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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176736
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】アーモンドアレルゲンの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241212BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
G01N33/53 Q
G01N33/48 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095508
(22)【出願日】2023-06-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年8月24日に「日本食品科学工学会第69回大会講演集」(ウェブサイト)にて公開 (2)令和4年8月24日に「日本食品科学工学会第69回大会」の口頭発表(ZOOMオンライン)にて公開 (3)令和4年10月20日に「日本食品衛生学会第118回学術講演会講演要旨集」にて公開 (4)令和4年11月10日に「日本食品衛生学会第118回学術講演会」にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】大黒 そのみ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 重城
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045BB03
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
【課題】食品等の被検試料から、他の木の実類等との交差反応性を示すことなく、試料中のアーモンドアレルゲンを低い濃度においても検出できる手段を提供すること
【解決手段】アーモンド11Sグロブリンに結合し、アーモンド以外の種実類等の11Sグロブリンに結合しない2種類のモノクローナル抗体を使用することにより、アーモンドを精度よく検出することができることを確認した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲン測定サンプルから、固相化モノクローナル抗体と標識化モノクローナル抗体を用いるサンドイッチELISA法によりアレルゲンを検出する方法であって、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とするサンドイッチELISAによるアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項2】
抽出液が、以下の界面活性剤の1種又は2種以上を含有する抽出液であることを特徴とする請求項1記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
・ラウレス-5カルボン酸ナトリウム
・ココアンホ酢酸ナトリウム
・ココイルグリシンナトリウム
・ラウレス-4
・ヤシ脂肪酸カリウム
・N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム
・PEG-3ヤシ脂肪酸アミド
・ラウラミノプロピオン酸ナトリウム
・ラウリルグルコシド
・イソステアリン酸PEG-8グリセリル
・オレス-2
【請求項3】
抽出液が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、及びチオ硫酸ナトリウムをさらに含むことを特徴とする、請求項2記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項4】
アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて加熱抽出されることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項5】
アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて非加熱抽出されることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項6】
固相化抗体がモノクローナル抗体PDAM3であり、標識化モノクローナル抗体がモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とする請求項1~3いずれか記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項7】
アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM3と、PDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM4とを含む、アーモンドアレルゲンをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
【請求項8】
さらに、以下の界面活性剤の1種又は2種以上を含有する抽出液を含むことを特徴とする請求項7記載のキット。
・ラウレス-5カルボン酸ナトリウム
・ココアンホ酢酸ナトリウム
・ココイルグリシンナトリウム
・ラウレス-4
・ヤシ脂肪酸カリウム
・N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム
・PEG-3ヤシ脂肪酸アミド
・ラウラミノプロピオン酸ナトリウム
・ラウリルグルコシド
・イソステアリン酸PEG-8グリセリル
・オレス-2
【請求項9】
抽出液が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、チオ硫酸ナトリウム及び/又は2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンと5-クロロ-2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンの混合物をさらに含むことを特徴とする、請求項7又は8記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
【請求項10】
アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出溶液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とするイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項11】
抽出溶液が、SDS、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、及びチオ硫酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項10記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項12】
アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出溶液を用いて加熱抽出したことを特徴とする請求項10又は11記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項13】
アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出溶液を用いて非加熱抽出したことを特徴とする請求項10又は11記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項14】
アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とするアーモンドアレルゲンの検出キット。
【請求項15】
SDS、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、及びチオ硫酸ナトリウムを含む抽出溶液をさらに含むことを特徴とする請求項14記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
【請求項16】
ハイブリドーマ(NITE P-03854)が産生するPDAM3モノクローナル抗体。
【請求項17】
ハイブリドーマ(NITE P-03855)が産生するPDAM4モノクローナル抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーモンドアレルゲンを検出する方法やキットに関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境の減少、車や工場などからの排気ガス、住宅事情等、或いは食べ物の変化など様々な要因により、現在では、3人に1人が何らかのアレルギー疾患をもつといわれている。特に、食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、「食物アレルゲン」という)の摂取が原因となる有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こすことが知られている。これらの症状は死に至ることもあることから、卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そばの7品目が特定原材料として、容器包装された加工食品で表示が義務づけられている。また、アーモンド、アワビ、イカ、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、クルミ、ごま、さけ、サバ、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マツタケ、モモ、ヤマイモ、リンゴ、ゼラチンの21品目が、特定原材料に準ずるものとして、できるだけ表示することが推奨されている。
【0003】
上記の食物アレルゲンを迅速かつ簡易に検出するため、抗原抗体反応を利用して特定の抗原又は抗体よりなる被検出物質を検出する免疫測定法が広く用いられており、試料中の被検出物質に、蛍光物質等からなる標識物質により標識された抗体又は抗原を免疫反応により結合させ、結合した標識物質を測定する免疫測定法が採用されている。これらの免疫測定法では、競合型反応、サンドイッチ型反応が広く用いられており、サンドイッチ型反応を利用したイムノクロマトグラフィー法(例えば、特許文献1参照)等によるアレルゲン検出方法が提案されている。
