(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017660
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/292 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
G01S7/292 202
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120461
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AH02
5J070AH12
5J070AH31
5J070AH35
(57)【要約】
【課題】 長時間積分時にも、少ない処理規模で、レンジウォーク及びドップラウォークによる積分ロスを低減する。
【解決手段】 実施形態に係るレーダシステムは、単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信し、送受信されたslow-time軸にNs(レンジ周波数変換、keystone変換、レンジ圧縮及びslow-time軸FFT処理、最大値置き換え、CFAR仮検出、レンジウォーク及びドップラウォーク補正、全slow-time軸FFT処理、目標検出を順に処理し、レンジウォークの影響を軽減した上でCFAR等により仮検出し、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、slow-time軸でFFT処理することで、目標を検出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信されたslow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルの信号をfast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform)処理してレンジ周波数軸に変換し、
前記レンジ周波数軸に変換された全slow-time軸のFFT処理前の信号(RDbef)を、PRF(Pulse Repeat Frequency)で決まる速度のnv倍(nv=-Nv~Nv:Nv≧1)の参照信号によりkeystone(キーストン)変換し、
前記keystone変換された信号からレンジ圧縮及びslow-time軸のFFT処理した信号RDaft{nv}を生成し、
前記信号RDaft{nv}のレンジ-ドップラセル毎に最大値となるレンジ-ドップラデータを抽出し、
前記抽出されたレンジ-ドップラデータを用いて目標を仮検出し、
Pt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出して、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、
前記積分系列をレンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正してslow-time軸で並べ替え、
前記slow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となる積分系列を選定し、
前記slow-time軸でのFFT処理前の信号(RDbef)を置き換え(RDaft)、
前記仮検出したPt個のセル毎に繰り返したRDaft信号を用いて、slow-time軸FFT処理した結果から目標を検出する
レーダシステム。
【請求項2】
前記仮検出した後、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Qセルの信号出力を抽出し、前記抽出した信号をドップラ0にシフトし、それ以外は0埋めした信号を逆FFT処理し、その結果の共役複素値を求め、前記共役複素値を補正係数としてslow-time軸の信号を補正して前記slow-time軸FFT処理を行う
請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信されたslow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルの信号をfast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform)処理してレンジ周波数軸に変換し、
前記レンジ周波数軸に変換された全slow-time軸のFFT処理前の信号(RDbef)を、PRF(Pulse Repeat Frequency)で決まる速度のnv倍(nv=-Nv~Nv:Nv≧1)の参照信号によりkeystone(キーストン)変換し、
前記keystone変換された信号からレンジ圧縮及びslow-time軸のFFT処理した信号RDaft{nv}を生成し、
前記信号RDaft{nv}のレンジ-ドップラセル毎に最大値となるレンジ-ドップラデータを抽出し、
前記抽出されたレンジ-ドップラデータを用いて目標を仮検出し、
Pt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出して、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、
前記積分系列をレンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正してslow-time軸で並べ替え、
前記slow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となる積分系列を選定し、
前記slow-time軸でのFFT処理前の信号(RDbef)を置き換え(RDaft)、
前記仮検出したPt個のセル毎に繰り返したRDaft信号を用いて、slow-time軸FFT処理した結果から目標を検出する
