(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176628
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】サブマージアーク溶接システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/18 20060101AFI20241212BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B23K9/18 E
B23K9/12 303E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095339
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】本田 怜央
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
(57)【要約】
【課題】台車を用いたサブマージアーク溶接において、台車の転倒を防止できるサブマージアーク溶接システムを提供する。
【解決手段】サブマージアーク溶接を行うための溶接システムA1において、インバータ回路25を有し電力を供給する溶接電源装置2と、溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置5と、溶接ワイヤの先端を突出させ、被溶接物Wの溶接を行う溶接トーチ3と、溶接トーチ3が搭載され、溶接線に沿って移動する台車4と、溶接電源装置2およびワイヤ送給装置5を制御する制御装置1と、を備えた。制御装置1は、溶接ワイヤと被溶接物Wとの短絡を検出する短絡検出部12と、短絡が検出された場合に、ワイヤ送給装置5による溶接ワイヤの送給を停止させる送給制御部13と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムであって、
インバータ回路を有し電力を供給する溶接電源装置と、
溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置と、
前記溶接ワイヤの先端を突出させ、被溶接物の溶接を行う溶接トーチと、
前記溶接トーチが搭載され、溶接線に沿って移動する台車と、
前記溶接電源装置および前記ワイヤ送給装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記溶接ワイヤと前記被溶接物との短絡を検出する短絡検出部と、
短絡が検出された場合に、前記ワイヤ送給装置による前記溶接ワイヤの送給を停止させる送給制御部と、
を備えている、
サブマージアーク溶接システム。
【請求項2】
前記溶接ワイヤの先端と前記被溶接物との間の第1電圧を検出する電圧センサをさらに備え、
前記短絡検出部は、前記第1電圧が所定電圧以下の状態が第1時間継続した場合に、短絡を検出する、
請求項1に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項3】
前記送給制御部は、前記ワイヤ送給装置に前記溶接ワイヤの送給を停止させた後、前記溶接ワイヤを反対方向へ送給させる、
請求項1または2に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項4】
前記台車の傾きを検出する傾き検出部をさらに備え、
前記送給制御部は、前記傾き検出部が、前記台車が水平状態になったことを検出するまで、前記溶接ワイヤを反対方向へ送給させる、
請求項3に記載のサブマージアーク溶接システム。
【請求項5】
作業者に異常を報知する異常報知部をさらに備え、
前記異常報知部は、前記短絡検出部が短絡を検出した場合に、異常を報知する、
請求項1に記載のサブマージアーク溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からサブマージアーク溶接が知られている。サブマージアーク溶接は、被溶接物の上に粒上のフラックスを散布し、フラックスの中に溶接ワイヤを送給して、溶接ワイヤの先端と被溶接物との間にアークを発生させて溶接を行うものである。サブマージアーク溶接では、例えば台車を溶接線に沿って移動させることで、溶接個所を移動させながら溶接を行う。サブマージアーク溶接では、太径の溶接ワイヤに大電流を流すことで、厚板を高能率で溶接することができる。特許文献1には、サブマージアーク溶接装置の一例が開示されている。当該サブマージアーク溶接装置は、溶接ワイヤが巻かれたワイヤリール、フラックスが充填されたホッパ、および溶接ヘッドなどが走行台車に搭載されている。走行台車は、溶接線に沿って設けられたレール上を走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サブマージアーク溶接では、溶接個所がフラックスによって覆われている。したがって、溶接ワイヤが被溶接物に接触して短絡が発生しても、作業者は短絡に気付きにくい。短絡に気付かずに溶接ワイヤの送給が継続されると、台車が転倒する場合がある。
