(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176618
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】圧力調整機構の製造方法、圧力調整機構、記録ヘッド機構、及び、記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B41J2/175 501
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095325
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 諭
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA00
2C056EA26
2C056EC15
2C056EC32
2C056EC57
2C056FA03
2C056FA04
2C056FA10
2C056JA01
2C056JC10
2C056KB14
2C056KB33
2C056KB37
2C056KB40
2C056KC02
(57)【要約】
【課題】従来技術よりも簡易に成形することが可能なフィルムを有する圧力調整機構の製造方法を提供する。
【解決手段】液体の圧力を調整することが可能な圧力調整機構の製造方法は、凹部に弾性体が配された本体と、板部材が固定された、可撓性を有するフィルムと、を用意する工程と、板部材によって弾性体を収縮させながら凹部を覆う様にフィルムを本体に対して溶着する溶着工程と、溶着工程によってフィルムが本体に固定された状態で、フィルムにおける板部材が固定された部分を吸着しながら板部材を凹部とは反対の方向に移動させることにより、フィルムを成形する成形工程と、を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の圧力を調整することが可能な圧力調整機構の製造方法であって、
凹部に弾性体が配された本体と、板部材が固定された、可撓性を有するフィルムと、を用意する工程と、
前記板部材によって前記弾性体を収縮させながら前記凹部を覆う様に前記フィルムを前記本体に対して溶着する溶着工程と、
前記フィルムが前記本体に溶着された状態で、前記フィルムにおける前記板部材が固定された部分を吸着しながら前記板部材を前記凹部とは反対の方向に移動させることにより、前記フィルムを成形する成形工程と、
を含むことを特徴とする圧力調整機構の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程の後に前記フィルムにおける不要な部分を除去する除去工程を更に含む、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記フィルムは、互いに融点が異なる、溶着層と、ベースフィルム層と、を含み、
前記溶着工程において、前記溶着層と、前記凹部の開口の周縁部に成形されたリブと、を加熱して相溶させる、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記リブは、前記凹部の周縁に円環状に成形され、
前記板部材は、円板状であり、
前記溶着工程及び前記成形工程において、環状に配された前記リブが成す輪の中心と前記板部材の中心とは、同一軸線上で重複する、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶着層と前記リブとは、ポリプロピレンを含む、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ベースフィルム層は、前記溶着層に積層され、
前記溶着層は、無延伸ポリプロピレンフィルムを含み、
前記ベースフィルム層は、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを含む、
請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ベースフィルム層は、前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに蒸着されたアルミニウム又はシリカを更に含む、
請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記成形工程において、前記フィルムの一部は、前記フィルムと前記本体との溶着部から前記凹部とは反対の方向に0.9mm移動する、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記溶着工程と前記成形工程との間に、前記フィルムにおける前記本体との溶着部と前記板部材との間の領域を、前記凹部の方向に押し込む押し込み工程を更に含む、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項10】
前記成形工程において、前記フィルムの一部は、前記フィルムと前記本体との溶着部から前記凹部とは反対の方向に1.8mm移動する、
請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記弾性体は、前記凹部と前記板部材とを離間する方向に付勢するばねである、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項12】
前記圧力調整機構は、記録ヘッドに供給するインクの圧力を調整するために、インクジェット記録装置に配される、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記本体は、
前記本体の内部に成形された弁室と、
前記弁室に液体を供給可能な供給流路と、
前記弁室と前記凹部とを接続する接続流路と、
前記弁室に配され、且つ、前記接続流路を開閉可能な弁機構と、
前記凹部から液体を排出可能な排出流路と、を含む、
請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
液体の圧力を調整するための圧力調整機構であって、
液体を収容することが可能な凹部と前記凹部の周縁部から突出するリブとを有する本体と、
延伸可能な第1の層と、延伸が困難な第2の層と、を含み、且つ、前記凹部を塞ぐ様に、前記第2の層が前記リブに溶着された、可撓性を有するフィルムと、
前記凹部に配され、前記フィルムに固定された板部材を前記凹部から離れる方向に付勢する弾性体と、
を備え、
前記フィルムは、前記第2の層と前記リブとが溶着した溶着部と、前記板部材と、の間に、前記板部材を囲う撓み部を有する、
ことを特徴とする圧力調整機構。
【請求項15】
請求項14に記載の圧力調整機構と、
前記圧力調整機構によって圧力が調整された液体を記録媒体に対して吐出可能な記録ヘッドと、
を備える、
ことを特徴とする記録ヘッド機構。
【請求項16】
