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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176658
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20241212BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20241212BHJP
   F16N 7/32 20060101ALI20241212BHJP
   F16N 39/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C19/16
F16N7/32 C
F16N39/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095383
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉山 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 亘
(72)【発明者】
【氏名】村主 和憲
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701CA06
3J701CA08
3J701FA31
3J701XB03
3J701XB26
3J701XB50
(57)【要約】
【課題】高速回転域で運転したときの温度上昇や回転トルクの上昇を低く抑えることが可能な転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】外輪5の軸方向端面を支持する環状の支持壁部12と、軸受空間7に面するように支持壁部12から径方向内側に延出するノズル壁部13とをもち、ノズル壁部13には、軸受空間7に潤滑油を噴射するノズル孔18が形成されている軸箱3を有する転がり軸受装置において、ノズル孔18の中心線方向が、軸方向に対して転動体8の進行方向に傾斜している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(5)と、前記外輪(5)の径方向内側に同軸に配置される内輪(6)と、前記外輪(5)の内周と前記内輪(6)の外周との間に形成される環状の軸受空間(7)に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の転動体(8)とを有する転がり軸受(2)と、
前記外輪(5)の軸方向端面を支持する環状の支持壁部(12)と、前記軸受空間(7)に面するように前記支持壁部(12)から径方向内側に延出するノズル壁部(13)とをもち、前記ノズル壁部(13)には、前記軸受空間(7)に潤滑油を噴射するノズル孔(18)が形成されている潤滑油噴射部材(3)と、を有する転がり軸受装置において、
前記ノズル孔(18)の中心線方向が、軸方向に対して前記転動体(8)の進行方向に傾斜していることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記内輪(6)の外周には、前記転動体(8)が転がり接触する内輪軌道面(15)が形成され、
前記ノズル孔(18)の中心線の延長線上に前記内輪軌道面(15)が位置する請求項1に記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記ノズル孔(18)の中心線方向の軸方向に対する前記転動体(8)の進行方向への傾斜角が20°以上70°以下に設定されている請求項1または2に記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
前記ノズル壁部(13)に、前記ノズル孔(18)が周方向に間隔をおいて複数設けられている請求項1または2に記載の転がり軸受装置。
【請求項5】
前記ノズル孔(18)は、1.0mm以上2.0mm以下の内径をもつ断面丸形の孔である請求項1または2に記載の転がり軸受装置。
【請求項6】
前記ノズル孔(18)の中心線方向は、軸方向に対して前記転動体(8)の進行方向に傾斜するとともに径方向内側にも傾斜しており、
