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  • 特開-アンジオテンシン変換酵素阻害剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176805
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】アンジオテンシン変換酵素阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/18 20160101AFI20241212BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20241212BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241212BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20241212BHJP
   C07K 5/078 20060101ALN20241212BHJP
   C07K 5/062 20060101ALN20241212BHJP
【FI】
A23L33/18
C12N9/99
A61K38/05
A61P43/00 116
A61P9/12
C07K5/078
C07K5/062
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095615
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】503172770
【氏名又は名称】株式会社えがお
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】久保田 亮
(72)【発明者】
【氏名】内堀 泰作
(72)【発明者】
【氏名】北野 忠男
(72)【発明者】
【氏名】松本 ▲祥▼幸
(72)【発明者】
【氏名】和田 竜哉
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB00
4B018MD20
4B018ME04
4B018MF01
4B018MF13
4B018MF14
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA23
4C084CA05
4C084CA14
4C084DC40
4C084NA14
4C084ZA42
4C084ZC20
4H045AA30
4H045BA11
4H045DA57
4H045EA01
4H045EA20
4H045FA20
(57)【要約】
【課題】優れたアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有し、高血圧に有効な組成物を提供すること。
【解決手段】Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、高血圧の予防又は改善用食品組成物、或いは高血圧の予防又は治療用医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
【請求項2】
Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、高血圧の予防又は改善用食品組成物。
【請求項3】
Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、高血圧の予防又は治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のジペプチド又はその塩を含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、高血圧の予防又は改善用食品組成物、及び高血圧の予防又は治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
令和元年国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)によれば、収縮期血圧の平均値は男性134.3mmHg、女性127.3mmHgで、収縮期血圧が140mmHg以上の者の割合は男性34.6%、女性で24.8%であり、日本人は高血圧者の割合が非常に多いと言われている。
【0003】
血圧上昇に大きく関与している酵素として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)が知られている(非特許文献1)。ACEは、血圧調節メカニズムの一つであるレニン-アンジオテンシン系において、アンジオテンシンIから昇圧作用を有するアンジオテンシンIIを生成し、同時に降圧ペプチドであるブラジキニンを分解するなど、血圧上昇に大きく関与している(非特許文献1、2)。
【0004】
