(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176749
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
C03B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095529
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】愛 陸朗
(57)【要約】
【課題】Mgの含有量が少ない溶融ガラスを成形体に沿って流した場合でも、成形体からガラス物品の欠陥となり得る異物が発生するのを抑制する。
【解決手段】ガラス物品の製造方法は、成形体3に沿って溶融ガラスGm1を流すことにより、溶融ガラスGm1からガラスリボンGrを成形する成形工程を備える。成形工程では、成形体3が表層にネフェライト層Nを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体に沿って第一溶融ガラスを流すことにより、前記第一溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法であって、
前記成形工程では、前記成形体が表層にネフェライト層を有することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程の前工程として、Na2O及びK2Oを含有する第二溶融ガラスを前記成形体に沿って流すことにより、前記成形体の表層に前記ネフェライト層を形成するネフェライト層形成工程を備える請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記ネフェライト層形成工程の前工程として、MgOを含有する第三溶融ガラスを前記成形体に沿って流すことにより、前記成形体の表層にスピネル層を形成するスピネル層形成工程を備える請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記成形体が、アルミナ系耐火物からなる請求項3に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記ネフェライト層が、K2Oを含有する請求項1~4のいずれか1項に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス板やガラスロールなどのガラス物品の製造方法は、例えば、オーバーフローダウンドロー法などを用いる場合には、成形体に沿って溶融ガラスを流してガラスリボンを成形する成形工程を含む。成形されたガラスリボンは、下流側に搬送されながら室温付近まで冷却された後、ガラス板を得るために所定長さ毎に切断されたり、ガラスロールを得るためにロール状に巻き取られたりする(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
この種の成形工程では、例えば、ガラス物品において成形体の構成成分に由来する欠陥が発生するのを抑制するために、スピネル(MgAl2O4)を主成分として含むスピネル層が表層に形成された成形体を用いる場合がある(例えば特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-062433号公報
【特許文献2】国際公開第2021/124892号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形工程で表層にスピネル層を有する成形体を用いる場合、Mgの含有量が少ない溶融ガラスを成形体に沿って流すと、スピネル層が剥離するという問題が生じ得る。このようにスピネル層が剥離すると、その剥離物が溶融ガラス中に混入し、製造されるガラス物品に欠陥が発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、Mgの含有量が少ない溶融ガラスを成形体に沿って流した場合でも、成形体からガラス物品の欠陥となり得る異物が発生するのを抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、成形体に沿って第一溶融ガラスを流すことにより、第一溶融ガラスからガラスリボンを成形する成形工程を備えるガラス物品の製造方法であって、成形工程では、成形体が表層にネフェライト層を有することを特徴とする。
