(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176637
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】印刷物およびその真偽判定方法
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20241212BHJP
B42D 25/305 20140101ALI20241212BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20241212BHJP
G07D 7/12 20160101ALI20241212BHJP
G07D 7/20 20160101ALI20241212BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/305
B42D25/378
G07D7/12
G07D7/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095354
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜多 美博
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
3E041
【Fターム(参考)】
2C005HA02
2C005HA04
2C005HB01
2C005HB02
2C005HB09
2C005HB10
2C005HB13
2C005JB15
2C005JB22
2C005JB25
2H113AA04
2H113AA06
2H113BA01
2H113BA03
2H113BA05
2H113BA09
2H113CA34
2H113CA37
2H113CA39
2H113CA44
2H113DA03
2H113DA04
2H113DA15
2H113DA35
2H113DA45
2H113DA53
2H113DA56
2H113DA57
2H113DA60
2H113DA62
2H113DA64
2H113EA06
2H113EA07
2H113FA56
3E041AA10
3E041BA09
3E041BA11
3E041BB03
3E041BC01
(57)【要約】
【課題】 材料が持つ色彩変化に限定されない一般的な印刷工程のみを用いて、低コストで製造可能な印刷物を提供すること。
【解決手段】 本発明は、印刷基材に、複数の画線が印刷されてなる印刷物であって、複数の画線はおのおの、印刷基材からの高さが、配向方向に直交する線幅における中央部が最大で、線幅における両端部が最小であり、複数の画線はおのおの、線幅方向において、両端部から中央部に向かって盛り上がる断面形状を有し、複数の画線はそれぞれ、線幅方向において隣接する画線との間隙、線幅、および配向方向が同じ画線同士からなる複数の画線群のうちの何れかに属し、複数の画線群には、他の画線群とは異なる配向方向を有する画線群が少なくとも1つ存在する、印刷物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷基材に、複数の画線が印刷されてなる印刷物であって、
前記複数の画線はおのおの、前記印刷基材からの高さが、配向方向に直交する線幅における中央部が最大で、前記線幅における両端部が最小であり、
前記複数の画線はおのおの、線幅方向において、前記両端部から前記中央部に向かって盛り上がる断面形状を有し、
前記複数の画線はそれぞれ、前記線幅方向において隣接する画線との間隙、前記線幅、および前記配向方向が同じ画線同士からなる複数の画線群のうちの何れかに属し、
前記複数の画線群には、他の画線群とは異なる配向方向を有する画線群が少なくとも1つ存在する、印刷物。
【請求項2】
前記線幅は、0.0mmよりも大きく、0.5mm以下であり、
前記中央部における前記印刷基材からの高さは、0.0mmよりも大きく、0.01mm以下であり、
前記断面形状は、前記中央部が最も高く、前記両端部が最も低い円弧状である、
請求項1に記載の印刷物。
【請求項3】
各画線群では、前記間隙は、0.0mm以上、0.5mm以下である、
請求項1に記載の印刷物。
【請求項4】
前記複数の画線群には、前記複数の画線群のうちのいずれかの画線群と、前記線幅および前記間隙が同じであるが、前記配向方向が異なる画線群が少なくとも1つ存在する、
請求項1に記載の印刷物。
【請求項5】
前記複数の画線群には、前記複数の画線群のうちのいずれかの画線群と、前記配向方向が同じであるが、前記線幅および前記間隙のうちの少なくともいずれかが異なる画線群が少なくとも1つ存在する、
請求項1に記載の印刷物。
【請求項6】
前記複数の画線群には、前記画線が、万線パターン、曲線パターン、同心円パターン、またはこれらいずれかのパターンの組合せによって形成されるパターンで配置されている画線群が少なくとも1つ存在する、
請求項1に記載の印刷物。
【請求項7】
前記複数の画線群の数、各画線群の前記印刷基材における配置位置および面積、各画線群における画線の線幅、間隙、および配向方向に基づいて決定される潜像画像が埋め込まれた、
請求項1に記載の印刷物。
【請求項8】
前記画線は、透明または不透明なインキで形成された、
請求項7に記載の印刷物。
【請求項9】
前記複数の画線群には、すべての画線が同じ色のインキで形成されている画線群が少なくとも1つ存在する、
請求項8に記載の印刷物。
【請求項10】
前記複数の画線群には、互いに異なる色のインキで形成されている画線を含む画線群が少なくとも1つ存在する、
請求項8に記載の印刷物。
【請求項11】
前記互いに異なる色のインキで形成されている画線を含む画線群における異なる色の組み合わせによって、前記潜像画像に、光沢感および色相を与える、
請求項10に記載の印刷物。
【請求項12】
請求項1に記載の印刷物の真偽判定を行う方法であって、
前記画線が印刷されている印刷面側を、固定された光源からの照明光に向けたまま、前記印刷物を回転させてゆく過程で、前記印刷面上に出現する画像に基づいて、前記印刷物の真偽判定を行う、真偽判定方法。
【請求項13】
前記画像は、前記印刷物が回転されることに応じて、変化する、請求項12に記載の真偽判定方法。
【請求項14】