近年、高血圧予防を目的とした数多くの機能性食品(機能性表示食品、特定保健用食品)が販売されるなど、ACE阻害作用を有する食品成分が注目を集めている。食品から分離されているACE阻害ペプチドで、機能性表示食品に利用されているものとしては、イワシから分離されたサーディンペプチド(Val-Tyr)、発酵乳から分離されたラクトトリペプチド(Val-Pro-Pro、Ile-Pro-Pro)、わかめペプチド(Phe-Tyr、Val-Tyr、Ile-Tyr)、カツオ節オリゴペプチド(Leu-Lys-Pro-Asn-Met)、ゴマペプチド(Leu-Val-Tyr)などがある(非特許文献3)。また、トウモロコシペプチド(Leu-Pro-Pro)や魚介類由来ジペプチド(Gly-Pro、Asn-Pro、Thr-Pro、Ala-Val、Gly-Val、Asp-Met、Asp-Leu)もACE阻害作用を有することが知られている(特許文献1、2)。
【0005】
黒酢には血圧降下作用があり、高血圧に有効であることが知られている(特許文献3)。
また、黒酢を分画し、単離精製することによって得られるIle-Tyr-Pro、Phe-Phe、Gln-Leu-Pro、Asn-ProがACE阻害作用を有することも知られている(特許文献4)。
【0006】
黒酢は、鹿児島県霧島市福山町でおよそ200年前から独自の製法で作られている。米酢は約3ヵ月前後で作られるのに対して、黒酢は1~3年間もの長い時間をかけて、発酵・熟成される。黒酢はこの工程をすべて一つの壺の中で行う方法で製造されている(非特許文献4)。この製法は、季節や製造した年、更には壺毎に発酵の条件が微妙に異なるため、熟練した職人により色、味などを指標に製造調整が行われている。食酢も従来はこのような職人による製造が行われてきたが、現在は安定した製品品質を保つため、壺での発酵ではなく、タンク内の空気や温度を管理することで、工場内で通気発酵させ、製造されており、黒酢も同様に通気発酵により製造することも可能である。
しかしながら、これまでの黒酢の研究のほとんどは壺で製造された黒酢を使用したものであり(特許文献3、4ともに、坂本醸造株式会社製の黒酢)、工場内で通気発酵により製造した黒酢を用いた研究はあまり行われてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-212245号公報
【特許文献2】特開2003-24012号公報
【特許文献3】特開昭62-120320公報
【特許文献4】特開2001-278893号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】松井利郎、「レニン-アンジオテンシン系と血圧調節」、化学と生物、第53巻、228~235頁、2015年
【非特許文献2】長村洋一、「血圧と保健機能食品」、日本食品安全協会会誌、第13巻、219~222頁、2018年
【非特許文献3】林浩孝ら、「特定保健用食品「血圧が高めの方に適する」表示をした食品について」、日本補完代替医療学会誌、第5巻、37~47頁、2008年
【非特許文献4】松永一彦、「GI登録された「鹿児島の壺造り黒酢」」、日本食品科学工学会誌、第64巻、385~388頁、2017年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、工場内で通気発酵により製造された黒酢中のペプチドを分離し、その活性を検討したところ、特定の4種類のジペプチド又はその塩が特に高いACE阻害作用を有することを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、特定の4種類のジペプチド及びそれらの塩から選択される少なくとも1つを含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、高血圧の予防又は改善用食品組成物、及び高血圧の予防又は治療用医薬組成物を提供するものである。
すなわち、本発明は、要旨、以下のものを提供する。
〔1〕 Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤。
〔2〕 Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、高血圧の予防又は改善用食品組成物。
〔3〕 Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、高血圧の予防又は治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により見出された特定の4種類のジペプチド又はその塩は、高いACE阻害作用を有するので、本発明は、有用性の高い、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、高血圧の予防又は改善用食品組成物、及び高血圧の予防又は治療用医薬組成物を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例において、黒酢試料(液体試料)をサンプルとして、液体クロマトグラフィーによる分離を行った結果を示すクロマトグラムである。
図2図2は、実施例において、黒酢試料(粉末試料)をサンプルとして、液体クロマトグラフィーによる分離を行った結果を示すクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施態様は、Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、アンジオテンシン変換酵素阻害剤を提供する。
本発明の別の実施態様は、Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、高血圧の予防又は改善用食品組成物を提供する。
