノズルよりも下流に配置される脱硝触媒を含む脱硝反応器と
を備える。
【0010】
本開示の一実施形態に係るボイラ設備は、
ボイラと、
前記ボイラで発生する排ガスが流れるための煙道と、
前記煙道を流れる前記排ガスを脱硝するための上記脱硝装置と
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ボイラ負荷が変動する場合であっても、脱硝容器に流入する排ガス中で窒素酸化物量と還元剤量の比率を均一にできる制御装置、脱硝装置、および、ボイラ設備を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係るボイラ設備の概略図である。
【
図2】一実施形態に係るNOx計測器の概略図である。
【
図3】一実施形態に係る開度調節応答データの概略図である。
【
図4】一実施形態に係る負荷変動NOx分布データの概略図である。
【
図5】一実施形態に係る負荷変動前データの概略図である。
【
図6】一実施形態に係る負荷変動後データの概略図である。
【
図8】一実施形態に係る脱硝制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本開示の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本開示の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0014】
<ボイラ設備1の概要>
図1は、本開示の一実施形態に係るボイラ設備1を示す概略図である。発電プラントに組み込まれるボイラ設備1はボイラ3を備える。ボイラ3には石炭、石油、天然ガス、アンモニア燃料、または水素燃料といった燃料と、酸化剤としての空気とが供給されるようになっている。燃料の燃焼によって生じる熱を利用して生成される蒸気は、発電機(図示外)に連結する蒸気タービン(図示外)に供給されるようになっている。
【0015】
ボイラ設備1は、燃料の燃焼によって生じる排ガスの流路を形成する煙道4、及び、煙道4を流れる排ガスを脱硝するための脱硝装置5をさらに備える。脱硝された排ガスは、煙道4に配置されるエアヒータ9などを通過して、大気に排出されるようになっている。エアヒータ9は、ボイラ3に供給するための空気(外気)を、煙道4を流れる排ガスを熱源として加熱するように構成される。煙道4の出口はエアヒータ9よりも下流に位置する(
図1では詳細な図示を省略している)。
【0016】
脱硝装置5は、煙道4を流れる排ガスに還元剤を噴射するように構成される複数の還元剤ノズル51と、煙道4において複数の還元剤ノズル51よりも下流に配置される脱硝触媒を含む脱硝反応器57とを備える。還元剤ノズル51から噴射される還元剤は、排ガスの中で窒素酸化物と混ざる。還元剤と窒素酸化物を含む排ガスは脱硝反応器57に流入し、窒素酸化物の還元反応が起こる。なお、還元剤は、アンモニアまたは尿素を含む化合物である。また、脱硝触媒は、窒素酸化物の還元反応を促進するための触媒であり、例えばバナジウムまたはタングステンを含む。
【0017】
脱硝装置5は、還元剤を貯留する貯留部59と、貯留部59から複数の還元剤ノズル51にそれぞれ還元剤を供給するための複数の還元剤供給路52と、複数の還元剤供給路52にそれぞれ配置される複数のバルブ55とをさらに備える。複数の還元剤ノズル51は煙道4内の異なる位置にて還元剤を噴射するように配置されている。各々のバルブ55は、流量調整バルブである。各々のバルブ55の開度が調節されることで、各々の還元剤ノズル51への還元剤の供給量が調節されるようになっている。
【0018】
脱硝反応器57の出口57bの流路断面で窒素酸化物の分布が均一になっていれば、脱硝装置5は高い脱硝性能を発揮していると了解される。このため、出口57bの流路断面で窒素酸化物量の分布が均一になるためには、脱硝反応器57の入口57aにおいて、窒素酸化物量と還元剤量との比率を均一にする必要がある。より具体的には、入口57aの流路断面を構成する複数の区画の間で、窒素酸化物量と還元剤量との比率が均一であることが求められる。入口57aの流路断面において窒素酸化物量を均一にすることは困難であるので、当該流路断面を構成する複数の区画の各々において、窒素酸化物量に応じた量の還元剤があることが求められる。なお、本例では、窒素酸化物量はNOx濃度によって表され、還元剤量は還元剤濃度によって表される。以下では、NOx濃度と還元剤濃度との比率を、「混合濃度比」という場合がある。
【0019】
本願の発明者らの知見によれば、入口57aにおいて混合濃度比が均一に維持されていても、ボイラ負荷の変動が起こると、排ガスの流動状態は大きく変化して上記の混合濃度比は不均一になる。そのため、ボイラ負荷の変動が起きた後においては、入口57aにおける混合濃度比が均一になるよう、還元剤ノズル51における還元剤の噴射量を制御する必要がある。
