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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176669
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/06 20060101AFI20241212BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20241212BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20241212BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241212BHJP
   B60W 20/16 20160101ALI20241212BHJP
   B60T 17/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
F02D41/06
F02D29/02 321A
B60K6/46
B60W10/06 900
B60W20/16
B60T17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095399
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栄田 直哉
【テーマコード(参考)】
3D049
3D202
3G093
3G301
【Fターム(参考)】
3D049CC02
3D049HH08
3D049HH47
3D049HH48
3D049KK09
3D049RR04
3D202AA07
3D202BB05
3D202BB09
3D202CC42
3D202CC47
3G093AA01
3G093BA20
3G093CA02
3G093DA12
3G093DB15
3G093EA05
3G301JA25
3G301KA04
3G301MA11
3G301PF05
(57)【要約】
【課題】エンジンを始動したときの排気ガスを適切に処理することができる車両制御装置を提供すること。
【解決手段】HCUは、エンジンが停止している期間におけるブレーキ装置の作動状態を表すブレーキ情報をRAMに蓄積し(S1)、エンジン始動条件が成立すると(S4)、RAMに蓄積されたブレーキ情報に応じて、エンジン始動時の燃料噴射量を調整し(S5)、エンジン2を始動させる(S6)。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンと連動するモータと、
ブレーキ装置と、
前記ブレーキ装置による制動力を前記エンジンの吸気負圧によって増強させるブレーキブースタと、を有する車両に設けられ、
前記ブレーキブースタの負圧室内の負圧が所定負圧よりも低くなると、前記モータを駆動させることによって前記エンジンを回転させて前記負圧室内の負圧を回復させる制御部を備えた車両制御装置であって、
前記エンジンが停止している期間における前記ブレーキ装置の作動状態を表すブレーキ情報を蓄積するブレーキ情報蓄積部を備え、
前記制御部は、前記エンジンの始動時に、前記ブレーキ情報蓄積部に蓄積されたブレーキ情報に応じて、前記エンジンの燃料噴射量を調整することを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ブレーキ情報蓄積部に蓄積されたブレーキ情報に応じて、前記負圧室内の負圧を推定することを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関において燃料を燃焼させずに電動機により内燃機関を回転駆動するモータリング中に、燃料蒸発ガス排出抑制装置のキャニスタから吸気通路に燃料蒸気を含むパージガスを放出するキャニスタパージ処理を実施することによって、触媒内で酸化反応を起こして触媒内の酸素量を減少させ、内燃機関を始動したときの排気ガスに含まれるNOxの排出増を抑制する技術が特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-64741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パージガスの濃度は大きく変動するため、上述したような従来の技術は、内燃機関(以下、「エンジン」という)を始動したときの排気ガスを適切に処理することができない場合があるといった課題があった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エンジンを始動したときの排気ガスを適切に処理することができる