(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176686
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ATP産生促進組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20241212BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20241212BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20241212BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241212BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20241212BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
A61K31/706
A61K31/122
A61K31/05
A61P43/00 111
A61P43/00 107
A61P39/06
A61P25/00
A61P43/00 105
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095426
(22)【出願日】2023-06-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年3月5日発行の日本農芸化学会2023年度(令和5年度)大会講演要旨集において公開 〔刊行物等〕 令和5年3月16日に日本農芸化学会2023年度(令和5年度)大会講演において公表 〔刊行物等〕 令和5年4月25日発行の日本ビタミン学会第75回大会プログラム・講演要旨において公開
(71)【出願人】
【識別番号】301049744
【氏名又は名称】日清ファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100231991
【弁理士】
【氏名又は名称】高原 愼太郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 圭悟
(72)【発明者】
【氏名】掛川 明希
(72)【発明者】
【氏名】安井 謙介
(72)【発明者】
【氏名】白川 仁
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雄介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB21
4C086ZB22
4C086ZC37
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA19
4C206CB27
4C206CB29
4C206KA01
4C206KA04
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZB21
4C206ZB22
4C206ZC37
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】 酸化ストレス下でのより優れたATP産生促進効果を有するNMN含有ATP産生促進組成物を提供すること。
【解決手段】 NMNおよび、CoQ10、レスベラトロール、MK-4のいずれか1つ以上を含むATP産生促進組成物。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
NMNおよび、CoQ10、レスベラトロール、MK-4のいずれか1つ以上を含むATP産生促進組成物。
【請求項2】
NMN100質量%に対してCoQ10が1~500質量%、レスベラトロールが0.05~70質量%、MK-4が0.01~150質量%である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口用である請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ミトコンドリア機能の改善によってATP産生を促進する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ミトコンドリア機能の改善が、酸化ストレスに対する保護効果である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
脳神経細胞に作用する、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ATP産生促進組成物に関する。
詳細には、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)と、コエンザイムQ10(CoQ10)、レスベラトロール、メナキノン-4(MK-4)のいずれか1つ以上を組み合わせることで、ATPの産生が相乗的に向上する、ATP産生促進組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
NMN(β-ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、生体内に広く分布する補酵素NAD+の中間代謝産物である。NAD+については、近年、老化現象に関わるサーチュイン(NAD+依存性脱アセチル化酵素)との関連が注目されている。老化に伴い細胞内のNAD+量およびサーチュイン活性は低下するが、細胞内のNAD+を増加させることで老化現象の抑制が可能であると考えられている。
また、NMNなどのNAD+中間代謝産物を生体内に補充することでサーチュインが再活性化することが知られている。そこで、NMNの持つ抗老化作用を、皮膚外用剤、化粧料、食品などの用途に利用することが検討されている。
さらに、2020年の食薬区分改正においてNMNは「非医薬品リスト」に追加されたことから、今後、健康食品、サプリメント等への利用の拡大が期待される。
【0003】
NAD+は生体内で必須の成分であり、ストレス応答、遺伝子発現、DNA修復など、体内の様々な反応に使われる。NAD+は解糖系やクエン酸回路でも補酵素として利用され、ミトコンドリアにおける電子伝達系でのATP産生にも関与している。
【0004】
特許文献1には、NMNを有効成分とする老化防止剤が示されており、生体内の活性酸素が低減することが示されている。
【0005】