【0004】
一方、アーモンド(Prunus dulcis)は、種実類の一種であって、50質量%以上の脂質を含み、その約7割は、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸であり、さらにビタミンEやビタミンBを多く含むとされる。近年、菓子類等への使用や、乳糖やコレステロールを略含まないアーモンド飲料の生産が増えており、今後のアーモンドによるアレルギー発症者の増加を見越して、2019年に特定原材料に準ずるものとして、新たにアーモンドが追加された。そのため、原料、食品、食品製造装置、食品包装等に意図せず混入したアーモンドを検出し、また食品表示との整合性を確認するために、アーモンドについての適切な検出手段が求められている。
【0005】
現在、市販されているアーモンドアレルゲン検出用キット「AlerTox Sticks Kit(登録商標)アーモンド(KIT3030)」(ハイジエナダイアグノスティカエスパーナ社製)は、イムノクロマト法によるキットであるが、検出限界は20ppmにすぎない。また、NEOGEN社のReveal3-Dアーモンドキットも市販されているが、取扱説明書には拭い液や洗浄液からアーモンド成分をスクリーニングできるようにデザインされている旨明示されており、食品中のアーモンド成分の検出には必ずしも適切ではない。
【0006】
他方、アーモンド検出用PCRプライマーセット等を用いるアーモンド、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ及びブラジルナッツの同時PCR検出方法が(例えば、特許文献2等参照)が提案されているが、PCR等の操作が必要であり判定までに時間がかかると考えられ、また、アーモンドのみを検出する方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-010950号公報
【特許文献2】特開2022-160499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、食品等の被検試料から、他の木の実類等との交差反応性を示すことなく、試料中のアーモンドアレルゲンをより低い濃度で精確に検出できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アーモンドアレルゲンをイムノクロマト法及び/又はサンドイッチELISAにより検出するために適当な2種類のモノクローナル抗体を特定した。さらに、かかる2種類のモノクローナル抗体を使用するサンドイッチELISA法において、より感度良くアーモンドアレルゲンを定量的に検出するために検討を続け、測定サンプルを調製するために適切な抽出液を使用することにより、より高感度で定量できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲン測定サンプルから、固相化モノクローナル抗体と標識化モノクローナル抗体を用いるサンドイッチELISA法によりアレルゲンを検出する方法であって、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とするサンドイッチELISAによるアーモンドアレルゲンの検出方法。
[2]抽出液が、以下の界面活性剤の1種又は2種以上を含有する抽出液であることを特徴とする上記[1]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
・ラウレス-5カルボン酸ナトリウム
・ココアンホ酢酸ナトリウム
・ココイルグリシンナトリウム
・ラウレス-4
・ヤシ脂肪酸カリウム
・N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム
・PEG-3ヤシ脂肪酸アミド
・ラウラミノプロピオン酸ナトリウム
・ラウリルグルコシド
・イソステアリン酸PEG-8グリセリル
・オレス-2
[3]抽出液が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、及びチオ硫酸ナトリウムをさらに含むことを特徴とする、上記[2]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[4]アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて加熱抽出されることを特徴とする上記[1]~[3]いずれか記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[5]アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて非加熱抽出されることを特徴とする上記[1]~[3]いずれか記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[6]固相化抗体がモノクローナル抗体PDAM3であり、標識化モノクローナル抗体がモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とする上記[1]~[3]いずれか記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[7]アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM3と、PDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM4とを含む、アーモンドアレルゲンをサンドイッチELISAにより検出するためのキット。
[8]さらに、以下の界面活性剤の1種又は2種以上を含有する抽出液を含むことを特徴とする上記[7]記載のキット。
・ラウレス-5カルボン酸ナトリウム
・ココアンホ酢酸ナトリウム
・ココイルグリシンナトリウム
・ラウレス-4
・ヤシ脂肪酸カリウム
・N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム
・PEG-3ヤシ脂肪酸アミド
・ラウラミノプロピオン酸ナトリウム
・ラウリルグルコシド
・イソステアリン酸PEG-8グリセリル
・オレス-2
[9]抽出液が、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、チオ硫酸ナトリウム及び/又は2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンと5-クロロ-2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンの混合物をさらに含むことを特徴とする、上記[7]又は[8]記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
[10]アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出溶液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とするイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出方法。
[11]抽出溶液が、SDS、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、及びチオ硫酸ナトリウムを含むことを特徴とする上記[10]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[12]アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出溶液を用いて加熱抽出したことを特徴とする上記[10]又は[11]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[13]アレルゲン測定サンプルが、被検試料から抽出溶液を用いて非加熱抽出したことを特徴とする上記[10]又は[11]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【0011】
また、本発明は以下のとおりである。
[14]アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とするアーモンドアレルゲンの検出キット。
[15]SDS、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、及びチオ硫酸ナトリウムを含む抽出溶液をさらに含むことを特徴とする上記[14]記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
[16]ハイブリドーマ(NITE P-03854)が産生するPDAM3モノクローナル抗体。
[17]ハイブリドーマ(NITE P-03855)が産生するPDAM4モノクローナル抗体。
【発明の効果】
【0012】
本発明に用いられるモノクローナル抗体PDAM3とモノクローナル抗体PDAM4との2種類のモノクローナル抗体を使用することにより、サンドイッチELISAによって定量的に、イムノクロマト法によって定性的にアーモンドアレルゲンを精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】固相化抗体PDAM3-HRP標識抗体PDAM4の抗体組合せの8ウェルについて、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値をY軸に、各測定サンプルのアーモンド加熱変性処理粗タンパク質の濃度をX軸に表したグラフである。