前記印刷物が回転されることに応じて、前記画像が、予め定められたように変化する場合、前記印刷物が真正であると判定する、請求項13に記載の真偽判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば銀行券、パスポ-ト、有価証券、身分証明書、カ-ドおよび通行券等に適用される、偽造防止効果を必要とする印刷物およびその真偽判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンターおよびカラーコピー機等のデジタル機器の進展により、印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのような複製や偽造を防止するために、偽造防止技術が必要とされている。また、前述のような偽造防止技術の中でも、すかしやホログラム等に代表される、道具を必要とせず、印刷物を手にした全ての人が真偽判別に利用することができる偽造防止技術が特に必要とされている。
【0003】
このような道具を必要とせず、万人が真偽判別に利用することができる偽造防止技術の一つとして、光を反射させることで色彩が変化する機能性顔料を含んだ光学的変化インキを利用した偽造防止技術がある。これらのインキを使用して印刷した画像は、光を反射することで色彩が変化するため、判別者は、その色彩変化を確認することで印刷物の真偽を判別することができる。この光学的変化インキの代表例としては、紙幣などに採用されているパールインキやOVI(Optical variable Ink)等がある。前者は、特定の反射角度において画像が透明からピンク色に変化し、後者は青緑色から紫色等に変化する。
【0004】
これらの光学的変化インキの色彩変化を進化させた技術として、例えば特許文献1および特許文献2のように、光干渉顔料を含むカラーシフト効果または明暗フリップフロップ性またはカラーフリップフロップ性を有したインキを蒲鉾状やエンボスパターン状に配置し視野角度やエンボスの勾配角度を変えることで、ある特定の反射角度において、印刷画像中のある一部の領域の色彩が、ある色彩から異なる色彩へと徐々に変化し、かつ、その領域も反射角度を変えることで動いて見える色彩変化を制御する技術が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4967569号公報
【特許文献2】特許第5967651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の技術は、色彩変化する印刷物を提供することはできるものの、インキ中に含まれる特定の機能性顔料の光学特性によって生じる効果を利用するものであり、その効果を引き出すためには、下地に蒲鉾状の盛り上がりを有する形状や、エンボス加工のような立体的な構造を有することが必要となる。このことから立体形状を得るための専用の製造装置が必要となり、製造工程も煩雑で、かつ高コストであるという問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、材料が持つ色彩変化に限定されない一般的な印刷工程のみを用いて、低コストで製造可能な印刷物を提供することにある。
【0008】
また、その第2の目的は、そのような印刷物の真偽判定を容易に行うことができる真偽判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0010】
すなわち、本発明の第1の態様は、印刷基材に、複数の画線が印刷されてなる印刷物であって、複数の画線はおのおの、印刷基材からの高さが、配向方向に直交する線幅における中央部が最大で、線幅における両端部が最小であり、複数の画線はおのおの、線幅方向において、両端部から中央部に向かって盛り上がる断面形状を有し、複数の画線はそれぞれ、線幅方向において隣接する画線との間隙、線幅、および配向方向が同じ画線同士からなる複数の画線群のうちの何れかに属し、複数の画線群には、他の画線群とは異なる配向方向を有する画線群が少なくとも1つ存在する、印刷物である。
【0011】
本発明の第2の態様は、線幅は、0.0mmよりも大きく、0.5mm以下であり、中央部における印刷基材からの高さは、0.0mmよりも大きく、0.01mm以下であり、断面形状は、中央部が最も高く、両端部が最も低い円弧状である、第1の態様に記載の印刷物である。
【0012】
本発明の第3の態様は、各画線群では、間隙は、0.0mm以上、0.5mm以下である、第1の態様に記載の印刷物である。
【0013】
本発明の第4の態様は、複数の画線群には、複数の画線群のうちのいずれかの画線群と、線幅および間隙が同じであるが、配向方向が異なる画線群が少なくとも1つ存在する、第1の態様に記載の印刷物である。
【0014】
本発明の第5の態様は、複数の画線群には、複数の画線群のうちのいずれかの画線群と、配向方向が同じであるが、線幅および間隙のうちの少なくともいずれかが異なる画線群が少なくとも1つ存在する、第1の態様に記載の印刷物である。
【0015】
本発明の第6の態様は、複数の画線群には、画線が、万線パターン、曲線パターン、同心円パターン、またはこれらいずれかのパターンの組合せによって形成されるパターンで配置されている画線群が少なくとも1つ存在する、第1の態様に記載の印刷物である。
【0016】
本発明の第7の態様は、複数の画線群の数、各画線群の印刷基材における配置位置および面積、各画線群における画線の線幅、間隙、および配向方向に基づいて決定される潜像画像が埋め込まれた、第1の態様に記載の印刷物である。
【0017】
本発明の第8の態様は、画線は、透明または不透明なインキで形成された、第7の態様に記載の印刷物である。
【0018】
本発明の第9の態様は、複数の画線群には、すべての画線が同じ色のインキで形成されている画線群が少なくとも1つ存在する、第8の態様に記載の印刷物である。
【0019】
本発明の第10の態様は、複数の画線群には、互いに異なる色のインキで形成されている画線を含む画線群が少なくとも1つ存在する、第8の態様に記載の印刷物である。
【0020】
本発明の第11の態様は、互いに異なる色のインキで形成されている画線を含む画線群における異なる色の組み合わせによって、潜像画像に、光沢感および色相を与える、第10の態様に記載の印刷物である。
【0021】
本発明の第12の第の態様は、第1の態様に記載の印刷物の真偽判定を行う方法であって、画線が印刷されている印刷面側を、固定された光源からの照明光に向けたまま、印刷物を回転させてゆく過程で、印刷面上に出現する画像に基づいて、印刷物の真偽判定を行う、真偽判定方法である。
【0022】
本発明の第13の態様は、画像は、印刷物が回転されることに応じて、変化する、第12の態様に記載の真偽判定方法である。
【0023】
本発明の第14の態様は、印刷物が回転されることに応じて、画像が、予め定められたように変化する場合、印刷物が真正であると判定する、第13の態様に記載の真偽判定方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、材料が持つ色彩変化に限定されない、一般的な印刷工程のみを用いて、低コストで作製可能な印刷物を提供することができる。
【0025】
