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特開2024-176702鋼の連続鋳造用モールドパウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176702
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造用モールドパウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20241212BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B22D11/108 F
C21C7/076 P
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095452
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲韋▼
(72)【発明者】
【氏名】中谷 枝里香
【テーマコード(参考)】
4E004
4K013
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4K013EA01
4K013EA03
4K013EA04
(57)【要約】
【課題】 ZrO源の原料が限られた時間内で溶融スラグに溶解し、浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中のZrO系介在物を生じさせず、事前の溶融処理が不要なモールドパウダーを提供することである。
【解決手段】 モールドパウダーは、ZrO源の原料としてCaZrSi原料を含有する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO源の原料としてCaZrSi原料を含有することを特徴とするモールドパウダー。
【請求項2】
請求項1に記載のモールドパウダーにおいて、
前記CaZrSi原料の含有量が、前記モールドパウダーの、前記ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO換算で1~15質量部であることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のモールドパウダーを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造用モールドパウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、タンディッシュに貯留された溶鋼を、浸漬ノズルを介してモールドに流し込んで冷却、凝固させながら、凝固したシェル(凝固シェル)をロールによりモールドの下方に連続的に引き抜くことにより、スラブ、ブルーム、ビレット等の各種形状の鋳片を連続的に製造する。モールド内の溶鋼の表面には粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが散布され、浸漬ノズルの先端はモールド内の溶鋼中に挿入される。
【0003】
モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融(以下、溶融状態のモールドパウダーを「溶融スラグ」という)して溶鋼の表面を覆い、溶融スラグは凝固シェルとモールドの間に流入して消費される。散布から消費までの間のモールドパウダーの主な役割は、(1)溶鋼表面の保温及び酸化防止、(2)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)凝固シェルとモールドの間の潤滑の保持、(4)凝固シェルからモールドへの熱流束の制御等である。
【0004】
モールドパウダーの主成分はCaO-SiO系であり、必要に応じてNaO、LiO、KO、Al、MgO、CaF等の副成分を含有する。使用前のモールドパウダーは一般に複数の原料の混合物であり、CaO-SiO源の原料としては、例えば、珪灰石、CaO源の原料としては、例えば、石灰石、セメント、SiO源の原料としては、例えば、珪砂、珪藻土、NaO源の原料としては、例えば、ソーダ灰、炭酸ナトリウム、LiO源の原料としては、例えば、炭酸リチウム、Al源の原料としては、例えば、アルミナクリンカ、MgO源の原料としては、例えば、マグネシアクリンカ、F源の原料としては、例えば、蛍石、フッ化ナトリウムが用いられる。
【0005】
浸漬ノズルの主な役割は、タンディッシュに貯留された溶鋼をモールドに流し込む際の大気による酸化の防止、溶鋼流量の制御、モールド内の溶鋼の流れの制御等である。浸漬ノズルの先端はモールド内の溶鋼中に挿入され、溶鋼表面は溶融スラグで覆われるため、浸漬ノズルの中間部分は溶融スラグと接触する(パウダーライン)。浸漬ノズルの材料は、通常、本体にはアルミナ-カーボン質材料が用いられ、パウダーライン付近には溶融スラグに対する耐食性が比較的高いジルコニア-カーボン質材料が用いられる。このジルコニア-カーボン質材料の溶損速度が浸漬ノズルの使用寿命や交換頻度を決めるため、連続鋳造の生産性に大きな影響を与える。そこで、ジルコニア-カーボン質材料の溶損速度を抑制し、浸漬ノズルの使用寿命をより向上させる等の目的で、ZrOを含有するモールドパウダーが提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、フラックス基材及び溶融性状調整材を選択的に加えた定常鋳造用の添加剤にジルコニア0.5~15wt%を含有せしめたことを特徴とする連続鋳造用鋳型添加剤が提案されている。また、特許文献2には、sol.Al 0.002%以下のSi脱酸溶鋼を、ジルコニア又はジルコン含有材質よりなる浸漬ノズルもしくはスラグラインにこれらの材質を有するノズルで連続鋳造を行なう際に用いる鋳型添加剤であって、フラックス成分及び溶融性状調整材を選択的に加えた定常鋳造用の鋳型添加剤にZrO成分を2~6重量%含有させ、かつ事前に全体を溶融処理した基材と溶融速度調整用の炭素粉末等の骨材を混合して用いる連続鋳造用鋳型添加剤が提案されている。ZrO源の原料としては、バデライト、ジルコンサンドが用いられ、連続鋳造用鋳型添加剤としては、ZrO含有の事前溶融品及び若干のNaFを添加して粘度を調整したZrO含有の事前溶融品が用いられる。さらに、特許文献3には、CaO、SiO及びフッ素化合物を基本成分とし、0~10質量%のZrOを含有するモールドパウダーが提案されている。ZrO源の原料としては、ジルコンサンドが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57-41862号公報
