(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176789
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】シームレスベルト、インクジェット用搬送ベルト、記録媒体搬送装置、及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B65H 5/00 20060101AFI20241212BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241212BHJP
B65G 15/58 20060101ALI20241212BHJP
B65G 45/22 20060101ALI20241212BHJP
B41J 11/02 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B65H5/00 B
B41J2/01 305
B65G15/58 B
B65G45/22 C
B41J11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095592
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】吉武 修
【テーマコード(参考)】
2C056
2C058
3F024
3F101
【Fターム(参考)】
2C056EA21
2C056FA13
2C056HA27
2C056HA29
2C056HA42
2C056HA46
2C056JB18
2C058AB18
2C058AC07
2C058AE02
2C058AF31
2C058DA13
2C058DA38
3F024AA13
3F024BA02
3F024BA04
3F024CA04
3F024CB02
3F101AB01
3F101AB07
3F101AB08
3F101AB12
3F101AB19
(57)【要約】
【課題】付着したインク等のクリーニング性に優れた複数の貫通孔を有するシームレスベルト、インクジェット用搬送ベルト、記録媒体搬送装置、及びインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】複数の貫通孔102を有する基材層101と光触媒層103とを有するシームレスベルト100であって、前記光触媒層103は、前記基材層101の内周面と前記貫通孔102の側面に設けられており、前記貫通孔102の側面の光触媒層103は、前記光触媒層103が設けられた内周面を起点にして外周面に到達しない範囲で設けられているシームレスベルト100、インクジェット用搬送ベルト、記録媒体搬送装置、及びインクジェット記録装置に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔を有する基材層と光触媒層とを有するシームレスベルトであって、
前記光触媒層は、前記基材層の内周面と前記貫通孔の側面に設けられており、
前記貫通孔の側面の光触媒層は、前記光触媒層が設けられた内周面を起点にして外周面に到達しない範囲で設けられているシームレスベルト。
【請求項2】
前記基材層の厚みをTとしたとき、前記貫通孔の側面に設けられた光触媒層の長さL(内周面から外周面方向への距離)が、0.2T/以上0.8T以下である、請求項1に記載のシームレスベルト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシームレスベルトを有する、インクジェット用搬送ベルト。
【請求項4】
請求項3に記載のインクジェット用搬送ベルトと、前記搬送ベルトの内周面に接触する開口部を有する搬送板と、前記搬送板から空気を吸引することで記録媒体を前記搬送ベルトに吸着させる吸引部と、を含む記録媒体搬送装置において、
前記インクジェット用搬送ベルトをクリーニングするベルトクリーニング装置を含み、
前記ベルトクリーニング装置は、前記光触媒層を活性化させる活性光を照射する光照射手段と、前記インクジェット用搬送ベルトの内周面に水分を付与する水分付与手段と、前記水分付与手段によって水分が付与された前記インクジェット用搬送ベルトの内周面をクリーニングするクリーニング手段と、を備える、記録媒体搬送装置。
【請求項5】
前記クリーニング手段が、不織布ローラー、多孔質ローラー、又はエアブローである、請求項4に記載の記録媒体搬送装置。
【請求項6】
請求項4に記載の記録媒体搬送装置と、記録媒体に対して画像を形成する画像形成装置と、を含むインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスベルト、インクジェット用搬送ベルト、記録媒体搬送装置、及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、色材を含むインクを紙等の記録媒体上に付与することで画像(インク像)を形成することができる。インクジェット記録装置の一つに、記録媒体の搬送経路に沿って配置された各色の記録ヘッドが設けられたラインヘッド型インクジェット記録装置がある。このインクジェット記録装置には、記録媒体を搬送ベルトによって搬送する記録媒体搬送ユニットが設けられ、その搬送中の記録媒体に各々の記録ヘッドからインクが吐出される。
この搬送ベルトに関しては、搬送ベルトを帯電させて静電気により記録媒体を搬送ベルトに静電吸着させる構成と、搬送ベルトに形成された複数の貫通孔を通じて吸引することにより記録媒体を搬送ベルトに吸引吸着させる構成が知られている。
特許文献1には、複数の貫通孔を有する吸引搬送ベルトにおいて、搬送ベルトの表面及び裏面の両面をクリーニングするベルトクリーニング装置が提案されている。
また、特許文献2には、静電吸着搬送ベルトの表面に光触媒層が設けられた静電吸着部材の清掃装置が提案されている。その静電吸着部材の清掃装置は、光触媒層を活性化させる活性光を照射する手段と、光触媒層に水分を付与する手段と、水分が付与された表面を清掃する清掃手段とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-189352号公報
【特許文献2】特開2010-150017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1及び特許文献2のそれぞれにおいて、以下の課題が見出された。
