(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176786
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電力系統安定化システム、電力系統安定化システム用コンピュータプログラムおよび電力系統安定化方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20241212BHJP
H02J 3/24 20060101ALI20241212BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/24
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095584
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】三浦 巧大
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 直也
(72)【発明者】
【氏名】星野 友祐
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 善貴
(72)【発明者】
【氏名】山田 郁夫
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AA04
5G064AC05
5G064AC08
5G064CB06
5G064CB13
5G064DA01
5G066AA03
5G066AD01
5G066AD09
5G066AE09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】N-4事故時の過剰電制を回避する電力系統安定化システム、電力系統安定化システム用コンピュータプログラムおよび電力系統安定化方法を提供する。
【解決手段】一定周期で系統情報を取得し、想定事故毎に電制対象を決定する中央演算装置1において、N-2事故対策決定部110は、複数のN-2想定事故における電力系統Pの安定度をそれぞれ算出し、電制対象をN-2想定事故ごとに決定するN-2安定度計算部112と、N-2想定事故毎の電制対象をN-2想定事故と関連付けてN-2制御テーブルを作成するN-2制御テーブル作成部113と、を有し、N-4事故対策決定部120は、N-4想定事故における電力系統Pの安定度を算出し、電制対象をN-4想定事故毎に決定するN-4安定度計算部122を含む。N-4安定度計算部122は、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルの内容を引き継いで、安定度計算を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定周期で電力系統から系統情報を取得し、想定事故ごとに電制対象を決定する中央演算装置を備える電力系統安定化システムにおいて、
前記中央演算装置は、N-2事故対策決定部と、N-4事故対策決定部と、を含み、
前記N-2事故対策決定部は、
複数のN-2想定事故における前記電力系統の安定度をそれぞれ算出し、前記電制対象を前記N-2想定事故ごとに決定するN-2安定度計算部と、
前記N-2安定度計算部により決定された前記N-2想定事故ごとの前記電制対象を、前記N-2想定事故と関連付けてN-2制御テーブルを作成するN-2制御テーブル作成部と、を有し、
前記N-4事故対策決定部は、
N-4想定事故における前記電力系統の安定度を算出し、前記電制対象を前記N-4想定事故ごとに決定するN-4安定度計算部を含み、
前記N-4安定度計算部は、前記N-2制御テーブル作成部が作成した前記N-2制御テーブルの内容を引き継いで、安定度計算を行う、
電力系統安定化システム。
【請求項2】
前記N-4事故対策決定部は、2つの前記N-2想定事故の組み合わせから、前記N-4想定事故を決定するN-4想定事故選定部をさらに含む、請求項1記載の電力系統安定化システム。
【請求項3】
前記N-4安定度計算部は、前記N-2制御テーブルにおける2つのN-2想定事故の前記電制対象が制御された状態から前記N-4想定事故の安定度計算を行った結果、前記電力系統が不安定な場合には、前記2つのN-2想定事故の前記電制対象に、前記電制対象を追加して再度安定度計算を行う、請求項1または2に記載の電力系統安定化システム。
【請求項4】
前記N-4想定事故選定部は、2つの前記N-2想定事故の間隔を設定する事故間隔設定部を含み、
前記N-4安定度計算部は、複数の安定度計算結果の制御量を比較および判定する制御量判定部を含み、
前記制御量判定部は、2つの前記N-2想定事故の間隔を変化させた複数の事故条件を用いて演算された前記複数の安定度計算結果から、前記制御量が多い事故条件の前記電制対象を前記N-4事故対策の前記電制対象と決定する、
請求項2記載の電力系統安定化システム。
【請求項5】
前記N-4想定事故選定部は、2つの前記N-2想定事故の発生順序を設定する事故順序設定部を含み、
前記N-4安定度計算部は、複数の安定度計算結果の制御量を比較および判定する制御量判定部を含み、
前記制御量判定部は、2つの前記N-2想定事故の発生順序を変化させた複数の事故条件を用いて演算された前記複数の安定度計算結果から、前記制御量が多い事故条件の前記電制対象を前記N-4事故対策の前記電制対象と決定する、
請求項2記載の電力系統安定化システム。
【請求項6】
前記N-4安定度計算部は、前記N-2制御テーブルから、2つの前記N-2想定事故のそれぞれにおいて最も制御量が大きい事故様相を引継ぎ、安定度計算を行うよう構成される、請求項2記載の電力系統安定化システム。
【請求項7】
前記N-2制御テーブル作成部が作成した前記N-2制御テーブルを保存するN―2電制内容データベースをさらに備え、
前記N-4事故対策決定部は、前記N―2電制内容データベースから前周期の前記N-2制御テーブルを取り込み、前記安定度計算を行うよう構成される、請求項1記載の電力系統安定化システム。
【請求項8】
前記前周期の前記N-2制御テーブルと、現周期の前記N-2制御テーブルと、の制御量に基づいて、電制内容を決定する電制内容決定部をさらに備え、
前記電制内容決定部が、前記前周期の前記N-2制御テーブルの方が前記制御量が多いと判断した場合には、前記N-4事故対策決定部は、前記現周期の前記N-2制御テーブルを取り込み、前記安定度計算を再度行うよう構成される、請求項7記載の電力系統安定化システム。
【請求項9】
一定周期で電力系統から系統情報を取得し、想定事故ごとに電制対象を決定する中央演算装置を有する電力系統安定化システム用のコンピュータプログラムであって、
前記電力系統安定化システムの中央演算装置に、
N-2事故対策決定ステップと、N-4事故対策決定ステップと、を実行させ、
前記N-2事故対策決定ステップは、
複数のN-2想定事故における前記電力系統の安定度をそれぞれ算出し、前記電制対象を前記N-2想定事故ごとに決定するN-2安定度計算ステップと、
前記N-2安定度計算ステップにより決定された前記N-2想定事故ごとの前記電制対象を、前記N-2想定事故と関連付けてN-2制御テーブルを作成するN-2制御テーブル作成ステップと、を有し、