前記ノズル壁部(13)に、前記ノズル孔(18)の中心線方向に垂直な平面を底面(22)とする有底穴(23)が形成され、
前記有底穴(23)の前記底面(22)に前記ノズル孔(18)が開口している請求項1または2に記載の転がり軸受装置。
【請求項7】
前記ノズル壁部(13)には、前記ノズル孔(18)から周方向に離れた位置に、前記軸受空間(7)に圧縮空気を噴射するエアノズル孔(24)が形成され、
前記エアノズル孔(24)の中心線方向が、軸方向に対して前記転動体(8)の進行方向に傾斜している請求項1または2に記載の転がり軸受装置。
【請求項8】
前記ノズル壁部(13)には、前記ノズル孔(18)から周方向に離れた位置に、前記軸受空間(7)に潤滑油を噴射する第2ノズル孔(28)が形成され、
前記第2ノズル孔(28)の中心線方向は、軸方向に対して前記転動体(8)の進行方向とは逆向きに傾斜しており、
前記ノズル孔(18)と前記第2ノズル孔(28)のうち、前記ノズル孔(18)のみに潤滑油を供給する状態と、前記第2ノズル孔(28)のみに潤滑油を供給する状態とを切り替え可能な切替弁(32)が設けられている請求項1または2に記載の転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転がり軸受に潤滑油を噴射する潤滑油噴射部材をもつ転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受に潤滑油を噴射する潤滑油噴射部材をもつ転がり軸受装置として、例えば、特許文献1のものが知られている。特許文献1の転がり軸受装置は、外輪と、外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、外輪の内周と内輪の外周との間に形成される環状の軸受空間に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の転動体とを有する転がり軸受と、その転がり軸受に隣接して配置された外輪間座(潤滑油噴射部材)とを有する。
【0003】
外輪間座は、転がり軸受の外輪の軸方向端面を支持する環状の支持壁部と、転がり軸受の軸受空間に面するように支持壁部から径方向内側に延出するノズル壁部とをもち、ノズル壁部には、転がり軸受の軸受空間に潤滑油を噴射するノズル孔が形成されている。ノズル孔は、ノズル孔の中心線方向が転動体の進行方向と直交する向きとなるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-7681号公報
【特許文献2】特許第4424293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願の発明者らは、上記構成の転がり軸受装置を高速回転域(具体的にはdmn値(回転速度×軸受ピッチ径)が50万を超える回転域)で運転したときに、転がり軸受(以下、単に「軸受」という)の温度や回転トルクが上昇する問題に直面した。そして、高速回転域で軸受の温度や回転トルクが上昇する原因を調査したところ、高速回転域では、外輪間座のノズル孔から軸受空間に噴射される潤滑油の流れが、軸受の転動体の移動を妨げる抵抗として作用し、その潤滑油の抵抗によって、軸受の温度上昇や回転トルクの上昇が生じていることが分かった。
【0006】
そこで、ノズル孔から噴射される潤滑油の流れが転動体の抵抗として作用するのを防ぐため、潤滑油を噴射するのではなく、特許文献2のように、軸受空間に潤滑油を滴下するノズルをもつ給油ユニットを軸受に隣接して配置するという方法も考えられるが、潤滑油を滴下するのでは、転動体と内輪の接触点を十分に冷却することが難しく、高速回転域での軸受の温度上昇を防ぐことができない。
【0007】
この発明が解決しようとする課題は、高速回転域で運転したときの温度上昇や回転トルクの上昇を低く抑えることが可能な転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の転がり軸受装置を提供する。
[構成1]