請求項15に記載の記録ヘッド機構と、
前記圧力調整機構に対して供給するための液体を貯留可能なタンクと、
を備える、
ことを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧力調整機構の製造方法、圧力調整機構、記録ヘッド機構、及び、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録ヘッド等に供給する液体の圧力を、負圧を利用して調整する機構が知られている。特許文献1には、凹形状のフレームと、フレームに溶着され内圧に応じて変形可能なシートと、フレームに内蔵されたばねユニットと、を備え、液体の圧力調整可能な液体収納容器が開示されている。特許文献1には、ばねユニットは、ばね及び圧力板を備えることも開示されている。以下、適宜に、「フレーム」、「シート」、「液体収納部」、「圧力板」、及び「液体収納容器」の夫々を、「本体」、「フィルム」、「収容室」、「板部材」、及び「圧力調整機構」と呼ぶ。特許文献1の液体収納容器によれば、負圧を利用して、液体収納部から外部装置(例えば、インクジェット記録ヘッド)に対して液体(例えば、インク)を供給することが実現される。
【0003】
一般的に、延伸フィルムは、既に延伸された状態であり、無延伸フィルムよりも剛性が大きいことが知られている。延伸フィルムは、無延伸フィルムよりも、気体透過性、耐薬品性、耐熱性、及び、引張り強度等の力学性特性等が優れていることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1の製造方法では、フィルムを延伸させた後、内圧に応じて変形可能な様に当該フィルムを成形する際に、多数の治具(加熱装置、吸引枠、及びアシスト治具等)が必要となってしまう。
【0006】
また、特許文献1の製造方法では、フィルムが凸型に成形される際、フィルムは、ばねの弾性復元力のみによって、押し上げられる。従って、フィルムを押し上げる力が充分でなく、フィルムを均一に成形することが困難となり得る。更に、特許文献1の製造方法では、特許文献1に開示されたフィルムよりも剛性が大きいフィルムを使用する場合も、フィルムを凸型に成形することが困難となり得る。
【0007】
そこで、本開示は、従来技術よりも簡易に成形することが可能なフィルムを有する圧力調整機構の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の方法は、液体の圧力を調整することが可能な圧力調整機構の製造方法であって、凹部に弾性体が配された本体と、板部材が固定された、可撓性を有するフィルムと、を用意する工程と、前記板部材によって前記弾性体を収縮させながら前記凹部を覆う様に前記フィルムを前記本体に対して溶着する溶着工程と、前記フィルムが前記本体に溶着された状態で、前記フィルムにおける前記板部材が固定された部分を吸着しながら前記板部材を前記凹部とは反対の方向に移動させることにより、前記フィルムを成形する成形工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示における圧力調整機構の製造方法によれば、従来技術よりも簡易に、フィルムに対して凸部を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】一実施形態に適用可能な圧力調整機構の一部分を示す模式的な断面図。
【
図3】一実施形態に適用可能なフィルムの一例を示す模式的な断面図。
【
図4】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図5】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図6】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図8】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図10】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図11】一実施形態に適用可能な圧力調整機構の一例を示す模式的な平面図。
【
図12】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図13】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図14】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図15】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図16】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【
図17】一実施形態における圧力調整機構の製造方法の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照しながら本実施形態を説明する。尚、以下の実施形態は、本開示の範囲を限定しない。本開示で説明されている特徴の組み合わせの全てが本開示の解決手段に必須であるとは限らない。本開示に記載されている構成の相対位置、及び形状等はあくまで例示であり、本開示の技術を適用可能な範囲は、それらのみに限定されない。
【0012】
本開示において、「記録」とは、有意の情報(例えば、人間が視覚で知覚し得る様に顕在化した文字、又は図形等)を形成することのみを意味しない。「記録」とは、無意の情報を形成することも意味する。本開示において、「記録」とは、記録媒体上に画像、模様、パターン、構造物、又はこれらの組み合わせ等を形成すること、或いは媒体の加工を行うことも意味する。
【0013】
<記録装置100>
図1は、本実施形態に適用可能な記録装置100の概略図である。
【0014】
図1に示す様に、記録装置100は、液体を貯留することが可能なタンク101、液体を加圧供給するための第1のポンプ102、及び、タンク101を接続することが可能な接続部103を備える。本実施形態では、記録装置100がインクジェット記録装置であり、且つ、液体がインクである場合を想定して説明する。記録装置100は、可撓性を有するチューブ104、走査方向(図中のX方向)に沿って配されたガイド軸105、及び、記録を行うことが可能な記録ヘッド機構106を備える。
【0015】
記録ヘッド機構106は、記録を行う際に内部で圧力を調整可能な圧力調整機構107、圧力調整機構107を着脱可能なキャリッジ108、及びキャリッジ108に配された記録ヘッド109を備える。
【0016】