前記N-4事故対策決定ステップは、
N-4想定事故における前記電力系統の安定度を算出し、前記電制対象を前記N-4想定事故ごとに決定するN-4安定度計算ステップを含み、
前記N-4安定度計算ステップは、前記N-2制御テーブル作成部が作成した前記N-2制御テーブルの内容を引き継いで、安定度計算を行う、
電力系統安定化システム用コンピュータプログラム。
【請求項10】
一定周期で電力系統から系統情報を取得し、想定事故ごとに電制対象を決定する中央演算装置を有する電力系統安定化システムを用いた電力系統安定化方法であって、
前記電力系統安定化システムの中央演算装置が、
N-2事故対策決定ステップと、N-4事故対策決定ステップと、を実行し、
前記N-2事故対策決定ステップは、
複数のN-2想定事故における前記電力系統の安定度をそれぞれ算出し、前記電制対象を前記N-2想定事故ごとに決定するN-2安定度計算ステップと、
前記N-2安定度計算ステップにより決定された前記N-2想定事故ごとの前記電制対象を、前記N-2想定事故と関連付けてN-2制御テーブルを作成するN-2制御テーブル作成ステップと、を有し、
前記N-4事故対策決定ステップは、
N-4想定事故における前記電力系統の安定度を算出し、前記電制対象を前記N-4想定事故ごとに決定するN-4安定度計算ステップを含み、
前記N-4安定度計算ステップは、前記N-2制御テーブル作成部が作成した前記N-2制御テーブルの内容を引き継いで、安定度計算を行う、
電力系統安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電力系統で事故が発生した際にも電力系統の安定度を維持し、電力を安定的に供給するための電力系統安定化システム、電力系統安定化システム用コンピュータプログラムおよび電力系統安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統では多くの発電機が互いに同期運転を行い電力を供給している。電力系統において過酷な事故が発生した場合、これらの発電機が同期運転を維持することができなくなり脱調する場合がある。一部の発電機の脱調を放置すると他の発電機も連鎖的に脱調し、電力系統の安定性を維持することができなくなる。その結果、大規模な停電であるブラックアウトを引き起こす可能性がある。電力系統で事故が発生した場合でも電力を安定的に供給するための制御を行う電力系統安定化システムが知られている。電力系統安定化システムは、電力系統内の一部の発電機を系統から遮断する電源制限(以降、電制と呼ぶ)を行うことにより、残された他の発電機の脱調を防止し、電力系統の安定的な運用を維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-099065号公報
【特許文献2】特開2021-164359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電力系統安定化システムは、送電線2回線が故障すること等に起因する、電力系統内の2つの設備の同時喪失を伴う事故であるN-2事故までの事故様相に耐えられるよう設計されている場合が多かった。
【0005】
しかし、近年では様々な自然災害が発生しても電力系統の運用を維持できるようにするために電力系統のレジリエンス性の強化が求められており、より過酷な事故の対策を行う必要がある。例えば、電力系統において、電力系統内の3つ以上の設備が同時喪失し、送電線3回線以上の故障が発生する可能性もある。電力系統安定化システムでは、例えば送電線4回線が故障すること等に起因する、電力系統内の4つの設備の同時喪失を伴う事故であるN-4事故等への対応が求められるようになっている。しかし、従来の電力系統安定化システムでは、演算されたN-4事故対策の電制内容によっては、過剰電制となり系統を安定化できない虞があった。
【0006】
本実施形態は、上記課題を解決するためのものであり、N-4事故時の過剰電制を回避することを可能にする電力系統安定化システム、電力系統安定化システム用コンピュータプログラムおよび電力系統安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の電力系統安定化システムは、一定周期で電力系統から系統情報を取得し、想定事故ごとに電制対象を決定する中央演算装置を備える電力系統安定化システムにおいて、以下の構成を備える。
(1)前記中央演算装置は、N-2事故対策決定部と、N-4事故対策決定部と、を含む。
(2)前記N-2事故対策決定部は、複数のN-2想定事故における前記電力系統の安定度をそれぞれ算出し、前記電制対象を前記N-2想定事故ごとに決定するN-2安定度計算部と、前記N-2安定度計算部により決定された前記N-2想定事故ごとの前記電制対象を、前記N-2想定事故と関連付けてN-2制御テーブルを作成するN-2制御テーブル作成部と、を有する。
(3)前記N-4事故対策決定部は、N-4想定事故における前記電力系統の安定度を算出し、前記電制対象を前記N-4想定事故ごとに決定するN-4安定度計算部を含む。
(4)前記N-4安定度計算部は、前記N-2制御テーブル作成部が作成した前記N-2制御テーブルの内容を引き継いで、安定度計算を行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一実施形態に係る電力系統安定化システムの構成を説明する全体図である。
【
図2】第一実施形態に係る電力系統安定化システムの動作を示すフローチャートである。
【
図3】第二実施形態に係る電力系統安定化システムの構成を説明する全体図である。
【
図4】2つのN-2想定事故の間隔について例示する概念図である。
【
図5】2つのN-2想定事故の発生順序について例示する概念図である。
【
図6】第二実施形態に係る電力系統安定化システムの動作を示すフローチャートである。
【
図7】第三実施形態に係る電力系統安定化システムの構成を説明する全体図である。
【
図8】N-2事故対策とN-4事故対策の演算周期について例示する概念図である。
【
図9】第三実施形態に係る電力系統安定化システムの動作を示すフローチャートである。
【
図10】第四実施形態に係る電力系統安定化システムの構成を説明する全体図である。
【
図11】第四実施形態に係る電力系統安定化システムの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.第一実施形態]
[1-1.全体構成]
以下、第一実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。以下の説明において、同一構成の装置や部材が複数ある場合、それらについて同一の番号を付して説明を行う。また、複数の同じ構成要素は、共通の符号の末尾に、「-」(ハイフン)を介して「1」、「2」等の添え字を付すことにより区別する。なお、複数の同じ構成要素を互いに区別しない場合には、共通の符号のみ示し、添え字は省略する。
【0010】
図1は、第一実施形態に係る電力系統安定化システムSの構成の一例を示す模式図である。電力系統安定化システムSは、例えば、中央演算装置1と、中央制御装置2と、事故検出端末装置3と、制御端末装置4と、を含み構成される。電力系統安定化システムSは、電力系統Pおよび給電情報網Nに接続される。
