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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176798
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241212BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20241212BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241212BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20241212BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241212BHJP
   B60L 58/27 20190101ALI20241212BHJP
【FI】
H01M10/48 Z
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/6571
B60L3/00 S
B60L58/27
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095604
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 英輝
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 浩
(72)【発明者】
【氏名】小熊 泰正
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】右田 翼
(72)【発明者】
【氏名】内田 義宏
【テーマコード(参考)】
5H030
5H031
5H125
【Fターム(参考)】
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF31
5H031AA09
5H031KK03
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC06
5H125BC18
5H125BC19
5H125CD02
5H125EE21
(57)【要約】
【課題】硫化物系全固体電池からの硫化水素ガスに過剰に対応される事態を回避する。
【解決手段】電池システムは、電池ユニット105と、ヒータユニット121と、センサユニット110とを備える。電池ユニット105は、電池ケース102に収容され、硫化物系全固体電池を含む。ヒータユニット121は、電池ユニット105を加熱するように構成されている。センサユニット110は、電池ケース102内の硫化水素ガス濃度を測定するように構成されている。ヒータユニット121は、センサユニット110の測定値が第1しきい値を超過した場合に駆動開始される。ヒータユニット121の駆動開始後に測定値が第1しきい値よりも高い第2しきい値を超過した場合に、硫化物系全固体電池からの硫化水素ガスの発生に対応するための対応制御が実行される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池ケースに収容され、硫化物系全固体電池を含む電池ユニットと、
前記電池ユニットを加熱するように構成されたヒータユニットと、
前記電池ケース内の硫化水素ガス濃度を測定するように構成されたセンサユニットとを備え、
前記ヒータユニットは、前記センサユニットの測定値が第1しきい値を超過した場合に駆動開始され、
前記ヒータユニットの駆動開始後に前記測定値が前記第1しきい値よりも高い第2しきい値を超過した場合に、前記硫化物系全固体電池からの硫化水素ガスの発生に対応するための対応制御が実行される、電池システム。
【請求項2】
前記電池ユニットは、第1電池および第2電池を含み、
前記ヒータユニットは、前記第1電池を加熱する第1ヒータと、前記第2電池を加熱する第2ヒータとを含み、
前記センサユニットは、各々が前記硫化水素ガス濃度を測定するように構成された第1センサおよび第2センサを含み、前記第1センサは、前記第1電池の近傍に配置されており、前記第2センサは、前記第2電池の近傍に配置されており、
前記第1センサの測定値が前記第2センサの測定値よりも早く前記第1しきい値を超過した場合、前記第1ヒータおよび前記第2ヒータのうち前記第1ヒータのみが駆動開始される、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記電池ユニットは、充放電可能に構成され、かつ、電動車両の推進力を発生する回転電機に接続された電力変換装置にリレー装置を介して接続可能に構成されており、
前記電池システムは、
前記電池ケースの内部および外部を連通させる連通路と、