【0008】
このようにすれば、第一溶融ガラスにおけるMgOの含有量が少なくても、成形体からガラス物品の欠陥となり得る異物(例えば剥離物)が発生するのをネフェライト層によって抑制できる。
【0009】
(2) 上記(1)の構成において、成形工程の前工程として、Na2O及びK2Oを含有する第二溶融ガラスを成形体に沿って流すことにより、成形体の表層にネフェライト層を形成するネフェライト層形成工程を備えることが好ましい。
【0010】
このようにすれば、成形工程において、表層にネフェライト層が形成された成形体を確実に用いることができる。
【0011】
(3) 上記(2)の構成において、ネフェライト層形成工程の前工程として、MgOを含有する第三溶融ガラスを成形体に沿って流すことにより、成形体の表層にスピネル層を形成するスピネル層形成工程を備えていてもよい。
【0012】
このようにすれば、ネフェライト層形成工程において、ネフェライト層を形成しやすくなる。
【0013】
(4) 上記(3)の構成において、成形体が、アルミナ系耐火物からなることが好ましい。
【0014】
このようにすれば、スピネル層形成工程において、スピネル層を形成しやすくなる。その結果、ネフェライト層形成工程において、ネフェライト層を形成しやすくなる。
【0015】
(5) 上記(1)~(4)の構成において、ネフェライト層が、K2Oを含有することが好ましい。
【0016】
このようにすれば、ネフェライト層を成形体の表層に安定して維持できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、Mgの含有量が少ない溶融ガラスを成形体に沿って流した場合でも、成形体からガラス物品の欠陥となり得る異物が発生するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス板の製造装置の側面図である。
【
図3】スピネル層を有する成形体にMgOの含有量が少ない溶融ガラスを流した際に生じる問題を説明するための成形体周辺の拡大図である。
【
図5】
図1のガラス板の製造装置における成形体周辺の拡大図である。
【
図7】第二実施形態に係るガラス物品の製造方法に含まれるスピネル層形成工程を説明するための成形体周辺の拡大図である。
【
図8】第二実施形態に係るガラス物品の製造方法に含まれるネフェライト形成工程を説明するための成形体周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。なお、図中に示すXYZからなる直交座標系において、X方向及びY方向が水平方向であり、Z方向が鉛直方向である。また、成形されるガラスリボンGrの幅方向に対応する方向を幅方向X、成形されるガラスリボンGrの厚み方向に対応する方向を厚み方向Yと呼ぶ。
【0020】
(第一実施形態)
図1及び
図2は、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法を実現するための製造装置1を示す図である。同図に示すように、製造装置1は、オーバーフローダウンドロー法によってガラス物品としてのガラス板Gを製造するための装置であり、上方から下方に向かって順に、成形炉2と、徐冷炉4と、冷却室5と、切断室6とを備えている。成形炉2と徐冷炉4との間、徐冷炉4と冷却室5との間、及び冷却室5と切断室6との間は、それぞれガラスリボンGrが通過する開口部(例えばスリット)を有する仕切り部材(例えば建物の床面)F1,F2,F3によって仕切られている。
【0021】
成形炉2は、オーバーフローダウンドロー法によって、溶融ガラスGm1からガラスリボンGrを成形するための領域である。成形炉2内には、溶融ガラスGm1からガラスリボンGrを成形する成形体3と、成形体3で成形されたガラスリボンGrの幅方向Xの両端部を冷却する第一搬送ローラ7とが配置されている。
【0022】