【0011】
上述の通り、「電制」とは、電力系統Pから一部の発電機を遮断する電源制限を意味する。また、「電制量」とは、電制される発電機の出力電力を言う。なお、「電制量」を「制御量」と呼ぶ場合がある。
【0012】
中央演算装置1と、中央制御装置2と、事故検出端末装置3と、制御端末装置4は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。
【0013】
また、これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integrated circuit)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Cate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部:circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協動によって実現されてもよい。
【0014】
(電力系統)
電力系統Pは、電力を発電し、発電した電力を需要家の負荷設備に供給する一連の電力設備を含む、電力供給網である。電力系統Pは、電力の発送電を行う複数の電力機器により構成される。電力機器は、例えば、発電機、母線、変圧器、送電線、調相設備、遮断器、断路器等の電力設備(系統設備とも称する)により構成される。なお、電力系統Pの構成詳細については、図示を省略する。
【0015】
発電機は、水力、火力、原子力などにより電力を発電する設備である。発電機は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーにより電力を発電する再生可能エネルギー電源であってもよい。電力系統Pには、複数の発電機が配置される。電力系統Pに想定事故が発生した場合に生じる不安定現象を安定化するために電制対象となるのは、発電機である。
【0016】
遮断器は、発電機により発電された電力が送電線や変圧器、母線を介して送電される流れを遮断する機器である。電力系統安定化システムSで電制を行う際、遮断器を制御することによって発電機を電力系統Pから遮断する。遮断器は、制御端末装置4を介し中央制御装置2により制御される。
【0017】
(給電情報網)
給電情報網Nは、電力系統Pと中央演算装置1とを通信可能に構成する通信ネットワークである。給電情報網Nは、有線または無線により通信を行う。給電情報網Nは、通信回路、通信装置を含み、例えば、マイクロ波無線や光ファイバなどを用いた専用通信回線により構成して良い。
【0018】
給電情報網Nを介し、電力系統Pに配置された不図示の計測装置と中央演算装置1との間の通信が行われる。計測装置は、電力設備である発電機、遮断器、断路器、母線、送電線、変圧器の状態を計測可能に構成される。計測装置は、変電所や発電所に設置される。給電情報網Nを介して、電力系統Pが有する各電力設備の計測装置が計測した系統情報は、中央演算装置1に送信される。
【0019】
(事故検出端末装置)
事故検出端末装置3は、接点情報入力回路、電圧電流入力回路、有効電力測定回路、送受信回路などをディジタルリレーで構成した端末装置である。事故検出端末装置3は、電力系統Pにおける系統情報および事故情報を取得し、中央制御装置2に送信可能に構成される。事故検出端末装置3は、想定事故を検出できる変電所などに複数配置される。
【0020】
系統情報は、事故検出端末装置3により検出された電力系統Pの接続状態および電力の需給状態に関する情報である。系統情報は、例えば、電力系統Pにおける電力機器のオンオフ情報や、電力の需給状態に関する計測情報を含む。オンオフ情報とは、遮断器や断路器などの開閉状態に関する情報である。計測情報とは、発電機出力、負荷、送電線の有効電力および無効電力、各電気所の母線電圧に関する情報を含む。
【0021】
事故検出端末装置3は、接点情報入力回路により遮断器や断路器などのオンオフ情報を取り込む。また、電圧電流入力回路により取り込んだ電圧電流情報を用いて有効電力測定回路により、電源の出力、負荷、送電線の有効電力を測定し、系統情報を作成する。
【0022】
事故情報は、電力系統Pにおける電力機器に発生した事故に関する情報である。例えば、送電線に事故が発生した場合などにおける、事故にかかる電力機器および事故様相を示す情報である。事故検出端末装置3は、接点情報入力回路により、例えば事故除去リレーの動作信号、遮断器のオンオフ情報を取り込み、事故情報を作成する。
【0023】
(制御端末装置)
制御端末装置4は、接点情報入力回路、接点情報出力回路、電圧電流入力回路、有効電力測定回路、送受信回路などをディジタルリレーで構成した端末装置である。制御端末装置4は、中央制御装置2から受信した制御指令に基づいて、接点情報出力回路により遮断器を制御し、電制対象として指定された発電機を電力系統Pから遮断可能に構成される。制御端末装置4は、電制対象となる電源がある発電所などに複数配置される。
【0024】
(中央制御装置)
中央制御装置2は、事故検出端末装置3から系統情報を周期的に取得し、最新の電力系統Pの状態を用いて、電制対象の発電機を選択して制御指令を出力する制御装置である。中央制御装置2は、送受信回路などを備えたディジタルリレーなどにより構成される。中央制御装置2は、中央演算装置1、事故検出端末装置3、制御端末装置4、に接続される。中央制御装置2は、実際に想定事故が発生した場合に、中央演算装置1で事前に求めておいた制御テーブルにおける電制対象の発電機に対して、発電機を遮断する旨の制御指令を制御端末装置4に送信する。中央制御装置2は、一般送配電事業者の変電所などに設置される。
【0025】
(中央演算装置)
中央演算装置1は、給電情報網Nを介して電力系統Pの系統情報を周期的に受信することで、最新の電力系統Pの状態を用いて、電制対象を演算により決定する演算装置である。中央演算装置1は、一般送配電事業者の中央給電指令所などに設置される。中央演算装置1は、情報伝送部101と、系統モデル作成部102と、状態推定部103と、N-2事故対策決定部110と、N-4事故対策決定部120と、制御テーブル下り送信部130を備える。
【0026】
なお、中央演算装置1は、各種情報を記憶する不図示の記憶部を備えていてよい。記憶部は、電力系統安定化システムSの動作に必要な各種の情報を記憶する記憶部である。記憶部は、半導体メモリやハードディスクのような記憶媒体にて構成される。記憶部は、電力系統Pにおける想定事故条件や、給電情報網Nを介して取得した系統情報や、中央演算装置1の各構成要素が作成したデータや演算結果等が記憶される。記憶された情報は、中央演算装置1の各構成要素の演算や、中央制御装置2に対する出力のために使用可能に構成される。
【0027】
情報伝送部101は、給電情報網Nに接続され、系統情報を一定の周期で取得する処理部である。
図1の例では、情報伝送部101は、給電情報網N経由で系統情報を取得する場合を例示しているが、電力系統Pから給電情報網Nとは異なる通信網を介して取得する構成とすることもできる。情報伝送部101は、受信した系統情報を系統モデル作成部102に送信する。
