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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176748
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】裏地付き生地又は裏地付き衣類
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/06 20190101AFI20241212BHJP
   D06M 11/48 20060101ALI20241212BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20241212BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20241212BHJP
   D03D 15/547 20210101ALI20241212BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20241212BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20241212BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20241212BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20241212BHJP
【FI】
A41D31/06 100
D06M11/48
D01F6/92 303B
D03D15/20 100
D03D15/547
D04B1/16
D04B21/16
A41D31/00 502C
A41D31/00 502B
A41D31/00 503G
A41D31/00 503F
A41D31/00 502E
A41D31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095528
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】寺田 暁
【テーマコード(参考)】
4L002
4L031
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA03
4L002AA05
4L002AA06
4L002AA07
4L002AB01
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002CA00
4L002DA00
4L002EA01
4L002FA01
4L031AA18
4L031AA20
4L031AB01
4L031BA09
4L035AA05
4L035BB34
4L035EE01
4L035EE07
4L035JJ29
4L035KK05
4L048AA11
4L048AA21
4L048AA24
4L048AA44
4L048AA56
4L048AB05
4L048AB07
4L048BA01
4L048CA10
4L048DA01
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】赤外線吸収性顔料を含む生地を用いた衣類において、光照射による外表面の温度上昇を、着用者が温感として感じ取ることができる、衣類又はそのための生地を提供すること。
【解決手段】赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物又は不織布を含む赤外線吸収性生地を表地として備え、公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地を裏地として備える、裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物又は不織布を含む赤外線吸収性生地を表地として備え、
公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地を裏地として備える、
裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項2】
前記赤外線吸収性生地における前記赤外線吸収性顔料の含有量が、前記赤外線吸収性生地の面積当たり、0.05g/m以上0.50g/m以下である、請求項1に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項3】
前記赤外線吸収性顔料が、
一般式M (1)
{式(1)中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y、及びzは、それぞれ正の数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、並びに
一般式W (2)
{式(2)中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表される、マグネリ相を有するタングステン酸化物
から成る群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項4】
前記赤外線吸収性編織物又は不織布が、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンから選択される繊維を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項5】
