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  • 特開-プロトンポンプ機能促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176610
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】プロトンポンプ機能促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20241212BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241212BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241212BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20241212BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20241212BHJP
   A23G 3/34 20060101ALN20241212BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241212BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20241212BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20241212BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20241212BHJP
   A61K 125/00 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61K36/484
A61P43/00 107
A61P17/00
A23L33/105
A61P17/16
A23L2/52
A23L2/00 F
A23G3/34
C12N15/09 Z
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
A61K125:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095304
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山羽 宏行
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B063
4B117
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B014GB08
4B014GG04
4B014GG18
4B014GK03
4B014GK04
4B014GK05
4B014GK07
4B014GL04
4B014GL06
4B014GL11
4B014GP10
4B018LB01
4B018LB08
4B018LE01
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS25
4B063QX02
4B117LC04
4B117LG18
4B117LK08
4B117LL01
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4B117LP01
4C083AA082
4C083AA111
4C083AA112
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4C083AB032
4C083AB232
4C083AB242
4C083AB312
4C083AB352
4C083AB432
4C083AB442
4C083AC012
4C083AC022
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4C083AC122
4C083AC172
4C083AC182
4C083AC242
4C083AC302
4C083AC352
4C083AC372
4C083AC422
4C083AC432
4C083AC442
4C083AC482
4C083AC542
4C083AC842
4C083AD022
4C083AD092
4C083AD112
4C083AD212
4C083AD242
4C083AD272
4C083AD282
4C083AD352
4C083AD512
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC07
4C083CC12
4C083CC25
4C083DD27
4C083DD31
4C083DD41
4C088AB60
4C088AC10
4C088CA05
4C088CA06
4C088MA35
4C088MA43
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】皮膚のpHを調整し、皮膚のバリア機能を改善する植物由来成分を見出し、これを有効成分とする、作用点が明確であり、且つ、優れた皮膚pH調整剤、皮膚バリア機能改善剤及び口唇の質感改善剤を提供する。
【解決手段】第1工程として、カンゾウを液体の水からなる前処理剤で抽出し、濾過して、濾液と抽出残渣に分別し、第2工程として、第1工程の抽出残渣を更に水、低級アルコール及び液状多価アルコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出剤を用い、抽出温度が第1工程の抽出温度よりも20℃以上高い温度で抽出したカンゾウの抽出物を含有することを特徴とするプロトンポンプ機能促進剤を提供する。