【0028】
系統モデル作成部102は、情報伝送部101により取得された系統情報と、予め保存された各種設定情報に基づいて、系統モデルを作成する処理部である。系統モデル作成部102は、事故発生前において、取得した系統情報とあらかじめ記憶されている系統設備データとに基づいて、その時点の系統状態を表す系統モデルを作成する。系統モデル作成部102は、作成した系統モデルを状態推定部103に送信する。
【0029】
系統モデルは、電力系統Pをモデル化したデータである。系統モデルは、ノードとブランチから構成されて良い。ノードは母線、発電機、負荷をデータ化したものであり、識別情報であるノード番号に対して、電機出力や負荷の有効電力と無効電力、母線電圧等の情報が対応付けられた情報である。ブランチは送電線、変圧器をデータ化したものであり、識別情報であるブランチ番号に対して、接続先のノード番号(始端ノードと終端ノード)、運用回線数、インピーダンス等が対応付けられた情報である。
【0030】
状態推定部103は、系統状態の推定を行う演算部である。状態推定部103は、情報伝送部101により取得された系統情報を用いて、系統モデル作成部102にて作成した系統モデルにおける最新の系統状態を演算する。状態推定部103は、例えば、重み付け最小二乗法を用いて、最も確からしい系統状態を推定する。状態推定部103は、演算した状態推定の結果を、N-2事故対策決定部110およびN-4事故対策決定部120に送信する。
【0031】
N-2事故対策決定部110は、N-2事故における電制対象を決定する処理部である。N-2事故対策決定部110は、N-2想定事故選定部111と、N-2安定度計算部112と、N-2制御テーブル作成部113と、を有する。
【0032】
N-2想定事故選定部111は、状態推定部103により計算された状態推定計算結果を入力データとし、安定度計算の対象とするN-2想定事故を決定する処理部である。N-2想定事故選定部111は、予め設定されている複数のN-2想定事故から2以上のN-2想定事故を選択するよう構成される。N-2想定事故選定部111は、決定したN-2想定事故をN-2安定度計算部112に送信する。
【0033】
ここで、N-2想定事故選定部111は、電力系統Pにおける送電網の複数のルートに想定事故を選択可能に構成されている。例えば、N-2想定事故選定部111は、AルートにおけるN-2想定事故、BルートにおけるN-2想定事故をそれぞれ選択することができる。
【0034】
N-2安定度計算部112は、N-2想定事故における電力系統Pの安定度の算出を行う演算部である。N-2安定度計算部112は、N-2想定事故選定部111が決定した複数のルートのN-2想定事故について、それぞれ安定度を算出するように構成されている。N-2安定度計算部112は、例えば、AルートにおけるN-2想定事故と、BルートにおけるN-2想定事故のそれぞれについて、安定度を計算する。
【0035】
具体的には、N-2安定度計算部112は、N-2想定事故選定部111から受信したN-2想定事故について、状態推定部103の状態推定計算結果を入力データとし、安定度計算を行う。N-2安定度計算部112は、安定度として過渡安定度、定態安定度、周波数安定度、電圧安定度のうち一つまたは複数を算出する。N-2安定度計算部112は、算出された安定度に基づき、電力系統Pが安定に運用可能であるかの評価を行う。
【0036】
N-2安定度計算部112は、安定度評価の結果が安定である場合は、安定度計算を終了する。N-2安定度計算部112は、安定となった計算にて選択された電制対象をN-2事故対策の電制対象と決定し、N-2制御テーブル作成部113に送信する。一方、N-2安定度計算部112は、安定度評価の結果が不安定な場合には、追加の電制対象を選択し、再度N-2安定度計算を行うよう構成される。N-2安定度計算部112は、安定度評価の結果が安定となるまで、電制対象を変化させつつN-2安定度計算を行う。
【0037】
N-2制御テーブル作成部113は、N-2安定度計算部112により計算されたN-2事故対策の電制対象を、N-2制御テーブルに設定する。N-2制御テーブル作成部113は、決定した電制対象の識別情報を、N-2想定事故条件と関連付けてN-2制御テーブルを作成する。
【0038】
N-2制御テーブル作成部113が作成する制御テーブルの一例を、表1に示す。
【表1】
【0039】
表1の例では、Aルートにおける2回線事故の電制対象として、発電機G1および発電機G2が関連付けられている。また、Bルートにおける2回線事故の電制対象として、発電機G1および発電機G3が関連付けられている。N-2制御テーブル作成部113は、作成したN-2制御テーブルを、N-4事故対策決定部120と制御テーブル下り送信部130に送信する。
【0040】
N-4事故対策決定部120は、N-4事故における電制対象を決定する処理部である。N-4事故対策決定部120は、N-4想定事故選定部121と、N-4安定度計算部122と、N-4制御テーブル作成部123と、を有する。
【0041】
N-4想定事故選定部121は、安定度計算の対象とするN-4想定事故を決定する処理部である。N-4想定事故選定部121は、状態推定部103により計算された状態推定計算結果を入力データとするとともに、N-2想定事故選定部111で選定したN-2想定事故に基づいて、N-4想定事故を決定する。
【0042】
N-4事故は、N-2事故の組み合わせで発生する。よって、N-4想定事故としては、例えば、2つのN-2事故の一方としてAルートにおける事故、もう一方としてBルートにおける事故が生じているケースなどが想定される。このようにN-4想定事故選定部121は、予め設定されている複数のN-4想定事故から、N-2想定事故選定部111で選定したN-2想定事故の組み合わせから、1つのN-4想定事故を選択するよう構成される。N-4想定事故選定部121は、決定したN-4想定事故をN-4安定度計算部122に送信する。
【0043】
N-4安定度計算部122は、N-4想定事故における電力系統Pの安定度の算出を行う演算部である。N-4安定度計算部122は、N-4想定事故選定部121から受信したN-4想定事故について、安定度計算を行う。このとき、N-4安定度計算部122は、状態推定部103の状態推定計算結果に加えて、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルの内容をN-2事故対策結果として演算に用いる。
【0044】
すなわち、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルを参照し、N-2制御テーブルのAルートおよびBルートのN―2事故対策の電制対象を、予めN-4事故対策の電制対象として設定する。そのうえで、N-4想定事故についての安定度計算を行う。これにより、N-4安定度計算部122は、電制が行われていない状態から安定度計算を始めるのではなく、N―2事故対策の電制対象を電制している状態から安定度計算をスタートすることになる。例えば、上記表1のN-2制御テーブルの内容を引き継いだ場合、N-4安定度計算部122は、発電機G1、G2、G3が制御されている状態から安定度計算をスタートする。