成形体3は、幅方向Xに沿って長尺な耐火物により形成されている。耐火物としては、例えば、アルミナ系耐火物が利用できる。アルミナ系耐火物は、アルミナ(Al2O3)の含有量が90~98質量%であることが好ましい。アルミナ系耐火物は、機械的強度を確保するために、イットリウム含有酸化物(例えばイットリウムとアルミニウムの複合酸化物であるY3Al5O12)を含んでいてもよい。イットリウム含有酸化物の含有量は、1質量%以上であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。イットリウム含有酸化物は含まれていなくてもよい。
【0023】
成形体3の頂部には、幅方向Xに沿って形成された溝部(オーバーフロー溝)8が設けられている。溝部8の幅方向Xの一端側には、供給パイプ9が接続されている。この供給パイプ9を通じて溝部8内に溶融ガラスGm1が供給される。溶融ガラスGm1の供給方法はこれに限定されない。例えば溝部8の幅方向Xの両端側から溶融ガラスGm1を供給するようにしてもよいし、溝部8の上方から溶融ガラスGm1を供給するようにしてもよい。
【0024】
成形体3は、厚み方向Yにおいて対称形状をなす。成形体3の厚み方向Yの両側面10はそれぞれ、鉛直方向に沿った平面状をなす垂直面部11と、垂直面部11の下方に連なり、鉛直方向に対して傾斜した平面状をなす傾斜面部12とを備えている。各垂直面部11は、互いに平行な平面である。各傾斜面部12は、下方に向かうに連れて厚み方向Yに互いに近づくように傾斜した平面である。つまり、成形体3は、各傾斜面部12が形成されることで、幅方向Xから見た場合に下方に向かって先細りする楔状をなし、各傾斜面部12が交わる角部が成形体3の下端部3aを形成している。なお、垂直面部11は、傾斜面や曲面等に形状を変更してもよいし、省略してもよい。
【0025】
第一搬送ローラ7は、成形体3の直下方において、ガラスリボンGrの幅方向Xの各端部を、厚み方向Yで挟持するローラ対として構成される。第一搬送ローラ7は、片持ちタイプのローラであり、成形工程において常時内部冷却される。第一搬送ローラ7は、冷却ローラやエッジローラとも称される。
【0026】
徐冷炉4は、ガラスリボンGrの反り及び内部歪を低減するための領域である。徐冷炉4の内部空間は、下方に向かって所定の温度勾配を有している。徐冷炉4の内部空間の温度勾配は、例えば、徐冷炉4の内壁に配置されたヒータ等の加熱装置により調整できる。
【0027】
徐冷炉4内には、第二搬送ローラ13が配置されている。第二搬送ローラ13は、アニーラローラとも称される。第二搬送ローラ13は、ガラスリボンGrの幅方向Xの各端部を、厚み方向Yで挟持するローラ対として構成される。本実施形態では、第二搬送ローラ13は、上下方向Zに複数段設けられているが、第二搬送ローラ13の段数は一段であってもよく、第二搬送ローラ13を省略してもよい。
【0028】
冷却室5は、ガラスリボンGrを室温付近まで冷却するための領域である。冷却室5には、常温(例えば20℃±15℃)のガス(例えばクリーンエア)が供給され、ヒータ等の加熱装置は配置されていない。
【0029】
冷却室5内には、第三搬送ローラ14が配置されている。第三搬送ローラ14は、ガラスリボンGrの幅方向Xの各端部を、厚み方向Yで挟持するローラ対として構成される。本実施形態では、第三搬送ローラ14は、上下方向Zに複数段設けられているが、第三搬送ローラ14の段数は一段であってもよく、第三搬送ローラ14を省略してもよい。
【0030】
ここで、第二搬送ローラ13及び/又は第三搬送ローラ14の中に、ガラスリボンGrの幅方向Xの両端部を挟持しないものが含まれていてもよい。つまり、第二搬送ローラ13及び/又は第三搬送ローラ14を構成するローラ対の対向間隔を、ガラスリボンGrの幅方向Xの両端部の厚みよりも大きくし、ローラ対の間をガラスリボンGrが通過するようにしてもよい。なお、本実施形態では、製造装置1で得られたガラスリボンGrの幅方向Xの両端部は、成形過程の収縮等の影響により、幅方向Xの中央部に比べて厚みが大きい耳部を含む。
【0031】