本発明の更に別の実施態様は、Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Val、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1つを含有する、高血圧の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【0014】
上記アンジオテンシン変換酵素阻害剤、食品組成物、及び医薬組成物に含まれる、Pro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、及びIle-Val(以下、まとめて「本発明のジペプチド」ともいう)は、黒酢より単離することができる。本発明のジペプチドの塩は、ジペプチドのC末端カルボキシル基を置換して、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等としたり、N末端のアミノ基等に塩酸、カルボン酸等の酸を付加して付加塩としたりすることで製造することができる。これらの塩は、通常の塩の形成反応によって製造することができる。また、本発明のジペプチド又はその塩は、化学合成法で製造したものであってもよく、そのような製造方法は、ペプチド合成の分野で公知又は周知である。
【0015】
本発明のジペプチドを黒酢から単離する場合に使用する黒酢は、古くから用いられている屋外で壺を用いる製造方法で製造した黒酢であってもよいし、また、工場内で通気発酵により製造した黒酢であってもよい。屋外で壺を用いる製造方法で製造される黒酢は、例えば、鹿児島県薩摩地方で屋外に並べた醸造用の壺に、米、こうじ等を天然の湧水で仕込み、太陽エネルギーで長時間かけて熟成して製造されるものがある。工場内で通気発酵により製造される黒酢は、例えば、高速撹拌機により細かい空気を送り込めるタンクに、米、こうじ等から仕込んだ酒もろみや種酢を投入し、短期間で効率的に発酵させたのちに熟成して製造されるものがある。しかしながら、本発明のジペプチドを製造することができる限り、原料となる黒酢は、どのような黒酢を用いてもよい。また、黒酢は、液体状態のものを用いてもよいし、液体状態の黒酢を乾燥し粉砕したり、噴霧乾燥したり、凍結乾燥したりすることによって、粉末化したものを用いてもよい。
【0016】
黒酢からペプチドを得る方法は、本発明のジペプチドを単離することができる方法であれば特に限定されず、公知又は周知のペプチドの単離方法であればどのような方法でも用いることができる。例えば、液体状の黒酢を必要に応じて適当な溶媒に溶解するか、又は粉末状の黒酢を適当な溶媒に溶解した後、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などにかけて、所望のジペプチドを分離し、精製する方法が挙げられる。特に、本発明のジペプチドを、実験室規模で単離製造する場合には、HPLCを用いることが好ましく、工場規模で単離製造する場合には、限外濾過を用いて高分子体を除き、その上で逆浸透膜を使用する方法並びにイオン交換樹脂を使用して選択的に回収する方法を用いることが好ましい。また、HPLCなどにかける前には、分子量3000以下のペプチドを抽出するために、限外濾過を行うことが好ましい。HPLCは、逆相カラム(例えば、DeltaPak C18 Column)を用いて行うことが好ましく、移動相としては、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸、水の混液を用いることが好ましい。
【0017】
単離製造したペプチドのアミノ酸配列解析は、公知又は周知のアミノ酸配列解析方法を用いて解析することができる。そのような解析方法としては、例えば、液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC/MS/MS)を用いて、MS/MSスペクトルからペプチドを構成するアミノ酸の配列を解析する方法が挙げられる。LCは、ペプチドカラム(例えば、Inertsil Peptides C18)を用いて行うことが好ましく、移動相としては、ギ酸水溶液、ギ酸アセトニトリル溶液を用いることが好ましい。
【0018】
また、本発明のジペプチドは、ペプチド合成の分野で公知又は周知の化学合成法により人工的に製造してもよい。例えば、本発明のジペプチドは、固相法又は液相法を用いて製造することができ、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)固相合成法で製造することが好ましい。また、本発明のペプチドを人工的に製造する際に、ペプチド合成機を用いれば、一連の反応操作を自動的に行うことができるので、簡便である。
【0019】
本発明のジペプチド又はその塩は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害作用を有するので、ACE阻害剤の有効成分として有用である。ACE阻害剤は、高血圧の処置に有効であることが知られているので、本発明のジペプチド又はその塩は、高血圧の予防又は改善用食品組成物、或いは、高血圧の予防又は治療用医薬組成物の有効成分として有用である。
また、本発明のジペプチド又はその塩を含むACE阻害剤は、食品組成物や医薬組成物に、ACE阻害作用を付与するための添加剤、又は、抗高血圧作用を付与するための添加剤として使用することもできる。