外輪と、前記外輪の径方向内側に同軸に配置される内輪と、前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に形成される環状の軸受空間に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の転動体とを有する転がり軸受と、
前記外輪の軸方向端面を支持する環状の支持壁部と、前記軸受空間に面するように前記支持壁部から径方向内側に延出するノズル壁部とをもち、前記ノズル壁部には、前記軸受空間に潤滑油を噴射するノズル孔が形成されている潤滑油噴射部材と、を有する転がり軸受装置において、
前記ノズル孔の中心線方向が、軸方向に対して前記転動体の進行方向に傾斜していることを特徴とする転がり軸受装置。
【0009】
この構成を採用すると、ノズル孔の中心線方向が転動体の進行方向に傾斜しているので、ノズル孔から噴射される潤滑油の流れが、転動体の移動を妨げる抵抗となりにくい。そのため、高速回転域で運転したときの転がり軸受の温度上昇や回転トルクの上昇を低く抑えることが可能となる。
【0010】
[構成2]
前記内輪の外周には、前記転動体が転がり接触する内輪軌道面が形成され、
前記ノズル孔の中心線の延長線上に前記内輪軌道面が位置する構成1に記載の転がり軸受装置。
【0011】
この構成を採用すると、転がり軸受の最も発熱しやすい部位である転動体と内輪の接触点を効果的に冷却することが可能となる。
【0012】
[構成3]
前記ノズル孔の中心線方向の軸方向に対する前記転動体の進行方向への傾斜角が20°以上70°以下に設定されている構成1または2に記載の転がり軸受装置。
【0013】
この構成を採用すると、ノズル孔の中心線方向の転動体の進行方向への傾斜角が20°以上に設定されているので、ノズル孔から噴射される潤滑油の流れが、転動体の移動の抵抗となるのを効果的に抑制することができる。また、ノズル孔の中心線方向の転動体の進行方向への傾斜角が70°以下に設定されているので、潤滑油がノズル孔から噴射されてから転がり軸受の内部の潤滑点に当たるまでの距離が短く抑えられ、ノズル孔から噴射された潤滑油が拡散しにくい。そのため、転がり軸受の内部の潤滑点に確実に潤滑油を当てることが可能となる。
【0014】
[構成4]
前記ノズル壁部に、前記ノズル孔が周方向に間隔をおいて複数設けられている構成1から3のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【0015】
この構成を採用すると、転がり軸受の内部を特に効果的に冷却することが可能となる。
【0016】
[構成5]
前記ノズル孔は、1.0mm以上2.0mm以下の内径をもつ断面丸形の孔である構成1から4のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【0017】
この構成を採用すると、2.0mmを超える内径をもつノズル孔を採用する場合よりも、ノズル孔から噴射される潤滑油の流速を高めることができ、ノズル孔から噴射される潤滑油の流速を、転がり軸受の転動体の進行速度に近くすることができる。そのため、高速回転域で運転したときの転がり軸受の温度上昇や回転トルクの上昇を効果的に抑えることが可能となる。なお、1.0mmを下回ると、潤滑油の供給圧が増大するので、オイルポンプなどの潤滑油供給装置への負荷が増大し、潤滑油供給装置の破損や潤滑油の供給不足が生じる恐れがある。
【0018】
[構成6]
前記ノズル孔の中心線方向は、軸方向に対して前記転動体の進行方向に傾斜するとともに径方向内側にも傾斜しており、
前記ノズル壁部に、前記ノズル孔の中心線方向に垂直な平面を底面とする有底穴が形成され、
前記有底穴の前記底面に前記ノズル孔が開口している構成1から5のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【0019】