切断室6は、ガラスリボンGrを所定の大きさに切断し、ガラス物品としてのガラス板Gを得るための領域である。切断室6内には、ガラスリボンGrを切断する切断装置(図示省略)が配置されている。本実施形態では、切断装置によるガラスリボンGrの切断方法は、ガラスリボンGrにスクライブ線を形成した後に、スクライブ線に沿って折り割るスクライブ切断であるが、これに限定されない。切断装置の切断方法は、例えばレーザ割断やレーザ溶断等であってもよい。
【0032】
ガラス板Gは、1枚又は複数枚の製品ガラス板が採取されるガラス原板(マザーガラス板)である。製品ガラス板の厚みは、例えば0.02mm~10mmであり、製品ガラス板のサイズは、例えば200mm×200mm~3500mm×3500mmである。製品ガラス板は、例えばディスプレイの基板やカバーガラスとして利用される。なお、ディスプレイの基板やカバーガラスは、フラットパネルに限定されず、曲面パネル、フォルダブルパネルであってもよい。
【0033】
次に、第一実施形態に係るガラス物品の製造方法を説明する。
【0034】
図1及び
図2に示すように、本製造方法は、成形工程と、徐冷工程と、切断工程とを含む。これらの各工程は、上記の製造装置1を用いて行う。
【0035】
成形工程では、成形炉2において、成形体3の溝部8に溶融ガラス(第一溶融ガラス)Gm1を供給し、溝部8から両側に溢れ出た溶融ガラスGm1を、それぞれの垂直面部11及び傾斜面部12に沿って流下させて下端部3aで再び合流させる。これにより、溶融ガラスGm1から帯状のガラスリボンGrを連続成形する。
【0036】
この際、
図3及び
図4に示すように、成形体3の表層(溶融ガラスGm1と直接接触する部分)にスピネル層Sが形成されていると、溶融ガラスGm1のMgOの含有量が少ない場合(例えば、MgOの含有量が2.5質量%以下の場合)に、スピネル層Sが成形体3から剥離する場合がある。スピネル層Sが剥離すると、そのスピネル剥離物Sxが溶融ガラスGm1中に混入して、製造されるガラス板Gにスピネル層S(剥離物Sx)に由来する欠陥が生じる原因となる。
【0037】
そこで、本実施形態では、
図5及び
図6に示すように、成形体3の表層に主成分としてネフェライト(Na
2O-Al
2O
3-SiO
2)を含むネフェライト層Nが形成されたものを用いている。詳細には、ネフェライト層Nは、成形体3に形成されたスピネル層Sを覆うように形成されている。つまり、ネフェライト層Nが、スピネル層Sよりもと外側に形成されるとともに、成形体3に沿って流下する溶融ガラスGm1と直接接触するようになっている。
【0038】
このようにすれば、溶融ガラスGm1のMgOの含有量が少ない場合であっても、ネフェライト層Nによって、スピネル層Sが成形体3から剥離するのを抑制することができる。つまり、スピネル層Sから剥離物Sxが発生しにくくなる。このようにスピネル層Sの剥離を抑制できる理由としては、ネフェライト層Nによって、スピネル層SからMgイオンが溶融ガラスGm1中に拡散するのを抑制できるためと考えられる。
【0039】
ネフェライト層Nの厚みは、1~30μmであることが好ましい。このようにすれば、ネフェライト層Nの厚みが十分なものとなり、スピネル層Sの剥離を効果的に抑制できる。
【0040】
ネフェライト層Nは、K2Oを含んでいてもよい。このようにすれば、ネフェライト層Nを安定した状態で維持しやすくなる。もちろん、ネフェライト層Nは、K2Oを含んでいなくてもよい。
【0041】
ここで、MgOの含有量が少ない溶融ガラスGm1としては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 40%~70%、Al2O3 10%~30%、B2O3 0%~3%、Na2O 5%~25%、K2O 0%~3.3%、Li2O 0.1%~10%、MgO 0%~2.5%、P2O5 2%~10%を含有することが好ましい。このようなガラス組成であれば、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立しやすくなる。したがって、化学強化処理を施せばカバーガラスとして好適に用いることができる。
【0042】