前記赤外線吸収性編織物又は不織布が、前記赤外線吸収性顔料を含む繊維から構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項6】
前記赤外線吸収性編織物又は不織布が、前記赤外線吸収性顔料を含む繊維、及び赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項7】
前記赤外線吸収性顔料を含まない繊維が、前記赤外線吸収性顔料を含む繊維から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、請求項6に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項8】
前記赤外線吸収性生地が、前記赤外線吸収性編織物又は不織布から構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項9】
前記赤外線吸収性生地が、前記赤外線吸収性編織物又は不織布、及び赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布から構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【請求項10】
前記赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布が、前記赤外線吸収性編織物又は不織布から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、請求項9に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性を有する裏地付き生地又は裏地付き衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線吸収性顔料を含む繊維は、太陽光等に含まれる近赤外線を熱に変換する機能を有する。このような繊維を用いて製造された衣類は、光照射によって発熱し、着用者とって快適な保温効果を有し得る。
【0003】
例えば、特許文献1には、複合タングステン酸化物粒子を、表面及び/又は内部に含有する近赤外線吸収繊維が記載されており、この繊維から製造されたニット生地が、太陽光を吸収して、裏面の温度を上昇させると説明されている。
【0004】
特許文献2には、タングステン系赤外線吸収性顔料及び結晶性の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む赤外線吸収性樹脂組成物が記載されており、この組成物が良好な紡糸特性を有し、この組成物から得られた布帛が良好な赤外線吸収性(盗撮防止性)を示すと説明されている。
【0005】
特許文献1及び2に記載の複合タングステン酸化物粒子又はタングステン系赤外線吸収性顔料は、可視光下における視認性が低いので、意匠性を損なうことなく、生地又は衣類に赤外線吸収性を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-132042号公報
【特許文献2】国際公開第2019/160109号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2の技術を利用して得られた衣類は、光照射によって保温効果を示すことから、防寒着等への適用が期待される。しかしながら、これらの衣類は、光照射によって外表面の温度が上昇しても、衣類内部では温度上昇を実感し難いとの欠点がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、赤外線吸収性顔料を含む生地を用いた衣類において、光照射による外表面の温度上昇を、着用者が温感として感じ取ることができる、衣類又はそのための生地の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のとおりである。
【0010】
《態様1》赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物又は不織布を含む赤外線吸収性生地を表地として備え、
公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地を裏地として備える、
裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様2》前記赤外線吸収性生地における前記赤外線吸収性顔料の含有量が、前記赤外線吸収性生地の面積当たり、0.05g/m以上0.50g/m以下である、態様1に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様3》前記赤外線吸収性顔料が、
一般式M (1)
{式(1)中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y、及びzは、それぞれ正の数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、並びに
一般式W (2)
{式(2)中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表される、マグネリ相を有するタングステン酸化物
