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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024176823
(43)【公開日】2024-12-19
(54)【発明の名称】補強木材
(51)【国際特許分類】
   E04C 3/18 20060101AFI20241212BHJP
   B27M 3/00 20060101ALI20241212BHJP
【FI】
E04C3/18
B27M3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095643
(22)【出願日】2023-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】冨貴 丈宏
(72)【発明者】
【氏名】稲邉 裕司
(72)【発明者】
【氏名】山本 凌
【テーマコード(参考)】
2B250
2E163
【Fターム(参考)】
2B250AA40
2B250BA04
2B250CA07
2B250FA41
2B250HA01
2E163FA02
2E163FA12
2E163FC02
2E163FF43
(57)【要約】
【課題】木材としての美観を損なわずに補強材による強度向上を図るとともに、木材と補強材との接合強度を高めて確実に強度向上を図るようにする。
【解決手段】丸太材からなり、軸方向に沿って切れ込み溝3が設けられた木材2と、前記切れ込み溝3内に接着剤で固着されたFRP補強材4とからなる補強木材1である。前記FRP補強材4として、バサルト繊維からなる繊維強化プラスチックを用いる。前記FRP補強材4は、木材2の引張力が作用する部位に1条又は複数条で設けられる。前記FRP補強材4は、木材2の軸方向に直交する横断面視で、十字方向にそれぞれ設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸太材からなり、軸方向に沿って切れ込み溝が設けられた木材と、前記切れ込み溝内に接着剤で固着されたFRP補強材とからなることを特徴とする補強木材。
【請求項2】
前記FRP補強材の強化繊維として、バサルト繊維を用いている請求項2記載の補強木材。
【請求項3】
前記FRP補強材は、前記木材の引張力が作用する部位に1条又は複数条で設けられている請求項1記載の補強木材。
【請求項4】
前記FRP補強材は、前記木材の軸方向に直交する横断面視で、十字方向にそれぞれ設けられている請求項1記載の補強木材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸太材からなる木材をFRP補強材によって補強した補強木材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止、土砂災害防止などの観点から、森林の保全を図るため、木材の利用が見直されている。土木分野における木材の利用用途としては、土留め工事の際の横材や、林道整備のため、急傾斜地における切土法面の崩落防止並びに勾配緩和による切土法面の安定化などを目的として切土法面に打ち込まれる木杭、地盤改良や軟弱地盤の液状化対策として、地中へ打設される丸太材などが挙げられる。また、木材の利用は、成長過程で二酸化炭素を吸収固定した木材を長期間使用し続けることによる長期間炭素貯蔵効果(カーボンストック効果)も有している。
【0003】
ところが、木材を上述のような横材や木杭、丸太材などに使用する際、木材は強度特性が低いという欠点がある。このため、木材を補強材により補強した補強木材が従来より開発されている。例えば、下記特許文献1には、木材の表面の長手方向に繊維強化プラスチック板を固着してなる補強木材を支持材として少なくとも一部に有する補強木材構造物であって、前記補強木材の少なくとも一部が、前記構造物における曲げ荷重が作用したときに引張力が作用する部位と圧縮力が作用する部位との双方に、繊維強化プラスチック板を固着してなる補強木材構造物が開示され、下記特許文献2には、開口部を有する木造部材の曲げ補強構造であって、該木造部材の該開口部は該木造部材高さの中心位置より縁端側に偏った位置に配置し、補強材は該開口部側の縁端面に配置している木造部材の曲げ補強構造が開示され、下記特許文献3には、木材と、補強繊維により布状もしくは網状に形成した補強シートと、補強溶液と、より構成し、前記木材の表面に前記補強シートを配置し、前記補強溶液により前記木材と前記補強シートを一体化した補強木材の構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-328684号公報
