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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176646
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】微粒子製造装置及び微粒子製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20241212BHJP
   B01J 2/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B01J19/12 H
B01J2/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095369
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】公文 広樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真澄
(72)【発明者】
【氏名】玉置 善紀
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】森田 宇亮
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 利幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 之雄
【テーマコード(参考)】
4G004
4G075
【Fターム(参考)】
4G004AA01
4G075AA13
4G075AA27
4G075BB10
4G075CA36
4G075DA02
4G075DA18
4G075EB31
4G075ED15
4G075FC02
(57)【要約】
【課題】所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる微粒子製造装置及び微粒子製造方法を提供する。
【解決手段】微粒子製造装置1Aは、ターゲットTを含む溶液Sが導入される導入部2と、溶液Sが取り出される取出部3と、溶液Sを導入部2から取出部3に向かって流通させる流路4と、溶液S中のターゲットTのうち所定寸法を超える粒子Pを流路4において捕捉すると共に、所定寸法以下の粒子Pを取出部3側に通過させる捕捉部5と、捕捉部5に向けてターゲットTの粉砕に用いられるレーザ光Lを出力する光源部6と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを含む溶液が導入される導入部と、
前記溶液が取り出される取出部と、
前記溶液を前記導入部から前記取出部に向かって流通させる流路と、
前記溶液中のターゲットのうち所定寸法を超える粒子を前記流路において捕捉すると共に、前記所定寸法以下の粒子を前記取出部側に通過させる捕捉部と、
前記捕捉部に向けて前記ターゲットの粉砕に用いられるレーザ光を出力する光源部と、を備える微粒子製造装置。
【請求項2】
前記捕捉部は、前記取出部に近い捕捉部ほど捕捉可能な粒子の寸法が小さくなるように、前記流路に複数段に設けられている、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項3】
前記捕捉部は、前記流路の少なくとも一部が前記導入部から前記取出部に向かって徐々に狭くなることによって構成されている、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項4】
前記捕捉部は、複数の開口を有する多孔質部材を前記流路内に配置することによって構成されている、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項5】
前記捕捉部は、1μm以下のサイズの粒子のみを通過させる、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項6】
前記光源部から出力される前記レーザ光のフルエンスは、0.1J/cm以上である、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項7】
前記捕捉部に対して前記レーザ光を走査する走査部を更に備える、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項8】
前記捕捉部において前記溶液を逆流させ、前記捕捉部で捕捉された前記粒子を回収する回収機構を更に備える、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項9】
前記流路に振動を付与する振動付与部を更に備える、請求項1記載の微粒子製造装置。
【請求項10】
前記ターゲットは、分散安定化剤によって表面処理されている、請求項1~9のいずれか一項記載の微粒子製造装置。
【請求項11】
ターゲットを含む溶液を導入部から流路に導入する導入工程と、
前記溶液を前記導入部から取出部に向かって流通させる流通工程と、
前記溶液中のターゲットのうち所定寸法を超える粒子を前記流路の捕捉部において捕捉すると共に、前記所定寸法以下の粒子を前記取出部側に通過させる捕捉工程と、
前記捕捉部に向けて前記ターゲットの粉砕に用いられるレーザ光を出力する光照射工程と、
前記捕捉部を通過した粒子を前記取出部から取り出す取出工程と、を備える微粒子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微粒子製造装置及び微粒子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、製薬業界における新薬開発には、数千億円から1兆円を超える規模で開発費が投入されているが、新薬の候補化合物の探索から非臨床試験及び臨床試験を経て承認が得られるまでの確率、すなわち、開発の成功確率は、おそよ0.004%以下にとどまっている。このような新薬開発の難しさの背景には、候補化合物の70%以上が難水溶性を示す化合物であることが挙げられる。