から成る群から選択される1種以上を含む、態様1に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様4》前記赤外線吸収性編織物又は不織布が、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンから選択される繊維を含む、態様1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様5》前記赤外線吸収性編織物又は不織布が、前記赤外線吸収性顔料を含む繊維から構成されている、態様1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様6》前記赤外線吸収性編織物又は不織布が、前記赤外線吸収性顔料を含む繊維、及び赤外線吸収性顔料を含まない繊維から構成されている、態様1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様7》前記赤外線吸収性顔料を含まない繊維が、前記赤外線吸収性顔料を含む繊維から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、態様6に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様8》前記赤外線吸収性生地が、前記赤外線吸収性編織物又は不織布から構成されている、態様1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様9》前記赤外線吸収性生地が、前記赤外線吸収性編織物又は不織布、及び赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布から構成されている、態様1~3のいずれか一項に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
《態様10》前記赤外線吸収性顔料を含まない編織物又は不織布が、前記赤外線吸収性編織物又は不織布から前記赤外線吸収性顔料を除いた構成を有する、態様9に記載の裏地付き生地又は裏地付き衣類。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、赤外線吸収性顔料を含む生地を用いた衣類において、光照射による外表面の温度上昇を、着用者が温感として感じ取ることができる、衣類又はそのための生地が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《裏地付き生地又は裏地付き衣類》
本発明の裏地付き生地又は裏地付き衣類は、
赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物又は不織布を含む赤外線吸収性生地を表地として備え、
公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地を裏地として備える、
裏地付き生地又は裏地付き衣類である。
【0013】
表地の赤外線吸収性生地は、赤外線を吸収して発熱する機能を有する。裏地の公定水分率2.5質量%以上の繊維から構成された生地は、吸湿発熱性を有する。本発明の裏地付き生地又は裏地付き衣類は、表地の赤外線吸収発熱性と、裏地の吸湿発熱性との相乗効果により、光照射による外表面の温度上昇を、着用者が温感として感じ取ることができることになると考えられる。
【0014】
ただし、本発明は、特定の理論に拘束されない。
【0015】
本明細書において、「編織物」とは、布帛(織物)及びニット(編物)の双方を含む概念である。「不織布」とは、繊維を絡み合わせたシート状物を意味し、織物及び編物を含まない概念である。以下、繊維と編織物と不織布とをまとめて、「繊維製品」ということがある。
【0016】
以下、本発明の裏地付き生地又は裏地付き衣類を構成する要素について、説明する。
【0017】
〈表地〉
本発明の裏地付き生地又は裏地付き衣類における表地は、赤外線吸収性顔料を含む赤外線吸収性編織物又は不織布を含む赤外線吸収性生地である。
【0018】
(赤外線吸収性顔料)
本発明における表地に含まれる赤外線吸収性顔料は、赤外線、好ましくは近赤外線を吸収し、熱を発する性質を有するとともに、色調が明るく、本発明の赤外線吸収性繊維製品の意匠面での自由度を、過度に損なわないものであることが好ましい。
【0019】
このような赤外線吸収性顔料としては、例えば、
一般式M (1)
{式(1)中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、及びIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y、及びzは、それぞれ正の数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
で表される複合タングステン酸化物、
一般式W (2)
{式(2)中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
で表される、マグネリ相を有するタングステン酸化物
等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上を適宜選択して用いてよい。
【0020】
ここで、アルカリ金属元素とは、水素原子を除く周期律表第1族元素である。アルカリ土類金属元素とは、Be及びMgを除く周期律表第2族元素である。希土類元素とは、Sc、Y、及びタンタノイド元素である。
【0021】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、元素Mを含む。そのため、自由電子が生成され、この自由電子由来の吸収帯が近赤外波長領域に発現されるため、波長1,000nm付近の近赤外線を吸収して発熱する材料として、好適である。