記録装置100は、記録媒体110を走査方向と交差(本例では、直交)する搬送方向(図中のY方向)に間欠的に搬送するための搬送機構(不図示)を備える。本例では、記録媒体110の一例として、カット紙が使用される。記録装置100は、記録ヘッド109をキャッピングすることが可能なキャップ111、キャップ111に接続された第2のポンプ112、不要な液体を排出可能な排出管113、及び、不要な液体を吸収可能な吸収体114を備える。
【0017】
本実施形態では、タンク101は、記録ヘッド機構106から離れた位置に設置される。尚、タンク101に貯留された液体の容量が所定値以下になった場合、外部からタンク101に液体を補充することが可能である。この様な構成によれば、キャリッジの上に配された一般的なタンクよりも貯留可能な液体の容量を大きくすることができる。
【0018】
本実施形態では、タンク101は、第1のタンク101Y、第2のタンク101M、第3のタンク101C、及び、第4のタンク101Bkを含む。第1のタンク101Y、第2のタンク101M、第3のタンク101C、及び、第4のタンク101Bkの夫々には、種類が異なる液体を独立して貯留することができる。例えば、第1のタンク101Yは、イエロー色の液体を貯留することが可能である。第2のタンク101Mは、マゼンタ色の液体を貯留することが可能である。第3のタンク101Cは、シアン色の液体を貯留することが可能である。第4のタンク101Bkは、ブラック色の液体を貯留することが可能である。
【0019】
以下、第1のタンク101Y、第2のタンク101M、第3のタンク101C、及び、第4のタンク101Bkの夫々を特に区別する必要が無い場合には、単に「タンク101」と呼ぶ。
【0020】
液体は、タンク101から接続部103の内部に供給される。チューブ104の基端は、接続部103に接続される。チューブ104の先端は、圧力調整機構107に接続される。
【0021】
本実施形態では、チューブ104は、第1のチューブ104Y、第2のチューブ104M、第3のチューブ104C、及び、第4のチューブ104Bkを含む。第1のチューブ104Yは、イエロー色の液体を供給することが可能である。第2のチューブ104Mは、マゼンタ色の液体を供給することが可能である。第3のチューブ104Cは、シアン色の液体を供給することが可能である。第4のチューブ104Bkは、ブラック色の液体を供給することが可能である。
【0022】
以下、第1のチューブ104Y、第2のチューブ104M、第3のチューブ104C、及び、第4のチューブ104Bkの夫々を特に区別する必要が無い場合には、単に「チューブ104」と呼ぶ。
【0023】
記録ヘッド機構106による記録動作が行われる際、第1のポンプ102が駆動することによって、液体は、上述した4種類の種類毎に独立して接続部103からチューブ104を介して圧力調整機構107に加圧供給される。記録媒体110は、搬送機構(不図示)によって間欠的に搬送される。記録装置100では、記録媒体110の搬送と、走査方向に移動しながら記録媒体110に対して液体を吐出する記録ヘッド機構106による記録と、が交互に行われる。
【0024】
圧力調整機構107は、チューブ104から加圧供給された液体を内部に導入することが可能である。圧力調整機構107の内部に導入された液体は、キャップ111を吐出口面に当接させた状態で第2のポンプ112が吸引駆動することによって、記録ヘッド109に対して供給される。この吸引ポンプが、圧力調整機構107の内部に収容された液体を吸引することによって、圧力調整機構107の内部は負圧となる。
【0025】
本実施形態では、圧力調整機構107は、第1の圧力調整機構107Y、第2の圧力調整機構107M、第3の圧力調整機構107C、及び、第4の圧力調整機構107Bkを含む。第1の圧力調整機構107Yは、第1のチューブ104Yから供給された液体を記録ヘッド109に供給することが可能である。第2の圧力調整機構107Mは、第2のチューブ104Mから供給された液体を記録ヘッド109に供給することが可能である。第3の圧力調整機構107Cは、第3のチューブ104Cから供給された液体を記録ヘッド109に供給することが可能である。第4の圧力調整機構107Bkは、第4のチューブ104Bkから供給された液体を記録ヘッド109に供給することが可能である。
【0026】
以下、第1の圧力調整機構107Y、第2の圧力調整機構107M、第3の圧力調整機構107C、及び、第4の圧力調整機構107Bkの夫々を特に区別する必要が無い場合には、単に「圧力調整機構107」と呼ぶ。
【0027】
圧力調整機構107と記録ヘッド109とは、ガイド軸105に沿って往復移動可能なキャリッジ108に装着される。キャリッジ108は、駆動源(不図示)の駆動力により、走査方向に往復移動可能である。記録ヘッド109は、液体を吐出可能な複数のノズル(不図示)を備える。上述した4種類のうち各種類の液体に対応するノズル列が搬送方向に形成される様に、複数のノズルが配される。複数のノズルにおける各ノズルは、電気熱変換素子(ヒータ)又はピエゾ素子等を用いて、液体を吐出することができる。電気熱変換体を用いた場合、その発熱によって液体を発泡させ、その発泡エネルギーを利用して、ノズル先端の吐出口から液体を滴として吐出することができる。
【0028】
記録ヘッド109がキャリッジ108と一緒に走査方向に移動しつつノズルから液体を吐出する記録走査(スキャン)と、記録媒体110を搬送方向に搬送する動作と、を交互に繰り返すことにより、記録媒体110に対して記録を行うことができる。この様に、本実施形態の記録装置100は、所謂、シリアルスキャン型の記録装置として機能する。従って、本実施形態の記録装置100によれば、一般的なオンキャリッジ型の記録装置が有するキャリッジに比べて、キャリッジ108を軽量化及び小型化することができる。
【0029】
記録ヘッド109のメンテナンスが必要な場合、キャリッジ108は、キャップ111の上方に移動する。キャップ111は、駆動源(不図示)により昇降可能である。キャップ111は、メンテナンス時に上昇し、記録ヘッド109の吐出口が形成された吐出口面をキャッピングする。吐出口面がキャッピングされた状態で、第2のポンプ112は、キャップ111の内部を減圧することが可能である。第2のポンプ112がキャップ111の内部を減圧することにより、記録ヘッド109の内部に残存している液体を、排出管113を介して排出することができる。排出された液体は、装置本体に配された吸収体114に吸収される。
【0030】
本実施形態では、記録動作に先立って、記録ヘッドに対するインクの初期充填が行われる。具体的には、第1のポンプ102によるインクの加圧供給と、キャップ111を記録ヘッド109に当接させた状態で第2のポンプ112を駆動するインクの吸引と、が行われる。これにより、圧力調整機構107の収容室(ここでは、不図示)にも液体が収容された状態となる。
【0031】
<圧力調整機構107>
図2は、本実施形態における圧力調整機構107における内部の一部分を示す模式的な断面図である。上述した様に、本実施形態では、4つの圧力調整機構107が存在する。しかし、説明の便宜上、
