(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176670
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】回収方法、及び再生ポリオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/28 20060101AFI20241212BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
C08J11/28 ZAB
C07B61/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095401
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 敬仁
【テーマコード(参考)】
4F401
4H006
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401AA26
4F401BA06
4F401BA13
4F401CA67
4F401CA75
4F401EA17
4F401EA60
4F401EA65
4F401EA67
4F401FA07Z
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA50
4H006BA51
(57)【要約】
【課題】複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解してポリエステル部を回収する技術、及び複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解して再生ポリオールを製造する技術のうち、1つ以上の技術を提供する。
【解決手段】ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材から前記ポリエステル部を回収する回収方法であって、下記(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、前記複合材の前記ポリウレタン部を選択的に化学分解する、回収方法。
(1)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、多価アルコールと、の混合物である。
(2)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、炭素数4-10のカルボン酸と、の混合物である。
(3)前記分解剤は、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩と、トリアゾール骨格を有する化合物との混合物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材から前記ポリエステル部を回収する回収方法であって、
下記(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、前記複合材の前記ポリウレタン部を選択的に化学分解する、回収方法。
(1)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
エチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、及び分子量400以下のポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールと、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記多価アルコールとの質量比が、1:20-1:40である。
(2)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
炭素数4-10のカルボン酸と、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記カルボン酸との質量比が、1:10-1:50である。
(3)前記分解剤は、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩と、
トリアゾール骨格を有する化合物との混合物であり、
前記金属塩と、前記トリアゾール骨格を有する化合物との質量比が、1:0.7-1:10である。
【請求項2】
ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材を分解処理し、得られたポリオールを回収することで再生ポリオールを製造する再生ポリオールの製造方法であって、
下記(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、前記複合材の前記ポリウレタン部を選択的に化学分解する、再生ポリオールの製造方法。
(1)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
エチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、及び分子量400以下のポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールと、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記多価アルコールとの質量比が、1:20-1:40である。
(2)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
炭素数4-10のカルボン酸と、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記カルボン酸との質量比が、1:10-1:50である。
(3)前記分解剤は、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩と、
トリアゾール骨格を有する化合物との混合物であり、