【特許文献2】特開2009-121030号公報
【特許文献3】特開2003-48204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1~3記載の補強木材では、補強材が木材の表面に配置されるため、補強材によって木材の外観が損なわれ、見た目が悪くなる問題があった。
【0006】
また、上記特許文献1~3記載の補強木材では、板状や布状、網状に形成した補強材を木材の表面に配置しており、補強材の片側の面でしか木材と接合されないため、木材と補強材との接合強度が低く、補強材による木材の強度向上の効果が低下するおそれがあった。
【0007】
そこで本発明の主たる課題は、木材としての美観を損なわずに補強材による強度向上を図るとともに、木材と補強材との接合強度を高めて確実に強度向上を図ることができるようにした補強木材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、丸太材からなり、軸方向に沿って切れ込み溝が設けられた木材と、前記切れ込み溝内に接着剤で固着されたFRP補強材とからなることを特徴とする補強木材が提供される。
【0009】
上記請求項1記載の発明では、丸太材からなる木材の表面に軸方向に沿って切れ込み溝を設け、この切れ込み溝にFRP補強材を挿入し、このFRP補強材を切れ込み溝内に接着剤で固着することにより、補強木材を形成している。このように、切れ込み溝内にFRP補強材が配置されているため、木材の表面に補強材が配置された従来のものに比べて、外観上補強材が目立ちにくくなり、木材としての美観を損なわずに補強材による強度向上が図れるようになる。また、FRP補強材を切れ込み溝内に挿入した状態で接着剤で固着しているため、FRP補強材の切れ込み溝内面に対向する面が木材に固着され、木材とFRP補強材との接合強度が高まり、FRP補強材による木材の補強が確実に行えるようになる。
【0010】
請求項2に係る本発明として、前記FRP補強材の強化繊維として、バサルト繊維を用いている請求項2記載の補強木材が提供される。
【0011】
上記請求項2記載の発明では、繊維強化プラスチックからなる前記FRP補強材の強化繊維として、引張強度に特に優れ、環境保全型のバサルト繊維を用いている。
【0012】
請求項3に係る本発明として、前記FRP補強材は、前記木材の引張力が作用する部位に1条又は複数条で設けられている請求項1記載の補強木材が提供される。
【0013】
上記請求項3記載の発明では、前記FRP補強材を配置する部位として、木材を構造材として使用した際、引張力が作用する部位に配置している。これにより、FRP補強材によって効率よく木材を補強することができる。また、FRP補強材を1条又は複数条設けることができるようにして、木材に作用する引張力の大きさに応じて配置するFRP補強材の数を変化させている。
【0014】
請求項4に係る本発明として、前記FRP補強材は、前記木材の軸方向に直交する横断面視で、十字方向にそれぞれ設けられている請求項1記載の補強木材が提供される。
【0015】
上記請求項4記載の発明では、前記FRP補強材を、木材の軸方向に直交する横断面視で、十字方向にそれぞれ配置しているため、全方向に対して曲げ応力の補強が可能となる。また、全方向に対して補強されるため、乾燥による木材の曲がり(反り)も防止することができる。更に、材の方向性が無くなるため、引張側や圧縮側を意識することなく、任意の向きで使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上詳説のとおり本発明によれば、木材としての外観を損なわずに補強材による強度向上が図れるとともに、木材と補強材との接合強度を高めて確実に強度向上が図れるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る補強木材1の斜視図である。