特許文献2には、NMNを含む、酸化的ストレスおよびミトコンドリアストレスから細胞を保護する組成物が示されており、DNA損傷、酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全に対する細胞抵抗性の増強や、DNA修復能の改善に用いられることが示されている。
【0006】
特許文献3には、NMNおよびCoQ10、ビタミンを含むNMN含有抗酸化組成物が示されており、NMNは、体のエネルギー代謝を活性化させ、体の酸化ストレス応答を改善する役割を果たすことができ、同時に、CoQ10やビタミン等との相乗効果により、抗酸化、老化遅延、及び代謝速度の向上など優れた効果が得られることが記載されている。
【0007】
NAD+がATP産生に関与していることは知られているが(非特許文献1)、NMNが他の食品成分と協調的にはたらいてATP産生が相乗的に促進されることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2020/054795
【特許文献2】特表2021-524495号公報
【特許文献3】特開2022-54483号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ビタミンB3関連分子による生体機能調節,松岡ら,千葉科学大学紀要,Vol.13, 111-117 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、酸化ストレス下で、より優れたATP産生促進効果を示すNMN含有ATP産生促進組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、NMNおよび、CoQ10、レスベラトロール、またはMK-4を組み合わせることで、協調的にはたらいてATP産生が相乗的に促進されることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
したがって、上記の課題は、以下の組成物によって解決することができる。
(1)NMNおよび、CoQ10、レスベラトロール、MK-4のいずれか1つ以上を含むATP産生促進組成物。
(2)NMN100質量%に対してCoQ10が1~500質量%、レスベラトロールが0.05~70質量%、MK-4が0.01~150質量%である、(1)に記載の組成物。
(3)経口用である、(1)または(2)に記載の組成物。
(4)ミトコンドリア機能の改善によってATP産生を促進する、(1)~(3)に記載の組成物。
(5)前記ミトコンドリア機能の改善が、酸化ストレスに対する保護効果である、(1)~(4)に記載の組成物。
(6)脳神経細胞に作用する、(1)~(5)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、酸化ストレス下で、より優れたATP産生促進効果を示すNMN含有ATP産生促進組成物を提供することができる。
【0014】
本発明のATP産生促進組成物のNMNが、健康食品成分であるCoQ10やレスベラトロール、MK-4と協調的にはたらいてATP産生が相乗的に促進されると、より高いエネルギー産生の促進が期待され、加齢に伴うエネルギー産生の低下などが抑制されることで、老化現象の抑制に繋がる。
【0015】
本発明の主要成分であるNMNは市場価格が高く、より安価なCoQ10やレスベラトロール、MK-4と組み合わせることによってNMNの使用量を少なくし、コスト面で利用しやすくすることには、産業上、大きな意義がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】NMNおよびCoQ10を併用した効果を示す。
【
図2】NMNおよびレスベラトロールを併用した効果を示す。
【
図3】NMNおよびMK-4を併用した効果を示す。
【
図4】NMNおよびMK-4、CoQ10またはレスベラトロールを併用した場合の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の組成物には、NMNおよび、CoQ10、レスベラトロール、MK-4のいずれか1つ以上が含まれる。
【0018】
(NMN)
本発明で使用するβ-ニコチンアミドモノヌクレオチドとしては、特に制限はないが、市販されている様々な製品を用いることもできる。市販品としては、例えば、洛陽華栄生物技術有限公司製の製品や、SyncoZymes製の製品等を挙げることができる。
本発明のATP産生促進組成物中のNMNの含有量は特に制限はないが、好ましくは1~80質量%、より好ましくは6~60質量%である。1質量%より少ないと所望の効果のために多量摂取が必要となり好ましくなく、80質量%を超えると粉末を扱うときに流動性が悪くなる等のため、製造の歩留まりが悪くなるので好ましくない。
【0019】
(CoQ10)
コエンザイムQ10は、ユビデカレノンまたは補酵素Q10とも呼ばれ、高等動物に存在する補酵素の1種である。コエンザイムQ10は、補酵素として生物活性をもつだけでなく、エネルギー産生や抗酸化等の作用を有することが知られている。
本発明で用いられるコエンザイムQ10としては、生体から抽出されたものや、合成法で製造されたもの、発酵法で製造されたもの等、公知の手段で得られたものが特に制限なく利用できる。また、コエンザイムQ10は生体内に吸収されると還元型に変換されることから、本発明で用いられるコエンザイムQ10は、還元型であってもよい。
本発明のATP産生促進組成物中のコエンザイムQ10の含有量は特に制限はないが、好ましくは1~50質量%、より好ましくは2~20質量%である。
【0020】
(レスベラトロール)
本発明のレスベラトロールとしては、スチルベノイド(スチルベン誘導体)ポリフェノールの一種であり、系統名が3,5,4’-トリヒドロキシ-trans-スチルベンである。レスベラトロールは、赤ブドウの果皮や赤ワインに含まれる抗酸化物質として知られる。本発明の組成物においては、植物や食品から抽出したものや、合成法で製造されたもの等、公知の手段で得られたものが特に制限なく利用できる。
本発明のATP産生促進組成物中のレスベラトロールの含有量は、特に制限はないが、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは0.3~30質量%である。
【0021】
(MK-4)
メナキノン-4(MK-4)はビタミンKの1種で、動物性食品に広く分布しており、高い血液凝固活性を有することが知られている。
本発明の組成物においては、動植物組織から抽出したものや、合成法で製造されたもの等、公知の手段で得られたものが特に制限なく利用できる。