【特許文献2】特開平5-57411号公報
【特許文献3】特開2001-179408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、モールドパウダーのZrO源の原料としてバデライト又はジルコンサンドを用いる場合、それらは溶融スラグへの溶解速度が遅く、限られた時間内で溶融スラグに溶解しきれないことが多い。この場合、溶融スラグ中のZrOの含有量が不足し、浸漬ノズルの溶損抑制効果は低下する。また、未溶解のバデライト及びジルコンサンドは密度が溶融スラグより顕著に高いため、溶融スラグの下方に沈降して溶鋼に取り込まれ、鋼中のZrO系介在物になることがある。これらの問題は、モールドの厚さが100mm以下の薄スラブの連続鋳造で特に生じやすい。これは、薄スラブの連続鋳造では、スラブの厚さ方向のモールドの寸法が小さく、さらに鋳造速度が2.0m/分以上と高速であるため、溶鋼湯面上の溶融スラグの滞在時間が短く、バデライト及びジルコンサンドの溶解時間が不足するためと考えられる。
【0009】
一方、特許文献2で提案されたZrO含有の事前溶融品は、工業規模で製造すると、溶融のための工程や燃料が必要であり、コストが上昇する。また、バデライト及びジルコンサンドは、未溶解のまま事前溶融品に残留することがある。さらに、バデライト及びジルコンサンドは密度が溶融スラグより高いため、溶融処理中に溶融スラグの下方へ沈降し、事前溶融品のZrO濃度は下方が高く、上方が低いという、ZrOの偏析という問題が生じることもある。したがって、事前溶融品の実用は実質的に困難である。
【0010】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、ZrO源の原料が限られた時間内で溶融スラグに溶解し、浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中のZrO系介在物を生じさせず、事前の溶融処理が不要なモールドパウダー及びそれを用いた鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本開示の一の態様は、
ZrO源の原料としてCaZrSi原料を含有することを特徴とするモールドパウダーに関する。CaZrSi原料は溶融スラグへの溶解が速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、このモールドパウダーは浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO系介在物を生じさせない。したがって、モールドパウダーの事前の溶融処理も不要である。
【0012】
(2)本開示の一の態様では、
前記CaZrSi原料の含有量が、前記モールドパウダーの、前記ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO換算で1~15質量部であることが好ましい。CaZrSi原料の含有量が、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO換算で1質量部以上の場合、浸漬ノズルの溶損抑制効果が顕著であり、15質量部以下の場合、潤滑性等のモールドパウダーの役割を十分に発揮することができる。なお、「モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算」とは、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分を溶融して得られる溶融スラグを想定したものであり、ZrO源の原料から供給される成分(例えば、CaZrSi原料のCaO、ZrO、SiO等)の他、溶融時に消失する成分(例えば、滓化速度調整のための炭素原料、石灰石に含まれるCO等)は含まれない。
【0013】
(3)本開示の他の態様は、
本開示の一の態様のモールドパウダーを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法に関する。CaZrSi原料は溶融スラグへの溶解が速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、このモールドパウダーは浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO系介在物を生じさせない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0015】
<モールドパウダー>
本実施形態のモールドパウダーは、ZrO源の原料としてCaZrSi原料を含有する。CaZrSi原料は、後述する実施例に詳しく示されるように、溶融スラグへの溶解がバデライト、ジルコンサンドと比べて顕著に速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、このモールドパウダーは浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO系介在物を生じさせない。したがって、モールドパウダーの事前の溶融処理も不要である。これは、CaZrSi原料中のCaイオンとSiイオンの溶融スラグへの拡散が非常に速いことにより、Zrイオンの拡散も促進されるためと考えられる。本実施形態のモールドパウダーは、好ましくはZrO源の主原料としてCaZrSi原料を含有し、より好ましくはZrO源の原料がCaZrSi原料からなる。