【0022】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下であれば、微粒子含有層中における不純物相の生成を回避できるので好ましい。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であることが好ましく、この値は、0.85以下、0.5以下又は0.35以下であることが好ましい。x/yの値は、理想的には0.33である。
【0023】
特に、一般式(1)における元素Mが、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、及びSnのうちの1種以上である場合、近赤外線吸収性材料としての光学特性、及び耐候性が向上する観点から好ましく、MがCsである場合、特に好ましい。
【0024】
Cs(0.25≦x/y≦0.35、2.2≦z/Y≦3.0)の場合には、格子定数が、a軸は7.4060Å以上7.4082Å以下、かつc軸は7.6106Å以上7.6149Å以下であることが、近赤外領域の光学特性及び耐候性の面から好ましい。
【0025】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造から成るとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が向上し、かつ近赤外光波長領域の吸収が向上するので好ましい。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が向上し、近赤外光波長領域の吸収が向上する。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0026】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、より好ましくは0.30以上0.35以下であり、理想的には0.33である。x/yの値が0.33となることにより、添加元素Mが、六角形の空隙のすべてに配置されると考えられる。
【0027】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、シランカップリング剤で処理されていると、分散性、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性に優れるので好ましい。
【0028】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、化学的に安定であり、近赤外光波長領域の吸収特性も良いので、近赤外線吸収材料として好ましい。
【0029】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすことがより好ましい。
【0030】
なお、本発明における複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物の製造時に使用する原料化合物に由来して、当該複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物を構成する酸素原子の一部が、ハロゲン原子に置換されている場合がある。しかし、このことは、本発明の実施において問題はない。そこで、本発明における複合タングステン酸化物及びタングステン酸化物には、酸素原子の一部がハロゲン原子に置換している場合も含まれる。
【0031】
本発明における赤外線吸収性顔料は、近赤外光波長領域、特に波長1,000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる場合が多い。しかしながらこの発色は淡いため、当該赤外線吸収性顔料を含む本発明の赤外線吸収性繊維製品は、防寒衣料等の衣料品に適用したときに、好ましい意匠性を提供することができる。
【0032】
本発明の赤外線吸収性繊維製品における赤外線吸収性顔料の含有量については、後述する。
【0033】
(編織物又は不織布)
本発明の赤外線吸収性繊維製品(編織物又は不織布)は、赤外線吸収性顔料を含む繊維製品である。この繊維製品は、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、生成繊維、無機繊維等、及びこれらのうちの複数種類を含む混合糸等から構成される繊維製品であってよい。赤外線吸収性顔料の分散性、繊維製品の保温特性等を考慮すると、これらのうち、合成繊維から構成される繊維製品が好ましい。
【0034】
上記合成繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリエーテルエステル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維等が挙げられ、これらのうちから適宜選択して用いてよい。
【0035】
ポリエステル系繊維は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の繊維であってよい。
【0036】
ポリオレフィン系繊維は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の繊維であってよい。
【0037】
アクリル系繊維は、例えば、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル/塩化ビニル共重合体等から成る繊維であってよい。
【0038】
ポリアミド系繊維は、例えば、ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、アラミド等から成る繊維であってよい。
