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特開2024-176679硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法および全固体電池
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  • 特開-硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法および全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176679
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20241212BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241212BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241212BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241212BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/10
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095415
(22)【出願日】2023-06-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩二
(72)【発明者】
【氏名】美藤 大輝
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ06
5H029AL07
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ15
5H029HJ20
5H050AA12
5H050BA17
5H050CB08
5H050DA13
5H050EA01
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】本開示は、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、全固体電池に用いられる硫化物固体電解質であって、
上記硫化物固体電解質は、(100-x)[yLiS・(1-y)P]・xLiBH(式中、xは、50<x<75を満たす数であり、yは、0.72≦y≦0.78を満たす数である。)で表される組成を有し、25℃におけるイオン伝導度が、5.0mS/cm以上である、硫化物固体電解質を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる硫化物固体電解質であって、
(100-x)[yLiS・(1-y)P]・xLiBH(式中、xは、50<x<75を満たす数であり、yは、0.72≦y≦0.78を満たす数である。)で表される組成を有し、
25℃におけるイオン伝導度が、5.0mS/cm以上である、硫化物固体電解質。
【請求項2】
前記イオン伝導度が、8.0mS/cm以上である、請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
CuKα線を用いたX線回折測定において、
2θ=13°以上、16°以下の範囲に1本のピークを有する、請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質の製造方法であって、
LiSおよびPを含有する混合物をメカニカルミリングして、第1硫化物ガラスを得る、第1メカニカルミリング工程と、
前記第1硫化物ガラスにLiBHを添加し、メカニカルミリングして第2硫化物ガラスを得る、第2メカニカルミリング工程と、を有し、
前記第1メカニカルミリング工程および前記第2メカニカルミリング工程において、下記数式(1)から算出される重力Gn1が6G以上となるように、それぞれの前記メカニカルミリングを行う、硫化物固体電解質の製造方法。
【数1】
(数式(1)中、rsは公転半径、rp1はメカニカルミリングにおいて使用する容器の半径、iwは自転と公転の比、πは円周率、rpmは公転の回転数を表す。)
【請求項5】
前記Gn1が15G以上である、請求項4に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記硫化物ガラスを熱処理する、熱処理工程を有し、
前記熱処理における温度が190℃以下である、請求項4に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも1つが、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質を含有する、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。全固体電池に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、LiBHとPとを、LiBH:P=x:(1-x)[式中、x=0.85超0.98以下である]のモル比で混合して混合物を得ることと、上記混合物を加熱処理することとを含む、イオン伝導体(硫化物固体電解質)の製造方法、ならびに、上記方法で製造されたイオン伝導体(硫化物固体電解質)が開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、(100-x)(0.75LiS・0.25P)・xLiBHで表される硫化物固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/103894号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mechanochemically Prepared Li2S P2S5 LiBH4 Solid Electrolytes with an Argyrodite Structure(ACS Omega 2018, 3, 5453 5458)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電池性能向上の観点から、イオン伝導性が良好な固体電解質が求められている。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質を提供することを主目的とする。