特許文献1に記載のベルトクリーニング装置では、複数の貫通孔を有する搬送ベルトの両面クリーニングに多孔質体及び不織布を含むクリーニングローラーを用いている。しかしながら、クリーニングローラーによって搬送ベルトに付着した汚れの一部が徐々に貫通孔の内側面に押しやられて堆積していき、貫通孔が小さくなっていく。その結果、搬送ベルトは記録媒体の吸引吸着力が弱まっていき、記録媒体の搬送が経時的に影響を受けることが分かった。
【0005】
また、特許文献2に記載の静電吸着部材の清掃装置では、搬送ベルトの外周面に設けられた光触媒層に活性光を照射し、搬送ベルト表面(光触媒層)に水分を付与して汚れを浮かび上がらせた上で搬送ベルト表面を清掃部材(ブレード)により清掃している。しかし、静電吸着搬送ベルトは、特許文献1の吸引吸着方式と比較して吸着力が弱いという問題がある。
そこで、搬送ベルトとして特許文献1のような複数の貫通孔を有する吸引搬送ベルトを用い、インク等の清掃性を向上する目的で、引用文献2の光触媒層の形成と、水分付与手段と清掃部材による清掃装置を組み合わせることが考えられる。しかし、この場合もブレード清掃により汚染水の一部が貫通孔を通して裏面まで到達して搬送ベルトを駆動するベルトローラーへ付着して、ベルト搬送性に影響を及ぼすことが考えられる。また、特許文献1と同様に、貫通孔の側面に汚染物が付着して吸引吸着力が弱まり、記録媒体の搬送に影響することが考えられる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、付着したインク等のクリーニング性に優れた複数の貫通孔を有するシームレスベルト、インクジェット用搬送ベルト、記録媒体搬送装置、及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。
即ち、本発明の一態様に係るシームレスベルトは、
複数の貫通孔を有する基材層と光触媒層とを有するシームレスベルトであって、
前記光触媒層は、前記基材層の内周面と前記貫通孔の側面に設けられており、
前記貫通孔の側面の光触媒層は、前記光触媒層が設けられた内周面を起点にして外周面に到達しない範囲で設けられていることを特徴とする。
また、本発明の一態様に係るインクジェット用搬送ベルトは、上記に記載のシームレスベルトを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る記録媒体搬送装置は、上記インクジェット用搬送ベルトと、前記搬送ベルトの内周面に接触する開口部を有する搬送板と、前記搬送板から空気を吸引することで記録媒体を搬送ベルトに吸着させる吸引部と、を含む記録媒体搬送装置において、インクジェット用搬送ベルトをクリーニングするベルトクリーニング装置を含み、前記ベルトクリーニング装置は、前記光触媒層を活性化させる活性光を照射する光照射手段と、前記インクジェット用搬送ベルトの内周面に水分を付与する水分付与手段と、前記水分付与手段によって水分が付与された前記インクジェット用搬送ベルトの内周面をクリーニングするクリーニング手段と、を備える、記録媒体搬送装置であることを特徴とする。
【0009】
さらに本発明の一態様に係るインクジェット記録装置は、上記記録媒体搬送装置と、記録媒体に対して画像を形成する画像形成装置と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、付着したインク等のクリーニング性に優れた複数の貫通孔を有するシームレスベルト、インクジェット用搬送ベルト、記録媒体搬送装置、及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のシームレスベルトの一実施形態であるインクジェット用搬送ベルトの断面を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態における記録媒体搬送装置及びベルトクリーニング装置の構成の一例を示す模式図。
【
図3】本発明の一実施形態におけるインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。
貫通孔の内側面に光触媒層が形成されていない場合、貫通孔の内側面に汚染物が付着して吸引吸着力が弱まり、記録媒体の搬送に影響することが確認された。又、貫通孔の内側面全面に光触媒層を形成してしまうと、汚染水が光触媒層の反対面に容易に達して、搬送ベルトの搬送性や記録媒体の搬送性に影響してしまうことが確認された。
本発明に係る搬送ベルトに使用されるシームレスベルトは、
複数の貫通孔を有する基材層と光触媒層とを有するシームレスベルトであって、
前記光触媒層は、前記基材層の内周面と前記貫通孔の側面に設けられており、
前記貫通孔の側面の光触媒層は、前記光触媒層が設けられた内周面を起点にして外周面に到達しない範囲で設けられていることを特徴とする。
【0013】
<シームレスベルト及びインクジェット用搬送ベルト>
図1は、本発明のシームレスベルトの一実施形態であるインクジェット用搬送ベルトの断面を示す模式図である。本発明のインクジェット用搬送ベルトは、本発明のシームレスベルト100(無端管状ベルト)からなる。シームレスベルト100は、基材層101と光触媒層102とを有する。
基材層101は金属製であっても樹脂製であってもよい。金属製の場合はステンレスが一般的である。樹脂製の場合は単一の樹脂であっても複数の樹脂で形成されてもよい。樹脂製の場合は、例えばポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂を1種又は複数種を組み合わせたものが挙げられる。また、基材層101には、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリウレタン樹脂、ニトリルゴム(NBR)等のゴム製の弾性層を有してもよい。また、基材層101は、導電性を有することが望ましい。
【0014】
基材層101の厚みは、装置サイズによって異なるため特に限定されないが、50μm以上1000μm以下であることが好ましく、50μm以上500μm以下がより好ましい。
【0015】
また、シームレスベルト100は、記録媒体を搬送ベルトに吸着するために、基材層101に、空気を吸引する貫通孔102を複数有している。貫通孔102の形状は丸孔が好ましい。貫通孔102のサイズはインクジェット画像形成に影響を与えない範囲であれば問題なく、0.1mm以上3mm以下が好ましく、0.1mm以上1mm以下がより好ましく、0.1mm以上0.5mm以下がさらにより好ましい。
【0016】
