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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176627
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/18 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
B23K9/18 D
B23K9/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095338
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】本田 怜央
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
4E001DC08
(57)【要約】
【課題】サブマージアーク溶接の経験が少ない作業者であっても、フラックスの散布量を適切に調整できるサブマージアーク溶接システムを提供する。
【解決手段】サブマージアーク溶接を行うための溶接システムA1において、インバータ回路25を有し電力を供給する溶接電源装置2と、被溶接物Wの上にフラックス79を散布する散布装置7と、溶接電源装置2および散布装置7を制御する制御装置1と、を備えた。散布装置7は、フラックス79の散布量を、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および、開先角度の少なくともいずれかに応じて自動的に変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムであって、
インバータ回路を有し電力を供給する溶接電源装置と、
被溶接物の上にフラックスを散布する散布装置と、
前記溶接電源装置および前記散布装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記散布装置は、前記フラックスの散布量を、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および、開先角度の少なくともいずれかに応じて自動的に変化させる、
サブマージアーク溶接システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記散布量に対応した散布設定値を設定する散布量設定部を備え、
前記散布装置は、前記散布設定値に応じて前記散布量を変化させる散布量変化機構を備えている、
請求項1に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項3】
前記散布量設定部は、前記溶接電流に基づく散布設定値を設定し、前記溶接電圧に応じて当該散布設定値を補正する、
請求項2に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項4】
前記散布装置は、
前記フラックスを貯留するホッパと、
前記フラックスを前記ホッパから前記被溶接物の上に導くホースと、
をさらに備え、
前記散布量変化機構は、前記散布設定値に応じて、前記ホースの先端の前記被溶接物からの高さを変化させる、
請求項2に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項5】
前記散布装置は、
前記フラックスを貯留するホッパと、
前記フラックスを前記ホッパから前記被溶接物の上に導くホースと、
をさらに備え、
前記散布量変化機構は、
前記ホッパと前記ホースとの間に配置された開閉バルブを備え、
前記散布設定値に応じて前記開閉バルブの開度を変化させる、
請求項2に記載のサブマージアーク溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からサブマージアーク溶接が知られている。サブマージアーク溶接は、被溶接物の上に粒上のフラックスを散布し、フラックスの中に溶接ワイヤを送給して、溶接ワイヤの先端と被溶接物との間にアークを発生させて溶接を行うものである。サブマージアーク溶接では、太径の溶接ワイヤに大電流を流すことで、厚板を高能率で溶接することができる。
【0003】
フラックスは、アークの周辺をシールドして、アークを安定させる。また、フラックスの一部は、アーク熱によって溶融されてスラグとなり、溶融金属を大気から保護し、また、溶融金属が凝固する際にビードの形状を整える。散布されるフラックスが不足すると、溶接部分が大気にさらされて溶接不良になることがある。逆に、散布されるフラックスが多すぎても、ビードの形状が荒れる場合がある。したがって、フラックスの散布量は、適切に調整する必要がある。特許文献1には、サブマージアーク溶接装置の一例が開示されている。当該サブマージアーク溶接装置は、ホッパに蓄えられたフラックスを、ノズル(ホース)によって溶接部分に供給する。作業者は、バルブを調整することで、フラックスの散布量を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-117442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フラックスの散布量を適切に調整するには、熟練者のように、多くの経験が必要になる。経験が少ない作業者は、フラックスの散布量を適切に調整することが困難である。