また、そのような印刷物の真偽判定を容易に行うことができる真偽判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る印刷物の一例を示す概略平面図である。
【
図2】
図2は、
図1における画線の一部を例示する概略断面図である。
【
図3】
図3は、従来技術による印刷物の表面に現れる反射光を例示する斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る印刷物の表面に現れる反射光を例示する斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る印刷物の表面に現れる反射光の発生メカニズムを説明するための図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る印刷物に埋め込まれた潜像画像の見え方の一例を示す平面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る印刷物に埋め込まれた潜像画像の見え方の一例を示す平面図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態に係る印刷物に埋め込まれた潜像画像の見え方の一例を示す平面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る印刷物の印刷に適用される印刷装置の原理を示す概念図である。
【
図10】
図10は、
図9に示す印刷装置によって印刷物が印刷されるまでの各工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る印刷物の実施形態を図面に基づいて説明する。ここで図面は模式的なものであり平面寸法との関係や各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって本発明の技術的思想は構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定されるものではない。
【0028】
(印刷物)
本発明の実施形態に係る印刷物について説明する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る印刷物の一例を示す概略平面図である。
【0030】
図2は、
図1における画線の一部を例示する概略断面図である。
【0031】
すなわち、本実施形態に係る印刷物1は、印刷基材2の表面に、
図1において実線で示される多数の画線aが印刷されてなる。画線aは、透明または不透明なインキで形成されている。
【0032】
画線aはそれぞれ、線幅w、線幅方向において隣接する画線aとの間隙s、および線幅方向に直交する配向方向が同じである画線同士からなる複数の画線群a0~a6のうちの何れかに属している。なお、画線群a0~a6は、一例であって、本発明の印刷物1は、これよりも多い、または少ない複数の画線群を含み得るものと理解されたい。
【0033】
複数の画線群a0~a6には、すべての画線aが同じ色のインキで形成されている画線群が少なくとも1つ存在する。また、互いに異なる色のインキで形成されている画線aを含む画線群が少なくとも1つ存在することもできる。
【0034】
図2に示すように、画線aはおのおの、印刷基材2からの高さhが、線幅wにおける中央部が最大(h2)で、線幅wにおける両端部が最小(h1,h3)であり、画線aはおのおの、線幅方向(
図2における左右方向)において、最小高さh1,h3を有する両端部から、最大高さh2を有する中央部に向かって盛り上がる断面形状を有している。つまり、画線aは、線幅方向において、中央部が最も高く、両端部が最も低い円弧状の断面形状(蒲鉾形状)を有している。
【0035】
線幅wは、0.0mmよりも大きく、0.5mm以下であり、最大高さh2は、0.0mmよりも大きく、0.01mm以下であり、間隙sは、0.0mm以上、0.5mm以下である。
【0036】
第1の画線群a0には、画線群a0に特定かつ一定の線幅w、隣接画線との間隙s、および配向方向で、画線aが印刷されている。画線群a0における画線aは、
図1に示す例では、135°の配向方向の直線である。配向方向は、
図1中に示す0°から360°の範囲内の任意の方向とすることができる。第1の画線群a0は、以下で説明する第2の画線群a1~a4、第3の画線群a5、および第4の画線群a6以外の領域でもある。
【0037】
第2の画線群a1~a4には、それぞれ、画線群a1~a4毎に特定かつ一定の線幅w、間隙s、および配向方向で、画線aが印刷されている。
図1に示す例では、画線群a1における画線aは、90°の配向方向の直線であり、画線群a2における画線aは、0°の配向方向の直線であり、画線群a3における画線aは、45°の配向方向の直線であり、画線群a4における画線aは、135°の配向方向の直線である。配向方向は、第1の画線群a0の場合と同様に、
図1中に示す0°から360°の範囲内の任意の方向とすることができる。
【0038】
第3の画線群a5には、同心円状に配向された多数の画線aが印刷されている。画線群a5内では、これら画線aの線幅wは、画線群a5に特定かつ一定であり、円の半径方向に隣接する画線a同士の間隙sも、画線群a5に特定かつ一定である。
【0039】
第4の画線群a6には、曲線で形成された多数の画線aが印刷されている。画線群a6内では、これら画線aの線幅wは、画線群a6に特定かつ一定であり、隣接する画線a同士の間隙sも画線群a6に特定かつ一定である。
【0040】
印刷物1における画線群には、画線aが、万線パターン、曲線パターン、同心円パターン、
図1には例示されていないが波線パターン、またはこれらいずれかのパターンの組合せによって形成されるパターンで配置されている画線群が少なくとも1つ存在する。
図1に例示する印刷物1では、画線群a0~a4が、万線パターンで配置された画線aで形成されており、画線群a5が、同心円パターンで配置された画線aで形成されており、画線群a6が、曲線パターンで配置された画線aで形成されている。
【0041】
また、印刷物1では、画線群a0~a6のような複数の画線群に、他の画線群とは異なる配向方向を有する画線群が少なくとも1つ存在する。
図1に例示する印刷物1では、画線群a0と画線群a4とは、配向方向が同じであるが、他の画線群a1~a3、a5~a6の配向方向はすべて特有であり、他の画線群の配向方向とは異なっている。
【0042】
さらに、印刷物1では、画線群a0~a6のような複数の画線群には、いずれかの画線群と、配向方向が同じであるが、線幅wおよび間隙sのうちの少なくともいずれかが異なる画線群が少なくとも1つ存在する。