【0008】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]
全固体電池に用いられる硫化物固体電解質であって、(100-x)[yLiS・(1-y)P]・xLiBH(式中、xは、50<x<75を満たす数であり、yは、0.72≦y≦0.78を満たす数である。)で表される組成を有し、25℃におけるイオン伝導度が、5.0mS/cm以上である、硫化物固体電解質。
【0010】
[2]
上記イオン伝導度が、8.0mS/cm以上である、[1]に記載の硫化物固体電解質。
【0011】
[3]
CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13°以上、16°以下の範囲に1本のピークを有する、[1]または[2]に記載の硫化物固体電解質。
【0012】
[4]
[1]から[3]までのいずれかに記載の硫化物固体電解質の製造方法であって、LiSおよびPを含有する混合物をメカニカルミリングして、第1硫化物ガラスを得る、第1メカニカルミリング工程と、上記第1硫化物ガラスにLiBHを添加し、メカニカルミリングして第2硫化物ガラスを得る、第2メカニカルミリング工程と、を有し、上記第1メカニカルミリング工程および上記第2メカニカルミリング工程において、下記数式(1)から算出される重力Gn1が6G以上となるように、それぞれの上記メカニカルミリングを行う、硫化物固体電解質の製造方法。
【数1】
(数式(1)中、rsは公転半径、rp1はメカニカルミリングにおいて使用する容器の半径、iwは自転と公転の比、πは円周率、rpmは公転の回転数を表す。)
【0013】
[5]
上記Gn1が15G以上である、[4]に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【0014】
[6]
上記硫化物ガラスを熱処理する、熱処理工程を有し、上記熱処理における温度が190℃以下である、[4]または[5]に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【0015】
[7]
正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも1つが、[1]から[3]までのいずれかに記載の硫化物固体電解質を含有する、全固体電池。
【発明の効果】
【0016】
本開示においては、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本開示における硫化物固体電解質の製造方法を例示するフロー図である。
図2】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図3】実施例におけるイオン伝導度の測定結果を示すグラフである。
図4】実施例におけるX線回析の測定結果を示すグラフである。
図5】実施例における放電容量維持率の測定結果を示すグラフである。
図6】実施例におけるイオン伝導度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示における硫化物固体電解質、硫化物固体電解質の製造方法および全固体電池について、詳細に説明する。
【0019】
A.硫化物固体電解質
本開示における硫化物固体電解質は、全固体電池に用いられる硫化物固体電解質であって、(100-x)[yLiS・(1-y)P]・xLiBH(式中、xは、50<x<75を満たす数であり、yは、0.72≦y≦0.78を満たす数である。)で表される組成を有し、25℃におけるイオン伝導度が、5.0mS/cm以上である。
【0020】
本開示においては、所定の組成範囲において、5.0mS/cm以上のイオン伝導度を示すことから、イオン伝導性が良好な硫化物固体電解質となる。
【0021】
ここで、上記特許文献1に開示された硫化物固体電解質は、LiSを用いておらず、かつ、イオン伝導度も最大で2.0mS/cm(27℃測定)である。また、上記非特許文献1に開示されていた硫化物固体電解質のイオン伝導度は、最大で1.8mS/cm(25℃測定)である。これに対して、本開示における硫化物固体電解質は、所定の組成において、5.0mS/cm以上のイオン伝導度を示し、上述した文献の硫化物固体電解質よりも顕著にイオン伝導性が良好である。
【0022】
本開示における硫化物固体電解質は、(100-x)[yLiS・(1-y)P]・xLiBHで表される組成を有する。上記組成において、xは50より大きい数であり、52以上の数であってもよく、55以上の数であってもよく、60以上の数であってもよい。一方、xは75より小さい数であり、70以下の数であってもよく、67以下の数であってもよく、65以下の数であってもよく、63以下の数であってもよい。また、上記組成においては、yは0.72以上の数であり、0.73以上の数であってもよい。一方、yは、0.78以下の数であり、0.75以下の数であってもよい。特に、yは、後述する第1メカニカルミリング工程において、LiPS構造が主として得られる数であることが好ましい。特に、yが0.75の場合、つまり、LiSとPとの割合が、75:25の場合が好ましい。
【0023】