この構成を採用すると、ノズル孔の中心線方向が転動体の進行方向に傾斜するとともに径方向内側にも傾斜しているので、ノズル孔から噴射される潤滑油の流れが、転動体の移動の抵抗となるのを抑制しつつ、内輪の外周を効果的に潤滑することができる。また、ノズル壁部に、ノズル孔の中心線方向と垂直な平面を底面とする有底穴が形成され、その有底穴の底面にノズル孔が開口しているので、内輪の外周の潤滑点に、安定して潤滑油を供給することが可能である。すなわち、ノズル孔の中心線方向を転動体の進行方向に傾斜させるとともに径方向内側にも傾斜させる場合、そのノズル孔を単にノズル壁部の表面に開口させることも可能であるが、そのようにしたのでは、ノズル孔の端部開口の形状が、ノズル孔の中心線方向に対して傾斜した方向を長軸方向とする楕円形状になるので、ノズル孔の端部開口の内部において潤滑油の噴射圧力に偏りが生じ、ノズル孔の中心線に沿って均一に潤滑油を噴射することができず、内輪の外周の潤滑点への潤滑油の供給が不安定となるおそれがある。これに対し、ノズル壁部に、ノズル孔の中心線方向と垂直な平面を底面とする有底穴を形成し、その有底穴の底面にノズル孔を開口させると、ノズル孔の端部開口の形状が、ノズル孔の中心線方向に対して直角な真円形状になるので、ノズル孔の端部開口の内部において潤滑油の噴射圧力に偏りが生じるのを防ぐことができる。そのため、ノズル孔の中心線に沿って均一に潤滑油を噴射することができ、内輪の外周の潤滑点に安定して潤滑油を供給することが可能となる。
【0020】
[構成7]
前記ノズル壁部には、前記ノズル孔から周方向に離れた位置に、前記軸受空間に圧縮空気を噴射するエアノズル孔が形成され、
前記エアノズル孔の中心線方向が、軸方向に対して前記転動体の進行方向に傾斜している構成1から6のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【0021】
この構成を採用すると、エアノズル孔から噴射される圧縮空気で転がり軸受の内部を冷却することができるので、その分、ノズル孔から噴射する潤滑油の量を少なくし、潤滑油の消費量の低減に伴う軸受の回転トルク低減を見込むことができる。また、エアノズル孔の中心線方向が、軸方向に対して転動体の進行方向に傾斜しているので、エアノズル孔から噴射される圧縮空気が、転動体の進行方向前側に位置する潤滑油に当たって転動体の進行方向前側の潤滑油が減少するのを防止することができ、転がり軸受の内部の潤滑状態を良好に保つことができる。
【0022】
[構成8]
前記ノズル壁部には、前記ノズル孔から周方向に離れた位置に、前記軸受空間に潤滑油を噴射する第2ノズル孔が形成され、
前記第2ノズル孔の中心線方向は、軸方向に対して前記転動体の進行方向とは逆向きに傾斜しており、
前記ノズル孔と前記第2ノズル孔のうち、前記ノズル孔のみに潤滑油を供給する状態と、前記第2ノズル孔のみに潤滑油を供給する状態とを切り替え可能な切替弁が設けられている構成1から7のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【0023】
この構成を採用すると、回転方向を逆回転に切り替えて使用するときにも、転がり軸受の温度上昇や回転トルクの上昇を低く抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の転がり軸受装置は、ノズル孔の中心線方向が転動体の進行方向に傾斜しているので、ノズル孔から噴射される潤滑油の流れが、転動体の移動を妨げる抵抗となりにくい。そのため、高速回転域で運転したときの転がり軸受の温度上昇や回転トルクの上昇を低く抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】この発明の第1実施形態にかかる転がり軸受装置を示す断面図
図2図1に示す転がり軸受装置の軸箱を転がり軸受の側から見た図
図3図2のノズル孔の近傍の拡大図
図4図1のノズル孔の近傍の拡大図
図5図4のV-V線に沿った断面図
図6】この発明の第2実施形態を図2に対応して示す図
図7】この発明の第3実施形態を図2に対応して示す図
図8図7のノズル孔および第2ノズル孔の近傍の拡大図
図9】ノズル孔の中心線方向を転動体の進行方向に傾斜させた実施例の転がり軸受装置と、ノズル孔の中心線方向を転動体の進行方向と直交する向きとした比較例の転がり軸受装置とをそれぞれ高速回転させたときの転がり軸受の回転数と温度の対応関係を示す図
図10】ノズル孔の中心線方向を転動体の進行方向に傾斜させた実施例の転がり軸受装置と、ノズル孔の中心線方向を転動体の進行方向と直交する向きとした比較例の転がり軸受装置とをそれぞれ高速回転させたときの転がり軸受の回転数と回転トルクの対応関係を示す図
