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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176743
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電力変換装置および駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241212BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02P27/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095520
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 遼一
(72)【発明者】
【氏名】中野 洋
(72)【発明者】
【氏名】金川 信康
(72)【発明者】
【氏名】重田 哲
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505AA19
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE08
5H505EE49
5H505HA05
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB02
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505KK06
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL55
5H505MM01
5H505MM12
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA07Z
5H770LA07X
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】電流の周波数の高低によらずスイッチング素子のオープン故障を安定して診断できる電力変換装置の提供。
【解決手段】各相の出力電流に基づいて、パワー半導体のオープン故障を診断する診断部は、出力電流の値が|電流|<閾値Th2である場合に所定加算量を加算し、出力電流の値が|電流|≧閾値Th2の場合に所定減算量を減算することで相毎の故障検知カウンタCを演算し、故障検知カウンタCが閾値Th3を超えた場合にオープン故障と診断する。そして、診断部は、出力電流の周波数が低いほど所定加算量および所定減算量をより小さい値に設定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を備える三相インバータ回路の各相の出力電流を検出する電流検出部と、
各相の前記出力電流に基づいて、前記スイッチング素子のオープン故障を診断する故障診断部と、を備え、
前記故障診断部は、
前記出力電流の値が所定範囲内である場合に所定加算量を加算し、前記出力電流の値が前記所定範囲内でない場合に所定減算量を減算することで相毎の故障検知カウンタを演算すると共に、前記故障検知カウンタが第1カウンタ閾値を超えた場合に前記オープン故障と診断し、
前記出力電流の周波数が低いほど、前記所定加算量および前記所定減算量をより小さい値に、または、前記第1カウンタ閾値をより大きい値に設定する、
電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記故障診断部は、
前記出力電流の周波数が低いほど、前記所定加算量および前記所定減算量をより小さい値に設定し、
前記故障検知カウンタが所定のセット閾値を上回る場合に故障フラグをセットし、前記故障検知カウンタが所定のリセット閾値を下回る場合に前記故障フラグをリセットし、
前記故障フラグがセットされた状態ではデバウンスカウンタを加算し、前記故障フラグがリセットされた状態ではデバウンスカウンタを減算し、
前記故障検知カウンタが前記第1カウンタ閾値を超えた場合に前記オープン故障と判定するのに代えて、前記デバウンスカウンタが第2カウンタ閾値を超えた場合に前記オープン故障と診断する、
電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記故障診断部は、
前記出力電流の周波数が低いほど、前記所定加算量および前記所定減算量をより小さい値に設定し、
前記出力電流の周波数が高いほど前記所定範囲の幅をより広く設定する、
電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記出力電流が入力される回転電機の回転速度を検出する回転速度検出部をさらに備え、
前記故障診断部は、
前記回転速度が低いほど、前記所定加算量および前記所定減算量をより小さい値に設定し、
前記回転速度が高いほど前記所定範囲の幅をより広く設定する、
電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記故障診断部は、
前記出力電流の周波数が低いほど、前記所定加算量および前記所定減算量をより小さい値に設定し、
前記電流検出部で検出された前記出力電流に基づいて、前記オープン故障が生じていない正常な場合の電流の正負を推定し、
前記故障診断部の推定結果が正の場合には、前記所定範囲の内の負値側の範囲を正値側の範囲よりも大きく設定し、
前記故障診断部の推定結果が負の場合には、前記所定範囲の内の正値側の範囲を負値側の範囲よりも大きく設定する、
電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置と、
前記電力変換装置の前記三相インバータ回路の前記出力電流が入力される回転電機と、を備える、駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置および駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両等の駆動装置に設けられた電力変換装置は、直流電源から供給される直流電力を交流電力に変換しモータ等を駆動させる。電力変換装置に設けられている電力変換用のスイッチング素子にオープン故障もしくはオフ固着故障が発生すると、正しい電流制御ができずにモータの出力トルクが変動する。そのため、スイッチング素子のオープン故障を診断する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の故障診断装置では、平滑化後の交流電流の絶対値が所定値以上である場合に、スイッチング素子が故障していると判定している。また、特許文献2に記載の故障診断装置では、電流位相差と磁極位置の和が所定範囲内のときに、電流の絶対値が故障診断値より小さい場合にはスイッチング素子がオープン故障であると診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-246328号公報