図2】従来法のドデシル硫酸ナトリウムを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図3】本発明のラウレス-5カルボン酸ナトリウムを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図4】本発明のココアンホ酢酸ナトリウムを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図5】本発明のココイルグリシンナトリウムを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図6】本発明のラウレス-4を用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図7】本発明のヤシ脂肪酸カリウムを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図8】本発明のN-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウムを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図9】本発明のPEG-3ヤシ油脂肪酸アミドを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図10】本発明のラウラミノプロピオン酸ナトリウムを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図11】本発明のラウリルグルコシドを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図12】本発明のイソステアリン酸PEG-8グリセリルを用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
図13】本発明のオレス-2を用いてアーモンドタンパク質を抽出したときの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアーモンドアレルゲンの検出方法としては、被検試料から抽出液を用いて加熱抽出したアレルゲンの測定サンプル、又は拭き取り液若しくは洗浄液から抽出液を用いて加熱抽出したアレルゲンの測定サンプルから、固相化モノクローナル抗体と標識化モノクローナルを用いるサンドイッチELISA法によりアレルゲンを検出する方法であって、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM3(PDAM3抗体)であり、他方がPDAM3抗体と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM4(PDAM4抗体)である、サンドイッチELISA法による検出方法や、アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出溶液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3抗体と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM4である、イムノクロマト法による検出方法であれば特に限定されず、上記アーモンドの11Sグロブリンとは、一般に可溶性の球状タンパク質であるグロブリンのうち、沈降係数が11Sに相当するものの総称であって、植物における貯蔵タンパク質として知られており、アーモンドにおける主要アレルゲンのひとつとしても知られている。
【0015】
本発明におけるアーモンドとしては、バラ科サクラ属(Rosaceae Cerasus))の落葉高木に属するアーモンド(Prunus dulcis)の木から採取される果実から、果肉と種子の殻を取り除いた仁(生アーモンド)を加熱処理したナッツを挙げることができ、アーモンドは、ビター種と、スイート種(甘扁桃)とに大別できるが、ビター種は苦みを生じさせるアミグダリンを含むので、スイート種が好ましい。スイート種としては、ノンパレル(Nonpareil)種、カリフォルニア(California)種、カーメル(Carmel)種、ミッション(Mission)種、ビュート(Bute)種等の多数の品種が知られている。
【0016】
1.モノクローナル抗体
上記加熱変性アーモンド11Sグロブリンには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、モノクローナル抗体の一方は、抗体産生細胞(ハイブリドーマ)(NITE P-03854)が産生する抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、PDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体の他方は、ハイブリドーマ(NITE P-03855)が産生する抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM4である。
【0017】
上記アーモンド11Sグロブリンに結合するモノクローナル抗体の抗体産生細胞の調製方法としては、加熱処理したアーモンド11Sグロブリン若しくはその粉砕処理物を、そのまま又は適当なアジュバントと共に免疫原として哺乳動物に投与し、免疫感作させる方法を例示することができる。
【0018】
上記哺乳動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギを挙げることができるが、調製の簡便性からラットやマウスを用いることが好ましく、ラットに由来するモノクローナル抗体やマウスに由来するモノクローナル抗体を好適に用いることができる。投与箇所としては、静脈注射、皮下、腹腔内を例示することができる。追加免疫は、数日から数週間後に行うことができ、10日~3週間後がより好ましい。抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体産生細胞の分離は、最終の免疫日から1~60日後、好ましくは1~10日後に免疫動物から採取することにより行うことができ、抗体産生細胞としては、脾臓細胞やリンパ節細胞や末梢血由来細胞が好ましく、マウスの脾臓細胞やラット腸骨リンパ節細胞がより好ましい。
【0019】
上記アーモンド11Sグロブリンに対するモノクローナル抗体の調製方法としては、上記抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合をおこない、上記アーモンド11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、培地上で培養するか、又は動物腹腔内に投与して腹水内で増殖させた後、培養培地又は腹水からモノクローナル抗体を採取する、ケラーとミルシュタインによるハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)等の公知の方法を挙げることができる。
【0020】
上記ミエローマ細胞としては、一般に入手可能な株化細胞を用いることができるが、未融合の状態ではHAT選択培地で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ、陽性ハイブリドーマとして生存できる性質を有することが好ましく、具体的には、P3-X63-Ag8-U、P3X63Ag8.653、NSI/1-Ag4-1、NS0/1等のマウスミエローマ細胞株、YB2/0等のラットミエローマ細胞株などを挙げることができる。
【0021】
上記細胞融合の方法としては、抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の融合促進剤の存在下で混合することにより行なうことができる。例えば、細胞融合終了後、RPMI1640培地等で適当に希釈し、遠心分離し、沈殿をHAT培地等の選択培地に懸濁して培養することによりハイブリドーマを選択し、次いで、培養上清を用いて酵素抗体法等により抗体産生ハイブリドーマを検索し、限界希釈法等によりクローニングを行ない、アーモンド11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0022】
上記ハイブリドーマ(NITE P-03854)が産生する抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体PDAM3(PDAM3抗体)や、ハイブリドーマ(NITE P-03855)が産生する抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体PDAM4(PDAM4抗体)を好適に例示することができる。上記2種類のハイブリドーマは、2023年3月14日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託されている。
【0023】
上記PDAM3抗体とPDAM4抗体とを用いる本発明の方法によると、カシューナッツ(Anacardium occidentale:ウルシ科カシューナットノキ属(Anacardiaceae Anacardium))、ヘーゼルナッツ(Corylus avellana:カバノキ科ハシバミ属(Betulaceae Corylus)一部はセイヨウハシバミとムラサキセイヨウハシバミの雑種)、ピスタチオ(Pistacia vera:ウルシ科カイノキ属(Anacardiaceae Pistacia))、マカデミアナッツ(Macadamia integrifolia:ヤマモガシ科マカダミア属(Proteaceae Macadamia))、クルミ(クルミ科クルミ属(Juglandaceae Juglans))、ペカンナッツ(クルミ科ペカン属(Juglandaceae Carya))、及び、落花生(Arachis hypogaea:マメ科ラッカセイ属(Fabaceae Arachis))(本願明細書において、まとめて「他の木の実類」ということもある)のタンパク質、とりわけ可食部を構成するタンパク質に反応しない。
【0024】
2.アレルゲンの測定サンプル
上記被検試料としては、アレルゲンが存在する可能性のある食品や、拭き取り液若しくは洗浄液を挙げることができ、上記食品としては、食品そのもののほか、該食品を製造するために用いられる原料又はその飛散物、該食品を包装した包装紙や包装容器に残るカス、食品製造工程における沈殿物等の残留物などを含めることができる。
【0025】
上記拭き取り液若しくは洗浄液としては、アーモンドを含む可能性のある液体であれば広く含めることができ、例えば、食品製造現場等におけるアーモンドアレルゲンを含む可能性のある溶液を挙げることができる。具体的には、食品等を製造するために用いられる装置を洗浄した洗浄水;該洗浄水を取り除くために使用されたすすぎ液;のほか、上記洗浄水の乾燥物、上記すすぎ液の乾燥物を便宜上含めることができる。
【0026】
上記拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルにおける溶媒としては、水道水や純水等の水、(生理)食塩水、PBS等の水性溶媒を好適に挙げることができるが、これらの2種以上の混合液でもよく、例えば、水で拭き取り水に溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取り水に溶解してもよいし、PBSで拭き取り水に溶解してもよいし、水で拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、PBSで拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、水で拭き取りPBSに溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取りPBSに溶解してもよいし、PBSで拭き取りPBSに溶解してもよい。なお、抽出(溶)液により拭取や洗浄を行って、拭き取り液や洗浄液とすることも可能である。