図11図6に示すノズル孔からは潤滑油を噴射し、かつ、エアノズル孔は噴射を停止した条件で転がり軸受装置を高速回転させたときの転がり軸受の回転数と温度の対応関係と、図6に示すノズル孔から潤滑油を噴射し、かつ、エアノズル孔から圧縮空気を噴射した条件で転がり軸受装置を高速回転させたときの転がり軸受の回転数と温度とを示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に、この発明の第1実施形態にかかる転がり軸受装置を示す。この転がり軸受装置は、回転軸1を回転可能に支持する転がり軸受2と、転がり軸受2を収容する軸箱3とを有する。回転軸1は、図示しない原動機(電動モータ、エンジン等)で駆動される軸である。軸箱3は、図示しないボルトでハウジング4に固定されている。
【0027】
転がり軸受2は、外輪5と、外輪5の径方向内側に同軸に配置される内輪6と、外輪5の内周と内輪6の外周との間に形成される環状の軸受空間7に周方向に間隔をおいて組み込まれる複数の転動体8と、複数の転動体8を保持する保持器9とを有する。外輪5の内周と内輪6の外周との間で挟まれる軸受空間7の軸方向両端の開口は、シール部材等で密封せずに開放した状態とされている。なお、軸方向は、転がり軸受2の回転中心軸と平行な方向(つまり内輪6または外輪5の中心軸と平行な方向)である。内輪6は、回転軸1の外周に締め代をもって嵌合している。
【0028】
図4に示すように、軸箱3は、外輪5の外周に嵌合する筒部10と、筒部10の軸方向一端から径方向内側に延びる内向きフランジ11とを有する。内向きフランジ11は、外輪5の軸方向端面を支持する環状の支持壁部12と、軸受空間7に面するように支持壁部12から径方向内側に延出する環状のノズル壁部13とを有する。
【0029】
外輪5の外周は、軸箱3の筒部10の内周に隙間をもって嵌合している。転動体8は、ここでは玉である。外輪5の内周には、転動体8が転がり接触する断面円弧状の外輪軌道面14が設けられている。内輪6の外周には、転動体8が転がり接触する断面円弧状の内輪軌道面15が設けられている。内輪6は、転動体8が転がり接触する内輪軌道面15に対してノズル壁部13に近い側の内輪肩部とノズル壁部13から遠い側の内輪肩部16のうち、ノズル壁部13に近い側の内輪肩部を除去して内輪カウンタボア部17とした肩落とし内輪である。この転がり軸受2は、内輪6と転動体8の接触点と、外輪5と転動体8の接触点とを結ぶ直線が、半径方向内側から半径方向外側に向かってノズル壁部13から軸方向に遠ざかるように傾斜するアンギュラ玉軸受である。
【0030】
ノズル壁部13には、軸受空間7に潤滑油を噴射するノズル孔18が形成されている。ノズル孔18は、ノズル壁部13の内部を、ノズル孔18の中心線方向に真っ直ぐに延びる断面丸形の孔である。ノズル孔18は、ノズル孔18の中心線方向に沿って一定の内径を有する。ノズル孔18の内径は、1.0mm以上2.0mm以下の大きさに設定されている。ノズル孔18の一端は、軸受空間7に向かって潤滑油を噴射するように開口し、ノズル孔18の他端は、支持壁部12の内部とノズル壁部13の内部とを通って径方向に延びる給油孔19に接続している。給油孔19は、ノズル孔18の断面積の5倍以上の断面積を有する。
【0031】
図1に示すように、給油孔19は、ハウジング4に形成された油孔20に連通している。油孔20には、図示しないオイルポンプから送り出される潤滑油が供給される。ここで、油孔20に潤滑油のみを供給することで、ノズル孔18から潤滑油のみが噴射されるようにすることもできるが(ジェット潤滑)、油孔20に圧縮空気と混合した状態で潤滑油を供給することで、ノズル孔18から圧縮空気とともに潤滑油が噴射されるようにしてもよい(エアオイル潤滑)。潤滑油は、ISO粘度グレード番号でVG2~VG32の粘度をもつものを使用することができる。軸受空間7のノズル壁部13から遠い側の開口につながる空間には、軸受空間7から空気を引き込むことで、軸受空間7を通過した潤滑油を強制的に排出する潤滑油排出ポンプ(図示せず)が設けられている。
【0032】