【0005】
図6は、短絡による台車の転倒について説明するための簡略図である。
図6(a)に示す溶接システムA100において、ワイヤリール6、ワイヤ送給装置5、および溶接トーチ3が台車4に搭載されている。同図は、台車4の走行方向の後方から見た簡略図である。ワイヤ送給装置5によって送給された溶接ワイヤの先端が溶接トーチ3の先端から電極8として突出し、電極8と被溶接物Wとの間にアークが発生して溶接が行われる。電極8の先端は、フラックス79によって覆われている。なお、
図6では、フラックス79を透過させて電極8が見えるように記載している。溶接中に溶接ワイヤ(電極8)の先端が被溶接物Wに接触して短絡が発生しても、実際には外部から視認できない。したがって、作業者は短絡に気付かず、溶接を停止しない。よって、ワイヤ送給装置5は、溶接ワイヤの送給を継続し、溶接ワイヤ(電極8)の先端が被溶接物Wの溶融池に突き刺さる。サブマージアーク溶接では、一般的に、太径の溶接ワイヤが用いられている。したがって、さらに溶接ワイヤの送給が継続すると、
図1(b)に示すように、点Xを中心として、台車4を矢印Yの方向に回転させるモーメントが働く。これにより、台車4は傾いた不安定な状態になり、台車が転倒する場合がある。溶接が進むと、台車に搭載されたホッパ内のフラックスの量が減少し、また、台車に搭載されたワイヤリールの溶接ワイヤが減少するので、台車の重心は変化する。台車の重心が溶接個所とは反対側にずれて、バランスの調整が行われる直前に短絡が発生すると、台車が転倒する可能性が高くなる。
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、台車を用いたサブマージアーク溶接において、台車の転倒を防止できるサブマージアーク溶接システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によって提供されるサブマージアーク溶接システムは、サブマージアーク溶接を行うためのサブマージアーク溶接システムであって、インバータ回路を有し電力を供給する溶接電源装置と、溶接ワイヤを送給するワイヤ送給装置と、前記溶接ワイヤの先端を突出させ、被溶接物の溶接を行う溶接トーチと、前記溶接トーチが搭載され、溶接線に沿って移動する台車と、前記溶接電源装置および前記ワイヤ送給装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記溶接ワイヤと前記被溶接物との短絡を検出する短絡検出部と、短絡が検出された場合に、前記ワイヤ送給装置による前記溶接ワイヤの送給を停止させる送給制御部と、を備えている。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記溶接ワイヤの先端と前記被溶接物との間の第1電圧を検出する電圧センサをさらに備え、前記短絡検出部は、前記第1電圧が所定電圧以下の状態が第1時間継続した場合に、短絡を検出する。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記送給制御部は、前記ワイヤ送給装置に前記溶接ワイヤの送給を停止させた後、前記溶接ワイヤを反対方向へ送給させる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記台車の傾きを検出する傾き検出部をさらに備え、前記送給制御部は、前記傾き検出部が、前記台車が水平状態になったことを検出するまで、前記溶接ワイヤを反対方向へ送給させる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、作業者に異常を報知する異常報知部をさらに備え、前記異常報知部は、前記短絡検出部が短絡を検出した場合に、異常を報知する
。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、短絡検出部が溶接ワイヤと被溶接物との短絡を検出した場合に、送給制御部は、ワイヤ送給装置による溶接ワイヤの送給を停止させる。したがって、本発明に係るサブマージアーク溶接システムは、溶接ワイヤの送給が継続されることによる台車の転倒を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る溶接システムを説明するための図であり、(a)は溶接システムの全体構成を示すブロック図であり、(b)は溶接電源装置および制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図2】制御装置が行う転倒防止制御処理を示すフローチャートの一例である。
【
図3】制御装置が行う転倒防止制御処理を説明するためのタイミングチャートである。