あるいは、MgOの含有量が少ない溶融ガラスGm1としては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50%~75%(好ましくは60%~70%)、Al2O3 12%~25%(好ましくは14%~20%)、B2O3 0%~10%(好ましくは0%~1%)、Li2O 1%~10%(好ましくは2%~6%)、Na2O 3%~15%(好ましくは4%~10%)、K2O 0%~10%(好ましくは2%~6%)、MgO 0%~2.5%(好ましくは1%~2.5%)、P2O5 0%~8%(好ましくは0%~1%)を含有することが好ましい。このようなガラス組成であれば、化学的安定性に優れるので、化学強化処理を施せばカバーガラスとして好適に用いることができる。
【0043】
溶融ガラスGm1のMgOの含有量は、2.5質量%以下、2.3質量%以下、2.1質量%以下であることが好ましい。
【0044】
徐冷工程では、徐冷炉4において、成形工程で成形されたガラスリボンGrを徐冷する。
【0045】
冷却工程では、冷却室5において、徐冷工程で徐冷されたガラスリボンGrを室温付近まで冷却する。
【0046】
切断工程では、切断室6において、冷却工程で冷却されたガラスリボンGrを切断し、ガラス板Gを得る。切断工程は、ガラスリボンGrを所定長さ毎に幅方向Xに切断してガラス板Gを得る第一切断工程と、ガラス板Gの幅方向Xの両端部の耳部を切断して除去する第二切断工程とを含む。
【0047】
なお、切断工程の後工程は特に限定されるものではなく、例えば、切断によってガラス板Gから所望の寸法のガラス板を切り出す切り出し工程、端面加工工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程、化学強化工程等を含んでいてもよい。検査工程では、ガラス板Gにスピネル層Sに由来する異物が含まれているか否かを検査することが好ましい。
【0048】
(第二実施形態)
第二実施形態に係るガラス物品の製造方法は、上記の成形工程の前工程として、スピネル層形成工程と、ネフェライト形成工程とを備える。
【0049】
図5に示すように、スピネル層形成工程では、MgOの含有量が多い溶融ガラス(第三溶融ガラス)Gm3を成形体3に沿って流すことにより、成形体3の表層にスピネル層Sを形成する。スピネル層Sを形成することで、後述するネフェライト形成工程でネフェライト層Nを形成しやすくなる。ただし、スピネル層形成工程は必須の工程ではなく省略してもよい。なお、スピネル層形成工程では、ガラスリボンを成形する成形工程等を実行することによってガラス板を製造してもよく、ガラスリボンを成形することなく、溶融ガラスGm3をカレットにして処理してもよい。
【0050】
スピネル層Sの厚みは、100μm以下であることが好ましく、20~100μmであることが好ましく、50~100μmであることがさらにより好ましい。
【0051】
MgOの含有量が多い溶融ガラスGm3は、MgOの含有量が2.5質量%超であることが好ましい。具体的には、MgOの含有量が多い溶融ガラスGm3としては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50~80%、Al2O3 5~25%、B2O3 0~15%、Na2O 1~20%、K2O 0~10%(好ましくは0.1~3%)、MgO 2.5超~10%を含有することが好ましい。このようなガラス組成であれば、イオン交換性能と耐失透性を高いレベルで両立しやすくなる。したがって、スピネル層を形成しながら、化学強化用ガラスからなるカバーガラスを製造することが可能となる。
【0052】
溶融ガラスGm3のMgOの含有量は、2.5質量%超、2.7質量%以上、2.9質量%以上であることが好ましい。
【0053】
図6に示すように、ネフェライト層形成工程では、Na
2O及びK
2Oを含有する溶融ガラス(第二溶融ガラス)Gm2を成形体3に沿って流すことにより、成形体3の表層にネフェライト層Nを形成する。このようにすれば、成形工程で用いられる成形体3の表層にネフェライト層Nを確実に形成できる。なお、ネフェライト層形成工程では、ガラスリボンを成形する成形工程等を実行することによってガラス板を製造してもよく、ガラスリボンを成形することなく、溶融ガラスGm2をカレットにして処理してもよい。
【0054】