本発明のATP産生促進組成物中のMK-4の含有量は特に制限はないが、好ましくは0.0001~10質量%、より好ましくは0.0003~3質量%である。
【0022】
本発明のATP産生促進組成物中の有効成分量は、それぞれNMN100質量%に対してCoQ10が1~500質量%、レスベラトロールが0.05~70質量%、MK-4が0.01~150質量%であることが好ましく、CoQ10が2~50質量%、レスベラトロールが0.3~10質量%、MK-4が0.1~15質量%であることがより好ましい。
【0023】
(酸化ストレス)
本明細書において酸化ストレスとは、フリーラジカル(スーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素など)等の活性酸素種に起因して、細胞や個体に障害を与えることを指す。酸化ストレスは、生体内で生じる分子(タンパク質、脂質、DNAなど)レベルでの異常の蓄積による生体機能の低下と密接に関係しており、様々な疾患に関与していることが知られている。
【0024】
(酸化ストレス下におけるATP産生促進作用から期待される効果、用途)
ミトコンドリアにはクエン酸回路や電子伝達系、ATP産生酵素、ヘム合成や脂肪酸酸化、尿素サイクルがあり、エネルギー代謝を中心とする重要な生化学系が多く存在する。加齢によりミトコンドリアの活性酸素産生が増すことが知られており、ミトコンドリアの酸化的傷害はさらにミトコンドリアの活性酸素生成を増し、傷害速度が加速される。
電子伝達系で産生されるATPは、生体内のエネルギーとして重要であるが、加齢などに起因する酸化ストレスによりミトコンドリアが傷害を受けると、ATP産生に悪影響を及ぼすことが考えられる。
酸化ストレス下においてもATP産生を促進することで、加齢に伴う生体の機能低下の抑制に繋がることが期待される。
【0025】
(脳神経細胞に対する作用から期待される効果、用途)
認知症は脳細胞の機能不全や脳細胞数の低下によっておこるが、実際には神経細胞死による脳細胞数の低下により引き起こされることが多いと言われている。また、フリーラジカルの関与が明らかな病態として筋委縮性側索硬化症(ALS)が知られている。
本発明のATP産生促進組成物の脳神経細胞に対する作用によって、脳細胞の機能不全や脳細胞数の低下の抑制に繋がることが期待される。
【実施例0026】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1~8)
(マウス海馬由来神経細胞HT-22の酸化ストレス下におけるATP産生量測定)
マウス海馬由来神経細胞HT-22はSigma-Aldrich社より入手した。96ウェルプレートにHT-22細胞1.25×104 cells/mLを200μLずつ播種して、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下、ウシ胎児血清(10%)、抗生物質(100 U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン)を含むDMEM培地 (Sigma)で18時間培養した。培地を除去後、NMNを終濃度0、10、100、1000 μM、CoQ10を終濃度0、9、18 μMとなるように培地を調製した(実施例1および2)。同様に、NMNを終濃度0、10、100、1000 μM、レスベラトロール(東京化成工業株式会社)を終濃度0、1、5、10 μM(実施例3~5)、またはNMNを終濃度0、10、100、1000 μM、MK-4を終濃度0、0.1、1、10 μM(実施例6~8)となるように培地を調製した。各培地をそれぞれ200 μL/wellで添加し、24時間培養後、各wellに過酸化水素200μMとなるように調製した培地を20μLずつ添加した。1時間培養後、Intracellular ATP測定キット ver.2(東洋ビーネット株式会社)を用いて細胞内のATP量を定量した。
また、Lowry法により細胞内の蛋白質量を定量した。被験物質と過酸化水素を添加しないwellをコントロールとし、得られた定量値から単位蛋白質量当たりのATP量を算出し、コントロールを1とした相対比を求めた。
【0028】
【0029】
(実施例9~11)
(マウス海馬由来神経細胞HT-22の酸化ストレス下におけるミトコンドリア内酸化ストレス評価)
ミトコンドリア内酸化ストレス評価には、MitoSOX (Invitrogen)をDMSOに溶解後DMEM培地で希釈して5μMに調製して用いた。
6ウェルプレート にHT-22細胞3.2×104cells/mLを200μLずつ播種して、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下、ウシ胎児血清(10%)、抗生物質(100
U/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン)を含むDMEM培地 (S
igma)で18時間培養した。培地を除去後、NMNを終濃度10または100μM、CoQ10を終濃度9μM、MK-4を終濃度1μM、レスベラトロールを終濃度1μMとなるように調製した培地をそれぞれ2μL/wellで添加した。24時間培養後、各wellに過酸化水素200μMとなるように調製した培地を200μLずつ添加して、1時間培養後、トリプシン処理により細胞を回収、PBSで洗浄後、細胞をPBSに懸濁して96wellU字型プレートに移した。遠心分離して上清を除去した後、調製した染色試薬を各wellに100μL添加して、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下、遮光して15分間染色した。染色後の細胞を回収して、フローサイトメーター(BD AccuriTM C6 Plus、BD Biosciences)にてPEの条件でミトコンドリアのスーパーオキシド量を測定した。
【0030】
本発明のATP産生促進組成物は、NMNとCoQ10、レスベラトロール、またはMK-4との相乗効果によって、NMN単独の場合と比較してより優れたATP産生促進効果を有することを確認した。また、本発明のATP産生促進組成物により、細胞中のミトコンドリアのスーパーオキシド量が減少していることから、本発明の組成物のATP産生促進効果は、ミトコンドリア機能が改善されることが大きな役割を果たしているものと推定される。
【0031】
本発明の組成物により、酸化ストレス下でより優れたATP産生促進効果を有するNMN含有ATP産生促進組成物を提供することができるため、食品、健康食品、医薬品等において、極めて利用性が高いものである。