【特許文献2】特開2010-246327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、平滑化後の電流をもとに故障を判定するため、電流の周波数が低い場合には正常時であっても平滑化後の電流が大きくなり、スイッチング素子が故障していると誤診断する可能性がある。そのため、電流の周波数が低い状態では安定した診断が行えないという課題がある。さらに、特許文献2の技術では、電流位相と磁極位置の総和が所定の範囲内の時に診断をするため、診断により異常をカウントできる範囲が電流1周期内の一部に限られ、安定した診断を行うには電流数周期分の時間が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様による電力変換装置は、スイッチング素子を備える三相インバータ回路の各相の出力電流を検出する電流検出部と、各相の前記出力電流に基づいて、前記スイッチング素子のオープン故障を診断する故障診断部と、を備え、前記故障診断部は、前記出力電流の値が所定範囲内である場合に所定加算量を加算し、前記出力電流の値が前記所定範囲内でない場合に所定減算量を減算することで相毎の故障検知カウンタを演算すると共に、前記故障検知カウンタが第1カウンタ閾値を超えた場合に前記オープン故障と診断し、前記出力電流の周波数が低いほど、前記所定加算量および前記所定減算量をより小さい値に、または、前記第1カウンタ閾値をより大きい値に設定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電流の周波数の高低によらずスイッチング素子のオープン故障を安定して診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両の模式図である。
図2図2は、駆動装置の概略構成を示す図である。
図3図3は、電力変換回路の構成の一例を示す図である。
図4図4は、制御回路の機能の詳細を示す制御ブロック図である。
図5図5は、オープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、オープン故障診断処理におけるタイミングチャートの一例である。
図7図7は、第2の実施形態におけるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、第2の実施形態におけるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、第2の実施形態の場合のオープン故障診断処理におけるタイミングチャートの一例である。
図10図10は、第3の実施形態におけるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。
図11図11は、オープン故障が発生している場合の電流波形を示す図である。
図12図12は、第4の実施形態におけるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。
図13図13は、オープン故障が発生している場合の電流波形を示す図である。
図14図14は、第4の実施形態におけるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。
図15図15は、第4の実施形態の場合のオープン故障診断処理におけるタイミングチャートの一例である。
図16図16は、第1の実施形態と第5の実施形態とを比較するための信号波形を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。また、以下の説明では、同一または類似の要素および処理には同一の符号を付し、重複説明を省略する場合がある。なお、以下に記載する内容はあくまでも本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明は下記の実施の形態に限定されるものではなく、他の種々の形態でも実施する事が可能である。
【0010】
(第1の実施形態)
図1~6を参照して本発明に係る駆動装置の第1の実施形態を説明する。図1は、モータ(不図示)で走行する車両の模式図である。車両1は直流電源5から電力が供給される駆動装置2を備える。図示は省略するが、駆動装置2は電力変換装置とモータと減速器を有する。モータの駆動力は、減速器を介して車輪3aが設けられた車軸4へと伝えられる。
【0011】
なお、図1に示す例では、前輪(車輪3a)の車軸4に駆動装置2を設置しているが、後輪(車輪3b)の車軸に設置してもよい。また、前後輪の車軸4に駆動装置2をそれぞれ設置してもよいし、車軸ではなく左右の各車輪3a,3bにそれぞれ独立した駆動装置2を設置してもよい。また、車軸4に対して図1で記載した駆動装置2とは別に、内燃機関を用いた駆動装置を駆動装置2と並列に設置してもよい。
【0012】
図2は、駆動装置2の概略構成を示す図である。駆動装置2の周辺には、直流電源5、制御装置6、故障通知装置7が設けられている。制御装置6は、駆動装置2に対して目標トルクτsや動作モードSmなどを送信する。また、制御装置6は駆動装置2から出力される故障通知信号Sfを受け取る。本実施形態では、制御装置6を1つのみ記載しているが、情報の送受信を複数の制御装置が実施してもよい。また、この制御装置6は、例えば、上述した内燃機関を用いた駆動装置の制御機能も備えている。
【0013】
直流電源5は駆動装置2内のモータ9を駆動させるための電源であり、例えばバッテリなどが該当する。故障通知装置7は、駆動装置2からの故障通知信号Sfを受け付け、搭乗者に対して故障の発生を通知する。故障の通知方法としては、例えば、ランプを点灯させる、警告音を発生させる、音声で通知するなどの方法が挙げられる。
【0014】
駆動装置2は、電力変換装置8、モータ9および不図示の減速機を備えている。減速器はモータ9の駆動力を増幅し、車軸4(もしくは車輪3a,3b)へ伝える役割を持つ。モータ9は内部に3個の巻き線を有した3相電動機であり、例えば永久磁石を用いた同期モータや永久磁石を用いない誘導モータが該当する。モータ9は、モータ角度センサ91を備えている。モータ角度センサ91は、モータロータの回転角度を測定し、測定した角度をモータ角度センサ値θmとして電力変換装置8に出力する。
【0015】
電力変換装置8は、制御装置6から入力される目標トルクτs等に基づいて、直流電源5から供給される直流電力を交流電力に変換しモータ9に供給する。また、電力変換装置8は、モータ9の動力を直流電力に変換して直流電源5を充電する機能も有する。電力変換装置8は、制御回路80、ドライバ回路81、電力変換回路82、直流電圧センサ83および交流電流センサ84を備えている。
【0016】
制御回路80は、制御装置6からの目標トルクτsおよび動作モードSmに基づいて、電力変換装置8から出力されるU,V,W相の各相の電流を所定の値に制御するためのPWM(Pulse Width Modulation)信号pwmを生成する。なお、制御回路80の詳細は後述する。ドライバ回路81は、制御回路80が出力するPWM信号pwmに基づいて、電力変換回路82に設けられた複数のパワー半導体のオン/オフを切り替えるための駆動信号を出力する。