図1に例示する印刷物1では、画線群a0と画線群a4とは、配向方向が同じであり、画線aの線幅wも同じであるが、画線aの間隙sは異なっており、画線群a4の方が狭くなっている。
【0043】
このような構成の印刷物1は、画線群a0~a6のような画線群の長さ、幅、数、印刷基材2における配置位置、各画線群a0~a6における画線aの線幅w、間隙s、および配向方向に基づいて決定される潜像画像を埋め込むことができる。
【0044】
つまり、埋め込む潜像画像の絵柄に応じて、画線群の長さ、幅、数、印刷基材2における配置位置、各画線群a0~a6における画線aの線幅w、間隙s、および配向方向を決定することができる。
【0045】
さらには、互いに異なる色のインキで形成されている画線aを含む画線群における異なる色の組み合わせによって、潜像画像に、光沢感および色相を与えることもできる。
【0046】
また、
図2を用いて説明したように、画線aが、蒲鉾形状の断面をしており、線幅wが、0.0mmよりも大きく、0.5mm以下であり、最大高さh2が、0.0mmよりも大きく、0.01mm以下であり、間隙sが、0.0mm以上、0.5mm以下であることも、潜像画像に、光沢感および色相を与えるのに好都合である。
【0047】
図3は、従来技術による印刷物の表面に現れる反射光を例示する斜視図である。
【0048】
図3(a)および
図3(b)に示される従来技術の一般的な平面構造の印刷物50はともに、基材2上に、一般的な網点などを用いて、例えば黒色でべた印刷されたものである。
図3(a)では、印刷物50に対して、光源60からのY方向に平行な入光に対して見える反射光を、
図3(b)では、印刷物50に対して、光源60からのX方向に平行な入光に対して見える反射光を、それぞれ概略的に示している。
【0049】
図3(a)に例示されるように、光源60からY方向に平行な入光Iがあった場合、ある位置で光源60の形状にあった形状の反射光Rが認識される。
【0050】
次に、光源60の位置を固定したまま、
図3(a)の状態から、印刷物50をXY平面において90°回転させて、
図3(b)の状態にする。
【0051】
そして、
図3(b)に例示されるように、光源60からX方向に平行な入光Iがあった場合も同様に、印刷物50における同じ位置に、光源60の形状に合った形の反射光Rが認識される。
【0052】
このように網点で形成されたような平面構造の印刷物50では、印刷基材2の向きや位置を変えても、同様の反射光Rしか認識されず、明暗の状態も変化しない。
【0053】
図4は、本発明の実施形態に係る印刷物の表面に現れる反射光を例示する斜視図である。
【0054】
なお、本発明の実施形態に係る印刷物1では、前述したように、断面が蒲鉾形状の画線aが印刷基材2に印刷されているが、
図4では、説明の便宜上、画線aを黒色の円筒形状で表している。また、本発明の実施形態に係る印刷物1では、異なる配向方向に配向された画線aが印刷基材2に印刷されているが、
図4では、説明の便宜上、画線aは、図中X方向のみに配向されている。
【0055】
図5は、本発明の実施形態に係る印刷物の表面に現れる反射光の発生メカニズムを説明するための図である。
【0056】
図4(a)に例示されるように、印刷物1に対して、光源60からY方向に平行な入光Iがあった場合、
図5(a)に例示するように、画線a-1の表面b-1付近、画線a-2の表面b-2付近、・・・画線a-nの表面b-n付近(nは、3以上の任意の整数)で、それぞれ反射光R-1,R-2,・・・R-nが発生し、全ての画線で反射光Rが認識される。これによって、観察者70には、
図4(a)に例示するように、線状の反射光Rが画線aの配向方向(図中Y方向)に帯状に延びて視認される。
【0057】
次に、光源60の位置を固定したまま、
図3の場合と同様に、
図4(a)の状態から、印刷物1をXY平面において90°回転させて、
図4(b)の状態にする。
【0058】
この状態では、光源60からの入光Iの方向と、画線aの配向方向とが一致する。この場合、
図5(b)に例示するように、光源60からの入光Iは、画線a-1の表面で反射し、画線a-1の周辺方向へ拡散してしまい、反射光R-1は、観察者70までほとんど到達しない。同様に、画線a-2,・・・a-nでも、光源60からの入光I-2,・・・I-nは、画線a-2,・・・a-nの表面で反射し、画線a-2,・・・a-nの周辺方向へ拡散してしまい、反射光R-2,・・・R-nは、観察者70までほとんど到達しない。したがって、観察者70には、
図4(b)に例示するように、反射光Rがない状態として視認される。
【0059】
このように、画線aでの反射光Rは、入光Iの方向を0°とした場合、画線aの配向方向が0°である場合が最も弱い。そして、入光Iの方向と、画線aの配向方向とが直交する90°である場合が最も強くなる。つまり、画線aの配向方向が、入光Iの方向に対して0°から90°へ向かって変化するに伴い徐々に反射光Rが強くなり、90°を超えると逆に徐々に弱くなり、180°で最も弱くなる。画線aの配向方向が、入光Iの方向に対して180°から270°までの反射光Rの強度の変化、および270°から360°までの反射光Rの強度の変化も、画線aの配向方向が、入光Iの方向に対して0°から90°までの反射光の強度の変化、および90°から180°までの反射光の強度の変化と同様である。
【0060】
ただし、画線aの線幅wが0.5mmよりも大きい場合、画線群として印刷された場合でも、各画線a毎に視認されるため、べた印刷状態とは認識されず、反射光Rも線状として認識されるため、べた面が均等に反射するような光沢感を発揮することはできない。
【0061】
また、画線aとして認識されるため、反射光Rの有無に関わらず、潜像画像が既に認識されてしまう。
【0062】
同様に、画線aと画線aとの間隔sが0.5mmよりも大きい場合も、画線aの線幅wによらず各画線a毎に視認されるため、べた面が均等に反射するような光沢感を発揮することはできない。
【0063】
また、この場合も、画線aとして認識されるため、反射光Rの有無に関わらず、潜像画像が既に認識されてしまう。
【0064】
さらに、画線aの最大高さh2が0.01mmよりも大きい場合、画線aと、印刷基材2の基材面での凸凹が認識されてしまう。つまり、各画線a毎に視認されてしまうので、べた印刷状態にはならず、べた面が均等に反射するような光沢感を発揮することができない。
【0065】
また、この場合も同様に、画線aとして認識されるため、反射光Rの有無に関わらず、潜像画像が既に認識されてしまう。
【0066】
図6、
図7、および
図8は、本発明の実施形態に係る印刷物に埋め込まれた潜像画像の見え方の例を示す平面図である。
【0067】
特に
図6は、画線aが万線パターンで配置されている第2の画線群a1~a4を含む印刷物1aを示しており、