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、サブマージアーク溶接の経験が少ない作業者であっても、フラックスの散布量を適切に調整できるサブマージアーク溶接システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるサブマージアーク溶接システムは、サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムであって、インバータ回路を有し電力を供給する溶接電源装置と、被溶接物の上にフラックスを散布する散布装置と、前記溶接電源装置および前記散布装置を制御する制御装置と、を備え、前記散布装置は、前記フラックスの散布量を、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および、開先角度の少なくともいずれかに応じて自動的に変化させる。
【0008】
なお、「溶接電流」は、溶接時に電極を流れる電流であり、溶接電流の設定値であってもよいし、実際に計測された溶接電流の計測値であってもよい。「溶接電圧」は、溶接時に被溶接物と電極の先端との間に印加される電圧であり、溶接電圧の設定値であってもよいし、実際に計測された溶接電圧の計測値であってもよい。「溶接速度」は、溶接ビードを置く速度であり、電極(台車)の位相速度の設定値などを用いる。「突出し長」は、コンタクトチップの先端から電極(溶接ワイヤ)が突出している長さであり、突出し長の設定値などを用いる。「開先角度」は、被溶接物に設けられた溝状の窪みである開先の角度であり、開先角度の設定値などを用いる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御装置は、前記散布量に対応した散布設定値を設定する散布量設定部を備え、前記散布装置は、前記散布設定値に応じて前記散布量を変化させる散布量変化機構を備えている。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記散布量設定部は、前記溶接電流に基づく散布設定値を設定し、前記溶接電圧に応じて当該散布設定値を補正する。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記散布装置は、前記フラックスを貯留するホッパと、前記フラックスを前記ホッパから前記被溶接物の上に導くホースと、をさらに備え、前記散布量変化機構は、前記散布設定値に応じて、前記ホースの先端の前記被溶接物からの高さを変化させる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記散布装置は、前記フラックスを貯留するホッパと、前記フラックスを前記ホッパから前記被溶接物の上に導くホースと、をさらに備え、前記散布量変化機構は、前記ホッパと前記ホースとの間に配置された開閉バルブを備え、前記散布設定値に応じて前記開閉バルブの開度を変化させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、散布装置は、フラックスの散布量を、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および、開先角度の少なくともいずれかに応じて自動的に変化させる。したがって、散布装置は、フラックスを適切な量に自動調整して散布できる。これにより、本発明に係るサブマージアーク溶接システムは、サブマージアーク溶接の経験が少ない作業者であっても、フラックスの散布量を適切に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る溶接システムを説明するための図であり、(a)は溶接システムの全体構成を示すブロック図であり、(b)は溶接電源装置および制御装置の内部構成を示すブロック図である。
図2】散布装置による散布量の調整を説明するための図である。
図3】第2実施形態に係る溶接システムを説明するための図であり、(a)は溶接システムの全体構成を示すブロック図であり、(b)は溶接電源装置および制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1および図2は、第1実施形態に係る溶接システムA1を説明するための図である。図1(a)は、溶接システムA1の全体構成を示すブロック図である。図1(b)は、溶接電源装置2および制御装置1の内部構成を示すブロック図である。図2は、散布装置7による散布量の調整を説明するための図である。
【0017】