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遠距離の小目標を検出するレーダシステムでは、積分ヒット数が多い場合や、PRI(Pulse Repetition Interval)が長くCPI(Coherent Pulse Interval)が長い長時間積分を行うと、レンジウォークやドップラウォークにより、積分ロスが生じる課題があった。
【0003】
この対策のために、例えば特許文献1、特許文献2の積分系列最大化手法が提案されている。特許文献1の手法は、チャープ帯域全体を利用して、レンジ周波数軸に0埋めを用いることで擬似的に高分解能化して、slow-time軸の積分系列を探索法で最大化する手法である。但し、この手法では、レンジウォークが大きい場合は、探索法の範囲が増えるため、処理規模が増大してしまう。また、特許文献2の手法は、速度及び加速度の探索法で積分系列を最大化(速度・加速度補正)する手法である。この手法も、レンジウォークやドップラウォークが大きい場合は、探索法の範囲が増えるため、処理規模が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4881239号公報
【特許文献2】特許第5025403号公報
【特許文献3】特許第5072694号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SAR方式(レンジ圧縮):大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】Keystone方式:Penghui Huang, ‘Long-Time Coherent Integration for Weak Maneuvering Target Detection and High-Order Motion Parameter Estimation Based on Keystone Transform’, pp.4013-4026, IEEE Trans. On Signal Processing, VOL.64, No.15, August 1(2016)
【非特許文献3】CFAR(Constant False Alarm Rate):吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献4】PGA(Phase gradient autofocus)方式:Charles V.Jakowatz, ‘Spotlight-Mode Synthetic Aperture Radar: A Signal Processing Approach’, Springer, pp.251-256(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、従来のレーダシステムでは、長時間積分時のレンジウォーク及びドップラウォークによる積分ロスの低減に対処するためには、処理規模の増大が問題となっている。
【0007】
本実施形態の課題は、長時間積分時にも、少ない処理規模で、レンジウォーク及びドップラウォークによる積分ロスを低減することのできるレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、実施形態に係るレーダシステムは、(1) 単パルスまたは変調したパルスを連続して送受信し、前記送受信されたslow-time軸にNs(Ns≧1)セル、fast-time軸にNf(Nf≧1)セルある信号をfast-time軸でFFT(Fast Fourier Transform)処理してレンジ周波数軸に変換し、前記レンジ周波数軸に変換された全slow-time軸のFFT処理前の信号(RDbef)を、PRF(Pulse Repeat Frequency)で決まる速度のnv倍(nv=-Nv~Nv:Nv≧1)の参照信号によりkeystone(キーストン)変換し、前記keystone変換された信号からレンジ圧縮及びslow-time軸のFFT処理した信号RDaft{nv}を生成し、前記信号RDaft{nv}のレンジ-ドップラセル毎に最大値となるレンジ-ドップラデータを抽出し、抽出されたレンジ-ドップラデータを用いて、CFAR等により仮検出して、Pt(Pt≧1)個のレンジセルRt、ドップラセルFtを抽出する。次に、仮検出したPt個のセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定し、各積分系列をレンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク補正して、slow-time軸で並べ替え、slow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定し、slow-time軸FFT処理前の信号(RDbef)を置き換える(RDaft)。これを仮検出Pt毎に繰り返したRDaft信号を用いて、slow-time軸FFT処理した結果を用いてCFAR等により目標を検出する。
【0009】
すなわち、上記構成によるレーダシステムでは、レンジ周波数変換、keystone変換、レンジ圧縮及びslow-time軸FFT処理、最大値置き換え、CFAR仮検出、レンジウォーク及びドップラウォーク補正、全slow-time軸FFT処理、目標検出を順に処理し、レンジウォークの影響を軽減した上で、CFAR等により仮検出し、仮検出によるサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、レンジウォーク(速度によるレンジセルずれ)とドップラウォーク(加速度によるドップラセルずれ)を補正して、slow-time軸でFFT処理することで、目標を検出するようにしている。
【0010】
また、(1) の構成において、(2) 探索法により検出した後、所定の振幅スレショルドを超えるドップラセルを中心に±Qセルの信号出力を抽出し、ドップラ0にシフトして、それ以外は0埋めした信号を逆FFT処理した結果の共役複素値を補正係数として、slow-time軸の信号を補正した後、slow-time軸FFT処理を行う。
