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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176622
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】繊維構造物の染色方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20241212BHJP
   D06P 3/36 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
D06P5/00 104
D06P3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095332
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】309013336
【氏名又は名称】日清紡テキスタイル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山岸 祐太
(72)【発明者】
【氏名】高田 健司
(72)【発明者】
【氏名】石川 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 総人
【テーマコード(参考)】
4H157
【Fターム(参考)】
4H157AA02
4H157BA08
4H157CB09
4H157CC01
4H157DA24
(57)【要約】
【課題】
少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法であって、均一かつ濃色に染色することができる、高堅牢性を有する繊維構造物の染色方法を提供する。
【解決手段】
染色の前工程として少なくとも綿を含む織編物をエポキシ樹脂で処理するエポキシ樹脂処理工程と、前記エポキシ樹脂処理された織編物をベンゾイル化するベンゾイル化工程を設ける。ベンゾイル化処理された織編物の、滴下法により求められるベンゾイル置換度を10%~20%とする。前記染色方法は超臨界二酸化炭素を媒体とした無水染色が好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法であって、染色工程の前工程として前記織編物をエポキシ樹脂で処理するエポキシ樹脂処理工程と、エポキシ樹脂処理された織編物をベンゾイル化するベンゾイル化工程を含むことを特徴とする染色方法。
【請求項2】
前記ベンゾイル化工程でベンゾイル化処理された織編物の、滴下法により求められるベンゾイル置換度が10%~20%であることを特徴とする請求項1に記載の染色方法。
【請求項3】
前記織編物が綿100%から成る織編物または、綿とポリエステルとの混紡織編物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の染色方法。
【請求項4】
前記染色方法が超臨界二酸化炭素を媒体とした無水染色であることを特徴とする請求項1から請求項3いずれかに記載の染色方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4いずれかに記載の染色方法により染色された繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法であって、均一かつ濃色に染色することができる、高堅牢性を有する繊維構造物の染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース系繊維の染色は直接染料、あるいは反応性染料を用いて、浴比を大きくして染色を行うことが一般的であるが、発色の鮮明さ、堅牢性の観点から分散染料での染色が望まれている。
【0003】
分散染料はセルロース繊維に対して染着性を示さないが、セルロース繊維を改質して、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維と同様に、分散染料で染色することが行われている。具体的には、セルロース繊維中のセルロース分子に、疎水基であるベンゾイル基等の芳香族アシル基を導入することによって、分散染料で染色することが行われている。
【0004】
特許文献1には、セルロース繊維に塩化ベンゾイルを含ませたのち、これを10重量%以上の水酸化アルカリが含まれた水溶液中に浸漬することを特徴とする、セルロース繊維のベンゾイル化方法が記載されている。
【0005】
この方法によれば、セルロース繊維に分散染料で染色される特性を付与することができるが、染色ムラが発生し均一に染色できないという問題がある。
【0006】
一方、直接染料を使用した従来の染色方法は染色後の廃液処理問題や、大量の染色用水を必要とする問題があり、環境負荷が大きいとされている。そのような背景から、水などの資源の節約及び環境負荷を小さくするための染色法が必要とされてきている。
【0007】
環境負荷の小さい染色法として、特許文献2のような超臨界二酸化炭素を用いた無水での染色法が提案されている。このような無水での染色法は、超臨界状態の二酸化炭素流体に溶解可能な分散染料を用いてポリエステル系繊維を染色するものである。
【0008】