【0020】
そこで本実施形態では、ボイラ3の定格運転中にボイラ負荷の変動が生じた場合には、脱硝装置5の構成要素である制御装置10によって、各々のバルブ55の開度が制御されるようになっている。換言すると、ボイラ負荷の変動が発生した場合、制御装置10による複数のバルブ55の各々の開度制御を通じて、排ガスに対する還元剤の供給量は調節されるようになっている。
【0021】
ここで、ボイラ負荷は、発電量で表されてもよいし、煙道4の特定の位置における排ガス流量で表されてもよいし、ボイラ3において生成される蒸気の量で表されてもよい。また、ボイラ負荷の変動が起こる前、ボイラ3は、例えば6時間以上あるいは12時間以上に亘って、定格運転を行っている。ボイラ負荷の変動に伴って実行されるボイラ3の部分負荷運転の時間は、例えば6時間以上あるいは12時間以上であってもよい。
【0022】
<NOx計測器60>
図1に示すように、脱硝装置5はNOx計測器60をさらに備える。NOx計測器60は、脱硝反応器57とエアヒータ9の間に位置する煙道4の流路断面である横断面6において、NOx濃度の分布を計測するように構成される。
【0023】
図2は、本開示の一実施形態に係るNOx計測器60の概略図である。横断面6は、複数の領域7を含み、NOx計測器60は複数の領域7の各々におけるNOx濃度を計測するように構成されている。同図の例では、横断面6が前後方向において3つに仮想的に分割されており、且つ、左右方向において3つに仮想的に分割されている。つまり、複数の領域7の個数が9個である。但し、
図2は例示的な概略図に過ぎず、横断面6の分割は例えば左右方向において10個以上に分割されてもよい。
【0024】
NOx計測器60は、各々の領域7を流れる排ガスを吸引してNOx濃度を計測するように構成される。具体的には、NOx計測器60は、複数の領域7にそれぞれ対応して設けられる複数の誘導管61と、複数の誘導管61にそれぞれ配置される複数の開閉バルブ62と、排ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を計測するための分析装置65と、複数の誘導管61の各々と分析装置65とを接続する接続管64と、接続管64に設けられる吸引ポンプ66とを含む。
【0025】
NOx計測器60の計測動作は以下の通りである。複数の領域7のいずれか1つが計測対象に設定されると、設定された1つの領域7に対応するバルブ55が開放されて、他の全てのバルブ55は閉じられる。吸引ポンプ66が駆動すると、計測対象に設定された領域7を通過する排ガスが誘導管61を流れて分析装置65に流入する。これにより、この領域7を流れる排ガスのNOx濃度が計測される。複数のバルブ55のいずれか1つが選択的に開放されて排ガスが分析装置65に導かれれば、NOx計測器60は、複数の領域7の各々のNOx濃度を計測できる。これにより、横断面6のNOx濃度の分布が判る。
【0026】
なお、本開示のNOx計測器60は、
図2で示される構成に限定されない。NOx計測器60は、各々の領域7において排ガスにレーザ光を照射し、排ガスを通過したレーザ光を受光するように構成されてもよい。受光したレーザ光の強度を計測すれば、排ガス中のNOx濃度は特定可能である。この場合、照射されるレーザ光が煙道4内を通過する空間が単一の領域7に限定されるよう、レーザ光の光路配管を煙道4内に配置する必要がある。
【0027】
図1に戻り、NOx計測器60の計測結果は、上述の制御装置10に送られる。制御装置10はコンピュータによって構成されており、プロセッサ、メモリ(記憶媒体)、及び外部通信インタフェースを備える。プロセッサは、CPU、GPU、MPU、DSP、又はこれらの組み合わせなどである。他の実施形態に係るプロセッサは、PLD、ASIC、FPGA、またはMCU等の集積回路により実現されてもよい。メモリは、各種データを一時的または非一時的に記憶するように構成され、例えば、RAM、ROM、またはフラッシュメモリの少なくとも1つによって実現される。メモリにロードされたプログラムの命令にしたがって、プロセッサは各種制御処理を実行する。制御装置10は、ボイラ設備1を構成する単一のコントローラ(制御盤)に組み込まれてもよいし、あるいは、発電プラントを構成する複数の制御盤の1つを構成するDCS盤であってもよい。
【0028】
<バルブ55の制御の概要>
上述したように、ボイラ負荷の変動が発生した場合であっても、脱硝反応器57の入口57aにおける混合濃度比を均一にすれば、横断面6におけるNOx濃度は均一になる。本実施形態では、入口57aにおける混合濃度比がボイラ負荷の変動後に一時的に不均一になっても、バルブ55の制御を通じて、入口57aにおける当該混合濃度比を均一にする。そして、バルブ55の制御の際には、開度調節応答データRD(
図3参照)と、負荷変動NOx分布データLD(