【0003】
また、既に上市されている医薬に関しても、難水溶性を要因とする副作用の軽減が課題となっている。例えば抗がん剤として知られるパクリタキセルは、細胞分裂を阻害する作用により、正常細胞よりも頻繁に分裂を繰り返すがん細胞を優先的に攻撃する薬剤であり、がん治療に広く用いられているが、水への溶解度が10μg/mL未満と非常に低い。このため、パクリタキセルを患者に投与する際には、溶解性の向上を目的としてエタノールやポリオキシエチレンヒマシ油などの溶媒が用いられるが、溶媒の使用に起因する過敏反応の出現に留意する必要がある。
【0004】
薬剤の水溶性を向上させる観点から、ターゲットを微粒子化し、材料の表面積を増加させる手法が着目されている。微粒子の製造方法として広く実用化された手法としては、ボールミル法や高圧ホモジナイズ法などが挙げられるが、これらの手法では、生成した微粒子の回収効率の低さや不純物の混入などが課題となっている。そこで、近年では、これらの課題をクリアできる手法として、レーザ光を用いてターゲットを微粒子化するレーザ照射法が注目されている。例えば特許文献1に記載のナノ粒子の生成方法では、液体中に配置されたターゲットに対して繰返周波数の高い超短パルス光を照射し、レーザアブレーションによってナノレベルの微粒子を生成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-129608公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1のような手法では、一定のタイミングで容器に配置したターゲットを交換する必要があり、微粒子の生成の継続的な実施ができないため、微粒子の製造効率の向上が難しいと考えられる。また、レーザ光の照射によって生成される微粒子の粒子径をコントロールできないため、得られる微粒子のサイズがばらつくという問題もあった。
【0007】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる微粒子製造装置及び微粒子製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る微粒子製造装置は、ターゲットを含む溶液が導入される導入部と、溶液が取り出される取出部と、溶液を導入部から取出部に向かって流通させる流路と、溶液中のターゲットのうち所定寸法を超える粒子を流路において捕捉すると共に、所定寸法以下の粒子を取出部側に通過させる捕捉部と、捕捉部に向けてターゲットの粉砕に用いられるレーザ光を出力する光源部と、を備える。
【0009】
この微粒子製造装置では、ターゲットを含む溶液を導入部から取出部に向かって流通させ、流路に設けた捕捉部によってターゲットのうち所定寸法を超えるものを捕捉する。そして、捕捉部に捕捉されたターゲットをレーザ光の照射によって粉砕し、所定寸法以下のサイズとなった粒子を取出部側に通過させ、取出部から取り出す。このような手法によれば、溶液の流通によってターゲットの粉砕を連続的に実施できると共に、取出部で取り出される粒子のサイズを捕捉部の通過可能サイズに応じて揃えることができる。したがって、この微粒子製造装置では、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる。
【0010】
この微粒子製造装置では、ターゲットを捕捉部で捕捉することで、レーザ光による照射時間を容易に確保できる。したがって、粉砕に照射時間を要するターゲットに対しても簡便に粉砕を行うことが可能となる。また、この微粒子製造装置では、溶液中のターゲットをレーザ光で粉砕するため、レーザ光の照射によるターゲットの温度上昇を抑えることができる。捕捉部において捕捉されているターゲットにレーザ光が照射され続けた場合であっても、溶液の供給によってターゲットの周りの溶液が交換されることで、ターゲットの温度上昇を抑えることができる。ターゲットの温度上昇を抑えることで、粉砕後の粒子の再凝集を抑制でき、微粒子の製造の一層の効率化が図られる。
【0011】
捕捉部は、取出部に近い捕捉部ほど捕捉可能な粒子の寸法が小さくなるように、流路に複数段に設けられていてもよい。捕捉可能な粒子の寸法を段階的に小さくすることで、所望のサイズの微粒子を安定して生成できると共に、捕捉部における粒子の過度な目詰まりを抑制できる。
【0012】
捕捉部は、流路の少なくとも一部が導入部から取出部に向かって徐々に狭くなることによって構成されていてもよい。この場合、流路自体を一定の範囲で捕捉部として用いることが可能となる。これにより、流路における過度な流速の変化や、捕捉部における粒子の過度な目詰まりを効果的に抑制できる。
【0013】
捕捉部は、複数の開口を有する多孔質部材を流路内に配置することによって構成されていてもよい。この場合、流路の構成の複雑化を回避しつつ、簡単な構成で捕捉部を構成できる。
【0014】
捕捉部は、1μm以下のサイズの粒子のみを通過させてもよい。これにより、1μm以下のサイズの微粒子を安定して製造できる。
【0015】
光源部から出力されるレーザ光のフルエンスは、0.1J/cm以上であってもよい。この場合、レーザ光のフルエンスを十分な値とすることで、捕捉部におけるターゲットの粉砕を効率的に実施できる。
【0016】
微粒子製造装置は、捕捉部に対してレーザ光を走査する走査部を更に備えていてもよい。この場合、捕捉部においてレーザ光を走査することで、捕捉部におけるターゲットの粉砕を効率的に実施できる。
【0017】