溶接システムA1は、サブマージアーク溶接を行うための溶接システムである。図1(a)に示すように、溶接システムA1は、制御装置1、溶接電源装置2、台車4、ワイヤ送給装置5、ワイヤリール6、散布装置7、および電極8を備えている。溶接システムA1は、被溶接物Wの溶接線に沿って台車4を移動させながら、散布装置7に粒状のフラックス79を散布させ、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤをフラックス79の中に送給させる。溶接ワイヤはワイヤリール6から供給される。溶接電源装置2は、商用電源Pから供給される交流電力を溶接に適した電力に変換して出力し、フラックス79の内部で、溶接ワイヤの先端部分である電極8と被溶接物Wとの間にアークを発生させる。当該アークの熱によって、溶接が行われる。これにより、被溶接物Wの溶接線に沿って溶接が行われる。なお、台車4を用いる代わりに、被溶接物Wを移動させたり、回転させたりしてもよい。
【0018】
制御装置1は、溶接システムA1の各種制御を行う。制御装置1は、汎用的なコンピュータに溶接システムA1の各種制御を行うプログラムをインストールしたものであってもよいし、溶接システムA1の制御のための専用装置であってもよい。制御装置1は、台車4を所定の移動速度で移動させる。移動速度は、被溶接物Wの材質および厚さなどに応じて設定される。制御装置1は、散布装置7に、フラックス79の散布の開始および終了を指示する。また、制御装置1は、散布装置7に、フラックス79の散布量を指示する。制御装置1は、ワイヤ送給装置5に、溶接ワイヤの送給の開始、停止、および、溶接ワイヤの送給速度を指示する。送給速度は、設定される溶接電流などに応じて設定される。制御装置1は、溶接電源装置2に、電力の出力を指示する。制御装置1が散布装置7にフラックス79の散布量を指示する方法の詳細については、後述する。
【0019】
溶接電源装置2は、商用電源Pから供給される交流電力を所望の周波数の交流電力に変換して出力する。図1(b)に示すように、溶接電源装置2は、整流平滑回路21、インバータ回路22、トランス23、整流平滑回路24、インバータ回路25、電流センサ26、および電圧センサ27、および制御回路28を備えている。
【0020】
整流平滑回路21は、商用電源Pから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。インバータ回路22は、制御回路28から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路21から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。トランス23は、インバータ回路22が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路24に出力する。
【0021】
整流平滑回路24は、トランス23から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。インバータ回路25は、制御回路28から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路24から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ回路25は、出力端子a(被溶接物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接ワイヤに接続)の電位より高い状態である正極性と、出力端子aの電位が出力端子bの電位より低い状態である逆極性とを切り換える。
【0022】
電流センサ26は、溶接電源装置2の出力電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路25の一方の出力端子と出力端子aとを接続する接続線に配置されている。電流センサ26が検出する溶接電源装置2の出力電流は、電極8を流れる電流にほぼ等しい。電流センサ26は、検出した電流瞬時値に応じた電流値信号を制御回路28および制御装置1に出力する。電圧センサ27は、溶接電源装置2の出力電圧を検出するものであり、本実施形態では、出力端子aと出力端子bとの端子間電圧を検出する。当該電圧は、被溶接物Wと電極8の先端との間に印加される電圧にほぼ等しい。電圧センサ27は、検出した電圧瞬時値に応じた電圧値信号を制御回路28および制御装置1に出力する。
【0023】
制御回路28は、溶接電源装置2を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路28は、電流センサ26から電流値信号を入力され、電圧センサ27から電圧値信号を入力され、制御装置1から各種指令信号および各種設定値を入力される。そして、制御回路28は、インバータ回路22およびインバータ回路25に、それぞれ駆動信号を出力する。
【0024】
制御回路28は、制御装置1から電力出力の開始を指示する指令信号を受信したときに、インバータ回路22およびインバータ回路25に、それぞれ駆動信号の出力を開始することで、電力の出力を開始させる。また、制御回路28は、制御装置1から電力出力の停止を指示する指令信号を受信したときに、駆動信号の出力を停止することで、電力の出力を停止させる。
【0025】