前記金属塩と、前記トリアゾール骨格を有する化合物との質量比が、1:0.7-1:10である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回収方法、及び再生ポリオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポリウレタンフォームから再生ポリオールを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ポリウレタンの分解処理については検討されているが、ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材の分解処理については十分な検討がなされていない。複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解してポリエステル部を回収する技術、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解して再生ポリオールを製造する技術等が望まれている。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解してポリエステル部を回収する技術、及び複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解して再生ポリオールを製造する技術のうち、1つ以上の技術を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]
ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材から前記ポリエステル部を回収する回収方法であって、
下記(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、前記複合材の前記ポリウレタン部を選択的に化学分解する、回収方法。
(1)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
エチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、及び分子量400以下のポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールと、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記多価アルコールとの質量比が、1:20-1:40である。
(2)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
炭素数4-10のカルボン酸と、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記カルボン酸との質量比が、1:10-1:50である。
(3)前記分解剤は、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩と、
トリアゾール骨格を有する化合物との混合物であり、
前記金属塩と、前記トリアゾール骨格を有する化合物との質量比が、1:0.7-1:10である。
【0007】
[2]
ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材を分解処理し、得られたポリオールを回収することで再生ポリオールを製造する再生ポリオ―ルの製造方法であって、
下記(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、前記複合材の前記ポリウレタン部を選択的に化学分解する、再生ポリオ―ルの製造方法。
(1)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
エチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、及び分子量400以下のポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールと、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記多価アルコールとの質量比が、1:20-1:40である。
(2)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
炭素数4-10のカルボン酸と、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記カルボン酸との質量比が、1:10-1:50である。
(3)前記分解剤は、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩と、
トリアゾール骨格を有する化合物との混合物であり、
前記金属塩と、前記トリアゾール骨格を有する化合物との質量比が、1:0.7-1:10である。
【0008】
なお、本開示において「ポリウレタン部を選択的に化学分解する」とは、以下の〔1〕〔2〕のいずれかを意味する。
〔1〕ポリウレタン部を化学分解し、かつポリエステル部を化学分解しない。
〔2〕ポリウレタン部を化学分解し、かつポリエステル部の一部のみを化学分解する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解してポリエステル部を回収する技術、及び複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解して再生ポリオールを製造する技術のうち、1つ以上の技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。また、本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0011】
1.ポリエステル部を回収する回収方法
本実施形態の回収方法は、ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材からポリエステル部を回収する回収方法であって、下記(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する。
(1)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
エチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、及び分子量400以下のポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上の多価アルコールと、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記多価アルコールとの質量比が、1:20-1:40である。
(2)前記分解剤は、アミジン構造を有する複素環式化合物と、
炭素数4-10のカルボン酸と、の混合物であり、
前記複素環式化合物と、前記カルボン酸との質量比が、1:10-1:50である。
(3)前記分解剤は、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩と、
トリアゾール骨格を有する化合物との混合物であり、
前記金属塩と、前記トリアゾール骨格を有する化合物との質量比が、1:0.7-1:10である。
【0012】
1.1 複合材
複合材は、ポリエステル部とポリウレタン部を備える。複合材の形状、ポリエステル部とポリウレタン部の構成は特に限定されない。例えば、複合材は、ポリウレタン部の表面に、層状のポリエステル部が設けられた構成であってもよく、ポリエステル部の表面に、層状のポリウレタン部が設けられた構成であってもよい。複合材は、層状のポリエステル部と、層状のポリウレタン部とを備えた積層体であってもよい。ポリエステル部及び/又はポリウレタン部が層状の構成では、切断等の手段によってポリエステル部とポリウレタン部を分離しにくく、本開示の技術が特に有効である。
複合材は、例えば、製品の製造過程で排出される端材、又は、破棄される予定の使用済みの製品等であってもよい。
【0013】
複合材における、ポリエステル部とポリウレタン部の質量比率は特に限定されない。ポリエステル部とポリウレタン部の質量比率(ポリエステル部:ポリウレタン部)は、ポリウレタン部のリサイクル効率、または、再生ポリオールを十分に得る観点から、好ましくは1:99-80:20であり、より好ましくは2:98-60:40であり、更に好ましくは5:95-30:70である。
【0014】
ポリエステル部を構成するポリエステルは、芳香族ポリエステル及び脂肪族ポリエステルからなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好ましい。芳香族ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、及びポリブチレンテレフタラート(PBT)からなる群より選ばれた少なくとも1種以上が好ましい。
【0015】
ポリウレタン部を構成するポリウレタンは、フォームであってもよく、非フォームであってもよい。ポリウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォーム、半硬質ポリウレタンフォーム、及び硬質ポリウレタンフォームのいずれであってもよい。ポリウレタンとしては、ポリエーテルポリオールを原料とするポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステルポリオールを原料とするポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン等が挙げられる。これらの中でも、原料由来のポリオールと同じ再生ポリオールを好適に得られる点から、ポリエーテル系ポリウレタンが好ましい。
【0016】
1.2 分解剤
本実施形態の回収方法は、上記の(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する。本願発明者は、鋭意検討し、(1)-(3)の分解剤を用いた場合に、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解できることを新たに見出し、本開示の技術を開発するに至った。ここで、ポリウレタン部を分解する分解剤は、ウレタン結合の分解反応に作用する性質を有する。ウレタン結合の分解反応である反応としては、例えば、アシドリシス、加水分解、アミノリシス、グリコリシスが挙げられる。分解剤は、これらの反応において、分解触媒として作用してもよく、自身が反応物として作用してもよい。
【0017】
(1)アミジン構造を有する複素環式化合物と多価アルコールとの混合物
アミジン構造を有する複素環式化合物は特に限定されない。ここでアミジン構造とは、R1-C(=NR2)-NR3R4で表される構造(ただし、R1,R2,R3,R4は、同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を表す。)である。アミジン構造を有する複素環式化合物は、ウレタン結合の加水分解において触媒作用を奏すると考えられる。なお、アミジン構造を有する複素環式化合物は、エステル結合の加水分解作用も有すると考えられる。本実施形態では、アミジン構造を有する複素環式化合物と、他の化合物とを混合して用いることによって、好適にポリウレタン部を選択的に化学分解できると推測される。
【0018】
アミジン構造を有する複素環式化合物としては、ジアザビシクロノネン誘導体やジアザビシクロウンデセン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、ジアザビシクロウンデセン(1,8‐ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン‐7、以下「DBU」とも称する)、ジアザビシクロノネン(1,5‐ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン‐5、以下「DBN」とも称する)、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0019】
ジアザビシクロウンデセン(DBU)及びこれらの誘導体としては、例えば、DBU、DBU炭酸塩、DBUカルボン酸塩、DBUフェノール塩、DBUチオール塩が挙げられる。ジアザビシクロノネン(DBN)及びこれらの誘導体としては、例えば、DBN、DBN炭酸塩、DBNカルボン酸塩、DBNフェノール塩、DBNチオール塩が挙げられる。