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両制御装置は、エンジンと、前記エンジンと連動するモータと、ブレーキ装置と、前記ブレーキ装置による制動力を前記エンジンの吸気負圧によって増強させるブレーキブースタと、を有する車両に設けられ、前記ブレーキブースタの負圧室内の負圧が所定負圧よりも低くなると、前記モータを駆動させることによって前記エンジンを回転させて前記負圧室内の負圧を回復させる制御部を備えた車両制御装置であって、前記エンジンが停止している期間における前記ブレーキ装置の作動状態を表すブレーキ情報を蓄積するブレーキ情報蓄積部を備え、前記制御部は、前記エンジンの始動時に、前記ブレーキ情報蓄積部に蓄積されたブレーキ情報に応じて、前記エンジンの燃料噴射量を調整する構成を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、エンジンを始動したときの排気ガスを適切に処理することができる車両制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施例に係る車両制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
図2図2は、本発明の実施例に係る車両制御装置を搭載した車両におけるブレーキペダルの操作状態と、ブレーキ負圧と、モータリングの実行状態と、触媒装置内に充満する酸素量との関係の一例を時系列で表すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例に係る車両制御装置を搭載した車両におけるブレーキペダルの操作状態の例を時系列で表すグラフであり、図3(a)~図3(d)は、ブレーキペダルの操作状態の第1例~第4例をそれぞれ表す。
図4図4は、本発明の実施例に係る車両制御装置のエンジン停止時動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両制御装置は、エンジンと、エンジンと連動するモータと、ブレーキ装置と、ブレーキ装置による制動力をエンジンの吸気負圧によって増強させるブレーキブースタと、を有する車両に設けられ、ブレーキブースタの負圧室内の負圧が所定負圧よりも低くなると、モータを駆動させることによってエンジンを回転させて負圧室内の負圧を回復させる制御部を備えた車両制御装置であって、エンジンが停止している期間におけるブレーキ装置の作動状態を表すブレーキ情報を蓄積するブレーキ情報蓄積部を備え、制御部は、エンジンの始動時に、ブレーキ情報蓄積部に蓄積されたブレーキ情報に応じて、エンジンの燃料噴射量を調整することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両制御装置は、エンジンを始動したときの排気ガスを適切に処理することができる。
【実施例0010】
以下、本発明の実施例に係る車両制御装置を搭載した車両について図面を参照して説明する。
【0011】
図1に示すように、車両1は、エンジン2と、バッテリ3と、第1モータ4(以下、「MG1」ともいう)と、第1インバータ5と、第2モータ6(以下、「MG2」ともいう)と、第2インバータ7と、昇圧コンバータ8と、駆動輪9と、触媒装置10と、ブレーキ装置11と、ブレーキブースタ12と、ハイブリッドコントローラ(以下、単に「HCU」と記す)13と、を含んで構成されている。
【0012】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行うことによって、動力を生成する。
【0013】
バッテリ3は、充電可能な二次電池によって構成されている。バッテリ3は、MG1及びMG2によって発電された電力を蓄積し、MG1及びMG2を駆動させる電力を供給する。
【0014】
MG1は、エンジン2のクランクシャフトと連動するように設けられている。MG1は、第1インバータ5及び昇圧コンバータ8を介してバッテリ3に接続されている。MG1は、バッテリ3から電力が供給されることにより回転することでエンジン2のクランクシャフトを回転させる電動機の機能と、エンジン2が生成した動力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0015】
MG2は、ギア機構等の動力伝達部材を介して駆動輪9と連動するように設けられている。MG2は、第2インバータ7及び昇圧コンバータ8を介してバッテリ3に接続されている。
【0016】
MG2は、バッテリ3及びMG1から電力が供給されることにより回転することで駆動輪9を回転させる電動機の機能と、駆動輪9の回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0017】