前記連通路に設けられた開閉弁と、
前記電動車両のユーザに報知を行う報知装置とをさらに備え、
前記対応制御は、
前記リレー装置を開くことと、
前記開閉弁を開くことと、
前記電池ケース内での前記硫化水素ガスの発生を前記ユーザに報知するように前記報知装置を制御することと、
前記電池ユニットの充放電が制限されるように前記電力変換装置を制御することとのうち少なくとも1つを含む、請求項1または請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記第1しきい値は、1ppm以下であり、
前記第2しきい値は、1ppmよりも高くかつ5ppm未満である、請求項1または請求項2に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2022-46077号公報(特許文献1)は、二次電池と、センサと、制御装置とを備える電池システムを開示する。二次電池は、硫化物系全固体電池であり得、電池ケース内に収容されている。センサは、例えば硫化水素濃度計であって、電池ケース内の硫化水素ガス濃度を検出(測定)する。センサの検出値がしきい値よりも高い場合に、制御装置は、二次電池から硫化水素が発生していると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-46077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
硫化物系全固体電池は、電池ケース内で硫化水素ガスを発生し得る。電池ケース内には、硫化水素ガスが存在し得るが、硫化水素ガスとは異なる雑ガスも存在し得る。上記センサが雑ガスに反応すると、センサの測定誤差が増大し得る。これにより、実際には硫化物系全固体電池から硫化水素が発生していないにも拘らず、センサの測定値がしきい値を超過する可能性がある。この場合、硫化物系全固体電池から硫化水素ガスが発生していると誤判定され得る。その結果、本来不要な制御が実行され、硫化物系全固体電池からの硫化水素ガスに過剰に対応される可能性がある。
【0005】
本開示は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、硫化物系全固体電池からの硫化水素ガスに過剰に対応される事態を回避することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電池システムは、電池ユニットと、ヒータユニットと、センサユニットとを備える。電池ユニットは、電池ケースに収容され、硫化物系全固体電池を含む。ヒータユニットは、電池ユニットを加熱するように構成されている。センサユニットは、電池ケース内の硫化水素ガス濃度を測定するように構成されている。ヒータユニットは、センサユニットの測定値が第1しきい値を超過した場合に駆動開始される。ヒータユニットの駆動開始後に測定値が第1しきい値よりも高い第2しきい値を超過した場合に、硫化物系全固体電池からの硫化水素ガスの発生に対応するための対応制御が実行される。
【0007】
本開示によれば、硫化物系全固体電池からの硫化水素ガスに過剰に対応される事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開実施の形態に従う電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。
図2】電池ユニットの組電池の各セルを模式的に示す図である。
図3】電池ユニット、SMR(System Main Relay)、および駆動ユニットの間の接続関係を説明するための図である。
図4】電池ケースおよび電池ユニットの斜視図である。
図5図4におけるA-A断面である。
図6】実施の形態においてECU(Electronic Control Unit)により実行される処理および制御を例示するフローチャートである。
図7】変形例においてECUにより実行される処理および制御を例示するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明を繰り返さない。実施の形態およびその変形例の各々は、適宜互いに組み合わせられてもよい。
【0010】
図1は、本開実施の形態に従う電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。この車両は、例えば電気自動車(BEV)であるが、エンジンを備えたハイブリッド車両(HEV)などの他の種類の電動車両であってもよい。
【0011】
図1を参照して、車両1は、電池ケース102と、電池ユニット105と、センサユニット110と、SMR112と、駆動ユニット115と、駆動輪119と、ヒータユニット121と、HMI(Human Machine Interface)装置122と、ECU170とを備える。電池ケース102、電池ユニット105、センサユニット110、SMR112、ヒータユニット121、HMI装置122、およびECU170は、本開示の「電池システム」を形成する。