【0020】
多価アルコールは、エチレングリコール、分子量400以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、及び分子量400以下のポリプロピレングリコールからなる群から選ばれる1種以上である。上記の多価アルコールとしては、ポリウレタン部分解生成物として得られるポリオールよりも分子量が小さいものが好ましい。上記の多価アルコールは、ウレタン結合のグリコリシスにおいて、反応物として作用し得ると考えられる。
【0021】
アミジン構造を有する複素環式化合物と、上記の多価アルコールの組み合わせは特に限定されない。アミジン構造を有する複素環式化合物と、上記の多価アルコールの組み合わせとしては、例えば、ジアザビシクロウンデセンとエチレングリコールの組み合わせが挙げられる。
【0022】
上記(1)の分解剤は、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する観点から、上記の複素環式化合物と、上記の多価アルコールとの質量比が、1:20-1:40であり、好ましくは1:25-1:35である。
【0023】
上記(1)の分解剤の添加量は、特に限定されない。上記(1)の分解剤の添加量は、複合材100質量部に対して、0.1質量部以上200質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上50質量部以下であることが更に好ましい。なお、(1)の分解剤の添加量は、アミジン構造を有する複素環式化合物と多価アルコールとの混合物の合計の添加量である。
【0024】
(2)アミジン構造を有する複素環式化合物と炭素数4-10のカルボン酸との混合物
アミジン構造を有する複素環式化合物は特に限定されず、上記「(1)アミジン構造を有する複素環式化合物と多価アルコールとの混合物」で説明したアミジン構造を有する複素環式化合物を用いることができる。
【0025】
炭素数4-10のカルボン酸は特に限定されない。カルボン酸は、モノカルボン酸であっても、ジカルボン酸であってもよく、トリカルボン酸であってもよい。炭素数4-10のカルボン酸としては、アジピン酸、クエン酸、クエン酸一水和物、p-フェノールスルホン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、オクタン酸、及びリンゴ酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。上記のカルボン酸は、ウレタン結合のアシドリシスにおいて、反応物として作用し得ると考えられる。原理上、アシドリシスは、エステル結合を分解せず、ウレタン結合のみを分解すると考えられる。よって、ポリウレタン部を選択的に化学分解する分解剤の成分として、炭素数4-10のカルボン酸は特に有効であると考えられる。
【0026】
アミジン構造を有する複素環式化合物と、上記のカルボン酸の組み合わせは特に限定されない。アミジン構造を有する複素環式化合物と、上記のカルボン酸の組み合わせとしては、例えば、ジアザビシクロウンデセンとアジピン酸の組み合わせが挙げられる。
【0027】
上記(2)の分解剤は、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する観点から、上記の複素環式化合物と、上記のアジピン酸との質量比が、1:10-1:50であり、好ましくは1:15-1:45である。
【0028】
上記(2)の分解剤の添加量は、特に限定されない。上記(2)の分解剤の添加量は、複合材100質量部に対して、0.1質量部以上200質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上50質量部以下であることが更に好ましい。なお、(2)の分解剤の添加量は、アミジン構造を有する複素環式化合物と炭素数4-10のカルボン酸との混合物の合計の添加量である。
【0029】
(3)炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩とトリアゾール骨格を有する化合物との混合物
上記の金属塩は特に限定されない。炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸としては、例えば、オクチル酸、酢酸、及び2-エチルヘキサン酸からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。上記の金属塩を構成する金属としては、例えば、アルカリ金属等が挙げられる。アルカリ金属としては、カリウム、リチウム、ナトリウム等が挙げられる。
【0030】
上記の金属塩としては、例えば、オクチル酸カリウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、及び2-エチルヘキサン酸カリウムからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0031】
トリアゾール骨格を有する化合物は特に限定されない。トリアゾール骨格は、1,2,3-トリアゾール骨格であってもよく、1,2,4-トリアゾール骨格であってもよい。トリアゾール骨格を有する化合物としては、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)、ベンゾトリアゾール、及び3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾールからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。なお、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)は、下記式(1)で表される化合物である。
【化1】
【0032】
上記の金属塩と、トリアゾール骨格を有する化合物との組み合わせは特に限定されない。上記の金属塩と、トリアゾール骨格を有する化合物の組み合わせとしては、例えば、オクチル酸カリウムと2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)の組み合わせが挙げられる。
【0033】