貫通孔102の配列は、並列配列や千鳥配列が好ましく、孔ピッチは記録媒体の吸引吸着に影響を与えない範囲で5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。なお、孔ピッチとは貫通孔の中心点間の距離を示し、下限値は貫通孔の孔サイズより大きく、搬送ベルトの機械的強度を損なわない範囲である。
【0017】
シームレスベルト100は、光触媒層103を有する。光触媒層103は、手動でのクリーニングが困難である基材層101の内周面に設けられている。
【0018】
図1に示すように、光触媒層103は、基材層101の貫通孔102の側面にも形成されている。その範囲は、光触媒層103が設けられた基材層101の内周面を起点にして、貫通孔102の外周面に到達しない範囲、即ち、基材層の厚みより短い範囲で内側面にも光触媒層103が設けられている。後述するが、基材層101の内周面に光照射することで、基材層101にコーティングされている光触媒層103を活性化させて親水性を向上させ、光触媒層103の表面を超親水性状態とすることができる。その後、基材層101の内周面に水分を付与すると、先に光照射されて光触媒層103の親水性が上がっているため、水分は光触媒層103が形成された全面に広がる。同時に、光触媒層103が超親水状態になっているため、インク等の汚れと光触媒層103との間に水分が入り込んで、汚れを浮き上がらせることができる。そして、クリーニング手段で汚れと水分を除去することができる。
【0019】
このとき、貫通孔102の内側面全面に光触媒層103を形成してしまうと、親水性の向上に伴って貫通孔102を通して水分が外周面まで到達してしまい、その後の記録媒体の搬送に影響を与えてしまう。そのため、貫通孔102の側面全面に光触媒層103を形成することは望ましくない。
【0020】
光触媒層103は、光触媒粒子を適切なバインダー、その他必要に応じで顔料、ビーズ、分散剤等の任意成分を撹拌機等により混合して光触媒層形成組成物とし、これを、基材層101に塗布することで形成される。
光触媒粒子としては、例えば、以下の粒子が挙げられる。
チタン、亜鉛、白金、パラジウム、ストロンチウム、タングステン、ニオブ、タンタル、カドミウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、金、銅及び銀から選ばれる光触媒金属。
前記金属の複合物及び酸化物。
これらの中でも、光触媒活性が高く汎用性の高い酸化チタンの粒子が好ましい。また光触媒粒子の粒径は、層形成の点から、5nm以上100nmが好ましい。
バインダーとしては、熱硬化樹脂、紫外線硬化樹脂、触媒硬化樹脂、多液反応樹脂、湿気硬化樹脂、酸化重合樹脂などが好ましく使用できる。
【0021】
光触媒層形成組成物中の光触媒粒子の含有量(質量%)は、光触媒層形成組成物全質量を基準として、3質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上30質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
光触媒層形成組成物の塗布方法は、特に制限されず、例えばディップコート、スプレーコート、フローコート、シャワーコート、ロールコート、スピンコートなどを挙げることができる。
光触媒層形成組成物の硬化は、特に制限されず、熱、放射線(光、電子線など)によって硬化させることができる。
【0023】
光触媒層103の厚みはシームレスベルトの厚みや貫通孔102のサイズ、光触媒粒子のサイズによって適宜変えることができるが、30μm以上100μm以下が好ましい。
基材層101の厚みをTとしたとき、貫通孔102の側面に設けられた光触媒層103の長さL(内周面から外周面方向への距離)は、クリーニング性の観点から、0.2T/以上0.8T以下であることが好ましい。
貫通孔102の光触媒層103の長さを制御する手段、及び外周面に到達しないようにする手段としては、例えば、以下の(1)及び(2)の方法が挙げられる。
(1):貫通孔102の側面を一部マスキング処理した後に光触媒層103を形成する方法。
(2):貫通孔102の側面全面に光触媒層103を形成した後にエッチング処理等で部分的に除去する方法。
【0024】
<記録媒体搬送装置及びベルトクリーニング装置>
図2は本発明の一実施形態における記録媒体搬送装置及びベルトクリーニング装置(以下、合わせて記録媒体搬送装置という)の構成の一例を示す模式図である。
本実施形態の記録媒体搬送装置200は、
図2に示すように、上記シームレスベルトである搬送ベルト100、駆動ローラー201、支持ローラー202、テンションローラー203a、203bを有している。また、搬送ベルト100の内周面側に、搬送板204、フィルター205、吸引部206、及びベルトクリーニング装置207を有している。搬送ベルト100は、内周面側に光触媒層103が形成されている。
【0025】
搬送ベルト100は、駆動ローラー201、支持ローラー202、及びテンションローラー203a、203bによって所定のテンションで張架されている。駆動ローラー201の矢印方向の回転により、搬送別と100は、
図2に示す搬送方向Aに走行し、記録媒体を搬送方向Aに搬送することができる。
【0026】
搬送板204は、搬送ベルト100を支持するガイド部材であり開口部を有する。搬送ベルト100の貫通孔102と搬送板204の開口部とを介する負圧によって、記録媒体が搬送ベルト100上に吸引される。これにより、記録媒体の浮きが抑制され、搬送時に記録媒体の表面に発生するシワや波打ち状の変形が抑制され、記録媒体の平面性を保つことができる。
【0027】
搬送板204の開口形状には、記録媒体の吸引性と平面性を確保できる形状が好ましい。好ましい形状としては、搬送板204と搬送ベルト100との摩擦が軽減できる点から、搬送ベルト100との接触面積を減らした構成、例えば格子状等の形状が好ましい。
【0028】
吸引部206は、搬送ベルト100の貫通孔102と搬送板204の開口部とを介して負圧をかけ、記録媒体を搬送ベルト100上に吸引吸着させる。フィルター205は、貫通孔102を通してインクミストや紙粉等が吸引部206内に吸引されて吸引部を破損させないために、搬送板204と吸引部206との間に設けられている。
【0029】
ベルトクリーニング装置207は、光触媒層103を活性化させるための光照射手段207a、水分付与手段207b、及び清掃手段207cを備えている。
【0030】
光照射手段207aは、光触媒層103を活性化させる波長の光を発光する光源(不図示)を備えている。光触媒層103を構成する光触媒の種類によって、活性化する光の波長が異なるため、光触媒の種類に応じた波長の光を発光する光源を使用する。例えば、酸化チタン(TiO2)は365nm程度の波長の光、酸化タングステン(WO3)は波長400nm以上600nm以下等の可視光において活性化する。