【0017】
直流電圧センサ83は、直流電源5の出力電圧を測定するセンサであり、測定した電圧値を直流電圧センサ値Vdcとして制御回路80に出力する。交流電流センサ84は、モータ9の各相(U相、V相、W相)に流れる交流電流を測定するセンサである。交流電流センサ84が測定した各相の交流電流値は、交流電流センサ値Iu,Iv,Iw(以下では、単に電流Iu,Iv,Iwと呼ぶことにする)として制御回路80に入力される。なお、図2に示す例では、交流電流センサ84は各相に1つずつセンサを備えているが、2相分のみに設けても良い。「U相電流+V相電流+W相電流=0」の関係が成り立つので、2相にセンサを設ける構成の場合には、制御回路80において残り1相分の交流電流センサ値を計算によって算出する。
【0018】
電力変換回路82は、ドライバ回路81からの駆動信号を受けて内部のパワー半導体を駆動し、モータ9に流れる電流を制御する。図3は、電力変換回路82の構成の一例を示す図である。電力変換回路82は、内部に平滑コンデンサ821と6つのパワー半導体822を有する。相(U相、V相、W相)ごとに、上アームおよび下アームを構成する2つのパワー半導体822がそれぞれ設けられている。各相の上下アームの出力端子は、モータ9の対応する相の巻き線に接続される。
【0019】
パワー半導体822はドライバ回路81から入力される駆動信号に応じてオン/オフを切り替え、直流電力と交流電力の変換を行う。このパワー半導体822には、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などが該当する。図3に示す例では、パワー半導体822としてIGBTを用いている。
【0020】
平滑コンデンサ821は、パワー半導体822のオン/オフによって生じる電流を平滑化し、直流電源5から電力変換回路82へ供給される直流電流のリップルを抑制するためのコンデンサである。平滑コンデンサ821には、例えば電解コンデンサやフィルムコンデンサが使用される。
【0021】
なお、本実施形態では、モータ中性点は浮遊状態であるが、グラウンド(図示せず)と接続しても良い。モータ中性点をグラウンドと接続する際の方法には、直接接地方式、抵抗接地方式、補償リアクトル接地方式、消弧リアクトル接地方式がある。
【0022】
図4は、制御回路80の機能の詳細を示す制御ブロック図である。制御回路80は内部に不図示のCPU、RAM、ROM、通信回路等を備えている。CPUは、ROMに格納されているプログラムをRAMに展開して実行することにより後述する各部の機能を実現する。ROMは、電気的に書き換え可能なEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)やフラッシュROMでも良い。
【0023】
制御回路80は、状態制御部801、目標電流計算部802、電流制御部803、PWM信号生成部804、モータ速度計算部805および診断部806を有する。制御回路80は、外部の制御装置6と通信を行い、上述した動作モードSmや目標トルクτsを制御装置6から受け取る。また、制御回路80は、動作モードSmおよび目標トルクτsに基づいてPWM信号pwmを制御し、図2に示したドライバ回路81を介して電力変換回路82を駆動させる。また、制御回路80は、内部に故障が発生したと判断した場合、図2に示した外部の制御装置6および故障通知装置7に対して故障通知信号Sfを出力する。
【0024】
モータ速度計算部805は、モータ角度センサ値θmに基づいてモータ角速度ω0を計算する。計算したモータ角速度ω0は、目標電流計算部802および診断部806に入力される。
【0025】
状態制御部801は、動作モードSmと診断部806が出力する故障通知信号Sfとを用いて電力変換装置8の動作状態を遷移させ、現在の動作状態をPWM信号生成部804に出力する。動作状態の例としては、例えばPWM状態、3相短絡状態、3相開放状態などが挙げられる。
【0026】
目標電流計算部802は、目標トルクτs、直流電圧センサ値Vdcおよびモータ角速度ω0を用いて、モータ9が目標トルクτsと同じトルクを出力するために必要な目標電流値を計算する。目標電流値は電流制御部803に出力される。目標電流値は、例えば、d軸目標電流値とq軸目標電流値の形で表される。
【0027】
電流制御部803は、目標電流値、電流Iu,Iv,Iw、モータ角度センサ値θm、直流電圧センサ値Vdcを用いて、モータ9を流れる交流電流が目標電流値に追従するようにフィードバック制御を行い、PWM制御における3相分のデューティ値Du,Dv,Dwを計算する。そして、デューティ値Du,Dv,Dwは、PWM信号生成部804に入力される。
【0028】
PWM信号生成部804は、状態制御部801から出力される動作状態に応じて、ドライバ回路81に出力する信号を切り替える。PWM信号生成部804は内部にタイマ(図示せず)を有しており、動作状態がPWM状態である場合には、このタイマ値と電流制御部803が出力する各相のデューティ値Du,Dv,Dwを用いてPWM信号pwmを生成する。そして、PWM信号生成部804は、生成したPWM信号pwmを図2に示すドライバ回路81へ出力する。
【0029】
一方、動作状態が3相開放状態である場合は、電力変換回路82内の6個のパワー半導体822(図3参照)をすべてオフにするPWM信号pwmを生成する。また、動作状態が3相短絡状態である場合は、電力変換回路82内の6個のパワー半導体822の内、上アームのパワー半導体822をすべてオフにし、下アームのパワー半導体822をすべてオンにするPWM信号pwm、あるいは、上アームのパワー半導体822をすべてオンにし下アームのパワー半導体822をすべてオフにするPWM信号pwmを生成する。生成されたPWM信号pwmはドライバ回路81へ出力される。
【0030】
診断部806は、電流Iu,Iv,Iw、モータ速度計算部805で算出されたモータ角速度ω0および目標電流計算部802で算出された目標電流値に基づいて、電力変換装置8内部の故障を診断する。診断の結果、故障を検知した場合には、診断部806は、故障箇所の内容を故障通知信号Sfとして状態制御部801や外部の制御装置6および故障通知装置7に出力する。
【0031】
(オープン故障診断の処理)
図5は、診断部806により実行されるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。診断部806は、図5に示す一連の処理を一定の時間周期で繰り返し実行する。
【0032】
ステップS100では、診断部806は、目標電流計算部802から入力された目標電流値が閾値Th1より大きいか否かを判定する。ステップS100において、目標電流値が閾値Th1より大きいと判定されるとステップS101へ進み、目標電流値が閾値Th1以下であると判定されると図5の診断処理を終了する。
【0033】