ACE阻害活性は、公知又は周知のACE阻害活性の測定方法を用いて確認することができ、市販のACE阻害活性の測定キットを用いて確認してもよい。そのような市販の測定キットとしては、例えば、ACE kit-WST(同人化学研究所製)が挙げられる。
【0020】
本発明のACE阻害剤、食品組成物、医薬組成物の適用対象としては、特段限定されるものではなく、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヒト等の哺乳動物に適用することができる。適用対象としては、ヒト対象が好ましい。
【0021】
本発明のACE阻害剤又は医薬組成物を対象に適用する方法は、特に制限されず、経口でも非経口(例えば、注射、塗布、貼付など)でも適用することができる。
【0022】
本発明のACE阻害剤、食品組成物、医薬組成物には、必要に応じて、食品組成物や医薬組成物の製造において公知又は周知の不活性成分を含めてもよいし、また、作用の増強や他の作用を期待して、本発明のジペプチド又はその塩以外の別の有効成分を含めてもよい。
【0023】
本発明のACE阻害剤、食品組成物、医薬組成物に含められ得る不活性成分としては、所望の作用が達成される限り特段制限されるものではないが、例えば、食品又は医薬として許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤などが挙げられる。
【0024】
本発明のACE阻害剤、食品組成物、医薬組成物の具体的な適用量や適用間隔は、適用対象の体重、性別、年齢、状態、適用経路、又はその他の要因に従って変動し得る。具体的な適用量や適用間隔は、当業者により適宜決定され得る。しかしながら、非限定的な具体例を挙げるとすれば、通常、経口投与の場合、成人1人(体重60kg)に対して、本発明のジペプチド又はその塩の1日摂取量は、例えば0.001mg以上、好ましくは0.005mg以上、より好ましくは0.01mg以上、更に好ましくは0.013mg以上であって、好ましくは500mg以下、より好ましくは300mg以下、更に好ましくは280mg、より更に好ましくは200mg以下、なお更により好ましくは100mg以下であり、そして、特に好ましくは90mgである。本発明ではこのような量を、1日に1回~複数回で適用するのが好ましい。
【0025】
適用期間は特に限定されないが、反復又は連続して適用することが好ましく、28日間以上連続して適用することがより好ましく、8週間以上連続して適用することがなお更に好ましく、12週間以上連続して適用することが特に好ましい。
【0026】
本発明のACE阻害剤、食品組成物、医薬組成物の具体的な形状としては、所望の効果が達成される限り特段の制限はない。
【0027】
本発明のACE阻害剤又は医薬組成物を非経口で適用する場合には、例えば、皮膚外用剤や注射剤などの剤形で適用することができる。
【0028】
本発明のACE阻害剤又は医薬組成物を経口で適用する場合には、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤などの剤形で適用することができる。また、食品組成物の形状には、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、乳飲料、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージなども挙げられる。
本発明のACE阻害剤、食品組成物、医薬組成物の形状としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤などの固形製剤が好ましく、簡便に摂取ができることから、錠剤及びカプセル剤が更に好ましく、錠剤が特に好ましい。
【0029】
以下に実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例0030】
1.実験方法
(1)試料
工場内で通気発酵により製造された黒酢の原液(液体試料)及び原液を濃縮・殺菌後にスプレードライにより粉末にしたもの(粉末試料)を使用した。液体試料については、そのままHPLC用試料として用い、粉末試料については、粉末2gを純水20mLに溶解したものをHPLC用試料として用いた。また、黒酢の原料である玄米の粉末を対照として使用した。
【0031】
(2)方法
i)液体クロマトグラフィー(HPLC)によるペプチドの分離
分子量3000以下のペプチドを抽出するため、(1)で製造したHPLC用試料をUltracel-3K(Amicon Co.)を用いて限外濾過した。更に、その濾液を0.22μmフィルターで濾過し、得られた濾液をHPLCにかけた。
HPLCは、以下の条件で行った。
・液体クロマトグラフ装置:BioLogic HR(BioRad)
・逆相カラム:DeltaPak C18 Column、100Å、5μm、3.9mm×150mm(Waters)
・試料注入量:200μL
・移動相A液:アセトニトリル0.05%、トリフルオロ酢酸0.1%、残部は水
・移動相B液:アセトニトリル80%、トリフルオロ酢酸0.1%、残部は水
毎分0.5mLの流速で、50分の時点でB液が100%になるようにリニアグラジエントで溶離を行い、各ピークの溶液をフラクションコレクター(BioRad)で抽出し、各ピークについての分析用試料とした。
【0032】
ii)ACE阻害活性の測定