【0031】
光照射手段207aは、搬送ベルト100の内周面に光照射することで、搬送ベルト100の内周面に設けられている光触媒層103を活性化させる。光触媒層103が活性化すると、親水性が向上し、光触媒層103の表面を超親水性状態とすることができる。
【0032】
水分付与手段207bは、搬送ベルト100の内周面に水分を供給する機能を有するものであり、装置サイズ等により適宜選択され、特に限定されない。例えば、スプレー付与、超音波振動ミスト付与、加熱蒸気付与のように直接水分を供給する手段、また、水分を含んだ多孔質ローラー等を押し当てて付与する手段等が挙げられる。
【0033】
このようにして水分付与手段207bから搬送ベルト100の内周面に供給された水分は、先に、光照射手段207aから光照射されて親水性が上がっている光触媒層103が形成された全面に広がる。同時に、光触媒層103が超親水状態になっているため、インク等の汚れと光触媒層103との間に水分が入り込んで、汚れを浮き上がらせることができる。
【0034】
クリーニング手段207cは、搬送ベルト100の内周面及び貫通孔102に付着したインク等、ならびに先に付与した水分をクリーニングするものであり、搬送ベルト100の内周面に配置されている。クリーニング手段207cとしては水分を吸収する機能を有するローラーやウェブ、あるいは水分の貫通孔内への押し込みが少ない、エアブロー等のエアー噴射手段(水分回収機能を含む)などが挙げられる。ブレードワイプの場合は貫通孔102に水分を押し込んで外周面に水分が到達することで記録媒体の搬送に影響を及ぼしてしまうことがあるため、望ましくない。
水分を吸収する機能を有するローラーは、例えば、不織布ローラー、多孔質ローラー等の、表面に不織布が形成されていたり、スポンジのような多孔質体を有していたりするものが好ましい。また、水分を吸収する機能を有するウェブについても、水分吸収可能な不織布や織布が好ましい。
【0035】
<インクジェット記録装置>
図3は本発明の一実施形態におけるインクジェット記録装置の構成の一例を示す模式図である。
インクジェット記録装置300は、プライマーとインクとの2液を用いて記録媒体301にインク像を形成して記録物を製造する、枚葉式のインクジェット記録装置である。
図3では、X方向、Y方向、Z方向が、それぞれ、インクジェット記録装置300の幅方向(全長方向)、奥行き方向、高さ方向を示している。記録媒体301はA方向に搬送される。
【0036】
インクジェット記録装置300は、給紙ローラー302と、プライマー付与装置303と、インク付与装置304と、加熱乾燥装置305とを有している。また、前記プライマー付与装置303とインク付与装置304に対向して配置される、記録媒体搬送装置200及び排紙ローラー306から構成されている。
図3には不記載であるが、加熱乾燥装置305の後にインクを定着させる定着装置や記録媒体を冷却する冷却装置を設置してもよい。
【0037】
本実施形態において、記録媒体301としては、特に限定されず、公知の記録媒体をいずれも用いることができる。記録媒体としては、ロール状に巻回された長尺物、あるいは所定の寸法に裁断された枚葉のものが挙げられる。材質としては、紙、プラスチックフィルム、木板、段ボール、金属フィルム等が挙げられる。
【0038】
本実施形態のインクジェット記録装置300において、記録媒体301は、矢印Aの方向に、給紙ローラー302に給紙され、記録媒体搬送装置200を経由して、及び排紙ローラー306によって搬送される。給紙ローラー302と排紙ローラー306は記録媒体を搬送できればよく、特に
図3に示される構成に限定されるものではない。
【0039】
本実施形態のインクジェット記録装置300は、記録媒体301にプライマーを付与するプライマー付与装置303を有する。プライマーはインクと接触することによって、記録媒体301上でのインク及び/又はインク組成物の一部の流動性を低下せしめて、インクによる画像形成時のブリーディングや、ビーディングを抑制することができる。具体的には、反応液に含まれる反応剤(インク高粘度化成分とも称する)が、インクを構成している組成物の一部である色材や樹脂等と接触することによって化学的に反応し、あるいは物理的に吸着する。これによって、インク全体の粘度の上昇や、色材等インクを構成する成分の一部が凝集することによる局所的な粘度の上昇を生じさせ、インク及び/又はインク組成物の一部の流動性を低下させることができる。
【0040】
プライマー付与装置303は、プライマーを記録媒体301上に付与できるいかなる装置であってもよく、従来から知られている各種装置を適宜用いることができる。具体的には、グラビアオフセットローラ、インクジェットヘッド、ダイコーティング装置(ダイコータ)、ブレードコーティング装置(ブレードコータ)等が挙げられる。
図3のプライマー付与装置303は、インクジェットヘッドの場合を示している。
【0041】
プライマー付与装置303によるプライマーの付与は、記録媒体301上でインクと混合(反応)することができれば、インクの付与前に行っても、インクの付与後に行ってもよい。好ましくは、
図3に示されるとおり、インクの付与前にプライマーを付与する構成が好ましい。プライマーをインクの付与前に付与することによって、インクジェット方式による画像記録時に、隣接して付与されたインク同士が混ざり合うブリーディングを抑制することができる。さらに、先に着弾したインクが後に着弾したインクに引き寄せられてしまうビーディングを抑制することもできる。
【0042】
以下、本実施形態に適用されるプライマーを構成する各成分について詳細に説明する。
プライマーは、インクと接触することによりインク中のアニオン性基を有する成分(樹脂、自己分散顔料等)を凝集させるものであり、反応剤を含有する。反応剤としては、例えば、多価金属イオン、カチオン性樹脂等のカチオン性成分や、有機酸等挙げることができる。
【0043】
多価金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+及びZn2+等の2価の金属イオンや、Fe3+、Cr3+、Y3+及びAl3+等の3価の金属イオンが挙げられる。プライマーに多価金属イオンを含有させるためには、多価金属イオンとアニオンとが結合して構成される多価金属塩(水和物であってもよい)を用いることができる。アニオンとしては、例えば、Cl-、Br-、I-、ClO-、ClO2
