(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176819
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/02 20060101AFI20241212BHJP
【FI】
H02K1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095638
(22)【出願日】2023-06-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム(トライアウト)、「低損失・小型化を実現する磁性コンポジットリング埋込形サーボモータの開発」受託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光秀
(72)【発明者】
【氏名】水野 勉
(72)【発明者】
【氏名】高沢 渓吾
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA26
5H601AA29
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601EE27
5H601EE34
5H601EE35
5H601FF01
5H601FF02
5H601FF17
5H601GA02
5H601GA47
5H601GB05
5H601GB13
5H601GB48
5H601HH02
5H601HH05
5H601HH22
5H601HH23
5H601KK25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、固定子を複合磁性材からなる構造とし、回転子の永久磁石の渦電流損などの交流損失を低減できる高速回転用の回転電機を提供する。
【解決手段】本発明に係る回転電機は、永久磁石3を備える回転子と磁性材料からなる固定子コア4を備える固定子とを備え、回転子に対して回転磁界を印可するための固定子巻線5が固定子に設けられ、固定子コア4の磁性材料は磁性粉がマトリックス材中に分散された複合磁性材である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を備える回転子と磁性材料からなる固定子コアを備える固定子とを備え、前記回転子に対して回転磁界を印可するための固定子巻線が前記固定子に設けられている回転電機であって、
前記固定子コアの磁性材料は磁性粉がマトリックス材中に分散された複合磁性材であることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記複合磁性材の比透磁率は2以上20以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記複合磁性材において、前記磁性粉と前記マトリックス材の合計体積に対する前記磁性粉の体積の比率は10体積%以上90体積%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記磁性粉は、センダスト、鉄基アモルファス、および鉄シリコンの内の少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の回転電機。
【請求項5】
前記磁性粉は、粒径が1μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項4に記載の回転電機。
【請求項6】
前記マトリックス材は、エポキシ、アクリル、ウレタン、エストラマー、フェノール、ナイロンのいずれかの樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子と固定子、および回転子コアの周方向に沿って並ぶように配置された複数の永久磁石とを備える回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー消費の増加に伴って国際的に地球温暖化などの環境問題が注目され、省エネルギーを目的に低損失化が求められている。各分野で電動化が進む中、回転電機の一つである電動機(以下、「モータ」という。)は世界の消費エネルギーの40%を占めている。モータの体格を維持して高出力化を図る手段として、回転数を増加させるモータの研究が行われ、超高速のモータの一つに埋込巻線形同期モータと呼ばれるモータが検討されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1に記載の発明においては、固定子コアのティースを複合磁性材で形成し、さらに永久磁石に対向する側に複合磁性材からなる磁性のリングを設けて巻線を埋め込んだ構造が検討されている。