【0012】
電池ケース102は、電池ユニット105を収容する。電池ユニット105は、充放電可能に構成されており、車両1の走行用の電力を蓄える。電池ユニット105は、硫化物系全固体電池を含む。全固体電池とは、電解質層が固体である電池をいう。硫化物系全固体電池は、電池ユニット105の正極活物質層の材料、または、電池ユニット105の固体電解質層の材料の少なくとも一方に硫黄成分を含有する全固体電池である。電池ユニット105は、複数の(この例では、2つの)組電池を含む。
【0013】
図2は、電池ユニット105の組電池の各セルを模式的に示す図である。図2を参照して、各セル52は、ラミネートフィルム45と、電極体46と、正極タブ47と、負極タブ48とを含む。電極体46はラミネートフィルム45内に封止されている。正極タブ47および負極タブ48は電極体46に接続されており、ラミネートフィルム45の内部から外部に引き出されている。各セル52は、硫化物系全固体電池である。
【0014】
電池ユニット105の充放電を繰り返すと、電池セル25内で硫化水素ガスが発生し得る。例えば、ラミネートフィルム45から正極タブ47および負極タブ48が引き出されている部分に隙間が形成され、この隙間から空気がラミネートフィルム45内に浸入することがある。その結果、固体電解質層と空気中の水とが反応して、硫化水素ガスが発生し得る。あるいは、電極体46内で内部短絡が起こり、電極体46が高温となり、硫化水素ガスが発生し得る。このように、硫化物系全固体電池は、それ自身から硫化水素ガスを発生し得る。このような硫化水素ガスの発生は、硫化物系全固体電池に特有であり、セル温度が上昇するほど促進される(セル温度が高いほど硫化水素ガスの発生量が多くなる)。
【0015】
図3は、電池ユニット105、SMR112、および駆動ユニット115の間の接続関係を説明するための図である。図3を参照して、電池ユニット105は、SMR112を介して駆動ユニット115に接続可能に構成されている。電池ユニット105の外には有機溶剤が存在し得る。電池ケース102は、電池ユニット105に加えて、シリコン系ゴム素材を含む種々の化学素材によって形成された部品などを収容する。
【0016】
SMR112は、電池ユニット105と駆動ユニット115との間に接続される。SMR112を閉じることは、車両1の走行システムをオンすることに相当する。SMR112を開くことは、車両1の走行システムをオフすることに相当する。
【0017】
図1を再び参照して、センサユニット110は、センサ55A,55Bを含む。センサ55A,55Bの各々は、電池ケース102内の硫化水素(H2S)ガスの濃度を測定するように構成されている。センサ55A,55Bの測定値を、それぞれ、測定値MVA,MVBとも表す。各センサは、硫化水素ガスとは異なるガス(雑ガス)にも反応し得る。すなわち、測定値MVA,MVBの各々は、雑ガスによっても影響され得る。
【0018】
駆動ユニット115は、PCU(Power Control Unit)116と、回転電機118とを含む(図3参照)。PCU116は、回転電機118に接続されている。PCU116は、SMR112を介して電池ユニット105から供給される直流電力を交流電力に変換し、その交流電力を回転電機118に供給する電力変換装置である。回転電機118は、駆動輪119に接続されており、PCU116からの交流電力を受けて車両1の推進力(走行駆動力)を発生する。ヒータユニット121は、複数の(この例では、2つの)ヒータを含み、電池ユニット105を加熱するように構成されている。
【0019】
HMI装置122は、タッチスクリーンであって、車両1のユーザから各種操作を受けたり、各種画面を表示することでユーザに報知を行う報知装置として機能したりする。
【0020】
ECU170は、プロセッサ171と、メモリ172と、記憶装置173とを含む。プロセッサ171は、例えばCPU(Central Processing Unit)であって、各種の演算処理を実行する。メモリ172は、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを含む(いずれも図示せず)。ROMは、プロセッサ171により実行されるプログラムを記憶する。記憶装置173は、各種データを記憶する。
【0021】
ECU170は、SMR112、PCU116、ヒータユニット121、HMI装置122、および電磁開閉弁(後述)などの、車両1の各種機器を制御する。ECU170は、SMR112を開閉する。ECU170は、PCU116を制御することによって電池ユニット105の充電電力および放電電力を制御する。ECU150は、充電電力の上限および放電電力の上限を設定する。ECU150は、これらの上限を小さくすることによって、それぞれ、充電電力および放電電力を制限できる。充電電力および放電電力(電池ユニット105の充放電)の制限時には、硫化水素ガスの発生が抑制される。