また、制御回路28は、電流センサ26から入力される電流値信号から電流実効値を算出する。そして、制御回路28は、当該電流実効値と、制御装置1から入力される電流指令値(溶接電流の設定値)とに基づいて、インバータ回路22のスイッチング素子を制御するための出力制御駆動信号を生成して、インバータ回路22に出力する。つまり、制御回路28は、電流実効値が電流指令値に一致するように、フィードバック制御を行う(定電流制御)。なお、制御回路28は、電圧センサ27から入力される電圧値信号と電圧指令値(溶接電圧の設定値)とに基づいて出力制御駆動信号を生成して、電圧実効値が電圧指令値に一致するように、フィードバック制御を行う(定電圧制御)こともできる。
【0026】
また、制御回路28は、電流センサ26から入力される電流値信号と、内部で生成した波形指令信号とに基づいて、インバータ回路25のスイッチング素子を制御するためのスイッチング駆動信号を生成して、インバータ回路25に出力する。つまり、制御回路28は、出力電流の波形が波形指令信号で指令する波形に一致するように、フィードバック制御を行う。本実施形態では、波形指令信号は、正弦波信号である。制御回路28が波形指令信号に基づいてスイッチング駆動信号を生成して、インバータ回路25に出力することで、インバータ回路25は、波形指令信号に応じた正弦波状の交流電流を出力する。なお、制御回路28は、出力電流の瞬時値を用いずに、波形指令信号のみに基づいて、スイッチング駆動信号を生成してもよい。
【0027】
また、制御回路28は、制御装置1から直流出力の指令信号が入力された場合は、インバータ回路25に出力するスイッチング駆動信号を、所定のスイッチング素子をオン状態に固定して、その他のスイッチング素子をオフ状態に固定する信号とする。例えば、整流平滑回路24の正極側の出力端子と出力端子aとが接続され、整流平滑回路24の負極側の出力端子と出力端子bとが接続されたままの状態となるように、各スイッチング素子の状態が固定されると、溶接電源装置2は、出力端子aを正極とし、出力端子bを負極として、直流電力を出力する。つまり、溶接システムA1は、交流電力だけでなく直流電力も出力することができる交直両用の溶接システムである。また、溶接電源装置2は、制御装置1から入力される電流指令値に基づいて、出力電流を制御することができる。したがって、溶接システムA1は、出力電流を適切に制御可能である。なお、溶接電源装置2の構成は限定されない。
【0028】
次に、散布装置7の詳細およびフラックス79の散布方法について説明する。
【0029】
フラックス79の適切な散布量は、様々な溶接条件に応じて変わってくる。溶接電流、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および開先角度によって、適切なフラックス79の散布量が変化することが、経験的にわかっている。また、上記各溶接条件と適切なフラックス79の散布量との間には相関がある。溶接電流は、溶接時に電極8を流れる電流であり、電流値が大きいほど適切なフラックス79の散布量は多くなる。溶接電圧は、溶接時に被溶接物Wと電極8の先端との間に印加される電圧であり、電圧値が大きいほど適切なフラックス79の散布量は多くなる。溶接速度は、溶接ビードを置く速度のことで、一般的には毎分当たりのビード長さで表される。本実施形態では、溶接速度は、台車4の移動速度に一致する。溶接速度が大きいほど適切なフラックス79の散布量は多くなる。突出し長は、コンタクトチップの先端から溶接ワイヤが突出している長さであり、大きいほど適切なフラックス79の散布量は多くなる。なお、突出し長は、コンタクトチップの先端からアークまでの距離、または、コンタクトチップの先端から被溶接物Wまでの距離であってもよい。開先角度は、被溶接物Wに設けられた溝状の窪みである開先の角度であり、大きいほど適切なフラックス79の散布量は多くなる。制御装置1は、各溶接条件に基づいて散布量を決定し、散布装置7に決定した散布量のフラックス79を散布するための指示を行う。具体的には、制御装置1は、散布量に対応した散布設定値を散布装置7に出力する。本実施形態では、散布量が大きいほど、散布設定値を大きくしている。
【0030】
散布装置7は、制御装置1からの指示に応じてフラックス79を散布する装置であり、ホッパ71、開閉バルブ72、ホース73、および移動機構74を備えている。ホッパ71は、フラックス79を貯留する。ホース73は、ホッパ71に貯留されているフラックス79を、ホッパ71から被溶接物Wの上に導く。
【0031】
開閉バルブ72は、ホッパ71の底部に設けられた開放口とホース73との間に配置され、制御装置1からの指示に応じて開放状態と閉鎖状態とで切り替えられる。開閉バルブ72は、例えば電磁弁である。開閉バルブ72は、開放状態のとき、ホッパ71に貯留されているフラックス79を通過させる。これにより、フラックス79が、ホース73を介して散布される。一方、開閉バルブ72は、閉鎖状態のとき、ホッパ71に貯留されているフラックス79を通過させない。したがって、フラックス79は散布されない。なお、開閉バルブ72は、ホース73の途中に配置されてもよい。また、開閉バルブ72の構成は限定されない。例えば、開閉バルブ72は、制御装置1からの指示に応じるのではなく、手動で開放状態と閉鎖状態とを切り替える構成であってもよい。
【0032】