図4参照)とが利用されるようになっている。
【0029】
図3は、本開示の一実施形態に係る開度調節応答データRDを示す概略図である。概要を説明すると、開度調節応答データRDは、複数のバルブ55の開度の調節パターンと、当該調節パターンが行われた応答結果として横断面6を構成する複数の領域7の各々で起こるNOx濃度の変化傾向とを対応付けている。つまり、複数のバルブ55の少なくとも1つの開度を調節(変更)すると横断面6のNOx濃度分布がどう変化するかを、開度調節応答データRDは示している。
【0030】
図4は、本開示の一実施形態に係る負荷変動NOx分布データLDの概略図である。概要を説明すると、負荷変動NOx分布データLDは、ボイラ負荷の変動に伴って複数の領域7の各々で起こるNOx濃度の変化の度合いを示す。つまり、ボイラ負荷の変動に伴って横断面6のNOx濃度がどの程度変化するかを、負荷変動NOx分布データLDは示している。
【0031】
本実施形態では、負荷変動NOx分布データLDが示すNOx濃度の変化の度合いを平準化させるために、当該変化の度合いとは逆の変化傾向を生じさせ得る開度調節パターンが、開度調節応答データRDの中から特定される。特定された開度調節パターンが複数のバルブ55の制御に反映されれば、横断面6のNOx濃度は平準化されるのである。
【0032】
以下では、上記のような制御を実行する制御装置10の機能構成を説明するのに先立って、開度調節応答データRDと負荷変動NOx分布データLDの詳細を例示する。
【0033】
<開度調節応答データRD>
図3に示すように、開度調節応答データRDは、複数のバルブ55の少なくとも1つの開度を調節するパターンである開度調節パターンを含む。バルブ55の開度の調節(変更)は、開度の増加、開度の減少、および、開度の維持を含む概念である。開度調節パターンで示すバルブ55の開度の調節には、開度の具体的な調節量は含まれなくてよい。
【0034】
開度調節応答データRDには、上記の開度調節パターンが複数含まれる。
図1において、紙面手前から紙面奥に向かって列状に並ぶ複数のバルブ55が上下3段になって配置されているとすると、
図3で示す開度調節パターンは例えば以下のように表現される。
【0035】
開度調節パターンの「1」は、全てのバルブ55のうちで最上段のバルブ55の開度のみを増加させることを示していてもよい。開度調節パターンの「2」は、全てのバルブ55のうちで中段のバルブ55の開度のみを増加させることを示していてもよい。開度調節パターン「3」は、最上段のバルブ55のうち紙面手前側のバルブ55の開度のみを減少させることを示していてもよい。このように、開度調節パターンには、複数のバルブ55の少なくとも1つの開度を調節することを示すデータが含まれている。
【0036】
さらに、開度調節応答データRDは、開度調節パターンにしたがってバルブ55の開度の制御が実行された場合に、横断面6の複数の領域7の各々で生じる窒素酸化物量の変化の傾向を示すNOx分布応答データを含む。当該NOx分布応答データは、複数の開度調節パターンの各々に対応付けられている。
【0037】
例えば、開度調節パターンの「1」に対応付けられるNOx分布応答データは、二点鎖線L1で囲むデータに該当する。このNOx分布応答データが示すのは、以下の(A1)、(A2)、(A3)である。
(A1):左側で前後に3つ並ぶ領域7ではいずれも、NOx濃度が増加する。
(A2):左右中央側で前後に3つ並ぶ領域7ではいずれも、NOx濃度が減少する。
(A3):右側で前後3つ並ぶ領域7ではいずれも、NOx濃度が増加する。
【0038】
また、開度調節パターンの「4」に対応付けられるNOx分布応答データは、二点鎖線L4で囲むデータに該当する。このNOx分布応答データが示すのは、以下の(B1)、(B2)、(B3)である。
(B1):左側で前後に3つ並ぶ領域7のうち、前側の領域7においてのみNOx濃度が増加し、前後中央側の領域7および後側の領域7の各々ではNOx濃度は変化しない。
(B2):(A2)と同じ。
(B3):(A3)と同じ。
ここで、「NOx濃度が変化しない」とは、NOx濃度の変化が0であること、および、NOx濃度の変化が微小であることの双方を含む概念である。
【0039】
開度調節応答データRDは、ボイラ3が一定負荷のもとで試運転されている間に、NOx計測器60の計測を通じて取得することが可能である。例えば、ボイラ負荷が100%となるようにボイラ3が試運転されている間に、種々の開度調節パターンにしたがったバルブ55の開度の制御が実行される。この制御の実行中にNOx計測器60の計測結果を取得すれば、ボイラ3の営業運転前に開度調節応答データRDを生成することができる。
【0040】
なお、開度調節応答データRDは、複数のバルブ55において採用され得る開度調節パターンの全てを網羅していなくてもよい。ボイラ3の試運転中に、複数のバルブ55に対して全ての開度調節パターンを反映してNOx濃度を計測する時間を確保することは、現実的に困難だからである。