Na2O及びK2Oを含有する溶融ガラスGm2としては、例えば、ガラス組成として、質量%で、SiO2 50%~75%(好ましくは60%~70%)、Al2O3 12%~25%(好ましくは14%~20%)、B2O3 0%~10%(好ましくは0%~1%)、Li2O 1%~10%(好ましくは2%~6%)、Na2O 3%~15%(好ましくは4%~10%)、K2O 1%~10%(好ましくは2%~6%)、MgO 0%~2.5%(好ましくは1%~2.5%)、P2O5 0%~8%(好ましくは0%~1%)を含有することが好ましい。このようなガラス組成であれば、化学的安定性に優れた化学強化用ガラスを得ることができる。このため、ネフェライト層を形成しながら、カバーガラスを製造することができる。
【0055】
溶融ガラスGm2のNa2Oの含有量は、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上であることが好ましい。溶融ガラスGm2のK2Oの含有量は、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上であることが好ましい。
【0056】
本発明の実施形態に係るガラス物品の製造装置及びその製造方法について説明したが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を施すことが可能である。
【0057】
上記の実施形態では、成形工程で用いる第一溶融ガラスとしてアルミノシリケートガラスを例示したが、本発明は、MgOの含有量が少ない他のガラスに対しても有用である。
【0058】
上記の実施形態において、成形体の表層にネフェライト層を形成した後に、その成形体に沿ってMgOの含有量が多い溶融ガラスを流すと、再び成形体の表層にスピネル層が形成される。したがって、このようにスピネル層が再び形成された状態で、成形工程において、成形体にMgOの含有量が少ない溶融ガラスを流してガラス物品を製造する必要が生じた場合には、成形体の表層にネフェライト層を再び形成することが好ましい。
【0059】
上記の実施形態では、成形工程において、成形体の表面にスピネル層とネフェライト層とが形成される場合を説明したが、スピネル層は形成されていなくてもよい。つまり、ネフェライト層を形成する過程で、スピネル層は消失してもよいし、スピネル層を有さない成形体の表面にネフェライト層を直接形成してもよい。
【0060】
上記の実施形態では、ガラス物品がガラス板Gである場合を説明したが、ガラス物品は、例えばガラスリボンGrをロール状に巻き取ったガラスロール等であってもよい。
【実施例0061】
以下、本発明に係る実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0062】
表1に示すガラス組成A~Dを有する溶融ガラスをそれぞれ準備した。
【0063】
【0064】
(比較例)
比較例として、アルミナ系耐火物からなる成形体に沿ってガラス組成Aを有する溶融ガラスを流す第一工程と、第一工程の後に、その成形体に沿ってガラス組成Cを有する溶融ガラスを流す第二工程とを実施した。その結果、ガラス組成AはMgOの含有量が3.0質量%と多いため、第一工程では、成形体の表層にスピネル層が形成された。一方、ガラス組成CはMgOの含有量が0.2質量%と非常に少ないため、第二工程では、スピネル層が剥離し、ガラス板にスピネル層に由来する欠陥が発生した。
【0065】
(実施例1)
実施例1として、アルミナ系耐火物からなる成形体に沿ってガラス組成Aを有する溶融ガラスを流す第一工程と、第一工程の後に、その成形体に沿ってガラス組成Dを有する溶融ガラスを流す第二工程とを実施した。その結果、ガラス組成AはMgOの含有量が3.0質量%と多いため、第一工程では、成形体の表層にスピネル層が形成された。一方、ガラス組成DはMgOの含有量が2.0質量%と少ないが、Na2O及びK2Oの含有量が多いため、第二工程では、成形体のスピネル層の上にネフェライト層が形成された。このネフェライト層の形成により、第二工程では、スピネル層の剥離が防止され、ガラス板にスピネル層に由来する欠陥が発生しなかった。なお、実施例1では、ガラス組成Aを有する溶融ガラスが、スピネル層を形成するための第三溶融ガラスに相当し、ガラス組成Dを有する溶融ガラスが、成形工程でガラスリボンを成形するための第一溶融ガラスと、ネフェライト層を形成するための第二溶融ガラスとの両方の役割を兼ねる。