【0027】
上記被検試料は、抽出(溶)液を添加して20倍抽出(例えば1mLの拭き取り液若しくは洗浄液に19mLの抽出液を加える)を行った後、加熱処理を行うことにより、又は、加熱処理を行わずに(非加熱処理)、測定サンプルとして、アレルゲンの検出を行うことができる。上記抽出(溶)液により拭取や洗浄を行って、拭き取り液や洗浄液とする場合、上記20倍抽出を行うことなく、加熱処理を経て又は非加熱処理により、拭き取り液や洗浄液を測定サンプルとして、アレルゲンの検出を行うことができる。
【0028】
上記加熱処理としては、例えば沸騰水浴中で5~30分を挙げることができ、好ましくは8~15分を挙げることができる。
【0029】
3.サンドイッチELISAによるアーモンドアレルゲンの検出
本発明のサンドイッチELISA法(enzyme-linked immunosorbent assay)によるアーモンドアレルゲンの検出方法としては、抗原認識部位(エピトープ)の異なる2種類の抗体を用いて、あらかじめ一方の抗体をマイクロプレートのウェル等の固相に固定して固相化抗体とし、検出対象の抗原を含む可能性のある被検試料をウェルに添加し、検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質で標識した他方の抗体を標識抗体として添加することにより、検出対象の抗原(アレルゲン)を2種類の抗体で挟んで、抗体-抗原-抗体複合体を形成させ、標識物質に応じた反応を行い、検出対象の抗原を検出・定量する方法を挙げることができる。
【0030】
上記サンドイッチELISA法を利用してアーモンドアレルゲンの検出を行う際に用いられる抽出液としては、被検試料に加えて抽出をすることにより、アレルゲンであるアーモンドの11Sグロブリンを検出できる抽出液であれば特に制限されないが、ラウレス-5カルボン酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ココイルグリシンナトリウム、ラウレス-4、ヤシ脂肪酸カリウム、N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム、PEG-3ヤシ油脂肪酸アミド、ラウラミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルグルコシド、イソステアリン酸PEG-8グリセリル、オレス-2から選ばれる1種又は2種以上を含む抽出液を好ましく挙げることができ、ラウレス-5カルボン酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ココイルグリシンナトリウム、ラウレス-4、PEG-3ヤシ油脂肪酸アミド、ラウラミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルグルコシド、イソステアリン酸PEG-8グリセリル、オレス-2から選ばれる1種又は2種以上を含む抽出液をより好ましく挙げることができ、ラウレス-5カルボン酸ナトリウム、ラウリルグルコシド、PEG-3ヤシ脂肪酸アミド、及びオレス-2から選ばれる1種又は2種以上を含む抽出液をさらに好ましく挙げることができ、ラウレス-5カルボン酸ナトリウムを含む抽出液を好適に挙げることができる。かかる界面活性剤を使用することにより、従来ドデシル硫酸ナトリウムを用いて抽出を行っていたサンドイッチELISA法では、アレルゲンを検出する際に、抗体が変性して反応性が低下するおそれがあるという問題を回避することができる。
【0031】
本発明に関連する上記界面活性剤の特性等を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
上記サンドイッチELISA法によりアレルゲンを測定する際に、抽出液で抽出したアレルゲンの測定サンプルを調製する方法としては、食品1gと、上記界面活性剤(ラウレス-5カルボン酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ココイルグリシンナトリウム、ラウレス-4、ヤシ脂肪酸カリウム、N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム、PEG-3ヤシ脂肪酸アミド、ラウラミノプロピオン酸ナトリウム、ラウリルグルコシド、イソステアリン酸PEG-8グリセリル、及びオレス-2から選ばれる1種又は2種以上)を1%含む食品中のアレルゲン抽出液19mLとを混合した後、沸騰水で10分加熱抽出し、冷却後ろ過した溶液;又は、非加熱の溶液;を測定サンプルとして用いる測定方法であれば特に制限されず、この方法は、抽出液をさらに希釈する必要がないため、従来の、例えば緩衝液で20倍希釈して測定する方法よりも、20倍高感度に定量が可能となる。
【0034】
上記抽出液における、上記界面活性剤の濃度としては、0.1~3.0%、好ましくは0.2~2.0%、より好ましくは0.5~1.5%、さらに好ましくは0.8~1.2%を挙げることができる。
【0035】
上記界面活性剤を含む抽出液は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20)、及び/又はチオ硫酸ナトリウムをさらに含むことが好ましく、かかる抽出液を使用した場合に、よりアレルゲンの抽出効率が高く、かつ非特異反応を抑制できる。
【0036】
上記Tween20の濃度としては、0.01~1.0%、好ましくは0.08~0.5%、より好ましくは0.1~0.3%を挙げることができ、上記チオ硫酸ナトリウムの濃度としては、0.01~5.0%、好ましくは0.02~0.5%、より好ましくは0.05~0.2%を挙げることができる。
【0037】
上記サンドイッチELISA法によるアーモンドアレルゲンの検出において、上記固相化抗体を調製するための固相化の方法としては、従来公知の方法を利用することができるが、化学的な固定化や物理吸着、共有結合、イオン結合等の手段を適宜用いることができる。
【0038】
上記サンドイッチELISAに用いる担体の材質としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、フッ素樹脂、架橋デキストラン、ポリサッカライド等の高分子化合物、その他、ガラス、金属、磁性粒子及びこれらの組合せ等を挙げることができ、また、担体の形状としては、トレイ状、球状、棒状、盤状、容器状、セル、マイクロプレート、試験管等を用いることができるが、マイクロプレートが好ましい。
【0039】
上記標識化抗体を調製するために用いられる標識物質としては、単独で又は他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらすことができる標識物質であれば特に制限されず、上記標識物質としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質等を例示することができる。上記酵素としてはペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ-ス-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、ルシフェラーゼ等を挙げることができ、上記蛍光物質としては、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、ダンシルクロライド、テトラメチルローダミンイソチオシアネート等を挙げることができ、発光物質としては、ルミノール類、ジオキセタン類、アクリジニウム塩類等を挙げることができる。上記標識物質が酵素である場合には、発色剤、蛍光剤、発光剤、基質等を用いて反応させることにより、検出可能なシグナルがもたらされる。
【0040】
上記サンドイッチELISAを行うことによりもたらされるシグナルが酵素活性に基づく吸光度として測定できる場合には、アーモンド11Sグロブリンの濃度が既知の試料(標準品)を用いて検量線を作成し、該検量線を用いて、濃度の異なる標準液の吸光度をプロットして標準曲線(検量線)を作成し、被検試料における吸光度を検量線と対比させることにより、被検試料中の検出対象となる抗原(アレルゲン)の検出の有無を判断することができ、また、抗原の定量化を行うことができる。
【0041】
本発明のサンドイッチELISAによるアーモンドアレルゲンの検出方法において、上記抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるアーモンドに対する反応性(検出精度)としては、被検試料におけるアーモンド(標準品)のタンパク質の濃度として0.05μg/mL~1.0μg/mLの範囲で検出できることを挙げることができ、20倍抽出を想定した食品等の製品換算濃度としては、1~20μg/gの範囲で検出できることを挙げることができる。
【0042】
本発明のサンドイッチELISA用アレルゲンの検出キットとしては、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM3と、PDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体PDAM4とを含む、サンドイッチELISAによって、アーモンドアレルゲンを検出するためのキットであれば特に制限されず、測定サンプルの調製方法や、測定サンプルからアーモンドアレルゲンを検出する方法を記載した取扱説明書書等の添付文書が含まれるキットの構成としてもよい。また、製造年月日から1年以上常温保存した場合においても、実用性に耐えうる精度・安定性を有するキットが望ましく、例えば、2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンと5-クロロ-2-メチル-1,2-チアゾール-3(2H)-オンの混合物(ProClin300)等の防腐剤を添加することが好ましい。ProClin300の濃度としては、0.0005~0.05%、好ましくは0.001~0.01%、より好ましくは0.0025~0.0075%、さらに好ましくは0.004~0.006%を挙げることができる。
【0043】