【
図4】第2実施形態に係る溶接システムを説明するための図であり、(a)は溶接システムの全体構成を示すブロック図であり、(b)は溶接電源装置および制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図5】第3実施形態に係る溶接システムを説明するための図であり、溶接電源装置および制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図6】短絡による台車の転倒について説明するための簡略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接システムA1を説明するための図である。
図1(a)は、溶接システムA1の全体構成を示すブロック図である。
図1(b)は、溶接電源装置2および制御装置1の内部構成を示すブロック図である。
【0016】
溶接システムA1は、サブマージアーク溶接を行うための溶接システムである。
図1(a)に示すように、溶接システムA1は、制御装置1、溶接電源装置2、溶接トーチ3、台車4、ワイヤ送給装置5、ワイヤリール6、散布装置7、および電極8を備えている。溶接システムA1は、被溶接物Wの溶接線に沿って台車4を移動させながら、散布装置7に粒状のフラックス79を散布させ、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤをフラックス79の中に送給させる。溶接ワイヤはワイヤリール6から供給される。溶接電源装置2は、商用電源Pから供給される交流電力を溶接に適した電力に変換して出力し、フラックス79の内部で、溶接ワイヤの先端部分である電極8と被溶接物Wとの間にアークを発生させる。当該アークの熱によって、溶接が行われる。これにより、被溶接物Wの溶接線に沿って溶接が行われる。
【0017】
溶接トーチ3は、ワイヤ送給装置5が送給する溶接ワイヤを溶接個所に案内する。溶接ワイヤの先端は、溶接トーチ3の先端から突出する電極8になる。溶接トーチ3は、先端部分に配置されかつ溶接電源装置2に導通するコンタクトチップ(図示なし)を備えている。溶接電源装置2は、コンタクトチップに接触する溶接ワイヤに、溶接電流を流す。
溶接トーチ3は、台車4に固定されており、台車4の移動に伴って移動する。なお、溶接トーチ3は台車4に直接固定されてもよいし、アームなどを介して間接的に固定されてもよい。
【0018】
制御装置1は、溶接システムA1の各種制御を行う。制御装置1は、汎用的なコンピュータに溶接システムA1の各種制御を行うプログラムをインストールしたものであってもよいし、溶接システムA1の制御のための専用装置であってもよい。制御装置1は、台車4を所定の移動速度で移動させる。移動速度は、被溶接物Wの材質および厚さなどに応じて設定される。制御装置1は、散布装置7に、フラックス79の散布の開始および停止を指示する。なお、散布装置7によるフラックス79の散布の開始および停止は、手動により行われてもよい。制御装置1は、ワイヤ送給装置5に、溶接ワイヤの送給の開始、停止、および、溶接ワイヤの送給速度を指示する。送給速度は、設定される溶接電流などに応じて設定される。制御装置1は、溶接電源装置2に、電力の出力を指示する。また、制御装置1は、短絡が発生した場合に台車4の転倒を防止するための制御を行う。当該制御の詳細については、後述する。
【0019】
溶接電源装置2は、商用電源Pから供給される交流電力を所望の周波数の交流電力に変換して出力する。
図1(b)に示すように、溶接電源装置2は、整流平滑回路21、インバータ回路22、トランス23、整流平滑回路24、インバータ回路25、電流センサ26、および電圧センサ27、および制御回路28を備えている。
【0020】
整流平滑回路21は、商用電源Pから入力される交流電力を直流電力に変換して出力する。インバータ回路22は、制御回路28から入力される出力制御駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路21から入力される直流電力を高周波電力に変換して出力する。トランス23は、インバータ回路22が出力する高周波電圧を変圧して、整流平滑回路24に出力する。
【0021】
整流平滑回路24は、トランス23から入力される高周波電力を直流電力に変換して出力する。インバータ回路25は、制御回路28から入力されるスイッチング駆動信号によってスイッチング素子をスイッチングさせることで、整流平滑回路24から入力される直流電力を交流電力に変換して出力する。インバータ回路25は、出力端子a(被溶接物Wに接続)の電位が出力端子b(溶接ワイヤに接続)の電位より高い状態である正極性と、出力端子aの電位が出力端子bの電位より低い状態である逆極性とを切り換える。
【0022】