【効果】本発明の抽出物は、プロトンポンプ機能を促進する作用を介して、皮膚のpHを弱酸性に維持することによる皮膚のバリア機能及び口唇の質感の改善を目的とする化粧品、医薬品、医薬部外品及び食品へ応用できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1工程として、カンゾウを液体の水からなる前処理剤で抽出し、濾過して、濾液と抽出残渣に分別し、第2工程として、第1工程の抽出残渣を更に水、低級アルコール及び液状多価アルコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出剤を用い、抽出温度が第1工程の抽出温度よりも20℃以上高い温度で抽出したカンゾウ抽出物を含有することを特徴とするプロトンポンプ機能促進剤。
【請求項2】
第1工程の抽出温度が0~20℃であり、更に、第2工程の抽出剤が水であり、且つ、抽出温度が第1工程の抽出温度よりも70℃以上高いことを特徴とする請求項1記載の機能促進剤。
【請求項3】
第1工程の抽出温度が0~20℃であり、更に、第2工程の抽出剤が25重量%以上のエタノール水溶液又はエタノールであることを特徴とする請求項1記載の機能促進剤。
【請求項4】
プロトンポンプがナトリウム/水素イオン交換輸送体である請求項1~3いずれか記載の機能促進剤。
【請求項5】
請求項1記載の剤を含む、皮膚pH調整剤。
【請求項6】
請求項1記載の剤を含む、皮膚バリア機能改善剤。
【請求項7】
請求項1記載の剤を含む、口唇の質感改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚におけるプロトンポンプの機能を促進する皮膚pH調整剤、皮膚バリア機能改善剤及び口唇の質感改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表皮の最も重要な機能の一つに、ケラチノサイトの分裂とその後の分化により、常に新しい角質細胞をつくり出すことで、外界の種々の刺激から皮膚を防御するバリア機能が挙げられる。様々な内的及び外的要因によるバリア機能の低下は、経表皮水分蒸散量(TEWL:transepidermal water loss)を増加させ、かさつき、落屑、掻痒感、炎症等を引き起こす。これらは、更にバリア機能を低下させる。
【0003】
バリア機能の一つに皮膚の弱酸性化が挙げられ、これは透過障壁の恒常性や角質層の耐久性に働く(非特許文献1)。また、細胞外脂質二重膜の脂質間結合や(非特許文献2)、セラミド産生酵素であるβ-グルコセレブロシダーゼ(β-glucocerebrosidase)、酸性スフィンゴミエリナーゼ(acidic sphingomyelinase)の活性にも関与する(非特許文献3)。
【0004】
一方、皮膚のpH上昇は、バリア機能回復の遅延や角質層セリンプロテアーゼの活性化を引き起こす(非特許文献4及び5)。中性からアルカリ性に至適pHを有するセリンプロテアーゼは、角質細胞の剥離・脱落に関わるタンパク質分解酵素であり、コルネオデスモソームを分解して皮膚の剥離を誘発する。
【0005】
皮膚のpH低下、即ち、弱酸性化には、汗や皮脂に含まれる成分の影響が考えられていたが、近年、ケラチノサイトに存在するプロトンポンプが重要な役割を果たしており、プロトンポンプの一種であるナトリウム/水素イオン交換輸送体(Na/H exchanger:NHE)の機能低下が皮膚のpH上昇につながることが明らかにされてきた(非特許文献6及び7)。
【0006】
皮膚のバリア機能を改善する手段としては、保湿性の高い物質、例えば、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸等を含有した組成物を塗布することが主流であったが、これらは一時的に角質層表面に水分を補うものであることから、十分な効果を有するものではなかった。また、皮膚を弱酸性に保つために酸性化粧水が開発されているが、これらの効果は一時的であり、効果の持続性に問題があった。
【0007】
これまでに、皮膚pH調整剤として鎮痒外用剤(特許文献1)、皮膚バリア機能改善剤として皮膚バリア機能増強剤(特許文献2)等が知られているが、より安全で、効果の高い製剤が求められている。
【0008】
口唇は顔の印象に大きく影響を及ぼす部位であり、いきいきとした口唇の色みや質感が求められている。皮膚は、外側から表皮、真皮、皮下組織からなり、口唇の皮膚も同様ではあるが、他の部位の皮膚と組織学的に相違している。即ち、口唇は表皮の角質層が薄く、皮脂腺や汗腺がほとんど存在しないために乾燥しやすく、物理的、化学的、環境的要因によって影響を受けやすい。
【0009】
口唇の質感が低下する原因として、加齢や紫外線による組織の機能低下等が挙げられる。口唇の表皮は薄いため、角質細胞の重層剥離等による少しのざらつきが、口唇表面の視覚的な色や明るさの均質さ、触覚的な凹凸といった部分的変化に影響を及ぼす。また、下部に存在する真皮の影響を直接受けやすく、コラーゲン産生の低下等のシワ、タルミによってもその質感が大きく左右される。従って、加齢や紫外線による口唇組織の機能低下を予防、改善することは、口唇の質感の向上にとって重要である。
【0010】
これまでに、口唇の質感改善剤として口唇用組成物(特許文献3)、抗老化遺伝子発現促進剤(特許文献4)等が知られているが、より安全で、効果の高い製剤が求められている。
【0011】
カンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis)は、マメ科カンゾウ属に属する多年草である。これまで、カンゾウの地下部(根及びストロン)の抽出物に抗炎症作用、抗アレルギー作用、抗ストレス作用があり、生薬として用いられていることが知られている(非特許文献8)。近年、カンゾウの研究が進められ、カンゾウの皮膚バリア機能増強剤についてはすでに公知であるが(特許文献5及び6)、より効果の高いカンゾウの製造が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】平2-164823
【特許文献2】特開2015-105269
【特許文献3】特開2020-100592
【特許文献4】特開2023-21890
【特許文献5】特開2003-176218
【特許文献6】特開2008-255051
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Schmid-Wendtner MH et al,Skin Pharmacol.Physiol.,19,296-302(2006)
【非特許文献2】Gibbs S et al,Arch.Dermatol.Res.,289,585-595(1997)
【非特許文献3】Hachem JP et al,J.Invest.Dermatol.,130,500-510(2010)
【非特許文献4】Mauro T et al,Arch.Dermatol.Res.,290,215-222(1998)
【非特許文献5】Hachem JP et al,J.Invest.Dermatol.,125,510-520(2005)
【非特許文献6】Behne MJ et al,J.Biol.Chem.,277,47399-47406(2002)
【非特許文献7】Choi EH et al,J.Invest.Dermatol.,127,2847-2856(2007)
【非特許文献8】世界有用植物事典、平凡社、1193(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決する課題は、皮膚のpHを調整し、皮膚のバリア機能を改善する植物由来成分を見出し、これを有効成分とする、作用点が明確であり、且つ、優れた皮膚pH調整剤、皮膚バリア機能改善剤及び口唇の質感改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題の解決に向け鋭意検討を行った結果、第1工程として、カンゾウを液体の水からなる前処理剤で抽出し、濾過して、濾液と抽出残渣に分別し、第2工程として、第1工程の抽出残渣を更に水、低級アルコール及び液状多価アルコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出剤を用い、抽出温度が第1工程の抽出温度よりも20℃以上高い温度で抽出したカンゾウの抽出物に、優れたプロトンポンプ機能促進作用を有することを見出した。更に、本発明者らは、その抽出物を含有する組成物に、優れた皮膚pH調整効果、皮膚バリア機能改善効果及び口唇の質感改善効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、前処理を施したカンゾウの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするプロトンポンプ機能促進剤、皮膚pH調整剤、皮膚バリア機能改善剤、口唇の質感改善剤に関する。
【0017】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1)第1工程として、カンゾウを液体の水からなる前処理剤で抽出し、濾過して、濾液と抽出残渣に分別し、第2工程として、第1工程の抽出残渣を更に水、低級アルコール及び液状多価アルコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出剤を用い、抽出温度が第1工程の抽出温度よりも20℃以上高い温度で抽出したカンゾウ抽出物を含有することを特徴とするプロトンポンプ機能促進剤。
(2)第1工程の抽出温度が0~20℃であり、更に、第2工程の抽出剤が水であり、且つ、抽出温度が第1工程の抽出温度よりも70℃以上高いことを特徴とする(1)記載の機能促進剤。
(3)第1工程の抽出温度が0~20℃であり、更に、第2工程の抽出剤が25重量%以上のエタノール水溶液又はエタノールであることを特徴とする(1)記載の機能促進剤。
(4)プロトンポンプがナトリウム/水素イオン交換輸送体である(1)~(3)いずれか記載の機能促進剤。
(5)(1)記載の剤を含む、皮膚pH調整剤。
(6)(1)記載の剤を含む、皮膚バリア機能改善剤。
(7)(1)記載の剤を含む、口唇の質感改善剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明のカンゾウの抽出物は、プロトンポンプ機能促進効果に優れていた。この抽出物を含有することを特徴とするプロトンポンプ機能促進剤は、皮膚のpHを弱酸性に維持することにより、皮膚のバリア機能改善効果や口唇の質感改善効果に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実験例3で、女性被験者23名の口唇におけるシワの最大深度と表面pHとの関係を示したグラフである。
【0020】
図2】実験例3で、女性被験者23名の口唇における表面の粗さと表面pHとの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明におけるプロトンポンプは、哺乳類細胞の膜に存在し、細胞内の水素イオン(H)を細胞外に能動輸送するタンパク質である。
【0022】
本発明におけるプロトンポンプ機能促進は、ケラチノサイトにおけるプロトンポンプ遺伝子の発現及びそのタンパク質合成の促進をいうが、それに続く細胞内から細胞外への水素イオン(H)輸送の促進をも包含する。