図2では、1つの圧力調整機構107を例に挙げて説明する。本実施形態で使用される4つの圧力調整機構107の構成は、収容される液体の種類を除き、全て同一である。
【0032】
図2に示す様に、1つの圧力調整機構107は、1つの本体201を備える。本体201には、本体201の内部に成形された弁室203、及び、弁室203に液体を供給可能な供給流路202が成形されている。更に、本体201には、凹部205、弁室203と凹部205とを接続する接続流路204、凹部205から液体を排出可能な排出流路207が成形されている。凹部205の底面には、環状(本例では、円環状)の第1の溝206が成形されている。
【0033】
本体201を構成する素材は、ポリプロピレン(PP)を含む。供給流路202は、チューブから供給された液体を弁室203に供給することが可能に成形される。弁室203に、弁機構208が配される。弁機構208は、接続流路204を開閉可能な弁209と、弁209を図中上方向に付勢可能な第1の弾性体210(本例では、コイルばね)とを含む。
【0034】
第1の溝206に、第2の弾性体211(本例では、コイルばね)の基端部が嵌められる。尚、第2の弾性体211は、第1の溝206に固定されない。凹部205の開口212の周縁部213から環状(本例では、円筒状)に突出する様に、リブ214が成形される。リブ214に、可撓性を有するフィルム215が固定(本例では、熱溶着)される。
【0035】
本実施形態では、フィルム215の一部は、リブ214の頂部から凹部205が凹む方向とは反対方向に向かって0.9ミリ以上突出することが可能である。リブ214は、PPを含んで構成されることが特に好ましい。フィルム215におけるリブ214との溶着層(後述する)も、PPを含むことが好ましい。リブ214とフィルム215の溶着層とを同じ素材を用いて構成することにより、これらを同じ加熱温度で相溶させることができる。
【0036】
フィルム215の溶着層に、板部材216が、固定(本例では、熱溶着)される。板部材216には、第2の弾性体211の先端部を嵌めることが可能な環状の第2の溝217が成形されている。尚、第2の弾性体211は、第2の溝217に固定されない。フィルム215が凹部205を覆う様にリブ214に固定されることで、液体を液密に収容することが可能な収容室218が成形される。
【0037】
収容室218と弁室203とを繋ぐ様に、接続流路204が成形されている。弁209は、接続流路204を開閉するための封止部材219と、封止部材219から突出するピン部材220と、を含む。ピン部材220の基端部は、封止部材219の挿入部に挿入され、固定される。ピン部材220の先端部が、封止部材219から接続流路204を通って収容室218に侵入する様に、弁209は、弁室203に配される。
【0038】
圧力調整機構107が製造された時点では、板部材216は、ピン部材220に当接しない。ピン部材220の高さよりも大きい高さを有する第2の弾性体211が、凹部205と板部材216とを離間する方向(図中の上方向)に付勢するためである。
【0039】
圧力調整機構107が
図1の様に記録装置100に装着された後、第1のポンプ102が駆動することにより、弁室203に液体が充填される。第1のポンプ102の駆動により、弁室203は加圧される。このため、弁209は接続流路204を閉塞する。従って、収容室218に液体は流入しない。
【0040】
次に、第2のポンプ112が駆動されると、収容室218の内部では、徐々に負圧力が高まる。収容室218内の負圧が所定値以上になると、板部材216は、収容室218の容積を収縮する様に、第2の弾性体211の付勢に抗しながら図中下方向に移動する。その後、板部材216がピン部材220の先端部に当接し、ピン部材220が図中下方向に移動すると、接続流路204が開放される。接続流路204の開放によって、弁室203の液体が収容室218へと流入する。
【0041】
この様に圧力調整機構107及び記録ヘッド109に液体が流れ込むことによって、収容室218の負圧力は、徐々に低下する。収容室218における負圧力の低下に伴い、板部材216は徐々に図中上方向に移動する。そして、収容室218における負圧力と第2の弾性体211の抗力とが釣り合った状態で収容室218の容積は安定する。
【0042】
この状態で、記録動作が開始されると、収容室218から排出流路207を介して記録ヘッドに対して液体が供給される。これにより、収容室218は、更に負圧となる。この負圧の発生によって、板部材216が図中下方向に移動しフィルム215が更に撓むと、ピン部材220が板部材216によって押圧され、接続流路204が開放された状態となる。接続流路204が開放されることにより、弁室203から収容室218に液体が補充される。
【0043】
収容室218に液体が補充され収容室218内の負圧力が低下すると、板部材216は、第2の弾性体211の弾性復元力によって押し上げられる。板部材216が押し上げられることによって、フィルム215の形状も凸型に戻る。板部材216が押し上げられている間、弁209は、第1の弾性体210の弾性復元力によって押し上げられる。これにより、接続流路204は、再び、封止部材219によって封止される。尚、この時、ピン部材220と板部材216とは、当接した状態である。
【0044】
この様に、圧力調整機構107では、記録ヘッド109におけるインクの消費及び弁室203からのインク供給に伴って、弁209が接続流路204を開閉する。この様な弁209の開閉動作によって、記録ヘッド109に供給する液体を所定の圧力範囲に安定させることができる。
【0045】
また、フィルム215の素材には、板部材216の上下移動に伴う変形の繰り返しに耐えるための耐久性、ガスバリア性、水蒸気バリア性、及び、液体を比較的長期的に保存するための長期保存性が要求される。
【0046】
<フィルム215>
図3は、本実施形態に適用することが可能なフィルム215の一例を示す断面図である。
【0047】
図3に示す様に、フィルム215は、延伸可能な溶着層301(第1の層)と、延伸が困難なベースフィルム層302(第2の層)と、を含む。具体的には、溶着層301は、PPを含む。ベースフィルム層302は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。本実施形態では、溶着層301にベースフィルム層302が積層される。より具体的には、溶着層301は、無延伸ポリプロピレン(CPP)により構成された無延伸ポリプロピレンフィルムである。ベースフィルム層302は、延伸PETにより構成された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(延伸PETフィルム)である。
【0048】