本開示における硫化物固体電解質は、25℃におけるイオン伝導度が、5.0mS/cm以上である。イオン伝導度は、5.3mS/cm以上であってもよく、5.5mS/cm以上であってもよく、6.0mS/cm以上であってもよく、8.0mS/cm以上であってもよく、10.0mS/cm以上であってもよい。
【0024】
本開示における硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラス(ガラスセラミックス)であってもよく、混合物に対する固相反応処理により得られる結晶質材料であってもよい。
【0025】
硫化物ガラスは、LiS、PおよびLiBHを含む混合物を非晶質処理することにより得ることができる。非晶質処理としては、例えば、メカニカルミリングが挙げられる。メカニカルミリングについては後述する。
【0026】
また、結晶化硫化物ガラスは、例えば、硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理することにより得ることができる。
【0027】
また、本開示における硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=13°以上、16°以下の範囲に1本のピークを有することが好ましい。「2θ=13°以上、16°以下の範囲に1本のピークを有する」とは、2θ=13°以上、16°以下の範囲に1つピークトップが観察されることをいう。なお、ショルダーピークが観察された場合には、ショルダーピーク自体を1本のピークと捉える。
【0028】
また、本開示における硫化物固体電解質は、全固体電池に用いられる。全固体電池については後述する。
【0029】
B.硫化物固体電解質の製造方法
図1は、本開示における硫化物固体電解質の製造方法を例示するフロー図である。図1に示すように、本開示における硫化物固体電解質の製造方法は、上述した硫化物固体電解質の製造方法であって、所定の第1メカニカルミリング工程および第2メカニカルミリング工程を少なくとも有する。
【0030】
1.第1メカニカルミリング工程
本開示における第1メカニカルミリング工程は、LiSおよびPを含有する混合物をメカニカルミリングして、第1硫化物ガラスを得る工程である。
【0031】
混合物におけるLiSおよびPの割合は、上述した硫化物固体電解質が得られれば特に限定されない。つまり、LiSとPとの割合(モル比)は、上述した組成式におけるy:1-y(0.72≦y≦0.78)である。
【0032】
また、第1メカニカルミリング工程において、下記数式(1)から算出される重力Gn1が6G以上となるように、メカニカルミリングを行う。下記数式(1)は、メカニカルミリングにおいて加える力を重力に換算する式である。なお、Gn1は、重力加速度と捉えることもできる。重力換算で6G以上となるようにメカニカルミリングすることで、LiPS骨格が良好に形成された第1硫化物ガラスを得ることができる。このような第1硫化物ガラスを用いることで、イオン伝導度が良好な硫化物固体電解質が得られる。
【0033】
【数2】
(数式(1)中、rsは公転半径、rp1はメカニカルミリングにおいて使用する容器の半径、iwは自転と公転の比、πは円周率、rpmは公転の回転数を表す。)
【0034】
数式(1)から算出されるGn1は、8G以上であってもよく、10G以上であってもよく、15G以上であってもよく、18G以上であってもよい。一方、Gn1は、例えば25G以下であり、22G以下であってもよく、20G以下であってもよい。
【0035】
第1メカニカルミリング工程におけるメカニカルミリングの時間は特に限定されず、例えば、5時間以上、24時間以下である。
【0036】
メカニカルミリングの種類は、湿式メカニカルミリングであってもよく、乾式メカニカルミリングであってもよい。また、メカニカルミリングは、例えば遊星型ボールミルなどのボールミルを挙げることができる。
【0037】
2.第2メカニカルミリング工程
本開示における第2メカニカルミリング工程は、上記第1硫化物ガラスにLiBHを添加し、メカニカルミリングして第2硫化物ガラスを得る工程である。
【0038】
第1硫化物ガラスとLiBHとの割合は、上述した硫化物固体電解質が得られれば特に限定されない。つまり、第1硫化物ガラスとLiBHとの割合(モル比)は、上述した組成式における100-x:x(50<x<75)である。
【0039】
また、第2メカニカルミリング工程において、上記数式(1)から算出される重力Gn1が6G以上となるように、メカニカルミリングを行う。数式(1)およびGn1については上記と同様である。第1メカニカルミリング工程および第2メカニカルミリング工程において、Gn1は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0040】
第2メカニカルミリング工程におけるメカニカルミリングの時間、メカニカルミリングの種類については、上述した第1メカニカルミリング工程と同様である。
【0041】
3.熱処理工程
本開示における硫化物固体電解質の製造方法は、上記硫化物ガラスを熱処理する、熱処理工程を有していてもよい。また、上記熱処理における温度は190℃以下である。
【0042】
熱処理温度が高すぎると、得られる硫化物固体電解質に異相が形成される恐れがあると推察される。一方、熱処理温度を190℃以下とすることで、異相の形成が抑制され、イオン伝導度がより良好な硫化物固体電解質(結晶性が良好な硫化物固体電解質)が得られると推察される。これは、本開示における硫化物固体電解質に用いられる水素化物(LiBH)が、400K(127℃)付近で相転移し、高温相である六方晶構造で良好なイオン伝導性を示すためと推察される。
【0043】
熱処理の温度は、例えば、50℃以上であり、75℃以上であってもよく、100℃以上であってもよい。一方、熱処理の温度は、190℃以下であり、160℃以下であってもよく、150℃以下であってもよい。
【0044】
熱処理の時間は特に限定されず、熱処理の温度に応じて適宜調整することができる。熱処理の時間は例えば、30分以上、4時間以下である。