【0011】
すなわち、ドップラウォークについて、slow-time軸の位相変化を抽出して逆補正することで補正した後、slow-time軸でFFT処理することで、目標を高感度に検出する。
【0012】
上記方式を用いると、処理規模の小さいレーダシステム装置であっても、小目標をレンジウォーク補正及びドップラウォーク補正した後、積分を行う長時間積分方式により検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図1に示すレーダシステムに適用されるkeystone変換を説明するための図である。
【
図4】
図4は、
図1に示すレーダシステムで、仮検出された目標が複数の場合のkeystone変換の適用を説明するための図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すレーダシステムで、仮検出後のレンジウォーク補正を説明するための図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、
図6に示すレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、
図7に示す処理中のドップラ位相補正を具体的に示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、
図8に示すドップラ位相補正について具体的に説明するための図である。
【
図10】
図10は、
図6に示すレーダシステムにおいて、仮検出された目標が複数の場合のドップラ位相補正を説明するための図の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
以下、
図1~
図4を参照して、第1の実施形態に係るレーダシステムを説明する。
【0016】
図1は第1の実施形態に係るレーダシステムの構成を示すブロック図で、(a)が送信系統の構成を示すブロック図、(b)が受信系統の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1(a)に示すレーダシステムの送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号から変調信号を生成し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換した後、パルス変調器14でパルス変調してN(N≧2)ヒットのパルスによるレーダ信号を生成し、送信アンテナ15から空間に送出する。
【0018】
一方、
図1(b)に示す受信系統は、受信アンテナ21でレーダ反射信号を受信し、周波数変換器22で受信信号をベースバンドに周波数変換し、AD変換器23でディジタル信号に変換する。
【0019】
次に、パルス圧縮(非特許文献2参照)信号の場合は、fast-time軸FFT24でfast-time軸のFFT処理を行い、共役乗算器25でパルス圧縮信号と同じくFFT処理したfast-time軸の参照信号と共役乗算を行い、レンジ周波数軸の信号を得る。
【0020】
次に、keystone(キーストン)変換器26でkeystone変換(非特許文献1:keystone方式参照)を行ってPRFの整数倍で決まる速度を取得した後、fast-time軸逆FFT27でfast-time軸について逆FFT処理し、slow-time軸FFT28でslow-time軸のFFT処理を行って、Nambの範囲(PRFで決まる速度を超える場合の折り返しを表す整数倍のパラメータ)の処理を行い、レンジ-ドップラデータ(RD{Namb})を得て保存する。Nambの範囲の処理を終了したら、RD{Namb}の中で、所定の振幅スレショルドを超える場合には、最大セル置き換え器29で最大セルに置き換えて、レンジ-ドップラデータの最大値RDmaxを得る。この最大値RDmaxについて、CFAR仮検出器2AでCFAR処理により目標を仮検出する。
【0021】
仮検出後、fast-time軸逆FFT27の出力に基づいて最大経路探索器2Bで最大経路を探索し、最大経路置き換え器2Cで探索された最大経路に置き換え、slow-time軸FFT処理器2Dでslow-time軸FFT処理した後、CFAR検出器2EでCFARによる目標検出を行う。
【0022】
図2は、上記Keystone変換を用いた目標検出処理の流れを示すフローチャートである。
図2において、
図1に示した送信系統及び受信系統によりN(N≧2)ヒットのパルスの広帯域信号が送受信されると(ステップS11)、パルス圧縮信号の場合は、fast-time軸のFFT処理を行い(24、ステップS12)、パルス圧縮信号と同じくFFT処理したfast-time軸の参照信号と共役乗算を行って、レンジ周波数軸の信号を得る(25、ステップS13)。
【0023】
ここで、上記構成において、本実施形態に適用する長時間積分方式について説明する。
【0024】
上記レーダシステムの受信系統では、PRI(Pulse Repetition Interval)間隔で送信したパルス毎に、PRI内のレンジセル単位でデータを取得し、この取得データを用いて長時間積分処理を実施する。長時間積分の場合には、目標の速度及び加速度により、slow-time軸に対してレンジセルが動くため、高分解能なレンジ圧縮及びslow-time軸のFFT処理を行うと、目標SN(信号対雑音比)が低下する。この対策として、本実施形態ではkeystone変換(非特許文献2参照)を用いて仮検出する方法を提案する。keystone変換について述べる。
【0025】
図3は、
図1に示すレーダシステムに適用されるkeystone変換を説明するための図である。複数パルスを送受信した信号は、slow-time軸-fast-time軸では、