ベースフィルム層302が有するガスバリア性及び水蒸気バリア性を更に向上させるために、ベースフィルム層302にアルミニウム又はシリカが蒸着されてもよい。上述した、ガスバリア性、水蒸気バリア性、耐久性、及び、長期保存性を有する限り、フィルム215は、上記以外の素材を含む層を備えてもよい。
【0049】
<圧力調整機構の製造工程>
図4~
図11を参照して、本実施形態の圧力調整機構の製造方法について説明する。
図4~
図10は、本実施形態の製造方法の各工程における圧力調整機構の概略断面図である。
【0050】
まず、供給流路202、弁室203、接続流路204、第1の溝206、凹部205、リブ214、弁機構208、及び、第2の弾性体211を備えた本体201を用意する。更に、板部材216が溶着層に熱溶着されたフィルム215を用意する。次に、把持治具401に、フィルム215を左右に引っ張りながら本体201の上方において把持させる。把持治具401の下方には、把持治具401と位置合わせをして連結することが可能な連結治具402が配されている。
【0051】
次に、当接工程を行う。当接工程では、
図4に示す様に、把持治具401を下降させ、リブ214の頂部403に対して、図中の左右方向に引っ張られたフィルム215の溶着層を当接させる。フィルム215を引っ張ることによって、フィルム215に対して張力が発生する。これにより、フィルム215が、撓んだ状態で本体201に当接してしまうことを抑制することできる。
【0052】
具体的には、本体201から離れた位置にて、フィルム215の溶着層とリブ214の頂部403とが互いに対向する様に、把持治具401にフィルム215を引っ張りながら把持させる。そして、把持治具401の位置と連結治具402の位置とが一致する様に位置合わせをしながらフィルム215を本体201に対して近づけると、第2の弾性体211の先端部が第2の溝217に嵌まる。第2の弾性体211の先端部を第2の溝217に嵌めた状態で、フィルム215を本体201に対して更に近づけると、フィルム215の溶着層が頂部403に密着する。この様に、当接工程では、把持治具401及び連結治具402を用いて、板部材216によって第2の弾性体211を収縮させながら凹部205を覆う様にフィルム215をリブ214に対して密着させる。以上の様な当接工程が完了すると、次に吸着工程を行う。
【0053】
図5は、本実施形態におけるフィルム215を吸着する吸着工程の一例を示す図である。吸着工程は、フィルム215がずれてしまうことを抑制するために行われる。
【0054】
図5に示す様に、吸着工程では、吸着治具501により、フィルム215と板部材216との溶着部を吸着する。フィルム215と板部材216との溶着部は、板部材216がフィルム215に対して溶着されていない部分よりも剛性が大きく、且つ、平滑である。この様に、剛性が大きく、且つ、平滑な部分を吸着することにより、剛性が小さく、且つ、平滑ではない部分を吸着する場合に比べると、フィルム215のずれを抑制しつつ、十分な吸着力を発生させることができる。これにより、吸着治具501とフィルム215との当接部分の摩擦力を大きくし、吸着工程の次以降の工程における作業を行いやすくする。吸着工程によって溶着部を吸着した状態の下、溶着工程を行う。
【0055】
図6は、本実施形態における本体201とフィルム215とを溶着する溶着工程の一例を示す図である。
【0056】
図6に示す様に、溶着工程では、加熱治具601を用いて、リブ214とフィルム215との当接部分を熱溶着する。この様に、溶着工程では、板部材216によって第2の弾性体211を収縮させた状態で、凹部205を覆う様にフィルム215の溶着層をリブ214に対して溶着させる。尚、溶着工程においても、吸着治具501は、フィルム215を介して板部材216を吸着している状態である。
【0057】
図7は、
図6の円VIIで囲まれた領域の拡大図である。
【0058】
図7に示す様に、リブ214は、加熱治具601によって、フィルム215を介して、溶かされながら押し潰される。尚、
図7の破線は、リブ214が加熱治具601によって押し潰される時点よりも前におけるリブ214の形状を示す。この様に、加熱治具601がベースフィルム層302の上からリブ214を加熱しながら押し潰すと、溶着層301とリブ214の頂部403とが相溶する。
【0059】
上述した様に、本体201(特にリブ214)の素材は、PPである。つまり、頂部403の素材は、溶着層301の素材と同じである。また、PETの融点がPPの融点よりも十分に高いことは、公知である。従って、溶着層301とリブ214とを熱溶着している最中に、ベースフィルム層302が溶けてしまう可能性は低い。この様な溶着方法によれば、溶着層301と頂部403とを熱溶着する際における温度のマージンを十分に保つことができるため、良好な熱溶着を実現することできる。熱溶着の完了後、加熱治具601を退避させる。以上の様な溶着工程が完了すると、次に成形工程を行う。
【0060】
図8は、本実施形態におけるフィルム215に凸部を成形する成形工程の一例を示す図である。
【0061】
図8に示す様に、成形工程では、吸着治具501によりフィルム215を吸着した状態で、吸着治具501を上昇させる。この様に、成形工程では、吸着治具501によりフィルム215を吸着しながら板部材216をフィルム215と一緒に移動させて、フィルム215に対して凹部205が凹む方向と反対方向に向かって突出した凸部を成形する。具体的には、フィルム215におけるリブ214との溶着部から板部材216との溶着部までの距離が、所定の距離になる位置まで吸着治具501を上昇させる。本実施形態では、フィルム215における板部材216との溶着部は、吸着治具501によって、リブ214の頂部から約0.9mm移動させられる。
【0062】
具体的には、フィルム215における板部材216が固定された面が向く方向とは反対方向を向く面が、吸着治具501によって、吸着される。そして、板部材216と凹部205の底面とが平行である状態を保つように、吸着治具501を徐々に上昇させる。そうすると、リブ214の頂部から約0.9mm突出した凸部をフィルム215に成形することができる。
【0063】
本実施形態では、フィルム215に対して凸部を成形する際に、板部材216を第2の弾性体211の弾性復元力のみよって押し上げず、吸着治具501を上昇させることによりフィルム215を引き上げる。成形工程では、第2の弾性体211の弾性復元力も板部材216を介してフィルム215に対して作用する。フィルム215に凸部を成形するために必要となる力の殆どは、吸着治具501の上昇によって生じる。
【0064】
その結果、第2の弾性体211の弾性復元力に関わらず、フィルム215に対して凸部が成形される。つまり、第2の弾性体211の弾性復元力が比較的小さい場合であっても、フィルム215に対して凸部を成形することができる。更に、フィルム215の剛性が比較的大きい場合であっても、フィルム215に対して凸部を成形することができる。
【0065】