図2図1のII-II線矢視図(横断面図)である。
図3】変形例に係る補強木材1の横断面図である。
図4】(A)は両端支持梁、(B)は連続梁、(C)は片持梁における曲げモーメント図とFRP補強材4の配置パターンを示す図である。
図5】反りが生じた状態を示す木材2の斜視図である。
図6】十字方向のそれぞれにFRP補強材4を配置した補強木材1の横断面図である。
図7】補強木材1の製造工程を示す木材2の側面図である。
図8】(A)、(B)は補強木材1の製造工程を示す木材2の端面図である。
図9】帯材5を配置した状態を示す補強木材1の斜視図である。
図10】両端支持梁におけるFRP補強材4の配置パターンを示す変形例(その1)である。
図11】両端支持梁におけるFRP補強材4の配置パターンを示す変形例(その2)である。
図12】FRP補強材4の配置パターンの変形例を示す補強木材1の平面図である。
図13】補強木材1を直列的に接続する際の接続方法を示す斜視図である。
図14】補強木材1を並列的に接続する際の接続方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0019】
本発明に係る補強木材1は、図1及び図2に示されるように、丸太材からなり、軸方向に沿って切れ込み溝3が設けられた木材2と、前記切れ込み溝3内に接着剤で固着されたFRP補強材4とで構成されている。前記補強木材1は、木材2に高強度の異種材からなるFRP補強材4を組み込んで強度向上を図ったハイブリッド木材である。
【0020】
前記木材2の形状は、図示例では丸太材の例を挙げているが、太鼓落としした太鼓材などを用いてもよい。木材2の材質や寸法は任意であり、土木分野における木材の利用用途である土留め用の横材や木杭、地中に打設される丸太材などとして用いられるものに広く適用することが可能である。
【0021】
前記木材2の周面には、軸方向に沿って切れ込み溝3が設けられている。前記切れ込み溝3は、丸鋸刃やトリマーなどの切削工具を用いて木材2の表面から内側方向に、所定の深さ及び幅で形成した溝部である。前記切れ込み溝3は、木材2の軸方向と一致する方向に延びており、軸方向に対する傾斜角は0°である。
【0022】
前記切れ込み溝3の深さ方向は、木材2の表面に対してほぼ垂直に形成されており、横断面形状が円形の丸太材の場合、図2に示されるように、外周面位置から木材2の中心軸Cに向けて形成されている。また、図3に示されるように、前記切れ込み溝3を周方向に間隔を空けて複数条形成する場合、図3(A)のように、各切れ込み溝3が、木材2の周面に対してほぼ垂直に、外周面の所定位置から木材2の中心軸Cに向けて形成されるようにしてもよいし、図3(B)のように、各切れ込み溝3が平行するように形成されるようにしてもよい。前者のように切れ込み溝3の深さ方向を木材2の表面に対してほぼ垂直に形成した場合には、この切れ込み溝3に挿入されるFRP補強材4が木材表面に臨む端面を最小限の大きさに抑えることができ、外観上FRP補強材4が目立ちにくくなる。
【0023】
前記切れ込み溝3の深さDは、木材2の半径rの1/2以下、好ましくは1/4~1/2程度とするのがよい。木材2が角材の場合は、切れ込み溝3の深さ方向に延びる辺の長さ寸法に対して、1/4以下、好ましくは1/8~1/4程度とするのがよい。
【0024】
前記切れ込み溝3の幅Wは、木材2の寸法によっても異なるが、2~20mm、好ましくは3~10mmである。
【0025】
前記FRP補強材4は、板状、帯状、丸棒状(ロッド状)又は角棒状の部材である。図1及び図2に示される形態例では、前記FRP補強材4は、前記切れ込み溝3とほぼ同じ寸法で形成され、切れ込み溝3内に挿入した状態で切れ込み溝3の内部に完全に没入し、切れ込み溝3の開口部からFRP補強材4の端面が臨む大きさで形成されている。前記FRP補強材4は、木材2に形成された切れ込み溝3に挿入され、この切れ込み溝3内に接着剤で固着される。このように、本発明に係る補強木材1では、切れ込み溝3とほぼ同じ大きさで形成されたFRP補強材4が切れ込み溝3の内部に挿入され接着剤で固着されるため、少なくとも切れ込み溝3の両側壁及び底面で、FRP補強材4が木材2に結合している。このため、従来のように木材の表面に補強材を配置したものと比較して、2倍以上の面積で木材に固着されるので、木材2の補強効果が向上できる。