【0039】
本発明における繊維製品は、特に、ポリエチレンテレフタレート及びナイロンから選択される繊維を含むものであってよい。
【0040】
繊維製品がポリエチレンテレフタレート(PET)を含むとき、このPETは、ポリエチレンテレフタレートホモポリマー(PETホモポリマー)及び共重合ポリエチレンテレフタレート(共重合PET)のうちから選択される1種又は2種を含んでいてよい。PETホモポリマーの固有粘度は、0.60dL/g以上又は0.64dL/g以上であってよく、0.70dL/g以下であってよい。共重合PETの固有粘度は、0.60dL/g以上であってよく、1.30dL/g以下であってよい。また、共重合PETは、良好な物性を発現させる観点から、結晶性のものであってよい。
【0041】
繊維製品を構成する繊維は、任意の形状の断面を有していてよい。例えば、円形、多角形、偏平状、中空状、Y形、星形、芯鞘形等であってよい。
【0042】
繊維製品を構成する繊維は、短繊維であっても長繊維であってもよい。
【0043】
本発明における繊維製品は、例えば、
平織り、繻子織り、綾降り等の織物であってもよいし;
くさり編み、こま編み、うね編み、長編み、中長編み、引き抜き編み、トリコット等の編物(ニット)であってもよいし;
乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法等の適宜の方法で製造された不織布であってもよい。
【0044】
(赤外線吸収性編織物又は不織布)
赤外線吸収性繊維製品は、上記のような繊維製品の少なくとも一部に、赤外線吸収性顔料を含有させたものである。
【0045】
赤外線吸収性繊維製品における赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性繊維製品の面積当たり、0.05g/m以上0.50g/m以下であってよい。この値は、快適な発熱性を実現するためには、0.05g/m以上、0.06g/m以上、0.08g/m以上、0.10g/m以上、0.12g/m以上、0.15g/m以上、又は0.20g/m以上であってよい。一方で、赤外線吸収性顔料の色の視認性を制限し、得られる衣類における意匠の自由度を確保する観点から、赤外線吸収性繊維製品における赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性繊維製品の面積当たり、1.00g/m以下、0.80g/m以下、0.60g/m以下、0.50g/m以下、0.48g/m以下、0.46g/m以下、0.44g/m以下、0.42g/m以下、又は0.40g/m以下であってよい。
【0046】
赤外線吸収性繊維製品は、
赤外線吸収性顔料を含む繊維のみから構成されていてもよいし、
赤外線吸収性顔料を含む繊維と、赤外線吸収性顔料を含まない繊維とから構成されていてもよい。
【0047】
赤外線吸収性繊維製品が、赤外線吸収性顔料を含む繊維と、赤外線吸収性顔料を含まない繊維とから構成されている場合、赤外線吸収性顔料を含まない繊維は、赤外線吸収性繊維から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものであってもよいし、これとは別の素材から成るものであってもよい。しかしながら、衣類に適用したときに、意匠の自由度を確保するためには、赤外線吸収性顔料を含まない繊維は、赤外線吸収性繊維から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものであってよい。
【0048】
(赤外線吸収性編織物又は不織布の製造方法)
本発明における赤外線吸収性繊維製品は、公知の適宜の方法、又はこれに当業者による適宜の変更を加えた方法によって、製造されてよい。
【0049】
本発明における赤外線吸収性繊維製品は、例えば、
(1)赤外線吸収性繊維の編加工によって、編物を得る方法;
(2)赤外線吸収性繊維、又は赤外線吸収性繊維と赤外線吸収性顔料を含まない繊維との製織によって、織物を得る方法;
(3)赤外線吸収性繊維、又は赤外線吸収性繊維と赤外線吸収性顔料を含まない繊維とを用いて、フリース形成法、フリース結合法等の適宜の手段によって、不織布を得る方法;
(4)赤外線吸収性顔料を含まない繊維製品に、赤外線吸収性顔料を含む塗工液を塗布する方法;
等の方法によって製造されてよい。
【0050】
(4)の方法に用いる塗工液は、例えば、赤外線吸収性顔料と、適当な溶媒とを含むことができる他、必要に応じて、赤外線吸収性顔料と繊維製品との接着性を改善するために、バインダーポリマー等を更に含んでよい。
【0051】
本発明の赤外線吸収性繊維製品は、適宜の顔料、染料等の着色剤を含んでいてよい。この着色剤は、赤外線吸収性繊維製品の製造工程の、任意の時点で適用されてよい。特に、塗工液を用いる(4)の方法では、塗工液中に着色剤を含有させてもよい。
【0052】
本発明における赤外線吸収性繊維製品は、継続使用によっても赤外線吸収性顔料が脱落・散逸しない高度の耐久性を有すべき観点から、赤外線吸収性顔料を繊維中に練り込んだ赤外線吸収性繊維を用いて製造されたものであることが好ましい。
【0053】
このような赤外線吸収性繊維は、任意の方法によって製造されてよい。典型的な例として、赤外線吸収性顔料、PETホモポリマー、及び共重合PETを含有する赤外線吸収性繊維の製造方法の一例を下記に記載する。しかしながら、赤外線吸収性繊維の製造方法は、これに限定されない。
【0054】
赤外線吸収性顔料、PETホモポリマー、及び共重合PETを含有する赤外線吸収性繊維は、例えば、