【0041】
また、開度調節応答データRDの開度調節パターンは、
図1に示すバルブ55の配置を前提としなくてもよい。即ち、複数のバルブ55は、煙道4の水平ダクト部分に配置されることに限定されず、煙道4と鉛直ダクト部分に配置されてもよい。いずれの実施形態でも、開度調節パターンは、バルブ55の開度を調節するためのパターンを複数含んでいればよい。
【0042】
<負荷変動NOx分布データLD>
図4に示すように、負荷変動NOx分布データLDは、横断面6を構成する複数の領域7の各々に対して、ボイラ負荷の変動に伴って生じるNOx濃度の変化度合いが割り当てられたデータである。
図4の例では、ボイラ3の負荷が100%(全負荷)から50%(部分負荷)まで変動したときの負荷変動NOx分布データLDを示す。
【0043】
負荷変動NOx分布データLDは、ボイラ3が全負荷で運転される間における複数の領域7のNOx濃度分布を示す負荷変動前データBD(
図5参照)と、ボイラ3が部分負荷で運転される間における複数の領域7のNOx濃度分布を示す負荷変動後データAD(
図6参照)とから算出できる。より具体的には、負荷変動後データADが示す複数の領域7の各々のNOx濃度から、負荷変動前データBDが示す複数の領域7の各々のNOx濃度を差し引くことで、
図4で示す負荷変動NOx分布データLDは得られる。なお、
図5、
図6のグラフの縦軸で示す「A」は、両図のグラフを比較する際の目安とするための値である。
【0044】
負荷変動前データBD(
図5参照)は、ボイラ3の試運転中にNOx計測器60の計測結果を通じて生成される。他方で、負荷変動後データAD(
図6参照)は、ボイラ3の営業運転中にボイラ負荷の変動が実際に起こった後に、NOx計測器60の計測結果を通じて生成される。
【0045】
また、負荷変動前データBDが示すボイラ負荷は、開度調節応答データRD(
図3参照)のNOx分布応答データが計測される際のボイラ負荷と同じであることが好ましい。
【0046】
<制御装置10の基本機能>
図7は、本開示の一実施形態に係る制御装置10の機能構成を示す概略図である。制御装置10は、ボイラ負荷が生じたかを判定するための負荷変動判定部16と、ボイラ負荷が生じたと判定された場合に負荷変動NOx分布データLDを取得するための第1取得部11と、ボイラ負荷が生じたと判定された場合に開度調節応答データRDを取得するための第2取得部12と、少なくとも1つのバルブ55の開度を制御するためのバルブ制御部20とを備える。
【0047】
上述のように、負荷変動NOx分布データLDは、負荷変動前データBDと負荷変動後データADとを用いた演算によって取得される。負荷変動前データBDは、制御装置10を構成するメモリに予め記憶されている。また、負荷変動後データADは、ボイラ負荷の変動が生じた後に第1取得部11がNOx計測器60の計測結果を取得することで、特定されるようになっている。
【0048】
開度調節応答データRDは、制御装置10を構成するメモリに予め記憶されている。第2取得部12は、メモリから開度調節応答データRDを読み出すように構成されている。なお、本例の開度調節応答データRDは、上述の通り、ボイラ負荷が一定負荷である間にバルブ55の開度を各種変更していることを前提としている。メモリは、複数のボイラ負荷にそれぞれ対応付けて複数の開度調節応答データRDを記憶していてもよい。この場合には、第2取得部12は、記憶される複数の開度調節応答データRDの中から、ボイラ負荷の変動が発生する前のボイラ負荷に対応する開度調節応答データRDを選択する。
【0049】
バルブ制御部20は、負荷変動NOx分布データLDと開度調節応答データRDとに基づいて、少なくとも1つのバルブ55の開度を制御するように構成される。具体的な制御内容は以下の通りである。
【0050】
はじめに、負荷変動NOx分布データLDによって示される、複数の領域7の各々で生じるNOx濃度の変化度合いが特定される(
図4参照)。そして、当該変化の度合いを複数の領域7の間で平準化させるためのNOx分布応答データが、開度調節応答データRDの中から特定される。具体的な一例を挙げると、
図4で示すNOx濃度の分布を平準化させるためには、横断面6を構成する複数の領域7のNOx濃度について、以下の(C1)、(C2)、(C3)の少なくとも1つの条件を充足する必要がある。
(C1):左側で前後に並ぶ3つの領域7ではいずれも、NOx濃度が維持される。
(C2):左右中央側で前後に3つ並ぶ領域7ではいずれも、NOx濃度が減少する。
(C3):右側で前後に並ぶ3つの領域7ではいずれも、NOx濃度が増加する。
【0051】
バルブ制御部20は、(C1)~(C3)の少なくとも1つの条件を満たすNOx分布応答データを開度調節応答データRDから特定する。例えば、