【0026】
図示例では、各切れ込み溝3に1つのFRP補強材4が配置されているが、板状又は帯状のFRP補強材4を複数枚積層した状態で配置したり、丸棒状又は角棒状のFRP補強材4を複数本並設した状態で配置したりしてもよい。
【0027】
前記FRP補強材4の素材は、繊維強化プラスチックである。繊維強化プラスチックは、高い引張強度を有し、軽量で木材との比重差が小さく、耐食性に優れるなどの利点を有する。
【0028】
前記繊維強化プラスチックの強化繊維としては、バサルト繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを用いることができる。特に、引張強度に優れ、天然素材である玄武岩を原料にした環境保全型のバサルト繊維を用いるのが好ましい。
【0029】
前記繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。
【0030】
前記繊維強化プラスチックは、糸状の連続した強化繊維を樹脂槽に通す含浸工程を経た後、金型中で加熱硬化し、引抜装置で引き抜く連続引抜成形法など、常法にしたがって製造することができる。
【0031】
前記FRP補強材4を切れ込み溝3内に固着する際に使用する接着剤としては、エポキシ樹脂系の接着剤が好適に用いられる。この他にも、木材とプラスチックとの接着に適した接着剤を広く採用することが可能である。
【0032】
前記木材2に対するFRP補強材4の配置は、構造材として使用した補強木材1の支持方法によって異なり、応力が作用したときに少なくとも引張側となる部位に配置される。
【0033】
例えば、補強木材1を土留め工事の際の横材として使用した場合において、その両端部が親杭によって支持され、この親杭による支持部と反対側から補強木材1の全長に亘ってほぼ均等な土圧を受ける場合、図4(A)に示されるように、前記補強木材1は、全長に亘って等分布荷重を受ける両端支持梁としてモデル化できる。この場合の補強木材1は、支持面側が全長に亘って引張側、その反対面側が全長に亘って圧縮側となるので、前記FRP補強材4は、補強木材1の支持面側に全長に亘って配置するのがよい。
【0034】
また他の例として、上記の例と同様に両端部を親杭で支持するとともに、その中間部も更に親杭で支持した場合、図4(B)に示されるように、前記補強木材1は、全長に亘って等分布荷重を受け、両端部及びその中間部が支持された連続梁としてモデル化できる。この場合の補強木材1は、両端部からの一定区間がそれぞれ、支持面側が引張側で、その反対面側が圧縮側となり、中間の支持部を含む一定区間が、支持面側が圧縮側で、その反対面側が引張側となる。したがって、前記FRP補強材4は、両端部からの一定区間においてそれぞれ、補強木材1の支持面側に配置するとともに、中間の支持部を含む一定区間において、補強木材1の支持面側と反対面側に配置するのがよい。
【0035】
また、補強木材1を木杭として使用した場合、図4(C)に示されるように、前記補強木材1は、全長に亘って等分布荷重を受ける片持梁としてモデル化できる。この場合の補強木材1は、土圧を受ける側が全長に亘って引張側で、その反対側が全長に亘って圧縮側となるので、前記FRP補強材4は、補強木材1の土圧を受ける側に全長に亘って配置するのがよい。
【0036】
図4(A)~(C)に示される形態例の補強木材1では、長手辺と短手辺とを有する断面形状からなる板状のFRP補強材4が、木材2の引張側において、荷重が作用する方向を長手辺とする断面形状の向きで配置されているため、外力に対するFRP補強材4の断面係数が大きくなり、従来技術のように、引張側となる外面に、荷重が作用する方向を短手辺とする断面形状の向きで補強材を配置した場合と比較して、FRP補強材4による補強効果がより大きく発揮される。