図2に示すように、ノズル孔18は、周方向に等間隔に複数(図では4つ)設けられている。図4図5に示すように、各ノズル孔18の中心線方向は、軸方向に対して転動体8の進行方向に傾斜するとともに、径方向内側にも傾斜している。なお、軸受が正逆両方向に回転する(つまり転動体8が周方向一方に進行するときと周方向他方に進行するときの両方がある)場合は、各ノズル孔18の中心線方向は、使用頻度の高い軸受の回転方向に対応する転動体8の進行方向に傾斜させると、温度上昇や回転トルクを効果的に低減することができるので好ましい。
【0033】
図5に示すように、ノズル孔18の中心線方向の軸方向に対する転動体8の進行方向への傾斜角(径方向から見たときの軸方向(図では上下方向)に対するノズル孔18の中心線の傾斜角)は、20°以上70°以下(好ましくは30°以上60°以下)に設定されている。
【0034】
図4に示すように、ノズル孔18は、ノズル孔18の中心線の延長線上に内輪軌道面15が位置するように軸方向(図では水平方向)に対して径方向内側に傾斜している。図では、ノズル孔18の中心線の延長線が、内輪軌道面15における外径が最小となる位置(軌道径の位置)に交わるようにノズル孔18が形成されている。ノズル孔18の中心線の延長線が、内輪軌道面15よりもノズル壁部13に近い側に形成される内輪カウンタボア部17に交わるようにノズル孔18を形成することも可能である。ノズル壁部13の転がり軸受2に対向する側の側面は、径方向内側に向かって次第に軸受空間7から遠ざかるように傾斜するテーパ面21とされている。テーパ面21は、図4に示すように周方向から見たときにノズル孔18の中心線と直角となるように傾斜している(すなわち、軸方向に対するノズル孔18の中心線の径方向内側への傾斜角と、軸直角方向に対するテーパ面21の傾斜角とが同じ大きさとされている)。
【0035】
図3図5に示すように、テーパ面21には、ノズル孔18の中心線方向に垂直な平面を底面22とする有底穴23が形成されている。有底穴23は、ノズル孔18よりも大径の円形の穴であり、その有底穴23の底面22にノズル孔18が開口している。
【0036】
この転がり軸受装置は、図5に示すように、ノズル孔18の中心線方向が転動体8の進行方向に傾斜しているので、ノズル孔18から噴射される潤滑油の流れが、転動体8の移動を妨げる抵抗となりにくい。そのため、高速回転域(具体的にはdmn値(回転速度×軸受ピッチ径)が50万を超える回転域)で運転したときの転がり軸受2の温度上昇や回転トルクの上昇を低く抑えることが可能である。
【0037】
また、この転がり軸受装置は、図4に示すように、ノズル孔18の中心線の延長線上に内輪軌道面15が位置するので、転がり軸受2の最も発熱しやすい部位である転動体8と内輪6の接触点を効果的に冷却することが可能である。
【0038】
また、この転がり軸受装置は、図5に示すように、ノズル孔18の中心線方向の転動体8の進行方向への傾斜角が20°以上(好ましくは30°以上)に設定されているので、ノズル孔18から噴射される潤滑油の流れが、転動体8の移動の抵抗となるのを効果的に抑制することができる。また、ノズル孔18の中心線方向の転動体8の進行方向への傾斜角が70°以下(好ましくは60°以上)に設定されているので、潤滑油がノズル孔18から噴射されてから転がり軸受2の内部の潤滑点に当たるまでの距離が短く抑えられ、ノズル孔18から噴射された潤滑油が拡散しにくい。そのため、転がり軸受2の内部の潤滑点に確実に潤滑油を当てることが可能である。
【0039】
また、この転がり軸受装置は、図2に示すように、ノズル孔18が周方向に間隔をおいて複数設けられているので、図4に示す転がり軸受2の内部を特に効果的に冷却することが可能となっている。
【0040】
また、この転がり軸受装置は、図4に示すノズル孔18として、1.0mm以上2.0mm以下の内径をもつ断面丸形の孔を採用しているので、2.0mmを超える内径をもつノズル孔18を採用する場合よりも、ノズル孔18から噴射される潤滑油の流速を高めることができ、ノズル孔18から噴射される潤滑油の流速を、転がり軸受2の転動体8の進行速度に近くすることが可能となっている。そのため、高速回転域で運転したときの転がり軸受2の温度上昇や回転トルクの上昇を効果的に抑えることができる。なお、1.0mmを下回ると、潤滑油の供給圧が増大するので、オイルポンプなどの潤滑油供給装置への負荷が増大し、潤滑油供給装置の破損や潤滑油の供給不足が生じる恐れがある。