【0016】
CaZrSi原料は、結晶相がCaZrSiの鉱物を主成分として含有し、好ましくは当該鉱物からなる。当該鉱物の化学組成は化学量論組成、即ち、CaO:40.9質量%、ZrO:29.9質量%、SiO:29.2質量%が好ましく、CaO、ZrO、SiOの各成分は化学量論組成から最大5質量%ずれていてもよい。また、当該鉱物は、CaO、ZrO、SiO以外の成分(例えば、MgO、Al、TiO、Fe、Cr等)が合計3質量%以下固溶していてもよい。CaZrSi原料は、工業原料として合計8質量%以下の不純物を含有してもよい。不純物はCaZrSiの鉱物内に存在してもよいし、他の鉱物としてモールドパウダーに存在してもよい。CaZrSi原料は、CaO源、ZrO源、SiO源等の原料を出発原料として、焼結又は電融によって製造することができる。
【0017】
CaZrSi原料の含有量は、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO換算で1~15質量部であることが好ましい。CaZrSi原料の含有量が、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO換算で1質量部以上の場合、浸漬ノズルの溶損抑制効果が顕著であり、15質量部以下の場合、潤滑性等のモールドパウダーの役割を十分に発揮することができる。なお、「モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算」とは、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分を溶融して得られる溶融スラグを想定したものであり、ZrO源の原料から供給される成分(例えば、CaZrSi原料のCaO、ZrO、SiO等)の他、溶融時に消失する成分(例えば、滓化速度調整のための炭素原料、石灰石に含まれるCO等)は含まれない。
【0018】
CaZrSi原料の粒径は、常用のモールドパウダーの粒径(例えば、150μm以下)と同程度でよい。
【0019】
本実施形態のモールドパウダーは、CaZrSi原料以外の原料として、慣用のものを用いることができる。CaO-SiO源の原料としては、例えば、珪灰石、CaO源の原料としては、例えば、石灰石、セメント、SiO源の原料としては、例えば、珪砂、珪藻土、NaO源の原料としては、例えば、ソーダ灰、炭酸ナトリウム、LiO源の原料としては、例えば、炭酸リチウム、Al源の原料としては、例えば、アルミナクリンカ、MgO源の原料としては、例えば、マグネシアクリンカ、F源の原料としては、例えば、蛍石、フッ化ソーダ等を用いることができる。モールドパウダーの滓化速度の調整のために炭素原料、例えば、カーボンブラック、コークス粉、黒鉛等を必要に応じて添加してもよい。
【0020】
本実施形態のモールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算のCaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)(塩基度)は特に限定されず、例えば、0.5~1.5が好ましい。なお、質量比(CaO/SiO)のCaOは、CaFから換算されるCaOを含まない。また、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分に含まれるフッ素(F)はすべてCaFに換算し、CaF以外のフッ化物はその酸化物に換算する。例えば、NaFを含有する場合、NaFのFはCaFに換算し、NaはNaOに換算する。
【0021】
モールドパウダーや溶融スラグの成分分析は、例えば、次のように行う。即ち、複数の原料の混合物であるモールドパウダーから所定量のサンプルを採取し、1300℃以上に加熱、溶融して溶融スラグにし、所定時間保持後、急冷する。急冷された溶融スラグに対し、慣用の分析方法、例えば、化学分析、X線回析及び電子顕微鏡分析(EPMA分析等)にて成分分析を行う。CaZrSi原料の成分分析も同様に行う。
【0022】
本実施形態のモールドパウダーの形態は特に限定されず、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等が挙げられる。
【0023】
<鋼の連続鋳造方法>
本実施形態の鋼の連続鋳造方法は、本実施形態のモールドパウダーを用いる。CaZrSi原料は溶融スラグへの溶解が速く、連続鋳造中に完全に溶解するため、このモールドパウダーは浸漬ノズルの溶損を有効に抑制すると同時に、鋼中にZrO系介在物を生じさせない。本実施形態のモールドパウダーは、モールドの厚さが100mm以下、鋳造速度が2.0m/分以上の薄スラブの連続鋳造に特に好適である。
【実施例0024】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0025】
<ZrO溶解量の測定方法>
下記実施例1~2について、ZrOの溶融スラグへの溶解量を次のようにして測定した。
【0026】
内径20mmの白金ルツボの底部にZrO換算で1.5gのZrO源の原料を均一に散布し、その上に30gの溶融スラグを形成するモールドパウダー(「モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算」に相当)を載せた。このセットを電気炉に入れ、1450℃まで昇温し、10分間保持後、溶融スラグの表面の一部を白金スプーンにてサンプルとして採取した。冷却後のサンプルを粉砕し、ZrO含有量の化学分析を行った。ZrO含有量が多いほど、ZrO源の原料の溶融スラグへの溶解速度が速いと判断できる。なお、ZrO源を除いたモールドパウダーから形成される溶融スラグの成分分析は事前に行った。