図3の例では、二点鎖線L1,L4でそれぞれ囲まれる2つのNOx分布応答データは、いずれも、(C2)および(C3)を充足している。バルブ制御部20は、これらのNOx分布応答データに対応する開度調節パターンの「1」、「4」を特定して、いずれかの開度調節パターンにしたがってバルブ55の開度を制御する。そうすれば、(C1)~(C3)のなかで(C2)、(C3)の条件が充足されて、NOx濃度の分布の平準化が期待できる。
【0052】
なお、上記のように複数の開度調節パターンが特定された場合には、パターン番号の小さい方が優先的にバルブ55の制御に反映されてもよい。あるいは、複数の開度調節パターンのうちで、(C1)~(C3)の条件に対してより一致するものが選択的に採用されてもよい。
図3の例では、開度調節パターンの「4」の方が、開度調節パターンの「1」よりも、(C1)を充足するのに適している。そのため、開度調節パターンの「4」が優先的にバルブ55の制御に反映されてもよい。開度調節パターンの「1」、「4」のいずれが採用されようとも、バルブ制御部20は、採用された開度調節パターンにしたがって、少なくとも1つのバルブ55の開度を徐々に増加または減少させて、最適なバルブ55の開度を探索する。
【0053】
上記で説明した(C1)~(C3)は、あくまで例示に過ぎない。複数の領域7の間でNOx濃度の変化の度合いを平準化させるための条件は、より細分化されたものであってもよい。
【0054】
上記構成によれば、ボイラ負荷の変動に伴って複数の領域7の間でNOx濃度が変化しても、当該変化を複数の領域7の間で平準化させるための開度調節パターンにしたがって、バルブ制御部20は少なくとも1つのバルブ55の開度を制御する。複数の領域7の間におけるNOx濃度の平準化は、脱硝反応器57に流入する排ガスにおいてNOx濃度と還元剤量との比率が一定になることを意味する。従って、バルブ制御部20が上記の開度調節パターンにしたがってバルブ55の制御を実行することで、ボイラ負荷が変動する場合であっても、脱硝反応器57に流入する排ガス中において混合濃度比を均一にできる。また、排ガスの流動状態をアルゴリズム化したモデルを使用することなく混合濃度比を均一にできるので、制御装置10によって実行される演算処理を簡易にできる。
【0055】
<制御装置10の追加的な構成要素>
図1に戻り、制御装置10が備えてもよい追加的な構成要素を説明する。制御装置10は、第1判定部13をさらに備えてもよい。第1判定部13は、バルブ制御部20の制御時に、煙道4から排出される窒素酸化物量である排出NOx量が許容値を下回るかを判定するように構成される。排出NOx量は、上述したNOx計測器60によって測定されてもよいし、煙道4の出口に配置される別のNOx計測器によって測定されてもよい。許容値は、ボイラ設備1が設置される地域において定められる値であってもよいし、ボイラ設備1の設計者が設定する値であってもよい。
【0056】
また、バルブ制御部20は、排出NOx量が許容値を下回ると判定されるまで、上記の特定された開度調節パターンにしたがって少なくとも1つのバルブ55の開度を徐々に増加または減少させる。より具体的には、特定された開度調節パターンが特定のバルブ55の開度を「増加」させることを示しているのであれば、バルブ制御部20は該当するバルブ55の開度を徐々に且つ継続的に増加させる。やがて、排出NOx量が許容値を下回ると第1判定部13に判定されると、バルブ制御部20はバルブ55の開度を増加させるのを停止する。
【0057】
上記構成によれば、ボイラ負荷の変動に伴って排出NOx量が許容値以上になる場合であっても、バルブ制御部20は、排出NOx量が許容値を下回るために適したバルブ55の開度を特定することができる。これにより、複数のバルブ55に供給される還元剤が過剰になるのを抑制できる。
【0058】
制御装置10の構成の説明を続ける。制御装置10は、ボイラ負荷の変動量を取得するように構成された負荷変動量取得部15をさらに備えてもよい。負荷変動量取得部15は、ボイラ設備1において発せられたボイラ負荷を変更させるための指令(信号)を取得することで、ボイラ負荷の変動量を取得する。例えば、ボイラ3の定格運転中に、ボイラ負荷を50%まで下げる指令が発せられるのであれば、負荷変動量取得部15は、ボイラ負荷の変動量として50%を取得する。また、バルブ制御部20は、ボイラ負荷の変動量が小さいほどバルブ55の開度の調節量を小さくし、ボイラ負荷の変動量が大きいほどバルブ55の開度の調節量を大きくする。
【0059】
上記構成によれば、ボイラ負荷の変動量が比較的小さい場合には、バルブ制御部20によるバルブ55の開度調節量が小さい。これにより、排出NOx量が許容値を下回るための最適なバルブ55の開度を特定しやすくなる。また、ボイラ負荷の変動量が比較的大きい場合には、バルブ制御部20によるバルブ55の開度調節量が大きい。これにより、排出NOx量が許容値を下回るための最適なバルブ55の開度を特定するまでの時間を短くできる。