図7は、画線aが同心円パターンで配置されている第3の画線群a5を含む印刷物1bを示しており、
図8は、画線aが曲線パターンで配置されている第4の画線群a6を含む印刷物1cを示している。
【0068】
先ず、
図6を用いて、画線aが万線パターンで配置されている第2の画線群a1~a4を含む印刷物1aにおける潜像画像の見え方について説明する。
【0069】
図6(a)に示す印刷物1aは、
図1に示す印刷物1の上半分に相当しているので、重複説明は避けるが、印刷基材2に、図中左側から第2の画線群a1~a4が順に配置され、それらの周囲には第1の画線群a0が配置されており、第1の画線群a0の配向方向は135°方向、第2の画線群a1,a2,a3,a4の配向方向はそれぞれ、90°方向、0°方向、45°方向、135°方向である。
【0070】
光源60および観察者70による視認の高さ方向の角度は、双方が重ならない任意の位置とし、光源60は、印刷物1aを、270°の方向から照明するように固定されている。一方、観察者70は、
図6(a)中に示す0°から180°の任意の角度から印刷物1aを観察することができる。
【0071】
図6(b)は、観察者70が、135°の視野方向から、
図6(c)は、90°の視野方向から、
図6(d)は、45°の視野方向から、
図6(e)は、0°の視野方向からそれぞれ印刷物1aを観察した状態を示す。
【0072】
なお、
図6(b)~(e)では、便宜上、反射光が最も強い部分を白で、中間強さの部分を灰色で、最も弱い部分を黒で表している。
【0073】
図6(b)では、観察者70の視野方向が135°であり、第1の画線群a0の配向方向と同じであり、画線aからの反射光は最も弱くなるため、第1の画線群a0は黒で表されている。
【0074】
一方、第2の画線群a1,a2における画線aの配向方向は、それぞれ視野方向に対して絶対値で45°の角度を有し、画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第2の画線群a1,a2は灰色で表されている。
【0075】
第2の画線群a3における画線aの配向方向は、視野方向に対して90°の角度を有し(すなわち、直交し)、画線aからの反射光は最も強くなるため、第2の画線群a3は白で表されている。
【0076】
第2の画線群a4における画線aの配向方向は、視野方向と同じであり、画線aからの反射光は最も弱くなるため、第2の画線群a4は黒で表されている。
【0077】
図6(c)では、観察者70の視野方向が90°である。このため、第1の画線群a0における画線aの配向方向は、視野方向に対して45°の角度を有し、画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第1の画線群a0は灰色で表されている。
【0078】
第2の画線群a1における画線aの配向方向は、視野方向と同じであり、画線aからの反射光は最も弱くなるため、第2の画線群a1は黒で表されている。
【0079】
第2の画線群a2における画線aの配向方向は、視野方向と直交し、画線aからの反射光は最も強くなるため、第2の画線群a2は白で表されている。
【0080】
第2の画線群a3,a4における画線aの配向方向は、視野方向に対して45°の角度を有し、画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第2の画線群a3,a4は灰色で表されている。
【0081】
図6(d)では、観察者70の視野方向が45°である。このため、第1の画線群a0における画線aの配向方向は、視野方向と直交し、画線aからの反射光は最も強くなるため、第1の画線群a0は白で表されている。
【0082】
第2の画線群a1,a2における画線aの配向方向は、視野方向に対して45°の角度を有し、画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第2の画線群a1,a2は灰色で表されている。
【0083】
第2の画線群a3における画線aの配向方向は、視野方向と同じであり、画線aからの反射光は最も弱くなるため、第2の画線群a3は黒で表されている。
【0084】
第2の画線群a4における画線aの配向方向は、視野方向と直交し、画線aからの反射光は最も強くなるため、第2の画線群a4は白で表されている。
【0085】
図6(e)では、観察者70の視野方向が0°である。このため、第1の画線群a0における画線aの配向方向は、視野方向に対して45°の角度を有し、画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第2の画線群a1,a2は灰色で表されている。
【0086】
第2の画線群a1における画線aの配向方向は、視野方向と直交し、画線aからの反射光は最も強くなるため、第2の画線群a1は白で表されている。
【0087】
第2の画線群a2における画線aの配向方向は、視野方向と同じであり、画線aからの反射光は最も弱くなるため、第2の画線群a2は黒で表されている。
【0088】
第2の画線群a3,a4における画線aの配向方向は、視野方向に対して45°の角度を有し、画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第2の画線群a3,a4は灰色で表されている。
【0089】
次に、
図7を用いて、画線aが同心円パターンで配置されている第3の画線群a5を含む印刷物1bにおける潜像画像の見え方について説明する。
【0090】
図7(a)に示す印刷物1bは、
図1に示す印刷物1の左下部分に相当しているので、重複説明は避けるが、第3の画線群a5には、多数の画線aが、0°から360°まで時計回りの配向方向で、同心円状に配置されている。なお、画線aは、第1の画線群a0および第3の画線群a5に関わらず、線幅w、間隙s、および高さhは、同一である。
【0091】
図7(b)は、観察者70が、135°の視野方向から、
図7(c)は、90°の視野方向から、
図7(d)は、45°の視野方向から、
図7(e)は、0°の視野方向からそれぞれ印刷物1bを観察した状態を示す。
【0092】
図7(b)~(e)でも、
図6(b)~(e)と同様に、便宜上、反射光が最も強い部分を白で、中間の強さ部分を灰色で、最も弱い部分を黒で表すが、第3の画線群a5のように画線aが同心円状に配置されている構成では、
図6(b)~(e)に示す第2の画線群a1~a4のような明確な明暗の切り替わりではなく、グラデーション状に明暗が現れる。
【0093】
図7(b)では、観察者70の視野方向が135°であり、第1の画線群a0の配向方向と一致する。このため、第1の画線群a0の画線aからの反射光は最も弱くなるため、第1の画線群a0は黒で表されている。
【0094】