微粒子製造装置は、捕捉部において溶液を逆流させ、捕捉部で捕捉された粒子を回収する回収機構を更に備えていてもよい。このような回収機構を設けることで、捕捉部で捕捉された任意のサイズの粒子の選択的な回収が可能となる。また、捕捉部の目詰まりの解消も図られる。
【0018】
微粒子製造装置は、流路に振動を付与する振動付与部を更に備えていてもよい。この場合、流路に振動を付与することで、流路内での粒子の滞留や、捕捉部での粒子の目詰まりを好適に抑制できる。
【0019】
ターゲットは、分散安定化剤によって表面処理されていてもよい。この場合、レーザ光による粉砕後の粒子同士の凝集を抑制でき、所望のサイズの微粒子を安定して生成できる。また、粒子同士の凝集を抑制することで、捕捉部における粒子の目詰まりの抑制も図られる。
【0020】
本開示の一側面に係る微粒子製造方法は、ターゲットを含む溶液を導入部から流路に導入する導入工程と、溶液を導入部から取出部に向かって流通させる流通工程と、溶液中の粒子のうち所定寸法を超えるターゲットを流路の捕捉部において捕捉すると共に、所定寸法以下の粒子を取出部側に通過させる捕捉工程と、捕捉部に向けてターゲットの粉砕に用いられるレーザ光を出力する光照射工程と、捕捉部を通過した粒子を前記取出部から取り出す取出工程と、を備える。
【0021】
この微粒子製造方法では、ターゲットを含む溶液を導入部から取出部に向かって流通させ、流路に設けた捕捉部によってターゲットのうち所定寸法を超えるものを捕捉する。そして、捕捉部に捕捉されたターゲットをレーザ光の照射によって粉砕し、所定寸法以下のサイズとなった粒子を取出部側に通過させ、取出部から取り出す。このような手法によれば、溶液の流通によってターゲットの粉砕を連続的に実施できると共に、取出部で取り出される粒子のサイズを捕捉部の通過可能サイズに応じて揃えることができる。したがって、この微粒子製造方法では、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる。
【0022】
この微粒子製造方法では、ターゲットを捕捉部で捕捉することで、レーザ光による照射時間を容易に確保できる。したがって、粉砕に照射時間を要するターゲットに対しても簡便に粉砕を行うことが可能となる。また、この微粒子製造方法では、溶液中のターゲットをレーザ光で粉砕するため、レーザ光の照射によるターゲットの温度上昇を抑えることができる。捕捉部において捕捉されているターゲットにレーザ光が照射され続けた場合であっても、溶液の供給によってターゲットの周りの溶液が交換されることで、ターゲットの温度上昇を抑えることができる。ターゲットの温度上昇を抑えることで、粉砕後の粒子の再凝集を抑制でき、微粒子の製造の一層の効率化が図られる。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示の第1実施形態に係る微粒子製造装置を示す模式的な斜視図である。
図2】本開示の一実施形態に係る微粒子製造方法を示すフローチャートである。
図3】本開示の第2実施形態に係る微粒子製造装置を示す模式的な斜視図である。
図4】本開示の第3実施形態に係る微粒子製造装置を示す要部拡大断面図である。
図5】本開示の第4実施形態に係る微粒子製造装置を示す模式的な斜視図である。
図6】(a)~(c)は、図5に示した微粒子製造装置における回収機構を示す模式的な要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る微粒子製造装置及び微粒子製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
[第1実施形態]
図1は、本開示の第1実施形態に係る微粒子製造装置を示す模式的な斜視図である。図1では、説明の便宜上、装置を構成する流路を長手方向に切断した断面を示している。図1に示す微粒子製造装置1Aは、レーザ光Lの照射によってターゲットTを粉砕し、所望のサイズの微粒子を製造する装置として構成されている。粒子のサイズは、例えば粒径の大きさで定義される。粒子のサイズ測定は、例えば走査型電子顕微鏡による観察、動的光散乱法を用いた粒度分布測定装置などにより測定される。本実施形態では、微粒子製造装置1Aを用いて、例えば1μm以下のサイズの微粒子の製造が実施される。
【0027】
ターゲットTとしては、例えば難水溶性を示す薬剤が挙げられる。微粒子製造装置1Aでは、難水溶性を示す薬剤であるターゲットTをレーザ光Lの照射によって粉砕し、ナノレベルに微粒子化する。このような微粒子化により、材料の表面積が増加するため、難水溶性を示す薬剤の水溶性の改善が図られる。難水溶性を示す薬剤の溶解度は、特に限定されないが、例えば温度25℃における溶解度が50μg/mL以下のものが挙げられる。日本薬局方によれば、1mgを溶かすために必要な溶媒量が100mL以上のものが「溶けにくい」、1000mL以上のものが「極めて溶けにくい」、10000mL以上のものが「殆ど溶けない」と定義されている。
【0028】
難水溶性を示す薬剤としては、例えば抗がん剤として知られるパクリタキセルなどが挙げられる。他の例としては、例えばシクロスポリン、タクロリムス、ニフェジピン、塩酸ニカルジピン、フェニトイン、ジギトキシン、ジアゼパム、ニトロフラントイン、ベノキサプロフェン、グリセオフルビン、スルファチアゾール、ピロキシカム、カルバマゼピン、フェナセチン、トルブタミド、テオフィリン、グリセオフルビン、クロラムフェニコール、カンプトテシン、シスプラチン、ダウノルビシン、メトトレキサート、マイトマイシンC、ドセタキセル、ビンクリスチン、アンホテリシンB、ナイスタチン、イブプロフェン、酪酸クロベタゾン等の副腎皮質ホルモン類などの市販薬、その他の開発中の新薬候補化合物などが挙げられる。
【0029】