ステップS101では、相毎のループ処理を開始する。図5のフローチャートにおいて、ステップS101からステップS113までのループ処理は、U相、V相、W相の相毎にそれぞれ行われる。以下では、U相に関して説明し、V相およびW相に関する説明は省略する。
【0034】
ステップS102では、診断部806は、U相の電流Iuの絶対値(図5では|電流|と表す)が閾値Th2よりも小さいか否かを判定する。ステップS102において電流Iuの絶対値が閾値Th2よりも小さいと判定されると、ステップS104へ進む。一方、電流Iuの絶対値が閾値Th2以上であると判定されると、ステップS106へ進む。
【0035】
電流Iuが|Iu|<Th2であってステップS104へ進んだ場合には、診断部806は、ステップS104においてU相の故障検知カウンタCに、電流の周波数に応じた所定加算量を加算する。一方、電流Iuが|Iu|≧Th2であってステップS106へ進んだ場合には、診断部806は、ステップS106においてU相の故障検知カウンタCから、電流の周波数に応じた所定減算量を減算する。
【0036】
ここで、ステップS104の所定加算量およびステップS106の所定減算量は、電流の周波数に比例した値とする。すなわち、電流の周波数が高いほど、所定加算量および所定減算量を大きく設定する。電流の周波数はモータ速度に比例するので、モータ速度計算部805で算出されたモータ角速度ω0に基づいて所定加算量および所定減算量を設定する。その場合、モータ角速度ω0から電流周波数を算出しても良いし、所定加算量および所定減算量をモータ角速度ω0自体に比例した値としても良い。もちろん、入力された電流Iu,Iv,Iwから電流の周波数を算出するようにしても良い。
【0037】
ステップS104およびステップS106の処理が終了すると、ステップS108へ進む。ステップS108では、診断部806は、U相の故障検知カウンタCが閾値Th3を超えているか否かを判定する。故障検知カウンタが閾値Th3を超えている場合には、ステップS110へ進んでU相のパワー半導体822がオープン故障していると診断する。一方、故障検知カウンタCが閾値Th3を超えていない場合には、ステップS112へ進んでU相のパワー半導体822は正常であると診断する。
【0038】
ステップS110およびステップS112の処理が終了すると、ステップS113へ進む。ステップS113ではU相のループ処理を完了し、その後、ステップS101へ戻ってV相に関するループ処理を実行する。そして、V相に関するループ処理が完了したならば、再びステップS101へ戻ってW相に関するループ処理を実行する。説明は省略するが、V相およびW相に関しても、U相の場合と同様の処理がステップS102~S112において実行される。
【0039】
図6は、オープン故障診断処理におけるタイミングチャートの一例であり、U相を例に示した。信号波形(a),(b)は、電流Iuの周波数が低い場合の例を示したものである。信号波形(a)の実線は電流Iuの変化を示す。信号波形(b)の実線は故障検知カウンタCの変化を示す。一方、信号波形(c),(d)は電流Iuの周波数が高い場合の例を示したものである。信号波形(c)の実線は電流Iuの変化を示す。信号波形(d)の実線は故障検知カウンタCの変化を示す。いずれの信号波形の場合も、横軸は時間tである。
【0040】
図6に示す例では時刻t1にオープン故障が発生している。時刻t1より以前の正常時には、モータ9には正弦波状の電流が流れる。しかし、時刻t1にU相のパワー半導体822にオープン故障が発生すると、U相においては正負いずれかの方向に電流が流れなくなる。図6はU相の上アームのパワー半導体822がオープン故障である場合を示したもので、正方向に電流が流れなくなっている。
【0041】
正常時であっても、信号波形(a),(c)に示すように、電流Iuの絶対値が閾値Th2未満である時間帯は存在する。しかし、閾値Th2未満となる時間帯は電流Iuの1周期に比べて短いので、故障検知カウンタCは閾値Th3を超えることがない。一方、パワー半導体822のオープン故障が発生すると電流Iuが正方向に流れなくなり、その状態が続く約1/2周期の間は、電流Iuの値はほぼ0[A]になる。電流Iuの値がほぼ0[A]となる状態においては、電流Iuの絶対値は閾値Th2未満であるため、常にステップS102からステップS104へと進み、故障検知カウンタCの加算が繰り返される。そして、故障検知カウンタCが閾値Th3を超えた(C>Th3)時点(時刻t2)で、診断部806はパワー半導体822がオープン故障していると診断する。
【0042】
本実施形態では、図5のステップS104およびS106で説明したように、電流の周波数が高いほど故障検知カウンタCの加減算量を大きく設定するようにしている。ここで、比較例として、故障検知カウンタCの加減算量を電流の周波数によらず一定とした場合を考える。図6の信号波形(b),(d)に示す一点鎖線のラインL1,L2は比較例の場合を示している。
【0043】
信号波形(a),(c)に示すように、正常時に閾値Th2未満となる時間帯は電流Iuの周波数が低いほど長い。診断処理は電流Iuの周波数によらず一定周期で実施される。そのため、信号波形(c)のように電流Iuの周波数が高い場合であっても、時刻t1に故障が発生してほぼ1/2周期が経過するまでに故障検知カウンタCが閾値Th3を超えるように、故障検知カウンタCの加減算量を設定する必要がある。このように、加減算量を設定した場合、比較例の場合の加減算量は周波数によらず一定なので、信号波形(a)のように電流Iuの周波数が低い場合には、正常時における故障検知カウンタCはラインL1で示すようになる。その結果、比較例の加減算量設定方法の場合には、正常時においても、パワー半導体822がオープン故障していると誤診断されてしまうことになる。
【0044】
逆に、電流Iuの周波数が低い場合において、オープン故障発生時に1/2周期以内に故障が検知され、正常時にオープン故障の誤診断が発生しないように故障検知カウンタCの加減算量を設定した場合を考える。すなわち、電流Iuの周波数によらず、図6の信号波形(b)の実線で示すように故障検知カウンタCの加減算量に設定する。そのように設定すると、信号波形(c)のように電流Iuの周波数が高い場合には、オープン故障発生後の故障検知カウンタCは信号波形(d)のラインL2で示すようになる。その結果、故障検知カウンタCが閾値Th3に到達できず、パワー半導体822のオープン故障を検知できない可能性がある。
【0045】
一方、第1の実施形態では、電流の周波数が高いほど故障検知カウンタCの加減算量を大きく設定するようにしている。そのため、図6の信号波形(b),(d)の実線で示すように、オープン故障発生時において電流変化の1/2周期内で故障検知カウンタCが閾値Th3に到達し、かつ、正常時において故障検知カウンタCが閾値Th3に到達しないように、故障検知カウンタCの加減算量を設定することが可能となる。その結果、電流の周波数の高低によらず安定したオープン故障診断を行うことができる。
【0046】
