(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176813
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20241212BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20241212BHJP
B29C 45/16 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
B32B27/32 C
B32B27/40
B29C45/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095627
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川口 滉
(72)【発明者】
【氏名】大野 広明
(72)【発明者】
【氏名】堀田 祐志
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
【Fターム(参考)】
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100AL05B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA15
4F100EH312
4F100EH31B
4F100EH31C
4F100EH361
4F100EH36A
4F100GB32
4F100GB33
4F100JA121
4F100JA12A
4F100JB13B
4F100JB13C
4F100YY00B
4F206AA03
4F206AA11
4F206AA42
4F206AC05
4F206AH24
4F206AR12
4F206JA07
4F206JB28
4F206JF01
4F206JL02
4F206JN12
(57)【要約】
【課題】第1層と第2層との接合強度をより高めることができる積層体及び積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】積層体11は、ポリオレフィン製の第1層12と、第1層12に積層された熱硬化性ポリウレタン製の第2層13とを備える。第1層12と第2層13とは、第1層12を構成するポリオレフィンと第2層13を構成する熱硬化性ポリウレタンとの両方の成分が混ざり合った混合層14によって接合されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン製の第1層と、前記第1層に積層された熱硬化性ポリウレタン製の第2層とを備え、
前記第1層と前記第2層とは、前記第1層を構成するポリオレフィンと前記第2層を構成する熱硬化性ポリウレタンとの両方の成分が混ざり合った混合層によって接合されていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
射出成形によりポリオレフィン製の第1層を成形する第1層成形工程と、
前記第1層の表面に非晶質層を形成する非晶質層形成工程と、
前記表面に前記非晶質層が形成された状態の前記第1層をセットした金型を型締めする型締め工程と、
前記金型のキャビティに熱硬化性ポリウレタンの前駆体を注入し、前記非晶質層に前記前駆体を浸透させながら前記前駆体を硬化させることにより熱硬化性ポリウレタン製の第2層を成形する第2層成形工程と、
を備えることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項3】
前記非晶質層形成工程において形成される前記非晶質層の厚さは、5nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項2に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の積層体及び当該積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリプロピレンは、表面自由エネルギーが低いので、接着性が低い難接着性樹脂であることが知られている。ポリプロピレンをはじめとする難接着性樹脂に別の樹脂層を積層する場合、難接着性樹脂の表面をプラズマ処理などによって改質した後、当該表面に接着剤などを用いて当該樹脂層を接着する方法をとることが一般的である。しかし、この方法で難接着性樹脂に樹脂層を積層する場合、接着剤の塗布工程が必要になるため、製品の生産性が低下する。
【0003】