図1に示すように、第1実施形態に係る微粒子製造装置1Aは、導入部2と、取出部3と、流路4と、捕捉部5と、光源部6と、走査部7を備えている。また、微粒子製造装置1Aは、温度制御部8と、振動付与部9とを備えている。
【0030】
導入部2は、ターゲットTを含む溶液Sが導入される部分である。取出部3は、微粒子化したターゲットTを含む溶液Sが取り出される部分である。本実施形態では、導入部2及び取出部3は、断面円形の筒状に構成され、流路4の一部として流路4と一体に設けられている。導入部2及び取出部3を含めた流路4の作製には、例えば半導体プロセスで用いられるエッチング手法などを流用できる。ここでは、導入部2及び取出部3は、流路4と直交する方向に延びている。導入部2には、例えば鉛直下向きにターゲットTが導入され、取出部3からは、例えば鉛直上向きに微粒子化したターゲットTを含む溶液Sが取り出される。
【0031】
導入部2のサイズは、ターゲットTが通過可能なサイズであれば特に制限はないが、例えば内径10mm程度に設計される。取出部3のサイズは、ターゲットTを粉砕した後の粒子Pが通過可能なサイズであれば特に制限はないが、構成の簡単化の観点から、例えば導入部2と同じサイズに設計される。
【0032】
ターゲットTは、例えばペレットの状態で溶液中に含まれている。ペレットとしては、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)製の型に配置した材料を乾燥させ、型から取り外すことによって成型されたものを用いることができる。このようなペレットを用いることで、導入部2から導入される段階でターゲットTのサイズを揃えることが可能となり、ターゲットTのサイズを揃えることで、レーザ光Lの照射範囲の設定が容易となる。ターゲットTとしては、ペレットに限られず、合成後の材料を溶液に分散させたものを用いてもよく、合成後の材料を含む溶液から当該溶液を除去したペースト状のものを用いてもよい。
【0033】
溶液Sとしては、例えば水、或いはエタノール等の有機溶媒などを用いることができる。粉砕後の微粒子を含む溶液を人体に安全に投与できるという観点からは、水を用いることが好ましい。
【0034】
ターゲットTは、分散安定化剤によって表面処理されていてもよい。分散安定化剤は、予めターゲットTに含有させておいてもよく、ターゲットTを含む溶液Sに添加してもよい。分散安定化剤としては、高分子ポリマー又は界面活性剤を用いることができる。高分子ポリマーは、水溶性が高く、種々の有機溶媒に溶け易い物質であることが好ましい。このような高分子ポリマーとしては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルセルロースナトリウム、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース誘導体、寒天、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、メタアクリル酸コポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。界面活性剤は、低毒性であることが好ましい。このような界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、コール酸、デオキシコール酸、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0035】
流路4は、ターゲットTを含む溶液Sを導入部2から取出部3に向かって流通させる部分である。溶液Sの流通には、外部のポンプなどを用いることができる。流路4は、光源部6から出力されるレーザ光Lに対する透過性を有する材料によって構成されている。流路4の構成材料としては、例えばガラスなどが挙げられる。流路4は、導入部2及び取出部3と直交するように水平に配置されている。流路4を流れる溶液Sの流速は、特に制限はないが、溶液Sを流すことでターゲットTの温度変化を抑えることができる。ターゲットTの周囲の溶液Sの温度変化を抑える観点から、溶液Sの流速は、例えば1mm/s~100mm/s程度に設定される。以下の説明では、導入部2と取出部3とを結ぶ軸を流路4の長さ方向とし、長さ方向に直交する水平方向の軸を流路4の幅方向とし、長さ方向に直交する鉛直方向の軸を流路4の高さ方向とする。
【0036】
流路4は、捕捉部5を挟んで導入部2側に位置する前段部11と、捕捉部5を挟んで取出部3側に位置する後段部12とを有している。前段部11は、導入部2との接続部13Aを有している。図1の例では、前段部11の長さ(接続部13Aから捕捉部5までの長さ)及び前段部11の高さは、いずれも一定となっている。前段部11の長さは、ターゲットTに対して十分な長さであればよく、例えば30mm程度に設定される。前段部11の高さは、ターゲットTが通過可能なサイズであれば特に制限はないが、例えば導入部2の内径に合わせて10mm程度に設定される。
【0037】
前段部11の幅は、図1の例では、接続部13Aから捕捉部5に向かって徐々に大きくなっている。前段部11の幅が徐々に大きくなっていることで、導入部2から導入される溶液Sに多数のターゲットTが含まれる場合であっても、ターゲットTを前段部11で滞留させることなく捕捉部5に向けてスムーズに流すことができる。前段部11の幅は、捕捉部5の手前で最大幅となっており、捕捉部5に至るまで最大幅が維持されている。当該最大幅は、例えば20mm程度に設定される。
【0038】
後段部12は、取出部3との接続部13Bを有している。図1の例では、後段部12の長さ(捕捉部5から接続部13Bまでの長さ)及び後段部12の高さは、いずれも一定となっている。後段部12の長さは、粉砕後のターゲットTに対して十分な長さであればよく、例えば前段部11と同様に、30mm程度に設定される。後段部12の高さは、粉砕後のターゲットTのサイズ、すなわち、取出部3から取り出されるべき粒子Pのサイズに応じて設定される。所望のサイズの粒子Pがナノ粒子である場合、後段部12の高さは、例えば数nm~数百nm程度に設定される。