また、ステップS100の処理を行うことにより、目標電流値が閾値Th1以下である場合には、オープン故障診断の処理を実施しないようにしている。例えば、ステップS100の処理を設けない場合には、オープン故障が発生していない場合であっても、モータ9を流れる電流の絶対値が閾値Th2よりも小さい場合には、故障検知カウンタCが閾値Th3を超えてオープン故障と誤診断されるおそれがある。そのため、本実施形態では、ステップS100の処理を行うことにより、そのような誤診断を回避することができる。
【0047】
なお、モータ9に電流をどの程度流すかは、目標トルクτsとモータ速度(すなわち、モータ角速度ω0)によって決まる。そのため、ステップS100の判定処理において、目標電流値を使用する代わりに、目標トルクτsとモータ角速度ω0を使用して判定を行っても良い。
【0048】
上述したように、第1の実施形態では、電流の周波数が高いほど故障検知カウンタCの加減算量を大きく設定することにより、モータ回転速度(すなわち、電流の周波数)の高低によらず、パワー半導体822のオープン故障を検知することができる。さらに、第1の実施形態では、モータ回転速度の高低によらず電流Iuの約1/2周期の期間内でオープン故障が検知されるので、素早い故障検知を行うことができる。
【0049】
(第2の実施形態)
図7~9を参照して、本発明の駆動装置の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態においても、図1に示す車両1に搭載される駆動装置2を例に説明する。なお、駆動装置2の概略構成、駆動装置2の電力変換装置8に設けられた電力変換回路82の構成、および、電力変換装置8に設けられた制御回路80の構成は、上述した第1の実施形態の図2,3,4に示す構成と同様である。
【0050】
図7,8は、制御回路80の診断部806(図4参照)により実行されるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。診断部806は、図7に示す処理および図8に示す処理を、それぞれ一定の時間周期で繰り返し実行する。なお、図7,8の処理の実行周期は同一でも良いし、異なっていても良い。
【0051】
まず、図7のフローチャートについて説明する。図7のフローチャートにおいて、ステップS100,S101,S102,S104,S106およびS113の処理は、図5に示したフローチャートの同一符号を付したステップと同一の処理を行う。以下では、上述した第1の実施形態と異なる部分を主に説明し、第1の実施形態と同一の部分については説明を省略する。また、ステップS101で開始される相単位のループ処理の内、U相に関する処理について説明する。
【0052】
図7のステップS104またはステップS106の処理が終了すると、ステップS200へ進む。ステップS200では、診断部806は、U相の故障検知カウンタCが閾値Th3Aを超えているか否かを判定する。ステップS200でC>Th3Aと判定されると、ステップS202へ進んでU相の異常フラグをセットする。一方、ステップS200でC≦Th3Aと判定されると、ステップS204へ進んでU相の故障検知カウンタCが閾値Th3Bを下回っているか否かを判定する。ステップS204でC<Th3Bと判定されると、ステップS206へ進んでU相の異常フラグをリセットする。一方、ステップS204でC≧Th3Bと判定されるとステップS113へ進む。なお、閾値Th3BはTh3B<Th3Aのように設定される。
【0053】
ステップS113ではU相のループ処理を完了し、その後、ステップS101へ戻ってV相に関するループ処理を実行する。そして、V相に関するループ処理が完了したならば、再びステップS101へ戻ってW相に関するループ処理を実行する。説明は省略するが、V相およびW相に関しても、上述したU相の場合と同様の処理が実行される。
【0054】
次に、図8のフローチャートについて説明する。ステップS300では、診断部806は、各相の内のいずれかの相の異常フラグがセットされているか否かを判定する。ステップS300でセットされていると判定されると(yes)、ステップS302へ進みデバウンスカウンタCdを加算する。一方、全ての相の異常フラグがリセット状態の場合には、ステップS300でnoと判定されてステップS304へ進み、デバウンスカウンタCdを減算する。
【0055】
ステップS306では、診断部806は、デバウンスカウンタCdが閾値Th4を超えているか否かを判定する。ステップS306でCd>Th4と判定されると、ステップS308へ進んでパワー半導体822がオープン故障していると診断する。一方、ステップS306でCd≦Th4と判定されると、パワー半導体822は正常であると診断する。
【0056】
図9は、第2の実施形態におけるオープン故障診断処理のタイミングチャートの一例を示したものであり、U相を例に示した。信号波形(a)の実線は電流Iuの変化を示し、信号波形(b)の実線は故障検知カウンタCの変化し、信号波形(c)の実線は異常フラグの変化を示し、信号波形(d)の実線はデバウンスカウンタCdの変化を示す。いずれの信号波形の場合も、横軸は時間tである。
【0057】
図9の場合も、図6の場合と同様に時刻t1においてオープン故障が発生している。時刻t1にU相の上アームのパワー半導体822にオープン故障が発生し、それ以降、正方向に電流が流れなくなっている。時刻t1以降は電流Iuがゼロの状態がしばらく続くので、故障検知カウンタCは加算されて増加する。そして、時刻t2に故障検知カウンタCが閾値Th3Aを超えると、異常フラグがセットされる。その後、電流IuがIu≦-Th2となると故障検知カウンタCが減算され、Th2>Iu>-Th2となると故障検知カウンタCが加算される。その結果、故障検知カウンタCは、信号波形(b)に示すように増加、減少を繰り返す。
【0058】
図9では、区間(Th2>Iu>-Th2)における故障検知カウンタCの増加量が区間(Iu≦-Th2)における減少量よりも大きくなるように、ステップS104における加算量およびステップS106における減算量が設定されている。その結果、故障検知カウンタCの増加→減少、減少→増加の折り返し点は徐々に図示上方に移動し、故障検知カウンタCはC≧Th3の状態が維持されて異常フラグのセット状態が維持される。
【0059】
異常フラグがセット状態(時刻t2)となった後の時刻t3に、図8のステップS300が実行されると、ステップS302の処理が行われ、信号波形(d)に示すようにデバウンスカウンタCdが加算される。その後、一定の時間周期で図8の処理が繰り返される度に、デバウンスカウンタCdが加算される。そして、時刻t4にデバウンスカウンタCdが閾値Th4を超えると、図8のステップ308が実行されてオープン故障と診断される。
【0060】
上述したように、第2の実施形態では、故障検知カウンタCが閾値Th3Aを超えた場合に異常フラグをセットし、この異常フラグのセット状態は故障検知カウンタCが閾値Th3Bを下回るまで継続する。そして、デバウンスカウンタCdの加減算を異常フラグの状態に基づいて実行することで、デバウンスカウンタCdの処理タイミングによらず安定して故障か正常かの診断を行うことができる。