従来、ポリプロピレンの表面に、接着剤を用いることなく、熱可塑性ポリウレタンを付着結合させた物品が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この物品は、ポリプロピレンの表面をプラズマ処理した後、当該表面に熱可塑性ポリウレタンを射出成形によって付着結合させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の物品は、ポリプロピレンの表面部分のみに熱可塑性ポリウレタンが付着結合されただけの構成であるため、ポリプロピレンと熱可塑性ポリウレタンとの接合強度が十分に確保されないおそれがある。こうしたことから、接着剤を用いることなく、難接着性樹脂に樹脂層がより高い接合強度で接合された積層体が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための積層体及び積層体の製造方法の各態様を記載する。
[態様1]ポリオレフィン製の第1層と、前記第1層に積層された熱硬化性ポリウレタン製の第2層とを備え、前記第1層と前記第2層とは、前記第1層を構成するポリオレフィンと前記第2層を構成する熱硬化性ポリウレタンとの両方の成分が混ざり合った混合層によって接合されていることを特徴とする積層体。
【0007】
上記構成によれば、第1層及び第2層をそれぞれ構成するポリオレフィン及び熱硬化性ポリウレタンの両方の成分が混ざり合った混合層によって第1層と第2層とが接合されている。すなわち、第1層と第2層とは、上記両方の成分が複雑に混ざり合った混合層において一体に接合された状態になっている。このため、第1層と第2層との接合強度をより高めることができる。
【0008】
[態様2]射出成形によりポリオレフィン製の第1層を成形する第1層成形工程と、前記第1層の表面に非晶質層を形成する非晶質層形成工程と、前記表面に前記非晶質層が形成された状態の前記第1層をセットした金型を型締めする型締め工程と、前記金型のキャビティに熱硬化性ポリウレタンの前駆体を注入し、前記非晶質層に前記前駆体を浸透させながら前記前駆体を硬化させることにより熱硬化性ポリウレタン製の第2層を成形する第2層成形工程と、を備えることを特徴とする積層体の製造方法。
【0009】
上記方法によれば、熱硬化性ポリウレタンの前駆体がポリオレフィン製の第1層の非晶質層に浸透しながら硬化して熱硬化性ポリウレタン製の第2層が成形される。このとき、前駆体が浸透した非晶質層は、第1層及び第2層をそれぞれ構成するポリオレフィン及び熱硬化性ポリウレタンの両方の成分が複雑に混ざり合った混合層になる。このため、この混合層において第1層と第2層とが一体的に接合されるので、第1層と第2層との接合強度をより高めることができる。
【0010】
[態様3]前記非晶質層形成工程において形成される前記非晶質層の厚さは、5nm以上500nm以下であることを特徴とする[態様2]に記載の積層体の製造方法。
上記方法によれば、第1層と第2層とを接合する上記混合層の厚さが十分に確保されるので、第1層と第2層との接合強度をより確実に高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、第1層と第2層との接合強度をより高めることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】積層体の一実施形態を示す断面模式図である。
【
図5】表面に非晶質層が形成された状態の第1層の一部を示す電子顕微鏡写真である。
【
図9】積層体における成分の分布を示す模式図である。
【
図10】
図9の積層体における位置と成分との関係を示すグラフである。
【
図11】変更例の第1層成形工程を示す断面模式図である。
【
図12】変更例の非晶質層形成工程を示す断面模式図である。
【
図13】変更例の型締め工程及び第2層成形工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、一実施形態を図面に従って説明する。
<積層体11>
図1及び
図2に示すように、積層体11は、樹脂製であるとともに、例えば車両のバンパーなどの外装部品である。積層体11は、第1層12と、第1層12に積層された第2層13と、第1層12と第2層13とを接合する混合層14とを備えている。第1層12は、ポリオレフィン製である。第1層12は、一例として、ポリプロピレン(PP)製である。第2層13は、熱硬化性ポリウレタン(PU)製である。混合層14は、第1層12を構成するポリプロピレンと第2層13を構成する熱硬化性ポリウレタンとの両方の成分が混ざり合った層である。
【0014】
<積層体11の製造方法>
積層体11の製造方法は、第1層成形工程と、非晶質層形成工程と、型締め工程と、第2層成形工程とを備える。
【0015】
<第1層成形工程>
図3に示すように、第1層成形工程では、射出成形によりポリプロピレン製の第1層12を成形する。すなわち、シリンダ(図示略)から型締めされた状態の第1成形型15の第1キャビティ16に溶融状態のポリプロピレンを注入した後、冷却して固化させることによって第1層12を成形する。第1成形型15は、固定型17と第1可動型18とを備える。第1成形型15で第1層12を成形した後は、第1成形型15を開いて第1成形型15から第1層12を取り出す。
【0016】
<非晶質層形成工程>
図4及び