昇圧コンバータ8は、バッテリ3と第1インバータ5及び第2インバータ7との間に設けられ、バッテリ3から第1インバータ5及び第2インバータ7に供給される電力の電圧を昇圧し、第1インバータ5及び第2インバータ7からバッテリ3に供給される電力の電圧を降圧する。
【0018】
触媒装置10は、エンジン2の排気通路に設けられている。触媒装置10は、排気ガスに含まれる未燃炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)といった有害物質を除去する三元触媒を有する。三元触媒は、HCを水と二酸化炭素に酸化させ、COを二酸化炭素に酸化させ、NOxを窒素に還元する。
【0019】
ブレーキ装置11は、ブレーキペダル16に与えられた操作力に応じた制動力を駆動輪9などの車輪に与える。ブレーキ装置11は、ブレーキ11aと、ブレーキ11aを作動させる油圧回路11bとを含んで構成される。本実施例におけるブレーキ11aは、ディスクブレーキによって構成される。
【0020】
ブレーキブースタ12は、ブレーキペダル16の操作力を増強する。ブレーキブースタ12によって増強されたブレーキペダル16の操作力は、油圧回路11bによって更に増強されてブレーキ11aに伝達される。
【0021】
ブレーキブースタ12には、負圧を蓄える負圧室12aと、大気圧が加わる大気圧室12bとが形成されている。ブレーキブースタ12は、負圧室12a内の圧力と大気圧室12b内の圧力との差圧によってブレーキペダル16に与えられた操作力を増強する。
【0022】
負圧室12aは、逆止弁17を介してエンジン2の吸気通路に連通している。逆止弁17は、エンジン2に吸気通路から負圧室12aに空気が流れることを阻止し、負圧室12aからエンジン2の吸気通路に空気が流れることを許容するように設けられている。
【0023】
負圧室12aと大気圧室12bとは、ブレーキペダル16が操作されている状態(以下、単に「操作状態」ともいう)で遮断され、ブレーキペダル16が操作されていない状態(以下、単に「非操作状態」ともいう)で連通する。
【0024】
大気圧室12bは、ブレーキペダル16が操作状態になると大気を取り込むことができる状態になり、ブレーキペダル16が非操作状態になると大気を取り込むことができない状態となる。
【0025】
ブレーキペダル16が非操作状態から操作状態になると、大気圧室12bの容積が増加し、負圧室12aの容積が減少する。このため、ブレーキペダル16が非操作状態から操作状態になると、負圧室12aの負圧が低下する。なお、本発明において、負圧が低下することは圧力が高くなることを意味し、逆に、負圧が高くなることは圧力が低下することを意味する。
【0026】
ブレーキペダル16が操作状態から非操作状態になると、負圧室12aと大気圧室12bとが連通するため、大気圧室12b内の空気が負圧室12a内に流入する。これにより、大気圧室12bと負圧室12aとの容積は、ブレーキペダル16が非操作状態であったときの元の容積に戻るが、負圧室12aの負圧が低下する。
【0027】
ブレーキペダル16が非操作状態から操作状態になったことにより低下した負圧室12aの負圧と、ブレーキペダル16が操作状態から非操作状態になったことにより低下した負圧室12aの負圧とは、エンジン2の吸気負圧によって回復する。
【0028】
HCU13は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポーと、を備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0029】
このコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをHCU13として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、このコンピュータユニットは、本実施例におけるHCU13として機能する。
【0030】
HCU13の入力ポートには、ブレーキペダル16が操作状態であるか否かを検出するブレーキスイッチ21を含む各種センサ類が接続されている。HCU13の出力ポートには、第1インバータ5と、第2インバータ7と、昇圧コンバータ8と、エンジン2に燃料を供給するインジェクタ31と、エンジン2の燃焼室内で点火する点火プラグ32と、を含む各種制御対象類が接続されている。なお、ディーゼルエンジン等のように点火プラグを必要としないエンジンによってエンジン2が構成されている場合には、車両1の構成から点火プラグ32は除かれる。
【0031】
HCU13は、入力ポートに接続された各種センサ類から得られる情報に基づき、出力ポートに接続された各種制御対象類を制御する。本実施例において、HCU13は、負圧室12aの負圧(以下、単に「ブレーキ負圧」ともいう)が所定負圧よりも低くなると、第1インバータ5を制御してMG1を駆動させることによってエンジン2のクランクシャフトを回転させてブレーキ負圧を回復させるモータリングを実行する制御部40としての機能を有する。