赤外線吸収性顔料及び共重合PETを含む、マスターバッチを調製すること、
前記マスターバッチ及びPETホモポリマーの混合物を調製すること、並びに
前記混合物を溶融紡糸して、赤外線吸収性繊維を得ること。
【0055】
マスターバッチの調製は、適宜の混練機、例えば、ニーダー、ヘンシェルミキサー、ミキシングロール等のバッチ式混練機;二軸押出機、単軸押出機等の連続式混練機によって行われてよい。マスターバッチ及びPETホモポリマーの混合物の調製は、例えば、ドライブレンドによって行われてよい。マスターバッチ及びPETホモポリマーの混合物の溶融紡糸は、公知の適宜の溶融紡糸装置を用いて行われてよい。
【0056】
赤外線吸収性繊維が、赤外線吸収性顔料、PETホモポリマー、及び共重合PETを含有するとき、PETホモポリマーは、溶融紡糸によって繊維を形成する際のベース樹脂として機能する。また、共重合PETは、赤外線吸収性顔料を樹脂中に高度に分散させる機能を有する。したがって、赤外線吸収性顔料、PETホモポリマー、及び共重合PETを含有する赤外線吸収性繊維は、顔料の分散性及び溶融紡糸性の双方に優れることとなり、好ましい。
【0057】
また、赤外線吸収性繊維が、赤外線吸収性顔料及びナイロンを含むとき、ナイロンは、溶融紡糸によって繊維を形成する際のベース樹脂となり、同時に、赤外線吸収性顔料を樹脂中に高度に分散させる機能を有する。したがって、赤外線吸収性顔料及びナイロンを含有する赤外線吸収性繊維は、顔料の分散性及び溶融紡糸性の双方に優れることとなり、好ましい。
【0058】
(表地の構成)
本発明の裏地付き生地又は裏地付き衣類は、上記のような赤外線吸収性繊維製品を含む赤外線吸収性生地を、表地として備える。
【0059】
赤外線吸収性生地における赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性生地の面積当たり、0.05g/m以上0.50g/m以下であってよい。この値は、快適な発熱性を実現するためには、0.05g/m以上、0.06g/m以上、0.08g/m以上、0.10g/m以上、0.12g/m以上、0.15g/m以上、又は0.20g/m以上であってよい。一方で、赤外線吸収性顔料の色の視認性を制限し、得られる衣類における意匠の自由度を確保する観点から、赤外線吸収性生地における赤外線吸収性顔料の含有量は、赤外線吸収性生地の面積当たり、0.50g/m以下、0.48g/m以下、0.46g/m以下、0.44g/m以下、0.42g/m以下、又は0.40g/m以下であってよい。
【0060】
表地である赤外線吸収性生地は、
赤外線吸収性繊維製品のみから構成されていてもよいし、
赤外線吸収性繊維製品と、赤外線吸収性顔料を含まない繊維製品とから構成されていてもよい。
【0061】
赤外線吸収性生地が、赤外線吸収性繊維製品と、赤外線吸収性顔料を含まない繊維製品とから構成されている場合、赤外線吸収性顔料を含まない繊維製品は、赤外線吸収性繊維製品から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものであってもよいし、これとは別の素材から成るものであってもよい。しかしながら、衣類に適用したときに、意匠の自由度を確保するためには、赤外線吸収性顔料を含まない繊維製品は、赤外線吸収性繊維製品から赤外線吸収性顔料を除いた構成を有するものを用いるものであってよい。
【0062】
表地である赤外線吸収性生地の目付は、これを適用する衣類の種類、目的等に応じて、任意に設定されてよい。赤外線吸収性生地の目付は、例えば、50g/m以上600g/m以下程度であってよい。
【0063】
〈裏地〉
本発明の裏地付き生地又は裏地付き衣類は、公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地を裏地として備える。
【0064】
公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地は、吸湿発熱性を有する。したがって、このような公定水分率の生地を含む衣類は、着用者の発汗によって発熱する。本発明の裏地付き生地又は裏地付き衣類では、表地の赤外線吸収発熱性と、裏地の吸湿発熱性との相乗効果により、光照射による外表面の温度上昇を、着用者が温感として感じ取ることができることになると考えられる。
【0065】
公定水分率は、温度20℃、相対湿度65%の環境下の繊維内の水分の質量割合をいい、JIS L0105:2020に準拠して測定される
【0066】
裏地を構成する繊維の公定水分率は、良好な吸湿発熱性を示すとの観点から、2.5質量%以上であり、3.0質量%以上、3.5質量%以上、5.0質量%以上、又は8.0質量%以上であってよい。また、公定水分率が過度に大きくても、本発明の効果が無限に増大するわけではないので、裏地の公定水分率は、20質量%以下、18質量%以下、又は16質量%以下であってよい。
【0067】
裏地を構成する繊維は、天然繊維であっても、合成繊維であっても、これらの双方から構成される混紡糸であってもよい。天然繊維は、一般に公定水分率が高く、本発明における裏地として好適である。天然繊維として、例えば、綿、毛、麻、シルク等が挙げられる。公定水分率が高い合成繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ナイロン、ビニロン等が挙げられる。
【0068】
裏地を構成する繊維は、全体としての公定水分率が上記の範囲である限り、公定水分率が高い繊維材料と公定水分率が低い繊維材料とから構成された混紡糸であってもよい。ここで使用される公定水分率が低い繊維としては、例えば、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ポリオレフィン等が挙げられる。