【0037】
前記FRP補強材4の端面が木材2の軸方向両端の端面に臨むために外観が悪化する問題が生じる場合は、前記切れ込み溝3を、木材2の軸方向両端の端面に達しない長さで形成し、木材2の軸方向中間部のみ、すなわち両端面から軸方向内側に離隔した位置間に形成することにより、FRP補強材4の端面が木材2の軸方向両端の端面から見えないように配置してもよい。このときの切れ込み溝3端縁と木材2の軸方向端面との離隔長さの好ましい範囲としては、10~50mmである。なお、このような外観上の問題が生じないときは、前記切れ込み溝3を木材2の端面まで到達するように形成し、この切れ込み溝3の全長にFRP補強材4が配置されるようにするのがよい。
【0038】
図4(B)に示される連続梁のように、木材2において引張側と圧縮側が逆転する区間が存在する場合、これらの境界部では、各引張側に配置されたFRP補強材4、4同士が軸方向と直交する方向に対してラップする軸方向区間を有するように配置することにより、補強の不連続区間が設けられないようにするのが好ましい。なお、これらの境界部において、FRP補強材4の端縁形状は、図示例のように、FRP補強材4がほぼ垂直に切断された形状で形成してもよいし、FRP補強材4、4同士がラップする軸方向区間において、両者のFRP補強材4の断面形状が徐々に又は段階的に小さくなるように形成してもよい。
【0039】
ところで、前記木材2は、図5に示されるように、乾燥・収縮などによって自然と反りを生じることがある。このとき、収縮が大きな側が圧縮側となり、これと反対側が引張側となる。このような反りがいずれの方向に生じるかは、ある程度予測が可能であっても正確に把握するのは難しい。また、補強木材1を構造材として設置した際、受ける荷重の方向を正確に把握できない場合もある。そこで、いずれの方向に対しても反りを防止するとともに、受ける荷重の方向を意識せずに使用できるようにするため、図6に示されるように、前記FRP補強材4を、木材2の軸方向に直交する横断面視で、十字方向にそれぞれ設けることができる。すなわち、木材2の周方向に対して90°置きにFRP補強材4が配置されている。十字方向にそれぞれFRP補強材4を配置することで、曲げ応力の補強とともに乾燥による木材2の曲がり(反り)を防止することができる。また、材の方向性を無くすことで、引張側や圧縮側を意識することなく、任意の向きで使用することができる。
【0040】
前記補強木材1を製造するには、図7に示されるように、丸鋸刃10などによって木材2の軸方向と平行して所定の深さの切れ込み溝3を形成した後、図8(A)に示されるように、この切れ込み溝3に接着剤を塗布した上で、FRP補強材4を挿入し固着する(図8(B))。
【0041】
以上の構成からなる補強木材1は、軸方向に沿って切れ込み溝3が設けられた木材2と、前記切れ込み溝3内に接着剤で固着されたFRP補強材4とで構成されるため、FRP補強材4が外観上目立ちにくく、木材としての美観を損なわずにFRP補強材4による強度向上が図れるようになる。
【0042】
また、FRP補強材4が切れ込み溝3内に接着剤で固着されているため、FRP補強材4の切れ込み溝3内面に対向する面が木材2に固着され、木材2とFRP補強材4との接合強度が高まり、FRP補強材4による木材2の補強が確実に行えるようになる。
〔他の形態例〕
(1)外力が作用して補強木材1が変形した際、この変形に伴う前記切れ込み溝3の口開きにより、FRP補強材4の補強効果が低下するのを防止するため、図9に示されるように、前記切れ込み溝3内にFRP補強材4が固着された補強木材1の外周面を周方向に巻回する帯材5を軸方向に間隔を空けて複数配置することができる。前記帯材5は、補強木材1の外周面を周方向に巻回して緊結された環状の部材であり、切れ込み溝3が口開きしないように補強木材1をきつく締め付けるためのものである。前記帯材5は、繊維強化プラスチック板、プラスチック板、金属板、木材などで構成することができる。前記帯材5は、補強木材1の外周面に対し接着剤で固着される。この帯材5が配置される補強木材1の部位に、周方向に亘って凹部を形成しておき、前記帯材5を、この凹部内に嵌入して配置してもよい。補強木材1の軸方向の配置間隔は任意であるが、帯材5を外観上目立ちにくくするとともに、切れ込み溝3の口開き防止を図るため、0.5~1m間隔で配置するのが好ましい。