【0032】
HCU13のRAMは、エンジン2が停止している期間におけるブレーキ装置11の作動状態を表すブレーキ情報を蓄積するブレーキ情報蓄積部41を構成する記憶領域を有する。本実施例において、ブレーキ情報は、ブレーキペダル16の操作状態を時系列で表す。
【0033】
図2は、ブレーキペダル16の操作状態と、ブレーキ負圧と、モータリングの実行状態と、触媒装置10内に充満する酸素量(以下、単に「酸素充満量」ともいう)との関係の一例を時系列で表すグラフである。
【0034】
時刻t0において、エンジン2に対する燃料の供給が停止され、エンジン2が停止する。時刻t1において、ブレーキペダル16が非操作状態(以下、単に「OFF」ともいう)から操作状態(以下、単に「ON」ともいう)になると、ブレーキ負圧が低下する。
【0035】
時刻t2において、ブレーキペダル16がONからOFFになると、ブレーキ負圧が更に低下する。時刻t3において、ブレーキペダル16がOFFからONになると、ブレーキ負圧が更に低下する。
【0036】
時刻t4において、ブレーキペダル16がONからOFFになると、ブレーキ負圧が更に低下し、ブレーキ負圧が所定負圧よりも低くなったことにより、HCU13によってモータリングが実行され(図中、「ON」と記す)、時刻t5において、ブレーキ負圧が回復したことにより、HCU13によってモータリングが終了される(図中、「OFF」と記す)。
【0037】
時刻t4から時刻t5までのモータリングが実行されている期間において、ブレーキ負圧は、回復していき、モータリングにより空回しされたエンジン2によって触媒装置10内に送り込まれた空気によって酸素充満量が増加していく。
【0038】
同様に、時刻t6から時刻t8までのモータリングが実行されている期間、及び、時刻t9から時刻t10までのモータリングが実行されている期間において、酸素充満量が増加していく。
【0039】
なお、本実施例においては、所定負圧を基準としてモータリングが開始され、ブレーキ負圧が回復したと判断される負圧となるとモータリングが終了するため、時刻t4から時刻t5まで、時刻t6から時刻t8まで、及び、時刻t9から時刻t10までのモータリングの実行時間は互いに等しくなる。
【0040】
このように、モータリングが実行されるたびに、酸素充満量が増加していき、図2に示した例においては、時刻t7で触媒装置10内が酸素過多となる。触媒装置10内が酸素過多となると、エンジン2の始動時(以下、単に「エンジン始動時」という)における触媒装置10のNOxの還元性能が低下する。
【0041】
エンジン始動時における触媒装置10のNOxの還元性能の低下を抑制するためには、エンジン始動時にインジェクタ31からエンジン2に供給させる燃料の量(以下、単に「燃料噴射量」という)を多くして、触媒装置10内でHC及びCOの酸化を促進させて酸素充満量を減少させる必要がある。
【0042】
すなわち、エンジン始動時に、触媒装置10内が酸素過多となっている場合には、触媒装置10内が酸素過多となっていない場合よりも多くの燃料をエンジン2に供給する必要がある。
【0043】
図2を参照しても分かるように、モータリングの実行回数は、ブレーキ情報に基づいて実験的又は理論的に一意に定まる。例えば、図3(a)に示すように、時刻t0でエンジン2が停止してから時刻tfでエンジン2が始動するまでの間に、6回のブレーキペダル16の操作(図中、ON、OFF)が行われた場合、3回のモータリングが実行される。
【0044】
図3(b)に示すように、時刻t0でエンジン2が停止してから時刻tfでエンジン2が始動するまでの間に、5回のブレーキペダル16の操作が行われた場合、2回のモータリングが実行される。
【0045】
図3(c)に示すように、時刻t0でエンジン2が停止してから時刻tfでエンジン2が始動するまでの間に、4回のブレーキペダル16の操作が行われた場合、2回のモータリングが実行される。
【0046】
図3(d)に示すように、時刻t0でエンジン2が停止してから時刻tfでエンジン2が始動するまでの間に、3回のブレーキペダル16の操作が行われた場合、1回のモータリングが実行される。
【0047】
このように、本実施例では、時刻t0でエンジン2が停止してから時刻tfでエンジン2が始動するまでの間に、ブレーキペダル16の操作が行われなかった場合又は1回のブレーキペダル16の操作が行われた場合、モータリングが実行されず、2回又は3回のブレーキペダル16の操作が行われた場合、1回のモータリングが実行され、4回又は5回のブレーキペダル16の操作が行われた場合、2回のモータリングが実行され、6回又は7回のブレーキペダル16の操作が行われた場合、3回のモータリングが実行される。すなわち、本実施例では、エンジン2が停止している期間において、2回のブレーキペダル16の操作が行われる度にモータリングが実行される。