上記(3)の分解剤は、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する観点から、上記の金属塩と、上記のトリアゾール骨格を有する化合物との質量比が、1:0.7-1:10であり、好ましくは1:0.7-1:5である。
【0034】
上記(3)の分解剤の添加量は、特に限定されない。上記(3)の分解剤の添加量は、複合材100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上20質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上10質量部以下であることが更に好ましい。なお、(3)の分解剤の添加量は、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩とトリアゾール骨格を有する化合物との混合物の合計の添加量である。
【0035】
1.3 分解処理の一例
本実施形態の回収方法は、上記の(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する。ポリウレタン部の選択的な化学分解は、ポリウレタン部が化学分解される条件であり、ポリエステル部の一部又は全部が化学分解されない条件で、複合材を分解処理することによって行う。ポリウレタンは、分解処理によって、ポリオールとアミン化合物に分解される。複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解すると、通常、液状の分解生成物が得られる。そして、未分解のポリエステル部は、液状の分解生成物中に残存した状態で得られる。この液状の分解生成物から、未分解のポリエステル部を取り出して、ポリエステル部を回収できる。
【0036】
複合材の分解処理方法の一例としては、容器に、複合材と、上記の(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤とを入れ、所定の処理温度に保持する。処理温度は、120℃以上250℃以下が好ましく、170℃以上230℃以下がより好ましい。所定の処理温度に保持する時間は、複合材の量、分解剤の量、処理温度等に応じて適宜設定できる。そして、容器内に液状の分解生成物を滞留させ、液状の分解生成物中で、ポリウレタン部を更に選択的に化学分解する。ポリウレタン部の分解後、ポリエステル部を回収する。ポリエステル部は、例えば、分解処理物を濾過することによって、回収できる。
【0037】
分解処理液は、単相の状態で得られてもよく、ポリオールを少なくとも含有する上相と、アミン化合物を少なくとも含有する下相とに相分離した状態で得られてもよい。分解処理液が相分離した状態であれば、ポリウレタン部由来のポリオールを回収し易く、好ましい。なお、ポリウレタン樹脂の分解物を相分離した状態で得るためには、分解剤の量や、任意で添加されるバージンポリオールの量等を適宜調整すればよい。
【0038】
回収されたポリエステル部の用途は特に限定されない。回収されたポリエステル部は、そのままリサイクルしてもよく、再生原料として利用してもよい。また、回収されたポリエステル部は、そのまま廃棄してもよい。
【0039】
2.再生ポリオールの製造方法
再生ポリオールの製造方法は、ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材を分解処理し、得られたポリオールを回収することで再生ポリオールを製造する。再生ポリオールの製造方法は、上記の(1)、(2)、及び(3)から選ばれる1種以上の分解剤を用いて、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する。
再生ポリオールの製造方法において、複合材、分解剤、複合材の分解処理の一例については、「1.ポリエステル部を回収する回収方法」の欄における「1.1 複合材」、「1.2 分解剤」、「1.3 分解処理の一例」の説明をそのまま適用し、その記載は省略する。
【0040】
再生ポリオールの製造方法は、上述のように複合材を分解処理し、得られたポリオールを回収する。回収したポリオールは、公知の手法により精製し、または、そのまま再生ポリオールとして利用できる。
【0041】
ポリオールの回収方法は特に限定されない。例えば、分解処理液を相分離した状態として、ポリオールを少なくとも含有する上相のみを回収してもよい。このようにすれば、下相内に存在するアミン化合物等と、ポリオールとを好適に分離できる。
【0042】
3.本実施形態の作用効果
本実施形態のポリエステル部を回収する回収方法及び再生ポリオールの製造方法は、ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材をそのまま分解処理することができる。従来、ポリウレタンを分解する技術と、ポリエステルを分解する技術はそれぞれ報告されているが、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解する技術は知られていない。仮に、ポリエステル部とポリウレタン部を切断等の手段によって予め分離してから、ポリウレタン部を分解処理する場合には、ポリエステル部とポリウレタン部の分離に手間が掛かる。また、ポリエステル部とポリウレタン部を、完全に分離することは困難である。他方、本実施形態によれば、ポリエステル部とポリウレタン部の分離に掛かる手間を省くことができる。
【実施例0043】
1.分解剤のスクリーニング
ポリエステル部とポリウレタン部を備えた複合材として、層状のポリエステル部と、層状のポリウレタン部と、を備えた積層体を準備した。厚さ2.5mmの積層体を、30mm×30mmに切り出してサンプルとした。
<複合材>
ロジャースイノアック製PORON、品番SR-S、厚さ2.5mm
・ポリウレタン部 ポリエーテル系ポリウレタンフォーム
・ポリエステル部 ポリエチレンテレフタレートのシート
・ポリウレタン部:ポリエステル部=8:92(質量比)
・ポリウレタン部の原料と、複合材の原料全体を100質量部とした場合の配合割合
ポリオール ポリエーテルポリオール 56質量部
イソシアネート MDI 22質量部
その他の成分 14質量部
【0044】