【0045】
N-4安定度計算部122は、安定度として過渡安定度、定態安定度、周波数安定度、電圧安定度のうち一つまたは複数を算出する。N-4安定度計算部122は、算出された安定度に基づき、電力系統Pが安定に運用可能であるかの評価を行う。
【0046】
N-4安定度計算部122は、安定度評価の結果が安定である場合は、安定度計算を終了する。N-4安定度計算部122は、安定となった計算にて選択された電制対象をN-4事故対策の電制対象と決定し、N-4制御テーブル作成部123に送信する。一方、N-4安定度計算部122は、安定度評価の結果が不安定な場合には、追加の電制対象を選択し、再度N4安定度計算を行うよう構成される。N-4安定度計算部122は、安定度評価の結果が安定となるまで、電制対象を変化させつつN-4安定度計算を行う。
【0047】
N-4制御テーブル作成部123は、N-4安定度計算部122により計算されたN-4事故対策の電制対象を、N-4制御テーブルに設定する。N-4制御テーブル作成部123は、決定した電制対象の識別情報を、N-4想定事故条件と関連付けてN-4制御テーブルを作成する。
【0048】
N-4制御テーブル作成部123が作成するN-4制御テーブルの一例を、表2に示す。表2の制御テーブルは、上記表1のN-2制御テーブルを引き継いで安定度計算を行った結果としてのN-4制御テーブルである。
【表2】
【0049】
表2の例では、Aルートにおける2回線事故とBルートにおける2回線事故の組み合わせにより、N-4事故が発生しているケースが想定されている。この例では、表1に記載の通り、Aルート2回線事故の発生で発電機G1、G2を電制し、Bルート2回線事故の発生で発電機G1、G3を電制することが前提となる。N―4事故(Aルート事故+Bルート事故)では、Aルート2回線事故とBルート2回線事故の発電機を電制した状態で、安定度計算を行う。
【0050】
表2を参照すると、表1の内容を引き継いで安定度計算を行った結果、電力系統Pが不安定となったため、G4を追加電制したうえで安定度計算を行った結果安定となることが分かる。すなわち、表2は、AルートとBルートの2ルート分のN―2事故対策を実施した上で、追加電制を行うことで安定となる例を示している。以上より、表2では、N-4想定事故の電制対象として、発電機G1、G2、G3、G4が関連付けられている。N-4制御テーブル作成部123は、作成したN-4制御テーブルを、制御テーブル下り送信部130に送信する。
【0051】
制御テーブル下り送信部130は、制御テーブルを中央制御装置2に送信する送信部である。制御テーブル下り送信部130は、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルと、N-4制御テーブル作成部123が作成されたとN-4制御テーブルと、のそれぞれを中央制御装置2に送信する。
【0052】
[1-2.第一実施形態の作用]
本実施形態の電制対象決定手順について、
図2を参照しつつ説明する。
図2は、本実施形態の電力系統安定化システムSにより、電制対象を決定する処理を示すフローチャートである。なお、
図2は、中央演算装置1がソフトウェアモジュールにより構成される場合のプログラムのフローを示す図である。プログラムは、中央演算装置1に内蔵される。以下の説明では、電制対象の決定に関するフローについて具体的に説明し、実際の事故内容や電制対象の遮断に関する説明については省略する。
【0053】
中央演算装置1の情報伝送部101は、給電情報網Nから、系統情報を一定周期で受信し(ステップS01)、系統モデル作成部102に送信する。系統モデル作成部102は、情報伝送部101により取得された系統情報と、予め保存された各種設定情報に基づいて、系統モデルを作成する(ステップS02)。状態推定部103は、情報伝送部101により取得された系統情報を用いて、系統モデル作成部102にて作成した系統モデルにおける最新の系統状態を演算する(ステップS03)。
【0054】
N-2想定事故選定部111は、状態推定部103により計算された状態推定計算結果を入力データとし、安定度計算の対象とするN-2想定事故を決定する(ステップS04)。例えば、N-2想定事故選定部111は、AルートにおけるN-2想定事故、BルートにおけるN-2想定事故をそれぞれ選択する。
【0055】
N-2安定度計算部112は、N-2想定事故選定部111が決定したAルートにおけるN-2想定事故について、安定度を算出する(ステップS05a)。N-2安定度計算部112は、安定度評価の結果が安定である場合は、安定度計算を終了する(ステップS06a、YES)。
【0056】
一方、N-2安定度計算部112は、安定度評価の結果が不安定な場合には(ステップS06a、NO)、追加の電制対象を選択する(ステップS07a)。N-2安定度計算部112は、追加の電制対象を選択した後は、ステップS05aに戻り、再度N-2安定度計算を行う。N-2安定度計算部112は、ステップS06aにおいて、安定度計算の結果が安定となるまで、ステップS05a~07aを繰り返す。
【0057】
同様に、N-2安定度計算部112は、N-2想定事故選定部111が決定したBルートにおけるN-2想定事故について、安定度を算出する(ステップS05b)。N-2安定度計算部112は、安定度評価の結果が安定である場合は、安定度計算を終了する(ステップS06b、YES)。
【0058】
一方、N-2安定度計算部112は、安定度評価の結果が不安定な場合には(ステップS06b、NO)、追加の電制対象を選択する(ステップS07b)。N-2安定度計算部112は、追加の電制対象を選択した後は、ステップS05bに戻り、再度N-2安定度計算を行う。N-2安定度計算部112は、ステップS06bにおいて、安定度計算の結果が安定となるまで、ステップS05b~07bを繰り返す。
【0059】
N-2制御テーブル作成部113は、N-2安定度計算部112により計算されたN-2事故対策の電制対象を、N-2制御テーブルに設定する(ステップS08)。N-2制御テーブルは、N-4安定度計算部122と制御テーブル下り送信部130に引き継がれる。
【0060】
N-4想定事故選定部121は、N-2想定事故選定部111で選定したN-2想定事故に基づいて、安定度計算の対象とするN-4想定事故を決定する(ステップS09)。N-4想定事故選定部121は、例えば、AルートとBルート事故の同時発生をN-4想定事故として選択する。
【0061】
N-4安定度計算部122は、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルをN-2事故対策結果として設定する(ステップS10)。例えば、上記表1のN-2制御テーブルが入力されている場合、N-4安定度計算部122は、すでに決定されている電制対象の発電機G1、G2、およびG3をN-2事故対策結果として設定する。
【0062】
その上で、N-4想定事故選定部121が決定したN-4想定事故について、安定度を算出する(ステップS11)。N-4安定度計算部122は、安定度評価の結果が安定である場合は、安定度計算を終了する(ステップS12、YES)。
【0063】