本実施形態では、予め、フィルム215に対して板部材216が固定されており、フィルム215は、板部材216と一緒に、吸着治具501により引き上げられる。上述した様に、フィルム215が引き上げられている間、板部材216と凹部205の底面とが平行である状態が保たれる。従って、板部材216が凹部205の底面に対して傾かず、且つ、フィルム215の凸部にしわが発生しない様に、フィルム215に凸部を成形することができる。
【0066】
板部材216が凹部205の底面に対して傾いていたり、フィルム215にしわが発生したりしていると、フィルム215を弾性変形させる際に余計な力が必要となる。本実施形態における凸部の成形方法によれば、板部材216の傾き、及び、フィルム215の凸部におけるしわの発生が抑制される。これにより、記録動作時にフィルム215を滑らかに弾性変形させることができる。
【0067】
図9は、
図8の円IXで囲まれた領域の拡大図である。
図9の破線領域901は、リブ214とフィルム215とが熱溶着される前において、リブ214の一部であった領域を示す。リブ214における溶けた部分は、毛細管現象、及び溶けたPPが有する粘性によって、引き上げられたフィルム215に追従する様に引き伸ばされる。
【0068】
図9に示す様に、フィルム215は、固定された固定部分と、変形可能な可動部分と、を有する。フィルム215の固定部分とは、溶着層301(無延伸フィルム)がリブ214と相溶することによって、リブ214に固定された部分である。可動部分とは、フィルム215が、凹部205(ここでは、不図示)が凹む方向に移動したり、凹部205が凹む方向の反対方向に向かって移動したりすることが可能な部分である。本実施形態では、フィルム215は、リブ214の頂部から凹部205が凹む方向の反対方向に向かって約0.9mmまで突出することが可能である。
【0069】
溶着層301は、加熱治具の加熱により溶ける。一方、ベースフィルム層302は、加熱治具の加熱により溶けない。上述した様に、ベースフィルム層302の融点は、溶着層301の融点よりも高いためである。溶着層301におけるリブ214との相溶部分は、溶けたリブ214が付着していない部分に比べて、溶けたリブ214によって強固に支持される。
【0070】
本実施形態では、溶着層301は無延伸ポリプロピレンフィルムであり、ベースフィルム層302は延伸PETフィルムである。従って、ベースフィルム層302は、既に延伸された状態であるため、本来の長さよりも長くなることはない。他方、溶着層301は、延伸させることが可能な状態であるため、吸着治具の上昇により強制的に引き上げられることによって、本来の長さよりも長くなる。
【0071】
この様に、成形工程では、溶着層301は、吸着治具の上昇により、延伸しながら引き上げられ、且つ、ベースフィルム層302は、延伸することなく、溶着層301と一緒に吸着治具により引き上げられる。この様な凸部を成形する方法によれば、フィルム215に延伸PETフィルムが含まれている場合であっても、フィルム215に対して凸部を成形することができる。以上の様な成形工程が完了すると、次に冷却工程を行う。
【0072】
冷却工程では、成形工程で成形した凸部を維持しながら、フィルム215に一定時間保持する。すると、フィルム215から大気中に熱が逃げる。つまり、本実施形態の冷却工程では、フィルム215を自然冷却する。但し、冷却工程では、フィルム215に対して冷風を当ててもよい。冷風を当てることで、冷却に要する時間を短縮することができる。フィルム215を冷却しリブ214に固定すると、フィルム215の不要な部分を除去する除去工程を行う。
【0073】
図10は、本実施形態における除去工程が行われた後の圧力調整機構107を示す図である。
【0074】
除去工程において、フィルム215における不要な部分(本体201からはみ出した部分)は、除去手段(例えば、刃物、又はレーザー等)により除去(例えば、切断)される。
【0075】
上述した製造工程を経ることで、圧力調整機構107を製造することができる。尚、圧力調整機構107が完成した時点から収容室218の内部が負圧になる時点までの間、フィルム215における凸部の高さは、変化しない。
【0076】
図11は、完成した圧力調整機構107を、フィルム215側から視た場合の模式的な平面図である。
【0077】
図11に示す様に、板部材216における平面の形状は、円形である。即ち、本実施形態における板部材216の形状は、比較的薄い円板状である。板部材216が熱溶着されたフィルム215は、比較的透明な素材によって成形されている。このため、溶着層と相溶したリブ214を、ベースフィルム層が配された面から透視することが可能である。
【0078】
また、リブ214は、凹部205(ここでは、不図示)の周縁に環状(本例では、円環状)に成形される。円環状に配されたリブ214が成す円環の半径の大きさは、板部材216における円形の平面の半径の大きさよりも大きい。更に、溶着工程及び成形工程では、円環状に配されたリブ214が成す円環(輪)の中心と、板部材216における円形の平面の中心と、が同一軸線上で重複するように、各作業が行われる。このため、板部材216からリブ214までの周方向における距離は、一定となる。従って、第2の弾性体211(ここでは、不図示)は安定して伸縮し、フィルム215に対して均等な張力を付加することが可能になる。その結果、フィルム215に凸部を成形する工程において、フィルム215にしわが発生することも抑制することができる。
【0079】
以上説明した様に、本実施形態の製造方法は、フィルム215に対して凸部を成形する際に、第2の弾性体211の弾性復元力のみに頼らずに、吸着治具を用いて、フィルム215を引き上げる。
【0080】
よって、本実施形態の製造方法によれば、従来技術よりも簡易に成形することが可能なフィルムを有する圧力調整機構を製造することができる。更に、本実施形態の製造方法によれば、従来技術のばねが有する弾性復元力よりも小さい弾性復元力を有するばねが使用される場合であっても、ばねの弾性復元力に関わらず、フィルムに対して平滑な凸部を成形することができる。更に、本実施形態の製造方法によれば、従来技術のフィルムが有する剛性よりも大きい剛性を有するフィルムにも対応可能である。更に、本実施形態の製造方法によれば、従来技術の製造方法に比べると、しわの発生を抑制しつつ、精度良く、フィルムに対して凸部を成形することができる。
【0081】
[第2の実施形態]
以下、
図12~
図17を参照して本開示の技術における第2の実施形態について説明する。第1の実施形態における製造方法と本実施形態における製造方法との違いは、フィルムを押し込む押し込み工程の有無である。
【0082】