上記サンドイッチELISA法によるアーモンドアレルゲンの検出キットには、以下に示す界面活性剤の1種類又は2種以上を含有する抽出液を含めることができるが、ラウレス-5カルボン酸ナトリウム、PEG-3ヤシ脂肪酸アミド、ラウリルグルコシド及びオレス-2から選ばれる1種又は2種以上を含む抽出液を含めることが好ましく、ラウレス-5カルボン酸ナトリウムを含む抽出液を含めることがより好ましい。
(界面活性剤)
・ラウレス-5カルボン酸ナトリウム
・ココアンホ酢酸ナトリウム
・ココイルグリシンナトリウム
・ラウレス-4
・ヤシ脂肪酸カリウム
・N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム
・PEG-3ヤシ脂肪酸アミド
・ラウラミノプロピオン酸ナトリウム
・ラウリルグルコシド
・イソステアリン酸PEG-8グリセリル
・オレス-2
抽出液には、Tween(登録商標)20及びチオ硫酸ナトリウムをさらに含むこともでき、また、防腐作用を有するProClin300をさらに含めることもできる。
【0044】
4.イムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出
本発明において、上記PDAM3抗体及びPDAM4抗体をイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出を行う場合、上記金コロイドを結合した金コロイド標識抗体としてPDAM4抗体、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体とするPDAM3抗体の組合せ;及び/又は、上記金コロイドを結合した金コロイド標識抗体としてPDAM3抗体、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体としてPDAM4抗体の組合せ;を使用することができ、金コロイド標識抗体としてPDAM4抗体、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル(メンブレン固相)抗体としてPDAM3抗体の組合せ;を使用することがより好ましい。
【0045】
上記モノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体の作製方法としては従来公知の方法を含め特に限定されないが、例えば、0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液に、2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)にモノクローナル抗体を溶解した溶液を加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を加え、さらに15分間反応させ、遠心分離する方法を挙げることができる。また、作製した金コロイド標識抗体を、例えばガラスウール製コンジュゲートパッドに塗布し、乾燥させることにより金コロイド標識抗体担持体を作製することもできる。
【0046】
上記展開支持体(抗体固定化メンブレン)は、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識する変性及び未変性のアレルゲンを共に認識するモノクローナル抗体を含む緩衝液を、例えば、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた後、ブロッキング処理することにより作製することができる。
【0047】
上記測定サンプルを担持させることができるサンプル用担体部としては、ガラスウール製のサンプルパッドを例示することができる。上記ガラスウール製サンプルパッド、必要に応じて上記金コロイド標識抗体担持体、展開支持体、展開支持体の他端に吸収パッドを順次連結することによりイムノクロマトストリップを作製することができる。
【0048】
上記測定サンプルを調製する際に用いられる抽出溶液としては、被検試料に加えて抽出をすることにより、アレルゲンであるアーモンドの11Sグロブリンを検出できる抽出溶液であれば特に制限されないが、好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20(登録商標))、及びチオ硫酸ナトリウムを含む溶液を挙げることができ、より好ましくはSDS、Tween20、チオ硫酸ナトリウムをダルベッコPBS溶液中に含む抽出溶液を挙げることができ、かかる抽出液を使用した場合に、よりアレルゲンの抽出効率が高く、かつ非特異反応を抑制できる。
【0049】
上記SDSの濃度としては、0.1~2.0%、好ましくは0.2~1.0%、より好ましくは0.3~0.7%を挙げることができ、上記Tween20の濃度としては、0.01~1.0%、好ましくは0.08~0.5%、より好ましくは0.1~0.3%を挙げることができ、上記チオ硫酸ナトリウムの濃度としては、0.01~5.0%、好ましくは0.02~0.5%、より好ましくは0.05~0.2%を挙げることができる。
【0050】
上記抽出溶液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルに、上記金コロイド標識抗体、及び好ましくは展開液を添加してイムノクロマトストリップにスポットすることにより、アーモンド11Sグロブリンを認識する金コロイド標識抗体と、測定サンプル中のアーモンドアレルゲンとが結合して抗原抗体複合体が形成され;形成された抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛管現象等により移動し;金コロイド標識抗体と異なる11Sグロブリンのエピトープを認識するアーモンドアレルゲンを認識するモノクローナル抗体が固定された所定の位置において、上記抗原抗体複合体が捕捉され;金コロイドの集積により現れる判定ラインの着色の有無により、アレルゲンを検出することができる。なお、イムノクロマトストリップにあらかじめ金コロイド標識抗体を担持させておいてもよく、その場合は、上記測定サンプルに金コロイド標識抗体を添加する必要は必ずしもない。
【0051】
上記展開液としては、ウシ胎児血清(FBS)が含まれている溶液が好ましく、その場合のウシ胎児血清(FBS)濃度としては、10~50重量%を挙げることができ、20~40重量%が好ましく、25~35重量%がより好ましく、10重量%未満の場合、非特異反応を生じやすく好ましくない場合もあるが、ウシ胎児血清(FBS)を添加しなくてもよい場合がある。また、展開液には、必要に応じて他の界面活性剤、防腐剤、無機塩などの各種添加剤を懸濁もしくは乳濁又は溶解せしめて調製することもできる。上記展開液に緩衝液を添加する場合には、そのpHが4~10、特にpH6~8が好ましく、例えば、リン酸緩衝液(PBS)やトリス緩衝液(TBS)などを好適に例示することができる。また、上記緩衝液は、綿棒等のイムノクロマトのスティックの先端部分に含ませておくこともできる。
【0052】
上記測定サンプルのイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出においては、上記測定サンプルにイムノクロマトストリップのサンプル用担体部を浸漬させることにより、上記測定サンプル中のアーモンド11Sグロブリンとアーモンドアレルゲンを認識する金コロイド標識抗体とが結合して抗原抗体複合体を形成し;形成された抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛管現象等により移動し;金コロイド標識抗体と異なる11Sグロブリンのエピトープを認識するアーモンドアレルゲンを認識するモノクローナル抗体が固定された所定の位置において、上記抗原抗体複合体が捕捉され;金コロイドの集積により現れる着色ラインの有無により、アレルゲンを検出することができる。
【0053】
本発明のイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出方法において、抽出溶液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるアーモンドに対する反応性としては、被検試料におけるアーモンド(標準品)のタンパク質濃度の濃度として2ppm~20ppmで検出できることを挙げることができる。
【0054】
本発明のイムノクロマト用アレルゲンの検出キットとしては、アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM3であり、他方がPDAM3と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM4であることを特徴とするアーモンドアレルゲンの検出キットであれば特に制限されず、測定サンプルの調製方法や、測定サンプルからアーモンドアレルゲンを検出する方法を記載した取扱説明書や、イムノクロマトストリップに含まれている試薬液の各成分についての説明書等の添付文書が含まれるキットの構成としてもよい。また、製造年月日から1年以上常温保存した場合においても、実用性に耐えうる精度・安定性を有するキットが望ましい。
【0055】
上記キットが、被検試料から抽出溶液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルを使用するキットである場合には、上記キットに抽出溶液として、SDS、Tween20、及びチオ硫酸ナトリウムを含むこともできる。また、展開液に添加するFBSを加えることができる。さらに、上記取扱説明書には、上記抽出溶液は拭き取り液や洗浄液として使用することもできる旨記載してもよい。
【0056】
本発明のアレルゲンの検出方法は、非診断目的のアレルゲンの検出方法とすることもできる。
【0057】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0058】
[実施例1]
[アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体の確立]
従前のイムノクロマト法において用いるモノクローナル抗体の作製方法に準拠して、以下の手順で、アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体を確立した。
【0059】
(加熱変性アーモンド標準溶液の調製)