【0023】
本発明におけるナトリウム/水素イオン交換輸送体は、細胞内の水素イオン(H)と細胞外のナトリウムイオン(Na)を1:1で交換輸送する交換輸送体タンパク質であり、細胞内のイオン濃度や浸透圧の調整に重要な役割を果たしている。
【0024】
本発明における皮膚pH調整は、皮膚表面のpHを4.0~6.5、好ましくは4.5~6.0の弱酸性に維持することをいう。
【0025】
本発明における皮膚バリア機能は、ケラチノサイトの分裂とその後の分化により常に新しい角質細胞をつくり出すことで、角質層の内側の水分蒸散を防いだり、外界の種々の刺激から皮膚を守ったりすることをいう。
【0026】
本発明における口唇の質感は、表皮における角質細胞の重層剥離等や、真皮におけるコラーゲン産生の低下等のシワ、タルミによって生み出される、口唇表面の視覚的な色や明るさの均質さ、触覚的な凹凸といった部分的変化から受ける感じのことをいう。具体的には、口唇のシワや粗さの程度により評価できる。
【0027】
ケラチノサイトにおいて、プロトンポンプの一種であるNHEが正常に機能すると、細胞内にナトリウムイオン(Na)が取り込まれると共に細胞外に水素イオン(H)が輸送される。この細胞外に輸送された水素イオン(H)が皮膚pHの弱酸性化に寄与する(非特許文献6及び7)。従って、本発明のカンゾウの抽出物は、プロトンポンプ機能を促進する作用を介して、皮膚のpHを弱酸性に維持することにより、皮膚のバリア機能改善及び口唇の質感改善に有用である。
【0028】
本発明に用いるカンゾウ(別名:ウラルカンゾウ)(学名:Glycyrrhiza uralensis)は、マメ科カンゾウ属に属する多年草で、中国東北部、中北部、西北部或いはモンゴルに自生している。また、スペインカンゾウ(学名:Glycyrrhiza glabra)は中国西北部、中東、ヨーロッパ諸国、旧ソ連の一部に自生している。本発明に用いるカンゾウは、好ましくはウラルカンゾウが良い。
【0029】
本発明に用いるカンゾウは、その花、果実、種子、葉、茎、根等の植物体の一部又は植物体全体(全草)或いはそれらの混合物を用いることができるが、特に地下部(根及びストロン)が好ましい。また、植物体をそのまま使用しても良く、乾燥、粉砕、細切等の処理を行っても良い。なお、Glycyrrhiza uralensis又はGlycyrrhiza glabraを基原植物として市販された生薬「甘草(カンゾウ)」を用いることもできる。
【0030】
[第1工程:前処理剤での抽出]
前処理剤としては、液体の水を用いる。また、上記前処理剤に酸やアルカリを添加して、pH調整した前処理剤を使用することもできる。前処理剤の使用量については、特に限定はなく、例えばカンゾウ(乾燥重量)に対し、5倍以上であれば良い。好ましくは10倍以上が良く、特に好ましくは20倍以上が良い。前処理剤での抽出温度や抽出時間は抽出時の圧力等によって適宜選択できるが、抽出温度は好ましくは0~20℃が良く、より好ましくは2~15℃が良く、最も好ましくは5~10℃が良い。前処理剤での抽出に用いるカンゾウはそのまま用いても良いが、前処理の効率の面で粉砕、細切等の処理を行うことが好ましい。粉砕や細切を行う場合には,11.2mmのメッシュサイズのふるい(2メッシュ)を通過するものが好ましく、7.47mmのメッシュサイズのふるい(3メッシュ)を通過するものがより好ましく、5.55mmのメッシュサイズのふるい(4メッシュ)を通過するものが最も好ましい。抽出後、濾紙やメッシュ、ふるい等を用いて濾過を行うことができる。ここで回収した抽出残渣を、次の第2工程に用いる。
【0031】
[第2工程:抽出剤での抽出]
抽出剤としては、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)及び液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)からなる群より選ばれる1種又は2種以上を用いる。好ましくは、水-エタノールの混合極性溶媒又はエタノールが良い。中でも、エタノールを25重量%以上含有するものが最も好ましい。また、上記抽出剤に酸やアルカリを添加して、pH調整した抽出剤を使用することもできる。抽出剤の使用量については、特に限定はなく、例えばカンゾウ(乾燥重量)に対し、5倍以上、好ましくは10倍以上であれば良いが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出時間は用いる抽出剤の種類や抽出時の圧力等によって適宜選択できるが、抽出温度は、前処理剤による抽出温度よりも20℃以上高い温度であることが必要である。中でも、水を用いる場合は、前処理剤による抽出温度よりも70℃以上高いことが好ましく、80℃以上高いことがより好ましく、90℃以上高いことが最も好ましい。濾過は、第1工程と同様に行うことができる。
【0032】
なお、前処理剤での抽出残渣は、乾燥してから抽出剤で抽出しても良いし、乾燥せずにそのまま抽出剤で抽出しても良い。その際は、前記抽出残渣に残存する水の影響を考慮して抽出溶媒を選択すると良い。抽出剤による抽出方法は特に限定されず、例えば、撹拌抽出又はカラム抽出する方法等により行うことができる。本発明に用いるカンゾウは、天然由来の植物であり、カンゾウから抽出される成分は、多様な構造の化合物が多数同時に存在する混合物である。従って、含有する成分の構造又は特性を全て明らかにすることは困難であり、抽出物として扱うことが好ましい。
【0033】