【0022】
ECU170は、測定値MVA,MVBに従って、電池ケース102内で電池ユニット105からの硫化水素ガスが発生しているか否を判定する。例えば、測定値MVA,MVBのいずれもが所定のしきい値(後述)値未満である場合、ECU170は、電池ケース102内で硫化水素ガスが発生していないと判定する。他方、測定値MVA,MVBの少なくとも一方が上記しきい以上である場合、ECU170は、電池ケース102内で硫化水素ガスが発生していると判定する。この場合、ECU170は、電池ユニット105からの硫化水素ガスの発生に対応するための対応制御(詳しくは後述)を実行する。
【0023】
図4は、電池ケース102および電池ユニット105の斜視図である。図4を参照して、電池ケース102は、電池ユニット105に含まれる2つの組電池50(電池50A,50B)を収容している。電池ケース102は、ロアケース91と、アッパケース92とを含む。アッパケース92には、呼吸膜61が設けられている。
【0024】
ヒータユニット121は、ヒータ30A,30Bを含む。ヒータ30A,30Bは、それぞれ、電池50A,50Bの下方に配置されている。ヒータ30A,30Bは、それぞれ、電池50A,50Bを加熱する。
【0025】
センサ55A,55Bは、それぞれ、電池50A,50Bの近傍に配置されている。言い換えれば、センサ55Aは、センサ55Bよりも電池50Aに近く、かつ、センサ55Bは、センサ55Aよりも電池50Bに近い。
【0026】
図5は、図4におけるA-A断面である。図5を参照して、組電池50(この例では、電池50B)は、複数のセル52を含む。複数のセル52、およびヒータ30Bは、エンドプレート31、32の間に配置されている。センサ55Bは、ロアケース91の底面に配置されている。これは、硫化水素ガスが空気よりも重いためである。
【0027】
ダクト60は、電池ケース102(アッパケース92)に設けられており、電池ケース102の内部および外部を連通させる連通路である。ダクト60には、呼吸膜61、62が設けられる。呼吸膜61、62の各々は、透気防水性の素材からなる。この素材は、例えばゴアテックス(GORE-TEX)(登録商標)である。電池ケース102の内部空間は、ほぼ密閉されているが、ダクト60に呼吸膜61、62が設けられているため完全には密閉されていない。ダクト60の内部には、脱硫剤63が配置されている。
【0028】
電池ケース102の内部の圧力が上昇すると、ダクト60および呼吸膜61、62を通じて電池ケース102の内部から外部に空気が排出される。電池ケース102の内部に硫化水素ガスが存在する場合、脱硫剤63は、電池ケース102の内部から外部に向かう硫化水素ガスを吸着して浄化する。他方、電池ケース102の内部の圧力が低下すると、ダクト60および呼吸膜61、62を通じて電池ケース102の外部から内部に空気が流入する。
【0029】
ダクト60には、電磁開閉弁65が設けられる。電磁開閉弁65の開度は、ECU170からの指令に従って調整される。この開度を調整することで、ダクト60を連通させたり閉塞させたりできる。ダクト60および電磁開閉弁65の各々は、前述の電池システムに含まれる。
【0030】
前述のように、電池ユニット105(硫化物系全固体電池)は、電池ケース102内で硫化水素ガスを発生し得る。電池ケース102内には硫化水素ガスが存在し得るが、硫化水素ガスとは異なる雑ガスも存在し得る。これは、ダクト60を通じて電池ケース102の外部から内部へ流入する空気が雑ガスを含んでいたり、電池ケース102内に収容される種々の素材、電池ユニット105(組電池50)の外の有機溶剤、または呼吸膜61,62の構成素材から雑ガスが発生したりするためである。
【0031】
センサ55A,55Bの各々は、雑ガスに反応し得る。この場合、測定値MVA,MVBに含まれる測定誤差が増大し得る。これにより、実際には電池ユニット105から硫化水素が発生していないにも拘らず、測定値MVA,MVBのうち少なくとも一方が前述のしきい値を超過する可能性がある。よって、硫化水素ガスが電池ユニット105から発生していると誤判定され得る。その結果、本来不要な制御が実行され、硫化水素ガスに過剰に対応される可能性がある。上記の誤判定を回避するために、雑ガスへの反応性が低い(硫化水素ガスのみを精度良く測定できる)高精度な硫化水素ガス濃度センサを車両1に搭載することが好ましいようにも思われる。しかしながら、これは、コスト増大を招く。
【0032】