生アーモンド(ノンパレル種)の可食部(果肉と種子の殻を取り除いた仁の部分)をミルサーにより粉砕し、アセトンを用いて脱脂したのち一晩室温にて風乾し、アセトンを除去したものを脱脂アーモンド粉末として調製した。かかる脱脂アーモンド粉末を0.1g量り取り、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.2%Tween20、及び0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBS(5913、日水製薬社製)(以下「IC抽出溶液」ともいう)を20mL加えて攪拌し、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却後に遠心し、各遠心上清を回収して、加熱変性アーモンド標準溶液(D-AM)として調製した。
【0060】
(加熱変性木の実抽出溶液の調製)
カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生の可食部をそれぞれミルサーにより粉砕した後各1gを量り取り、上記抽出液を19mL加えて撹拌した後、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却後に遠心し、各遠心上清を回収して、カシューナッツ加熱変性タンパク質(「D-CS」)IC抽出溶液、ヘーゼルナッツ加熱変性タンパク質(「D-HZ」)IC抽出溶液、ピスタチオ加熱変性タンパク質(「D-PS」)IC抽出溶液、マカダミアナッツ加熱変性タンパク質(「D-MC」)IC抽出溶液、ペカンナッツ加熱変性タンパク質(「D-PE」)IC抽出溶液、クルミ加熱変性タンパク質IC抽出溶液(「D-WN」)、及び落花生加熱変性タンパク質(「D-PN」)IC抽出溶液の各溶液として調製した。各溶液におけるタンパク質の濃度は、2-DQuantKit(GE Healthcare Life Science社製)を用いて必要に応じて測定し、上記IC抽出溶液にて50ng/mLから3.13ng/mLまで2倍ずつ段階希釈し、IC標準溶液とした。
【0061】
(アーモンドアレルゲンの指標となるアーモンド11Sグロブリンの精製)
上記脱脂アーモンド粉末を、プレップセル960(Bio Rad社製)を用いて精製した。11Sグロブリン画分を透析後、凍結乾燥を行った。かかる凍結乾燥粉末を用い、生理食塩水で0.1%のアーモンド11Sグロブリンの溶液を作製し、1mL容チューブに500μLずつ分注して、アーモンド11Sグロブリンの抗原溶液とし、免疫に供するまで-40℃にて凍結保管した。
【0062】
(ラット由来抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)ラットへの免疫
供試動物として、8週齢のF344/DuCrlCrljラット(日本チャールズリバー社から入手)1匹を用いた。ラットの初回免疫には、完全フロイントアジュバント(シグマアルドリッチ社製)を0.1%のアーモンド11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを用い、このエマルジョン200μLを尾根部より注射した。初回免疫から2週間後に、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射して追加免疫とした。
【0063】
(2)ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製
ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記尾部静脈注射から4日後、供試ラットから腸骨リンパ節を無菌的に摘出した。腸骨リンパ節を細切後、RPMI1640(富士フィルム和光純薬社製)で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(CellStrainer、70mm、Becton Dickinson社製)に通し、腸骨リンパ節細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により腸骨リンパ節細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この腸骨リンパ節細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加えて希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×10細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson社製)に分注し、5%CO下37℃にて培養した。
【0064】
(3)抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0065】
(4)モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、アーモンド11Sグロブリンを含むD-AMに対する反応性が認められるモノクローナル抗体について、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生それぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性処理粗タンパク質、すなわち、D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE、及びD-PNに対する反応性をインダイレクトELISA法にて判定し、D-AMに対して反応性が非常に高く、D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE及びD-PNに対して反応性の低いラット由来モノクローナル抗体として、PDAM3抗体、R1抗体、及びR2抗体の3種類のモノクローナル抗体を選抜した。
【0066】
(5)マウスの腹水の採取及びラット由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、CB-17/scidマウス(日本クレア社から入手)に不完全フロイントアジュバント(シグマアルドリッチ社製)を200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×10細胞にクローニングされた、上記選抜された抗体を産生する3種類のハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、クルミ11Sグロブリンに対して特異性を有するラット由来精製モノクローナル抗体(MAb)を取得し、PDAM3モノクローナル抗体(以下単に「PDAM3」又は「PDAM3抗体」ともいう。)、R1モノクローナル抗体、及びR2モノクローナル抗体と呼ぶこととした。
【0067】
(マウス由来抗クルミ11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)マウスへの免疫
供試動物として、4週齢のBALB/cマウス(日本クレア社から入手)2匹を用いた。マウスの初回免疫には、完全フロイントアジュバントを0.1%のクルミ11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試し、このエマルジョンを一尾当たり100μL腹腔内に注射した。追加免疫には、不完全フロイントアジュバントを0.1%の11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1匹当たり100μL腹腔内に注射した。
【0068】
(2)血中抗体価の測定
初回又は追加免疫で11Sグロブリンを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温にて2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISA法によりマウス血中の抗11Sグロブリン抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(JacksonImmunoResearchLaboratories社製)を用いた。さらに追加免疫を2週間の間隔で5回行い、十分に抗体価が上がったマウスに、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射した。
【0069】
(3)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製
マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記11Sグロブリン溶液の尾部静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュを通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×10細胞/ウェルとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(BectonDickinson社製)に分注し、5%CO下37℃にて培養した。
【0070】
(4)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0071】
(5)モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、アーモンド11Sグロブリンを含むD-AMに対する反応性が認められるクローンについて、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生の7種類のそれぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性タンパク質、すなわち、D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE、及びD-PNに対する反応性をダイレクトELISA法にて判定し、D-AMに対して陽性を示すが、上記7種類の他の木の実類のタンパク質に対して陰性を示すマウス由来モノクローナル抗体としてPDAM4抗体、M1抗体、及びM2抗体の3種類のモノクローナル抗体を選抜した。
【0072】
(6)マウスの腹水の採取及びマウス由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×10細胞のクローニングされた、上記選抜された抗体を産生するハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、クルミ11Sグロブリンに対して特異性を有するマウス由来精製モノクローナル抗体を取得し、PDAM4モノクローナル抗体(以下単に「PDAM4」又は「PDAM4抗体」ともいう。)、M1モノクローナル抗体、及びM2モノクローナル抗体と呼ぶこととした。
【0073】
[実施例2]
[抗体の組合せ評価]