【0045】
4.硫化物固体電解質
上述した方法で製造される硫化物固体電解質については、「A.硫化物固体電解質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0046】
C.全固体電池
本開示における硫化物固体電解質は全固体電池に用いられる。つまり、本開示においては、正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の内少なくとも1つが上述した硫化物固体電解質を含有する全固体電池、を提供することもできる。
【0047】
本開示における全固体電池は、正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層の少なくとも1つが上述した硫化物固体電解質を含有するため、放電容量維持率が良好な全固体電池となる。
【0048】
図2は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。図2に示す全固体電池10は、正極活物質層1と、負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に配置された固体電解質層3と、を有している。また、全固体電池10は、正極活物質層1の電子を集電する正極集電体4と、負極活物質層2の電子を集電する負極集電体5と、を有している。正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも1つが上述した硫化物固体電解質を含有している。
【0049】
1.正極活物質層
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくとも1つを含有することが好ましい。正極活物質、導電材およびバインダーとしては、従来公知の材料を挙げることができる。また、正極活物質層は、固体電解質として、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。
【0050】
2.負極活物質層
負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する。負極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくとも1つを含有することが好ましい。負極活物質、導電材およびバインダーとしては、従来公知の材料を挙げることができる。また、負極活物質層は、固体電解質として、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。
【0051】
3.固体活物質層
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、必要に応じてバインダーを含有していてもよい。バインダーについては上述のとおりである。また、固体電解質は上述した硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0052】
4.正極集電体および負極集電体
正極集電体および負極集電体の材料は、例えば、Al、SUS、CuおよびNiなどの従来公知の金属材料とすることができる。
【0053】
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、典型的にはリチウムイオン二次電池である。また、全固体電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0054】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0055】
[実施例1-1]
原料としてLiS(三津和化学製)およびP(メルク製)を75:25のモル比となるよう準備した。これらを乾式メカニカルミリング(ボール径5mm、容器80mL、回転数510rpm、運転時間10時間)して第1硫化物ガラス(0.75LiS・0.25P)を得た(第1メカニカルミリング工程)。第1硫化物ガラスおよびLiBHのモル比が48:52となるように、第1硫化物ガラスにLiBH(Aldrich製)を加え、これを乾式メカニカルミリング(ボール径5mm、容器80mL、回転数510rpm、運転時間15時間)した(第2メカニカルミリング工程)。これにより、48(0.75LiS・0.25P)・52LiBHの組成を有する硫化物固体電解質(第2硫化物ガラス)を得た。なお、上記組成は、(100-x)[yLiS・(1-y)P]・xLiBHにおけるx=52、y=0.75の組成に該当する。なお、メカニカルミリング装置としては、フリッチュ製の遊星型ボールミル プレミアムライン PL-7を使用した。
【0056】
ここで、上記メカニカルミリング装置において、公転半径rsは0.07mであり、容器の半径rp1は0.0240mであり、自転と公転の比iwは-2.0であった。これらの値と上記回転数とを、上記数式(1)に代入することで求められる重力Gn1は、第1メカニカルミリング工程および第2メカニカルミリング工程ともに、18Gであった。
【0057】
[実施例1-2~1-5および比較例1-1~1-7]
硫化物固体電解質の組成が下記表1の値となるよう、LiS、PおよびLiBHの割合を変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして硫化物固体電解質を作製した。
【0058】
[評価1]
(イオン伝導度の測定)
実施例1-1~1-5および比較例1-1~1-7の各硫化物固体電解質を、0.08gから0.1gの範囲で秤量し、6tの圧力でプレスしてペレット化した。そして、25℃でインピーダンス測定をした。得られた抵抗値R(Ω)、ペレットの厚みL(cm)、ペレットの底面積A(cm)を用いて、下記式からイオン伝導度(σ)を算出した。結果を図3および表1に示す。