このような分散染料を用いた無水での染色法をセルロース系繊維に適用するため、セルロース系繊維の染色に分散染料を使用した場合でも染色ムラが発生せず、均一に染色できる染色方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭51-149981公報
【特許文献2】特開2001-32134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法であって、均一かつ濃色に染色することができる、高堅牢性を有する繊維構造物の染色方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法において、染色工程の前工程として前記織編物をエポキシ樹脂で処理するエポキシ樹脂処理工程と、エポキシ樹脂処理された織編物をベンゾイル化するベンゾイル化工程を設けることによって上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0013】
(1)少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法であって、染色工程の前工程として前記織編物をエポキシ樹脂で処理するエポキシ樹脂処理工程と、エポキシ樹脂処理された織編物をベンゾイル化するベンゾイル化工程を含む染色方法。
【0014】
(2)前記ベンゾイル化工程でベンゾイル化処理された織編物の、滴下法により求められるベンゾイル置換度が10%~20%である(1)の染色方法。
【0015】
(3)前記織編物が綿100%から成る織編物または、綿とポリエステルとの混紡織編物である(1)または(2)の染色方法。
【0016】
(4)前記染色方法が超臨界二酸化炭素を媒体とした無水染色である(1)から(3)いずれかの染色方法。
【0017】
(5)(1)から(4)いずれかの染色方法により染色された繊維製品。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法において、均一かつ濃色に染色することができる、高堅牢性を有する繊維構造物の染色方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、少なくとも綿を含む織編物を、分散染料で染色する染色方法であって、染色工程の前工程として前記織編物をエポキシ樹脂で処理するエポキシ樹脂処理工程と、エポキシ樹脂処理された織編物をベンゾイル化するベンゾイル化工程を含む。
【0020】
<エポキシ樹脂処理工程>
少なくとも綿を含む織編物をエポキシ樹脂と、触媒によって架橋させる。
具体的にはエポキシ樹脂と、触媒と浸透剤を含む処理液を調合し、少なくとも綿を含む織編物を浸漬し、マングルで絞った後、乾燥を行う。その後、高温でベーキング処理、水洗乾燥することによりエポキシ樹脂処理を完了させる。
【0021】
触媒としてはとしてホウフッ化亜鉛、ホウフッ化マグネシウム、ホウフッ化ナトリウム等のホウフッ化金属が挙げられ、これらを単独又は2種類以上混合して用いることができる。
【0022】
少なくとも綿を含む織編物をエポキシ樹脂で処理する事で織編物が疎水化される。エポキシ樹脂に含まれるベンゾイル基とベンゾイル化で用いる薬剤との相互作用が働くことによりベンゾイル化が進行しやすくなる。そのためベンゾイル化で用いる薬剤使用量をこれまでより減らすことができ、かつ効率よくベンゾイル化を行える。また染色工程で用いる分散染料との相互作用もより働くことから改質生地と染料との相性を高め、染色性を向上させる事ができる。
【0023】
<ベンゾイル化工程>
エポキシ樹脂処理された織編物にアルカリ水溶液を付与し、織編物に含まれる綿を一旦アルカリセルロースにした後、水分を除去する。
【0024】
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液等を用いることができ、織編物にアルカリ水溶液を付与する方法としては、浸漬法や噴霧法等の従来公知の方法を採用できる。
【0025】
アルカリ水溶液が付与され水分を除去した織編物に、無水安息香酸を含む非水性溶液を付与する。無水安息香酸の付与法としても、浸漬法や噴霧法等の従来公知の方法を採用できる。
【0026】
織編物に無水安息香酸を付与した後、最後に冷水又は常温水を付与することにより、アルカリセルロースの高反応性により、より容易により均一にベンゾイル化反応が進行する。冷水又は常温水の付与法としては、水中に浸漬させる水浸漬法、水を噴霧する水噴霧法を採用できる。
【0027】
以上の方法によって、織編物に含まれているセルロース繊維がベンゾイル化される。織編物をベンゾイル化した後は、常法により、湯洗等による洗浄及び乾燥を行う。
【0028】
上記のベンゾイル化工程でベンゾイル化処理された織編物の、滴下法により求められるベンゾイル置換度は10%~20%であり、好ましくは15%~20%である。ベンゾイル置換度を前記の範囲とすることにより良好な濃染色性かつ染色ムラの少ない高堅牢度性を得ることができる。
【0029】
なお、本発明においてベンゾイル置換度は滴下法により求めた数値を使用する。滴下法の具体的な方法は以下のとおりである。
【0030】
<滴下法>
綿織編物中のベンゾイル基量を定量するために税関分析法「でん粉誘導体の分析法」を応用した手法を用いた。アセチル化処理を行った綿織編物を高アルカリ下で攪拌させた。過剰塩基性条件下で脱離した液中のベンゾイル基に、フェノールフタレインを指示薬とし、塩酸で滴定する事で置換度を算出した。またベンゾイル化の反応はセルロース中の非結晶部位のみに起こるとし、シルケットや液体アンモニア処理したのについては非晶域量の校正を行っている。