本実施形態では、フィルムを凹部の内側に押し込んで引き伸ばす分、第1の実施形態よりも凸部の高さが大きくなる。これにより、収容室の高さも第1の実施形態よりも高くなる。収容室の高さが高くなる分、本実施形態では、第1の実施形態よりも長い弾性部材が使用される。以下の説明において、第1の実施形態と同様の又は対応する構成については、同一の符号を付すとともに説明を省略し、異なる点を中心に説明する。
【0083】
用意工程において、供給流路202、弁室203、接続流路204、第1の溝206、凹部205、リブ214、弁機構208、及び、第3のばね1201(
図12参照)を備えた本体201を用意する。本実施形態では、第3のばね1201の長さは、第2の弾性体211(
図2等参照)の長さよりも大きい。第3のばね1201の基端部は、第1の溝206に配される。
【0084】
図12は、本実施形態におけるフィルム215を本体201に対して当接させる当接工程の一例を示す図である。
【0085】
図12に示す様に、当接工程において、把持治具401によりフィルム215を本体201の外側に引っ張りながら把持した状態で、リブ214の頂部403に対して、フィルム215の溶着層を当接させる。
【0086】
図13は、本実施形態におけるフィルム215を吸着する吸着工程の一例を示す図である。
【0087】
図13に示す様に、吸着工程において、吸着治具501により、フィルム215と板部材216との溶着部を吸着する。本実施形態では、吸着工程の後に、フィルム215を凹部の方向へ押し込む押し込み工程を行う。
【0088】
図14は、本実施形態における押し込み工程の一例を示す図である。
【0089】
図14に示す様に、押し込み工程では、押し込み治具1401を用いて、フィルム215を凹部205の底面に向かって押し込む。フィルム215を押し込む量は、適宜に設定することが可能である。
【0090】
押し込み工程では、押し込み治具1401を用いて、フィルム215におけるリブ214と吸着治具501との間の領域を押し込んで、フィルム215を引き伸ばす。フィルム215を押し込んだ分、フィルム215における凸部の高さを第1の実施形態における凸部の高さよりも大きくすることができる。
【0091】
図15は、本実施形態における本体201とフィルム215とを溶着する溶着工程の一例を示す図である。
【0092】
図15に示す様に、溶着工程において、加熱治具601により、リブ214とフィルム215との当接部分を熱溶着する。尚、本工程においても、吸着治具501は、フィルム215を吸着している状態である。押し込み治具1401は、フィルム215を押し込んでいる状態である。溶着工程が終了すると、加熱治具601及び押し込み治具1401を本体から退避させる。
【0093】
図16は、本実施形態におけるフィルム215に凸部を成形する成形工程の一例を示す図である。
【0094】
図16に示す様に、成形工程において、フィルム215を吸着した状態で吸着治具501を所望の高さまで上昇させる。
【0095】
本実施形態におけるフィルム215は、押し込み治具により押し込まれ、引き延ばされた押圧部1601を有する。この様にして、フィルム215には、フィルム215とリブ214とが溶着した溶着部の内側、且つ、板部材216の外側に、板部材216を囲う環状の撓み部が形成される。これにより、フィルム215における凸部の高さを第1の実施形態よりも高くすることができる。即ち、収容室1602の体積を第1の実施形態よりも大きくすることができる。本実施形態では、フィルム215と板部材216との溶着部を、リブ214の頂部から約1.8mm移動させることが可能である。
【0096】
上述した様に、本実施形態では、第1の実施形態で使用されていた第2の弾性体よりも長さが大きい第3のばね1201が使用される。これにより、本工程では、収容室1602の高さを第1の実施形態の収容室よりも大きくすることが可能となる。
【0097】
図17は、本実施形態におけるフィルム215の不要な部分を除去する除去工程が行われた後の圧力調整機構107を示す図である。
【0098】
図17に示す様に、フィルム215における不要な部分(不図示)は、レーザー等により切断され、除去されている。
【0099】
上述した製造工程を経ることで、本実施形態における圧力調整機構1700を製造することができる。
【0100】
以上説明した様に、本実施形態の製造方法によれば、フィルムが押し込み治具によって押し込まれる。これにより、フィルムが第1の実施形態よりも引き伸ばされ、フィルムにおける変形可能な部分の領域が増える。従って、本実施形態では、フィルムに凸部を成形する際に、第1の実施形態よりも凸部の高さを大きくすることができる。その結果、本実施形態における収容室の容積が減る際におけるフィルムの変形量も、第1の実施形態における収納室の容積が減る際におけるフィルムの変形量より増える。
【0101】
上述した様に、所定の負圧が保たれている間、接続流路は弁により閉塞されている。記録動作によって所定量以上のインクが消費されたり、第2のポンプによる吸引動作が行われたりすると、弁は負圧力の上昇に対し、応答性よく接続流路を開閉することができる。
【0102】
フィルムの撓み量が比較的少ない状態で凸部を成形すると、板部材の下面だけでなく、プレートの端部からリブまでのフィルムにおける斜面部分も負圧の影響を受けることになる。このため、収容室の内圧がばらつきやすくなり、弁の開閉動作も不安定になる。本実施形態の様に、フィルムの内側に折り返しができる程度にフィルムが撓んでいると、フィルム全体が受ける負圧の影響を、板部材の下面(凹部と対向する面)に集中させることができる。このため、収容室の内圧変化に伴う弁の開閉動作を適切に行うことが可能となる。
【0103】
また、フィルムの撓み量を第1の実施形態よりも多くすることによって、収容室の容積を第1の実施形態よりも大きくすることができる。収容室の容積が増えることにより、記録動作中に記録ヘッドにて発生した気泡をトラップ可能な体積が増える。これにより、連続印刷を行うことが可能な時間を第1の実施形態よりも増やすことができる。
【0104】
また、本来的に、収容室は、フィルムが大気の影響を受けて撓む際のバッファー室として機能する。収容室の容積を第1の実施形態よりも増やすことにより、収容室が有するバッファー室として機能も第1の実施形態よりも強化することができる。
【0105】
よって、本実施形態における圧力調整機構の製造方法によれば、第1の実施形態よりも大きい凸部をフィルムに対して成形することができる。更に、本実施形態における圧力調整機構によれば、記録動作時における圧力調整の信頼性も従来技術より向上させることができる。
【0106】
[その他の実施形態]
第1及び第2の実施形態では、液体の一例として、インクが挙げられた。本開示の技術を適用可能な液体の他の例として、記録媒体におけるインクの定着性の向上、光沢ムラの軽減、又は耐擦過性の向上等を目的として使用される処理液等を含む種々の記録液が挙げられる。
【0107】