移動機構74は、制御装置1から入力される散布設定値(散布設定値に基づく信号)に応じて、ホース73の先端を上下動させる機構である。移動機構74は、図2(a)に示すように、ホース73の先端付近が固定された移動部741が、台車4に固定され且つ上下方向に延びるレール742に沿って上下動することで、ホース73の先端を上下動させる。これにより、ホース73の先端の被溶接物Wからの高さHが変化し、フラックス79の散布量が変化する。図2(b)は、移動部741が下方に移動して、高さHが小さくなった状態を示している。この場合、被溶接物Wに散布されたフラックス79がホース73の先端まで達すると、フラックス79はそれ以上排出されなくなるので、フラックス79の散布量は少なくなる。図2(c)は、移動部741が上方に移動して、高さHが大きくなった状態を示している。この場合、被溶接物Wに散布されたフラックス79がホース73の先端に達するまでフラックス79が排出されるので、フラックス79の散布量は多くなる。このように、移動機構74は、制御装置1から入力される散布設定値に応じて高さHを変化させることで、フラックス79の散布量を変化させる。なお、移動機構74の具体的な構成は限定されず、高さHを変化させるものであればよい。例えば、移動機構74は、レール742の代わりに、ネジ溝が形成されたネジ軸を備え、ネジ軸を軸回りに回転させることで移動部741を移動させる、いわゆるボールねじ機構であってもよい。
【0033】
制御装置1は、散布装置7にフラックス79の散布量を指示する。具体的には、制御装置1は、各溶接条件に基づいて、散布量に対応した散布設定値を決定し、散布装置7に出力する。本実施形態では、散布設定値は、ホース73の先端の被溶接物Wからの高さHに対応する値が設定される。散布装置7は、散布設定値に応じて、移動機構74にホース73の先端を上下動させることで、フラックス79の散布量を変化させる。制御装置1は、散布装置7にフラックス79の散布量を指示するための構成として、図1(b)に示すように、設定部11および散布量設定部12を備えている。
【0034】
設定部11は、各溶接条件を設定するための構成である。設定部11は、作業者が図示しない操作部の操作により入力した値を設定する。設定部11は、溶接電流、溶接電圧、溶接速度(台車4の移動速度)、突出し長、開先角度、ワイヤの送給速度、ワイヤの材質、ワイヤの線径、被溶接物Wの材質、および、被溶接物Wの厚さなどの各設定値を設定する。なお、設定部11は、他の溶接条件の設定値から算出した値を設定値として設定してもよい。設定部11は、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および開先角度の各設定値を散布量設定部12に出力する。また、設定部11は、溶接電流の設定値(電流指令値)、および、溶接電圧の設定値(電圧指令値)を、溶接電源装置2の制御回路28に出力する。
【0035】
散布量設定部12は、各溶接条件に基づいて、適切な散布量に対応した散布設定値を設定する。本実施形態では、散布量設定部12は、まず、溶接電流に基づく散布設定値を設定する。具体的には、散布量設定部12は、設定部11によって設定された溶接電流の設定値に対応する散布設定値を設定する。散布量設定部12は、溶接電流の設定値に対応する散布設定値が記憶された記憶部から、溶接電流の設定値に対応する散布設定値を読み出し、また、線形補間によって設定する。なお、散布量設定部12は、溶接電流の設定値に対応する散布設定値を演算式に基づいて算出してもよい。散布量設定部12は、溶接電流の設定値が大きいほど、散布設定値を大きい値として設定する。例えば、散布量設定部12は、溶接電流の設定値が800Aの場合に高さHが30mmになるように散布設定値を設定し、溶接電流の設定値が600Aの場合に高さHが20mmになるように散布設定値を設定し、溶接電流の設定値が1000Aの場合に高さHが40mmになるように散布設定値を設定する。
【0036】
次に、散布量設定部12は、散布設定値を、設定部11によって設定された溶接電圧、溶接速度、突出し長、および開先角度の各設定値に応じて補正する。散布量設定部12は、溶接電圧の設定値と基準値との差に応じた値を加算することで、散布設定値を補正する。散布量設定部12は、溶接電圧の設定値が基準値より大きい場合に散布設定値を増加させ、溶接電圧の設定値が基準値より小さい場合に散布設定値を減少させる。例えば、散布量設定部12は、溶接電圧の設定値が基準値より2V上がるごとに高さHが1mm大きくなるように散布設定値を補正する。同様に、散布量設定部12は、溶接速度の設定値と基準値との差に応じた値を加算し、突出し長の設定値と基準値との差に応じた値を加算し、開先角度の設定値と基準値との差に応じた値を加算することで、散布設定値を補正する。なお、散布量設定部12は、各設定値と基準値との差に応じた値を乗算することで補正してもよい。散布量設定部12が行う補正方法は限定されない。例えば、散布量設定部12は、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および開先角度の各設定値のすべてに応じて補正を行うのではなく、各設定値のいずれかに応じて補正してもよい。また、散布量設定部12は、補正を行わずに、溶接電流に基づく散布設定値をそのまま出力してもよい。散布量設定部12は、補正後の散布設定値を、散布装置7の移動機構74に出力する。