複合磁性材を適用することにより巻線の交流銅損や永久磁石の渦電流損、固定子の鉄損による交流損失を低減した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】鈴木樹、楡井雅巳、堀内学、佐藤光秀、卜穎剛、水野勉、超高速回転における交流損失を低減する埋込巻線形同期モータ、日本AEM学会誌、Vol28、No.2(2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載のモータでは、固定子は、複合磁性材と電磁鋼板の二つの材料で構成され、構造面や特性面で改善の余地があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、固定子コアを複合磁性材のみからなる構造とし、交流損失をさらに低減できる高速回転用の回転電機を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の回転電機は、永久磁石を備える回転子と磁性材料からなる固定子コアを備える固定子とを備え、前記回転子に対して回転磁界を印可するための固定子巻線が前記固定子に設けられている回転電機であって、前記固定子コアの磁性材料は磁性粉がマトリックス材中に分散された複合磁性材であることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の回転電機は、請求項1に記載のものであり、前記複合磁性材の比透磁率は2以上20未満の範囲であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の回転電機は、請求項1または2に記載のものであり、前記磁性粉と前記マトリックス材の合計体積に対する前記磁性粉の体積の比率は10体積%以上90体積%以下であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の回転電機は、請求項3に記載のものであり、前記磁性粉は、センダスト、鉄基アモルファス、および鉄シリコンの内の少なくとも1種であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の回転電機は、請求項4に記載のものであり、前記磁性粉は、粒径が1μm以上1000μm以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の回転電機は、請求項3に記載のものであり、前記マトリックス材は、エポキシ、アクリル、ウレタン、エストラマー、フェノール、ナイロンのいずれかの樹脂であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を適用する回転電機は、固定子コアの磁性材料として複合磁性材を用いるため、固定子コアの比透磁率を20以下とすることができ、高速回転時における回転子の永久磁石の渦電流損を低減することができる。また、固定子コアの単位体積磁芯損失が小さいため、固定子コアの鉄損を低減することができる。さらに、固定子コアにおいて内側にリングを有しないため構造が簡単であり、一般的な集中巻モータと同じようにコイル巻き作業が容易である。
【0014】
さらに、固定子コアに使用する複合磁性材の比透磁率が2以上である場合、同一形状のコアレスモータよりもトルク定数が向上し、トルク作用時の直流銅損を低減できる。また、回転子の永久磁石の磁束が固定子の固定子巻線(コイル)に鎖交することに伴う交流銅損を低減できる。
【0015】
また、固定子コアに使用する複合磁性材は、磁性粉充填率や磁性粉種類を変えることで磁気特性が調整可能である。さらに、磁性粉とマトリックス材の合計体積に対する磁性粉の体積の比率(磁性粉の体積混合比率)が10体積%以上90体積%以下である場合、モータの寸法、回転速度やトルクなどの運転特性を考慮した高効率化が可能である。
【0016】
また、磁性粉がセンダスト、鉄基アモルファス、および鉄シリコンの内の少なくとも1種である場合、単位体積磁芯損失が小さい材料であるため、高速回転時の回転電機の効率を高くすることができる。
さらに、磁性粉の粒径が1μm以上1000μm以下である場合、鉄損を小さくでき、高速回転時の回転電機の効率を高くすることができる。
【0017】
また、マトリックス材が、エポキシ、アクリル、ウレタン、エストラマー、フェノール、ナイロンのいずれかの樹脂である場合、絶縁性を確保でき、配合比を変えることで機械的強度の調整を簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を適用する回転電機を回転軸方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【
図2】本発明を適用する回転電機に使用する複合磁性材の製造方法を説明するための模式図である。
【
図3】本発明を適用する回転電機の損失低減・効率向上の原理について説明する図である。
【
図4】本発明を適用する別の回転電機を回転軸方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【