【0039】
後段部12の幅は、図1の例では、捕捉部5から接続部13Bに向かって徐々に小さくなっている。後段部12の幅が徐々に小さくなっていることで、ターゲットTの粉砕によって形成された粒子Pを効率良く集めて取出部3に流すことができる。前段部11の幅は、捕捉部5から一定の長さにわたって最大幅が維持され、その後は接続部13Bに向かって徐々に小さくなっている。当該最大幅は、前段部11の最大幅と同様に、例えば20mm程度に設定される。
【0040】
捕捉部5は、溶液S中のターゲットTのうち所定寸法を超える粒子Pを流路4において捕捉すると共に、所定寸法以下の粒子Pを取出部3側に通過させる部分である。本実施形態では、捕捉部5は、前段部11と後段部12との間の高さ方向の段差面14によって構成されている。捕捉部5は、溶液S中のターゲットTのうち、後段部12の高さを超えるサイズの粒子Pを段差面14で捕捉し、後段部12の高さ以下のサイズの粒子Pのみを後段部12側に通過させる。
【0041】
図1の例では、上述したように、前段部11の高さが10mm程度に設定されているのに対し、後段部12の高さが1μm以下に設定されている。したがって、溶液S中のターゲットTのうちサイズが10mm以上の粒子Pが捕捉部5によって捕捉され、レーザ光Lの照射によってサイズが1μm以下まで微粒子化された粒子Pのみが捕捉部5を通過して取出部3に流れることとなる。
【0042】
光源部6は、捕捉部5に向けてターゲットTの粉砕に用いられるレーザ光Lを出力する部分である。光源部6は、レーザ光Lとして例えば赤外レーザ光を出力する。レーザ光Lは、ターゲットTの粉砕に必要なピークパワーの確保、及びターゲットTの温度上昇の抑制の観点から、パルス光であることが好ましい。レーザ光Lの出力条件としては、レーザ光Lの入射面の材料(流路4の形成材料)を透過し且つターゲットTの吸収波長を含む波長を有し、さらに、ターゲットTを粉砕する強度及び集光サイズを有している必要がある。このようなレーザ光Lの出力条件の一例として、波長900nm以上の赤外領域、パルス幅0.1ns以上、パルスエネルギー1mJ以上、ビーム面積0.01cm以上とすることができる。レーザ光Lのフルエンス(単位面積あたりのエネルギー)は、0.1J/cm以上であることが好適である。
【0043】
走査部7は、捕捉部5に対してレーザ光Lを走査する部分である。走査部7は、例えばガルバノミラー、ポリゴンミラー、MEMSミラー等のミラー素子を含んで構成され、光源部6から捕捉部5に向かうレーザ光Lの光路を走査する。走査部7によるレーザ光Lの走査エリアRは、前段部11における段差面14の手前の領域である。本実施形態では、前段部11における段差面14の手前の領域のうち、前段部11の幅が最大幅となっている矩形の領域が走査エリアRとなっている。
【0044】
走査エリアRにおけるレーザ光Lの走査方式は、特に制限はないが、例えば幅方向にレーザ光Lを走査し、幅方向の走査端まで走査した後に長さ方向に位置をずらして再び幅方向にレーザ光Lを走査する方式とすることができる。各回の幅方向の走査方向を同方向とする一方向走査を採用してもよく、各階の幅方向の走査方向を反転させる双方向走査を採用してもよい。
【0045】
温度制御部8は、流路4を流通する溶液Sの温度を制御する部分である。温度制御部8は、例えば流路4に設けられた温度センサと、温度センサからの検出信号に基づいて流路4を冷却する冷却機構とを含んで構成されている。温度制御部8は、流路4に設けられた温度センサと、温度センサからの検出信号に基づいて導入部2に導入される前の溶液Sを冷却する冷却機構とを含んで構成されていてもよい。溶液Sの温度制御により、レーザ光LによってターゲットTが粉砕された後の粒子Pの再凝集を抑制することが可能となり、捕捉部5を通過した後の粒子Pのサイズが再凝集によって大きくなってしまうことを抑制できるものと考えられる。
【0046】
振動付与部9は、流路4に振動を付与する部分である。振動付与部9は、例えば圧電素子などを用いた振動アクチュエータによって構成されている。流路4における振動付与部9の配置位置は、特に制限はないが、本実施形態では、前段部11における接続部13Aと段差面14との間の外壁部分、及び後段部12における段差面14と接続部13Bとの間の外壁部分の少なくとも一方に振動付与部9が配置されている。振動付与部9は、流路4に溶液Sを流通させる期間中に流路4に振動を付与する。振動付与部9により、流路4の内壁に付着した粒子Pを振動によって剥離したり、アコースティックフォーカシング技術を利用して流路4の中心付近に粒子Pが流れ易くしたりすることで、流路4内での粒子Pの滞留や目詰まりを好適に抑制できる。
【0047】
続いて、本開示の一側面に係る微粒子製造方法について説明する。
【0048】
図2は、本開示の一実施形態に係る微粒子製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態に係る微粒子製造方法は、導入工程(ステップS01)と、流通工程(ステップS02)と、捕捉工程(ステップS03)と、光照射工程(ステップS04)と、取出工程(ステップS05)とを含んで構成されている。本実施形態に係る微粒子製造方法は、例えば上述した微粒子製造装置1Aを用いて実施される。
【0049】
導入工程S01は、ターゲットTを含む溶液Sを導入部2から流路4に導入する工程である。導入部2から導入された溶液Sは、接続部13Aを通って流路4に進行する。ここでは、導入工程S01の開始と共に、温度制御部8による溶液Sの温度制御及び振動付与部9による流路4への振動の付与を開始する。流通工程S02は、溶液Sを導入部2から取出部3に向かって流通させる工程である。接続部13Bを通って流路4に進行した溶液Sは、流路4の前段部11を流れた後、捕捉部5に進行する。
