(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176599
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】型枠パネル用樹脂組成物および軽量型枠パネル
(51)【国際特許分類】
E04G 9/05 20060101AFI20241212BHJP
C08J 9/06 20060101ALI20241212BHJP
E04G 9/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
E04G9/05
C08J9/06 CES
E04G9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095289
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】717000414
【氏名又は名称】株式会社プレジール
(72)【発明者】
【氏名】梅村 俊和
(72)【発明者】
【氏名】野村 学
(72)【発明者】
【氏名】川東 宏至
【テーマコード(参考)】
2E150
4F074
【Fターム(参考)】
2E150AA19
2E150AA36
2E150MA12X
2E150MA16X
2E150MA41X
2E150MA46X
4F074AA02
4F074AA24
4F074AA24D
4F074AA24F
4F074AC36
4F074BA03
4F074CA22
4F074DA02
4F074DA08
4F074DA24
4F074DA59
(57)【要約】
【課題】
コンクリートを使用する工事では、軽量で鋸引きや釘打ちが可能なベニヤ製パネルが、ハンドリングの点から多く使用されているが、多回数の繰り返し使用が困難で焼却されている。CO2削減やSDGsの観点より、ベニヤ製パネルと同等のハンドリング性を持ち、且つ繰り返し使用が可能で、更にリサイクル性を有する型枠パネルやそのための組成物が強く求められ始めていた。
【解決手段】
ポリプロピレン系樹脂とバイオマスフィラーと無機フィラーを溶融混錬し、得られる樹脂組成物の190℃での溶融張力が10mN~100mNに、且つ温度190℃,荷重10Kgの条件下で測定したMFRが2~15になるように調整することにより、ベニヤ板相当の軽さ、ハンドリグ性を有し、繰り返し使用が可能で且つ十分な製品剛性を維持したコンクリート型枠パネルが可能となる事を見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂とバイオマスフィラーと無機フィラーよりなる組成物であり、190℃での溶融張力が5mN~100mNで、且つ温度190℃,荷重10Kgの条件下で測定したMFRが2~15であるコンクリート型枠パネル用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載のポリプロピレン系樹脂が、高張力ポリオレフィン樹脂や溶融張力向上剤を含むコンクリート型枠パネル用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1および請求項2記載の樹脂組成物が、ポリプロピレン系樹脂40~70wt%、バイオマスフィラーが10~60wt%、無機フィラーが0~40wt%よりなるコンクリート型枠パネル用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1、請求項2および請求項3記載の樹脂組成物100重量部に対し、酸変性ポリプロピレン0.5~3重量部を添加してなるコンクリート型枠パネル用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1,請求項2、請求項3および請求項4記載の樹脂組成物100重量部に対し、発泡剤を0.3~0.8重量部添加して押出発泡させて製造されたコンクリート型枠パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂とバイオマスフィラー及び無機フィラーとを主成分とするコンクリート型枠パネル用樹脂組成物および当該樹脂組成物を用いて製造された型枠パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの建物を建設する際に、コンクリート型枠パネルは必須の資材であり、現在は輸入木材を使用したベニヤが用いられている。しかしこの木製型枠パネルは2~3回繰り返して使用すると、セメントの付着、剥がす時の衝撃による破損等で、それ以上繰り返して使用する事は困難である。