上記抽出剤による抽出物は、抽出した溶液のまま用いても良いが、必要に応じて、本発明の効果を奏する範囲で、濃縮(減圧濃縮、膜濃縮等による濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いても良い。更には、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いても良い。
【0034】
また、上記抽出剤による抽出物は、抽出物の効果を損なわない範囲で、化粧品、医薬部外品、医薬品等に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤、賦形剤、皮膜剤等の成分が含有されていても良い。
【0035】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品、食品のいずれにも用いることができ、その剤形としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤、錠菓、チョコレート、ガム、飴、飲料、散剤、顆粒剤、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、丸剤、懸濁剤、液剤、乳剤、坐剤、注射用溶液等が挙げられる。好ましくは、口紅や口唇用パック等の口唇用の外用組成物が良い。
【0036】
外用の場合、本発明に用いる上記抽出物の含有量は、固形物に換算して0.0001重量%以上が好ましく、0.001~10重量%がより好ましい。更に、0.01~5重量%が最も好ましい。0.0001重量%未満では十分な効果は望みにくい。10重量%を超えると、効果の増強は認められにくく不経済である。
【0037】
内用の場合、摂取量は年齢、体重、症状、治癒効果、投与方法、処理時間等により異なる。通常、成人1人あたりの1日の摂取量としては、5mg以上が好ましく、10mg~5gがより好ましい。更に、20mg~2gが最も好ましい。
【0038】
次に、本発明を詳細に説明するため、実施例として本発明に用いる抽出物の製造例、処方例及び実験例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。製造例と処方例に示す%とは重量%を示す。
【実施例0039】
[カンゾウの抽出物の製造例]
本発明のカンゾウの抽出物を製造例1~4の通り製造した。従来のカンゾウの抽出物を比較製造例1~4の通り製造した。抽出材料にはカンゾウ(学名:Glycyrrhiza uralensis)の地下部(根及びストロン)の粉砕品(11.2mmのメッシュサイズのふるいを通過したもの)を用いた。
【0040】
(製造例1)前処理を施したカンゾウの熱水抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し20倍量の水を加え、5℃で24時間抽出した(22時間以内で抽出液の固形分濃度上昇が停止し、これ以上抽出されなくなった)。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過した後、その残渣を乾燥し、得られた乾燥残渣に対し10倍量の水を加え、95℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウの熱水抽出物を0.4g得た。
【0041】
(比較製造例1)従来のカンゾウの熱水抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し10倍量の水を加え、95℃で2時間抽出した。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウの熱水抽出物を2.1g得た。
【0042】
(製造例2)前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し20倍量の水を加え、5℃で24時間抽出した(22時間以内で抽出液の固形分濃度上昇が停止し、これ以上抽出されなくなった)。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過した後、その残渣を乾燥し、得られた乾燥残渣に対し10倍量の50%エタノール水溶液を加え、25℃で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウの50%エタノール抽出物を0.7g得た。
【0043】
(比較製造例2)従来のカンゾウの50%エタノール抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し10倍量の50%エタノール水溶液を加え、25℃で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウの50%エタノール抽出物を2.6g得た。
【0044】
(製造例3)前処理を施したカンゾウのエタノール抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し20倍量の水を加え、5℃で24時間抽出した(22時間以内で抽出液の固形分濃度上昇が停止し、これ以上抽出されなくなった)。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過した後、その残渣を乾燥し、得られた乾燥残渣に対し10倍量のエタノールを加え、25℃で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウのエタノール抽出物を0.4g得た。
【0045】
(比較製造例3)従来のカンゾウのエタノール抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し10倍量のエタノールを加え、25℃で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してカンゾウのエタノール抽出物を0.6g得た。