【0060】
制御装置10の構成の説明を続ける。制御装置10は、上述の排出NOx量がバルブ55の制御によって減少するかを判定するための第2判定部14をさらに備えてもよい。排出NOx量の取得方法は、既述の通りである。また、バルブ制御部20は、第1バルブ制御部21と第2バルブ制御部22とを有する。
【0061】
第1バルブ制御部21は、NOx濃度の変化度合いを平準化させるためのNOx分布応答データが複数特定された場合に、特定された第1のNOx分布応答データに対応する第1の開度調節パターンにしたがってバルブ55の開度を制御するように構成される。例えば、
図3で示す開度調節パターンの「1」、「4」が特定された場合、第1バルブ制御部21は、開度調節パターンの「1」にしたがってバルブ55の開度を制御する。
【0062】
第2バルブ制御部22は、第1バルブ制御部21の制御開始後に排出NOx量が減少しないと第2判定部14によって判定された場合、特定された第2のNOx分布応答データに対応付けられる開度調節パターンにしたがってバルブ55の開度を制御するように構成される。例えば、第1バルブ制御部21が開度調節パターンの「1」にしたがってバルブ55の開度を制御しても、上記(A1)の影響によって排出NOx量が増加する虞がある。これでは横断面6におけるNOx濃度が均一になっても、当該開度調節パターンにしたがった還元剤の供給制御は不適切である。そこで、この場合には、第1バルブ制御部21によるバルブ55の開度制御は停止されて、第2バルブ制御部22が、開度調節パターンの「4」にしたがってバルブ55の開度の制御を実行する。
【0063】
上記のように、ボイラ負荷の変動に伴って生じるNOx濃度の変化度合いを複数の領域7の間で平準化させるための複数の開度調節パターンには、排出NOx量を減少させるのに適さない開度調節パターンが含まれる虞がある。この点、上記構成によれば、第1の開度調節パターンに従ってバルブ55の制御が実行されても排出NOx量が減少しないと第2判定部14によって判定された場合、第1の開度調節パターンに代えて第2の開度調節パターンにしたがったバルブ55の制御が実行される。これにより、排出NOx量を減少させるのにより適した開度調節パターンを採用できる。
【0064】
<脱硝制御処理>
図8を参照して、制御装置10のプロセッサによって実行される脱硝制御処理を説明する。脱硝制御処理が開始される場合、ボイラ3は定格負荷で定常的に運転されている。本例の定格負荷は、ボイラ負荷100%に相当する。以下では、制御装置10のプロセッサを単に「プロセッサ」と略記し、「ステップ」を「S」と略記する場合がある。
【0065】
はじめに、プロセッサは、ボイラ負荷の変動が発生したかを判定する(S11)。ボイラ負荷の変動を示す負荷変動信号(負荷変動指令)がプロセッサに入力されない場合(S11:NO)、プロセッサは、脱硝制御処理を終了する。他方で、負荷変動信号が入力された場合(S11:YES)、プロセッサは、負荷変動信号が示す変動後のボイラ負荷を取得することで、負荷変動量を取得する(S13)。S11を実行するプロセッサは、負荷変動判定部16の一例であり、S13を実行するプロセッサは負荷変動量取得部15の一例である。
【0066】
次いで、プロセッサは、負荷変動NOx分布データLDを取得し(S15)、開度調節応答データRD(S17)を取得する。S15を実行するプロセッサは、第1取得部11の一例であり、S17を実行するプロセッサは、第2取得部12の一例である。本例では、S17において、第1の開度調節パターンとしての「1」と、第2の開度調節パターンとしての「4」が取得される(
図3参照)。
【0067】
次いで、プロセッサは、S17で特定された2つの開度調節パターンのうちで、「1」の開度調節パターンにしたがってバルブ55の開度を制御する(S19)。このとき、S13で取得された負荷変動量に応じた調節量分、バルブ55の開度を1回、増加または減少させる。
【0068】
次いで、プロセッサは排出NOx量が低減したかを判定する(S21)。S21を実行するプロセッサは、第2判定部14の一例である。排出NOx量が低減したと判定された場合(S21:YES)、プロセッサは、排出NOx量が許容値を下回るかを判定する(S23)。S23を実行するプロセッサは、第1判定部13の一例である。排出NOx量が許容値以上であると判定された場合(S23:NO)、プロセッサは、S19で実行したバルブ55の開度制御を継続する(S27)。即ち、S19で実行したバルブ55の開度の増加または減少させる制御がさらに1回、追加的に実行される。プロセッサは、排出NOx量が許容値を下回ると判定されるまで(S23:NO)、S27を繰り返し実行する。やがて、排出NOx量が許容値を下回ると判定されると(S23:YES)、プロセッサは脱硝制御処理を終了する。この場合、S19およびS27を実行するプロセッサは、第1バルブ制御部21の一例である。