電流センサ26は、溶接電源装置2の出力電流を検出するものであり、本実施形態では、インバータ回路25の一方の出力端子と出力端子aとを接続する接続線に配置されている。電流センサ26が検出する溶接電源装置2の出力電流は、電極8を流れる電流にほぼ等しい。電流センサ26は、検出した電流瞬時値に応じた電流値信号を制御回路28および制御装置1に出力する。なお、電流センサ26が配置される位置は限定されない。電圧センサ27は、溶接電源装置2の出力電圧を検出するものであり、本実施形態では、出力端子aと出力端子bとの端子間電圧を検出する。当該電圧は、被溶接物Wと電極8の先端との間に印加される電圧にほぼ等しい。電圧センサ27は、検出した電圧瞬時値に応じた電圧値信号を制御回路28および制御装置1に出力する。なお、電圧センサ27は、溶接トーチ3に取り付けたリード線と被溶接物Wに取り付けたリード線との間の電圧を検出してもよい。
【0023】
制御回路28は、溶接電源装置2を制御するための回路であり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路28は、電流センサ26から電流値信号を入力され、電圧センサ27から電圧値信号を入力され、制御装置1から各種指令信号および各種設定値を入力される。そして、制御回路28は、インバータ回路22およびインバータ回路25に、それぞれ駆動信号を出力する。なお、溶接電源装置2の構成は限定されない。
【0024】
次に、制御装置1が行う転倒防止制御について説明する。転倒防止制御は、短絡が発生した場合に台車4の転倒を防止するための制御である。具体的には、制御装置1は、溶接中の短絡の発生を検出し、短絡が検出された場合にワイヤ送給装置5による溶接ワイヤの送給を停止させる。制御装置1は、転倒防止制御のための構成として、
図1(b)に示すように、計時部11、短絡検出部12、および送給制御部13を備えている。
【0025】
計時部11は、時間を計時するための構成である。計時部11は、短絡検出部12および送給制御部13からの指示に応じて計時の開始、停止、および、計時時間の初期化を行う。
【0026】
短絡検出部12は、溶接ワイヤと被溶接物Wとの短絡を検出する構成である。溶接ワイヤと被溶接物Wとの短絡が発生すると、出力端子aと出力端子bとが同電位になるので、電圧センサ27が検出する電圧が「0」になる。短絡検出部12は、電圧センサ27から入力される電圧値信号から電圧実効値を算出する。そして、電圧実効値が所定電圧以下の状態が第1時間T1継続した場合に、短絡が発生したと判断する。なお、短絡検出部12は、電圧実効値を算出せずに、電圧値信号に基づく電圧瞬時値を用いて短絡の判断を行ってもよい。所定電圧は、「0」より大きく、「0」に近い値が設定されている。溶接中に瞬間的に短絡が発生しても、アークが再発生すれば溶接は継続され、溶接ワイヤの先端が被溶接物Wに突き刺さることはないので、台車4の転倒も発生しない。第1時間T1は、瞬間的な短絡を除外するために設定されており、例えば10ms程度の時間が設定されている。なお、第1時間T1は限定されない。短絡検出部12は、最初に短絡を検出したときに、計時部11に計時の開始を指示し、計時部11が計時した時間を第1時間T1と比較する。短絡検出部12は、第1時間T1が経過する前に短絡が解消されたとき、または、第1時間T1が経過したときに、計時部11による計時を停止して、計時時間を「0」に初期化する。短絡検出部12は、短絡を検出した場合、検出信号を送給制御部13に出力する。また、制御装置1は、短絡検出部12が短絡を検出した場合、溶接電源装置2による電力の出力、台車4の移動、および、散布装置7によるフラックス79の散布を停止させる。なお、短絡検出部12による短絡の検出方法は限定されない。
【0027】
送給制御部13は、ワイヤ送給装置5を制御するための構成である。送給制御部13は、ワイヤ送給装置5に、溶接ワイヤの送給の開始、停止、および、溶接ワイヤの送給速度を指示する。また、送給制御部13は、短絡検出部12から検出信号を入力された場合、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤの送給の停止を指示して、溶接ワイヤの送給を停止させる。これにより、短絡状態での溶接ワイヤの送給継続による台車4の転倒が防止される。
【0028】
しかし、実際に短絡が発生してから溶接ワイヤの送給が停止するまでの間に溶接ワイヤが送給されているので、台車4がわずかに傾く場合がある。送給制御部13は、この傾きを是正する機能も備えている。具体的には、送給制御部13は、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤの送給の停止を指示した後、溶接ワイヤの反対方向への送給(いわゆるリトラクト)の開始の指示を行う。そして、送給制御部13は、第2時間T2後に、リトラクトの停止を指示する。第2時間T2は、短絡発生から溶接ワイヤの送給停止までの溶接ワイヤの送給分を反対方向に送給するための時間が設定されている。第2時間T2は、実験やシミュレーションに基づいて、適切な時間が設定される。なお、第2時間T2は、固定値であってもよいし、短絡発生時に設定されていた送給速度に応じて変更されてもよい。送給制御部13は、送給の停止を指示したときに、計時部11に計時の開始を指示し、計時部11が計時した時間を第2時間T2と比較する。送給制御部13は、第2時間T2が経過したときに、計時部11による計時を停止して、計時時間を「0」に初期化する。