【0046】
(製造例4)前処理を施したカンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し20倍量の水を加え、5℃で24時間抽出した(22時間以内で抽出液の固形分濃度上昇が停止し、これ以上抽出されなくなった)。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過した後、その残渣を乾燥し、得られた乾燥残渣に対し10倍量の80%1,3-ブチレングリコール水溶液を加え、25℃で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過して、カンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物を45.6g得た。
【0047】
(比較製造例4)従来のカンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物の調製
カンゾウの地下部の乾燥物10gに対し10倍量の80%1,3-ブチレングリコール水溶液を加え、25℃で7日間浸漬し、抽出を行った。得られた抽出液を濾紙No.5Cで濾過して、カンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物を89.6g得た。
【実施例0048】
[製品の処方例]
以下に示す処方例に従い、製造例1~4で製造したカンゾウの抽出物を含有した化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、パック、リップエッセンス、リップクリーム、リクイドリップクリーム、ファンデーション、浴用剤、軟膏、散剤、錠剤、錠菓、飲料を常法により調製した。
【0049】
(処方例1)化粧水
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物(製造例2) 0.1
2.1,3-ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水 残量
【0050】
(比較処方例1)従来の化粧水
処方例1において、前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物を従来のカンゾウの50%エタノール抽出物に置き換えたものを、従来の化粧水とした。
【0051】
(処方例2)クリーム
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの熱水抽出物(製造例1) 1.0
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
12.1,3-ブチレングリコール 8.5
13.精製水 残量
【0052】
(処方例3)乳液
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウのエタノール抽出物(製造例3) 0.01
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水 残量
【0053】
(処方例4)ゲル剤
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの
80%1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 1.0
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(60E.O.) 0.1
5.香料 適量
6.1,3-ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水 残量
【0054】
(処方例5)パック
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.前処理を施したカンゾウの
80%1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 5.0
3.ポリビニルアルコール 12.0
4.エタノール 5.0
5.1,3-ブチレングリコール 8.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
7.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
8.クエン酸 0.1
9.クエン酸ナトリウム 0.3
10.香料 適量
11.精製水 残量
【0055】
(処方例6)リップエッセンス
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの
80%1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 0.3
2.グリセリン 5.0
3.1,3-ブチレングリコール 5.0
4.カルボキシメチルセルロース 0.5
5.ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.5
6.水酸化カリウム 0.5
7.セスキオレイン酸ソルビタン 0.5
8.モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 1.5
9.流動パラフィン 5.0
10.パラオキシ安息香酸メチル 0.3
11.フェノキシエタノール 0.01
12.精製水 残量
【0056】
(比較処方例2)従来のリップエッセンス