【0048】
前述したように、モータリングが実行されるたびに、酸素充満量が増加していき、NOxに対する還元性能が低下していくため、HCU13は、エンジン始動時に、エンジン2が停止している期間におけるブレーキペダル16の操作回数に応じて、燃料噴射量を調整する。
【0049】
例えば、図3(a)~図3(d)に示した例のうち、時刻tfにおける燃料噴射量は、図3(a)に示した例が最も多くなり、図3(b)及び図3(c)に示した例、次いで図3(d)に示した例の順序で少なくなっていき、図3(b)及び図3(c)に示した例では、同一になる。
【0050】
ここで、時刻tfにおける燃料噴射量に対して基準量を定めると、図3(a)に示した例の時刻tfにおける燃料噴射量は、基準量に対して多い燃料が増量される(図中、「燃料増量:多」と記す)。
【0051】
同様に、図3(b)及び図3(c)に示した例の時刻tfにおける燃料噴射量は、基準量に対して少ない燃料が増量され(図中、「燃料増量:少」と記す)、図3(d)に示した例の時刻tfにおける燃料噴射量は、基準量に対して増量されない(図中、「燃料増量:無し」と記す)。
【0052】
以上に説明したように、ブレーキ情報からブレーキ負圧の推移が実験的又は理論的に一意に定まる。また、ブレーキ負圧の推移からモータリングの実行回数が実験的又は理論的に一意に定まる。
【0053】
また、モータリングの実行回数からモータリングにより触媒装置10内に送り込まれた空気の量が実験的又は理論的に一意に定まる。また、モータリングにより触媒装置10内に送り込まれた空気の量から酸素充満量が実験的又は理論的に一意に定まる。
【0054】
また、酸素充満量からエンジン始動時に排気ガスを適切に処理するための燃料噴射量の調整量(以下、単に「適正燃料調整量」という)が実験的又は理論的に一意に定まる。したがって、ブレーキ情報から適正燃料調整量が実験的又は理論的に一意に定まる。
【0055】
HCU13のROMには、ブレーキ情報とブレーキ負圧とが対応付けられたブレーキ負圧マップが格納されている。HCU13は、ブレーキ負圧マップを参照し、ブレーキ情報に基づいて、ブレーキ負圧を推定する。
【0056】
また、HCU13のROMには、ブレーキ情報と適正燃料調整量とが対応付けられた始動燃料調整マップが格納されている。HCU13は、始動燃料調整マップを参照し、ブレーキ情報に基づいて、エンジン始動時の燃料噴射量を調整する。
【0057】
上述したように、ブレーキ負圧マップは、ブレーキ情報とブレーキ負圧とが実験的又は理論的に対応付けられている。また、始動燃料調整マップは、ブレーキ情報と適正燃料調整量とが実験的又は理論的に対応付けられている。
【0058】
このため、ブレーキ負圧マップ及び始動燃料調整マップは、エンジン2、ブレーキブースタ12、MG1及び触媒装置10の各種性能と、所定負圧とが考慮された上で定められていることになる。
【0059】
以上のように構成されたHCU13のエンジン停止時動作について図4を参照して説明する。なお、以下に説明するエンジン停止時動作は、エンジン2が停止したことを契機として実行される。
【0060】
まず、S1において、HCU13は、ブレーキ情報を更新する。S1の処理を実行した後、HCU13は、S2の処理を実行する。S2において、HCU13は、ブレーキ負圧マップに基づきブレーキ負圧を推定し、推定したブレーキ負圧が所定負圧よりも低いか否かを判断する。
【0061】
S2において、ブレーキ負圧が所定負圧よりも低いと判断した場合には、HCU13は、S3の処理を実行する。S2において、ブレーキ負圧が所定負圧よりも低くないと判断した場合には、HCU13は、S4の処理を実行する。
【0062】
S3において、HCU13は、モータリングを実行する。S3の処理を実行した後、HCU13は、S2の処理を実行する。S4において、HCU13は、エンジン2を始動する条件(以下、「エンジン始動条件」という)が成立したか否かを判断する。
【0063】
例えば、エンジン始動条件は、バッテリ3の充電状態が所定の下限充電状態よりも低くなったときに成立する。S4において、エンジン始動条件が成立したと判断した場合には、HCU13は、S5の処理を実行する。S4において、エンジン始動条件が成立していないと判断した場合には、HCU13は、S1の処理を実行する。
【0064】
S5において、HCU13は、始動燃料調整マップに基づきエンジン始動時の燃料噴射量を調整する。S5の処理を実行した後、HCU13は、S6の処理を実行する。S6において、HCU13は、エンジン2を始動させる。