図5】各種磁性材料の磁気ヒステリシス曲線を示すグラフである。
【
図6】各種磁性材料の単位体積磁芯損失を示すグラフである。
【
図7】複合磁性材(比透磁率μr=2~10)の磁気ヒステリシス曲線を示すグラフである。
【
図8】比較例5に係る回転電機を回転軸方向に垂直な平面で切断した断面図である。
【
図9】電磁界解析による実施例5および比較例1~4の磁束密度分布を示す図である。
【
図10】電磁界解析による実施例5および比較例1~4の損失密度分布を示す図である。
【
図11】電磁界解析(回転数125、000rpm)による実施例1~5および比較例1~5のモータの損失解析結果をまとめた表である。
【
図13】電磁界解析(回転数50、000rpm)による実施例5および比較例1~4の損失解析結果を棒グラフで表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。なお、各図において共通する部分については、同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する場合がある。
【0020】
<第1実施形態>
[構造・構成]
図1に、本発明を適用する回転電機10を回転軸方向に垂直な断面で表した部分構成図を示す。回転電機10は、電動機(モータ)または発電機である。
【0021】
回転電機10は、回転子と固定子とを備えている。回転子は、回転軸のシャフト1と回転子コア2と、回転子コア2の外周に交互に極性を変えて並ぶように配置された複数の永久磁石3とを備えている。また、固定子は、固定子コア4と固定子巻線(コイル)5を備えている。
【0022】
回転子は、固定子と同心円状であり、かつ、固定子との間にエアギャップを有するように配置されている。回転子の回転子コア2は、軟磁性材料で形成されたものであり、円筒形に形成されている。回転子コア2は、一例として、透磁率の高い金属製の鋼板を円環状に打ち抜き加工して形成された多数の電磁鋼板を軸方向に積層して構成された、いわゆる積層鋼板構造により円筒形に形成されたものである。
【0023】
永久磁石3は、エアギャップを介して固定子コア4のティース42に対向するよう回転子コア2の外周面に固定されている。永久磁石3は、予め図中のN極とS極を生じるように着磁されている。永久磁石3の磁化方向は回転子の半径方向である。永久磁石3は、材料の限定はないが、磁力の強さからネオジウム磁石やサマリウムコバルト磁石が好ましい。
【0024】
固定子は、円環形状に形成されている。固定子は、外環部のヨーク(以下、「ヨーク」という。)41とヨーク41から内周側に向けて突起する複数のティース42で構成される固定子コア4と、隣接するティース42間の空間であるスロットとから形成されている。ティース42には、固定子巻線5が巻回されている。スロットはオープンスロットであり、固定子コア4はスロットにおいて開口部を備えている。開口部においてはティース42と永久磁石3は対向していない。
図1においては、一例として、回転電機の固定子のティース42は、周方向に沿って6個を有する6スロット構造の例を示している。
【0025】
固定子巻線5の巻き方は限定されない。例えば、集中巻または分布巻を採用することができる。ただし、小型化の観点から集中巻が好ましい。固定子巻線5の材料として、例えば、比抵抗の小さい、銅、アルミニウムおよび超電導線材などが挙げられる。
【0026】
回転電機10がモータの場合、固定子巻線5に交流電流を通電し、固定子は回転子に対する回転磁界を生成する。また、回転電機10が発電機の場合、回転子の永久磁石5の回転により、固定子の固定子巻線5に磁力線が作用し電圧が発生する。回転電機10の回転数に限定はないが、一例として、50、000rpm以上が好ましく、高速回転という点から100、000rpm以上であることがより好ましい。
【0027】
[固定子コアの材料・特性]
固定子コア4(ヨーク41とティース42)は、比透磁率が1を超える磁性材料からなる磁性体である。固定子コア4の比透磁率は、交流損失低減の点から、回転動作における、例えば周波数4kHzの交流磁界に対して、2以上20以下が好ましく、さらに2以上10以下がより好ましい。固定子コア4の材料(磁性材料)は、上記範囲の比透磁率を有するものであれば限定されないが、成型のし易さという点から複合磁性材が好ましい。複合磁性材において透磁率の大きさは、後述する磁性粉の種類や形状、大きさ、また、マトリックス材に対する磁性粉の混合比を変えることで制御可能である。また、固定子コア4には、透磁率の少なくとも一方の特性の異なる複数種の複合磁性材で構成されていてもよい。例えば、回転電機の特性上の必要性から、複数種の複合磁性材で固定子コアを分割して構成してもよい。
【0028】