実施の形態では、ECU170は、上記の問題に対応するための構成を有する。具体的には、ECU170は、測定値MVA,MVBのうち少なくとも一方が第1しきい値を超過した場合に、ヒータユニット121(例えば、ヒータ30A,30Bの双方)を駆動開始する。ヒータユニット121の駆動開始後に、測定値MVA,MVBのうちいずれも第2しきい値を超過しない場合に、ECU170は、電池ケース102内で電池ユニット105から硫化水素ガスが発生していないと判定する。他方、測定値MVA,MVBのうち少なくとも一方が第2しきい値を超過した場合に、ECU170は、電池ケース102内で電池ユニット105から硫化水素ガスが発生したと判定する。ECU170は、この判定の結果に基づいて、電池ユニット105からの硫化水素ガスの発生に対応するための対応制御(詳しくは後述)を実行する。第2しきい値は、第1しきい値よりも高い。
【0033】
このような構成とすることにより、電池ユニット105が硫化水素ガスを実際に発生している場合には、ヒータユニット121の駆動開始後に、硫化水素ガスの発生が電池ユニット105の加熱(セル温度の上昇)に起因して促進される。これにより、電池ユニット105からの硫化水素ガスの発生量が増大し、電池ケース102内の硫化水素ガス濃度がさらに上昇する。その結果、測定値MVA,MVBの少なくとも一方が第2しきい値を超過する。他方、電池ケース102内での雑ガスの濃度は、電池ユニット105の温度上昇とは無関係であるため、ヒータユニット121の駆動開始に応答して上昇することはない。上記の構成によれば、硫化水素ガスが発生していると誤判定される事態を回避できる。さらに、高精度な硫化水素ガス濃度センサを必ずしも要しない。加えて、雑ガスへのセンサ55A,55Bの反応に起因して対応制御が不必要に開始される事態を回避できる。よって、電池ユニット105からの硫化水素ガスに過剰に対応される事態を回避できる。
【0034】
以下、対応制御の一例を説明する。対応制御は、SMR112を開くこと(走行システムをオフすること)と、電磁開閉弁65を開くことと、電池ケース102内での硫化水素ガスの発生をユーザに報知するようにHMI装置122を制御することと、電池ユニット105の充放電が制限されるようにPCU116を制御することとのうち少なくとも1つを含む。
【0035】
SMR112を開くことで、PCU116から電池ユニット105を切り離すことができる。これにより、電池ユニット105が電気的に独立して車両1の他の構成要素との導通が遮断される。その結果、充放電が停止されて(車両1が停止して)、硫化水素ガスの発生が抑制される。電磁開閉弁65を開くことで、電池ケース102の内部から外部へダクト60を通じて硫化水素ガスを排出できる。上記のようにHMI装置122を制御することで、硫化水素ガスの発生がユーザに報知される。これにより、硫化水素ガスの発生に対処するように(例えば、車両1のメンテナンスサービスを利用するように)ユーザに動機づけることができる。上記のようにPCU116を制御することで、電池ユニット105の充放電が制限される。これにより、硫化水素ガスの発生が抑制される。このように、対応制御によれば、電池ケース102内での硫化水素ガスの発生に対応できる。
【0036】
第1しきい値は、例えば1ppm以下である(1ppm=0.0001%)。第2しきい値は、例えば、1ppmよりも高くかつ5ppm未満である。実施の形態では、第1しきい値が1ppmであり、第2しきい値が3ppmであるものとする。
【0037】
一般的に、硫化水素ガスの管理濃度および許容濃度は、それぞれ、1ppmおよび5ppmであるものとされる。上記の構成とすることにより、ヒータユニット121の駆動開始後に測定値MVA,MVBのうち少なくとも一方が第2しきい値(3ppm)を超過した後であっても硫化水素ガス濃度が許容濃度(5ppm)を超過する事態を回避できる。これにより、硫化水素ガス濃度が許容濃度を超過することなく硫化水素ガスの発生/不発生を精度良く判定できる。
【0038】
図6は、実施の形態においてECU170により実行される処理および制御を例示するフローチャートである。このフローチャートは、測定値MVA,MVBの少なくとも一方がしきい値TH1を超過すると開始される。しきい値TH1は第1しきい値に相当する。
【0039】
図6を参照して、ECU170は、ヒータユニット121の駆動を開始し(S110)、その後、測定値MVA,MVBの少なくとも一方がしきい値TH2を超過したか否かを判定する(S115)。しきい値TH2は、第2しきい値に相当する。
【0040】
測定値MVA,MVBの少なくとも一方がしきい値TH2を超過した場合(S115においてYES)、ECU170は、電池ケース102内で硫化水素ガスが発生したと判定し(S120)、前述の対応制御を実行する(S125)。他方、測定値MVA,MVBのいずれもがしきい値TH2を超過しない場合(S115においてNO)、ECU170は、電池ケース102内で硫化水素ガスが発生していないと判定する(S130)。この場合、センサユニット110が雑ガスに反応したに過ぎないと考えられる。S125またはS130の後、処理が終了する。