-、ClO3
-、ClO4
-、NO2
-、NO3
-、SO4
2-、CO3
2-、HCO3
-、PO4
3-、HPO4
2-、及びH2PO4
-等の無機アニオン;HCOO-、(COO-)2、COOH(COO-)、CH3COO-、C2H4(COO-)2、C6H5COO-、C6H4(COO-)2及びCH3SO3
-等の有機アニオンを挙げることができる。反応剤として多価金属イオンを用いる場合、プライマー中の多価金属塩換算の含有量(質量%)は、プライマー全質量を基準として、1.00質量%以上20.00質量%以下であることが好ましい。
【0044】
有機酸を含有するプライマーは、酸性領域(pH7.0未満、好ましくはpH2.0以上pH5.0以下)に緩衝能を有することによって、インク中に存在する成分のアニオン性基を酸型にして凝集させるものである。有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、安息香酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピコリン酸、ニコチン酸、チオフェンカルボン酸、レブリン酸、クマリン酸等のモノカルボン酸及びその塩;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、セバシン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、等のジカルボン酸、及びその塩や水素塩;クエン酸、トリメリット酸等のトリカルボン酸及びその塩や水素塩;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸及びその塩や水素塩、等を挙げることができる。プライマー中の有機酸の含有量(質量%)は、プライマー全質量を基準として、1.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。
【0045】
カチオン性樹脂としては、例えば、1~3級アミンの構造を有する樹脂、4級アンモニウム塩の構造を有する樹脂等を挙げることができる。具体的には、ビニルアミン、アリルアミン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エチレンイミン、グアニジン等の構造を有する樹脂等を挙げることができる。プライマーにおける溶解性を高めるために、カチオン性樹脂と酸性化合物とを併用したり、カチオン性樹脂の4級化処理を施したりすることもできる。反応剤としてカチオン性樹脂を用いる場合、プライマー中のカチオン性樹脂の含有量(質量%)は、プライマー全質量を基準として、1.00質量%以上10.00質量%以下であることが好ましい。
【0046】
反応剤以外の成分としては、インクに用いることができるものとして後述する、水性媒体、その他の添加剤等と同様のものを用いることができる。
【0047】
本実施形態のインクジェット記録装置300は、プライマーが付与された記録媒体301上に有色のインクを付与し、記録媒体301上にインクによる画像であるインク像を形成するインクジェットヘッドを備えたインク付与装置304を有する。記録媒体301上ではプライマーとインクとが混合され、プライマーとインクとによってインク像が形成される。
本実施形態ではインクを付与するインク付与装置304として、インクジェットヘッドを用いる。インクジェットヘッドとしては、例えば電気-熱変換体によりインクに膜沸騰を生じさせ気泡を形成することでインクを吐出する形態、電気-機械変換体によってインクを吐出する形態、静電気を利用してインクを吐出する形態等が挙げられる。本実施形態では、公知のインクジェットヘッドを用いることができる。中でも特に高速で高密度の印刷の観点からは電気-熱変換体を利用したものが好適に用いられる。インクの付与(描画)は画像信号を受け、各位置に必要な量のインクを付与する。
【0048】
本実施形態では、インクジェットヘッドはY方向に延設されたフルラインヘッドであり、使用可能な最大サイズの記録媒体の画像記録領域の幅分をカバーする範囲にノズルが配列されている。インクジェットヘッドはその下面(記録媒体301側)にノズルが開口したインク吐出面を有しており、インク吐出面は微小な隙間(数ミリ程度)を空けて記録媒体301の表面と対向している。
インク付与量は画像データの濃度値やインク厚み等で表現することができるが、本実施形態では各インクドットの質量に付与個数を掛け、印字面積で割った平均値をインク付与量(g/m2)とする。尚、画像領域における最大インク付与量とは、インク中の液体成分を除去する観点より、被吐出媒体の情報として用いられる領域内において、少なくとも5mm2以上の面積において付与されているインク付与量を示す。
【0049】
インク付与装置304は、記録媒体301上に各色のカラーインクを付与するために、インクジェットヘッドを複数有していてもよい。例えば、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインクを用いてそれぞれの色画像を形成する場合、インク付与装置304は上記4種類のインクを記録媒体301上にそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッドを有することになる。これらのインクジェットヘッドはX方向に並ぶように配置される。
【0050】
また、インク付与装置304は、色材を含有しない、あるいは含有したとしてもその割合が非常に低く、実質的に透明なクリアインクを吐出するインクジェットヘッドを含んでいてもよい。そしてこのクリアインクをプライマー、カラーインクとともにインク像を形成するために利用することができる。例えば、画像の光沢性を向上させるためにこのクリアインクを用いることができる。画像が光沢感を醸すように、配合する樹脂成分を適宜調整し、さらには、クリアインクの吐出位置を制御するとよい。このクリアインクは、最終記録物ではカラーインクよりも表層側にある方が望ましい。このため、インク付与装置304と対面する記録媒体301の移動方向において、クリアインク用のインクジェットヘッドをカラーインク用のインクジェットヘッドより下流側に配置することができる。
【0051】
以下、本実施形態に適用されるインクを構成する各成分について詳細に説明する。
色材としては、顔料や染料を用いることができる。インク中の色材の含有量は、インク全質量を基準として、0.5質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料;アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ジケトピロロピロール、ジオキサジン等の有機顔料を挙げることができる。