複合磁性材は、マトリックス材中に磁性粉が分散している混合部材である。樹脂からなるバインダに磁性粉を混ぜて固化させたものであってもよく、例えば、磁性粉に樹脂と希釈材を混合・攪拌・注型し、熱硬化させたものでもよい。複合磁性材は、高周波での損失が少なく、透磁率が低く、飽和磁束密度が高いという特徴がある。
【0029】
磁性粉は、軟磁性体を粉末状(微粒子状)に形成したものである。磁性粉の材質として、例えば、鉄基アモルファス、センダスト、パーマロイ、鉄シリコン、NANOMET(登録商標)、ナノ結晶合金が挙げられる。磁性粉は、これらの磁性粉の内の少なくとも1種であることが好ましい。磁性粉は、鉄損が小さく樹脂との混合が容易な材料が好ましい。特に、鉄損が小さいセンダストが好ましく、また、複数種の磁性粉を配合してもよい。磁性粉は、絶縁被覆されているものであってもよい。
【0030】
磁性粉の形状は任意である。磁性粉として、例えば、球状、塊状および扁平状の粉体から選ばれる1種または複数種の粉体を混合したものを用いることができる。また、磁性粉として、異なる形状、異なるサイズの粉体を混合して用いることができる。磁性粉の形状に限定はないが、球状が好ましい。扁平状の磁性粉では、強磁場により配向が生じ、磁束密度が飽和する可能性があるからである。磁性粉のサイズに限定はないが、一例として、磁性粉の粒径が1μm以上1000μm以下であることが好ましい。小さなサイズの方が鉄損を少なくできるからである。
【0031】
マトリックス材は、複合磁性材における母材であり、非磁性で絶縁性を有する材料である。スラリー状から硬化する材料であれば特に限定されないが、製造性や絶縁特性などから樹脂であることが好ましい。樹脂の材質に限定は無く、例えば、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、エストラマー樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂は、寸法安定性や耐水性・耐薬品性および電気絶縁性が高いことから好ましく使用できる。熱可塑性樹脂として、例えば、アクリル樹脂、ナイロン樹脂が挙げられる。よって、マトリックス材としては、エポキシ、アクリル、ウレタン、エストラマー、フェノール、ナイロンのいずれかの樹脂であることが望まれる。
【0032】
磁性粉とマトリックス材の樹脂との配合比に限定は無く、所望の特性に応じて適宜決めればよい。絶縁性の樹脂中で、導電性の磁性粉同士が接触すると鉄損が増えるため、磁性粉同士が多く接触しない配合比にすることが好ましい。配合の結果、磁性粉とマトリックス材の合計体積に対する磁性粉の体積の比率(磁性粉の体積混合比率)は、一例として、10体積%以上90体積%以下が好ましい。この範囲より低いと磁束経路が十分に制御されず、逆に高いと材料自身の剛性が低下するからである。さらに、この点から、磁性粉の体積混合比率は40体積%以上70体積%以下がより好ましい。
【0033】
[固定子コアの製造方法]
図2に、複合磁性材の製造方法の一例を示す。まず、磁性粉およびスラリー状(液状)のマトリックス材(樹脂材料)を準備する。続いて、樹脂材料と磁性粉とを混合し、攪拌してマトリック材中に磁性粉を均一に分散させる。混合する際に、必要に応じて溶剤、添加剤、結合剤等を適宜加えてもよい。続いて、加熱し、成形して、マトリックス材を硬化させる。これにより、ヨークとティースが一体に形成され所望の形状の固定子コアが完成する。このとき、圧粉磁心のような高圧力で圧縮成型する必要はない。
【0034】
また、固定子コアには、透磁率の異なる複数種の複合磁性材で構成されていてもよい。例えば、回転電機の特性上の必要性から、複数種の複合磁性材で固定子コアを分割して構成してもよい。
【0035】
[損失低減・効率向上の原理]
次に、本発明を適用する回転電機の損失低減・効率向上の原理について説明する。
【0036】
図3は、
図1に示した構成図の一部分を示しており、回転電機の効率向上の原理を説明するための概要図である。ヨークとティースからなる固定子コア4は複合磁性材で形成されている。複合磁性材の比透磁率は2~20と非常に低い。これにより、本発明の回転電機は固定子のスロットとティースとの間で磁気抵抗差を小さくでき、回転方向に対する磁気抵抗の差が小さくなる。そして、磁気抵抗の差を小さくした場合には、ギャップ部に発生する磁束の空間高調波の抑制に有効であり、固定子や永久磁石で発生する鉄損の低減に有効である。
【0037】
一方、非磁性樹脂で固定子コアを構成するコアレスモータも同様に空間高調波を抑制するが、非磁性樹脂は比透磁率が1であり、永久磁石の磁束が低下しやすい。その結果、トルク定数が下がりやすく、固定子巻線(コイル)に電流を通電してトルクを発生する時の銅損が増加しやすい。複合磁性材は非磁性樹脂よりも透磁率が高いため、永久磁石の磁束は減少しにくく、トルク定数の低下を抑制することができ、トルクが発生しているときの銅損を抑制しやすい。