計算式は以下の通りである。
【0031】
DS値=162/(10500-106A)
A=(V0-V)×F×N×0.105×100/m
ベンゾイル置換度=DS値/3×100
【0032】
DS値:グルコース1個中に存在するーOH基の内置換されている数
A:ベンゾイル基含有量(%)
V0:ブランク滴下量
V:サンプル滴下量
F:ファクター
N:規定度
m:絶乾時の生地重量
【0033】
<染色方法>
染色方法としては分散染料を用いた公知の染色方法を採用することができる。例えば分散染料と染色助剤やpH調整剤を調整した染液に対し、浴比1:40~1:60、温度130℃~150℃にて45分~60分の条件で染色する。
【0034】
本発明では染色方法として、超臨界二酸化炭素を媒体とした分散染料で無水染色する染色方法を採用することもできる。前記無水染色は、例えばオートクレーブ中に分散染料とベンゾイル化処理された織編物を入れ、その中にドライアイスまたは液化二酸化炭素を入れて密閉し、加圧・加温して7.38MPa以上の圧力および31.1℃以上の温度を保持し、超臨界状態で染色が行われる。
【0035】
染色終了後、すなわち、超臨界二酸化炭素媒体での染色が完了した後、臨界点未満の温度および圧力に戻すことにより、被染物に未染着の染料が粉体状になり、二酸化炭素と分離されるため、染料および二酸化炭素ともに再使用が可能となり、水系染色の場合のように染色後の残液に染料が残留し、廃水処理などをする必要がなくなり、環境負荷が少なくなる。
【0036】
<分散染料>
分散染料としては、ベンゼンアゾ系(モノアゾ、ジスアゾなど)、複素環アゾ系(チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、キノリンアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾ、チオフェンアゾなど)、アントラキノン系、縮合系(キノフタリン、スチリル、クマリンなど)などを使用することができ、これらは、単独でまたは併用して使用できる。
【実施例0037】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
<実施例1~4、比較例1>
綿100%から成る織物 (綿100%からなる平織り生地(シルケット及び液体アンモニア加工上り)38cm×100cm)を、親水性エポキシ樹脂20重量%、45%濃度ホウフッ化亜鉛1.76%、浸透剤を含むエポキシ樹脂処理液にパディング法で浸漬し、マングルで絞った後テンター乾燥を行った。その後140℃×2分でベーキング処理、水洗乾燥する事でエポキシ処理を完了させた。
【0039】
エポキシ樹脂処理された織物に水酸化ナトリウム水溶液を浸漬法にて付与し、織編物に含まれる綿を一旦アルカリセルロースにした後、マングルで絞り水分を除去した。
【0040】
アルカリ水溶液が付与され水分を除去した織物に、表1に記載の条件で無水安息香酸、アセトン、水の混合液を浸漬法にて付与した。
【0041】
前記織物を無水安息香酸のアセトン溶液中で55℃、2時間の条件で反応させた後、常温水を水浸漬法にて付与し、湯洗による洗浄及び乾燥を行った。
【0042】
上記のベンゾイル化工程でベンゾイル化処理された織物のベンゾイル置換度(%)を滴下法で求めた。ベンゾイル置換度(%)を表1に示す。
【0043】
実施例1~4、比較例1~2の織物と分散染料(Sumikaron Red E-FBL(住化ケムテックス株式会社製))1.0%o.w.f.を超臨界流体処理装置に入れ、液化炭酸ガスを充填し、120℃、25MPa、30分間の条件下で染色処理を行った。
【0044】
染色後の繊維製品について染色の均一性、染色の濃度、洗濯堅牢度の評価を行った。
【0045】
<染色の均一性>
1~5段階とし、染色ムラが最も大きな場合を1、染色ムラが小さい場合を5とした。なお、染色の均一性の評価においてポリエステル生地を分散染料で染めた場合の染色ムラの評価を5とし、これを基準とした。また、染色性が著しく乏しい場合は評価不可とした。
【0046】
<染色の濃度>
コニカミノルタ製測色機(CM3600A)を使用し生地を測色し、トータル濃度(K/S)を求めた。
トータル濃度:K/S=(1-R2)/2S
K:光の吸収係数
S:光の散乱係数
R:光の表面散乱率
【0047】
<洗濯堅牢度>
JIS L 0844 「洗濯に対する染色堅ろう度試験方法」のA-2法により試験片の変退色(変色)と添付白布への汚染(綿汚染、ポリエステル汚染、液汚染)の程度を判定した。
【0048】
染色の均一性、染色の濃度、洗濯堅牢度の評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より見てとれるように、本発明の染色方法は、染色の均一性、染色の濃度、洗濯堅牢度において良好な評価結果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の染色方法によれば、少なくとも綿を含む織編物を分散染料で染色した場合でも、均一かつ濃色に染色され、且つ、高堅牢性を有する繊維構造物を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。