【0043】
(2)上記形態例では、FRP補強材4は、補強木材1の軸方向に対し一定の幅で形成されていたが、梁に発生する曲げモーメントの大きさに応じてFRP補強材4の幅(切れ込み溝3の深さ方向の長さ寸法)を変化させてもよい。具体的に両端支持梁の例を挙げて説明すると、図10に示されるように、両端支持梁の曲げモーメント図は、両支点間の中央部で最大となり、支点側に行くに従って小さくなるアーチ形をしている。このため、FRP補強材4の幅を、曲げモーメント図の形状に合わせて、両支点間の中央部で最大とし支点側に行くに従って小さくしたアーチ形に形成することができる。このようなアーチ形に形成するのは、切れ込み溝3の底面側となる一方の端縁のみで、補強木材1の周面側の他方の端縁は、補強木材1の軸方向に沿って直線形に形成される。これにより、FRP補強材4の幅が大きな支点間の中央部で曲げモーメントに対する抵抗力が大きくなり、必要最小限のFRP補強材4の資材量で確実に大きな補強効果が得られるようになる。
【0044】
また、これと同じ考え方で、梁に発生する曲げモーメントの大きさに応じてFRP補強材4の配置条数を変化させるようにしてもよく、具体的には、図11に示されるように、曲げモーメントが大きくなる中央部の所定区間Xでは、FRP補強材4を複数条配置し(図11(B))、それ以外の両端部の区間では1条のみ配置する(図11(C))ようにしてもよい。或いは、中央部の所定区間Xでは、FRP補強材4を複数枚積層して配置し、それ以外の両端部の区間では、FRP補強材4を1層のみ配置するようにしてもよい。
【0045】
(3)上記形態例では、両端支持梁や片持梁のように、木材2の一方の側部が軸方向の全長に亘って引張側となる場合、この引張側となる木材2のほぼ全長に亘って連続する切れ込み溝3を形成し、この切れ込み溝3内に連続するFRP補強材4を固着していたが、前記切れ込み溝3を途中で分断して隣接する位置に配置することにより、補強木材1の軸方向に対して複数のFRP補強材4が不連続的に配置されるようにしてもよい。例えば、図12に示されるように、木材2の中心軸Cに対して、この中心軸Cを跨ぐ両側にジグザグに所定長さのFRP補強材4を複数配置することができる。これにより、切れ込み溝3が軸方向に連続せず、断続的に設けられるため、木材2の全長に亘って切れ込み溝3を形成することにより木材自体の強度が低下する影響を小さく抑えることができる。FRP補強材4の1本当りの長さは、木材2の全長の1/10~1/2程度とするのがよい。また、隣り合うFRP補強材4、4の周方向に沿った離隔長さは、10~100mmとするのがよい。
【0046】
(4)軸方向に隣接する複数の補強木材1を直列的に接続する際、図13に示されるように、隣接する補強木材1、1のうち、一方の補強木材1のFRP補強材4が軸方向端縁から他方の木材2側に突出して配置されるとともに、この突出したFRP補強材4部分が他方の木材2の切れ込み溝3内に固着されることにより、FRP補強材4が、軸方向に隣接する木材2、2間に跨がって配置されるようにしてもよい。これにより、直列的に隣接する補強木材1、1間の接合強度を高めることができる。
【0047】
(5)また、直径方向に隣接する複数の補強木材1を並列的に接続する際、図14に示されるように、直径方向に隣接する補強木材1、1のうち、一方の補強木材1のFRP補強材4が外周面から他方の木材2側に突出して配置されるとともに、この突出したFRP補強材4部分が他方の木材2の切れ込み溝3内に固着されることにより、FRP補強材4が直径方向に隣接する木材2、2間に跨がって配置されるようにしてもよい。これにより、並列的に隣接する補強木材1、1間の接合強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…補強木材、2…木材、3…切れ込み溝、4…FRP補強材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14