【0029】
なお、送給制御部13は、リトラクトを実施する時間を設定するのではなく、短絡発生から溶接ワイヤの送給停止までに送給された溶接ワイヤの長さ分をリトラクトしてもよい。具体的には、送給制御部13は、ワイヤ送給装置5の図示しないモータを、当該長さ分に応じた回転数だけ逆回転させてもよい。
【0030】
図2は、制御装置1が行う転倒防止制御処理を示すフローチャートの一例である。転倒防止制御処理は、例えば、制御装置1が起動されたときに開始される。
【0031】
まず、短絡が検出されたか否かが判別される(S1)。具体的には、短絡検出部12が、電圧センサ27が検出した電圧の電圧実効値が所定電圧以下であるか否かを判別する。短絡が検出されなかった場合(S1:NO)、ステップS1に戻って、ステップS1の判別が繰り返される。一方、短絡が検出された場合(S1:YES)、第1時間T1が経過したか否かが判別される(S2)。具体的には、短絡検出部12が、計時部11の計時した時間が第1時間T1以上であるか否かを判別する。計時部11は、最初に短絡が検出されたときからの時間を計時している。第1時間T1が経過していない場合(S2:NO)、ステップS1に戻って、ステップS1,S2の判別が繰り返される。
【0032】
ステップS2において、所定時間が経過した場合(S2:YES)、溶接ワイヤの送給が停止される(S3)。具体的には、送給制御部13が、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤの送給の停止を指示する。これにより、ワイヤ送給装置5が溶接ワイヤの送給を停止する。次に、溶接ワイヤのリトラクトが開始される(S4)。具体的には、送給制御部13が、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤの反対方向への送給の開始を指示する。これにより、ワイヤ送給装置5が溶接ワイヤのリトラクトを開始する。次に、第2時間T2が経過したか否かが判別される(S5)。具体的には、送給制御部13が、計時部11の計時した時間が第2時間T2以上であるか否かを判別する。計時部11は、リトラクトが開始されてからの時間を計時している。第2時間T2が経過していない場合(S5:NO)、ステップS5に戻って、ステップS5の判別が繰り返される。つまり、送給制御部13は、計時部11が計時した時間が第2時間T2になるまで待機する。第2時間T2が経過した場合(S5:YES)、リトラクトが停止され(S6)、転倒防止制御処理が終了される。
【0033】
なお、
図2のフローチャートに示す処理は一例であって、制御装置1が行う転倒防止制御処理は上述したものに限定されない。
【0034】
図3は、制御装置1が行う転倒防止制御処理を説明するためのタイミングチャートである。同図(a)は、電圧センサ27が検出した検出電圧の電圧実効値の時間変化を示している。同図(b)は、計時部11で計時された時間の時間変化を示している。同図(c)は、溶接ワイヤの送給速度の時間変化を示している。溶接ワイヤが順方向に送給されている場合、送給速度は正の値になり、反対方向に送給されている場合、送給速度は負の値になっている。なお、
図3に示すタイミングチャートの縦軸および横軸は、理解を容易とするために適宜拡大、縮小したものであり、また示される各波形も、理解の容易のために簡略化され、あるいは誇張もしくは強調されている。
【0035】
時刻t1までは、電圧センサ27によって溶接電圧が検出されている。時刻t1において、検出電圧が「0」(所定電圧以下)になっている。これにより、計時部11での計時が開始され、経過時間に応じて計時時間が増加している。しかし、経過時間がT1になる前の時刻t2において、検出電圧として溶接電圧が検出され、所定電圧より大きくなっている。したがって、短絡検出部12は短絡の発生を検出していない。第1時間T1が経過する前に短絡が解消されたので、時刻t2において、計時部11は、計時を停止して、計時時間を「0」に初期化している。
【0036】