【0038】
このように、回転電機は、透磁率の低さを利用することで空間高調波を抑制するとともに、トルク作用時の銅損を抑制することができる。
【0039】
<第2実施形態>
図4に、本発明を適用する別の回転電機を回転軸方向に垂直な断面で表した部分構成図(断面図)を示す。なお、既に説明した構成と同様の構成については同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0040】
図4に示すように、回転電機は、第1実施形態の複合磁性材Xと磁気特性が異なる複合磁性材Xaを円環状に成形して、固定子コアの外周に第2ヨーク44を構成する。例えば、第2ヨーク44の複合磁性材Xaは固定子コア4の複合磁性材よりも透磁率が高い。回転電機の他の構成は、第1実施形態で説明した回転電機と同様である。
【0041】
同図に示すように、第2ヨーク44の複合磁性材Xaは、固定子コア4の外周側の約6割程度の領域に配置され、回転子の中心側の約4割程度の領域(固定子コア4のヨークに相当)には異なる磁気特性の複合磁性材Xが配置されている。2つの複合磁性材は接着剤などで隙間なく埋められている。2つの複合磁性材の配置割合を変更することで磁気特性、トルク特性、効率特性、熱特性などの回転電機の特性の調整を行うことができる。複合磁性材Xaは、第1実施形態の複合磁性材と同様に製作され、比透磁率は複合磁性材Xよりも高いことが望ましい。
【0042】
複合磁性材Xaは、複合磁性材Xよりも高透磁率である。つまり、複合磁性材Xaで固定子コアの一部を構成した場合には、第1実施形態の場合よりも、永久磁石の磁束が減少しにくく、トルク定数の低下を抑制することができ、トルクが発生しているときの銅損が増加しにくい。複合磁性材Xaの比透磁率としては、例えば10以上100以下の値が好ましく、10以上20以下の値がより好ましい。
【0043】
以上、発明を実施するための形態について説明してきたが、本実施の形態に係る回転電機は、回転子が永久磁石を備えるものであればモータであってもよく発電機であってもよい。また、上記実施の形態は、一例としてラジアルギャップ型の回転電機について説明したが、本発明はアキシャルギャップ型の回転電機に適用されるものであってもよい。
【実施例0044】
[磁性材料と磁気特性]
固定子コアに使用する複合磁性材の磁気特性の測定を行った。磁性粉には球状のセンダスト(FeSiAl合金)の粉(平均粒径:20μm)、樹脂にエポキシ樹脂を用い、加熱と加圧し硬化させて複合磁性材を作製した。磁性粉の配合比は69体積%とした。製造方法は、
図2で説明したとおりである。また、比較として、電磁鋼鈑A(日本製鉄株式会社製:35H300)、電磁鋼鈑B(JFEスチール株式会社製:10JNHF600)、鉄基アモルファス合金(METGLAS製2605SA1)の磁気特性も測定した。
【0045】
図5に、複合磁性材、電磁鋼板A、電磁鋼鈑B、鉄基アモルファス合金の磁気ヒステリシス曲線を示す。横軸は磁界、縦軸は磁束密度である。複合磁性材の比透磁率(μr)は16、電磁鋼鈑A、電磁鋼鈑B、鉄基アモルファス合金の比透磁率(μr)は数1000であった。
【0046】
図6に、複合磁性材、電磁鋼板A、電磁鋼鈑B、鉄基アモルファス合金の単位体積磁芯損失を示す。横軸は磁束密度、縦軸は鉄損である。電磁鋼板Aの鉄損が最も大きく、複合磁性材の鉄損が最も小さかった。この結果から、複合磁性材を好ましく使用できることがわかった。
【0047】
[電磁界解析によるシミュレーション]
実施例1~5として、
図1に示したラジアルギャップ型のモータモデルに対して、電磁界解析によるシミュレーションを行った。シミュレーションは、磁束密度分布、損失密度分布、損失について実施した。実施例5では、複合磁性材として、磁性粉に上記のセンダストを適用し、測定した磁気的特性(比透磁率μr=16)を使用してシミュレーションを実施した。さらに、実施例1~4については、複合磁性材の磁気特性として
図7に示す磁気ヒステリシス曲線を仮定し、それぞれ比透磁率として、実施例1がμr=2、実施例2がμr=5、実施例3がμr=7、実施例4がμr=10としてシミュレーションを行った。
【0048】
また、比較例1~4として、
図1に示したモータモデルにおいて、固定子コア4(ヨーク41およびティース42)に複合磁性材を用いないモータモデルに対して、同様のシミュレーションを行った。比較例1は、固定子コアが非磁性材料(コアレスモータ)の場合、比較例2は、固定子コアが
図5、
図6に記載した鉄基アモルファス合金の場合、比較例3は、固定子コアが
図5、
図6に記載した電磁鋼鈑Bの場合、比較例4は、固定子コアが電磁鋼鈑Aの場合、である。
【0049】
さらに、比較例5として、
図8に示すラジアルギャップ型のモータモデルに対して、電磁界解析によるシミュレーションを行った。