【0069】
他方で、S19の実行後に排出NOx量が減少しないと判定された場合(S21:NO)、プロセッサは、開度調節パターンの「4」にしたがってバルブ55の開度を制御する(S25)。より具体的には、S13で取得された負荷変動量に応じて調節量分、バルブ55の開度を1回、増加または減少させる。S25の実行後、プロセッサは処理を上述のS21に戻す。排出NOx量が減少すると判定されるのであれば(S21:YES)、プロセッサは上述のS23、S27を繰り返す。そして、排出NOx量が許容値を下回ると判定されると(S23:YES)、プロセッサは脱硝制御処理を終了する。この場合、S25、S27を実行するプロセッサは、第2バルブ制御部22の一例である。
【0070】
<その他>
ボイラ負荷50%の負荷変動後データADは、NOx計測器60の計測を通じて直接的に求められなくてもよく、演算によって推定的に求められてもよい。例えば、ボイラ負荷30%における複数の領域7のNOx濃度を示す第1負荷変動データ(図示外)が、NOx計測器60の計測を通じて予め直接的に求められる。そして、ボイラ負荷が100%から50%まで変動した場合には、負荷変動前データBDと第1負荷変動データとによって、ボイラ負荷が50%の負荷変動前データBDが演算によって算出されてもよい。
【0071】
制御装置10は、さらに学習モデルを記憶するソフトウェアモジュールを備えてもよい。ボイラ3が継続的に営業運転される過程で、第1取得部11、第2取得部12、および、バルブ制御部20の各々によって実行される演算処理が教師データとして蓄積され、当該教師データを基にして学習モデルに機械学習を施してもよい。機械学習を終えた学習モデルは、少なくとも負荷変動量を入力データとして取得する。そして、学習モデルは、入力データを取得した後、複数のバルブ55のなかで開度制御すべきバルブ55、および、当該バルブ55で設定されるべき具体的な開度を出力データとして出力する。このような学習モデルが構築された後においては、第1取得部11、第2取得部12、バルブ制御部20による制御を不要とできる。
【0072】
<まとめ>
上述した幾つかの実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0073】
1)本開示の少なくとも一実施形態に係る制御装置(10)は、
ボイラ(3)から排出される排ガスに対する還元剤の供給量を調節するための複数のバルブ(55)の各々の開度を制御するように構成される制御装置(10)であって、
前記排ガスが流れる煙道(4)の横断面(6)を構成する複数の領域(7)の各々に対して、ボイラ負荷の変動に伴って生じる窒素酸化物量の変化度合いが割り当てられた負荷変動NOx分布データ(LD)を取得するための第1取得部(11)と、
前記複数のバルブの少なくとも1つの開度を調節するパターンである複数の開度調節パターンと、前記少なくとも1つのバルブの開度調節に応答して前記複数の領域の各々で生じる前記窒素酸化物量の変化の傾向を示す複数のNOx分布応答データとを予め対応付けた開度調節応答データ(RD)を取得するための第2取得部(12)と、
前記開度調節応答データの中から、前記負荷変動NOx分布データが示す前記複数の領域の各々で生じる前記窒素酸化物量の変化度合いを平準化させるための前記NOx分布応答データを特定し、特定された前記NOx分布応答データに対応付けられる前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を制御するためのバルブ制御部(20)と
を備える。
【0074】
上記1)の構成によれば、ボイラ負荷の変動に伴って複数の領域の間で窒素酸化物量が変化しても、当該変化を複数の領域の間で平準化させるための開度調節パターンにしたがって、バルブ制御部は少なくとも1つのバルブの開度を制御する。複数の領域の間における窒素酸化物量の平準化は、脱硝容器に流入する排ガスにおいて窒素酸化物量と還元剤量との比率が一定になることを意味する。従って、バルブ制御部が上記の開度調節パターンにしたがってバルブの制御を実行することで、ボイラ負荷が変動する場合であっても、脱硝容器に流入する排ガス中において窒素酸化物量と還元剤量の比率を均一にできる。また、排ガスの流動状態をアルゴリズム化したモデルを使用することなく上記の比率を均一にできるので、制御装置によって実行される演算処理を簡易にできる。
【0075】
2)幾つかの実施形態では、上記1)に記載の制御装置であって、
前記バルブ制御部の制御時、前記煙道から排出される前記窒素酸化物量である排出窒素酸化物量が許容値を下回るかを判定するための第1判定部(13)をさらに備え、