図3(a)に示すように受信される。実際の受信信号はレンジ圧縮(非特許文献1参照)前であるが、便宜上レンジ圧縮した表現としている。これをレンジ周波数軸-slow-time軸に変換した信号S(f,tm)で表現すると、
図3(b)に示すようになり、これに対応して(1)~(3)式が成立する。
【0026】
【0027】
【0028】
【数3】
ここで、レンジ周波数fの関数として、(4)式の変換を行う。
【0029】
【0030】
【数5】
となる。レンジ周波数毎にサンプル点がtmからτmに変換されているため、2番目のサンプル点は、
図3(c)に示すようになる。ここで、(5)式のf-τm軸では、目標速度はfと独立であるため、レンジ周波数軸を逆FFT処理してfast-time軸に変換しても、レンジウォークが発生せず、速度が(3)式を満足する範囲であれば、
図3(d)に示すように、レンジウォークを補正できていることを示している。このことから、slow-time軸をFFT処理すると、
図3(e)に示すように、高いSNで目標を検出することができる。(3)式を満足させるには、目標速度に応じてNambを決める必要があるが、速度が未知の場合には、目標速度範囲を決めてNambをサーチすることになる。
【0031】
図4は、目標が複数の場合のkeystone変換の適用を説明するための図である。
図4(a)に示すように複数目標の場合で、速度が不明の場合は、
図4(b)に示すように、Nambを変えて複数通りのkeystone変換を行う。Nambとしては、PRFの整数倍で決まる速度として、(2)式のNamb(Namp=-Nv~Nv、Nvは整数)を順に設定する。これを
図4(c)に示すようにレンジ圧縮し、さらに
図4(d)に示すようにslow-time軸でFFT処理して、最大となるslow-time軸の信号を抽出し、
図4(e)に示すように、レンジ-ドップラデータをNamb毎に最大セルとなる信号に置き換えて、
図4(f)に示すようにCFAR(非特許文献3参照)処理することにより、目標を仮検出できる。
【0032】
このようにすれば、複数目標の速度が大きく異なり、Nambが異なる場合でも、Nambの探索法を用いることで、いずれかのNambでレンジウォークを補正できるため、SN劣化を生じることなく積分することができる。
【0033】
具体的には、入力信号と参照信号をfast-time軸でFFT処理すると(6)式及び(7)式となる。
【0034】
【0035】
【数7】
この信号を用いて共役乗算すると、(8)式となる。
【0036】
【0037】
このレンジ周波数のslow-time軸の信号を用いて、前述したkeystone変換を行い(26、ステップS14)、レンジ圧縮(fast-time軸逆FFT処理27)及びslow-time軸FFT処理(28)して最大値に置き換え(29)、CFAR仮検出(2A)することで、目標を仮検出する(ステップS22~S34)。
【0038】
まず、slow-time軸FFT処理前にfast-time軸広帯域圧縮を行い(ステップS22)、積分系列探索法によりレンジ及びドップラの成分系列を補正し(ステップS23)、slow-time軸FFT処理を行って(ステップS24)、その結果を保存する(ステップS25)。ここで、速度数が終了か判断し(ステップS26)、終了していなければ速度を変更して(ステップS27)、ステップS23に戻る。また、加速度が終了か判断し(ステップS28)、終了していなければ加速度を変更して(ステップS29)、ステップS23に戻る。また、レンジバイアスが終了か判断し(ステップS30)、終了していなければレンジバイアスを変更して(ステップS31)、ステップS23に戻る。続いて、最大系列を探索し(ステップS32)、見つかった最大系列に置き換える(ステップS33)。ここで、仮検出数が終了したか判断し(ステップS34)、終了していなければ仮検出を変更し(ステップS35)、ステップS23に戻る。仮検出数が終了していれば、slow-time軸FFT処理し(ステップS36)、CFAR検出処理を実行して目標を検出する(ステップS37)。
【0039】
以上のkeystone法では、加速度の無い等速の目標の場合には、レンジウォークがRDデータ上で直線になるため補正できるが、加速度を持つ場合は、レンジウォークが曲線になり、積分ロスが発生する。この対策のためには、加速度を考慮した探索法(ステップS28、S29)が必要になる。なお、この速度変化による成分をドップラウォーク補正と呼ぶ。
【0040】
ステップS21の仮検出後は、レンジ圧縮後の信号を用いて、元の入力信号から加速度変化も含めたレンジウォーク及びドップラウォーク補正を行う。この補正について、
図5を用いて説明する。
【0041】
図5は、
図1に示すレーダシステムで、仮検出後のレンジウォーク補正を説明するための図である。keystone変換を用いた仮検出結果を用いて、仮検出毎にレンジセルを抽出して、レンジセルRt(t=1~Pt:Ptは仮検出数)を得る(
図5(a))。
【0042】
次に、仮検出したRtセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定する(
図5(b))。
【0043】
【0044】
各積分系列を、レンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク・ドップラウォーク補正して、slow-time軸で並べ替える(
図5(c))。この系列を全slow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定する(2B、ステップS32)。レンジRt毎に、slow-time軸でNセルのデータを最大となる積分系列に置き換える処理を仮検出のPtセル分繰り返して、RDcalデータを得る(2C、ステップS33~S35)。このRDcalデータを用いて、slow-time軸FFT処理して(2D、ステップS36)(
図5(d))、CFARにより検出する(19、ステップS37)(