図8に示すモータでは、固定子コア4は、ヨーク41とティース42の他に、永久磁石3に対向するティース42の内側(回転子の中心側)に磁性のリング43が設けられている。ヨーク41は前述の電磁鋼鈑A、ティース42とリング43は複合磁性材(比透磁率μr=16)で構成されている。
【0050】
電磁界解析ソフトウエアには、JMAG-Designer(x64)Ver.19.1を使用した。計算条件および材料条件の詳細をそれぞれ表1および表2に示す。また、実施例1~5および比較例1~5の各部の形状・寸法を表3に示す。さらに、実施例1~5および比較例1~5の固定子の固定子コア・固定子巻線の諸元を表4に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
[モータの磁束密度分布]
図9に磁束密度分布を示す。同図(a)は比較例4(電磁鋼鈑A)、同図(b)は比較例3(電磁鋼鈑B)、同図(c)は比較例2(鉄基アモルファス合金)、同図(d)は比較例1(コアレスモータ)、同図(e)は実施例5(複合磁性材、比透磁率μr=16)の磁束密度分布である。同図(a)、同図(b)に比べると同図(e)の複合磁性材は固定子コアを通過する磁束密度が低下するため、これらに比べると鉄損低減に有効である。また、同図(d)の非磁性材料よりも複合磁性材は固定子コアの磁束密度が高いことから、銅損低減に有効である。このときの解析条件は出力500W、トルク38.2mNm、回転数125、000rpmである。
【0056】
なお、
図1に示すモータでは、永久磁石の数は4個あり、固定子コアに対向するN極・S極の組は2個であるため、永久磁石の磁束の変化の周波数は、
2×125、000÷60≒4167 Hz
である。
【0057】
[モータの損失密度分布]
図10に損失密度分布を示す。同図(a)は比較例4(電磁鋼鈑A)、同図(b)は比較例3(電磁鋼鈑B)、同図(c)は比較例2(鉄基アモルファス合金)、同図(d)は比較例1(コアレスモータ)、同図(e)は実施例5(複合磁性材、比透磁率μr=16)の損失密度分布である。電磁鋼鈑A、電磁鋼鈑B、鉄基アモルファス合金に比べると、非磁性材料、複合磁性材の永久磁石の損失密度は大きく低下している。また、電磁鋼鈑Aは固定子の鉄損が他に比べて大きい。解析条件は出力500W、トルク38.2mNm、回転数125、000rpmである。
【0058】
一方、同図(d)の比較例1(非磁性材料)は実施例5(複合磁性材)よりも巻線部分の損失密度が高くなっている。これは、トルク定数低下に伴う直流銅損の増大と永久磁石の磁束が巻線に鎖交することによる交流銅損が増加したことに起因している。解析条件は出力500W、トルク38.2mNm、回転数125、000rpmである。
[モータの損失解析]
【0059】
図11および
図12に、実施例1~5および比較例1~5のモータの損失解析の結果を示す。比較例4(電磁鋼鈑A)は鉄損が大部分を占めており、比較例3(電磁鋼板B)、比較例2(鉄基アモルファス合金)の順に低減している。これらのモータは磁石渦電流損の割合も大きい。損失増大の理由として、固定子コアの単位体積磁芯損失が大きいことと、ギャップ部の空間高調波が影響している。解析条件は出力500W、トルク38.2mNm、回転数125、000rpmである。比較例3(コアレスモータ)は固定子コアがないため鉄損は生じないが、銅損の割合が大きい。
【0060】
一方、実施例1~5(複合磁性材)のモータは、比較例4(電磁鋼板A)、比較例3(電磁鋼板B)、比較例2(鉄基アモルファス合金)に比べて、固定子コアの渦電流損やヒステリシス損、磁石渦電流損は大きく低減できている。また、比較例1(コアレスモータ)に比べて銅損の割合が小さい。さらに、実施例1~5(複合磁性材)のモータは、比較例5(ティース42とリング43が複合磁性材)に比べて、固定子コアの渦電流損やヒステリシス損、磁石渦電流損は大きく低減できている。実施例1~5において、比透磁率の増加により直流銅損、交流銅損はともに低下するが、磁石渦電流損は増加する傾向にある。比透磁率μrが7のとき損失は最小となった。解析条件は出力500W、トルク38.2mNm、回転数125、000rpmである。
【0061】
図13は、実施例5および比較例1~4について、同一出力を維持しながら、回転数を下げてトルクを増加させた場合の損失比較である。回転数を下げてトルクを増加させているため、
図11の結果に比べていずれのモータも銅損は増大し、鉄損と磁石渦電流損の割合は低下している。比較例1(コアレスモータ)はトルク定数が低いため、トルクを得るために大電流を流す必要があり、銅損は複合磁性材に比べて大幅に増加している。解析条件は出力500W、トルク95.5mNm、回転数50、000rpmである。
【0062】
以上のシミュレーション結果より、比透磁率2~16の複合磁性材(センダスト)のモータが他のモータに比べて最も低損失であり、比透磁率を7まで低下させることで、さらに損失が低減することが分かった。