処方例6において、前処理を施したカンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物を従来のカンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物に置き換えたものを、従来のリップエッセンスとした。
【0057】
(処方例7)リップクリーム
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの
80%1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4) 0.05
2.ポリエチレンワックス 1.5
3.パラフィンワックス 9.0
4.マイクロクリスタリンワックス 3.0
5.カルナウバロウ 3.0
6.パルミチン酸デキストリン 0.25
7.流動パラフィン 10.0
8.トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2 残量
【0058】
(処方例8)リクイドリップクリーム
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウのエタノール抽出物(製造例3) 0.1
2.ポリエチレンワックス 2.0
3.マイクロクリスタリンワックス 5.0
4.カルナウバロウ 0.5
5.ステアリン酸イヌリン 0.1
6.ミリスチン酸デキストリン 0.05
7.重質流動イソパラフィン 35.0
8.リンゴ酸ジイソステアリル 10.0
9.トリイソステアリン酸ポリグリセリル-2 残量
【0059】
(処方例9)ファンデーション
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.) 2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
10.ベントナイト 0.5
11.プロピレングリコール 4.0
12.トリエタノールアミン 1.1
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.二酸化チタン 8.0
15.タルク 4.0
16.ベンガラ 1.0
17.黄酸化鉄 2.0
18.香料 適量
19.精製水 残量
【0060】
(処方例10)浴用剤
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウのエタノール抽出物(製造例3) 1.0
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号(1) 適量
4.香料 適量
5.硫酸ナトリウム 残量
【0061】
(処方例11)軟膏
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの熱水抽出物(製造例1) 5.0
2.前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物(製造例2) 1.0
3.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.) 2.0
4.モノステアリン酸グリセリン 10.0
5.流動パラフィン 5.0
6.セタノール 6.0
7.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
8.プロピレングリコール 10.0
9.精製水 残量
【0062】
(処方例12)散剤
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの熱水抽出物(製造例1) 1.0
2.乾燥コーンスターチ 39.0
3.微結晶セルロース 60.0
【0063】
(処方例13)錠剤
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの熱水抽出物(製造例1) 5.0
2.乾燥コーンスターチ 25.0
3.カルボキシメチルセルロースカルシウム 20.0
4.微結晶セルロース 40.0
5.ポリビニルピロリドン 7.0
6.タルク 3.0
【0064】
(処方例14)錠菓
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの熱水抽出物(製造例1) 2.0
2.乾燥コーンスターチ 49.8
3.エリスリトール 40.0
4.クエン酸 5.0
5.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
6.香料 0.1
7.精製水 残量
【0065】
(処方例15)飲料
処方 含有量(%)
1.前処理を施したカンゾウの熱水抽出物(製造例1) 0.05
2.ステビア 0.05
3.リンゴ酸 5.0
4.香料 0.1
5.精製水 残量
【0066】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例0067】
(実験例1)ケラチノサイトにおけるプロトンポンプ機能促進効果
ケラチノサイト由来HaCaT細胞を6wellプレートに1wellあたり5×10個播種し、10%FBSを含むDMEM培養液にて、37℃、5%CO条件下で4日間培養した。次に、試料(最終濃度1及び10μg/ml)を添加したDMEM培養液にて24時間培養した後、総RNAの抽出を行った。細胞からの総RNAの抽出はRNAiso Plus(タカラバイオ)を用いて行い、総RNA量は分光光度計(Nanodrop)を用いて260nmにおける吸光度により求めた。mRNA発現量の測定は、細胞から抽出した総RNAを基にしてリアルタイムRT-PCR法により行った。リアルタイムRT-PCR法には、High Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems)及びSYBR Select Master Mix(Applied Biosystems)を用いた。即ち、500ngの総RNAを逆転写反応後、PCR反応(95℃:15秒間、60℃:60秒間、40cycles)を行った。その他の操作は定められた方法に従い、NHE1mRNAの発現量を、内部標準であるβ-アクチンmRNAの発現量に対する割合として求めた。NHE1発現率は、コントロール(試料未添加)群のNHE1mRNAの発現量に対する試料添加群のNHE1mRNAの発現量の比率として算出した。なお、各遺伝子の発現量の測定に使用したプライマーは次の通りである。