前記ラット由来の3種類の精製モノクローナル抗体であるPDAM3抗体、R1抗体、及びR2抗体と、上記マウス由来の3種類の精製モノクローナル抗体であるPDAM4抗体、M1抗体、及びM2抗体との、合計6種類の精製モノクローナル抗体から、二種類の抗体を選択することによる、アーモンドタンパク質の検出に適した抗体の組合せを検討することとした。
【0074】
(抗体の固相化)
96ウェルマイクロプレート(Nunc-ImmunoModule plate F8NAL、468667)を用い、固相化抗体を調製した。上記6種類の精製抗体をそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で5μg/mLの固相用抗体溶液に調製し、各抗体について100μL/ウェルを12ウェルずつ分注した。37℃にて1.5時間静置して固相化反応させた後、0.05%Tween20含有PBS(以下、PBST)250μLで各ウェルを5回洗浄した。以降、洗浄はすべて同じ手順で実施した。1%牛血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA、シグマアルドリッチ社製A3059)/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行った後洗浄した。
【0075】
(測定用アーモンドタンパク質溶液の調製と添加)
上記D-AMを、PBSTを用いて50ppbのD-AM溶液となるように調製し、測定用アーモンドタンパク質溶液とした。上記固相化した抗体が調製された16ウェルに50ppbのD-AM溶液を100μL/ウェル分注し、37℃にて2.5時間静置して、D-AMと各固相化抗体とを反応させ、その後洗浄した。その他PBSTをブランクとした。
【0076】
(HRP標識抗体による反応)
上記6種類の精製モノクローナル抗体それぞれについて、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horse radish peroxidase;HRP)による酵素標識をPeroxidaseLabelingKit-SH(LK09、株式会社同仁化学研究所製)を用いて行った。PBSTを用いて12種類の0.1μg/mLのHRP標識抗体を調製し、12ウェルずつ100μL/ウェル分注し、37℃にて0.5時間静置して反応させた。その後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0077】
(発色剤の添加)
発色剤3、3’、5、5’テトラメチルベンジジン溶液(TMB溶液、1-ComponentMicrowellPeroxidaseSubstrate,SureBlue、5120-0075、KPL社製)を100μL/ウェル分注し、遮光下常温にて10分静置して反応させた。1規定塩酸(和光純薬製、080-01066)を100μL/ウェル分注することにより反応を停止させ、主波長450nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。各ウェルにおける主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値を実質吸光度として、以下の表2に示す。なお、620nmの副波長は、検体によるウェル内の汚れや洗浄操作等によるウェルのくもり、キズ等によるウェル間吸光度差をキャンセルするために測定された吸光度である。
【0078】
【表2】
【0079】
(結果)
上記主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値(実質吸光度:450nm-620nm)においては、PDAM3抗体を固相化抗体とし、PDAM4抗体を、Peroxidaseを用いた酵素標識抗体とした場合に、実質吸光度が高くなり、この二つの抗体を用いた場合に、アーモンドタンパク質に対する反応性が強くなることが確認された。
【0080】
イムノクロマトに適した抗体の組合せを選抜する方法として、上記手順により選抜された2つの抗体の組合せを用いることにより、特定のアレルゲンを検出できることを本発明者らはこれまでに確認している(特願2023-069165等)。すなわち上記結果により選抜された、PDAM3抗体とPDAM4抗体とを用いてイムノクロマト法においてアーモンドアレルゲンを検出することができ、金コロイド標識抗体としてのPDAM4抗体と、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル(メンブレン固相)抗体としてのPDAM3抗体の組合せを使用することにより、イムノクロマト法によって、2ppm~20ppmの範囲においてアーモンドアレルゲンを検出することができる。
【0081】
[実施例3]
[2.ELISAの構成における抗体の組合せの検討]
上記アーモンドタンパク質に対する反応性が強いことが確認されたPDAM3抗体とPDAM4抗体とを用いて、ELISAの構成における固相化抗体と標識抗体との抗体の組合せの検討を行った。具体的には、96ウェルマイクロプレートを用い、固相化抗体PDAM3-HRP標識抗体PDAM4の抗体組合せについて、アーモンドタンパク質の濃度を変えた場合の検出精度の検討を行った。
【0082】
(アーモンドタンパク質を含む測定サンプルの作製)
抽出後に緩衝液で20倍希釈することを想定し、上記D-AMを50ng/mLから2倍ずつ段階希釈し、それぞれ被検液中の濃度が0.78125ng/mL(15.625ng/mL)、1.56250ng/mL(31.25ng/mL)、3.125ng/mL(62.5ng/mL)、6.25ng/mL(125ng/mL)、12.5ng/mL(250ng/mL)、25ng/mL(500ng/mL)、及び50ng/mL(1000ng/mL)となるように1.0%BSA/PBSTを用いて調整し、各濃度のアーモンド加熱変性処理粗タンパク質を含む測定サンプルを作製した。PBSTをブランク(0ng/mL)とした。なお、カッコ内は、20倍抽出を想定した製品換算濃度である。
【0083】
(一次抗体固相化反応)
PDAM3抗体を、ダルベッコPBS(日水製薬社製、5913)で5μg/mLのPDAM3抗体溶液を調製し、8ウェルに100μL/ウェル分注した。37℃にて1.5時間静置して固相化反応させた後、PBST250μLでPDAM3抗体を反応させた各ウェルを5回洗浄した。その後1%牛血清アルブミン/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間30分反応させた。反応後、0.05%PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。以降、洗浄はすべて同じ手順で実施した。1%BSA/PBSを各ウェルに200μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行った後洗浄した。
【0084】
(測定サンプルの調製と添加)
上記固相化したPDAM3抗体が調製された8ウェルに、上記8段階の濃度に調製した8種類のアーモンド加熱変性処理粗タンパク質を含む測定サンプルを標準溶液としてそれぞれ100μL/ウェル分注し、室温にて1.0時間静置して、D-AMと各固相化抗体とを反応させた後洗浄した。
【0085】
(HRP標識抗体による反応)
PDAM4抗体に、HRPによる酵素標識をPeroxidaseLabelingKit-SHを用いて行い、HRP標識PDAM4抗体を調製した。PBSTを用いて100ng/mLのHRP標識PDAM4抗体を調製し、上記固相化したPDAM3抗体が調製された8ウェルに100μL/ウェル分注し、室温にて0.5h静置して反応させた。その後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄し、固相化抗体PDAM3-HRP標識抗体PDAM4の抗体組合せによる抗原抗体複合体を形成させた。
【0086】
(発色剤の添加)
前記発色剤の添加の項目に記載されている手順に従い、各ウェルにおける主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値を実質吸光度とした。
【0087】
(結果)
固相化抗体PDAM3-HRP標識抗体PDAM4の抗体組合せの8ウェルについて、主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値をY軸に、各測定サンプルのアーモンド加熱変性処理粗タンパク質の濃度をX軸に表したグラフを図1に示す。
【0088】
[PDAM3抗体とPDAM4抗体の組合せによるアーモンド以外の木の実タンパク質類との交差反応性の確認]
前記D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE、及びD-PNの各IC抽出溶液を検出対象として、上記抗体組合せを用いた場合のELISAアッセイにおける交差反応性の有無を評価した。
【0089】
上記抗体組合せによってインダイレクトELISAによる検出を行った場合のクルミ以外の各木の実の検出についての結果を以下の表3に示す。
【0090】
【表3】
但し、<1μg/gは、検出できなかったことを示す。
【0091】
(結果)
図1のグラフから明らかなとおり、決定係数(相関係数の二乗)は0.99以上であって直線性は担保されていたが、上記表3から明らかなとおり、固相化抗体としてPDAM3を用い、HRP標識抗体としてPDAM4を用いる抗体組合せにおいて、アーモンド以外のカシューナッツとヘーゼルナッツに対する反応性があることが確認された。
【0092】
したがって、これまでの手順では、PDAM3とPDAM4とを用いるアーモンドを検出するためのサンドイッチELISA法においては、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ等の他の木の実類に対する交差反応性が生じてしまうことが確認された。したがって、サンドイッチELISA法において、アーモンドに対する高い反応性を維持したまま、他の木の実類に対する交差反応性を示すことのない手段を検討することが必要であると判断した。
【0093】
[アーモンドサンドイッチELISA法の高感度化の検討]
上記IC抽出溶液に含まれるSDSは、ELISA法において、モノクローナル抗体の反応を阻害する可能性が指摘されているので、1μg/mL以下のアーモンドアレルゲンを検出することができる高感度なELISA法を構築するため、抽出液について検討を行うこととした。まず、SDSを他の成分に代替することとした。代替候補として以下の界面活性剤を用いてサンドイッチELISA法に用いるための、交差反応性の少ない優れた抽出液を検討することにした。
【0094】