【0053】
顔料の分散方式としては、分散剤として樹脂を用いた樹脂分散顔料や、顔料の粒子表面に親水性基が結合している自己分散顔料等を用いることができる。また、顔料の粒子表面に樹脂を含む有機基を化学的に結合させた樹脂結合型顔料や、顔料の粒子の表面を樹脂等で被覆したマイクロカプセル顔料等を用いることができる。
【0054】
顔料を水性媒体中に分散させるための樹脂分散剤としては、アニオン性基の作用によって顔料を水性媒体中に分散させうるものを用いることが好ましい。樹脂分散剤としては、好適には、後述するような樹脂、さらに好適には水溶性樹脂を用いることができる。顔料の含有量(質量%)は、樹脂分散剤の含有量に対する質量比率で(顔料/樹脂分散剤)、0.3倍以上10.0倍以下であることが好ましい。
【0055】
自己分散顔料としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等のアニオン性基が、直接又は他の原子団(-R-)を介して顔料の粒子表面に結合しているものを用いることができる。アニオン性基は、酸型及び塩型のいずれであってもよく、塩型である場合は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。アニオン性基が塩型である場合のカウンターイオンとなるカチオンとしては、アルカリ金属カチオン;アンモニウム;有機アンモニウム;等を挙げることができる。また、他の原子団(-R-)の具体例としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基等のアリーレン基;カルボニル基;イミノ基;アミド基;スルホニル基;エステル基;エーテル基等を挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基としてもよい。
【0056】
染料としては、アニオン性基を有するものを用いることが好ましい。染料の具体例としては、アゾ、トリフェニルメタン、(アザ)フタロシアニン、キサンテン、アントラピリドン等の染料を挙げることができる。
【0057】
インクには、樹脂を含有させることができる。インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0058】
樹脂は、(i)顔料の分散状態を安定にする、すなわち上述の樹脂分散剤やその補助として、(ii)記録される画像の各種特性を向上させる、等の理由でインクに添加することができる。樹脂の形態としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、及びこれらの組み合わせ等を挙げることができる。また、樹脂は、水性媒体に水溶性樹脂として溶解した状態であってもよく、水性媒体中に樹脂粒子として分散した状態であってもよい。樹脂粒子は色材を内包するものである必要はない。
【0059】
本発明において樹脂が水溶性であるとは、その樹脂を酸価と当量のアルカリで中和した場合に、動的光散乱法により粒子径を測定し得る粒子を形成しないものであることとする。樹脂が水溶性であるか否かについては、以下に示す方法にしたがって判断することができる。まず、酸価相当のアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)により中和された樹脂を含む液体(樹脂固形分:10質量%)を用意する。次いで、用意した液体を純水で10倍(体積基準)に希釈して試料溶液を調製する。そして、試料溶液中の樹脂の粒子径を動的光散乱法により測定した場合に、粒子径を有する粒子が測定されない場合に、その樹脂は水溶性であると判断することができる。この際の測定条件は、例えば、SetZero:30秒、測定回数:3回、測定時間:180秒、のように設定することができる。粒度分布測定装置としては、動的光散乱法による粒度分析計(例えば、商品名「UPA-EX150」、日機装製)等を使用することができる。勿論、使用する粒度分布測定装置や測定条件等は上記に限られるものではない。
【0060】
樹脂の酸価は、水溶性樹脂の場合100mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましく、樹脂粒子の場合5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。樹脂の重量平均分子量は、水溶性樹脂の場合3,000以上15,000以下であることが好ましく、樹脂粒子の場合1,000以上2,000,000以下であることが好ましい。樹脂粒子の動的光散乱法(測定条件は上記と同様)により測定される体積平均粒子径は、100nm以上500nm以下であることが好ましい。
【0061】
樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂等を挙げることができる。なかでも、アクリル系樹脂やウレタン樹脂が好ましい。
アクリル系樹脂としては、親水性ユニット及び疎水性ユニットを構成ユニットとして有するものが好ましい。なかでも、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、芳香環を有するモノマー及び(メタ)アクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する疎水性ユニットと、を有する樹脂が好ましい。特に、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットと、スチレン及びα-メチルスチレンの少なくとも一方のモノマーに由来する疎水性ユニットとを有する樹脂が好ましい。これらの樹脂は、顔料との相互作用が生じやすいため、顔料を分散させるための樹脂分散剤として好適に利用することができる。
【0062】
親水性ユニットは、アニオン性基等の親水性基を有するユニットである。親水性ユニットは、例えば、親水性基を有する親水性モノマーを重合することで形成することができる。親水性基を有する親水性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボン酸基を有する酸性モノマー、これらの酸性モノマーの無水物や塩等のアニオン性モノマー等を挙げることができる。酸性モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウム等のイオンを挙げることができる。疎水性ユニットは、アニオン性基等の親水性基を有しないユニットである。疎水性ユニットは、例えば、アニオン性基等の親水性基を有しない、疎水性モノマーを重合することで形成することができる。疎水性モノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香環を有するモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー等を挙げることができる。