一方、N-4安定度計算部122は、安定度評価の結果が不安定な場合には(ステップS12、NO)、追加の電制対象を選択する(ステップS13)。例えば、N-2事故対策の電制対象の発電機G1、G2、およびG3を電制したうえで安定度計算を行った結果が不安定な場合には、発電機G4を追加電制することを選択する。N-4安定度計算部122は、追加の電制対象を選択した後は、ステップS11に戻り、再度N-4安定度計算を行う。N-4安定度計算部122は、ステップS12において、安定度計算の結果が安定となるまで、ステップS11~13を繰り返す。
【0064】
N-4制御テーブル作成部123は、N-4安定度計算部122により計算されたN-4事故対策の電制対象を、N-4制御テーブルに設定する(ステップS14)。N-4制御テーブルは、制御テーブル下り送信部130に引き継がれる。
【0065】
[1-3.第一実施形態の効果]
(1)本実施形態の電力系統安定化システムSは、一定周期で電力系統Pから系統情報を取得し、想定事故ごとに電制対象を決定する中央演算装置1を備える電力系統安定化システムSにおいて、中央演算装置1は、N-2事故対策決定部110と、N-4事故対策決定部120と、を含み、N-2事故対策決定部110は、複数のN-2想定事故における電力系統Pの安定度をそれぞれ算出し、電制対象をN-2想定事故ごとに決定するN-2安定度計算部112と、N-2安定度計算部112により決定されたN-2想定事故ごとの電制対象を、N-2想定事故と関連付けてN-2制御テーブルを作成するN-2制御テーブル作成部113と、を有し、N-4事故対策決定部120は、N-4想定事故における電力系統Pの安定度を算出し、電制対象をN-4想定事故ごとに決定するN-4安定度計算部122を含み、N-4安定度計算部122は、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルの内容を引き継いで、安定度計算を行う。
【0066】
従来の電力系統安定化システムでは、N-4想定事故に対して電制対象を決定する機能はそもそも存在していなかった。また、既存の電力系統安定化システムを用いてN-4想定事故の電制対象を決定する場合には、N-2事故対策とN-4事故対策の電制内容を独立に計算する構成となる。
【0067】
例えば、従来の電力系統安定化システムで、N-2事故対策の電制対象とN-4事故対策の電制対象をそれぞれ計算した場合、以下の表3および表4に示す制御内容が決定される。
【表3】
【表4】
【0068】
N-2想定事故の電制対象を示す表3の内容は、上記表1と同じである。すなわち、表3の例では、Aルートにおける2回線事故の電制対象として、発電機G1および発電機G2が関連付けられている。また、Bルートにおける2回線事故の電制対象として、発電機G1および発電機G3が関連付けられている。
【0069】
N-4想定事故の電制対象を示す表4の例では、上記表2の例と同様に、Aルートにおける2回線事故とBルートにおける2回線事故の組み合わせにより、N-4事故が発生しているケースが想定されている。ただし、従来の電力系統安定化システムでは、N-4想定事故の電制対象は独立して演算される。そのため、表4では、N-4想定事故の電制対象として、発電機G4、G5、G6が関連付けられている。
【0070】
以上のような従来の電力系統安定化システムでは、Aルートにおける2回線事故とBルートにおける2回線事故の組み合わせにより、N-4事故が発生した場合、Aルート2回線事故でG1、G2を制御し、Bルート2回線事故でG1、G3を制御する。さらに、N―4事故の電制対象として、N-2事故の電制対象を含んでいないG4、G5、G6が制御される。すなわち、従来の電力系統安定化システムでは、発電機G1、G2、G3、G4、G5、G6が電制される過剰電制を引き起こしてしまう。
【0071】
一方、本実施形態の電力系統安定化システムSでは、N-4事故対策決定部120は、N-4想定事故における電力系統Pの安定度を算出し、電制対象をN-4想定事故ごとに決定するN-4安定度計算部122を含み、N-4安定度計算部122は、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルの内容を引き継いで、安定度計算を行う。すなわち、N-4事故対策決定部120は、N-2想定事故における電制内容を加味して安定度計算を行うように構成されている。
【0072】
上記でも説明した通り、N-4安定度計算部122は、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルをN-2事故対策結果として設定してから安定度計算を開始するため、N-2事故対策とN-4事故対策の電制内容を独立した計算とすることはない。このような電力系統安定化システムSでは、上記表2に記載した通り、N-4想定事故の電制対象として、発電機G1、G2、G3、G4が決定される。すなわち、N-2事故対策の電制結果を引継ぎ、N-4事故の電制対象を決定することで、N-4事故時の過剰電制を回避することを可能にする。
【0073】
(2)N-4事故対策決定部120は、2つのN-2想定事故の組み合わせから、N-4想定事故を決定するN-4想定事故選定部121をさらに含む。
【0074】
本実施形態の電力系統安定化システムSでは、N-4想定事故を2つのN-2想定事故の組み合わせとして捉えている。そのため、N-2事故対策の電制結果を引継ぎ、N-4事故の電制対象を決定することが可能となり、N-4事故時の過剰電制を回避することを可能としている。
【0075】
(3)N-4安定度計算部122は、N-2制御テーブルにおける2つのN-2想定事故の電制対象が制御された状態からN-4想定事故の安定度計算を行った結果、電力系統が不安定な場合には、2つのN-2想定事故の電制対象に、電制対象を追加して再度安定度計算を行う。
【0076】
N-4安定度計算部122は、N-2想定事故の電制対象に追加電制を行う形で、N-4想定事故の電制対象を決定している。これにより、N-4事故時の過剰電制を防ぐ事ができる。また、N-2想定事故の電制対象を制御した状態から演算を始めるため、独立してN-4想定事故の電制対象を決定する場合と比較して、演算量を低減させることができる。このような電力系統安定化システムSでは、演算の長期化や、システムの煩雑化を回避することが可能である。
【0077】
[2.第二実施形態]
[2-1.全体構成]
図3および4を参照して、第二実施形態に係る電力系統安定化システムSについて説明する。本実施形態の電力系統安定化システムSは、第一実施形態にかかる電力系統安定化システムSの構成と基本的には同じである。ただし、本実施形態の電力系統安定化システムSは、N-4想定事故選定部121が、事故間隔設定部121aおよび事故順序設定部121bをさらに有する。また、N-4安定度計算部122が、制御量判定部122aをさらに有する。
【0078】
事故間隔設定部121aは、N-4想定事故選定部121が決定したN-4想定事故において、2つのN-2想定事故の間隔を設定する処理部である。2つのN-2想定事故の間隔について、
図4を参照して説明する。
図4に示すとおり、N-4想定事故のいては、例えばAルート事故とBルート事故の間隔が、nmsecオーダーの一般的なものから、場合によっては、数十から数百msecとなるようなケースもある。