時刻t3において、再度、検出電圧が「0」(所定電圧以下)になっている。これにより、計時部11での計時が開始され、経過時間に応じて計時時間が増加している。そして、時刻t4において、経過時間が第1時間T1になったので、短絡検出部12が短絡の発生を検出して、送給制御部13が、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤの送給の停止を指示する。これにより、溶接ワイヤの送給速度は減少して、時刻t5において「0」になっている。なお、送給速度は、送給停止の指示後、慣性により、傾斜を有して減少している。第1時間T1が経過したので、時刻t4において、計時部11は、計時を停止して、計時時間を「0」に初期化している。
【0037】
また、時刻t4において、送給制御部13は、溶接ワイヤの送給の停止を指示した後、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤの反対方向への送給(リトラクト)の開始を指示している。これにより、時刻t5から、ワイヤ送給装置5が溶接ワイヤのリトラクトを開始して、溶接ワイヤの送給速度が減少し(反対向きの速度が増加し)、所定のリトラクト用の速度になっている。なお、送給速度は、リトラクト開始の指示後、慣性により、傾斜を有して減少している。また、時刻t4において、計時部11での計時が開始され、経過時間に応じて計時時間が増加している。そして、時刻t6において、経過時間が第2時間T2になったので、送給制御部13が、ワイヤ送給装置5にリトラクトの停止を指示する。送給速度は、リトラクト停止の指示後、慣性により、傾斜を有して増加して(反対向きの速度が減少して)、時刻t7において「0」になっている。第2時間T2が経過したので、時刻t6において、計時部11は、計時を停止して、計時時間を「0」に初期化している。
【0038】
時刻t3から時刻t5までの送給速度の積分値(斜線を付した領域S1の面積)が、短絡発生から溶接ワイヤの送給停止までの溶接ワイヤの送給された長さに相当する。また、時刻t5から時刻t7までの送給速度の積分値(斜線を付した領域S2の面積)が、リトラクトによって反対方向に送給された溶接ワイヤの長さに相当する。領域S2の面積が領域S1の面積と等しくなるように、第2時間T2は設定される。
【0039】
次に、本実施形態に係る溶接システムA1の作用および効果について説明する。
【0040】
本実施形態によると、短絡検出部12は、溶接ワイヤと被溶接物Wとの短絡を検出した場合、検出信号を送給制御部13に出力する。送給制御部13は、短絡検出部12から検出信号を入力された場合、ワイヤ送給装置5に、溶接ワイヤの送給の停止を指示する。これにより、ワイヤ送給装置5は、溶接ワイヤの送給を停止する。したがって、溶接システムA1は、短絡時に溶接ワイヤの送給が継続されることによる台車4の転倒を防止できる。本発明は、実際の溶接作業の前の条件出し(溶接条件を決めるために各パラメータを変更して試行する溶接)を行う際に、特に有効である。
【0041】
また、本実施形態によると、短絡検出部12は、電圧実効値が所定電圧以下の状態が第1時間T1継続した場合に、短絡が発生したと判断する。したがって、溶接システムA1は、瞬間的な短絡によって溶接ワイヤの送給が停止してしまうことを防止できる。
【0042】
また、本実施形態によると、送給制御部13は、短絡検出部12から検出信号を入力されて、ワイヤ送給装置5に溶接ワイヤの送給の停止を指示した後、溶接ワイヤの反対方向への送給(いわゆるリトラクト)の開始の指示を行う。ワイヤ送給装置5は、溶接ワイヤのリトラクトを行う。これにより、溶接システムA1は、実際に短絡が発生してから溶接ワイヤの送給が停止するまでの間に溶接ワイヤが送給されたことで生じた台車4の傾きを是正できる。送給制御部13は、リトラクトの開始の指示から第2時間T2後に、リトラクトの停止を指示する。これにより、溶接システムA1は、短絡発生から溶接ワイヤの送給停止までの溶接ワイヤの送給分を反対方向に送給できるので、台車4の傾きを元の状態(水平状態)に戻すことができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、送給制御部13が送給の停止を指示した後、リトラクトの指示を行う場合について説明したが、これに限られない。送給制御部13は、短絡が検出された場合、送給の停止を指示するだけで、リトラクトの指示を行わなくてもよい。
【0044】
〔第2実施形態〕
図4は、第2実施形態に係る溶接システムA2を説明するための図である。
図4(a)は、溶接システムA2の全体構成を示すブロック図である。
図4(b)は、溶接電源装置2および制御装置1の内部構成を示すブロック図である。
図4において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。本実施形態に係る溶接システムA2は、台車4の傾きを検出する傾き検出部を備えている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0045】