【0061】
前述した第1の実施形態の場合には、電流Iuの約1/2周期のあいだ電流が流れない状態が発生すると、故障検知カウンタCが閾値Th3を超えてオープン故障が検知されるので、素早くオープン故障を検知することができる。一方、第2の実施形態では、上述のような異常フラグに基づくデバウンスカウンタCdを導入することにより、ノイズなどの偶発的影響による誤検知の発生を回避して、オープン故障診断の安定性向上を図っている。図9に示す例では、電流Iuが流れない状態の発生がほぼ3周期続いた場合に、Cd>Th4となりオープン故障と診断される。このオープン故障と判定されるまでの時間は図8の処理の実行周期に依存するので、実行周期をより短くすることで診断処理時間をより短くすることができる。
【0062】
なお、信号波形(b)からも分かるように、パワー半導体822のオープン故障発生時は、電流Iuの1周期の内の約1/2周期は電流が流れなくなり、約1/2周期は電流が流れる。そのため、故障検知カウンタCの値(すなわち加算量および減算量の積算値)は、加算の後の減算によって0に近い値となる場合がある。そのため、閾値Th3Bの設定によっては、パワー半導体822のオープン故障が発生しているにもかかわらず故障検知カウンタCが閾値Th3Bを下回って、異常フラグがリセットされてしまうことがある。
【0063】
そこで、故障検知カウンタCが閾値Th3Aを上回って異常フラグがセットされた際(図9の時刻t2)に、故障検知カウンタCをさらに一定数ΔCだけ加算する。そうすることで、時刻t2以降の故障検知カウンタCのラインが一定数ΔCだけ図示上方にシフトする。その結果、オープン故障発生時における異常フラグのリセットが防止され、オープン故障を見逃す可能性を低減できる。
【0064】
(第3の実施形態)
図10,11を参照して、本発明の駆動装置の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態においても、図1に示す車両1に搭載される駆動装置2を例に説明する。なお、駆動装置2の概略構成、駆動装置2の電力変換装置8に設けられた電力変換回路82の構成、および、電力変換装置8に設けられた制御回路80の構成は、上述した図2,3,4に示す構成と同様である。
【0065】
図10は、診断部806により実行されるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。診断部806は、図10に示す一連の処理を一定の時間周期で繰り返し実行する。図10のフローチャートは、図5に示したフローチャートにステップS400を追加したものである。以下では、上述した第1の実施形態と異なる部分を主に説明し、第1の実施形態と同一の部分については説明を省略する。また、ステップS101で開始される相単位のループ処理の内、U相に関する処理について説明する。
【0066】
図10のステップS400では、診断部806は、閾値Th2を電流Iuの周波数に応じた値に設定する。具体的には、電流Iuの周波数が高いほど、閾値Th2を大きく設定する。なお、電流の周波数はモータ速度に比例するので、ここでは、モータ速度計算部805で算出されたモータ角速度ω0に基づいて閾値Th2を設定する。その場合、モータ角速度ω0から電流周波数を算出しても良いし、閾値Th2をモータ角速度ω0自体に比例した値としても良い。もちろん、入力された電流Iu,Iv,Iwから電流の周波数を算出するようにしても良い。
【0067】
ステップS102では、ステップS400で設定した閾値Th2を用いて、電流Iuの絶対値が閾値Th2を超えているか否かを判定する。ステップS102以降の処理は図5に示したフローチャートの場合と同様であり、説明を省略する。また、V相およびW相に関する処理も、U相の場合と同様に行われる。
【0068】
図11は、パワー半導体822のオープン故障が発生している場合の電流波形を示したものであり、電流波形(a)はモータ速度が低い場合の波形を示し、電流波形(b)はモータ速度が高い場合の波形を示す。いずれ場合も、横軸は時間である。パワー半導体822のオープン故障が発生すると、電流の約1/2周期の区間においては故障した相に電流が流れなくなる。
【0069】
ところが、モータ速度が高い場合には、モータ9が発生する逆起電力の影響により電流(リプル電流)が流れることがある。そのため、オープン故障診断において電流の大小を判定する閾値Th2が常に一定であると、モータ速度が高い場合にオープン故障を正しく診断できないおそれがある。第3の実施形態では、図11の電流波形(a),(b)に示すように、モータ速度が高いほど閾値Th2を大きく設定することで誤診断を回避し、モータ速度の高低によらず安定したオープン故障診断を行うことができる。
【0070】
(第4の実施形態)
図12,13を参照して、本発明の駆動装置の第4の実施形態について説明する。第4の実施形態においても、図1に示す車両1に搭載される駆動装置2を例に説明する。なお、駆動装置2の概略構成、駆動装置2の電力変換装置8に設けられた電力変換回路82の構成、および、電力変換装置8に設けられた制御回路80の構成は、上述した図2,3,4に示す構成と同様である。
【0071】
図12は、診断部806により実行されるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。診断部806は、図12に示す一連の処理を一定の時間周期で繰り返し実行する。図12のフローチャートは、第1の実施形態の図5に示したフローチャートのステップS102に代えてステップS500,S502を追加したものである。以下では、上述した第1の実施形態と異なる部分を主に説明し、第1の実施形態と同一の部分については説明を省略する。また、ステップS101で開始される相単位のループ処理の内、U相に関する処理について説明する。
【0072】
ステップS500では、診断部806は、正常時の電流が流れる向きすなわち電流方向が正方向か負方向かに応じて、図13に示すように上限側の閾値Th2Aおよび下限側の閾値Th2Bを設定する。図13は、オープン故障が発生している場合の電流Iuの波形を示す図であり、破線で閾値Th2Aのラインを示し、一点鎖線で閾値Th2Bのラインを示した。なお、図13では、図11の電流波形(b)に示すモータ速度が高い場合の電流波形を示した。正常時に正の電流が流れる期間R1において、0[A]付近の電流もしくは負の電流が流れている。
【0073】
図13の図示右側に示した実線ラインが、第1の実施の形態における閾値Th2、-Th2である。正常時に正方向の電流が流れる期間R1では、閾値Th2AはTh2A=Th2と設定され、閾値Th2Bは-Th2よりもマイナス方向に大きな値(Th2B<-Th2<0)に設定される。一方、正常時に負方向の電流が流れる期間R2では、閾値Th2AはTh2よりもプラス方向に大きな値(Th2A>Th2>0)に設定され、閾値Th2BはTh2A=-Th2と設定される。
【0074】