【0027】
[実施例1]
ZrO源の原料によるZrOの溶融スラグへの溶解量の違いを上記ZrO溶解量の測定方法で評価した。即ち、本発明品1ではZrO源の原料としてCaZrSi原料を用い、比較品1、2ではZrO源の原料としてそれぞれバデライト(ZrO)とジルコン(ZrSiO)を用いた。いずれの原料も純度が99.0質量%以上(ZrO、CaO、SiO以外の不純物成分が合計で1.0質量%以下)の高純度品で、粒径が5μm以下のものを用いた。CaZrSi原料及びジルコンの化学組成は、不純物成分を除くといずれも化学量論組成とほぼ同じであった(本発明品1のCaZrSi原料を高純度品Aと称する)。即ち、CaZrSiとジルコンの化学量論組成は、それぞれCaO:40.9質量%、ZrO:29.9質量%、SiO:29.2質量%と、ZrO:67.2質量%、SiO:32.8質量%である。高純度品Aは5.0g、バデライトは1.5g、ジルコンは2.2gを用いた。これはZrO換算で1.5g(モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO換算で5質量部)に相当する。モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成はいずれも同じにした。本発明品1と比較品1、2に用いたZrO源の原料と、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成と、溶融スラグサンプルのZrO含有量を表1に示す。
【表1】
【0028】
溶融スラグサンプルのZrO含有量は、比較品1のバデライトが0.8質量%、比較品2のジルコンが1.2質量%であったのに対し、本発明品1のCaZrSi原料では4.6質量%であり、本発明品1はZrO源の溶解速度が顕著に速かった。これは、ジルコン酸カルシウム中のCaイオンの溶融スラグへの拡散が非常に速いことにより、Zrイオンの拡散も促進されるためと考えられる。
【0029】
[実施例2]
CaZrSi原料の化学組成によるZrOの溶融スラグへの溶解量の違いを上記ZrO溶解量の測定方法で評価した。即ち、CaZrSi原料の、ZrO、CaO、SiO以外の不純物成分を除いた化学組成は、本発明品2では本発明品1の高純度品Aと同じにし、本発明品3ではZrO:25.8質量%、CaO:41.7質量%、SiO:32.5質量%(高純度品B)にし、本発明品4ではZrO:34.0質量%、CaO:41.2質量%、SiO:24.8質量%(高純度品C)にした。本発明品3、4のCaZrSi原料の、化学量論組成からのずれは±5質量%以内である。本発明品2~4いずれも、CaZrSi原料を除いた部分のモールドパウダーから形成される溶融スラグは30g、CaZrSi原料は5.0gを用いた。本発明品2~4のZrO換算含有量は、それぞれ1.5g、1.3g、1.7gである。モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成はいずれも同じにした。本発明品2~4に用いたZrO源の原料と、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成と、溶融スラグサンプルのZrO含有量を表2に示す。
【表2】
【0030】
溶融スラグサンプルのZrO含有量は、高純度品Aでは4.4質量%、高純度品Bでは4.2質量%、高純度品Cでは4.3質量%に達し、本発明品2~4はいずれもZrO源の溶解速度が顕著に速かった。
【0031】
[実施例3]
本開示のモールドパウダーを用いて鋼の連続鋳造を行い、浸漬ノズルの溶損速度と鋳片表面を評価した。モールドは厚さ75mm、幅1850mmの薄スラブ用を用い、鋳造速度は4.8m/分、鋳造時間は120分にした。ZrO源の原料として、本発明品5では純度95質量%以上のCaZrSi原料を用い、比較品3では純度99質量%以上のジルコンサンドを用いた。本発明品5と比較品3のZrO源の原料の含有量は、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算100質量部に対し、ZrO換算でいずれも5.0質量部にした。発明品5と比較品3の粒径は50μm以下であった。本発明品5と比較品3に用いたZrO源の原料と、モールドパウダーの、ZrO源の原料を除いた部分から形成される溶融スラグ換算の化学組成と、浸漬ノズルの溶損速度と、鋳片表面の観察結果を表3に示す。
【表3】
【0032】
比較品3のモールドパウダーを用いた場合、浸漬ノズルのパウダーラインの溶損速度はノズル内径方向で0.17mm/分であり、鋳片表面にZrO系介在物が認められた。一方、本発明品5のモールドパウダーを用いた場合、浸漬ノズルのパウダーラインの溶損速度はノズル内径方向で0.02mm/分であり、鋳片表面にZrO系介在物は認められなかった。
【0033】
本開示のモールドパウダーを用いると、浸漬ノズルの溶損速度が顕著に遅いため、浸漬ノズルの使用寿命が長くなり、交換頻度が減少し、連続鋳造の生産性が向上する。同時に、鋳片表面にZrO系介在物を生じさせないため、鋳片品質にも優れる。このように、本開示のモールドパウダーの顕著な優位性が実証された。本開示のモールドパウダーは、モールドの厚さが100mm以下、鋳造速度が2.0m/分以上の薄スラブの連続鋳造に特に好適である。
【0034】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語とともに記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。