一方、第3の画線群a5では、画線aの円弧の接線方向が、視野方向に一致する、図中45°および225°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も弱くなる。
図7(b)では、この扇形領域が黒で表されている。
【0095】
逆に、画線aの円弧の接線方向が、視野方向と直交する、図中135°および315°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も強くなる。
図7(b)では、この扇形領域が白で表されている。
【0096】
また、画線aの円弧の接線方向が、視野方向と絶対値で45°で交差する、図中0°、90°、180°、および270°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光は中間の強さとなる。
図7(b)では、この扇形領域が灰色で表されている。
【0097】
図7(c)では、観察者70の視野方向が90°であり、第1の画線群a0の配向方向と視野方向と絶対値で45°で交差する。したがって、第1の画線群a0の画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第1の画線群a0は灰色で表されている。
【0098】
一方、第3の画線群a5では、画線aの円弧の接線方向が、視野方向に一致する、図中0°および180°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も弱くなる。
図7(c)では、この扇形領域が黒で表されている。
【0099】
逆に、画線aの円弧の接線方向が、視野方向と直交する、図中90°および270°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も強くなる。
図7(c)では、この扇形領域が白で表されている。
【0100】
また、画線aの円弧の接線方向が、図中45°、135°、225°、および315°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光は中間の強さとなる。
図7(c)では、この扇形領域が灰色で表されている。
【0101】
図7(d)では、観察者70の視野方向が45°であり、第1の画線群a0の配向方向と直交する。したがって、第1の画線群a0の画線aからの反射光は最も強くなるため、第1の画線群a0は白で表されている。
【0102】
一方、第3の画線群a5では、画線aの円弧の接線方向が、視野方向に一致する、図中135°および315°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も弱くなる。
図7(d)では、この扇形領域が黒で表されている。
【0103】
逆に、画線aの円弧の接線方向が、視野方向と直交する、図中45°および225°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も強くなる。
図7(d)では、この扇形領域が白で表されている。
【0104】
また、画線aの円弧の接線方向が、図中0°、90°、180°、および270°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光は中間の強さとなる。
図7(d)では、この扇形領域が灰色で表されている。
【0105】
図7(e)では、観察者70の視野方向が0°であり、第1の画線群a0の配向方向と絶対値で45°で交差する。したがって、第1の画線群a0の画線aからの反射光は中間の強さとなるため、第1の画線群a0は灰色で表されている。
【0106】
一方、第3の画線群a5では、画線aの円弧の接線方向が、視野方向に一致する、図中90°および270°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も弱くなる。
図7(e)では、この扇形領域が黒で表されている。
【0107】
逆に、画線aの円弧の接線方向が、視野方向と直交する、図中0°および180°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光が最も強くなる。
図7(e)では、この扇形領域が白で表されている。
【0108】
また、画線aの円弧の接線方向が、図中45°、135°、225°、および315°を中心とする扇形領域において、画線aからの反射光は中間の強さとなる。
図7(e)では、この扇形領域が灰色で表されている。
【0109】
次に、
図8を用いて、画線aが曲線パターンで配置されている第4の画線群a6を含む印刷物1cにおける潜像画像の見え方について説明する。
【0110】
図8(a)に示す印刷物1cは、
図1に示す印刷物1の右下部分に相当しているので、重複説明は避けるが、第4の画線群a6には、同一曲線で形成された多数の画線aが印刷されており、画線aは、第1の画線群a0および第4の画線群a6に関わらず、線幅w、間隙s、および高さhは、同一である。
【0111】
図8(b)は、観察者70が、135°の視野方向から、
図8(c)は、90°の視野方向から、
図8(d)は、45°の視野方向から、
図8(e)は、0°の視野方向からそれぞれ印刷物1cを観察した状態を示す。
【0112】
図8(b)~(e)でも、
図6(b)~(e)と同様に、便宜上、反射光が最も強い部分を白で、中間の強さ部分を灰色で、最も弱い部分を黒で表すが、第4の画線群a6のように曲線の画線aが配置されている構成では、
図6(b)~(e)に示す第2の画線群a1~a4のような明確な明暗の切り替わりではなく、
図7(b)~(e)と同様に、グラデーション状に明暗が現れる。
【0113】
図8(b)では、観察者70の視野方向が135°であり、第1の画線群a0の配向方向が一致する。このため、第1の画線群a0の画線からの反射光は最も弱くなるため、第1の画線群a0は黒で表されている。
【0114】
一方、第4の画線群a6では、曲線である画線aの接線方向が、視野方向に一致する135°付近の領域a6-1において、画線aからの反射光が最も弱くなる。
図8(b)では、この領域a6-1が黒で示されている。
【0115】
また、第4の画線群a6では、曲線である画線aの接線方向が、視野方向と直交する90°付近の領域a6-2において、画線aからの反射光が最も強くなる。
図8(b)では、この領域a6-2が白で示されている。
【0116】
第4の画線群a6では、領域a6-1,a6-2以外の領域a6-3では、画線aからの反射光は中間の強さとなる。
図8(b)では、この領域a6-3が灰色で表されている。
【0117】
このようなメカニズムによって、第4の画線群a6では、観察者の視野方向が90°である場合には、
図8(c)に示すように、45°である場合には、
図8(d)に示すように、0°である場合には、