アルミカップの容器に、表1に記載の分解剤を入れ、ポリエステル部を上にしてサンプルを入れた。分解剤の量は、サンプル100質量部に対して50質量部とした。200℃に加温したホットプレート上に、分解剤とサンプルの入った容器を載せ、5時間静置した。その後、室温に戻し、サンプルの分解状況を目視にて確認した。
【0045】
【0046】
2.分解剤のスクリーニングの結果
分解剤を、以下の基準で目視にて評価した。その結果を表1に併記する。
<ポリウレタン部の分解性>
「分解する」:ポリウレタン部の一部又は全部が残っていない。
「分解しない」:ポリウレタン部の全部が残っている。
<ポリエステル部の分解性>
「分解する」:ポリエステル部の一部又は全部が残っていない。
「分解しない」:ポリエステル部の全部が残っている。
<評価>
「A」:ポリウレタン部の分解性とポリエステル部の分解性がともに「分解する」である。
「B」:ポリウレタン部の分解性が「分解する」であり、ポリエステル部の分解性が「分解しない」である。
「C」:ポリウレタン部の分解性とポリエステル部の分解性のいずれも「分解しない」である。
【0047】
表1に記載の分解剤のうち、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、及びジアザビシクロウンデセンの塩(DBU-フェノール塩)の評価が「A」であることが分かった。DBU及びDBU-フェノール塩は、アミジン構造を有する複素環式化合物の一例である。
【0048】
表1に記載の分解剤のうち、ジプロピレングリコールの評価が「B」であることが分かった。また、エチレングリコール、ジエチレングリコール、数平均分子量200のポリエチレングリコールの評価が「C」であることが分かった。ジプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(Mn200)は、上記の多価アルコールの一例である。
【0049】
表1に記載の分解剤のうち、アジピン酸、クエン酸一水和物、p-フェノールスルホン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、オクタン酸、リンゴ酸の評価が「B」であることが分かった。アジピン酸、クエン酸一水和物、p-フェノールスルホン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、オクタン酸、リンゴ酸は、炭素数4-10のカルボン酸の一例である。
【0050】
表1に記載の分解剤のうち、オクチル酸カリウムの評価が「A」であることが分かった。また、ビスマスカルボキシレート、ジルコニウムオクトエートの評価が「B」であることが分かった。オクチル酸カリウム、ビスマスカルボキシレート、ジルコニウムオクトエートは、炭素数2-10の飽和又は不飽和のカルボン酸の金属塩の一例である。
【0051】
表1に記載の分解剤のうち、ベンゾトリアゾール、3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)の評価が「B」であることが分かった。ベンゾトリアゾール、3-アミノ-1H-1,2,4-トリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)は、トリアゾール骨格を有する化合物の一例である。
【0052】
3.ポリエステル部の回収及び再生ポリオールの製造
本実施例では、「1.分解剤のスクリーニング」と同じ複合材を、40mm×40mmに切り出してサンプルとした。
【0053】
分解剤(1)の実施例及び比較例として、以下の成分1と成分2の混合物を準備した。各成分の質量比は、表2に記載の通りとした。
成分1:DBU
成分2:エチレングリコール
【0054】
分解剤(2)の実施例として、以下の成分1と成分2の混合物を準備した。各成分の質量比は、表2に記載の通りとした。
成分1:DBU
成分2:アジピン酸
【0055】
分解剤(3)の実施例及び比較例として、以下の成分1と成分2の混合物を準備した。各成分の質量比は、表2に記載の通りとした。
成分1:オクチル酸カリウム
成分2:2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)
【0056】
フラスコ中に表2に記載の分解剤(1)-(3)と、サンプルを入れ、210℃に昇温し、5時間加熱した。サンプル100質量部に対する各成分の量は、表2に記載の通りとした。加熱後、温度を室温に戻し、分解生成物を濾過した。残渣として、ポリエステル部を回収した。また、濾液として、褐色の分解処理液を回収した。
【0057】
【0058】
4.ポリエステル部の回収及び再生ポリオールの製造の結果
実施例及び比較例において、ポリエステル部を回収できた場合に「可」と判定し、ポリエステル部を回収できなかった場合に「不可」と判定した。その結果を表2に併記する。
【0059】
分解剤(1)のDBUとエチレングリコールの混合物では、DBUと、エチレングリコールとの質量比が1:30の場合に、「可」であった。
分解剤(2)のDBUとアジピン酸の混合物では、DBUと、アジピン酸との質量比が1:20、1:29、1:40、3.3:66のいずれの場合も、「可」であった。
分解剤(3)のオクチル酸カリウムと2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)の混合物では、オクチル酸カリウムと2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(分枝型および直鎖型)との質量比が1:2、1:1の場合に、「可」であった。
【0060】
また、判定が「可」であった実施例の分解処理液には、ポリウレタン部を分解して得られたポリオールが含まれる。すなわち、分解処理液として、再生ポリオールを製造できた。
【0061】
5.実施例の効果
本実施例によれば、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解してポリエステル部を回収する技術を提供できた。また、複合材のポリウレタン部を選択的に化学分解して再生ポリオールを製造する技術を提供できた。
【0062】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、様々な変形又は変更が可能である。