【0041】
以上のように、実施の形態によれば、硫化水素ガスの発生/不発生を精度良く判定できる。さらに、電池ユニット105からの硫化水素ガスへの過剰な対応を回避できる。
【0042】
<実施の形態の変形例>
図4を再び参照して、実施の形態では、ECU170は、ヒータ30A,30Bの双方を駆動するものとしたが、電力消費低減の観点から、これらのヒータのうち一方のみが駆動されてもよい。この変形例では、ECU170は、測定値MVAが測定値MVBよりも早くしきい値TH1を超過した場合、ヒータ30A,30Bのうちヒータ30Aのみを駆動開始する。
【0043】
前述のように、センサ55Aは、センサ55Bよりも電池50Aの近くに配置されている。よって、測定値MVAが測定値MVBよりも早くしきい値TH1を超過した場合には硫化水素ガスが電池50Bではなく電池50Aから発生していると考えられる。したがって、電池50A(電池ユニット105)からの硫化水素ガスの発生を促進するためには、ヒータ30A,30Bのうちヒータ30Aのみを駆動開始すれば十分であり、これらのヒータの双方の駆動を必ずしも要しないとも考えられる。上記のようにヒータ30Aのみを駆動開始することで、ヒータ30A,30Bの双方が駆動される実施の形態と比較してヒータユニット121における電力消費を低減できる。さらに、ヒータ30Aの駆動開始後、電池50Aからの硫化水素ガスの発生が促進されて、測定値MVAがしきい値TH2を超過し得る。これにより、硫化水素ガスが電池50Aから発生していると判定されて、対応制御が実行される。
【0044】
図7は、この変形例においてECU170により実行される処理および制御を例示するためのフローチャートである。このフローチャートは、測定値MVA,MVBのうちいずれかがしきい値TH1を超過すると開始される。
【0045】
図7を参照して、ECU170は、測定値MVAが測定値MVBよりも早くしきい値TH1を超過したか否か、すなわち、しきい値TH1を超過した測定値が測定値MVAであったか否かを判定する(S205)。
【0046】
測定値MVAが測定値MVBよりも早くしきい値TH1を超過した場合(S205においてYES)、ECU170は、ヒータ30Aの駆動を開始し(S210)、その後、測定値MVAがしきい値TH2を超過したか否かを判定する(S215)。測定値MVAがしきい値TH2を超過しない場合(S215においてNO)、ECU170は、電池ケース102内で硫化水素ガスが発生していないと判定する(S230)。測定値MVAがしきい値TH2を超過した場合(S215においてYES)、ECU170は、硫化水素ガスが発生したと判定し(S220)、対応制御を実行する(S225)。
【0047】
測定値MVBが測定値MVAよりも早くしきい値TH1を超過した場合、すなわち、しきい値TH1を超過した測定値が測定値MVBであった場合(S205においてNO)、ECU170は、ヒータ30Bの駆動を開始する(S212)。次いで、ECU170は、測定値MVBがしきい値TH2を超過したか否かを判定する(S217)。測定値MVBがしきい値TH2を超過した場合(S217においてYES)、処理は、S220に進む。測定値MVBがしきい値TH2を超過しない場合(S217においてNO)、処理は、S230に進む。
【0048】
以上のように、この変形例によれば、ヒータユニット121の電力消費を低減できる。
【0049】
<その他の変形例>
センサユニット110は、センサ55A,55Bの双方を含むものとしたが、これらの2つのセンサを含むことなく、電池ケース102内での硫化水素ガスの濃度を測定する単一のセンサを含んでもよい。この場合、ECU170は、このセンサの測定値がしきい値TH1を超過した場合にヒータユニット121(例えば、ヒータ30A)を駆動開始する。ヒータユニット121を駆動開始後、ECU170は、当該測定値がしきい値TH2を超過したか否かを判定する。当該測定値がしきい値TH2を超過しない場合に、ECU170は、電池ケース102内で硫化水素ガスが発生していないと判定する。他方、当該測定値がしきい値TH2を超過した場合に、ECU170は、硫化水素ガスが発生したと判定するとともに対応制御を実行する。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 車両、30A,30B ヒータ、50A,50B 電池、55A,55B センサ、65 電磁開閉弁、102 電池ケース、105 電池ユニット、110 センサユニット、118 回転電機、121 ヒータユニット、122 HMI装置、170 ECU。
図1
図2
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図5
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図7