【0068】
NHE1用のプライマーセット
GCCCTGTTAATCATTCCGTC(配列番号1)
CACATGGAAACCTATCTTCATGAG(配列番号2)
β-アクチン用のプライマーセット
CACTCTTCCAGCCTTCCTTCC(配列番号3)
GTGTTGGCGTACAGGTCTTTG(配列番号4)
【0069】
これらの実験結果を表1に示した。その結果、前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物(製造例2)及び比較品の従来のカンゾウの50%エタノール抽出物(比較製造例2)はNHE1mRNA発現量を増加させたが、比較品の従来のカンゾウの50%エタノール抽出物(比較製造例2)よりも、前処理を施したカンゾウの50%エタノール抽出物(製造例2)の方が、顕著に高い効果が認められた。なお、異なる抽出方法である、前処理を施したカンゾウの熱水抽出物(製造例1)及び比較品の従来のカンゾウの熱水抽出物(比較製造例1)、前処理を施したカンゾウのエタノール抽出物(製造例3)及び比較品の従来のカンゾウのエタノール抽出物(比較製造例3)、前処理を施したカンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物(製造例4)及び比較品の従来のカンゾウの80%1,3-ブチレングリコール抽出物(比較製造例4)についても同様の実験を行った結果、比較品の従来のカンゾウの抽出物よりも、前処理を施したカンゾウの抽出物の方が、顕著に高い効果が認められた。従って、従来のカンゾウの抽出物と比較して、前処理を施したカンゾウの抽出物はプロトンポンプ機能を促進する作用に優れており、皮膚のpHを弱酸性に維持することにより、皮膚のバリア機能改善に有用であることが示唆された。
【0070】
【表1】
【0071】
(実験例2)使用試験1
本発明の処方例1及び比較処方例1について、使用前後による皮膚pH及びTEWLの測定を行った。即ち、女性被験者3名に、半顔に処方例1、もう半顔に比較処方例1の化粧水をどちらか分からない状態にて1週間使用させた。使用前後に頬部の皮膚pHをポータブル型pHメータD-210P(HORIBA社製)、同部位のTEWLをTewameter TM300(Courage+Khazaka社製)にて計測した。
【0072】
これらの実験結果を表2に示した。その結果、比較処方例1で得られた化粧水と比較して、処方例1で得られた化粧水は頬部の皮膚pH及びTEWLを低下させた。このことから、処方例1は比較処方例1よりもプロトンポンプ機能を促進する作用に優れており、皮膚のpHを弱酸性に維持することにより、皮膚のバリア機能改善に有用であることが示唆された。試験期間中、いずれの被験者も安全に使用できた。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
【0073】
【表2】
【0074】
(実験例3)口唇の質感に及ぼすpHの影響
女性被験者23名の口唇におけるシワの最大深度、表面の粗さ及び表面pHを測定した。即ち、上口唇のシワの最大深度及び表面の粗さを顔面撮影装置アンテラ3D(ミラベックス社製)、上口唇の表面pHをコンパクトpHメータLAQUAtwinpH-22B(HORIBA社製)にて測定した。
【0075】
実験結果を図1及び2に示した。シワの最大深度及び表面の粗さ(Ra)は、表面pHと正の相関が認められた。このことから、口唇の表面pHが低いほどシワや粗さが目立たなくなり、質感が良くなることが示唆された。なお、下口唇についても実験を行ったところ、同様の結果が認められた。
【0076】
(実験例4)使用試験2
女性被験者3名を一群として処方例6及び比較処方例2のリップエッセンスをどちらか分からない状態にて使用させ、使用前後の質感を目視にて評価した。
【0077】
その結果、処方例6で得られたリップエッセンスを使用した方が、比較処方例2で得られたリップエッセンスよりも口唇がふっくらとつややかに見えた。試験期間中、いずれの被験者も安全に使用できた。また、処方成分の劣化についても問題なかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に関わる、第1工程として、カンゾウを液体の水からなる前処理剤で抽出し、濾過して、濾液と抽出残渣に分別し、第2工程として、第1工程の抽出残渣を更に水、低級アルコール及び液状多価アルコールからなる群より選ばれる1種又は2種以上の抽出剤を用い、抽出温度が第1工程の抽出温度よりも20℃以上高い温度で抽出したカンゾウを含有することを特徴とするプロトンポンプ機能促進剤、皮膚pH調整剤、皮膚バリア機能改善剤及び口唇の質感改善剤は、各剤の目的に対して優れた効果を発揮する。従って、プロトンポンプ機能を促進する作用を介して、皮膚のpHを弱酸性に維持することによる皮膚のバリア機能及び口唇の質感の改善を目的とする化粧品、医薬品、医薬部外品及び食品を提供することができる。
図1
図2
【配列表】
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