図8(e)に示すように、画線aからの反射光が最も弱くなる領域a6-1、最も強くなる領域a6-2、中間の強さとなる領域a6-3の場所が変化する。
【0118】
以上、
図6、
図7、および
図8を用いて説明したように、本実施形態に係る印刷物1では、画線群で印刷形成されたものはべた印刷状態で認識されるため、反射光の強さの切り替わりが面で発生しているように認識され、これによって、発現する潜像画像に、金属の様な光沢感を付与できる。
【0119】
また印刷物1は、全て同じ画線aで形成されているため、反射光のない状態で観察した場合には全面同一のべた印刷状態で認識されるが、反射光を認識できる状態で観察すると、
図6に示されるような明暗により、潜像画像を発現させることができる。
【0120】
さらに、
図7(a)に示されるように、同心円状の画線群a5では、
図7(b)~(e)に示されるように、扇形の反射形状が発現し、視野方向を連続的に移動すると扇形形状も中心点を起点に回転移動するような動的視覚を得ることができる。
【0121】
さらにまた、
図8(a)に示されるように、曲線パターンの画線群a6では、
図8(b)~(e)に示されるように、視野方向を連続的に移動させるに伴い、反射光が、その形状を変化させながら、画線群a6内を移動するような複雑な動的視覚効果を得ることもできる。
【0122】
以上説明したように、本実施形態に係る印刷物1は、視野方向と画線aの配向方向とが平行であるときには反射光は見えず、視野方向と画線aの配向方向とが垂直であるときには反射光が最も強く見える反射特性を有すことにより、観察者70からの視野方向や、光源60からの入光Iの方向の変化に伴い、金属の様な光沢感を伴いながら、複雑に変化する潜像画像を発現できる。このような動的な視覚効果の再現は極めて困難であるので、本実施形態に係る印刷物1は、優れた耐偽造性を有している。
【0123】
しかも、このような光沢感を伴う潜像画像の表示は、一般的なカラーインキを用い、2つ以上の画線群の構造に由来する光学的変化として得られるため、インキ中に含まれる機能性材料の光学特性には依存しない。そのため、顔料メーカがその効果を実現することができる機能性材料を販売していない場合であっても、本印刷物を用いることで容易に実現できることから、色彩設計の自由度が向上するという効果を奏することもできる。
【0124】
さらに、本実施形態に係る印刷物1によれば、画線群の構成を変えるだけで、単純な変化からより複雑で動的な変化まで、幅広い変化を伴って潜像画像を発現することができる。また、本実施形態に係る印刷物1は、専用の作製装置や機械を必要とせず、既存の印刷機を用いることで作製可能であるため、コストパフォーマンスにも優れている。
【0125】
印刷物1の真偽判定を行う場合には、印刷物1の画線aが印刷されている印刷面側を、光源60側に向けたまま、印刷物1を回転させてゆく過程で、印刷面上に、予め定められたパターンで潜像画像が出現することを目視することによって、特別なツールを必要とすることなく、その場で簡単に、印刷物1の真偽判定を行うことができる。
【0126】
仮に偽造品であれば、印刷面側を、光源60側に向けたまま、回転させても、予め定められたパターンで潜像画像が出現しないので、偽造品であると判定できる。
【0127】
例えば、真正な印刷物1に正対する位置から白色光を照射し、印刷物1からの反射光を受光し、画像のデータに相当するスキャンデータを処理部へ出力し、処理部が、このスキャンデータからプリントデータを生成し、プリンター部が、プリントデータに基づいて印刷することによって、偽造品である複写画像が作製された場合を想定する。
【0128】
この場合、白色光は、正対する位置からの平行光として与えられるため、真正な印刷物1における画線群(a0,a1,a2,a3,a4,a5,a6)は、全て同じ状態で読み取られ複写される。この複写画像は、べた印刷状態で出力されることになるので、視野方向を変えて観察しても、複写画像からは、前述したような金属光沢が発現することも、潜像画像が表れることもないので、たとえ外見から分からない場合であっても、偽造品であるとの判定を確実に実施することができる。
【0129】
このように本実施形態に係る印刷物1によって実現される、視野方向または光源60の方向の変化に伴う光学的効果は、最新のデジタル印刷機器を用いても再現不可能である。したがって、本実施形態によれば、肉眼での観察によって、容易に真偽判定が可能で、且つ偽造も困難な技術を提供する。したがって、本実施形態に係る印刷物1は、例えば銀行券、パスポ-ト、有価証券、身分証明書、カ-ドおよび通行券等のように、偽造防止効果を必要とするセキュリティ媒体に好適に適用できる。
【0130】
(製造方法)
次に、本実施形態に係る印刷物の製造方法について説明する。
【0131】
本実施形態に係る印刷物1は、公知の印刷方法を用いて印刷される。
【0132】
したがって、印刷方法としては、限定される訳ではないが、スクリーン印刷、スクリーンオフセット印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、フレキソ印刷などが挙げられる。
【0133】
また、例えば第1の画線群a0、第2の画線群a1,a2,a3,a4、第3の画線群a5、および第4の画線群a6等の画線群を形成するインキとして、酸化重合型インキ、UV硬化型インキ、光硬化性樹脂等の汎用インキを用いることが可能である。
【0134】
また、インキには顔料を使用することもできる。
【0135】
具体的な顔料としては、限定される訳ではないが、金属、二酸化チタンや亜鉛華および鉄黒に代表される酸化物、水酸化物、硫化物、セレン化物、アルミン酸コバルト、フェロシアン化物、クロム酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、燐酸塩、および炭素等が挙げられる。
【0136】
具体的な有機顔料としては、限定される訳ではないが、炭素化合物、ニトロソ系化合物、ニトロ系化合物、アゾ系化合物、レーキ系顔料、フタロシアニン系化合物、および縮合多環材料等が挙げられる。
【0137】
インキ顔料には、光散乱粒子を使用することができる。
【0138】
具体的な光散乱粒子としては、限定される訳ではないが、アクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン・アクリル共重合体若しくはその架橋体、メラミン-ホルマリン縮合物、ウレタン樹脂、ポリエステル、シリコン樹脂、フッ素粒子、エポキシ樹脂、およびこれらの共重合体が挙げられる。
【0139】