第1及び第2の実施形態では、4色のインクが使用された。但し、本開示の技術において、使用することが可能な液体の種類は、上述した4色のインクに限られない。上述した4色以外の色を含む3色以下5色以上のインクが使用されてもよい。
【0108】
第1及び第2の実施形態では、記録媒体の一例として、カット紙が挙げられた。記録媒体の他の例として、ロール紙、布、光ディスクラベル面、プラスチックシート、OHPシート、及び封筒等の種々の材質及び形態の記録媒体が挙げられる。
【0109】
第1及び第2の実施形態では、記録ヘッド機構を往復移動させると共に、間欠的に記録媒体を搬送することによって記録を行う、所謂、シリアルスキャン型の記録装置を例示した。しかし、本開示の技術を適用することが可能な記録装置は、この例に限定されない。本開示の技術は、連続的に搬送される記録媒体に対し、記録媒体の幅に対応する領域に吐出口が設けられた長尺な記録ヘッドを用いて記録を行う、所謂、フルライン型の記録装置にも適用することができる。
【0110】
第1及び第2の実施形態では、タンクに対して外部から液体を補充することが可能であった。しかし、本開示の技術を適用することが可能なタンクの例は、これに限定されない。カートリッジ内の液体が使い切られた場合にそのカートリッジを液体が貯留された新しいカートリッジに交換する方式のタンクが使用されている場合であっても、本開示の技術を適用することができる。
【0111】
第1及び第2の実施形態では、タンクが記録ヘッド機構から離れた位置に設置された、所謂、オフキャリッジ型の記録装置を例示した。キャリッジ上に液体が貯留されたカートリッジを搭載する、所謂、オンキャリッジ型の記録装置であっても、本開示の技術を適用することができる。
【0112】
第1及び第2の実施形態では、圧力調整機構がキャリッジ上に搭載され記録ヘッドと共に移動する構成とした。しかし、本開示の技術を適用することが可能な形態は、このような形態に限定されない。圧力調整機構は、キャリッジ及び記録ヘッドとは別に、記録装置の本体内に固定されていてもよい。
【0113】
第1及び第2の実施形態では、ベースフィルム層の素材には、従来技術のシートよりも剛性が大きい延伸PETフィルムが使用されていた。ベースフィルム層を構成する素材の他の例として、延伸PETフィルムよりも剛性が小さいフィルムが使用されてもよい。比較的伸びやすいフィルムを使用した場合であっても、本開示の技術を適用することができる。
【0114】
本開示は、以下の方法及び構成を含む。
【0115】
[方法1]
液体の圧力を調整することが可能な圧力調整機構の製造方法であって、
凹部に弾性体が配された本体と、板部材が固定された、可撓性を有するフィルムと、を用意する工程と、
前記板部材によって前記弾性体を収縮させながら前記凹部を覆う様に前記フィルムを前記本体に対して溶着する溶着工程と、
前記フィルムが前記本体に溶着された状態で、前記フィルムにおける前記板部材が固定された部分を吸着しながら前記板部材を前記凹部とは反対の方向に移動させることにより、前記フィルムを成形する成形工程と、
ことを特徴とする圧力調整機構の製造方法。
【0116】
[方法2]
前記成形工程の後に前記フィルムにおける不要な部分を除去する除去工程を更に含む、
方法1に記載の製造方法。
【0117】
[方法3]
前記フィルムは、互いに融点が異なる、溶着層と、ベースフィルム層と、を含み、
前記溶着工程において、前記溶着層と、前記凹部の開口の周縁部に成形されたリブと、を加熱して相溶させる、
方法1又は2に記載の製造方法。
【0118】
[方法4]
前記リブは、前記凹部の周縁に円環状に成形され、
前記板部材は、円板状であり、
前記溶着工程及び前記成形工程において、環状に配された前記リブが成す輪の中心と前記板部材の中心とは、同一軸線上で重複する、
方法1乃至3の何れか1項に記載の製造方法。
【0119】
[方法5]
前記溶着層と前記リブとは、ポリプロピレンを含む、
方法3又は4に記載の製造方法。
【0120】
[方法6]
前記ベースフィルム層は、前記溶着層に積層され、
前記溶着層は、無延伸ポリプロピレンフィルムを含み、
前記ベースフィルム層は、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを含む、
方法3乃至5の何れか1項に記載の製造方法。
【0121】
[方法7]
前記ベースフィルム層は、前記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに蒸着されたアルミニウム又はシリカを更に含む、
方法6に記載の製造方法。
【0122】
[方法8]
前記成形工程において、前記フィルムの一部は、前記フィルムと前記本体との溶着部から前記凹部とは反対の方向に0.9mm移動する、
方法1乃至7の何れか1項に記載の製造方法。
【0123】
[方法9]
前記溶着工程と前記成形工程との間に、前記フィルムにおける前記本体との溶着部と前記板部材との間の領域を、前記凹部の方向に押し込む押し込み工程を更に含む、
方法1乃至8の何れか1項に記載の製造方法。
【0124】
[方法10]
前記成形工程において、前記フィルムの一部は、前記フィルムと前記本体との溶着部から前記凹部とは反対の方向に1.8mm移動する、
方法9に記載の製造方法。
【0125】
[方法11]
前記弾性体は、前記凹部と前記板部材とを離間する方向に付勢するばねである、
方法1乃至10の何れか1項に記載の製造方法。
【0126】
[方法12]
前記圧力調整機構は、記録ヘッドに供給するインクの圧力を調整するために、インクジェット記録装置に配される、
方法1乃至11の何れか1項に記載の製造方法。
【0127】
[方法13]
前記本体は、
前記本体の内部に成形された弁室と、
前記弁室に液体を供給可能な供給流路と、
前記弁室と前記凹部とを接続する接続流路と、
前記弁室に配され、且つ、前記接続流路を開閉可能な弁機構と、
前記凹部から液体を排出可能な排出流路と、を含む、
方法12に記載の製造方法。
【0128】
[構成1]
液体の圧力を調整するための圧力調整機構であって、
液体を収容することが可能な凹部と前記凹部の周縁部から突出するリブとを有する本体と、
延伸可能な第1の層と、延伸が困難な第2の層と、を含み、且つ、前記凹部を塞ぐ様に、前記第2の層が前記リブに溶着された、可撓性を有するフィルムと、
前記凹部に配され、前記フィルムに固定された板部材を前記凹部から離れる方向に付勢する弾性体と、
を備え、
前記フィルムは、前記第2の層と前記リブとが溶着した溶着部と、前記板部材と、の間に、前記板部材を囲う撓み部を有する、
ことを特徴とする圧力調整機構。
【0129】
[構成2]
構成1に記載の圧力調整機構と、
前記圧力調整機構によって圧力が調整された液体を記録媒体に対して吐出可能な記録ヘッドと、
を備える、
ことを特徴とする記録ヘッド機構。
【0130】
[構成3]
構成2に記載の記録ヘッド機構と、
前記圧力調整機構に対して供給するための液体を貯留可能なタンクと、
を備える、
ことを特徴とする記録装置。