正常時の各相の電流値(Iu、Iv、Iw)は、電流目標値(Id、Iq)と電気角(θ)から式(1)を用いて計算することができる。式(1)において、Idはd軸目標電流値、Iqはq軸目標電流値、θは電気角、IuはU相電流、IvはV相電流、IwはW相電流を示す。電気角θはモータ角度センサ値θmにモータ9の極対数を掛けることで計算できる。ここで計算した各相の電流値(Iu、Iv、Iw)の正負から、各相の電流の方向を判断する。
【数1】
【0075】
ステップS502では、診断部806は、電流Iuが「閾値Th2A>電流Iu>閾値Th2B」を満たしているか否かを判定する。ステップS502で「閾値Th2A>電流Iu>閾値Th2B」であると判定されると、ステップS104に進んでU相の故障検知カウンタCを所定加算量だけ加算する。一方、ステップS502で「閾値Th2A>電流Iu>閾値Th2B」でないと判定されると、ステップS106に進んで故障検知カウンタCから所定減算量だけ減算する。なお、ステップS108以降の処理は図5に示したフローチャートの場合と同様であり、説明を省略する。また、V相およびW相に関する処理も、U相の場合と同様に行われる。
【0076】
前述した第3の実施形態では、図11の電流波形(a),(b)に示すように、モータ速度が高いほど閾値Th2を大きく設定することで誤診断を回避した。一方、第4の実施の形態では、図13に示すように期間R1でマイナス方向のリプル電流が生じていても、この期間R1(正常時に正方向の電流が流れる期間)において、閾値Th2Bがマイナス方向に大きく設定されているので誤診断を回避することができる。その結果、モータ速度の高低によらず安定したオープン故障診断を行うことができる。
【0077】
(第5の実施形態)
図14,15を参照して、本発明の駆動装置の第5の実施形態について説明する。第5の実施形態においても、図1に示す車両1に搭載される駆動装置2を例に説明する。なお、駆動装置2の概略構成、駆動装置2の電力変換装置8に設けられた電力変換回路82の構成、および、電力変換装置8に設けられた制御回路80の構成は、上述した図2,3,4に示す構成と同様である。
【0078】
図14は、診断部806により実行されるオープン故障診断処理の一例を示すフローチャートである。診断部806は、図14に示す一連の処理を一定の時間周期で繰り返し実行する。図14のフローチャートは、第1の実施形態の図5に示したフローチャートのステップS104,S106に代えてステップS600,S602を追加し、さらに、ステップS604を新たに加えたものである。以下では、上述した第1の実施形態と異なる部分を主に説明し、第1の実施形態と同一の部分については説明を省略する。また、ステップS101で開始される相単位のループ処理の内、U相に関する処理について説明する。
【0079】
ステップS102において電流Iuの絶対値が閾値Th2よりも小さいと判定されると、ステップS600へ進んでU相の故障検知カウンタCに一定値の加算量を加算する。一方、ステップS102において電流Iuの絶対値が閾値Th2以上であると判定されると、ステップS602へ進んでU相の故障検知カウンタCから一定値の減算量を減算する。
【0080】
ステップS604では、電流の周波数に応じた閾値Th3を設定する。詳細は後述するが、電流の周波数が高いほど閾値Th3を小さく設定する。前述した第1の実施形態で記載したように、電流の周波数はモータ速度に比例するので、モータ速度計算部805で算出されたモータ角速度ω0に基づいて閾値Th3を設定する。その場合、モータ角速度ω0から電流周波数を算出しても良いし、閾値Th3をモータ角速度ω0自体に比例した値としても良い。もちろん、入力された電流Iu,Iv,Iwから電流の周波数を算出するようにしても良い。
【0081】
なお、ステップS108以降の処理は図5に示したフローチャートの場合と同様であり、説明を省略する。また、V相およびW相に関する処理も、U相の場合と同様に行われる。
【0082】
図15は、第1の実施形態の図6に相当するタイミングチャートである。信号波形(a),(b),(c)は図6に示した信号波形(a),(b),(c)と同一のものであり、信号波形(d)は図6の信号波形(d)と異なる。信号波形(a),(b)は電流Iuの周波数が低い場合の例を示したもので、信号波形(a)の実線は電流Iuの変化を示し、信号波形(b)の実線は故障検知カウンタCの変化を示す。一方、信号波形(c),(d)は電流Iuの周波数が高い場合の例を示したもので、信号波形(c)の実線は電流Iuの変化を示し、信号波形(d)の実線は故障検知カウンタCの変化を示す。
【0083】
第5の実施形態では、故障検知カウンタCの加算量および減算量を一定値に設定しているので、信号波形(b)における故障検知カウンタCのラインの傾きも、信号波形(d)における故障検知カウンタCのラインの傾きも同じになっている。一方、信号波形(a)と信号波形(c)とを比較すると、電流周波数が高い信号波形(c)の方が1周期当たりの故障検知カウンタCの加算期間および減算期間が短いので、その間の故障検知カウンタCの増加量および減少量も小さい。
【0084】
そこで、電流周波数が低い場合は、正常時でも電流Iuの絶対値が閾値Th2の範囲内に入っている時間が長くなるので、誤診断を防止するために閾値Th3の値を大きく設定する。一方、電流周波数が高い場合では、オープン故障時に電流Iuが流れなくなる期間が短くなる。その場合でも故障検知が可能なように、閾値Th3の値を電流Iuの周波数が高い場合よりも小さく設定する。その際、加算量とオープン故障時における約1/2周期の期間内における加算回数とを考慮して、約1/2周期の期間内において故障検知カウンタCが閾値Th3に到達するように、閾値Th3の大きさを設定する。
【0085】
このように、加算量および減算量を一定値に設定する第5の実施形態では、閾値Th3の大きさを電流周波数に応じて変化させることで、モータ速度の大小(電流周波数の高低)に関わらずパワー半導体822のオープン故障を検知することができるとともに、正常時における誤検知を防止することができる。
【0086】
前述した第1の実施形態では、電流周波数に応じて故障検知カウンタCの加算量・減算量を変化させることで、電流周波数の高低によらずオープン故障を検知することを可能とした。一方、第5の実施形態では、電流周波数に応じて閾値Th3の大きさを変化させることで、電流周波数の高低によらずオープン故障を検知することを可能とした。
【0087】
図16は、第1の実施形態と第5の実施形態とを比較するための信号波形を示したものである。図16において、信号波形(a)はモータ速度の変化を表し、信号波形(b)は正常時の電流波形を表し、信号波形(c)は第5の実施形態における故障検知カウンタCの変化を表し、信号波形(d)は第1の実施形態における故障検知カウンタCの変化を表す。信号波形(c),(d)においては、各実施形態における閾値Th3も示した。なお、図16に示す例では、モータ速度が低い状態で電流の絶対値が閾値Th2未満の状態が長時間継続し、その後、モータ速度が高くなり電流値が閾値Th2以上になった場合を示している。