光散乱粒子に使用可能な具体的な無機物としては、限定される訳ではないが、スメクタイト、カオリナイト、およびタルク等の粘土化合物、シリカ、チタニア、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化バリウム、および酸化ストロンチウム等の無機酸化物、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、および炭酸ストロンチウム等の無機炭酸塩、塩化バリウムおよび塩化ストロンチウム等の無機塩化物、硫酸バリウムおよび硫酸ストロンチウム等の無機硫酸塩、硝酸バリウムおよび硝酸ストロンチウム等の無機硝酸塩、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム、および水酸化ストロンチウム等の無機水酸化物、並びにガラスが挙げられる。
【0140】
樹脂材料に、炭化水素系溶剤(石油ナフサ、トルエン、キシレン、テトラリン、テレピン油など)や、エステル系溶剤(酢酸n-ブチル、酢酸メトキシブチルなど)や、ケトン系溶剤(MIBK、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、イソホロンなど)や、多価アルコール誘導体(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールなど)などの溶剤を適宜混合して使用できる。
【0141】
樹脂材料に対する添加剤としては、限定される訳ではないが、植物油系、界面活性剤、ワックス膨潤体、消泡剤、レベリング剤、スリップ剤、紫外線吸収剤、可塑剤、硬化促進剤等を適宜混合して使用できる。
【実施例0142】
次に、本発明の実施形態に係る印刷物を、実際に作製した例を、以下に実施例として説明する。
【0143】
図9は、本発明の実施形態に係る印刷物の印刷に適用される印刷装置の原理を示す概念図である。
【0144】
この印刷装置は、グラビアオフセット印刷装置100とすることができる。
【0145】
グラビアオフセット印刷装置100は、凹版からなる印刷版101と、ブランケット胴102に巻かれたインキ転写用のブランケット103と、印刷版101にインキ105を充填するドクタ106と、印刷定盤111とを備えている。
【0146】
印刷版101としては、幅100mm×長さ100mmの大きさの金属製の平版に、画線群となる部分を印刷パターン溝104としてエッチングによって彫刻したものを使用した。
【0147】
画線群の例は、
図1に示す第1の画線群a0、第2の画線群a1,a2,a3,a4、第3の画線群a5、および第4の画線群a6を含むものとした。
【0148】
第1の画線群a0では、画線aを万線状に配置し、線幅wを0.03mm、間隙sを0.03mm、配向方向を135°とした。
【0149】
第2の画線群a1,a2,a3,a4でも、画線aを万線状に配置し、線幅wを0.03mm、間隙sを0.03mmとした。このように線幅wおよび間隙sは共通しているが、配向方向はそれぞれ異なり、画線群a1では90°、画線群a2では0°、画線群a3では45°、画線群a4では135°とした。
【0150】
第3の画線群a5では、画線aを同心円状に配置し、線幅wを0.03mm、間隙sを0.03mmとした。
【0151】
第4の画線群a6では、画線aを曲線状に配置し、線幅wを0.03mm、間隙sを0.03mmとした。
【0152】
ブランケット胴102は、胴幅220mm×直径300mmのSUS304製とした。
【0153】
このようなブランケット胴102の表面には、シリコンゴムを主体とする材料で作製された、厚み0.9mm、硬度20°、幅200mm、および長さ250mmのブランケット103が固定されている。
【0154】
ブランケット胴102は、移動可能な台車(図示せず)に支持されており、さらに台車は、架台(図示せず)に支持されている。
【0155】
ブランケット胴102によって、ブランケット103を、印刷版101に押さえ付けながら転動することで、印刷版101の凹部である印刷パターン溝104のインキ107を、インキ108として示すように、ブランケット103の表面において受理した。その後、今度は、ブランケット胴102によって、ブランケット103を、印刷基材110に押さえ付けながら転動することで、インキ108を、印刷基材110の表面にインキ109として転写した。
【0156】
印刷基材110は、幅150mm×長さ150mm×厚さ0.01mmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム製とした。
【0157】
グラビアオフセット印刷装置100は、このようにして、印刷基材110の表面に、画線群a0~a6を印刷形成した。これら画線群a0~a6を形成するインキは、一般的なオフセット印刷用インキのシアン色を用いて印刷形成された。
【0158】
次に、このような印刷装置によって印刷物が印刷される場合の工程を、
図10を用いて詳細に説明する。
【0159】
図10は、
図9に示す印刷装置によって印刷物が印刷されるまでの各工程を示す図である。
【0160】
先ず、
図10(a)に示すように、印刷版101上にシアンインキ105を、0.5g/cm
2で供給した。
【0161】
次に、
図10(b)に示すように、ドクタ106と印刷版101とが接する位置をドクタ106のゼロ点とし、このゼロ点から、ドクタ106によって、印刷版101の長手方向に0.5mm近づけた位置でインキ105を掻き取りながら、印刷パターン溝104にインキ107を充填した。
【0162】
次に、
図10(c)に示すように、印刷版101とブランケット103とが接する位置をブランケット胴102のゼロ点とし、このゼロ点から、ブランケット胴102を0.5mm印刷版101に近づけた位置を、印刷版101の充填インキ107をブランケット103に受理する位置とし、この位置でブランケット胴102を50mm/秒の速度で転動させて、印刷版101の充填インキ107を、ブランケット103において受理した。受理されたインキ107は、
図10(c)においてインキ108として示されている。
【0163】
最後に、
図10(d)に示すように、印刷基材110とブランケット103とが接する位置をブランケット胴102のゼロ点とし、このゼロ点から、ブランケット胴102を0.5mm印刷基材110に近づけた位置を、ブランケット103に受理したインキ108を印刷基材110に転写する位置とし、この位置でブランケット胴102を100mm/秒の速度で転動させて、ブランケット103に受理されたインキ108を、印刷基材110に転写した。転写されたインキ108は、
図10(d)においてインキ109として示されている。
【0164】
以上のようにして、印刷基材110への画線群a0~a6の印刷が完了し、
図1のような印刷物1を得ることができた。
【0165】
以上、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。