【0063】
ウレタン系樹脂としては、例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得ることができる。また、鎖延長剤をさらに反応させたものであってもよい。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。
【0064】
また、インクには、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては、脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい(以下、水又は水性媒体を含むインクを「水性インク」ともいう)。水性インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類等のインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。
【0065】
さらに、インクには、上記成分以外にも必要に応じて、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤等種々の添加剤を含有してもよい。
【0066】
本実施形態のインクジェット記録装置300は、インク付与装置304の後段に、加熱乾燥装置305を有する。加熱乾燥装置305は、記録媒体301に付与されたインクを加熱乾燥及び固化させるものである。画像が形成された記録媒体301を加熱乾燥することにより、インク中に含まれる液体成分が速やかに蒸発飛散して、インク中に含まれるポリマー粒子によって皮膜が形成される。このようにして、記録媒体301上においてインク乾燥物が皮膜化されることで、耐擦性に優れた高品位な画像を得ることができる。
さらに、インクを加熱乾燥させることで、インク中の液体成分の蒸発が促進され、記録媒体301のカールやコックリングを抑制することができる。
加熱乾燥装置305は加熱乾燥できるいかなる装置であってもよく、従来から知られている各種装置を適宜用いることができるが、温風乾燥機、ヒーターが好ましい。ヒーターの種類も特に制限はなく、公知の方法から適宜選択して適用することが好ましいが、中でも、電熱線、赤外線ヒーターによる加熱が安全性やエネルギー効率の点から好ましい。
【0067】
また、加熱乾燥の方法については、
図3に示しているように、インク及びプライマーが付与された面から加熱乾燥してもよいが、インク及びプライマーが付与された面の裏側から加熱乾燥してもよく、両面から加熱乾燥してもよい。加熱乾燥温度については、60℃以上120℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上100℃以下である。
【実施例0068】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例の記載において、「部」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。また、使用する各材料の寸法は、メーカーのカタログ値を示す。
【0069】
<実施例1>
インクジェット用搬送ベルト100として用いたシームレスベルトを以下の手順で作製した。
基材層101として、厚み500μmでPET製のものを用意した。この基材層101に、サイズ500μmの貫通孔102を千鳥配置で、孔ピッチ3mmで設けた。光触媒粒子として粒子径7nmのアナターゼ型TiO2(商品名:ST-01,石原産業製)を用意した。この光触媒粒子をアクリル系バインダー(商品名:AE120A、イーテック製)に20質量%含有させて、光触媒層形成組成物を調製した。得られた光触媒層形成組成物を塗布し、加熱乾燥することで、基材層101の内周面に100μmの厚みで光触媒層103を形成すると同時に、貫通孔102も光触媒層で満たして貫通孔を塞いだ。その後、基材層101の内周面から外周面に向かって光触媒層103の長さLを100μm形成するために、基材層101の外周面から光触媒層を削り取った。さらに、貫通孔102の側面の光触媒層の厚みを100μmになるよう、塞いだ貫通孔に孔を通す加工を施すことで、シームレスベルトを得、インクジェット用搬送ベルト100として用いた。
【0070】
<実施例2>
光触媒粒子として粒子径21nmの酸化亜鉛(ZnO)(商品名:FZO-50,石原産業製)をアクリル系バインダーに20質量%含有させて塗布した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0071】
<実施例3~6>
実施例1と同様にしてインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0072】
<実施例7>
貫通孔102の側面に光触媒層103を100μmの厚みで、長さを内周面から外周面に向かって250μm形成した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0073】
<実施例8>
貫通孔102の側面に光触媒層103を100μmの厚みで、長さを内周面から外周面に向かって400μm形成した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0074】
<比較例1>
光触媒層103を形成しなかった以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0075】
<比較例2>
基材層101として、厚み500μでPET製のものを用意した。この基材層101の内周面に実施例1と同様の光触媒層形成組成物を塗布し、加熱乾燥することで、100μmの厚みで光触媒層103を形成した。その後、光触媒層103を形成した基材層101に、サイズ500μmの貫通孔102を千鳥配置で、孔ピッチ3mmで設けることで、貫通孔102の側面に光触媒層103を形成しないインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0076】