【0050】
捕捉工程S03は、溶液S中のターゲットTのうち所定寸法を超える粒子Pを流路4の捕捉部5で捕捉すると共に、所定寸法以下の粒子Pを取出部3側に通過させる工程である。本実施形態では、所定寸法を超える粒子Pが捕捉部5の段差面14で捕捉され、後段部12の高さ以下のサイズの粒子のみが捕捉部5を通過して後段部12に進行する。
【0051】
光照射工程S04は、捕捉部5に向けてターゲットTの粉砕に用いられるレーザ光Lを出力する工程である。レーザ光Lの照射により、捕捉部に捕捉されているターゲットTが粉砕され、後段部12の高さ以下のサイズまで微細化された粒子Pが捕捉部5を順次通過して後段部12に進行する。取出工程S05は、捕捉部5を通過した粒子Pを取出部3から取り出す工程である。取出部3からは、溶液Sと共に所望のサイズの微粒子が取り出される。
【0052】
以上説明したように、本実施形態では、ターゲットTを含む溶液Sを導入部2から取出部3に向かって流通させ、流路4に設けた捕捉部5によってターゲットTのうち所定寸法を超えるものを捕捉する。そして、捕捉部5に捕捉されたターゲットTをレーザ光Lの照射によって粉砕し、所定寸法以下のサイズとなった粒子Pを取出部側に通過させ、取出部3から取り出す。このような手法によれば、溶液Sの流通によってターゲットTの粉砕を連続的に実施できると共に、取出部3で取り出される粒子Pのサイズを捕捉部5の通過可能サイズに応じて揃えることができる。したがって、微粒子製造装置1Aでは、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる。
【0053】
微粒子製造装置1Aでは、ターゲットTを捕捉部5で捕捉することで、レーザ光Lによる照射時間を容易に確保できる。したがって、粉砕に照射時間を要するターゲットTに対しても簡便に粉砕を行うことが可能となる。また、微粒子製造装置1AAでは、溶液S中のターゲットTをレーザ光Lで粉砕するため、レーザ光Lの照射によるターゲットTの温度上昇を抑えることができる。捕捉部5において捕捉されているターゲットTにレーザ光Lが照射され続けた場合であっても、溶液Sの供給によってターゲットTの周りの溶液Sが交換されることで、ターゲットTの温度上昇を抑えることができる。ターゲットTの温度上昇を抑えることで、粉砕後の粒子Pの再凝集を抑制でき、微粒子の製造の一層の効率化が図られる。
【0054】
本実施形態では、捕捉部5は、1μm以下のサイズの粒子Pのみを通過させるように構成されている。これにより、1μm以下のサイズの微粒子を安定して製造できる。また、本実施形態では、光源部6から出力されるレーザ光Lのフルエンスは、0.1J/cm以上となっている。このように、レーザ光Lのフルエンスを十分な値とすることで、捕捉部5におけるターゲットTの粉砕を効率的に実施できる。
【0055】
本実施形態では、捕捉部5に対してレーザ光Lを走査する走査部7が設けられている。捕捉部5においてレーザ光Lを走査することで、捕捉部5におけるターゲットTの粉砕を効率的に実施できる。また、本実施形態では、流路4に振動を付与する振動付与部9が設けられている。流路4に振動を付与することで、流路4内での粒子Pの滞留(例えば流路4の内壁への粒子Pの付着など)や、捕捉部5における粒子Pの目詰まりを好適に抑制できる。
【0056】
本実施形態では、ターゲットTが分散安定化剤によって表面処理されている。このような表面処理によれば、レーザ光Lによる粉砕後の粒子P同士の凝集を抑制でき、所望のサイズの微粒子を安定して生成できる。粒子P同士の凝集を抑制することで、捕捉部5における粒子Pの目詰まりの抑制も図られる。
【0057】
[第2実施形態]
図3は、本開示の第2実施形態に係る微粒子製造装置を示す模式的な斜視図である。図3では、図1と同様、説明の便宜上、装置を構成する流路を長手方向に切断した断面を示している。図3に示すように、第2実施形態に係る微粒子製造装置1Bは、流路4に捕捉部5が複数段に設けられている点で、第1実施形態に係る微粒子製造装置1Aと相違している。
【0058】
具体的には、微粒子製造装置1Bでは、導入部2が断面矩形状に構成されており、導入部2のサイズ(長さ方向の内寸)が接続部13Aに向かって徐々に小さくなっている。接続部13Aは、1段目の捕捉部5Aを構成している。接続部13Aのサイズ(長さ方向の内寸)は、導入部2の下端における長さ方向の内寸と一致しており、当該内寸を超える粒子Pが捕捉部5Aで捕捉され、当該内寸以下のサイズの粒子Pのみが捕捉部5Aを通過して前段部11に進行する。
【0059】
2段目の捕捉部5Bは、第1実施形態と同様に、流路4の前段部11と後段部12との間の段差面14によって構成されている。後段部12の高さは、接続部13Aのサイズ(長さ方向の内寸)よりも小さくなっている。したがって、2段目の捕捉部5Bは、捕捉部5Aを通過して前段部11に進行した粒子Pのうち、後段部12の高さを超えるサイズの粒子Pを段差面14で捕捉し、後段部12の高さ以下のサイズの粒子Pのみを後段部12側に通過させる。
【0060】
このような微粒子製造装置1Bにおいても、第1実施形態と同様に、溶液Sの流通によってターゲットTの粉砕を連続的に実施できると共に、取出部3で取り出される粒子Pのサイズを捕捉部5の通過可能サイズに応じて揃えることができる。したがって、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる。また、微粒子製造装置1Bでは、捕捉可能な粒子Pの寸法を段階的に小さくすることで、所望のサイズの微粒子を安定して生成できると共に、捕捉部5における粒子Pの過度な目詰まりを抑制できる。
【0061】