【0037】
なお、散布量設定部12は、溶接電流の設定値の代わりに、電流センサ26が検出した溶接電流の実測値を用いてもよい。また、溶接電圧の設定値の代わりに、電圧センサ27が検出した溶接電圧の実測値を用いてもよい。また、散布量設定部12による散布設定値の設定方法は限定されない。例えば、散布量設定部12は、溶接電圧に基づく散布設定値を設定して、他の溶接条件に応じて補正してもよい。また、散布量設定部12は、溶接電流と溶接電圧とに基づく散布設定値を設定して、他の溶接条件に応じて補正してもよい。散布量設定部12は、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、突出し長、および、開先角度の少なくともいずれかに応じて散布設定値を設定すればよい。また、散布量設定部12は、散布設定値の設定において、ワイヤの送給速度、ワイヤの材質、ワイヤの線径、被溶接物Wの材質、および、被溶接物Wの厚さなどの他の溶接条件を用いてもよい。溶接システムA1は、溶接電源装置2がインバータ回路22によって溶接電流または溶接電圧のフィードバック制御を行うので、溶接電流または溶接電圧に応じたフラックス79の散布量の自動調整を可能にする。
【0038】
次に、本実施形態に係る溶接システムA1の作用および効果について説明する。
【0039】
本実施形態によると、散布量設定部12は、各溶接条件に基づいて、適切な散布量に対応した散布設定値を設定する。散布装置7は、散布設定値に応じて、フラックス79の散布量を変化させる。つまり、散布装置7は、フラックス79を、各溶接条件に応じた適切な量に自動調整して散布できる。これにより、溶接システムA1は、サブマージアーク溶接の経験が少ない作業者であっても、フラックス79の散布量を適切に調整できる。
【0040】
また、本実施形態によると、散布量設定部12は、溶接電流に基づく散布設定値を設定し、散布設定値を溶接電圧に応じて補正する。したがって、散布量設定部12は、散布設定値を適切に設定できる。さらに、散布量設定部12は、散布設定値を溶接速度、突出し長、および開先角度に応じて補正する。したがって、散布量設定部12は、散布設定値をより適切に設定できる。
【0041】
また、本実施形態によると、移動機構74は、散布設定値に応じて、ホース73の先端を上下動させる。これにより、ホース73の先端の被溶接物Wからの高さHが変化し、フラックス79の散布量が変化する。したがって、散布装置7は、散布設定値に応じた散布量で、フラックス79を散布できる。
【0042】
〔第2実施形態〕
図3は、第2実施形態に係る溶接システムA2を説明するための図である。図3(a)は、溶接システムA2の全体構成を示すブロック図である。図3(b)は、溶接電源装置2および制御装置1の内部構成を示すブロック図である。図3において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。本実施形態に係る溶接システムA2は、フラックス79の散布量の調整方法が、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0043】
本実施形態においては、ホース73が台車4に固定されており、ホース73の先端の位置を変えることができない。本実施形態では、開閉バルブ72の開度を調整することで、フラックス79の散布量を調整する。本実施形態に係る開閉バルブ72は、開度が0%から100%まで調整可能になっており、制御装置1からの指示に応じて、開度が調整される。開閉バルブ72は、開度が0%の場合に閉鎖状態となり、フラックス79を通過させない。また、開閉バルブ72は、開度が100%の場合に全開状態となって、フラックス79を最大限通過させる。したがって、フラックス79の散布量が最大になる。散布量設定部12は、散布設定値として開閉バルブ72の開度に対応する値を設定し、散布設定値を開閉バルブ72に出力する。開閉バルブ72は、散布量設定部12から入力される散布設定値(散布設定値に基づく信号)に応じて開度を変化させることで、フラックス79の散布量を変化させる。
【0044】
本実施形態においても、散布量設定部12は、各溶接条件に基づいて、適切な散布量に対応した散布設定値を設定する。散布装置7は、散布設定値に応じて、フラックス79の散布量を変化させる。したがって、溶接システムA2は、サブマージアーク溶接の経験が少ない作業者であっても、フラックス79の散布量を適切に調整できる。また、本実施形態によると、溶接システムA2は、溶接システムA1と共通の構成により、溶接システムA1と同様の効果を奏する。さらに、本実施形態によると、開閉バルブ72は、散布設定値に応じて開度を変化させることで、フラックス79の散布量を変化させる。したがって、散布装置7は、散布設定値に応じた散布量で、フラックス79を散布できる。
【0045】
本発明に係る溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0046】
A1:溶接システム、1:制御装置、12:散布量設定部、2:溶接電源装置、22:インバータ回路、7:散布装置、72:開閉バルブ、74:移動機構
図1
図2
図3