<比較例3>
基材層101として、厚み500μmでPET製のものを用意した。この基材層101に、サイズ500μmの貫通孔102を千鳥配置で、孔ピッチ3mmで設けた。その後、基材層101の内周面からブレードで実施例1と同様の光触媒層形成組成物を塗布することで、貫通孔102だけを光触媒層で満たして貫通孔を塞いだ。その後、基材層101の内周面から外周面に向かって光触媒層103の長さLを100μm形成するために、基材層101の外周面から光触媒層を削り取った。さらに、貫通孔102の側面の光触媒層の厚みを100μmになるよう、塞いだ貫通孔に孔を通す加工を施すことで、基材層101の内周面に光触媒層103を形成しないインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0077】
<比較例4>
貫通孔102の側面に光触媒層103を100μmの厚みで、長さを内周面から外周面に向かって500μm形成した以外は、実施例1と同様にしてインクジェット用搬送ベルト100を得た。
【0078】
【0079】
次に、本実施例では上記で用意したインクジェット用搬送ベルト100を用いた記録媒体搬送装置及びベルトクリーニング装置200(
図2)、さらにこれらを含むインクジェット記録装置300(
図3)を用いて画像記録を行った。
搬送速度は0.5m/sとし、記録媒体301としてOKプリンス上質紙(王子製紙株式会社製・坪量157g/m
2)を用いた。
【0080】
プライマー付与装置302により付与されるプライマーは、以下組成のものを用い、付与量は2g/m2とした。なお、イオン交換水の残部は、プライマーを構成する全成分の合計が100.0質量部となる量のことである。
・グルタル酸 21.0質量部
・水酸化カリウム 2.0質量部
・グリセリン 5.0質量部
・界面活性剤(製品名:メガファックF444、DIC株式会社製)
5.0質量部
・イオン交換水 残部
【0081】
インクは以下のように調製した。
(顔料分散体の調製)
カーボンブラック(製品名:モナク1100、キャボット製)10部、樹脂水溶液(スチレン-アクリル酸エチル-アクリル酸共重合体、酸価150、重量平均分子量(Mw)8,000、樹脂の含有量が20.0質量%の水溶液を水酸化カリウム水溶液で中和したもの)15部、純水75部を混合し、バッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)に仕込み、0.3mm径のジルコニアビーズを200部充填し、水冷しつつ、5時間分散処理を行った。この分散液を遠心分離して、粗大粒子を除去した後、顔料の含有量が10.0質量%のブラック顔料分散体を得た。
【0082】
(樹脂粒子分散体の調製)
エチルメタクリレート20部、2,2’-アゾビス-(2-メチルブチロニトリル)3部、及びn-ヘキサデカン2部を混合し、0.5時間攪拌した。この混合物を、スチレン-アクリル酸ブチル-アクリル酸共重合体(酸価:130mgKOH/g、重量平均分子量(Mw):7,000)の8%水溶液75部に滴下して、0.5時間攪拌した。次に超音波照射機で超音波を3時間照射した。続いて、窒素雰囲気下で80℃、4時間重合反応を行い、室温冷却後にろ過して、樹脂の含有量が25.0質量%である樹脂粒子分散体を調製した。
【0083】
(インクの調製)
上記で得られた顔料分散体及び、樹脂粒子分散体、を下記に示す各成分と下記に示す組成で混合した。尚、イオン交換水の残部は、インクを構成する全成分の合計が100.0質量部となる量のことである。
・顔料分散体(色材の含有量は10.0質量%) 40.0質量部
・樹脂粒子分散体 20.0質量部
・グリセリン 7.0質量部
・ポリエチレングリコール(数平均分子量(Mn):1,000)
3.0質量部
・界面活性剤アセチレノールE100(川研ファインケミカル株式会社製)
0.5質量部
・イオン交換水 残部
【0084】
これを十分撹拌して分散した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フイルム株式会社製)にて加圧ろ過を行い、ブラックインクを調製した。
【0085】
インク付与手段303は電気-熱変換素子を用いオンデマンド方式にてインク吐出を行うタイプのインクジェットヘッドを使用し、インク付与量は10g/m2とした。
【0086】
次に、インクを加熱乾燥させる加熱乾燥装置305は温風乾燥機を用い、記録媒体301の表面温度が80℃となるように設定した。
また、プライマー付与装置303とインク付与装置304に対向して配置されている記録媒体搬送装置及びベルトクリーニング装置200は、負圧を500Paにして記録媒体301を吸引吸着させた。
さらに、ベルトクリーニング装置207の光照射手段207a、水分付与手段207b、及びクリーニング手段207cの構成の組み合わせについては、以下の表2に示し、印刷中は常時クリーニングを行った。
以上の印字条件において、インクジェット用搬送ベルト100のクリーニング性及び吸着搬送性を評価するために、A4サイズの額縁1cmを余白にしたベタ画像を連続10000枚印刷した。
【0087】
【0088】
[評価]
上述した条件において、以下の評価方法によりインクジェット用搬送ベルト100の評価を行った。評価結果を表3に示す。以下の評価方法においては、下記の各評価項目の評価基準のA~Bを好ましいレベルとし、Cを許容できないレベルとした。
【0089】
<クリーニング性>
インクジェット用搬送ベルト100の内周面及び貫通孔102の側面に対する、色材や紙粉等の付着量を観察した。色材や紙粉等の等付着量は少ないことが好ましく、クリーニング性が高いことを示す。評価基準は以下の通りである。
A:色材付着や紙粉等の付着がほとんど観察されなかった
B:色材付着は僅かに観察されたが、紙粉等の付着は観察されなかった。
C:色材付着及び紙粉等の付着が大きく観察された。
【0090】
<吸引搬送性>
インクジェット用搬送ベルト100の記録媒体に対する吸引搬送性の変化を観察した。インクジェット用搬送ベルト100の内周面及び貫通孔102の側面が十分にクリーニングされていれば吸引搬送性が維持されていることを意味する。評価基準は以下の通りである。
A:10000枚印刷しても印刷中に記録媒体の吸引搬送性に変化が観察されなかった。
B:5000枚以上10000枚未満の印刷中に記録媒体の一部が浮いて画像ズレが生じていることが観察された。
C:5000枚未満の印刷で記録媒体の一部が浮いて画像ズレが生じたり、水分の影響で記録媒体の一部が膨張していることが観察された。
【0091】