【0066】
(実施例2)
実施例2として、アルミナ系耐火物からなる成形体に沿ってガラス組成Bを有する溶融ガラスを流す第一工程と、第一工程の後に、その成形体に沿ってガラス組成Dを有する溶融ガラスを流す第二工程とを実施した。その結果、ガラス組成BはMgOの含有量が3.0質量%と多いため、第一工程では、成形体の表層にスピネル層が形成された。一方、ガラス組成DはMgOの含有量が2.0質量%と少ないが、Na2O及びK2Oの含有量が多いため、第二工程では、成形体のスピネル層の上にネフェライト層が形成された。このネフェライト層の形成により、第二工程では、スピネル層の剥離が防止され、ガラス板にスピネル層に由来する欠陥が発生しなかった。なお、実施例2では、ガラス組成Bを有する溶融ガラスが、スピネル層を形成するための第三溶融ガラスに相当し、ガラス組成Dを有する溶融ガラスが、成形工程でガラスリボンを成形するための第一溶融ガラスと、ネフェライト層を形成するための第二溶融ガラスとの両方の役割を兼ねる。
【0067】
(実施例3)
実施例3として、アルミナ系耐火物からなる成形体に沿ってガラス組成Aを有する溶融ガラスを流す第一工程と、第一工程の後に、その成形体に沿ってガラス組成Dを有する溶融ガラスを流す第二工程と、第二工程の後に、その成形体に沿ってガラス組成Cを有する溶融ガラスを流す第三工程とを実施した。その結果、ガラス組成AはMgOの含有量が3.0質量%と多いため、第一工程では、成形体の表層にスピネル層が形成された。一方、ガラス組成DはMgOの含有量が2.0質量%と少ないが、Na2O及びK2Oの含有量が多いため、第二工程では、成形体のスピネル層の上にネフェライト層が形成された。そのため、その後の第三工程において、MgOの含有量が0.2質量%と非常に少ないガラス組成Cを有する溶融ガラスを成形体に沿って流しても、成形体の表層がネフェライト層によって覆われた状態が維持され、スピネル層の剥離を防止することができた。その結果、第三工程では、ガラス板にスピネル層に由来する欠陥が発生しなかった。なお、実施例3では、ガラス組成Aを有する溶融ガラスがスピネル層を形成するための第三溶融ガラスに相当し、ガラス組成Dを有する溶融ガラスがネフェライト層を形成するための第二溶融ガラスに相当し、ガラス組成Cを有する溶融ガラスが成形工程でガラスリボンを成形するための第一溶融ガラスに相当する。
【0068】
(実施例4)
実施例4として、アルミナ系耐火物からなる成形体に沿ってガラス組成Bを有する溶融ガラスを流す第一工程と、第一工程の後に、その成形体に沿ってガラス組成Dを有する溶融ガラスを流す第二工程と、第二工程の後に、その成形体に沿ってガラス組成Cを有する溶融ガラスを流す第三工程とを実施した。その結果、ガラス組成BはMgOの含有量が3.0質量%と多いため、第一工程では、成形体の表層にスピネル層が形成された。一方、ガラス組成DはMgOの含有量が2.0質量%と少ないが、Na2O及びK2Oの含有量が多いため、第二工程では、成形体のスピネル層の上にネフェライト層が形成された。そのため、その後の第三工程において、MgOの含有量が0.2質量%と非常に少ないガラス組成Cを有する溶融ガラスを成形体に沿って流しても、成形体の表層がネフェライト層によって覆われた状態が維持され、スピネル層の剥離を防止することができた。その結果、第三工程では、ガラス板にスピネル層に由来する欠陥が発生しなかった。なお、実施例4では、ガラス組成Bを有する溶融ガラスがスピネル層を形成するための第三溶融ガラスに相当し、ガラス組成Dを有する溶融ガラスがネフェライト層を形成するための第二溶融ガラスに相当し、ガラス組成Cを有する溶融ガラスが成形工程でガラスリボンを成形するための第一溶融ガラスに相当する。
【0069】
以上の結果より、ネフェライト層を成形体の表層に形成すれば、その後に、MgOの含有量が少ない溶融ガラスを成形体に沿って流しても、スピネル層の剥離が防止され、ガラス板(ガラス物品)に欠陥が発生しないことが確認できた。