【0079】
このような、2つのN-2想定事故の間隔が異なるケースを想定するために、事故間隔設定部121aは、2つのN-2想定事故の間隔を設定する。事故間隔設定部121aは、予め設定されている時間間隔を用いて、2つのN-2想定事故の間隔を設定する構成としても良い。また、不図示の入力部等を介して、作業者が入力した値を用いて2つのN-2想定事故の間隔を設定することもできる。
【0080】
事故順序設定部121bは、N-4想定事故選定部121が決定したN-4想定事故において、2つのN-2想定事故の発生順序を設定する処理部である。2つのN-2想定事故の発生順序が異なるケースを想定するために、事故順序設定部121bは、2つのN-2想定事故の発生順序を設定する。例えば、
図5に示すとおり、Aルート事故が先に発生するケースとしても良いし、Bルート事故が先に発生するケースとしても良い。
【0081】
以上のように、本実施形態の電力系統安定化システムSは、事故間隔設定部121aおよび事故順序設定部121bにより、ひとつのN-4想定事故において、事故条件を変化させ、複数の事故条件におけるN-4想定事故について、N-4安定度計算部122が安定度計算を行うように構成されている。事故条件を変化させる態様としては、事故間隔を変化させる態様、事故順序を変化させる態様、事故間隔と事故順序の双方について変化させる態様、が本実施形態に含まれる。
【0082】
制御量判定部122aは、複数のN-4想定事故の安定度計算の結果について、制御量を比較および判定する処理部である。制御量とは、電制対象となる発電機の量を指す。制御量判定部122aは、例えば2つの事故条件における安定度計算の結果を比較し、制御量が多い事故条件の電制対象をN-4事故対策の電制対象と決定し、N-4制御テーブル作成部123に送信する。
【0083】
[2-2.第二実施形態の作用]
本実施形態の電制対象決定手順について、
図6を参照しつつ説明する。
図6は、安定化制御候補の効果順位を評価する処理を示すフローチャートである。以下の説明では、N-4事故対策決定部120における電制対象の定に関するフローについて具体的に説明する。ステップS08までは、上記実施形態と同じのため説明は省略する。
【0084】
N-4想定事故選定部121は、N-2想定事故選定部111で選定したN-2想定事故に基づいて、安定度計算の対象とするN-4想定事故を決定する(ステップS09)。
図6の例では、N-4想定事故決定の際に、事故順序設定部121bが、ひとつのN-4想定事故について、Aルート事故が先に発生するケースとBルート事故が先に発生するケースの2つの事故条件を設定する。
【0085】
よって、ステップS10a~13aにおいて、Aルート事故が先に発生する事故条件において、N-4安定度計算部122が安定度計算を行う。また、ステップS10b~13bにおいて、Bルート事故が先に発生する事故条件において、N-4安定度計算部122が安定度計算を行う。具体的な演算のフローは、上記実施形態のステップS10からS13と同一である。
【0086】
Aルート事故が先に発生する事故条件と、Bルート事故が先に発生する事故条件と、を用いた安定度計算が終了すると、制御量判定部122aは、2つの事故条件における安定度計算の結果である制御量を比較する(ステップS15)。制御量判定部122aは、制御量が多い事故条件の電制対象をN-4事故対策の電制対象と決定し、N-4制御テーブル作成部123に送信する。
【0087】
N-4制御テーブル作成部123は、制御量判定部122aにより制御量が多いと判断されたN-4事故対策の電制対象を、N-4制御テーブルに設定する(ステップS16)。N-4制御テーブルは、制御テーブル下り送信部130に引き継がれる。
【0088】
[2-3.第二実施形態の効果]
(1)N-4想定事故選定部121は、2つのN-2想定事故の間隔を設定する事故間隔設定部121aを含み、N-4安定度計算部122は、複数の安定度計算結果の制御量を比較および判定する制御量判定部122aを含み、制御量判定部122aは、2つのN-2想定事故の間隔を変化させた複数の事故条件を用いて演算された複数の安定度計算結果から、制御量が多い事故条件の電制対象をN-4事故対策の電制対象と決定する。
【0089】
N-4事故においては、2つのN-2事故が同時に発生するとは限らない。事故間隔設定部121aにより、2つのN-2事故の発生間隔が変化することを考慮した安定度計算を行うことが可能となる。事故間隔の変化により、安定度の過酷度が異なる場合には、安定化に必要な電制対象の制御量が変化する事がある。よって、複数の事故条件で安定度計算を行うことで、より多くの制御が必要な事故条件を洗い出すことができる。さらに、制御量判定部122aにより、制御量が多い事故条件の電制対象をN-4事故対策の電制対象と決定することで、過剰電制を防ぎつつ、Aルート事故とBルート事故の同時発生を前提としている場合に発生する不足電制を抑制することが可能となる。よって、より適切なN-4事故対策の電制対象を決定することができる。
【0090】
(2)N-4想定事故選定部121は、2つのN-2想定事故の発生順序を設定する事故順序設定部121bを含み、N-4安定度計算部122は、複数の安定度計算結果の制御量を比較および判定する制御量判定部122aを含み、制御量判定部122aは、2つのN-2想定事故の発生順序を変化させた複数の事故条件を用いて演算された複数の安定度計算結果から、制御量が多い事故条件の電制対象をN-4事故対策の電制対象と決定する。
【0091】
事故間隔と同様に、事故順序設定部121bにより、2つのN-2事故の発生順序が変化することを考慮した安定度計算を行うことが可能となる。発生順序の変化により、安定度の過酷度が異なる場合には、安定化に必要な電制対象の制御量が変化する事がある。よって、複数の事故条件で安定度計算を行うことで、より多くの制御が必要な事故条件を洗い出すことができる。さらに、制御量判定部122aにより、制御量が多い事故条件の電制対象をN-4事故対策の電制対象と決定することで、過剰電制を防ぎつつ、Aルート事故とBルート事故の同時発生を前提としている場合に発生する不足電制を抑制することが可能となる。よって、より適切なN-4事故対策の電制対象を決定することができる。
【0092】
[3.変形例]
第一実施形態の変形例の電力系統安定化システムSでは、上記第一実施形態において、N-4想定事故選定部121が、N-2想定事故選定部111で選定したN-2想定事故から、事故様相が過酷であるケースを選択し、N-4想定事故を決定する。事故様相が過酷である、とは、N-2事故対策決定部110において決定された、制御量が大きい事故様相を意味する。
【0093】
例えば、N-2事故において、高速再閉路失敗により過酷な事故に進展する場合がある。本実施形態では、N―4想定事故選定において、例えば、N―2想定事故のAルートとBルートの高速再閉路失敗により事故様相が過酷であるケースを選択し、N―4想定事故として選定する。そして、N-4安定度計算部122が、N―4想定事故の安定度計算を実施する際に、AルートとBルートのそれぞれのN-2制御テーブルから、最も制御量が大きい事故様相(H-Rec失敗など)の事故ケースを選択し、その電制対象が制御されている状態から演算を行う要構成される。