【0069】
裏地を構成する繊維は、任意の形状の断面を有していてよい。例えば、円形、多角形、偏平状、中空状、Y形、星形、芯鞘形等であってよい。
【0070】
裏地を構成する繊維は、短繊維であっても長繊維であってもよい。
【0071】
本発明における裏地は、例えば、
平織り、繻子織り、綾降り等の織物であってもよいし;
くさり編み、こま編み、うね編み、長編み、中長編み、引き抜き編み、トリコット等の編物(ニット)であってもよいし;
乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、ステッチボンド法、スチームジェット法等の適宜の方法で製造された不織布であってもよい。
【0072】
裏地の目付は、これを適用する衣類の種類、目的等に応じて、任意に設定されてよい。裏地の目付は、例えば、30g/m以上600g/m以下程度であってよい。
【0073】
《裏地付き生地》
本発明の裏地付き生地は、上記に説明した赤外線吸収性生地を表地として備え、公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地を裏地として備えている。
【0074】
本発明の裏地付き生地は、所定の表地及び裏地を備えている限り、その形態を問わない。裏地付き生地は、例えば、衣類の一部を構成していてもよいし、衣類等を構成していない、独立した生地として存在していてもよい。後者の場合、表地と裏地とは、少なくとも一部において互いに固定されていてもよいし、表地及び裏地を含む生地のセットであってもよい。
【0075】
《裏地付き衣類》
本発明の裏地付き衣類は、衣類の少なくとも一部において、上記に説明した赤外線吸収性生地を表地として備え、公定水分率が2.5質量%以上の繊維から構成された生地を裏地として備えている衣類である。
【0076】
裏地付き衣類は、トップス(上衣)であっても、ボトムス(下衣)であっても、服飾雑貨であってもよい。服飾雑貨には、例えば、紡糸、手袋、アームカバー、靴下、スカーフ、ストール、マフラー、ショール等が包含される。
【0077】
裏地付き衣類は、その全部が所定の表地及び裏地から構成されていてもよいし、一部が所定の表地及び裏地から構成されており、他の部分がその他の生地から構成されていてもよい。
【0078】
例えば、前身頃、後身頃、及び袖を有するトップスの場合、
前身頃、後身頃、及び袖すべてを所定の表地及び裏地から構成されるものとしてよいし;
後身頃を所定の表地及び裏地から構成されるものとし、前身頃及び袖を他の生地によって構成されるものとしてよいし;
前身頃及び後身頃を所定の表地及び裏地から構成されるものとし、袖を他の生地によって構成されるものとしてよいし;
後身頃の一部を所定の表地及び裏地から構成されるものとし、後身頃の他の部分、前身頃、及び袖を他の生地によって構成されるものとしてよい。
【0079】
本発明の裏地付き衣類は、所定の表地及び裏地(又は本発明の裏地付き生地)、並びに必要に応じて他の生地を用いて、公知の方法によって製造されてよい。
【実施例0080】
《実施例1》
(1)赤外線吸収性マスターバッチの製造
共重合ポリエチレンテレフタレート(共重合PET)(ジカルボン酸成分の全モル数に対して12モル%のイソフタル酸成分を含む、固有粘度0.62dL/g、融点224℃)87.5質量部、及びタングステン系赤外線吸収性顔料として、分散剤で処理されたセシウム酸化タングステン(CWO(登録商標):YMDS-874、住友金属鉱山(株)製、Cs0.33WO 23質量%、分散剤75質量%、及びその他(残留溶媒等)2質量%を含有する)12.5質量部(Cs0.33WO 2.88質量部、及び分散剤9.34質量部に相当)を、二軸押出機((株)神戸製鋼所製、形式名「KTX46」)により混合し、ペレット化して、赤外線吸収性マスターバッチ(MB)を得た。このMB中のCs0.33WO含量は、2.9質量%であった。
【0081】
(2)赤外線吸収性繊維の製造
上記で得られたMB2.0質量部、及びポリエチレンテレフタレートホモポリマー(ホモPET)として、RE530A(商品名、東洋紡(株)製、第三モノマー成分を含有しないホモPET、固有粘度0.62~0.64dL/g、融点255℃)96.0質量部をドライブレンドした後、マルチフィラメント溶融紡糸装置により紡糸して、50デニール、24フィラメントの赤外線吸収性繊維(CeWO含有PET繊維)を得た。紡糸条件は、温度290℃、引取速度5,000m/minとした。
【0082】
(3)赤外線吸収性布帛の製造
上記で得られた赤外線吸収性繊維を緯糸とし、質量比50:50のポリエステル/ウール混紡糸を経糸として、緯糸:経糸の使用率を質量比で50:50として、ジョンヘル型織機を用いて3/1綾織りすることにより、目付166.9g/mの赤外線吸収性布帛を得た。
【0083】
(4)評価用筒状試料の作製
上記布帛を35cm×35cmの正方形に裁断した後、その経糸面(ポリエステル/ウール混紡糸が多く露出する面)側の面に、裏地として目付265.2g/mの綿生地を縫い付けた。その後、赤外線吸収性布帛の緯糸面を外側(表側)とし、綿生地側を内側(裏側)として筒状に丸めて端面を縫い合わることにより、評価用筒状試料を作製した。
【0084】
(5)発熱性の評価
上記で得られた評価用筒状試料を素肌の腕に通し、レフランプから試料表面までの最短距離が30cmとなるように、出力250Wのレフランプの下に腕を置いた。この状態でレフランプを点灯して、点灯開始から10分後までの試料の体表側の面の温度を追跡し、レフランプを点灯しない場合の温度変化と比較した。結果を表1に示す。