使用不能な木製型枠パネルは、現在は焼却場まで運んで焼却しているのが実情である。地球環境保善の観点よりCO2の削減が強く求められており、SDGsの考えに沿ったベニヤに代わるコンクリート型枠パネルの開発が重要となって来ている。 その考えに沿った型枠パネルとしては、10~15回以上繰り返し使用が可能で、更に使用後リサイクルして型枠パネルに再度作り直す事できるものが望ましい。木製型枠パネルに代わるものとして、ポリプロピレン樹脂やその複合材料による型枠パネル等も提案されているが、リサイクル性以外にも型枠パネルに求められる特性が多くあり、それらを満足する型枠パネルはないのが実情である
【0003】
型枠パネルに求められる特性として、(1)大型な製品であるが、一人で運べる重さであること。 (2)コンクリートの重みに耐える製品剛性があること、(3)型枠パネルを取り外す時の衝撃に耐えうる耐衝撃強度を有すること。(4)木材と同様の鋸引きが出来ること。(4)釘打ちが出来、且つ 釘の保持力があること。(5)製品表面が平滑なこと。(6)コンクリートの付着が極力少ないこと、(7)10~15回以上繰り返し使用が可能であること。(8)リサイクルして再度型枠パネルに戻せること、等である。
【0004】
樹脂製のコンクリート型枠パネルに関する先行特許文献も幾つか存在するものの、多様な要求特性を全て満足しうるものは未だなく、特に多量に使用されているベニヤと同等以上の取扱い性(軽さ、鋸引き性、釘打ち性)や使い廻し性(繰り返し使用性、そのための衝撃性)を有する型枠パネル及びそのための材料(組成物)が強く望まれていた。
【0005】
特許文献1には「ポリプロピレンを主成分とする熱可塑性樹脂46~52質量%と,平均粒子径50~300μmの木粉33~38質量%,残余を副資材とする成形材料100質量%に,0.4質量%以上の発泡剤を添加して押出成形することにより製造される比重0.8以下のコンクリート型枠用パネル」が開示されている。しかし、何度も繰り返し使用したり、リサイクルして再コンクリート型枠パネルに戻すこと等を考慮していないため、衝撃強度が低くパネルを取り外す時に破断する等の問題があった。更に溶融張力向上剤等を使用していないため、木粉等の使用できる範囲も非常に狭く限られており、リサイクル等が非常に難しい等の課題があった。
特許文献2には「紙粉および/または木粉を10~60重量%、タルク粉を0~40重量%の割合で含有するポリプロピレン組成物を用いた高強度パネル」が開示されている。しかし、
開示しているのは単なる押出成形によるコンクリートパネルであり、そのため鋸引きや釘打ちが難しく、ベニヤ代替を目的とした押出発泡成形による軽量なコンクリートパネルとは技術的に異なるものである。
【0006】
ベニヤ代替を図るには、ベニヤ製パネルと同じ厚みで同等の製品剛性を必要とするため、材料的には、ポリプロピレン樹脂のみでは弾性率が不足する。そのためフィラーの添加により弾性率の向上を図ることが必須となる。一方、ベニヤに相当するハンドリング性(軽さ、鋸引き、釘打ち)を保持するには発泡成形が必須となる。しかし、フィラーが充填されると樹脂の溶融張力が大幅に低下し、破泡やガス抜けのため十分な発泡成形が難しくなる。この相反する現象を克服し、ベニヤ板代替の可能な軽量なコンクリート型枠パネルに関して鋭意検討した結果、本技術を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-130861号公報
【特許文献2】特開平07-108582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、ベニヤ製コンクリート型枠パネルと同等のハンドリング性能(軽さ、鋸引き性、釘打ち性)を有し且つ相反する高い製品剛性を有する型枠パネルを、即ちSDGsの考えに対応したベニヤよりも遥かに優れた繰り返し使用が可能な型枠パネル及びそのための材料(組成物)を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ポリプロピレン系樹脂とバイオマスフィラーと無機フィラーを溶融混錬し、得られた組成物の190℃での溶融張力が10mN~100mN且つ温度190℃,荷重10Kgの条件下で測定したMFRが2~15になるように調整したペレットを押出発泡成形させることにより、ベニヤ板相当の軽さ、ハンドリグ性を有し、且つ十分な製品剛性を維持したコンクリート型枠パネルが可能となる事を見出した。
【0010】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂としては、市販されているポリプロピレン樹脂を、