前記バルブ制御部は、前記排出窒素酸化物量が前記許容値を下回ると判定されるまで、前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を徐々に調節する。
【0076】
上記2)の構成によれば、ボイラ負荷の変動に伴って排出窒素酸化物量が許容値以上になる場合であっても、バルブ制御部は、排出窒素酸化物量が許容値を下回るために適したバルブの開度を特定することができる。これにより、複数のバルブに供給される還元剤が過剰になるのを抑制できる。
【0077】
3)幾つかの実施形態では、上記2)に記載の制御装置であって、
前記ボイラ負荷の変動量を取得するように構成される負荷変動量取得部(15)をさらに備え、
前記バルブ制御部は、前記ボイラ負荷の前記変動量が小さいほど前記少なくとも1つのバルブの開度の調節量を小さくし、前記ボイラ負荷の前記変動量が大きいほど前記少なくとも1つのバルブの開度の調節量を大きくするように構成される。
【0078】
上記3)の構成によれば、ボイラ負荷の変動量が比較的小さい場合には、バルブ制御部によるバルブの開度調節量が小さい。これにより、排出窒素酸化物量が許容値を下回るための最適なバルブの開度を特定しやすくなる。また、ボイラ負荷の変動量が比較的大きい場合には、バルブ制御部によるバルブの開度調節量が大きい。これにより、排出窒素酸化物量が許容値を下回るための最適なバルブの開度を特定するまでの時間を短くできる。
【0079】
4)幾つかの実施形態では、上記1)または3)に記載の制御装置であって、
前記煙道から排出される前記窒素酸化物量である排出窒素酸化物量が、前記バルブ制御部の制御によって減少するかを判定するための第2判定部(14)をさらに備え、
前記バルブ制御部は、
前記窒素酸化物量の変化度合いを平準化させるための前記NOx分布応答データが複数特定された場合、特定された第1の前記NOx分布応答データに対応付けられる第1の前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を制御するための第1バルブ制御部(20)と、
前記第1バルブ制御部の制御開始後の前記排出窒素酸化物量が減少しないと前記第2判定部によって判定された場合、特定された第2の前記NOx分布応答データに対応付けられる第2の前記開度調節パターンにしたがって前記少なくとも1つのバルブの開度を制御するための第2バルブ制御部(20)と
を含む。
【0080】
発明者の知見によれば、ボイラ負荷の変動に伴って生じる窒素酸化物量の変化度合いを複数の領域の間で平準化させるための複数の開度調節パターンには、排出窒素酸化物量を減少させるのに適さない開度調節パターンが含まれる虞がある。この点、上記4)の構成によれば、第1の開度調節パターンに従ってバルブ制御が実行されても排出窒素酸化物量が減少しないと第2判定部によって判定された場合、第1の開度調節パターンに代えて第2の開度調節パターンにしたがったバルブ制御が実行される。これにより、排出窒素酸化物量を減少させるのにより適した開度調節パターンを採用できる。
【0081】
5)本開示の少なくとも一実施形態に係る脱硝装置(5)は、
上記1)乃至4)のいずれかに記載の制御装置(10)と、
前記煙道を流れる前記排ガスに前記還元剤を噴射するように構成される複数の還元剤ノズル(51)と、
前記複数の還元剤ノズルにそれぞれ前記還元剤を供給するための複数の還元剤供給路(52)と、
前記複数の還元剤供給路にそれぞれ配置される前記複数のバルブ(55)と、
前記煙道において前記複数の還元剤ノズルよりも下流に配置される脱硝触媒を含む脱硝反応器(57)と
を備える。
【0082】
上記5)の構成によれば、上記1)と同様の技術的な利点が得られる。
【0083】
6)本開示の少なくとも一実施形態に係るボイラ設備(1)は、
ボイラ(3)と、
前記ボイラで発生する排ガスが流れるための煙道(4)と、
前記煙道を流れる前記排ガスを脱硝するための、上記5)に記載の脱硝装置(5)と
を備える。
【0084】
上記6)の構成によれば、上記1)と同様の技術的な利点が得られる。
【符号の説明】
【0085】
1 :ボイラ設備
3 :ボイラ
4 :煙道
5 :脱硝装置
6 :横断面
7 :領域
9 :エアヒータ
10 :制御装置
11 :第1取得部
12 :第2取得部
13 :第1判定部
14 :第2判定部
15 :負荷変動量取得部
16 :負荷変動判定部
20 :バルブ制御部
21 :第1バルブ制御部
22 :第2バルブ制御部
51 :還元剤ノズル
52 :還元剤供給路
55 :バルブ
57 :脱硝反応器
57a :入口
57b :出口
59 :貯留部
60 :NOx計測器
61 :誘導管
62 :開閉バルブ
64 :接続管
65 :分析装置
66 :吸引ポンプ
AD :負荷変動後データ
BD :負荷変動前データ
LD :負荷変動NOx分布データ
RD :開度調節応答データ