【0065】
エンジン2を始動させる場合、HCU13は、第1インバータ5を制御してMG1を駆動させることによってエンジン2のクランクシャフトを回転させて、S5で決定した調整量で調整された燃料噴射量の燃料をエンジン2に供給するようにインジェクタ31を制御する。S6の処理を実行した後、HCU13は、S7の処理を実行する。
【0066】
S7において、HCU13は、ブレーキ情報を初期化する。S7の処理を実行した後、HCU13は、エンジン停止時動作を終了する。
【0067】
以上のように、本実施例に係る車両制御装置は、エンジン2が停止している期間におけるブレーキ情報から一意に定まるエンジン始動時の燃料噴射量を調整するため、エンジン2を始動したときの排気ガスを適切に処理することができる。
【0068】
また、本実施例に係る車両制御装置は、エンジン2が停止している期間におけるブレーキ情報から一意に定まるブレーキ負圧を推定するため、ブレーキ負圧を検出する負圧センサに不具合があったとしても、ブレーキ負圧を推定することができ、エンジン2を始動したときの排気ガスをブレーキ負圧に応じて適切に処理することができる。
【0069】
また、本実施例に係る車両制御装置は、エンジン2が停止している期間におけるブレーキ情報から一意に定まるエンジン始動時の燃料噴射量を調整するため、排気通路に設けられるO2センサ(酸素濃度センサ)に不具合があったとしても、エンジン2を始動したときの排気ガスを酸素充満量に応じて適切に処理することができる。
【0070】
なお、本実施例では、ブレーキ情報は、ブレーキペダル16の操作状態を時系列で表す例について説明した。これに対し、ブレーキ情報は、ブレーキペダル16の操作状態に加えて、ブレーキペダル16の操作量を表すブレーキストローク、及び、油圧回路11bに含まれるマスターシリンダ内の油圧を時系列で表すようにしてもよい。
【0071】
このようにブレーキ情報を構成することにより、本実施例に係る車両制御装置は、エンジン始動時の燃料噴射量をより精細に調整することができるようになるため、エンジン2を始動したときの排気ガスをより適切に処理することができるようになる。
【0072】
また、ブレーキ情報がブレーキペダル16の操作状態に加えて、ブレーキストローク及びマスターシリンダ内の油圧を時系列で表すようにすることにより、本実施例に係る車両制御装置は、負圧センサに不具合があったとしても、エンジン2を始動したときの排気ガスをより適切に処理することができる。
【0073】
また、前述したように、ブレーキ負圧の推移からモータリングの実行回数が実験的又は理論的に一意に定まり、モータリングの実行回数からモータリングにより触媒装置10内に送り込まれた空気の量が実験的又は理論的に一意に定まり、モータリングにより触媒装置10内に送り込まれた空気の量から酸素充満量が実験的又は理論的に一意に定まり、酸素充満量から適正燃料調整量が実験的又は理論的に一意に定まる。
【0074】
したがって、ブレーキ負圧の推移から適正燃料調整量が実験的又は理論的に一意に定まる。このため、本実施例に係る車両制御装置は、エンジン2が停止している期間におけるブレーキ負圧の減少量の積算値(以下、単に「ブレーキ負圧減少積算値」という)に応じて、エンジン始動時の燃料噴射量を調整するように構成してもよい。
【0075】
すなわち、ブレーキ情報と適正燃料調整量とが対応付けられた始動燃料調整マップに代えて、ブレーキ負圧減少積算値と適正燃料調整量とが対応付けられた始動燃料調整マップをHCU13のROMに格納しておき、HCU13は、始動燃料調整マップを参照し、ブレーキ負圧減少積算値に基づいて、エンジン始動時の燃料噴射量を調整するようにしてもよい。
【0076】
また、本実施例では、本発明に係る車両制御装置をエンジン2が発電用に設けられた車両1に搭載した例について説明した。これに対し、本発明に係る車両制御装置は、車両1と異なる構成の車両であっても、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路を切断した状態でモータによってエンジンのクランクシャフトを回転させることができる車両であれば搭載することができる。
【0077】
以上、本発明の実施例について開示したが、本発明の範囲を逸脱することなく本実施例に変更を加えられ得ることは明白である。本発明の実施例は、このような変更が加えられた等価物が特許請求の範囲に記載された発明に含まれることを前提として開示されている。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
2 エンジン
4 第1モータ(モータ)
11 ブレーキ装置
12 ブレーキブースタ
12a 負圧室
40 制御部
41 ブレーキ情報蓄積部
図1
図2
図3
図4