必要に応じて更に高張力ポリオレフィン樹脂や溶融張力向上剤を加えたものを使用できる。
溶融張力向上剤としては、例えばアクリル変性PTFEやアクリル系樹脂、長鎖分岐構造ポリオレフィン樹脂などがある。このポリプロピレン系樹脂にバイオマスフィラーと無機フィラーを加えた組成物の190℃での溶融張力が10~100mNで、且つ温度190℃,荷重10Kgの条件下で測定したMFRが2~15であることが必要である。融張力が10mN以下では破泡やガス抜け等で発泡成形が困難になる。また100mN以上では発熱が大きく、樹脂温度が高く成り過ぎ発泡剤が早く分解し発泡成形が困難になると共にバイオマスフィラーの焼け等が発生する場合がある。MFRが2以下であると粘度が高過ぎて発熱が大きく、発泡成形が困難になる。またMFRが15以上であると、溶融張力が低くなり、破泡やガス抜け等で発泡成形が困難になる。
【0011】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂の樹脂組成物中に占める割合は40~70wt%である。ポリプロピレン系樹脂の割合が40wt%未満では、樹脂組成物の十分な発泡が困難になるばかりか、型枠パネルの耐衝撃強度が低くなり、当該パネルの繰り返し使用が難しくなる。ポリプロピレン系樹脂の割合が70wt%を超えると型枠パネルの剛性が不足し、型枠パネルとしては使用できなくなる。
【0012】
バイオマスフィラーとしては、木粉、竹粉、セルロース粉等があり、その平均粒子径は30~500μm好ましくは50~400μである。バイオマスフィラーが樹脂組成物に占める割合は10wt%~60wt%である。10wt%以下では型枠パネルの剛性が不足する、60wt%を超えると、発泡成形が難しくなると共に型枠パネルの衝撃強度が低下し、型枠パネルの繰り返しの使用が困難になる。
【0013】
無機フィラーとしては、マイカ、タルク、セリサイト、ガラスフレーク、黒鉛、カオリン、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、アルミナ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ウオラストナイト、ガラス繊維、チタン酸カリ繊維、マグネシウムオキシサルフェート等が挙げられ、中でもタルク、マイカが好適である。型枠パネル用樹脂組成物に占める無機フィラーの割合は0~40wt%である。40wt%を超えると、均一発泡が難しくなると共にコンクリート型枠パネルの衝撃強度が低下し、繰り返しの使用が困難になる。
【0014】
酸変性ポリプロピレンとはポリプロピレンの分子中に不飽和カルボン酸を導入したものであり、不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、ソルビン酸などが上げられ、またその誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩などがあり、例えば無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイミド、などを挙げることができる。これらの中で、不飽和ジカルボン酸およびその誘導体が好ましく、特にマレイン酸が好適である。その使用量はコンクリート型枠パネル用樹脂組成物100重量部に対し、0.5~3重量部である。0.5 重量部未満では樹脂とバイオマスフィラー の界面改質が十分でなく、ガスの飛散を抑制し均一発泡を促す効果および型枠パネルの強度、 剛性を改良する効果が不十分となる。3 重量部を超えて添加しても界面改善効果は飽和し、それ以上の効果は期待されず、経済的に不利になる
【0015】
型枠パネルは軽量化のため発泡する必要があるが、その発泡方法としてはポリプロピレンの通常の押出発泡成形方法が用いられる。中でもセルカ法が好ましい。使用する発泡剤の量は、コンクリート型枠パネル用樹脂組成物100重量部に対し、0.3~0.8重量部である。
0.3重量部以下では発泡が不十分で、型枠パネルが重くなると共に製品表面の平滑性や釘打ち性能が不十分となる。0.8重量部以上では型枠パネル内部に大きな巣が生成しやすくなり、
打ち込んだ釘が抜け易くなると共に、枠パネルをコンクリートから剥がす時に破壊し易くなり、型枠パネルの繰り返し使用が難しくなる。また弾性率が低くなり型枠パネルの製品剛性が不足する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂組成物を用いることにより、前記課題を解決することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ポリプロピレン系樹脂とバイオマスフィラーと無機フィラーよりなる樹脂組成物で、その樹脂組成物の溶融張力とMFRを特定範囲に制御することにより、目的とする軽量で繰り返し使用可能なコンクリート型枠パネルを実現した。