なお、微粒子製造装置1Bでは、走査部7によるレーザ光Lの走査エリアRとして、A)接続部13A(導入部2の下端)に相当する領域、及びB)前段部11における段差面14の手前の領域の2つが挙げられる。A)及びB)の双方をレーザ光Lの走査エリアRとする場合、捕捉部5A及び捕捉部5Bの双方でターゲットTの粉砕がなされるので、ターゲットTの粉砕に要する時間の短縮化が図られ、また、捕捉部5A,5Bにおける粒子Pの目詰まりを効果的に抑制できる。一方、A)のみをレーザ光Lの走査エリアRとする場合、溶液Sの温度上昇を抑制でき、レーザ光Lによって粉砕された後の粒子Pの再凝集を抑制できる。
【0062】
[第3実施形態]
図4は、本開示の第3実施形態に係る微粒子製造装置を示す要部拡大断面図である。図4に示すように、第3実施形態に係る微粒子製造装置1Cは、流路4の少なくとも一部が導入部2から取出部3に向かって徐々に狭くなることによって捕捉部5が構成されている点で、前段部11と後段部12との段差面14で捕捉部5が構成されている第1実施形態と異なっている。具体的には、微粒子製造装置1Cでは、流路4が前段部11と後段部12とに分かれておらず、流路4の高さが導入部2から取出部3に向かって一様に小さくなっている。
【0063】
このような微粒子製造装置1Cにおいても、第1実施形態と同様に、溶液Sの流通によってターゲットTの粉砕を連続的に実施できると共に、取出部3で取り出される粒子Pのサイズを捕捉部5の通過可能サイズに応じて揃えることができる。したがって、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる。また、微粒子製造装置1Cでは、流路4自体を一定の範囲で捕捉部5として用いることが可能となる。これにより、流路4における過度な流速の変化や、捕捉部5における粒子Pの過度な目詰まりを効果的に抑制できる。
【0064】
なお、微粒子製造装置1Cでは、流路4の全体が導入部2から取出部3に向かって徐々に狭くなっていてもよく、流路4の一部のみが導入部2から取出部3に向かって徐々に狭くなっていてもよい。前者の場合、流路4における過度な流速の変化や、捕捉部5における粒子Pの過度な目詰まりを一層効果的に抑制できる。後者の場合、レーザ光Lの走査エリアRを一定の範囲に留めることができ、ターゲットTの粉砕を効率的に実施できる。
【0065】
[第4実施形態]
図5は、本開示の第4実施形態に係る微粒子製造装置を示す模式的な斜視図である。図5に示すように、第4実施形態に係る微粒子製造装置1Dは、流路4及び捕捉部5の構成が第1実施形態と異なっている。具体的には、微粒子製造装置1Dでは、断面円形の筒状部によって流路4が構成されている。流路4は、一方向に延びる第1の筒状部21Aと、第1の筒状部21Aと交差(ここでは直交)する方向に延びる第2の筒状部21Bとを有し、第1の筒状部21Aの中央部分に第2の筒状部21Bの一端部が接続されることで、正面視でT字状をなしている。
【0066】
図5の例では、第1の筒状部21Aが水平に配置され、第2の筒状部21Bは鉛直に配置されている。また、図5の例では、第1の筒状部21A及び第2の筒状部21Bの内径が一定となっており、かつ互いに等しくなっている。第1の筒状部21A及び第2の筒状部21Bの内径は、例えば10mm~20mmに設定される。第1の筒状部21A及び第2の筒状部21Bの内径は、互いに異なっていてもよい。第1の筒状部21Aの一部或いは第2の筒状部21Bの一部の内径が他の部分の内径よりも大きく又は小さくなっていてもよい。
【0067】
第1の筒状部21Aの両端部は、いずれもターゲットTを含む溶液Sが導入される導入部2となっている。第1の筒状部21Aの両端部の導入部2,2のそれぞれから導入された溶液Sは、第1の筒状部21Aと第2の筒状部21Bとの接続部22で合流し、第2の筒状部21Bに進行する。第2の筒状部21Bの他端部(接続部22と反対側の端部)は、溶液Sが取り出される取出部3となっている。
【0068】
第2の筒状部21Bには、捕捉部5として、複数の開口24を有する多孔質部材23が配置されている。多孔質部材23としては、例えばポアガラスを用いることができる。多孔質部材23は、複数の開口24の延在方向が第2の筒状部21Bの延在方向を向くようにして、第2の筒状部21Bの内部に嵌合されている。本実施形態では、取出部3に近い捕捉部5ほど捕捉可能な粒子の寸法が小さくなるように、多孔質部材23が第2の筒状部21Bに多段に設けられている。図5の例では、第2の筒状部21Bにおいて、多孔質部材23が2段に設けられている。1段目の多孔質部材23Aでは、開口の径が例えば数μm程度となっており、2段目の多孔質部材23Bでは、開口の径が例えば0.1μm程度となっている。
【0069】
このような流路4に対し、光源部6からのレーザ光Lは、例えば第2の筒状部21Bの延在方向と平行に接続部22側から照射される。走査部7によるレーザ光Lの走査エリアRは、例えば第2の筒状部21Bの内部空間の断面領域である。本実施形態では、第2の筒状部21Bの内部空間の断面領域の全体が走査エリアRとなっている。
【0070】
このような微粒子製造装置1Dにおいても、第1実施形態と同様に、溶液Sの流通によってターゲットTの粉砕を連続的に実施できると共に、取出部3で取り出される粒子Pのサイズを捕捉部5の通過可能サイズに応じて揃えることができる。したがって、所望のサイズの微粒子を効率良く製造できる。また、微粒子製造装置1Dでは、複数の開口24を有する多孔質部材23を流路4内に配置することで、流路4の構成の複雑化を回避しつつ、簡単な構成で捕捉部5を構成できる。
【0071】
微粒子製造装置1Dは、図6(a)~図6(c)に示すように、捕捉部5において溶液Sを逆流させ、捕捉部5で捕捉された粒子Pを回収する回収機構31を有していてもよい。回収機構31の構築には、例えば第2の筒状部21Bに複数の分岐路32と複数の開閉弁33とが用いられる。