【0094】
このように、N-2制御テーブルから、各N-2想定事故において最も制御量が大きい事故様相を引継ぎ、N―4事故対策の演算を行うことで、過酷な事故ケースを対象にすることができ、不足電制を防ぐことができる。
【0095】
[4.第三実施形態]
図7および8を参照して、第三実施形態に係る電力系統安定化システムSについて説明する。本実施形態の電力系統安定化システムSは、第一実施形態にかかる電力系統安定化システムSの構成と基本的には同じである。ただし、本実施形態の電力系統安定化システムSは、N-2事故対策決定部110と、N-4事故対策決定部120が、並列に事故対策を演算するように構成されている。すなわち、
図7に示すとおり、中央演算装置1の記憶部は、N-2電制内容データベースD1を有する。N-2電制内容データベースD1には、N-2制御テーブルが保存される。
【0096】
図8に示す通り、N-2事故対策決定部110は現周期の系統情報を用いてN-2事故の電制対象を決定する。N-4事故対策決定部120は、全周期のN-2事故対策の内容を引き継ぎ、N-4事故の電制対象を決定することで、N-2事故対策決定部110と同時に演算を行う構成としている。
【0097】
図9のフローチャートに示す通り、上記実施形態と同様に、N-2事故対策決定部110は、情報伝送部101が取得した現周期の系統情報を用いてN-2事故対策の電制対象を演算するよう構成されている(ステップS04~08)。そして、ステップS20において、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルは、記憶部が有するN-2電制内容データベースD1に保存するよう構成される。
【0098】
また、ステップS021において、N-4事故対策決定部120は、N-2電制内容データベースD1から前周期のN-2制御テーブルを取り込む。そして、上記実施形態と同様に、N-4安定度計算部122は、状態推定部103の状態推定計算結果に加えて、取り込んだ前周期のN-2制御テーブルのN-2事故対策の電制対象を、予めN-4事故対策の電制対象として設定する。そのうえで、N-4想定事故についての安定度計算を行い、N-4制御テーブルを作成する(ステップS09~S14)。
【0099】
以上説明したように、本実施形態の電力系統安定化システムは、N-2制御テーブル作成部113が作成したN-2制御テーブルを保存するN-2電制内容データベースD1をさらに備え、N-4事故対策決定部120は、N-2電制内容データベースD1から前周期のN-2制御テーブルを取り込み、安定度計算を行うよう構成される。
【0100】
N-4事故対策において、前周期のN-2事故対策の電制内容を引き継ぐことにより、N-2事故対策とN-4事故対策を並列に計算することが可能となる。これにより現周期のN-2事故対策の電制内容を引継ぎ、N-4事故対策を算出する場合よりも計算の周期を短くすることを可能とする。また、前周期の結果を引き継いではいるが、現周期の系統情報を用いて安定化対策を行うため、不足制御となることを防止できる。
【0101】
[5.第四実施形態]
図10を参照して、第四実施形態に係る電力系統安定化システムSについて説明する。本実施形態の電力系統安定化システムSは、第三実施形態にかかる電力系統安定化システムSの構成と基本的には同じである。ただし、本実施形態の電力系統安定化システムSは、N-4事故対策時に採用するN-2制御テーブルを選択するフローをさらに含む。本実施形態の電力系統安定化システムSは、
図10に示す通り、電制内容決定部140をさらに含む。
【0102】
電制内容決定部140は、現周期のN-2制御テーブルと、前周期のN-2制御テーブルの制御量を比較し、制御量が多いN-2制御テーブルを電制内容として決定する処理部である。なお、電制内容決定部140は、
図10では独立した構成部として示したが、N-2事故対策決定部110として捉えることも可能であるし、N-4事故対策決定部として捉えても良い。
【0103】
図11のフローチャートに示すとおり、電制内容決定部140は、N-2電制内容データベースD1に保存されている現周期のN-2制御テーブルと、前周期のN-2制御テーブルと、を取り込む(ステップS30)。そして、ステップS31において、現周期のN-2制御テーブルと、前周期のN-2制御テーブルの制御量を比較する。電制内容決定部140が、現周期のN-2制御テーブルの方が制御量が多いと判断した場合には(ステップS31 YES)、第三実施形態と同様に、ステップS20に進み、N-4事故対策決定部120は、N-2電制内容データベースD1から前周期のN-2制御テーブルを取り込み、安定度計算を行うよう構成される。
【0104】
一方、電制内容決定部140は、前周期のN-2制御テーブルの方が制御量が多いと判断した場合には(ステップS31 NO)、ステップS32に進み、現周期のN-2制御テーブルを取り込み、ステップS09以降の安定度計算を再度行う。すなわち、第四実施形態では、第三実施形態と同様に前周期のN-2制御テーブルに基づく安定度計算を行いつつ、現周期のN-2制御テーブルが作成されると、前周期のN-2制御テーブルとの制御料の比較を行う。そして、前周期のN-2制御テーブルの方が制御量が多い場合には、再度現周期のN-2制御テーブルに基づく安定度計算を行うように構成されている。
【0105】
以上説明したように、本実施形態の電力系統安定化システムは、前周期のN-2制御テーブルと、現周期のN-2制御テーブルと、の制御量に基づいて、電制内容を決定する電制内容決定部を140さらに備え、電制内容決定部140が、前周期の前記N-2制御テーブルの方が制御量が多いと判断した場合には、N-4事故対策決定部120は、現周期のN-2制御テーブルを取り込み、安定度計算を再度行うよう構成される。
【0106】
前周期のN-2制御テーブルを用いてN-4事故の安定度計算を行う場合、前周期のN-2制御テーブルの制御量が現周期のN-2制御テーブルよりも多い場合、計算されるN-4事故の電制対象が過剰となる虞がある。本実施形態では、N―2事故対策について現周期よりも前周期の制御量が多い場合に限り、現周期のN-2制御テーブルの制御内容で、N-4事故の電制対象を再計算するよう構成されている。よって、演算周期を短くしつつ、N-4事故対策の過剰電制を防ぐことが可能となる。
【0107】
[6.他の実施形態]
本明細書においては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0108】
S:電力系統安定化システム
N:給電情報網
P:電力系統
1:中央演算装置
2:中央制御装置
3:事故検出端末装置
4:制御端末装置
101:情報伝送部
102:系統モデル作成部
103:状態推定部
110:N-2事故対策決定部
111:N-2想定事故選定部
112:N-2安定度計算部
113:N-2制御テーブル作成部
120:N-4事故対策決定部
121:N-4想定事故選定部
121a:事故間隔設定部
121b:事故順序設定部
122:N-4安定度計算部
122a:制御量判定部
123:N-4制御テーブル作成部
130:制御テーブル下り送信部
140:電制内容決定部
D1:N-2電制内容データベース