【実施例0018】
表1に、本実験に使用した組成物の構成を示す。
ポリプロピレン樹脂としては、MFRが、0.5、1.9、2.4、5.0、10の5種類、高張力PPとしてはMFRが1.3および8.3の日本ポリプロ製のウエイマックスを、更に溶融張力向上剤としては三菱ケミカル製のメタブレンA-3000(向上剤(1))とA-1050(向上剤(2))を用いた。
バイオマスフィラーとしては、木粉(200μ)、セルロース粉(80μ)、竹粉(300μ);無機フィラーとしてはタルク(5μ)、マイカ(50μ)を用いた。酸変性ポリプロピレンとしてはマレイン酸グラフトポリプロピレンである東洋紡エムシー製のハードレンH-1000Pを使用した。
【0019】
表1に示す各成分をドライブレンド後、二軸混練機を用いて混練し、押出用のペレットを作製した。次に得られたペレットを110℃で24時間乾燥した後、発泡剤をドライブレンドし、押出発泡成形にて厚み12mm、幅600mm、長さ1800mmのコンクリート型枠パネル(コンパネ)を製造し、型枠パネルとしての評価を行なった。なお、発泡剤は炭酸水素ナトリウムをマスターバッチ化したポリスレンEE515(永和化成工業製)を使用した。評価結果を表2に示す。
【0020】
型枠パネル成形品1および型枠パネル成形品2は、それぞれ実施例1および実施例2の溶融張力およびMFRが請求範囲の組成物を使用したもので、押出発泡成形した型枠パネルは均一発泡しており、表面平滑性、釘打ち性能、製品剛性等の要求性能を全て満足していると共に、型枠をバールで剥がして繰り返し10回以上使用しても全く問題がなかった。
【0021】
型枠パネル成形品3は、溶融張力が請求範囲よりも小さい比較例1の組成物を使用したもので、破泡等で発泡が不十分で、そのため釘打ち性能や表面平滑性に劣り、軽量な型枠パネルとしての使用が困難であった。即ち製品剛性を向上させるために充填するバイオマスフィラーや無機フィラーにより低下する溶融張力を、高く保つことが必要であることが判る。
【0022】
型枠パネル成形品4は、溶融張力が低く且つMFRが請求範囲よりも高い比較例2の組成物を使用したもので、溶融張力、溶融粘度が共に低く、そのため発泡ガスが逃げてしまい押出発泡成形が困難で、軽量型枠パネルを得ることが出来なかった。
【0023】
型枠パネル成形品5は、溶融張力およびMFRが請求範囲の実施例3の組成物を使用したもので、押出発泡成形した型枠パネルは均一発泡しており、表面平滑性、釘打ち性能、製品剛性等の要求性能を全て満足していると共に、型枠をバールで剥がして繰り返し10回以上使用しても全く問題がなかった。
【0024】
型枠パネル成形品6は、ポリプロピレン樹脂系樹脂量が多く、バイオマスフィラー及び無機フィラーが少ない比較例3の組成物を使用したもので、フィラー量が少ないため型枠パネルの表面にヒケによる波打ちが発生し平滑性が不十分であるばかりか製品剛性(弾性率)が大きく不足する。また組成物のMFRが高過ぎて耐久性が不足し、繰り返し使用も6回程度で破壊が生じる。
【0025】
型枠パネル成形品7は、溶融張力が高く且つMFRが低い比較例4の組成物を使用したもので、溶融張力が請求範囲よりも大き過ぎると、押出機の剪断発熱が激しく樹脂温度が高くなり、発泡剤が早く分解したため発泡成形が困難となり型枠パネルの製造が困難であった。更に高温のため木粉の焼けも著しく発生した。この結果から、良好な本型枠パネルを得るには、溶融張力は高ければ良いと言うものではなく、最適な範囲があることがわかる。
【0026】
型枠パネル成形品8は、ポリプロピレン樹脂系樹脂量が少なく、バイオマスフィラー及び無機フィラーが多い比較例5の組成物を使用したもので、フィラー量が多すぎるため溶融張力が小さく、そのためガス抜けが激し押出発泡性が困難で、型枠パネルを得る事ができなかった。
【0027】
型枠パネル成形品9は、実施例1の組成物を用いたものの発泡剤を請求範囲よりも多い1.5重量部添加したもので、発泡ガス量が多すぎ型枠パネルの内部に大きな巣が発生し、そのため釘が容易に抜けてしまうと共に繰り返し使用回数も2回程度となる。また弾性率も不十分となる。すなわち目的に合った型枠パネルを製造するには、発泡剤の添加量もはる範囲内に限定する必要があることを示している。
【0028】
【0029】