σ=L/(RA)
【0059】
【表1】
【0060】
図3および表1に示すように、50<x<75の範囲で、イオン伝導度のピークがあり、かつ、良好なイオン伝導度(5.0ms/cm以上)を示すことが確認された。
【0061】
(X線回析測定)
実施例1-1~1-5および比較例1-1~1-7の各硫化物固体電解質を、Ar雰囲気下、室温の条件でX線回析測定を行った。装置は、リガク社製の全自動多目的X線回析装置SmartLabを用い、X線はCuKα線(λ=1.5404Å)とした。結果を図4(a)および(b)に示す。なお、図4(b)は図4(a)における実施例1-3(x=58)および比較例1-7(x=83)を抽出して拡大した図である。
【0062】
図4(a)に示すように、xが低すぎると2θ=13°以上、16°以下の範囲にピークが確認されなかった。また、図4(b)に示すように、実施例1-3では2θ=13°以上、16°以下の範囲にピークが1本であるが、比較例1-7ではショルダーを含めて2本のピークが確認された。なお、図示しないが、他の比較例においても比較例1-7と同様に2本のピークが確認された。
【0063】
(放電容量維持率の測定)
実施例1-3および比較例1-4の硫化物固体電解質を用いて、下記のように評価用電池をそれぞれ作製した。まず、硫化物固体電解質を、ヘプタンおよびジブチルエーテルの混合溶媒中でメカニカルミリングして微粒化した。次いで、100℃で2時間乾燥した。そして、球形黒鉛と35:65の体積比で混合して負極合材を作製した。負極合材、セパレータ層、対極(Li-In箔)の順に積層した。このようにして、評価用電池(負極ハーフセル)を作製した。なお、セパレータ層には、第2メカニカルミリング工程後の硫化物固体電解質(第2硫化物ガラス)を用いた。
【0064】
得られたそれぞれの評価用電池に対して、25℃で0.1CのCCCV充放電を3サイクル行った。なお、CCCV充放電において、カットオフ電圧は0.05V(Li/Li)とし、カットオフ電流は0.01Cとした。その後、充電レートを0.1~0.5Cで変化させ、放電レートを0.1Cで固定して、CC充放電を行った。なお、CC充放電におけるカットオフ電圧は0.05V(Li/Li)とした。CC充放電における容量を、初期容量で割り、放電容量維持率(%)を算出した。結果を図5に示す
【0065】
図5に示すように、充電レートが高くなるほど、実施例1-3における充放電容量が比較例1-4よりも大きくなった。特に、充電レートが0.5Cの場合には、実施例1-3は比較例1-4に比べて1.2倍容量維持率が高かった。
【0066】
[実施例2-1]
硫化物固体電解質の組成が、46(0.75LiS・0.25P)・54LiBHとなるように、LiS、PおよびLiBHの割合を変更したこと以外は、実施例1-1と同様にして硫化物固体電解質を作製した。なお、上記組成は、(100-x)[yLiS・(1-y)P]・xLiBHにおいてx=54、y=0.75の組成に該当する。
【0067】
[比較例2-1]
第1メカニカルミリング工程において、ボール径を4mmとし、回転数を280rpmとすることで、数式(1)から求められる重力Gn1を5.4Gに変更し、運転時間を45時間に変更したこと以外は、実施例2-1と同様にして硫化物固体電解質を作製した。
【0068】
[評価2]
(イオン伝導度の測定)
実施例2-1および比較例2-1の硫化物固体電解質について、評価1と同様の方法でイオン伝導度を測定した。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2に示すように、第1メカニカルミリング工程および第2メカニカルミリング工程において、Gn1が6G以上となるようにメカニカルミリングをすることで、よりイオン伝導度が良好になることが確認された。これは、LiPS骨格がより良好に形成されたためと推察される。
【0071】
[実施例3-1]
実施例1-3と同様にして、42(0.75LiS・0.25P)・58LiBHの組成を有する硫化物固体電解質(硫化物ガラス)を得た。得られた硫化物ガラスを60℃の温度で2時間加熱した。加熱後の硫化物固体電解質を評価サンプルとした。
【0072】
[実施例3-2~3-4]
熱処理温度を表3に示すように変更したこと以外は、実施例3-1と同様にして硫化物固体電解質(評価サンプル)を得た。
【0073】
[評価3]
(イオン伝導度の測定)
評価1と同様にして実施例3-1~3-4の硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定した。実施例1-3の結果と合わせて表3および図6に示す。なお、実施例1-3では熱処理をしていないと捉えることができるが、便宜上、熱処理温度は室温(25℃)と記載した。
【0074】
【表3】
【0075】
図6および表3に示すように、190℃以下の熱処理で良好なイオン伝導度が得られることが確認され、160℃以下の熱処理でイオン伝導度がより向上することが確認された。また、100℃で熱処理をした場合に最もイオン伝導度が高くなった。本開示における硫化物固体電解質に用いた水素化物(LiBH)は、400K(127℃)付近で相転移をする。LiBHは、低温相である斜方晶構造から高温相である六方晶構造に変化することでイオン伝導性が向上することが知られている。そのため、LiBHを用いた硫化物固体電解質でも、上記相転移温度付近である100℃の熱処理で最もイオン伝導度が高くなったと推察される。また、LiBHを用いた硫化物固体電解質では、100℃付近の熱処理で良好にガラスセラミックス化され、イオン伝導度が良好になったとも推察される。
【符号の説明】
【0076】
1 …正極活物質層
2 …負極活物質層
3 …固体電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …全固体電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6