図5に示すように、非晶質層形成工程では、第1成形型15から取り出された状態の第1層12の表面に例えばコロナ処理やフレーム処理などを行うことにより第1層12の表面を改質することで、第1層12の表面に非晶質層19を形成する。非晶質層19は、第1層12を構成する分子や原子の配列が一定でない不規則な状態になっている層である。
図5は、表面に非晶質層19が形成された状態の第1層12の一部を示す電子顕微鏡写真である。
図5中、黒い部分が非晶質層19である。
【0017】
第1層12の表面にコロナ処理を行う場合には、例えばコロナ放電表面改質装置20が用いられる。コロナ処理などによって第1層12の表面に形成される非晶質層19の厚さは、5nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上200nm以下であることがより好ましい。
図5に示す非晶質層19の厚さは、約15nmである。
【0018】
<型締め工程>
図6及び
図7に示すように、型締め工程では、表面に非晶質層19が形成された状態の第1層12を金型の一例としての第2成形型21にセットした後、第2成形型21を型締めする。第2成形型21は、第1成形型15における第1可動型18を第2可動型22に変更したものである。したがって、第2成形型21は、固定型17と第2可動型22とを備える。
【0019】
固定型17は、第1成形型15及び第2成形型21の両方において共通で用いられる。第2成形型21は、第1層12の表面を覆うように第2層13を成形する金型である。第2成形型21では、第1層12を型締めした際に形成される第2キャビティ23における第1層12の表面と第2可動型22のキャビティ面24との間に空間25が形成される。
【0020】
<第2層成形工程>
図7に示すように、第2層成形工程では、第1層12をセットして型締めした状態の第2成形型21の第2キャビティ23における空間25に熱硬化性ポリウレタンの前駆体の一例として第1液及び第2液を混合しながら注入する。第1液は、ポリオールを主成分とする液体である。第2液は、イソシアネートを主成分とする液体である。この場合、第1液及び第2液は、混合前に予め50℃~70℃程度に加温しておくことが好ましい。さらにこの場合、第2成形型21は、予め60℃~100℃程度に加熱しておくことが好ましい。
【0021】
第1液及び第2液を空間25に注入した後は、第2成形型21を一定の圧力で型締めした状態で20秒~90秒程度保持する。これにより、第1液及び第2液は、空間25を満たすとともに第1層12の表面の非晶質層19に浸透しながら化学反応することによって硬化して熱硬化性ポリウレタンとなる。この結果、熱硬化性ポリウレタン製の第2層13が第1層12と一体に接合された状態で成形されてなる積層体11が得られる。その後、第2成形型21を型開きすることによって、第2成形型21から積層体11を取り出す。
【0022】
<積層体11における第1層12と第2層13との接合部分>
図8は、積層体11における第1層12と第2層13との接合部分とその周辺を示す電子顕微鏡写真である。
図8から、第1層12における非晶質層19が形成されていた位置、すなわち第1層12と第2層13との接合部分に、混合層14が形成されていることが分かる。
図8に示す混合層14の厚さは、150nm~200nmである。
【0023】
また、
図8から、混合層14は、
図5に示す非晶質層19よりも格段に厚さが厚くなっていることが分かる。すなわち、
図8から、非晶質層19に第1液及び第2液が浸透した状態で化学反応して熱硬化性ポリウレタンとなった際に、非晶質層19と熱硬化性ポリウレタンとが混ざり合って体積が増加して混合層14となることが分かる。
【0024】
<混合層14の成分分析>
図9に示すように、混合層14は、積層体11における200nmの位置(Position)付近に存在している。積層体11の成分を分析したところ、
図10に示す結果となった。
図9の積層体11の模式図の矢印で示す縦方向の位置(Position)と、
図10のグラフにおける横軸の位置(Position)とは、互いに対応している。
【0025】
図10のグラフから、積層体11における200nmの位置付近に存在する混合層14には、第1層12を構成するポリプロピレンの非晶質層19の成分Aと熱硬化性ポリウレタンの成分Bとの両方の成分が混在していることが分かる。なお、成分Bは、窒素である。窒素は、熱硬化性ポリウレタンに含まれているが、ポリプロピレンに含まれていないため、熱硬化性ポリウレタンであると言える。
【0026】
<実施形態の作用>
積層体11は、第1層12を構成するポリプロピレンと第2層13を構成する熱硬化性ポリウレタンとが、これらの両方の成分が混ざり合った混合層14によって接合されている。すなわち、第1層12と第2層13とは、上記両方の成分が複雑に混ざり合った混合層14において一体に接合された状態になっている。このため、接着剤を用いなくても、第1層12と第2層13との接合強度が十分に確保される。
【0027】