本実施形態においては、台車4は傾斜センサ41を備えている。傾斜センサ41は、例えば3軸の加速度センサであり、各軸方向の加速度を検出して、検出値を送給制御部13に出力する。送給制御部13は、傾斜センサ41より入力される検出値に基づいて、台車4の傾きを演算する。送給制御部13は、溶接ワイヤのリトラクトを行う際に、演算した台車4の傾きに基づいて、台車4が水平状態になったことを検出するまで、リトラクトを継続する。なお、傾斜センサ41の構成は限定されず、台車4の傾きを検出できればよい。例えば、傾斜センサ41は、ジャイロセンサであってもよい。また、溶接システムA2は、台車4が傾斜センサ41を備える代わりに、台車4の外部から台車4の傾きを検出できる機構を備えてもよい。例えば、カメラで台車4と被溶接物Wとを撮像して、画像処理によって被溶接物Wに対する台車4の傾きを演算してもよい。
【0046】
本実施形態においても、短絡検出部12が短絡を検出した場合、送給制御部13が溶接ワイヤの送給を停止させる。したがって、溶接システムA2は、短絡時に溶接ワイヤの送給が継続されることによる台車4の転倒を防止できる。また、短絡検出部12は電圧実効値が所定電圧以下の状態が第1時間T1継続した場合に、短絡が発生したと判断する。したがって、溶接システムA2は、瞬間的な短絡によって溶接ワイヤの送給が停止してしまうことを防止できる。また、送給制御部13は、溶接ワイヤの送給を停止させた後、リトラクトを行わせる。これにより、溶接システムA2は、実際に短絡が発生してから溶接ワイヤの送給が停止するまでの間に溶接ワイヤが送給されたことで生じた台車4の傾きを是正できる。また、本実施形態によると、送給制御部13は、リトラクトを行う際に、台車4が水平状態になったことを検出するまで、リトラクトを継続する。これにより、溶接システムA2は、台車4の傾きを元の状態(水平状態)に戻すことができる。
【0047】
〔第3実施形態〕
図5は、第3実施形態に係る溶接システムA3を説明するための図である。
図5は、溶接システムA3の溶接電源装置2および制御装置1の内部構成を示すブロック図である。
図5において、上記第1実施形態と同一または類似の要素には、上記第1実施形態と同一の符号を付している。本実施形態に係る溶接システムA3は、短絡が検出された場合に異常を報知する異常報知部を備えている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0048】
本実施形態に係る制御装置1は、異常報知部14を備えている。異常報知部14は、作業者に異常を報知するための構成である。本実施形態に係る短絡検出部12は、短絡を検出した場合、検出信号を異常報知部14にも出力する。異常報知部14は、短絡検出部12から検出信号を入力された場合、作業者に異常を報知する。異常報知部14による異常の報知方法は限定されない。異常報知部14は、例えば、スピーカまたはブザーなどにより音声で異常を報知してもよいし、ライトなどにより光で異常を報知してもよい。また、異常報知部14は、図示しないディスプレイ画面に、異常を報知する画像または文字などを表示してもよい。
【0049】
本実施形態においても、短絡検出部12が短絡を検出した場合、送給制御部13が溶接ワイヤの送給を停止させる。したがって、溶接システムA3は、短絡時に溶接ワイヤの送給が継続されることによる台車4の転倒を防止できる。また、短絡検出部12は、電圧実効値が所定電圧以下の状態が第1時間T1継続した場合に、短絡が発生したと判断する。したがって、溶接システムA3は、瞬間的な短絡によって溶接ワイヤの送給が停止してしまうことを防止できる。また、送給制御部13は、溶接ワイヤの送給を停止させた後、リトラクトを行わせる。これにより、溶接システムA3は、実際に短絡が発生してから溶接ワイヤの送給が停止するまでの間に溶接ワイヤが送給されたことで生じた台車4の傾きを是正できる。また、送給制御部13は、リトラクトの開始の指示から第2時間T2後に、リトラクトの停止を指示する。これにより、溶接システムA3は、短絡発生から溶接ワイヤの送給停止までの溶接ワイヤの送給分を反対方向に送給できるので、台車4の傾きを元の状態(水平状態)に戻すことができる。さらに、本実施形態によると、短絡検出部12が短絡を検出した場合、異常報知部14が作業者に異常を報知する。サブマージアーク溶接においては、溶接個所がフラックス79に覆われているので、短絡の発生を外部から視認できない。溶接システムA3は、短絡が発生した場合に異常報知部14が異常を報知するので、作業者に短絡の発生を気付かせることができる。
【0050】
本発明に係る溶接システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0051】
A1:溶接システム、1:制御装置、12:短絡検出部、13:送給制御部、14:異常報知部、2:溶接電源装置、22:インバータ回路、27:電圧センサ、3:溶接トーチ、4:台車、41:傾き検出部、5:ワイヤ送給装置