【0088】
第1の実施形態の場合には、モータ速度が低い状態で電流値が閾値Th2未満の状態が継続しても、信号波形(d)に示すように故障検知カウンタCは少しずつしか加算されない。一方、モータ速度が高くなると、閾値Th2以上になる期間は電流値が閾値Th2未満となる期間よりも長くなり、故障検知カウンタCが大きく減算される。そのため、故障検知カウンタは閾値Th3に到達せず、オープン故障と誤診断することは無い。
【0089】
第5の実施形態の場合には、モータ速度が低い状態(電流周波数が低い状態)では閾値Th3が大きく設定され、モータ速度の増加に従って急激に減少している。また、電流値が閾値Th2未満の状態における故障検知カウンタCの増加は、加算量を低周波数では大きく設定する第1の実施形態に比べて大きい。電流振幅が閾値Th2を超える状態になると、故障検知カウンタCの減算期間は加算期間よりも長いので、大局的には故障検知カウンタCは減少傾向となる。
【0090】
その場合、信号波形(c)に示すように、故障検知カウンタCは減少量よりも閾値Th3の減少量の方が大きい。そのため、モータ速度が増加すると故障検知カウンタCが閾値Th3よりも大きい状態となり、オープン故障と誤診断されてしまう。このように、第1の実施形態の診断方法の方が、第5の実施形態の診断方法と比べて、モータ速度が変化した場合の誤診断の発生を低く抑えることができる。
【0091】
以上説明した本発明の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0092】
(C1)図2~6,14,15等に示すように、スイッチング素子(パワー半導体822)を備える三相インバータ回路(電力変換回路82)の各相の出力電流を検出する電流検出部(交流電流センサ84)と、各相の出力電流に基づいて、パワー半導体822のオープン故障を診断する故障診断部(診断部806)と、を備え、診断部806は、出力電流の値が所定範囲内(|電流|<閾値Th2)である場合に所定加算量を加算し、出力電流の値が所定範囲内でない場合に所定減算量を減算することで相毎の故障検知カウンタCを演算し、故障検知カウンタCが第1カウンタ閾値(閾値Th3)を超えた場合にオープン故障と診断する。そして、診断部806は、出力電流の周波数が低いほど所定加算量および所定減算量をより小さい値に設定、または、出力電流の周波数が低いほど第1カウンタ閾値(閾値Th3)をより大きい値に設定する。
【0093】
上述した第1の実施形態のように、出力電流の周波数が低いほど所定加算量および所定減算量をより小さい値に設定することで、周波数の高低によらずオープン故障を検知することができる。また、第5の実施形態のように、出力電流の周波数が低いほど第1カウンタ閾値(閾値Th3)をより大きい値に設定することで、周波数の高低によらずオープン故障を検知することができる。さらに、出力電流の周波数(モータ回転速度)の高低によらず電流の約1/2周期の期間内でオープン故障の検知が可能となるので、素早い故障検知を行うことができる。
【0094】
(C2)上記(C1)において、図7~9等に示すように、診断部806は、出力電流の周波数が低いほど、所定加算量および所定減算量をより小さい値に設定し、故障検知カウンタCが所定のセット閾値(閾値Th3A)を上回る場合に故障フラグをセットし、前記故障検知カウンタが所定のリセット閾値(閾値Th3B)を下回る場合に故障フラグをリセットする。そして、診断部806は、故障フラグがセットされた状態ではデバウンスカウンタCdを加算し、故障フラグがリセットされた状態ではデバウンスカウンタCdを減算し、デバウンスカウンタCdが第2カウンタ閾値(閾値Th4)を超えた場合にオープン故障と診断する。
【0095】
上述のような異常フラグに基づくデバウンスカウンタCdを導入することにより、ノイズなどの偶発的影響による誤検知の発生を回避して、オープン故障診断の安定性向上を図ることができる。
【0096】
(C3)上記(C1)において、図10,11等に示すように、診断部806は、出力電流の周波数が低いほど所定加算量および所定減算量をより小さい値に設定し、出力電流の周波数が高いほど所定範囲を、すなわち、図11のTh2から-Th2までの幅を、より広く設定する。
【0097】
出力電流の周波数(すなわち、モータ速度)が高い場合には、モータ9が発生する逆起電力の影響によりリプル電流が発生しやすい。そのため、モータ速度が高いほど閾値Th2を大きく設定することで誤診断を回避し、モータ速度の高低によらず安定したオープン故障診断を行うことができる。
【0098】
(C4)なお、上記(C1)において、出力電流が入力される回転電機(モータ9)の回転速度(モータ速度)を検出する回転速度検出部(モータ角度センサ91)をさらに備え、回転速度が低いほど、所定加算量および所定減算量をより小さい値に設定し、回転速度が高いほど所定範囲の幅をより広く設定するようにしても良い。上述した(C3)の場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0099】
(5)上記(C1)において、図12,13等に示すように、診断部806は、出力電流の周波数が低いほど、所定加算量および所定減算量をより小さい値に設定し、交流電流センサ84で検出された出力電流に基づいて、オープン故障が生じていない正常な場合の電流の正負を推定する。そして、診断部806の推定結果が正の場合には、所定範囲(Th2B<所定範囲<Th2A)の内の負値側の範囲(Th2A~0)を正値側の範囲(0~Th2B)よりも大きく設定し、診断部806の推定結果が負の場合には、所定範囲(Th2B<所定範囲<Th2A)の内の正値側の範囲(0~Th2B)を負値側の範囲(Th2A~0)よりも大きく設定する。
【0100】
その結果、図13に示すように期間R1でマイナス方向のリプル電流が生じていても、この期間R1においては閾値Th2Bがマイナス方向に大きく設定されているので誤診断を回避することができる。その結果、モータ速度の高低(すなわち、出力電流の周波数の高低)によらず安定したオープン故障診断を行うことができる。
【0101】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【0102】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0103】
1…車両、2…駆動装置、5…直流電源、6…制御装置、7…故障通知装置、8…電力変換装置、9…モータ、80…制御回路、81…ドライバ回路、82…電力変換回路、83…直流電圧センサ、84…交流電流センサ、91…モータ角度センサ、801…状態制御部、802…目標電流計算部、803…電流制御部、804…PWM信号生成部、805…モータ速度計算部、806…診断部、822…パワー半導体、Sf…故障通知信号、Sm…動作モード、θm…モータ角度センサ値、τs…目標トルク、ω0…モータ角速度
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