【0085】
《実施例2~4及び比較例1~4》
表地及び裏地として、表1に記載の生地をそれぞれ用いた他は、実施例1と同様にして評価用筒状試料を作製し、発熱性の評価を行った。なお、実施例2~4及び比較例4では、裏地として、表1に記載の組成を有する混紡糸から成る生地を用いた。結果を表1に示す。
【0086】
《実施例5》
経糸としてポリエステル製の糸を用いた他は、実施例1と同様にして赤外線吸収性布帛の製造を製造し、これを用いて評価用筒状試料を作製して、発熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
《実施例6》
(1)赤外線吸収性塗工液の調製
セシウム酸化タングステン(Cs0.33WO、以下「CeWO」)を含有する分散液(住友金属鉱山(株)製、「YMS-01A-2」、Cs0.33WO25質量%、及び溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを含有する分散液)に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加え、セシウム酸化タングステン濃度0.15質量%の赤外線吸収性塗工液を調製した。
【0088】
(2)赤外線吸収性布帛の製造
ベーカーアプリケータを用い、塗工速度5.2m/分の条件にて、上記で得られた赤外線吸収性塗工液をナイロン100%の白色生地の片面上に塗工した。次いで、100℃にて1分間静置して溶媒を除去することにより、目付120.7g/mの赤外線吸収性布帛を製造した。この赤外線吸収性布帛に含まれるセシウム酸化タングステン(CeWO)の量は、1%owfであった。
【0089】
(3)評価用筒状試料の作製
上記布帛を35cm×35cmの正方形に裁断した後、塗工面とは反対側の面に、裏地として目付265.2g/mの綿生地を縫い付けた。その後、赤外線吸収性布帛の塗工面を外側(表側)とし、綿生地側を内側(裏側)として筒状に丸めて端面を縫い合わることにより、評価用筒状試料を作製した。
【0090】
(5)発熱性の評価
上記で得られた評価用筒状試料を用いて、実施例1と同様にして発熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
《実施例7》
ナイロン100%の白色生地に換えて、ポリエステル100%の白色生地を用いた他は、実施例6と同様にして赤外線吸収性布帛を製造し、これを用いて評価用筒状試料を作製して、発熱性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1中の百分率表記は、「質量%」である。
【0094】
表1の「温度上昇(℃)」欄の数値は、試料の体表側の面の温度が、評価開始時の温度と比較して、所定時間経過後に何℃上昇したかを示す。例えば、実施例1においてランプを照射しない場合には、評価開始時の温度と比較して、5分後には1.1℃上昇し、10分後には1.5℃上昇したことを示す。同様に、実施例1においてランプを照射した場合には、評価開始時の温度と比較して、5分後には4.3℃上昇し、10分後には6.4℃上昇したことを示す。
【0095】
ランプを照射しない場合でも経時的に温度が上昇しているのは、体温の影響と考えられる。なお、評価開始時の試料の体表側の面の温度は、いずれも実施例及び比較例においても、約33℃であった。
【0096】
表1から以下のことが理解される。
【0097】
比較例2と比較例3とは、裏地は同じであるが、表地は、材質が同じであるが、赤外線吸収性顔料(CeWO)を含んでいるか否かが異なる。したがって、比較例2及び比較例3について、ランプ照射あり欄の数字を比較することにより、表地が赤外線吸収性顔料(CeWO)を含んでいることの効果が分かる。CeWO含有の効果は、5分後において、計算上-0.2℃(=0.9℃-1.1℃)となるが、これは、CeWOを含む表地へのランプ照射により発生した熱が、試料の裏面まで効果的に伝達されなかったことを示していると考えられる。また、10分後のCeWO含有の効果は、1.6℃(=3.7℃-2.1℃)であった。
【0098】
また、比較例1と比較例3とは、表地は、材質が同じであって、かつ、赤外線吸収性顔料(CeWO)を含まないことは共通しているが、裏地の材質が異なり、したがって裏地の公定水分率(吸湿発熱)が異なる。裏地の公定水分率は、比較例1では8.5であり、比較例3では0.4である。したがって、比較例1及び比較例3について、ランプ照射なし欄の数字を比較することにより、ランプ照射の効果を捨象した裏地の公定水分率の効果が分かる。裏地の公定水分率の効果は、5分後において0.0℃(=1.1℃-1.1℃)であり、10分後において0.6℃(=2.8℃-2.3℃)であった。
【0099】
これらに対して、実施例1と比較例3とは、表地の材質が同じであるが、赤外線吸収性顔料(CeWO)を含んでいるか否かが異なり、かつ、裏地の材質が異なり、裏地の公定水分率が異なる。したがって、実施例1及び比較例3について、ランプ照射あり欄の数字を比較することにより、表地が赤外線吸収性顔料(CeWO)を含んでいること、及び裏地の公定水分率の重畳的な効果が分かる。この重畳的な効果は、5分後において0.4℃(=1.5℃-1.1℃)であり、10分後において4.3℃(=6.4℃-2.1℃)であった。
【0100】
ここで計算された赤外線吸収性顔料の含有及び公定水分率の重畳的な効果は、各単独の効果の合計よりも大きいことから、両者の結合によって相乗的な効果が得られることが理解される。