抽出した各ピークについての分析用試料のACE阻害活性は、ACE kit-WST(同仁化学研究所製)を用いて、その使用説明書に従って測定した。
【0033】
iii)アミノ酸配列解析
ACE阻害活性値が高かった分析用試料について、アミノ酸配列解析を行った。アミノ酸配列解析は、一般財団法人材料科学技術振興財団に委託した。
試料を液体クロマトグラフィータンデム質量分析装置(LC/MS/MS)で分析し、MS/MSスペクトルからペプチドを構成するアミノ酸の配列を解析した。
なお、LC/MS/MSの分析条件については、以下のとおりである。
<LC>
・測定装置:Prominence UFLC(島津製作所)
・カラム:Inertsil Peptides C18(1.0mm×150mm、4.0μm)
・カラム温度:40℃
・移動相A:0.1%ギ酸水溶液
・移動相B:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
A:B=99.5:0.5(0min)→A:B=50:50(70min)→A:B=0:100(75min)
・流速:0.1mL/min
・試料注入量:10μL
<MS>
・測定装置:Triple TOF 5600+(AB SCIEX)
・イオン化法:ESI IonSpray Voltage Floating:5.5kV(Positiveモード)
・質量範囲:m/z 50-1000
【0034】
iv)合成したペプチドのACE阻害活性の測定
あるアミノ酸配列が特定の機能を示すことを証明するには、その配列を有するペプチドを合成し、反応性を調べることが必要である。そのため、コスモバイオ株式会社に委託し、iii)でアミノ酸配列解析を行ったペプチドを合成した。今回用いた合成ペプチドは9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)固相合成法で合成した。この合成ペプチドを純水に溶解し、濃度10mg/μLに調整し、合成ペプチド溶液のACE阻害活性をACE kit-WST(同仁化学研究所製)を用いて、その使用説明書に従って測定した。
【0035】
2.実験結果
i)HPLC解析及びピーク毎のACE阻害活性値
HPLCにより、液体試料については5個、粉末試料については7個のピークが検出された(図1、2)。
液体試料の5個のピーク及び粉末試料の7個のピークのそれぞれについて、ACE阻害活性値を求めたところ表1、2のとおりであった(表中のピークNo.は、図1、2中のピークに付した番号に対応)。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
液体試料については、ピークNo.4のACE阻害活性値が最も高く86.2%であった。粉末試料については、ピークNo.6のACE阻害活性値が最も高く84.1%であった。
ii)LC/MS/MSの結果
ACE阻害活性値が80%以上のピークである液体試料のピークNo.1、4と粉末試料のピークNo.4、5、6について、LC/MS/MS解析(上述)を行った。各ピーク内に含まれるペプチドのアミノ酸配列解析(上述)を行ったところ、液体試料のピークNo.1、4からは表3、粉末試料のピークNo.4、5、6からは表4に示したペプチドが含まれていることが推定された。また、対照として使用した玄米の粉末についてもアミノ酸解析を行ったところ、表5に示したペプチドが含まれていることが推定された。
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
【表5】
【0042】
iii)合成ペプチド溶液のACE阻害活性値
表3~5から、黒酢液体試料、黒酢粉末試料、及び玄米に含まれるペプチドを確認し、玄米には含まれておらず黒酢液体試料及び粉末試料に含まれているPro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Valの4種類のペプチドを合成した。合成したペプチド溶液(10mg/μL)について、ACE kit-WST(同仁化学研究所製)を用いて、ACE阻害活性値を求めたところ、Pro-Leuは90.8%、Pro-Ileは91.3%、Leu-Valは99.6%、Ile-Valは98.2%であった。
【0043】
3.まとめ
壺を用いた製造方法ではなく工場内で通気発酵により製造された黒酢にも、ACE阻害作用を有するペプチドが含まれることが示された。また、この黒酢を粉末化しても、ACE阻害作用を有するペプチドが含まれることが示された。
黒酢の液体試料から得られるACE阻害作用が高いピークからは11種類のペプチドが、黒酢の粉末試料から得られるACE阻害作用が高いピークからは7種類のペプチドが、検出された。また、黒酢の原料である玄米からは11種類のペプチドが検出された。
そこで、原料である玄米に含まれずかつ液体試料と粉末試料の両方に含まれるPro-Leu、Pro-Ile、Leu-Val、Ile-Valの4種類のペプチドを合成し、これらのACE阻害活性値を求めたところ、すべて90%以上と非常に高いACE阻害活性値が得られた。
したがって、これら4つのペプチドは、非常に高い血圧降下作用を有すると考えられる。
また、今回、液体状態の黒酢だけではなく、粉末化した黒酢にも、ACE阻害作用を有するペプチドが残存していることが確認された。液体よりも粉末の方が扱いが容易であることから、黒酢の粉末は、抗高血圧効果を期待した新たな機能性表示食品やサプリメントなどの開発に有用であると考えられる。
図1
図2