【0041】
また、この転がり軸受装置は、図3図5に示すように、ノズル壁部13に、ノズル孔18の中心線方向と垂直な平面を底面22とする有底穴23が形成され、その有底穴23の底面22にノズル孔18が開口しているので、内輪6の外周の潤滑点に、安定して潤滑油を供給することが可能となっている。すなわち、図5に示すように、ノズル孔18の中心線方向を転動体8の進行方向に傾斜させるとともに、図4に示すように、ノズル孔18の中心線方向を径方向内側にも傾斜させる場合、そのノズル孔18を単にテーパ面21に開口させることも可能であるが、そのようにしたのでは、ノズル孔18の端部開口の形状が、ノズル孔18の中心線方向に対して傾斜した方向を長軸方向とする楕円形状になるので、ノズル孔18の端部開口の内部において潤滑油の噴射圧力に偏りが生じ、ノズル孔18の中心線に沿って均一に潤滑油を噴射することができず、内輪6の外周の潤滑点への潤滑油の供給が不安定となるおそれがある。これに対し、図3図5に示すように、ノズル壁部13のテーパ面21に、ノズル孔18の中心線方向と垂直な平面を底面22とする有底穴23を形成し、その有底穴23の底面22にノズル孔18を開口させると、ノズル孔18の端部開口の形状が、ノズル孔18の中心線方向に対して直角な真円形状になるので、ノズル孔18の端部開口の内部において潤滑油の噴射圧力に偏りが生じるのを防ぐことができる。そのため、ノズル孔18の中心線に沿って均一に潤滑油を噴射することができ、内輪6の外周の潤滑点に安定して潤滑油を供給することが可能となる。
【0042】
図6に、この発明の第2実施形態を示す。第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0043】
ノズル壁部13には、周方向に等間隔に複数(図では2つ)のノズル孔18が形成されている。また、ノズル壁部13には、ノズル孔18から周方向に離れた位置に、軸受空間7(図4参照)に圧縮空気を噴射する複数(図では2つ)のエアノズル孔24が形成されている。各エアノズル孔24は、周方向に隣り合うノズル孔18同士の中間の位置に配置されている。エアノズル孔24の中心線方向は、軸方向に対して転動体8の進行方向に傾斜するとともに径方向内側にも傾斜している。また、ノズル壁部13のテーパ面21には、エアノズル孔24の中心線方向に垂直な平面を底面25とする有底穴26が形成され、その有底穴26の底面25にエアノズル孔24が開口している。各エアノズル孔24は、径方向に延びるエア供給孔27に接続している。エア供給孔27には、図示しないエアコンプレッサから送り出される圧縮空気が供給される。
【0044】
第2実施形態の転がり軸受装置は、エアノズル孔24から噴射される圧縮空気で図4に示す転がり軸受2の内部を冷却することができるので、その分、ノズル孔18から噴射する潤滑油の量を少なくし、潤滑油の消費量の低減に伴う軸受の回転トルク低減を見込むことができる。また、エアノズル孔24の中心線方向が、軸方向に対して転動体8の進行方向に傾斜しているので、エアノズル孔24から噴射される圧縮空気が、転動体8の進行方向前側に位置する潤滑油に当たって転動体8の進行方向前側の潤滑油が減少するのを防止することができ、転がり軸受2の内部の潤滑状態を良好に保つことができる。
【0045】
図7図8に、この発明の第3実施形態を示す。第1実施形態に対応する部分は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
図7に示すように、ノズル壁部13には、ノズル孔18から周方向に離れた位置に、軸受空間7に潤滑油を噴射する複数(図では4つ)の第2ノズル孔28が形成されている。図8に示すように、第2ノズル孔28の中心線方向は、軸方向に対して転動体8の進行方向とは逆向きに傾斜している。第2ノズル孔28は、径方向に延びる第2給油孔29に接続している。第2ノズル孔28とその周辺の構成は、ノズル孔18とその周辺の構成と周方向に対称の同一構成である。
【0047】