(抽出液の調製)
0.2%Tween(登録商標)20(MP Biomedicals製、103168)と、0.1%チオ硫酸ナトリウム(和光純薬製、197-03605)とを含有する、ダルベッコ組成リン酸緩衝生理食塩水(日水製薬製、5913(以下、「PBS」ともいう))に、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)代わりに、以下に示す11種類の界面活性剤を、それぞれ最終濃度として1.0%、5.0%又は10.0%添加し、上記12種類の界面活性剤ごとに3種類(合計36種類)の抽出液を調製し、SDSとの比較を行うこととした。
【0095】
(1)SDS
(2)ラウレス-5カルボン酸ナトリウム
(3)ココアンホ酢酸ナトリウム
(4)ココイルグリシンナトリウム
(5)ラウレス-4
(6)ヤシ脂肪酸カリウム
(7)N-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウム
(8)PEG-3ヤシ脂肪酸アミド
(9)ラウラミノプロピオン酸ナトリウム
(10)ラウリルグルコシド
(11)イソステアリン酸PEG-8グリセリル
(12)オレス-2
【0096】
(ELISA用加熱変性アーモンド標準溶液の調製)
上記36種類の抽出液に、さらに、0.005%のProClin300(シグマアルドリッチ社製)をそれぞれ加えてここでの抽出液とした。前記「加熱変性アーモンド標準溶液の調製」における手順に従い、加熱変性アーモンド標準溶液群を調製した。各溶液におけるタンパク質の濃度は、2-DQuantKit(GE Healthcare Life Science社製)を用いて必要に応じて測定した。
【0097】
(抗体の固相化)
上記36種類の加熱変性アーモンド標準溶液について、固相化抗体としてPDAM3を用い、HRP標識抗体としてPDAM4を用いる抗体組合せを用いて、測定を行った。PDAM3をPBSにて5μg/mLとなるように調整した溶液をマイクロプレートの各ウェルに100μLずつ加え、37℃にて1時間30分反応させた。0.05%PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。以降、洗浄はすべて同じ手順で実施した。1%BSA/PBSを各ウェルに200μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行った後洗浄した。
【0098】
(サンプルの反応)
アーモンドタンパク質溶液を上記36種類の抽出溶液それぞれに、アーモンドタンパク質が62.5ppb、250ppb、1000ppbとなるように添加して、粗測定溶液を調製した後、かかる粗測定溶液を0.5%フィッシュゼラチン(シグマアルドリッチ社製、7765)含有PBSTにて20倍希釈して3.125ppb、12.5ppb、50ppbの各濃度にアーモンドタンパク質がなるように調整して各測定溶液とした。各測定溶液を各ウェルに100μLずつ加え、25℃にて1時間反応させた後洗浄した。なお、上記36種類の抽出溶液について、アーモンドタンパク質を添加しない場合をネガティブコントロールとした。
【0099】
(酵素標識抗体の反応)
西洋ワサビペルオキシダーゼ標識した抗アーモンドマウスモノクローナル抗体(NITE P-02041)を各ウェルに100μLずつ加え、25℃にて30分間反応させた後洗浄した。
【0100】
(発色剤の添加)
前記発色剤の添加の項目に記載されている手順に従い、各ウェルにおける主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値を実質吸光度とした。12種類の各界面活性剤における、アーモンドタンパク質濃度が3.125ppb、12.5ppb、50ppbの場合の吸光度の値を用いてグラフを作成した。結果を図2図13に示す。
【0101】
(結果)
1)図2から明らかなとおり、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む抽出液を使用した場合は、いずれの濃度においても測定することができなかった。
2)図3のラウレス-5カルボン酸ナトリウム、図9のPEG-3ヤシ脂肪酸アミド、図11のラウリルグルコシド、及び、図13のオレス-2は、濃度が1.0%、5.0%、10.0%のいずれにおいても、50ng/mLの吸光度が0.50以上となり、非常に好ましい結果を示し、1%~10%の濃度において測定が良好に可能であることが確認された。とりわけ、図3のラウレス-5カルボン酸ナトリウムは、濃度が1.0%、5.0%、10.0%のいずれにおいても50ng/mLの吸光度が0.99以上となり、特に好ましい結果を示した。
3)図6のラウレス-4、図10のラウラミノプロピオン酸ナトリウム、及び図12のイソステアリン酸PEG-8グリセリルは、濃度が1.0%、5.0%のいずれにおいても、50ng/mLの吸光度が0.50以上となり、非常に好ましい結果を示し、1%~5%の濃度において良好に測定が可能であることが確認された。
4)図4のココアンホ酢酸ナトリウム、及び、図5のココイルグリシンナトリウムは、濃度が1.0%の場合に、50ng/mLの吸光度が0.40以上となり、1.0%の濃度において測定が可能であることが確認された。
5)図7のヤシ脂肪酸カリウム、及び、図8のN-ドデカノイルサルコシン酸ナトリウムは濃度が1.0%の場合に、50ng/mLの吸光度が0.10以上となり、1.0%の濃度において測定が可能であることが確認された。
【0102】
[抽出液の濃度の検討]
市販のアーモンド含有加工食品を想定して、固相化抗体としてPDAM3抗体を用い、HRP標識抗体としてPDAM4抗体を用いる、サンドイッチELISAによる測定を行った。アーモンドを含有していないことが明らかな市販のおかゆ、クッキー、及びオレンジジュースについて、それぞれ1g×4サンプル用意し、各食品中のアーモンドタンパク質が10μg/gとなるように上記D-AMを添加した。それぞれに、ラウレス-5カルボン酸ナトリウムを、0.5%、1.0%、2.5%、又は5.0%含み、さらに0.2%Tween20と、0.1%チオ硫酸ナトリウムとをそれぞれ含むダルベッコPBSを抽出液として19mLを添加して沸騰水中で10分間抽出して各測定サンプルとした。標準溶液の測定で得られた検量線を用いて、各測定溶液中のアーモンドタンパク質濃度を直線回帰にて定量(算出)した。回収率の算出は、定量値/添加量×100とした。結果を表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
上記表4からも明らかなとおり、いずれの食品においても、いずれの濃度においても、回収率は70~132%の範囲内で良好であったが、回収率が104~109%であって、100%に最も近かった界面活性剤の濃度1.0%が抽出液には最適であると判断した。
【0105】
カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生の可食部をそれぞれミルサーにより粉砕した後各1gを量り取り、ラウレス-5カルボン酸ナトリウムを1.0%含み、0.2%Tween20、及び、0.1%チオ硫酸ナトリウムをさらに含むダルベッコPBSを抽出液として19mL加えて撹拌した後、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却後に遠心し、各遠心上清を回収して、カシューナッツ加熱変性タンパク質(「D-CS」)ELISA抽出溶液、ヘーゼルナッツ加熱変性タンパク質(「D-HZ」)ELISA抽出溶液、ピスタチオ加熱変性タンパク質(「D-PS」)ELISA抽出溶液、マカダミアナッツ加熱変性タンパク質(「D-MC」)ELISA抽出溶液、ペカンナッツ加熱変性タンパク質(「D-PE」)ELISA抽出溶液、クルミ加熱変性タンパク質ELISA抽出溶液(「D-WN」)、及び落花生加熱変性タンパク質(「D-PN」)ELISA抽出溶液の各溶液として調製した。各溶液におけるタンパク質の濃度は、2-DQuantKit(GE Healthcare Life Science社製)を用いて必要に応じて測定した。
【0106】
上記カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生の各ELISA抽出溶液を用いて、固相化抗体としてPDAM3を用い、HRP標識抗体としてPDAM4を用い前記一次抗体固相化反応、測定サンプルの添加、HRP標識抗体による反応、及び発色の手順に従い、サンドイッチELISAアッセイを行った。結果を表5に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
さらに、食品表示法(平成25年6月28日公布)による、特定原材料として表示義務品目として挙げられている、鶏卵、牛乳、小麦粉、そば粉、ラッカセイ、エビ、カニについて、生の食品をそれぞれすりつぶし、各1gをラウレス-5カルボン酸ナトリウムを1.0%含む上記抽出液にて抽出して、交差反応性の有無を検討した。結果を表6に示す。
【0109】
【表6】
【0110】
(結果)
鶏卵、牛乳、小麦粉、そば粉、ラッカセイ、エビ、カニ等の木の実類以外の食品についても交差反応性がないことが確認された。
【0111】
(拭き取り溶液中のアーモンドタンパク質の定量)
食品製造現場でのふき取り検査を想定し、市販のふき取り検査用の緩衝液5種類(製品A~製品E)にアーモンドミルクを1.0、0.1、0.05μg/mLとなるように添加し、モデルふき取り溶液を作製した。ラウレス-5カルボン酸ナトリウムを1.0%含む抽出液にて抽出したのちにELISAにて測定した。標準溶液の測定結果から得られた回帰直線よりモデルふき取り溶液中のアーモンドタンパク質量を定量して回収率を算出した。結果を表7に示す。
【0112】
【表7】
【0113】
上記検証した製品A~製品Eは、製品の添加濃度が0.05μg/mLの場合に回収率が100%以上(103~136%)であり、0.1μg/mLの場合に回収率が60%以上(63~121%)であり、1.00μg/mLの場合に回収率が50%以上(53~59%)であり、製品中に0.1μg/mL未満の低い濃度でアーモンドアレルゲンが含まれている場合においても、定量・定性的に検出できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
試料中のアーモンドアレルゲンを迅速かつ精度よく検出することのできる、本発明のアーモンドアレルゲンの検出方法や、それに用いることができる本発明のアレルゲンの検出キットは、食品産業において特に有用である。
図1
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