図5(e))。
【0045】
以上の処理により、仮検出によりサーチ範囲を限定して処理規模を低減した上で、加速度まで含めた補正をして、高いSNで処理できるため、誤検出は抑圧しつつ、目標を検出できる。
【0046】
この結果を積分系列毎(Sv×Sa×Sb通り)に繰り返して、slow-time軸FFT処理結果が最大となる積分系列を抽出すれば、レンジウォーク及びドップラウォーク補正結果を得ることができる。
【0047】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、レンジウォーク及びドップラウォーク(速度及び加速度)により、slow-time軸毎にレンジがずれることに対する補正手法について述べた。この際、レンジセルずれを補正しても、レンジセル内の速度、加速度による位相の補正まではできていない。この対策のために、本実施形態では、合成開口処理のオートフォーカス手法であるPGA(Phase gradient autofocus, 非特許文献4、特許文献3参照)を適用する例について説明する。
【0048】
図6は、第2の実施形態に係るレーダシステムの送信系統及び受信系統の構成を示すブロック図、
図7は、
図6に示すレーダシステムにおける処理の流れを示すフローチャートである。
図6及び
図7において、
図1及び
図2と同一部分については同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0049】
本実施形態では、
図6(b)及び
図7において、最大経路置き換えの処理後(2C、ステップS33)、PGA(Phase gradient autofocus)処理(2Ca、ステップS33a)を実行してslow-time軸FFT処理する(2D、ステップS36)。
【0050】
上記構成において、まず、PGA処理について述べるため、レンジ圧縮-ドップラ軸の結果(レンジ-ドップラデータ)の中で、仮検出されたPt通りの中の1レンジセルについて説明する。その他の仮検出されたレンジセルについても同様の処理を行えばよい。
【0051】
図8は、
図7に示す処理中のドップラ位相補正を具体的に示すフローチャート、
図9は、
図8に示すドップラ位相補正について具体的に説明するための図である。
【0052】
図8に示すように、レンジ圧縮-slow-time(ドップラ)軸の結果(レンジ-ドップラデータ)の信号(
図9(a1)、(a2))を入力し(ステップS31)、仮検出したレンジセルのドップラ軸の信号の中で、所定の振幅スレショルドを超えた極大値(ピーク値)を抽出する(ステップS32)。次に、極大値のドップラ軸に対する位相勾配を除き、速度及び加速度による位相ずれのみを抽出するため、極大値をドップラ軸で0周波数にシフトするように、ドップラ軸の信号を並べ替える(
図9(b1)、(b2))(ステップS33)。次に、位相ずれの振動成分を取り除き、安定した補正成分を得るために、極大値(0ドップラ)を中心に±R(R≧1)セルに窓関数(非特許文献4参照)を乗算し、窓関数の外側をゼロ埋めした信号s0を生成し(ステップS34)、この信号を逆FFT処理する(
図9(c))(ステップS35)。
【0053】
【数10】
この信号S0(ts)の逆特性となる補正量Wc(ts)をslow-time軸の信号の補正値として、入力信号を補正し、FFT処理によりドップラ軸の信号を得る。
【0054】
【数11】
このFs0(fs)を用いれば、速度や加速度変化による位相変化がある場合でも、高いSNで目標を検出することができる。
【0055】
以上のPGA処理は、
図6及び
図7に示すように、最大経路を探索して、仮検出したレンジセルのslow-time軸を最大経路に置き換えたslow-time軸の信号に対して行う。PGA処理により、slow-time軸の位相を補正することで、slow-time軸FFT処理した結果のSNが向上する。
【0056】
図10は、
図6に示すレーダシステムで、仮検出された目標が複数の場合に仮検出後のレンジウォーク補正に続いてドップラ位相補正を行う場合を説明するための図である。
【0057】
まず、keystone変換を用いた仮検出結果を用いて、仮検出毎にレンジセルを抽出して、レンジセルRt(t=1~Pt:Ptは仮検出数)を得る(
図10(a))。次に、仮検出したRtセルを中心に、所定の探索範囲の速度(Sv通り)及び加速度(Sa通り)とレンジセルのバイアス分(Sb通り)を用いて、slow-time軸に沿った積分系列(Sv×Sa×Sb)を設定する(
図10(b))。
【0058】
各積分系列を、レンジ軸でRtセルになるようにレンジウォーク・ドップラウォーク補正して、slow-time軸で並べ替える(
図10(c))。この系列を全slow-time軸でFFT処理したSv×Sa×Sb通りの結果の最大値が最大となる積分系列(slow-time軸FFT処理前)を選定する。レンジRt毎に、slow-time軸でNセルのデータを最大となる積分系列に置き換える処理を仮検出のPtセル分繰り返して、RDcalデータを得る(
図10(d))。ここで、PGA処理を実行してドップラ位相補正を行った後(
図10(e))、RDcalデータを用いて、slow-time軸FFT処理して、CFARにより検出する(
図10(f))。これにより、誤検出を抑圧して目標を検出することができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、
21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…fast-time軸FFT、25…共役乗算器、26…Keystone変換器、27…fast-time軸逆FFT、28…slow-time軸FFT、29…最大値置き換え器、2A…CFAR仮検出器、2B…最大経路探索器、2C…最大経路置き換え器、2Ca…PGA処理器、2D…slow-time軸FFT、2E…CFAR検出器。