<実施形態の効果>
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)積層体11は、ポリプロピレン製の第1層12と、第1層12に積層された熱硬化性ポリウレタン製の第2層13とを備える。第1層12と第2層13とは、第1層12を構成するポリプロピレンと第2層13を構成する熱硬化性ポリウレタンとの両方の成分が混ざり合った混合層14によって接合されている。
【0028】
上記構成によれば、第1層12及び第2層13をそれぞれ構成するポリプロピレン及び熱硬化性ポリウレタンの両方の成分が混ざり合った混合層14によって第1層12と第2層13とが接合されている。すなわち、第1層12と第2層13とは、上記両方の成分が複雑に混ざり合った混合層14において一体に接合された状態になっている。このため、第1層12と第2層13との接合強度をより高めることができる。
【0029】
(2)積層体11の製造方法は、射出成形によりポリプロピレン製の第1層12を成形する第1層成形工程と、第1層12の表面に非晶質層19を形成する非晶質層形成工程と、表面に非晶質層19が形成された状態の第1層12をセットした第2成形型21を型締めする型締め工程と、第2成形型21の第2キャビティ23に熱硬化性ポリウレタンの前駆体(第1液及び第2液)を注入し、非晶質層19に前駆体を浸透させながら前駆体を硬化させることにより熱硬化性ポリウレタン製の第2層13を成形する第2層成形工程と、を備える。
【0030】
上記方法によれば、熱硬化性ポリウレタンの前駆体がポリプロピレン製の第1層12の非晶質層19に浸透しながら硬化して熱硬化性ポリウレタン製の第2層13が成形される。このとき、前駆体が浸透した非晶質層19は、第1層12及び第2層13をそれぞれ構成するポリプロピレン及び熱硬化性ポリウレタンの両方の成分が複雑に混ざり合った混合層14になる。このため、この混合層14において第1層12と第2層13とが一体的に接合されるので、第1層12と第2層13との接合強度をより高めることができる。
【0031】
(3)積層体11の製造方法において、非晶質層形成工程において形成される非晶質層19の厚さは、5nm以上500nm以下である。
上記方法によれば、第1層12と第2層13とを接合する混合層14の厚さが十分に確保されるので、第1層12と第2層13との接合強度をより確実に高めることができる。因みに、非晶質層19の厚さが5nm未満である場合、第1層12と第2層13との接合強度が十分に確保され難くなるおそれがある。一方、非晶質層19の厚さが500nmを超える場合、第2層成形工程において非晶質層19に熱硬化性ポリウレタンの前駆体(第1液及び第2液)が浸透しない無駄な領域が生じるおそれがある。
【0032】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0033】
・積層体11の製造方法は、次のようにしてもよい。まず、
図11に示すように、第1層成形工程として、上記実施形態と同様に、第1成形型15を用いて第1層12を射出成形する。続いて、第1成形型15を型開きする。このとき、
図12に示すように、第1層12は、固定型17側に残った状態になっている。続いて、この状態で、非晶質層形成工程として、上記実施形態と同様に、第1層12の表面に非晶質層19を形成する。続いて、
図12及び
図13に示すように、型締め工程として、上記実施形態と同様に、表面に非晶質層19が形成された状態の第1層12を、第1可動型18を第2可動型22に交換した第2成形型21にセットした後、第2成形型21を型締めする。その後、第2層成形工程として、上記実施形態と同様に、第1層12をセットして型締めした状態の第2成形型21の第2キャビティ23における空間25に第1液及び第2液を混合しながら注入して第2層13を成形する。これにより、積層体11を得る。
【0034】
・非晶質層形成工程において形成される非晶質層19の厚さは、必ずしも5nm以上500nm以下である必要はない。
・第2層成形工程において、第2成形型21の第2キャビティ23における空間25には、第1液及び第2液に加えて例えば着色などを目的とした各種添加剤を混合しながら注入するようにしてもよい。
【0035】
・第1層12は、ポリプロピレン以外のポリオレフィンによって構成してもよい。すなわち、第1層12は、例えばポリエチレンによって構成してもよい。
・積層体11は、車両のバンパーなどの外装部品に限らず、他に例えばインストルメントパネルなどの車両の内装部品として具体化してもよい。
【0036】
・積層体11は、車両以外の製品に適用してもよい。
【符号の説明】
【0037】
11…積層体
12…第1層
13…第2層
14…混合層
15…第1成形型
16…第1キャビティ
17…固定型
18…第1可動型
19…非晶質層
20…コロナ放電表面改質装置
21…金型の一例としての第2成形型
22…第2可動型
23…第2キャビティ
24…キャビティ面
25…空間
A,B…成分