図7に示すように、複数の給油孔19には給油経路30が接続され、複数の第2給油孔29には第2の給油経路31が接続されている。給油経路30と第2の給油経路31は、切替弁32を介してオイルポンプ33に接続されている。切替弁32は、オイルポンプ33と給油経路30を連通し、かつ、オイルポンプ33と第2の給油経路31の連通を遮断することでノズル孔18のみに潤滑油を供給する状態と、オイルポンプ33と給油経路30の連通を遮断し、かつ、オイルポンプ33と第2の給油経路31を連通することで第2ノズル孔28のみに潤滑油を供給する状態とを電気的操作により切り替え可能な電磁制御弁である。
【0048】
第3実施形態の転がり軸受装置は、図1に示す回転軸1を正転方向に回転させるときは、図7に示す切替弁32の操作により、ノズル孔18と第2ノズル孔28のうち、ノズル孔18のみから潤滑油を噴射して使用し、図1に示す回転軸1を逆転方向に回転させるときは、図7に示す切替弁32の操作により、ノズル孔18と第2ノズル孔28のうち、第2ノズル孔28のみから潤滑油を噴射して使用することができる。このように、回転方向を逆回転に切り替えて使用するときにも、図1に示す転がり軸受2の温度上昇や回転トルクの上昇を低く抑えることが可能である。
【0049】
ノズル孔18の中心線方向を、軸方向に対して転動体8の進行方向に傾斜させることにより、高速回転域で運転したときの転がり軸受2の温度上昇と回転トルクの上昇を抑えることができることを確認するため、ノズル孔18の中心線方向を、径方向から見て軸方向に対して転動体8の進行方向に45°傾斜させた実施例の転がり軸受装置と、ノズル孔18の中心線方向を、径方向から見て転動体8の進行方向と直交する向きとした比較例の転がり軸受装置とを準備し、それらの転がり軸受装置を高速回転させ、そのそれぞれの回転数における内輪6と外輪5の温度、およびそのそれぞれの回転数における内輪6の回転トルクを計測する試験を行なった。その試験結果を図9図10に示す。
【0050】
図9に示すように、軸受dmn値が50万以上の高速回転域において、実施例の内輪6および外輪5の温度(図に示す破線のグラフ)は、比較例の内輪6および外輪5の温度(図に示す実線のグラフ)よりも低くなっていることを確認することができる。また、図10に示すように、軸受dmn値が50万以上の高速回転域において、実施例の内輪6の回転トルクは、比較例の内輪6の回転トルクよりも約20%低減していることを確認することができる。
【0051】
また、図6に示すエアノズル孔24から圧縮空気を噴射することで転がり軸受2の内部を冷却することができることを確認するため、図6に示すノズル孔18からは潤滑油を噴射し、かつ、エアノズル孔24は噴射を停止した条件で転がり軸受装置を高速回転させたときの内輪6と外輪5の温度、および、図6に示すノズル孔18から潤滑油を噴射し、かつ、エアノズル孔24から圧縮空気を噴射した条件で転がり軸受装置を高速回転させたときの内輪6と外輪5の温度をそれぞれ計測する試験を行なった。その試験結果を図11に示す。
【0052】
図11に示すように、エアノズル孔24から圧縮空気を噴射した条件で転がり軸受装置を高速回転させたときの内輪6と外輪5の温度(図に示す破線のグラフ)は、エアノズル孔24は噴射を停止した条件で転がり軸受装置を高速回転させたときの内輪6と外輪5の温度(図に示す実線のグラフ)よりも、大幅に低い温度となっていることを確認することができる。
【0053】
上記各実施形態では、図1に示すように、軸受空間7に潤滑油を噴射するノズル孔18が形成された潤滑油噴射部材として、転がり軸受2を収容する軸箱3を例に挙げて説明したが、外輪5の外径と同じ外径をもち、外輪5に軸方向に隣接して配置される外輪間座を潤滑油噴射部材としてもよい。
【0054】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
2 転がり軸受
3 軸箱(潤滑油噴射部材)
5 外輪
6 内輪
7 軸受空間
8 転動体
12 支持壁部
13 ノズル壁部
15 内輪軌道面
18 ノズル孔
22 底面
23 有底穴
24 エアノズル孔
28 第2ノズル孔
32 切替弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11