【0072】
図6(a)~図6(c)の例では、第2の筒状部21Bにおいて、1段目の多孔質部材23Aと2段目の多孔質部材23との間に分岐路32Aが設けられ、2段目の多孔質部材23と取出部3との間に分岐路32Bが設けられている。また、接続部22と1段目の多孔質部材23Aとの間に開閉弁33Aが設けられ、2段目の多孔質部材23と取出部3との間で分岐路32Bよりも取出部3側に開閉弁33Bが設けられ、分岐路32Aに開閉弁33Cが設けられ、分岐路32Bに開閉弁33Dが設けられている。
【0073】
レーザ光Lの照射によってターゲットTの粉砕を実施する期間は、図6(a)に示すように、開閉弁33C及び開閉弁33Dを閉じ、1段目の多孔質部材23A及び2段目の多孔質部材23Bを通過した粒子Pを溶液Sと共に取出部3から取り出す。その後、2段目の多孔質部材23Bに捕捉された粒子Pを回収する場合、図6(b)に示すように、開閉弁33A及び開閉弁33Bを閉じ、開閉弁33C及び開閉弁33Dを開く。この状態で、分岐路32Bから分岐路32Aに向けて溶液S(ターゲットTを含まない溶液S)を逆流させることで、2段目の多孔質部材23Bに捕捉されている粒子Pを分岐路32Aから取り出すことができる。
【0074】
また、1段目の多孔質部材23Aに捕捉された粒子Pを回収する場合、図6(c)に示すように、開閉弁33B及び開閉弁33Dを閉じ、開閉弁33A及び開閉弁33Cを開く。この状態で、分岐路32Aから第1の筒状部21Aに向けて溶液S(ターゲットTを含まない溶液S)を逆流させることで、1段目の多孔質部材23Aに捕捉されている粒子Pを導入部2から取り出すことができる。このような回収機構31を設けることで、捕捉部5で捕捉された任意のサイズの粒子Pの選択的な回収が可能となる。また、捕捉部5の目詰まりの解消も図られる。
【0075】
[変形例]
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、捕捉部5で捕捉されたターゲットTをレーザ光Lによって粉砕するにあたって、走査部7によって走査エリアRを対象にレーザ光Lを走査しているが、走査部7の配置を省略してもよい。この場合、例えばビーム整形光学系を用いてレーザ光Lのビーム面積を大きくし、捕捉部5の全体にレーザ光Lを一括照射してもよい。また、回折光学素子や空間光位相変調器(LCOS-SLM)などを用いてレーザ光Lを複数の光束に分割し、捕捉部5の全体にレーザ光Lを多点照射してもよい。
【0076】
第1実施形態~第3実施形態において、図6(a)~図6(c)に示したような回収機構を設けてもよい。また、第1実施形態~第3実施形態において、粒子Pのサイズを選別する選別機構を設ける構成としてもよい。選別機構としては、例えばマイクロピラーが挙げられる。例えば捕捉部5よりも後段側の流路4において一定の間隔で複数のマイクロピラーを配置することで、サイズの異なる粒子が異なる経路を流れるように制御することが可能となる。異なる経路に対応した複数の取出口を設けることで、粒子Pのサイズを簡便に選別することができる。
【0077】
本開示の要旨は、以下の[1]~[11]に示すとおりである。
[1]ターゲットを含む溶液が導入される導入部と、前記溶液が取り出される取出部と、前記溶液を前記導入部から前記取出部に向かって流通させる流路と、前記溶液中のターゲットのうち所定寸法を超える粒子を前記流路において捕捉すると共に、前記所定寸法以下の粒子を前記取出部側に通過させる捕捉部と、前記捕捉部に向けて前記ターゲットの粉砕に用いられるレーザ光を出力する光源部と、を備える微粒子製造装置。
[2]前記捕捉部は、前記取出部に近い捕捉部ほど捕捉可能な粒子の寸法が小さくなるように、前記流路に複数段に設けられている、[1]記載の微粒子製造装置。
[3]前記捕捉部は、前記流路の少なくとも一部が前記導入部から前記取出部に向かって徐々に狭くなることによって構成されている、[1]記載の微粒子製造装置。
[4]前記捕捉部は、複数の開口を有する多孔質部材を前記流路内に配置することによって構成されている、[1]記載の微粒子製造装置。
[5]前記捕捉部は、1μm以下のサイズの粒子のみを通過させる、[1]~[4]のいずれか記載の微粒子製造装置。
[6]前記光源部から出力される前記レーザ光のフルエンスは、0.1J/cm以上である、[1]~[5]のいずれか記載の微粒子製造装置。
[7]前記捕捉部に対して前記レーザ光を走査する走査部を更に備える、[1]~[6]のいずれか記載の微粒子製造装置。
[8]前記捕捉部において前記溶液を逆流させ、前記捕捉部で捕捉された前記粒子を回収する回収機構を更に備える、[1]~[7]のいずれか記載の微粒子製造装置。
[9]前記流路に振動を付与する振動付与部を更に備える、[1]~[8]のいずれか記載の微粒子製造装置。
[10]前記ターゲットは、分散安定化剤によって表面処理されている、[1]~[9]のいずれか記載の微粒子製造装置。
[11]ターゲットを含む溶液を導入部から流路に導入する導入工程と、前記溶液を前記導入部から取出部に向かって流通させる流通工程と、前記溶液中のターゲットのうち所定寸法を超える粒子を前記流路の捕捉部において捕捉すると共に、前記所定寸法以下の粒子を前記取出部側に通過させる捕捉工程と、前記捕捉部に向けて前記ターゲットの粉砕に用いられるレーザ光を出力する光照射工程と、前記捕捉部を通過した粒子を前記取出部から取り出す取出工程と、を備える微粒子製造方法。
【符号の説明】
【0078】
1A~1D…微粒子製造装置、2…導入部、3…取出部、4…流路、5,5A,5B…捕捉部、6…光源部、7…走査部、9…振動付与部、14…段差面(捕捉部)、23(23A,23B)…多孔質部材(捕捉部)、31…回収機構、T…ターゲット、S…溶液、P…粒子、L…レーザ光。
図1
図2
図3
図4
図5
図6